(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047642
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】フォージャサイト型ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/24 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
C01B39/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156675
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA01
4G073BA04
4G073BA75
4G073BB48
4G073BD01
4G073CZ06
4G073FA13
4G073FA30
4G073FC13
4G073FD18
4G073FD20
4G073FD21
4G073FD24
4G073FE01
4G073FE02
4G073GA01
4G073GA05
4G073GA19
4G073UA04
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】疎水性でありながら、結晶性を高く保持したフォージャサイト型ゼオライトの製造方法を提供する。
【解決手段】フォージャサイト型ゼオライトを500~800℃の温度でスチーム処理し、ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜いた酸処理用ゼオライトを得る第一工程、得られた酸処理用ゼオライトを、1回以上酸処理して骨格外のアルミニウムを除去し酸処理済ゼオライトを得る第二工程、を含む。第二工程において、複数回の酸処理を行い、最初の酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数は、酸処理用ゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.05以上、0.10以下の範囲であることや、後続の酸処理の処理条件は温度が50~98℃の範囲、後続の酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数が、後続の酸処理前のゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.35以上の範囲であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォージャサイト型ゼオライトを500~800℃の温度でスチーム処理し、該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜いた酸処理用ゼオライトを得る第一工程、
前記工程で得られた酸処理用ゼオライトを、1回以上酸処理して骨格外のアルミニウムを除去し酸処理済ゼオライトを得る第二工程、を含むフォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記第二工程において、複数回の酸処理を行い、
最初の酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数は、前記酸処理用ゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.05以上、0.10以下の範囲である、請求項1に記載のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
前記第二工程において、複数回の酸処理を行い、
後続の酸処理の処理条件は温度が50~98℃の範囲、後続の酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数が、後続の酸処理前のゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.35以上の範囲である、請求項1または2に記載のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性でありながら、結晶崩壊を抑制することで、結晶性を高く保持したフォージャサイト型ゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトという物質名は、結晶性の多孔質アルミノシリケートの総称である。ゼオライトは、石油精製や石油化学をはじめとする多くの工業プロセスにおいて、触媒、吸着剤、および分離膜などとして幅広く使用されてきた。例えば、流動接触分解プロセスは、触媒を用いて石油中の重油分を分解し、付加価値の高いガソリンなどの留分を得る重要なプロセスである。このプロセスの触媒として、強い固体酸を有する多孔性材料であるフォージャサイト型ゼオライトが古くから使用されてきた。また、フォージャサイト型ゼオライトは、吸着剤としても、古くから使用されている。
【0003】
フォージャサイト型ゼオライトの特性は、SiとAlとの比率によって大きく影響を受けることが知られている。この比率は、一般的にケイバン比(SAR)とも呼ばれ、SiO2/Al2O3のモル比で表される。例えば、このケイバン比を高くすると、ゼオライトの骨格内のAlが減少するので、骨格内Alに由来する固体酸が減少し、疎水性(水との親和性が低い)を示すことが知られている。逆に、このケイバン比を低くすると、骨格内Alに由来する固体酸が増加し、親水性を示す。
【0004】
フォージャサイト型ゼオライトの骨格ケイバン比を高める方法が広く知られている。(非特許文献1)例えば、1)水蒸気による熱処理により脱アルミニウム処理する方法(特許文献1)、2)酸処理により脱アルミニウム処理する方法(特許文献2)、または3)フッ化物による処理などの脱アルミニウム処理する方法(特許文献3)が知られている。このような処理を2つ組み合わせることで非常に高いケイバン比を有するゼオライトが得られることも報告されている(特許文献2、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-173853号公報
【特許文献2】特開2021-080132号公報
【特許文献3】特開昭62-216913号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】河合孝恵、「熱測定」1992,19(2),70-75.
