(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047570
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】ルーツブロア
(51)【国際特許分類】
F04C 18/18 20060101AFI20230330BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
F04C18/18 A
F04C29/02 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156547
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000185248
【氏名又は名称】小倉クラッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】屋宜 竜也
(72)【発明者】
【氏名】星野 景祐
(72)【発明者】
【氏名】平塚 恒基
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA06
3H129AA17
3H129AB05
3H129BB01
3H129BB42
3H129BB44
3H129CC20
(57)【要約】
【課題】オイルシールを使用することを止めることにより、低コスト化、運転効率の向上および長寿命化を図ることが可能なルールブロアを提供する。
【解決手段】駆動側ロータ35および従動側ロータ36と、ロータ室34およびギア室63を有するハウジング3と、駆動側ロータ35を貫通する駆動軸17と、従動側ロータ36を貫通する従動軸32と、駆動軸17に取付けられた駆動側ギア64と、駆動側ギア64と噛合して従動軸32に取付けられた従動側ギア65とを備える。ギア室63は、ハウジング3の一側壁と、ハウジング3の一側壁に取付けられたギアカバー27とによって閉空間となるように形成されている。駆動側ギア64と従動側ギア65は、グリスによって潤滑されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合いながら回転する駆動側ロータおよび従動側ロータと、
前記駆動側ロータおよび前記従動側ロータを収容するロータ室を有するとともに、前記ロータの軸線方向の一方であって前記ロータ室の外にギア室を有するハウジングと、
前記駆動側ロータの軸心部に固着されて前記ロータ室から前記ギア室に延びるとともに、前記ハウジングの前記ロータ室を挟む一側壁と他側壁に軸受によって回転自在に支持され、前記ギア室とは反対側の端部に駆動力が加えられる駆動軸と、
前記従動側ロータの軸心部に固着されて前記ロータ室から前記ギア室に延びるとともに、前記ハウジングの前記一側壁と前記他側壁に軸受によって回転自在に支持された従動軸と、
前記ギア室に収容されて前記駆動軸の端部に取付けられた駆動側ギアと、
前記ギア室に収容されて前記駆動側ギアと噛合するとともに前記従動軸の端部に取付けられた従動側ギアとを備え、
前記ギア室は、前記ハウジングの前記一側壁と、前記一側壁に取付けられたカバーとによって閉空間となるように形成され、
前記駆動側ギアと前記従動側ギアは、グリスによって潤滑されていることを特徴とするルーツブロア。
【請求項2】
請求項1記載のルーツブロアにおいて、
前記ハウジングの前記ギア室とは反対側に位置する前記他側壁には、モータが取付けられ、
前記モータは、
前記ハウジングの前記他側壁によって開口部が閉塞される有底筒状のモータケースと、
前記モータケースの内壁面に設けられた固定子と、
前記モータケースの軸心部に設けられて前記駆動軸に結合された回転子とを備え、
前記モータケースの開口部が前記他側壁によって閉塞されているとともに、前記モータケースの開口部と前記他側壁との間がシール部材によってシールされていることを特徴とするルーツブロア。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のルーツブロアにおいて、
前記駆動軸を支持する軸受と、前記従動軸を支持する軸受は、
