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特開2023-48103半導体加工用粘着シート及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048103
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】半導体加工用粘着シート及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230330BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20230330BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230330BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
H01L21/78 Q
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117889
(22)【出願日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021156969
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】坂東 沙也香
(72)【発明者】
【氏名】田村 和幸
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004AB06
4J004FA05
4J040DF021
4J040JB07
4J040JB09
4J040NA20
5F057AA05
5F057AA21
5F057AA53
5F057BA11
5F057BB03
5F057BB06
5F057BB07
5F057BB09
5F057BB11
5F057BB12
5F057CA14
5F057CA32
5F057CA36
5F057DA11
5F057DA14
5F057DA19
5F057DA22
5F057DA31
5F057EC06
5F057EC09
5F057EC16
5F057EC19
5F057FA13
5F057FA28
5F057FA30
5F063AA05
5F063AA09
5F063AA11
5F063AA16
5F063BA43
5F063BA45
5F063BA47
5F063BA48
5F063CB02
5F063CB03
5F063CB05
5F063CB07
5F063CB14
5F063CB23
5F063CB29
5F063DD01
5F063DD25
5F063DD64
5F063DD68
5F063DG03
5F063DG23
5F063EE02
5F063EE05
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE22
5F063EE27
5F063EE43
5F063EE44
5F063FF01
(57)【要約】
【課題】研削屑の付着量が低減され、搬送性に優れる半導体加工用粘着シート及びその製造方法、並びに該半導体加工用粘着シートを用いる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】表面コート層、緩衝層、基材及び粘着剤層を、この順で有し、前記表面コート層が、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成される層である、半導体加工用粘着シート及びその製造方法、並びに該半導体加工用粘着シートを用いる半導体装置の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面コート層、緩衝層、基材及び粘着剤層を、この順で有し、
前記表面コート層が、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成される層である、半導体加工用粘着シート。
【請求項2】
前記シリコーン化合物の質量平均分子量(Mw)が、1,000~20,000である、請求項1に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項3】
前記表面コート層形成用組成物が、さらに、ポリオレフィン系樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項4】
前記表面コート層形成用組成物中における前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が、前記表面コート層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、50~99質量%である、請求項3に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項5】
前記表面コート層形成用組成物中における前記シリコーン化合物の含有量が、前記表面コート層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、0.1~30質量%である、請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項6】
前記表面コート層の厚さが、0.05~10μmである、請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項7】
前記緩衝層が、ウレタン(メタ)アクリレートを含有する緩衝層形成用組成物から形成される、請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項8】
半導体ウエハの裏面研削に用いられる、請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シートを、前記粘着剤層を貼付面として半導体ウエハの表面に貼付する工程と、
前記半導体ウエハに貼付された前記半導体加工用粘着シートの前記表面コート層側を支持装置によって固定した状態で、前記半導体ウエハの裏面を研削する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
半導体ウエハの表面に溝を形成する工程a、又は半導体ウエハの表面若しくは裏面から前記半導体ウエハの内部に改質領域を形成する工程bである、分割予定ライン形成工程と、
前記工程aの後、又は前記工程bの前若しくは後に、請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シートを、前記粘着剤層を貼付面として、前記半導体ウエハの表面に貼付する、シート貼付工程と、
前記半導体ウエハに貼付された半導体加工用粘着シートの前記表面コート層側を支持装置によって固定した状態で、前記半導体ウエハの裏面を研削して、前記溝又は改質領域を起点として複数の半導体チップに個片化する、研削及び個片化工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の半導体加工用粘着シートを製造する方法であって、
前記表面コート層を、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成する、半導体加工用粘着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体加工用粘着シート及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末機器の薄型化、小型化及び多機能化が急速に進む中、これらの機器に搭載される半導体装置にも、薄型化及び高密度化が求められている。
