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特開2023-47861光受信機、及び光トランシーバモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047861
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】光受信機、及び光トランシーバモジュール
(51)【国際特許分類】
   H04J 14/02 20060101AFI20230330BHJP
   H04B 10/66 20130101ALI20230330BHJP
   H04B 10/079 20130101ALI20230330BHJP
【FI】
H04J14/02
H04B10/66
H04B10/079 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157014
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】桑田 直樹
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AD01
5K102AH24
5K102AH26
5K102LA05
5K102LA52
5K102MH03
5K102MH14
5K102MH22
5K102PH15
5K102PH31
5K102PH32
5K102PH48
5K102PH49
5K102RD04
5K102RD05
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】WDM方式の光受信機で、、波長またはチャネルごとの入力光強度と合計入力光強度を精度良く検知する。
【解決手段】光受信機は、光増幅器に入力されるWDM信号の合計入力光強度と、前記光増幅器の波長ごとの利得との関係を表す情報をメモリに保持し、プロセッサは、前記光増幅器の駆動電流値と、前記合計入力光強度の推定値とに基づき、前記メモリを参照して前記波長ごとの利得を特定する第1計算と、特定された前記波長ごとの利得と、前記モニタ回路で取得された波長ごとの光強度のモニタ値とに基づいて、前記光増幅器に入力された各波長の入力光強度を算出する第2計算と、前記各波長の入力光強度の総和から前記合計入力光強度を算出する第3計算を、前記合計入力光強度が収束するまで繰り返す。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長が多重された光信号を増幅する光増幅器と、
前記光増幅器を駆動する電流源と、
前記光増幅器で増幅された前記光信号を各波長に分波する光分波器と、
分波された各波長の光を検出する光検出器と、
前記光検出器で検出された各波長の光強度をモニタするモニタ回路と、
プロセッサと、
メモリと、
とを有し、
前記メモリは、前記光増幅器に入力される前記光信号の合計入力光強度と、前記光増幅器の波長ごとの利得との関係を表す情報を保持し、
前記プロセッサは、前記電流源の駆動電流値と、前記合計入力光強度の推定値とに基づき、前記メモリに保持された前記情報を参照して前記波長ごとの利得を特定する第1計算と、特定された前記波長ごとの利得と、前記モニタ回路で取得された波長ごとの光強度のモニタ値とに基づいて、前記光増幅器に入力された各波長の入力光強度を算出する第2計算と、前記各波長の入力光強度の総和から前記合計入力光強度を算出する第3計算とを、前記合計入力光強度が収束するまで繰り返す、
光受信機。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記第1計算、前記第2計算、及び前記第3計算の繰り返し処理の開始時に、前記合計入力光強度の仮の値を用いる、
請求項1に記載の光受信機。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記第1計算、前記第2計算、及び前記第3計算の繰り返し処理の開始時に、前記駆動電流値と、前記メモリに保持された前記情報と、前記モニタ回路で取得された前記モニタ値とに基づいて、前記合計入力光強度の初期推定値を計算する、
請求項1に記載の光受信機。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記光増幅器に入力される各波長の前記入力光強度が取り得る最大値と最小値の平均または中央値を、前記初期推定値として計算する、
