(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047740
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】保護膜形成フィルム、保護膜形成用シート、保護膜形成用複合シート、リワーク方法および装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230330BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230330BHJP
C09J 133/08 20060101ALI20230330BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 P
C09J7/38
C09J133/08
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156837
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 茂之
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑耶
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA13
4J004AB01
4J004AB06
4J004AB07
4J004BA02
4J004DB02
4J004FA05
4J004FA08
4J040DF061
4J040EC062
4J040HC12
4J040KA17
4J040LA06
4J040MA04
4J040NA20
5F063AA16
5F063AA18
5F063BA20
5F063DF12
5F063DG24
5F063EE22
5F063EE25
5F063EE29
5F063EE42
5F063EE43
5F063EE44
5F063EE50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】貼付後に傷が生じた保護膜形成フィルムをリワークする場合であっても、リワーク性が良好な保護膜形成フィルム、これを備える保護膜形成用シート及び保護膜形成用複合シート並びにリワーク方法及び半導体装置等の装置の製造方法を提供する。
【解決手段】保護膜を形成するための保護膜形成フィルム10であって、直角引き裂き試験における保護膜形成フィルム10が破断した時の伸び率が23℃において200%以下であり、シリコンウエハ(ワーク6)の#2000研磨面に保護膜形成フィルム10を貼付してから1時間後のシリコンウエハへの粘着力が23℃において20N/25mm以下である。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護膜を形成するための保護膜形成フィルムであって、
直角引き裂き試験における前記保護膜形成フィルムが破断した時の伸び率が23℃において200%以下であり、
シリコンウエハの#2000研磨面に前記保護膜形成フィルムを貼付してから1時間後の前記シリコンウエハへの粘着力が23℃において20N/25mm以下である保護膜形成フィルム。
【請求項2】
前記保護膜形成フィルムが、熱硬化性またはエネルギー線硬化性である請求項1に記載の保護膜形成フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保護膜形成フィルムと、前記保護膜形成フィルムの少なくとも一方の主面に剥離可能に配置された剥離フィルムと、を有する保護膜形成用シート。
【請求項4】
請求項1または2に記載の保護膜形成フィルムと、前記保護膜形成フィルムを支持する支持シートと、を有する保護膜形成用複合シート。
【請求項5】
請求項1または2に記載の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程において、貼付された保護膜形成フィルムに傷が発見された場合に、傷がある保護膜形成フィルムをワークから剥がす工程と、を有するリワーク方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程において、貼付された保護膜形成フィルムに傷が発見された場合に、傷がある保護膜形成フィルムをワークから剥がす工程と、
ワークから剥がした保護膜形成フィルムとは別の、請求項1または2に記載の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程と、
保護膜形成フィルムを保護膜化して保護膜付きワークを得る工程と、
保護膜付きワークを加工して、保護膜付きワーク加工物を得る工程と、を有する装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜形成フィルム、保護膜形成用シート、保護膜形成用複合シート、リワーク方法および装置の製造方法に関する。特に、半導体ウエハ等のワークまたはワークを加工して得られる半導体チップ等の加工物を保護するために好適に使用される保護膜形成フィルム、当該保護膜形成フィルムを備える保護膜形成用シートおよび保護膜形成用複合シート、並びに、リワーク方法および、半導体チップ等を備える装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フリップチップボンディングと呼ばれる実装法により半導体装置を製造することが行われている。この実装法では、バンプ等の凸状電極が形成された回路面を有する半導体チップを実装する際に、半導体チップの回路面と基板のチップ搭載面とが対向するように半導体チップを反転(フェイスダウン)させて、半導体チップの回路面と基板のチップ搭載面とをワイヤレスで接合している。したがって、半導体チップの回路面とは反対側の面(回路が形成されていない面。以降、裏面とも言う。)は外部に露出する。
【0003】
半導体チップの裏面が外部に露出していると、その後の工程において搬送時等の衝撃に起因する割れや欠け等のチッピングが生じる恐れがある。そこで、このようなチッピングから半導体チップを保護するために、半導体チップの裏面には、有機材料から構成される硬質の樹脂膜が保護膜として形成されることが多い。
【0004】
このような保護膜は、その前駆体である未硬化の樹脂フィルム(以降、保護膜形成フィルムとも言う。)を硬化させることにより形成される。保護膜形成フィルムは半導体ウエハの裏面に貼付され、保護膜形成フィルムの硬化前または硬化後に、半導体ウエハと保護膜形成フィルムまたは保護膜とがダイシングされて複数の小片に分割される(個片化される)。分割された小片は、裏面に保護膜を有する半導体チップ(保護膜付き半導体チップ)である。
【0005】
しかしながら、保護膜形成フィルムを半導体ウエハに貼付する工程においては、貼付すべき位置からずれて保護膜形成フィルムが貼付される場合、貼付された保護膜形成フィルムにシワが生じる場合等の保護膜形成フィルムが適切に半導体ウエハに貼付されない場合がある。
【0006】
半導体ウエハに保護膜形成フィルムが適切に貼付されていない場合、保護膜付きチップの収率が低下するという問題がある。そこで、保護膜形成フィルムが適切に貼付されていない場合には、当該保護膜形成フィルムを半導体ウエハから剥がして、半導体ウエハを、保護膜形成フィルムが貼付される前の状態に戻すことが行われる。これはリワークと呼ばれる。その後、剥がした保護膜形成フィルムとは別の保護膜形成フィルムを半導体ウエハに貼付することが行われる。
【0007】
リワークに適した保護膜形成フィルムとして、特許文献1は、所定のアクリル重合体を含み、厚さ200μmにおける破断伸度が所定の範囲内である保護膜形成用シートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者は、貼付された保護膜形成フィルムに傷が生じて保護膜形成フィルムの厚さが均一でない部分が生じている場合、リワークを行うために、この保護膜形成フィルムを半導体ウエハから剥がすと、保護膜形成フィルムの一部が残渣として半導体ウエハ上に残ることを見出した。このような残渣が生じると、半導体ウエハの洗浄が必要になり、工程数が増える等の問題があった。
【0010】
さらに、本発明者は、このような残渣が、保護膜形成フィルムの傷近傍における厚さの不均一性に起因する保護膜形成フィルムの伸びおよび破断による残渣であることを見出した。
【0011】
従来、保護膜形成フィルムの位置ズレ、シワの発生等に基づくリワークでは、厚さが均一な保護膜形成フィルムを剥がすため、保護膜形成フィルムの半導体ウエハへの粘着力の高さに起因する残渣が問題となっていた。すなわち、保護膜形成フィルムに傷がある場合と、傷がない場合とでは、残渣が生じる原因が異なる。
【0012】
したがって、特許文献1に記載の保護膜形成用シートは、傷が生じている保護膜形成用シートをリワークする場合には、良好なリワーク性を発揮できず、残渣が生じてしまうという問題があった。
【0013】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、貼付時または貼付後に傷が生じた保護膜形成フィルムをリワークする場合であっても、リワーク性が良好な保護膜形成フィルム、これを備える保護膜形成用シートおよび保護膜形成用複合シート、並びに、リワーク方法および半導体装置等の装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の態様は、以下の通りである。
[1]保護膜を形成するための保護膜形成フィルムであって、
直角引き裂き試験における保護膜形成フィルムが破断した時の伸び率が23℃において200%以下であり、
シリコンウエハの#2000研磨面に保護膜形成フィルムを貼付してから1時間後のシリコンウエハへの粘着力が23℃において20N/25mm以下である保護膜形成フィルムである。
[2]保護膜形成フィルムが、熱硬化性またはエネルギー線硬化性である[1]に記載の保護膜形成フィルムである。
[3][1]または[2]に記載の保護膜形成フィルムと、保護膜形成フィルムの少なくとも一方の主面に剥離可能に配置された剥離フィルムと、を有する保護膜形成用シートである。
[4][1]または[2]に記載の保護膜形成フィルムと、保護膜形成フィルムを支持する支持シートと、を有する保護膜形成用複合シートである。
[5][1]または[2]に記載の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程において、貼付された保護膜形成フィルムに傷が発見された場合に、傷がある保護膜形成フィルムをワークから剥がす工程と、を有するリワーク方法である。
