(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047981
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20230330BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230330BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20230330BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230330BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20230330BHJP
【FI】
H01L29/78 658Z
H01L21/304 611Z
H01L29/78 652T
B23K26/00 N
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157201
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝三
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168JA13
4E168KA04
5F057AA04
5F057BA15
5F057BB06
5F057BB09
5F057BC05
5F057CA02
5F057CA31
5F057DA01
5F057DA19
5F057DA22
5F057DA28
5F057DA31
(57)【要約】
【課題】デバイス構造の電気的特性の変動を抑える半導体装置の製造方法が必要である。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、半導体基板1の所定深さを延びる面3にレーザを照射するレーザ照射工程であって、半導体基板は第1主面1aと第2主面1bを有し、チャネルCHを有するデバイス構造10が第1主面側に形成されており、レーザは第2主面から半導体基板の所定深さに照射される、レーザ照射工程と、デバイス構造が形成されているデバイス層をレーザが照射された面に沿って半導体基板から剥離する剥離工程と、を備えており、レーザ照射工程では、半導体基板の所定深さを延びる面において、デバイス構造のチャネルの下方に対応する領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
半導体基板(1)の所定深さを延びる面(3)にレーザを照射するレーザ照射工程であって、前記半導体基板は第1主面(1a)と第2主面(1b)を有し、チャネル(CH)を有するデバイス構造(10)が前記第1主面側に形成されており、前記レーザは前記第2主面から前記半導体基板の前記所定深さに照射される、レーザ照射工程と、
前記デバイス構造が形成されているデバイス層(2)を前記レーザが照射された面に沿って前記半導体基板から剥離する剥離工程と、を備えており、
前記レーザ照射工程では、前記半導体基板の前記所定深さを延びる前記面において、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応する領域の前記レーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるように前記レーザが照射される、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ照射工程は、
前記半導体基板の面内位置を規定する2次元座標系において、前記半導体基板に対して前記レーザを照射する位置を特定する複数の照射位置座標(22)を含むレーザ照射座標データを作成する工程と、
前記2次元座標系において、前記デバイス構造の前記チャネルの位置を特定する1又は複数のチャネル位置座標(24)を含むチャネル座標データを作成する工程と、
前記レーザ照射座標データに含まれる前記複数の照射位置座標を、前記1又は複数のチャネル位置座標に含まれない1又は複数の第1照射位置座標(22a)と、前記1又は複数のチャネル位置座標に含まれる1又は複数の第2照射位置座標(22b)と、に区分する工程と、
前記1又は複数の第1照射位置座標に対応する前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射し、前記1又は複数の第2照射位置座標に対応する前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射しない又は前記1又は複数の第1照射位置座標における照射エネルギーよりも小さい前記照射エネルギーで前記レーザを照射する工程と、を有している、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ照射工程は、
前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応した領域に前記レーザを遮光するレーザ遮光膜(32、42)を配置する工程と、
前記レーザ遮光膜越しに前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射する工程と、を有している、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ遮光膜を配置する工程は、
