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特開2023-47635飛しょう体誘導装置及び飛しょう体誘導方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047635
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】飛しょう体誘導装置及び飛しょう体誘導方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/28 20060101AFI20230330BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20230330BHJP
   G01S 13/24 20060101ALI20230330BHJP
   F41G 7/22 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G01S13/28
G01S7/02 218
G01S13/24
F41G7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156658
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蜂須 裕之
【テーマコード(参考)】
2C014
5J070
【Fターム(参考)】
2C014DA02
2C014DB01
2C014DC00
5J070AB08
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD07
5J070AE02
5J070AF07
5J070AH02
5J070AH40
5J070AK17
5J070AK28
(57)【要約】
【課題】目標に対してハイダイブで接近し、目標の電力検出と測角信号検出を実施する際に、電力検出におけるシークラッタの抑圧と測角信号検出におけるグリントノイズ低減の両立を可能とする。
【解決手段】実施形態によれば、目標に照射電波を放射する照射電波の送受信周期間で送信パルス波形を生成しパルス圧縮変調を実施して前記照射電波として放射し、送受信周期間の反射電波の受信時に目標から反射して戻ってきた信号を復調し、送受信周期間で観測されパルス圧縮復調を実施された全受信信号の観測毎データを保存しておき、保存された複数回の全受信信号の観測毎データをレンジ化し平均化し、平均化された信号から目標の範囲の信号を抽出し、目標の範囲の信号を使用してモノパルス測角方式により測角信号を取得する。測角信号は、広帯域系の処理による目標検出範囲と広帯域系の処理結果から狭帯域系の目標範囲を抽出して生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛しょう体に搭載され、目標を検出して前記飛しょう体を前記目標に誘導する飛しょう体誘導装置において、
前記目標に照射電波を放射し、その反射電波を受信するアンテナ部と、
前記照射電波の波形生成及び制御、前記反射電波の受信信号から前記目標の抽出及び測角検出の処理を実施し、前記目標に向けてホーミングするための誘導信号を算出する誘導処理部と
を具備し、
前記誘導処理部は、
前記照射電波の送受信周期間で送信パルス波形を生成しパルス圧縮変調を実施して前記照射電波として放射するパルス圧縮変調処理部と、
前記送受信周期間の前記反射電波の受信時に前記目標から反射して戻ってきた信号を復調するパルス圧縮復調処理部と、
前記送受信周期間で観測されパルス圧縮復調を実施された全受信信号の観測毎データを保存しておく観測毎データ保存処理部と、
前記観測毎データ保存処理部に保存された複数回の全受信信号の観測毎データをレンジ化し平均化するレンジ毎平均処理部と、
前記平均化された信号から前記目標の範囲の信号を抽出する目標抽出処理部と、
前記目標の範囲の信号を使用してモノパルス測角方式により測角信号を得る目標測角処理部と
を備え、
前記誘導処理部は、広帯域系と狭帯域系の処理系統を備え、前記広帯域系の処理による目標検出範囲と前記広帯域系の処理結果から前記狭帯域系の目標範囲を抽出して前記測角信号を生成する飛しょう体誘導装置。
【請求項2】
前記誘導処理部は、
