(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047724
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】連続鋳造鋳片
(51)【国際特許分類】
B22D 11/115 20060101AFI20230330BHJP
B22D 11/04 20060101ALI20230330BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
B22D11/115 B
B22D11/04 311J
B22D11/11 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156814
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】永井 真二
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
(72)【発明者】
【氏名】望月 翔平
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AA09
4E004MB11
4E004MB12
4E004NB01
(57)【要約】
【課題】シェルに取り込まれる介在物や気泡の除去に必要な溶鋼流動のみならず、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置の組み合わせにおいて浸漬ノズルからの吐出流を表面欠陥及び内部欠陥を低減できるよう安定的に制御し、鋳型内全体の流動を最適化できる指針を提供する。さらには、そのような指針に従って製造された鋳片を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、連続鋳造鋳片であって、連続鋳造鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmの位置における凝固組織が以下の式(1)を満たすことを特徴とする連続鋳造鋳片が提供される。
-0.909×D1+12.9≦θ1≦-0.909×D1+22.9 (1)
θ1:一次デンドライト凝固組織が長辺側の表面から鋳片内部に向かう法線となす角度(°)の平均値
D1:長辺側の表面からの距離(mm)
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳片であって、
前記連続鋳造鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmの位置における凝固組織が以下の式(1)を満たすことを特徴とする連続鋳造鋳片。
-0.909×D1+12.9≦θ1≦-0.909×D1+22.9 (1)
θ1:一次デンドライト凝固組織が前記長辺側の表面から鋳片内部に向かう法線となす角度(°)の平均値
D1:前記長辺側の表面からの距離(mm)
【請求項2】
連続鋳造鋳片であって、
前記連続鋳造鋳片の短辺側の表面から深さ1mmから15mmの位置における凝固組織が以下の式(2)を満たすことを特徴とする連続鋳造鋳片。
1.79×D2-26.8≦θ2≦1.79×D2-6.79 (2)
θ2:一次デンドライト凝固組織が前記短辺側の表面から鋳片内部に向かう法線となす角度(°)の平均値
D2:前記短辺側の表面からの距離(mm)
【請求項3】
連続鋳造鋳片であって、
前記連続鋳造鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmの位置における凝固組織が以下の式(1)を満たし、
-0.909×D1+12.9≦θ1≦-0.909×D1+22.9 (1)
θ1:一次デンドライト凝固組織が前記長辺側の表面の法線となす角度(°)の平均値
D1:前記長辺側の表面からの距離(mm)
かつ、前記連続鋳造鋳片の短辺側の表面から深さ1mmから15mmの位置における凝固組織が以下の式(2)を満たすことを特徴とする連続鋳造鋳片。
1.79×D2-26.8≦θ2≦1.79×D2-6.79 (2)
θ2:一次デンドライト凝固組織が前記短辺側の表面の法線となす角度(°)の平均値
D2:前記短辺側の表面からの距離(mm)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造鋳片に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造では、タンディッシュに一旦貯留された溶鋼を、浸漬ノズルを介して鋳型内に上方から注入し、そこで外周面が冷却され凝固した鋳片を鋳型の下端から引き抜くことにより、連続的に鋳造が行われる。鋳片のうち外周面の凝固した部位は、凝固シェル(以下、単に「シェル」とも称する)と呼ばれる。
【0003】
ところで、近年、例えば自動車向けの極低炭素鋼薄板、特に外装材においては極めて厳格な表面品質及び内部品質が求められている。このため、薄板(鋼板)の素材となる鋳片からは、鋼板の表面欠陥及び内部欠陥となりうる介在物や気泡を極力取り除く必要がある。ここで、介在物は溶鋼の精錬時に生成する。気泡は浸漬ノズルの閉塞を防止するために溶鋼とともに供給されるArガスに由来するものである。介在物や気泡は溶鋼が凝固するまでに浮上させて取り除かれるが、一部は溶鋼の凝固に伴いシェルに捕捉されるおそれがある。さらに、溶鋼のスループットを高めると、鋳造方向の平均溶鋼流速(下降流)が増大し、気泡や介在物が浮上しにくくなるため、シェルへの捕捉確率が高くなる。
【0004】
溶鋼を交流磁界により撹拌することで、シェルに取り込まれる介在物や気泡を低減させる技術が知られている。しかし、鋳造速度がおおむね1.2m/minより大きい操業では、浸漬ノズルからの吐出流が鋳型短辺に衝突した際に生成する反転流が増大する。この反転流は上昇流と下降流とに区分される。そして、この上昇流が交流磁界による撹拌流と衝突するため、撹拌によるシェルの洗浄効果が低下する。そこで、浸漬ノズルからの吐出流を制動する目的で、鋳型下部で静磁界を印加する技術も知られている。前者は電磁撹拌装置、後者は電磁ブレーキ装置とも称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3527122号公報
【特許文献2】特許第5044981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置を併設してそれぞれを単純に稼働させればシェルに取り込まれる介在物や気泡を少なくすることができるわけではない。さらには、仮に、シェルに取り込まれる介在物や気泡が少なくなるような電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置の磁場を規定しても、これらの装置の位置、浸漬ノズルの位置及び形状、鋳片の厚み、幅、鋳造速度が様々に変動するあらゆる操業において、鋳片の表面欠陥及び内部欠陥(すなわち、シェルに取り込まれる介在物や気泡)を少なくできる保証はない。特に吐出流制御に用いられる電磁ブレーキ装置は、電磁ブレーキ装置のコアの幅方向中央部で磁束密度が最大となる性質がある。このため、電磁ブレーキ装置の磁束強度を大きくしたときに浸漬ノズル吐出孔近傍に極端な制動力が働き、そこで生じた上昇流が電磁撹拌装置による攪拌流をかえって乱す(言い換えれば、鋳型内の偏流をかえって助長する)場合もある。また、浸漬ノズルとの組み合わせによっては、これ(攪拌流の乱れ)がさらに顕著となる恐れもある。
【0007】
