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特開2023-47975処理システム、処理装置、処理方法、処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047975
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】処理システム、処理装置、処理方法、処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/00 20220101AFI20230330BHJP
   G06N 99/00 20190101ALI20230330BHJP
【FI】
G06N10/00
G06N99/00 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157193
(22)【出願日】2021-09-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名:Adiabatic Quantum Computing Conference 2021(AQC2021) ウェブサイトの掲載日:令和3年5月27日 ウェブサイトのアドレス: https://aqc2021.org/ https://aqc2021.org/poster.html https://aqc2021.org/poster_abstract/day1/a/Tadashi_Kadowaki.pdf ウェブサイトの掲載日:令和3年6月15日 ウェブサイトのアドレス: https://aqc2021.org/ https://aqc2021.org/poster.html https://aqc2021.org/poster2/a/A2.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】門脇 正史
(72)【発明者】
【氏名】西森 秀稔
(57)【要約】
【課題】アニーリング時間短縮と最適解高精度出力の両立。
【解決手段】プロセッサは、最適化するコスト関数と、コスト関数に対する直交磁場成分の横磁場関数と、それら関数に対する直交磁場成分の直交磁場関数との各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理を実行するように構成される。最適化処理は、最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させての最終状態に対する評価指標が最適となる量子ビットを、変動に従う勾配に基づき抽出することと、抽出の量子ビットの最適値となる強度パラメータを勾配に応じて決定することと、全量子ビットに関して決定の強度パラメータ集合の写像により最適解を出力することを含む。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理システムであって、プロセッサ(12)を有し、
前記プロセッサは、
前記組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、前記コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、前記コスト関数及び前記横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
前記組み合わせ最適化問題の最適解を構成する前記2値変数に対応した前記量子ビット毎に、前記直交磁場関数の前記寄与度の最適値を前記アニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を実行するように構成され、
前記最適化処理は、
最適化前の前記量子ビットに関して前記直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させた前記アニーリング処理での前記最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる前記量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された前記量子ビットの前記最適値となる前記強度パラメータを、前記勾配に応じて決定することと、
全ての前記量子ビットに関して決定された前記強度パラメータの集合を写像することにより、前記最適解を出力することと、を含む処理システム。
【請求項2】
前記最適化処理は、
前記評価指標として前記最終状態のエネルギー値が最適となる前記量子ビットを、抽出することを、含む請求項1に記載の処理システム。
【請求項3】
前記最適化処理は、
最適化前の前記量子ビットに関して0値に初期化した前記強度パラメータをさらに変動させた場合での前記評価指標が最適となる前記量子ビットを、抽出すること、を含む請求項1又は2に記載の処理システム。
【請求項4】
記憶媒体(10)を有し、
前記最適化処理は、
前記最適解を前記記憶媒体に記憶すること、をさらに含む請求項1~3のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項5】
前記アニーリング処理は、
前記コスト関数と前記横磁場関数と前記直交磁場関数との全ハミルトニアンに対する波動関数の前記最終状態を、前記量子アニーリングによる前記全ハミルトニアンの時間制御に基づき取得すること、を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項6】
前記アニーリング処理は、
前記コスト関数の寄与度を、時間経過に従って0値から終値へ増大させることと、
前記横磁場関数の寄与度を、時間経過に従って始値から0値へ減少させることと、
前記直交磁場関数の寄与度を、時間経過に従って0値から前記最大値へ増大させた後、時間経過に従って0値へ減少させることと、を含む請求項5に記載の処理システム。
【請求項7】
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理装置であって、プロセッサ(12)を有し、
前記プロセッサは、
前記組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、前記コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、前記コスト関数及び前記横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
前記組み合わせ最適化問題の最適解を構成する前記2値変数に対応した前記量子ビット毎に、前記直交磁場関数の前記寄与度の最適値を前記アニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を実行するように構成され、
前記最適化処理は、
