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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047676
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230330BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230330BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20230330BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156728
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】川村 知栄
(72)【発明者】
【氏名】井上 真希
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL08
5H029AM11
5H029BJ02
5H029HJ04
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】全固体電池の信頼性を高めること。
【解決手段】電極層と固体電解質層の各々が複数積層された積層体を備え、前記電極層が、端部と、前記端部から第1の点まで0.15以上の第1の増加率で膜厚が増加する第1の部分と、前記第1の点から第2の点まで0.1以下の第2の増加率で膜厚が増加する第2の部分とを有し、前記第2の点における前記電極層の膜厚は、前記電極層の極大膜厚であり、かつ前記電極層の平均膜厚の1.5倍以下であることを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層と固体電解質層の各々が複数積層された積層体を備え、
前記電極層が、端部と、前記端部から第1の点まで0.15以上の第1の増加率で膜厚が増加する第1の部分と、前記第1の点から第2の点まで0.1以下の第2の増加率で膜厚が増加する第2の部分とを有し、
前記第2の点における前記電極層の膜厚は、前記電極層の極大膜厚であり、かつ前記電極層の平均膜厚の1.5倍以下であることを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記第2の点における前記電極層の前記膜厚は、前記平均膜厚の1.2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記第1の増加率は0.15以上0.4以下、前記第2の増加率は0.03以上0.09以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記電極層の平均膜厚は5μm以上40μm以下であり、かつ前記固体電解質層の平均膜厚は5μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記端部と前記第1の点との間隔が40μm以上60μm以下、かつ前記端部と前記第2の点との間隔が70μm以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池が様々な分野で利用されている。電解液を用いた二次電池には電解液の漏液等の問題がある。そこで、固体電解質を備え、他の構成要素も固体で構成した全固体電池の開発が行われている。全固体電池は、固体電解質層と内部電極層とを交互に積層した構造を有しており、この構造により高容量と高応答性とが期待できる。
【0003】
但し、固体電解質層が薄くなると、上下の内部電極層が固体電解質層を破ってショートするおそれがある。例えば、特許文献1のようにスクリーン印刷で形成された内部電極層の周縁付近にはサドル現象によって凸部が形成されるが、その凸部が固体電解質層を破ってショートを引き起こす可能性がある。
【0004】
また、内部電極層と固体電解質層とが接触する領域の広さを調節して容量を調節したり(特許文献2)、内部電極層の端部を中央部よりも固くすることで信頼性を向上させたりする(特許文献3)提案もある。しかし、これらの提案では全固体電池の信頼性を十分に向上させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-61433号公報
【特許文献2】特開2015-220097号公報
【特許文献3】特開2020-161235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、全固体電池の信頼性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る全固体電池は、電極層と固体電解質層の各々が複数積層された積層体を備え、前記電極層が、端部と、前記端部から第1の点まで0.15以上の第1の増加率で膜厚が増加する第1の部分と、前記第1の点から第2の点まで0.1以下の第2の増加率で膜厚が増加する第2の部分とを有し、前記第2の点における前記電極層の膜厚は、前記電極層の極大膜厚であり、かつ前記電極層の平均膜厚の1.5倍以下であることを特徴とする。
【0008】
上記全固体電池において、前記第2の点における前記電極層の前記膜厚は、前記平均膜厚の1.2倍以下でもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記第1の増加率は0.15以上0.4以下、前記第2の増加率は0.03以上0.09以下でもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記電極層の平均膜厚は5μm以上40μm以下であり、かつ前記固体電解質層の平均膜厚は5μm以上15μm以下でもよい。