半導体装置を薄型化する方法としては、半導体装置に用いる半導体ウエハの裏面を研削する方法が行われてきた。半導体ウエハの裏面研削は、半導体ウエハの表面に裏面研削用の粘着シート(以下、「バックグラインドシート」ともいう)を貼付し、該シートによって半導体ウエハの表面を保護した状態で行われる。バックグラインドシートは、裏面研削後に半導体ウエハの表面から剥離除去される。
【0003】
近年、半導体チップへのダメージを抑制しつつ薄型化する研削及び個片化方法として、先ダイシング法、ステルス先ダイシング法等が実用されている。先ダイシング法は、半導体ウエハの表面に、ダイシングブレード等で所定深さの溝を形成した後、該半導体ウエハを裏面側から溝に至るまで研削することによって半導体チップに個片化する方法である。また、ステルス先ダイシング法は、レーザー光の照射によって半導体ウエハの内部に改質領域を形成した後、該半導体ウエハを裏面側から研削し、上記改質領域を分割起点として割断させることによって半導体チップに個片化する方法である。これらの方法においても、半導体ウエハの表面を保護するためのバックグラインドシートが用いられている。
【0004】
これらの薄型化プロセス技術の開発と共に、バックグラインドシートについても、半導体チップを歩留まり良く薄型化するための機能が要求されており、種々の検討が行われている。
特許文献1には、先ダイシング法又はステルス先ダイシング法に適用可能な半導体ウエハ表面保護用粘着シートとして、基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも片面側に設けられ、粘着剤からなる中間層と、前記中間層の前記基材フィルムと反対側であって最外層に設けられた最外粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記中間層は、前記粘着シート形成後の硬化処理により硬化する材料で形成されていることを特徴とする半導体ウエハ表面保護用粘着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-56446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の半導体ウエハ表面保護用粘着シートによると、半導体ウエハをチップに個片化した後、本来のチップ間隔が崩れてしまうカーフシフトを抑制することができるとともに、半導体ウエハの研削屑による汚染を抑制することができ、表面保護テープを剥離した際のチップへの糊残りを防止することができるとされている。
【0007】
ところで、裏面研削をする際、半導体ウエハに貼付されたバックグラインドシートは、半導体ウエハに貼付する面とは反対側の面(以下、「背面」ともいう)をチャックテーブル等の支持装置によって固定される。そして、バックグラインドシートを介して支持装置のテーブル上に固定された半導体ウエハは、研削による熱及び研削屑を除去するための冷却水を研削面に供給されながら裏面を研削される。
【0008】
裏面研削をする際に、バックグラインドシートと支持装置のテーブルとの間に研削屑が存在すると、該研削屑が存在する部分を起点として、半導体ウエハをテーブルに固定する際の衝撃、裏面研削中の加圧及び振動等によって、半導体ウエハ又は半導体チップにクラックが発生する場合がある。研削屑は、冷却水に含まれた状態でバックグラインドシートの背面に付着するため、上記クラックの発生を抑制するためには、バックグラインドシートの背面に付着する研削屑の量を低減する必要がある。
【0009】
また、半導体ウエハを研削する際は、研削による摩擦熱を除去するための冷却水が供給されるものの、摩擦熱を完全に除去することは困難であり、半導体ウエハを保持するバックグラインドシートの温度はある程度上昇する。すなわち、バックグラインドシートは、半導体ウエハの研削時に、チャックテーブル等の支持装置に対して加圧された状態で一定期間加熱されることになるが、これによって、バックグラインドシートが支持装置に対して過剰に密着する場合がある。研削を終えた半導体ウエハは、搬送アーム等によって支持装置から持ち上げられ、次工程に供するために搬送する必要があるが、バックグラインドシートが支持装置に過剰に密着していると、持ち上げに失敗し、搬送することができない場合がある。この問題は、背面における研削屑付着量が低減されたバックグラインドシートを用いる場合に特に顕在化する傾向にある。
【0010】
特許文献1の半導体ウエハ表面保護用粘着シートは、バックグラインドシートの背面における研削屑付着量の低減及び搬送性の改善という要求に対しては、十分に応えることはできていなかった。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、研削屑の付着量が低減され、搬送性に優れる半導体加工用粘着シート及びその製造方法、並びに該半導体加工用粘着シートを用いる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成される表面コート層、緩衝層、基材及び粘着剤層を、この順で有する半導体加工用粘着シートによって、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、下記[1]~[11]に関する。
[1]表面コート層、緩衝層、基材及び粘着剤層を、この順で有し、
前記表面コート層が、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成される層である、半導体加工用粘着シート。
[2]前記シリコーン化合物の質量平均分子量(Mw)が、1,000~20,000である、上記[1]に記載の半導体加工用粘着シート。
[3]前記表面コート層形成用組成物が、さらに、ポリオレフィン系樹脂を含有する、上記[1]又は[2]に記載の半導体加工用粘着シート。
[4]前記表面コート層形成用組成物中における前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が、前記表面コート層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、50~99質量%である、上記[3]に記載の半導体加工用粘着シート。
[5]前記表面コート層形成用組成物中における前記シリコーン化合物の含有量が、前記表面コート層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、0.1~30質量%である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
[6]前記表面コート層の厚さが、0.05~10μmである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
[7]前記緩衝層が、ウレタン(メタ)アクリレートを含有する緩衝層形成用組成物から形成される、上記[1]~[6]のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
[8]半導体ウエハの裏面研削に用いられる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の半導体加工用粘着シートを、前記粘着剤層を貼付面として半導体ウエハの表面に貼付する工程と、
前記半導体ウエハに貼付された前記半導体加工用粘着シートの前記表面コート層側を支持装置によって固定した状態で、前記半導体ウエハの裏面を研削する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
[10]半導体ウエハの表面に溝を形成する工程a、又は半導体ウエハの表面若しくは裏面から前記半導体ウエハの内部に改質領域を形成する工程bである、分割予定ライン形成工程と、
前記工程aの後、又は前記工程bの前若しくは後に、上記[1]~[8]のいずれかに記載の半導体加工用粘着シートを、前記粘着剤層を貼付面として、前記半導体ウエハの表面に貼付する、シート貼付工程と、