送信期間に、前記照射電波を所定のパルス幅を有するパルス波形として空間に放射し、受信期間に、前記パルス幅よりも広がって戻ってくる前記反射電波から和信号と差信号を生成して前記目標の抽出及び測角検出の処理を行う
請求項1記載の飛しょう体誘導装置。
【請求項3】
前記誘導処理部は、
前記受信期間の観測毎に受信される和信号を2系統に分岐し、
前記分岐を受けた一方の系統の和信号を、広帯域フィルタと狭帯域フィルタの2系統に分岐し、
前記広帯域フィルタで得られた信号を広帯域の復調波形と畳み込み積分してパルス圧縮復調後の広帯域の観測毎の和成分データを取得し、
前記狭帯域フィルタで得られた信号を前記広帯域の復調波形と畳み込み積分してパルス圧縮復調後の狭帯域の和成分データを取得し、
前記受信期間の観測毎の差信号を狭帯域フィルタに入力し、狭帯域フィルタで得られた信号を前記広帯域の復調波形と畳み込み積分してパルス圧縮復調後の狭帯域の差成分データを取得する
請求項2記載の飛しょう体誘導装置。
【請求項4】
前記誘導処理部は、前記送受信周期間ごとに前記照射電波の送信周波数を周波数アジリティー帯域の範囲でランダムに切り換える
請求項1記載の飛しょう体誘導装置。
【請求項5】
目標に照射電波を放射し、その反射電波を受信し、前記照射電波の波形生成及び制御、前記反射電波の受信信号から前記目標の抽出及び測角検出の処理を実施し、前記目標に向けてホーミングするための誘導信号を算出する方法であって、
前記照射電波の送受信周期間で送信パルス波形を生成しパルス圧縮変調を実施して前記照射電波として放射し、
前記送受信周期間の前記反射電波の受信時に前記目標から反射して戻ってきた信号を復調し、
前記送受信周期間で観測されパルス圧縮復調を実施された全受信信号の観測毎データを保存しておき、
前記保存された複数回の全受信信号の観測毎データをレンジ化し平均化し、
前記平均化された信号から前記目標の範囲の信号を抽出し、
前記目標の範囲の信号を使用してモノパルス測角方式により測角信号を取得するものとし、
広帯域系の処理による目標検出範囲と前記広帯域系の処理結果から狭帯域系の目標範囲を抽出して前記測角信号を生成する
飛しょう体誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、飛しょう体誘導装置及び飛しょう体誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛しょう体に搭載され、電波を利用して当該飛しょう体を船舶等の大型目標に誘導する飛しょう体誘導装置においては、目標からの反射電波の電力検出と目標方向に相当する測角信号の検出を実施している。
【0003】
ここで、目標からの反射電波の電力検出については、目標周囲の海面からの反射電波(シークラッタ)を抑圧して、目標からの反射電波との電力差を得ることで実現している。特に、シークラッタの抑圧は、具体的には、パルス圧縮(非特許文献1)等によりレンジ観測の高分解能化を実施して、シークラッタの素となる海面反射範囲を小さくすることによって実現している。
【0004】
また、測角信号の検出は、通常、モノパルス測角(非特許文献2)により、目標方向の測角信号を得ている。特に、目標が大型の船舶等の場合には、目標からの反射電波の変動(グリントノイズ)が測角信号に影響するため、複数回の電波照射と各反射電波の観測結果を平均する際に、電波照射毎の周波数を切換える周波数アジリティー方式(非特許文献3)を併用することで、グリントノイズの低減を実現している。
【0005】
ただし、上記飛しょう体誘導装置では、目標とする大型船舶に対して高空からのハイダイブで接近する場合に、シークラッタの強度が増加するため(非特許文献4)、シークラッタを抑圧するために、パルス圧縮の変調帯域を広帯域にして高分解能化を図る必要が生じる。
【0006】
一方、周波数アジリティー方式によりグリントノイズの低減効果を得るためには、レンジ方向に一定の観測長を取る必要がある(非特許文献3)。これは、目標の電力検出におけるパルス圧縮の変調帯域を狭帯域のままとして高分解能化を抑えることに相当し、変調帯域を広げる必要のあるシークラッタの抑圧と相反する状況に陥る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】RADAR HANDBOOK Third Edition McGraw Hill Merrill Skolnik Chapter 8 Pulse Compression Radar