特許文献1に開示された技術では、非金属介在物の低減を目的として、鋳片の長辺及び短辺の凝固組織の偏向角度(θ)を特定の範囲に制限している。具体的には、長辺面の表層下5~10mmにおける一次デンドライトの偏向角度θ1を10°≦θ1≦40°とし、短辺面の表層下15~25mmにおける一次デンドライトの偏向角度θ2を0°≦θ2≦15°に制限している。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、短辺側の溶鋼の流速を示す偏向角度θ2を表層下15~25mmの範囲でしか制御していない。一方で、ノズル吐出孔からの溶鋼流が操業条件によって上昇流および下降流へどのように配分されるか等といった事象も鋳片の表面品質及び内部品質に大きく関わってくる。特許文献1では、このような事象を一切考慮していない。したがって、特許文献1に開示された技術は、流動最適化の観点からはかならずしも十分ではない。
【0009】
特許文献2に開示された技術では、極低炭素鋼の鋳片を連続鋳造する。この際、スループットを4~7ton/minとし、浸漬ノズルに吹き込む不活性ガスの流量を5~20NL/minとし、鋳型内の溶鋼に交流磁界または交流磁界と静磁界を印加する。しかしながら、特許文献2には、鋳片の長辺側での流動に関する記載はあるが、短辺側における流動に関する記載が無い。このため、鋳型内の安定的な流動の形成に関して不十分である。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、シェルに取り込まれる介在物や気泡の除去に必要な溶鋼流動のみならず、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置の組み合わせにおいて浸漬ノズルからの吐出流を表面欠陥及び内部欠陥を低減できるよう安定的に制御し、鋳型内全体の流動を最適化できる指針を提供する。さらには、そのような指針に従って製造された連続鋳造鋳片を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、連続鋳造鋳片であって、連続鋳造鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmの位置における凝固組織が以下の式(1)を満たすことを特徴とする連続鋳造鋳片が提供される。
-0.909×D1+12.9≦θ1≦-0.909×D1+22.9 (1)
θ1:一次デンドライト凝固組織が長辺側の表面から鋳片内部に向かう法線となす角度(°)の平均値
D1:長辺側の表面からの距離(mm)
【0012】
本発明の他の観点によれば、連続鋳造鋳片であって、連続鋳造鋳片の短辺側の表面から深さ1mmから15mmの位置における凝固組織が以下の式(2)を満たすことを特徴とする連続鋳造鋳片が提供される。
1.79×D2-26.8≦θ2≦1.79×D2-6.79 (2)
θ2:一次デンドライト凝固組織が短辺側の表面から鋳片内部に向かう法線となす角度(°)の平均値
D2:短辺側の表面からの距離(mm)
【0013】
本発明の他の観点によれば、連続鋳造鋳片であって、連続鋳造鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmの位置における凝固組織が以下の式(1)を満たし、
-0.909×D1+12.9≦θ1≦-0.909×D1+22.9 (1)
θ1:一次デンドライト凝固組織が長辺側の表面の法線となす角度(°)の平均値
D1:長辺側の表面からの距離(mm)
かつ、連続鋳造鋳片の短辺側の表面から深さ1mmから15mmの位置における凝固組織が以下の式(2)を満たすことを特徴とする連続鋳造鋳片が提供される。
1.79×D2-26.8≦θ2≦1.79×D2-6.79 (2)
θ2:一次デンドライト凝固組織が短辺側の表面の法線となす角度(°)の平均値
D2:短辺側の表面からの距離(mm)
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記観点によれば、シェルに取り込まれる介在物や気泡の除去に必要な溶鋼流動のみならず、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置の組み合わせにおいて浸漬ノズルからの吐出流を表面欠陥及び内部欠陥を低減できるよう安定的に制御し、鋳型内全体の流動を最適化できる指針を提供することができる。さらには、そのような指針に従った連続鋳造鋳片を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る連続鋳造機の一構成例を概略的に示す側断面図である。
【
図2】本実施形態に係る鋳型設備のY-Z平面での断面図である。
【
図3】鋳型設備の、
図2に示すA-A断面での断面図である。
【
図4】鋳型設備の、
図3に示すB-B断面での断面図である。
【
図5】鋳型設備の、
図3に示すC-C断面での断面図である。
【
図6】電磁ブレーキ装置によって溶鋼に対して付与される電磁力の方向について説明するための図である。
【
図7】長辺側の表面におけるデンドライト角度と鋳片品質(表面品質)との相関を示すグラフである。
【
図8】短辺側の表面におけるデンドライト角度と鋳片品質(表面品質及び内部品質)との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
<1.連続鋳造機の構成>
まず、本実施形態に係る鋳片を製造可能な連続鋳造機の全体構成について簡単に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型110を用いて溶鋼2を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機1は、鋳型110と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、を備える。
【0018】
取鍋4は、溶鋼2を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型110の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型110に向けて下方に延び、その先端は鋳型110内の溶鋼2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型110内に連続供給する。
【0019】
鋳型110は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板(後述する
図2に示す長辺鋳型板111に対応する)で一対の短辺鋳型板(後述する
図4~
図5に示す短辺鋳型板112に対応する)を両側から挟むように組み立てられる。長辺鋳型板及び短辺鋳型板(以下、鋳型板と総称することがある)は、例えば冷却水が流動する水路が設けられた水冷銅板である。鋳型110は、かかる鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型110下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型110の下端から引き抜かれる。
【0020】
なお、以下の説明では、上下方向(すなわち、鋳型110から鋳片3が引き抜かれる方向)を、Z軸方向とも呼称する。また、Z軸方向と垂直な平面(水平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれ、X軸方向及びY軸方向とも呼称する。また、X軸方向を、水平面内において鋳型110の長辺と平行な方向として定義し、Y軸方向を、水平面内において鋳型110の短辺と平行な方向として定義する。また、以下の説明では、各部材の大きさを表現する際に、当該部材のZ軸方向の長さのことを高さともいい、当該部材のX軸方向又はY軸方向の長さのことを幅ともいうことがある。