最適化前の前記量子ビットに関して前記直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させた前記アニーリング処理での前記最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる前記量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された前記量子ビットの前記最適値となる前記強度パラメータを、前記勾配に応じて決定することと、
全ての前記量子ビットに関して決定された前記強度パラメータの集合を写像することにより、前記最適解を出力することと、を含む処理装置。
【請求項8】
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理装置であって、プロセッサ(12)を有し、
前記組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、前記コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、前記コスト関数及び前記横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御する処理を、アニーリング処理と定義すると、
前記プロセッサは、
前記組み合わせ最適化問題の最適解を構成する前記2値変数に対応した前記量子ビット毎に、前記直交磁場関数の前記寄与度の最適値を前記アニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理として、
最適化前の前記量子ビットに関して前記直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させた前記アニーリング処理での前記最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる前記量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された前記量子ビットの前記最適値となる前記強度パラメータを、前記勾配に応じて決定することと、
全ての前記量子ビットに関して決定された前記強度パラメータの集合を写像することにより、前記最適解を出力することと、
を含む最適化処理を、実行するように構成される処理装置。
【請求項9】
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために、プロセッサ(12)により実行される処理方法であって、
前記組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、前記コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、前記コスト関数及び前記横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
前記組み合わせ最適化問題の最適解を構成する前記2値変数に対応した前記量子ビット毎に、前記直交磁場関数の前記寄与度の最適値を前記アニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を実行し、
前記最適化処理は、
最適化前の前記量子ビットに関して前記直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させた前記アニーリング処理での前記最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる前記量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された前記量子ビットの前記最適値となる前記強度パラメータを、前記勾配に応じて決定することと、
全ての前記量子ビットに関して決定された前記強度パラメータの集合を写像することにより、前記最適解を出力することと、を含む処理方法。
【請求項10】
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために、プロセッサ(12)により実行される処理方法であって、
前記組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、前記コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、前記コスト関数及び前記横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御する処理を、アニーリング処理と定義すると、
前記組み合わせ最適化問題の最適解を構成する前記2値変数に対応した前記量子ビット毎に、前記直交磁場関数の前記寄与度の最適値を前記アニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理として、
最適化前の前記量子ビットに関して前記直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させた前記アニーリング処理での前記最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる前記量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された前記量子ビットの前記最適値となる前記強度パラメータを、前記勾配に応じて決定することと、
全ての前記量子ビットに関して決定された前記強度パラメータの集合を写像することにより、前記最適解を出力することと、
を含む最適化処理を、実行する処理方法。
【請求項11】
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために記憶媒体(10)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む処理プログラムであって、
前記組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、前記コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、前記コスト関数及び前記横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
前記組み合わせ最適化問題の最適解を構成する前記2値変数に対応した前記量子ビット毎に、前記直交磁場関数の前記寄与度の最適値を前記アニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を前記命令により実行させ、
前記最適化処理は、