前記半導体基板の前記第2主面の全体に前記レーザ遮光膜(32)を成膜する工程と、
前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応した領域が残存するように、前記レーザ遮光膜の一部を除去する工程と、を有している、請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ遮光膜を配置する工程は、
下地基板(100)の表面の全体に前記レーザ遮光膜(42)を成膜する工程と、
前記デバイス構造の前記チャネルの形成位置に対応した領域の前記レーザ遮光膜が残存するように、前記レーザ遮光膜の一部を除去する工程と、
前記下地基板の前記表面上にエピタキシャル層(110)を成膜して前記半導体基板を形成する工程と、を有している、請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ照射工程は、
前記半導体基板の前記第2主面の全体にマスク(52)を成膜する工程と、
前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応した領域が開口するように、前記マスクの一部を除去する工程と、
前記マスクから露出する前記半導体基板の前記第2主面にダメージを加えて前記ダメージ領域(54)を形成する工程と、
前記ダメージ領域を形成した後に、前記マスクを除去する工程と、
前記ダメージ領域越しに前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射する工程と、を有している、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記半導体基板は、化合物半導体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
半導体基板の一方の主面側にデバイス構造を形成した後に、そのデバイス構造が形成されたデバイス層を半導体基板から剥離する技術が開発されている。この技術を利用すると、デバイス層が剥離された後の半導体基板を再利用することができるので、半導体装置の製造コストを低下させることができる。特許文献1は、半導体基板の所定深さを延びる面にレーザを照射することによって半導体基板の内部に変質層を形成し、変質層が形成された面に沿ってデバイス層を半導体基板から剥離する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、集光点で吸収されなかったレーザの一部がデバイス構造に到達し、デバイス構造の電気的特性を変動させることが分かってきた。特に、デバイス構造のチャネルにレーザが到達すると、リーク電流の変動及び閾値電圧のシフトが生じることが分かってきた。このようなデバイス構造の電気的特性の変動を抑える半導体装置の製造方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、半導体基板(1)の所定深さを延びる面(3)にレーザを照射するレーザ照射工程であって、前記半導体基板は第1主面(1a)と第2主面(1b)を有し、チャネル(CH)を有するデバイス構造(10)が前記第1主面側に形成されており、前記レーザは前記第2主面から前記半導体基板の前記所定深さに照射される、レーザ照射工程と、前記デバイス構造が形成されているデバイス層(2)を前記レーザが照射された面に沿って前記半導体基板から剥離する剥離工程と、を備えることができる。前記レーザ照射工程では、前記半導体基板の前記所定深さを延びる前記面において、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応する領域の前記レーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるように前記レーザが照射される。
【0006】
ここで、「半導体基板の所定深さを延びる面」とは、前記半導体基板の厚み方向に直交する方向に伸びる面であって、前記レーザの集光点の広がりを考慮して所定の厚みを有する面である。「デバイス構造のチャネルの下方に対応する領域」とは、前記半導体基板を平面視したときに、前記デバイス構造の前記チャネルと重複する領域の少なくとも一部を含む領域である。「レーザのパワー密度」とは、前記半導体基板を平面視したときに、前記半導体基板の前記所定深さを延びる面における単位面積当たりのレーザの光強度である。また、この製造方法では、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応する領域の前記レーザのパワー密度は、他の領域よりも低ければよく、実質的にゼロの場合も含まれる。
【0007】
この製造方法によると、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応する領域に照射される前記レーザのパワー密度が低い。このため、前記デバイス構造の前記チャネルの下方において、集光点で吸収されなかった前記レーザの光強度も小さくなるので、集光点で吸収されなかった前記レーザの一部が前記デバイス構造の前記チャネルに到達することが抑えられる。この結果、前記デバイス構造の電気的特性の変動が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】半導体装置の製造方法のうちのレーザ照射工程、剥離工程及びダイシング工程のフローを示す図である。
