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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047817
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】装身具
(51)【国際特許分類】
   A44C 17/02 20060101AFI20230330BHJP
   A44C 25/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
A44C17/02
A44C25/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156947
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】503175966
【氏名又は名称】株式会社クロスフォー
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】土橋 秀位
【テーマコード(参考)】
3B114
【Fターム(参考)】
3B114AA21
3B114BD08
3B114HH01
3B114HH06
(57)【要約】
【課題】フレーム部材に対してハンガー部材が小さく揺動する動きを安定して生じさせることが可能で、また、製品の不良の発生を抑制することが可能な装身具を提供する。
【解決手段】
フレーム部材と、フレーム部材に吊り下げられるハンガー部材とを有し、フレーム部材は、フレーム本体部と、ハンガー部材を吊り下げて保持する左右一対の保持リング部とが一体的に形成された金属製のプレス加工品を有し、ハンガー部材は、宝石を固定する台座部と、台座部の左右側方に配されるとともに一対の保持リング部に係合する左右一対の揺動リング部とを少なくとも有し、一対の保持リング部と一対の揺動リング部とは、環状に形成され、ハンガー部材は、左右の揺動リング部の内周部が対応する保持リング部の内周部に引っ掛けられることにより、フレーム部材に揺動可能に吊り下げられる装身具が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム部材と、前記フレーム部材に吊り下げられるハンガー部材とを有する装身具であって、
前記フレーム部材は、フレーム本体部と、前記ハンガー部材を吊り下げて保持する左右一対の保持リング部とが一体的に形成された金属製のプレス加工品を有し、
前記ハンガー部材は、宝石を固定する台座部と、前記台座部の左右側方に配されるとともに一対の前記保持リング部に係合する左右一対の揺動リング部とを少なくとも有し、
一対の前記保持リング部と一対の前記揺動リング部とは、環状に形成され、
前記ハンガー部材は、左右の前記揺動リング部の内周部が対応する前記保持リング部の内周部に引っ掛けられることにより、前記フレーム部材に揺動可能に吊り下げられる
ことを特徴とする装身具。
【請求項2】
前記保持リング部は、前記保持リング部の周方向に直交する断面を見たときに、前記保持リング部の半径方向の内側に向けて細くなる先細の形状を有し、
前記揺動リング部は、前記揺動リング部の周方向に直交する断面を見たときに、前記揺動リング部の半径方向の内側に向けて細くなる先細の形状を有する
請求項1記載の装身具。
【請求項3】
前記フレーム部材の前記プレス加工品は、前記フレーム本体部と前記保持リング部とを連結する左右一対の支持アーム部を有する
請求項1又は2記載の装身具。
【請求項4】
前記フレーム本体部は、前記フレーム部材の正面視において中央部が開口した枠状の形状を有し、
前記支持アーム部は、前記フレーム本体部から、前記フレーム本体部の周方向に対して直交する方向に延びている
請求項3記載の装身具。
【請求項5】
前記支持アーム部は、前記フレーム本体部から前記保持リング部まで、一定の厚さで形成され、
前記支持アーム部における前記フレーム本体部から前記保持リング部までの長さ寸法は、前記支持アーム部の厚さ寸法よりも大きく、且つ、前記保持リング部の内径寸法よりも小さく、
前記支持アーム部における幅寸法は、前記支持アーム部の長さ寸法よりも大きく、且つ、前記保持リング部の外径寸法よりも小さい
請求項3又は4記載の装身具。
【請求項6】
前記支持アーム部における厚さ寸法は、0.15mm以上0.35mm以下であり、
前記支持アーム部における前記フレーム本体部から前記保持リング部までの長さ寸法は、0.10mm以上0.50mm以下であり、
前記支持アーム部における幅寸法は、0.30mm以上1.20mm以下である
請求項3~5のいずれかに記載の装身具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、装身具に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-54162号公報(特許文献1)には、フレーム部材と、フレーム部材に揺動可能に吊り下げられるハンガー部材とを有する装身具(ペンダントトップ)が記載されている。この特許文献1において、装身具のフレーム部材は、フレーム本体部と、フレーム本体部の裏面に固定される左右の保持リング部とを有する。ハンガー部材は、宝石が固定される台座部と、台座部から延出する左右の延出部と、左右の延出部の先端部に設けられる左右の揺動リング部とを有する。このハンガー部材は、左右の揺動リング部の内周部が対応する保持リング部の内周部に引っ掛けられることにより、フレーム部材に揺動可能に吊り下げられている。
【0003】
特許文献1の装身具では、装身具が動くことによって、ハンガー部材を、フレーム部材に対して微細に揺動させることができる。このようなハンガー部材の微細な揺動が繰り返されることによって、ハンガー部材の台座部に固定された宝石をより美しく輝かせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-54162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フレーム部材に対してハンガー部材を微細に揺動させる装身具においては、ハンガー部材の小さな揺動動作を安定して生じさせること、また、製品の不良の発生を抑制することが求められている。
【0006】
