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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047836
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】イオン化装置及び質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20230330BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20230330BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20230330BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230330BHJP
【FI】
H01J49/04 900
H01J49/04 450
H01J49/16 700
H01J49/04 400
H01J49/42 150
G01N27/62 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156978
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 真悟
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041DA18
2G041EA04
2G041GA17
2G041GA20
(57)【要約】
【課題】液体試料を噴霧してイオン化するイオン化装置及び該イオン化装置を備えた質量分析装置において、ガスを加熱するために用いられるヒータに供給する電力の消費を抑える。
【解決手段】内部にイオン化室を構成する空間が設けられた筐体110と、該筐体に固定され液体試料を帯電液滴としてイオン化室に噴霧する試料噴霧プローブ111と、所定の種類のガスが導入されるプローブであって、ヒータが配設された加熱部1121と該加熱部により加熱されたガスをイオン化室に噴出させる噴出部1122とを有し該加熱部が筐体の外に位置するように固定された加熱ガス供給プローブ112と、ヒータに電力を供給する電力供給部1126と、加熱部を取り囲むように設けられ該加熱部を臨む面が鏡面加工された加熱部リフレクタ114と、筐体と加熱部リフレクタを接続する伝熱部材115、116、117とを備える質量分析装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にイオン化室を構成する空間が設けられた筐体と、
前記筐体に固定され、液体試料を前記イオン化室に噴霧する噴霧プローブと、
外部から導入されるガスを加熱するためのヒータが配設された加熱部と、該加熱部により加熱されたガスを前記イオン化室に噴出させる噴出部とを有し、前記加熱部が前記筐体の外に位置するように該筐体に固定された加熱ガス供給プローブと、
前記加熱部を取り囲むように設けられた第1リフレクタと、
前記第1リフレクタを囲むように設けられた第2リフレクタと
を備える質量分析装置。
【請求項2】
前記噴霧プローブと前記加熱ガス供給プローブが離間して、前記筐体の異なる位置に固定されている、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記第1リフレクタ及び/又は第2リフレクタが金属製である、及び/又は該第1リフレクタ及び/又は第2リフレクタの前記加熱部を臨む面が鏡面加工されている、請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
さらに、
前記筐体と前記第2リフレクタを接続する伝熱部材、
を備える、請求項1から3のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記伝熱部材が金属製である、請求項4に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記第2リフレクタが、
前記噴霧プローブが固定されるプローブ固定部と、開口部と、該噴霧プローブから漏出する液体試料を該開口部に流入させる下りの傾斜部とが設けられ、前記筐体の鉛直上方に配置された上面部材と、
前記開口部から流入する液体試料を流通させて前記第2リフレクタの外部に排出する流路が設けられた本体部材と
を備える、請求項1から5のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項7】
内部にイオン化室を構成する空間が設けられた筐体と、
前記筐体に固定され、液体試料を前記イオン化室に噴霧する噴霧プローブと、
