(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004772
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】複合電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20230110BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230110BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20230110BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230110BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20230110BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230110BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230110BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20230110BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 302A
H01M10/44 P
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0525
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109080
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】712006374
【氏名又は名称】CONNEXX SYSTEMS株式会社
(72)【発明者】
【氏名】的場 智彦
(72)【発明者】
【氏名】塚本 壽
【テーマコード(参考)】
5G503
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5G503BA03
5G503BA04
5G503BB05
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ17
5H029HJ18
5H029HJ19
5H030AA10
5H030BB01
5H030BB23
5H030FF27
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】大容量型二次電池の容量に無駄が生じることがなく、大容量型二次電池の温度上昇を抑制することが可能な複合電池を提供する。
【解決手段】複合電池10は、大容量型二次電池12と高出力型二次電池14とを互いに並列接続して構成される。大容量型二次電池12は、大容量型特性を持ち、大容量型特性は、曲線Eが示すように、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが一定化するまたは増加する性質である。高出力型二次電池14は、高出力型特性とSOC交差値Xとを持ち、高出力型特性は、曲線Pが示すように、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが増加する性質であり、SOC交差値Xは、高出力型二次電池14のSOCおよびOCVが大容量型二次電池12のSOCおよびOCVとそれぞれ同時に等しくなる値である。
【選択図】
図2(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力密度が相対的に低く、エネルギ密度が相対的に高い大容量型二次電池と、
出力密度が相対的に高く、エネルギ密度が相対的に低い高出力型二次電池と、を互いに並列接続して構成され、
前記大容量型二次電池は、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが一定化するまたは増加する大容量型特性を持ち、
前記高出力型二次電池は、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが増加する高出力型特性と、SOCおよびOCVが前記大容量型二次電池のSOCおよびOCVとそれぞれ同時に等しくなるSOC交差値と、を持ち、
前記大容量型二次電池のOCVは、SOCが前記SOC交差値よりも小さい場合に前記高出力型二次電池のOCVよりも大きくなり、SOCが前記SOC交差値よりも大きい場合に前記高出力型二次電池のOCVよりも小さくなるように構成される複合電池。
【請求項2】
前記大容量型二次電池を流れる電流は、前記複合電池を流れる電流に対して60%未満である請求項1に記載の複合電池。
