(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047921
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】光変調回路
(51)【国際特許分類】
G02F 1/025 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
G02F1/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157116
(22)【出願日】2021-09-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020(令和2年度)年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/高度自動運転に向けた大容量車載光ネットワーク基盤技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕之
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA18
2K102AA28
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC05
2K102BC10
2K102BD01
2K102CA04
2K102DA05
2K102DB04
2K102DD03
2K102EA03
2K102EA05
2K102EA17
(57)【要約】
【課題】一つの変調器構造に高速位相変調部と低速位相変調部を設けて、直流成分から10ギガヘルツ以上に至る平坦な周波数変調特性を有し、小型で低損失な広帯域光変調回路を提供する。
【解決手段】シリコン光導波路によって構成される光変調器と、駆動回路と、を備え、前記光変調器は、マッハツェンダー型干渉導波路の二つのアーム導波路のそれぞれに、高周波の変調を担い逆バイアスが印加されるpn空乏層型位相変調部と、低周波の変調を担うpin注入型位相変調部と、アームバランスを担うヒータによる位相変調部と、を有する光変調器、を備え、前記駆動回路は、高周波信号を生成、増幅し、バイアスを前記高周波信号に印加し、前記pn空乏層型位相変調部に出力する第1駆動回路と、低周波信号を生成、増幅し、前記pin注入型位相変調部に出力する第2駆動回路と、前記ヒータに電流を印加するバイアス調整回路と、を備える光変調回路。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン光導波路によって構成される光変調器と、
駆動回路と、を備え、
前記光変調器は、
マッハツェンダー型干渉導波路の二つのアーム導波路のそれぞれに、
高周波の変調を担い逆バイアスが印加されるpn空乏層型位相変調部と、
低周波の変調を担うpin注入型位相変調部と、
アームバランスを担うヒータによる位相変調部と、を有する光変調器、を備え、
前記駆動回路は、
高周波信号を増幅し、バイアスを前記高周波信号に印加し、前記pn空乏層型位相変調部に出力する第1駆動回路と、
低周波信号を増幅し、前記pin注入型位相変調部に出力する第2駆動回路と、
前記ヒータに電流を印加するバイアス調整回路と、を備える、
光変調回路。
【請求項2】
前記pn空乏層型位相変調部は、
p型シリコンにより形成される第1p型シリコン層と、前記第1p型シリコン層に接合されるn型シリコンにより形成される第1n型シリコン層と、を備える、
請求項1に記載の光変調回路。
【請求項3】
前記pin注入型位相変調部は、
p型シリコンにより形成される第2p型シリコン層と、前記第2p型シリコン層に接合される真性半導体シリコンにより形成されるi型シリコン層と、前記i型シリコン層に接合されるn型シリコンにより形成される第2n型シリコン層と、を備える、
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の光変調回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光変調回路に関する。
【背景技術】
【0002】
大出力(概ね50オーム負荷に対して50ミリワット以上)の電気増幅器において、周波数帯域の低周波側カットオフ周波数を10キロヘルツ以下とする場合、高周波側のカットオフ周波数を10ギガヘルツ以上とすることは大変困難である。一方、光変調器の駆動電圧は、シリコン変調器の場合、プッシュプル動作でもピーク・ピーク値で5ボルト程度必要であり、50オーム負荷に対して250ミリワットの出力の電気増幅器がドライバとして必要である。
