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特開2023-47466リチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体及びリチウムイオン二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047466
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230330BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230330BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230330BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230330BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20230330BHJP
   C01B 25/37 20060101ALI20230330BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/1397
C01B25/37 Z
C01G45/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156394
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB01
4G048AB03
4G048AB05
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池における高い放電容量を保持しながらレート特性を効果的に高めることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体、及びそれを活用したリチウムイオン二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなるナノ粒子Aと、
下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmであるナノ粒子B
との混合体であって、
混合体中におけるナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)が95:5~70:30であるリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなるナノ粒子Aと、
下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
(式(b)中、M2はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a及びbは、0≦a≦0.1、0<b≦2、及び(M2の価数)×a+(Mnの価数)×b=7を満たす数を示す。)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmであるナノ粒子B
との混合体であって、
混合体中におけるナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)が95:5~70:30であるリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体。
【請求項2】
ナノ粒子Aの表面に被覆してなる炭素が、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料が炭化してなる炭素である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体。
【請求項3】
ナノ粒子A中における炭素含有量が、0.5質量%~5.0質量%である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体。
【請求項4】
式(a)中におけるg及びhが、0.5≦g/h≦5.0を満たす請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体。
【請求項5】
下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなるナノ粒子Aと、
下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
(式(b)中、M2はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a及びbは、0≦a≦0.1、0<b≦2、及び(M2の価数)×a+(Mnの価数)×b=7を満たす数を示す。)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmであるナノ粒子B
とをナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)で95:5~70:30となるように配合し、さらに導電助剤及び結着剤を配合して、正極ペーストを調製する工程
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い放電容量を保持しつつレート特性を向上させるリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体、及びそれを活用したリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯電話、デジタルカメラ、ノートPC、ハイブリッド自動車、電気自動車等広い分野に利用されている。こうしたリチウムイオン二次電池の正極材料として、LiMnxFe1-xPO4のような、いわゆるリン酸マンガンリチウムやリン酸鉄リチウム等のオリビン型構造を有する粒子は、その安全性の高さや放電容量の大きさから有望視されてはいるものの、レート特性には課題が残る。一方、LiMnO2等のスピネル構造を有する粒子は、レート特性の向上に寄与し得るものの、充分な放電容量の確保には課題が残る。