【非特許文献2】RADAR HANDBOOK Third Edition McGraw Hill Merrill Skolnik Chapter 9 9.2 MONOPULSE
【非特許文献3】GORAN LIND "Reduction of Radar Tracking Errors with Frequency Agility" IEEE Trans. Vol.AES-4 No3 May 1968
【非特許文献4】RADAR HANDBOOK Third Edition McGraw Hill Merrill Skolnik Chapter 15 Sea Clutter
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来の飛しょう体誘導装置では、船舶等の目標に対してハイダイブで接近し、目標の電力検出と測角信号検出を実施する際に、電力検出におけるシークラッタの抑圧と測角信号検出におけるグリントノイズ低減の両立が困難であった。
【0009】
本発明の課題は、目標に対してハイダイブで接近し、目標の電力検出と測角信号検出を実施する際に、電力検出におけるシークラッタの抑圧と測角信号検出におけるグリントノイズ低減の両立を可能とする飛しょう体誘導装置及び飛しょう体誘導方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、実施形態に係る飛しょう体誘導装置は、飛しょう体に搭載され、目標を検出して前記飛しょう体を前記目標に誘導する誘導装置で、アンテナ部と、誘導処理部とを具備する。前記アンテナ部は、前記目標に照射電波を放射し、その反射電波を受信する。前記誘導処理部は、前記照射電波の波形生成及び制御、前記反射電波の受信信号から前記目標の抽出及び測角検出の処理を実施し、前記目標に向けてホーミングするための誘導信号を算出する。前記誘導処理部は、パルス圧縮変調処理部と、パルス圧縮復調処理部と、観測毎データ保存処理部と、レンジ毎平均処理部と、目標抽出処理部と、目標測角処理部とを備える。前記パルス圧縮変調処理部は、前記照射電波の送受信周期間で送信パルス波形を生成しパルス圧縮変調を実施して前記照射電波として放射する。前記パルス圧縮復調処理部は、前記送受信周期間の前記反射電波の受信時に前記目標から反射して戻ってきた信号を復調する。前記観測毎データ保存処理部は、前記送受信周期間で観測されパルス圧縮復調を実施された全受信信号の観測毎データを保存しておく。前記レンジ毎平均処理部は、前記観測毎データ保存処理部に保存された複数回の全受信信号の観測毎データをレンジ化し平均化する。前記目標抽出処理部は、前記平均化された信号から前記目標の範囲の信号を抽出する。前記目標測角処理部は、前記目標の範囲の信号を使用してモノパルス測角方式により測角信号を得る。前記誘導処理部は、広帯域系と狭帯域系の処理系統を備え、前記広帯域系の処理による目標検出範囲と前記広帯域系の処理結果から前記狭帯域系の目標範囲を抽出して前記測角信号を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る飛しょう体誘導装置の目標への飛しょう状況を示す概念図である。
図2図2は、図1に示す飛しょう体誘導装置の飛しょう体の概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、図1に示す飛しょう体誘導装置のアンテナ部の構成を示すブロック図である。
図4図4は、図1に示す飛しょう体誘導装置の送受信期間の処理を説明するための図である。
図5図5は、図1に示す飛しょう体誘導装置の周波数設定パターンを説明するための図である。
図6図6は、図1に示す飛しょう体誘導装置の誘導処理部における送信時及び受信時の処理内容を説明するための図である。
図7図7は、図6に示す誘導処理部における送信時のパルス圧縮変調(広帯域)の処理内容を説明するための図である。
図8図8は、図6に示す誘導処理部における受信時のパルス圧縮復調(広帯域)の処理内容を説明するための図である。
図9図9は、図8に示すパルス圧縮復調(広帯域)で得られる観測毎のデータ(広帯域)を説明するための図である。
図10図10は、図6に示す誘導処理部における受信時のパルス圧縮復調(狭帯域)の処理内容を説明するための図である。
図11図11は、図10に示すパルス圧縮復調(狭帯域)で得られる観測毎のデータ(狭帯域)を説明するための図である。