【0021】
ここで、
図1では図面が煩雑になることを避けるために図示を省略しているが、本実施形態では、鋳型110の長辺鋳型板の外側面(すなわち、長辺面外側)に電磁力発生装置が設置される。当該電磁力発生装置は、電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を備えるものである。当該電磁力発生装置の構成及び鋳型110に対する設置位置等については、
図2~
図6を参照して後述する。
【0022】
二次冷却装置7は、鋳型110の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型110下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず)とを有する。
【0023】
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレイクアウトやバルジングを防止できる。
【0024】
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、
図1に示すように、鋳型110の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機1と呼称される。なお、本発明は、
図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
【0025】
サポートロール11は、鋳型110の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレイクアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。
図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
【0026】
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型110から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型110から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は
図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
【0027】
セグメントロール13(ガイドロールともいう)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、
図1では左下側の面)とL面(Loose面、
図1では右上側の面)のいずれに設けられるかによって、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
【0028】
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
【0029】
以上、
図1を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機1の全体構成について説明した。なお、本実施形態では、鋳型110に対して上述した電磁力発生装置が設置され、当該電磁力発生装置を用いて連続鋳造が行われればよく、連続鋳造機1における当該電磁力発生装置以外の構成は、一般的な従来の連続鋳造機と同様であってよい。従って、連続鋳造機1の構成は図示したものに限定されず、連続鋳造機1としては、あらゆる構成のものが用いられてよい。
【0030】
<2.電磁力発生装置の構成>
図2~
図5を参照して、上述した鋳型110に対して設置される電磁力発生装置の構成について詳細に説明する。
図2~
図5は、本実施形態に係る鋳型設備の一構成例を示す図である。
【0031】
図2は、本実施形態に係る鋳型設備10のY-Z平面での断面図である。
図3は、鋳型設備10の、
図2に示すA-A断面での断面図である。
図4は、鋳型設備10の、
図3に示すB-B断面での断面図である。
図5は、鋳型設備10の、
図3に示すC-C断面での断面図である。なお、鋳型設備10は、Y軸方向において、鋳型110の中心に対して対称な構成を有するため、
図2、
図4及び
図5では、一方の長辺鋳型板111に対応する部位のみを図示している。また、
図2、
図4及び
図5では、理解を容易にするため、鋳型110内の溶鋼2も併せて図示している。
【0032】
図2~
図5を参照すると、本実施形態に係る鋳型設備10は、鋳型110の長辺鋳型板111の外側面(すなわち、長辺面の外側)に、バックアッププレート121を介して、2つの水箱130、140と、電磁力発生装置170と、が設置されて構成される。
【0033】
鋳型110は、上述したように、一対の長辺鋳型板111で一対の短辺鋳型板112を両側から挟むように組み立てられる。鋳型板111、112は銅板からなる。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、鋳型板111、112は、一般的に連続鋳造機の鋳型として用いられる各種の材料によって形成されてよい。
【0034】
ここで、本実施形態では、鉄鋼スラブの連続鋳造を対象としており、その鋳片サイズは、例えば幅(すなわち、X軸方向の長さ)800~2300mm程度、あるいは1000~1800mm程度、厚み(すなわち、Y軸方向の長さ)150~300mm程度、あるいは200~270mm程度である。つまり、鋳型板111、112も、当該鋳片サイズに対応した大きさを有する。すなわち、長辺鋳型板111は、少なくとも鋳片3の幅(例えば800~2300mm)よりも長いX軸方向の幅を有し、短辺鋳型板112は、鋳片3の厚み(例えば200~300mm)と略同一のY軸方向の幅を有する。
【0035】
また、本実施形態では、電磁力発生装置170による鋳片3の品質向上の効果をより効果的に得るために、Z軸方向の長さが可能な限り長くなるように鋳型110を構成する。一般的に、鋳型110内で溶鋼2の凝固が進行すると、凝固収縮のために鋳片3が鋳型110の内壁から離れてしまい、当該鋳片3の冷却が不十分になる場合があることが知られている。そのため、鋳型110の長さは、溶鋼湯面から、長くても1000mm程度が限界とされている。本実施形態では、かかる事情を考慮して、溶鋼湯面から鋳型板111、112の下端までの長さが1000mm程度となるように、当該1000mmよりも十分に大きいZ軸方向の長さを有するように、当該鋳型板111、112を形成する。
【0036】
バックアッププレート121、122は、例えばステンレスからなり、鋳型110の鋳型板111、112を補強するために、当該鋳型板111、112の外側面を覆うように設けられる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の外側面に設けられるバックアッププレート121のことを長辺側バックアッププレート121ともいい、短辺鋳型板112の外側面に設けられるバックアッププレート122のことを短辺側バックアッププレート122ともいう。
【0037】
電磁力発生装置170は、長辺側バックアッププレート121を介して鋳型110内の溶鋼2に対して電磁力を付与するため、少なくとも長辺側バックアッププレート121は非磁性体(例えば、非磁性のステンレス等)によって形成され得る。ただし、長辺側バックアッププレート121の、後述する電磁ブレーキ装置160の鉄芯(コア)162(以下、電磁ブレーキコア162ともいう)の端部164と対向する部位には、電磁ブレーキ装置160の磁束密度を確保するために、磁性体の軟鉄124が埋め込まれる。
