IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オリジナルボックスの特許一覧 ▶ 久保 愛三の特許一覧 ▶ 日本アイ・ティ・エフ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ダンパーユニット 図1
  • 特開-ダンパーユニット 図2
  • 特開-ダンパーユニット 図3
  • 特開-ダンパーユニット 図4
  • 特開-ダンパーユニット 図5
  • 特開-ダンパーユニット 図6
  • 特開-ダンパーユニット 図7
  • 特開-ダンパーユニット 図8
  • 特開-ダンパーユニット 図9
  • 特開-ダンパーユニット 図10
  • 特開-ダンパーユニット 図11
  • 特開-ダンパーユニット 図12
  • 特開-ダンパーユニット 図13
  • 特開-ダンパーユニット 図14
  • 特開-ダンパーユニット 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047865
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】ダンパーユニット
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/508 20060101AFI20230330BHJP
   F16F 9/14 20060101ALI20230330BHJP
   F16F 9/19 20060101ALI20230330BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
F16F9/508
F16F9/14
F16F9/19
F16F9/32 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157019
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】591124536
【氏名又は名称】株式会社オリジナルボックス
(71)【出願人】
【識別番号】593216745
【氏名又は名称】久保 愛三
(71)【出願人】
【識別番号】591029699
【氏名又は名称】日本アイ・ティ・エフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】江見 久郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 愛三
(72)【発明者】
【氏名】石 夏帆
(72)【発明者】
【氏名】田中 祥和
(72)【発明者】
【氏名】大原 久典
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069AA59
3J069CC10
3J069CC13
3J069EE19
3J069EE28
3J069EE31
3J069EE64
(57)【要約】
【課題】車両の乗り心地を改善することが可能なダンパーユニットを実現する。
【解決手段】ダンパーユニット(1)は、積層された複数のディスクバルブ(31、32、33、41、42、43)を有し、複数のディスクバルブのうち少なくとも1つについて、他の部材に接する面にDLC膜が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数のディスクバルブを有するダンパーユニットであって、
前記複数のディスクバルブのうち少なくとも1つについて、他の部材に接する面にDLC膜が形成されているダンパーユニット。
【請求項2】
作動油が封入されるチューブと、
前記チューブ内を運動し、当該チューブ内を第1油室および第2油室に区画するピストンと、をさらに備え、
前記ピストンは、
当該ピストンの運動に伴って、前記第1油室と前記第2油室との間で前記作動油が第1方向に流通する第1流路と、
当該ピストンの運動に伴って、前記第1油室と前記第2油室との間で前記作動油が前記第1方向とは逆の第2方向に流通する第2流路と、を有し、
前記ディスクバルブは、前記第1流路および前記第2流路のそれぞれに複数配され、
前記第1流路に配された前記複数のディスクバルブのそれぞれは、前記第1流路における前記作動油の流れを調節し、前記ピストンを運動させる力を減衰させる減衰力を発生させ、
前記第2流路に配された前記複数のディスクバルブのそれぞれは、前記第2流路における前記作動油の流れを調節し、前記ピストンを運動させる力を減衰させる減衰力を発生させる、請求項1に記載のダンパーユニット。
【請求項3】
作動油が封入されるインナーチューブと、
前記インナーチューブ内を運動し、当該インナーチューブ内を第1油室および第2油室に区画するピストンと、
前記インナーチューブを収容し、当該インナーチューブとの間に環状油室を形成するアウターチューブとをさらに備え、
前記ピストンは、
当該ピストンの運動に伴って、前記第1油室と前記第2油室との間で前記作動油が第1方向に流通する第1流路と、
当該ピストンの運動に伴って、前記第1油室と前記第2油室との間で前記作動油が前記第1方向とは逆の第2方向に流通する第2流路と、を有し、
前記インナーチューブは、
前記ピストンの運動に伴って前記作動油が前記第1流路を流れる場合に、前記第2油室と前記環状油室との間で前記作動油が第3方向に流通する第3流路と、
前記ピストンの運動に伴って前記作動油が前記第2流路を流れる場合に、前記第2油室と前記環状油室との間で前記作動油が前記第3方向とは逆の第4方向に流通する第4流路と、を有し、
前記ディスクバルブは、前記第1流路および前記第4流路のそれぞれに複数配され、
前記第1流路に配された前記複数のディスクバルブのそれぞれは、当該第1流路における前記作動油の流れを調節し、前記ピストンを運動させる力を減衰させる減衰力を発生させ、
前記第4流路に配された前記複数のディスクバルブのそれぞれは、当該第4流路における前記作動油の流れを調節し、前記ピストンを運動させる力を減衰させる減衰力を発生させる、請求項1に記載のダンパーユニット。
【請求項4】
前記複数のディスクバルブのうち2つが互いに接する面の、少なくとも一方に前記DLC膜が形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載のダンパーユニット。
【請求項5】
