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特開2023-47622パルスレーダのエコー除去装置及びパルスレーダのエコー除去プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047622
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】パルスレーダのエコー除去装置及びパルスレーダのエコー除去プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/20 20060101AFI20230330BHJP
   G01S 7/292 20060101ALI20230330BHJP
   G01S 13/95 20060101ALN20230330BHJP
【FI】
G01S13/20
G01S7/292 200
G01S13/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156628
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】藤城 佑太
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 重治
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB09
5J070AC02
5J070AC06
5J070AD01
5J070AE13
5J070AH25
5J070AH35
5J070AK10
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】本開示は、位相変調方式のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調し非所望次数エコーを除去するにあたり、非所望次数エコーの過少除去に起因するノイズフロアのレベルの上昇を防止するとともに、非所望次数エコーの過剰除去に起因する所望次数エコーのレベルの減衰を防止することを目的とする。
【解決手段】本開示は、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散が、所定閾値と比べて大きいときではなく小さいときにおいて、二次エコーが復調されたドップラースペクトルから二次エコーを除去し、二次エコーが復調されたドップラースペクトルのうちの、二次エコーのレベルがノイズフロアのレベルとほぼ等しくなる二次エコーの裾のドップラー速度の間において、二次エコーを除去する二次エコー除去装置7である。
【選択図】図4


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信パルス波の初期位相を送信パルス波間で無相関とするように、送信パルス波を位相変調するパルスレーダにおいて、受信信号波を位相補正することにより、所望次数エコーを復調し非所望次数エコーを除去するパルスレーダのエコー除去装置であって、
前記パルスレーダにおいて受信された受信信号波を位相補正することにより、前記非所望次数エコーを復調し前記所望次数エコーをノイズ化し、前記非所望次数エコーが復調された受信信号波を周波数領域変換することにより、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルを算出する非所望次数エコー復調部と、
前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散が、所定閾値と比べて大きいときではなく小さいときにおいて、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルから前記非所望次数エコーを除去する非所望次数エコー除去部と、
前記非所望次数エコーが除去されたドップラースペクトルを時間領域変換することにより、前記非所望次数エコーが除去された受信信号波を算出し、前記非所望次数エコーが除去された受信信号波を位相補正することにより、前記所望次数エコーを復調し、前記所望次数エコーが復調された受信信号波を周波数領域変換することにより、前記所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルを算出する所望次数エコー復調部と、
を備えることを特徴とするパルスレーダのエコー除去装置。
【請求項2】
前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散に対する前記所定閾値として、前記パルスレーダのナイキスト速度の半分近傍に設定することを特徴とする、請求項1に記載のパルスレーダのエコー除去装置。
【請求項3】
前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルのうちの、前記非所望次数エコーのレベルがノイズフロアのレベルとほぼ等しくなる前記非所望次数エコーの裾のドップラー速度の間において、前記非所望次数エコーを除去することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパルスレーダのエコー除去装置。
【請求項4】
前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルのうちの、前記非所望次数エコーの信号対雑音比が大きいほど大きくなる倍数と、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散と、を乗算して算出したドップラー速度の範囲内において、前記非所望次数エコーを除去することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のパルスレーダのエコー除去装置。