【非特許文献2】P.K.Maher et al. ,Adv. Chem. Ser.,1971, 101, 266.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような製造方法を用いて、疎水性のフォージャサイト型ゼオライトを合成すると、その骨格内からアルミニウムが除去されるので、疎水性でありながら、結晶崩壊することで、結晶性が低くなるという課題があった。
【0008】
このような状況を踏まえ、本発明は、疎水性でありながら、結晶崩壊を抑制することで、結晶性を高く保持したフォージャサイト型ゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、フォージャサイト型ゼオライトをスチーム処理して、当該ゼオライトの骨格から引き抜かれた(以下、単に「骨格外」ともいう。)アルミニウムを酸処理により除去することにより、疎水性と結晶性とを両立したフォージャサイト型ゼオライトが得られることを見出した。
【0010】
上記課題を有利に解決する本発明にかかるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法は、フォージャサイト型ゼオライトを500~800℃の温度でスチーム処理し、該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜いた酸処理用ゼオライトを得る第一工程、前記工程で得られた酸処理用ゼオライトを、1回以上酸処理して骨格外のアルミニウムを除去し酸処理済ゼオライトを得る第二工程、を含むものである。
【0011】
なお、本発明にかかるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法については、
(a)前記第二工程において、複数回の酸処理を行い、最初の酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数は、前記酸処理用ゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.05以上、0.10以下の範囲であること、
(b)前記第二工程において、複数回の酸処理を行い、後続の酸処理の処理条件は温度が50~98℃の範囲、後続の酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数が、後続の酸処理前のゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.35以上の範囲であること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、疎水性でありながら、結晶崩壊を抑制することで、結晶性を高く保持したフォージャサイト型ゼオライトの製造方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のフォージャサイト型ゼオライトについて、詳述する。
【0014】
本発明のフォージャサイト型ゼオライト(以下、単に「ゼオライト」ともいう。)はケイバン比を高めて、疎水性を確保する。ゼオライトのケイバン比は、80~300にあることが好ましい。このケイバン比は、ゼオライトの組成比から算出したものである。このケイバン比が高いほど、骨格のケイバン比も高くなりやすいので、ゼオライトの水との親和性がより低下し(より疎水性になる)やすくなる。ただし、このケイバン比が高すぎると、骨格内のアルミニウムが少なくなりやすいので、固体酸量も低下しやすくなってしまう。
【0015】
本発明のゼオライトの格子定数は、2.428nm以上であることが好ましい。この格子定数は、ゼオライトの骨格のケイバン比を示す指標である。骨格内のアルミニウムが増える(骨格のケイバン比が小さくなる)と格子定数は大きくなり、骨格内のアルミニウムが減る(骨格のケイバン比が大きくなる)と格子定数は小さくなる。ゼオライトの格子定数が低すぎると、骨格内のアルミニウムが少ないので、その固体酸量が低下しやすくなってしまう。また、その格子定数が大きすぎても、水との親和性が高くなりやすい。したがって、本発明のゼオライトは、2.428~2.433nmにあることがより好ましい。
【0016】
本発明のゼオライトの結晶性は、高いほうが好ましい。ゼオライトの結晶性は、ゼオライトの耐久性や固体酸性質に影響を与える。ゼオライトの結晶性を表す指標として、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来する回折ピークの強度を用いた(JIS K0131 X線回折分析通則)。具体的には、特定の方法で得られたフォージャサイト型ゼオライトを基準物質とし、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来するピークの強度比を、ゼオライトの結晶性の指標とした。ゼオライトの強度比が、0.95以上であることが好ましく、1.00以上であることがより好ましい。結晶性が高ければ高いほど好ましいことは当業者にとって自明である。ゼオライトでは、その上限が1.50以下であってもよい。
【0017】