【0003】
また、高速動作のために逆バイアスを印加する必要があり、直流バイアス電圧を印加するためにバイアスTが必要となるが、高周波信号の低域カットオフを下げると素子が大型化する問題もある。前述のように、1キロヘルツから10ギガヘルツまでの周波数範囲で、大出力の電気増幅器は実現が困難である。したがって、市販の光変調器駆動用電気増幅器の周波数帯域は、100キロヘルツから10ギガヘルツまでの周波数範囲などと低周波側のカットオフ周波数を高くしている。
【0004】
例えば、長距離光通信においては、送信信号の周波数帯域が100キロヘルツから10ギガヘルツまでの周波数範囲に収まるような変復調方式を利用している。しかしながら、光パケット伝送方式又は光バースト伝送方式では、パケット間又はバースト信号間に無信号状態があるため、10キロヘルツ以下の低周波から10ギガヘルツ以上の高周波まで動作可能な光変調器を必要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、送信信号を低速成分と高速成分に分離して、増幅し、電気的に合成して変調器を駆動する技術が開示されている。特許文献1に開示されている技術に基づく、第1比較例の光変調回路9zを
図21に示す。光変調回路9zは、光源501と、光変調器502と、信号源503と、分岐回路504と、変調器ドライバ505と、低周波増幅器506と、加算回路507と、を備える。光変調器502は、例えば、ニオブ酸リチウムを用いた光変調器である。変調器ドライバ505の低周波側のカットオフ周波数は100キロヘルツ程度である。
【0007】
第1比較例の光変調回路9zの課題は、加算回路を具体的に構成する方法である。例えば、バイアスTを用いて加算することが可能であるが、バイアスTのインダクタ側端子から合成側端子への高周波カットオフ周波数をfLC、キャパシタ側端子から合成側端子への低周波カットオフ周波数をfHCとすると、fHC≧fLCとなる。バイアスTの設計によるが、fLCを10キロヘルツ以上とすることは雑音の観点から困難であり、fHC>fLCとなる。すなわち、周波数fLCから周波数fHCの間の周波数帯は合成できない周波数帯となり、光信号によっては、波形歪みが大きくなる問題が生じる。なお、特許文献1では、加算回路の詳細の記載はなく、この課題をどのように解決するのか不明である。
【0008】
また、第1比較例を変形した第2比較例の光変調回路9zaを
図22に示す。光変調回路9zaは、光変調回路9zに加えて、第2光変調器508を備える。第2比較例の光変調回路9zaは、二つの光変調器と、二つの光変調器のそれぞれに別々の駆動系を用いて、光信号を低速変調と高速変調の多段変調することにより、光パケット又は光バースト信号を生成する方法である。第2比較例の光変調回路9zaの課題は、変調器を多段にするため回路が大型化すること、変調器の損失が増大すること、別々の変調器を駆動するので変調器ドライバ505と低周波増幅器506の位相同期が困難であることである。
【0009】
本開示は、一つの変調器構造に高速位相変調部と低速位相変調部を設けて、直流成分から10ギガヘルツ以上に至る平坦な周波数変調特性を有し、小型で低損失な広帯域光変調回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様では、シリコン光導波路によって構成される光変調器と、駆動回路と、を備え、前記光変調器は、マッハツェンダー型干渉導波路の二つのアーム導波路のそれぞれに、高周波の変調を担い逆バイアスが印加されるpn空乏層型位相変調部と、低周波の変調を担うpin注入型位相変調部と、アームバランスを担うヒータによる位相変調部と、を有する光変調器、を備え、前記駆動回路は、高周波信号を生成、増幅し、バイアスを前記高周波信号に印加し、前記pn空乏層型位相変調部に出力する第1駆動回路と、低周波信号を生成、増幅し、前記pin注入型位相変調部に出力する第2駆動回路と、前記ヒータに電流を印加するバイアス調整回路と、を備える光変調回路が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、広帯域にわたって平坦な周波数変調特性を有する小型で低損失な、広帯域の光変調回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る光変調回路の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の光導波路を説明する図