【0038】
長辺側バックアッププレート121には、更に、当該長辺側バックアッププレート121と垂直な方向(すなわち、Y軸方向)に向かって延伸する一対のバックアッププレート123が設けられる。
図3~
図5に示すように、この一対のバックアッププレート123の間に電磁力発生装置170が設置される。このように、バックアッププレート123は、電磁力発生装置170の幅(すなわち、X軸方向の長さ)、及びX軸方向の設置位置を規定し得るものである。換言すれば、電磁力発生装置170が鋳型110内の溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、バックアッププレート123の取り付け位置が決定される。以下、区別のため、当該バックアッププレート123のことを、幅方向バックアッププレート123ともいう。幅方向バックアッププレート123も、バックアッププレート121、122と同様に、例えばステンレスによって形成される。
【0039】
水箱130、140は、鋳型110を冷却するための冷却水を貯水する。本実施形態では、図示するように、一方の水箱130を長辺鋳型板111の上端から所定の距離の領域に設置し、他方の水箱140を長辺鋳型板111の下端から所定の距離の領域に設置する。このように、水箱130、140を鋳型110の上部及び下部にそれぞれ設けることにより、当該水箱130、140の間に電磁力発生装置170を設置する空間を確保することが可能になる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の上部に設けられる水箱130のことを上部水箱130ともいい、長辺鋳型板111の下部に設けられる水箱140のことを下部水箱140ともいう。
【0040】
長辺鋳型板111の内部、又は長辺鋳型板111と長辺側バックアッププレート121との間には、冷却水が通過する水路(図示せず)が形成される。当該水路は、水箱130、140まで延設されている。図示しないポンプによって、一方の水箱130、140から他方の水箱130、140に向かって(例えば、下部水箱140から上部水箱130に向かって)、当該水路を通過して冷却水が流される。これにより、長辺鋳型板111が冷却され、当該長辺鋳型板111を介して鋳型110内部の溶鋼2が冷却される。なお、図示は省略しているが、短辺鋳型板112に対しても、同様に、水箱及び水路が設けられ、冷却水が流動されることにより当該短辺鋳型板112が冷却される。
【0041】
電磁力発生装置170は、電磁撹拌装置150と、電磁ブレーキ装置160と、を備える。図示するように、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160は、水箱130、140の間の空間に設置される。当該空間内で、電磁撹拌装置150が上方に、電磁ブレーキ装置160が下方に設置される。つまり、電磁撹拌装置150は、鋳型上部の長辺面外側に設置され、電磁ブレーキ装置160は、鋳型下部の長辺面外側に設置される。
【0042】
電磁撹拌装置150は、鋳型110内の溶鋼2に対して、動磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。電磁撹拌装置150は、自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)の電磁力を溶鋼2に付与するように駆動される。
図4には、電磁撹拌装置150によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向を、模擬的に太線矢印で示している。ここで、図示を省略している長辺鋳型板111(すなわち、図示する長辺鋳型板111に対向する長辺鋳型板111)に設けられる電磁撹拌装置150は、その自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向に沿って、図示する方向とは逆向きの電磁力を付与するように駆動される。このように、一対の電磁撹拌装置150が、水平面内において撹拌流(旋回流)を発生させるように駆動される。電磁撹拌装置150によれば、このような撹拌流を生じさせることにより、凝固シェル界面における溶鋼2が流動され、凝固シェル3aへの気泡や介在物の捕捉を抑制する洗浄効果が得られ、鋳片3の表面品質を良化させることができる。
【0043】
電磁撹拌装置150の詳細な構成について説明する。電磁撹拌装置150は、ケース151と、当該ケース151内に格納される鉄芯(コア)152(以下、電磁撹拌コア152ともいう)と、当該電磁撹拌コア152に導線が巻回されて構成される複数のコイル153と、から構成される。
【0044】
ケース151は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース151の大きさは、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース151のX軸方向の幅W4、すなわち電磁撹拌装置150のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向のいずれの位置においても電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。例えば、W4は1800mm~2500mm程度である。また、電磁撹拌装置150では、コイル153からケース151の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース151の材料としては、例えば非磁性体ステンレス又はFRP(Fiber Reinforced Plastics)等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な部材が用いられる。
【0045】
電磁撹拌コア152は、略直方体形状を有する中実の部材であり、ケース151内において、その長手方向が長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)と略平行になるように設置される。電磁撹拌コア152は、例えば電磁鋼板を積層することにより形成される。
【0046】
電磁撹拌コア152に対して、X軸方向を中心軸として導線が巻回されることにより、コイル153が形成される。当該導線としては、例えば断面が10mm×10mmで、内部に直径5mm程度の冷却水路を有する銅製のものが用いられる。電流印加時には、当該冷却水路を用いて当該導線が冷却される。当該導線は、絶縁紙等によりその表層が絶縁処理されており、層状に巻回することが可能である。例えば、一のコイル153は、当該導線を2~4層程度巻回することにより形成される。同様の構成を有するコイル153が、X軸方向に所定の間隔を有して並列されて設けられる。
【0047】
コイル153のそれぞれには、図示しない交流電源が接続される。当該交流電源によって、電磁撹拌コア152から鋳型内の溶鋼2に交流磁場を印加する。具体的には、隣り合うコイル153における電流の位相が適宜ずれるように当該コイル153に対して電流を印加することにより、溶鋼2に対して撹拌流を生じさせるような電磁力が付与され得る。なお、当該交流電源の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、コイル153のそれぞれに印加する電流量や、コイル153のそれぞれに電流を印加するタイミング等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。この交流電源の駆動方法としては、一般的な電磁撹拌装置において用いられている各種の公知の方法が適用されてよいため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0048】