本発明のゼオライトの比表面積は、650m2/g以上であることが好ましい。ゼオライトは、一般的に、その骨格に由来する細孔構造によって極めて広い比表面積を有する。ゼオライトの比表面積が650m2/gより低い場合、ゼオライトが有する骨格に由来する細孔構造が十分に発達していないおそれがあり、その固体酸量が低くなってしまうことがある。フォージャサイト型ゼオライトの比表面積は、高ければ高いほど好ましいが、その上限が、800m2/g以下であってもよい。より具体的には、その比表面積が、700m2/g以上、770m2/g以下の範囲にあってもよい。
【0018】
本発明のゼオライトのアルカリ金属含有量が低いことが好ましい。アルカリ金属は、ゼオライトに含まれる固体酸を被毒することがある。したがって、ゼオライトのアルカリ金属含有量は、アルカリ金属をMとしたとき、M2O換算で0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。本発明のゼオライトは、アルカリ金属の中でも特にNaによって被毒されやすいので、その含有量が少ないことが好ましい。
【0019】
本発明のゼオライトは、例えば、石油精製やペトロケミカル分野に用いる触媒の構成成分として、また吸着剤として用いることができる。
【0020】
以下、本発明のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法について、詳述する。
【0021】
本発明のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、
フォージャサイト型ゼオライトを500~800℃の温度でスチーム処理して当該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜いた酸処理用ゼオライトを得る第一工程、
前記工程で得られた酸処理用ゼオライトを1回以上酸処理して、骨格外アルミニウムを除去し酸処理済ゼオライトを得る第二工程、を含む。第二工程において、複数の酸処理を行ってもよい。
【0022】
(第一工程:スチーミング処理して酸処理用ゼオライトを得る)
本発明の製造方法は、フォージャサイト型ゼオライトを500~800℃の温度でスチーム処理して該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜く脱アルミニウム工程を備える。酸処理工程のみでもゼオライトの骨格中のアルミニウムを引き抜くことは可能であるが、この方法では該ゼオライトの骨格へのダメージが大きく、結晶性が低くなりやすい。したがって、後述の酸処理工程の前に、この工程を行っておくことが重要である。なお、このとき、引き抜かれたアルミニウムは、ゼオライトの表面にアルミニウム化合物として残留する。これは骨格外アルミニウムとも呼ばれる。
【0023】
この工程で用いるフォージャサイト型ゼオライトは、市販されているものを購入してもよく、また従来公知の方法で合成してもよい。例えば、Si原料、Al原料を加え、さらにNa原料および水を加えた後、80~120℃の温度で水熱処理することで、該ゼオライトが得られる。原料として用いる該ゼオライトのケイバン比は、2~10の範囲にあることが好ましい。ケイバン比がこの範囲にある該ゼオライトは、工業的に量産しやすい。この該ゼオライトは、アンモニウムイオンでイオン交換されたものであることがより好ましい。
【0024】
この工程では、フォージャサイト型ゼオライトを500~800℃の温度でスチーム処理することが好ましい。この温度域でスチーム処理を行うと、効率よくゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜くことができる。
【0025】
この工程では、スチーム処理時間が、概ね1~24時間にあることが好ましい。前述のスチーム処理温度にもよるが、処理時間が短すぎてもスチーム処理によって骨格からアルミニウムを充分に引き抜けないおそれがある。また、スチーム処理時間が長すぎると、生産性を阻害するおそれがある。
【0026】
この工程におけるスチーム濃度は、飽和水蒸気量の50%以上であり、90%以上であることが好ましい。飽和水蒸気量が低い状態でスチーム処理をすると、ゼオライトの骨格が壊れやすくなる傾向にある。この理由は、骨格外アルミニウムが生成する際にできる欠陥によって骨格が不安定になるためと考えられる。このような状態では、熱によってゼオライトの骨格が壊れやすくなる。一方、前述の飽和水蒸気量の範囲であれば、ゼオライトの骨格は壊れにくくなる傾向にある。
【0027】
この工程で得られる酸処理用ゼオライトは、その格子定数が2.430~2.440nmにあることが好ましい。
【0028】
(第二工程:最初の酸処理工程)
前記酸処理用ゼオライトを酸処理して、骨格外アルミニウムを除去する酸処理工程を備える。この工程では、酸を用いてスチーム処理後のゼオライトの表面に残留した骨格外アルミニウムを除去する。
【0029】
この工程では、酸として、従来公知の酸を用いることができる。例えば酸としては、硫酸、硝酸、塩酸などを用いることができる。
【0030】
この工程における酸処理の温度は、50~98℃の範囲にあることが好ましく、65~95℃にあることがより好ましい。この工程では、高めの温度で酸処理して、ゼオライトの表面に残留した骨格外アルミニウムを可能な限り除去することが好ましい。
【0031】