請求項3に記載の光受信機。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記合計入力光強度が収束したときに前記光増幅器に入力された前記光信号の各波長の前記入力光強度を出力する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の光受信機。
【請求項6】
前記光増幅器に入力された前記光信号の各波長の前記入力光強度を前記光受信機の内部制御に用いる制御監視回路、
をさらに有する
請求項5に記載の光受信機。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の光受信機と、
電気信号を光信号に変換する光送信回路と、
とを有する光トランシーバモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光受信機、及び光トランシーバモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
データ通信量の増大に対処する技術のひとつが、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)方式の光通信である。WDMでは、1本の光ファイバに複数の波長の光を多重することで、光ファイバ1本あたりの伝送レートを向上する。受信側の装置では、波長ごとの光信号に分離する前に、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)などによりWDM信号を増幅することがある。
【0003】
図1は、WDM方式の通信装置のSOAを内蔵した光受信機RXの構成図である。光分波器112(図中で「O-Demux」と表記)にて各波長に分波する前に、受信したWDM信号をSOA111で増幅する。SOA111の利得は、SOA111を駆動する電流源116の駆動電流ISOAだけでなく、SOA111の合計入力光強度(図中で「PTOTAL」と表記)にも依存する。そこで、SOA111の前段にモニタ用の光検出器(図中で「mPD」と表記)114を設けて、SOA111の合計入力光強度を検出する(たとえば、特許文献1参照)。また、光分波器112の後段にモニタ回路151を設けて、光検出器(図中で「mPD」と表記)113で検出された各波長(チャネル)の信号の光強度をモニタする。
【0004】
プロセッサ130は、SOA111の合計入力光強度PTOTALと、駆動電流ISOAに基づき、利得テーブル141を参照して、チャネルごとのSOA利得を計算する。また、プロセッサ130は、チャネルごとのSOA利得と、チャネルごとのモニタ光強度に基づいて、SOA111に入力されるチャネルごとの入力光強度を計算する。チャネルごとの入力光強度は、通信装置への情報通知や、光受信機RXの内部制御などに使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-105221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
40kmを超える100GのQSFPモジュールなどでは、小型が求められており、チャネルごとの入力光強度を取得するための部品の削減が求められている。SOAの入力段の分岐用のタップとモニタ光検出器を用いない場合チャネルごとの入力光強度を正しく決定することができず、光受信機の内部制御や、光受信機を搭載する通信装置への正確な情報通知が困難になる。
【0007】
発明の一側面では、光受信機において、WDM信号の波長またはチャネルごとの入力光強度と合計入力光強度とを精度良く検知する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、光受信機は、
複数の波長が多重された光信号を増幅する光増幅器と、
前記光増幅器を駆動する電流源と、
前記光増幅器で増幅された前記光信号を各波長に分波する光分波器と、
分波された各波長の光を検出する光検出器と、
前記光検出器で検出された各波長の光強度をモニタするモニタ回路と、
プロセッサと、
メモリと、
とを有し、
前記メモリは、前記光増幅器に入力される前記光信号の合計入力光強度と、前記光増幅器の波長ごとの利得との関係を表す情報を保持し、