本開示の目的は、フレーム部材に対してハンガー部材が小さく揺動する動きを安定して生じさせることが可能で、また、製品の不良の発生を抑制することが可能な装身具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る装身具は、以下の態様を含む。
本開示に係る装身具は、フレーム部材と、前記フレーム部材に吊り下げられるハンガー部材とを有する装身具であって、前記フレーム部材は、フレーム本体部と、前記ハンガー部材を吊り下げて保持する左右一対の保持リング部とが一体的に形成された金属製のプレス加工品を有し、前記ハンガー部材は、宝石を固定する台座部と、前記台座部の左右側方に配されるとともに一対の前記保持リング部に係合する左右一対の揺動リング部とを少なくとも有し、一対の前記保持リング部と一対の前記揺動リング部とは、環状に形成され、前記ハンガー部材は、左右の前記揺動リング部の内周部が対応する前記保持リング部の内周部に引っ掛けられることにより、前記フレーム部材に揺動可能に吊り下げられる装身具である。
【0008】
本開示の装身具において、前記保持リング部は、前記保持リング部の周方向に直交する断面を見たときに、前記保持リング部の半径方向の内側に向けて細くなる先細の形状を有し、前記揺動リング部は、前記揺動リング部の周方向に直交する断面を見たときに、前記揺動リング部の半径方向の内側に向けて細くなる先細の形状を有することが好ましい。
【0009】
また本開示において、前記フレーム部材の前記プレス加工品は、前記フレーム本体部と前記保持リング部とを連結する左右一対の支持アーム部を有することが好ましい。
この場合、前記フレーム本体部は、前記フレーム部材の正面視において中央部が開口した枠状の形状を有し、前記支持アーム部は、前記フレーム本体部から、前記フレーム本体部の周方向に対して直交する方向に延びていることが好ましい。
【0010】
また、前記支持アーム部は、前記フレーム本体部から前記保持リング部まで、一定の厚さで形成され、前記支持アーム部における前記フレーム本体部から前記保持リング部までの長さ寸法は、前記支持アーム部の厚さ寸法よりも大きく、且つ、前記保持リング部の内径寸法よりも小さく、前記支持アーム部における幅寸法は、前記支持アーム部の長さ寸法よりも大きく、且つ、前記保持リング部の外径寸法よりも小さいことが好ましい。
【0011】
更に、前記支持アーム部における厚さ寸法は、0.15mm以上0.35mm以下であり、前記支持アーム部における前記フレーム本体部から前記保持リング部までの長さ寸法は、0.10mm以上0.50mm以下であり、前記支持アーム部における幅寸法は、0.30mm以上1.20mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、フレーム部材に対してハンガー部材が小さく揺動する動きを安定して生じさせることが可能で、また、製品の不良の発生を抑制することが可能な装身具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施例に係る装身具を模式的に示す正面図である。
図2】本開示の実施例に係る装身具を模式的に示す側面図である。
図3】装身具のフレーム部材におけるプレス成形直後の状態(一次加工品)を模式的に示す正面図である。
図4図3に示したIV-IV線における模式的な断面図である。
図5】装身具のハンガー部材における宝石が固定される前の状態を模式的に示す背面図である。
図6図5に示したVI-VI線における模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特許文献1に記載されているような従来の装身具において、フレーム部材を製造する場合には、一般的に、ワックスで作製した原型から鋳型を形成し、その鋳型に溶融した金属を流し込むことによって鋳造を行うロストワックス法が利用される。このロストワックス法による鋳造(以下、ロストワックス鋳造と略記する)を用いることによって、3次元の形状を1つの鋳型で一体的に鋳造可能であるため、フレーム本体部と左右の保持リング部とを有する複雑な形状のフレーム部材を安定して作製できる。
【0015】
一方、ロストワックス鋳造を用いてフレーム部材を作製する場合、元の原型をワックスで作製しなければならず、また、ワックスを溶かして形成される鋳型内の空間に溶融金属を隅々まで注入させる必要があることから、非常に小さな部品であるフレーム部材に対してシャープに尖った部分又は形状を形成することが難しかった。このため、例えばフレーム部材をロストワックス鋳造で作製したときに、フレーム部材に設けられる左右の保持リング部が、例えば保持リング部の周方向に直交する断面を見たときに保持リング部の内周部分が丸みを帯びた形状を有していた。
【0016】
しかし、左右の保持リング部の内周部分が丸みを帯びていると、フレーム部材の左右の保持リング部にハンガー部材を揺動可能に保持したときに、上述したようなハンガー部材の小さく揺動する動きが悪くなること、更には、小さな揺動が生じなくなること等の不具合が生じることがあり、これらの不具合は製品の不良を生じさせる大きな原因となっていた。
【0017】
また、フレーム部材における左右の保持リング部の内周部を尖った形状にするために、先ず、内周部が尖った形状を有する丸カンを、保持リング部として、プレス成形によりフレーム本体部とは別に作製し、その後、得られた2つの丸カンをフレーム本体部の所定の位置にロウ付けにより固定する方法が知られている。
【0018】
しかし、上述のように丸カンをフレーム本体部に後からロウ付けで固定する場合、丸カンとフレーム本体部との固定部分に強度の問題が生じることがある。また、丸カンもフレーム本体部も非常に小さいことから、これらの部材をロウ付けにより固定するためには、長年の経験や熟練度等が必要とされ、また、作業自体にも時間と労力を要していた。このため、生産性の低下と生産コストの増大を招き易いという欠点があった。また、ロウ付けによる固定は手作業により行われるため、丸カンを固定する位置がずれることや、丸カンを固定する姿勢が曲がること等によって、製品の不良を生じさせることもあった。
【0019】
これに対し、本開示の装身具において、フレーム部材は、フレーム本体部と、ハンガー部材を吊り下げて保持する左右一対の環状の保持リング部とが一体的に形成された金属製のプレス加工品(プレス成形体)を有する。本開示において、フレーム本体部と保持リング部とが一体的に形成された装身具用の微細なプレス加工品は、プレス加工の技術に改良が重ねられた結果、初めて実現可能になった。