[6][1]または[2]に記載の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程において、貼付された保護膜形成フィルムに傷が発見された場合に、傷がある保護膜形成フィルムをワークから剥がす工程と、
ワークから剥がした保護膜形成フィルムとは別の、[1]または[2]に記載の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程と、
保護膜形成フィルムを保護膜化して保護膜付きワークを得る工程と、
保護膜付きワークを加工して、保護膜付きワーク加工物を得る工程と、を有する装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、貼付時または貼付後に傷が生じた保護膜形成フィルムをリワークする場合であっても、リワーク性が良好な保護膜形成フィルム、これを備える保護膜形成用シートおよび保護膜形成用複合シート、並びに、リワーク方法および半導体装置等の装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが貼付されたワークの一例を示す断面模式図である。
【
図2A】
図2Aは、ワークに貼付されている保護膜形成フィルムに傷部が生じていることを示す斜視模式図である。
【
図3A】
図3Aは、従来例に係る保護膜形成フィルムが貼付されたワークから、保護膜形成フィルムを剥がし始めた直後の様子を示す平面模式図である。
【
図4A】
図4Aは、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが貼付されたワークから、保護膜形成フィルムを剥がして剥がし界面が傷部に達した様子を示す平面模式図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る保護膜形成用シートの一例を示す断面模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る保護膜形成用複合シートの一例を示す断面模式図である。
【
図7A】
図7Aは、本実施形態に係る保護膜形成用シートをワークの裏面に貼付する工程を説明するための断面模式図である。
【
図7B】
図7Bは、本実施形態に係る保護膜形成用複合シートをワークの裏面に貼付する工程を説明するための断面模式図である。
【
図8】
図8は、保護膜付きワークをダイシングして保護膜付きチップを得る工程を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、図面を用いて詳細に説明する。まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
【0018】
ワークは、本実施形態に係る保護膜形成用シートまたは保護膜形成用複合シートが備える保護膜形成フィルムが貼付されて加工される板状体である。ワークとしては、たとえば、ウエハ、パネルが挙げられる。具体的には、半導体ウエハ、半導体パネルが挙げられる。ワーク加工物としては、たとえば、ウエハを個片化して得られるチップが挙げられる。具体的には、半導体ウエハを個片化して得られる半導体チップが例示される。
【0019】
ウエハ等のワークの「表面」は、回路、バンプ等の凸状電極等が形成された面を指し、「裏面」は回路、電極(たとえばバンプ等の凸状電極)等が形成されていない面を指す。保護膜は、ウエハおよびチップの裏面に形成される。
【0020】
リワークは、別の保護膜形成フィルムを再度ワークに貼付することを目的として、ワークに貼付された保護膜形成フィルムを剥がすことをいう。保護膜形成フィルムの良好なリワーク性とは、保護膜形成フィルムを剥がす際に、ワーク上に保護膜形成フィルムを残存させることなく、剥がすことができる性質のことをいう。
【0021】
ウエハの個片化は、ウエハを回路毎に分割しチップを得ることをいう。
【0022】
本明細書において、たとえば「(メタ)アクリレート」という表記は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似表記についても同様である。
【0023】
「エネルギー線」は、紫外線、電子線等を指し、好ましくは紫外線である。
【0024】
剥離フィルムは、粘着剤層または保護膜形成フィルムを剥離可能に支持するフィルムである。フィルムとは、厚みを限定するものではなく、シートを含む概念で用いる。
【0025】
保護膜形成フィルム用組成物等の組成物に関する説明における質量比は、有効成分(固形分)に基づいており、特段の説明が無い限り、溶媒は算入しない。
【0026】
(1.保護膜形成フィルム)
本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、ワークに貼付され、保護膜化することにより、ワークまたはワークの加工物を保護するための保護膜を形成する。
【0027】
「保護膜化する」とは、保護膜形成フィルムを、ワークまたはワークの加工物を保護するのに十分な特性を有する状態にすることである。具体的には、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが硬化性である場合には、「保護膜化する」とは、未硬化の保護膜形成フィルムを硬化物にすることをいう。換言すれば、保護膜化された保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムの硬化物であり、保護膜形成フィルムとは異なる。
【0028】
硬化性保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせた後、保護膜形成フィルムを硬化させることにより、保護膜をワークに強固に接着でき、耐久性を有する保護膜を形成できる。
【0029】
一方、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが硬化性成分を含有せず非硬化の状態で使用される場合には、本実施形態に係る保護膜形成フィルムがワークに貼付された時点で、当該保護膜形成フィルムは保護膜化される。換言すれば、保護膜化された保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムと同じである。
【0030】
高い保護性能が求められない場合には、保護膜形成フィルムを硬化させる必要がないので、保護膜形成フィルムの使用が容易である。
【0031】
また、保護膜形成フィルムは、常温(23℃)で粘着性を有するか、加熱により粘着性を発揮することが好ましい。これにより、保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせるときに両者を貼合できる。したがって、保護膜形成フィルムを硬化させる前に位置決めを確実に行うことができる。
【0032】
保護膜形成フィルムは1層(単層)から構成されていてもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。保護膜形成フィルムが複数層を有する場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層を構成する層の組み合わせは特に制限されない。
【0033】
本実施形態では、保護膜形成フィルムは1層(単層)であることが好ましい。1層の保護膜形成フィルムは厚みに関して高い精度が得られるため生産が容易である。また、保護膜形成フィルムが複数層から構成されると、層間の密着性および各層の伸縮性を考慮する必要があり、これらに起因して被着体からの剥離が発生するリスクがある。保護膜形成フィルムが1層である場合には、上記のリスクを低減でき、設計の自由度も高まる。また、温度変化が発生する工程(リフロー処理時や装置の使用時)で、層間の熱伸縮性の違いから層間剥離が発生するリスクも低減できる。
【0034】
保護膜形成フィルムの厚みは、特に制限されないが、好ましくは100μm以下、70μm以下、45μm以下、30μm以下である。また、保護膜形成フィルムの厚みは、好ましくは5μm以上、10μm以上、15μm以上である。保護膜形成フィルムの厚みが上記範囲にあると、得られる保護膜の保護性能が良好になる。
【0035】
なお、保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルム全体の厚みを意味する。たとえば、複数層から構成される保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルムを構成するすべての層の合計の厚みを意味する。
【0036】
本実施形態に係る保護膜形成フィルムはワークの裏面を保護するために貼付される。
図1に、保護膜形成フィルムが裏面に貼付されたワークを示す。当該ワークの裏面側(
図1では下方側)に保護膜形成フィルム10が貼付され、ワーク6の表面側(
図1では上方側)に凸状電極6bが形成されている。ワーク6の表面側には回路が形成されており、凸状電極6bは回路と電気的に接続するように形成されている。
【0037】
保護膜形成フィルムがワークに貼付される際には、通常、後述する保護膜形成用シートまたは保護膜形成用複合シートの形態で、保護膜形成フィルムの主面を保護するために当該主面上に配置される剥離フィルムを剥離してから、保護膜形成フィルムの一方の主面がワークの裏面に貼付される。
【0038】
なお、貼付後には、特に保護膜形成用シートにおいては、ワークの裏面に接している主面と反対側の主面は外部に露出していることが多い。
【0039】
保護膜形成フィルムが貼付されたワークは外観検査に供される。この外観検査において、保護膜形成フィルムに外観不良が生じていないかどうかが検査される。具体的には、貼付された保護膜形成フィルムの位置ズレ、シワの発生等が生じていないかどうかが検査される。外観不良が生じていれば、保護膜形成フィルムはリワークされる。
【0040】
ところで、保護膜形成フィルムが硬化性である場合、保護膜形成フィルムは保護膜に比べて軟質である。
【0041】
したがって、保護膜形成フィルムの貼付時に、硬質な小異物が付着したラミネートロール等で押圧したり、貼付直後に、貼付装置等と保護膜形成フィルムが接触したりすると、保護膜形成フィルムに傷(たとえば、凹み)が生じやすい。
【0042】
また、ワークに貼付された保護膜形成フィルムは、保護膜化(たとえば、硬化)する前に、他の工程に供される場合、または、ある工程から別の工程まで搬送される場合がある。そのため、他の工程で用いられる装置、搬送装置等と保護膜形成フィルムが接触すると、同様に、保護膜形成フィルムに傷が生じやすい。
