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特開2023-4776レーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法及び測定器
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  • 特開-レーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法及び測定器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004776
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】レーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法及び測定器
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20230110BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20230110BHJP
   G01J 5/06 20220101ALI20230110BHJP
【FI】
G01N25/18 J
G01J5/00 101D
G01J5/10 B
G01N25/18 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111066
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】520036134
【氏名又は名称】アイエルテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】松本 順
【テーマコード(参考)】
2G040
2G066
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040BA25
2G040CA02
2G040DA05
2G040EA06
2G040EC01
2G040HA16
2G040ZA05
2G066AC11
2G066BB07
2G066BB11
2G066BC02
2G066BC13
2G066BC30
(57)【要約】
【課題】ダイナミックレンジが最低でも80dB(10,000倍)以上という要請に応えることができる、レーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定を可能にする方法及び赤外線の高安定測定器を提供することを課題とする。
【解決手段】強度を周期的に変調させた熱エネルギーを試料に与えた時の、加熱領域における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性を測定するレーザー周期加熱法の実施に用いる赤外線の高安定測定器であり、前記温度応答を検出する赤外線ディテクタ1と、赤外線ディテクタ1の出力を対数変換する対数変換器2と、対数変換器出力のノイズを除去するローパスフィルタ3と、ローパスフィルタ出力から直流成分を高速に除去する直流成分除去回路とから成る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度を周期的に変調させた熱エネルギーを試料に与えた時の、加熱領域における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性を測定するレーザー周期加熱法の実施に当たり、
前記温度応答を検出する赤外線ディテクタ出力を、対数変換した後、直流成分の除去処理を行って温度応答による変移信号のみ抽出することにより、前記赤外線ディテクタのダイナミックレンジを拡大することを特徴とするレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法。
【請求項2】
対数変換した前記対数変換器出力を、ローパスフィルタを通してノイズを除去した後に、前記直流成分除去処理を行う、請求項1に記載のレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法。
【請求項3】
前記対数変換は、80dB(10,000倍)以上のダイナミックレンジの対数変換器を用いて行う、請求項1又は2に記載のレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法。
【請求項4】
強度を周期的に変調させた熱エネルギーを試料に与えた時の、加熱領域における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性を測定するレーザー周期加熱法の実施に用いる赤外線の高安定測定器であって、
前記温度応答を検出する赤外線ディテクタと、前記赤外線ディテクタのセンサ出力を対数変換する対数変換器と、対数変換した対数変換器出力から直流成分を除去する直流成分除去回路とから成ることを特徴とするレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定器。
【請求項5】
前記対数変換器と直流成分除去回路の間に、前記対数変換器出力のノイズを除去するローパスフィルタを介在させた、請求項4に記載のレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法及び測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同じ物質で構成された構造物に同じ熱エネルギーを加えると、原理的には同じ温度になり、同じ赤外線量を放射する筈である。しかし、同じ金属構造物に同じ条件でレーザー熱エネルギーを加えても、レーザー吸収率αの影響(式1)で同じ温度にはならず、その結果の異なった温度から放射される赤外線量も、放射率εの影響(式2)で、更に大きく変動する。