前記半導体ウエハに貼付された半導体加工用粘着シートの前記表面コート層側を支持装置によって固定した状態で、前記半導体ウエハの裏面を研削して、前記溝又は改質領域を起点として複数の半導体チップに個片化する、研削及び個片化工程と、
を含む、上記[9]に記載の半導体装置の製造方法。
[11]上記[1]~[8]のいずれかに記載の半導体加工用粘着シートを製造する方法であって、
前記表面コート層を、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成する、半導体加工用粘着シートの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、研削屑の付着量が低減され、搬送性に優れる半導体加工用粘着シート及びその製造方法、並びに該半導体加工用粘着シートを用いる半導体装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、好ましい数値範囲について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0016】
本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を示し、他の類似用語も同様である。
【0017】
本明細書において、「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味し、その例として、紫外線、放射線、電子線等が挙げられる。紫外線は、例えば、紫外線源として無電極ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV-LED等を用いることで照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。
本明細書において、「エネルギー線重合性」とは、エネルギー線を照射することにより重合する性質を意味する。また、「エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射することにより硬化する性質を意味し、「非エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線硬化性を有しない性質を意味する。
【0018】
本明細書において、半導体ウエハの「表面」とは回路が形成された面を指し、「裏面」とは回路が形成されていない面を指す。
【0019】
本明細書に記載されている作用機序は推測であって、本発明の半導体加工用粘着シートの効果を奏する機序を限定するものではない。
【0020】
[半導体加工用粘着シート及びその製造方法]
本実施形態の半導体加工用粘着シート(以下、「粘着シート」ともいう)は、表面コート層、緩衝層、基材及び粘着剤層を、この順で有し、前記表面コート層が、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成される層である、半導体加工用粘着シートである。
本実施形態の粘着シートは、ワークである半導体装置の表面に貼付され、該表面を保護しながら半導体装置に所定の加工を施すために用いられる。ワークに対して所定の加工を施した後、本実施形態の粘着シートは半導体装置から剥離除去される。
なお、本実施形態において、「半導体装置」とは、半導体特性を利用することで機能し得る装置全般を指し、例えば、半導体ウエハ、半導体チップ、該半導体チップを含む電子部品、該電子部品を備える電子機器類等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態の粘着シートは、半導体ウエハの加工に好適である。
【0021】
本実施形態の粘着シートは、表面コート層、緩衝層、基材及び粘着剤層以外の層を有していてもよく、有していなくてもよい。基材及び粘着剤層以外の層としては、例えば、基材と粘着剤層との間に設けられる中間層、粘着剤層の基材とは反対側の面に設けられる剥離シート等が挙げられる。
以下、本実施形態の粘着シートを構成する各部材について順に説明する。
【0022】
<表面コート層>
表面コート層は、緩衝層の基材とは反対の面側に設けられる層であって、半導体装置を加工する際、支持装置によって固定される層である。
【0023】
本実施形態の粘着シートが有する表面コート層は、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成されることによって、シリコーン化合物又はシリコーン化合物由来の構造を含むものとなる。これによって、研削屑を含む水が付着し難くなると共に、支持装置等に対する密着性が抑制されることで、研削屑の付着量が低減され、搬送性に優れるものになったと推測される。
【0024】
(シリコーン化合物)
シリコーン化合物としては、ポリジオルガノシロキサン構造を含むポリマーであれば特に限定されない。
シリコーン化合物が含むポリジオルガノシロキサン構造としては、例えば、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0025】
【化1】

(式中、Rは、各々独立に、炭素数1~6の炭化水素基である。*は結合部位を表す。)
【0026】
Rが表す炭素数1~6の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは1である。
Rが表す炭素数1~6の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基;フェニル基;等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0027】
シリコーン化合物は、反応性官能基を有するものであってもよい。
シリコーン化合物が反応性官能基を有すると、シリコーン化合物同士或いはシリコーン化合物と他の成分との反応を生じさせることが可能になり、シリコーン化合物の表面コート層からの染み出し等を生じ難くすることができる。
反応性官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和結合を含む官能基;グリシジル基、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、水酸基等が挙げられる。これらの中でも、エチレン性不飽和結合を含む官能基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。なお、本明細書において、「エチレン性不飽和結合」とは、付加反応が可能な炭素-炭素二重結合を意味し、芳香環の二重結合は含まない。また、(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基を構成していてもよい。
シリコーン化合物が反応性官能基を有する場合、シリコーン化合物は、反応性官能基を末端に有するものであってもよく、側鎖に有するものであってもよいが、末端に有するものであることが好ましい。
シリコーン化合物が反応性官能基を末端に有する場合、シリコーン化合物は、反応性官能基を片末端に有するものであってもよく、両末端に有するものであってもよいが、両末端に有するものであることが好ましい。
シリコーン化合物が反応性官能基を有する場合、シリコーン化合物の反応性官能基当量は、特に限定されないが、好ましくは500~10,000g/mol、より好ましくは1,000~7,000g/mol、さらに好ましくは1,500~5,000g/molである。
【0028】
シリコーン化合物は、直鎖状ポリマーであっても、分岐鎖状ポリマーであってもよいが、直鎖状ポリマーであることが好ましい。
すなわち、シリコーン化合物は、反応性官能基を両末端に有する直鎖状ポリマーであることが好ましい。このようなシリコーン化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化2】