最適化前の前記量子ビットに関して前記直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させた前記アニーリング処理での前記最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる前記量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された前記量子ビットの前記最適値となる前記強度パラメータを、前記勾配に応じて決定することと、
全ての前記量子ビットに関して決定された前記強度パラメータの集合を写像することにより、前記最適解を出力することと、を含む処理プログラム。
【請求項12】
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために記憶媒体(10)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む処理プログラムであって、
前記組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、前記コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、前記コスト関数及び前記横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御する処理を、アニーリング処理と定義すると、
前記組み合わせ最適化問題の最適解を構成する前記2値変数に対応した前記量子ビット毎に、前記直交磁場関数の前記寄与度の最適値を前記アニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理として、
最適化前の前記量子ビットに関して前記直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させた前記アニーリング処理での前記最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる前記量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された前記量子ビットの前記最適値となる前記強度パラメータを、前記勾配に応じて決定することと、
全ての前記量子ビットに関して決定された前記強度パラメータの集合を写像することにより、前記最適解を出力することと、
を含む最適化処理を、前記命令により実行させる処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
組み合わせ最適化問題を解くための処理技術として、2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングが、例えば非特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Tadashi Kadowaki and Hidetoshi Nishimori, "Quantum annealing in the transverse Ising model." Phys. Rev. E 58, 5355 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1のように横磁場を時間変動させるに留まる量子アニーリングの場合、短いアニーリング時間の中で最適解を高精度に出力するには、限界があった。
【0005】
本開示の課題は、アニーリング時間の短縮と最適解の高精度出力とを両立させる処理システムを、提供することにある。本開示の別の課題は、アニーリング時間の短縮と最適解の高精度出力とを両立させる処理装置を、提供することにある。本開示のまた別の課題は、アニーリング時間の短縮と最適解の高精度出力とを両立させる処理方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、アニーリング時間の短縮と最適解の高精度出力とを両立させる処理プログラムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理システムであって、プロセッサ(12)を有し、
プロセッサは、
組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、コスト関数及び横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
組み合わせ最適化問題の最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を実行するように構成され、
最適化処理は、
最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを、勾配に応じて決定することと、
全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することにより、最適解を出力することと、を含む。
【0008】
本開示の第二態様は、
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理装置であって、プロセッサ(12)を有し、
プロセッサは、
組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、コスト関数及び横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
組み合わせ最適化問題の最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を実行するように構成され、
最適化処理は、
最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを、勾配に応じて決定することと、
全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することにより、最適解を出力することと、を含む。
【0009】
本開示の第三態様は、
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理装置であって、プロセッサ(12)を有し、
組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、コスト関数及び横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御する処理を、アニーリング処理と定義すると、
プロセッサは、
組み合わせ最適化問題の最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理として、
最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを、勾配に応じて決定することと、
全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することにより、最適解を出力することと、