前記プロセッサは、前記電流源の駆動電流値と、前記合計入力光強度の推定値とに基づき、前記メモリに保持された前記情報を参照して前記波長ごとの利得を特定する第1計算と、特定された前記波長ごとの利得と、前記モニタ回路で取得された波長ごとの光強度のモニタ値とに基づいて、前記光増幅器に入力された各波長の入力光強度を算出する第2計算と、前記各波長の入力光強度の総和から前記合計入力光強度を算出する第3計算とを、前記合計入力光強度が収束するまで繰り返す。
【発明の効果】
【0009】
光受信機において、WDM信号の波長またはチャネルごとの入力光強度と、合計入力光強度とを精度良く検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】WDM方式の通信装置のSOAを内蔵した受信機の構成図である。
図2】実施形態の光受信機を備えた光トランシーバモジュールの模式図である。
図3】光受信機の模式図である。
図4】光受信機のプロセッサの処理を示すフローチャートである。
図5】利得テーブルの一例を示す図である。
図6図5のひとつのチャネル(ch1)の利得テーブルに記述された情報を特性図として示す図である。
図7】繰り返し演算による入力光強度検出誤差の収束の実験結果を示す図である。
図8】合計SOA入力光強度の初期値の計算例を示すフローチャートである。
図9】合計SOA入力光強度を推定する初期値の算出例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態では、光トランシーバモジュールの40Kmを超える領域(たとえば80Km領域)で、光受信機のSOAの前段のモニタ機構を使用しなくても、WDM信号の波長またはチャネルごとの入力光強度と合計入力光強度とを精度良く検知する。具体的には、SOAの駆動電流情報と、仮の合計入力光強度とを用い、利得情報を参照してチャネルごとのSOA利得を算出する、算出したチャネルごとのSOA利得と、分波後の光強度のモニタ結果とから、SOAに入射するチャネルごとの入力光強度と合計入力光強度とを算出する。算出した合計入力光強度に基づいて、チャネルごとのSOA利得を再計算し、チャネルごとの入力光強度と合計入力光強度とを算出する。この処理を繰り返して、SOAへ入射するWDM信号の合計入力光強度の推定の収束点を求める。
【0012】
図2は、実施形態の光受信機5を備えた光トランシーバモジュール1の模式図である。光トランシーバモジュール1は、たとえば強度変調(NRZ:Non-Return-to-Zero)方式の100G通信モジュールであるが、この例に限定されず、4値パルス振幅変調(PAM4)方式の400G通信モジュールであってもよい。
【0013】
光受信機5は、光受信フロントエンド回路としてのROSA(Receiver Optical Subassembly)10と、電子回路であるスライサ/クロックデータリカバリ(CDR)回路15を有する。また、光受信機5は、プロセッサ30と、メモリ40と、制御監視回路50を有する。プロセッサ30、メモリ40、及び制御監視回路50は、光トランシーバモジュール1の送信側の部品との間で共用されてもよい。
【0014】
ROSA10は、SOA11と、光分波器12と、分波されたチャネルごとに設けられる光検出器13a~13dと、プリアンプ14a~14dを有し、受信した各チャネルの光信号を電気信号に変換する。光検出器13a~13dは、たとえばPIN型のフォトダイオードである(図中で「PIN-PD」と表記)。光検出器13a~13dで検出された各チャネルの光電流は、対応のプリアンプ14a~14dで増幅され、アナログ電圧信号としてROSA10から出力される。
【0015】
図2の構成例で、ROSA10は、SOA11の前段にモニタ機構を持たない小型の光部品である。図3を参照して後述するように、プロセッサ30は、SOA11に入射するWDM信号の合計入力光強度の仮の値を用いて、チャネルごとの入力光強度と合計入力光強度の推定を繰り返し、推定値を収束させる。収束後のチャネルごとの入力光強度に関する情報は、モジュール制御監視信号の一種として、光トランシーバモジュール1が接続される伝送装置に通知されてもよいし、制御監視回路50を介して、光受信機5の内部制御に用いられてもよい。
【0016】
ROSA10から出力されたアナログ電圧信号は、スライサ/CDR回路15でデジタルデータ列として識別再生され、デジタルデータ列からクロックが再生される。デジタルデータ列は、高速の電気主信号として、光受信機5から出力される。
【0017】
光トランシーバモジュール1の送信側では、チャネルごとの送信信号が電気入力としてスライサ/CDR回路25に入力される。スライサ/CDR回路25の出力は、レーザダイオードドライバ(LDD)24に入力される。LDD24は、入力されたデジタル電気信号を、光変調用の駆動信号に変換する。
