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特開2023-47486導電性樹脂組成物、シート、及び導電性樹脂組成物の製造方法
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  • 特開-導電性樹脂組成物、シート、及び導電性樹脂組成物の製造方法 図1
  • 特開-導電性樹脂組成物、シート、及び導電性樹脂組成物の製造方法 図2
  • 特開-導電性樹脂組成物、シート、及び導電性樹脂組成物の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047486
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物、シート、及び導電性樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230330BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230330BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230330BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20230330BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20230330BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/06
C08J5/18
C08J3/22
H01B1/24 Z
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156424
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】392032111
【氏名又は名称】アイシート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田澤 一真
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼森 義久
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 重信
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4J002
5G301
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AB11
4F070AB23
4F070AB24
4F070AC04
4F070AD02
4F070AE06
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB03
4F070FB06
4F070FB07
4F071AA18
4F071AA20
4F071AA82
4F071AA84
4F071AA88
4F071AB03
4F071AD01
4F071AE15
4F071AF39Y
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
4J002AA01W
4J002AA01X
4J002BB02W
4J002BB02X
4J002BB07W
4J002BB07X
4J002BB11W
4J002BB11X
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4J002BB14X
4J002BC02W
4J002BC02X
4J002BP021
4J002DA036
4J002FA046
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD050
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4J002FD090
4J002FD130
4J002GQ00
4J002GQ02
5G301DA18
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】良好な電気的特性を有する導電性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】導電性樹脂組成物10は、熱可塑性樹脂と、分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体と、を含む、導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノ構造体の含有量は、導電性樹脂組成物全体を100質量%とした場合に、0質量%より多く、5質量%以下である、請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂と、前記第1の熱可塑性樹脂とは異なる種類の第2の熱可塑性樹脂とを含み、前記第1の熱可塑性樹脂と前記第2の熱可塑性樹脂が相分離した相分離構造を有し、