外部から導入されるガスを加熱するためのヒータが配設された加熱部と、該加熱部により加熱されたガスを前記イオン化室に噴出させる噴出部とを有し、前記加熱部が前記筐体の外に位置するように該筐体に固定された加熱ガス供給プローブと、
前記加熱部を取り囲むように設けられた第1リフレクタと、
前記第1リフレクタを囲むように設けられた第2リフレクタと
を備えるイオン化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料をイオン化するために用いられるイオン化装置及び質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる目的成分を測定するために、液体クロマトグラフ質量分析装置が広く用いられている。液体クロマトグラフ質量分析装置を用いた目的成分の測定では、液体クロマトグラフに液体試料を導入し、該液体クロマトグラフのカラムで目的成分を分離したあと、質量分析装置に導入する。質量分析装置では、例えばエレクトロスプレーイオン化(ElectroSpray Ionization: ESI)プローブを備えたイオン化装置(ESI装置)により目的成分をイオン化し、生成したイオンを質量電荷比に応じて分離し検出する。
【0003】
ESI装置は、液体試料を流通させるキャピラリと、該キャピラリの外周に設けられたネブライザガス流路を有するESIプローブを備えている。ESIプローブでは、キャピラリ内を流通する液体試料を帯電させつつESIプローブの先端まで輸送し、該先端でネブライザガスを吹き付けることにより、液体試料を帯電液滴としてイオン化室内に噴霧する。イオン化室内に噴霧された帯電液滴は、溶媒の蒸発(脱溶媒)に伴い表面電場が増加し、電荷同士の反発によって分裂するという過程を繰り返して微細化し、最終的にイオン化する。イオン化室で生成されたイオンは、略大気圧であるイオン化室と、その後段に位置する真空室である分析室の圧力差により、イオン化室と分析室の隔壁に設けられたイオン導入口から分析室に引き込まれる。
【0004】
特許文献1には、イオン化の過程で脱溶媒を促進するために、帯電液滴に対して加熱ガス(ヒーティングガス。アシストガスとも呼ばれる。)を吹き付ける加熱ガス供給プローブを備えたイオン化装置が記載されている。加熱ガスには、例えば約400℃に加熱した乾燥空気が用いられる。加熱ガス供給プローブでは、例えば、乾燥ガス供給源からプローブの先端に至る流路の途中にヒータを巻回し、該ヒータが巻回された箇所(加熱部)を乾燥ガスが通過する際に該乾燥ガスを加熱する(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5412208号明細書
【特許文献2】特開2015-049077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ESI装置では、乾燥ガスを加熱する際にヒータに通電する必要があり、ヒータに供給する電力の消費を抑えることができる技術が求められている。
【0007】
ここではESI装置を例に従来技術の課題を説明したが、ESIと同様に液体試料をイオン化室に噴霧してイオン化する大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization: APCI)装置や大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photoionization: APPI)装置などのイオン化装置においても上記同様の問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、液体試料を噴霧してイオン化するイオン化装置及び該イオン化装置を備えた質量分析装置において、ガスを加熱するために用いられるヒータに供給する電力の消費を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオン化装置及び質量分析装置は、それぞれ、
内部にイオン化室を構成する空間が設けられた筐体と、
前記筐体に固定され、液体試料を前記イオン化室に噴霧する噴霧プローブと、
外部から導入されるガスを加熱するためのヒータが配設された加熱部と、該加熱部により加熱されたガスを前記イオン化室に噴出させる噴出部とを有し、前記加熱部が前記筐体の外に位置するように該筐体に固定された加熱ガス供給プローブと、
前記加熱部を取り囲むように設けられた第1リフレクタと、
前記第1リフレクタを囲むように設けられた第2リフレクタと