を含む最適化処理を、実行するように構成される。
【0010】
本開示の第四態様は、
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために、プロセッサ(12)により実行される処理方法であって、
組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、コスト関数及び横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
組み合わせ最適化問題の最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を実行し、
最適化処理は、
最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを、勾配に応じて決定することと、
全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することにより、最適解を出力することと、を含む。
【0011】
本開示の第五態様は、
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために、プロセッサ(12)により実行される処理方法であって、
組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、コスト関数及び横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御する処理を、アニーリング処理と定義すると、
組み合わせ最適化問題の最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理として、
最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを、勾配に応じて決定することと、
全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することにより、最適解を出力することと、
を含む最適化処理を、実行する。
【0012】
本開示の第六態様は、
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために記憶媒体(10)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む処理プログラムであって、
組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、コスト関数及び横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理と、
組み合わせ最適化問題の最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理と、を命令により実行させ、
最適化処理は、
最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを、勾配に応じて決定することと、
全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することにより、最適解を出力することと、を含む。
【0013】
本開示の第七態様は、
2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために記憶媒体(10)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む処理プログラムであって、
組み合わせ最適化問題において最適化するコスト関数と、コスト関数に対して直交する磁場成分を定義する横磁場関数と、コスト関数及び横磁場関数に対して直交する磁場成分を定義する直交磁場関数との、各寄与度を個別に時間制御する処理を、アニーリング処理と定義すると、
組み合わせ最適化問題の最適解を構成する2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数の寄与度の最適値をアニーリング処理での最終状態に基づき逐次決定する最適化処理として、
最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットを、当該変動に従う勾配に基づき抽出することと、
抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを、勾配に応じて決定することと、
全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することにより、最適解を出力することと、
を含む最適化処理を、命令により実行させる。
【0014】
これら第一~第七態様の最適化処理では、コスト関数と横磁場関数と直交磁場関数との各寄与度を個別に時間制御するアニーリング処理での最終状態に基づくことで、2値変数に対応した量子ビット毎に直交磁場関数の寄与度の最適値が逐次決定される。そこで第一~第七態様の最適化処理によると、最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数の最大値を与える強度パラメータを変動させたアニーリング処理での最終状態に対して、評価を与える評価指標が最適となる量子ビットは、当該変動に従う勾配に基づき抽出される。
【0015】
これによれば、アニーリング処理でのアニーリング時間を短縮しても、抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータを勾配に応じて逐次決定していくことで、組み合わせ最適化問題の解空間は絞り込まれ得る。故に、全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータの集合を写像することで、最適解を高精度に出力することができる。こうしたことから、アニーリング時間の短縮と最適解の高精度出力とを両立させることが、可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態による処理システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態による処理システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態のアニーリング処理を説明するための時間遷移図である。
図4】一実施形態のアニーリング処理を説明するためのグラフである。
図5】一実施形態の最適化処理を説明するための表である。
図6】一実施形態の最適化処理を説明するためのグラフである。
図7】一実施形態の最適化処理を説明するための表である。
図8】一実施形態の最適化処理を説明するための表である。
図9】一実施形態の最適化処理を説明するための表である。