【0020】
また、上述のようなフレーム部材に吊り下げられるハンガー部材は、宝石を固定する台座部と、台座部の左右側方に配されるとともに一対の保持リング部に係合する左右一対の環状の揺動リング部とを少なくとも有する。このハンガー部材は、左右の揺動リング部の内周部が保持リング部の内周部にそれぞれ引っ掛けられることにより、フレーム部材に揺動可能に吊り下げられている。
【0021】
このような本開示の装身具では、フレーム部材の少なくともフレーム本体部と左右の保持リング部とが金属製の単一のプレス加工品に設けられているため、左右の保持リング部の内周部をシャープに尖った形状に安定して形成できる。このため、フレーム部材の左右の保持リング部にハンガー部材を吊り下げたときに、保持リング部とハンガー部材の揺動リング部との接触面積を小さくできるとともに、保持リング部と揺動リング部との間の摩擦抵抗を低減できる。それにより、フレーム部材に対してハンガー部材が小さく(細かく)揺動する動作を安定して生じさせることができる。また、フレーム部材のフレーム本体部と保持リング部とをロウ付けで固定する必要がないため、フレーム部材の作製作業が長年の経験や熟練度等に影響されなくなり、従来の装身具に比べて、生産時間の短縮、生産コストの削減、品質の安定化、製品の不良低減を実現できる。
【0022】
本開示の装身具において、保持リング部は、保持リング部の周方向に直交する断面を見たときに、保持リング部の半径方向の内側に向けて細くなる先細の形状を有していてもよい。また、揺動リング部は、揺動リング部の周方向に直交する断面を見たときに、揺動リング部の半径方向の内側に向けて細くなる先細の形状を有していてもよい。これにより、フレーム部材に対してハンガー部材が小さく揺動する動作をより安定して生じさせることができる。また、ハンガー部材の小さな揺動動作をより長く続けさせることができる。
【0023】
本開示の装身具において、フレーム部材のプレス加工品は、フレーム本体部と保持リング部とを連結する左右一対の支持アーム部を有していてもよい。例えば、プレス成形によってフレーム部材の一次加工品を作製した後、一次加工品に曲げ加工を行って保持リング部を所要の向き(姿勢)で形成するときに、支持アーム部を変形させることができる。これにより、プレス成形で所定の環状の形状に形成された保持リング部に歪みを生じさせることなく、フレーム部材を安定して作製できる。また、フレーム部材に支持アーム部が設けられていることにより、ハンガー部材が小さく揺動するときにハンガー部材をフレーム本体部に接触させ難くすることができるため、ハンガー部材とフレーム本体部との接触によってハンガー部材の小さな揺動動作が阻害されることを抑制できる。
【0024】
本開示の装身具において、フレーム本体部は、フレーム部材の正面視において中央部が開口した枠状の形状を有し、支持アーム部は、フレーム本体部から、フレーム本体部の周方向に対して直交する方向に延びていてもよい。このようなフレーム部材の左右の支持アーム部にハンガー部材を吊り下げることによって、ハンガー部材の小さな揺動動作を安定して生じさせることができる。
【0025】
本開示の装身具において、支持アーム部は、フレーム本体部から保持リング部まで、一定の厚さで形成されていてもよい。支持アーム部におけるフレーム本体部から保持リング部までの長さ寸法は、支持アーム部の厚さ寸法よりも大きく、且つ、保持リング部の内径寸法よりも小さくされていてもよい。支持アーム部における幅寸法は、支持アーム部の長さ寸法よりも大きく、且つ、保持リング部の外径寸法よりも小さくされていてもよい。また、支持アーム部における厚さ寸法は、0.15mm以上0.35mm以下であってもよい。支持アーム部におけるフレーム本体部から保持リング部までの長さ寸法は、0.10mm以上0.50mm以下であってもよい。支持アーム部における幅寸法は、0.30mm以上1.20mm以下であってもよい。このように支持アーム部が形成されることにより、保持リング部に歪みを生じさせることなくフレーム部材を安定して作製できる。また、ハンガー部材が小さく揺動するときにハンガー部材をフレーム本体部に接触させ難くすることができる。
【0026】
本開示の装身具において、支持アーム部は、フレーム本体部の内周部における上半部から延びている。また、フレーム部材の正面視において、保持リング部は、揺動リング部が引っ掛けられる下端部と、下端部とは反対側に配される上端部とを有し、一対の保持リング部は、互いに、左右の保持リング部の上端部間の間隔が、左右の保持リング部の下端部間の間隔よりも狭くなるように、上下方向に対して傾斜した向きで左右対称的に配されていてもよい。これによって、支持アーム部がフレーム本体部の内周部に設けられる場合でも、左右の保持リング部で揺動リング部が引っ掛けられる下端部間の間隔を大きく確保し易くすることができる。これにより、ハンガー部材を大きく形成し易くすることができ、フレーム部材に対し、より大きな宝石を小さく揺動させることができる。
【0027】
以下、本開示に係る装身具の好ましい実施形態の一例について、実施例を挙げて説明する。なお、本開示は、以下で説明する実施例に限定されるものではなく、本開示の装身具と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0028】
本開示において、「装身具」とは、装飾のために身に着ける物品をいう。装身具には、ネックレス(ペンダント)、イヤリング、ピアス、ブローチ、ネクタイ留め、タイニーピン、指輪、ブレスレット、アンクレット等のアクセサリーが含まれる。本開示において、ネックレスは、所謂ペンダントを含む首飾りの総称である。
【0029】
本開示において、「宝石」には、天然宝石、合成宝石、人造宝石、及び模造宝石等が含まれ、例えば光が内部に入り込むことにより輝きを放つものであることが好ましい。
天然宝石は、ダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、水晶等の自然に生み出される宝石を含む。また、天然宝石は、改良(エンハンスメント)、改変(トリートメント)等の処理が加えられた処理宝石も含む。
合成宝石は、天然石と同一又は類似の化学特性、物理特性、内部構造を有し、人工的に作り出された宝石をいう。合成宝石は、人工宝石とも呼ばれる。
人造宝石は、自然界に存在しないものの、一定の化学特性、物理特性、内部構造を有しており、例えば、キュービック・ジルコニア(CZ)、ヤグ(YAG)等の天然宝石とは異なる物質を使用して作り出された宝石をいう。