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器を説明する図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の断面図(その1)である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の断面図(その2)である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の断面図(その3)である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の断面図(その4)である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の断面図(その5)である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の断面図(その6)である。
【
図10】
図10は、第1実施形態に係る光変調回路の光変調器の断面図(その7)である。
【
図11】
図11は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その1)である。
【
図12】
図12は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その2)である。
【
図13】
図13は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その3)である。
【
図14】
図14は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その4)である。
【
図15】
図15は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その5)である。
【
図16】
図16は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その6)である。
【
図17】
図17は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その7)である。
【
図18】
図18は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その8)である。
【
図19】
図19は、第1実施形態に係る光変調回路の動作を説明する図(その9)である。
【
図20】
図20は、第2実施形態に係る光変調回路の構成例を示す図である。
【
図21】
図21は、第1比較例の光変調回路の構成例を示す図である。
【
図22】
図22は、第2比較例の光変調回路の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本実施形態に係る光変調回路について詳細に説明する。
【0014】
<<第1実施形態>>
<光変調回路1>
第1実施形態に係る光変調回路1の構成例を示す図である。第1実施形態に係る光変調回路1は、入力ポートPinから入力された入力光Laを位相変調して、BarポートPbarから出力光Lb又はCrossポートPcrossから出力光Lcを出力する。光変調回路1は、光変調器100と、駆動回路200と、を備える。
【0015】
[光変調器100]
光変調器100は、駆動回路200からの信号により、入力光Laを位相変調する。光変調器100は、シリコン光導波路により構成されるマッハツェンダー干渉計101に、高速位相変調部102と、低速位相変調部103と、位相補正部104と、を有する。
【0016】
マッハツェンダー干渉計101は、一対のアーム導波路(
図2、アームA1及びアームA2を参照)を有し、アーム間の位相変化を振幅変化に変換する。すなわち、マッハツェンダー干渉計101は、マッハツェンダー型干渉導波路を有する。
【0017】
高速位相変調部102は、高周波の変調を担い、高周波信号の電気信号により光を変調する。高速位相変調部102は、pn欠乏層型位相変調器を有する。高速位相変調部102は、アームA1を伝搬する光を位相変調する変調器102aと、アームA2を伝搬する光を位相変調する変調器102bと、を有する。
【0018】
低速位相変調部103は、低周波の変調を担い、低周波信号の電気信号により光を変調する。低速位相変調部103は、pin注入型位相変調器を有する。低速位相変調部103は、アームA1を伝搬する光を位相変調する変調器103aと、アームA2を伝搬する光を位相変調する変調器103bと、を有する。