この工程における酸は、前記酸処理用ゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、酸に由来するプロトンのモル数が、2.6~5.0となるような量で溶液中に含まれていることが好ましい。例えば、1molのアルミニウム(Al)を含むゼオライトを硫酸(H2SO4)で酸処理する場合、酸溶液に含まれる硫酸を1.3~2.5モルに調整することが好ましい。
【0032】
この工程における酸処理の時間は、酸処理の温度、または酸の量にもよるが、概ね0.5~24時間であることが好ましい。酸処理の時間が概ねこの範囲内であれば、酸処理工程の目的を十分に達成することができる。酸処理の時間は長くても問題ないが、生産性の観点から上限を定めてもよい。
【0033】
酸処理後の酸溶液とゼオライトは、ろ過などの方法で固液分離することができる。また、この時に分離したゼオライトには酸溶液に由来する成分が残留することがある。そのため、分離したゼオライトを再度イオン交換水に懸濁させ、濾布上で75℃未満の温水を掛けるなどの洗浄処理を行うことが好ましい。この洗浄処理は、濾液の電導度が0.2mS/cm以下となるまで繰り返すとよい。分離したゼオライト即ち酸処理済ゼオライトは、加熱処理してもよい。ここでいう加熱処理とは、乾燥、焼成(スチーミング処理を含む)を意味する。
【0034】
この工程で得られる酸処理済ゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数は、前記酸処理用ゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.05以上、0.10以下の範囲であることが好ましい。酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数が0.05より少ない場合は、酸処理工程で引き抜かれるアルミニウム原子が多いため、ゼオライトの結晶構造が壊れやすくなるおそれがある。酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数が0.10より多い場合は、後続の酸処理工程で除去するアルミニウムの量が増えて、後続の酸処理工程でゼオライトの結晶構造が壊れやすくなるおそれがある。
【0035】
この工程で得られる酸処理後のゼオライトは、その格子定数が2.428~2.433nmにあることが好ましい。
【0036】
(第二工程:後続の酸処理工程)
上記最初の酸処理工程で得られた酸処理後のゼオライトを、さらに、1回または数回の酸処理する工程を備えてもよい。これらの酸処理工程では、結晶構造の崩壊を抑制しつつ、さらに酸処理後のゼオライトに含まれるアルミニウムを除去する。
【0037】
これらの酸処理工程では、酸として、従来公知の酸を用いることができる。例えば酸としては、硫酸、硝酸、塩酸などを用いることができる。
【0038】
これらの酸処理工程における酸処理の温度は、50~98℃にあることが好ましく、65~95℃にあることがより好ましい。これらの工程では、高めの温度で酸処理して、ゼオライトの表面に残留した骨格外アルミニウムを可能な限り除去することが好ましい。
【0039】
これらの酸処理工程におけるpHは、0.50以上であることが好ましい。pHが0.50より低い場合、ゼオライトの結晶構造が壊れやすい。
【0040】
これらの酸処理工程における酸処理の時間は、酸処理の温度、または酸の量にもよるが、概ね0.5時間以上、24時間以下の範囲であることが好ましい。酸処理の時間が概ねこの範囲内であれば、酸処理工程の目的を十分に達成することができる。酸処理の時間は長くても問題ないが、生産性の観点からいえば、好ましくない。
【0041】
酸処理後の酸溶液とゼオライトは、ろ過などの方法で固液分離することができる。また、この時に分離したゼオライトには酸溶液に由来する成分が残留することがある。そのため、分離したゼオライトを再度イオン交換水に懸濁させ、濾布上で75℃未満の温水を掛けるなどの洗浄処理を行うことが好ましい。この洗浄処理は、濾液の電導度が0.2mS/cm以下となるまで繰り返すとよい。分離したゼオライトは、加熱処理し、フォージャサイト型ゼオライトを得ることができる。ここでいう加熱処理とは、乾燥、焼成(スチーミング処理を含む)を意味する。
【0042】
これらの工程で得られるフォージャサイト型ゼオライトは、その格子定数が2.428nm以上、2.433nm以下の範囲にあることが好ましい。
【0043】
後続の酸処理工程で得られるフォージャサイト型ゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数は、後続の酸処理前のゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、0.35以上の範囲であることが好ましい。フォージャサイト型ゼオライトに含まれるアルミニウムのモル数が0.35より少ない場合は、その酸処理工程で引き抜かれるアルミニウム原子が多いため、ゼオライトの結晶構造が壊れやすくなるおそれがある。なお、上限は1未満である。
【実施例0044】
以下、本発明のゼオライトおよびその製造方法について、実施例を用いて詳述するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0045】