模造宝石は、天然宝石を模した色、外観等を有しているものの、化学特性及び物理構造が異なり、例えば、ガラス、プラスチック、セラミックス等を使用して天然宝石を模して形成される宝石をいう。
本開示において、「台座部」とは、装身具において宝石がセットされる又は載置される部分をいう。
【0030】
本開示において、「プレス加工」とは、金型で対象物に強い力を加えることによって目的の形状を有する加工品を機械的に形成する加工をいう。また、プレス加工は、少なくともせん断加工を含み、また、せん断加工以外に、変形加工(曲げ加工、絞り加工、圧縮加工等を含む加工)を含んでいてもよい。
【0031】
本開示において、「一体的に」及び「一体形成」とは、目的の形状を有する1つの物体が、1つの連続した部材から形成されていることを意味し、例えば別体に形成された複数の部材が組み合わされること等によって1つの物体が形成されることを包含しない概念である。
【0032】
本開示において、装身具の正面とは、装身具に用いられる宝石の正面(例えば、テーブル面)が配置される側をいう。背面とは、正面と反対側の面をいう。
【0033】
以下の説明において、装身具の正面を第1面と称し、背面を第2面と称することもある。装身具の上下方向及び左右方向は、装身具が正しい姿勢で身に着けられた場合にその装身具を正面側から見たときの上下方向及び左右方向をいう。前後方向は、上下方向及び左右方向に直交する方向をいい、正面から背面に(又は背面から正面に)向かう方向である。この場合、背面から正面に向かう方向を前方とし、正面から背面に向かう方向を後方とする。また、装身具の内側とは、本体部材における上下方向、左右方向、及び前後方向等における中心位置に近付く向きをいい、装身具の外側とは、本体部材における上下方向、左右方向、及び前後方向等における中心位置から遠ざかる向きをいう。
【0034】
以下、本開示の実施形態に係る装身具の好ましい一例(実施例)について、装身具がネックレスである場合について説明する。なお、本開示の装身具は、ネックレスでなく、イヤリング、ピアス、ブローチ、ネクタイ留め、タイニーピン、指輪、ブレスレット、アンクレット等であってもよい。
【実施例0035】
図1及び図2は、本実施例に係る装身具の一例(ネックレス)を模式的に示す正面図及び側面図である。
図1及び図2に示したネックレス1は、紐状部材であるチェーン5と、装身具本体であるペンダントトップ10とを備えており、ペンダントトップ10は、チェーン5に吊り下げられている。
【0036】
ペンダントトップ10は、宝石21としてダイヤモンドが固定保持されるハンガー部材20と、そのハンガー部材20を吊り下げた状態で支持するフレーム部材30とを有する。
ハンガー部材20は、宝石21と、宝石21が載置される台座部22と、台座部22に突設されるとともに宝石21を固定する4つの爪部23と、台座部22の左右の側縁部(側端部)から左右方向の外側に向けて延出する左右の延出部24と、左右の延出部24の先端部に設けられる左右の揺動リング部25とを有する。
【0037】
フレーム部材30は、ペンダントトップ(装身具本体)10の正面視において、ハンガー部材20に固定された宝石21の周りを囲むように配されるフレーム本体部31と、フレーム本体部31から後方に延びる左右の支持アーム部32と、支持アーム部32の先端部に配される左右の保持リング部33とを有する。また、フレーム部材30には、チェーン5が連結されるチェーン連結部34と、フレーム部材30に他の装飾体を接続して結合させることが可能な接続部35とが設けられている。
【0038】
本実施例のフレーム部材30において、上述したフレーム本体部31、左右の支持アーム部32、左右の保持リング部33、チェーン連結部34、及び接続部35は、一体的に形成されている。すなわち、本実施例のフレーム部材30は、金、プラチナ、シルバー等の貴金属製の1つの板材(金属板)にプレス加工を行うことによって形成される単一のプレス加工品であり、1つの金属材料によって形成されている。
【0039】
なお本開示では、フレーム部材30の少なくともフレーム本体部31、左右の支持アーム部32、及び左右の保持リング部33が、一体的に形成されていればよく、チェーン連結部34と接続部35とは、例えばレーザー等によるロウ付け(溶着)によってフレーム本体部31に固定されていてもよい。
【0040】
フレーム本体部31は、ペンダントトップ10の正面視(図1)において、円環状又はドーナツ状の形状を有する。このフレーム本体部31は、ハンガー部材20の台座部22及び宝石(ダイヤモンド)21の全体を外側から取り囲むとともに、台座部22及び宝石21から外側に離間して配されている。このため、フレーム本体部31と台座部22及び宝石21との間には間隙が形成されている。なお本開示において、フレーム本体部31は、ハンガー部材20の台座部22及び宝石21の全体を外側から取り囲むとともに、台座部22及び宝石21から外側に離間して配される形状であれば、例えば矩形枠状等の円環状以外の枠状の形状に形成されていてもよい。
【0041】
本実施例のフレーム本体部31は、一定の厚さ寸法を有して形成されている。例えば本実施例において、フレーム本体部31の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下に設定されている。更に、フレーム本体部31は、フレーム本体部31の周方向に直交する断面が、フレーム本体部31の全周において略U字状又は略J字状の形状を有する。すなわち、このフレーム本体部31では、フレーム本体部31における半径方向の中央部が最も前側に配されており、また、フレーム本体部31を後方側から見た場合(不図示)、凹状の溝部が円周を形成している。また本実施例では、フレーム本体部31の内周部31aが、フレーム本体部31の外周部31bよりも前側に配されている。
【0042】
左右の支持アーム部32は、円環状のフレーム本体部31の内周部31aから、フレーム本体部31の周方向に直交する方向(後方)に向けて延びており、この支持アーム部32により、フレーム本体部31と保持リング部33とが連結されている。このように左右の支持アーム部32が設けられることにより、本実施例のフレーム部材30を、せん断加工を含むプレス加工を利用して安定して作製できる。
【0043】