【0011】
上記全固体電池において、前記端部と前記第1の点との間隔が40μm以上60μm以下、かつ前記端部と前記第2の点との間隔が70μm以上でもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全固体電池の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】全固体電池の外観図である。
図2図1のI-I線に沿う断面図である。
図3図1のII-II線に沿う断面図である。
図4図4(a)は、図3のA部とB部の各々における第1の電極層の拡大断面図であり、図4(b)は、第1の点の定義について示す断面図である。
図5】本実施形態に係る全固体電池の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
図1は、全固体電池100の外観図である。図1に例示するように、全固体電池100は、直方体形状を有する積層チップ70と、積層チップ70の対向する2つの面に設けられた外部電極40a、40bとを備える。
【0015】
図2は、図1のI-I線に沿う断面図である。図2に例示するように、積層チップ70は、固体電解質層11、第1の電極層12、及び第2の電極層14の各々を複数積層した積層体60を有する。
【0016】
積層体60は、第1の電極層12と第2の電極層14との積層方向Zに平行な第1の面60aと第2の面60bとを有する。このうち、第1の面60aには第1の外部電極40aが設けられており、第1の電極層12が第1の外部電極40aと接続される。一方、第2の面60bには第2の外部電極40bが設けられており、第2の電極層14が第2の外部電極40bと接続される。
【0017】
更に、積層体60は、第1の電極層12と第2の電極層14の各々と平行な第3の面60cと第4の面60dとを有する。第3の面60cは、配線基板に全固体電池100を実装するときに上側となる上面である。また、第4の面60dは、実装時に下側となる下面である。この例では積層体60の最外層は固体電解質層11であり、第3の面60cと第4の面60dの各々は固体電解質層11の表面で画定される。
【0018】
また、第1の電極層12と第2の電極層14は、いずれも正極活物質と負極活物質の両方を含む導電層である。正極活物質は特に限定されないが、ここではオリビン型結晶構造をもつ材料を正極活物質として使用する。このような正極活物質としては、例えば遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩がある。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0019】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質としては、例えばCoを含むLiCoPO等がある。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩等を用いてもよい。ここで、価数に応じてLiやPOの比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いてもよい。
【0020】
また、負極活物質としては、例えばチタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、及びリン酸バナジウムリチウムのいずれかがある。
【0021】
このように第1の電極層12と第2の電極層14の各々に正極活物質と負極活物質の両方を使用することにより各電極層12、14の類似性が高まる。その結果、第1の電極層12と第2の電極層14の各々が正極としても負極としても機能するようになり、全固体電池100の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、短絡検査において誤作動せずに実使用に耐えられる。なお、本実施形態はこれに限定されず、第1の電極層12として正極層を形成し、かつ第2の電極層14として負極層を形成することにより、全固体電池100に極性を持たせてもよい。
【0022】
更に、第1の電極層12と第2の電極層14を作製する際に、これらの電極層に酸化物系固体電解質材料や、カーボンや金属等の導電助剤を添加してもよい。導電助剤の金属としては、例えばPd、Ni、Cu、及びFeのいずれかがある。更に、これらの金属の合金を導電助剤として使用してもよい。
【0023】
また、第1の電極層12と第2の電極層14の層構造は特に限定されない。例えば、点線円内に示すように、導電性材料からなる第1の集電体層13aの両方の主面に第1の電極層12を形成してもよい。同様に、導電性材料からなる第2の集電体層13bの両方の主面に第2の電極層14を形成してもよい。
【0024】
