(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047514
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】アレイアンテナ校正装置及びアレイアンテナ校正プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 29/10 20060101AFI20230330BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20230330BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20230330BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G01R29/10 D
G01R29/10 C
G01R35/00 K
H01Q3/26 Z
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156473
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】工藤 俊紀
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021DB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】REV法(素子電界ベクトル回転法)を用いて、各アンテナ素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、各アンテナ素子を校正するにあたり、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、2種類の解(K1解及びK2解)のいずれかを選択する負担を軽減する。
【解決手段】全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の振幅に基づいて、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅及び位相を基準に、各アンテナ素子11-n(n=1~N)の相対放射電界の振幅及び位相を算出するにあたり、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅と比べて、小さい場合(K2解の場合)を考慮することなく、大きい場合(K1解の場合)のみを仮定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイアンテナの各素子の放射電界の位相を初期放射電界の位相から回転させながら、前記アレイアンテナの全素子の合成放射電界の振幅を測定する放射電界測定部と、
前記全素子の合成放射電界の振幅に基づいて、前記全素子の初期合成放射電界の振幅及び位相を基準に、前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相を算出するにあたり、前記各素子を除く前記全素子の初期合成放射電界の振幅が、前記各素子の放射電界の振幅と比べて、小さい場合を考慮することなく、大きい場合のみを仮定する振幅位相算出部と、
前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相に基づいて、前記各素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、前記各素子を校正する振幅位相校正部と、
を繰り返し適用することを特徴とするアレイアンテナ校正装置。
【請求項2】
前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相から構成される、前記各素子の相対放射電界ベクトルに関する、前記全素子に渡る総和ベクトルと、前記全素子の初期合成放射電界の振幅及び位相から構成される、前記全素子の初期合成放射電界ベクトルと、の間の差分の大きさに基づいて、前記全素子に渡る校正精度を評価する校正精度評価部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1に記載のアレイアンテナ校正装置。
【請求項3】
前記校正精度評価部は、前記差分が所定値と比べていまだ大きいままであるときには、前記放射電界測定部、前記振幅位相算出部及び前記振幅位相校正部の繰り返し適用を続行させ、前記差分が所定値と比べて初めて小さくなったときには、前記放射電界測定部、前記振幅位相算出部及び前記振幅位相校正部の繰り返し適用を終了させる
ことを特徴とする、請求項2に記載のアレイアンテナ校正装置。
【請求項4】
前記校正精度評価部は、前記各素子の初期放射電界の位相からの放射電界の回転位相に対する前記全素子の合成放射電界の振幅の測定結果と、任意の振幅及び位相を有する正弦関数又は余弦関数と、の間の決定係数の大きさに基づいて、前記各素子の校正精度を評価する
ことを特徴とする、請求項2又は3に記載のアレイアンテナ校正装置。
【請求項5】
前記校正精度評価部は、前記決定係数が所定値と比べて小さいときには、前記各素子の異常動作を判定し、前記決定係数が所定値と比べて大きいものの、前記差分が所定値と比べて大きいときには、前記各素子の正常動作及び前記振幅位相算出部のスプリアス解を判定し、前記決定係数が所定値と比べて大きいとともに、前記差分が所定値と比べて小さいときには、前記各素子の正常動作及び前記振幅位相算出部の正常解を判定する
ことを特徴とする、請求項4に記載のアレイアンテナ校正装置。
【請求項6】
前記各素子の初期放射電界の位相からの放射電界の回転位相に対する前記全素子の合成放射電界の振幅の測定結果と、任意の振幅及び位相を有する正弦関数又は余弦関数と、の間の決定係数の大きさに基づいて、前記各素子の校正精度を評価する校正精度評価部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1に記載のアレイアンテナ校正装置。