【0018】
LDD24から出力された駆動信号は、光送信フロントエンド回路であるTOSA(Transmitter Optical Subassembly)20に入力される。TOSA20は、光源としてLD24a~24dを有する。LD24a~24dからの出射光は、対応する駆動信号により直接変調される。各チャネルの変調光信号は、光合波器(図中で「O-Mux」と表記)21で合波され、WDM信号として光トランシーバモジュール1から送信される。
【0019】
図2では、4チャネルWDM通信用の光トランシーバモジュール1が描かれているが、チャネル数は4チャネルに限定されない。8チャネル、16チャネル等、必要に応じたチャネル数のWDM通信モジュールを構成できる。
【0020】
図3は、光受信機5の模式図である。光受信機5に入力される光信号は、SOA11により増幅される。SOA11は、電流源16から供給される電流により駆動される。SOA11を駆動する駆動電流ISOAは、プロセッサ30に通知される。一方、SOA11で増幅され、光分波器12で分波された各波長(チャネル)の信号光は、PIN-PD13で検出され、対応するプリアンプ14で電圧信号に変換される。チャネルごとの電圧信号は、スライサ/CDR15でデジタルデータ列に再生されて、高速電気信号として出力される。
【0021】
各PIN-PD13で検出された光電流の一部は、モニタ回路51でモニタされる。モニタ回路51でのモニタ結果は、チャネルごとのPD入力光強度として、プロセッサ30に入力される。
【0022】
プロセッサ30は、チャネルごとのSOA利得を計算する第1計算器31と、チャネルごとのSOA11への入力光強度を計算する第2計算器32と、合計SOA入力光強度を計算する第3計算器33と、確定部34の各機能を有する。
【0023】
第1計算器31は、SOA駆動電流ISOAに基づき、利得テーブル41を参照して、チャネルごとのSOA利得を計算する。利得テーブル41はメモリ40に保存されており、チャネルごとの利得特性を記述する。チャネルごとのSOA利得を計算するためには、SOA駆動電流ISOAの他に、SOA11に入力されるWDM信号の合計入力強度が必要である。
【0024】
光受信機5では、SOA11の前段のモニタ機構が省略されているため、SOA11に入射するWDM信号の合計入力光強度の初期値として、仮の値を用いる。なお、SOA11の前段に何らかの用途のモニタ機構が設けられている場合でも、SOA前段のモニタ値を使用せずに、合計SOA入力光強度の仮の値を用いて、チャネルごとの入力光強度を決定することができる。合計SOA入力光強度の仮の値は、適当に選択された値、伝送システムの設計値、計算により決定された値、などである。第1計算器31は、SOA駆動電流ISOAと、仮の合計SOA入力光強度に基づき、利得テーブル41を参照してチャネルごとのSOA利得を計算する。利得テーブル41の詳細については、後述する。
【0025】
第2計算器32は、モニタ回路51から入力されたチャネルごとのPD入力光強度と、第1計算器31から入力されたチャネルごとのSOA利得とに基づいて、SOA11に入力されたWDM信号のチャネルごとの入力光強度を計算する。
【0026】
第3計算器33は、第2計算器で算出されたチャネルごとの入力光強度に基づいて、合計SOA入力光強度を計算する。この合計SOA入力光強度の計算値は、第1計算器31にフィードバックされ、チャネルごとのSOA利得の再計算に用いられる。第1計算器31、第2計算器32、及び第3計算器33による計算は、合計SOA入力光強度が収束するまで、繰り返し行われる。計算の都度、合計SOA入力光強度の計算値(推定値)が確定部34で更新される。
【0027】
第3計算器33は、合計SOA入力光強度の収束状態をチェックし、合計SOA入力光強度の推定値が収束したときに、収束信号を確定部34に出力する。確定部34は、第3計算器33から収束信号を受信すると、その時点でのチャネルごとの入力光強度の推定値を確定し、確定されたチャネルごとの入力光強度を出力する。チャネルごとの入力光強度は、モジュール制御監視信号として光トランシーバモジュール1が接続される伝送措置に通知され、または、制御監視回路50を介して、光受信機5の内部制御に用いられる。
【0028】