【0043】
このような傷が発生した保護膜形成フィルムを保護膜化すると、傷がそのまま保護膜に持ち込まれ、保護膜の外観不良につながる。その結果、保護膜付きワーク加工物(たとえば、保護膜付きチップ)の収率が低下する。
【0044】
したがって、保護膜形成フィルムに傷が生じている場合についても、保護膜形成フィルムが貼付されたワークの外観検査において、保護膜形成フィルムの外観不良として判定される必要がある。
【0045】
その結果、保護膜形成フィルムに傷が生じている場合には、傷が生じている保護膜形成フィルムをワークから剥がし、傷が生じていない別の保護膜形成フィルムをワークに貼付する。すなわち、傷が生じている保護膜形成フィルムをリワークする。これにより、保護膜の外観不良が生じにくくなり、チップの収率の低下を抑制することができる。
【0046】
したがって、保護膜形成フィルムに傷が生じている場合であっても、リワーク性が良好であることが求められる。
【0047】
しかしながら、傷が生じている従来の保護膜形成フィルムをワークから剥がす場合には、下記に示す特有の問題が生じる。
【0048】
図2Aは、ワーク6に貼付されている従来の保護膜形成フィルム100に傷部12が生じていることを示す斜視模式図(
図2A)である。
図2Bは、
図2AにおけるIIB-IIB線に沿った断面模式図(
図2B)である。
【0049】
図2Aに示す傷部12は、
図2Bに示すように、保護膜形成フィルム100の表面が凹んでまたは削られて形成された傷であり、保護膜形成フィルム100を貫通しない程度の傷である。したがって、傷が形成された箇所の保護膜形成フィルム100の厚さT1は、傷が形成されていない箇所の保護膜形成フィルム100の厚さTよりも小さい。
【0050】
図2AおよびBに示す保護膜形成フィルム100を剥がす(リワークする)場合、たとえば、保護膜形成フィルム100に剥がし用テープを貼付し、剥がし用テープを所定の方向に引っ張ることにより、保護膜形成フィルム100をワーク6から引き剥がす。
【0051】
図3Aは、保護膜形成フィルム100と剥がし用テープ30とが貼付されたワーク6から、保護膜形成フィルム100を剥がし始めた直後の様子を示す平面模式図である。
図3Bは、
図3AにおけるIIIB-IIIB線に沿った断面模式図である。
【0052】
図3AおよびBにおいて、保護膜形成フィルム100を所定の方向(
図3AおよびBでは、左側から右側に)に向かって引き剥がす。保護膜形成フィルム100の剥がし界面がほぼ傷部12に達すると、傷部12の厚さは傷部が生じていない箇所の厚さに比べて小さいので、引き剥がしに対抗して保護膜形成フィルム100の内部に発生した応力が傷部12近傍に集中する。
【0053】
さらに引き剥がしが進むと、
図3CおよびDに示すように、集中した応力により、傷部12近傍が伸び始める。一方、保護膜形成フィルム100において、傷部12が形成されていない他の箇所は厚さが均一であることから、引き剥がしにより、他の箇所全体に応力が掛かるため、他の箇所が伸び始める前にワーク6から引き剥がされ、引き剥がしが進行しやすい。その結果、傷部12以外の箇所はワーク6からの引き剥がしが進行するものの、傷部12近傍はワーク6から引き剥がされずに伸び続ける。
【0054】
傷部12近傍の伸びが限界に達すると、傷部12近傍が破断する。そして、
図3EおよびFに示すように、傷部12近傍は剥がされる保護膜形成フィルム100から切り離されて、ワーク上に残渣14として残される。傷部12近傍が切り離された後は、保護膜形成フィルム100については、厚さの異なる部分である傷部12近傍が切り離されたため、保護膜形成フィルム100の全体の厚さが均一となる。そのため、保護膜形成フィルム100に伸びが生じにくくなり、引き剥がしが良好に進行する。
【0055】
なお、本実施形態では、傷部のサイズは、たとえば、長さが5mm以上であり、深さtが10μm以上であり、かつ保護膜形成フィルムの厚さTから傷部の深さtを引いた値T1が5μm以上である。すなわち、T1=T-t≧5μmである。このような傷部が保護膜形成フィルムに形成されると、上記のような剥がし時の残渣が発生しやすい。
【0056】
以上より、傷部が形成された保護膜形成フィルムをリワークする場合、保護膜形成フィルムを剥がすと、リワーク後のワーク上に保護膜形成フィルムの残渣が生じてしまう。ワークに再度保護膜形成フィルムを貼付する場合には、残渣を除去する必要があるため、余分な工程が増えてしまうという問題がある。
【0057】
これに対し、本実施形態に係る保護膜形成フィルムは後述する物性を有しているので、傷部が形成された保護膜形成フィルムをリワークする場合であっても、リワーク時に残渣が生じにくく、かつワークの破損が抑制される。
【0058】
(1.1.直角引き裂き試験での破断時の伸び率)
本実施形態では、23℃において、直角引き裂き試験において、保護膜形成フィルムが破断した時の伸び率が200%以下である。破断時の伸び率は、JIS K 7128-3:1998に準じて測定される。すなわち、保護膜形成フィルムの破断時の伸び率は、JIS K 7128-3:1998に規定されている測定方法(直角形引裂法)と同様に測定されるが、測定条件が異なっていてもよい。
【0059】
具体的な測定方法は実施例において説明する。試験片は、JIS K 7128-3:1998の
図2に示される形状を有しており、試験片の中央部は、90°の角度をなす凹んだ形状である。直角引き裂き試験は、試験片の両端を引っ張ることにより行われる。
【0060】
したがって、直角引き裂き試験は、傷部が形成された保護膜形成フィルムを剥がす際に、傷部近傍に応力が掛かる態様に類似している。すなわち、伸び率が上記の範囲内であることにより、傷部が形成された保護膜形成フィルムを剥がす際に、破断に至るまでの保護膜形成フィルムの伸びを小さくすることができる。換言すれば、通常の引張り試験は、傷部近傍に応力が掛かる態様に類似していないので、通常の引張り試験における破断時の伸び率は、上記の直角引き裂き試験での破断時の伸び率とは直接的に関連しない。
【0061】
図3AおよびBと同様に、保護膜形成フィルム10の剥がし界面がほぼ傷部12に達すると、傷部12近傍に応力が集中する。しかしながら、本実施形態に係る保護膜形成フィルム10では、傷部12近傍の保護膜形成フィルム10が伸び始めても、伸びが大きくなる前に、傷部12近傍を起点とする破壊が保護膜形成フィルム10の反対側の主面に達して、傷部12近傍の保護膜形成フィルム10が破断する。
図4AおよびBに示すように、破断箇所の周辺の厚みは、他の箇所の厚みとほぼ同じになり、応力が集中する箇所が存在しない。また、破断箇所は、保護膜形成フィルム10の一部分であり、保護膜形成フィルム10から切り離されていない。その結果、残渣が生じることなく、保護膜形成フィルム10の引き剥がしが良好に進行する。換言すれば、傷部12の形成により保護膜形成フィルム10のリワークが必要になった場合であっても、当該保護膜形成フィルム10のリワーク性は良好である。
【0062】
破断時の伸び率は150%以下であることが好ましく、120%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましい。破断時の伸び率は低いほど好ましいが、破断時の伸び率の下限値は、たとえば、10%である。
【0063】
(1.2 シリコンウエハへの粘着力)
本実施形態では、23℃において、シリコンウエハの#2000研磨面に保護膜形成フィルムを貼付してから1時間後のシリコンウエハへの粘着力(以降、シリコンウエハへの粘着力とも言う)が20N/25mm以下である。#2000研磨面は、#2000の研磨材で研磨した面の表面粗さと同等の表面粗さを有する面である。この表面粗さは、半導体チップ等を製造するために用いられるシリコンウエハの裏面の表面粗さに対応している。また、保護膜形成フィルムをウエハに貼付後、ウエハの外観検査が行われ、保護膜形成フィルムに傷部が形成されている場合に保護膜形成フィルムのリワークは行われる。したがって、保護膜形成フィルムの貼付直後ではなく、貼付してから1時間後の粘着力を制御することにより、本実施形態に係る保護膜形成フィルムの具体的な貼付対象物に則した特性に制御することができる。
【0064】
以上より、シリコンウエハへの粘着力が上記の範囲内であることにより、ワーク(例えばウエハ)から保護膜形成フィルムを引き剥がす際に、より残渣が生じにくくなり、また、ワーク(例えばウエハ)に与える負荷が小さくなり、ワークの破損を低減することができる。
【0065】
シリコンウエハへの粘着力は14N/25mm以下であることが好ましく、9N/25mm以下であることがより好ましく、4N/25mm以下であることがさらに好ましい。シリコンウエハへの粘着力はリワーク性の観点では低いほど好ましいが、貼付後の各工程において意図せず剥がれる虞がある観点から、0.2N/25mm以上が好ましく、0.5N/25mm以上がより好ましい。
【0066】
シリコンウエハへの粘着力を測定する方法は実施例において説明する。
【0067】
(1.3 保護膜形成フィルム用組成物)
保護膜が上記の物性を有していれば、保護膜形成フィルムの組成は特に限定されない。本実施形態では、保護膜形成フィルムを構成する組成物(保護膜形成フィルム用組成物)は、少なくとも、重合体成分(A)と硬化性成分(B)と充填材(E)とを含有する樹脂組成物であることが好ましい。重合体成分は、重合性化合物が重合反応して形成されたとみなせる成分である。また、硬化性成分は、硬化(重合)反応し得る成分である。なお、本発明において重合反応には、重縮合反応も含まれる。
【0068】
また、重合体成分に含まれる成分は、硬化性成分にも該当する場合がある。本実施形態では、保護膜形成フィルム用組成物が、このような重合体成分及び硬化性成分の両方に該当する成分を含有する場合、保護膜形成フィルム用組成物は、重合体成分及び硬化性成分を両方含有するとみなす。
【0069】
(1.3.1 重合体成分)
重合体成分(A)は、保護膜形成フィルムに、フィルム形成性(造膜性)を持たせつつ、適度なタックを与え、ワークへの保護膜形成フィルムの均一な貼り付けを確実にする。重合体成分の重量平均分子量は、通常は5万~200万、好ましくは10万~150万、特に好ましくは20万~100万の範囲にある。このような重合体成分としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が用いられ、特にアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0070】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。このような方法による測定は、たとえば、東ソー社製の高速GPC装置「HLC-8120GPC」に、高速カラム「TSK guard column HXL-H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結したものを用い、カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分の条件で、検出器を示差屈折率計として行われる。