【請求項3】
前記SOC交差値は、35~80%の範囲内の値である請求項1または2に記載の複合電池。
【請求項4】
前記大容量型二次電池は、複数の大容量型セルを互いに直列接続した1つの大容量型セル群、または複数の前記大容量型セル群をさらに並列接続したものから成り、
前記高出力型二次電池は、複数の高出力型セルを互いに直列接続した1つの高出力型セル群、または複数の前記高出力型セル群をさらに並列接続したものから成り、
前記複合電池は、さらに、各大容量型セルおよび各高出力型セルの端子電圧のバランスを調整するBMSを有する請求項1~3のいずれか1項に記載の複合電池。
【請求項5】
前記複数の大容量型セルは、互いに直列接続された3つのLFPセルであり、
前記複数の高出力型セルは、互いに直列接続された4つのLTOセルであり、
前記LFPセルは、正極材料としてオリビン型リチウム金属リン酸化合物を使用し、負極材料として黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルであり、
前記LTOセルは、正極材料としてリチウム金属酸化物を使用し、負極材料としてチタン酸リチウムを使用したリチウムイオン二次電池のセルである請求項4に記載の複合電池。
【請求項6】
前記複数の大容量型セルは、互いに直列接続された8つのLFPセルであり、
前記複数の高出力型セルは、互いに直列接続された7つのNCMセルであり、
前記LFPセルは、正極材料としてオリビン型リチウム金属リン酸化合物を使用し、負極材料として黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルであり、
前記NCMセルは、正極材料としてリチウム金属酸化物を使用し、負極材料として黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルである請求項4に記載の複合電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種電池が並列接続された複合電池に関し、特に、異なる開回路電圧を持つ大容量型二次電池と高出力型二次電池とが並列接続された複合電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一定以上の高出力密度を維持しつつ高エネルギ密度を得たいという要求と、一定以上の高エネルギ密度を維持しつつ高出力密度を得たいという要求に同時に応える二次電池として、性質の異なる2種類の二次電池を組み合わせた複合電池が開示されている。例えば、特許文献1には、開回路電圧が異なる大容量型二次電池と高出力型二次電池とが並列接続された複合電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の複合電池を構成する各二次電池の放電深度(DOD)が0~100%の場合の開回路電圧の範囲が、大容量型二次電池と高出力型二次電池とで同じであり、高出力型二次電池の方が大容量型二次電池よりも広くなっていないので、大容量型二次電池の放電深度が0%付近および100%付近で使用できない可能性がある。すなわち、もし開回路電圧の上限値の比較において高出力型二次電池の方が大容量型二次電池よりもごくわずかでも低ければ、安全上の理由で大容量型二次電池の開回路電圧の上限値を印加できなくなる。逆に、もし開回路電圧の下限値の比較において上記上下関係が逆になれば、同様に安全上の理由で大容量型二次電池の開回路電圧の下限値を印加できなくなる。その結果、大容量型二次電池の容量の一部に無駄が生じる恐れがあるという問題があった。
【0005】
また、特許文献1の複合電池を一定時間放置すると両者の開回路電圧が同じになるまで両者の間で充放電が発生するが、大容量型二次電池の満充電からの放電深度が例えば0~50%の状態の場合には、高出力型二次電池の満充電からの放電深度が0~20%の状態で安定することになるので、高出力には対応できるものの高入力にはマージン不足で対応できない可能性がある。すなわち、もし高入力に対応できなければ、充電電流が高出力型二次電池にはまったく流れずにすべて大容量型二次電池に流れ込むので、大容量型二次電池の温度上昇を抑制できなくなり、劣化を早める恐れがあるという問題があった。
【0006】
本発明は、従来のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、大容量型二次電池の容量に無駄が生じることがなく、大容量型二次電池の温度上昇を抑制することが可能な複合電池を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記目的に加え、従来と同等以上に低い動作電圧および低コストの複合電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、まず、大容量型二次電池の特性曲線と高出力型二次電池の特性曲線とを机上で相対的に移動させ、SOCが50%前後で両者を交差させることによって、高出力型二次電池の開回路電圧の範囲を大容量型二次電池の開回路電圧の範囲よりも広くすることができそうなイメージ、および高出力にも高入力にも対応可能な十分大きいマージンを得ることができそうなイメージを見出した。