【請求項7】
アレイアンテナの各素子の放射電界の位相を初期放射電界の位相から回転させながら、前記アレイアンテナの全素子の合成放射電界の振幅を測定する放射電界測定ステップと、
前記全素子の合成放射電界の振幅に基づいて、前記全素子の初期合成放射電界の振幅及び位相を基準に、前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相を算出するにあたり、前記各素子を除く前記全素子の初期合成放射電界の振幅が、前記各素子の放射電界の振幅と比べて、小さい場合を考慮することなく、大きい場合のみを仮定する振幅位相算出ステップと、
前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相に基づいて、前記各素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、前記各素子を校正する振幅位相校正ステップと、
を繰り返しコンピュータに実行させるためのアレイアンテナ校正プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、REV法(Rotating element Electric field Vector method、素子電界ベクトル回転法)を用いて、各アンテナ素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、各アンテナ素子を校正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
REV法を用いて、各アンテナ素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、各アンテナ素子を校正する技術が、特許文献1、2及び非特許文献1等に開示されている。
【0003】
まず、各アンテナ素子の放射電界の位相を初期放射電界の位相から回転させながら、全アンテナ素子の合成放射電界の振幅を測定する。次に、全アンテナ素子の合成放射電界の振幅に基づいて、全アンテナ素子の初期合成放射電界の振幅及び位相を基準に、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相を算出する。次に、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相に基づいて、各アンテナ素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、各アンテナ素子を校正する。
【0004】
このように、全アンテナ素子の合成放射電界の位相を測定することなく、全アンテナ素子の合成放射電界の振幅を測定するのみにより、フェーズドアレイアンテナの各素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を校正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平03-038548号公報
【特許文献2】特開2001-201526号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】真野清司、片木孝至、“フェイズドアレーアンテナの素子振幅位相測定法-素子電界ベクトル回転法-”、電子情報通信学会論文誌、電子情報通信学会、1982年5月、第B65巻、第5号、pp.555-560.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、各アンテナ素子を除く全アンテナ素子の初期合成放射電界の振幅が、各アンテナ素子の放射電界の振幅と比べて、大きいか小さいかに応じて、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、2種類の解(K1解及びK2解)のいずれかを選択する必要がある。2種類の解の選択方法として、以下の第1~3の選択方法が提案されている。
【0008】
第1の選択方法では、全アンテナ素子の初期合成放射電界の振幅及び位相(主に位相)として、複数の異なる状態を設定したうえで、複数の異なる状態でK1解及びK2解を算出し、複数の異なる状態で同じ意味となる解を選択する。しかし、複数の解のうちのいずれかの解が同じ意味となる解であるか、何種類の異なる状態を設定するか、複数の異なる状態をどのように設定するか等、検討すべき項目が多いことがデメリットである。
【0009】
第2の選択方法では、全アンテナ素子の合成放射電界の振幅を測定するのみならず、全アンテナ素子の合成放射電界の位相を測定したうえで、各アンテナ素子の放射電界の位相が回転するに伴って、全アンテナ素子の合成放射電界の位相が180°以上変化しないときに、K1解を選択する。しかし、REV法のコンセプトである全アンテナ素子の合成放射電界の振幅を測定するのみでよいというコンセプトから外れて、全アンテナ素子の合成放射電界の位相を測定する必要がある。
【0010】
第3の選択方法では、各アンテナ素子を除く全アンテナ素子の初期合成放射電界の振幅が、各アンテナ素子の放射電界の振幅と比べて、常に小さくならずに大きくなるように、各アンテナ素子の初期放射電界の位相を設定したうえで、K1解を選択する。しかし、各アンテナ素子の初期放射電界の位相がある程度揃っていることを、何らかの方法であらかじめ保証することができる場合にのみ、第3の選択方法を適用することができ、それ以外の場合において、第3の選択方法の確実性を担保することができない。