【
図2】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図3】半導体基板の上面側に形成されているデバイス構造の単位セルの断面図を模式的に示す図である。
【
図4】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図5】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図6】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図7】レーザ照射工程の一例のフローを示す図である。
【
図8】半導体基板の平面図であって、レーザ照射工程の一例で設定される複数の照射位置座標の位置を示す図である。
【
図9】半導体基板の平面図であって、レーザ照射工程の一例で設定される複数のチャネル位置座標の位置を示す図である。
【
図10】半導体基板の平面図であって、レーザ照射工程の一例で複数の照射位置座標を区分して設定される第1照射位置座標と第2照射位置座標の各々の位置を示す図である。
【
図11】レーザ照射工程の他の一例のフローを示す図である。
【
図12】
図11のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図13】
図11のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図14】
図11のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図15】レーザ照射工程の他の一例のフローを示す図である。
【
図16】
図15のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図17】
図15のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図18】
図15のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図19】
図15のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図20】
図15のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図21】レーザ照射工程の他の一例のフローを示す図である。
【
図22】
図21のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図23】
図21のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図24】
図21のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図25】
図21のレーザ照射工程の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図26】
図21のレーザ照射工程の製造過程中における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、レーザ照射工程と、剥離工程と、を備えることができる。前記レーザ照射工程では、半導体基板の所定深さを延びる面にレーザを照射する。前記半導体基板は、特に限定されるものではないが、化合物半導体であってもよい。前記半導体基板は、一例ではあるが、窒化ガリウムを含む窒化物半導体、炭化珪素、酸化ガリウムであってもよい。本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、前記半導体基板を再利用できることから、高価な化合物半導体の前記半導体基板に適用した場合に特に有用である。前記半導体基板は第1主面と第2主面を有し、チャネルを有するデバイス構造が前記第1主面側に形成されている。前記デバイス構造の種類は、特に限定されるものではないが、例えばスイッチング素子構造であってもよい。前記スイッチング素子構造の種類は、一例ではあるが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。前記レーザ照射工程では、前記デバイス構造が形成されていない前記第2主面から前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザが照射される。前記剥離工程では、前記デバイス構造が形成されているデバイス層を前記レーザが照射された面に沿って前記半導体基板から剥離する。前記レーザ照射工程では、前記半導体基板の前記所定深さを延びる面において、前記チャネルの下方に対応する領域の前記レーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるように前記レーザが照射される。
【0010】