【0008】
また、本発明者は、大容量型セルの直列接続数と高出力型セルの直列接続数とを変化させて調べた結果、上記イメージに合致する各セルの直列接続数を見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
即ち、本発明は、出力密度が相対的に低く、エネルギ密度が相対的に高い大容量型二次電池と、出力密度が相対的に高く、エネルギ密度が相対的に低い高出力型二次電池と、を互いに並列接続して構成され、大容量型二次電池は、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが一定化するまたは増加する大容量型特性を持ち、高出力型二次電池は、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが増加する高出力型特性と、SOCおよびOCVが大容量型二次電池のSOCおよびOCVとそれぞれ同時に等しくなるSOC交差値と、を持ち、大容量型二次電池のOCVは、SOCがSOC交差値よりも小さい場合に高出力型二次電池のOCVよりも大きくなり、SOCがSOC交差値よりも大きい場合に高出力型二次電池のOCVよりも小さくなるように構成される複合電池を提供するものである。
【0010】
ここで、上記においては、大容量型二次電池を流れる電流は、複合電池を流れる電流に対して60%未満であるのが好ましい。
SOC交差値は、35~80%の範囲内の値であるのが好ましい。
大容量型二次電池は、複数の大容量型セルを互いに直列接続した1つの大容量型セル群、または複数の大容量型セル群をさらに並列接続したものから成り、高出力型二次電池は、複数の高出力型セルを互いに直列接続した1つの高出力型セル群、または複数の高出力型セル群をさらに並列接続したものから成り、複合電池は、さらに、各大容量型セルおよび各高出力型セルの端子電圧のバランスを調整するBMSを有するのが好ましい。
【0011】
さらに、上記においては、複数の大容量型セルは、互いに直列接続された3つのLFPセルであり、複数の高出力型セルは、互いに直列接続された4つのLTOセルであり、LFPセルは、正極材料としてオリビン型リチウム金属リン酸化合物を使用し、負極材料として黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルであり、LTOセルは、正極材料としてリチウム金属酸化物を使用し、負極材料としてチタン酸リチウムを使用したリチウムイオン二次電池のセルであるのが好ましい。
複数の大容量型セルは、互いに直列接続された8つのLFPセルであり、複数の高出力型セルは、互いに直列接続された7つのNCMセルであり、LFPセルは、正極材料としてオリビン型リチウム金属リン酸化合物を使用し、負極材料として黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルであり、NCMセルは、正極材料としてリチウム金属酸化物を使用し、負極材料として黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大容量型二次電池の容量に無駄が生じないようにすること、および大容量型二次電池の温度上昇を抑制することができる。
また、本発明によれば、上記効果に加え、従来と同等以上に低い動作電圧のものおよび低コストのものを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1(a)】本発明の複合電池の一例を示すブロック図である。
【
図1(b)】本発明の複合電池の他の一例を示すブロック図である。
【
図2(a)】
図1(a)、(b)の複合電池を構成する各二次電池の特性を示すグラフである。
【
図2(b)】
図1(a)、(b)の複合電池を構成する各二次電池の状態を説明するためのグラフである。
【
図3(a)】複合電池Aを構成する各二次電池の特性を示すグラフである。
【
図3(b)】複合電池Aを構成する各二次電池の状態を説明するためのグラフである。
【
図4(a)】複合電池Bを構成する各二次電池の特性を示すグラフである。
【
図4(b)】複合電池Bを構成する各二次電池の状態を説明するためのグラフである。
【
図5】各環境温度における複合電池Aの大容量型二次電池の電流比率を示すグラフである。
【
図6(a)】環境温度15℃における複合電池AのCレートとセル温度との関係を示すグラフである。
【
図6(b)】環境温度25℃における複合電池AのCレートとセル温度との関係を示すグラフである。