図12図12は、図6に示す誘導処理部におけるパルス圧縮復調の全体的な処理内容を説明するための図である。
図13図13は、図6に示す誘導処理部におけるレンジごとの平均処理を説明するための図である。
図14図14は、図6に示す誘導処理部における目標抽出処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。なお、本実施形態における飛しょう体は、目標に対して高高度から誘導開始点に進入し、目標を検出した以降は目標に向けての誘導を持続するものとする。
【0013】
[電波照射状況と飛しょう状況]
図1は、本実施形態における、飛しょう体の目標に対する電波照射状況と飛しょう状況を示しており、(a)は側面図、(b)は上面図である。図1に示すように、飛しょう体1は、目標Tに対して、高空からのハイダイブで側方から誘導飛しょう(ホーミング:homing)している。飛しょう体1は、ホーミング期間中、電波照射を継続して、目標からの反射電波の電力検出と測角信号の検出により、ホーミングを実現する。
【0014】
[飛しょう体の構成]
図2は、図1に示した飛しょう体1の概略構成を示すプロック図である。図2に示すように、飛しょう体1は、誘導制御装置11、推進装置12、および操舵装置13を搭載している。誘導制御装置11は、後述するように、目標Tを検出して飛しょう体1を目標Tに誘導するための操舵信号を操舵装置13に出力する。推進装置12は、飛しょう体1を飛しょうさせるための推進機構である。操舵装置13は、誘導制御装置11により算出される操舵信号に基づいて、目標Tに誘導するために飛しょう体1の飛しょうを制御する。
【0015】
誘導制御装置11は、アンテナ部111、誘導処理部112、制御処理部113、慣性計測部114からなる。アンテナ部111は、目標Tに対する照射電波R1の空間への放射と放射方向の制御(送信ビームの走査)とを実施する。また、アンテナ部111は、目標Tからの反射電波R2を受信するための受信方向の制御(受信ビームの走査)と電波の受信を実施する。さらに、アンテナ部111は、受信した電波を信号処理等が可能となる低い周波数に変換して誘導処理部112へ出力する。
【0016】
誘導処理部112は、照射電波R1の波形生成や制御、また反射電波R2に含まれる目標Tの電力検出や測角信号の検出のための処理を実施し、目標Tに向けてホーミングするための誘導信号を算出して、制御処理部113へ出力する。制御処理部113は、誘導信号に基づいて飛しょう体1の機体を安定に飛しょうさせるための操舵信号を算出して操舵装置13へ出力する。慣性計測部114は、飛しょう体1の角速度、加速度を観測して所定の座標系における飛しょう体1の位置、速度、姿勢角を算出する。
【0017】
[アンテナ部の構成]
図3は、図1に示した飛しょう体1の誘導制御装置11におけるアンテナ部111の具体的な構成を示すプロック図である。図3に示すように、アンテナ部111は、n個のアンテナ素子A11~A1nを備え、それぞれに送受信モジュールA21~A2nが接続されている。さらに、n個の送受信モジュールA21~A2nは、分配合成比較器A3に接続されている。
【0018】
分配合成比較器A3は、方向性結合器A4を介して、送信周波数変換器(Σ)A5と受信周波数変換器(Σ)A6に接続される。また、分配合成比較器A3は、受信周波数変換器(ΔAz)A7と受信周波数変換器(ΔEl)A8に接続される。
【0019】
上記の送信周波数変換器(Σ)A5、受信周波数変換器(Σ)A6、受信周波数変換器(ΔAz)A7、および受信周波数変換器(ΔEl)A8は、それぞれ、誘導処理部112に接続される。
【0020】
[照射電波R1の送信]
照射電波R1を空間に向けて放射するときは、誘導処理部112からn個の送受信モジュールA21~A2nに対して、送受信切換制御信号S11~S1nを“送信”に設定し、さらに、アンテナ部111の電波照射方向が目標Tの方向となるように、移相量データD11~D1nを設定する。次に、誘導処理部112は、照射毎送信信号Σを送信周波数変換器(Σ)A5に出力する。送信周波数変換器(Σ)A5は照射毎送信信号Σの周波数変換を実施して、方向性結合器A4を介して、分配合成比較器A3へ出力する。さらに、分配合成比較器A3は、n個の送受信モジュールA21~A2nに対して分配出力する。