【0019】
位相補正部104は、一対のアームのアーム間におけるバランス(アームバランス)を調整する。具体的には、出力光Lbを出力する場合に出力光Lcが出力しないように、また、出力光Lcを出力する場合に出力光Lbを出力しないように、位相の調整を行う。位相補正部104は、アームA1を伝搬する光を位相補正する補正器104aと、アームA2を伝搬する光を位相補正する補正器104bと、を有する。
【0020】
図2は、第1実施形態に係る光変調回路1の光変調器100におけるマッハツェンダー干渉計101の光導波路を説明する図である。
【0021】
マッハツェンダー干渉計101は、入力側及び出力側のそれぞれに分岐比が1対1の導波路カプラ106を備える。マッハツェンダー干渉計101は、導波路カプラ106の間に、アームA1とアームA2の一対のアームを有する。
【0022】
マッハツェンダー干渉計101は、アームA1の高速位相変調部102に対応する位置に導波路107aと、アームA2の高速位相変調部102に対応する位置に導波路107bと、を有する。さらに、マッハツェンダー干渉計101は、アームA1の低速位相変調部103に対応する位置に導波路108aと、アームA2の低速位相変調部103に対応する位置に導波路108bと、を有する。
【0023】
導波路107a、導波路107b、導波路108a及び導波路108bのそれぞれは、リブ構造を有する導波路である。導波路107a、導波路107b、導波路108a及び導波路108bのそれぞれと、前後の導波路105とは、細線-リブ変換導波路で接続される。
【0024】
マッハツェンダー干渉計101のそれぞれのアームの導波路について説明する。マッハツェンダー干渉計101は、アームA1に、入力側の導波路カプラ106から出力側の導波路カプラ106まで順に導波路105、導波路107a、導波路105、導波路108a及び導波路105を有する。また、マッハツェンダー干渉計101は、アームA2に、入力側の導波路カプラ106から出力側の導波路カプラ106まで順に導波路105、導波路107b、導波路105、導波路108b及び導波路105を有する。
【0025】
マッハツェンダー干渉計101に設けられる電気配線について説明する。
図3は、第1実施形態に係る光変調回路1の光変調器100の電気配線について説明する図である。
【0026】
高速位相変調部102は、信号配線112a及び信号配線112bと、接地配線109と、を備える。信号配線112aには、バイアス印加回路202aが接続される。信号配線112bには、バイアス印加回路202bが接続される。信号配線112a及び信号配線112bのそれぞれには、高速の信号が入力される。信号配線112aと接地配線109とは、コプレーナ線路を形成する。また、信号配線112bと接地配線109とは、コプレーナ線路を形成する。
【0027】
信号配線112aと接地配線109とは、終端抵抗122aにより接続される。終端抵抗122aは、信号配線112aと接地配線109とにより形成されるコプレーナ線路とインピーダンス整合する。信号配線112bと接地配線109とは、終端抵抗122bにより接続される。終端抵抗122bは、信号配線112bと接地配線109とにより形成されるコプレーナ線路とインピーダンス整合する。
【0028】
低速位相変調部103は、信号配線113a及び信号配線113bと、接地配線133a及び接地配線133bと、を備える。信号配線113a及び信号配線113bには、差動低周波信号増幅回路203が接続される。信号配線113a及び信号配線113bのそれぞれには、低速の信号が入力される。
【0029】
信号配線113aと接地配線133aとは、マッチング抵抗123aにより接続される。信号配線113bと接地配線133bとは、マッチング抵抗123bにより接続される。マッチング抵抗123a及びマッチング抵抗123bのそれぞれは、数十オーム程度の抵抗である。
【0030】
位相補正部104は、配線114a及び配線114bと、配線134a及び配線134bと、を備える。配線114aと配線134aとは、ヒータ抵抗124aに接続する。配線114bと配線134bとは、ヒータ抵抗124bに接続する。ヒータ抵抗124a及びヒータ抵抗124bに電力が供給されることにより、ヒータ抵抗124a及びヒータ抵抗124bの近傍に設けられる導波路105が加熱される。導波路105が加熱されることにより、導波路105を伝搬する光の位相が変化する。導波路105を伝搬する光の位相を変化させることにより、アーム間のアンバランスを補正する。
【0031】