上記製造方法の1つの方法では、前記レーザ照射工程が、前記半導体基板の面内位置を規定する2次元座標系において、前記半導体基板に対してレーザを照射する位置を特定する複数の照射位置座標を含むレーザ照射座標データを作成する工程と、前記2次元座標系において、前記デバイス構造の前記チャネルの位置を特定する1又は複数のチャネル位置座標を含むチャネル座標データを作成する工程と、前記レーザ照射座標データに含まれる前記複数の照射位置座標を、前記1又は複数のチャネル位置座標に含まれない1又は複数の第1照射位置座標と、前記1又は複数のチャネル位置座標に含まれる1又は複数の第2照射位置座標と、に区分する工程と、前記1又は複数の第1照射位置座標に対応する前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射し、前記1又は複数の第2照射位置座標に対応する前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射しない又は前記1又は複数の第1照射位置座標における照射エネルギーよりも小さい照射エネルギーで前記レーザを照射する工程と、を有していてもよい。この製造方法によると、前記第1照射位置座標と前記第2照射位置座標に基づいて前記レーザの照射を制御することにより、前記半導体基板の前記所定深さを延びる前記面において、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応する領域の前記レーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにすることができる。
【0011】
上記製造方法の他の1つの方法では、前記レーザ照射工程は、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応した領域に前記レーザを遮光するレーザ遮光膜を配置する工程と、前記レーザ遮光膜越しに前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射する工程と、を有していてもよい。ここで、「レーザ遮光膜を配置する」とは、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応した領域に前記レーザ遮光膜が存在すればよく、特に限定されるものではないが、例えば前記半導体基板の前記第2主面又は前記半導体基板の内部に前記レーザ遮光膜を成膜するように配置される場合、前記半導体基板の前記第2主面に前記レーザ遮光膜を載置するように配置される場合、前記半導体基板の前記第2主面から空間を隔てて配置される場合、を含む。この製造方法によると、前記レーザ遮光膜が前記レーザを遮ることにより、前記半導体基板の前記所定深さを延びる前記面において、前記チャネルの下方に対応する領域の前記レーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにすることができる。
【0012】
前記レーザ遮光膜を配置する工程は、前記半導体基板の前記第2主面の全体に前記レーザ遮光膜を成膜する工程と、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応した領域が残存するように、前記レーザ遮光膜の一部を除去する工程と、を有していてもよい。この製造方法によると、前記半導体基板の前記第2主面に前記レーザ遮光膜を成膜することができる。
【0013】
前記レーザ遮光膜を配置する工程は、下地基板の表面の全体に前記レーザ遮光膜を成膜する工程と、前記デバイス構造の前記チャネルの形成位置に対応した領域の前記レーザ遮光膜が残存するように、前記レーザ遮光膜の一部を除去する工程と、前記下地基板の前記表面上にエピタキシャル層を成膜して前記半導体基板を形成する工程と、を有していてもよい。「デバイス構造のチャネルの形成位置に対応した領域」とは、前記半導体基板に前記デバイス構造を形成したときに、前記デバイス構造の前記チャネルの下方に対応した領域となる領域である。この製造方法によると、前記半導体基板の内部に前記レーザ遮光膜を成膜することができる。
【0014】
上記製造方法の他の1つの方法では、前記レーザ照射工程が、前記半導体基板の前記第2主面の全体にマスクを成膜する工程と、前記チャネルの下方に対応した領域が開口するように、前記マスクの一部を除去する工程と、前記マスクから露出する前記半導体基板の前記第2主面にダメージを加えて前記ダメージ領域を形成する工程と、前記ダメージ領域を形成した後に、前記マスクを除去する工程と、前記ダメージ領域越しに前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザを照射する工程と、を有していてもよい。前記ダメージ領域の表面粗さは増加している。このため、反射及び/又は散乱によって前記ダメージ領域を通過する前記レーザの透過量は大きく減衰する。この製造方法によると、前記ダメージ領域が前記レーザを遮ることにより、前記半導体基板の前記所定深さを延びる前記面において、前記チャネルの下方に対応する領域の前記レーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにすることができる。
【実施例0015】
以下、図面を参照し、半導体装置の製造方法のうちのレーザ照射工程、剥離工程及びダイシング工程について説明する。その後、本明細書が開示するレーザ照射工程のいくつかの例について詳細に説明する。なお、レーザ照射工程、剥離工程及びダイシング工程以外の他の各種工程、例えばデバイス構造を形成する工程等は、既知の製造技術を利用することができる。