【
図6(c)】環境温度45℃における複合電池AのCレートとセル温度との関係を示すグラフである。
【
図7】各環境温度における複合電池Aの大容量型二次電池の上昇温度比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を添付の図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の複合電池の一例を示すブロック図であり、
図1(b)は、本発明の複合電池の他の一例を示すブロック図であり、
図2(a)は、
図1(a)、(b)の複合電池を構成する各二次電池の特性を示すグラフである。
本発明の複合電池10は、大容量型二次電池12と高出力型二次電池14とを互いに並列接続して構成される。大容量型二次電池12は、出力密度が相対的に低く、エネルギ密度が相対的に高い。高出力型二次電池14は、出力密度が相対的に高く、エネルギ密度が相対的に低い。
【0015】
大容量型二次電池12は、大容量型特性を持ち、大容量型特性は、曲線Eが示すように、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが一定化するまたは増加する性質である。高出力型二次電池14は、高出力型特性とSOC交差値Xとを持ち、高出力型特性は、曲線Pが示すように、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが増加する性質であり、SOC交差値Xは、高出力型二次電池14のSOCおよびOCVが大容量型二次電池12のSOCおよびOCVとそれぞれ同時に等しくなる値である。
【0016】
ここで、SOC(States Of Charge、充電率ともいう)とは、充電状態を表す指標であり、電池が満充電された状態から放電した電気量を除いた残容量の満充電容量に対する比率であり、満充電状態では100%、完全放電状態では0%になる。また、OCV(Open circuit voltage、開回路電圧、開放電圧ともいう)とは、電池に電流を流していない状態における端子間電圧である。
【0017】
また、本発明の複合電池10では、SOCがSOC交差値Xよりも小さい場合には、大容量型二次電池12のOCVは、高出力型二次電池14のOCVよりも大きくなるように構成され、SOCがSOC交差値Xよりも大きい場合には、大容量型二次電池12のOCVは、高出力型二次電池14のOCVよりも小さくなるように構成される。
【0018】
次に、本発明の複合電池を構成する各二次電池の状態について説明する。
図2(b)は、
図1(a)、(b)の複合電池を構成する各二次電池の状態を説明するためのグラフである。
大容量型二次電池12は、予め設定したSOC下限値EL、予め設定したSOC上限値EU、OCV下限値VLおよびOCV上限値VUを持つ。OCV下限値VLは、大容量型特性に従ってSOC下限値ELに対応する。OCV上限値VUは、大容量型特性に従ってSOC上限値EUに対応する。
【0019】
高出力型二次電池14は、SOC最小値PLとSOC最大値PUとを持つ。SOC最小値PLは、高出力型特性に従ってOCV下限値VLと等しいOCVに対応する。SOC最大値PUは、高出力型特性に従ってOCV上限値VUと等しいOCVに対応する。SOC最小値PLは、SOC下限値ELよりも大きくなり、SOC最大値PUは、SOC上限値EUよりも小さくなるように構成される。このとき、目安として予め設定するSOC下限値ELは、5~30%の範囲内の値であるのが好ましく、SOC上限値EUは、85~95%の範囲内の値であるのが好ましい。
【0020】
このような構成とすることで、本発明の複合電池10は、大容量型二次電池のSOCが何%でも高出力型二次電池が機能するので、大容量型二次電池の容量に無駄が生じないようにすることができる。また、本発明の複合電池10は、大容量型二次電池のSOCが何%でも高出力型二次電池に充電電流または放電電流が流れ、大容量型二次電池に流れる充電電流または放電電流が少なくなるので、大容量型二次電池の温度上昇を抑制することができる。
【0021】
大容量型二次電池12を流れる電流は、複合電池10を流れる電流に対して60%未満であるのが好ましい。すなわち、大容量型二次電池12の内部抵抗の大きさを「1」とした場合に、高出力型二次電池14の内部抵抗の大きさが「1.5」未満である必要がある。
【0022】
このような構成とすることで、本発明の複合電池10は、大容量型二次電池に流れる充電電流または放電電流がより一層少なくなるので、大幅に大容量型二次電池の温度上昇を抑制することができる。
【0023】
次に、本発明の複合電池を構成する各二次電池のSOC交差値Xの範囲について説明する。