電磁撹拌コア152のX軸方向の幅W1は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W1は1800mm程度である。
【0049】
電磁ブレーキ装置160は、鋳型110内の溶鋼2に対して静磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。ここで、
図6は、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向について説明するための図である。
図6では、鋳型110近傍の構成の、X-Z平面での断面を概略的に図示している。また、
図6では、電磁撹拌コア152、及び後述する電磁ブレーキコア162の端部164の位置を模擬的に破線で示している。
【0050】
図6に示すように、浸漬ノズル6には、短辺鋳型板112に対向する位置に一対の吐出孔が設けられ得る。これらの吐出孔から溶鋼2が鋳型110内に吐出される。溶鋼2の吐出流は、短辺側に向かって進み、短辺側に形成されたシェルに衝突する。その後、吐出流は、上方向(すなわち、溶鋼の湯面が存在する方向)へ向かう上昇流及び下方向(すなわち、鋳片が引き抜かれる方向)へ向かう下降流を形成する。電磁ブレーキ装置160は、浸漬ノズル6の当該吐出孔からの溶鋼2の流れ(吐出流)を抑制する方向の電磁力を、当該溶鋼2に対して付与するように駆動される。
図6には、吐出流の方向を模擬的に細線矢印で示すとともに、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向を模擬的に太線矢印で示している。電磁ブレーキ装置160によれば、このような吐出流を抑制する方向の電磁力を生じさせることにより、下降流が抑制され、気泡や介在物の浮上分離を促進する効果が得られ、鋳片3の内質を良化させることができる。さらに、吐出流に起因する上昇流の勢いが弱められるので、溶鋼の湯面変動が抑制される。したがって、湯面変動に起因するオシレーションマークの乱れ及びディプレッションを抑制することができ、鋳型内における鋳片の表面割れ及び結晶粒の粗大化を抑制することができる。したがって、鋳片の品質を向上させることができる。
【0051】
電磁ブレーキ装置160の詳細な構成について説明する。電磁ブレーキ装置160は、ケース161と、当該ケース161内にその一部が格納される電磁ブレーキコア162と、当該電磁ブレーキコア162のケース161内の部位に導線が巻回されて構成される複数のコイル163と、から構成される。
【0052】
ケース161は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース161の大きさは、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース161のX軸方向の幅W4、すなわち電磁ブレーキ装置160のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向の所望の位置において電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。図示する例では、ケース161の幅W4は、ケース151の幅W4と略同様である。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、電磁撹拌装置150の幅と電磁ブレーキ装置160の幅は異なっていてもよい。
【0053】
また、電磁ブレーキ装置160では、コイル163からケース161の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース161は、ケース151と同様に、例えば非磁性体ステンレス又はFRP等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な材料によって形成される。
【0054】
電磁ブレーキコア162は、略直方体形状を有する中実の部材であってコイル163が設けられる一対の端部164と、同じく略直方体形状を有する中実の部材であって当該一対の端部164を連結する連結部165と、から構成される。電磁ブレーキコア162は、連結部165から、Y軸方向であって長辺鋳型板111に向かう方向に突出するように一対の端部164が設けられて構成される。一対の端部164が設けられる位置は、溶鋼2に対して電磁力を付与したい位置、すなわち浸漬ノズル6の一対の吐出孔からの吐出流がそれぞれコイル163によって磁場が印加される領域を通過するような位置に設けられ得る(
図6も参照)。電磁ブレーキコア162は、例えば電磁鋼板を積層することにより形成される。
【0055】
電磁ブレーキコア162の端部164に対して、Y軸方向を中心軸として導線が巻回されることにより、コイル163が形成される。当該コイル163の構造は、上述した電磁撹拌装置150のコイル153と同様である。各端部164について、それぞれ、複数のコイル163が、Y軸方向に所定の間隔を有して並列されて設けられる。
【0056】
コイル163のそれぞれには、図示しない直流電源が接続される。当該直流電源によって、各コイル163に直流電流を印加することにより、溶鋼2に対して吐出流の勢いを弱めるような電磁力が付与され得る。つまり、各端部164が磁極となり、一方の端部164がN極、他方の端部164がS極となる。したがって、2つの磁極が長辺面に対向することとなる。さらに、2つの磁極間の空間164aに対向する位置に浸漬ノズル6が配置される(
図6参照)。なお、他方の長辺にも同様の電極ブレーキコア162が配置されるので、磁極は合計2対配置されることになる。また、当該直流電源の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、各コイル163に印加する電流量等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。この直流電源の駆動方法としては、一般的な電磁ブレーキ装置において用いられている各種の公知の方法が適用されてよいため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0057】
電磁ブレーキコア162のX軸方向の幅W0、端部164のX軸方向の幅W2、及びX軸方向における端部164間の距離W3は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W0は1600mm程度、W2は500mm程度、W3は350mm程度である。
【0058】
なお、上述した例では、電磁ブレーキコア162は複数のコイル163(磁極)を有しているが、単独の磁極を有するものであってもよい。この場合、長辺の外側にそれぞれ1つの(すなわち1対の)磁極が配置される。磁極は、鋳型の長辺面外側に設けられ、幅方向(つまり、長辺面の長さ方向)の両端に亘って伸びることになる。この場合、浸漬ノズル周囲の磁束密度が高くなる傾向があるが、後述する式(1)、及び/または(2)が満たされれば本実施形態の効果は得られる。
【0059】