前記少なくとも2つのディスクバルブの径が互いに異なる請求項4に記載のダンパーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに用いられるダンパーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両などにおいて路面からの衝撃力を減衰させる減衰力を発生させるダンパーユニット(ショックアブソーバ)の例が示されている。当該ダンパーユニットは、チューブの内部で上下運動し、その先端にディスクバルブが取り付けられたピストンロッドと、ピストンロッドに固定される固定バルブとを含む。ディスクバルブおよび固定バルブは、ピストンロッドの伸び行程および縮み行程のそれぞれにおける減衰力を、能動的に異なる最適状態に調整する。ディスクバルブおよび固定バルブはそれぞれ、ピストンロッドの運動に伴って作動油が流れる貫通ホールと、当該貫通ホールにおける作動油の流れを調節するディスクバルブとを備える。ピストンロッドの運動に伴って貫通ホールを流れる作動油がディスクバルブを開かせることで、貫通ホールの流路抵抗が調節され、車両などの挙動に適正な減衰力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-196699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばピストンの動き出しの時点などで、ピストンの運動速度が小さい場合には、積層薄板バネで構成されているディスクバルブの、各要素の接触部位における摩擦のためにディスクバルブが滑らかに変形しない。このため、流路が適切に開かず、タイヤに加わった衝撃力がそのまま車両に伝達される。そして、ピストンの運動速度が大きくなると、ディスクが急に変形して流路が大きくなり、貫通ホールを流れる作動油の量が急激に変化することとなる。この場合には、車両に伝達される力が急激に変化し、車両の乗り心地が悪化するという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、車両の乗り心地を改善することが可能なダンパーユニットを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るダンパーユニットは、積層された複数のディスクバルブを有するダンパーユニットであって、前記複数のディスクバルブのうち少なくとも1つについて、他の部材に接する面にDLC(Diamond Like Carbon)膜が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様に係るダンパーユニットによれば、車両の乗り心地を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1に係るダンパーユニットの構成を示す断面図である。
図2】第1バルブの一部の拡大図である。
図3】ダンパーユニットの性能評価に用いた試験装置の構造を示す図である。
図4図3に示した試験装置による計測結果を示すグラフの見方を説明するための図である。
図5】実施形態1に係るダンパーユニットについての計測結果を示すグラフである。
図6】比較例のダンパーユニットにおける静摩擦力の影響について説明するためのグラフである。
図7】実施形態1に係るダンパーユニットにおける静摩擦力の影響について説明するためのグラフである。
図8】ピストンの代表速度が上昇した場合の、比較例のダンパーユニットにおける動き出しの滑らかさについて説明するためのグラフである。
図9】ピストンの代表速度が上昇した場合の、実施形態1に係るダンパーユニットにおける動き出しの滑らかさについて説明するためのグラフである。
図10】比較例のダンパーユニットにおけるヒステリシスのように見える領域について説明するためのグラフである。
図11】実施形態1に係るダンパーユニットにおけるヒステリシスのように見える領域について説明するためのグラフである。
図12】比較例のダンパーユニットにおける、ピストンの高速運動時の特性について説明するためのグラフである。
図13】実施形態1に係るダンパーユニットにおける、ピストンの高速運動時の特性について説明するためのグラフである。
図14】実施形態2に係るダンパーユニットの構成を示す断面図である。
図15】実施形態3に係るダンパーユニットの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
(ダンパーユニット1の構成)
図1は、実施形態1に係るダンパーユニット1の構成を示す断面図である。ダンパーユニット1は、いわゆるモノチューブ式のダンパーユニットである。ダンパーユニット1は、当該ダンパーユニット1を装備する車両の車体と、当該車両が備えるタイヤのサスペンションとの間に配される。図1に示すように、ダンパーユニット1は、チューブ10、ピストン20、ピストンロッド25、第1バルブ30、第2バルブ40、およびフリーピストン50を備える。
【0011】
チューブ10は、内部に作動油が封入される筒状の部材である。チューブ10は、第1端10aおよび第2端10bを有する。チューブ10の第1端10aは、ダンパーユニット1を装備する車両の車体に接続され、これに働く力が、タイヤに加わる衝撃力(入力)に対するダンパーユニット1の出力である。チューブ10の第2端10bから、ピストンロッド25がチューブ10内に挿入される。
【0012】
ピストンロッド25は、チューブ10に挿入されてピストン20に接続されるロッドである。ピストンロッド25は、第1端25aおよび第2端25bを有する。ピストンロッド25の第1端25aは、チューブ10の第2端10bからチューブ10に挿入される。ピストンロッド25の第2端25bは、ダンパーユニット1を装備する車両のサスペンションに接続され、これに働く力が、タイヤに加わる入力である。
【0013】
ピストン20は、ピストンロッド25と一体にチューブ10内を運動する。ピストン20は、チューブ10内を第1油室11および第2油室12に区画する。ピストン20には、第1流路21および第2流路22が形成されている。第1流路21および第2流路22はそれぞれ複数存在することもある。これら第1流路21および第2流路22のそれぞれは、第1油室11と第2油室12とを互いに連通させるものである。チューブ10に封入された作動油は、ピストン20の運動に伴って、第1流路21または第2流路22を、第1油室11および第2油室12の一方から他方へ流通する。具体的には、ピストン20がチューブ10の第1端10aから第2端10bへ向かう側(伸び側)に運動する場合には、第1油室11から第1流路21を通じて第2油室12へ作動油が流通する。一方、ピストン20がチューブ10の第2端10bから第1端10aへ向かう側(縮み側)に運動する場合には、第2油室12から第2流路22を通じて第1油室11へ作動油が流通する。以下の説明では、ピストン20が伸び側へ運動する工程を伸び行程と称する場合がある。また、ピストン20が縮み側へ運動する工程を縮み行程と称する場合がある。
【0014】
第1バルブ30は、第1流路21および第2流路22の第1端10a側に配される。第1バルブ30は、積層された複数のディスクバルブ31・32・33を含む。
【0015】
第2バルブ40は、第1流路21および第2流路22の第2端10b側に配される。第2バルブ40は、積層された複数のディスクバルブ41・42・43を含む。
【0016】
ピストンロッド25の縮み行程において、第1バルブ30は、第1流路21における第2油室12から第1油室11への作動油の流れを遮断する。したがって、作動油は第2油室12から第1油室11へ向かう方向(第2方向、第2流路作動油流通方向)に第2流路22を通じて流通する。また、ピストンロッド25の縮み行程において、第2バルブ40(すなわちディスクバルブ41~43)は、第2流路22における作動油の流れを調節し、ピストン20を運動させる力を減衰させる減衰力を発生させる。
【0017】