【請求項5】
前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルに対して、前記非所望次数エコーのピークの一部分が前記パルスレーダのナイキスト速度で折り返されないように、ドップラー速度の循環シフトを実行し、
前記所望次数エコー復調部は、前記非所望次数エコーが除去されたドップラースペクトルに対して、前記非所望次数エコー除去部のドップラー速度の循環シフトと比べて逆方向にかつ同一幅に渡って、ドップラー速度の循環シフトを実行することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のパルスレーダのエコー除去装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のパルスレーダのエコー除去装置が備える前記非所望次数エコー復調部、前記非所望次数エコー除去部及び前記所望次数エコー復調部が行なう各処理を、順にコンピュータに実行させるためのパルスレーダのエコー除去プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、所望次数エコーを復調し非所望次数エコーを除去する、パルスレーダのエコー除去装置及びパルスレーダのエコー除去プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一次エコーを復調し二次エコーを除去する、パルスレーダのエコー除去装置及びパルスレーダのエコー除去プログラムが、特許文献1、2に開示されている。
【0003】
まず、特許文献1、2を適用しない一般的なパルスレーダを説明する。従来技術の一般的なパルスレーダの物標検出処理を図1に示す。図1の左上欄では、送信パルス波T1、T2が、繰り返し周期trepで送信される。そして、送信パルス波T1、T2に対する受信信号波R1-1、R2-1が、送信パルス波T1の送信後の時刻t、trep+tで受信される。さらに、送信パルス波T1に対する受信信号波R1-2が、送信パルス波T1の送信後の時刻trep+Δtで受信されるはずであるが、送信パルス波T2に対する受信信号波R1-2が、送信パルス波T2の送信後の時刻Δtで受信されたように見える。
【0004】
図1の左下欄では、パルスレーダ装置Rからの探知距離が、最大距離Rmax(=ctrep/2)で制限される。そして、受信信号波R1-1、R2-1に対応する降雨C1が、パルスレーダ装置Rからの距離R(=ct/2)で探知される。さらに、受信信号波R1-2に対応する降雨C2が、パルスレーダ装置Rからの距離Rmax+ΔR(=c(trep+Δt)/2)で探知されるはずであるが、受信信号波R1-2に対応する降雨C2’が、パルスレーダ装置Rからの距離ΔR(=cΔt/2)で探知されたように見える。
【0005】
図1の右欄では、受信信号波R1-2、R2-1が重畳されたものが、周波数領域変換され、ドップラースペクトルが算出される。そして、受信信号波R2-1に対応する一次エコーのピークが検出され、受信信号波R1-2に対応する二次エコーのピークが検出される。しかし、二つのエコーのピークのうちの、いずれのエコーのピークが、一次エコーのピークであるか、二次エコーのピークであるか、区別することができない。
【0006】
次に、特許文献1、2を適用する位相変調方式のパルスレーダを説明する。従来技術の位相変調方式のパルスレーダの一次エコー復調処理を図2に示す。送信パルス波の初期位相が送信パルス波間で無相関となるように、送信パルス波が位相変調される。そして、受信信号波が位相補正されることにより、一次エコーが復調され二次エコーが除去される。
【0007】
図2の左上欄では、パルスレーダ装置Rにおいて受信された受信信号波が、位相補正されることなく、周波数領域変換され、一次エコー及び二次エコーがノイズ化されたドップラースペクトルが算出される(実際には、図2の左上欄の処理は実行されない)。
【0008】
図2の右上欄では、パルスレーダ装置Rにおいて受信された受信信号波が、位相補正されることにより(図1の送信パルス波T1の位相シフト量がキャンセルされる)、二次エコーが復調され一次エコーがノイズ化される。そして、二次エコーが復調された受信信号波が、周波数領域変換され、二次エコーが復調されたドップラースペクトルが算出される。
【0009】
図2の左下欄では、二次エコーが復調されたドップラースペクトルから、二次エコーが除去される(図2の左下欄の白いバーの部分)。そして、二次エコーが除去されたドップラースペクトルが、時間領域変換され、二次エコーが除去された受信信号波が算出される。
【0010】
図2の右下欄では、二次エコーが除去された受信信号波が、位相補正されることにより(図1の送信パルス波T2の位相シフト量がキャンセルされる)、一次エコーが復調される。そして、一次エコーが復調された受信信号波が、周波数領域変換され、二次エコーが除去され一次エコーが復調されたドップラースペクトルが算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012-083235号公報
【特許文献2】特許第6797340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー除去処理を図3に示す。特許文献1、2では、二次エコーが復調されたドップラースペクトルから、二次エコーが除去されるドップラー速度の範囲が、適切な除去範囲に設定される方法が開示されていない。
【0013】
図3の左上欄では、二次エコーが復調されたドップラースペクトルから、二次エコーが除去されるドップラー速度の範囲が、狭過ぎる除去範囲に設定される。図3の右上欄では、一次エコーが復調されたドップラースペクトルにおいて、二次エコーの過少除去に起因して、ノイズフロアのレベルが上昇し、一次エコーの信号対雑音比が低下する。
【0014】
