(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004782
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】陸上養殖装置
(51)【国際特許分類】
A01K 63/00 20170101AFI20230110BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A01K63/00 Z
A01K63/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021127825
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】517119534
【氏名又は名称】合同会社環境技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】506302077
【氏名又は名称】小林 彌
(72)【発明者】
【氏名】小林 彌
(72)【発明者】
【氏名】山口 弘志
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104AA22
2B104CA01
2B104CB41
2B104EB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】養殖槽中の養殖魚に対して放音して、養殖魚のストレスを軽減して、餌の食いの向上につなげ、成長期間を短くして経済性を発揮することのできる陸上養殖装置を提供する。
【解決手段】陸上に設置され、内部に養殖魚が飼育される飼育水が満たされる養殖用水槽1と、この養殖用水槽に浄化された飼育水を供給する飼育水供給手段2と、この養殖用水槽の外周面1aに直接または間接に接続され、養殖魚が聴音可能な音波振動を発生するアクチュエータとを具備し、このアクチュエータの音波振動が骨伝導により水槽中の飼育水に伝導され、養殖用水槽を響体として、アクチュエータからの音波振動が飼育水中の養殖魚に放音されることを特徴としている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上に設置され、内部に養殖魚が飼育される飼育水が満たされる養殖用水槽と、
この養殖用水槽に浄化された飼育水を供給する飼育水供給手段と、
この養殖用水槽の外周面に直接または間接に接続され、養殖魚が聴音可能な音波振動を発生するアクチュエータとを具備し、
このアクチュエータの音波振動が骨伝導により前記水槽中の飼育水に伝導され、前記養殖用水槽を響体として、前記アクチュエータからの音波振動が飼育水中の養殖魚に放音されることを特徴とする陸上養殖装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、振動板とこの振動板を加振する振動発生部とを有し、
前記振動板が前記養殖用水槽の外周面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の陸上養殖装置。
【請求項3】
前記振動発生部は、前記振動板の一方の主面側に固定されて前記振動板の板厚方向に振動し、
前記振動板は、前記一方の主面の反対側となる他方の主面が前記外周面または前記外周面に設けられた取付部に直接またはクッション材を介して当接するよう固定されていることを特徴とする請求項2に記載の陸上養殖装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、複数設けられ、それぞれの前記アクチュエータから同一又は異なる音波振動が発せられることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の陸上養殖装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、2~3kHzの周波数帯域で音波振動を出力することを特徴とする請求項1に記載の陸上養殖装置。
【請求項6】
前記アクチュエータから出力される音波振動は、飼育中の養殖魚の生まれ育った場所の環境音を再生又は模したものに設定されていることを特徴とする請求項5に記載の陸上養殖装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚介類の陸上養殖装置に関するものであり、更に詳細には、水槽内で養殖される魚介類のストレスを解消して、餌の食いの向上につなげ、成長期間を短くして経済性を発揮することのできる陸上養殖装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高級魚といわれるヒラメやトラフグや鰻を始めとして、バナメイエビ、チョウザメ、ニジマス、サクラマス等の閉鎖循環式の陸上養殖が、種々の企業で実現され、陸上養殖魚が市場に提供され始めている。この閉鎖循環式の陸上養殖は、育成環境を完全にコントロールできることが最大のメリットで、海面養殖とは異なり、外部環境の影響を受けないため、台風、赤潮被害を受けることなく、病原体の侵入の虞が少ないため、安定した生産が可能となっている。