軸受鋼中に水素が侵入することを防ぐ高クロム材によって形成された水素対応軸受であって、軸受内をシールするシール部材を備えていることを特徴とするルーツブロア。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載のルーツブロアにおいて、
前記ギア室は、前記駆動軸の軸線方向から見て繭形状に形成され、
前記ギア室における前記駆動軸の軸線方向に延びる内周壁は、前記駆動側ギアおよび前記従動側ギアの外周面に微小な間隔をおいて沿うような形状に形成されていることを特徴とするルーツブロア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合う一対のロータがギア結合構造によって互いに連動するように連結されたルーツブロアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のルーツブロアとしては、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に開示されたルーツブロアは、互いに噛み合う駆動側ロータと従動側ロータとを同期して回転させるためにギア結合構造を採用している。ギア結合構造は、駆動側ロータの回転軸の一端部に取付けられた駆動側ギアと、この駆動側ギアと噛み合うように従動側ロータの回転軸の一端部に取付けられた従動側ギアとを備えている。
【0003】
駆動側ギアと従動側ギアは、ギア室に収容され、ギア室に溜められたオイルによって潤滑されている。
ギア室は、駆動側ロータと従動側ロータとを収容するロータハウジングの側壁と、この側壁に取付けられたギアカバーとによって形成されている。ギアカバーは、ロータハウジングの側壁から突出している駆動側ギアと従動側ギアとを覆う略カップ状に形成されている。
【0004】
ロータハウジングの側壁には、オイルがギア室からロータハウジング内に浸入することを防ぐためにオイルシールが設けられている。このオイルシールは、駆動側ロータの回転軸とロータハウジングの側壁との間と、従動側ロータの回転軸とロータハウジングの側壁との間とにそれぞれ設けられ、回転軸の外周面に摺接するリップを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すルーツブロアにおいては、回転軸とロータハウジングの側壁との間にオイルシールが設けられていることが原因で下記の3つの問題があった。
第1の問題は、部品数を削減して低コスト化を図るにも限界があることである。
第2の問題は、オイルシールと回転軸との摺接部で動力損失となることである。
第3の問題は、オイルシールは劣化する消耗品であり、耐久性が高く寿命が長いルーツブロアを実現できないことである。
【0007】
本発明の目的は、オイルシールを使用することを止めることにより、低コスト化、運転効率の向上および長寿命化を図ることが可能なルーツブロアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明に係るルーツブロアは、互いに噛み合いながら回転する駆動側ロータおよび従動側ロータと、前記駆動側ロータおよび前記従動側ロータを収容するロータ室を有するとともに、前記ロータの軸線方向の一方であって前記ロータ室の外にギア室を有するハウジングと、前記駆動側ロータの軸心部に固着されて前記ロータ室から前記ギア室に延びるとともに、前記ハウジングの前記ロータ室を挟む一側壁と他側壁に軸受によって回転自在に支持され、前記ギア室とは反対側の端部に駆動力が加えられる駆動軸と、前記従動側ロータの軸心部に固着されて前記ロータ室から前記ギア室に延びるとともに、前記ハウジングの前記一側壁と前記他側壁に軸受によって回転自在に支持された従動軸と、前記ギア室に収容されて前記駆動軸の端部に取付けられた駆動側ギアと、前記ギア室に収容されて前記駆動側ギアと噛合するとともに前記従動軸の端部に取付けられた従動側ギアとを備え、前記ギア室は、前記ハウジングの前記一側壁と、前記一側壁に取付けられたカバーとによって閉空間となるように形成され、前記ハウジングの前記一側壁に設けられた凹部と、この凹部を塞ぐ板状のギアカバーとによって形成され、前記駆動側ギアと前記従動側ギアは、グリスによって潤滑されているものである。
【0009】