この場合、支持アーム部32は、後述するように、せん断加工を含むプレス加工によってフレーム部材30が作製された直後の状態では(図3を参照)、フレーム本体部31から前後方向(言い換えると、フレーム本体部31の厚さ方向)に対して直交する方向に延びており、更に、プレス加工後に変形加工(曲げ加工)が行われることによって、前後方向に直交する方向から前後方向に沿った方向に曲げられて形成されている。
【0044】
本実施例において、支持アーム部32は、フレーム本体部31から保持リング部33まで、一定の厚さ寸法で形成されている。この支持アーム部32の厚さ寸法は、フレーム本体部31の厚さ寸法と同じ大きさである。具体的に、支持アーム部32の厚さ寸法は、0.15mm以上0.35mm以下に設定されている。支持アーム部32の厚さ寸法が0.15mm以上であることによって、支持アーム部32の適切な強度を安定して確保できる。支持アーム部32の厚さ寸法が0.35mm以下であることによって、上述したプレス加工後の変形加工において、支持アーム部32を安定して変形させることができる。また、フレーム部材30の軽量化を図ることができる。
【0045】
支持アーム部32におけるフレーム本体部31から保持リング部33までの長さ寸法は、支持アーム部32の厚さ寸法よりも大きく、且つ、保持リング部33の内径寸法Riよりも小さく設定されている。具体的に、支持アーム部32の長さ寸法は、0.10mm以上0.50mm以下に設定されている。
【0046】
支持アーム部32の長さ寸法が0.10mm以上であることによって、上述したプレス加工後の変形加工において、支持アーム部32のみを安定して変形させることができ、それにより、その変形加工で保持リング部33の円環状の形状が歪むことを防止できる。また、ペンダントトップ10でハンガー部材20がフレーム部材30に対して揺動するときに、支持アーム部32によってフレーム本体部31と保持リング部33とが適切に離間していることにより、ハンガー部材20の揺動リング部25をフレーム本体部31に接触(衝突)させ難くして、ハンガー部材20の揺動動作を長く持続させ易くすることができる。
【0047】
また、支持アーム部32の長さ寸法が0.50mm以下であることによって、ハンガー部材20の位置がフレーム部材30に対して後ろに下がり過ぎることを抑制できる。それにより、ハンガー部材20に固定されている宝石21をペンダントトップ10の正面側から大きく見え易くすることができる。また、使用者がネックレス1を身に着けたときに、使用者の胸元にハンガー部材20が接触することを抑制できる。なお、支持アーム部32の長さ寸法とは、支持アーム部32がフレーム本体部31に連結する側の端部から、支持アーム部32が保持リング部33に連結する側の端部までを支持アーム部32に沿って最短で結ぶ線分の寸法を言う。
【0048】
支持アーム部32における幅寸法は、支持アーム部32の長さ寸法よりも大きく、且つ、保持リング部33の外径寸法Reよりも小さく設定されている。なお本開示において、支持アーム部32の幅寸法とは、支持アーム部32における厚さの方向と長さの方向とに直交する方向の寸法を言う。具体的に、支持アーム部32の幅寸法は、0.30mm以上1.20mm以下に設定されている。支持アーム部32の幅寸法が0.30mm以上であることによって、支持アーム部32の適切な強度を安定して確保できる。支持アーム部32の幅寸法が1.20mm以下であることによって、上述したプレス加工後の変形加工において、支持アーム部32を安定して変形させることができる。また、フレーム部材30の軽量化を図ることができる。
【0049】
またフレーム部材30を前方側から見た正面視において(図1)、左右の支持アーム部32は、フレーム本体部31における上側の半分の部分(上半部)に配置されている。更に具体的に説明すると、例えば宝石21をアナログ時計の中心に置くとともに宝石21から上向きの方向を12時方向とした場合、右側の支持アーム部32は、フレーム本体部31における1時方向~3時方向の範囲内に配置され、左側の支持アーム部32は、フレーム本体部31における9時方向~11時方向の範囲内に配置されている。これにより、左右の支持アーム部32が、プレス加工で作製できるようにフレーム本体部31の内周部31aに設けられていても、左右の保持リング部33にハンガー部材20を吊り下げたときに、ハンガー部材20に固定される宝石21を、ペンダントトップ10の正面視において、円環状のフレーム本体部31の中心部に安定して配置できる。
【0050】
左右の保持リング部33は、支持アーム部32の先端部に一体的に設けられている。各保持リング部33は、円環状又はリング状に形成されている。保持リング部33の中央部には、保持リング部33の内周部にハンガー部材20の揺動リング部25を左右方向又は略左右方向に沿って引っ掛けることが可能なように、円形状の中央開口部33aが設けられている。この場合、保持リング部33の内径寸法Ri(すなわち、中央開口部33aの直径)は、0.40mm以上1.00mm以下に設定されている。保持リング部33の外径寸法Reは、1.00mm以上1.80mm以下に設定されている(図3を参照)。
【0051】
左右の各保持リング部33には、保持リング部33が連結される前の状態において(図3を参照)、揺動リング部25を挿入可能なスリット33bが設けられている。このようなスリット33bを有する保持リング部33は、揺動リング部25の一部が保持リング部33の内側に挿入された後に、保持リング部33をスリット33bがなくなるように押圧して塑性変形させることにより、保持リング部33が、揺動リング部25を保持リング部33から外れないように保持可能な連続したリング状に形成される。
【0052】
左右の各保持リング部33において、保持リング部33の周方向に直交する断面の形状は、図4に示すように、保持リング部33の内周側の先端部が尖るように、内周端縁に向けて次第に細くなる先細の形状を有する。このような保持リング部33における内周端縁が先細となる形状は、保持リング部33がプレス加工で形成されていることにより、安定して得ることができる。更に、プレス加工で形成されることにより、例えば従来のようにロストワックス鋳造で形成される場合に比べて、保持リング部33の強度を高めることができる。なお本実施例において、保持リング部33の厚さ寸法(周方向と半径方向とに直交する方向の寸法)の最大値は、0.15mm以上0.35mm以下であることが好ましい。これにより、保持リング部33が強度を適切に確保して、ハンガー部材20を安定して支持できるとともに、フレーム部材30の軽量化も図ることができる。