【0071】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0072】
本実施形態では、ワークへの接着性や粘着物性をコントロールするために、アクリル酸ヒドロキシエチル等を用いてアクリル樹脂に水酸基を導入することが好ましい。
【0073】
アクリル樹脂のガラス転移温度は好ましくは-70℃~40℃、-60℃~30℃、-50℃~20℃、-40℃~15℃、-30℃~10℃である。アクリル樹脂のガラス転移温度を上記の範囲内とすることにより、保護膜形成フィルムのタックを適度に高くすると共に、前記直角引き裂き試験における破断時の伸び率を上述した範囲内にすることがより容易となり、保護膜形成フィルムのワークとの粘着力を適度な範囲とし、保護膜のワークとの接着力が適度に向上する。
【0074】
アクリル樹脂がm種(mは2以上の整数である。)の構成単位を有している場合、当該アクリル樹脂のガラス転移温度は以下のようにして算出することができる。すなわち、アクリル樹脂中の構成単位を誘導するm種のモノマーに対して、それぞれ1からmまでのいずれかの重複しない番号を順次割り当てて、「モノマーm」と名付けた場合、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下に示すFoxの式を用いて算出できる。
【数1】
(式中、Tgはアクリル樹脂のガラス転移温度であり;mは2以上の整数であり;Tgkはモノマーmのホモポリマーのガラス転移温度であり;Wkはアクリル樹脂における、モノマーmから誘導された構成単位mの質量分率であり、ただし、Wkは下記式を満たす。)
【数2】
(式中、m及びWkは、前記と同じである。)
【0075】
Tgkとしては、高分子データ・ハンドブック、粘着ハンドブック又はPolymer Handbook等に記載されている値を使用できる。例えば、メチルアクリレートのホモポリマーのTgkは10℃、n-ブチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-54℃、メチルメタクリレートのホモポリマーのTgkは105℃、2-ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-15℃、グリシジルメタクリレートのホモポリマーのTgkは41℃、2-エチルヘキシルアクリレートのTgkは-70℃、エチルアクリレートのTgkは-24℃、4-ヒドロキシブチルアクリレートのTgkは-32℃である。
【0076】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の重合体成分の含有量は、好ましくは1~70質量部、5~60質量部、10~50質量部、13~40質量部である。重合体成分の含有量を上記の範囲内とすることにより、直角引き裂き試験における破断時の伸び率を上述した範囲内とすることがより容易となる。また、保護膜形成フィルムの粘着性の制御がより容易となる。
【0077】
(1.3.2 熱硬化性成分)
硬化性成分(B)は、保護膜形成フィルムを硬化させて、硬化物としての保護膜を形成する。上述したように、硬化性成分としては、熱硬化性成分、エネルギー線硬化性成分、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0078】
本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、後述する充填材および着色剤等を含有するため光線透過率が低下する。エネルギー線硬化性の保護膜形成フィルムは、エネルギー線の照射により硬化するので、たとえば保護膜形成フィルムの厚さが厚くなった場合、エネルギー線による硬化が不十分になりやすい。
【0079】
一方、熱硬化性の保護膜形成フィルムは、その厚さが厚くなっても、加熱によって十分に硬化するため、保護性能が高い保護膜を形成できる。また、加熱オーブン等の通常の加熱手段を用いることによって、多数の保護膜形成フィルムを一括して加熱し、熱硬化させることができる。
【0080】
したがって、本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、熱硬化性であることが好ましい。
【0081】
保護膜形成フィルムが熱硬化性であるか否かは以下のようにして判断することができる。まず、常温(23℃)の保護膜形成フィルムを、常温を超える温度になるまで加熱し、次いで常温になるまで冷却することにより、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムとする。次に、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの硬さと、加熱前の保護膜形成フィルムの硬さとを同じ温度で比較したとき、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの方が硬い場合には、この保護膜形成フィルムは、熱硬化性であると判断する。
【0082】
熱硬化性成分としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびこれらの混合物が好ましく用いられる。なお、熱硬化性ポリイミド樹脂とは、熱硬化することによってポリイミド樹脂を形成する、低分子量、低粘性のモノマーまたは前駆体ポリマーの総称である。熱硬化性ポリイミド樹脂の非制限的な具体例は、たとえば繊維学会誌「繊維と工業」, Vol.50, No.3 (1994), P106-P118に記載されている。
【0083】
熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂は、加熱を受けると三次元網状化し、強固な被膜を形成する性質を有する。このようなエポキシ樹脂としては、公知の種々のエポキシ樹脂が用いられる。本実施形態では、エポキシ樹脂の分子量(式量)は、好ましくは、300以上50000未満、300以上10000未満、300以上5000未満、300以上3000未満である。また、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、50~5000g/eqであることが好ましく、100~2000g/eqであることがより好ましく、150~1000g/eqであることがさらに好ましい。
【0084】
このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレート等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等のように、分子内の炭素-炭素二重結合を例えば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。その他、ビフェニル骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、ナフタレン骨格等を有するエポキシ樹脂を用いることもできる。
【0085】
硬化性成分(B)として、熱硬化性成分を用いる場合には、助剤として、硬化剤(C)を併用することが好ましい。エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤が好ましい。「熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤」とは、常温(23℃)ではエポキシ樹脂と反応しづらく、ある温度以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の活性化方法には、加熱による化学反応で活性種(アニオン、カチオン)を生成する方法;常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法;モレキュラーシーブ封入タイプの硬化剤で高温で溶出して硬化反応を開始する方法;マイクロカプセルによる方法等が存在する。
【0086】
例示した方法のうち、常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法が好ましい。
【0087】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、各種オニウム塩や、二塩基酸ジヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、アミンアダクト硬化剤、イミダゾール化合物等の高融点活性水素化合物等を挙げることができる。これら熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本実施形態では、ジシアンジアミドが特に好ましい。
【0088】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、フェノール樹脂も好ましい。フェノール樹脂としては、アルキルフェノール、多価フェノール、ナフトール等のフェノール類とアルデヒド類との縮合物等が特に制限されることなく用いられる。具体的には、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、あるいはこれらの変性物等が用いられる。
【0089】
これらのフェノール樹脂に含まれるフェノール性水酸基は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と加熱により容易に付加反応して、耐衝撃性の高い硬化物を形成することができる。
【0090】
硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.2~100質量部、0.5~50質量部、1~20質量部、1.5~10質量部である。硬化剤(C)の含有量を上記の範囲内とすることにより、保護膜の網状構造が密になるので、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすく、直角引き裂き試験における破断時の伸び率を上述した範囲内とすることがより容易となる。