図4は、プロセッサ30の処理を示すフローチャートである。プロセッサ30は、モニタ回路51から、チャネルごとのPD入力光強度情報PDin_ch1、PDin_ch2、…、PDin_ch nを取得する(S11)。PD入力光強度情報は、光分波器12の後段のPIN-PD13a~13dに入射した各信号光のパワーを表す。
【0029】
プロセッサ30は、電流源16に設定されているSOA駆動電流値ISOAを取得する(S12)。プロセッサ30は、SOA11に入射するWDM信号の合計SOA入力光強度の推定値Pin_totalを、初期値Pin_total_initに設定する(S13)。ステップS11~S13は順不同であり、同時に行われてもよい。
【0030】
次に、SOA駆動電流値ISOAと、仮に設定された合計SOA入力光強度Pin_total(初回はPin_total_init)とに基づき、利得テーブル41から、チャネルごとのSOA利得を取得する(S14)。チャネルごとのSOA利得と、モニタ回路51から得られるチャネルごとのPD入力光強度との乗算により、チャネルごとのSOA入力光強度Pin_ch1、Pin_ch2、…、Pin_ch nを算出する(S15)。SOA11に入力された各波長の信号光の強度は、PIN-PD13a~13dのそれぞれで検出されたモニタ光パワーと、そのチャネルのSOA利得の積で表される。
【0031】
次に、チャネルごとのSOA入力光強度の総和を求めて、新たな合計SOA入力光強度Pin_total_newを算出する(S16)。今回のPin_total_newと、前回のPin_totalの誤差が許容範囲外であれば(S17でYes)、合計SOA入力光強度の推定値を更新し(S18)。その後、ステップS14に戻って、S14~S18を繰り返す。ステップS14~S18は、今回のPin_total_newと前回のPin_totalの誤差が許容範囲内に収まるまで(S17でNo)、繰り返される。この繰り返しを、反復推定プロセスAとする。
【0032】
今回のPin_total_newと前回のPin_totalの誤差が許容範囲内に収まると、チャネルごとのSOA入力光強度の算出値Pin_ch1、Pin_ch2、…、Pin_ch nを出力する(S19)。後述するように、反復推定プロセスAによる合計SOA入力光強度の推定値の収束は極めて速く、SOA11前段のモニタ機構を使用しなくても、迅速、かつ正確にチャネルごとのSOA入力光強度を推定することができる。
【0033】
図4の処理は、プロセッサ30により、実サービス中に繰り返し行われる。送信側の通信装置の経年劣化や、光伝送路の変動により、光受信機5で受信されるWDM信号の強度は変化し得る。SOA11の前段のモニタ機構を使用しなくても、SOA11に入力されるWDm信号の各チャネルの入力光強度を正しく把握して、光受信機5の制御監視の信頼性が維持される。
【0034】
図5は、メモリ40に保存された利得テーブル41の一例を示す図である。ここでは、4チャネルWDM信号を例として、チャネルCh1~Ch4の利得テーブル41-1~41-4が用いられる。
【0035】
チャネルごとに、SOA駆動電流ISOA(mA)と、SOA11に入射するWDM信号の合計SOA入力光強度(dBm)とで特定されるSOA利得(dB)の値が記述されている。SOA11の駆動電流ISOA(mA)と、SOA11に入射するWDM信号の合計入力光強度Pin_total(dBm)とで決まるチャネルごとのSOA利得は、あらかじめ測定され、記録されている。
【0036】
図6は、図5のひとつのチャネル、たとえば、チャネルCh1の利得テーブル41-1に記述された情報を特性図41-1aとして示す。横軸は合計SOA入力光強度Pin_total、縦軸はSOA利得である。SOA駆動電流ISOAが20mAから180mAの範囲で8通りの値をとるときの、合計SOA入力光強度の関数としてSOA利得が示されている。
【0037】
プロセッサ30の第1計算器31は、電流源16に設定されているSOA駆動電流ISOAと、合計SOA入力光強度(仮の初期値または反復演算中の推定値)とに基づき、チャネルごとの利得テーブル41-1~41-4を参照して、チャネルごとのSOA利得を特定する。第2計算器32は、チャネルごとのSOA利得と、PIN-PD13a~13dのモニタ結果に基づいて、チャネルごとのSOA入力光強度を計算する。第3計算器33は、チャネルごとのSOA入力光強度の総和から、新しい合計SOA入力光強度Pin_total_newを計算する。
【0038】