一方、固体電解質層11の材料としては、例えばNASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質がある。NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高いイオン導電率を有すると共に、大気中で化学的に安定である。リン酸塩系固体電解質は特に限定されないが、ここではリチウムを含んだリン酸塩を使用する。当該リン酸塩は、例えばTiとの複合リン酸リチウム塩(LiTi(PO)をベースとし、Li含有量を増加させるためにAl,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換させた塩である。そのような塩としては、Li1+xAlGe2-x(PO、Li1+xAlZr2-x(PO、及びLi1+xAlTi2-x(PO等のLi-Al-M-PO系リン酸塩(Mは、Ge,Ti,Zr等)がある。
【0025】
また、第1の電極層12中のリン酸塩に含まれる遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO系リン酸塩を固体電解質層11の材料として用いてもよい。例えば、第1の電極層12にCoとLiのいずれかを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO系リン酸塩を固体電解質層11に含有させてもよい。これにより、第1の電極層12から固体電解質層11に遷移金属が溶出するのを抑制することができる。
【0026】
更に、積層体60の最外層の固体電解質層11の表面には防湿層80が設けられる。防湿層80は、シリコンを含む無機酸化物の層であって、大気中の水分から積層体60を保護する役割を担う層である。なお、B、Bi、Zn、Ba、Li、P、Sn、Pb、Mg、及びNaのいずれかを防湿層80に添加してもよい。
【0027】
図3は、図1のII-II線に沿う断面図である。図3に例示するように、防湿層80は、積層体60の第5の面60eと第6の面60fにも設けられる。第5の面60eと第6の面60fは、第1の電極層12、第2の電極層14、第1の面60a、及び第2の面60bの各々に垂直な面であって、配線基板に全固体電池100を実装するときの側面である。
【0028】
図4(a)は、図3のA部とB部の各々における第1の電極層12の拡大断面図である。図4(a)に示すように、第1の電極層12は、端部12aと、第1の部分12dと、第2の部分12eとを備える。このうち、第1の部分12dは、端部12aから第1の点12bまで膜厚が第1の増加率T1で増加する部分である。第1の増加率T1は、第1の点12bにおける第1の電極層12の膜厚Y1と、端部12aと第1の点12bとの間の面内方向の第1の間隔D1との比(Y1/D1)として定義される。また、第1の点12bは、第1の電極層12の側面の傾きが変化する点である。
【0029】
図4(a)の例では端部12aから第1の点12bに向かう第1の電極層12の側面が断面視で直線状となっているが、当該側面が外側に膨らんだ湾曲状となってもよい。同様に、第1の点12bから第2の点12cに向かう第1の電極層12の側面が、断面視で外側に膨らんだ湾曲状でもよい。この場合、第1の点12bや第2の点12cに明確な角は現れず、各点12b、12cは丸みを帯びることになる。図4(b)は、この場合の第1の点12bの定義について示す断面図である。図4(b)の例では、端部12bから面内方向に35μmだけ離れた点Qを通る接線Mを引く。次いで、膜厚が最大となる第2の点12cから端部12bに向かって面内方向に20μmだけ離れた点Pを特定し、その点Pを通る接線Lを引く。次に、各接線L、Mの交点Rを特定し、第1の電極層12の底面12zの垂線のうち交点Rを通る直線Nを求める。そして、その直線Nと第1の電極層12の上面との交点を第1の点12bとする。
【0030】
再び図4(a)を参照する。第2の部分12eは、第1の点12bから第2の点12cまで膜厚が第2の増加率T2で増加する部分である。第2の増加率T2は、第2の点12cと第1の点12bにおける第1の電極層12の膜厚の差Y2と、第2の点12cと第1の点12bとの間の面内方向の第3の間隔D3との比(Y2/D3)として定義される。
【0031】
本実施形態では、第1の増加率T1を0.15以上とし、かつ第2の増加率T2を0.1以下とすることにより、T1>T2とする。より好ましくは、第1の増加率T1を0.2以上とし、かつ第2の増加率T2を0.09以下とすることで、T1>T2とする。
【0032】
また、一つの第1の電極層12において、第2の点12cは、当該第1の電極層12の膜厚が極大となる点である。以下では、第2の点12cにおける第1の電極層12の極大膜厚をbと書く。また、一つの第1の電極層12の平均膜厚をaと書く。本実施形態では、比b/aを1.5以下とする。より好ましくは、比b/aを1.4以下とする。
【0033】
なお、平均膜厚aを測定するには、まず、全固体電池100の断面をCP加工し、その断面をSEMにより500倍~1000倍で観察する。観察視野は5か所とする。そして、各々の観察視野内における6ヵ所の第1の電極層12の膜厚を測定し、30か所でのその測定値の平均値を平均膜厚aとする。
【0034】
更に、端部12aと第1の点12bとの間の第1の間隔D1は40μm以上60μm以下である。このように第1の間隔D1を40μm以上とすることで、端部12aから第1の点12bまで膜厚が緩やかに変化するため、端部12aでの第1の電極層12と固体電解質層11との密着性が良好となり、剥離やクラックを効果的に抑制できる。更に、第1の間隔D1を60μm以下とすることで、端部12aから第1の点12bに存在する膜厚が薄い第1の電極層12が減り、全固体電池100の容量を増大させることができる。そして、端部12aと第2の点12cとの間の第2の間隔D2は70μm以上である。これにより、第1の電極層12と固体電解質層11との界面で剥離が発生し難くなり、サイクル特性が良好となる。