(式中、Rは、上記一般式(1)における説明の通りである。Xは、各々独立に、炭素数1~5の2価の脂肪族炭化水素基、Yは、各々独立に、反応性官能基である。)
【0030】
Rの好適な態様及びYで表される反応性官能基の好適な態様は、上記の通りである。
Xが表す炭素数1~5の2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メタンジイル基、エタン-1,2-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、n-プロパン-1,3-ジイル基、n-プロパン-1,2-ジイル基、1,4-n-ブチル基、1,2-tert-ブチル基、1,5-ペンチル基等のアルキレン基が挙げられる。
【0031】
シリコーン化合物の質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは1,000~20,000、より好ましくは2,000~17,000、さらに好ましくは3,000~15,000である。
シリコーン化合物の質量平均分子量(Mw)が、上記下限値以上であると、シリコーン化合物の表面偏析が抑制され、表面コート層形成用組成物の成膜性がより良好になる傾向にあり、これによって搬送性がより良好になる傾向にある。また、シリコーン化合物の質量平均分子量(Mw)が、上記上限値以下であると、取り扱い性がより良好になる傾向にある。
【0032】
前記表面コート層形成用組成物中におけるシリコーン化合物の含有量は、表面コート層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.3~20質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%である。
シリコーン化合物の含有量が、上記下限値以上であると、研削屑付着量をより低減できると共に、搬送性がより良好になる傾向にある。また、シリコーン化合物の含有量が、上記上限値以下であると、緩衝層と表面コート層との密着性がより良好になる傾向にある。
なお、本実施形態において、表面コート層形成用組成物の有効成分とは、表面コート層形成用組成物中に含有される成分から、表面コート層を形成する過程で除去される有機溶媒等の成分を除いた成分を意味する。
【0033】
(ポリオレフィン系樹脂)
表面コート層形成用組成物は、さらに、ポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。表面コート層形成用組成物が、ポリオレフィン系樹脂を含有することによって、本実施形態の粘着シートが有する表面コート層は、研削屑付着量をより低減できる傾向にある。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂は、少なくともオレフィンを含む単量体を重合してなる樹脂である。
ここで、本実施形態における「ポリオレフィン系樹脂」とは、オレフィンを単独重合させてなる樹脂、又はオレフィンをオレフィン以外のモノマーと共重合させてなる樹脂であって、オレフィンに由来する構成単位を50質量%以上含有する樹脂のいずれかを意味する。
また、本実施形態における「オレフィン」とは、エチレン性不飽和結合を有する不飽和炭化水素を意味し、ヘテロ原子を含有する化合物は、本実施形態における「オレフィン」には含めないものとする。なお、本明細書中、「ヘテロ原子」とは、炭素原子及び水素原子以外の全ての原子を意味する。
また、以下の説明において、エチレン性不飽和結合を含有する基を、単に「不飽和基」と称する場合がある。
ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ポリオレフィン系樹脂中における、オレフィンに由来する構成単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。ポリオレフィン系樹脂中のオレフィンに由来する構成単位の含有量が上記下限値以上であると、研削屑付着量をより低減できる傾向にある。
また、ポリオレフィン系樹脂中における、オレフィンに由来する構成単位の含有量は、100質量%であってもよいが、例えば、溶媒溶解性等の改善を目的としたオレフィン以外のモノマーに由来する構成単位を含有させるために、99.5質量%以下であってもよく、99質量%以下であってもよい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとしては、例えば、鎖状オレフィン、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘキセン等の鎖状モノオレフィン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン等の鎖状の非共役ジエン;1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等の鎖状の共役ジエン;等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2~6の鎖状オレフィンが好ましく、エチレン、プロピレンがより好ましい。
【0038】
環状オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の環状モノオレフィン;シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン、フェニルシクロオクタジエン等の環状ジオレフィン;ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、エチルテトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕トリデカ-2,4,6,11-テトラエン等の多環式オレフィン;等が挙げられる。これらの中でも、溶媒溶解性を向上させて塗布による表面コート層の形成を容易にするという観点から、テトラシクロドデセンが好ましい。
【0039】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられる。
【0040】
オレフィンと共重合させてもよいオレフィン以外のモノマーとしては、例えば、酸素原子及びエチレン性不飽和結合を有するモノマー、窒素原子及びエチレン性不飽和結合を有するモノマー等が挙げられる。
オレフィン以外のモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
酸素原子及びエチレン性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸等の酸無水物;マレイン酸、メチルマレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸モノメチル等のマレイン酸類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロアルキル基の炭素数が3~20であるシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;等が挙げられる。これらの中でも、溶媒溶解性を向上させて塗布による表面コート層の形成を容易にするという観点から、酸無水物、ビニルエステル化合物が好ましく、無水マレイン酸、酢酸ビニルがより好ましく、無水マレイン酸がさらに好ましい。
【0042】
窒素原子及びエチレン性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、マレイミド化合物及びその誘導体、ニトリル系モノマー等が挙げられる。
マレイミド化合物及びその誘導体としては、例えば、マレイミド;N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド;N-フェニルマレイミド等のN-アリール置換マレイミド;等が挙げられる。ニトリル系モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0043】