プロセッサ30で行われるこの演算は、以下の演算式で表される。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、Pin_ch nはチャネルごとのSOA入力光強度である。このチャネルごとのSOA入力光強度に、そのチャネルのSOA利得と、光分波器12による損失LOSSnを掛け合わせると、対応のPIN-PDnに入射するPD入力光強度になる。したがって、Pin_ch nは、PDへの入力光強度PIN_PD_in nを、光分波器12による損失LOSSnとチャネルごとのSOA利得Gnで除算した値として表現される。チャネルごとのSOA利得Gnは、SOA駆動電流ISOAと仮の合計SOA入力光強度を用いて、利得テーブル41-1~41-4から取得される。新しい合計SOA入力光強度Pin_total_newは、各チャネルのSOA入力光強度Pin_ch-nの総和として求められる。
【0041】
この簡単な演算式により、合計SOA入力光強度Pin_total_newが収束するまで、合計SOA入力光強度が繰り返し計算される。
【0042】
図7は、あるチャネルでの繰り返し演算による入力光強度の検出誤差の収束の実験結果を示す。演算開始前の誤差を±20dBの範囲で種々に変えて、収束状況を計算する。領域Bに示すように、4回以上演算を繰り返すことで、誤差は0.5dB未満に収束する。合計SOA入力光強度の初期設定値(仮の値)が、実際の値からの誤差±3dB以内のときは、わずか3回の繰り返しで、誤差が0.5dB未満に収束する。
【0043】
図7の結果から、最初に選択された仮の合計SOA入力光強度の値が実際の値から相当外れている場合でも、4回以上演算を繰り返すことで、精度よく確からしい合計SOA入力光強度値に収束することがわかる。設計によっては、演算の繰り返し回数が所定回数、たとえば3回までに制約されていることがある。この場合は、より誤差の小さい初期値を選択するのが望ましい。
【0044】
図8は、仮の合計SOA入力強度の初期値の計算例を示す。合計SOA入力光強度の初期値は、SOA駆動電流ISOAと、利得テーブル41と、PIN-PD13a~13dごとのPD入力光強度の情報とから、ある程度近い値に絞ることができる。たとえば、取り得る誤差の最大と最小の中間の値や平均値を用いることで、ある程度、実際の合計SOA入力光強度に近くなる。
【0045】
まず、SOA11で増幅された後に、分波されて各チャネルのPIN-PD13nに入力される各波長の光強度PDin_ch-nについて、SOA入力光強度Pin_ch nで取り得る最小値Pin_ch n_minを求める(S131)。また、各チャネルのPIN-PD13nに入力される各波長の光強度PDin_ch nについて、SOA入力光強度Pin_ch nで取り得る最大値Pin_ch n_maxを求める(S132)。ステップS131とS132は順不同であり、同時に行われてもよい。
【0046】
すべてのチャネルの最小値Pin_ch n_minの総和と最大値Pin_ch n_maxの総和の平均を合計SOA入力光強度の初期値として決定する(S133)。
【0047】
図9は、合計SOA入力光強度を推定する初期値の算出例を示す。横軸はチャネルごとのSOAへの入力光強度Pin_ch、縦軸はチャネルごとのPIN-PD13nへの入力光強度(PD_in n)である。
【0048】
実線のライン(1)は、すべてのチャネルが同じ光強度であるときの特性を示す。破線のライン(2)は、合計のSOA入力光強度は(1)と同じであるが、SOA11に入射するあるチャネルの光強度Pin_ch nが最小となる特性を示す。一点鎖線のライン(3)は、合計のSOA入力光強度は(1)と同じであるが、SOA11に入射するあるチャネルの光強度が最大となる特性を示す。ライン(1)~(3)の3つの特性は、あらかじめ測定してメモリ40に保持しておく。
【0049】
PD_in nがX(dMm)のときの水平方向の点線とライン(1)が交差する点は、すべてのチャネルの入力光強度が同じときの各チャネルのSOA入力光強度を示す。PD_in nがX(dMm)のときの水平方向の点線とライン(2)が交差する点は、PD_in nがX(dMm)のときにチャネルごとのSOA入力光強度Pin_ch nが取り得る最小値を示す。PD_in nがX(dMm)のときの水平方向の点線と、ライン(3)が交差する点は、PD_in nがX(dMm)のときにチャネルごとのSOA入力光強度Pin_ch nが取り得る最大値を示す。
【0050】
チャネルごとのSOA入力光強度の最小値Pin_ch n_minは、たとえば、以下の演算式で求めることができる。