< 加熱量Q[J]、上昇温度ΔT[K]、質量m[kg]、比熱c[J/kgK]、ステファン・ボルツマン定数σ[W/m] >
【0003】
金属表面の正確な温度測定をするために、2波長放射赤外線量比較法で放射率をキャンセルする2色放射温度計が実用化されている。しかし、この2色放射温度計で小さな領域の温度や低い温度の測定を行うことは、技術的難易度が高い。それは、赤外線ディテクタでセンシングされる赤外線量が極めて小さくなるので、S/N比(信号とノイズの比率)が悪く、信号を検出できない場合が多いからである(大きい領域の高い温度の場合は、S/N比が高くなるため検出が容易である。)。
【0004】
現在本出願人により実用化されているレーザー正弦波変調加熱による非破壊金属接合界面検査方法(例えば、特許文献1参照)は、温度の絶対値に影響を受けない周期加熱法による方法であるが、その場合でも、上述したレーザー吸収率や赤外線放射率の影響で赤外線ディテクタの測定値が大きく変動するため、実用性の高い安定した測定は難しい。例えば、レーザー吸収率と赤外線放射率が各々10倍変動すると、赤外線放射エネルギーは1,000倍変動する。従って、その大きく変動する赤外線放射エネルギーをセンシングする赤外線ディテクタも、広いダイナミックレンジ(処理可能な信号の最小値と最大値の比率を表した数値で、単位はdBで表現)の測定が可能であることが必要となる。
【0005】
高速温度変移を高感度で測定する赤外線ディテクタとしては、一般に、アンチモン化インジウム(InSb)やテルル化カドミウム水銀(MCT/HgCdTe)等の量子型ディテクタが用いられ、これを、トランスインピーダンスアンプ(電流電圧線形変換器)で増幅して使用している。また、一般的な前記量子型ディテクタは、80dB(10,000倍)~100dB(100,000倍)以上の広いダイナミックレンジを有している。
【0006】
このトランスインピーダンスアンプのダイナミックレンジは、低ノイズアンプで構成しても60dB(1,000倍)程度であるが、吸収率や放射率の変動幅が10倍としても、センサ出力は60dB(1,000倍)以上変動することになる。 検出信号のS/N比は最低でも20dB(10倍)以上必要であることを考慮すると、放射赤外線測定系のダイナミックレンジは、最低でも80dB(10,000倍)以上であることが要請されるが、一般的に用いられている従来の赤外線ディテクタアンプ(上記、トランスインピーダンスアンプ)では、この要請に応えることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6620499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、レーザー周期加熱法における温度応答信号の測定のために従来用いられている赤外線ディテクタアンプの場合は、ダイナミックレンジが最低でも80dB(10,000倍)以上という要請に応えることができない。
【0009】
そこで本発明は、ダイナミックレンジが最低でも80dB(10,000倍)以上という要請に応えることができ、また、室温や装置温度等の周辺環境温度変化によるディテクタ出力ドリフトの低減を図ることができ、以て、レーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定を可能にする方法及び測定器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、強度を周期的に変調させた熱エネルギーを試料に与えた時の、加熱領域における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性を測定するレーザー周期加熱法の実施に当たり、
前記温度応答を検出する赤外線ディテクタ出力を、対数変換した後、直流成分の除去処理を行って温度応答による変移信号のみ抽出することにより、前記赤外線ディテクタのダイナミックレンジを拡大することを特徴とするレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法である。
【0011】
一実施形態においては、対数変換した対数変換器出力を、ローパスフィルタを通してノイズを除去した後に、前記直流成分除去処理を行う。また、一実施形態においては、前記対数変換を行う対数変換器は、80dB(10,000倍)以上のダイナミックレンジであることが望まれる。
【0012】
上記課題を解決するための請求項4に記載の発明は、強度を周期的に変調させた熱エネルギーを試料に与えた時の、加熱領域における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性を測定するレーザー周期加熱法の実施に用いる赤外線の高安定測定器であって、
前記温度応答を検出する赤外線ディテクタと、前記赤外線ディテクタ出力を対数変換する対数変換器と、対数変換した対数変換器出力から直流成分を除去する直流成分除去回路とから成ることを特徴とするレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定器である。
【0013】