こうしたことから、さらなる電池特性の向上を試みるべく、従来よりこれらの粒子を活用した種々の開発がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、LiFePO4等の鉄成分を含むリチウム化合物と、割合を5質量%以下とするLiMn24等の特定のリチウム化合物とを有する正極活物質が開示されており、リチウムイオン電池の劣化の防止を図っている。また、特許文献2には、オリビン型リン酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとが混合され、前者の混合割合を10~90質量%とする非水電解質二次電池用正極が開示されており、高容量、安全性、サイクル特性に優れる非水電解質二次電池の提供を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/096469号
【特許文献2】特開2006―278256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~2に記載の技術であっても、得られるリチウムイオン二次電池において、高い放電容量を維持しながらレート特性を有効に高めるには、依然として改善の余地がある。
【0006】
したがって、本発明の課題は、リチウムイオン二次電池における高い放電容量を保持しながらレート特性を効果的に高めることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体、及びそれを活用したリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の平均粒径を有し、かつ表面に特定量の炭素が被覆してなるリン酸マンガン鉄リチウムナノ粒子と、LiMnO2等の特定の式で表されるナノ粒子との特定の質量比での混合体であることにより、リチウムイオン二次電池において、高い放電容量を保持しながらレート特性の向上を図ることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなるナノ粒子Aと、
下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
(式(b)中、M2はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a及びbは、0≦a≦0.1、0<b≦2、及び(M2の価数)×a+(Mnの価数)×b=7を満たす数を示す。)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmであるナノ粒子B
との混合体であって、
混合体中におけるナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)が95:5~70:30であるリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなるナノ粒子Aと、
下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
(式(b)中、M2はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a及びbは、0≦a≦0.1、0<b≦2、及び(M2の価数)×a+(Mnの価数)×b=7を満たす数を示す。)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmであるナノ粒子B
とをナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)で95:5~70:30となるように配合し、さらに導電助剤及び結着剤を配合して、正極ペーストを調製する工程
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体によれば、優れた放電容量を保持し、レート特性をも有効に高められたリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体(以下、単に「本発明のナノ粒子混合体」とも称する)は、下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなるナノ粒子Aと、
下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
(式(b)中、M2はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a及びbは、0≦a≦0.1、0<b≦2、及び(M2の価数)×a+(Mnの価数)×b=7を満たす数を示す。)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmであるナノ粒子B
との混合体であって、
混合体中におけるナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)が95:5~70:30である
【0012】
このように、本発明のナノ粒子混合体は、特定の式で表され、特定の平均粒径を有し、かつ表面に特定量の炭素が被覆されてなる極微細なナノ粒子Aと、特定の式で表され、かつ特定の平均粒径を有する極微細なナノ粒子Bとが、限られた質量比を保持しながら混合してなる混合体である。これらナノ粒子Aとナノ粒子Bが緻密に混在することにより、ナノ粒子Aの表面に特定量で被覆されてなる炭素の寄与も相乗して、電子導電パスの低下を有効に抑制し、高い放電容量の保持に寄与しながらレート特性の改善を有効に図ることを可能とする。
【0013】
本発明のナノ粒子混合体を構成するナノ粒子Aは、下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなる。
【0014】