前記カーボンナノ構造体は、前記第1の熱可塑性樹脂中に偏在する、請求項1又は請求項2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノ構造体の含有量は、前記第1の熱可塑性樹脂と前記カーボンナノ構造体の合計を100質量%とした場合に、0質量%より多く、5質量%以下である、請求項3に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物のシートであって、
表面抵抗値が、1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であるシート。
【請求項6】
第1の熱可塑性樹脂に、分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体を混練してマスターバッチとし、前記第1の熱可塑性樹脂とは異なる種類の第2の熱可塑性樹脂と前記マスターバッチとを混練する、導電性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電性樹脂組成物、シート、及び導電性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、多層カーボンナノチューブを含む導電性樹脂組成物が示されている。
特許文献3には、団子状のカーボンナノチューブ又は束状構造を有するカーボンナノチューブを含む導電性樹脂組成物が示されている。
特許文献4には、所定のポリオレフィンとカーボンナノチューブとをオープンロールで混練して得る導電性樹脂組成物の製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-024261号公報
【特許文献2】特開2010-235675号公報
【特許文献3】特開2016-108524号公報
【特許文献4】特開2017-186440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の導電性カーボンを含む導電性樹脂組成物は、精密な電気抵抗値の制御ができないという課題がある。
【0005】
本開示は、良好な電気的特性を有する導電性樹脂組成物を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
熱可塑性樹脂と、分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体と、を含む、導電性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、良好な電気的特性を有する導電性樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】導電性樹脂組成物のシートの断面図である。
図2】相分離構造を模式的に表す図である。
図3】カーボンナノ構造体を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
・前記カーボンナノ構造体の含有量は、導電性樹脂組成物全体を100質量%とした場合に、0質量%より多く、5質量%以下である、導電性樹脂組成物。
・前記熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂と、前記第1の熱可塑性樹脂とは異なる種類の第2の熱可塑性樹脂とを含み、前記第1の熱可塑性樹脂と前記第2の熱可塑性樹脂が相分離した相分離構造を有し、前記カーボンナノ構造体は、前記第1の熱可塑性樹脂中に偏在する、導電性樹脂組成物。
・前記カーボンナノ構造体の含有量は、前記第1の熱可塑性樹脂と前記カーボンナノ構造体の合計を100質量%とした場合に、0質量%より多く、5質量%以下である、導電性樹脂組成物。
・上記の導電性樹脂組成物のシートであって、表面抵抗値が、1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であるシート。
・第1の熱可塑性樹脂に、分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体を混練してマスターバッチとし、前記第1の熱可塑性樹脂とは異なる種類の第2の熱可塑性樹脂と前記マスターバッチとを混練する、導電性樹脂組成物の製造方法。
【0010】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0011】
1.導電性樹脂組成物10
本実施形態の導電性樹脂組成物10は、熱可塑性樹脂と、分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体14と、を含む。図1は、導電性樹脂組成物10のシート20の断面図である。図1では、カーボンナノ構造体14を省略して示す。
【0012】
(1)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、PPEを他樹脂(ポリプロピレン、ナイロン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等)とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性PPE系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、成形性、コスト低減の観点から、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0013】
ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メタクリレート共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、アイオノマー、及びポリブテン等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0014】
(1.1)熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂B
熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂Aとも称する)と、熱可塑性樹脂Aとは異なる種類の第2の熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂Bとも称する)とを含み、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bが相分離した相分離構造を有していることが好ましい。
【0015】
カーボンナノ構造体14は、熱可塑性樹脂A中に偏在することが好ましい。「熱可塑性樹脂A中に偏在する」とは、熱可塑性樹脂Bを含む相よりも熱可塑性樹脂Aを含む相中にカーボンナノ構造体14が多く存在していることをいう。
【0016】
熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bは特に限定されない。熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bとしては、相分離構造を形成し得る2種の樹脂の組み合わせを適宜選択できる。また、熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bとしては、樹脂に対するカーボンナノ構造体14の親和性を考慮して、カーボンナノ構造体14が熱可塑性樹脂Aに偏在するように適宜選択できる。
熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの組み合わせとしては、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の組み合わせが例示される。
【0017】
熱可塑性樹脂Aとしては、カーボンナノ構造体14の分散性及び親和性の観点から、ポリエチレン系樹脂が好ましく、低密度ポリエチレンであることがより好ましい。
ポリエチレン系樹脂のMFR(メルトフローレート)は特に限定されない。ポリエチレン系樹脂のMFR(JIS K7210,190℃、荷重2.16kg)は、好ましくは0.1g/10min-15g/10minであり、より好ましくは0.5g/10min-12g/10minであり、さらに好ましくは3g/10min-10g/10minである。
ポリエチレン系樹脂の融点は特に限定されない。ポリエチレン系樹脂の融点は、好ましくは80℃-140℃であり、より好ましくは90℃-130℃であり、さらに好ましくは100℃-120℃である。ポリエチレン系樹脂の融点は、示差走査熱量計法(DSC法)により測定されたものである。
ポリエチレン系樹脂の密度は特に限定されない。ポリエチレン系樹脂の密度は、好ましくは0.88g/cm-0.94g/cmであり、より好ましくは0.90g/cm-0.935g/cmであり、さらに好ましくは0.91g/cm-0.93g/cmである。
【0018】
熱可塑性樹脂Bは、カーボンナノ構造体14の移行を抑制する観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、プロピレン-エチレン共重合体であることがより好ましい。
ポリプロピレン系樹脂のMFRは特に限定されない。ポリプロピレン系樹脂のMFR(JIS K7210,230℃、荷重2.16kg)は、好ましくは0.1g/10min-15g/10minであり、より好ましくは0.2g/10min-10g/10minであり、さらに好ましくは0.3g/10min-7g/10minである。
ポリプロピレン系樹脂の融点は特に限定されない。ポリプロピレン系樹脂の融点は、熱可塑性樹脂Aの融点よりも大きいことが好ましく、例えば、150℃-165℃であるとよい。ポリプロピレン系樹脂の融点は、示差走査熱量計法(DSC法)により測定されたものである。
【0019】
熱可塑性樹脂A:熱可塑性樹脂Bの質量比は特に限定されない。熱可塑性樹脂A:熱可塑性樹脂Bの質量比は、好ましくは10:90-100:0であり、より好ましくは10:90-90:10であり、さらに好ましくは15:85-75:25であり、さらに好ましくは20:80-60:40である。熱可塑性樹脂Aとして上記のMFRが3g/10min-10g/10minのエチレン系樹脂を用いた場合には、熱可塑性樹脂A:熱可塑性樹脂Bの質量比が、20:80-40:60であってもよい。熱可塑性樹脂A:熱可塑性樹脂Bの質量比を上記の範囲とすることで、良好な電気的特性を実現できる。
【0020】
(1.2)相分離構造
相分離構造としては、例えば、共連続構造、海島構造、連続球状構造、複合分散構造、及びこれらの2種以上の複合構造が挙げられる。