一実施形態においては、前記対数変換器と直流成分除去回路の間に、前記対数変換器出力のノイズを除去するローパスフィルタを介在させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法及び測定器は上記のとおりであって、その方法並びに測定器によれば、吸収率の影響で大きく変動するレーザー加熱面から、放射率の影響で大きく変動する赤外線放射エネルギーを検出する赤外線ディテクタの出力を、80dB以上の広ダイナミックレンジで扱うことができ、また、周辺環境温度変化によるディテクタドリフトを低減することで、測定許容範囲を拡大することができ、以て、実用性の高い安定した測定を行うことが可能となる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法及び高安定赤外線測定器を説明するための機能系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態につき、添付図面に依拠して説明する。本発明に係るレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定方法は、強度を周期的に変調させた熱エネルギーを試料に与えた時の、加熱領域における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性を測定するレーザー周期加熱法を実施するに当たり、前記温度応答を検出する赤外線ディテクタ出力を、対数変換した後、ローパスフィルタを通してノイズを除去し、更に、直流成分を除去して温度応答による変移信号のみ抽出することにより、前記ディテクタ出力のダイナミックレンジを拡大することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明に係るレーザー周期加熱法における温度応答信号の高安定測定器は、強度を周期的に変調させた熱エネルギーを試料に与えた時の、加熱領域における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性を測定するレーザー周期加熱法の実施に用いる赤外線測定器であって、前記温度応答を検出する赤外線ディテクタ1と、赤外線ディテクタ1の出力を対数変換する対数変換器2と、対数変換した対数変換器出力から直流成分を除去する直流成分除去回路4とから成ることを特徴とする。好ましい実施形態においては、対数変換器2と直流成分除去回路4の間に、センサ出力のノイズを除去するローパスフィルタ3を介在させる(図1参照)。
【0018】
対数変換を行う対数変換器2は、80dB(10,000倍)以上のダイナミックレンジであることが望まれる。
【0019】
周期加熱法は、強度を周期的に変調させた熱エネルギー(レーザー光)を試料に与えた時の、加熱領域からある距離だけ離れた位置における温度応答の振幅又は位相差から、試料の熱物性(熱拡散率)を測定する方法である。そして、熱拡散率がα[m/s]である試料表面を周期加熱し、その温度T[K]が周期f[Hz]、振幅Tm[K]で式3のように変化する場合、加熱表面からx[m]の位置における温度応答は、式4のように表される(時間t[s])。
【0020】
加熱表面からの位置xにおける位相差をφ[rad]、振幅をTx[K]とすると、式5により、振幅Em又は位相差θの実測値から熱拡散率αが得られる。
【0021】
放射赤外線は、温度に対して非線形性であることから(式2参照)、放射温度計等は、対数変換器で線形補正して温度指示している。この対数変換器はダイナミックレンジの拡大にも使用でき、高性能な変換器では、160dB(100,000,000倍)ものダイナミックレンジの信号を扱えるものもある。
【0022】
ダイナミックレンジの拡大には非線形補正(対数変換)を行うが、ディテクタ出力信号の最低S/N比が10以上必要であることを考慮して、80dB(10,000倍)以上の広ダイナミックレンジ対数変換を実施する。このダイナミックレンジの拡大を目的とする対数変換により、放射赤外線の温度に対する非線形性も補正することができる。また、ノイズの多いディテクタ出力を対数変換するとノイズ成分を拡大させてしまうため、対数変換器2の後段に、ノイズ除去を目的としたローパスフィルタ3(低域通過フィルタ)を配置することが好ましい。
【0023】
また、室温や装置温度等の周辺環境温度変化等により、赤外線ディテクタの出力にドリフトが生ずる。このドリフト変動の時間軸は長く、ほぼ直流電位の変動と見做せるので、対数変換後に直流成分除去を行い、温度応答による変移信号のみを抽出することとする。
【0024】
最も簡単な直流成分除去方法は、信号経路にコンデンサーを入れて直流成分をカットする方法である。但し、この方法の場合は、カットオフ周波数を小さくするために大きな容量のコンデンサーが必要となり、この大きな容量のコンデンサーは回路時定数を大きくするため、直流除去時間(整定時間)が長くなり、1点当たりの測定時間が長くなるという大きな欠点がある。そのため、ここでは、オペアンプで高速補正処理する回路である直流サーボ回路を使用することが推奨される。その場合、出力整定時間が一桁以上速くなる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係る方法及び高安定測定器によれば、吸収率の影響で大きく変動するレーザー加熱面から、放射率の影響で大きく変動する赤外線放射エネルギーを検出する赤外線ディテクタ出力を、80dB以上の広ダイナミックレンジで扱うことができ、また、周辺環境温度変化によるディテクタドリフトを低減することで、測定許容範囲を大幅に拡大することができるので、実用性の高い安定した測定を行うことが可能となるという効果があり、その産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0026】
1 赤外線ディテクタ
2 対数変換器
3 ローパスフィルタ
4 直流成分除去回路
図1