上記式(a)で表されるナノ粒子Aは、少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)及び鉄(Fe)の双方を含むオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物であって、ナノスケールの極微細な粒子である。本発明のナノ粒子混合体は、かかるナノ粒子Aが後述するナノ粒子Bとの間で特定の質量比を保持しつつ、これらのナノ粒子が緻密に混在して構成されてなる混合体であるため、高い放電容量を有効に保持しながら、レート特性の向上を効果的に図ることができる。
【0015】
上記ナノ粒子Aとしては、平均放電電圧の観点から、fについては、0.6≦f≦1.2が好ましく、0.65≦f≦1.15がより好ましく、0.7≦f≦1.1がさらに好ましい。gについては、0.4≦g≦0.8が好ましく、0.5≦g≦0.8がより好ましく、0.7≦g≦0.8がさらに好ましい。hについては、0.2≦h≦0.6が好ましく、0.2≦h≦0.5がより好ましく、0.2≦h≦0.3がさらに好ましい。xについては、0≦x≦0.2が好ましく、0≦x≦0.15がより好ましく、0≦x≦0.1がさらに好ましい。そして、g/hは、いわゆるナノ粒子Aを構成するMnとFeとのモル比であり、0.5≦g/h≦5.0が好ましく、1.0≦g/h≦5.0がより好ましく、2.0≦g/h≦5.0がさらに好ましい。
【0016】
具体的には、例えばLiMn0.2Fe0.8PO4、LiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4等が挙げられる。なかでも
LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4が好ましい。
【0017】
上記式(a)で表されるナノ粒子Aの平均粒径は、リチウムイオンの挿入及び脱離を有効に促進する観点、及びハンドリングの観点から、50nm~200nmであって、好ましくは70nm~170nmであり、より好ましくは100nm~150nmであり、さらに好ましくは100nm~130nmである。
ここで、ナノ粒子Aにおける「平均粒径」とは、SEM(JSM-7001F、日本電子社製)において観察される粒子100個の平均粒径を意味する。
【0018】
ナノ粒子Aのタップ密度は、電極密度を向上させて、レート特性を効果的に高める観点から、好ましくは0.2g/cm3~1.0g/cm3であり、より好ましくは0.4g/cm3~1.0g/cm3である。
【0019】
ナノ粒子Aは、優れた放電容量を確保して、レート特性のさらなる向上を図る観点から、その粒子の表面に炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなる。これにより、ナノ粒子Aとナノ粒子Bが特定の質量比にて緻密に混在してなるナノ粒子混合体において、ナノ粒子Aの表面に特定量で被覆されてなる炭素がナノ粒子混合体中に適度に散在することとなり、電子導電パスの低下を有効に抑制して、高い放電容量の保持に寄与しながらレート特性の改善を有効に図ることができる。
【0020】
ナノ粒子Aは、その表面に炭素が被覆されてなる。かかる炭素は、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料が炭化されて炭素となり、これがナノ粒子Aの表面に被覆してなるものである。かかる糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料(後述するように「炭素被覆剤X」とも称する)は、炭化されて炭素となりつつ、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料(後述するように「炭素被覆阻害剤Y」とも称する)が介在することによって、効率的にナノ粒子Aの表面に被覆することとなる。
なお、ナノ粒子Aの表面に被覆されてなる炭素は、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料由来の炭素である一方、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料は、ナノ粒子Aに残存しない。
【0021】
糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料としては、具体的には、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン、セルロース等の多糖類;セルロースナノファイバー、リグノセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー等の多糖類のナノファイバーから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、電子導電パスの低下を有効に抑制して、レート特性の向上に寄与する観点から、セルロースナノファイバー、リグノセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、又はキトサンナノファイバーが好ましい。
【0022】
ナノ粒子Aの表面における炭素の被覆率は、かかる値を限られた範囲に制御しつつ、かかる炭素をナノ粒子混合体中に適度に散在させて放電容量を維持し、レート特性を効果的に高める観点から、5%~70%であって、好ましくは10%~48%であり、より好ましくは15%~45%である。
【0023】
なお、ナノ粒子Aの表面における「炭素の被覆率(%)」とは、次の方法により求めた値を意味する。具体的には、まずTEMの電子顕微鏡観察により、ナノ粒子Aを撮影した1の視野において表面を観察し、炭素が被覆されていないナノ粒子Aの表面、及び炭素が被覆されてなるナノ粒子Aの表面を特定する。次いで、かかる視野中における、これら「炭素が被覆されていないナノ粒子Aの表面の周長さxn」、及び「炭素が被覆されてなるナノ粒子Aの表面の周長さxc」を測定し、xnとxcを合計して「ナノ粒子Aの表面の全周長さxA」とする。