共連続構造は、複数の樹脂の相がそれぞれ連続相を形成した構造である。図2に、熱可塑性樹脂Aを含む第1相11と、熱可塑性樹脂Bを含む第2相12が、それぞれ連続相を形成した共連続構造を模式的に示す。第1相11と第2相12の各々は、3次元の網目形状を有している。
海島構造は、分散相が連続相に分散された構造をいい、微粒子状や球状の分散相が連続相の中に散在する構造である。連続球状構造は、略球状の分散相が連結し、連続相中に分散した構造である。複合分散構造は、分散相が連続相の中に散在し、さらに分散相中に連続相を構成する樹脂が散在している構造である。
【0021】
相分離構造は、連続相を有する構造であることが好ましく、共連続構造であることがより好ましい。連続相に含まれる樹脂中にカーボンナノ構造体14を偏在させることによって、好適に表面抵抗値の均一性を向上できる。また、表面抵抗値の増大を抑えつつ、カーボンナノ構造体14の配合量を低減できる。
なお、相分離構造は、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの種類、配合比、導電性樹脂組成物10の製造条件(混練方法、混練時の温度等)を適宜調整して、実現できる。
【0022】
熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bが相分離構造を形成しているか否かは、例えば、次のようにして確認できる。成形した導電性樹脂組成物10の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察して、観察像を取得する。観察像を解析して、組成、密度の差に基づくコントラスト差から、相分離構造の有無を判定する。
【0023】
(2)カーボンナノ構造体14
カーボンナノ構造体14は、分岐したカーボンナノチューブを含有する。カーボンナノチューブは、グラフェン層が単層あるいは多層の同軸管状になった炭素材料である。分岐したカーボンナノチューブとは、1本の主軸が途中で複数本に分かれた構造のカーボンナノチューブや、主軸から副軸が分かれた構造のカーボンナノチューブをいう。図3では、1本の主軸が途中で2本に分かれてY字状をなすカーボンナノチューブを模式的に描いている。図3においては、分岐したカーボンナノチューブ同士の接触箇所に黒丸を付して表している。
【0024】
分岐したカーボンナノチューブのサイズ及び構造は特に限定されない。分岐したカーボンナノチューブの平均直径は、通常1μm以下であり、例えば1nm-100nm、5nm-20nmである。分岐したカーボンナノチューブの直径は、主軸の外径として求めることができる。分岐したカーボンナノチューブの平均長さは、例えば50μm-100μmである。分岐したカーボンナノチューブの長さは、最も長い主軸の長さとして求めることができる。分岐したカーボンナノチューブの層の平均数は、例えば、2層-6層であり、3層-5層であってもよい。
分岐したカーボンナノチューブの平均直径、平均長さ、及び層の平均数は、例えば、20個の分岐したカーボンナノチューブを透過電子顕微鏡(TEM)で観察して、測定した平均値として求めることができる。
【0025】
このようなカーボンナノ構造体14は、例えば、架橋構造を有するカーボンナノチューブのフレークを適宜剪断し、得ることができる。架橋構造を有するカーボンナノチューブのフレークは、急速な(例えば、毎秒2μm-毎秒10μm)伸長条件の化学蒸着(CVD)プロセスによって、繊維状の担体上でカーボンナノチューブを成長させて得ることができる。
カーボンナノ構造体14の具体例としては、「ATHLOS(登録商標)」(キャボットコーポレーション社製)が挙げられる。
【0026】
なお、カーボンナノ構造体14は、分岐したカーボンナノチューブ以外の成分を含有していてもよい。そのような成分としては、分岐していないカーボンナノチューブ、一部の壁(グラフェン層)を共有するカーボンナノチューブ、樹脂等の添加剤等が挙げられる。炭素以外の成分(添加剤等)を含む場合であっても、カーボンナノ構造体14における炭素の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0027】
カーボンナノ構造体14の含有量は、特に限定されない。カーボンナノ構造体14の含有量は、表面抵抗値を低減する観点から、導電性樹脂組成物10全体を100質量%とした場合に、0質量%より多く、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上であることが好ましい。上記のカーボンナノ構造体14の含有量は、コストの面から、好ましくは5質量%以下であり、2質量%以下、1.5質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下であることがより好ましい。これらの観点から、上記のカーボンナノ構造体14の含有量は、好ましくは0質量%より多く、5質量%以下であり、上記の下限と上限を適宜組み合わせた範囲とすることができる。
カーボンナノ構造体14は、導電性樹脂組成物10において、特定の部位に偏在していてもよく、全体に分散して存在していてもよい。上記のカーボンナノ構造体14の含有量は、熱可塑性樹脂Aに対するカーボンナノ構造体14の配合割合から算出できる。
【0028】