ただし、2つの端部164を有する場合、すなわち2つの磁極を有するように、電磁ブレーキ装置160が構成される場合、2つの磁極間の空間164aに対向する位置に浸漬ノズル6が配置される。かかる構成によれば、例えば、電磁ブレーキ装置160を駆動する際に、これら2つの磁極がそれぞれN極及びS極として機能し、鋳型110の幅方向(すなわち、X軸方向)の略中心近傍の領域の磁束密度が他の領域の磁束密度よりも低下するように、上記制御装置によってコイル163への電流の印加を制御することができる。したがって、浸漬ノズルの吐出孔近傍で、静磁場による制動力を低減することができるので、過剰な上昇流の発生を抑制することができる。この結果、電磁ブレーキによって電磁撹拌の効果が損なわれにくくなり、ひいては、電磁ブレーキの効果及び電磁撹拌の効果をより高めることができる。したがって、より幅広い鋳造条件に対応することが可能となる。さらに、電磁撹拌の効果をより効果的に得られることから温度変動がさらに抑制される。さらに、上昇流に起因する湯面変動及び温度変動が抑制される。したがって、凝固シェルの不均一凝固が抑制され、ひいては、鋳片の表面品質が改善される。もちろん、この場合においても、後述する式(1)及び/または(2)が満たされる必要がある。
【0060】
なお、図示する構成例では、電磁ブレーキ装置160は磁極を2つ有するように構成されているが、本実施形態はかかる例に限定されない。電磁ブレーキ装置160は、3つ以上の端部164を有し、3つ以上の磁極を有するように構成されてもよい。この場合、各端部164のコイル163に印加する電流量がそれぞれ適宜調整されることにより、電磁ブレーキに係る溶鋼2への電磁力の印加を更に詳細に制御することが可能となる。すなわち、磁極の数は浸漬ノズル6の近傍で生じる上昇流の程度等に応じて適宜調整されればよく、特に上限値の制限はない。磁極が3つ以上存在する場合であっても、複数の磁極間の空間に対向する位置に浸漬ノズル6を配置することが好ましい。
【0061】
<3.本発明者による検討>
本実施形態は、シェルに取り込まれる介在物や気泡の除去に必要な溶鋼流動のみならず、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置の組み合わせにおいて浸漬ノズルからの吐出流を表面欠陥及び内部欠陥を低減できるよう安定的に制御し、鋳型内全体の流動を最適化できる指針を提供する。言い換えれば、鋳型内の電磁撹拌装置、電磁ブレーキ装置、浸漬ノズル、及び鋳片サイズ等の様々な組み合わせにおいて、鋳片長辺側において電磁撹拌による気泡および介在物の洗浄効果を得ることができ、鋳片短辺側において浸漬ノズル吐出流を電磁ブレーキ装置により適正に制御し、上部の電磁撹拌を阻害せず、かつ、鋳片内部への介在物および気泡の侵入を抑制できる指針を提供する。
【0062】
このような指針として、本発明者は、鋳片の一次デンドライト凝固組織の偏向角度に着目した。一次デンドライト凝固組織が偏向するのは、一次デンドライトが凝固する際、一次デンドライトが周囲の溶鋼流れに影響されるからである。具体的には、溶鋼流れの上流に向かって一次デンドライトが偏向する。なお、本実施形態の「一次デンドライト」は、鋳片の長辺側の表面または短辺側の表面から延びるデンドライトであり、デンドライト凝固組織の「幹」に相当する部分を意味する。この偏向角度(以下、単にデンドライト角度とも称する)は、溶鋼流れが大きくなるほど大きくなる傾向がある。
【0063】
ここで、鋳片の生産性をより向上させるには鋳造速度を大きくする必要があり、鋳造速度の増加に従って鋳型内への溶鋼供給速度、すなわち浸漬ノズルからの吐出流が増大する。この吐出流は鋳型短辺に衝突して反転流を生成する。反転流は、上昇流と下降流に区分される。上昇流が多くなると、当該上昇流が鋳型内の湯面(メニスカス)を乱したり、電磁撹拌流を阻害したりする流動となり鋳片の表面品質を悪化させる。一方、下降流が多くなると、鋳片内部に介在物や気泡が多く潜り込むため、鋳片の内部品質を悪化させる。従って、生産性の向上には吐出流を適度に分散させることが極めて重要であり、適切に制御する指針(つまり上述した指針)が求められる。
【0064】
このような指針を求めるため、本発明者は、複数種類の鋳片を連続鋳造し、これらの鋳片を用いて鋳片品質とデンドライト角度との相関を予備調査した。ここで、デンドライト角度は、長辺側と短辺側の双方について求めた。
【0065】
まず、長辺側のデンドライト角度の求め方について説明する。鋳造後の鋳片を切断し、厚み、幅方向の横断サンプルを採取し研磨を行った後、凝固組織を現出するピクリン酸腐食液にてエッチングを行った。ついで、横断面を写真撮影し、鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmまでの位置に存在する一次デンドライト凝固組織と鋳片表面の法線(鋳片内部に向かう法線)とのなす角度を測定した。深さ1mmから12mmまでの位置を対象としたのは、この位置に生じる疵が鋳片の表面品質及び内部品質に影響を与えるからである。鋳片幅方向の測定位置としては、鋳片全幅に対し1/4位置、1/2位置、3/4位置のそれぞれを中心として幅方向に±100mmの範囲で少なくとも20か所測定し、それぞれの幅位置における平均値を求めた。さらに、それらの平均値を長辺側のデンドライト角度とした。なお、デンドライト角度の正負は電磁撹拌の回転方向に基づいて決定した。すなわち、鋳造方向の上流側から幅方向を含む断面を見て電磁撹拌の回転方向が時計回りであれば、デンドライト角度についても時計回りを正とした。
【0066】
次に、短辺側のデンドライト角度の求め方について説明する。鋳造後の鋳片を切断し、厚み1/2位置において短辺を含む幅方向及び鋳造方向の縦断サンプルを採取し、研磨を行った後、凝固組織を現出するピクリン酸腐食液にてエッチングを行った。ついで、縦断面を写真撮影し、鋳片の短辺側の表面から深さ1mmから15mmまでの位置に存在する一次デンドライト凝固組織と短辺側の表面の法線(鋳片内部に向かう法線)となす角度を測定した。深さ1mmから15mmまでの位置を対象としたのは、この位置に生じる疵が鋳片の表面品質及び内部品質に影響を与えるからである。鋳造方向200mmの範囲で少なくとも20か所測定し、平均値を求めた。なお、デンドライト角度の正負は鋳造方向に基づいて決定した。すなわち、短辺側の表面の法線に対して鋳造方向の上流側を正とした。
【0067】
また、鋳片品質は以下の手順で求めた。鋳片品質は表面品質と内部品質の両方を求め、これらを総合評価することで求めた。具体的には、鋳片を鋳造し、トーチカットした後の鋳片の表面を目視にて観察を行い、鋳片表面1m2当たりの疵個数を記録した。ついで、各鋳片の表層欠陥指数を求めた。具体的には、後述する発明例1における表層欠陥指数を1.0とし、各鋳片の表面1m2当たりの疵個数を発明例1における1m2当たりの疵個数で除算した値を各鋳片の表層欠陥指数とした。ついで、各鋳片を冷間圧延し、冷間圧延後のコイルの表面を目視にて観察した。この結果、表層欠陥指数が2.4以下であればコイル欠陥が合格レベルであった。このことから、表面品質に関して、表層欠陥指数が2.4以下の鋳片を〇、これより大きければ×とした。
【0068】
内部品質に関し、鋳造後の鋳片の横断面をピクリン酸でエッチングし、プリントに転写し表層から60mmまでの欠陥を観察した。そして、横断面1m
2当たりの疵個数を記録した。ついで、各鋳片の内部欠陥指数を求めた。具体的には、後述する発明例1における内部欠陥指数を1.0とし、各鋳片の横断面1m
2当たりの疵個数を発明例1における1m
2当たりの疵個数で除算した値を各鋳片の内部欠陥指数とした。ついで、各鋳片を冷間圧延し、冷間圧延後のコイルにおける内部欠陥起因の欠陥発生状況をコイル表面の目視検査にて確認した。この結果、内部欠陥指数が2.3以下であればコイル欠陥が合格レベルであった。このことから、内部品質に関して、内部欠陥指数が合格レベルの2.3以下の鋳片を〇、これより大きければ×とした。結果を