得られた「ナノ粒子Aの表面の全周長さxA」と「炭素が被覆されてなるナノ粒子Aの表面の周長さxc」の値を下記式(1)に導入して1の視野における炭素の被覆率(%)を算出し、50視野において求めた値を平均して、ナノ粒子Aの表面における炭素の被覆率(%)とする。なお、TEMの電子顕微鏡観察において、ナノ粒子Aの表面に炭素が被覆されているか否かについては、1nmまでを特定の限界とする。
炭素の被覆率(%)=[(炭素が被覆されてなるナノ粒子Aの表面の周長さxc)/
(ナノ粒子Aの表面の全周長さxA)]×100・・・(1)
【0024】
ナノ粒子Aにおける炭素含有量は、上記炭素材料が炭化されてなる炭素の含有量に相当するものであり、ナノ粒子A中に、好ましくは0.5質量%~5.0質量%であり、より好ましくは0.6質量%~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.7質量%~5.0質量%である。
【0025】
なお、ナノ粒子A中に含有される炭素は、ナノ粒子A表面に存在する上記炭素材料が炭化されてなる炭素、すなわち上記炭素材料の原子換算量に相当するものであり、炭素・硫黄分析装置を用いた測定により求められる。
また、表面に炭素が被覆されてなるナノ粒子Aの量は、上記炭素材料が炭化されてなる炭素も含めた量とする。
【0026】
ナノ粒子Aにおける導電率は、放電容量を高めつつレート特性の向上に寄与する観点から、好ましくは1.0×10-7S/cm以上であり、より好ましくは5.0×10-7S/cm~1.0×10-2S/cmであり、さらに好ましくは1.0×10-6S/cm~1.0×10-2S/cmである。
【0027】
ナノ粒子Aは、例えば、以下の製造方法により得ることができる。具体的には、次の工程(Ia)~(IIa):
(Ia)リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、炭素被覆剤X、炭素被覆阻害剤Y、並びに水を添加してスラリー水iを得た後、水熱反応に付し
て、予備粒子aを得る工程
(IIa)得られた予備粒子aを焼成する工程
を備え、
炭素被覆剤Xが、糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料であり、かつ
炭素被覆阻害剤Yが、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である製造方法である。
【0028】
上記工程(Ia)は、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、炭素被覆剤X、炭素被覆阻害剤Y、並びに水を添加してスラリー水iを得た後、水熱反応に付して、予備粒子aを得る工程である。
用いるリチウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H2O、LiOH)、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩が挙げられる。なかでも、水酸化物が好ましい。
マンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、酸化マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、酸化マンガンが好ましい。
なお、これらリチウム化合物、及びマンガン化合物とともに、金属化合物として、マンガン化合物及び鉄化合物以外の金属(M1)化合物を用いてもよい。
【0029】
リン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70質量%~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。
【0030】
炭素被覆剤Xとは、上記糖類から選ばれる1種又は2種以上の炭素材料であり、具体的には、上記と同様のものを用いることができる。なかでも、電子導電パスの低下を有効に抑制して、得られる電池におけるレート特性の向上に寄与する観点から、セルロースナノファイバー、リグノセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、又はキトサンナノファイバーを用いるのが好ましい。
【0031】
炭素被覆阻害剤Yとは、糖類以外のポリオール、アミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料、すなわち炭素被覆剤X以外のポリオール、及びアミン、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である。このように、工程(Ia)において、上記炭素被覆剤Xとともに炭素被覆阻害剤Yを添加することにより、続く工程(IIa)を経ることにより、ナノ粒子Aの表面の一部に炭素被覆阻害剤Yが被覆しながら、炭素被覆剤Xが被覆されるのを適度に阻害し、ナノ粒子Aの表面における炭素の被覆率を上記範囲に制御することが可能となる。
なお、後述する工程(IIa)を経ることにより、炭素被覆剤Xは炭化されてナノ粒子Aの表面に炭素として被覆される一方、炭素被覆阻害剤Yは焼失し、ナノ粒子Aに残存しないこととなる。
【0032】
糖類以外のポリオールとしては、具体的には、質量平均分子量1000以下のポリエチレングリコール、質量平均分子量2000以下のポリプロピレングリコールであるヒドロキシ基を2つ有するポリオール;質量平均分子量3000以下のヒドロキシ基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが挙げられる。なかでも、揮発温度が170℃~400℃であるポリオールが好ましく、より具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ヘプタンジオール、ヘプタントリオール、オクタンジオール、オクタントリオール、ノナンジオール、ノナントリオール、デカンジオール、デカントリオール、ドデカンジオール等のヒドロキシ基を2つ有するポリオール;
グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のヒドロキシ基を3つ以上有するポリオールが挙げられる。
【0033】
アミン及びアミドとしては、揮発温度が170℃以上のものが好ましく、具体的には、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン、イミダゾール等の複素環式アミン;ホルムアミド、アセトアミド等のアミド;ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド等のポリアミド;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミドが挙げられる。
【0034】
かかる炭素被覆阻害剤Yとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリエタノールアミン、又はオレイン酸アミドが好ましい。
【0035】
リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、炭素被覆剤X、炭素被覆阻害剤Y、並びに水の添加順序は、特に制限されず、一括して添加してもよく、金属化合物、リン酸化合物及び水を先に混合した後に、炭素被覆剤Xと炭素被覆阻害剤Yを同時に添加してもよく、また、金属化合物、リン酸化合物及び水と炭素被覆阻害剤Yを先に混合し、その後炭素被覆剤Xを添加してもよいが、一括して添加するのが好ましい。
【0036】
なお、スラリー水iにおけるリチウム化合物、マンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、並びにリン酸化合物の使用量は、適宜目的とするナノ粒子Aの組成に応じて決定し、通常の方法にしたがって調製すればよい。
【0037】
炭素被覆剤Xの添加量は、ナノ粒子Aの表面における炭素の被覆率を上記範囲に制御する観点から、炭素被覆剤Xの炭素原子換算量を加味しつつ、ナノ粒子A中における炭素含有量が上記範囲となる量に適宜調整すればよい。
また、炭素被覆阻害剤Yの添加量は、ナノ粒子Aの表面における炭素の被覆率を上記範囲に制御する観点から、炭素被覆剤Xの炭素原子換算での添加量と炭素被覆阻害剤Yの炭素原子換算での添加量との質量比(X/Y)で、好ましくは0.05~3.00であり、より好ましくは0.10~2.00であり、さらに好ましくは0.15~1.50である。
【0038】
スラリー水iの固形分濃度は、好ましくは20質量部~80質量部であり、より好ましくは30質量部~70質量部であり、さらに好ましくは40質量部~60質量部である。
【0039】
水を添加した後、工程(IIa)へ移行する前にスラリー水iを予め撹拌するのが好ましい。かかるスラリー水iの撹拌時間は、好ましくは1分~30分であり、より好ましくは5分~20分である。また、スラリー水iiの温度は、好ましくは10℃~50℃であり、より好ましくは15℃~35℃である。
【0040】
次いで、得られたスラリー水iを水熱反応に付して、予備粒子aを得る。
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、金属化合物の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、スラリー水i中に含有されるリン酸イオン1モルに対し、好ましくは10モル~50モルであり、より好ましくは12.5モル~45モルである。
【0041】
水熱反応は、ナノ粒子Aの平均粒径を上記範囲に制御する観点から、100℃~300℃が好ましく、120℃~250℃がより好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、100℃~300℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.1MPa~10MPaであるのが好ましく、130℃~250℃で反応を行う場合の圧力は0.2MPa~4.0MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、ナノ粒子Aの平均粒径を上記範囲に制御する観点から、0.2時間~30時間が好ましく、さらに0.5時間~10時間が好ましい。
得られた予備粒子aは、ろ過後、水で洗浄するのがよい。
【0042】
上記工程(IIa)は、工程(Ia)で得られた予備粒子aを焼成する工程である。これにより、予備粒子aの表面の一部に炭素被覆阻害剤Yが被覆しながら、炭素被覆剤Xが被覆されるのを適度に阻害して、ナノ粒子Aの表面における炭素の被覆率を上記範囲に制御されたナノ粒子Aを形成することが可能となる。
なお、かかる工程(IIa)を経ることにより、炭素被覆剤Xは炭化されてナノ粒子Aの表面に炭素として被覆される一方、炭素被覆阻害剤Yは焼失し、ナノ粒子Aに残存しないこととなる。
【0043】
焼成温度は、ナノ粒子Aの平均粒径を上記範囲に制御し、カーボンの炭化を行う観点から、400℃~1100℃であって、500℃~900℃が好ましく、600℃~800℃がより好ましい。焼成時間は、0.5時間~30時間が好ましく、0.5時間~20時間がより好ましく、さらに0.7時間~10時間が好ましい。焼成雰囲気は、不活性雰囲気下、或いは還元雰囲気下とするのが好ましい。
【0044】
本発明のナノ粒子混合体を構成するナノ粒子Bは、下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
(式(b)中、M2はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a及びbは、0≦a≦0.1、0<b≦2、及び(M2の価数)×a+(Mnの価数)×b=7を満たす数を示す。)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmである。
【0045】