本発明は、前記ルーツブロアにおいて、前記ハウジングの前記ギア室とは反対側に位置する前記他側壁には、モータが取付けられ、前記モータは、前記ハウジングの前記他側壁によって開口部が閉塞される有底筒状のモータケースと、前記モータケースの内壁面に設けられた固定子と、前記モータケースの軸心部に設けられて前記駆動軸に結合された回転子とを備え、前記モータケースの開口部が前記他側壁によって閉塞されているとともに、前記モータケースの開口部と前記他側壁との間がシール部材によってシールされていてもよい。
【0010】
本発明は、前記ルーツブロアにおいて、前記駆動軸を支持する軸受と、前記従動軸を支持する軸受は、軸受鋼中に水素が侵入することを防ぐ高クロム材によって形成された水素対応軸受であって、軸受内をシールするシール部材を備えているものであってもよい。
【0011】
本発明は、前記ルーツブロアにおいて、前記ギア室は、前記駆動軸の軸線方向から見て繭形状に形成され、前記ギア室における前記駆動軸の軸線方向に延びる内周壁は、前記駆動側ギアおよび前記従動側ギアの外周面に微小な間隔をおいて沿うような形状に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ギア室とロータ室との間にオイルシールが不要になるから、低コスト化、運転効率の向上および長寿命化を図ることが可能なルーツブロアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係るルーツブロアの斜視図である。
【
図3】
図3は、ハウジングの他側壁の一部の断面図である。
【
図4】
図4は、ハウジングの一側壁の一部の断面図である。
【
図5】
図5は、フロントハウジングとセンターハウジングの分解斜視図である。
【
図6】
図6は、ルーツブロアのロータを示す斜視断面図である。
【
図7】
図7は、ルーツブロアの後部の分解斜視図である。
【
図8】
図8は、リヤハウジングの内部を示す背面図である。
【
図9】
図9は、駆動側ギアと従動側ギアの噛み合い部分を拡大して示す断面図である。
【
図11】
図11は、リヤハウジングとギアカバーの分解斜視図である。
【
図12】
図12は、リヤハウジングとギアカバーをルーツブロアの後方から見た背面図である。
【
図14】
図14は、リヤハウジングとギアカバーの分解斜視図である。
【
図15】
図15は、リヤハウジングとギアカバーをルーツブロアの後方から見た背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るルーツブロアの一実施の形態を
図1~
図9を参照して詳細に説明する。
図1に示すルーツブロア1は、図示していない燃料電池システムにおいて水素を循環させるために用いる水素循環ルーツブロアである。このルーツブロア1は、
図1において最も左側に描かれているモータ2によって駆動されて動作し、後述するハウジング3の吸込口4から水素を吸い込んで吐出口5(
図6参照)から吐出する。以下において、ルーツブロア1の各部品を説明するうえで方向を示すにあたっては、ハウジング3に対してモータ2が位置する方向を前方とし、吸込口4が位置する方向を右側とし、吐出口5が位置する方向を左側としてルーツブロア1を前方から見たときの方向で示す。
【0015】
モータ2は、
図2に示すように、有底円筒状のモータケース6と、モータケース6の内壁面に設けられた固定子7と、モータケース6の軸心部に設けられた回転子8とを備えている。
モータケース6は、開口部がハウジング3の前壁となるフロントハウジング11によって閉塞される状態でフロントハウジング11に複数の取付用ボルト12(
図1参照)によって取付けられている。また、モータケース6は、
図2に示すように、フロントハウジング11の前面に突設された円筒状の突起13と、モータケース6の開口部に形成された第1の円形凹部14との嵌合によりフロントハウジング11に対して位置決めされている。
モータケース6の開口部とフロントハウジング11との間には、
図2および
図3に示すように、Oリングからなるシール部材15が設けられている。
【0016】
回転子8は、