【0035】
そして、各電極層12、14の平均膜厚aは5μm以上40μm以下であり、固体電解質層11の平均膜厚は5μm以上20μm以下とするのが好ましい。より好ましくは、各電極層12、14の平均膜厚aは8μm以上35μm以下であり、固体電解質層11の平均膜厚は8μm以上15μm以下である。各電極層12、14の平均膜厚aがこの範囲よりも小さいと全固体電池100の容量が低下し、逆に平均膜厚aがこの範囲よりも大きいとレート特性が悪化する。また、固体電解質層11の平均膜厚が上記の範囲よりも小さいとショートし易くなり、逆に固体電解質層11の平均膜厚が上記よりも大きいとイオン伝導経路が長くなりレート特性が悪化する。
【0036】
前述の膜厚の増加率T1、T2と各幅D1、D2は、各電極層12、14用のペーストの粘度で調節することができる。また、各電極層12、14の平均膜厚aと極大膜厚bは、ペーストの乾燥スピードや、ペーストにレベリング材を添加することで制御できる。
【0037】
なお、図4(a)、(b)では第1の電極層12の構造について例示したが、第2の電極層14の構造も第1の電極層12と同様である。
【0038】
このような全固体電池100によれば、前述のように第1の増加率T1が0.15以上で第2の増加率T2が0.1以下であるためT1>T2となる。
【0039】
これにより、第1の電極層12の膜厚の増加の仕方が端部12aから離れるにつれて緩やかとなる。このように膜厚が緩やかに増大することで、充放電に伴って第1の電極層12の膜厚が変化しても、固体電解質層11が第1の電極層12から受ける応力が緩和されるため、固体電解質層11と第1の電極層12との間にクラックが発生するのを抑制することができる。同様の理由により、固体電解質層11と第2の電極層14との間にクラックが発生するのを抑制することもできる。
【0040】
更に、第1の電極層12の極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aを1.5以下とすることで、第2の点12cにおける第1の電極層12の尖りが緩やかとなる。そのため、第1の点12cが固体電解質層11を突き破ってその上の第2の電極層14に接触するのを抑制でき、各電極層12、14がショートするのを抑えることができる。
【0041】
これにより、本実施形態ではクラックやショートの発生が抑制された信頼性の高い全固体電池100を提供することができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る全固体電池の製造方法について説明する。図5は、本実施形態に係る全固体電池の製造方法のフローチャートである。
【0043】
(セラミック原料粉末作製工程)
まず、上述の固体電解質層11を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製する。例えば、原料と添加物とを混合し、固相合成法などを用いることにより、固体電解質層11を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製することができる。得られた粉末を乾式粉砕することにより、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrOボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0044】
添加物には焼結助剤が含まれる。焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,及びLi-P-O系化合物のいずれかのガラス成分を使用し得る。
【0045】
(グリーンシート作製工程)
次に、得られた粉末を、結着材、分散剤、及び可塑剤等と共に、水性溶媒又は有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことにより所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混錬機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。
【0046】
そして、得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。固体電解質ペーストを塗工することにより、固体電解質層11用のグリーンシートが得られる。塗工方法は特に限定されず、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0047】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、第1の電極層12と第2の電極層14とを作製するための電極層用ペーストを作製する。例えば、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質材料をビーズミル等で高分散化し、セラミックス粒子のみからなるセラミックスペーストを作製する。また、カーボンブラック等のカーボン粒子を含むカーボンペーストを作製し、セラミックスペーストにカーボンペーストを混錬してもよい。
【0048】
(積層工程)
次に、グリーンシートの一方の主面に電極層用ペーストを印刷する。次いで、印刷後の複数のグリーンシートを交互にずらして積層し、それをダイサーで所定のサイズにカットすることで積層体60を得る。なお、その積層体60の最上層と最下層はグリーンシートとなる。