ピストンロッド25の伸び行程において、第2バルブ40は、第2流路22における第1油室11から第2油室12への作動油の流れを遮断する。したがって、作動油は第1油室11から第2油室12へ向かう方向(第1方向、第1流路作動油流通方向)に第1流路21を通じて流通する。また、ピストンロッド25の伸び行程において、第1バルブ30(すなわちディスクバルブ31~33)は、第1流路21における作動油の流れを調節し、ピストン20を運動させる力を減衰させる減衰力を発生させる。
【0018】
第1バルブ30において、ディスクバルブ31~33の径は、互いに同じである場合と互いに異なる場合とがある。また、第2バルブ40において、ディスクバルブ41~43の径は、互いに同じである場合と互いに異なる場合とがある。第1バルブ30および第2バルブ40が、いわゆる異径積層の構造を有する場合には、ディスクバルブ31~33の径は互いに異なる。また、ディスクバルブ41~43の径は互いに異なる。具体的には、ディスクバルブ31~33のうちで、ピストン20に接するディスクバルブ31の径が最も大きい。ディスクバルブ32の径はディスクバルブ31の径よりも小さく、ディスクバルブ33の径はディスクバルブ32の径よりもさらに小さい。また、ディスクバルブ41~43のうちで、ピストン20に接するディスクバルブ41の径が最も大きい。ディスクバルブ42の径はディスクバルブ41の径よりも小さく、ディスクバルブ43の径はディスクバルブ42の径よりもさらに小さい。
【0019】
第1バルブ30が異径積層構造を有する場合の動作について以下に説明する。ピストンロッド25の伸び行程において、その運動速度が小さく、第1流路21における作動油の流量が少ない場合には、ピストン20に接するディスクバルブ31のみが変形して開口部が生じる。ピストンロッド25の運動速度が大きくなり、第1流路21における作動油の流量が増大すると、ディスクバルブ32も変形し、ディスクバルブ31の開口部が大きくなる。さらに第1流路21における作動油の流量が増大すると、ディスクバルブ33も変形し、ディスクバルブ31の開口部がさらに大きくなる。
【0020】
第2バルブ40が異径積層構造を有する場合の動作について以下に説明する。ピストンロッド25の縮み行程において、その運動速度が小さく、第2流路22における作動油の流量が少ない場合には、ピストン20に接するディスクバルブ41のみが変形して開口部が生じる。ピストンロッド25の運動速度が大きくなり、作動油の流量が増大すると、ディスクバルブ42も変形し、ディスクバルブ41の開口部が大きくなる。さらに第2流路22における作動油の流量が増大すると、ディスクバルブ43も変形し、ディスクバルブ41の開口部がさらに大きくなる。
【0021】
第1バルブ30が同径積層構造であり、かつ作動油の流量が少ない場合には、ディスクバルブ31~33の接触面間の摩擦により、第1バルブ30全体が変形し難く、流路がうまく開口しない。静止摩擦係数と比較して動摩擦係数は小さいため、ピストンロッド25の運動速度が大きくなり、作動油の流量が増加すると、突如として第1バルブ30全体が変形し、流路が大きく開口する。その結果、ダンパーユニット1を介して車両に伝達される力が急激に変化し、車両の挙動が不安定化するとともに乗り心地が悪化する。第2バルブ40が同径積層構造である場合についても、ディスクバルブ41~43の接触面間の摩擦により、第1バルブ30が同径積層構造である場合と同様の挙動を示す。
【0022】
第1バルブ30、ピストン20、および第2バルブ40の中央には、ピストンロッド25が貫通する孔部が形成されている。ピストンロッド25の第1端25a近傍の側面には、ネジ溝(不図示)が形成されている。第1バルブ30においてピストン20とは逆側に、ピストンロッド25のネジ溝に螺合するナット26が配される。第1バルブ30は、ナット26によりピストンロッド25に締結されている。
【0023】
フリーピストン50は、チューブ10内の車体側にガス室13を形成する。ガス室13には空気または窒素ガスが充填される。フリーピストン50は、チューブ10内に挿入されるピストンロッド25の長さの変動に起因する、チューブ10内におけるピストンロッド25の体積の変動を補償する。
【0024】
また、フリーピストン50は、ピストン20がチューブ10の第2端10bから第1端10aへ向かう方向に運動する縮みストロークにおいて、ピストン20の運動速度の増加に対する減衰力の増加を小さくする。具体的には、フリーピストン50は、縮みストロークにおいて第2端10bから第1端10aへ向かう方向に運動する。その結果、第2油室12から第1油室11へ流れる作動油の量が減少し、減衰力の増加が小さくなる。
【0025】
図2は、第1バルブ30の一例の、一部の拡大図である。図2に示す例では、第1バルブ30は異径積層構造を有する。図2に示すように、第1バルブ30においては、ディスクバルブ31においてピストン20(図1参照)と接する面にDLC膜31aが形成されている。また、ディスクバルブ32においてディスクバルブ31と接する面にDLC膜32aが形成されている。また、ディスクバルブ33においてディスクバルブ32と接する面にDLC膜33aが形成されている。また、図示はされていないが、ディスクバルブ31においてディスクバルブ32と接する面にDLC膜を形成するといったように、各ディスクバルブにおいて図示された面とは反対側にDLC膜を形成してもよい。このように、ディスクバルブ31~33のそれぞれについて、他の部材と接する面にDLC膜31a~33aが形成されている。また、第2バルブ40においても同様に、ディスクバルブ41~43のそれぞれについて、他の部材と接する面にDLC膜が形成されている。また、第1バルブ30および第2バルブ40が同径積層構造を有する場合であっても、同様に、ディスクバルブが他の部材と接する面にDLC膜が形成される。
【0026】
(ディスクバルブの動作)
第1バルブ30が油圧で変形する場合、第1バルブ30が異径積層構造を有するのであれば、ディスクバルブ31~33のうち、第1流路21に最も近いディスクバルブ31が最初に変形する。このとき、ディスクバルブ31とディスクバルブ32との間で摩擦が生じる。ディスクバルブ31の変形における初動のしやすさは、ディスクバルブ31とディスクバルブ32との間の静摩擦係数によって決まる。
【0027】
第1バルブ30が同径積層構造を有する場合、第1バルブ30の全体が同時に変形し始める点で、第1バルブ30が異径積層構造を有する場合とは異なる。しかし、ディスクバルブ31~33の間での摩擦の効果については、第1バルブ30が異径積層構造を有する場合と同様である。
【0028】
一般に、静摩擦係数は動摩擦係数よりも大きい。油圧によりディスクバルブが変形しようとする場合において、ディスクバルブ間での静摩擦力が大きい場合には、複数枚のディスクバルブは一体であるかのように振る舞おうとする。この場合、ディスクバルブ全体としては変形しにくくなり、作動油の流路抵抗を適切に調整できなくなる。その結果、ダンパーユニットによる減衰力を意図したとおりに調整できなくなり、車両の挙動が不安定になるとともに乗り心地が悪化するといった不具合が生じる。
【0029】