図2に示すように、軸心部に円筒状の筒状軸16を有し、この筒状軸16を介して駆動軸17に結合されている。駆動軸17は、前後方向に延びる状態でハウジング3の下部に配置され、ハウジング3の前部と後部とに第1の軸受21と第2の軸受22とによって回転自在に支持されている。
筒状軸16は、駆動軸17の軸端部(前端部)にスプライン嵌合部23を介して連結された状態で固定用ナット24によって固定されている。上述した円筒状の突起13と第1の円形凹部14は、駆動軸17と同一軸線上に形成されている。
【0017】
ハウジング3は、複数の部品を組み合わせて形成されている。複数の部品とは、上述したフロントハウジング11と、フロントハウジング11の後端に接続されたセンターハウジング25と、センターハウジング25の後端に接続されたリヤハウジング26と、リヤハウジング26の後端に接続されたギアカバー27などである。フロントハウジング11と、センターハウジング25と、リヤハウジング26は、アルミニウム合金を材料として鋳造、機械加工などによって所定の形状に形成されている。ギアカバー27は、アルミニウム合金製の平板によって形成されている。
【0018】
フロントハウジング11は、略板状に形成され、センターハウジング25の前端に複数の取付用ボルト28によって取付けられている。
図2および
図5に示すように、この実施の形態によるフロントハウジング11の下部には貫通孔29が形成され、上部には第2の円形凹部30が形成されている。貫通孔29には、
図3に示すように、筒状軸16および駆動軸17が通されるとともに、駆動軸17の前側を支持する第1の軸受21の外輪21aが嵌合する。
【0019】
第2の円形凹部30は、第1の軸受21の上方に設けられている第3の軸受31の外輪31aが嵌合する。第3の軸受31は、駆動軸17の上方に位置する従動軸32の前端部を支持するものである。従動軸32は、前後方向に延びる状態でハウジング3の上部に配置され、ハウジング3の前部と後部とに第3の軸受31と第4の軸受33(
図2参照)とによって回転自在に支持されている。
【0020】
センターハウジング25は、
図1に示すように、前端部と後端部とにそれぞれ取付用フランジ25aを有している。これらの取付用フランジ25aには、図示していない支持用ブラケットが取付けられる。このルーツブロア1は、支持用ブラケットを介して図示していない燃料電池システムの例えばフレームに支持される。上述した吸込口4は、センターハウジング25の前後方向の中央部であって右側部に形成され、吐出口5(
図6参照)は、センターハウジング25の前後方向の中央部であって左側部に形成されている。
【0021】
センターハウジング25は、
図2に示すように、後方に向けて開口する有底筒状に形成されている。センターハウジング25の開口部は、リヤハウジング26によって閉塞されている。このようにセンターハウジング25にリヤハウジング26が接続されることにより、センターハウジング25の内部にロータ室34が形成される。ロータ室34は、
図6に示すように、断面形状が上下方向に長い長円状に形成されている。ロータ室34の右側部には吸込口4が開口し、ロータ室34の左側部には吐出口5が開口している。
【0022】
ロータ室34には、互いに噛み合いながら回転する駆動側ロータ35および従動側ロータ36が収容されている。駆動側ロータ35と従動側ロータ36は、それぞれプラスチック材料によって断面形状が略繭形となるように形成されている。この駆動側ロータ35と従動側ロータ36は、ロータ室34内で互いに噛み合いながら回転することにより、外気(この実施の形態においては水素)を吸込口4からロータ室34内に吸い込み、ロータ室34の内壁との間を通して吐出口5から吐出する。
【0023】
駆動側ロータ35の軸心部には、駆動軸17がインサート成型によって固着されている。従動側ロータ36の軸心部には、従動軸32がインサート成型によって固着されている。駆動軸17の駆動側ロータ35に接着される外周面と、従動軸32の従動側ロータ36に接着される外周面とには、図示してはいないが、それぞれ綾目ローレットが形成されている。
【0024】
駆動側ロータ35は、駆動軸17が回転することにより駆動軸17と一体に回転する。従動側ロータ36は、従動軸32が回転することにより従動軸32と一体に回転する。駆動軸17と従動軸32とは、