【0049】
(焼成工程)
次に、酸素を含む焼成雰囲気中で積層体60を焼成する。電極層用ペーストに含まれるカーボン材料の消失を抑制するために、焼成雰囲気の酸素分圧を2×10-13atm以下とすることが好ましい。一方、リン酸塩系固体電解質の融解を抑制するために酸素分圧を5×10-22atm以上とすることが好ましい。
【0050】
その後、積層体60の各面60a、60bに金属ペーストを塗布してそれを焼き付けることにより第1の外部電極40aと第2の外部電極40bを形成する。なお、スパッタ法やめっき法で第1の外部電極40aと第2の外部電極40bを形成してもよい。
【0051】
(塗布工程)
次に、積層体60の第3~第6の面60c~60fにジブチルエーテル又はジブチルエーテル系の溶媒にテトラアルコキシシランを溶解させた溶液を塗布する。その後、その溶液を100℃~150℃程度の温度に加熱することにより防湿層80を得る。以上により、全固体電池100の基本構造が完成する。
【実施例0052】
以下のように実施例1~4と比較例2~3に係る全固体電池を作製した。表1は、実施例1~4と比較例2~3の各々における電極層12、14の形状をまとめた表である。
【0053】
【表1】
【0054】
(実施例1)
まず、Co、LiCO、リン酸二水素アンモニウム、Al、GeOを混合し、固体電解質材料粉末としてCoを所定量含むLi1.3Al0.3Ge1.7(POを固相合成法により作製した。得られた粉末をZrOボールで乾式粉砕を行った。更に、イオン交換水又はエタノールを分散媒とする湿式粉砕により固体電解質スラリを作製した。得られたスラリに、バインダを添加して固体電解質ペーストを得て、グリーンシートを作製した。LiCoPO、Coを所定量含むLi1.3Al0.3Ti1.7(POを上記同様に固相合成法で合成した。
【0055】
実施例1では、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質材料を湿式ビーズミル等で高分散化し、セラミックス粒子のみからなるセラミックスペーストを作製した。次に、セラミックスペーストと導電助剤とをよく混合し、第1の電極層12と第2の電極層14を作製するための電極層用ペーストを作製した。
【0056】
なお、正極活物質として、LiCoPOを用いた。負極活物質として、Li1+xAlTi2-x(POを用いた。
【0057】
グリーンシートの上に電極層用ペーストをスクリーン印刷法で印刷した。印刷後のグリーンシートを左右に電極が引き出されるようにずらして10枚積層した。その後、熱加圧プレスによりグリーンシートを圧着し、ダイサーで各グリーンシートをカットすることにより所定の大きさの積層体60を得た。
【0058】
積層体60を300℃以上500℃以下で熱処理して脱脂し、900℃以下で熱処理して焼結させた。その後、積層体60の各面60a、60bに第1の外部電極40aと第2の外部電極40bを形成した。
【0059】
次いで、積層体60の第3~第6の面60c~60fに、テトラアルコキシランをジブチルエーテルに溶解させた溶液を塗布した。その溶液を200℃以上500℃以下に加熱することにより防湿層80としてシリカ層を形成した。
【0060】
完成後の全固体電池の固体電解質層11の平均膜厚は5μm、各電極層12、14の平均膜厚aは5μmとなった。
【0061】
また、各電極層12、14の膜厚の第1の増加率T1は0.15、第2の増加率T2は0.05となった。更に、各電極層12、14における第1の間隔D1は40μm、第2の間隔D2は70μmとなった。そして、各電極層12、14の極大膜厚bは7.5μmであった。更に、各電極層12、14における極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aは1.5であった。
【0062】
(実施例2)
実施例2では、固体電解質層11の平均膜厚は10μm、各電極層12、14の平均膜厚aは30μmとなった。
【0063】
また、各電極層12、14の膜厚の第1の増加率T1は0.3、第2の増加率T2は0.1となった。更に、各電極層12、14における第1の間隔D1は58μm、第2の間隔D2は244μmとなった。そして、各電極層12、14の極大膜厚bは36μmであった。更に、各電極層12、14における極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aは1.2であった。これ以外は実施例1と同様である。
【0064】
(実施例3)
実施例3では、固体電解質層11の平均膜厚は15μm、各電極層12、14の平均膜厚aは40μmとなった。
【0065】
また、各電極層12、14の膜厚の第1の増加率T1は0.2、第2の増加率T2は0.09となった。更に、各電極層12、14における第1の間隔D1は60μm、第2の間隔D2は416μmとなった。そして、各電極層12、14の極大膜厚bは44μmであった。更に、各電極層12、14における極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aは1.1であった。これ以外は実施例1と同様である。
【0066】
(実施例4)
実施例4では、固体電解質層11の平均膜厚は5μm、各電極層12、14の平均膜厚aは5μmとなった。
【0067】