このような不具合を解消するためには、ピストンの運動速度が微小である場合であってもスムーズに変形できるような特性をディスクバルブに持たせる必要がある。そのような特性をディスクバルブに持たせるためには、ディスクバルブ間の静摩擦係数をできるだけ小さくし、かつ静摩擦から動摩擦への移行を滑らかにすることが求められる。
【0030】
上述したとおり、ダンパーユニット1においては、ディスクバルブ31~33のそれぞれについて、他の部材と接する面にDLC膜31a~33aが形成されている。また、ディスクバルブ41~43のそれぞれにも、同様のDLC膜が形成されている。DLCは、炭素を主成分とする膜材料であり、低摩擦性と耐摩耗性とを併せ持つ。したがって、ダンパーユニット1においては、ピストン20の両側に設けられたディスクバルブ31~33およびディスクバルブ41~43が、ピストン20の運動速度が微小である場合であってもスムーズに変形できる。
【0031】
DLCは、大別すると、炭素以外の成分として水素を含むもの(「水素化アモルファスカーボン」a‐C:H)と、水素を含まないもの(「テトラヘドラルアモルファスカーボン」ta‐C、および「アモルファスカーボン」a‐C)とに分類される。いずれのDLCも、当該DLCにより被覆された部品と他の部品との間の摩擦係数を低下させる効果があり、当該部品が繰り返し擦られても摩耗が少ないという性質を有する。このため、ディスクバルブ31~33およびディスクバルブ41~43に形成されるDLC膜の材料としては、いずれのDLCも好ましい。
【0032】
水素を含むDLCを材料とするDLC膜は、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成される。プラズマCVD法では、DLC膜を形成する対象である基材に負の直流電圧や直流パルス電圧を印加し、炭化水素ガスをプラズマで活性化して基材の表面に被覆する。プラズマCVD法では、気体である炭化水素ガスを原料として用いることから、表面が平滑なDLC膜を得ることができる。DLC膜の表面が平滑であることで、当該表面における静摩擦係数が小さくなる。したがって、水素を含むDLCは、ディスクバルブ31~33およびディスクバルブ41~43に形成されるDLC膜の材料として好ましい。
【0033】
水素を含まないDLCを材料とするDLC膜は、例えばPVD(Physical Vapor Deposition)法によって形成される。PVD法では、真空アーク放電またはマグネトロンプラズマによってイオン化または原子状にした黒鉛原料を、負の直流電圧または直流パルス電圧を印加した基材に引き付けて基材表面に被覆する。水素を含まないDLCは、油中において特に静摩擦係数が小さくなる性質を有する。したがって、水素を含まないDLCは、作動油中で使用されるディスクバルブ31~33およびディスクバルブ41~43に形成されるDLC膜の材料として好ましい。
【0034】
特に、ダンパーユニット1においては、相重なる(積層された)ディスクバルブのうち2つが互いに接する面の、少なくとも一方にDLC膜が形成されている。図2に示した例では、ディスクバルブ31とディスクバルブ32とが互いに接する面のディスクバルブ32側に、DLC膜32aが形成されている。また、ディスクバルブ32とディスクバルブ33とが互いに接する面のディスクバルブ33側に、DLC膜33aが形成されている。これにより、互いに接するディスクバルブ間の摩擦が小さくなり、動き出しがスムーズになる。
【0035】
DLC膜は、ディスクバルブのうち2つが互いに接する面の両方に形成されていてもよい。この場合、いずれか一方の面のみにDLC膜が形成されている場合と比較して、ディスクバルブ間の摩擦がさらに低減される。
【0036】
また、上述したとおり、第1バルブ30および第2バルブ40には、同径積層構造のものと異径積層構造のものとがある。これらのバルブにおいては、DLC膜を有しないバルブと比較して、ディスクバルブ間の摩擦が低減される。すなわち、ディスクバルブにDLC膜を形成することで、ディスクバルブ間の摩擦がさらに小さくなり、動き出しがスムーズになる。
【0037】
なお、必ずしもディスクバルブ31~33およびディスクバルブ41~43の全てにDLC膜が形成されている必要はない。ダンパーユニット1においては、ディスクバルブ31~33およびディスクバルブ41~43に含まれる少なくとも1つのディスクバルブについて、他の部材に接する面にDLC膜が形成されていればよい。そのようなダンパーユニット1によれば、少なくともDLC膜が形成されている面と、当該面に接する他の部材との間での静摩擦係数が小さくなり、ディスクバルブがスムーズに変形するようになる。したがって、ダンパーユニット1を介して車両に伝達される力の変化が滑らかになり、車両の挙動が安定するとともに乗り心地が改善される。
【0038】
また、第1バルブ30および第2バルブ40が備えるディスクバルブの数は上記の例に限らない。第1バルブ30は、ディスクバルブ31およびディスクバルブ32のみを備え、ディスクバルブ33を備えなくてもよい。逆に、第1バルブ30は、ディスクバルブ31~33に加えて、さらに別のディスクバルブを備えていてもよい。第2バルブ40についても同様である。
【0039】
(実施例1)
水素アモルファスカーボンを原料とするDLC膜の成膜方法の実施例について、以下に説明する。本実施例では、プラズマCVD法により、基材としてのばね鋼のディスクの片面を、厚さ2.0μmのDLC膜で被覆した。
【0040】
DLC膜で被覆する前の、基材の表面における平均粗さは、Ra=0.07μm~0.13μmであった。DLC膜での被覆に先立ち、基材の表面を、アルカリ洗浄剤および有機溶剤を使用して湿式洗浄した。その後、治具に基材を固定し、プラズマCVD装置の真空容器内にセットした。
【0041】
基材をセットした状態の真空容器内を1×10-3Pa以下まで真空引きし、基材を150℃に加熱した。この状態の真空容器内にアルゴンガスを導入し、基材に負の直流パルス電圧を印加して、アルゴンプラズマによって基材表面の清浄化を行った。次に金属クロムのスパッタリング蒸発源を用い、基材の表面に厚さ0.5μmの金属クロム層を形成した。そののちに真空容器内にアセチレンガスを導入し、基材に負の直流パルス電圧を印加し、水素アモルファスカーボンを原料とするDLC膜で基材を被覆した。
【0042】
(実施例2)
テトラヘドラルアモルファスカーボンを原料とするDLC膜の成膜方法の実施例について、以下に説明する。本実施例では、真空アークPVD法により、基材としてのばね鋼のディスクの片面を、厚さ1.0μmのDLC膜で被覆した。
【0043】
DLC膜で被覆する前の、基材の表面における平均粗さは、Ra=0.07μm~0.10μmであった。DLC膜での被覆に先立ち、基材の表面を、アルカリ洗浄剤および有機溶剤を使用して湿式洗浄した。その後、治具に基材を固定し、真空アークPVD装置の真空容器内にセットした。
【0044】
基材をセットした状態の真空容器を1×10-3Pa以下まで真空引きし、基材を150℃に加熱した。この状態の真空容器内にアルゴンガスを導入し、基材に負の直流電圧を印加して、アルゴンプラズマによって基材表面の清浄化を行った。そののちに黒鉛蒸発源に真空アーク放電を発生させ、基材に負の直流電圧を印加し、テトラヘドラルアモルファスカーボン膜で基材を被覆した。
【0045】