【0053】
更に、フレーム部材30の正面視(図1)において、左右の保持リング部33は、揺動リング部25が引っ掛けられる下端部33cと、下端部33cとは反対側に配される上端部33dとを有する。この場合、左右一対の保持リング部33は、互いに、左右の保持リング部33の上端部33d間の左右方向における間隔が、左右の保持リング部33の下端部33c間の左右方向における間隔よりも狭くなるように、上下方向に対して傾斜した向きで左右対称的に配されている。この場合、左右の保持リング部33は、例えば図1に示すように、上下方向に対し、20°以上の傾斜角度αが確保されるように傾斜して配されていることが好ましい。
【0054】
これによって、フレーム部材30をプレス加工するために左右の支持アーム部32がフレーム本体部31の内周部31aに設けられていても、左右の保持リング部33の下端部33c間の間隔を大きく確保し易くして、ハンガー部材20を大きく形成し易くすること(特に左右方向に大きく形成し易くすること)ができる。このため、フレーム部材30の大きさに対して、より大きな宝石21をハンガー部材20に固定することが可能となる。従って、フレーム部材30に対し、より大きな宝石21を小さく揺動させて美しく輝かせることができる。
【0055】
フレーム部材30の接続部35は、フレーム本体部31の下端部に設けられているとともに、下方に円弧状に突出して形成されている。この接続部35が設けられていることにより、フレーム部材30の下に、本実施例のペンダントトップ10とは別のペンダントトップ、アクセサリー、又は、ロゴマークが付いたキーホルダー等のような様々な装飾体を取り付けることが可能となる。それによって、製品のバリエーションを増やすこと、また、他の企業とコラボレーションする製品に利用すること等が可能となる。
【0056】
本実施例のハンガー部材20は、金、プラチナ、シルバー等の貴金属製の1つの板材(金属板)にプレス加工を施すことによって形成される単一のプレス加工品として、その全体が一体的に形成されている。なお本開示において、ハンガー部材20の材質及び作製方法は限定されない。また、台座部22及び爪部23の形状や、爪部23の設置個数なども限定されず、変更可能である。
【0057】
ハンガー部材20の台座部22は、宝石21を載置して爪部23とともに宝石21を固定する。台座部22は、円錐台状の輪郭を有しており、台座部22の中央部には円形の開口部が形成されている。宝石21は、そのキューレット部を台座部22の開口部から後方に突き出した状態で台座部22に固定される。本実施例のハンガー部材20には、4つの爪部23が、宝石21を固定するために、台座部22の外周縁部から外側に向けて突出している。各爪部23は、宝石21が台座部22に載置される前は、図5に示すように、台座部22からまっすぐに突出している。また、各爪部23は、台座部22に宝石21がセットされた後に、宝石21に向けて押圧されて曲がった形状に塑性変形することにより、宝石21を台座部22と爪部23とで固定することができる。
【0058】
ハンガー部材20における左右の延出部24は、台座部22と左右の揺動リング部25とを連結する連結部分である。左右の延出部24は、台座部22から左右方向の外側に延出しており、また、互いに左右対称的な形状を有する。このような左右の延出部24は、ペンダントトップ10のデザイン等に応じて、台座部22及び揺動リング部25間の長さ寸法を変更することが可能である。また本実施例では、左右の延出部24を設けずにハンガー部材20を形成することも可能である。
【0059】
左右の揺動リング部25は、延出部24の先端部に一体的に設けられている。各揺動リング部25は、円環状又はリング状に形成されており、その中央部には、円形状の中央開口部25aが設けられている。また、各揺動リング部25は、左右方向に平行な姿勢又は略平行な姿勢で延出部24に支持されている。
【0060】
左右の揺動リング部25は、フレーム部材30の左右の保持リング部33の内周部に引っ掛けられて保持されている。言い換えると、左右の揺動リング部25と左右の保持リング部33とは、互いに相手方の中央開口部25a,33aを貫通するとともに内周部同士を接触させるようにして相互に係合している。
【0061】
左右の各揺動リング部25において、揺動リング部25の周方向に直交する断面の形状は、図6に示すように、揺動リング部25の内周側の先端部が尖るように、内周端縁に向けて次第に細くなる先細の形状を有する。また、本実施例では、保持リング部33の断面形状も、上述したように、その内周端縁に向けて次第に細くなる先細の形状を有する(図4を参照)。
【0062】
これにより、例えば保持リング部33及び/又は揺動リング部25の周方向に直交する断面が円形状である場合に比べて、保持リング部33の内周部に揺動リング部25を引っ掛けて保持したときに、保持リング部33と揺動リング部25とが互いに接触する接触部の接触面積を小さくできる。特に、保持リング部33の内周部と揺動リング部25の内周部とが、本実施例のように、共にシャープなエッジ形状に形成されている場合、保持リング部33と揺動リング部25とが1か所の点接触で相互に接触するため、その接触面積を極めて小さくすることができる。
【0063】
その結果、保持リング部33による揺動リング部25の支持が不安定になり易くなるため、フレーム部材30に対してハンガー部材20を揺動させ易くすることができる。更に、保持リング部33に対する揺動リング部25の摩擦抵抗を小さくできるため、ハンガー部材20をより細かく揺動させることが可能となり、また、ハンガー部材20の揺動動作をより長く続けさせることができる。
【0064】
また、上述のような保持リング部33及び揺動リング部25における各内周部がシャープな先細となる形状は、保持リング部33及び揺動リング部25がそれぞれプレス加工で形成されていることにより、安定して得ることができる。更に、プレス加工で形成されることにより、例えば従来のようにロストワックス鋳造で形成される場合に比べて、保持リング部33及び揺動リング部25の強度が高められている。これにより、保持リング部33及び揺動リング部25の内周端縁をより細く形成できるため、ハンガー部材20を揺動させ易くする効果と、揺動動作を長く続ける効果とをより高めることができる。
【0065】