次に、光変調器100の断面形状について説明する。なお、本開示の説明においては、アームA1とアームA2とは、形状は対称であることから、アームA1について説明して、アームA2については説明を省略する。
【0032】
図4から
図10のそれぞれは、第1実施形態に係る光変調回路1の光変調器100の断面図である。具体的には、
図4は、
図3におけるA-A断面図である。
図5は、
図3におけるB-B断面図である。
図6は、
図3におけるC-C断面図である。
図7は、
図3におけるD-D断面図である。
図8は、
図3におけるE-E断面図である。
図9は、
図3におけるF-F断面図である。
図10は、
図3におけるG-G断面図である。
【0033】
図3におけるA-A断面図である
図4に示すように、光変調器100は、シリコン基板140を備える。また、光変調器100は、シリコン基板140の上に、酸化シリコン薄膜である酸化シリコン層150を有する。
【0034】
図3におけるA-A断面図である
図4に開示のように、酸化シリコン層150の内部に、信号配線112aと、接地配線109とが埋め込まれている。また、酸化シリコン層150における信号配線112aと接地配線109との間の下に、導波路105が設けられる。導波路105の横幅W1は、例えば450ナノメートルである。また、導波路105の高さh1は、例えば、220ナノメートルである。なお、酸化シリコン層150の厚さD1は、例えば、5000ナノメートルである。
【0035】
次に、
図3におけるB-B断面図である
図5について説明する。B-B断面図の部分は、高速位相変調部102の一部である。酸化シリコン層150における信号配線112aと接地配線109の下に、リブ導波路107asが設けられる。リブ導波路107asは、シリコンにより形成される。リブ導波路107asの領域RAに、伝搬光が閉じ込められる。リブ導波路107asのリブ構造の段差H2は、例えば、110ナノメートルである。また、リブ導波路107asのリブ構造の幅W2は、例えば、600ナノメートルである。
【0036】
次に、
図3におけるC-C断面図である
図6について説明する。C-C断面図の部分は、高速位相変調部102の一部である。酸化シリコン層150における信号配線112aと接地配線109の下に、n型シリコンにより形成されるn型シリコン層107anと、p型シリコンにより形成されるp型シリコン層107apと、が設けられる。すなわち、高速位相変調部102は、pn空乏層型位相変調部である。n型シリコン及びp型シリコンは、回路作成時に公知のイオン注入によって形成される。なお、n型シリコン層107an及びp型シリコン層107apにおいて、光の損失を抑えるために光閉じ込め部近傍でのイオン注入量を減らしてもよい。
【0037】
n型シリコン層107anは、信号配線112aに電気的に接続される。p型シリコン層107apは、接地配線109と電気的に接続される。p型シリコン層107apは、接地配線109を介して接地される。また、n型シリコン層107anは、信号配線112aにより正の電位が印加される。したがって、n型シリコン層107anとp型シリコン層107apとの間のpn接合には、逆バイアスが印加される。
【0038】
n型シリコン層107anとp型シリコン層107apとの間のpn接合には、逆バイアスが印加されると、pn接合部分に空乏層が生じる。空乏層が生じることにより、n型シリコン層107anとp型シリコン層107apとの接合部分にキャリア密度変化が生じる。n型シリコン層107anとp型シリコン層107apとの接合部分のキャリア密度変化に応じて、n型シリコン層107anとp型シリコン層107apとの接合部分の屈折率が変化する。したがって、n型シリコン層107an及びp型シリコン層107apにより形成されるリブ導波路を伝搬する光の位相が変調される。
【0039】
n型シリコン層107anとp型シリコン層107apへの電圧印加に対する空乏層の応答が高速であることから、高速位相変調部102において、数十ギガヘルツの高速変調ができる。
【0040】
なお、p型シリコン層107apが第1p型シリコン層の一例、n型シリコン層107anが第1n型シリコン層の一例、である。
【0041】
次に、
図3におけるD-D断面図である
図7について説明する。D-D断面図の部分は、高速位相変調部102の一部である。信号配線112aと接地配線109との下側に、終端抵抗122aが設けられる。終端抵抗122aは、例えば、窒化チタンにより形成される。なお、酸化シリコン層150における信号配線112aと接地配線109の下に、リブ導波路107asが設けられる。