以上の構成単位の中でも、ポリオレフィン系樹脂は、研削屑付着量をより低減するという観点から、炭素数2~6の鎖状オレフィンに由来する構成単位(以下、「鎖状オレフィン系構成単位(A)」ともいう)を含有することが好ましく、エチレンに由来する構成単位及びプロピレンに由来する構成単位からなる群から選択される1種以上を含有することがより好ましい。
【0044】
ポリオレフィン系樹脂としては、溶媒溶解性を向上させて塗布による表面コート層の形成を容易にするという観点から、鎖状オレフィン系構成単位(A)と共に、酸素原子及びエチレン性不飽和結合を有するモノマーに由来する構成単位(以下、「酸素原子を含む構成単位(B)」ともいう)を含有するもの、鎖状オレフィン系構成単位(A)と共に、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位(以下、「芳香族ビニル化合物系構成単位(C)」ともいう)を含有するものが好ましい。
【0045】
ポリオレフィン系樹脂が、鎖状オレフィン系構成単位(A)及び酸素原子を含む構成単位(B)を含有する場合、ポリオレフィン系樹脂中における鎖状オレフィン系構成単位(A)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは80~99.5質量%、より好ましくは90~99質量%、さらに好ましくは95~98.8質量%である。
ポリオレフィン系樹脂が、鎖状オレフィン系構成単位(A)及び酸素原子を含む構成単位(B)を含有する場合、ポリオレフィン系樹脂中における酸素原子を含む構成単位(B)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは1.2~5質量%である。
鎖状オレフィン系構成単位(A)及び酸素原子を含む構成単位(B)の含有量が上記範囲であると、良好な溶媒溶解性が得られつつ、研削屑付着量をより低減できる傾向にある。
【0046】
鎖状オレフィン系構成単位(A)及び酸素原子を含む構成単位(B)を含有するポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-(メタ)アクリレート共重合体等の二元共重合体;エチレン-無水マレイン酸-酢酸ビニル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル-(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-無水マレイン酸-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-無水マレイン酸-(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-酢酸ビニル-(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-プロピレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン-(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ブテン-(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリレート共重合体等の多元重合体;等が挙げられる。
これらの中でも、研削屑付着量をより低減するという観点及び溶媒溶解性を向上させて塗布による表面コート層の形成を容易にするという観点から、プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体が好ましい。
【0047】
ポリオレフィン系樹脂が、鎖状オレフィン系構成単位(A)及び芳香族ビニル化合物系構成単位(C)を含有する場合、ポリオレフィン系樹脂中における鎖状オレフィン系構成単位(A)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。
ポリオレフィン系樹脂が、鎖状オレフィン系構成単位(A)及び芳香族ビニル化合物系構成単位(C)を含有する場合、ポリオレフィン系樹脂中における芳香族ビニル化合物系構成単位(C)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは40~95質量%、より好ましくは50~90質量%、さらに好ましくは60~80質量%である。
鎖状オレフィン系構成単位(A)及び芳香族ビニル化合物系構成単位(C)の含有量が上記範囲であると、良好な溶媒溶解性が得られつつ、研削屑付着量をより低減できる傾向にある。
【0048】
鎖状オレフィン系構成単位(A)及び芳香族ビニル化合物系構成単位(C)を含有するポリオレフィン系樹脂としては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物等が挙げられる。スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物としては、ブタジエンブロック中の炭素-炭素二重結合を完全水添してなるSEBSと、ブタジエンブロック中の1,2-結合部位の炭素-炭素二重結合を部分水添してなるSBBS等が挙げられる。これらの中でも、SEBSが好ましい。
【0049】
ポリオレフィン系樹脂としては、表面コート層を形成可能であれば、上記以外のものであってもよい。上記以外のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体等の鎖状オレフィン系構成単位(A)のみから構成されるポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン等の芳香族ビニル化合物系構成単位(C)のみから構成されるポリオレフィン系樹脂;等が挙げられる。
【0050】
ポリオレフィン系樹脂は、塗布による表面コート層の形成を容易にするという観点から、有機溶媒に対して溶解性を有することが好ましい。具体的には、ポリオレフィン系樹脂は、23℃において、トルエンに対して、1質量%以上溶解するものが好ましく、5質量%以上溶解するものがより好ましく、8質量%以上溶解するものがさらに好ましい。
【0051】
表面コート層形成用組成物中におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、表面コート層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは50~99質量%、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは70~85質量%である。
ポリオレフィン系樹脂の含有量が、上記下限値以上であると、研削屑付着量をより低減できる傾向にある。また、ポリオレフィン系樹脂の含有量が、上記上限値以下であると、シリコーン化合物の添加による搬送性の向上が得られ易い傾向にある。
【0052】
(エネルギー線重合性多官能化合物)
表面コート層形成用組成物は、さらに、エネルギー線重合性多官能化合物を含有することが好ましい。表面コート層形成用組成物が、エネルギー線重合性多官能化合物を含有することによって、本実施形態の粘着シートが有する表面コート層は、緩衝層との密着性に優れるものになる傾向にある。
【0053】
エネルギー線重合性多官能化合物は、エネルギー線重合性官能基を2個以上有する化合物である。エネルギー線重合性多官能化合物が有するエネルギー線重合性官能基の数は、好ましくは2~10個、より好ましくは3~8個、さらに好ましくは4~7個である。
エネルギー線重合性多官能化合物が有するエネルギー線重合性官能基としては(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0054】