上記式(b)で表されるナノ粒子Bは、スピネル構造を有する粒子である。上記ナノ粒子Aとともに、かかる極微細なナノ粒子Bが特定の質量比を保持しながら本発明のナノ粒子混合体を構成してなることにより、レート特性を向上させることができる。
【0046】
上記式(b)で表されるナノ粒子Bとしては、具体的には、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54、LiCoMnO4、LiCrMnO4、LiFeMnO4、LiAlMnO4、LiCu0.5Mn1.54を用いることができる。なかでも、LiMn24が好ましい。
【0047】
ナノ粒子Bの平均粒径は、優れたレート特性を確保する観点、及びハンドリングの観点から、50nm~200nmであって、好ましくは70nm~170nmであり、より好ましくは100nm~150nmであり、さらに好ましくは100nm~120nmである。
ここで、ナノ粒子Bにおける「平均粒径」とは、SEM(JSM-7001F、日本電子社製)において観察される粒子100個の平均粒径を意味する。
【0048】
なお、ナノ粒子Bは、例えば、以下の製造方法により得ることができる。具体的には、次の工程(Ib)~(IIIb):
(Ib)リチウム化合物、及びマンガン化合物を混合して、予備粒子bを得る工程
(IIb)得られた予備粒子bを空気雰囲気にて焼成して、予備粒子b'を得る工程
(IIIb)得られた予備粒子b'を粉砕する工程
を備える製造方法である。
【0049】
上記工程(Ib)は、リチウム化合物、及びマンガン化合物を混合して、予備粒子bを得る工程である。
リチウム化合物としては、上記ナノ粒子Aと同様のものを用い得るが、なかでも炭酸塩が好ましい。
マンガン化合物としては、上記ナノ粒子Aと同様のものを用い得る。
なお、これらリチウム化合物、及びマンガン化合物とともに、これらの化合物以外の金属(M2)化合物を用いてもよい。
【0050】
これらリチウム化合物、マンガン化合物等の使用量は、目的とするナノ粒子Bの組成に応じて適宜を決定し、通常の方法にしたがって混合すればよい。
なお、かかる工程(Ib)においてこれらの化合物を混合するにあたり、ボールミル等の装置を用いればよい。
【0051】
上記工程(IIb)は、工程(Ib)で得られた予備粒子bを空気雰囲気にて焼成して、予備粒子b'を得る工程である。
焼成温度は、好ましくは300℃~1100℃であり、より好ましくは500℃~900℃である。焼成時間は、3時間~40時間が好ましく、10時間~20時間がより好ましい。
【0052】
上記工程(IIIb)は、工程(IIb)で得られた予備粒子b'を粉砕する工程である。予備粒子b'は粗大粒子であるため、かかる工程(IIIb)を経ることにより、平均粒径が上記範囲に制御されたナノ粒子Bを得ることができる。
なお、かかる工程(IIIb)においてこれらの化合物を混合するにあたり、ボールミル等の装置を用いればよい。粉砕時間は、ナノ粒子Bの平均粒径を上記範囲に制御する観点から、1時間~20時間が好ましく、5時間~20時間がより好ましく、さらに10時間~20時間が好ましい。
【0053】
またナノ粒子Bは、その他ゾル・ゲル法や水熱合成法等の製造方法により得ることもできる。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体は、ナノ粒子A及びナノ粒子Bが混合されてなるナノ粒子混合体である。
本発明のナノ粒子混合体において、ナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)は、ナノ粒子Aとナノ粒子Bとが緻密に絡み合いながら複合化して、効果的にレート特性を向上させる観点から、95:5~70:30であって、好ましくは90:10~75:25であり、より好ましくは90:10~80:20である。
【0055】
なお、ナノ粒子A及びナノ粒子Bを混合するには、通常の混合方法を採用すればよく、例えば乾式ボールミルを用い、上記所定の質量比を満たす量に調整したナノ粒子Aとナノ粒子Bとを添加して混合することができる。
またその他、乾式ボールミル以外の乾式混合装置を用いて混合してもよく、乳棒と乳鉢を用いた手動法により混合してもよい。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質ナノ粒子混合体は、リチウムイオン二次電池の正極材料として有用性が高く、かかるナノ粒子混合体を活用して製造したリチウムイオン二次電池は、高い放電容量を保持しつつ、優れたレート特性を発現することができる。
【0057】
例えば、具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、下記式(a):
LifMngFeh1 xPO4・・・(a)
(式(a)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が50nm~200nmであり、かつ表面において炭素が被覆率5%~70%にて被覆してなるナノ粒子Aと、
下記式(b):
LiM2 aMnb4 ・・・(b)
(式(b)中、M2はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a及びbは、0≦a≦0.1、0<b≦2、及び(M2の価数)×a+(Mnの価数)×b=7を満たす数を示す。)
で表され、かつ平均粒径が50nm~200nmであるナノ粒子B
とをナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)で95:5~70:30となるように配合し、さらに導電助剤及び結着剤を配合して、正極ペーストを調製する工程
を含む。
【0058】
ナノ粒子A及びナノ粒子Bについては、上述の通りである。かかるナノ粒子Aとナノ粒子Bとをナノ粒子Aとナノ粒子Bとの質量比(A:B)で95:5~70:30となるように配合すればよく、好ましくは質量比(A:B)で90:10~75:25となるように配合すればよく、より好ましくは質量比(A:B)で90:10~80:20となるように配合すればよい。