図2に示すように、後端部において後述するギア結合構造37を介して互いに接続され、回転方向が互いに逆方向となるように同一回転数で回転する。ギア結合構造37の説明は後述する。
【0025】
駆動側ロータ35と従動側ロータ36とを形成するプラスチック材料としては、例えばPES(ポリエーテルサルフォン)を用いることができる。駆動側ロータ35と従動側ロータ36とをPESによって形成することにより、駆動側ロータ35および従動側ロータ36がセンターハウジング25と同様に熱膨張するようになる。PESの線膨張係数は、センターハウジング25を形成するアルミニウム合金と同等である。このため、駆動側ロータ35および従動側ロータ36とセンターハウジング25とのクリアランスを一定に保つにあたって、水素の温度や外気温の影響を受け難くなる。
【0026】
センターハウジング25の前端に位置する前壁25bには、
図3に示すように、駆動軸17が貫通する第1の軸孔41と、従動軸32が貫通する第2の軸孔42とが穿設されている。上述したフロントハウジング11は、前壁25bの前面に重なるように取付けられている。この実施の形態においては、フロントハウジング11とセンターハウジング25の前壁25bとが本発明でいう「ハウジングの他側壁」に相当する。
【0027】
前壁25bの前部であって駆動軸17が貫通する部分には、
図3および
図5に示すように、第3の円形凹部43が形成されているともに、この第3の円形凹部43に嵌合する状態で第1の軸受21が装着されている。また、前壁25bの前部であって従動軸32が貫通する部分には、第4の円形凹部44が形成されているとともに、この第4の円形凹部44に嵌合する状態で第3の軸受31が装着されている。第1の軸受21と第3の軸受31は、外輪21a,31aと、内輪21b,31bと、ボール21c,31cとがそれぞれ高クロム材によって形成された水素対応軸受である。
【0028】
ここでいう高クロム材は、外輪21a,31a、内輪21b,31b、ボール21c,31cを形成する軸受鋼中に水素が侵入することを防ぐ材料である。また、第1の軸受21と第3の軸受31は、それぞれ軸受内をシールするシール部材45を両端部に備えているとともに、図示していないクリープ防止機構を備えている。この実施の形態においては、第1の軸受21の外輪21aと第3の円形凹部43の周壁との間に第1のOリング46が設けられ、第1の軸受21の内輪21bと駆動軸17との間には第2のOリング47が設けられている。また、第3の軸受31の外輪31aと第4の円形凹部44の周壁との間に第3のOリング48が設けられ、第3の軸受31の内輪31bと従動軸32との間には第4のOリング49が設けられている。
【0029】
リヤハウジング26は、センターハウジング25の後端に重ねられてロータ室34の開口部を閉じる状態で複数の取付用ボルト51(
図1参照)によってセンターハウジング25に取付けられている。
リヤハウジング26の前部には、
図4に示すように、駆動軸17が貫通する第1の貫通孔52と、この第1の貫通孔52が底部に開口する第5の円形凹部53と、従動軸32が貫通する第2の貫通孔54と、この第2の貫通孔54が底部に開口する第6の円形凹部55とが形成されている。第5の円形凹部53には駆動軸17の後部を回転自在に支持する第2の軸受22が装着されている。第6の円形凹部55には、従動軸32の後部を回転自在に支持する第4の軸受33が装着されている。
【0030】
第2の軸受22と第4の軸受33は、複列玉軸受で、第1および第3の軸受21,31と同様に、外輪22a,33aと、内輪22b,33bと、ボール22c,33cとがそれぞれ高クロム材によって形成された水素対応軸受である。また、第2の軸受22と第4の軸受33は、それぞれ軸受内をシールするシール部材56を両端部に備えているとともに、図示していないクリープ防止機構を備えている。この実施の形態においては、第2の軸受22の内輪22bと駆動軸17との間に第5のOリング57が設けられ、第4の軸受33の内輪33bと従動軸32との間に第6のOリング58が設けられている。
第2の軸受22と第4の軸受33に設けられているシール部材56と、上述した第1の軸受21と第3の軸受31のシール部材45は、いわゆる接触シールが用いられている。接触シールは、シール性を有している。このため、第1~第4の軸受21,22,31,33をグリスなどの潤滑剤が軸線方向に通過することはない。