【0021】
こうして、n個の送受信モジュールA21~A2nに接続されたn個のアンテナ素子A11~A1nから、目標Tの方向に向けて照射電波R1が空間内に放射される。
【0022】
[反射電波R2の受信]
目標Tから反射して戻ってくる反射電波R2を受信するときは、誘導処理部112からn個の送受信モジュールA21~A2nに対して、送受信切換制御信号S11~S1nを“受信”に設定し、また、送信時と同様に、目標Tの方向からの反射電波R2を受信するための移相量データD11~D1nも設定する。n個のアンテナ素子A11~A1nで受信された反射電波R2は、それぞれ、n個の送受信モジュールA21~A2nを経て、分配合成比較器A3に入力される。
【0023】
分配合成比較器A3は、n個の送受信モジュールA21~A2nの信号を全て合成した出力を、方向性結合器A4を介して、受信周波数変換器(Σ)A6へ出力して周波数変換されて、誘導処理部112に向けて、観測毎受信信号Σとして出力する。
【0024】
また、分配合成比較器A3は、n個の送受信モジュールA21~A2nのうち、方位方向で差を取った信号と高低方向で差を取った信号を、それぞれ、受信周波数変換器(ΔAz)A7と受信周波数変換器(ΔEl)A8へ出力してそれぞれ周波数変換されて、誘導処理部112に向けて、観測毎受信信号ΔAz観測毎受信信号ΔElとして出力する。
【0025】
[送受信期間の構成]
図4は、図1に示す飛しょう体誘導装置の送受信期間の処理を説明するための図で、送受信周期(TPRI)に対して、(a)は照射電波R1のパルス出力、(b)は反射電波R2の受信波形、(c)は観測毎受信信号Σの受信波形、(d)は観測毎受信信号ΔAzの受信波形、(e)は観測毎受信信号ΔElの受信波形、(f)は送信周波数の切り替えを示している。
【0026】
図4において、送信期間に、照射電波R1は所定のパルス幅tを有するパルス波形として空間に放射される。一方、反射電波R2は、受信期間に、目標Tを含む周辺の海面からの反射(シークラッタ)を含むため、パルス幅tよりも広がって戻ってくる。反射電波R2は、前記に示した観測毎受信信号Σ、観測毎受信信号ΔAz、及び観測毎受信信号ΔElに変換される。
【0027】
このような、一組の送信と受信の組み合わせを送受信周期TPRIとして、電力検出や測角信号の検出に向けては、複数回の送受信周期TPRIが繰り返される。また、各送受信期間TPRIでの送信周波数Fは、送受信期間TPRI毎に切り換えられる。一般に、送受信期間TPRI毎に送信周波数Fを切り換えて観測する方式は、周波数アジリティー(非特許文献3)と呼ばれる。
【0028】
図5は、図1に示す飛しょう体誘導装置の周波数設定パターンを説明するための図であり、周波数アジリティー方式での周波数発生パターンの一例を示している。この例では、図5(a)に示すN個の送受信期間PRI#1~PRI#Nについて、図5(b)に示すように、K個の送信周波数F1~FKをランダムとなるような順番で設定している。ここで、K個の送信周波数F1~FKの全範囲を周波数アジリティー帯域(ΔFg)と呼び、後述のように、グリントノイズの軽減に向けて必要な諸元とする。
【0029】
[誘導処理部の処理]
図6は、図1に示す飛しょう体誘導装置の誘導処理部112の処理内容を説明するための図であり、図6(a)は送信時、図6(b)は受信時の処理をそれぞれ示している。
【0030】
図6(a)に示す送信時のパルス圧縮変調処理部S0は、パルス圧縮変調を実施して照射電波R1のパルス波形を生成する。
【0031】
受信時の誘導処理部112の処理は、図6(b)に示すパルス圧縮復調処理部S1、観測毎データ保存処理部S2、レンジ毎平均処理部S3、目標抽出処理部S4、目標測角処理部S5からなる一連の処理から成っている。パルス圧縮復調処理部S1は、目標Tから反射して戻ってきた信号を復調する。観測毎データ保存処理部S2は、複数回の送受信周期間で観測されパルス圧縮の復調を実施された全受信信号を保存しておく。レンジ毎平均処理部S3は、保存された複数回の全受信信号を平均化する。目標抽出処理部S4は、平均された信号から目標の範囲を抽出する。最後に、目標測角処理部S5は、目標範囲の信号を使用してモノパルス測角方式により測角信号を得る。以下、順次、各処理部の内容を説明する。
【0032】
[パルス圧縮の変調]