図7及び
図8に示す。
図7は長辺側の表面におけるデンドライト角度と鋳片品質(表面品質)との相関を示すグラフである。
図8は短辺側の表面におけるデンドライト角度と鋳片品質(表面品質及び内部品質)との相関を示すグラフである。
図7及び
図8において、横軸は長辺側(または短辺側)の表面からの距離(mm)すなわち深さを示し、縦軸は長辺側(または短辺側)のデンドライト角度θ1、θ2を示す。
【0069】
一次デンドライト凝固組織が長辺側の表面の法線となす角度、すなわち長辺側のデンドライト角度θ1(°)は、鋳片の表層欠陥指数と相関がある。このため、
図7では、表層欠陥指数の合否判定をプロットした。長辺側のデンドライト角度θ1(°)と鋳片表面品質の合否関係から、θ1>--0.909×D1+22.9(ここで、D1は長辺側の表面からの距離、すなわち表面からの深さ(mm))であると鋳片品質が不合格となる。これは、鋳型内電磁撹拌あるいは浸漬ノズル吐出反転流による流動が大きくなり、パウダー巻き込みの頻度が急激に増加するためである。一方で、θ1<-0.909×D1+12.9であると鋳片品質が不合格となる。これは、溶鋼流動が小さいため、介在物や気泡が凝固シェルに捕捉される頻度が急激に増加するためである。これらの結果によれば、長辺側のデンドライト角度θ1が-0.909×D1+12.9≦θ1≦-0.909×D1+22.9を満たせば鋳片表面品質が良好となる。
【0070】
一次デンドライト凝固組織が短辺側の表面の法線となす角度、すなわち短辺側のデンドライト角度θ2(°)は、鋳片の表層欠陥指数及び内部欠陥指数と相関がある。このため、
図8では、表層欠陥指数及び内部欠陥指数の合否判定をプロットした。短辺側のデンドライト角度θ2(°)と鋳片表面品質の合否関係から、θ2>1.79×D2-6.79(ここで、D2は短辺側の表面からの距離、すなわち表面からの深さ(mm))であると鋳片表面品質が不合格となる。これは、吐出流が鋳片の短辺側のシェルに衝突して発生する上昇流が過大で長辺面での撹拌流の阻害要因となるからである。つまり、長辺面でのデンドライト角度が小さくなり、シェルに介在物や気泡が捕捉される頻度が急激に増加するためである。一方、θ2<1.79×D2-26.8であると鋳片内部品質が不合格となる。これは、吐出流が鋳片の短辺側のシェルに衝突して発生する下降流が過大で、鋳片内部に多くの気泡や介在物が流入し、内部品質が急激に悪化するためである。これらの結果によれば、短辺側のデンドライト角度θ2が1.79×D2-26.8≦θ2≦1.79×D2-6.79を満たせば鋳片表面品質及び鋳片内部品質が良好となる。
【0071】
したがって、鋳片の表面からの距離、すなわち鋳片の厚み方向の深さに対して適正なデンドライト角度が変化する。長辺側の表面については、当該表面からの距離(深さ)が大きくなると、電磁撹拌装置とシェル界面(着目している位置)との距離が大きくなり、磁場強度が弱まる。このため、長辺側の表面からの距離とデンドライト角度の関係は負の傾きを持つ。
【0072】
短辺側の表面については、主に、浸漬ノズルからの吐出流が短辺側の鋳型に衝突することによりデンドライト角度が形成される。吐出流が短辺側の鋳型に衝突した後、湯面方向に流れる上昇流(ここでは負のデンドライト角度)とシェル下端方向に流れる下降流(ここでは正のデンドライト角度)となる。ここで、鋳型内の上部(シェル厚が比較的薄い部位)において上昇流、鋳型内の下部(シェル厚が比較的厚い部位)において下降流が形成されることが理想的である。また、これらの上昇流や下降流のいずれが大きすぎても、鋳片の表面品質や内部品質に悪影響を与える。これらのことから、短辺側の表面からの距離に対するデンドライト角度は正の傾きを持つ。
【0073】
したがって、以下の(条件1)及び(条件2)のうち、少なくとも一方、好ましくは両方が満たされることで、鋳片品質が良好となる。
(条件1)連続鋳造鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmの位置における凝固組織が以下の式(1)を満たす。
-0.909×D1+12.9≦θ1≦-0.909×D1+22.9 (1)
θ1:一次デンドライト凝固組織が長辺側の表面から鋳片内部に向かう法線となす角度(°)の平均値
D1:長辺側の表面からの距離(mm)
(条件2)連続鋳造鋳片の短辺側の表面から深さ1mmから15mmの位置における凝固組織が以下の式(2)を満たす。
1.79×D2-26.8≦θ2≦1.79×D2-6.79 (2)
θ2:一次デンドライト凝固組織が短辺側の表面から鋳片内部に向かう法線となす角度(°)の平均値
D2:短辺側の表面からの距離(mm)
【0074】
上述した条件1、2は普遍的な指針である。したがって、操業者は、上述した(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方が満たされるように、電磁力発生装置の設置位置、浸漬ノズルの位置及び形状、鋳片の厚み、幅、鋳造速度等の諸条件を適宜調整すればよい。
【0075】
したがって、(条件1)及び(条件2)は、シェルに取り込まれる介在物や気泡の除去に必要な溶鋼流動のみならず、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置の組み合わせにおいて浸漬ノズルからの吐出流を表面欠陥及び内部欠陥を低減できるよう安定的に制御し、鋳型内全体の流動を最適化できる指針となる。
【0076】
<4.鋳片>
以上説明した通り、本実施形態に係る鋳片は、上述した(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方、好ましくは両方を満たす。このような鋳片は、表面品質及び内部品質のいずれも優れている。
【0077】
<5.鋳片の製造方法>
操業者は、上述した(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方が満たされるように、電磁力発生装置の設置位置、浸漬ノズルの位置及び形状、鋳片の厚み、幅、鋳造速度等の諸条件を適宜調整すればよい。具体的には以下の指針に従って操業を行うことで、本実施形態に係る鋳片を製造することができる。
【0078】
鋳造速度が大きくなるほど浸漬ノズルの吐出孔からの溶鋼噴流(吐出流)が強くなる。この吐出流は鋳型短辺へ衝突し上昇流と下降流に分かれ鋳片品質へ悪影響を与えるが、鋳型内の電磁撹拌装置や電磁ブレーキ装置などにより制御できる。設備上、電磁撹拌強度が十分でなかったり、電磁ブレーキ装置が使用できなかったりする場合は、鋳造速度を低下させて鋳片品質を確保する。つまり、(条件1)及び(条件2)の少なくとも一方が満たされるようにする。電磁撹拌に関しては、磁場強度を大きくする程、撹拌流が顕著となり、長辺側のデンドライト角度θ1を大きくすることができる。
【0079】
電磁ブレーキに関しては、磁場強度を大きくする程、吐出孔からの溶鋼噴流(吐出流)を弱めることができる。これにより鋳型短辺に衝突し形成される上昇流および下降流を小さくすることができ、短辺のデンドライト角度θ2を適正範囲に収めることができる。つまり、(条件2)が満たされるように電磁ブレーキ装置を調整することができる。
【0080】
なお、電磁ブレーキ装置の配置について、磁極が一対のみであると磁場強度を大きくしていった際に吐出孔付近へ過大な静磁場が印加され、浸漬ノズル付近での極端な上昇流が形成し電磁撹拌を阻害する場合がある。このため、電磁ブレーキは幅方向に2対以上配置されていることが好ましい(すなわち電磁ブレーキ装置を
図1~
図6のように配置することが好ましい)。
【0081】