図10】一実施形態による処理方法を示すシーケンスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0018】
図1に示す一実施形態の処理システム1は、2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くための量子コンピューティングシステムである。処理システム1は、少なくとも一つの専用コンピュータとして、量子ビットによる演算を実行する量子コンピュータを、含んで構成されている。処理システム1は、専用コンピュータとして古典ビットによる演算を実行する古典コンピュータを、量子コンピュータと組み合わせて含んでいてもよい。このように処理システム1の必須構成要素となる量子コンピュータは、本実施形態では量子アニーリング方式を実現する量子アニーリングマシンであって、例えばNISQ(noisy intermediate scale quantum)デバイス等であってもよい。
【0019】
処理システム1を構成する専用コンピュータは、メモリ10及びプロセッサ12を、少なくとも一つずつ有している。メモリ10は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ12は、量子アニーリング方式を実現可能な量子プロセシングユニット(quantum processing unit)を、コアとして含んでいる。処理システム1を構成する専用コンピュータが量子コンピュータと古典コンピュータとの組み合わせによって構成される場合のプロセッサ12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも一種類をコアとして含んでいてもよい。
【0020】
処理システム1においてプロセッサ12は、2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解くためにメモリ10に記憶された、少なくとも一つの処理プログラムに含まれる複数の命令を実行する。これによりプロセッサ12は、量子アニーリングを制御して組み合わせ最適化問題を解くための機能ブロックを、複数構築する。処理システム1において構築される複数の機能ブロックには、図2に示すようにアニーリングブロック100、及び最適化ブロック110が含まれている。
【0021】
アニーリングブロック100は、量子コンピュータにおけるプロセッサ12及びメモリ10の組、古典コンピュータにおけるプロセッサ12及びメモリ10の組、又はそれらの組の共同により実現される。アニーリングブロック100は、量子アニーリング方式のアニーリング処理を実行する。具体的に本実施形態のアニーリングブロック100は、図3に示すコスト関数Hと横磁場関数Hと直交磁場関数Hとの、各寄与度をそれぞれ個別に時間制御するように、アニーリング処理を実行する。以下、アニーリングブロック100によるアニーリング処理を、QA(quantum annealing)処理という。
【0022】
QA処理は、組み合わせ最適化問題の2値変数を量子ビットに対応付けた、イジングモデル(即ち、スピングラスモデル)に基づく。QA処理は、数1により表されるようにコスト関数Hと横磁場関数Hと直交磁場関数Hとを結合した、全ハミルトニアンHを想定する。数1においてtは、QA処理における経過時間であって、図3,4に示すように本実施形態では0~1の数値範囲において変動する。
【数1】
【0023】
コスト関数Hは、全ハミルトニアンHの図3に示すz方向成分として、定義される。コスト関数Hzは、組み合わせ最適化問題において最適化により収束させる関数として、数2により表される。数2においてσ ,σ は、組み合わせが最適化されるインデックスi,jの量子ビット対に対応する、z方向成分のパウリ行列である。数2においてJijは、組み合わせ最適化問題の重み行列wijを用いた数3により表される、結合定数である。特に本実施形態の結合定数Jijは、組み合わせ最適化問題に対してSK(sherrington kirkpatrick)モデルに基づく相互作用を適用するように、数4,5を満たす確率変数として規定される。ここで数5においてNは、2値変数の個数に対応した量子ビットの個数であって、コスト関数Hzを構成するスピン数である。このようなコスト関数Hzを用いる組み合わせ最適化問題では、N個の量子ビットに関する2の組み合わせが最適化されることになる。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0024】
数1においてコスト関数Hに作用する係数関数A(t)は、コスト関数Hを個別に時間制御するための図3に示す如き時間関数として、数6により表される。数6においてtは、数1と同様な経過時間である。数6においてτは、QA処理の開始から終了までのアニーリング時間であって、本実施形態では数値1に単純化される。数6においてaは、係数関数A(t)の最大値を与えるための強度パラメータであって、本実施形態では数値1に単純化される。
【数6】
【0025】
横磁場関数Hは、全ハミルトニアンHの図3に示すx方向成分として、定義される。横磁場関数Hは、z方向のコスト関数Hに対して直交するx方向の一様磁場成分を表す量子ゆらぎの関数として、数7により表される。数7においてσ は、組み合わせが最適化されるインデックスiの量子ビットに対応する、x方向成分のパウリ行列である。
【数7】
【0026】
数1において横磁場関数Hに作用する係数関数B(t)は、横磁場関数Hを個別に時間制御するための図3に示す如き時間関数として、数8により表される。数8においてtは、数1と同様な経過時間である。数8においてτは、数6と同様なアニーリング時間である。数8においてbは、係数関数B(t)の最大値を与えるための強度パラメータであって、本実施形態では実証実験によって事前検証された、例えば0.43等の最適パラメータに規定される。
【数8】
【0027】
直交磁場関数Hは、全ハミルトニアンHの図3に示すy方向成分として、定義される。直交磁場関数Hは、z方向のコスト関数Hとx方向の横磁場関数Hとの双方に対して直交するy方向の非一様磁場成分を表す関数として、数9により表される。数9においてσ は、組み合わせが最適化されるインデックスiの量子ビットに対応する、y方向成分のパウリ行列である。
【数9】
【0028】
数9において直交磁場関数Hを構成する係数関数C(t)は、インデックスiの量子ビットに対して直交磁場関数Hを個別に時間制御するための図3に示す如き時間関数として、数10により表される。数10においてtは、数1と同様な経過時間である。数10においてτは、数6と同様なアニーリング時間である。数10においてcは、インデックスiの量子ビットに対して係数関数C(t)の最大値を与えるための強度パラメータであって、本実施形態では最適化ブロック110によって後に詳述の如く設定される。
【数10】
【0029】