【0091】
硬化剤(C)として、ジシアンジアミドを用いる場合には、硬化促進剤(D)をさらに併用することが好ましい。硬化促進剤としては、たとえば、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類(1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されたイミダゾール)が好ましい。これらの中でも、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールが特に好ましい。
【0092】
硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、0.3~5質量部、0.5~4質量部、1~3質量部である。硬化促進剤(D)の含有量を上記の範囲内とすることにより、保護膜の網状構造が密になるので、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすく、直角引き裂き試験における破断時の伸び率を上述した範囲内とすることがより容易となる。
【0093】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の熱硬化性成分および硬化剤の合計含有量は、好ましくは、3~80質量部、5~60質量部、7~50質量部、9~40質量部、10~30質量部である。熱硬化性成分および硬化剤の合計含有量を上記の下限値以上とすることにより、硬化前には適度なタックを示し、貼付作業を安定して行うことができる。また、硬化後には、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすい。熱硬化性成分および硬化剤の合計含有量を上記の範囲内とすることで硬化度を調整することにより、直角引き裂き試験における破断時の伸び率を上述した範囲内とすることがより容易となる。
【0094】
(1.3.3 エネルギー線硬化性成分)
硬化性成分(B)がエネルギー線硬化性成分である場合、エネルギー線硬化性成分は、未硬化であることが好ましく、粘着性を有することが好ましく、未硬化かつ粘着性を有することがより好ましい。
【0095】
エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線の照射によって硬化する成分であり、保護膜形成フィルムに造膜性や、可撓性等を付与するための成分でもある。
【0096】
エネルギー線硬化性成分としては、たとえば、エネルギー線硬化性基を有する化合物が好ましい。このような化合物としては、公知のものが挙げられる。
【0097】
(1.3.4 充填材)
保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、保護膜形成フィルムを保護膜化して得られる保護膜は、熱膨張係数の調整が容易となり、この熱膨張係数をワークの熱膨張係数に近づけることで、保護膜形成フィルムを用いて得られた保護膜付きチップの接着信頼性がより向上する。また、保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、硬質な保護膜が得られ、さらに保護膜の吸湿率を低減でき、保護膜付きチップの接着信頼性がさらに向上する。
【0098】
充填材(E)は、有機充填材及び無機充填材のいずれでもよいが、高温での形状安定性の観点から無機充填材であることが好ましい。
【0099】
好ましい無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、ベンガラ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等の粉末;これら無機充填材を球形化したビーズ;これら無機充填材の表面改質品;これら無機充填材の単結晶繊維;ガラス繊維等が挙げられる。これらの中でも、シリカおよび表面改質されたシリカが好ましい。表面改質されたシリカは、カップリング剤により表面改質されていることが好ましく、シランカップリング剤により表面改質されていることがより好ましい。
【0100】
充填材の平均粒径は、好ましくは、0.05~10μm、0.07~3μm、0.09~1μmである。
【0101】
また、本実施形態では、平均粒径の異なる充填材を2種類以上含むことが好ましい。平均粒径の異なる充填材が保護膜形成フィルムに含まれることにより、平均粒径の大きな充填材の隙間に、平均粒径の小さい充填材が配置されやすくなる。その結果、直角引き裂き試験における破断時の伸び率を上記の範囲内とすることがより容易となる。また、平均粒径の異なる充填材を2種類以上含む場合、平均粒径が最も大きい充填材の平均粒径は、好ましくは、1μm以下、0.7μm以下、0.5μm以下である。
【0102】
特に、平均粒径が最も大きい充填材の平均粒径は、平均粒径が最も小さい充填材の平均粒径の1.5から10倍であることが好ましい。
【0103】
なお、本明細書において「平均粒径」とは、特に断りのない限り、レーザー回折散乱法によって求められた粒度分布曲線における、積算値50%での粒子径(D50)の値を意味する。
【0104】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の充填材の含有量は、好ましくは10~80質量部、25~75質量部、40~70質量部、56~70質量部である。
【0105】
充填材の含有量の下限値を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルムを用いて得られた保護膜付きチップの接着信頼性がより向上し、直角引き裂き試験における破断時の伸び率を上述した範囲内とすることがより容易となる。また、充填材の含有量の上限値を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルムのワークとの粘着力を向上し、保護膜のワークとの接着力が適度に向上する。
【0106】
(1.3.5 カップリング剤)
保護膜形成フィルムは、カップリング剤(F)を含有することが好ましい。カップリング剤を含有することにより、保護膜形成フィルムの硬化後において、保護膜の耐熱性を損なわずに、保護膜とワークとの接着性を向上させることができるとともに、耐水性(耐湿熱性)を向上させることができる。カップリング剤としては、その汎用性とコストメリットの観点から、シランカップリング剤が好ましい。
【0107】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。好ましいシランカップリング剤としては、1分子中に複数個のアルコキシシリル基を有するオリゴマー型シランカップリング剤も挙げられる。前記オリゴマー型シランカップリング剤は、揮発しにくく、1分子中に複数個のアルコキシシリル基を有することから、耐久性向上に効果的である点で好ましい。前記オリゴマー型シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ基含有オリゴマー型シランカップリング剤である「X-41-1053」、「X-41-1059A」、「X-41-1056」及び「X-40-2651」(いずれも信越化学社製);メルカプト基含有オリゴマー型シランカップリング剤である「X-41-1818」、「X-41-1810」及び「X-41-1805」(いずれも信越化学社製)等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0108】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時のカップリング剤の含有量は、好ましくは、0.01~20質量部、0.1~10質量部、0.2~5質量部、0.3~3質量部である。
【0109】
(1.3.6 着色剤)
保護膜形成フィルムは、着色剤(G)を含有することが好ましい。これにより、チップ等のワークの加工物の裏面が隠蔽されるため、電子機器内で発生する種々の電磁波を遮断し、チップ等のワークの加工物の誤作動を低減できる。
【0110】
着色剤(G)としては、例えば、有機系顔料、有機系染料、無機系顔料など公知のものを使用できる。本実施形態では、無機系顔料が好ましい。
【0111】
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、ITO(インジウムスズオキサイド)系色素、ATO(アンチモンスズオキサイド)系色素等が挙げられる。これらの中でも、特にカーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックによれば、広い波長範囲の電磁波を遮断できる。
【0112】
保護膜形成フィルム中における着色剤(特にカーボンブラック)の配合量は、保護膜形成フィルムの厚さによっても異なるが、例えば保護膜形成フィルムの厚さが25μmの場合は、保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の着色剤の含有量は、好ましくは0.01~10質量部、0.03~7質量部、0.05~4質量部である。
【0113】
着色剤(特にカーボンブラック)の平均粒径は、好ましくは1~500nm、3~100nm、5~50nmである。着色剤の平均粒径が上記の範囲内にあると、光線透過率を所望の範囲に制御し易い。
【0114】
(1.3.7 その他の添加剤)
保護膜形成フィルム用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、その他の添加剤として、たとえば、光重合開始剤、架橋剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、ゲッタリング剤、粘着付与剤、剥離剤等を含有していてもよい。
【0115】
(2.保護膜形成用シート)
本実施形態に係る保護膜形成用シートは、上記の保護膜形成フィルムと、保護膜形成フィルムの少なくとも一方の主面上に配置された剥離フィルムと、を有する。剥離フィルムは、保護膜形成フィルムの使用時に剥離される。
【0116】
図5に示す保護膜形成用シート50は、保護膜形成フィルム10の一方の主面10a上に、保護膜形成フィルム10を支持する第1剥離フィルム21が配置され、他方の主面10b上に第2剥離フィルム22が配置された構成を有している。
【0117】
本実施形態に係る保護膜形成用シートは、ワークを加工するときに、当該ワークに保護膜形成フィルムを貼付し、保護膜形成フィルムを保護膜化して、当該ワークまたは当該ワークの加工物に保護膜を形成するために用いられる。