(試験例)
DLCで被覆されていないディスクバルブを備えるダンパーユニット(以下、比較例のダンパーユニット)、およびダンパーユニット1について試験を行った。試験を行ったダンパーユニット1におけるDLC膜31a~33aは、上述した実施例1の方法で製膜したものである。試験の方法および結果について以下に説明する。
【0046】
図3は、ダンパーユニットの性能評価に用いた試験装置100の構造を示す図である。図3においては、ダンパーユニット1が試験対象のダンパーユニットとして示されている。試験装置100は、ロードセル110、スライダー120、コンロッド130、クランク140、および駆動モータ(不図示)を備える。以下の説明では、ダンパーユニットのコンロッド130側の端部を第1端、ロードセル110側の端部を第2端と称する。
【0047】
ロードセル110は、試験対象のダンパーユニットから伝達される力を垂直に受けるように、ダンパーユニットの第2端に設置される。ロードセル110は、試験対象のダンパーユニットから作用する、第1端から第2端へ向かう方向、またはその逆方向の力を計測する。
【0048】
車両のサスペンションでは、ダンパーユニットの第1端と第2端との間に、図示しないスプリングが配される。ダンパーユニットの第2端には、ピストンロッドのストロークとスプリングのバネ剛性との積の力が働く。すなわち、車両の走行中にタイヤが衝撃力を受けた場合、スプリングを介した力と、ダンパーユニットを介した力との合力が車両に伝達される。このうち、ダンパーユニットを介した力がロードセル110により計測される。
【0049】
車両の乗り心地および操安性は、上記の合力の変化がどれだけ滑らかになるかによって大きく左右される。すなわち、スプリングを介した力の変化が、ダンパーユニットを介した力によってどれほど滑らかになるかが重要である。この力の状態を車両に合わせて最適化するのがダンパーチューニング作業である。ダンパーチューニング作業を適正に行えるか否かは、ピストンロッドの動き、例えば低速のピストンロッドのわずかな動きに対してディスクバルブが滑らかに開口し、ピストンロッドの動きに非線形要素が少なくなるか否かに大きく依存する。
【0050】
クランク140は、コンロッド130およびスライダー120を介して、試験対象のダンパーユニットの第1端に接続される。クランク140は、ダンパーユニットの第1端、第2端、およびコンロッド130を含む面内で、駆動モータにより回転する。
【0051】
コンロッド130は、クランク140の回転運動をスライダー120に伝達する。スライダー120は、コンロッド130を介して伝達されるクランク140の回転運動を、直線運動に変換する。クランク140の回転運動により、試験対象のダンパーユニットは、ストロークの両端の間で、時間に対して略正弦的に伸縮する。クランク140から試験対象のダンパーユニットの第1端に加わる力が、当該ダンパーユニットにより減衰された状態の力となり、その力が当該ダンパーユニットの第2端に接続されたロードセル110で計測される。
【0052】
試験対象のダンパーユニットにおけるピストンの運動について、クランク140の中心を中心141、クランク140にコンロッド130が接続されている位置をクランク位置142として以下に説明する。中心141からクランク位置142までの距離をr、中心141およびクランク位置142を通る直線とスライダー120の直線運動に垂直な方向との間の角度をθ、クランク140の回転角速度をωとする。この場合、クランク位置142の円周方向における移動速度v1は以下の式(1)で示される。
v1=r×ω (1)
クランク位置142の移動速度v1について、スライダー120の直線運動に平行な方向における成分v2は、以下の式(2)で示される。
v2=r×ω×cosθ (2)
スライダー120の直線運動の速度、試験対象のダンパーユニットにおけるピストンの速度は、成分v2に略等しくなる。
【0053】
試験装置100を用いて、比較例のダンパーユニットおよびダンパーユニット1から伝達される力を計測した。比較例のダンパーユニットに対するダンパーユニット1の性能の向上について、計測結果を示すグラフに基づいて、以下に説明する。
【0054】
図4は、試験装置100による計測結果を示すグラフの見方を説明するための図である。図4において、横軸はピストンの運動速度であり、縦軸はロードセルで計測される力(以下、減衰力と称する)である。横軸において、中央よりも左側は伸び行程のストロークにおける速度であり、中央よりも右側は縮み行程のストロークにおける速度である。また、横軸における速度は、ストロークにおける最大値に対する相対値であり、中央の速度0の点より左右の伸び行程と縮み行程とで対称、かつ略正弦的な目盛りを有する。ストロークの開始時点では、ダンパーユニットの動作点は、横軸の中央の、速度0の点に位置し、ストロークの行程でクランク140の回転角に対して略正弦的に変化する。
【0055】
伸びストロークの場合、ストロークの開始後、ピストンが加速するにつれて動作点は横軸を中央から左へ移動し、ピストンの速度が最大になったときに左端のP1へ到達する。その後、ピストンが減速するにつれて動作点は横軸を右へ移動し、ストロークの終了時に中央に戻る。
【0056】
縮みストロークの場合には、ストロークの開始後、ピストンが加速するにつれて動作点は横軸を中央から右へ移動し、ピストンの速度が最大になったときに右端のP2へ到達する。その後、ピストンが減速するにつれて動作点は横軸を左へ移動し、ストロークの終了時に中央に戻る。
【0057】
図5は、ダンパーユニット1についての計測結果を示すグラフである。図5には、グラフG11・G12・G13・G14・G15・G16・G17の7種類のグラフが示されている。グラフG11~G17はそれぞれ、ピストンの運動速度が異なる場合、すなわちクランク140の回転速度が異なる場合の測定結果について、ピストンの代表速度をパラメータとして示したものである。上述したとおり、ピストンの運動速度は、ストロークの行程中に略正弦曲線的に連続的に変化するものである。代表速度は、コンロッド130と、クランク140の中心141とクランク位置142とを結ぶ線とが直交するタイミングでのピストンの運動速度である。
【0058】
グラフG11~G17はそれぞれ、以下の条件での試験結果を示すグラフである。
・グラフG11:代表速度を0.02m/sとした試験
・グラフG12:代表速度を0.05m/sとした試験
・グラフG13:代表速度を0.1m/sとした試験
・グラフG14:代表速度を0.15m/sとした試験
・グラフG15:代表速度を0.3m/sとした試験
・グラフG16:代表速度を0.45m/sとした試験
・グラフG17:代表速度を0.6m/sとした試験
これらのグラフにおいては、ガス室13に封入したガスの圧力に起因するオフセットを処理していない。このため、ピストン速度が0である場合の減衰力は、0とは異なる値になっている。
【0059】
図6は、比較例のダンパーユニットにおける動作開始時の状況、すなわち静摩擦力の影響について説明するためのグラフである。図7は、ダンパーユニット1における動作開始時の状況、すなわち静摩擦力の影響について説明するためのグラフである。図6には、図5に示したグラフG11~G17のそれぞれに対応するグラフが示されている。簡単のため、図6においては、説明に用いる、代表速度を0.15m/sとした試験の結果を示すグラフにのみ、G04との符号を付している。また、図7においても同様に、グラフG14にのみ符号を付している。