【0011】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、REV法(素子電界ベクトル回転法)を用いて、各アンテナ素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、各アンテナ素子を校正するにあたり、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、2種類の解(K1解及びK2解)のいずれかを選択する負担を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、K2解を選択することなく、K1解のみを選択したうえで、校正を実施しその状態でREV法を実施することを繰り返す。ここで、REV法を最初に実行したときには、一般的に各アンテナ素子の初期放射電界の位相が揃っていないため(各アンテナ素子の回路特性等がばらつきを有する等)、K2解の発生確率が高く、K1解の誤り確率が高い。しかし、誤判定となった各アンテナ素子以外の各アンテナ素子は、正確に放射特性を校正される。すると、REV法を数回繰り返したときには、各アンテナ素子を除く全アンテナ素子の初期合成放射電界の振幅が次第に大きくなるため(各アンテナ素子の初期放射電界の位相がほぼ揃っているため)、K2解の発生確率が次第に低くなり、K1解の誤り確率が次第に低くなる。よって、本開示の方法を用いて、比較的容易にK2解を排除することができる。
【0013】
具体的には、本開示は、アレイアンテナの各素子の放射電界の位相を初期放射電界の位相から回転させながら、前記アレイアンテナの全素子の合成放射電界の振幅を測定する放射電界測定部と、前記全素子の合成放射電界の振幅に基づいて、前記全素子の初期合成放射電界の振幅及び位相を基準に、前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相を算出するにあたり、前記各素子を除く前記全素子の初期合成放射電界の振幅が、前記各素子の放射電界の振幅と比べて、小さい場合を考慮することなく、大きい場合のみを仮定する振幅位相算出部と、前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相に基づいて、前記各素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、前記各素子を校正する振幅位相校正部と、を繰り返し適用することを特徴とするアレイアンテナ校正装置である。
【0014】
また、本開示は、アレイアンテナの各素子の放射電界の位相を初期放射電界の位相から回転させながら、前記アレイアンテナの全素子の合成放射電界の振幅を測定する放射電界測定ステップと、前記全素子の合成放射電界の振幅に基づいて、前記全素子の初期合成放射電界の振幅及び位相を基準に、前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相を算出するにあたり、前記各素子を除く前記全素子の初期合成放射電界の振幅が、前記各素子の放射電界の振幅と比べて、小さい場合を考慮することなく、大きい場合のみを仮定する振幅位相算出ステップと、前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相に基づいて、前記各素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、前記各素子を校正する振幅位相校正ステップと、を繰り返しコンピュータに実行させるためのアレイアンテナ校正プログラムである。
【0015】
これらの構成によれば、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、2種類の解(K1解及びK2解)のいずれかを選択する負担を軽減することができる。
【0016】
また、本開示は、前記各素子の相対放射電界の振幅及び位相から構成される、前記各素子の相対放射電界ベクトルに関する、前記全素子に渡る総和ベクトルと、前記全素子の初期合成放射電界の振幅及び位相から構成される、前記全素子の初期合成放射電界ベクトルと、の間の差分の大きさに基づいて、前記全素子に渡る校正精度を評価する校正精度評価部をさらに備えることを特徴とするアレイアンテナ校正装置である。
【0017】
この構成によれば、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、誤った解を選択した等、異常の原因を多大なコスト及びノウハウなしに調べることができる。つまり、各アンテナ素子の校正係数、全アンテナ素子の放射パターン又は全アンテナ素子のパルス抽出波形を確認することなく、上記差分を算出するのみでよい。
【0018】
また、本開示は、前記校正精度評価部は、前記差分が所定値と比べていまだ大きいままであるときには、前記放射電界測定部、前記振幅位相算出部及び前記振幅位相校正部の繰り返し適用を続行させ、前記差分が所定値と比べて初めて小さくなったときには、前記放射電界測定部、前記振幅位相算出部及び前記振幅位相校正部の繰り返し適用を終了させることを特徴とするアレイアンテナ校正装置である。
【0019】
この構成によれば、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、K2解を選択することなく、K1解のみを選択するためには、REV法を複数回は繰り返す必要があるところ、REV法を繰り返す回数を定量的に評価することができる。
【0020】
また、本開示は、前記校正精度評価部は、前記各素子の初期放射電界の位相からの放射電界の回転位相に対する前記全素子の合成放射電界の振幅の測定結果と、任意の振幅及び位相を有する正弦関数又は余弦関数と、の間の決定係数の大きさに基づいて、前記各素子の校正精度を評価することを特徴とするアレイアンテナ校正装置である。
【0021】
この構成によれば、各アンテナ素子の異常動作があったのか、測定時のS/Nが低かったのか等、異常の原因を多大なコスト及びノウハウなしに調べることができる。つまり、各アンテナ素子の校正係数、全アンテナ素子の放射パターン又は全アンテナ素子のパルス抽出波形を確認することなく、上記決定係数を算出するのみでよい。
【0022】
また、本開示は、前記校正精度評価部は、前記決定係数が所定値と比べて小さいときには、前記各素子の異常動作を判定し、前記決定係数が所定値と比べて大きいものの、前記差分が所定値と比べて大きいときには、前記各素子の正常動作及び前記振幅位相算出部のスプリアス解を判定し、前記決定係数が所定値と比べて大きいとともに、前記差分が所定値と比べて小さいときには、前記各素子の正常動作及び前記振幅位相算出部の正常解を判定することを特徴とするアレイアンテナ校正装置である。