【0042】
次に、
図3におけるE-E断面図である
図8について説明する。酸化シリコン層150における信号配線112aと接地配線109との間の下に、導波路105が設けられる。導波路105は、
図4における細線導波路である導波路105と同様である。
【0043】
次に、
図3におけるF-F断面図である
図9について説明する。F-F断面図の部分は、低速位相変調部103の一部である。酸化シリコン層150における信号配線112aと接地配線109の下に、n型シリコン層108anと、p型シリコン層108apと、i型シリコン層108aiと、が設けられる。n型シリコン層108anは、n型シリコンにより形成される。p型シリコン層108apは、p型シリコンにより形成される。i型シリコン層108aiは、真性半導体シリコンにより形成される。すなわち、低速位相変調部103は、pin注入型位相変調部である。なお、n型シリコン層108an、p型シリコン層108ap及びi型シリコン層108aiは、前後の105と、細線-リブ変換導波路で接続される。
【0044】
n型シリコン層108anは、接地配線133aに電気的に接続される。n型シリコン層108anは、接地配線133aを介して接地される。p型シリコン層108apは、信号配線113aと電気的に接続される。p型シリコン層108apは、信号配線113aにより正の電位が印加される。したがって、n型シリコン層108anとp型シリコン層108apとの間には、i型シリコン層108aiを介して順方向に電流が注入される。すなわち、p型シリコン層108ap、i型シリコン層108ai及びn型シリコン層108anにより構成させるpin構造には順方向の電流が注入される。
【0045】
pin構造に順方向に電流が注入されることにより、キャリアプラズマ効果によって屈折率が変化する。したがって、p型シリコン層108ap、i型シリコン層108ai及びn型シリコン層108anにより形成されるリブ導波路を伝搬する光の位相が変調される。pin型光変調回路により、200から300メガヘルツまでの変調ができる。逆バイアスによる変調よりも最大変調速度が低いが、光伝搬損失は1/10程度である。
【0046】
なお、p型シリコン層108apが第2p型シリコン層の一例、n型シリコン層108anが第2n型シリコン層の一例、である。
【0047】
次に、
図3におけるG-G断面図である
図10について説明する。G-G断面図の部分は、位相補正部104の一部である。導波路105の上側にヒータ抵抗124aが設けられる。ヒータ抵抗124aは、例えば、窒化チタンにより形成される。
【0048】
[駆動回路200]
駆動回路200は、差動高周波信号生成回路300及び差動低周波信号生成回路400からの入力される信号から駆動信号を生成して、光変調器100に出力する。また、駆動回路200は、アーム間のアンバランスを調整するヒータを駆動する信号を生成して、光変調器100に出力する。
【0049】
図1を用いて駆動回路200について説明する。駆動回路200は、差動高周波信号増幅回路201と、バイアス印加回路202a及びバイアス印加回路202bと、差動低周波信号増幅回路203と、ヒータ駆動回路204と、を備える。なお、差動高周波信号増幅回路201、バイアス印加回路202a及びバイアス印加回路202bをまとめて高周波駆動回路205という。高周波駆動回路205は、差動高周波信号生成回路300からの高周波信号を増幅し、バイアスを加える。差動高周波信号増幅回路201は、差動低周波信号生成回路400からの低周波信号を増幅する。
【0050】
図11は、差動低周波信号生成回路400からの出力信号V1の一例を示す。
図11の上のグラフは、差動信号である差動低周波信号生成回路400から出力信号V1の正側の電圧信号V1+を示す。
図11の下のグラフは、差動信号である差動低周波信号生成回路400から出力信号V1の負側の電圧信号V1-を示す。なお、縦軸は電圧、横軸は時間を表す。正側の電圧信号V1+と、負側の電圧信号V1-とは、逆位相の関係になっている。また、正側の電圧信号V1+及び負側の電圧信号V1-のそれぞれは、直流成分を含んでいる。
【0051】
図12は、差動高周波信号生成回路300からの出力信号V2の一例を示す。
図12の上のグラフは、差動信号である差動高周波信号生成回路300から出力信号V2の正側の電圧信号V2+を示す。
図12の下のグラフは、差動信号である差動高周波信号生成回路300から出力信号V2の負側の電圧信号V2-を示す。なお、縦軸は電圧、横軸は時間を表す。正側の電圧信号V2+と、負側の電圧信号V2-とは、逆位相の関係になっている。