【0060】
ピストンの速度が低速である内は、ディスクバルブが開弁しない。図6および図7のグラフは、ディスクバルブが開弁しない状態では互いに一致する。ピストンの代表速度が0.15m/sであるストロークでは、行程の少なくとも一部において、ディスクバルブが開弁するため、グラフG04とグラフG14とで差が生じている。
【0061】
図6において、直線L11は、グラフG04の伸び行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。直線L12は、グラフG04の縮み行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。図7において、直線L21は、グラフG14の伸び行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。直線L22は、グラフG14の縮み行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。
【0062】
図6および図7においては縦軸および横軸の比率を互いに一致させているため、角度の比較により減衰力の立ち上がりを比較することができる。図6において、直線L11が横軸と成す角度は約31°であり、直線L12が横軸と成す角度は約23°であった。一方、図7においては、直線L21が横軸と成す角度は約15.5°であり、直線L22が横軸と成す角度は約16.5°であった。
【0063】
横軸の中央における立ち上がりの角度が大きい程、減衰力が急激に立ち上がる。逆に、横軸の中央における立ち上がりの角度が小さい程、減衰力の立ち上がりが穏やかである。図6および図7によれば、ダンパーユニット1では比較例のダンパーユニットよりも減衰力の立ち上がりが穏やかであり、車両の走行中にタイヤが受ける微小な衝撃力に対しても減衰力が滑らかに発生する状況を示していると言える。これは、ディスクバルブ31~33・41~43の静摩擦係数が小さいために、ダンパーユニット1への微小な衝撃力、すなわち微小な速度でのピストン20の運動に対しても、ディスクバルブ31~33・41~43が容易に開弁しているためと考えられる。
【0064】
また、図7においては、図6と比較して、横軸の中央におけるグラフの、縦軸の方向におけるバラツキの幅が小さくなっている。これは、ダンパーユニット1では、比較例のダンパーユニットと比較して、車両運行中に生じる、タイヤからの種々の強さの突き上げ運動に対して、ストロークにおけるピストンの動き出し時に発生する減衰力の値が安定していることを意味している。
【0065】
図8は、ピストンの代表速度が上昇した場合、すなわち車両の走行中にタイヤが受ける衝撃力が大きい場合の、比較例のダンパーユニットにおける動き出しの滑らかさについて説明するためのグラフである。図9は、ピストンの代表速度が上昇した場合、すなわち車両の走行中にタイヤが受ける衝撃力が大きい場合の、ダンパーユニット1における動き出しの滑らかさについて説明するためのグラフである。図8においては、説明に用いる、代表速度を0.6m/sとした試験の結果を示すグラフにのみ、G07との符号を付している。また、図9においても同様に、グラフG17にのみ符号を付している。
【0066】
ピストンの代表速度が0.6m/sであるストロークにおいては、ディスクバルブは動き出しの直後のみ閉弁した状態であり、その後の大半の行程において開弁した状態である。ディスクバルブが開弁した状態では、積層されたディスクバルブ間の摩擦は動摩擦である。
【0067】
図8において、直線L31は、グラフG07の伸び行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。直線L32は、グラフG07の縮み行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。図9において、直線L41は、グラフG17の伸び行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。直線L42は、グラフG17の縮み行程のストロークにおける、減衰力の立ち上がりに沿う直線である。
【0068】
図8に示すグラフにおいて、直線L31が横軸と成す角度は約32.5°であり、直線L32が横軸と成す角度は約33.5°であった。一方、図9に示すグラフにおいて、直線L41が横軸と成す角度は約30°であり、直線L42が横軸と成す角度は約30°であった。
【0069】
ピストンの代表速度が0.6m/sであるストロークにおいても、ダンパーユニット1における減衰力の立ち上がりは、比較例のダンパーユニットにおける減衰力の立ち上がりよりも穏やかである。この立ち上がりが小さい程、ピストンの運動速度が微小である場合にディスクバルブが滑らかに開弁していることを示している。図8および図9からは、ピストンの代表速度が図6および図7における説明の4倍となるような場合であっても、ダンパーユニット1における動作の滑らかさが維持されていることが認められる。
【0070】
図6図9では、ピストンの動き出し時におけるダンパーユニットの特性について説明してきた。ピストンの動き出し時とは、ディスクバルブが閉弁した状態、または閉弁した状態から開弁した状態に切り替わるまでの、ピストンの低速運動時を指す。次に、ピストンの動き出し時よりも後におけるダンパーユニットの特性について説明する。ピストンの動き出し時よりも後とは、ディスクバルブが開弁した状態での、ピストンの高速運動時を指す。
【0071】
図10は、比較例のダンパーユニットにおけるヒステリシスのように見える領域について説明するためのグラフである。図11は、ダンパーユニット1におけるヒステリシスのように見える領域について説明するためのグラフである。図10においては代表速度を0.1m/sとした試験の結果を示すグラフに、G03との符号を付している。また、代表速度を0.15m/sとした試験の結果を示すグラフに、G04との符号を付している。図11においても同様に、グラフG13・G14にのみ符号を付している。以下では、これらの代表速度でピストンがストロークを繰り返している場合を例にとって説明する。
【0072】
図10において、領域R11は、グラフG03の伸び行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。領域R12は、グラフG03の縮み行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。領域R13は、グラフG04の伸び行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。領域R14は、グラフG04の縮み行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。
【0073】