カーボンナノ構造体14が熱可塑性樹脂Aに偏在する場合において、熱可塑性樹脂Aとカーボンナノ構造体14の合計に対するカーボンナノ構造体14の含有量は、特に限定されない。カーボンナノ構造体14の含有量は、表面抵抗値を低減する観点から、熱可塑性樹脂Aとカーボンナノ構造体14の合計を100質量%とした場合に、0質量%より多く、0.2質量%以上、0.4質量%以上、0.6質量%以上、0.8質量%以上、1.0質量%以上であることが好ましい。上記のカーボンナノ構造体14の含有量は、コストの面から、好ましくは5質量%以下であり、2質量%以下、1.8質量%以下、1.5質量%以下であることがより好ましい。これらの観点から、上記のカーボンナノ構造体14の含有量は、好ましくは0質量%より多く、5質量%以下であり、上記の下限と上限を適宜組み合わせた範囲とすることができる。
上記のカーボンナノ構造体14の含有量は、熱可塑性樹脂Aに対するカーボンナノ構造体14の配合割合から算出できる。
【0029】
(3)その他の成分
導電性樹脂組成物10は、熱可塑性樹脂と、カーボンナノ構造体14以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、顔料、染料、充填剤、可塑剤、機能付与剤、難燃剤等が挙げられる。
【0030】
2.シート20
本開示のシート20は、導電性樹脂組成物10のシート20である。シート20は、上述の導電性樹脂組成物10の相分離構造を維持している。
シート20の厚さは、用途に応じて設定でき、例えば0.2mm-0.5mm、1mm-2mmとすることができる。シート20は、導電性樹脂組成物10単独で構成されてもよく、導電性樹脂組成物10以外の材料を含んで構成されてもよい。導電性樹脂組成物10以外の材料を含んで構成される場合であっても、シート20の表層が導電性樹脂組成物10で構成されることが好ましい。
【0031】
シート20の表面抵抗値は、特に限定されず、用途等に応じて設定できる。シート20の表面抵抗値は、電子部品保護の観点から、1.0×10Ω/□以上であることが好ましく、1.0×10Ω/□以上であることがより好ましく、1.0×10Ω/□以上であることがさらに好ましい。シート20の表面抵抗値は、帯電防止の観点から、1.0×10Ω/□以下であることが好ましく、5.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、1.0×10Ω/□以下であることがさらに好ましい。これらの観点から、シート20の表面抵抗値は、1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であることが好ましく、1.0×10Ω/□以上5.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であることがさらに好ましい。なお、表面抵抗値は以下のようにして測定した数値である。
<表面抵抗値の測定>
厚さ0.5mm-2mm、25cm×25cmの正方形のシートのサンプルを準備する。測定には、ホーザン社表面抵抗値測定器F-109を用いる。印加電圧は、測定対象物が1×10Ω/□未満の場合には、10Vであり、測定対象物が1×10Ω/□以上の場合には、100Vである。一対の電極の間隔は15cmとする。測定は、サンプルの上縁部、下縁部、左縁部、及び右縁部においてそれぞれ行う。測定を開始して、15秒後の測定値を当該測定部位の表面抵抗値として読み取る。測定した上縁部、下縁部、左縁部、及び右縁部の表面抵抗値の平均を算出して、当該サンプルの表面抵抗値とする。
【0032】
シート20の表面抵抗値は、性能を安定的に発揮する観点から、シート20の全域において均一であることが好ましい。具体的には、シート20における上縁部、下縁部、左縁部、及び右縁部の各表面抵抗値は、2カ所以上が5.0×10Ω/□以上5.0×10Ω/□以下であることが好ましく、3カ所以上が5.0×10Ω/□以上5.0×10Ω/□以下であることがより好ましく、4カ所が5.0×10Ω/□以上5.0×10Ω/□以下であることがさらに好ましい。
【0033】
シート20の用途は特に限定されない。シート20は、良好な電気的特性を有するから、電子機器用のマット、電子機器の筐体として好適である。
【0034】
3.導電性樹脂組成物10及びシート20の製造方法
導電性樹脂組成物10の製造方法は、特に限定されない。導電性樹脂組成物10の製造方法は、一度にすべての成分を混合しても良く、また、カーボンナノ構造体14を、熱可塑性樹脂の一部と予め混合したマスターバッチを調製した後、残りの熱可塑性樹脂(希釈樹脂とも称する)を混合してもよい。マスターバッチの熱可塑性樹脂と、希釈樹脂とは同じ種類でもよいし、異なる種類であってもよい。
【0035】
導電性樹脂組成物10の製造方法は、熱可塑性樹脂とカーボンナノ構造体14を溶融混練する工程を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂とカーボンナノ構造体14を溶融混練することで、熱可塑性樹脂中に後述する橋架け状の導通経路を形成できると推測される。この際、熱可塑性樹脂として、MFR(190℃、2.16kg)3g/10min-10g/10minのポリエチレン系樹脂を用いることで、好適にカーボンナノ構造体14を分散できる。