【0023】
この構成によれば、上記差分及び上記決定係数を併用することにより、REV法のアルゴリズム上の問題であるのか、アレイアンテナ送受信装置のハードウェア上の問題であるのか、異常の原因を多大なコスト及びノウハウなしに切り分けることができる。つまり、各アンテナ素子の校正係数、全アンテナ素子の放射パターン又は全アンテナ素子のパルス抽出波形を確認することなく、上記差分及び上記決定係数を算出するのみでよい。
【0024】
また、本開示は、前記各素子の初期放射電界の位相からの放射電界の回転位相に対する前記全素子の合成放射電界の振幅の測定結果と、任意の振幅及び位相を有する正弦関数又は余弦関数と、の間の決定係数の大きさに基づいて、前記各素子の校正精度を評価する校正精度評価部をさらに備えることを特徴とするアレイアンテナ校正装置である。
【0025】
この構成によれば、各アンテナ素子の異常動作があったのか、測定時のS/Nが低かったのか等、異常の原因を多大なコスト及びノウハウなしに調べることができる。つまり、各アンテナ素子の校正係数、全アンテナ素子の放射パターン又は全アンテナ素子のパルス抽出波形を確認することなく、上記決定係数を算出するのみでよい。
【発明の効果】
【0026】
このように、本開示は、REV法(素子電界ベクトル回転法)を用いて、各アンテナ素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、各アンテナ素子を校正するにあたり、各アンテナ素子の相対放射電界の振幅及び位相として、2種類の解(K1解及びK2解)のいずれかを選択する負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本開示のアレイアンテナシステムの構成を示す図である。
【
図2】本開示のアレイアンテナ校正処理の手順を示す図である。
【
図3】本開示のアレイアンテナ校正処理の概要を示す図である。
【
図4】本開示のK1解又はK2解の選択処理の詳細を示す図である。
【
図5】本開示のREV法の繰り返し処理の概要を示す図である。
【
図6】本開示のREV法の繰り返し処理でのK2解の発生確率を示す図である。
【
図7】本開示のREV法の繰り返し処理での各素子の振幅校正誤差を示す図である。
【
図8】本開示のREV法の繰り返し処理での各素子の位相校正誤差を示す図である。
【
図9】本開示の校正精度評価処理の手順を示す図である。
【
図10】本開示の第1の校正精度評価処理の概要を示す図である。
【
図11】本開示の第2の校正精度評価処理の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0029】
(本開示のアレイアンテナ校正処理)
本開示のアレイアンテナシステムの構成を
図1に示す。アレイアンテナシステムAは、アレイアンテナ送受信装置1及びアレイアンテナ校正装置2を備える。アレイアンテナ送受信装置1は、アンテナ素子11-n(n=1~N)、減衰器12-n(n=1~N)、移相器13-n(n=1~N)、分配/合成器14、送受信部15及び制御部16を備え、全アナログ方式、全デジタル方式及びアナログ/デジタル混載方式のいずれも採用可能である。アレイアンテナ校正装置2は、放射電界測定部21、振幅位相算出部22、振幅位相校正部23及び校正精度評価部24を備え、
図2に示すアレイアンテナ校正プログラム及び
図9に示す校正精度評価プログラムをコンピュータにインストールし実現可能である。
【0030】
本開示のアレイアンテナ校正処理の手順を
図2に示す。本開示のアレイアンテナ校正処理の概要を
図3に示す。本開示のK1解又はK2解の選択処理の詳細を
図4に示す。
【0031】
放射電界測定部21は、各移相器12-nを用いて、各アンテナ素子11-nの放射電界の位相を初期放射電界の位相から回転させながら、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の振幅を測定する(ステップS2)。
図3の第1段では、各アンテナ素子11-nの初期放射電界ベクトルE
0、nに対して、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の電力|E
0|
2(初期合成放射電界ベクトルE
0)が測定され、各アンテナ素子11-nの放射電界の位相Δ
m、n(m=1~M)の回転に伴って、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の電力|E
m、n’|
2(合成放射電界ベクトルE
m、n’)が測定される。
【0032】
図3の第1段では、各アンテナ素子11-nの回路特性等がばらつきを有するため、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の振幅|E
0、n|及び位相φ
0、nが揃っておらず、各アンテナ素子11-nの初期放射電界ベクトルE
0、nの長さ及び方向が揃っていない。
【0033】
振幅位相算出部22は、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の振幅に基づいて、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅及び位相を基準に、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅及び位相を算出する(ステップS3)。
図3の第2段では、各アンテナ素子11-nの放射電界の位相Δ
m、nに対して、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の電力比|E
m、n’|
2/|E
0|
2が算出される。
図3の第3段では、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|E
0|及び位相φ
0を基準に、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅比k