【0003】
これら陸上養殖に係る技術としては、例えば、特許文献1には、養殖水のキャビテーション処理に伴う微細気泡の過剰発生を防止しつつも、被養殖物の生育促進等は問題なく図ることができる閉鎖型陸上養殖装置と、それを用いた陸上養殖方法とを提供する技術が知られている。
【0004】
一方、例えば特許文献1に示される従来からの陸上養殖技術における最大のデメリットとしては、生産コストが高い、即ち、経済性が担保されていない点が指摘されている。これに対して、近年、養殖魚の音によるストレスの軽減や成長の促進を図って、陸上養殖の経済性の向上を図ろうとする試みが、例えば非特許文献1の「魚の水中音官学と釣りへの応用」により開示されている。しかしながら、この非特許文献1に記載された「魚の水中音官学と釣りへの応用」では、その
図1に放音態様が開示されているが、水中スピーカを用いての養殖魚に対して放音を行うもので、放音された音波が水中で減衰してしまい、養殖槽で泳ぐ養殖魚に効果的に届いているか、又は、聴音されているのか、確証が無かった。
【0005】
一方で、この陸上養殖装置において養殖魚と音との関連を開示する従前の特許文献とすると、特許文献2に示す「気液ポンプによる陸上養殖装置」、及び、特許文献3に示す「超音波透過式残餌分検出方法及び装置」に示される2つの文献しか散見されないのが、実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-19509号公報
【特許文献2】特開2006-61136号公報
【特許文献3】特開平10-68778号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「計測と制御」 第58巻 第1号(2019年1月号) 公益社団法人計測自動制御学会刊
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献2の「気液ポンプによる陸上養殖装置」においては、ブロワ、コンプレッサーを含む、従来のポンプ類を使わずに、防音、防振、冷却設備の必要もなく、無騒音、無振動的な簡単な設備で、赤潮、伝染病、水温変化に対応できる危険性のない養殖技術、さらに水質浄化も同時に対応でき、海洋を汚染することのない陸上養殖装置を提供することを目的とするものであり、養殖魚に対して放音する技術を何ら開示するものでないことは明らかである。一方、特許文献3の「超音波透過式残餌糞検出方法及び装置」においては、魚貝類の陸上養殖システムに必須の情報である、残餌と糞を超音波の透過情報により検出し、検出パルスを外部へ出力する技術を開示するものであり、これも特許文献2と同様に、養殖魚に対して放音する技術を何ら開示するものでないことは明らかである。
【0009】
(本発明の目的)
この発明の目的は、養殖槽中の養殖魚に対して放音して、養殖魚のストレスを軽減して、餌の食いの向上につなげ、成長期間を短くして経済性を発揮することのできる陸上養殖装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し、目的を達成するため、この発明に係る陸上養殖装置は、請求項1の記載によれば、陸上に設置され、内部に養殖魚が飼育される飼育水が満たされる養殖用水槽と、この養殖用水槽に浄化された飼育水を供給する飼育水供給手段と、この養殖用水槽の外周面に直接または間接に接続され、養殖魚が聴音可能な音波振動を発生するアクチュエータとを具備し、このアクチュエータの音波振動が骨伝導により前記水槽中の飼育水に伝導され、前記養殖用水槽を響体として、前記アクチュエータからの音波振動が飼育水中の養殖魚に放音されることを特徴としている。
【0011】
このように、この発明の請求項1に係る陸上養殖装置によれば、養殖水槽の外周面に取り付けられたアクチュエータからの音波振動が、養殖水槽を響体として、養殖水槽中の飼育水中で養殖されている養殖魚に効率的に放音され、養殖魚のストレスを軽減し、餌の食い付きの向上につながり、生長期間を短くして経済性の向上を図る効果を奏することができるものである。
【0012】
また、この発明に係る陸上養殖装置は、請求項2の記載によれば、前記アクチュエータは、振動板とこの振動板を加振する振動発生部とを有し、前記振動板が前記養殖用水槽の外周面に固定されていることを特徴としている。
【0013】
このように、この発明の請求項2に係る陸上養殖装置によれば、アクチュエータの振動板は養殖用の水槽の外周面に固定されているので、この振動板を防水する必要が無く、設置コストの低廉化を図ることが出来ると共に、水槽全体を響体と振動させ、養殖魚への放音を効果的に達成することができる効果を奏することが出来るものである。
【0014】