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、加熱部を取り囲むように第1リフレクタを設け、さらに第1リフレクタを囲むように第2リフレクタを設けた2層構造を採っている。本発明では、第1リフレクタによって加熱部からの熱輻射が反射され、加熱部と第1リフレクタの間の空間で蓄積された熱が対流する。さらに、第2リフレクタによって第1リフレクタからの熱輻射が反射され、第1リフレクタと第2リフレクタの間の空間でも蓄積された熱が対流する。その結果、加熱部の周辺の温度が低下しにくくなり加熱部から熱が逃げにくくなる。従って、液体試料が噴霧されるイオン化室に加熱ガスを供給するためにヒータに供給する電力の消費を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るイオン化装置の一実施例であるイオン化部を含む、本発明に係る質量分析装置の一実施例を含む質量分析装置と、液体クロマトグラフを組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置の要部構成図。
図2】本実施例のイオン化部の透視斜視図。
図3】本実施例のイオン化部の鉛直断面図。
図4】本実施例の加熱ガス供給プローブの構成を説明する図。
図5】本実施例のイオン化部と比較例のイオン化部における測定時の温度を測定した結果を示す図。
図6】本実施例のイオン化部と比較例のイオン化部における測定時の温度を測定した結果を示す別の図。
図7】変形例のイオン化部の要部構成図。
図8】変形例のイオン化部の外部リフレクタの上面の構造を説明する図。
図9】変形例のイオン化部の外部リフレクタの下面の構造を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るイオン化装置の一実施例であるイオン化部を含む、本発明に係る質量分析装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。図1は、本実施例の質量分析装置1を、液体クロマトグラフ2と組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置100の概略構成図である。
【0013】
質量分析装置1は、略大気圧であるイオン化室11と、図示しない真空ポンプにより内部が排気される真空チャンバを備えている。真空チャンバの内部は、第1中間真空室12、第2中間真空室13、及び分析室14に分離されており、この順に真空度が高くなる差動排気系の構成を有している。イオン化室11と第1中間真空室12は両者を隔てる隔壁に設けられた脱溶媒管113で連通している。第1中間真空室12と第2中間真空室13は、両者を隔てる隔壁に設けられたスキマー122の頂部の開口で連通している。第2中間真空室13と分析室14は、両者を隔てる隔壁に設けられた開口で連通している。
【0014】
イオン化室11には、エレクトロスプレーイオン化(ESI)プローブ111(本発明における噴霧プローブに相当)と、加熱ガス供給プローブ112が配置されている。ESIプローブ111には、液体クロマトグラフ2のカラムで分離された試料成分が順次導入される。加熱ガス供給プローブ112は、ESIプローブ111から噴霧される帯電液滴に対して加熱ガスを吹き付ける。加熱ガスとしては、例えば乾燥空気が用いられる。
【0015】
ESIプローブ111は、液体試料が流通するキャピラリと、該キャピラリの外側に設けられたネブライザガス流路を備えている。ESIプローブ111では、キャピラリ内を流通する液体試料を該高電圧(ESI電圧)により帯電させてESIプローブ111の先端まで輸送し、該先端でネブライザガスを吹き付けることにより、液体試料を帯電液滴としてイオン化室11内に噴霧する。イオン化室11内に噴霧された帯電液滴は、溶媒の蒸発(脱溶媒)に伴い表面電場が増加して電荷同士の反発によって分裂するという過程を繰り返して微細化し、最終的にイオン化する。また、加熱ガス供給プローブ112からの加熱ガスが帯電液滴に吹き付けられることによって脱溶媒が促進される。イオン化室11で生成されたイオンは、その後段に位置する第1中間真空室12の圧力差により、脱溶媒管113から第1中間真空室12に引き込まれる。脱溶媒管113は、隔壁の一部を構成する加熱ブロック(図示略)により加熱されており、この脱溶媒管113を通過する間に、更に脱溶媒が促進される。
【0016】
第1中間真空室12には、複数のロッド状の電極で構成されたイオンガイド121が配置されている。脱溶媒管113を通じて導入されたイオンは、イオンガイド121によってイオン光軸(イオンの飛行方向の中心軸)Cの近傍に収束され、スキマー122の頂部の開口を通じて第2中間真空室13に進入する。
【0017】
第2中間真空室13には、複数のロッド状の電極で構成されたイオンガイド131が配置されている。スキマー122の頂部の開口を通じて導入されたイオンは、イオンガイド131によってイオン光軸Cの近傍に収束され、第2中間真空室13と分析室14を隔てる隔壁に設けられた開口を通じて分析室14に進入する。
【0018】