QA処理は、このように想定した全ハミルトニアンHの量子アニーリングによる時間制御に基づくことで、全ハミルトニアンHに対する波動関数ψの図3に示す最終状態ψ_fを取得する。QA処理における全ハミルトニアンHの時間制御の下で、数11により表されるシュレディンガー方程式に従って時間t=1での最終状態ψ_fが取得される。
【数11】
【0030】
ここで、図3,4に示すようにQA処理における時間制御は、全ハミルトニアンHに対してコスト関数Hの寄与度といえる係数関数A(t)を、時間tの経過に従って0値から終値へ漸次増大させる。特に本実施形態の時間制御は、終値となる強度パラメータaの設定値まで係数関数A(t)の出力値を、経過時間tに対して比例増大させる。それと共にQA処理における時間制御は、全ハミルトニアンHに対して横磁場関数Hの寄与度といえる係数関数B(t)を、時間tの経過に従って始値から0値へ減少させる。特に本実施形態の時間制御は、始値となる強度パラメータbの設定値から係数関数B(t)の出力値を、経過時間tに対して比例減少させる。さらにQA処理における時間制御は、全ハミルトニアンHに対して直交磁場関数Hの寄与度といえる係数関数C(t)を、時間tの経過に従って0値から最大値へ増大させた後、時間tの経過に従って0値へと減少させる。特に本実施形態の時間制御は、インデックスiの量子ビットに対して最大値となる強度パラメータcの設定値まで、経過時間tの中間点において振幅するように、係数関数C(t)の出力値を正弦関数の二乗に比例変動させる。
【0031】
図2に示す最適化ブロック110は、量子コンピュータにおけるプロセッサ12及びメモリ10の組、古典コンピュータにおけるプロセッサ12及びメモリ10の組、又はそれらの組の共同により実現される。最適化ブロック110は、2値変数の組み合わせ最適化問題を解くために、当該問題の解空間を絞り込む最適化処理を実行する。具体的に最適化ブロック110は、組み合わせ最適化問題の2値変数に対応した量子ビット毎に、直交磁場関数Hの寄与度の最適値をQA処理での最終状態ψ_fに基づき逐次決定するように、最適化処理を実行する。以下、最適化ブロック110による組み合わせ最適化処理を、QGO(quantum greedy optimization)処理という。
【0032】
QGO処理は、2の組み合わせを最適化するN個の量子ビット、即ちインデックスi=1~Nの整数である最適化前の全ての量子ビットに関して、直交磁場関数Hの最大値を与える強度パラメータcをいずれも、数12により表される基準強度パラメータci_bに初期化する。このとき各基準強度パラメータci_bは、本実施形態ではいずれも図5に示すように0値に設定される。尚、図5及び後述の図6~9は、N=8(即ち、i=1~8の整数)の場合を例示している。
【数12】
【0033】
QGO処理は、最適化前の量子ビット毎にインデックスiの対応する強度パラメータcとして、数13により表されるように基準強度パラメータci_bに対して微小量Δ分の変動を与えた変動強度パラメータci_fを、基準強度パラメータci_bとは別に設定する。これは、基準強度パラメータci_bが0値に初期化されるQGO処理では、実質的に変動強度パラメータci_f=Δの設定が図5の如く実行されることを、意味する。そこで特に本実施形態の微小量Δは、実証実験によって事前検証された、例えば0.1等の最適量に設定される。
【数13】
【0034】
QGO処理は、強度パラメータcを初期化した基準強度パラメータci_bと、当該基準強度パラメータci_bをさらに微小変動させた変動強度パラメータci_fとに基づき、感度分析サブルーチンを繰り返し実行する。この感度分析サブルーチンにおいて基準強度パラメータci_b及び変動強度パラメータci_fは、図2に示すように、最適化ブロック110のQGO処理からアニーリングブロック100のQA処理へと引き渡される。
【0035】
感度分析サブルーチンによる引き渡しに応じてアニーリングブロック100では、図5の如く最適化前の量子ビット毎に、インデックスiの対応する変動強度パラメータci_fとインデックスiの対応しない基準強度パラメータci_bとを含む全ハミルトニアンHに関して、量子アニーリングによるQA処理が実行される。その結果、全ハミルトニアンHに対する波動関数ψの最終状態ψ_fとして分析最終状態ψi_fが、最適化前の量子ビット毎に個別に取得される。それと共にアニーリングブロック100では、図5の如く最適化前の全ての量子ビットに共通に、全インデックスiの基準強度パラメータci_bを含む全ハミルトニアンHに関して、量子アニーリングによるQA処理が実行される。その結果、全ハミルトニアンHに対する波動関数ψの最終状態ψ_fとして基準最終状態ψb_fが、最適化前の全ての量子ビットに共通に取得される。
【0036】
QGO処理の感度分析サブルーチンにおいて分析最終状態ψi_f及び基準最終状態ψb_fは、図2に示すように、アニーリングブロック100からのQA処理の測定データとして最適化ブロック110により取得される。ここで、パラメータci_f,ci_bの引き渡しと最終状態ψi_f,ψb_fの取得とは、それぞれ最適化前の量子ビットに同時的となる一回ずつ、実行されてもよい。パラメータci_f,ci_bのうち最適化前の量子ビット毎に必要なパラメータ(図5参照)の引き渡しと最終状態ψi_fの取得とは、最適化前の量子ビット毎に一回ずつ交互に実行され、最適化前の量子ビット毎とは別の回として、パラメータci_bの引き渡しと最終状態ψb_fの取得とがそれぞれ一回ずつ実行されてもよい。いずれの場合でも、最適化前の量子ビット毎での最終状態ψi_f及びそれら量子ビットに共通な最終状態ψb_fが、全測定データとして取得されると、QGO処理の感度分析サブルーチンが再開される。
【0037】
QGO処理の感度分析サブルーチンでは、取得した分析最終状態ψi_fに対して最適化前の量子ビット毎に図5の如く個別の評価を与える評価指標Fとして、分析評価指標Fが定義される。特に本実施形態の分析評価指標Fは、最適化前の量子ビット毎に強度パラメータcを個別に変動させた場合における分析最終状態ψi_fの、数14により表されるエネルギー値に規定される。それと共に感度分析サブルーチンでは、取得した基準最終状態ψb_fに対して図5の如く最適化前の全ての量子ビットに共通な基準の評価を与える評価指標Fとして、基準評価指標Fが定義される。特に本実施形態の基準評価指標Fは、分析評価指標Fに準じて数15により表される、基準最終状態ψb_fのエネルギー値に規定される。
【数14】
【数15】
【0038】
QGO処理の感度分析サブルーチンでは、最適化前の全ての量子ビットのうち、インデックスiの対応する分析評価指標Fが最適となる1量子ビットを抽出するように、最適化演算が実行される。ここで、強度パラメータcの個別変動に従って分析評価指標F及び基準評価指標Fの間に生じる勾配gは、当該個別変動の微小量Δを用いた数16により最適化前の量子ビット毎に表される。そこで最適化演算は、本実施形態では分析評価指標Fであるエネルギー値に関しての勾配gに基づいた数17に従うことで、最適化前の全ての量子ビットのうち当該勾配gの絶対値が最大となる量子ビットを、抽出する。尚、数17は、分析評価指標Fが最適な量子ビットのインデックスを最適化演算後にiとして扱うため、それとは区別可能に最適化演算前のインデックスiを、形式的にk,mを用いて表記している。