n=|E
0、n|/|E
0|及び位相X
n=φ
0、n-φ
0が算出される。
図3の第2段及び第3段の詳細については、
図4を用いて後述する。
【0034】
振幅位相校正部23は、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅及び位相に基づいて、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、制御部16を用いて、各アンテナ素子11-nを校正する(ステップS4)。
図3の第4段では、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
0、n”|及び位相φ
0、n”が揃うように、各減衰器12-n及び各移相器13-nの校正係数(放射電界の振幅及び位相の補正量)が算出される。
【0035】
放射電界測定部21、振幅位相算出部22及び振幅位相校正部23は、全アンテナ素子11-1~11-Nについて、ステップS2~S4を繰り返す(ステップS5)。
【0036】
図3の第4段では、各アンテナ素子11-nの回路特性等がばらつきを有していても、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
0、n”|及び位相φ
0、n”が揃っており、各アンテナ素子11-nの放射電界ベクトルE
0、n”の長さ及び方向が揃っている。
【0037】
このように、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の位相arg(Em、n’)を測定することなく、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の電力|Em、n’|2を測定するのみにより、フェーズドアレイアンテナの各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅特性及び位相特性を校正することができる。
【0038】
図4の第1段では、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|は、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて大きい。そこで、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅比k
n=|E
0、n|/|E
0|及び位相X
n=φ
0、n-φ
0として、K1解の選択が必要である。
【0039】
ここで、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅比k
nは、数式1、2のように算出され、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の位相X
nは、数式1、3のように算出される。そして、数式1のQ
n、max及びQ
n、minは、|E
m、n’|
2/|E
0|
2の最大値及び最小値であり、数式2、3のΔ
m_max、nは、|E
m、n’|
2/|E
0|
2の最大値を与えるΔ
m、nである(
図3の第2段において、|E
m、n’|
2/|E
0|
2とΔ
m、nとの間の関係を正弦関数又は余弦関数で近似)。
【数1】
【数2】
【数3】
【0040】
図4の第2段では、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|は、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて小さい。そこで、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅比k
n=|E
0、n|/|E
0|及び位相X
n=φ
0、n-φ
0として、K2解の選択が必要である。
【0041】
ここで、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅比k
nは、数式4、5のように算出され、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の位相X
nは、数式4、6のように算出される。そして、数式4のQ
n、max及びQ
n、minは、|E
m、n’|
2/|E
0|
2の最大値及び最小値であり、数式5、6のΔ
m_max、nは、|E
m、n’|
2/|E
0|
2の最大値を与えるΔ
m、nである(
図3の第2段において、|E
m、n’|
2/|E
0|
2とΔ
m、nとの間の関係を正弦関数又は余弦関数で近似)。
【数4】
【数5】
【数6】
【0042】
しかし、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて、大きいか小さいかは、自明ではない。よって、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅比k
n=|E
0、n|/|E
0|及び位相X
n=φ
0、n-φ
0として、K1解及びK2解のうちのいずれの解を選択すればよいかも、自明ではない。そこで、
図5に示すREV法の繰り返し処理が実行される。
【0043】
本開示のREV法の繰り返し処理の概要を
図5に示す。振幅位相算出部22は、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅と比べて、小さい場合(K2解の場合)を考慮することなく、大きい場合(K1解の場合)のみを仮定する(ステップS3)。放射電界測定部21、振幅位相算出部22及び振幅位相校正部23は、
図6~8又は
図9、10で後述する設定値の回数分だけREV法(ステップS2~S7。ステップS6、S7は後述)を繰り返す(ステップS1、S8~S10)。ステップS10では、振幅位相校正部23は、次回のREV法の繰り返し前に、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の振幅|E