SOC交差値Xは、35~80%の範囲内の値であるのが好ましい。SOC交差値Xが35%未満の場合には、高出力型二次電池14のSOCが低くなり過ぎるので、高出力(急速放電)に対応できない可能性が高くなる。SOC交差値Xが80%超の場合には、高出力型二次電池14のSOCが高くなり過ぎるので、高入力(急速充電)に対応できない可能性が高くなる。
【0024】
このような構成とすることで、本発明の複合電池10は、高出力型二次電池の充放電に対するマージンが十分大きいので、より一層大容量型二次電池の温度上昇を抑制することができる。
【0025】
次に、本発明の複合電池を構成する各二次電池のセル構成について説明する。
大容量型二次電池12は、1つの大容量型セル群、または複数の大容量型セル群をさらに並列接続したものから成るのが好ましく、その場合には、大容量型セル群は、互いに直列接続された複数の大容量型セル12aである。高出力型二次電池14は、1つの高出力型セル群、または複数の高出力型セル群をさらに並列接続したものから成るのが好ましく、その場合には、高出力型セル群は、互いに直列接続された複数の高出力型セル14aである。複合電池10は、さらに、BMS16を有するのが好ましく、その場合には、BMS16は、各大容量型セル12aおよび各高出力型セル14aの端子電圧のバランスを調整する。
【0026】
ここで、BMS(Battery Management System)とは、セルの過充電、過放電を防ぐ機能、セルの過電流を防ぐ機能、セルの温度管理を行う機能、電池残量を算出する機能、およびセル電圧の均等化(セルバランス)を行う機能という5つの主要な機能を備えたシステムであり、CPUを搭載した回路基板で構成される。
【0027】
図1(a)に一例として示す複合電池10のBMS16は、各大容量型セル12aに対する機能と各高出力型セル14aに対する機能とが一体化されたものである。これに対して、
図1(b)に他の一例として示す複合電池20のBMSは、各大容量型セル12aに対する機能を備えたBMS22と各高出力型セル14aに対する機能を備えたBMS24の2つに分離されたものである点のみ異なる。また、その場合にはさらにBMS22およびBMS24にECU26を接続し、BMS22またはBMS24がセルの過充電、過放電などを検出した場合に、ECU26が大容量型二次電池12に流れる電流または高出力型二次電池14に流れる電流を遮断するように制御しても良い。
【0028】
このような構成とすることで、本発明の複合電池10は、互いに直列接続された各セルの端子電圧を同じ値に揃えることによって、端子電圧が低めのセルが過放電アラームに引っ掛かったり端子電圧が高めのセルが過充電アラームに引っ掛かったりすることを防ぐので、各二次電池の容量に無駄が生じないようにすることができる。
【0029】
次に、各二次電池のセル構成の一例について説明する。
図3(a)は、複合電池Aを構成する各二次電池の特性を示すグラフであり、
図3(b)は、複合電池Aを構成する各二次電池の状態を説明するためのグラフである。
複数の大容量型セル12aは、互いに直列接続された3つのLFPセルであり、複数の高出力型セル14aは、互いに直列接続された4つのLTOセルであるのが好ましい。LFPセルは、リチウムイオン二次電池のセルであり、使用した正極材料は、オリビン型リチウム金属リン酸化合物であり、使用した負極材料は、黒鉛系炭素材料である。LTOセルは、リチウムイオン二次電池のセルであり、使用した正極材料は、リチウム金属酸化物であり、使用した負極材料は、チタン酸リチウムである。
【0030】
すなわち、一例として示す複合電池Aの各二次電池のセル構成は、3つのLFPセルを互いに直列接続した大容量型二次電池12と、4つのLTOセルを互いに直列接続した高出力型二次電池14と、を互いに並列接続したものである。また、LFPセルとは、正極材料としてLiFePO4、LiMnPO4などの内のいずれか1つのオリビン型リチウム金属リン酸化合物を使用し、負極材料としてグラファイトなどの黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルである。LTOセルとは、正極材料としてLiNiO2、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiCoMnO2などの内のいずれか1つのリチウム金属酸化物を使用し、負極材料としてLTO、すなわちチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)を使用したリチウムイオン二次電池のセルである。
【0031】
複合電池Aの大容量型特性を示す曲線Eaと高出力型特性を示す曲線Paとの交点として定義されるSOC交差値Xは50%である。また、SOC下限値ELを25%に設定した場合にOCV下限値VLが約9.8Vとなり、その時のSOC最小値PLが約40%となる。さらに、SOC上限値EUを90%に設定した場合にOCV上限値VUが約10.0Vとなり、その時のSOC最大値PUが約60%となる。したがって、大容量型二次電池12をSOCが25~90%の範囲で使用する場合に、高出力型二次電池14をSOCが約40~60%の範囲で使用することができるので、高出力型二次電池14の充放電に対するマージンが十分大きいのは明らかである。