【0016】
図1に、レーザ照射工程(ステップS1)、剥離工程(ステップS2)及びダイシング工程(ステップS3)のフローを示す。本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、
図2に示す半導体基板1に対してこれら工程を実行することにより、複数の半導体装置(チップともいう)を製造する。
【0017】
図2に示されるように、半導体基板1は、各々が平面で相互に平行に延びている上面1aと下面1bを有している。これら上面1aと下面1bは、主面とも称される。半導体基板1は、特に限定されるものではないが、この例では窒化ガリウム基板である。半導体基板1の所定深さを延びる面3は、後述するように、レーザが照射される面、すなわち、レーザの複数の集光点が集まった面である。本明細書では、半導体基板1のうちのレーザが照射される面3よりも上側の部分、すなわち、半導体基板1から剥離される部分をデバイス層2という。半導体基板1のデバイス層2内に、チャネルを有するデバイス構造が形成されている。
【0018】
図3に、半導体基板1のデバイス層2内に形成されているデバイス構造10の単位セルを示す。デバイス構造10は、特に限定されるものではないが、この例では縦型のMOSFETである。デバイス構造10は、n
+型のドレイン領域12と、n型のドリフト領域14と、p型のボディ領域16と、n
+型のソース領域18と、プレーナ型の絶縁ゲート19と、を有している。ドレイン領域12は、半導体基板1の下面1bに露出する位置に設けられている。ドリフト領域14は、ドレイン領域12とボディ領域16の間に設けられている。半導体基板1の上面1aに露出する位置に配置されているドリフト領域14の一部をJFET領域14aという。ボディ領域16は、半導体基板1の上面1aに露出する位置に設けられており、ドリフト領域14とソース領域18を隔てるように配置されている。ドリフト領域14のJFET領域14aとソース領域18の間に位置するボディ領域16の一部をチャネルCHという。ソース領域18は、半導体基板1の上面1aに露出する位置に設けられている。絶縁ゲート19は、半導体基板1の上面1aの一部を被覆するように設けられており、ボディ領域16のチャネルCHに対向するように配置されている。これにより、絶縁ゲート19に印加される電圧に応じてボディ領域16のチャネルCHに生成される反転層の電子密度が制御され、デバイス構造のオンオフが制御される。このように、チャネルとは、ゲートによってキャリア密度が制御される領域として定義される。
【0019】
図4に示されるように、レーザ照射工程(
図1のステップS1)では、半導体基板1の所定深さを延びる面3にレーザが照射される。レーザは、デバイス構造が形成されていない半導体基板1の下面1bから半導体基板1の所定深さで集光するように照射される。レーザは、半導体基板(この例では窒化ガリウム基板)に対して透過性を有する波長域のレーザである。集光点の位置では、半導体基板1を構成する結晶(この例では、窒化ガリウムの単結晶)が加熱されて分解される。その結果、集光点の位置に、半導体基板1を構成する結晶の構成原子の析出層等(この例では、ガリウムの析出層等)によって構成された変質層が形成される。変質層の強度は、半導体基板1を構成する結晶よりも低い。したがって、変質層の強度は、その周囲の結晶よりも低くなる。
【0020】
レーザ照射工程では、半導体基板1の所定深さを延びる面3において、デバイス構造10のチャネルCH(
図3参照)の下方に対応する領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射される。具体的には、半導体基板1を平面視したときに、デバイス構造10のチャネルCHと重複する領域の少なくとも一部、好ましくは、デバイス構造10のチャネルCHと重複する領域の全てを含む領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射される。このようなパワー密度の分布を形成するレーザ照射工程のいくつかの例が後述される。このようなパワー密度の分布により、デバイス構造10のチャネルCHの下方において、集光点で吸収されなかったレーザの光強度が小さくなるので、未吸収のレーザの一部がデバイス構造10のチャネルCHに到達することが抑えられる。この結果、デバイス構造10の電気的特性の変動が抑えられる。
【0021】
図5に示されるように、剥離工程(
図1のステップS2)では、デバイス構造10が形成されているデバイス層2が、レーザが照射された面3に沿って半導体基板1から剥離される。レーザが照射された面3は変質層の形成によって強度が低下しているので、デバイス層2は半導体基板1から良好に剥離される。なお、デバイス層2が剥離された後の半導体基板1は、半導体装置の製造に再利用される。例えば、半導体基板1の剥離面に対して研磨及びエッチング等を実施した後に、エピタキシャル結晶成長技術を利用して剥離面上にデバイス層を成膜することにより、成膜したデバイス層にデバイス構造を形成することができる。
【0022】
図6に示されるように、ダイシング工程(
図1のステップS3)では、半導体基板1から剥離されたデバイス層2に対して研磨工程及び電極形成工程等を実施した後、デバイス層2から複数のデバイス(ダイともいう)が切り出され、半導体装置が完成する。