分析室14には、四重極マスフィルタ141及びイオン検出器142が配置されている。四重極マスフィルタ141はいずれも、メインロッドと、該メインロッドの前段に位置するプレロッドで構成されている。分析室14に進入したイオンは、四重極マスフィルタ141で質量分離され、イオン検出器142で検出される。
【0019】
本実施例の質量分析装置1は、イオン化部の構成に特徴を有している。以下、イオン化部の構成を詳細に説明する。図2は、質量分析装置1のイオン化部の斜透視図(加熱部リフレクタ114、外部リフレクタ115、及び外装部119を透過させた図)、図3はイオン化室11の鉛直断面図である。なお、図2ではESIプローブ111の代わりに該ESIプローブ111が挿通及び固定される挿通穴1111を図示している。
【0020】
本実施例のイオン化部は、直方体状の箱体であるプローブボックス110(本発明における筐体に相当)、ESIプローブ111、加熱ガス供給プローブ112、加熱部リフレクタ114(本発明における第1リフレクタに相当)、及び外部リフレクタ115(本発明における第2リフレクタに相当)を有しており、それらが外装部119の中に収容されている。プローブボックス110の内部の空間がイオン化室11となる。
【0021】
プローブボックス110の上面には、挿通穴1111が設けられており、該挿通穴1111にESIプローブ111が固定される。また、プローブボックス110の側部(脱溶媒管113と反対の側部)には加熱ガス供給プローブ112が固定されている。プローブボックス110の下面と外部リフレクタ115の底面は伝熱部材116を介して接続されている(図3参照)。
【0022】
伝熱部材116は、プローブボックス110の内部であるイオン化室11で発生した熱を外部リフレクタ115に放出するための部材である。そのため、熱伝導性が高い材料が用いられるとよい。そのような材料は、典型的には金属(合金を含む。以下も同様。)である。本実施例では黄銅製の伝熱部材116が用いられている。伝熱部材116には、プローブボックス110と外部リフレクタ115を接続可能である限りにおいて任意の形状のものを用いることができる。ただし、プローブボックス110の熱を効率よく外部リフレクタ115に放出するためには、プローブボックス110と伝熱部材116の接触面積、及び伝熱部材116と外部リフレクタ115の接触面積が大きいことが好ましい。
【0023】
加熱ガス供給プローブ112には、該加熱ガス供給プローブ112に乾燥空気を供給するガス供給源1123が接続されており、これらを接続する流路には、乾燥ガスの供給と停止を制御するためのバルブ1124が設けられている(図4参照)。ガス供給源1123及びバルブ1124は外装部119の外に配置される。加熱ガス供給プローブ112は、ガス供給源1123から供給される乾燥空気を加熱する加熱部1121と、該加熱部1121で加熱された乾燥空気をイオン化室11に噴射する噴射部1122を備えており、加熱部1121がプローブボックス110の外に位置し、噴射部1122の先端がイオン化室11の内部に位置するようにプローブボックス110に固定されている。本実施例では、脱溶媒管113と対向する側から水平方向に加熱ガスが帯電液滴に対して噴射されるような角度で加熱ガス供給プローブ112を配置しているが、加熱ガス供給プローブ112の取り付け位置や角度は適宜に変更可能である。
【0024】
加熱部1121の外形は略直方体であり、その内部には、ガス供給源1123から供給されるガスが流通する流路が設けられ、また、該流路内を流れるガスを加熱するためのヒータ1125が配設されている。ヒータ1125には、外装部119の外に設けられた電力供給部1126から電力が供給される。加熱ガス供給プローブ112は略円筒状の外形を有しており、本実施例では乾燥ガスを加熱したものを加熱ガスとして使用するが、窒素ガス等の他の種類のガスを加熱したものを加熱ガスとして用いてもよい。
【0025】
プローブボックス110の外部に位置する加熱部1121には、該加熱部1121を取り囲むように、加熱部リフレクタ114が設けられている。加熱部リフレクタ114は、断面がコの字状になるように板状の部材の2箇所を折り曲げた部材である。加熱部1121は、中央に該加熱部1121を挿通する開口が設けられた、2個の矩形板状の第1スペーサ117によって、加熱部リフレクタ114の内面に固定されている。第1スペーサ117には、熱伝導率が低い材料からなるものを用いる。本実施例ではセラミック製のものを用いているが、その他、耐熱性を有する樹脂(例えば、ベークライトなどのフェノール樹脂)などからなるものも好適に用いることができる。第1スペーサ117に、熱伝導率が低いものを用いることにより、加熱部1121から加熱部リフレクタ114に熱が逃げるのを抑制している。第1スペーサ117には、加熱部1121を固定できる程度の強度を有しつつ、断面積が小さい(加熱部1121から加熱部リフレクタ114への伝熱経路が狭い)を用いるとよい。