エネルギー線重合性多官能化合物としては、多官能(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、ジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート等の2官能(メタ)アクリレートモノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが好ましく、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートがより好ましい。
【0055】
表面コート層形成用組成物中におけるエネルギー線重合性多官能化合物の含有量は、表面コート層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは10~20質量%である。
エネルギー線重合性多官能化合物の含有量が、上記下限値以上であると、表面コート層が緩衝層との密着性に優れるものになる傾向にある。また、エネルギー線重合性多官能化合物の含有量が、上記上限値以下であると、シリコーン化合物及びポリオレフィン系樹脂の添加による研削屑付着量の低減及び搬送性の向上が得られ易い傾向にある。
【0056】
表面コート層形成用組成物がポリオレフィン系樹脂及びエネルギー線重合性多官能化合物を含有する場合、エネルギー線重合性多官能化合物の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、好ましくは10~60質量部、より好ましくは14~40質量部、さらに好ましくは17~30質量部である。
エネルギー線重合性多官能化合物の含有量が、上記下限値以上であると、表面コート層が緩衝層との密着性に優れるものになる傾向にある。また、エネルギー線重合性多官能化合物の含有量が、上記上限値以下であると、シリコーン化合物及びポリオレフィン系樹脂の添加による研削屑付着量の低減及び搬送性の向上が得られ易い傾向にある。
【0057】
(光重合開始剤)
表面コート層形成用組成物が、エネルギー線重合性多官能化合物を含有する場合、表面コート層形成用組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物、さらには、アミン、キノン等の光増感剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロロアンスラキノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
【0059】
表面コート層形成用組成物が光重合開始剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、エネルギー線重合反応を均質且つ十分に進行させるという観点から、エネルギー線重合性多官能化合物100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~7質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部である。
【0060】
(その他の成分)
表面コート層は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、上記以外の樹脂;帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤、充填剤、防錆剤、顔料、染料等の添加剤;等が挙げられる。
【0061】
(接触角)
本実施形態の粘着シートが有する表面コート層に対する、水の23℃における静的接触角(以下、単に「水接触角」ともいう)は、85°以上であることが好ましい。
表面コート層の水接触角が85°以上であると、研削屑を含む水が表面コート層に付着し難くなるため、研削屑付着量をより低減できる傾向にある。
表面コート層の水接触角は、研削屑付着量をより低減するという観点から、好ましくは90°以上、より好ましくは95°以上、さらに好ましくは98°以上である。表面コート層の水接触角の上限値は特に限定されないが、製造容易性等の観点から、例えば、150°以下であってもよく、110°以下であってもよい。
なお、表面コート層の水接触角は、JIS R 3257:1999に準拠して測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0062】
(静摩擦係数)
本実施形態の粘着シートが有する表面コート層のSUS304に対する静摩擦係数は、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.70以下である。表面コート層のSUS304に対する静摩擦係数が上記上限値以下であると、本実施形態の粘着シートは、研削屑付着量をより低減できると共に、搬送性がより良好になる傾向にある。
本実施形態の粘着シートが有する表面コート層のSUS304に対する静摩擦係数の下限値は特に限定されないが、製造容易性等の観点から、例えば、0.01以上であってもよく、0.10以上であってもよく、0.20以上であってもよい。
なお、表面コート層のSUS304に対する静摩擦係数は、JIS K 7125:1999に準拠して測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0063】
表面コート層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.05~10μm、より好ましくは0.2~7μm、さらに好ましくは1~4μmである。
表面コート層の厚さが上記下限値以上であると、均一な層形成が可能となり、研削屑付着量をより低減できると共に、搬送性がより良好になる傾向にある。また、表面コート層の厚さが上記上限値以下であると、チャックテーブル上の異物等の凹凸を吸収するという緩衝層の効果が得られ易くなる傾向にある。
【0064】
<緩衝層>
緩衝層は、基材と表面コート層との間に設けられる層であり、裏面研削時に生じる振動、衝撃等を吸収し、ワークにクラックが発生することを防止する役割を担う層である。さらには、緩衝層を設けることによって、支持装置のテーブル上に存在する異物等の凹凸を吸収して、支持装置による粘着シートの保持性を向上させることもできる。
【0065】
(緩衝層形成用組成物)
緩衝層は、緩衝層形成用組成物から形成することができる。
緩衝層は、緩衝層に適した物性を得るという観点から、エネルギー線重合性化合物を含有する緩衝層形成用組成物をエネルギー線硬化させた層であることが好ましい。
緩衝層形成用組成物は、エネルギー線重合性化合物として、ウレタン(メタ)アクリレート(a1)を含有することが好ましい。緩衝層形成用組成物が、ウレタン(メタ)アクリレート(a1)を含有することで、緩衝層の貯蔵弾性率等を良好な範囲に調整できる傾向にある。
また、緩衝層形成用組成物は、同様の観点から、ウレタン(メタ)アクリレート(a1)に加えて、環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)及び官能基を有する重合性化合物(a3)からなる群から選択される1種以上を含有することがより好ましく、ウレタン(メタ)アクリレート(a1)に加えて、環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)及び官能基を有する重合性化合物(a3)を含有することがさらに好ましい。
なお、本明細書中、環形成原子数とは、原子が環状に結合した構造の化合物の当該環自体を構成する原子の数を表し、環を構成しない原子(例えば、環を構成する原子に結合した水素原子)、及び当該環が置換基によって置換される場合の置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。
【0066】
〔ウレタン(メタ)アクリレート(a1)〕