図3の左下欄では、二次エコーが復調されたドップラースペクトルから、二次エコーが除去されるドップラー速度の範囲が、広過ぎる除去範囲に設定される。図3の右下欄では、一次エコーが復調されたドップラースペクトルにおいて、二次エコーの過剰除去に起因して、一次エコーのレベルが減衰する(ノイズフロアのレベルも減衰する)。
【0015】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、位相変調方式のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調し非所望次数エコーを除去するにあたり、非所望次数エコーの過少除去に起因するノイズフロアのレベルの上昇を防止するとともに、非所望次数エコーの過剰除去に起因する所望次数エコーのレベルの減衰を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために、非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散が、所定閾値と比べて大きいときではなく小さいときにおいて、非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルから非所望次数エコーを除去することとした。
【0017】
具体的には、本開示は、送信パルス波の初期位相を送信パルス波間で無相関とするように、送信パルス波を位相変調するパルスレーダにおいて、受信信号波を位相補正することにより、所望次数エコーを復調し非所望次数エコーを除去するパルスレーダのエコー除去装置であって、前記パルスレーダにおいて受信された受信信号波を位相補正することにより、前記非所望次数エコーを復調し前記所望次数エコーをノイズ化し、前記非所望次数エコーが復調された受信信号波を周波数領域変換することにより、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルを算出する非所望次数エコー復調部と、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散が、所定閾値と比べて大きいときではなく小さいときにおいて、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルから前記非所望次数エコーを除去する非所望次数エコー除去部と、前記非所望次数エコーが除去されたドップラースペクトルを時間領域変換することにより、前記非所望次数エコーが除去された受信信号波を算出し、前記非所望次数エコーが除去された受信信号波を位相補正することにより、前記所望次数エコーを復調し、前記所望次数エコーが復調された受信信号波を周波数領域変換することにより、前記所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルを算出する所望次数エコー復調部と、を備えることを特徴とするパルスレーダのエコー除去装置である。
【0018】
この構成によれば、位相変調方式のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調するにあたり、非所望次数エコーの除去可否を適切に判定することにより、非所望次数エコーの過剰除去に起因する所望次数エコーのレベルの減衰を防止することができる。
【0019】
また、本開示は、前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散に対する前記所定閾値として、前記パルスレーダのナイキスト速度の半分近傍に設定することを特徴とするパルスレーダのエコー除去装置である。
【0020】
この構成によれば、位相変調方式のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調するにあたり、非所望次数エコーの除去可否を適切に判定することができる。
【0021】
前記課題を解決するために、非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルのうちの、非所望次数エコーのレベルがノイズフロアのレベルとほぼ等しくなる非所望次数エコーの裾のドップラー速度の間において、非所望次数エコーを除去することとした。
【0022】
また、本開示は、前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルのうちの、前記非所望次数エコーのレベルがノイズフロアのレベルとほぼ等しくなる前記非所望次数エコーの裾のドップラー速度の間において、前記非所望次数エコーを除去することを特徴とするパルスレーダのエコー除去装置である。
【0023】
この構成によれば、位相変調方式のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調するにあたり、非所望次数エコーの除去範囲を適切に設定することにより、非所望次数エコーの過少除去に起因するノイズフロアのレベルの上昇を防止することができ、非所望次数エコーの過剰除去に起因する所望次数エコーのレベルの減衰を防止することができる。
【0024】
また、本開示は、前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルのうちの、前記非所望次数エコーの信号対雑音比が大きいほど大きくなる倍数と、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散と、を乗算して算出したドップラー速度の範囲内において、前記非所望次数エコーを除去することを特徴とするパルスレーダのエコー除去装置である。
【0025】
この構成によれば、位相変調方式のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調するにあたり、非所望次数エコーの除去範囲を適切に設定することができる。