本発明の実施例における測定および評価は、次の方法で行った。
【0046】
(組成分析)
蛍光X線測定装置(RIX-3000)を用いて、試料のSi、Al含有量を測定した。この測定結果から、SiおよびAl含有量を、それぞれSiO2、Al2O3に換算して、ケイバン比(SiO2/Al2O3モル比)を算出した。
【0047】
(結晶構造の確認)
乳鉢で粉砕した試料をX線回折装置(リガク社製「MiniFlex600」、線源:CuKα)にセットし、2θ=5~50°までスキャンしてX線回折測定した。得られた試料のX線回折パターンから、フォージャサイト構造(FAU)に帰属される回折面にピークが確認できたものは、フォージャサイト構造を有していると判断した。具体的には、(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、(660)および(555)面に帰属される回折ピークの有無を確認した。なお、これらの回折面に帰属されるピークの位置は、技術文献(M. M. J. Treacy, J. B. Higgins, COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDERPATTERNS FOR ZEOLITES, Fifth Revised Edition, Elsevier)から確認することができる。なお、ピークの位置は測定条件などによって多少変動することがあるので、上記文献に記載されたピーク位置から±0.5°の範囲にあれば、フォージャサイト構造に由来するピークを有しているものとみなせる。
【0048】
(水吸着量評価)
試料粉末1.0gに300℃で3時間の前処理を実施し、東京理化器社製恒温恒湿器「KCL-2000」を用いて40℃、湿度40%の雰囲気で5時間吸湿させた。吸湿前後の試料重量から次のように水吸着量を算出した。
水吸着量(%)=(吸湿後の試料重量-吸湿前の試料重量)/吸湿前の試料重量×100
【0049】
(格子定数測定)
試料粉末を約2/3重量部、内部標準としてTiO2アナターゼ型の粉末(関東化学製、酸化チタン(IV)(アナターゼ型))を約1/3重量部秤量し、乳鉢を用いて混合した。この粉末をX線回折装置(リガク社製「RINT-Ultima」、線源:CuKα)にセットし、2θ=23~33°までスキャンしてX線回折パターンを測定した。得られたパターンから、TiO2アナターゼ型、フォージャサイト型ゼオライトの(533)面、(642)面のそれぞれのピーク半価幅の中心を示す2θを用いて、以下の数式(1)~(3)から格子定数を算出した。
【0050】
【数1】
A:(533)面を示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
B:(642)面を示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
C:TiO
2アナターゼ型が示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
【0051】
(X線回折強度比・X線回折半価幅)
乳鉢で粉砕した粉末試料をX線回折装置(リガク社製「MiniFlex600」、線源:CuKα)にセットし、2θ=5~50°までスキャンしてX線回折パターンを測定した。得られたパターンから、フォージャサイト構造(FAU)の(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、(660)および(555)面に帰属される回折ピークの強度を合計し、同様にして測定した触媒学会参照触媒のフォージャサイト型ゼオライト(JRC-Z-Y5.3、表3に「USY-F」として参考値を記載した。)のピーク強度の合計に対する割合を算出してX線回折強度比を算出した。また、これらのピークの半価幅の平均値をX線回折半価幅とした。
【0052】
(比表面積測定)
不活性ガス雰囲気下で500℃1時間の前処理を実施した試料粉末を測定用試料セルに投入し、測定装置(日本ベル社製「MR-6」)内で-196℃雰囲気下にて窒素ガス濃度30vol%、ヘリウムガス濃度70vol%の混合ガスを充分流通させて、試料粉末に窒素を吸着させた。その後、雰囲気温度を25℃に上昇させることによって試料粉末に吸着した窒素を脱離させて、その脱離量をTCD(熱伝導度)検出器にて検出した。検出された窒素の脱離量を窒素分子の断面積を用いて比表面積に換算することによって、試料粉末1g当たりの比表面積を求めた。
【0053】
(固体酸量評価(NH3昇温脱離量))
500℃で1時間の前処理を実施した試料粉末を0.05g計量し、マイクロトラックベル社製「BELCAT II」装置を用いてNH3昇温脱離量を測定した。Heを流通させ500℃まで1時間かけて昇温し、500℃で1時間保持後、100℃に冷却し、5vol%NH3-Heを流通させて100℃で30分間保持した。その後、Heを流通させながら100℃で30分間保持した。Heを流通させながら100℃から700℃まで10℃/分の速度で昇温させながら、TCD検出器で脱離したNH3を検出した。
【0054】
[実施例1]
(脱アルミニウム工程)