ウレタン(メタ)アクリレート(a1)は、(メタ)アクリロイル基及びウレタン結合を有する化合物であり、エネルギー線照射により重合する性質を有するものである。
ウレタン(メタ)アクリレート(a1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
ウレタン(メタ)アクリレート(a1)の質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは2,000~60,000、さらに好ましくは3,000~20,000である。
なお、本実施形態において、質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値を意味し、具体的には実施例に記載の方法により測定された値である。
【0068】
ウレタン(メタ)アクリレート(a1)が1分子中に有する(メタ)アクリロイル基の数は、特に限定されないが、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1個又は2個である。
【0069】
ウレタン(メタ)アクリレート(a1)は、例えば、ポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得ることができる。
【0070】
ポリオール化合物としては、ヒドロキシ基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されない。
ポリオール化合物の具体例としては、アルキレンジオール、ポリエーテル型ポリオール、ポリエステル型ポリオール、ポリカーボネート型ポリオール等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル型ポリオールが好ましい。
ポリオール化合物は、2官能のジオール、3官能のトリオール、4官能以上のポリオールのいずれであってもよいが、2官能のジオールが好ましく、ポリエステル型ジオールがより好ましい。
ポリオール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
多価イソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアネートジメチルシクロヘキサン等の脂環族系ジイソシアネート類;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート類;等が挙げられる。これらの中でも、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが好ましい。
多価イソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
末端イソシアネートウレタンプレポリマーと反応させるヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、少なくとも1分子中にヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば、特に限定されない。
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシシクロオクチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリルアミド;ビニルアルコール、ビニルフェノール、ビスフェノールAのジグリシジルエステルに(メタ)アクリル酸を反応させて得られる反応物;等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
末端イソシアネートウレタンプレポリマーと、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートと、を反応させる条件は、特に限定されないが、例えば、必要に応じて添加される有機溶媒、触媒等の存在下、60~100℃で1~4時間反応させる条件とすることができる。
【0074】
緩衝層形成用組成物中におけるウレタン(メタ)アクリレート(a1)の含有量は、特に限定されないが、緩衝層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。
なお、本実施形態において、緩衝層形成用組成物の有効成分とは、緩衝層形成用組成物中に含有される成分から、緩衝層を形成する過程で除去される有機溶媒等の成分を除いた成分を意味する。
【0075】
〔環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)〕
緩衝層形成用組成物が、環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)(以下、「脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)」ともいう)を含有することによって、緩衝層形成用組成物の成膜性が向上する傾向にある。
複素環基の環構造を形成する原子としては、例えば、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。
脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。
脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)が1分子中に有する(メタ)アクリロイル基の数は、特に限定されないが、好ましくは1個以上、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個である。
【0077】
脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)が有する脂環基又は複素環基の環形成原子数は、6~20であり、好ましくは6~18、より好ましくは6~16、さらに好ましくは7~12である。
【0078】
脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)としては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレート等の脂環基含有(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート等の複素環基含有(メタ)アクリレート;等が挙げられる。これらの中でも、脂環基含有(メタ)アクリレートが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0079】
緩衝層形成用組成物中の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)の含有量は、特に限定されないが、緩衝層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。
【0080】
〔官能基を有する重合性化合物(a3)〕
緩衝層形成用組成物が、官能基を有する重合性化合物(a3)を含有することによって、緩衝層形成用組成物の粘度を適度な範囲に調整できる傾向にある。
官能基を有する重合性化合物(a3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
官能基を有する重合性化合物(a3)が有する官能基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、アミド基、アミノ基等が挙げられる。
官能基を有する重合性化合物(a3)が1分子中に有する官能基の数は、1個以上であり、好ましくは1~3個、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個である。
【0082】