【0026】
また、本開示は、前記非所望次数エコー除去部は、前記非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルに対して、前記非所望次数エコーのピークの一部分が前記パルスレーダのナイキスト速度で折り返されないように、ドップラー速度の循環シフトを実行し、前記所望次数エコー復調部は、前記非所望次数エコーが除去されたドップラースペクトルに対して、前記非所望次数エコー除去部のドップラー速度の循環シフトと比べて逆方向にかつ同一幅に渡って、ドップラー速度の循環シフトを実行することを特徴とするパルスレーダのエコー除去装置である。
【0027】
この構成によれば、非所望次数エコーのピークの一部分がパルスレーダのナイキスト速度で折り返されるときでも、非所望次数エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散を適切に算出することができ、上記の効果を奏することができる。
【0028】
また、本開示は、以上に記載のパルスレーダのエコー除去装置が備える前記非所望次数エコー復調部、前記非所望次数エコー除去部及び前記所望次数エコー復調部が行なう各処理を、順にコンピュータに実行させるためのパルスレーダのエコー除去プログラムである。
【0029】
この構成によれば、上記の効果を有するプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0030】
このように、本開示は、位相変調方式のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調し非所望次数エコーを除去するにあたり、非所望次数エコーの過少除去に起因するノイズフロアのレベルの上昇を防止するとともに、非所望次数エコーの過剰除去に起因する所望次数エコーのレベルの減衰を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】従来技術の一般的なパルスレーダの物標検出処理を示す図である。
図2】従来技術の位相変調方式のパルスレーダの一次エコー復調処理を示す図である。
図3】従来技術の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー除去処理を示す図である。
図4】本開示の位相変調方式のパルスレーダ装置の構成を示す図である。
図5】本開示の位相変調方式のパルスレーダ装置の処理を示す図である。
図6】本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー復調処理を示す図である。
図7】本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー復調処理を示す図である。
図8】本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー除去原理を示す図である。
図9】本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー除去処理を示す図である。
図10】本開示の位相変調方式のパルスレーダの一次エコー復調処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0033】
(本開示の位相変調方式のパルスレーダ装置の構成)
本開示の位相変調方式のパルスレーダ装置の構成を図4に示す。本開示の位相変調方式のパルスレーダ装置の処理を図5に示す。パルスレーダ装置Rは、発振部1、位相変調部2、送信部3、サーキュレータ4、アンテナ5、受信部6及び二次エコー除去装置7を備え、降雨Cを探知することができる。二次エコー除去装置7は、二次エコー復調部71、二次エコー除去部72及び一次エコー復調部73を備え、図5に示した二次エコー除去プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0034】
発振部1は、送信パルス波を発振する。位相変調部2は、送信パルス波の初期位相を送信パルス波間で無相関とするように、送信パルス波を位相変調する。送信部3は、サーキュレータ4を介して、送信パルス波を送信する。アンテナ5は、送信パルス波を照射し、受信信号波を受信する。受信部6は、サーキュレータ4を介して、受信信号波を受信する。二次エコー除去装置7は、受信信号波を位相補正することにより、一次エコーを復調し二次エコーを除去する。以下では、二次エコー除去装置7の各処理を説明する。
【0035】
(本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー復調処理)
本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー復調処理を図6、7に示す。図6、7の左上欄では、パルスレーダ装置Rにおいて受信された受信信号波が、位相補正されることなく、周波数領域変換され、一次エコー及び二次エコーがノイズ化されたドップラースペクトルが算出される(実際には、図6、7の左上欄の処理は実行されない)。
【0036】
図6、7の右上欄では、二次エコー復調部71は、パルスレーダ装置Rにおいて受信された受信信号波を取得する(ステップS1)。そして、パルスレーダ装置Rにおいて受信された受信信号波を位相補正することにより(図1の送信パルス波T1の位相シフト量がキャンセルされる)、二次エコーを復調し一次エコーをノイズ化する(ステップS1)。さらに、二次エコーが復調された受信信号波を周波数領域変換することにより、二次エコーが復調されたドップラースペクトルを算出する(ステップS1)。
【0037】