【0026】
加熱部リフレクタ114には、加熱部1121からの熱輻射(赤外線)の反射率が高い材料からなるものを用いるとよい。そのような材料は典型的には金属である。本実施例の加熱部リフレクタ114には、アルミニウム製のものを用いている。また、加熱部リフレクタ114の、加熱部1121を臨む面は、熱輻射(赤外線)の反射率を高めるように加工されている。そのような加工は典型的には鏡面加工である。これらの効果により、加熱部リフレクタ114の内面で加熱部1121からの熱輻射が高効率で反射される。
【0027】
本実施例では、このように、加熱部1121からの熱輻射を加熱部リフレクタ114で反射し、加熱部リフレクタ114の内部で高温の空気を対流させて加熱部1121の温度を下がりにくくしている。本実施例では、これらにより、ヒータ1125に供給する電力の消費量を低減することができる。本実施例では、赤外線の反射率が高い部材で構成するという要件と、内面(加熱部1121を臨む面)に反射率を高める加工(鏡面加工)を施したものを用いるという要件の両方を満たすような加熱部リフレクタ114としているが、これらはいずれも好ましい要件であって、これらの要件を満たす加熱部リフレクタ114を用いることは本発明における必須の要件ではない。
【0028】
プローブボックス110及び加熱部リフレクタ114の外側には外部リフレクタ115が設けられている。加熱部リフレクタ114は、第2スペーサ118によって外部リフレクタ115に固定されている。第2スペーサ118には、熱伝導率が低い材料からなるものを用いる。本実施例ではセラミック製のものを用いているが、その他、耐熱性を有する樹脂(例えば、ベークライトなどのフェノール樹脂)などからなるものも好適に用いることができる。加熱部リフレクタ114から外部リフレクタ115に熱が逃げるのを抑制するためには、断面積が小さい(加熱部リフレクタ114から外部リフレクタ115への伝熱経路が狭い)第2スペーサ118を用いるとよい。
【0029】
外部リフレクタ115にも加熱部リフレクタ114と同様に、加熱部リフレクタ114からの熱輻射(赤外線)の反射率が高い材料からなるものを用いるとよい。また、外部リフレクタ115の内面も、熱輻射(赤外線)の反射率を高めるように加工(例えば鏡面加工)されている。本実施例では、これらにより、外部リフレクタ115の外に熱が逃げにくくなる。これによって、加熱部リフレクタ114の温度が下がりにくくなる。加熱部リフレクタ114と同様に、外部リフレクタ115についても、赤外線の反射率が高い金属等の材料で構成すること、及び内面が鏡面加工されたものを用いることはいずれも好ましい要件であって、これらの要件を満たす外部リフレクタ115を用いることは本発明における必須の要件ではない。
【0030】
本実施例では、加熱部リフレクタ114と外部リフレクタ115という2層のリフレクタを用いているため、加熱部1121内のヒータ1125の消費電力を抑制するだけでなく、外部リフレクタ115の外側に位置する外装部119の温度上昇が抑制される。
【0031】
プローブボックス110と外部リフレクタ115は、該プローブボックス110の下面に取り付けられた伝熱部材116により接続されている。伝熱部材116には熱伝導率が高い材料からなるものを用いる。そのような材料として、金属が挙げられる。本実施例ではアルミニウムの板材を用いている。これにより、伝熱部材116を通じてプローブボックス110からの熱が効率よく外部リフレクタ115へと伝達され、プローブボックス110の内部の温度上昇を抑制することができる。
【0032】
測定中にプローブボックス110内の温度が過度に上昇すると、該プローブボックスに固定されているESIプローブ111も加熱され、該ESIプローブ111の内部を流通する液体試料が沸騰してしまうことがある。ESIプローブ111内で液体試料が沸騰するとESIプローブ111から液体試料が一定の状態で噴霧されず、測定感度が不安定になる。本実施例の質量分析装置1では、伝熱部材116を介してプローブボックス110から外部リフレクタ115に熱を逃がすことにより、プローブボックス110及びESIプローブ111の温度上昇を抑制し、ESIプローブ111から一定の状態で液体試料を噴霧して測定感度を安定化することができる。
【0033】
また、外部リフレクタ115にも熱伝導率が高い材料からなるものを用いるため、プローブボックス110から伝熱部材116を経由して外部リフレクタ115へと伝えられた熱が外部リフレクタ115の全体に広がり、外部リフレクタ115と伝熱部材116の接触箇所が局所的に高温になることも抑制される。なお、伝熱部材116は、プローブボックス110の熱を外部リフレクタ115に伝達するものである限りにおいて適宜の形状のものを用いることができる。