図11において、領域R21は、グラフG13の伸び行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。領域R22は、グラフG13の縮み行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。領域R23は、グラフG14の伸び行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。領域R24は、グラフG14の縮み行程のストロークを示す部分における、ピストンの速度が0から最大になるまでのグラフと最大から0になるまでのグラフとの間の領域である。
【0074】
領域R11~R14および領域R21~R24の面積が大きい程、当該領域を有するストロークにおいて、伸び行程または縮み行程における減衰力がピストンの運動速度に対して一義的に決まらないことになる。換言すれば、サスペンションに加わった衝撃力を減衰させる、ダンパーユニットの効果が一様でなく、車両に伝達される力を適切に減衰できないこととなる。すなわち、当該ストロークで動作するダンパーユニットを装備する車両の乗り心地が悪くなる。
【0075】
領域R11~R14および領域R21~R24は、ヒステリシスのように見える形状を有する。図11における領域R21~R24は、図10における領域R11~R14と比較して、互いに明確に分離している。したがって、タイヤの突上げ衝撃力の大小に関係する図10のグラフG03・G04および図11のグラフG13・G14によれば、ダンパーユニット1におけるヒステリシスのように見える領域
の分離の程度が、比較例のダンパーユニットにおけるヒステリシスのように見える領域よりも明快に分離している。すなわち、ダンパーユニット1では、タイヤに加わる衝撃力の変化に対し、より対応した減衰力を発生させ、その性能は比較例のダンパーユニットの性能よりも良好であることが示されている。
【0076】
図12は、比較例のダンパーユニットにおける、ピストンの高速運動時の特性について説明するためのグラフである。図13は、ダンパーユニット1における、ピストン20の高速運動時の特性について説明するためのグラフである。図12および図13においては、図10および図11と同様、グラフG03・G04・G13・G14にのみ符号を付している。
【0077】
図12において、領域R31は、グラフG03・G04の伸び行程のストロークにおいて減衰力の傾きが大きく変化している領域である。領域R32は、グラフG03・G04の縮み行程のストロークにおいて減衰力の傾きが大きく変化している領域である。図13において、領域R41は、グラフG13・G14の伸び行程のストロークにおいて減衰力の傾きが大きく変化している領域である。領域R42は、グラフG13・G14の縮み行程のストロークにおいて減衰力の傾きが大きく変化している領域である。
【0078】
領域R41・R42における、グラフG13・G14の傾きの変化は、領域R31・R32における、グラフG03・G04の傾きの変化よりも小さい。また、グラフG03・G04よりもグラフG13・G14の方が、横軸の中央における減衰力の立ち上がりが緩やかである。さらに、領域R41・R42の方が、領域R31・R32よりも、横軸における中央から離隔した位置に存在する。このため、グラフG03・G04よりもグラフG13・G14の方が、ストロークの全体における減衰力の変化が一様に近い。また、グラフG03・G04よりもグラフG13・G14の方が、全体として勾配の変化が少ない曲線となっている。このことから、ダンパーユニット1では比較例のダンパーユニットと比較して、車両のサスペンションの動きを減衰させる減衰力を、ピストン20の低速運動時から高速運動時までにわたって滑らかに実現できていることが分かる。
【0079】
ダンパーユニットにおいて減衰力の傾きが急激に変化すると、車両のサスペンションにおけるスムーズなストロークが阻害されるため、当該ダンパーユニットを装備した車両の乗り心地が悪化する。したがって、ダンパーユニット1は、比較例のダンパーユニットよりも、当該ダンパーユニットを装備した車両の乗り心地を改善できると言える。
【0080】
自動車の操安性および乗り心地に関する従来のダンパー性能評価では、計測装置による測定データで上述したような減衰力の特性変化が認められなかった。このため、熟練したテストドライバーが、ダンパーの性能変化について、官能評価を行ってダンパーユニットの性能の良否を判定してきた。
【0081】
ダンパーユニット1を車両に装備し、熟練したテストドライバーにより運転性能のテストを実施したところ、官能評価で著しい性能の向上が報告された。性能の確認を取るため、試験装置100により減衰力を測定したところ、減衰力の数値的変化が明らかに認められ、官能評価での性能の向上が、初めて物理量で裏付けられた。
【0082】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0083】
図14は、実施形態2に係るダンパーユニット2の構成を示す断面図である。ダンパーユニット2は、いわゆるダブルチューブ式のダンパーユニットである。図14に示すように、ダンパーユニット2は、インナーチューブ60、アウターチューブ65、ピストン20、ピストンロッド25、第3バルブ70、第4バルブ80、および一方向弁91・92を備える。
【0084】
インナーチューブ60は、作動油が封入される筒状の部材である。インナーチューブ60は、第1端60aおよび第2端60bを有する。アウターチューブ65は、インナーチューブ60を収容する筒状の部材である。アウターチューブ65は、第1端65aおよび第2端65bを有する。アウターチューブ65は、インナーチューブ60との間に環状油室63を形成する。
【0085】
アウターチューブ65の第1端65aは、ダンパーユニット2を装備する車両のサスペンションに接続される。インナーチューブ60は、第1端60aがアウターチューブ65の第1端65aから離隔した状態でアウターチューブ65に収容される。このため、インナーチューブ60の第1端60aはダンパーユニット2の外部に露出しない。
【0086】
インナーチューブ60の第2端60bは、アウターチューブ65の第2端65bからダンパーユニット2の外部へ露出する。インナーチューブ60の第2端60bから、ピストンロッド25がインナーチューブ60内に挿入される。
【0087】
ダンパーユニット2において、ピストンロッド25は、第1端25aがインナーチューブ60に挿入されてピストン20に接続される。ピストンロッド25の第2端25bは、ダンパーユニット1を装備する車両の車体に接続される。
【0088】
ダンパーユニット2において、ピストン20は、インナーチューブ60内を運動する。ピストン20は、インナーチューブ60内を第1油室61および第2油室62に区画する。ピストン20には、第1流路21および第2流路22が形成されている。これら第1流路21および第2流路22のそれぞれは、第1油室61および第2油室62を互いに連通させるものである。インナーチューブ60内に封入された作動油は、ピストン20の運動に伴って、第1流路21または第2流路22を、第1油室61および第2油室62の一方から他方へ流通する。具体的には、ピストン20がインナーチューブ60の第1端60aから第2端60bへ向かう側(伸び側)に運動する場合には、第1油室61から第2油室62へ作動油が流通する。一方、ピストン20がインナーチューブ60の第2端60bから第1端60aへ向かう側(縮み側)に運動する場合には、第2油室62から第1油室61へ作動油が流通する。以下の説明では、実施形態1と同様、ピストン20が伸び側へ運動する工程を伸び行程と称する場合がある。また、ピストン20が縮み側へ運動する工程を縮み行程と称する場合がある。