【0032】
このような構成とすることで、本発明の複合電池10は、LFPセルの直列接続数が相対的に少ないので、低い動作電圧のものを構成することができる。
【0033】
次に、各二次電池のセル構成の他の一例について説明する。
図4(a)は、複合電池Bを構成する各二次電池の特性を示すグラフであり、
図4(b)は、複合電池Bを構成する各二次電池の状態を説明するためのグラフである。
複数の大容量型セル12aは、互いに直列接続された8つのLFPセルであり、複数の高出力型セル14aは、互いに直列接続された7つのNCMセルであるのが好ましい。LFPセルは、複合電池Aを構成するLFPセルと同じである。NCMセルは、リチウムイオン二次電池のセルであり、使用した正極材料は、リチウム金属酸化物であり、使用した負極材料は、黒鉛系炭素材料である。
【0034】
すなわち、他の一例として示す複合電池Bの各二次電池のセル構成は、8つのLFPセルを互いに直列接続した大容量型二次電池12と、7つのNCMセルを互いに直列接続した高出力型二次電池14と、を互いに並列接続したものである。また、NCMセルとは、正極材料として三元系、すなわちLiNiO2、LiNiCoMnO2などの内のいずれか1つのリチウム金属酸化物を使用し、負極材料としてグラファイトなどの黒鉛系炭素材料を使用したリチウムイオン二次電池のセルである。ただし、正極材料としてLiCoO2、LiMn2O4を使用したものは、OCVが比較的高くなり、SOC交差値Xが35~80%の範囲内の値にならない可能性があるので除外する。
【0035】
複合電池Bの大容量型特性を示す曲線Ebと高出力型特性を示す曲線Pbとの交点として定義されるSOC交差値Xは75%である。また、SOC下限値ELを10%に設定した場合にOCV下限値VLが約25.7Vとなり、その時のSOC最小値PLが約50%となる。さらに、SOC上限値EUを90%に設定した場合にOCV上限値VUが約26.7Vとなり、その時のSOC最大値PUが約75%となる。したがって、大容量型二次電池12をSOCが10~90%の範囲で使用する場合に、高出力型二次電池14をSOCが約50~75%の範囲で使用することができるので、高出力型二次電池14の充放電に対するマージンが十分大きいのは明らかである。
【0036】
このような構成とすることで、本発明の複合電池10は、NCMセルの方がLTOセルよりも安価なので、低コストのものを構成することができる。
本発明の複合電池は、基本的に以上のように構成される。
【実施例0037】
次に、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明についてより詳細に説明する。
(工程1)まず、実施例として、3つのLFPセル(HIGEE製3.2V-120Ah)を互いに直列接続し、次に、4つのLTOセル(東芝製SCiB)を互いに直列接続し、各セル群を互いに並列接続して複合電池Aを製作した。
(工程2)次に、上昇温度の大きさを複合電池Aと比較する対象として、3つのLFPセル(HIGEE製)を互いに直列接続して大容量型二次電池Cを製作した。
(工程3)次に、複合電池Aおよび大容量型二次電池Cを満充電し、SOCが50%になるまで放電した。
【0038】
(工程4)次に、複合電池Aの各LFPセルの試験開始前の温度Ta0および大容量型二次電池Cの各LFPセルの試験開始前の温度Tc0を測定した。
(工程5)次に、複合電池Aおよび大容量型二次電池Cに対して環境温度15℃およびCレート0.5Cにて5秒間充電と5秒間放電を繰り返し、1時間後に(a)複合電池Aを流れる合計電流Ia、(b)複合電池AのLFPセルを流れるLFP電流Ic、(c)複合電池Aの各LFPセルの温度Ta1、(d)大容量型二次電池Cの各LFPセルの温度Tc1の4つの値を測定した。
(工程6)次に、環境温度を25℃、45℃に変更し、Cレートを1.0C、1.5Cに変更した残り8通りの場合について、上記工程3~5を繰り返した。
【0039】
次に、各環境温度および各Cレートにおける上記合計電流Iaおよび上記LFP電流Icの測定結果、ならびに電流比率(Ic/Ia)の計算結果について詳細に説明する。表1は、これらの記載を含む表であり、
図5は、各環境温度における複合電池Aの大容量型二次電池の電流比率を示すグラフである。なお、本発明の目的である大容量型二次電池の温度上昇を抑制することは、大容量型二次電池を流れる電流を抑制することによって達成されるので、その抑制する範囲は、大容量型二次電池の電流比率が60%未満の範囲に設定した。
【0040】
【0041】