図6、7の左下欄では、二次エコー除去部72は、二次エコーが復調されたドップラースペクトルに対して、二次エコーのピークの一部分がパルスレーダ装置Rのナイキスト速度±Vnyqで折り返されないように、ドップラー速度vの循環シフトを実行する(ステップS2)。これは、図6、7の右下欄のように、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σを適切に算出するためである(ステップS3)。
【0038】
図6の右上欄では、二次エコーのピークの一部分がパルスレーダ装置Rのナイキスト速度±Vnyqで折り返されないが、二次エコーのピークの最大値がドップラー速度v=0に位置するように、ドップラー速度vの循環シフトを実行する(ステップS2)。図7の右上欄では、二次エコーのピークの一部分がパルスレーダ装置Rのナイキスト速度±Vnyqで折り返されるため、二次エコーのピークの最大値がドップラー速度v=0に位置するように、ドップラー速度vの循環シフトを実行する(ステップS2)。
【0039】
図6、7の右下欄では、二次エコー除去部72は、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σを算出する(ステップS3)。これは、図8、9のように、二次エコーの除去可否を適切に判定するためである(ステップS5)。
【0040】
ここで、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σは、数式1のように算出される。数式1では、S(v)は、スペクトル強度を示し、vaveは、ドップラー速度v=-Vnyq~+Vnyqの範囲内における、ドップラー速度vの重み付け平均値を示す。そして、ドップラー速度vの循環シフトにより、数式1が適切に算出される。
【数1】
【0041】
或いは、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σは、数式2のように算出される。数式2では、Rは、時間領域の受信信号波に関する、ラグnの自己相関を示す。そして、ドップラー速度vの循環シフトなしで、数式2が適切に算出される。
【数2】
【0042】
図6、7の右下欄では、二次エコー除去部72は、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σのみならず、二次エコーの信号対雑音比SNRを算出する(ステップS4)。これは、図8、9のように、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σも考慮して、二次エコーの除去範囲を適切に設定するためである(ステップS6)。
【0043】
ここで、二次エコーの信号対雑音比SNRは、数式3で算出される。数式3では、Save(v:ピーク近傍又はノイズフロア)は、ドップラー速度v=ピーク近傍又はノイズフロアの範囲内における、スペクトル強度S(v)の平均値を示す。
【数3】
【0044】
或いは、二次エコーの信号対雑音比SNRは、数式4で算出される。数式4では、Rは、時間領域の受信信号波に関する、ラグnの自己相関を示す。
【数4】
【0045】
(本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー除去処理)
本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー除去原理を図8に示す。図8の各欄では、二次エコーは、ドップラー速度分散が同一であるがスペクトル強度が相違するガウス関数であり、ノイズフロアは、ドップラー速度vによらず一定であり同一である。
【0046】
図8の左欄では、二次エコーの信号対雑音比SNRは、比較的「大きい」。すると、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σは、上記ガウス関数のドップラー速度分散と比べて、比較的「小さく」広がる。一方で、二次エコーのレベルがノイズフロアのレベルと等しくなる、二次エコーの裾のドップラー速度vの間は、比較的「広い」。よって、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σに対して、比較的「大きい」倍数nを乗算すれば、二次エコーの除去範囲を適切に設定することができる。
【0047】
図8の中欄では、二次エコーの信号対雑音比SNRは、比較的「小さい」。すると、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σは、上記ガウス関数のドップラー速度分散と比べて、比較的「大きく」広がる。一方で、二次エコーのレベルがノイズフロアのレベルと等しくなる、二次エコーの裾のドップラー速度vの間は、比較的「狭い」。よって、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σに対して、比較的「小さい」倍数nを乗算すれば、二次エコーの除去範囲を適切に設定することができる。
【0048】
図8の右欄では、二次エコーの信号対雑音比SNRは、「0dB」である。すると、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σは、「Vnyq/√3」である。一方で、二次エコーのレベルがノイズフロアのレベルと等しくなる、二次エコーの裾のドップラー速度vの間は、「幅が0」である。よって、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σが、「Vnyq/2≒Vnyq/√3以上」であれば、二次エコーの除去不可を適切に判定することができる。或いは、二次エコーのドップラースペクトルの速度分散σに対して、「0である」倍数nを乗算すれば、二次エコーの除去範囲を適切に設定することができる。
【0049】