【0089】
第3バルブ70は、第1流路21の、インナーチューブ60の第1端60a側に配される。第3バルブ70は、ピストンロッド25の伸び行程において、第1流路21における作動油の流れを調節する。第3バルブ70は、ディスクバルブ71・72・73を含む。第3バルブ70は、図1に示した第1バルブ30と同様に、ナット26によりピストンロッド25に締結されている。
【0090】
第3バルブ70の動作は、実施形態1で説明した第1バルブ30の動作と同じである。このため、ピストンロッド25の伸び行程では、作動油は第1油室61から第2油室62へ向かう方向(第1方向、第1流路作動油流通方向)に第1流路21を流通する。このとき、第3バルブ70(すなわちディスクバルブ71~73)は、第1流路21における作動油の流れを調節し、ピストン20を運動させる力を減衰させる減衰力を発生させる。これにより、タイヤに加わった衝撃力に起因して車両に伝達される力の変化が滑らかになる。
【0091】
一方向弁91は、第2流路22の、インナーチューブ60の第2端60b側に配される。一方向弁91は、ピストンロッド25の伸び行程において、第2流路22における第1油室61から第2油室62への作動油の流れを遮断する。ピストンロッド25の縮み行程において、作動油は第2油室62から第1油室61へ向かう方向(第2方向、第2流路作動油流通方向)に第2流路22を流通する。ただし、ダンパーユニット2は、一方向弁91の代わりに、第3バルブ70などと同様の、複数のディスクバルブが積層されたバルブを有していてもよい。
【0092】
インナーチューブ60には、第2油室62と環状油室63とを連通させる第3流路23および第4流路24が形成されている。第3流路23および第4流路24は、インナーチューブ60の第1端60aに位置する。
【0093】
一方向弁92は、第3流路23の、インナーチューブ60の内側に配される。一方向弁92は、ピストンロッド25の縮み行程において、第3流路23における第2油室62から環状油室63への作動油の流れを遮断する。ピストンロッド25の伸び行程において、作動油は環状油室63から第2油室62へ向かう方向(第3方向、第3流路作動油流通方向)へ第3流路23を流通する。ピストンロッド25の伸び行程においては、作動油が第3バルブ70により調節されて第1流路21を流れ、また、作動油は第3流路23を環状油室63から第2油室62へ流通する。ただし、ダンパーユニット2は、一方向弁92の代わりに、第3バルブ70などと同様の、複数のディスクバルブが積層されたバルブを有していてもよい。
【0094】
第4バルブ80は、第4流路24の、インナーチューブ60の外側に配される。第4バルブ80は、第4流路24における作動油の流れを調節する。第4バルブ80は、ディスクバルブ81・82・83を含む。ディスクバルブ81~83は、ナット27によりインナーチューブ60の第1端60aに締結されている。
【0095】
ピストンロッド25の伸び行程において、第4バルブ80は、第4流路24における環状油室63から第2油室62への作動油の流れを遮断する。ピストンロッド25の縮み行程において、作動油は第2油室62から環状油室63へ向かう方向(第4方向、第4流路作動油流通方向)へ第4流路24を流通する。作動油が第4流路24を第4方向に流通するダンパーユニット2においては、作動油が第2流路22を流れる。このとき、第4バルブ80(すなわちディスクバルブ81~83)は、第4流路24における作動油の流れを調節し、ピストン20を運動させる力を減衰させる減衰力を発生させる。これにより、タイヤに加わった衝撃力に起因して車両に伝達される力の変化が滑らかになる。
【0096】
ダンパーユニット2においては、環状油室63内の上側の空間64が、作動油ではなく空気または窒素ガスで満たされている。空間64内における空気または窒素ガスの圧力が変動することで、インナーチューブ60内におけるピストンロッド25の体積の変動が補償される。
【0097】
ディスクバルブ71~73およびディスクバルブ81~83には、ディスクバルブ31~33におけるDLC膜31a~33cと同様のDLC膜が形成されている。また、一方向弁91・92においても同様のDLC膜が形成されてもよい。このため、ダンパーユニット2においてもダンパーユニット1と同様に、ディスクバルブ間の摩擦が低減される。一方向弁91・92にDLC膜を形成することも有効である。したがって、ダンパーユニット2を装備した車両の挙動が安定するとともに、乗り心地が改善される。
【0098】
〔実施形態3〕
図15は、実施形態3に係るダンパーユニット3の構成を示す断面図である。図15に示すように、ダンパーユニット3は、ダンパーユニット1の構成に加えて中間板15を備える。中間板15は、第2油室12内に配される。中間板15は、ピストン20などとは異なり、チューブ10内における位置が固定されている。中間板15の中央には、開口15aが形成されている。
【0099】
実施形態3に係る第1バルブ30および第2バルブ40の動作および効果、特にディスクバルブ31~33・41~43にDLC膜を形成することによる効果は、実施形態1において説明したとおりである。ダンパーユニット3は、中間板15を備えることで、ダンパーユニット1が奏する効果に加えて、さらに以下の効果を奏する。ダンパーユニット3においては、ピストン20がチューブ10の第1端10aに向かって運動する場合、第1油室11および第2油室12の容積の変化に起因する圧力による負荷が、主に中間板15にかかる。このため、ダンパーユニット3においては、ダンパーユニット1と比較して、フリーピストン50にかかる負荷が小さく、かつ負荷の変化が滑らかになる。
【0100】
また、ピストン20がチューブ10の第2端10bに向かって運動する場合には、上述したとおり、フリーピストン50も第2端10bに向かって運動する。このとき、中間板15よりもフリーピストン50側の作動油は、開口15aを通ってピストン20側へ移動するため、フリーピストン50の運動に抵抗力が生じる。したがって、チューブ10の第2端10bへの、ピストン20の急激な運動、すなわちダンパーユニット3の急激な伸長が低減される。
【0101】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1、2、3 ダンパーユニット
10 チューブ
11、61 第1油室
12、62 第2油室
20 ピストン
21 第1流路
22 第2流路
23 第3流路
24 第4流路
31~33、41~43、71~73、81~83 ディスクバルブ
31a~33a DLC膜
60 インナーチューブ
63 環状油室
65 アウターチューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15