【数16】
【数17】
【0039】
QGO処理の感度分析サブルーチンでは、分析評価指標Fが最適な量子ビットに関する強度パラメータcの最適値として、図6に示すように当該最適量子ビットに対応する分析評価指標Fの勾配gに応じて、数18を満たす最適強度パラメータci_oが決定される。ここで数18におけるcは、N個全ての量子ビットに共通な定数パラメータとして、特に本実施形態では実証実験によって事前検証された、例えばπ/2(即ち、1.57)等の最適パラメータに設定される。
【数18】
【0040】
QGO処理の感度分析サブルーチンは、最適値としての最適強度パラメータci_oを決定する毎に、アニーリングブロック100によるQA処理への引き渡し対象を図7~9に示すように変更して、繰り返される。即ち2回目以降の感度分析サブルーチンでは、前回以前の感度サブルーチンにより最適化済の全ての最適量子ビットについては、インデックスiの対応する基準強度パラメータci_bに代えて、インデックスiの対応する最適強度パラメータci_oが引き渡される。このとき分析最終状態ψi_fを取得するQA処理では、最適量子ビットを除く最適化前の量子ビット毎にインデックスiの対応しない基準強度パラメータci_bであって、最適強度パラメータci_oにはインデックスiの対応する基準強度パラメータci_bが、当該最適強度パラメータci_oへ置換される。それと共に基準状態ψi_bを取得するQA処理では、最適強度パラメータci_oにインデックスiの対応する基準強度パラメータci_bが、当該最適強度パラメータci_oへ置換される。
【0041】
ここで、パラメータci_f,ci_b,ci_oの引き渡しと最終状態ψi_f,ψb_fの取得とは、それぞれ最適化前の量子ビットに同時的となる一回ずつ、実行されてもよい。パラメータci_f,ci_b,ci_oのうち最適化前の量子ビット毎に必要なパラメータ(図7~9参照)の引き渡しと最終状態ψi_fの取得とは、最適化前の量子ビット毎に一回ずつ交互に実行され、最適化前の量子ビット毎とは別の回として、パラメータci_b,ci_oの引き渡しと最終状態ψb_fの取得とがそれぞれ一回ずつ実行されてもよい。いずれの場合でも、最適化前の量子ビット毎での最終状態ψi_f及びそれら量子ビットに共通な最終状態ψb_fが、全測定データとして取得されると、QGO処理の2回目以降の感度分析サブルーチンが再開される。
【0042】
こうしたQA処理の測定データを受ける2回目以降の感度分析サブルーチンでは、最適量子ビットを除く最適化前の残り量子ビットの中から、分析評価指標Fの最適量子ビットに関する最適強度パラメータci_oが勾配gに基づき決定される。尚、図7は、図6に示す2回目の感度分析サブルーチンに対応して、図6に示す1回目の感度分析サブルーチンによりインデックス=8の量子ビットが最適量子ビットとなった後のQGO処理を、例示している。また図8は、図6に示す3回目の感度分析サブルーチンに対応して、図6に示す1,2回目の感度分析サブルーチンによりそれぞれインデックス=8及び6の量子ビットが最適量子ビットとなった後のQGO処理を、例示している。さらに図9は、図6に示す8回目の感度分析サブルーチンに対応して、図6に示す1~7回目の感度分析サブルーチンによりインデックスi=5以外の量子ビットが最適量子ビットとなった後のQGO処理を、例示している。
【0043】
QGO処理は、図6に示すように量子ビット数Nと一致した回数分、感度分析サブルーチンを繰り返すことで、最適値となる最適強度パラメータci_oをN個全ての量子ビットに関して決定する。こうして全ての量子ビットに関する最適強度パラメータci_oを決定後のQGO処理は、それら最適強度パラメータci_oの集合を数19により組み合わせ最適化問題の解へと写像することで、当該組み合わせ最適化問題の最適解OAを出力する。このときQGO処理は、出力した最適解OAをメモリ10に記憶する。ここで記憶とは、処理システム1のオフによってもデータが保持されるものであってもよいし、処理システム1のオフによってデータが消去されるものであってもよい。
【数19】
【0044】
ここまで説明したブロック100,110の共同により、処理システム1が2値変数に対応した量子ビットを有する量子アニーリングを制御して、当該2値変数の組み合わせ最適化問題を解く処理方法は、図10に示すシーケンスチャートに従って実行される。本シーケンスチャートは、例えば処理システム1のオペレータからの指令等に応じて、実行される。尚、シーケンスチャートにおける各「S」は、少なくとも一つの処理プログラムに含まれた複数命令によって実行される複数ステップを、それぞれ意味している。
【0045】
QGO処理のS10において最適化ブロック110は、最適化前の全ての量子ビットに関する強度パラメータcを、いずれも基準強度パラメータci_bに初期化する。QGO処理のS11において最適化ブロック110は、最適化前の量子ビット毎に基準強度パラメータci_bをさらに変動させた変動強度パラメータci_fを、設定する。QGO処理のS12において最適化ブロック110は、S120~S127を含む感度分析サブルーチンを、繰り返し実行する。
【0046】
具体的に感度分析サブルーチンのS120において最適化ブロック110は、基準強度パラメータci_b及び変動強度パラメータci_fをアニーリングブロック100へ引き渡す。この引き渡しに応じて感度分析サブルーチンの実行は、アニーリングブロック100から全測定データを受信するまで待機される。
【0047】
全測定データの引き渡しに応じて開始されるQA処理のS20においてアニーリングブロック100は、最適化前の量子ビット毎に個別となる分析最終状態ψi_fを、量子アニーリングにより取得する。それと共にS20においてアニーリングブロック100は、最適化前の量子ビットに共通となる基準最終状態ψb_fを、分析最終状態ψi_fの取得とは別の量子アニーリングにより取得する。QA処理のS21においてアニーリングブロック100は、分析最終状態ψi_f及び基準最終状態ψb_fを測定データとして最適化ブロック110へと送信する。
【0048】
ここで、S120によるパラメータci_f,ci_bの引き渡しとS20,S21による最終状態ψi_f,ψb_fの取得から送信とは、それぞれ最適化前の量子ビットに同時的となる一回ずつ、実行されてもよい。S120によるパラメータci_f,ci_bのうち最適化前の量子ビット毎に必要なパラメータの引き渡しとS20,S21による最終状態ψi_fの取得から送信とは、最適化前の量子ビット毎に一回ずつ交互に実行され、それら最適化前の量子ビット毎とは別の回として、S120によるパラメータci_bの引き渡しとS20,S21による最終状態ψb_fの取得から送信とがそれぞれ一回ずつ実行されてもよい。