本開示の位相変調方式のパルスレーダの二次エコー除去処理を図9に示す。二次エコー除去部72は、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σが、所定閾値(≒Vnyq/2)と比べて小さいときにおいて(ステップS5、YES)、二次エコーが復調されたドップラースペクトルから二次エコーを除去する(ステップS6)。一方で、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σが、所定閾値(≒Vnyq/2)と比べて大きいときにおいて(ステップS5、NO)、二次エコーが復調されたドップラースペクトルから二次エコーの除去を中止する(ステップS6を中止する)。
【0050】
二次エコー除去部72は、二次エコーが復調されたドップラースペクトルのうちの、二次エコーのレベルがノイズフロアのレベルとほぼ等しくなる、二次エコーの裾のドップラー速度vの間において、二次エコーを除去する(ステップS6)。つまり、二次エコーの信号対雑音比SNRが大きいほど大きくなる倍数nと、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σと、を乗算して算出したドップラー速度v=-nσ~+nσの範囲内において、二次エコーを除去する(ステップS6)。
【0051】
図9の左欄では、ガウス関数及びノイズフロアを重畳したモデルを用いて、二次エコーの信号対雑音比SNRが大きいほど大きくなる倍数nが算出されている。例えば、二次エコーの信号対雑音比SNRが6dB又は0dBであれば、倍数nが約2又は0となる。ここで、二次エコーの信号対雑音比SNRに対する倍数nの関数は、近似多項式として格納されてもよい。そして、二次エコーの信号対雑音比SNRに対する倍数nの関数は、二次エコーが復調されたドップラースペクトルの速度分散σによらず適用可能である。
【0052】
図9の中欄では、二次エコーの除去範囲において、両側のノイズフロアを用いた直線補間を実行しており、図9の右欄と比べて、二次エコーの過剰除去に起因する一次エコーのレベルの減衰を防止することができる。図9の右欄では、二次エコーの除去範囲において、スペクトル強度S(v)のゼロサプレスを実行しており、図9の中欄と比べて、二次エコーの過少除去に起因するノイズフロアのレベルの上昇を防止することができる。
【0053】
本開示の位相変調方式のパルスレーダの一次エコー復調処理を図10に示す。図10の左上欄では、二次エコーが除去されたドップラースペクトルが算出されている。
【0054】
図10の右上欄では、一次エコー復調部73は、二次エコーが除去されたドップラースペクトルに対して、二次エコー除去部72のドップラー速度vの循環シフトと比べて逆方向にかつ同一幅に渡って、ドップラー速度vの循環シフトを実行する(ステップS7)。
【0055】
図10の左下欄では、一次エコー復調部73は、二次エコーが除去されたドップラースペクトルを時間領域変換することにより、二次エコーが除去された受信信号波を算出する(ステップS8)。そして、二次エコーが除去された受信信号波を位相補正することにより(図1の送信パルス波T2の位相シフト量がキャンセルされる)、一次エコーを復調する(ステップS8)。さらに、一次エコーが復調された受信信号波を周波数領域変換することにより、一次エコーが復調されたドップラースペクトルを算出する(ステップS8)。
【0056】
図10の右下欄では、一次エコーの中心ドップラー速度vcen、一次エコーの信号対雑音比SNR及び一次エコーのドップラースペクトルの速度分散σが算出されている。
【0057】
このように、位相変調方式のパルスレーダ装置Rにおいて、一次エコーを復調し二次エコーを除去するにあたり、二次エコーの除去可否を適切に判定することにより、二次エコーの過剰除去に起因する一次エコーのレベルの減衰を防止することができる。
【0058】
そして、位相変調方式のパルスレーダ装置Rにおいて、一次エコーを復調し二次エコーを除去するにあたり、二次エコーの除去範囲を適切に設定することにより、二次エコーの過少除去に起因するノイズフロアのレベルの上昇を防止することができ、二次エコーの過剰除去に起因する一次エコーのレベルの減衰を防止することができる。
【0059】
(変形例の位相変調方式のパルスレーダ装置の処理)
本実施形態では、所望次数エコーとして、一次エコーを復調しており、非所望次数エコーとして、二次エコーを除去している。変形例として、遠距離を探知するために、所望次数エコーとして、二次エコーを復調してもよく、非所望次数エコーとして、一次エコーを除去してもよい。発展形として、より遠距離を探知するために、所望次数エコーとして、高次エコーを復調してもよく、非所望次数エコーとして、低次エコーを除去してもよい。
【0060】
本実施形態では、パルスレーダ装置Rとして、降雨Cを探知する気象用パルスレーダを適用している。変形例として、パルスレーダ装置Rとして、物標を探知する一般のパルスレーダを適用してもよい。ここで、降雨Cを探知する気象用パルスレーダでは、より遠距離を探知する用途はあまり要求されない(地球が球形であるため)。一方で、物標を探知する一般のパルスレーダでは、より遠距離を探知する用途は幅広く要求されうる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示のパルスレーダのエコー除去装置及びパルスレーダのエコー除去プログラムは、降雨を探知する気象用パルスレーダのみならず、物標を探知する一般のパルスレーダにおいて、所望次数エコーを復調し非所望次数エコーを除去することができる。
【符号の説明】
【0062】
T1、T2:送信パルス波
R1-1、R1-2、R2-1:受信信号波
R:パルスレーダ装置
C1、C2、C2’、C:降雨
1:発振部
2:位相変調部
3:送信部
4:サーキュレータ
5:アンテナ
6:受信部
7:二次エコー除去装置
71:二次エコー復調部
72:二次エコー除去部
73:一次エコー復調部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10