ケイバン比が5.2、格子定数が2.466nm、比表面積が720m2/g、Na含有量がNa2O換算で13.0質量%であるフォージャサイト型ゼオライト(以下、「NaY」)を準備した。このNaY50.0kgを温度60℃の水500Lに加え、さらに硫酸アンモニウム14.0kgを加えて懸濁液を得た。この懸濁液を70℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を水で洗浄した。次いで、この固体を、温度60℃の水500Lに硫酸アンモニウム14.0kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、さらに、60℃の水500Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥して、NaYに含まれるNaの約65質量%がアンモニウムイオン(NH4
+)でイオン交換されたフォージャサイト型ゼオライト(以下、「65NH4Y」)を約45kg得た。この65NH4YのNa含有量はNa2O換算で4.5質量%であった。この65NH4Y40kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で1時間スチーム処理し、脱アルミニウムされたフォージャサイト型ゼオライトを得た。
【0055】
この脱アルミニウムされたフォージャサイト型ゼオライトを温度60℃の水400Lに全量加え、次いで硫酸アンモニウム49.0kgを加え、懸濁液を得た。この懸濁液を90℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を温度60℃の水2400Lで洗浄した。次いで、この固体を130℃で20時間乾燥して、当初のNaYに含まれるNaの約93質量%がNH4でイオン交換されたフォージャサイト型ゼオライト、(以下「93NH4USY」)を約37kg得た。この93NH4USYの組成分析を実施したところ、ケイバン比が5.2、Na含有量がNa2O換算で1.1質量%であった。この93NH4USY10.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で2時間スチーム処理し、酸処理用のゼオライト(以下、「USY(5)」)を約2.7kg得た。
【0056】
(最初の酸処理工程)
この酸処理用のゼオライト8.0kgを、室温の水62Lに懸濁し、90℃の昇温した後、25質量%の硫酸29.6kgを徐々に加えて酸溶液を調製した。この酸溶液を4時間撹拌し酸処理を行った。撹拌終了後の酸溶液をろ過して得られた固体を、60℃のイオン交換水160Lで洗浄し、さらに110℃で20時間乾燥し、酸処理済USYゼオライト(以下、「酸処理品-1」)を得た。得られた酸処理品-1について、上記の測定および評価を行った。その性状を表1に示す。
【0057】
(後続の酸処理工程)
酸処理品-1の1.0kgを、室温の水7.8Lに懸濁し、75℃の昇温した後、25質量%の硫酸0.4kgを徐々に加えて酸溶液を調製した。この酸溶液を、4時間撹拌し再酸処理を行った。撹拌終了後の酸溶液をろ過して得られた固体を、60℃のイオン交換水20Lで洗浄し、さらに110℃で20時間乾燥し、USYゼオライト(以下、「USY-1」)を得た。得られたUSY-1について、上記の測定および評価を行った。その性状を表2に示す。
【0058】
[実施例2]
後続の酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を0.7kgとした以外は、実施例1と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-2」)を得た。このUSY-2について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
[実施例3]
後続の酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を1.0kgとした以外は、実施例1と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-3」)を得た。このUSY-3について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表2に示す。
【0060】
[実施例4]
後続の酸処理工程において、酸溶液を90℃に昇温した以外は、実施例3と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-4」)を得た。このUSY-4について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
[実施例5]
後続の酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を2.0kgとした以外は、実施例4と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-5」)を得た。このUSY-5について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表2に示す。
【0062】
[実施例6]