また、この発明に係る陸上養殖装置は、請求項3の記載によれば、前記振動発生部は、前記振動板の一方の主面側に固定されて前記振動板の板厚方向に振動し、前記振動板は、前記一方の主面の反対側となる他方の主面が前記外周面または前記外周面に設けられた取付部に直接またはクッション材を介して当接するよう固定されていることを特徴としている。
【0015】
このように、この発明の請求項3に係る陸上養殖装置によれば、アクチュエータから骨伝導として伝えられた音波振動は、水槽を響体として振動させ、平面が振動することによる平行波として放音されることになり、従来のコーン型スピーカーにおける点源が振動する放音の状態と比較して、より遠くまで音波振動が到達される効果が達成されることになる。
【0016】
また、この発明に係る陸上養殖装置は、請求項4の記載によれば、前記アクチュエータは、複数設けられ、それぞれの前記アクチュエータから同一又は異なる音波振動が発せられることを特徴としている。
【0017】
このように、この発明の請求項4に係る陸上養殖装置によれば、養殖用水槽中の養殖魚に、外周から均一に放音されることとなり、全ての養殖魚に対して均一に放音効果が発揮されることとなる効果が奏せられることとなる。
【0018】
また、この発明に係る陸上養殖装置は、請求項5の記載によれば、前記アクチュエータは、2~3kHzの周波数帯域で音波振動を出力することを特徴としている。
【0019】
このように、この発明の請求項5に係る陸上養殖装置によれば、養殖魚の可聴帯域とされる2~3kHZの周波数帯域で音波振動を出力しているので、養殖魚に放音される音振動が、養殖魚において確実に聴音されて、ストレスの軽減が効果的に発揮される効果が奏せされるものである。
【0020】
また、この発明に係る陸上養殖装置は、請求項6の記載によれば、前記アクチュエータから出力される音波振動は、飼育中の養殖魚の生まれ育った場所の環境音を再生又は模したものに設定されていることを特徴としている。
【0021】
このように、この発明の請求項6に係る陸上養殖装置によれば、養殖魚が感じる音振動は、飼育中の養殖魚の生まれ育った場所の環境音を再生又は模したものに設定されているので、養殖魚にとってより確実にストレスの軽減を図る効果を奏することが出来る。
【発明の効果】
【0022】
このように、この発明に係る陸上養殖装置によれば、養殖槽中の養殖魚に対して放音して、養殖魚のストレスを軽減して、餌の食いの向上につなげ、生長期間を短くして経済性を発揮することのできることになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明に係る魚介類の陸上養殖装置の一実施の形態を示す模式図。
【
図2】アクチュエータの養殖用水槽への取り付け状態を一部切断して示す斜視図
【
図4】アクチュエータの養殖用水槽への取り付け構造を示す側断面図。
【
図5(A)】アクチュエータから骨伝導された音波振動により養殖用水槽の壁面が振動することにより、養殖用水槽中の飼育水に放音される音波の伝達状態を写真により模式的に示す図。
【
図5(B)】従来のコーン型の水中スピーカーから養殖用水槽中の飼育水に放音される音波の伝達状態を写真により模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、添付図面を参照して、この発明に係る陸上養殖装置の一実施例の構成を詳細に説明する。
【実施例0025】
図1に示す魚介類の陸上養殖装置Aは、養殖の対象となる魚介類を入れる水槽1、水槽1内に海水を供給し、海水のオーバーフロー分を排水する給排水装置2及び水槽1内の海水の溶存酸素の濃度を所要の値に制御する溶存酸素濃度制御装置3を備えている。なお、本実施例では、溶存酸素濃度制御装置3でひとつの水槽1を管理するようになっているが、これに限定するものではなく、複数の水槽1を管理するようにしてもよい。
【0026】
水槽1は、本実施の形態では、海水が循環しやすいように平面視で円形の槽を採用しているが、これに限定するものではなく、設置場所の条件に適合する形状のものを適宜採用できる。水槽1の底部の中心部には集水口11が設けられており、内底面12は集水口11に向けてやや下り傾斜するように形成されている。
【0027】
集水口11には、給排水装置2を構成する排水管(連通管)21が接続されている。排水管21は、水槽1の底部と平行に側部外側まで延長されており、排水管21の排出側の端部側は上方へ向け鉛直方向に設けられている。排水管21の上端部には溢水枡22が設けられており、溢水枡22の上縁は水槽1の上縁よりやや低くなるように形成されている。なお、溢水枡22と水槽1は、排水管21を介し連通しているので、水槽1の液面の高さはオーバーフロー位置である溢水枡22の上縁の高さと同じになる。
【0028】