図7は、図6(a)に示す誘導処理部112における送信時のパルス圧縮変調処理部S0の処理内容を説明するための図である。ここでは、図7(a)に示す変調波形生成部(広帯域)S01により、図7(b)に示す照射電波R1のパルス幅tの期間中の送信周波数Fが、図7(c)に示すように、変調帯域(広帯域)ΔFwの範囲で直線的に変化する変調(チャープ方式)を加えた波形を生成する。この例では、周波数を高い方へ変化させている(アップチャープ)が、逆に、低い方向に変化(ダウンチャープ)させてもよい。この波形を照射毎送信信号Σとしてアンテナ部111へ出力する。
【0033】
[パルス圧縮復調(広帯域)]
図8は、図6(b)に示す誘導処理部112における受信時のパルス圧縮復調処理部(広帯域)S1の処理内容を説明するための図である。パルス圧縮の復調は、一般に非特許文献1に示される方法で実施される。具体的には、図8(a)に示すように、観測毎受信信号Σを入力し、変調帯域(広帯域)に相当する通過帯域を有する広帯域フィルタ(バンドパスフィルタ)S11を通過させ、コンボリューション処理部S12に送る。一方、復調波形生成部(広帯域)S13において、パルス圧縮の復調を実施するための復調波形を生成する。復調波形は、図8(b)に示すように、パルス幅t相当の期間で、図8(c)に示すように、変調帯域(広帯域)に相当する範囲で直線的に変化する信号とする。ここで、周波数の変化方向は、パルス圧縮変調時とは逆方向の変化とする。続いて、コンボリューション処理部S12で、復調波形と入力信号との畳み込み積分を実施する。これにより、パルス圧縮の復調後の観測毎Σデータ(広帯域)を得る。
【0034】
図9は、図8に示すパルス圧縮復調(広帯域)で得られる観測毎Σデータ(広帯域)を説明するための図で、図9(a)に観測毎の受信信号Σの波形を示し、図9(b)に受信信号Σの復調処理(広帯域)を行った場合に得られる観測毎Σデータ(広帯域)の波形の概要を示す。パルス圧縮の復調処理後は、(1)式に示される分解能でレンジ方向に分解された受信波形が得られる(非特許文献1)。
ΔRw=C/(2・ΔFw) (1)
ここで、ΔRwはレンジ分解能に相当する。
【0035】
[シークラッタの抑圧]
一般に、海面からの反射電波(シークラッタ)はΔRwに比例する(非特許文献4)ことから、パルス圧縮復調後の信号波形において、船舶等の目標Tからの反射電波R2よりもシークラッタが小さくなるように、変調帯域(広帯域)を選定する。特に、図1に示すようなハイダイブで目標Tの電力検出をする場合にはシークラッタが大きくなることから、変調帯域をシークラッタの軽減が有効となる程度の変調帯域(広帯域)にする必要がある。
【0036】
そこで、図9(a)に示す観測毎受信信号Σから、パルス圧縮復調により、変調帯域(広帯域)として図9(b)に示す観測毎Σデータ(広帯域)の波形が得られる。このように、観測毎受信信号Σにおいて広がっていた波形は、(1)式に相当するレンジ分解能の単位で高分解能化され、シークラッタのレベルが低減された観測毎Σデータ(広帯域)となる。
【0037】
[グリントノイズの低減]
一方、グリントノイズの軽減効果の指標として、以下に示されるグリントノイズ改善度Iが知られている(非特許文献3)。
I=ΔFg/ΔFc (2)
式中、ΔFgは図5に示す周波数アジリティー帯域に相当する。さらに、ΔFcは、Critical-frequency-differenceと定義される量であり、次式で与えられる。
ΔFc=C/(2D) (3)
(3)式中のDは、観測の奥行方向の長さであり、パルス圧縮等を実施している場合には、レンジ分解能に対応する。したがって、(3)式を変形すると以下となる。
I=ΔFg/ΔFw (4)
このように、パルス圧縮等により目標Tを高分解能で観測している場合、グリントノイズの軽減にあたっては、周波数アジリティー帯域(ΔFg)の増加、または、パルス圧縮の変調帯域(ΔFw)の減少が効果的である。ただ、周波数アジリティー帯域(ΔFg)の増大は高周波系のハードウェア制約を受けるため、パルス圧縮による変調帯域ΔFwを抑える方法が取りやすい。
【0038】
以上ように、図1のようなハイダイブで側方から目標Tへ接近する場合には、前述のようにクラッタ軽減を目的にパルス圧縮帯域を変調帯域(広帯域)とする必要があるのに対して、周波数アジリティー帯域に限界がある場合にはグリントノイズ軽減を目的として、パルス圧縮帯域を狭帯域とするという、相反した状況となる。