なお、ナノ粒子A及びナノ粒子Bを配合するにあたり、これらを予め上記質量比(A:B)で混合した混合体として配合してもよく、すなわち予め製造した上述のナノ粒子混合体をそのまま配合してもよい。
【0059】
そして、さらに導電助剤及び結着剤を配合して、正極ペーストを調製する。
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等のカーボンブラックを用いることができる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
またさらに、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒を配合してもよい。
これらナノ粒子A及びナノ粒子B、或いはナノ粒子混合体と、導電助剤及び結着剤、さらに溶媒等を添加、混合して正極ペーストを調製する。これらは一括混合してもよく、適宜順次混合して調製することもできる。
【0060】
次いで、かかる工程を経ることにより得られた正極ペーストをアルミニウム箔等の集電体上に塗布し、次いでローラープレス等によるプレス成形した後、乾燥することにより正極を得ることができる。かかる正極は、極微細なナノ粒子Aと極微細なナノ粒子Bとが限られた質量比を保持しながら緻密に散在してなることから、効果的に放電容量を高めつつ、レート特性をも有効に高め得る有用性の高い正極を得ることができる。
【0061】
得られた正極は、さらに負極と電解液とセパレータ、又は負極と固体電解質を必須構成とすることにより、リチウムイオン二次電池を構築することができる。
【0062】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0063】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0064】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32及びLiN(SO3CF32、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0065】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0066】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43、Li7La3Zr212、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.30.46、Li3.6Si0.60.44、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO43、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43、Li10GeP212、Li3.25Ge0.250.754、30Li2S・26B23・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P25、50Li2S・50GeS2、Li7311、Li3.250.954を用いればよい。
【0067】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型、角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例0068】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
[製造例1:ナノ粒子A1の製造]
LiOH・H2O 1272g、及び水4Lを混合してスラリー水i1を得た。次いで、得られたスラリー水i1を、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下し、続いて得られるナノ粒子A1中における炭素含有量を考慮しつつ、炭素被覆剤Xとしてのセルロースナノファイバー(Wma-10002、スギノマシン社製、繊維径4~20nm)を4780g、及び炭素被覆阻害剤Yとしてのプロピレングリコールを91g(セルロースナノファイバーの炭素原子換算量/プロピレングリコールの炭素原子換算量(X/Y)=1.0)を一括して添加し、速度400rpmで12時間撹拌して、Li3PO4を含むスラリー水i2を得た。
得られたスラリー水i2に窒素パージして、スラリー水i2の溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後、スラリー水i2全量に対し、MnSO4・5H2O 1688g、FeSO4・7H2O 834gを添加してスラリー水i3を得た。添加したMnSO4とFeSO4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、70:30であった。
次いで、得られたスラリー水i3をオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を-50℃で12時間凍結乾燥して予備粒子a1を得た。
得られた予備粒子a1を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)にて700℃で1時間焼成して、ナノ粒子A1(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0070】
[製造例2:ナノ粒子A2の製造]
プロピレングリコールの添加量を606g(セルロースナノファイバーの炭素原子換算量/プロピレングリコールの炭素原子換算量=0.15)とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A2(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0071】
[製造例3:ナノ粒子A3の製造]