【0118】
また、保護膜形成用シートは、短手方向の長さに対する長手方向の長さが非常に長い長尺シートの形態であってもよい。また、このような長尺シートが巻き取られたシートロールの形態であってもよい。
【0119】
さらに、保護膜形成用シートは、ワークに貼付されるべき保護膜形成フィルムが所定の閉じた形状が有するように抜き加工された保護膜形成用シートであってもよい。所定の閉じた形状は特に制限されないが、貼付されることとなるワークと略同形状であることが好ましい。
【0120】
(2.1 剥離フィルム)
剥離フィルムは、保護膜形成フィルムを剥離可能に支持できるフィルムである。
剥離フィルムは1層(単層)または2層以上の基材から構成されていてもよいし、剥離性を制御する観点から、基材の表面が剥離処理されていてもよい。すなわち、基材の表面が改質されていてもよいし、基材の表面に基材に由来しない材料(剥離剤層)が形成されていてもよい。
【0121】
基材としては、保護膜形成フィルムがワークに貼付されるまで保護膜形成フィルムを支持できる材料であれば特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルム(以下「樹脂フィルム」という。)から構成される。
【0122】
樹脂フィルムの具体例として、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。本実施形態では、環境安全性、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0123】
上記の樹脂フィルムは、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0124】
剥離剤層は、基材の一方の面に、剥離剤層用組成物を含む塗布剤を塗布した後、その塗膜を乾燥および硬化させることにより得られる。剥離剤層用組成物は、基材に保護膜形成フィルムとの剥離性を付与できる材料であれば特に制限されない。本実施形態では、剥離剤層用組成物は、たとえば、アルキッド系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、不飽和ポリエステル系離型剤、ポリオレフィン系離型剤、ワックス系離型剤が好ましく、その中でも、シリコーン系離型剤が好ましい。
【0125】
剥離フィルムの厚みは、特に制限されないが、好ましくは15~100μm、さらに好ましくは25~80μm、より好ましくは35~60μmである。
【0126】
なお、
図5に示す保護膜形成用シートにおいては、一方の剥離フィルムの剥離力を大きくして重剥離型剥離フィルムとし、他方の剥離フィルムの剥離力を小さくして軽剥離型剥離フィルムとすることが好ましい。
【0127】
(3.保護膜形成用複合シート)
本実施形態に係る保護膜形成用複合シートは、上記の保護膜形成フィルムと、保護膜形成フィルムを支持する支持シートと、を有する。支持シートの構成は、保護膜付きワーク加工物を得られるだけの密着性と剥離性を制御できるのであれば、特に制限されない。たとえば、支持シートは、後述の所定の剛性を有する基材のみから成るものでもよい。本実施形態では、密着性と剥離性の制御をより容易にするために、支持シートは、基材および粘着剤層を有する粘着シートであることが好ましい。
【0128】
図6に示す保護膜形成用複合シート60は、基材41の一方の面に粘着剤層42が積層されてなる粘着シート4と、粘着シート4の粘着剤層42側に積層された保護膜形成フィルム10と、保護膜形成フィルム10の周縁部に積層された治具用粘着剤層5と、を備える構成を有している。すなわち、粘着シート4は支持シートである。なお、治具用粘着剤層5は、保護膜形成用複合シート60をリングフレーム等の治具に接着するための層である。
【0129】
本実施形態に係る保護膜形成用複合シートは、ワークを加工するときに、当該ワークに貼付されて当該ワークを保持するとともに、保護膜形成フィルムを保護膜化して、当該ワークまたは当該ワークの加工物に保護膜を形成するために用いられる。
【0130】
具体的には、ワークとしてのウエハのダイシング加工時にウエハを保持するとともに、ダイシングによって得られる加工物としてのチップに保護膜を形成するために用いられるが、これに限定されるものではない。
【0131】
(3.1.粘着シート)
本実施形態に係る保護膜形成用複合シートの粘着シート4は、基材41と、基材41の一方の面に積層された粘着剤層42とを備えて構成される。
【0132】
(3.1.1.基材)
粘着シートの基材は、ワークの加工、例えばウエハのダイシングおよびエキスパンディングに適するものであれば、その構成材料は特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルム(以下「樹脂フィルム」という。)から構成される。
【0133】
樹脂フィルムの具体例として、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。またこれらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。上記の基材41はこれらの1種からなるフィルムでもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。本実施形態では、保護膜形成用複合シートが加熱される工程で用いられる場合の耐熱性の観点から、ポリプロピレンフィルムおよびポリブチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0134】
上記の樹脂フィルムは、その表面に積層される粘着剤層42との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。
【0135】
上記の樹脂フィルムは、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0136】
基材41の厚さは、保護膜形成用複合シートが使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。好ましくは20~200μm、より好ましくは40~170μm、特に好ましくは50~140μmの範囲である。
【0137】
(3.1.2.粘着剤層)
本実施形態に係る保護膜形成用複合シートの粘着シートが備える粘着剤層は、非エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよいし、エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。非エネルギー線硬化性粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用できる。これらの中でも、保護膜形成フィルムとの密着性が高く、ダイシング工程等にてワークまたはワークの加工物の脱落を効果的に抑制することのできる観点からアクリル系粘着剤が好ましい。また、保護膜付きのチップのピックアップ適性を制御しやすい観点からもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0138】
一方、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線照射により粘着力が低下するため、ワークまたはワークの加工物と粘着シートとを分離させたいときに、エネルギー線照射することにより、容易に分離させることができる。
【0139】
粘着剤層を構成するエネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、エネルギー線硬化性を有しないポリマーとエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。
【0140】
エネルギー線硬化性を有するポリマーとしては、たとえば、エネルギー線硬化性基が導入された(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体等が例示される。エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが例示される。また、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有する成分以外に、光重合開始剤、架橋剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0141】
粘着剤層の厚さは、保護膜形成用複合シートが使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。具体的には、粘着剤層の厚みは、好ましくは、1~50μm、2~30μm、2~20μm、3~10μm、3~8μmである。
【0142】
治具用粘着剤層を構成する粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用できる。これらの中でも、リングフレーム等の治具との密着性が高く、ダイシング工程等にてリングフレーム等から保護膜形成用複合シートが剥がれることを効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。なお、治具用粘着剤層の厚さ方向の途中には、芯材としての基材が介在していてもよい。
【0143】
治具用粘着剤層の厚さは、リングフレーム等の治具に対する粘着性の観点から、5~200μmであることが好ましく、特に10~100μmであることが好ましい。
【0144】
(4.保護膜形成フィルムおよび保護膜形成用シートの製造方法)
保護膜形成フィルムの製造方法は特に限定はされない。当該フィルムは、上述した保護膜形成フィルム用組成物、または、当該保護膜形成フィルム用組成物を溶媒により希釈して得られる組成物(前記2つの組成物を「塗布剤」と称す。)を用いて製造される。塗布剤は、保護膜形成フィルム用組成物を構成する成分を公知の方法により混合して調製される。
【0145】
得られる塗布剤を、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機を用いて、第1剥離フィルムの剥離面に塗布して、必要に応じて乾燥させて、第1剥離フィルム上に保護膜形成フィルムを形成する。
【0146】
次に、第1剥離フィルム上に形成された保護膜形成フィルムの露出面に、さらに、第2剥離フィルムの剥離面を貼り合わせすることにより、
図5に示す保護膜形成用シートが得られる。
【0147】
(5.保護膜形成用複合シートの製造方法)