【0036】
熱可塑性樹脂Aにカーボンナノ構造体14を偏在させる場合には、次のようにして導電性樹脂組成物10を製造できる。導電性樹脂組成物10の製造方法は、例えば、熱可塑性樹脂Aに、カーボンナノ構造体14を混練してマスターバッチとし、熱可塑性樹脂Aとは異なる種類の熱可塑性樹脂Bとマスターバッチとを混練する。
【0037】
熱可塑性樹脂Aにカーボンナノ構造体14を混練する際には、カーボンナノ構造体14の分散性の観点から、二軸押出機等の多軸混練押出機を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂Bとマスターバッチとを混練する際には、相分離構造を形成する観点から、ニーダー又は単軸押出機を用いることが好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂Aにカーボンナノ構造体14を混練する際には、熱可塑性樹脂Bとマスターバッチとの混練のせん断力よりも強いせん断力で行うとよい。
【0038】
各成分の混合物(混練物)を成形して、導電性樹脂組成物10が得られる。導電性樹脂組成物10の成形方法は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択できる。導電性樹脂組成物10のシート20は、例えば、熱プレス法によって成形できる。
【0039】
4.本実施形態の作用効果
本実施形態の導電性樹脂組成物10は、良好な電気的特性を有する。以下、良好な電気的特性を有する推測理由を説明するが、本開示はこの推測理由により限定解釈されない。
製品に求められる電気的特性は、その用途に応じて異なる。例えば、電子機器用のマットとして用いられる場合には、表面抵抗値が1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であり、表面抵抗値の均一性が高いことが求められる。熱可塑性樹脂に導電性カーボンを配合した導電性樹脂組成物では、上記の表面抵抗値の範囲内にパーコレーション閾値における表面抵抗値が含まれ得る。パーコレーション閾値とは、導電性樹脂組成物の電気抵抗が大きく変化する変曲点における導電性カーボンの濃度のことを意味する。すなわち、導電性樹脂組成物では、導電性カーボン濃度の少しの変化が表面抵抗値に大きく影響し、精密な電気抵抗値の制御ができない懸念がある。
【0040】
本実施形態の導電性樹脂組成物10は、分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体14を含む。分岐したカーボンナノチューブは、図3のように橋架け状構造の導通経路を形成すると考えられる。図3においては、分岐したカーボンナノチューブ同士の接触箇所に黒丸を付して表している。他方、ケッチェンブラック等の導電性カーボンは、粒子同士の点接触構造の導通経路を形成すると考えられる。分岐したカーボンナノチューブの導通経路は、ケッチェンブラックの導通経路よりも接触による導通部位の頻度が少なく、安定した導電性を実現できるため、表面抵抗値の均一性が高いと推測される。また、分岐したカーボンナノチューブは、ケッチェンブラック等の導電性カーボンに比して少量で導通経路を形成できるため、少ない配合量で表面抵抗値を低減できると推測される。
【0041】
カーボンナノ構造体14が、熱可塑性樹脂A中に偏在する場合には、より一層表面抵抗値の均一性を高くすることができる。これは、熱可塑性樹脂Aにカーボンナノ構造体14が局在することで、カーボンナノ構造体14が導電性樹脂組成物10全体に分散して存在する場合よりも、橋架け状の導通経路が形成されやすいためと推測される。
【実施例0042】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0043】
1.導電性樹脂組成物のシートの作製
表1の配合割合でマスターバッチを作製し、表1の配合比率でマスターバッチと希釈樹脂を配合して、実施例1-5及び比較例1の導電性樹脂組成物のシートを作製した。表1に記載した主要な原料の詳細を以下に示す。
・ポリエチレン系樹脂1:低密度ポリエチレン、MFR 5.0(190℃、2.16kg)、密度 0.922g/cm、融点(DSC法) 110℃
・ポリエチレン系樹脂2:低密度ポリエチレン、MFR 0.4(190℃、2.16kg)、密度 0.921g/cm、融点(DSC法) 111℃
・ポリプロピレン系樹脂:プロピレン-エチレンブロック共重合体、MFR 0.5(230℃、2.16kg)、密度 0.90g/cm
・カーボンナノ構造体:分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体、炭素の含有量 97質量%、キャボットコーポレーション製、ATHLOS 200
・ケッチェンブラック:特殊オイルファーネスカーボン、炭素の含有量 98質量%以上、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、EC300J
【0044】
なお、表1において、「マスターバッチ」の欄に記載の樹脂は、「第1の熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂A)」に対応する。「希釈樹脂」の欄に記載の樹脂は、「第2の熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂B)」に対応する。