【0034】
外部リフレクタ115の外側には、外装部119が設けられている。外装部119は、使用時に高温になるプローブボックス110や外部リフレクタ115に使用者が直接触れて火傷することを避けるために設けられた部材である。外装部119には、例えば樹脂材料からなるものが用いられる。上述したように、本実施例では外装部119の温度上昇が抑制されるため、樹脂材料から成る外装部119が変形したり、破損したりすることを防止できる。
【0035】
液体試料の測定時には、液体クロマトグラフ2のカラムで分離された試料成分が順次、ESIプローブ111に導入される。加熱ガス供給プローブ112は、ESIプローブ111から噴霧される帯電液滴に対して加熱ガスを吹き付ける。上記の通り、加熱ガスとしては、例えば乾燥空気が用いられる。加熱ガスのうち、帯電液滴を通過したものはプローブボックス110の壁面に吹き付けられ、それによってプローブボックス110が加熱される。
【0036】
測定中は、加熱ガス供給プローブ112から加熱ガスが継続的にプローブボックス110に吹き付けられるため、プローブボックス110は徐々に昇温していく。本実施例のイオン化部では、プローブボックス110と外部リフレクタ115が伝熱部材116により接続されているため、長時間にわたる測定を行ったり、加熱ガス供給プローブ112から高温の加熱ガスをイオン化室11に噴射したりしても、プローブボックス110の温度上昇を抑制することができる。これにより、プローブボックス110に固定されたESIプローブ111が加熱されて過度に昇温し、該ESIプローブ111内を流れる液体試料が沸騰する可能性を低減して、測定感度を安定化することができる。
【0037】
また、加熱部1121から放出される熱は加熱部リフレクタ114の、鏡面加工された内面で反射され、該加熱部リフレクタ114の内部にとどまる。そのため、加熱部1121においてヒータ1125に供給する電力の消費量を抑制することができる。
【0038】
次に、上記実施例の構成を採ることにより得られる効果を確認するために行ったシミュレーションの結果を説明する。図5は、本実施例(左図)と、伝熱部材116を有しない比較例(右図)における温度分布を、イオン化部の断面で示したものである。また、図6は、本実施例(左図)と、同比較例(右図)における温度分布を、イオン化部の内部を透視した斜視図で示したものである。
【0039】
この測定では、加熱ガス供給プローブ112からイオン化室11に噴射する乾燥ガスの温度が400℃になるようにヒータに供給する電力量を調整した。その結果、比較例ではヒータの発熱量(熱源発熱量)が115.70W必要であったのに対し、本実施例ではヒータの発熱量(熱源発熱量)が109.33Wであり、約6W低減した。この測定で使用したヒータの最大発熱量は230Wであることから、本実施例の構成を採ることによりヒータのDUTY(最大発熱量に対する比)に換算して熱効率が2.6%向上した。
【0040】
また、プローブボックス110の上面及び側面の温度をそれぞれ測定したところ、比較例では126.3℃(上面)と128.0℃(側面)であったのに対し、本実施例では121.6℃(上面)と124.1℃(側面)となり、比較例に比べて、プローブボックス110の昇温が約5℃抑制された。
【0041】
次に、本発明に係る質量分析装置が備えるイオン化装置の変形例であるイオン化部について図7を参照して説明する。変形例のイオン化部は、上記実施例と同様にプローブボックス110の昇温及び加熱部1121のヒータ1125に供給する電力量を抑制することに加えて、ESIプローブ111から漏れ出した液体試料をリークトレイ219に導く機能を有する。変形例の第2スペーサ218は上記実施例の第2スペーサ118と類似の形状を有するが、外部リフレクタ115と接触する箇所に貫通孔が設けられている。また、変形例の伝熱部材216は後記する外部リフレクタ215の底面の傾斜に合わせて、上記実施例の伝熱部材116から形状を変更するとともに、漏出した液体試料を流通させるための開口が設けている。上記実施例のイオン化部と同一の構成要素には同一の符号を付して、適宜、説明を省略する。
【0042】
変形例のイオン化部は、図7に断面図で示すように、外部リフレクタ215の形状と、リークトレイ219を備える点で、上記実施例のイオン化部と異なる。外部リフレクタ215は、上面を形成する上面部材2151と、側面及び底面を形成する本体部材2152を有する。説明の便宜上、上面部材2151と本体部材2152に分けているが、これらが別体である必要はなく、一体の部材であってもよい。
【0043】