【0023】
以下では、上記したレーザ照射工程の具体的な例を説明する。
【0024】
(第1のレーザ照射工程)
図7~
図10を参照し、第1のレーザ照射工程について説明する。
図8に示されるように、第1のレーザ照射工程ではまず、複数の照射位置座標22を含むレーザ照射座標データが作成される(
図7のステップS11)。複数の照射位置座標22は、半導体基板1の面内位置を規定する2次元座標系において、半導体基板1に対してレーザを照射する位置を特定する座標である。1つの照射位置座標22に1パルスのレーザが照射される。複数の照射位置座標22は、特に限定されるものではないが、この例では縦横に等間隔で周期的に並んだマトリクス状に設定されている。
【0025】
次に、
図9に示されるように、2次元座標系において、1又は複数のチャネル位置座標24を含むチャネル座標データが作成される(
図7のステップS12)。1又は複数のチャネル位置座標24は、半導体基板1の上面に形成されたデバイス構造のチャネル(
図3のチャネルCH参照)の位置を特定する座標である。この例では、複数のチャネル位置座標24が、縦横に等間隔で周期的に並んだマトリクス状に設定されている。デバイス構造のチャネルは範囲を有しているので、複数のチャネル位置座標24の各々は範囲を特定できるように設定されている。複数のチャネル位置座標24は、デバイス構造を形成するためのフォトリソグラフィ用のマスクデータを用いて設定されてもよい。又は、複数のチャネル位置座標24は、半導体基板1の上面にデバイス構造を形成した後に、半導体基板1の上面の画像を取得し、その画像から特定されるチャネルの位置から設定されてもよい。
【0026】
次に、
図10に示されるように、レーザ照射座標データに含まれる複数の照射位置座標22が、複数の第1照射位置座標22aと複数の第2照射位置座標22bと、に区分される(
図7のステップS13)。複数の第1照射位置座標22aは、複数の照射位置座標22のうちの複数のチャネル位置座標24のいずれにも含まれない座標である。複数の第2照射位置座標22bは、複数の照射位置座標22のうちの複数のチャネル位置座標24のいずれかに含まれる座標である。
【0027】
第1のレーザ照射工程では、このように作成された複数の第1照射位置座標22aと複数の第2照射位置座標22bと、に基づいて半導体基板1の内部にレーザが照射される(
図7のステップS14)。具体的には、複数の第1照射位置座標22aに区分された複数の照射位置座標22に対応する半導体基板1の所定深さにレーザが照射され、複数の第2照射位置座標22bに区分された複数の照射位置座標22に対応する半導体基板1の所定深さにレーザが照射されない。これにより、半導体基板1の所定深さを延びる面において、デバイス構造のチャネルの下方に対応する領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射される。この結果、半導体基板1の所定深さの集光点で吸収されなかったレーザの一部がデバイス構造のチャネルに到達することが抑えられる。
【0028】
なお、複数の第2照射位置座標22bに区分された複数の照射位置座標22に対応する半導体基板1の所定深さには、複数の第1照射位置座標22aに区分された複数の照射位置座標22における照射エネルギーよりも小さい照射エネルギーでレーザを照射してもよい。この場合でも、デバイス構造のチャネルの下方に対応する領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射されるので、集光点で未吸収のレーザの一部がデバイス構造のチャネルに到達することが抑えられる。この例では、剥離工程においてデバイス層を良好に剥離させることができる。レーザの照射エネルギーの制御は、特に限定されるものではないが、アッテネータ又は反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)の制御によって実施してもよい。
【0029】
(第2のレーザ照射工程)
図11~
図14を参照し、第2のレーザ照射工程について説明する。なお、
図12~
図14の断面図では、半導体基板1の上面1a側に形成されているデバイス構造10の単位セルを簡略化して示している。
図12に示されるように、第2のレーザ照射工程ではまず、半導体基板1の下面1bの全体にレーザ遮光膜32が成膜される(
図11のステップS21)。レーザ遮光膜32は、レーザを反射する膜又はレーザに対して不透明な膜である。レーザ遮光膜32は、特に限定されるものではないが、例えば厚みが1μm程度のAl膜又はAu膜であってもよく、液晶パネルのカラーフィルタで用いられるブラックマトリックスであってもよい。
【0030】
次に、
図13に示されるように、エッチング技術を利用して、レーザ遮光膜32のうちのデバイス構造10のチャネルの下方に対応した領域が残存するように、レーザ遮光膜32の一部が除去される(
図11のステップS22)。具体的には、半導体基板1を平面視したときに、デバイス構造10のチャネルと重複する領域の少なくとも一部、好ましくは、デバイス構造10のチャネルと重複する領域の全てを含むようにレーザ遮光膜32が残存する。
【0031】
次に、
図14に示されるように、半導体基板1の下面1bから半導体基板1の所定深さにレーザを照射する(