【0031】
この実施の形態においては、リヤハウジング26が本発明でいう「ハウジングの一側壁」に相当する。すなわち、駆動軸17は、ハウジング3のロータ室34を挟む一側壁(リヤハウジング26)と他側壁(センターハウジング25の前壁25b)に第1および第2の軸受21,22によって回転自在に支持されている。従動軸32は、ハウジング3の一側壁(リヤハウジング26)と他側壁(センターハウジング25の前壁25b)に第3および第4の軸受31,33によって回転自在に支持されている。
【0032】
リヤハウジング26の後部には、第5の円形凹部53と第6の円形凹部55の開口部に連なる凹部61が形成されている。凹部61の開口形状は、
図7および
図8に示すように、上下方向に長い長円の上下方向の中央部が括れた形状である。凹部61の開口部分はギアカバー27によって閉塞されている。ギアカバー27は、複数の取付用ボルト62(
図1参照)によってリヤハウジング26に取付けられている。凹部61の開口部がギアカバー27によって閉塞されることにより、
図4に示すように、リヤハウジング26内にギア室63が形成される。ギア室63は、
図2に示すように、ハウジング3における、駆動側ロータ35および従動側ロータ36の軸線方向の一方(後方)であってロータ室34の外に形成されることになる。また、ギア室63は、リヤハウジング26(ハウジング3の一側壁)と、このリヤハウジング26(ハウジング3の一側壁)に取付けられたギアカバー27とによって閉空間となるように形成されている。ギア室63を駆動軸17や従動軸32の軸線方向から見た形状は、繭形状である。すなわち、ギア室63の内周壁(駆動軸17や従動軸32の軸線方向に延びる壁)は、駆動側ギア64および従動側ギア65の外周面に微小な間隔をおいて沿うような形状に形成されている。
駆動軸17と従動軸32は、ロータ室34からギア室63に延びている。
【0033】
ギア室63には、ギア結合構造37を構成する駆動側ギア64と従動側ギア65とが収容されている。駆動側ギア64は、駆動軸17の後端部に取付けられており、駆動軸17に第2の軸受22の内輪22bとともに第1の固定用ナット66によって固定されている。従動側ギア65は、駆動側ギア64と噛合する状態で従動軸32の後端部に取付けられており、従動軸32に第4の軸受33の内輪33bともに第2の固定用ナット67によって固定されている。この実施の形態による駆動側ギア64と従動側ギア65は、
図7に示すように、はす歯ギアによって構成されている。なお、
図2と
図4は、駆動側ギア64と従動側ギア65を理解し易くするために、駆動側ギア64と従動側ギア65の歯を一般的な平歯車の歯となるように描いてある。
【0034】
駆動側ギア64は焼入鋼、ニッケルクロム鋼などによって形成されている。従動側ギア65は、鋳鉄によって形成されている。これらの駆動側ギア64と従動側ギア65は、
図9に示すように、グリス68によって潤滑されている。グリス68は、例えば有機モリブデン系のものを用いることができる。
図9は、グリス68を厚みが実際より厚くなるように描いてある。
駆動側ギア64と従動側ギア65とをグリス68によって潤滑するにあたっては、
図9に示すようにグリス68を駆動側ギア64と従動側ギア65とに塗布して行う場合と、図示してはいないが、グリス68をギア室63に充填して行う場合とがある。
グリス68を塗布する場合は、低温機動性に優れたルーツブロア1を実現することができる。一方、グリス68をギア室63に充填した場合は、グリス68が常に歯面に存在する状態になるため、油膜切れを起こし難く、潤滑性が向上し、長寿命化につながる。
【0035】
この実施の形態においては、ギア室63とロータ室34との間にシール性を有する第2の軸受22および第4の軸受33が設けられているから、ギア室63とロータ室34との間にオイルシール等のシール部材を設置することなく、ギア室63からロータ室34へグリス68が流れ出ることを防ぐことができる。
【0036】