給排水装置2を構成する給水管23は、外部から水槽1の内底面12の近傍まで導入されており、先端には酸素供給部であり後述する溶存酸素濃度制御装置3を構成する気液混合エジェクター33が排出方向を横へ向けて取り付けられている。気液混合エジェクター33は、詳細は図示しないがベンチュリ管を使用した構造であり、給水管23から送られる海水に、後述する酸素供給管32から送られる酸素ガスを気泡状態で混合するものである。
【0029】
気液混合エジェクター33は、
図1に示すように水槽1の内底部近傍に配されているので、水槽1の仕様においてほぼ最大の水圧下で酸素ガスと海水を混合することができる。これにより、気液混合エジェクター33が、より上方側の浅い位置に設けた場合と同水温下で比較した場合、酸素ガスの溶解がより高効率で行われる。
【0030】
水槽1内の海水の溶存酸素濃度は、溶存酸素濃度制御装置3によって所定の値に制御される。溶存酸素濃度制御装置3は、酸素源である酸素ガス発生装置31を備えている。酸素ガス発生装置31の構造は公知のものが採用され、特に限定しないが、本実施の形態では、合成ゼオライト等の吸着剤により、空気中の窒素を吸着除去し、高純度の酸素ガスを得る方式のものを採用しており、酸素ガスを貯留する高圧タンクを有さず、必要な分の酸素ガスを発生させることができる。
【0031】
酸素ガス発生装置31からは、酸素供給管32が延出され、酸素供給管32の先端は、酸素ガス供給口320がベンチュリ管の径小部に開口するようにして前記気液混合エジェクター33に接続されている。酸素供給管32の経路中には、酸素ガス発生装置31に近い側から順に、電動弁34、酸素ガス流量計35及び酸素ガス加湿器36が設けられている。電動弁34は、後述する溶存酸素制御器37によって開度が微調整されるものである。符号39はバイパス手動弁で、何らかの理由で制御が不能となったときに、手操作で強制的に溶存酸素濃度を調節するためのものである。
【0032】
次に、本発明の最大の特徴をなす放音機構40について
図2乃至
図5を参照して詳細に説明する。
【0033】
詳細には、
図1及び
図2に示すように、放音機構40は、地面Gに設置された水槽1の外周面に取り付けられるものであり、この実施例においては、水槽1が響体として機能することになる。より具体的には、放音機構40は、この水槽1の外周面に固定的に取り付けられたアクチュエータ42を備えて構成されている。
【0034】
ここで、この養殖用の水槽1は、例えば、鋼材等から構成される断面正方形状の有底中空の筐体から構成されている。上述したアクチュエータ42は、水槽1の外周面に取り付けられるもので、これに骨伝導により伝達させた振動で水槽1全体としてスピーカ機能を発揮させるために設けられているものであり、水槽1内に、音声信号を放音させるための図示しない制御装置等を備えている。
図3は、水槽1のアクチュエータ42付近を示す部分断面斜視図である。
図3に示すように、アクチュエータ42は、水槽1の外部に設けられているので、防水処理を厳密に施す必要が無く、コスト低減に大きく貢献することが出来るものである。
【0035】
図3(A)及び(B)に示すように、アクチュエータ15は、振動を発生する振動発生部50と、振動発生部50によって加振される振動板52と、を有して構成されている。振動発生部50は、制御装置からの電気信号を受けて音波を発生させるための振動を起こすものである。振動発生部50は、振動板52の一方の主面に固定されて振動板52の板厚方向に振動する。振動発生部50の駆動方式としては、例えば、動電型、静電型、圧電型、リボン型、イオン型等の各種方式を採用し得る。
【0036】
振動板52は、略矩形板状の部材であり、前述のとおり、振動板52の一方の主面には、振動発生部50が振動伝達可能に固定されている。振動板52は、振動発生部50をsに取り付けるための水槽1の外周面に取り付けるための持部材としての機能と、振動発生部50の振動を水槽1に伝達する機能とを有する。
【0037】
振動板52の、振動発生部50が取り付けられている一方の主面に対して反対側となる他方の主面は、アクチュエータ42を水槽1の外周面に取り付けるための取付面52aとなる。取付面52aは、略平面状に形成されている。また、振動板52には、アクチュエータ42を水槽1の外周面に固定するための取付孔54が形成されている。取付孔
54には、ねじ等の図示しない締結部材が挿通される。
【0038】
なお、アクチュエータ42には、ガラスコーティング等が施され、振動発生部50等は、ガラスコーティング等によって覆われていても良い。これにより、アクチュエー42の耐水性、耐久性が更に高められる。
【0039】
図4は、水槽1の外周面におけるのアクチュエータ42付近を示す横断面図である。
図4に示すように、アクチュエータ42は、振動板52の取付面52aが、水槽1の外周面1aに直接または図示しないクッション材等を介して当接するように固定されている。
【0040】
振動板52と水槽1は、図示しないねじ等の締結部材によって固定されていても良いし、接着剤等によって固定されていても良い。アクチュエータ42の振動板52が、水槽1の内周面1a固定されていることにより、振動発生部50の振動が振動板52を介して水槽1の外周面1aに効率良く伝播され、水槽1から高音質な音が水槽1内の飼育水中に向けて放音される。