【0049】
測定データの受信に応じて再開される感度分析サブルーチンのS121において最適化ブロック110は、最適化前の量子ビット毎に個別となる分析評価指標Fを、演算する。それと共にS121において最適化ブロック110は、最適化前の量子ビット毎に共通となる基準評価指標Fを、演算する。
【0050】
感度分析サブルーチンのS122において最適化ブロック110は、最適化前の量子ビット毎に個別に、分析評価指標F及び基準評価指標F間の勾配gを演算する。感度分析サブルーチンのS123において最適化ブロック110は、最適化前の全ての量子ビットのうち、分析評価指標Fが最適となる1量子ビットを、個別の勾配gに基づく最適量子ビットとして抽出する。
【0051】
感度分析サブルーチンのS124において最適化ブロック110は、最適量子ビットに関する強度パラメータcの最適値として、当該最適量子ビットに対応する分析評価指標Fの勾配gに応じた最適強度パラメータci_oを、決定する。感度分析サブルーチンのS125において最適化ブロック110は、N個全ての量子ビットに関して最適強度パラメータci_oの決定が終了したか否かを、判定する。
【0052】
S125において否定判定が下された場合には、感度分析サブルーチンが繰り返されるように、S120に代わるS126が実行される。このS126において最適化ブロック110は、決定した最適強度パラメータci_oをインデックスiの対応する基準強度パラメータci_bに代えて、且つそれ以外の基準強度パラメータci_b及び変動強度パラメータci_fをS120に準じて、アニーリングブロック100へ引き渡す。この引き渡しに応じて感度分析サブルーチンの実行は、S120の実行後と同様に、S20,S21の実行によるアニーリングブロック100からの全測定データを受信するまで待機される。
【0053】
ここで、S126によるパラメータci_f,ci_b,ci_oの引き渡しとS20,S21による最終状態ψi_f,ψb_fの取得から送信とは、それぞれ最適化前の量子ビットに同時的となる一回ずつ、実行されてもよい。S120によるパラメータci_f,ci_b,ci_oのうち最適化前の量子ビット毎に必要なパラメータの引き渡しとS20,S21による最終状態ψi_fの取得から送信とは、最適化前の量子ビット毎に一回ずつ交互に実行され、それら最適化前の量子ビット毎とは別の回として、S120によるパラメータci_b,ci_oの引き渡しとS20,S21による最終状態ψb_fの取得から送信とがそれぞれ一回ずつ実行されてもよい。
【0054】
一方、S125において肯定判定が下された場合には、感度分析サブルーチンが終了することで、シーケンスチャートがS127へ移行する。QGO処理のS127において最適化ブロック110は、N個全ての量子ビットに関して決定された最適強度パラメータci_oの集合を写像することで、組み合わせ最適化問題の最適解OAを出力する。さらにS127において最適化ブロック110は、出力した最適解OAをメモリ10に記憶する。以上により、シーケンスチャートの一回の実行が終了する。
【0055】
(作用効果)
このように本実施形態のQGO処理では、コスト関数Hと横磁場関数Hと直交磁場関数Hとの各寄与度を個別に時間制御するQA処理での最終状態ψ_fに基づくことで、2値変数に対応した量子ビット毎に直交磁場関数Hの寄与度の最適値が逐次決定される。そこで本実施形態のQGO処理によると、最適化前の量子ビットに関して直交磁場関数Hの最大値を与える強度パラメータcを変動させたQA処理での最終状態ψ_fに対して、評価を与える評価指標Fが最適となる量子ビットは、当該変動に従う勾配gに基づき抽出される。
【0056】
これによれば、QA処理でのアニーリング時間を短縮しても、抽出された量子ビットの最適値となる強度パラメータcを勾配gに応じて逐次決定していくことで、組み合わせ最適化問題の解空間は絞り込まれ得る。故に、全ての量子ビットに関して決定された強度パラメータcの集合を写像することで、最適解OAを高精度に出力することができる。こうしたことから、アニーリング時間の短縮と最適解OAの高精度出力とを両立させることが、可能となる。尚、高精度な最適解OA、換言すれば解精度が高いとは、最適解OAの確率振幅が大きいことを意味していてもよいし、最適化後のコスト関数Hの値がより低い解を出力することを意味していてもよい。
【0057】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該説明の実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0058】
変形例のS20を実行するアニーリングブロック100では、数20により表される直交磁場関数Hが適用されてもよい。変形例のS121を実行する最適化ブロック110では、それぞれ波動関数ψのうち基底状態ψ_gsの発見確率を用いた数21,22により表されるエラー値に、分析評価指標F及び基準評価指標Fが規定されてもよい。変形例のS123,S124を実行する最適化ブロック110では、分析評価指標Fの最適量子ビットが1回の感度分析サブルーチンにおいて複数抽出されてもよく、その場合には最適強度パラメータci_oが各々の最適量子ビットに関して決定されるとよい。変形例のS20を実行するアニーリングブロック100では、時間制御されたユニタリー変換により数9のy方向成分のパウリ行列σ を、時間制御されたx方向成分のパウリ行列σ 及びz方向成分のパウリ行列σ に変換して、新たな全ハミルトニアンHを求めることで、その時間制御が実現されてもよい。
【数20】
【数21】
【数22】
【0059】
上述の実施形態及び変形例は、処理システム1のプロセッサ12及びメモリ10を少なくとも一つずつ有した、コンピュータ装置又は半導体装置(例えば半導体チップ等)として、実施されてもよい。また、上述の実施形態及び変形例による処理方法のうちQGO処理は、QA処理とは別のコンピュータ装置又は半導体装置により、QA処理とは別のコンピュータプログラムが実行されることで、実施されてもよい。この場合にQGO処理のみを実行することになるコンピュータ装置又は半導体装置は、専用コンピュータとして量子コンピュータ及び古典コンピュータの少なくとも一方を含んで構成されるとよい。ここで特にQGO処理のみを実行するコンピュータ装置又は半導体装置は、専用コンピュータとしての古典コンピュータのみから構成されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:処理システム、10:メモリ、12:プロセッサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10