最初の酸処理工程において、温度を50℃とした以外は、実施例1と同様の方法で酸処理済USYゼオライト(以下、「酸処理品-2」)を得た。後続の酸処理工程において、酸処理品-2を使って、25%硫酸量を0.9kgとした以外は、実施例4と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-6」)を得た。酸処理品-2およびUSY-6について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果をそれぞれ表1および2に示す。
【0063】
[実施例7]
後続の酸処理工程において、温度を50℃とし、25%硫酸量を1.2kgとした以外は、実施例6と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-7」)を得た。このUSY-7について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表2に示す。
【0064】
[実施例8]
最初の酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を35.2kgとした以外は、実施例1と同様の方法で酸処理済USYゼオライト(以下、「酸処理品-3」)を得た。後続の酸処理工程において、酸処理品-3を使って、25質量%の硫酸の量を2.0kgとした以外は、実施例4と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-8」)を得た。酸処理品-3およびUSY-8について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果をそれぞれ表1および2に示す。
【0065】
[比較例1]
実施例1の最初の酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を48.0kgとした以外は、酸処理品-1と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-R1」)を得た。このUSY-R1について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表3に示す。
【0066】
[比較例2]
実施例1の最初の酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を64.0kgとした以外は、酸処理品-1と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-R2」)を得た。このUSY-R2について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表3に示す。
【0067】
[比較例3]
後続の酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を2.8kgとした以外は、実施例4と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-R3」)を得た。このUSY-R3について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
[比較例4]
再酸処理工程において、25質量%の硫酸の量を2.5kgとした以外は、実施例8と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-R4」)を得た。このUSY-R4について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表3に示す。
【0069】
[比較例5]
最初の酸処理工程において、25%硫酸量を19.2kgとした以外は、実施例1と同様の方法で酸処理済USYゼオライト(以下、「酸処理品-4」)を得た。後続の酸処理工程において、酸処理品-4を使って、25%硫酸量を2.1kgとした以外は、実施例4と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-R5」)を得た。酸処理品-4およびUSY-R5について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果をそれぞれ表1および3に示す。
【0070】
[比較例6]
最初の酸処理工程において、温度を40℃とした以外は、実施例1と同様の方法で酸処理済USYゼオライト(以下、「酸処理品-5」)を得た。再酸処理工程において、酸処理品-5を使って、温度を40℃とした以外は、実施例2と同様の方法でUSYゼオライト(以下、「USY-R6」)を得た。酸処理品-5およびUSY-R6について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果をそれぞれ表1および3に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
USY-1~8は、USY-R1~R6と比較してX線回折強度比が高く、耐久性の高いゼオライトであると評価できる。なお、ゼオライトの水吸着量は、疎水性を示す指標であり、その量が少ないほど疎水性である。USY-1~8は、上記水吸着量評価に基づき水吸着量が5%以下であることを確認している。