【0039】
[パルス圧縮復調(狭帯域)]
図10は、図6(b)に示す誘導処理部における受信時のパルス圧縮復調(狭帯域)を説明するための図で、前述の広帯域のパルス圧縮方式を採用する装置の仕組みを活かして、グリントノイズ軽減に向けた狭帯域化の方法を示している。パルス圧縮変調が広帯域の変調幅ΔFwであるため、パルス圧縮復調にあたっては、図10(a)に示すように、広帯域の場合と同様に、復調波形生成部(広帯域)S13の復調波形を共通に使用してコンボリューション処理部S15でコンボリューション処理を実施する。このとき、その前段のバンドパスフィルタには、グリントノイズ低減に効果が得られる程度の帯域、すなわち、狭帯域ΔFlとした狭帯域フィルタS14を用いる。これにより、パルス圧縮復調時の狭帯域化を実現することができる。
【0040】
復調波形は、図10(b)に示すように、パルス幅t相当の期間で、図10(c)に示すように、変調帯域(広帯域)に相当する範囲で直線的に変化する信号とする。ここでも、周波数の変化方向は、パルス圧縮変調時とは逆方向の変化とする。
【0041】
図11は、図10に示すパルス圧縮復調(狭帯域)で得られる観測毎Σデータ(狭帯域)を説明するための図で、図11(a)に観測毎受信信号Σの波形を示し、図11(b)に受信信号Σの復調処理(広帯域)を行った場合に得られる観測毎Σデータ(狭帯域)の波形の概要を示す。パルス圧縮の復調処理後は、広帯域時と同様に、広帯域時のレンジ分解能に相当ΔRwのレンジ間隔でのデータを得るが、信号の質としては(5)式に示されるようなレンジ分解能が低減された受信波形が得られる。
ΔRl=C/(2・ΔFl) (5)
この波形を使用することで、グリントノイズの軽減を図ることができる。このとき、グリントノイズの改善度は次式となる。
I=ΔFg/ΔFl (6)
以上のような、広帯域ΔFwと狭帯域ΔFlの選定例としては、シークラッタの低減に必要な帯域として広帯域ΔFwを選定し、同時に、(6)式におけるグリントノイズ改善度をIoと選定する。両者の選定値から狭帯域ΔFlを算出する。
ΔFl=ΔFg/Io (7)
なお、このときに、ΔFl>ΔFwである場合には、変調帯域(広帯域)のままでもグリントノイズ低減効果も得られることから、
ΔFl=ΔFw (8)
とする。
【0042】
[パルス圧縮復調処理の総括]
図12は、図6に示す誘導処理部112において、広帯域と狭帯域の選定を受けて実施するパルス圧縮復調処理部S1の処理内容を示すものである。観測毎受信信号Σは、入力後に、広帯域フィルタS11と狭帯域フィルタS141の2系統に分岐される。
【0043】
広帯域フィルタS11で得られた信号は、コンボリューション処理部S12に送られ、復調波形生成部S13で生成される広帯域の復調波形を使用してコンボリューション処理され、これによって広帯域の観測毎Σデータが得られる。
【0044】
また、狭帯域フィルタS141で得られた信号は、コンボリューション処理部S151に送られ、広帯域の系統で用いられた復調波形を使用してコンボリューション処理され、これによって狭帯域の観測毎Σデータが得られる。
【0045】
一方、観測毎受信信号ΔAz、ΔElは、それぞれ狭帯域フィルタS142,S143で狭帯域の信号が取り出された後、コンボリューション処理部S152,S153に送られ、広帯域の系統で用いられた復調波形を使用してコンボリューション処理され、これによって狭帯域の観測毎ΔAzデータ、観測毎ΔElデータが得られる。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、図8にて示した広帯域でのパルス圧縮の復調系統に対応する。これにより、高分解能化された観測毎Σ信号(広帯域)を得る。これは、シークラッタを低下させることで、後述のように、目標範囲の検出に使用される。もう一方の系統は、図10にて示した狭帯域でのパルス圧縮の復調系統に対応する。ここで、送信時のパルス圧縮変調帯域が広帯域ΔFwであることから、コンボリューション処理部S151~S153での復調波形は広帯域のままとし、前段のバンドパルスフィルタの帯域を狭帯域とした狭帯域フィルタS141を通過させることで狭帯域化を実現する。また、グリントノイズの低減は測角信号の検出に適用されることから、観測毎受信信号ΔAzと観測毎受信信号ΔElについても同様の狭帯域フィルタS142、S143を通過させた狭帯域の復調処理を適用する。このようにして得られた復調処理結果は、図6(b)に示す観測毎データ保存処理部S2の処理によって順次保存され、次段のレンジ毎平均処理部S3の平均処理に用いられる。