プロピレングリコールの添加量を114g(セルロースナノファイバーの炭素原子換算量/プロピレングリコールの炭素原子換算量=0.8)とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A3(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0072】
[製造例4:ナノ粒子A4の製造]
プロピレングリコールの添加量を2273g(セルロースナノファイバーの炭素原子換算量/プロピレングリコールの炭素原子換算量=0.04)とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A4(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0073】
[製造例5:ナノ粒子A5の製造]
プロピレングリコールの添加量を26g(セルロースナノファイバーの炭素原子換算量/プロピレングリコールの炭素原子換算量=3.5)とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A5(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0074】
[製造例6:ナノ粒子A6の製造]
水熱反応の温度を130℃とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A6(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0075】
[製造例7:ナノ粒子A7の製造]
水熱反応の時間を3時間とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A7(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0076】
[製造例8:ナノ粒子A8の製造]
水熱反応の時間を6時間とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A8(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0077】
[製造例9:ナノ粒子A9の製造]
水熱反応の時間を6時間とし、かつ焼成時間を3時間とした以外、製造例1と同様にしてナノ粒子A8(組成:LiMn0.7Fe0.3PO4)を得た。
【0078】
[製造例10:ナノ粒子B1の製造]
LiOH・H2O 420g、及びMnO2 1739gを、円筒型の容器に投入し、ボールミルで1時間混合して、予備粒子b1を得た。c1を空気雰囲気下にて910℃で3時間焼成して、予備粒子b1'を得た。予備粒子b1'を円筒型の容器に投入し、ボールミルで2時間粉砕して、ナノ粒子B1(組成:LiMn24)を得た。
【0079】
[製造例11:ナノ粒子B2の製造]
粉砕時間を3時間とした以外、製造例10と同様にしてナノ粒子B2(組成:LiMn24)を得た。
【0080】
[製造例12:ナノ粒子B3の製造]
粉砕時間を1.5時間とした以外、製造例10と同様にしてナノ粒子B3(組成:LiMn24)を得た。
【0081】
[製造例13:ナノ粒子B4の製造]
粉砕時間を1時間とした以外、製造例10と同様にしてナノ粒子B4(組成:LiMn24)を得た。
【0082】
[製造例14:ナノ粒子B5の製造]
粉砕時間を0.5時間とした以外、製造例10と同様にしてナノ粒子B5(組成:LiMn24)を得た。
【0083】
得られたナノ粒子A1~A9、及びナノ粒子B1~B5の物性を表1~2に示す。
【0084】
《ナノ粒子A及びナノ粒子Bの平均粒径の測定》 SEM(JSM-7001F、日本電子社製)において観察される粒子100個の粒径の平均を平均粒径の値とした。
【0085】
《ナノ粒子Aの表面における炭素の被覆率》
TEM(JEM-ARM200F、日本電子株式会社製)を用い、上記方法にしたがって、得られた各ナノ粒子Aにおける炭素の被覆率(%)を求めた。
【0086】
《ナノ粒子Aの炭素含有量》
炭素・硫黄分析装置(EMIA-220V2、堀場製作所社製)を用い、得られたナノ粒子Aの炭素含有量を測定した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
[実施例1~14、比較例1~7]
得られたナノ粒子A及びナノ粒子Bを用い、表3に示す質量比(A:B)にしたがってこれらのナノ粒子を乳棒と乳鉢を用いた手動法により混合し、各混合体を得た。
【0090】
《電池特性(レート特性)の評価》
得られた各混合体を正極材料として用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた各混合体、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0091】
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、高分子多孔フィルムを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を得た。
【0092】
次いで、得られたコイン型二次電池を用い、放電容量測定装置(HJ-1001SD8、北斗電工社製)にて気温30℃環境での、0.2C、及び10Cでの放電容量(mAh/g)を測定し、下記式(x)によるレート特性の値(容量比(%))を求めた。
レート特性
=[(10Cにおける放電容量)/(0.2Cにおける放電容量)]×100・・(x)
結果を表3に示す。
【0093】
なお、コイン型二次電池を構築するにあたり、得られた各混合体を用いて正極を製造する代わりに、表3に示す質量比となるような量で各ナノ粒子A及びナノ粒子Bを配合し、その合計量とアセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合して、同様に製造した正極を用いた場合についても、表3に示す結果と同様の結果が得られることを確認した。
【0094】
【表3】