【0041】
即ち、アクチュエータ42は、水槽1が全体として音を発生させるために飼育水を振動させる振動体として機能し、アクチュエータ42の振動が水槽1を介して飼育水中を面振動の態様で振動させて、飼育水中を泳ぐ養殖魚に向けて放音されることとなる。特に、本実施形態では、水槽1の外周面全体から自然波に近い平面波状の空気振動が発生するので、干渉によるノイズが少なく小音量でも遠くまで到達する明瞭な音波が得られる特有の効果が奏せられることになる。
【0042】
図5(A)は、実際に、水槽1の外周面から放音される音波信号の波形状態を示すもので、平面波状の空気振動となっていることが明白に示されている。これに対して、
図5(B)に示す従来のコーン型スピーカからの音波信号は、点源から周囲に向けて円弧面状に放出される信号形状となり、これにより、音波信号の到達距離が大きく異なることが理解される。
【0043】
尚、本実施例においては、アクチュエータ42を放音制御する制御装置は、養殖中の養殖魚の生まれ育った環境と同等の環境音を再現するように駆動制御するものであり、養殖中の養殖魚は、アクチュエータ42から放音されてくるところの、生まれ育った環境と同等の環境音を聴音することにより、ストレスが軽減され、免疫力の向上が図られると共に、餌の食いつきが向上され、これにより生長期間が短くなって、より効率の良い養殖が可能となり、経済性の向上を図ることが可能となる特有の効果を奏することが出来ることになる。
【0044】
次に、本実施の形態に係る魚介類の陸上養殖装置Aの作用を説明する。
魚介類の陸上養殖装置Aでは、給水管23から海水を供給し、気液混合エジェクター33によって、海水と酸素供給管32を通り供給された酸素ガスとを混合し、水槽1内に供給する。水槽1内の海水は、汚れや滓等とともに集水口11から排水管21に入り、溢水枡22からオーバーフローして排水され、これによって水槽1内の海水の液面は一定の高さに維持される。
【0045】
そして、トラフグ等の養殖魚は、水槽1内の海水中で、アクチュエータ42から放音される生まれ育った環境と同等の環境音を気化されつつ養殖される。養殖においては、水槽1内の海水に溶存している溶存酸素濃度が管理され、養殖魚にストレスを与えにくい好適な溶存酸素濃度で維持されるようになっている。
【0046】
詳しくは、溢水枡22内の排出される直前の海水の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサー38によって随時検出し、検出値をフィードバックして溶存酸素制御器37によって電動弁34の開度を調節し、気液混合エジェクター33に供給される酸素ガスの流量を調節する。これによって、養殖魚にストレスを与えにくい好適な溶存酸素濃度を維持するための適正な流量で酸素ガスが気液混合エジェクター33に供給される。
【0047】
なお、養殖魚にストレスを与えにくい好適な溶存酸素濃度とは、養殖される魚介類の種類によっても調節されるが、例えばトラフグの場合では80~90%程度(水槽1中の海水もほぼ同じ)である。また、給餌後は、養殖魚が活発に動くので海水中の溶存酸素濃度は、例えば50~70%程度に低下するが、前記のような制御を行うことによって、短時間でもとの溶存酸素濃度まで回復させることができる。さらに、養殖魚の活動量が減少する夜は、酸素ガスの供給量を少なくして溶存酸素濃度を維持するようにする。
【0048】
また、海水に供給されて混合される酸素ガスは、酸素ガス加湿器36によって飽和状態又は過飽和状態に加湿されているので、湿度が十分に高くなることによって、海水と直接触れる酸素供給管32先端の酸素ガス供給口320には塩が付着しない。また、仮に酸素ガス供給口320で塩分が結晶となって一旦付着してしまった場合でも、塩は酸素ガスから継続的に水分が供給されることにより、溶けるようにして除かれる。
【0049】
さらに、溢水枡22での排水は、水槽1の海水の液面と同じ高さでオーバーフローすることで行われるようになっており、溶存酸素濃度センサー38は溢水枡22内の液中に浸漬して配されている。つまり、水槽1内に供給され導入された海水中には、生物皮膜を形成しやすい貝や甲殻類の幼生等が浮遊しているが、この幼生等は水槽1内で養殖されている養殖魚に捕食されて、溢水枡22まではたどり着かない可能性が高い。したがって、溶存酸素濃度センサー38には生物皮膜が付着しにくい効果が達成されるものである。
【0050】
尚、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【0051】
例えば、上述した実施例においては、陸上養殖装置Aとして給排水装置2を用いるように説明したが、この発明はこのような給排水装置2を用いることに何等現手されることなく、他の方式・構造の給排水装置を用いることが出来ることは言うまでもない。