浸漬ノズルの吐出孔の角度(水平方向とのなす角度)は、小さいと吐出噴流(吐出流)が顕著な上昇流となり電磁撹拌を阻害し易く、長辺側のデンドライト角度θ1が小さくなりやすい。また、吐出孔角度が大きすぎると吐出噴流が下降流となり易く短辺側のデンドライト角度θ2が大きくなりやすく、内部品質が悪化しやすくなる。
【0082】
これらの影響は電磁撹拌、電磁ブレーキを含む鋳型内における溶鋼の流動解析によるシミュレーションによっても推測することができる。
【実施例0083】
次に、本実施形態の実施例を説明する。本実施例では、鋳型は銅製水冷式(水冷銅鋳型)で長さが900mmの矩形断面を有する。連続鋳造機の形式は垂直曲げ式とした。溶鋼の化学成分は、溶鋼の総質量に対して、質量%でCが0.0015%から0.002%、Siが0.015%から0.02%、Mnが0.5%から0.6%、Pが0.02%から0.025%、Sが0.007%から0.009%、Nが0.002%から0.0035%、Tiが0.005%から0.01%、Nbが0.005から0.01%、残部が鉄及び不純物とした。二次冷却の比水量は1.5~2.5L/kg-steelとし鋳造を行った。浸漬ノズルのアルゴンガスの吹き込み量は7NL/minとした。電磁撹拌コアの上端は鋳型の上端から100mmとし、電磁撹拌コア上端から下端までの高さ(鋳造方向距離)は250mmとした。電磁ブレーキコアの上端は鋳型の上端から500mmとし、電磁ブレーキコア上端から下端までの高さは200mmとした。浸漬ノズルの吐出孔は2孔とし、その向きは、水平面に対する角度を5~45°の下向きとした。その他の条件は表1に記載した。
【0084】
ここで、長辺側のデンドライト角度θ1の測定法について述べる。鋳造後の鋳片を切断し、厚み、幅方向の横断サンプルを採取し研磨を行った後、凝固組織を現出するピクリン酸腐食液にてエッチングを行った。ついで、横断面を写真撮影し、鋳片の長辺側の表面から深さ1mmから12mmまでの位置に存在する一次デンドライト凝固組織と鋳片表面の法線(鋳片内部に向かう法線)とのなす角度を測定した。鋳片幅方向の測定位置としては、鋳片全幅に対し1/4位置、1/2位置、3/4位置のそれぞれを中心として幅方向に±100mmの範囲で少なくとも20か所測定し、それぞれの幅位置における平均値を求めた。さらに、それらの平均値を長辺側のデンドライト角度θ1とした。なお、鋳片の表面から深さ1~6mmおよび7~12mmのそれぞれで最低一か所ずつ平均値を求めた。また、デンドライト角度θ1の正負は電磁撹拌の回転方向に基づいて決定した。すなわち、鋳造方向の上流側から幅方向を含む断面を見て電磁撹拌の回転方向が時計回りであれば、一次デンドライト凝固組織と鋳片表面の法線となす角度についても時計回りを正とした。
【0085】
次に、短辺側のデンドライト角度の求め方について説明する。鋳造後の鋳片を切断し、厚み1/2位置において短辺を含む幅方向及び鋳造方向の縦断サンプルを採取し、研磨を行った後、凝固組織を現出するピクリン酸腐食液にてエッチングを行った。ついで、縦断面を写真撮影し、鋳片の短辺側の表面から深さ1mmから15mmまでの位置に存在する一次デンドライト凝固組織と短辺側の表面の法線(鋳片内部に向かう法線)となす角度を測定した。鋳造方向200mmの範囲で少なくとも20か所測定し、平均値を求めた。これをデンドライト角度θ2とした。なお、鋳片の表面から深さ1~7mmおよび8~15mmのそれぞれで最低一か所ずつ平均値を求めた。なお、デンドライト角度の正負は鋳造方向に基づいて決定した。すなわち、短辺側の表面の法線に対して鋳造方向の上流側を正とした。
【0086】
鋳片品質は以下の手順で求めた。鋳造後、トーチカットした鋳片の表面を目視にて観察を行い、鋳片表面1m2当たりの疵個数を記録した。ついで、各鋳片の表層欠陥指数を求めた。具体的には、発明例1における表層欠陥指数を1.0とし、各鋳片の表面1m2当たりの疵個数を発明例1における1m2当たりの疵個数で除算した値を各鋳片の表層欠陥指数とした。ついで、各鋳片を冷間圧延し、冷間圧延後のコイルの表面を目視にて観察した。コイルの表面の疵の発生状況と、表層欠陥指数との対比の結果、表層欠陥指数が2.4超であれば評価を×、2.4以下であれば評価を△、1.8以下であれば評価を〇とした。さらに表層欠陥指数が1.3未満であればコイル表面品質が非常に良好であり、特に優れた評価として◎とした。
【0087】
内部品質の評価は以下の方法で行った。すなわち、鋳造後の鋳片の横断面をピクリン酸でエッチングし、プリントに転写し表層から60mmまでの欠陥を観察した。そして、横断面1m2当たりの疵個数を記録した。ついで、各鋳片の内部欠陥指数を求めた。具体的には、後述する発明例1における内部欠陥指数を1.0とし、各鋳片の横断面1m2当たりの疵個数を発明例1における1m2当たりの疵個数で除算した値を各鋳片の内部欠陥指数とした。ついで、各鋳片を冷間圧延し、冷間圧延後のコイルにおける内部欠陥起因の欠陥発生状況をコイル表面の目視検査で確認した。コイルの欠陥発生状況と、内部欠陥指数との対比の結果、内部欠陥指数が2.3超であれば評価を×とし、2.3以下であれば合格レベルであり、評価を〇とした。さらに内部欠陥指数が1.6未満であればコイル品質が非常に良好であり、特に優れた評価として◎とした。表面と内部を併せた総合評価として、表層欠陥指数及び内部欠陥指数の評価がいずれも◎または〇または△(つまり△以上)であれば合格とした。
【0088】
【0089】
発明例1~6はいずれも(条件1)、(条件2)を満たしていた。このため、発明例1~6では表層品質および内部品質に優れた鋳片が得られた。発明例7は本発明の(条件2)を満たすものである。表層により近い長辺のデンドライト角度が本発明より大きく、鋳型内へ添加されるモールドパウダーの巻き込みがやや増加したため発明例1~6に比べ表層品質は低下したものの、表面検査が厳格でない製品に対しては合格レベルであった。短辺のデンドライト角度については、本発明の範囲内であり内部欠陥指数は基準値以内となり、これらを総合して合格となった。
【0090】
比較例1では、長辺側のデンドライト角度θ1がいずれの位置においても(条件1)の範囲外であった。そのため凝固シェル表層に捕捉される気泡または介在物が増加し、表層欠陥指数が基準を超えた。また、表面から8~15mm位置における短辺側のデンドライト角度θ2が(条件2)の上限値より大きく、鋳片内部へ流入する気泡および介在物が増加したため内部欠陥指数が基準を超えた。これらを総合して、不合格となった。
【0091】
比較例2では、長辺側の表面1~6mm位置でのデンドライト角度が(条件1)の下限値より小さかった。なお、比較例1と比較して表層欠陥指数は小さく、評価は△となっている。ただし、短辺側のデンドライト角度θ2は、いずれの位置においても(条件2)の範囲外であり、鋳片内部への溶鋼流動が著しく大きい。そのため、鋳片内部へ流入する介在物および気泡が増加し、内部欠陥指数が基準を超えた。これらを総合して不合格となった。
【0092】
比較例3では、長辺側のデンドライト角度がいずれの位置においても(条件1)の範囲外であった。そのため、比較例1と同様に凝固シェルに捕捉される気泡または介在物が増加し、表層欠陥指数が基準を超えた。また、短辺側のデンドライト角度θ2が、いずれの位置においても(条件2)の範囲外であり、短辺において鋳片下部から上部方向へ向かう流動が著しく大きくなった。このため、内部欠陥指数は基準以内であるものの、この流動により長辺の電磁撹拌流動が阻害されて長辺のデンドライト角度に影響を与えた。これらを総合して不合格となった。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。