保護膜形成用複合シートの製造方法は特に制限されない。たとえば、保護膜形成フィルムを含む第1の積層体と、支持シートとしての粘着シートを含む第2の積層体とを別々に作製した後、第1の積層体および第2の積層体を使用して、保護膜形成フィルムと粘着シートとを積層することにより製造できる。
【0148】
第1の積層体は、上記の保護膜形成用シートと同じ方法により製造できる。すなわち、第1剥離フィルムの剥離面に保護膜形成フィルムを形成し、保護膜形成フィルムの露出面に第2剥離フィルムの剥離面を貼り合わせる。
【0149】
一方、第2の積層体を製造するには、まず、粘着剤層を構成する粘着剤組成物、または、当該粘着剤組成物を溶媒で希釈した組成物(前記2つの組成物を「塗布剤」と称す。)を調製する。続いて、第3の剥離フィルムの剥離面に、塗布剤を塗布し、必要に応じて乾燥させ第3の剥離フィルム上に粘着剤層を形成する。その後、粘着剤層の露出面に基材を貼り合わせ、基材および粘着剤層からなる粘着シートと、第3の剥離フィルムとからなる積層体(第2の積層体)を得る。
【0150】
ここで、粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤からなる場合には、この段階で粘着剤層に対してエネルギー線を照射して、粘着剤層を硬化させてもよいし、保護膜形成フィルムと積層した後に粘着剤層を硬化させてもよい。また、保護膜形成フィルムと積層した後に粘着剤層を硬化させる場合、ダイシング工程前に粘着剤層を硬化させてもよいし、ダイシング工程後に粘着剤層を硬化させてもよい。
【0151】
エネルギー線としては、通常、紫外線、電子線等が用いられる。エネルギー線の照射量は、エネルギー線の種類によって異なるが、例えば紫外線の場合には、光量で50~1000mJ/cm2が好ましく、特に100~500mJ/cm2が好ましい。また、電子線の場合には、10~1000krad程度が好ましい。
【0152】
以上のようにして第1の積層体および第2の積層体が得られたら、第1の積層体における第2の剥離フィルムを剥離するとともに、第2の積層体における第3の剥離フィルムを剥離し、第1の積層体にて露出した保護膜形成フィルムと、第2の積層体にて露出した粘着シートの粘着剤層とを貼り合わせる。
【0153】
このようにして、基材の上に粘着剤層が積層されてなる粘着シートと、粘着シートの粘着剤層側に積層された保護膜形成フィルムと、保護膜形成フィルムにおける粘着シートとは反対側に積層された第1剥離フィルムとからなる保護膜形成用複合シートが得られる。必要に応じて、第1剥離フィルムを剥離した後、露出した粘着剤層の周縁部に治具用粘着剤層を形成する。
【0154】
(6.リワーク方法および装置の製造方法)
本実施形態に係る保護膜形成フィルムを用いたリワーク方法および装置の製造方法について説明する。装置の製造方法の一例として、保護膜形成フィルムが貼付されたワークを個片化して得られる保護膜付きワーク加工物を得る方法について説明する。
【0155】
本実施形態に係るリワーク方法は、少なくとも以下の工程1から工程3を有する。また、本実施形態に係る装置の製造方法は、少なくとも以下の工程1から工程6を有する。すなわち、本実施形態に係るリワーク方法と、本実施形態に係る装置の製造方法とは、工程1から工程3に関して重複する。
工程1:上記の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程
工程2:貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する工程
工程3:工程2において、貼付された保護膜形成フィルムに傷が発見された場合に、傷がある保護膜形成フィルムをワークから剥がす工程
工程4:ワークから剥がした保護膜形成フィルムとは別の、上記の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する工程
工程5:保護膜形成フィルムを保護膜化して保護膜付きワークを得る工程
工程6:保護膜付きワークを加工して、保護膜付きワーク加工物を得る工程
【0156】
上記の工程1から工程3を有するリワーク方法と、上記の工程1から工程6を有する装置の製造方法とを
図7A、
図7Bおよび
図8を用いて説明する。
【0157】
図7Aに示すように、保護膜形成用シート50の保護膜形成フィルム10を、ワークとしてのウエハ6の裏面に貼付する(工程1)。必要に応じて、第1剥離フィルム21は、剥離すればよい。
【0158】
また、
図7Bに示すように、保護膜形成用複合シート60の保護膜形成フィルム10を、ワークとしてのウエハ6に貼付する(工程1)。この際、保護膜形成フィルム10の外周部をリングフレーム7により固定してもよい。本実施形態では、
図6に示すように、保護膜形成フィルム10の外周部に治具用粘着剤層5を設けているので、治具用粘着剤層5をリングフレーム7に貼付する。ウエハ6は、保護膜形成フィルム10における粘着剤層42との貼付面とは反対の面に貼付される。保護膜形成フィルム10をウエハ6に貼付するにあたり、所望により保護膜形成フィルム10を加熱して、粘着性を発揮させてもよい。
【0159】
次に、貼付された保護膜形成フィルムの外観を検査する(工程2)。工程1から工程2に直ちに進んでもよいが、工程1から他の工程を経て工程2に進んでもよい。保護膜形成フィルムの外観を検査する方法としては、保護膜形成フィルムに傷部が形成されているか否かを発見できる方法であれば特に制限されない。たとえば、保護膜形成フィルムの外観を目視で確認する検査でもよいし、所定の光学系を備える撮像装置を用いて取得した保護膜形成フィルムの画像を目視で確認する検査でもよいし、当該画像を画像処理ソフトまたは画像処理プロセッサ等により画像処理を行って確認する検査でもよいし、所定の波長を有する光を照射して透過光または反射光を分析して外観を確認する検査でもよい。
【0160】
工程2において、保護膜形成フィルムに傷部が発見されなければ、当該保護膜形成フィルムが貼付されたワークは次工程に搬送される。
【0161】
一方、保護膜形成フィルムに傷部が発見された場合、当該保護膜形成フィルムが貼付されたワークから、保護膜形成フィルムはリワークされる(工程3)。工程3では、保護膜形成用複合シートの保護膜形成フィルムがワークに貼付されている場合、まず、保護膜形成フィルムがワークに貼付されている面と反対側の面に配置されている支持シート(粘着シート)を保護膜形成フィルムから引き剥がし、保護膜形成フィルムを外部に露出させる。続いて、傷部が形成された保護膜形成フィルムの表面に、剥がし用テープを貼付する。剥がし用テープは、基材と粘着剤層とを有するシートである。剥がし用テープを所定の角度で引っ張ることにより、保護膜形成フィルムが剥がし用テープに追従して、剥がし用テープと共に保護膜形成フィルムがワークから引き剥がされる(リワークされる)。
【0162】
このとき、保護膜形成フィルムは上述した物性を有しているので、傷部が形成されていても、引き剥がした後に、ワーク上に保護膜形成フィルムからなる残渣が残らない。すなわち、保護膜形成フィルムは良好にリワークされる。また、引き剥がす力を大きくしなくても、良好に引き剥がされるので、強い力の印加に起因するワークの破損を抑制することができる。
【0163】
以上より、工程1から工程3を経ることにより、リワーク方法が成立する。
【0164】
続いて、工程1から工程6を有する装置の製造方法について説明する。装置の製造方法において、工程1から工程3はリワーク方法での工程1から工程3と同じなので、工程1から工程3の説明は省略する。
【0165】
保護膜形成フィルムがリワークされると、ワークの裏面には保護膜形成フィルムが存在しない。そこで、リワークされた保護膜形成フィルムとは異なる別の保護膜形成フィルムをワークの裏面に貼付する(工程4)。
【0166】
貼付後には、上述したように、保護膜形成フィルムに傷部が形成されているか否かを検査して、傷部が形成されている場合にはリワークすればよい。
【0167】
保護膜形成フィルムに傷部が形成されていない場合には、保護膜形成フィルムを保護膜化して保護膜1を形成し、保護膜付きワークを得る(工程5)。保護膜形成フィルムが硬化性である場合には、保護膜形成フィルムを硬化する操作を行えばよい。たとえば、保護膜形成フィルムが熱硬化性の場合には、保護膜形成フィルム10を所定温度で適切な時間加熱すればよい。例えば、加熱温度は、100~200℃であることが好ましく、例えば、110~180℃、及び120~170℃のいずれかであってもよい。加熱時間は、0.5~5時間であることが好ましく、例えば、0.5~3時間、及び1~2時間のいずれかであってもよい。また、保護膜形成フィルム10がエネルギー線硬化性である場合には、粘着シート4または剥離フィルム側からエネルギー線を入射すればよい。例えば、エネルギー線の照度は、120~280mW/cm2、エネルギー線の光量は、100~1000mJ/cm2であることが好ましい。
【0168】
次に、保護膜付きワークを加工する(工程6)。保護膜付きワークの加工する工程としては、たとえば、保護膜付きワークを分割して、所定数の保護膜付きワーク加工物を得る工程が例示される。ワークがウエハであり、ワーク加工物がチップである場合には、
図8に示すように、ダイシングテープ22により保持された保護膜付きウエハをダイシングして、保護膜付きチップ70を得ればよい。また、工程6では、保護膜形成用複合シートを用いて保護膜付きウエハを得た場合には、支持シートにより保持された保護膜付きウエハをダイシングして保護膜付きチップを得ればよい。ダイシング方法としては、公知のダイシング方法を採用すればよい。得られた保護膜付きチップ70は吸着コレット等によりピックアップされて回収される。
【0169】
ピックアップされた保護膜付きチップは次工程に搬送してもよいし、トレイ、テープ等に一時的に収納保管して、所定の期間後に次工程に搬送してもよい。
【0170】
次工程に搬送された保護膜付きチップ70は基板に実装され、半導体装置が製造される。
【0171】
(7.変形例)
保護膜形成用複合シート60の保護膜形成フィルム10側の面には、使用時まで保護膜形成フィルムを保護するため、剥離フィルムが積層されてもよい。
【0172】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例0173】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0174】
(保護膜形成用シートの作製)
保護膜形成用シートを、下記の保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を用いて以下のように作製した。