図11のステップS23)。レーザは、レーザ遮光膜32越しに半導体基板1の所定深さに照射される。レーザ遮光膜32がレーザを遮ることにより、半導体基板1の所定深さを延びる面において、デバイス構造10のチャネルの下方に対応する領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射される。この結果、半導体基板1の所定深さの集光点で吸収されなかったレーザの一部(破線で示されている)がデバイス構造10のチャネルに到達することが抑えられる。
【0032】
(第3のレーザ照射工程)
図15~
図20を参照し、第3のレーザ照射工程について説明する。第3のレーザ照射工程では、デバイス構造を形成するのに先立って半導体基板内にレーザ遮光膜を形成することを特徴としている。
図16に示されるように、第3のレーザ照射工程ではまず、下地基板100の表面の全体にレーザ遮光膜42が成膜される(
図15のステップS31)。レーザ遮光膜42の材料については、第2のレーザ遮光工程のレーザ遮光膜32と同様であってもよい。
【0033】
次に、
図17に示されるように、エッチング技術を利用して、後で形成するデバイス構造のチャネルの形成位置に対応した領域のレーザ遮光膜42が残存するように、レーザ遮光膜42の一部を除去する(
図15のステップS32)。
【0034】
次に、
図18に示されるように、エピタキシャル技術を利用して、下地基板100の表面上にエピタキシャル層110を成膜して半導体基板1が形成される(
図15のステップS33)。このように、レーザ遮光膜42は、半導体基板1の内部に埋設して形成される。
【0035】
次に、
図19に示されるように、半導体基板1の上面1a側にデバイス構造10を形成する(
図15のステップS34)。半導体基板1の内部に埋設しているレーザ遮光膜42は、半導体基板1を平面視したときに、デバイス構造10のチャネルと重複する領域の少なくとも一部、好ましくは、デバイス構造10のチャネルと重複する領域の全てを含むように配置されている。
【0036】
次に、
図20に示されるように、半導体基板1の下面1bから半導体基板1の所定深さにレーザを照射する(
図15のステップS35)。レーザは、レーザ遮光膜42越しに半導体基板1の所定深さに照射される。レーザ遮光膜42がレーザを遮ることにより、半導体基板1の所定深さを延びる面において、デバイス構造10のチャネルの下方に対応する領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射される。この結果、半導体基板1の所定深さの集光点で吸収されなかったレーザの一部(破線で示されている)がデバイス構造10のチャネルに到達することが抑えられる。
【0037】
(第4のレーザ照射工程)
図21~
図26を参照し、第4のレーザ照射工程について説明する。
図22に示されるように、第4のレーザ照射工程ではまず、半導体基板1の下面1bの全体にマスク52が成膜される(
図21のステップS41)。マスク52は、特に限定されるものではないが、例えばフォトレジストであってもよい。
【0038】
次に、
図23に示されるように、エッチング技術を利用して、マスク52のうちのデバイス構造10のチャネルの下方に対応した領域が開口するように、マスク52の一部を除去する(
図21のステップS42)。具体的には、半導体基板1を平面視したときに、デバイス構造10のチャネルと重複する領域の少なくとも一部、好ましくは、デバイス構造10のチャネルと重複する領域の全てが開口するようにマスク52が残存する。
【0039】
次に、
図24に示されるように、マスク52から露出する半導体基板1の下面1bにダメージを加えてダメージ領域54を形成する(
図21のステップS43)。ダメージ領域54を形成するための処理は、特に限定されるものではないが、ウェットエッチング処理であってもよく、プラズマ照射のドライエッチング処理であってもよく、窒素イオン又はアルゴンイオン等の不活性イオン注入処理であってもよい。ダメージ領域54は、これら処理後に表面粗さが増加した領域である。
【0040】
次に、
図25に示されるように、エッチング技術を利用して、マスク52を除去する(
図21のステップS44)。
【0041】
次に、
図26に示されるように、半導体基板1の下面1bから半導体基板1の所定深さにレーザを照射する(
図21のステップS45)。レーザは、ダメージ領域54越しに半導体基板1の所定深さに照射される。反射及び/又は散乱によってダメージ領域54がレーザを遮ることにより、半導体基板1の所定深さを延びる面において、デバイス構造10のチャネルの下方に対応する領域のレーザのパワー密度が他の領域よりも低くなるようにレーザが照射される。この結果、半導体基板1の所定深さの集光点で吸収されなかったレーザの一部(破線で示されている)がデバイス構造10のチャネルに到達することが抑えられる。
【0042】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
1:半導体基板、 2:デバイス層、 10:デバイス構造、 22:照射位置座標、 22a:第1照射位置座標、 22b:第2照射位置座標、 24:チャネル位置座標、 32,42:レーザ遮光膜、 52:マスク、 54:ダメージ領域、 100:下地基板、 110:エピタキシャル層