【0052】
なお、
図11の時間軸と
図12の時間軸とは、スケールが異なる。具体的には、
図11の時間T1は、
図12の時間T2に対して1000倍である。すなわち、
図12の時間軸は、
図11の時間軸を1000倍に拡大して表示している。以下のグラフについても同様である。時間軸を示すために、それぞれのグラフに、時間T1と時間T2を示す。
【0053】
差動低周波信号増幅回路203の低域側カットオフ周波数は、周波数fL1であるとする。また、差動低周波信号増幅回路203は、直流成分から周波数fH1(ただし、周波数fH1は周波数fL1より大きい。)の帯域を有するとする。抵抗50オームの負荷に対して50ミリワット以上の大出力において、直流成分から周波数500MHzまでの増幅器は、既に市販されている。なお、第1実施形態に係る差動低周波信号増幅回路203は、一つの回路により構成されているが、差動信号の各信号を別に増幅する二つの回路を備えてもよい。
【0054】
図13は、差動低周波信号増幅回路203の出力信号を示す。
図13の上のグラフは、差動低周波信号増幅回路203から出力信号V3の正側の電圧信号V3+を示す。
図13の下のグラフは、差動低周波信号増幅回路203から出力信号V3の負側の電圧信号V3-を示す。なお、縦軸は電圧、横軸は時間を表す。
【0055】
電圧信号V3+は、低速位相変調部103の変調器103aの信号配線113aに印加される。なお、変調器103aの接地配線133aは接地される。すなわち、接地配線133aの電位は0ボルトである。また、電圧信号V3-は、低速位相変調部103の変調器103bの信号配線113bに印加される。なお、変調器103bの接地配線133bは接地される。すなわち、接地配線133bの電位は0ボルトである。電圧信号V3+及び電圧信号V3-のそれぞれのピーク・ピーク値は、電圧Vpp1である。
【0056】
pin注入型位相変調器である変調器103aは、p型シリコン層108ap側の電極の電位を、n型シリコン層108an側の電極の電位よりも高くしなければならない。
【0057】
図14は、光変調器100の光出力特性を示す。縦軸は光出力の光強度、横軸は電圧信号V3+の電圧、である。なお、信号配線112a及び信号配線112bには、0.1ボルト程度の僅かな逆バイアス電圧が印加されているとする。
【0058】
図13に示す電圧信号が印加されたときの光変調器100からの光信号波形を
図15に示す。縦軸は出力光Lbの光強度、横軸は時間、である。線Lb1は、出力光Lbの波形を示す。
【0059】
図16は、バイアス印加回路202aの出力信号V4+及びバイアス印加回路202bの出力信号V4-の一例を示す。
図16の上のグラフは、バイアス印加回路202aの出力信号V4+を示す。
図16の下のグラフは、バイアス印加回路202bの出力信号V4-を示す。なお、縦軸は電圧、横軸は時間を表す。
【0060】
バイアス印加回路202a及びバイアス印加回路202bのそれぞれは、例えば、バイアスTである。したがって、出力信号V4+及び出力信号V4-のそれぞれには、バイアス電位Vsが加えられる。出力信号V4+及び出力信号V4-のそれぞれのピーク・ピーク値は、電圧Vpp2である。
【0061】
出力信号V4+は、信号配線112aを介して、n型シリコン層107anに印加される。p型シリコン層107apは、接地配線109を介して接地されている。したがって、p型シリコン層107apは電位が0ボルトである。出力信号V4-は、信号配線112bを介して、変調器102bのn型シリコン層に印加される。
【0062】
図17は、光変調器100の光出力特性を示す。縦軸は光出力の光強度、横軸は出力信号V4+と出力信号V4-との差分、である。このとき、信号配線113a及び信号配線113bは0.1ボルト程度の僅かな順方向バイアス電圧が印加されているとする。この光出力特性は、配線114a及び配線114bのそれぞれへの注入電流を変えることで、図中の矢印に示すように調整できる。
【0063】
図16に示す電圧信号が印加されたときの光変調器100からの光信号波形を
図18に示す。縦軸は出力光Lbの光強度、横軸は時間、である。線Lb2は、出力光Lbの波形を示す。
【0064】
ヒータ駆動回路204は、ヒータ抵抗124a及びヒータ抵抗124bのそれぞれに電流を供給する。ヒータ抵抗124a及びヒータ抵抗124bのそれぞれは、ヒータ駆動回路204から電流が供給されることにより発熱する。ヒータ抵抗124a及びヒータ抵抗124bのそれぞれの発熱量がヒータ駆動回路204により適切に調整されることにより、アームバランスが調整され、出力光のバイアスが調整される。