また、各電極層12、14の膜厚の第1の増加率T1は0.15、第2の増加率T2は0.03となった。更に、各電極層12、14における第1の間隔D1は40μm、第2の間隔D2は73μmとなった。そして、各電極層12、14の極大膜厚bは7μmであった。更に、各電極層12、14における極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aは1.4であった。これ以外は実施例1と同様である。
【0068】
(比較例1)
比較例1では、固体電解質層11の平均膜厚は5μm、各電極層12、14の平均膜厚aは15μmとなった。
【0069】
また、各電極層12、14の膜厚の第1の増加率T1は0.4、第2の増加率T2は0.13となった。更に、各電極層12、14における第1の間隔D1は40μm、第2の間隔D2は71μmとなった。そして、各電極層12、14の極大膜厚bは20μmであった。更に、各電極層12、14における極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aは1.3であった。これ以外は実施例1と同様である。
【0070】
(比較例2)
比較例2では、固体電解質層11の平均膜厚は5μm、各電極層12、14の平均膜厚aは5μmとなった。
【0071】
また、各電極層12、14の膜厚の第1の増加率T1は0.15、第2の増加率T2は0.08となった。更に、各電極層12、14における第1の間隔D1は40μm、第2の間隔D2は71μmとなった。そして、各電極層12、14の極大膜厚bは8.5μmであった。更に、各電極層12、14における極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aは1.7であった。これ以外は実施例1と同様である。
【0072】
(比較例3)
比較例3では、固体電解質層11の平均膜厚は4μm、各電極層12、14の平均膜厚aは4μmとなった。
【0073】
また、各電極層12、14の膜厚の第1の増加率T1は0.12、第2の増加率T2は0.02となった。更に、各電極層12、14における第1の間隔D1は40μm、第2の間隔D2は100μmとなった。そして、各電極層12、14の極大膜厚bは6μmであった。更に、各電極層12、14における極大膜厚bと平均膜厚aとの比b/aは1.5であった。これ以外は実施例1と同様である。
【0074】
次に、全固体電池の特性を各実施例と比較例について調べた。その結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
この調査では、実施例1~4と比較例1~3の各々の全固体電池の各々について、界面剥離の有無、サイクル特性、ショート率、及び容量目標値が得られているかを調べた。このうち、界面剥離の有無は、第1の電極層12と固体電解質層11との界面、又は第2の電極層14と固体電解質層11との界面に剥離がある場合に「有り」とし、剥離がない場合に「無し」とした。
【0076】
また、サイクル特性は、25℃で2.5V~0Vの電圧範囲で10Cの充放電を繰り返したときに、(200回目の放電容量/初回の放電容量)で定義される。サイクル特性が90%以上の場合を◎、80%~90%の場合を〇、70%~80%の場合を△、70%未満の場合×の評価とした。
【0077】
ショート率は、実施例1~4と比較例1~3の各々の全固体電池のサンプルをそれぞれ200個作製し、(ショートしている個数)/200で算出した。また、ショート率が5%以下の場合を◎、10%以下の場合を〇、15%以下の場合を△、15%未満の場合を×の評価とした。
【0078】
目標容量値は、電極形状を直方体とした値を理論値として求め、その値を100%とした際に、95%以上となった場合を○、それ以下を△の評価とした。なお、ショートにより評価できない場合は―の評価とした。
【0079】
界面剥離がなく、かつサイクル特性とショート率のいずれかの評価が「×」でない場合、全固体電池の信頼性が高いということになる。
【0080】
表2に示すように、実施例1~4においては、界面剥離が「無し」となり、かつショート率が「×」にはならなかった。この結果により、実施例1~4のように第1の増加率T1を0.15以上とし、かつ第2の増加率T2を0.1以下とすることが、界面剥離の抑制に有効であることが確かめられた。
【0081】
更に、実施例1~4では比b/aを1.5以下としており、これによりショート率が向上することも確かめられた。
【0082】
特に、実施例1~4においては、各電極層12、14の平均膜厚aが5μm以上40μm以下であり、固体電解質層11の平均膜厚が5μm以上15μm以下である。この場合に、実施例1~4のように第1の間隔D1を40μm以上60μm以下とし、かつ第2の間隔D2を70μm以上とすることで、界面剥離とショートとを効果的に抑制できる。
【0083】
また、比b/aを1.2以下にする実施例2、3では、ショート率の判定結果が◎になることが明らかとなった。
【0084】
更に、第1の増加率T1を0.15以上0.2以下、かつ第2の増加率T2を0.03以上0.09以下とする実施例1、3、4では、サイクル特性の判定結果が〇以上となることも明らかとなった。
【0085】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0086】
11 :固体電解質層
12 :第1の電極層
13a :第1の集電体層
14 :第2の電極層
13b :第2の集電体層
40a :第1の外部電極
40b :第2の外部電極
60 :積層体
60a~60f :第1~第6の面
70 :積層チップ
80 :防湿層
100 :全固体電池

図1
図2
図3
図4
図5