【0051】
【数2】
【0052】
各チャネルのPIN-PD13nへの入力光強度は、チャネルごとのSOA入力光強度の最小値Pin_ch n_minに、そのチャネルのSOA利得Gnを乗算した値である。すなわち、図9のライン(2)は、Pin_ch nが最小となるSOA利得Gnの特性を示す。
【0053】
チャネルごとのSOA入力光強度の最小値Pin_ch n_minは、全チャネルの合計SOA入力光強度Pin_totalをdiv1で除算した値である。4チャネルの場合、div1は4×∂p、すなわち4×10Δp/10と表される。Δpは、図9でPD_in nがX(dBm)のときの、ライン(1)とライン(2)の差分である。ここで、Δpのみ単位が[dB](対数)であり、残りは真数表記である。
【0054】
チャネルごとのSOA入力光強度の最大値Pin_ch n_maxは、たとえば、以下の演算式で求めることができる。
【0055】
【数3】
【0056】
各チャネルのPIN-PD13nへの入力光強度は、チャネルごとのSOA入力光強度の最大値Pin_ch n_maxに、そのチャネルのSOA利得Gnを乗算した値である。すなわち、図9のライン(3)は、Pin_ch nが最大となるSOA利得Gnの特性を示す。
【0057】
チャネルごとのSOA入力光強度の最大値Pin_ch n_maxは、全チャネルの合計SOA入力光強度Pin_totalをdiv2で除算した値である。4チャネルの場合、div1は4×∂m、すなわち4×10Δm/10と表される。Δmは、図9でPD_in nがX(dBm)のときの、ライン(1)とライン(3)の差分である。ここで、Δmのみ単位が[dB](対数)であり、残りは真数表記である。
【0058】
図9の3つのライン(1)~(3)の特性、すなわち、3つの利得テーブルをメモリ40に保持し、Pin_ch n_minの演算式を満たす箇所を検索することで、チャネルごとのSOA入力光強度の最小値Pin_ch n_minを容易に求めることができる。また、3つの利得テーブルから、Pin_ch n_maxの演算式を満たす箇所を検索することで、チャネルごとのSOA入力光強度の最大値Pin_ch n_maxを容易に求めることができる。
【0059】
合計SOA入力光強度の初期値Pin_total_initは、下記の演算式で求めることができる。
【0060】
【数4】
【0061】
この演算式の意味は、対数でPin_ch n_minの総和とPin_ch n_maxの総和の平均をとってから、真数に直している。真数でPin_ch n_minの総和とPin_ch n_maxの総和の平均を求めると、Pin_ch n_max側に偏る場合があるからである。
【0062】
図9の3種類の特性(利得テーブル)をメモリ40に保持しておくことで、反復演算の繰り返し回数が制約される場合に、合計SOA入力光強度の初期値を簡単に算出して、反復演算開始時の仮の値として用いることができる。
【0063】
上記の処理により、SOA11への入力光強度を直接測定しなくても、反復演算で精度良くチャネルごとのSOA入力光強度を推定することができる。この場合、光受信機5の光学部品の点数を低減してモジュールをさらに小型化し、かつ、光入力ダイナミックレンジを拡張することができる。
【0064】
以上、特定の構成例に基づいて発明を説明してきたが、本発明は上述した例に限定されない。反復演算の繰り返し回数に制約があるときの仮の初期値の計算は、Pin_ch n_minの総和とPin_ch n_maxの総和の平均を取る代わりに、チャネルごとにPin_ch n_minとPin_ch n_maxの平均をとってから、全チャネルの平均または中央値を求めてもよい。繰り返し回数に制約のない場合は、ランダムに選択された適当な値を合計SOA入力光強度の初期値として用いてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 光トランシーバモジュール
5 光受信機
10 ROSA
11 SOA(光増幅器)
12 光分波器
13a~13d、13n PIN-PD(光検出器)
14a~14d プリアンプ
15、25 スライサ/CDR
20 TOSA
21 光合波器
23a~23d LD(光源)
24 LDD
30 プロセッサ
40 メモリ
41、41-1~41-4 利得テーブル
50 制御監視回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9