カーボン含有量は、導電性樹脂組成物全体を100質量%とした場合のカーボンナノ構造体又はケッチェンブラックの配合割合から算出した。
【0045】
【表1】
【0046】
各導電性樹脂組成物のシートは、具体的には以下のように作製した。
マスターバッチの各成分を表1に示す配合割合で配合して、同方向二軸押出機(神戸製鋼社製、HYPERKTX30MX)に投入した。回転数600rpm、シリンダー温度110℃、吐出量20kg/hの条件で混練し、ペレタイザーでカットすることでペレット(マスターバッチ)を得た。得られたペレットと希釈樹脂を表1に示す質量比で配合して、ニーダーに投入した。120℃、50rpm、5分間の条件で混練したのち、温度200℃、時間3分、厚さ2.0mmの条件で熱プレスして実施例1-5及び比較例1の導電性樹脂組成物のシートを得た。
【0047】
2.評価方法
表面抵抗値(平均値)は、実施形態に記載の「表面抵抗値の測定」の方法で測定した。
表面抵抗値のばらつきは、シートにおける上縁部、下縁部、左縁部、及び右縁部の各表面抵抗値のうち、5.0×10Ω/□以上5.00×10Ω/□以下である部位の数を表す。例えば、上縁部、下縁部、左縁部、及び右縁部の全4カ所の表面抵抗値が上記の範囲内である場合に、表面抵抗値のばらつきを4とする。すなわち、表面抵抗値のばらつき「4」は、5.0×10Ω/□からのばらつきが最も小さく、表面抵抗値の均一性が高いことを表す。表面抵抗値のばらつきの数値が小さい程、5.0×10Ω/□からのばらつきが大きく、表面抵抗値の均一性が低いことを表す。
【0048】
表面抵抗値(平均値)と表面抵抗値のばらつきに基づき、以下の基準で実施例1-5及び比較例1の導電性樹脂組成物のシートの電気的な特性を判定した。Aは、電気的な特性に優れている。Bは、Aよりも電気的な特性が劣るが、実用可能である。Cは、電気的な特性が悪く、実用困難である。
「A」:表面抵抗値が1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であり、かつ、表面抵抗値のばらつきが4である。
「B」:Aに該当する場合を除いて、表面抵抗値が1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であり、かつ、表面抵抗値のばらつきが3又は4である。
「C」:表面抵抗値が1.0×10Ω/□未満か1.0×10Ω/□を超えるかである。または、表面抵抗値のばらつきが0,1,2である。
【0049】
3.結果
結果を表1に併記する。
(1)実施例1-5及び比較例1の各要件の充足状況
実施例1-5の導電性樹脂組成物は、下記要件(a)-(b)を全て満たしている。
・要件(a):熱可塑性樹脂を含む。
・要件(b):分岐したカーボンナノチューブ含有のカーボンナノ構造体を含む。
これに対して、比較例1の導電性樹脂組成物は、要件(b)を満たしていない。
【0050】
また、実施例1-5の導電性樹脂組成物は、以下の要件を満たしている。
・要件(c):カーボンナノ構造体の含有量は、導電性樹脂組成物全体を100質量%とした場合に、0質量%より多く、5質量%以下である。
【0051】
実施例1-5の導電性樹脂組成物のゴムのうち実施例1,2の導電性樹脂組成物は、以下の要件を満たしている。
・要件(d):熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂と、第1の熱可塑性樹脂とは異なる種類の第2の熱可塑性樹脂とを含み、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂が相分離した相分離構造を有し、カーボンナノ構造体は、第1の熱可塑性樹脂中に偏在する。
・要件(e):カーボンナノ構造体の含有量は、第1の熱可塑性樹脂を100質量%とした場合に、0質量%より多く、5質量%以下である。
【0052】
(2)結果及び考察
実施例1-5の導電性樹脂組成物は、判定がA又はBであった。これに対して、比較例1の導電性樹脂組成物は、判定がCであった。要件(a)、(b)を満たす場合には、良好な電気的な特性を有することが示唆された。
また、実施例1-5の導電性樹脂組成物は、要件(a)、(b)に加えて、さらに要件(c)を満たしている。実施例1-5は、少量のカーボンナノ構造体の配合で、良好な電気的な特性を有することがわかった。
【0053】
実施例1,2の導電性樹脂組成物は、判定がAであり、電気的な特性が実施例3-5よりもよかった。要件(a)、(b)に加えて、要件(d)を満たす場合には、より一層良好な電気的な特性を有することが示唆された。
また、実施例1,2の導電性樹脂組成物は、要件(a)、(b)、(d)に加えて、さらに要件(e)を満たしている。実施例1,2は、少量のカーボンナノ構造体の配合で、良好な電気的な特性を有することがわかった。
【0054】
5.実施例の効果
以上の実施例によれば、良好な電気的な特性を有する導電性樹脂組成物を提供できる。
【0055】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10…導電性樹脂組成物
11…第1相
12…第2相
14…カーボンナノ構造体
20…シート
図1
図2
図3