表1に示すように、合計電流Iaは、Cレートを一定とした場合には環境温度の影響を受けずにほぼ一定であったのに対して、環境温度を一定とした場合にはCレートの値にほぼ比例して増加した。LFP電流Icは、Cレートを一定とした場合には環境温度の影響をわずかに受けて微増し、環境温度を一定とした場合にはCレートの値にほぼ比例して増加した。表1および
図5に示すように、合計電流Iaに対するLFP電流Icの電流比率は、3つの環境温度と3つのCレートで合計9通りの場合において50.8~56.8%の範囲に分布した。したがって、すべての環境温度およびCレートにおいて、合計電流Iaに対するLFP電流Icの電流比率が60%未満になったので、大容量型二次電池を流れる電流を抑制する範囲内になった。
【0042】
次に、各環境温度および各Cレートにおける上記温度Ta0から温度Ta1までの上昇温度Taおよび上記温度Tc0から温度Tc1までの上昇温度Tc、ならびに上昇温度比率(Ta/Tc)の計算結果について詳細に説明する。表1は、これらの記載を含む表であり、
図6(a)は環境温度15℃、
図6(b)は環境温度25℃、
図6(c)は環境温度45℃における複合電池AのCレートとセル温度との関係を示すグラフであり、
図7は、各環境温度における複合電池Aの大容量型二次電池の上昇温度比率を示すグラフである。なお、本発明の目的である大容量型二次電池の温度上昇を抑制する範囲は、大容量型二次電池の上昇温度比率が60%未満の範囲に設定した。
【0043】
まず、表1、
図6(a)および
図7に示すように、環境温度15℃において、Cレートが0.5Cでは、上昇温度Tcが1.2℃、上昇温度Taが0.5℃、上昇温度比率が44.4%であった。Cレートが1.0Cでは、上昇温度Tcが4.3℃、上昇温度Taが2.1℃、上昇温度比率が48.5%であった。Cレートが1.5Cでは、上昇温度Tcが8.1℃、上昇温度Taが3.8℃、上昇温度比率が46.7%であった。
【0044】
次に、表1、
図6(b)および
図7に示すように、環境温度25℃において、Cレートが0.5Cでは、上昇温度Tcが1.0℃、上昇温度Taが0.5℃、上昇温度比率が50.0%であった。Cレートが1.0Cでは、上昇温度Tcが3.2℃、上昇温度Taが1.6℃、上昇温度比率が50.0%であった。Cレートが1.5Cでは、上昇温度Tcが6.5℃、上昇温度Taが3.1℃、上昇温度比率が47.2%であった。
【0045】
次に、表1、
図6(c)および
図7に示すように、環境温度45℃において、Cレートが0.5Cでは、上昇温度Tcが0.7℃、上昇温度Taが0.4℃、上昇温度比率が55.0%であった。Cレートが1.0Cでは、上昇温度Tcが2.3℃、上昇温度Taが1.1℃、上昇温度比率が47.1%であった。Cレートが1.5Cでは、上昇温度Tcが4.6℃、上昇温度Taが2.3℃、上昇温度比率が51.1%であった。
【0046】
したがって、すべての環境温度およびCレートにおいて、上昇温度Tcに対する上昇温度Taの上昇温度比率が60%未満になったので、大容量型二次電池の温度上昇を抑制する範囲内になった。
この結果から、実施例の複合電池Aは、大容量型二次電池の温度上昇を抑制することができるのは明らかである。
【0047】
以上、本発明の複合電池について実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は上記記載に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしても良いのはもちろんである。
本発明の複合電池は、大容量型二次電池の容量に無駄が生じないようにすること、および大容量型二次電池の温度上昇を抑制することができるという効果に加え、従来と同等以上に低い動作電圧のものおよび低コストのものを構成することができるという効果もあるので、産業上有用である。
即ち、本発明は、出力密度が相対的に低く、エネルギ密度が相対的に高い大容量型二次電池と、出力密度が相対的に高く、エネルギ密度が相対的に低い高出力型二次電池と、を互いに並列接続して構成され、大容量型二次電池は、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが一定化するまたは増加する大容量型特性を持ち、高出力型二次電池は、SOCの全範囲でSOCの増加とともにOCVが増加する高出力型特性と、SOCおよびOCVが大容量型二次電池のSOCおよびOCVとそれぞれ同時に等しくなるSOC交差値と、を持ち、大容量型二次電池のOCVは、SOCがSOC交差値よりも小さい場合に高出力型二次電池のOCVよりも大きくなり、SOCがSOC交差値よりも大きい場合に高出力型二次電池のOCVよりも小さくなるように構成され、複合電池に対して環境温度15℃およびCレート0.5Cにて5秒間充電と5秒間放電を繰り返し、1時間後に測定した大容量型二次電池を流れる電流は、複合電池を流れる電流に対して50.8%以上60%未満である複合電池を提供するものである。