このように構成されたルーツブロア1は、モータ2の回転子8が回転することにより、駆動軸17のギア室63とは反対側の端部(前端部)にモータ2から駆動力が加えられ、駆動軸17および駆動側ロータ35と従動軸32および従動側ロータ36とが互いに反対方向に同一回転速度で回転する。このように駆動側ロータ35と従動側ロータ36とが回転することにより、水素が吸込口4に吸い込まれて吐出口5から吐出される。
【0037】
このルーツブロア1において、駆動軸17と従動軸32とをギア結合する駆動側ギア64と従動側ギア65はグリス68によって潤滑されている。
このため、ギア室にオイルを溜める従来のルーツブロアと較べると、ロータ室34とギア室63との間にオイルシールが不要になるから、部品数を削減できて低コスト化を図ることができる。また、駆動軸17および従動軸32が回転するにあたって、オイルシールとの摩擦により動力を損失することがないから、運転効率の向上を図ることができる。さらに、消耗品であるオイルシールが設けられていないから長寿命化を図ることもできる。
【0038】
また、この実施の形態によるルーツブロア1は、ギア結合部の潤滑をグリス68で行っているから、低温機動性と耐ヒートショック性が向上し、耐振動性も良好になる。
ギア室63がリヤハウジング26の凹部61と、この凹部61の開口部を塞ぐギアカバー27とによって形成されているから、ギアカバー27を単純な板状に形成でき、ギアカバー27の形状を簡素化することができる。このようなギアカバー27は製造が容易であるから、この点からも低コスト化を図ることができる。
したがって、この実施の形態によれば、低コスト化、運転効率の向上および長寿命化を図ることが可能なルーツブロアを提供することができる。
【0039】
この実施の形態によるモータ2は、有底円筒状のモータケース6を備えている。モータケース6の開口部は、フロントハウジング11によって閉塞されている。モータケース6の開口部とフロントハウジング11との間は、シール部材15によってシールされている。このため、モータ2がハウジング3と一体化され、水素がモータ2およびハウジング3から外に漏洩することを防ぐことができる。
【0040】
この実施の形態による駆動軸17を支持する第1および第2の軸受21,22と、従動軸32を支持する第3および第4の軸受31,33は、軸受鋼中に水素が侵入することを防ぐ高クロム材によって形成された水素対応軸受である。また、これらの第1~第4の軸受21,22,31,33は、軸受内をシールするシール部材45,56を備えている。このため、水素雰囲気で軸受を使用するにあたって、ボール21c,22c,31c,33cの転動面にいわゆる「白色はくり」が生じることを防ぐことができるから、長期間にわたって水素を送ることが可能なルーツブロアを実現することができる。
【0041】
この実施の形態によるギア室63は、駆動軸17の軸線方向から見て繭形状に形成されている。ギア室63における駆動軸17の軸線方向に延びる内周壁(凹部61の内側壁)は、駆動側ギア64および従動側ギア65の外周面に微小な間隔をおいて沿うような形状に形成されている。このため、駆動側ギア64および従動側ギア65が高速で回転してグリス68が飛散したとしても、グリス68が駆動側ギア64と従動側ギア65の近傍に留まるようになる。すなわち、グリス68の過度な飛散を防ぐことができ、潤滑性が向上する。
【0042】
(ギア室の変形例1)
ギア室は
図10~
図12に示すように形成することができる。
図10~
図12において、
図1~
図9によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図10に示すギア室63は、リヤハウジング26と、リヤハウジング26の凹部61を塞ぐようにリヤハウジング26に取付けられた板金製のギアカバー71とによって閉空間となるように形成されている。
図10は、
図12におけるリヤハウジング26とギアカバー71のX-X線断面図である。
【0043】
ギアカバー71は、金属製の板材を加圧成型によってカップ状に成型したもので、