図8に上面図(上図)とA-A’断面図(下図)で示すように、外部リフレクタ215の上面部材2151には、ESIプローブ111を挿入及び固定するための第1開口部(プローブ固定部)2153、第2開口部2154、及び第1開口部2153から第2開口部2154に向かって下方に傾斜する第1溝部2155が設けられている。
【0044】
また、図9に上面図(上図)とA-A’断面図(下図)で示すように、外部リフレクタ215の本体部材2152の下面にも、第2開口部2154が設けられている側から反対側に向かって下方に傾斜する第2溝部2156が設けられている。第2溝部2156の端部にはリークトレイ219が、外装部119の上面に載置されている。
【0045】
液体クロマトグラフ2のカラムから流出する液体試料をESIプローブ111に導入する際には、カラムの出口側流路とESIプローブ111の入口側流路が治具によって接続される。このとき治具による流路の接続状態が不良であったり、測定中に治具に緩みが生じたりすると、流路の接続部から液体(液体試料や移動相)が漏出することがある。
【0046】
変形例のイオン化部において、ESIプローブ111の入口で漏出し、外部リフレクタ215の上面部材2151の第1開口部2153に流下した液体は、外部リフレクタ215の上面部材2151の第1溝部2155に導かれ、第2開口部2154から外部リフレクタ215の本体部材2152に流入する。本体部材2152に流入した液体は側壁を伝って流下し、第2スペーサ218に設けられた貫通孔を通って下面に設けられた第2溝部2156に流れ込み、該第2溝部2156を通ってリークトレイ219に導かれる。
【0047】
変形例のイオン化部では、上記の様に、ESIプローブ111の入口の流路接続部等で液体が漏出した場合でも、限定された経路によってその液体がリークトレイ219に導かれる。そのため、ESIプローブ111から漏出した液体によって外部リフレクタ215の広い範囲が汚染されることがなく、上記の限定された経路のみをふき取るのみで簡単にメンテナンスすることができる。
【0048】
上記実施例及び変形例はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0049】
上記実施例及び変形例のように、外部リフレクタ115、215を備えた構成において伝熱部材116を備えることは好ましい態様であって、必ずしも外部リフレクタ115、215とプローブボックス110を接続する伝熱部材116を備えなくてもよい。そのような構成であっても、加熱部リフレクタ114と外部リフレクタ115、215という2層のリフレクタを備えることにより、ヒータ1125に供給する電力の消費量を低減することができる。また、外装部119の過度な温度上昇も抑制される。
【0050】
上記実施例では液体クロマトグラフ2のカラムで成分分離した後の液体試料を導入する構成としたが、液体クロマトグラフを用いることなく分析対象の液体試料を直接導入する構成を採ることもできる。また、上記実施例はシングル四重極型としたが、トリプル四重極型、四重極-飛行時間型、イオントラップ型等の、他の構成を有する質量分析装置にも上記同様の構成を有するイオン化装置を用いることができる。さらに、イオン移動度分析装置等、質量分析装置以外のイオン分析装置においても上記同様の構成を有するイオン化装置を用いることができる。
【0051】
上記実施例では、エレクトロスプレーイオン化法により液体試料をイオン化するイオン化装置としたが、大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization: APCI)装置や大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photoionization: APPI)装置などのイオン化装置においても上記同様の構成を採ることができる。
【0052】
[態様]
上述した複数の例示的な実施例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0053】
(第1項)
本発明の一態様に係る質量分析装置は、
内部にイオン化室を構成する空間が設けられた筐体と、
前記筐体に固定され、液体試料を前記イオン化室に噴霧する噴霧プローブと、
外部から導入されるガスを加熱するためのヒータが配設された加熱部と、該加熱部により加熱されたガスを前記イオン化室に噴出させる噴出部とを有し、前記加熱部が前記筐体の外に位置するように該筐体に固定された加熱ガス供給プローブと、
前記加熱部を取り囲むように設けられた第1リフレクタと、
前記第1リフレクタを囲むように設けられた第2リフレクタと
を備える。
【0054】
(第7項)
本発明の一態様に係るイオン化装置は、
内部にイオン化室を構成する空間が設けられた筐体と、
前記筐体に固定され、液体試料を前記イオン化室に噴霧する噴霧プローブと、