0、n|及び位相φ
0、nを、前回のREV法の校正後の放射電界の振幅及び位相に変更する。
【0044】
図5の第1段では、REV法が最初に実行されたときを示し、REV法の繰り返しのカウントは0である(ステップS1)。すると、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の位相X
n=φ
0、n-φ
0が揃っていない(各アンテナ素子11-nの回路特性等がばらつきを有する等)。よって、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて小さい確率が高く、K2解の発生確率が高い。そして、K2解が選択されることなく、K1解のみが選択されたときには、K1解の誤り確率が高い。
【0045】
図5の第2段では、REV法が設定値より少ない回数分だけ実行されたときを示し、REV法の繰り返しのカウントは設定値より少ない(ステップS8、S9でNO)。すると、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の位相X
n=φ
0、n-φ
0がある程度揃っている。よって、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて小さい確率が低く、K2解の発生確率が低い。そして、K2解が選択されることなく、K1解のみが選択されたときでも、K1解の誤り確率が低い。
【0046】
図5の第3段では、REV法が設定値と同一の回数分だけ実行されたときを示し、REV法の繰り返しのカウントは設定値と同一である(ステップS8、S9でYES)。すると、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の位相X
n=φ
0、n-φ
0がほとんど揃っている。よって、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて小さい確率が0であり、K2解の発生確率が0である。そして、K2解が選択されることなく、K1解のみが選択されたときでも、K1解の誤り確率が0である。
【0047】
このように、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅及び位相として、2種類の解(K1解及びK2解)のいずれかを選択する負担を軽減することができる。
【0048】
なお、数式1、4において、Qn、minが0又は負であるため、rn
2が∞又は負であるときには、各アンテナ素子11-nの校正係数が異常となる。そこで、各アンテナ素子11-nの校正係数が異常であるときには(ステップS6でYES)、振幅位相校正部23は、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の位相φ0、nを変更したうえで(ステップS7)、ステップS8を実行することなく、放射電界測定部21、振幅位相算出部22及び振幅位相校正部23は、REV法を再実行する。一方で、各アンテナ素子11-nの校正係数が正常であるときには(ステップS6でNO)、振幅位相校正部23は、ステップS7を実行することなく、REV法の繰り返しのカウントをインクリメントしたうえで(ステップS8)、放射電界測定部21、振幅位相算出部22及び振幅位相校正部23は、REV法を繰り返すか(ステップS9でNO)、REV法を終了する(ステップS9でYES)。
【0049】
本開示のREV法の繰り返し処理でのK2解の発生確率を
図6に示す。REV法の繰り返しのモンテカルロシミュレーションを実行するにあたり、各アンテナ素子11-nを16素子、64素子又は256素子に設定し、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の位相を0°から360°までの範囲内でランダムに設定し、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の振幅を0dBから-8dB又は-15dBまでの範囲内でランダムに設定した。
【0050】
すると、REV法の繰り返しのカウントが1であるときには、K2解の発生確率が有限値をとるが、REV法の繰り返しのカウントが2であるときには、K2解の発生確率がある程度0に近づき、REV法の繰り返しのカウントが3又は4であるときには、K2解の発生確率がほとんど0になった。そこで、REV法の繰り返しのカウントに対して、ステップS9の必要十分な設定値として、3又は4を設定すればよいことが判明した。
【0051】
ここで、各アンテナ素子11-nの素子数が多いほど、REV法の繰り返しのカウントが1であるときでも、K2解の発生確率がある程度低くなり、REV法の繰り返しのカウントが2以上に増えるに伴って、K2解の発生確率がますます低くなった。これは、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の位相がランダムに設定されるとともに、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の振幅がランダムに設定されるからである。つまり、一つのアンテナ素子11-nの初期放射電界ベクトルを打ち消すためには、複数のアンテナ素子11-nの初期放射電界ベクトルが必要となるところ、各アンテナ素子11-nの素子数が逆に多いほど、一つのアンテナ素子11-nの初期放射電界ベクトルが打ち消されにくいからである。
【0052】
本開示のREV法の繰り返し処理での各素子の振幅校正誤差を
図7に示す。本開示のREV法の繰り返し処理での各素子の位相校正誤差を
図8に示す。REV法の繰り返しのモンテカルロシミュレーションを実行するにあたり、各アンテナ素子11-nを64素子又は256素子に設定し、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の位相を0°から360°までの範囲内でランダムに設定し、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の振幅を3dB幅の範囲内でランダムに設定し、振幅校正誤差及び位相校正誤差のエラーも評価した。