本実施例のハンガー部材20は、左右の揺動リング部25を左右の保持リング部33に引っ掛けたときに、左右の揺動リング部25に設けられる中央開口部25aが前後方向に向くようにしてフレーム部材30に保持される。また、ハンガー部材20がフレーム部材30に保持されたときに、ハンガー部材20に固定された宝石(ダイヤモンド)21のテーブル表面が斜め上方を向くように(図2を参照)、ハンガー部材20が形成されている。
【0066】
次に、上述した実施例のペンダントトップ10を製造する方法について説明する。
【0067】
ペンダントトップ10を製造する製造方法は、
(i)金属板にプレス加工を行うことによって図3に示したフレーム部材30の一次加工品30aを作製する第1プレス加工工程と、
(ii)第1プレス加工工程で作製された一次加工品30aに対し、支持アーム部32がフレーム本体部31から後方に延びるように曲げ加工を行う曲げ加工工程と、
(iii)薄い平板状の金属板にプレス加工を行うことによって図5に示したハンガー部材20を作製する第2プレス加工工程と、
(iv)第2プレス加工工程で作製されたハンガー部材20の台座部22に宝石21をセットして固定する石留め工程と、
(v)ハンガー部材20をフレーム部材30に組み付けてペンダントトップ10を製造する組立工程と
を含む。
【0068】
(i)の第1プレス加工工程には、金属板を準備する準備工程(A)と、金属板に対してせん断加工(打ち抜き加工)を機械的に行うせん断工程(B)と、金属板及び金属板から打ち抜かれたブランク部材の少なくとも1つに対し、曲げ加工、絞り加工、及び圧縮加工の少なくとも1つの変形加工を機械的に行う変形工程(C)とが含まれる。なお、第1プレス加工工程において、せん断工程(B)と変形工程(C)を行う順番は限定されず、せん断加工と変形加工のどちらを先に行ってもよく、また、せん断加工と変形加工を交互に行ってもよい。また、金属板及び金属板から形成されたブランク部材の少なくとも1つに対してせん断加工(又は変形加工)を行うとは、金属板に対するせん断加工(又は変形加工)、その金属板から形成されたブランク部材に対するせん断加工(又は変形加工)、及び、金属板とその金属板から形成されたブランク部材の両方に対するせん断加工(又は変形加工)のうちの少なくとも1つのせん断加工(又は変形加工)を行うことを意味する。
【0069】
準備工程(A)では、被加工材となる薄い平板状の金属板を準備する。準備する金属板の厚さは特に限定されないが、プレス加工によって作製されるフレーム部材30で適切な強度を確保するために、例えば、0.2mm以上、特に0.25mm以上であることが好ましい。また金属板の厚さは、フレーム部材30の軽量化及びコスト削減を図るために、0.8mm以下、特に0.5mm以上であることが好ましい。
【0070】
準備する金属板の材質(金種)は特に限定されない。金属板の材質として、例えば、銀、金、白金、銅、及び鉄からなる群から選ばれる金属、これら金属の合金(例えば、金を主体として、銀及び銅の少なくとも一方を含有する合金)、及びこれら金属を主体として他の金属を含む合金(例えば、金を主体として、パラジウム等を含有する合金、銅を主体として亜鉛を含有する合金等)などから選択される材質が採用されてもよい。
【0071】
せん断工程(B)では、金属板にせん断加工(例えば、打ち抜き加工)を行って薄板状のブランク部材を形成する。このせん断工程(B)では、一回のせん断加工でブランク部材を形成してもよく、又は、複数回のせん断加工でブランク部材を形成してもよい。
【0072】
変形工程(C)では、金属板及び/又は金属板から打ち抜かれたブランク部材に対して、変形加工(例えば、絞り加工)を行うことにより、周方向に直交する断面が略U字状又は略J字状を呈するフレーム本体部31を少なくとも形成する。この変形工程(C)では、1回の変形加工のみが行われてもよく、複数回の変形加工が順番に行われてもよい。
【0073】
ここで、(i)の第1プレス加工工程において、準備された金属板から、図3に示したフレーム部材30の一次加工品30aを作製する方法の一例について、簡単に説明する。なお、本開示において、一次加工品30aを作製する方法はこれに限定されるものではない。
【0074】
先ず、金属板に対して変形加工(例えば、絞り加工)を行うことによって、金属板にフレーム本体部31の形状を形成する。続いて、フレーム本体部31が形成された金属板に対し、複数回のせん断加工を行うことによって、フレーム本体部31の内側に、図3に示すような左右の支持アーム部32及び左右の保持リング部33の形状を形成するとともに、フレーム本体部31の外側に、チェーン連結部34及び接続部35の形状を形成する。その後、各部位の形状が形成された金属板にせん断加工(例えば、打ち抜き加工)を行い、更に、チェーン連結部34を曲げる変形加工を行うことによって、図3に示した一次加工品30aを作製する。
【0075】
次に、作製した図3の一次加工品30aに対し、(ii)の曲げ加工工程を行う。この曲げ加工工程では、一次加工品30aの支持アーム部32をフレーム本体部31に対して後方に曲げる曲げ加工を行う。これによって、本実施例のフレーム部材30が作製される。このとき、支持アーム部32の長さ寸法が支持アーム部32の厚さ寸法よりも大きいため、支持アーム部32に曲げ加工を行ったときに、保持リング部33を歪めさせることなく、支持アーム部32を円滑に後方へ曲げることができる。なお、この曲げ加工工程で作成されるフレーム部材30では、左右の保持リング部33に、ハンガー部材20の揺動リング部25を挿通させるためのスリット33bが設けられている。また、上述したチェーン連結部34を曲げる変形加工は、第1プレス加工工程ではなく、この曲げ加工工程で行われてもよい。
【0076】
一方、(i)の第1プレス加工工程とは別に、ハンガー部材20を作製するために(iii)の第2プレス加工工程を行う。この第2プレス加工工程には、金属板を準備する準備工程と、金属板に対してせん断加工(打ち抜き加工)を行うせん断工程と、金属板及び金属板から打ち抜かれたブランク部材の少なくとも1つに対し、曲げ加工、絞り加工、及び圧縮加工の少なくとも1つの変形加工を行う変形工程とが含まれる。なお、この第2プレス加工工程においても、せん断加工と変形加工を行う順番は限定されず、せん断加工と変形加工のどちらを先に行ってもよく、また、せん断加工と変形加工を交互に行ってもよい。
【0077】