外部から導入されるガスを加熱するためのヒータが配設された加熱部と、該加熱部により加熱されたガスを前記イオン化室に噴出させる噴出部とを有し、前記加熱部が前記筐体の外に位置するように該筐体に固定された加熱ガス供給プローブと、
前記加熱部を取り囲むように設けられた第1リフレクタと
前記第1リフレクタを囲むように設けられた第2リフレクタと
を備える。
【0055】
第1項の質量分析装置及び第7項のイオン化装置では、筐体に液体試料噴霧プローブ及び加熱ガス供給プローブが個別に固定され、該加熱ガス供給プローブの加熱部は該筐体の外に配置される。第1項の質量分析装置及び第7項のイオン化装置では、加熱部を取り囲むように第1リフレクタが設けられており、これによって加熱部からの熱輻射が反射されるため、該第1リフレクタの外部に熱が逃げにくくなる。また、第1リフレクタの内部で蓄積された熱が対流することにより加熱部の周辺の温度が低下しにくくなり加熱部から熱が逃げにくくなる。さらに、第1リフレクタの外に第2リフレクタを設けた2層構造であるため、第2リフレクタによっても第1リフレクタからの熱輻射が反射され、第1リフレクタと第2リフレクタの間の空間でも蓄積された熱が対流する。従って、ガスを加熱するためにヒータに供給する電力の消費量を低減することができる。
【0056】
(第2項)
第1項に記載の質量分析装置において、
前記噴霧プローブと前記加熱ガス供給プローブが離間して、前記筐体の異なる位置に固定されている。
【0057】
従来の質量分析装置では、特許文献2に記載のように、ガスを加熱する加熱部が噴霧プローブと一体的に構成されている。これに対し、第2項の質量分析装置では噴霧プローブと加熱ガス供給プローブが離間して配置されるため、第1リフレクタを備えた構成を採り加熱部の温度を高温に維持しても噴霧プローブが加熱されることがない。
【0058】
(第3項)
第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、
前記第1リフレクタ及び/又は第2リフレクタが金属製である、及び/又は該第1リフレクタ及び/又は第2リフレクタの内面が鏡面加工されている。
【0059】
第3項の質量分析装置では、金属製である、又は鏡面加工された内面を有するリフレクタを用いることにより高効率で熱輻射を反射することができる。
【0060】
(第4項)
第1項から第3項のいずれかに記載の質量分析装置において、さらに、
前記筐体と前記第2リフレクタを接続する伝熱部材
を備える。
【0061】
第4項の質量分析装置では、筐体から第2リフレクタに熱を逃がすことにより、筐体の温度が過度に上昇し、該筐体に固定された噴霧プローブを流れる液体試料が沸騰するのを抑制して、該噴霧プローブから一定の状態で液体試料を噴霧し、測定感度を安定化することができる。
【0062】
(第5項)
第4項に記載の質量分析装置において
前記伝熱部材が金属性である。
【0063】
第5項の質量分析装置では、高効率で筐体の熱を第2リフレクタに放出することができる。
【0064】
(第6項)
第1項から第5項のいずれかに記載の質量分析装置において、
前記第2リフレクタが、
前記噴霧プローブが固定されるプローブ固定部と、開口部と、該噴霧プローブから漏出する液体試料を該開口部に流入させる下りの傾斜部とが設けられ、前記筐体の鉛直上方に配置された上面部材と、
前記開口部から流入する液体試料を流通させて前記第2リフレクタの外部に排出する流路が設けられた本体部材と
を備える。
【0065】
第6項の質量分析装置では、液体試料噴霧プローブから漏出する液体試料が流通する経路が限定されるため、該液体試料により汚染される個所を最小限に抑えるとともに、該液体試料により汚染された箇所をふき取る等して容易に洗浄することができる。
【符号の説明】
【0066】
100…液体クロマトグラフ質量分析装置
1…質量分析装置
11…イオン化室
110…プローブボックス
111…ESIプローブ
1111…挿通穴
112…加熱ガス供給プローブ
1121…加熱部
1122…噴射部
1123…ガス供給源
1124…バルブ
1125…ヒータ
1126…電力供給部
113…脱溶媒管
114…加熱部リフレクタ
115…外部リフレクタ
116、216…伝熱部材
117…第1スペーサ
118…第2スペーサ
119…外装部
12…第1中間真空室
121…イオンガイド
122…スキマー
13…第2中間真空室
131…イオンガイド
14…分析室
141…四重極マスフィルタ
142…イオン検出器
2…液体クロマトグラフ
215…外部リフレクタ
2151…上面部材
2152…本体部材
2153…第1開口部
2154…第2開口部
2155…第1溝部
2156…第2溝部
218…スペーサ
219…リークトレイ
C…イオン光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9