【0053】
すると、REV法の繰り返しのカウントが1であるときには、振幅校正誤差及び位相校正誤差が有限値をとるが(エラーも大きい)、REV法の繰り返しのカウントが2であるときには、振幅校正誤差及び位相校正誤差がある程度0に近づき(エラーは大きい)、REV法の繰り返しのカウントが3又は4であるときには、振幅校正誤差及び位相校正誤差がほとんど0になった(エラーも小さい)。そこで、REV法の繰り返しのカウントに対して、ステップS9の必要十分な設定値として、3又は4を設定すればよいことが判明した。
【0054】
ここで、
図7、8でも
図6と同様に、各アンテナ素子11-nの素子数が逆に多いほど、REV法の繰り返しのカウントが1であるときでも、振幅校正誤差及び位相校正誤差がある程度小さくなり(エラーも小さい)、REV法の繰り返しのカウントが2以上に増えるに伴って、振幅校正誤差及び位相校正誤差がますます小さくなった(エラーも小さい)。
【0055】
(本開示の校正精度評価処理)
本開示の校正精度評価処理の手順を
図9に示す。本開示の第1の校正精度評価処理の概要を
図10に示す。本開示の第2の校正精度評価処理の概要を
図11に示す。
【0056】
校正精度評価部24は、第1の校正精度評価処理として、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅及び位相から構成される、各アンテナ素子11-nの相対放射電界ベクトルに関する、全アンテナ素子11-1~11-Nに渡る総和ベクトルと、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅及び位相から構成される、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界ベクトルと、の間の差分の大きさに基づいて、全アンテナ素子11-1~11-Nに渡る校正精度を評価する(ステップS11)。
【0057】
図10の第1段では、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の位相X
n=φ
0、n-φ
0が揃っていない(各アンテナ素子11-nの回路特性等がばらつきを有する等)。よって、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて小さい確率が高く、K2解の発生確率が高い。そして、K2解が選択されることなく、K1解のみが選択されたときには、K1解の誤り確率が高い。
【0058】
各アンテナ素子11-nの相対放射電界ベクトルに関する、全アンテナ素子11-1~11-Nに渡る総和ベクトルは、複素数的に表わすと、Σ|E0、n|/|E0|×exp(j(φ0、n-φ0))=Σknexp(jXn)となる。理論的に誤差が全くない条件において、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界ベクトルは、複素数的に表わすと、|E0|/|E0|×exp(j(φ0-φ0))=1+0jとなる。kn及びXnとして誤った解が選択されたときには、又は、何らかの誤差が発生しているときには、Σknexp(jXn)≠1となる。
【0059】
図10の第2段では、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の位相X
n=φ
0、n-φ
0がある程度揃っている。よって、各アンテナ素子11-nを除く全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界の振幅|Y
n|=|E
0、1+・・・+E
0、N-E
0、n|が、各アンテナ素子11-nの放射電界の振幅|E
m、n|と比べて小さい確率が低く、K2解の発生確率が低い。そして、K2解が選択されることなく、K1解のみが選択されたときでも、K1解の誤り確率が低い。
【0060】
各アンテナ素子11-nの相対放射電界ベクトルに関する、全アンテナ素子11-1~11-Nに渡る総和ベクトルは、複素数的に表わすと、Σ|E0、n|/|E0|×exp(j(φ0、n-φ0))=Σknexp(jXn)となる。理論的に誤差が全くない条件において、全アンテナ素子11-1~11-Nの初期合成放射電界ベクトルは、複素数的に表わすと、|E0|/|E0|×exp(j(φ0-φ0))=1+0jとなる。kn及びXnとして正しい解が選択されたときには、又は、何らの誤差も発生していないときには、Σknexp(jXn)≒1となる。
【0061】
このように、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅及び位相として、誤った解を選択した等、異常の原因を多大なコスト及びノウハウなしに調べることができる。つまり、各アンテナ素子11-nの校正係数、全アンテナ素子11-1~11-Nの放射パターン又は全アンテナ素子11-1~11-Nのパルス抽出波形を確認することなく、差分Σknexp(jXn)-1を算出するのみでよい。なお、数式1、4において、Qn、minが0又は負であるため、rn
2が∞又は負であることも、異常の原因となり得る。
【0062】
校正精度評価部24は、第2の校正精度評価処理として、各アンテナ素子11-nの初期放射電界の位相からの放射電界の回転位相に対する全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の振幅の測定結果と、任意の振幅及び位相を有する正弦関数又は余弦関数と、の間の決定係数の大きさに基づいて、各アンテナ素子11-nの校正精度を評価する(ステップS12)。
【0063】
図11の第1段では、各アンテナ素子11-nの異常動作がある、又は、測定時のS/Nが低い。よって、各アンテナ素子11-nの放射電界の位相Δ
m、nが、初期放射電界の位相0°から一回転後の360°まで回転したときに、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の電力|E
m、n’|