【0047】
図13は、図6に示す誘導処理部112におけるレンジ毎平均処理部S3の処理内容を示す図である。ここでは、図13(a)は、複数回の観測で得られた観測毎Σデータについて、レンジ分解能の単位毎に平均を実施する様子を示し、図13(b)はレンジ毎に平均処理した場合のレンジ毎平均Σデータを示している。なお、図13では、広帯域の復調に対応する観測毎Σデータについて説明しているが、狭帯域の復調に対する観測毎Σデータ、観測毎ΔAzデータ、観測毎ΔElデータのそれぞれについても、同様の平均処理を実施することで、レンジ毎平均Σデータ、レンジ毎平均ΔAzデータ、レンジ毎平均ΔElデータが得られる。
【0048】
図14は、図6に示す誘導処理部112における目標抽出処理部S4の処理内容を説明するための図で、図14(a)は目標抽出処理の流れを示し、図14(b)は目標抽出結果を示している。レンジ毎平均Σデータは広帯域のパルス圧縮復調により高分解能化されてシークラッタが軽減されていることから、これを使用して目標範囲判定部S41において目標範囲を検出する。目標範囲の検出にあたっては、一般に使用されるような閾値の設定、あるいはCFAR等による。次に、狭帯域化された信号の目標範囲については、目標範囲判定部S41により得られた範囲に対応する範囲を、目標範囲選択部S42、S43及びS44により、レンジ毎平均Σデータ、レンジ毎平均ΔAzデータ、レンジ毎平均ΔElデータにおける該当する範囲を抽出することで、目標Σデータ、目標ΔAzデータ、目標ΔElデータを得る。
【0049】
[測角信号の生成]
以上で、得られた目標Σデータ(VΣ)、目標ΔAzデータ(VAz)、目標ΔElデータ(VEl)に、一般に使用されるモノパルス測角方式(非特許文献2)を適用することで、次式に示されるようなホーミングに必要となる測角信号を検出することができる。
測角信号Az=Re[(VΣ ×VAz)/(VΣ ×VΣ)]
測角信号El=Re[(VΣ ×VEl)/(VΣ ×VΣ)]
ここで、*は複素共役を示す。
【0050】
このように、シークラッタの抑圧とグリントノイズ低減に向けた処理を一度の観測で実現することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る飛しょう体誘導装置によれば、船舶等の目標に対してハイダイブで接近し、目標の電力検出と測角信号検出を実施する際に、電力検出におけるシークラッタの抑圧と測角信号検出におけるグリントノイズ低減の両立を実現することができる。説明では、目標への接近がハイダイブ、側方からとしているが、これはシークラッタとグリントノイズ双方が大きくなる条件で最も効果を期待できる条件として挙げたもので、この条件を満たさない一般的な接近条件においても本実施形態の効果は有効である。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…飛しょう体、11…誘導制御装置、111…アンテナ部、112…誘導処理部、113…制御処理部、114…慣性計測部、12…推進装置、13…操舵装置、
A11~A1n…アンテナ素子、A21~A2n…送受信モジュール、A3…分配合成比較器、A4…方向性結合器、A5…送信周波数変換器(Σ)、A6…受信周波数変換器(Σ)、A7…受信周波数変換器(ΔAz)、A8…受信周波数変換器(ΔEl)、
T…目標、R1…照射電波、R2…反射電波、TPRI…送受信周期、t…パルス幅、ΔFg…周波数アジリティー帯域、ΔFw…変調帯域(広帯域)、
S0…パルス圧縮変調処理部、S01…変調波形生成部(広帯域)、
S1…パルス圧縮復調処理部、S11…広帯域フィルタ、S12…コンボリューション処理部、S13…復調波形生成部(広帯域)、S14,S141,S142,S143…狭帯域フィルタ、S15,S151,S152,S153…コンボリューション処理部、
S2…観測毎データ保存処理部、
S3…レンジ毎平均処理部、
S4…目標抽出処理部、S41…目標範囲判定部、S42,S43,S44…目標範囲選択部、S5…目標測角処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14