図11に示すように、カップ状の本体部71aと、本体部71aの開口部分に設けられたフランジ部71bとを有している。本体部71aは、リヤハウジング26の凹部61を形成する筒状部26aに嵌合するように形成されている。ギアカバー71が筒状部26aに嵌合することにより、リヤハウジング26とギアカバー71との間にギア室63が形成される。このギア室63における駆動軸17の軸線方向に延びる内周壁(凹部61の内側壁)は、駆動側ギア64および従動側ギア65の外周面に微小な間隔をおいて沿うような形状に形成されている。
【0044】
フランジ部71bは、本体部71aの周囲の全域に接続されており、複数の貫通孔72を有している。また、フランジ部71bは、リヤハウジング26における、センターハウジング25に重ねられるフランジ部26bと重なるように形成されている。
フランジ部26bには複数の貫通孔73が穿設されている。この貫通孔73とギアカバー71の貫通孔72は、駆動軸17の軸線方向から見て互いに重なる位置に形成されている。また、
図10に示すように、センターハウジング25における、これらの貫通孔72,73と対応する位置にはねじ孔74が形成されている。
リヤハウジング26とギアカバー71は、貫通孔72,73に通されてねじ孔74にねじ込まれた取付用ボルト75によってセンターハウジング25に取付けられている。
【0045】
(ギア室の変形例2)
ギア室は
図13~
図15に示すように形成することができる。
図13~
図15において、
図1~
図9によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図13に示すギア室63は、板状に形成されたリヤハウジング26と、リヤハウジング26の後面に重ねられたギアカバー81とによって閉空間となるように形成されている。
図13は
図15におけるリヤハウジング26とギアカバー81のXIII-XIII線断面図である。
図13に示すリヤハウジング26は、
図14に示すように、駆動側ギア64および従動側ギア65が露出するように板状に形成されており、センターハウジング25に複数の取付用ボルト51によって固定されている。リヤハウジング26における、複数の取付用ボルト51によって囲まれた範囲の内側には、複数のねじ孔82と、シール部材83とが設けられている。
【0046】
図13~
図15に示すギアカバー81は、鋳造や機械加工によってカップ状に形成されている。詳述すると、ギアカバー81は、
図14に示すように、駆動軸17の軸線方向から見て繭形状となるように形成された凹部84と、凹部84より外側に位置する複数の貫通孔85とを有している。凹部84は、駆動側ギア64と従動側ギア65とを収容可能に形成されている。凹部84内に駆動側ギア64と従動側ギア65とが挿入される状態でギアカバー81がリアハウジング26に重ねられることにより、リヤハウジング26とギアカバー81との間にギア室63が形成される。このギア室63における駆動軸17の軸線方向に延びる内周壁(凹部84の内側壁)は、駆動側ギア64および従動側ギア65の外周面に微小な間隔をおいて沿うような形状に形成されている。
【0047】
複数の貫通孔85は、駆動軸17の軸線方向から見てリヤハウジング26のねじ孔82と重なる位置に形成されている。ギアカバー81は、
図13に示すように、貫通孔85に通した取付用ボルト86がねじ孔82にねじ込まれることによって、リヤハウジング26に取付けられる。この取付状態においては、シール部材83がリヤハウジング26とギアカバー81との間に挟まれ、これらの部材の間をシールする。
【0048】
ギア室63を
図10~
図15に示すように形成する場合であっても、駆動側ギア64および従動側ギア65が高速で回転してグリス68が飛散した場合にグリス68が駆動側ギア64と従動側ギア65の近傍に留まるようになる。すなわち、グリス68の過度な飛散を防ぐことができ、潤滑性が向上する。
【符号の説明】
【0049】
1…ルーツブロア、2…モータ、3…ハウジング、6…モータケース、7…固定子、8…回転子、11…フロントハウジング、15…シール部材、17…駆動軸、21…第1の軸受、22…第2の軸受、25…センターハウジング、25b…前壁(他側壁)、26…リヤハウジング、27,71,81…ギアカバー、31…第3の軸受、32…従動軸、33…第4の軸受、34…ロータ室、35…駆動側ロータ、36…従動側ロータ、61…凹部、63…ギア室、64…駆動側ギア、65…従動側ギア、68…グリス。