2が、任意の振幅及び位相を有する正弦関数又は余弦関数と精度よく一致しない。
【0064】
各アンテナ素子11-nの放射電界の位相Δm、nに対して、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の電力|Em、n’|2が、|Em、n’|2=A+Bcоs(Δm、n-Δm_max、n)で近似されるとする。すると、最小二乗法の決定係数R2は、0.852となる。そして、近似式において、A、B及びΔm_max、nが、正確に算出されないため、数式1~6において、Qn、max、Qn、min及びΔm_max、nは、正確に算出されず、kn及びXnも、正確に算出されない。
【0065】
図11の第2段では、各アンテナ素子11-nの異常動作がない、又は、測定時のS/Nが高い。よって、各アンテナ素子11-nの放射電界の位相Δ
m、nが、初期放射電界の位相0°から一回転後の360°まで回転したときに、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の電力|E
m、n’|
2が、任意の振幅及び位相を有する正弦関数又は余弦関数と精度よく一致する。
【0066】
各アンテナ素子11-nの放射電界の位相Δm、nに対して、全アンテナ素子11-1~11-Nの合成放射電界の電力|Em、n’|2が、|Em、n’|2=A+Bcоs(Δm、n-Δm_max、n)で近似されるとする。すると、最小二乗法の決定係数R2は、0.997となる。そして、近似式において、A、B及びΔm_max、nが、正確に算出されるため、数式1~6において、Qn、max、Qn、min及びΔm_max、nは、正確に算出され、kn及びXnも、正確に算出される。
【0067】
このように、各アンテナ素子11-nの異常動作があったのか、測定時のS/Nが低かったのか等、異常の原因を多大なコスト及びノウハウなしに調べることができる。つまり、各アンテナ素子11-nの校正係数、全アンテナ素子11-1~11-Nの放射パターン又は全アンテナ素子11-1~11-Nのパルス抽出波形を確認することなく、決定係数R2を算出するのみでよい。なお、各アンテナ素子11-nの異常動作として、各移相器13-nの動作異常、各減衰器12-nの動作異常又は隣接アンテナ素子11-nから各アンテナ素子11-nへの不要な電界/磁界結合等が挙げられる。
【0068】
ここで、各アンテナ素子11-nの異常動作があるときには、又は、測定時のS/Nが低かったときには、決定係数R2が小さくなるのみならず、差分Σknexp(jXn)-1が大きくなることもある。よって、差分Σknexp(jXn)-1が大きいことのみに基づいて、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅及び位相として、誤った解を選択したのか、各アンテナ素子11-nの異常動作があったのか、測定時のS/Nが低かったのか、を判定することができない。そこで、以下の処理が実行される。
【0069】
校正精度評価部24は、決定係数R2が所定値と比べて小さいときには(ステップS13、YES)、差分Σknexp(jXn)-1によらず、各アンテナ素子11-nの異常動作を判定する(ステップS14)。そして、放射電界測定部21、振幅位相算出部22、振幅位相校正部23は、各アンテナ素子11-nの異常動作を修正したうえで、又は、測定時のS/Nを向上させたうえで、REV法を再実行する(ステップS15)。
【0070】
校正精度評価部24は、決定係数R2が所定値と比べて大きいものの(ステップS13、NO)、差分Σknexp(jXn)-1が所定値と比べて大きいときには(ステップS16、YES)、各アンテナ素子11-nの正常動作及び振幅位相算出部22のスプリアス解を判定する(ステップS17)。そして、放射電界測定部21、振幅位相算出部22及び振幅位相校正部23の繰り返し適用を続行させる(ステップS18)。
【0071】
校正精度評価部24は、決定係数R2が所定値と比べて大きいとともに(ステップS13、NO)、差分Σknexp(jXn)-1が所定値と比べて小さいときには(ステップS16、NO)、各アンテナ素子11-nの正常動作及び振幅位相算出部22の正常解を判定する(ステップS19)。そして、放射電界測定部21、振幅位相算出部22及び振幅位相校正部23の繰り返し適用を終了させる(ステップS20)。
【0072】
このように、差分Σknexp(jXn)-1及び決定係数R2を併用することにより、REV法のアルゴリズム上の問題であるのか、アレイアンテナ送受信装置1のハードウェア上の問題であるのか、異常の原因を多大なコスト及びノウハウなしに切り分けることができる。つまり、各アンテナ素子11-nの校正係数、全アンテナ素子11-1~11-Nの放射パターン又は全アンテナ素子11-1~11-Nのパルス抽出波形を確認することなく、差分Σknexp(jXn)-1及び決定係数R2を算出するのみでよい。
【0073】
そして、各アンテナ素子11-nの相対放射電界の振幅及び位相として、K2解を選択することなく、K1解のみを選択するためには、REV法を複数回は繰り返す必要があるところ、REV法を繰り返す回数を定量的に評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示のアレイアンテナ校正装置及びアレイアンテナ校正プログラムは、REV法を用いて、各アンテナ素子の放射電界の振幅特性及び位相特性を揃えるように、各アンテナ素子を校正するにあたり、REV法の2種類の解の選択負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0075】
A:アレイアンテナシステム
1:アレイアンテナ送受信装置
2:アレイアンテナ校正装置
11-1、11-2、11-3、11-N:アンテナ素子
12-1、12-2、12-3、12-N:減衰器
13-1、13-2、13-3、13-N:移相器
14:分配/合成器
15:送受信部
16:制御部
21:放射電界測定部
22:振幅位相算出部
23:振幅位相校正部
24:校正精度評価部