例えば、この第2プレス加工工程では、金属板に対して変形加工(例えば、絞り加工)を行うことによって、金属板に台座部22の輪郭、爪部23の形状、左右の延出部24の形状、左右の揺動リング部25の輪郭を形成する。続いて、フレーム本体部31が形成された金属板に対してせん断加工を行うことによって、金属板に台座部22及び左右の揺動リング部25の形状を形成する。その後、台座部22、爪部23、左右の延出部24、及び左右の揺動リング部25の形状が形成された金属板にせん断加工(例えば、打ち抜き加工)を行うことによって、図5に示したハンガー部材20を作製する。
【0078】
第2プレス加工工程が完了した後、(iv)の石留め工程を行って、ハンガー部材20の台座部22に宝石21をセットして固定する。この石留め工程では、先ず、ハンガー部材20の台座部22に宝石21をセットし、その後、ハンガー部材20の爪部23を押圧して塑性変形させることよって、宝石21を台座部22に固定して保持する。これによって、宝石21が固定されたハンガー部材20が作製される。
【0079】
フレーム部材30及びハンガー部材20を作製した後、(v)の組立工程を行って、ハンガー部材20をフレーム部材30に組み付ける。この組立工程では、ハンガー部材20の左右の揺動リング部25を、フレーム部材30の保持リング部33に設けたスリット33bから、左右の保持リング部33の内側に挿入することによって、左右の揺動リング部25を左右の保持リング部33に引っ掛ける。これにより、ハンガー部材20がフレーム部材30の左右の保持リング部33に揺動可能に吊り下げられて保持される。ハンガー部材20が左右の保持リング部33に吊り下げられた後、保持リング部33をスリット33bがなくなるように押圧して塑性変形させることにより、保持リング部33をリング状の形状に形成する。
【0080】
以上のような工程を行うことによって、本実施例のペンダントトップ10が製造される。また、このペンダントトップ10のチェーン連結部34にチェーン5を通すことによって、図1に示すようなペンダントトップ10がチェーン5に吊り下げられたネックレス1が製造される。
【0081】
本実施例のネックレス1及びペンダントトップ10によれば、フレーム部材30とハンガー部材20とが、それぞれ、一枚の金属板をプレス加工することによって作製される単一のプレス加工品により形成されている。このようにフレーム部材30がプレス加工品により形成されていることにより、例えば前述したロストワックス鋳造で形成される従来のフレーム部材に比べて、フレーム部材30の作製時間、及びペンダントトップ10の製造時間を短縮することができ、また、フレーム部材30の作製コストを削減できる。具体的には、本実施例のようにプレス加工を利用してフレーム部材30を作製することにより、フレーム部材30の作製時間を、ロストワックス鋳造を利用した従来の場合に比べて1/3以下に短縮でき、また、フレーム部材30の作製コストを、ロストワックス鋳造を利用する従来の場合に比べて1/5以下に削減できる。
【0082】
また、本実施例のようにプレス加工を利用してフレーム部材30が作製されることにより、フレーム部材30を、経験や熟練度等の影響を受け難くして、機械的に作製することができる。その結果、作製者の育成に要する費用及び時間を軽減でき、それによって、製造コストの更なる削減を図ることができる。更に、ペンダントトップ10の製造が作業者の経験や熟練度等の影響を受け難くなることにより、ペンダントトップ10の不良品の発生を低減できる。また、ペンダントトップ10の品質の安定性を担保できる。具体的には、同じ構造を有する複数のペンダントトップ10を製造したときに、何れのペンダントトップ10においても、ハンガー部材20を、フレーム部材30に対して同じようなスピードや幅で小さく揺動させることができるため、従来では難しかったハンガー部材20の揺動動作(揺れ方)の均質化を容易に実現することが可能となる。
【0083】
更に、本実施例のようにプレス加工を利用してフレーム部材30を作製することにより、ロストワックス鋳造を利用する従来の場合に比べて、フレーム部材30の強度を高めることができ、その結果、フレーム部材30を薄く形成することが可能となる。例えばフレーム部材30を、0.50mm以下の厚さ寸法、更には0.35mm以下の厚さ寸法を有するように薄く形成しても、フレーム部材30を目的とする形状に安定して形成でき、且つ、ペンダントトップ10の使用に耐え得る適切な強度を安定して確保できる。更にフレーム部材30を薄く形成できることにより、フレーム部材30の軽量化(例えば約50%の軽量化)が可能となり、また、地金の使用量を低減できるため、より一層のコストダウンも可能となる。
【0084】
その上、プレス加工を利用することにより、同一構造を有するペンダントトップ10の大量生産を行うことが可能となり、大きな需要に対して迅速に対応することができる。また、プレス加工を利用することにより、ロストワックス鋳造を利用する場合に比べて、フレーム部材30の外面を綺麗に仕上げることができるため、ペンダントトップ10の外観品質を更に高めることもできる。更に、フレーム部材30にメッキ処理を行う場合に、メッキ表面を綺麗に形成できる。
【0085】
すなわち、フレーム部材30及びハンガー部材20がそれぞれ単一のプレス加工品により形成されている本実施例のネックレス1及びペンダントトップ10によれば、ロストワックス鋳造を利用して作製される製品や、フレーム本体部に保持リング部をロウ付けで固定することによって作製される製品に比べて、製造時間の短縮、製造コストの削減、品質の安定化、製品の軽量化、不良品の低減、高品質化といった多くの利点を得ることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 ネックレス
5 チェーン
10 ペンダントトップ(装身具本体)
20 ハンガー部材
21 宝石(ダイヤモンド)
22 台座部
23 爪部
24 延出部
25 揺動リング部
25a 中央開口部
30 フレーム部材
30a 一次加工品
31 フレーム本体部
31a 内周部
31b 外周部
32 支持アーム部
33 保持リング部
33a 中央開口部
33b スリット
33c 下端部
33d 上端部
34 チェーン連結部
35 接続部
Re 保持リング部の外径寸法
Ri 保持リング部の内径寸法
α 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6