【0065】
次に、低周波信号を信号配線113a及び信号配線113bに、高周波信号を信号配線112a及び信号配線112bに、位相を合わせて同時に入力し、適切に配線114a及び配線114bに電流を供給して動作点を制御した場合の光出力を
図19に示す。縦軸は出力光Lbの光強度、横軸は時間、である。線Lb3は、出力光Lbの波形を示す。
図19のように、光変調器100から、高周波信号及び低周波信号に基づく、出力光Lbが出力される。
【0066】
なお、高周波駆動回路205が第1駆動回路の一例、差動低周波信号増幅回路203が第2駆動回路の一例、ヒータ駆動回路204がバイアス調整回路の一例、である。
【0067】
<作用・効果>
第1実施形態に係る光変調回路1によれば、直流成分から高速の周波数成分(10ギガヘルツ以上)を含む超広帯域光パケット信号、光バースト信号などを生成することができる。第1実施形態に係る光変調回路1は、単一の光変調器を利用するので、多段の光変調器を用いる広帯域光変調回路よりも余分な接続が不要であるため小型かつ低損失な広帯域光変調回路を実現できる。
【0068】
第1実施形態に係る光変調回路1は、概ね200メガヘルツ程度までの変調にはpin注入型位相変調部を利用して低損失化できる。また、第1実施形態に係る光変調回路1は、pn空乏層型位相変調部の利用により200メガヘルツを超える変調ができる。
【0069】
第1実施形態に係る光変調回路1は、同時にpin注入型位相変調部とpn空乏層型位相変調部を駆動することで、直流成分から10ギガヘルツ以上の広帯域光信号を生成することができる。また、第1実施形態に係る光変調回路1は、pin注入型位相変調部とpn空乏層型位相変調部を近接して備えることから、複数の駆動信号の位相同期が容易になり、ワンダの発生も抑制できる。
【0070】
<<第2実施形態>>
<光変調回路2>
第2実施形態に係る光変調回路2は、第1実施形態に係る光変調回路1に対して、入力される信号と、入力された信号を処理する駆動回路が異なる。
【0071】
図20は、第2実施形態に係る光変調回路2の構成例を示す図である。光変調回路2は、光変調回路1の駆動回路200に換えて、駆動回路200Aを備える。駆動回路200Aは、駆動回路200の構成に加えて更に周波数分離回路209を備える。
【0072】
光変調回路2には、広帯域信号発生器350から低周波信号と高周波信号が加算された広帯域信号が入力される。周波数分離回路209は、広帯域信号発生器350から入力された広帯域信号を、低周波信号と高周波信号に分離する。そして、周波数分離回路209は、分離した低周波信号及び高周波信号を、それぞれ差動低周波信号増幅回路203及び差動高周波信号増幅回路201に入力する。
【0073】
周波数分離回路209は、例えば、ローパスフィルタとハイパスフィルタを並列に接続して、ローパスフィルタの広域カットオフ周波数とハイパスフィルタの低域カットオフ周波数を一致させて構成することができる。
【0074】
第2実施形態に係る光変調回路2は、第1実施形態に係る光変調回路1に対して、低周波信号と高周波信号の生成方法が異なるが、第1実施形態に係る光変調回路1と同様の動作をし、同様の作用・効果を有する。
【0075】
以上、光変調回路を実施形態により説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0076】
1、2 光変調回路
100 光変調器
101 マッハツェンダー干渉計
102 高速位相変調部
102a、102b 変調器
103 低速位相変調部
103a、103b 変調器
104 位相補正部
104a、104b 補正器
105 導波路
106 導波路カプラ
107a、107b 導波路
107an n型シリコン層
107ap p型シリコン層
108a、108b 導波路
108ai i型シリコン層
108an n型シリコン層
108ap p型シリコン層
109 接地配線
112a、112b 信号配線
113a、113b 信号配線
114a、114b 配線
124a、124b ヒータ抵抗
133a、133b 接地配線
134a、134b 配線
200、200A 駆動回路
201 差動高周波信号増幅回路
202a、202b バイアス印加回路
203 差動低周波信号増幅回路
204 ヒータ駆動回路
205 高周波駆動回路
209 周波数分離回路
300 差動高周波信号生成回路
350 広帯域信号発生器
400 差動低周波信号生成回路
A1、A2 アーム