【0175】
(保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤)
次の各成分を表1に示す配合比(固形分換算)で混合し、固形分濃度が50質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して、保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を調製した。
(A)重合体成分
(A-1):n-ブチルアクリレート10質量部、エチルアクリレート70質量部、メチルアクリレート10質量部および4-ヒドロキシブチルアクリレート10質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:60万、ガラス転移温度:-25℃)
(A-2):エチルアクリレート10質量部、メチルメタクリレート5質量部、メチルアクリレート75質量部および4-ヒドロキシブチルアクリレート10質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:50万、ガラス転移温度:1℃)
(B)硬化性成分(熱硬化性成分)
(B-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER828、エポキシ当量184~194g/eq)
(B-2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER1055、エポキシ当量800~900g/eq)
(B-3)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製、エピクロンHP-7200HH、軟化点88~98℃、エポキシ当量274~286g/eq)
(C)硬化剤:ジシアンジアミド(ADEKA社製、アデカハードナーEH-3636AS、熱活性潜在性エポキシ樹脂硬化剤、活性水素量21g/eq)
(D)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、キュアゾール2PHZ)
(E)充填材
(E-1)シリカフィラー(アドマテックス社製、SC2050-MNU、平均粒径0.5μm)
(E-2)シリカフィラー(アドマテックス社製、SC1050-MLQ、平均粒径0.3μm)
(E-3)シリカフィラー(アドマテックス社製、Y100SV-CM1、平均粒径0.1μm)
(F)カップリング剤
(F-1):3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、KBM403)
(F-2):エポキシ基、メチル基及びメトキシ基を含有するオリゴマー型シランカップリング剤(信越シリコーン社製、X-41-1056、エポキシ当量280g/eq)
(G)着色剤:カーボンブラック(三菱化学社製、MA-600B、平均粒径28nm)
【0176】
厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる第1剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP-PET502150)を用意した。また、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる第2剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP-PET381031)を用意した。
【0177】
調製した保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を、第1剥離フィルムの剥離処理面に塗工し、100℃で2分乾燥して厚みが25μmの保護膜形成フィルムを形成した。続いて、第2剥離フィルムを、保護膜形成フィルム上に貼り付けて、保護膜形成フィルムの両面に剥離フィルムが積層された三層構造の保護膜形成用シートを得た。第2剥離フィルムの貼り付け条件は、温度が60℃、圧力が0.4MPa、速度が1m/分であった。
【0178】
得られた保護膜形成用シートを用いて、下記の測定および評価を行った。
【0179】
(直角引き裂き試験における保護膜形成フィルムの破断時の伸び率)
得られた2枚の保護膜形成用シートにおいて、各々の第2剥離フィルムを剥離し、保護膜形成フィルムの露出面(第1剥離フィルムが形成されていない面)同士を貼付し、一方の第1剥離フィルムを剥離して、他方の第1剥離フィルムに保護膜形成フィルムが2枚積層された積層体を得た。さらに、別の保護膜形成用シートから第2剥離フィルムを剥離した保護膜形成フィルムの露出面と、前記第1剥離フィルムに保護膜形成フィルムが2枚積層された積層体の保護膜形成フィルムの露出面と、を貼付し、別の保護膜形成用シートの第1剥離フィルムを剥離した。これを6回繰り返して、保護膜形成フィルムを合計8枚積層して、第1剥離フィルムと、厚さが200μmである保護膜形成フィルムと、第1剥離フィルムと、がこの順に積層されて構成された積層体を作製した。
【0180】
なお、保護膜形成フィルムが25μmの場合は積層された保護膜形成フィルムは厚さ200μmが好ましいが、保護膜形成フィルムが25μmではない場合には積層回数は適宜選択し、積層された保護膜形成フィルムの厚さは180~220μmとすることが好ましい。
【0181】
得られた積層された保護膜形成フィルムの両表面に第1剥離フィルムが積層された積層体を、スーパーダンベルカッター(株式会社ダンベル製、SDBK-1000)を用いて、JIS K 7128-3:1998に記載の直角形引裂き試験片の寸法に打ち抜いた。直角形引裂き試験片の形状はJIS K 7128-3:1998の
図2に示す形状であった。
【0182】
得られた直角形引裂き試験片から両表面の第1剥離フィルムを取り除いて、万能引張試験機(株式会社島津製作所製、AG-IS)を用いて、試験温度23℃において直角引裂き試験を実施した。直角引裂き試験では、試験前の直角形引裂き試験片の試験長(チャック間距離)を60mmとし、引張速度を200mm/minとした。
【0183】
23℃における破断時の伸び率(%)は、引張開始時を基点として、破断時の試験片の伸びをΔLとした時に、下記の式から算出した。結果を表1に示す。
破断時の伸び率=(ΔL / 試験前の直角形引裂き試験片の試験長(60mm))×100
【0184】
(保護膜形成フィルムのシリコンウエハへの粘着力)
得られた保護膜形成用シートにおいて、第2剥離フィルムを剥がした保護膜形成フィルムの露出面(第1剥離フィルムが形成されていない面)に、基材と粘着剤層とから構成される粘着テープ(リンテック社製、Adwill D-841)を貼付した。そして、紫外線照射装置を用いて、照度230mW/cm2、光量190mJ/cm2の条件で、粘着テープに紫外線を照射して、保護膜形成フィルムと粘着テープとの剥がれが生じない程度に粘着テープを硬化させた。得られた積層体を25mm×140mmの大きさに裁断することにより、試験片を作製した。
【0185】
なお、保護膜形成フィルムがエネルギー線硬化性である場合には、保護膜形成フィルムが硬化してしまうため、粘着テープへの紫外線の照射を行っていない試験片を測定に用いる。
【0186】
次いで、得られた試験片から第1剥離フィルムを剥離し、露出した保護膜形成フィルムの面を、厚さ500μm、外径6インチのシリコンウエハの#2000研磨面にラミネーター装置(大成ラミネーター株式会社製、VA-400型)を用いて貼付した。このとき、ローラ温度を70℃、貼付速度を0.3m/min、貼付圧力を0.3MPaの条件とした。その後、23℃、相対湿度50%環境下で1時間静置した。
【0187】
次いで、23℃の条件下で、精密万能試験機(島津製作所製、オートグラフAG-IS)を用いて、シリコンウエハから保護膜形成フィルムおよび粘着テープの積層体を剥離速度300mm/minで引き剥がした。このとき、保護膜形成フィルムとシリコンウエハとが接触していた面同士が180°の角度をなす、いわゆる180°剥離を行った。このときの剥離力(N/25mm)を測定して、この測定値を保護膜形成フィルムのシリコンウエハへの粘着力とした。結果を表1に示す。
【0188】
(リワーク試験)
厚さ300μm、外径8インチのシリコンウエハからなるワークの裏面(#2000研磨面)に、シリコンウエハと同形状に切断加工された保護膜形成用シートの保護膜形成フィルムの露出面を、貼付装置(リンテック社製、RAD-3600F/12)を用いて70℃で貼付した。そして、貼付時または貼付後に傷が生じた保護膜形成フィルムを再現するために、保護膜形成フィルムに長さ10mm、深さ12μmの直線状の傷を設けた。直線状の傷の位置および向きは
図4Aの傷部12に示す位置および向きであった。次に、23℃において、剥離フィルムを剥離して、露出した保護膜形成フィルムの面に、基材と粘着剤層とから構成される粘着テープ(リンテック社製、Adwill D-841)を剥がし用テープとして貼付した。そして、紫外線照射装置を用いて、照度230mW/cm
2、光量190mJ/cm
2の条件で、粘着テープに紫外線を照射して、保護膜形成フィルムと粘着テープとの剥がれが生じない程度に粘着テープを硬化させた。
【0189】
保護膜形成フィルムおよび粘着テープが貼付されたシリコンウエハを吸着テーブルに固定し、シリコンウエハから保護膜形成フィルムおよび粘着テープの積層体を剥離速度300mm/minで引き剥がした。このとき、保護膜形成フィルムとシリコンウエハとが接触していた面同士が180°の角度をなす、いわゆる180°剥離を行った。
【0190】
実施例および比較例の保護膜形成フィルムに対して、上記のリワーク試験を10回行い、以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
優:リワーク試験を行ったウエハ10枚中、残渣なく保護膜形成フィルムが剥がされたウエハが9枚以上
良:リワーク試験を行ったウエハ10枚中、残渣なく保護膜形成フィルムが剥がされたウエハが6枚以上8枚以下
不可:リワーク試験を行ったウエハ10枚中、残渣なく保護膜形成フィルムが剥がされたウエハが5枚以下
【0191】
【0192】
表1より、保護膜形成フィルムの直角引き裂き試験における破断時の伸び率およびシリコンウエハへの粘着力が上述した範囲内である場合に、リワーク時の残渣が発生せず良好であることが確認できた。一方、保護膜形成フィルムの直角引き裂き試験における破断時の伸び率が上述した範囲外である場合には、リワーク時に残渣が発生しやすいことが確認できた。