官能基を有する重合性化合物(a3)は、官能基と共に(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。
官能基を有する重合性化合物(a3)が1分子中に有する(メタ)アクリロイル基の数は、特に限定されないが、好ましくは1個以上、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個である。
【0083】
官能基を有する重合性化合物(a3)としては、例えば、水酸基含有重合性化合物、エポキシ基含有重合性化合物、アミド基含有重合性化合物、アミノ基含有重合性化合物等が挙げられる。
【0084】
水酸基含有重合性化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;等が挙げられる。
【0085】
エポキシ基含有重合性化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0086】
アミド基含有重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド等が挙げられる。
【0087】
アミノ基含有重合性化合物としては、例えば、第1級アミノ基含有(メタ)アクリレート、第2級アミノ基含有(メタ)アクリレート、第3級アミノ基含有(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0088】
これらの中でも、水酸基含有(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の芳香環を有する水酸基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0089】
緩衝層形成用組成物中における官能基を有する重合性化合物(a3)の含有量は、特に限定されないが、緩衝層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは15~25質量%である。
【0090】
〔その他の重合性化合物〕
緩衝層形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、(a1)~(a3)成分以外のその他の重合性化合物を含有していてもよい。
その他の重合性化合物としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のビニル化合物;等が挙げられる。
その他の重合性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
緩衝層形成用組成物中におけるその他の重合性化合物の含有量は、特に限定されないが、緩衝層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~10質量%、さらに好ましくは0~2質量%である。
【0091】
〔光重合開始剤〕
エネルギー線重合性化合物を含有する緩衝層形成用組成物は、エネルギー線照射による重合時間及びエネルギー線照射量を低減させるという観点から、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物、さらには、アミン、キノン等の光増感剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロロアンスラキノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。
【0093】
緩衝層形成用組成物中における光重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、エネルギー線硬化反応を均質且つ十分に進行させるという観点から、エネルギー線重合性化合物の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~15質量部、より好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは0.3~5質量部である。
【0094】
(その他の成分)
緩衝層形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、上記した樹脂以外の樹脂成分;帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤、充填剤、防錆剤、顔料、染料等のその他の添加剤;等が挙げられる。
緩衝層形成用組成物中のその他の樹脂成分の含有量は、特に限定されないが、緩衝層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~10質量%、さらに好ましくは0~2質量%である。
緩衝層形成用組成物中のその他の添加剤の含有量は、特に限定されないが、各々について、緩衝層形成用組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは0~6質量%、より好ましくは0.01~5質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%である。
【0095】
(緩衝層のヤング率)
緩衝層の23℃におけるヤング率は、基材の23℃におけるヤング率より小さく、具体的には、好ましくは1,200MPa未満、より好ましくは900MPa以下である。また。緩衝層の23℃におけるヤング率は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上である。
緩衝層の23℃におけるヤング率が上記上限値以下であると、裏面研削時に生じる振動、衝撃等を吸収する効果及び粘着シートの保持性が向上する傾向にある。また、緩衝層の23℃におけるヤング率が上記下限値以上であると、ワークを加工する際に緩衝層が過度に変形することを抑制できる傾向にある。
なお、緩衝層の23℃におけるヤング率は、JIS K 7127:1999に準拠して、試験速度200mm/分の条件にて測定することができる。
【0096】
(緩衝層の応力緩和率)
緩衝層の応力緩和率は、特に限定されないが、好ましくは70~100%、より好ましくは75~100%、さらに好ましくは78~98%である。
緩衝層の応力緩和率が上記範囲であると、裏面研削時に生じる振動、衝撃等を吸収する効果及び粘着シートの保持性が高くなる傾向にある。
緩衝層の応力緩和率は、厚さ200μmの緩衝層を15mm×140mmに切り出したものを試験片として、該試験片の両端20mmを掴み、200mm/分で10%伸張したときの応力A(N/m)、及び伸張停止から1分後の応力B(N/m)の値を用いて、下記式から求められる。
応力緩和率(%)=100×(A-B)/A(%)
【0097】
(緩衝層の厚さ)
緩衝層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは5~70μm、より好ましくは7~50μm、さらに好ましくは10~40μmである。
緩衝層の厚さが上記下限値以上であると、裏面研削時に生じる振動、衝撃等を吸収する効果及び粘着シートの保持性が高くなる傾向にある。また、緩衝層の厚さが上記上限値以下であると、ワークを加工する際に緩衝層が過度に変形することを抑制できる傾向にある。
【0098】
<粘着剤層>
粘着剤層は、基材の緩衝層とは反対の面側に設けられる層であり、ワークに貼付される層である。
粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤から形成される層であることが好ましい。粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成されることによって、エネルギー線硬化前においては十分な粘着性によってワーク表面を良好に保護することができ、エネルギー線硬化後においては剥離力が低減され、ワークからの剥離を容易にすることができる。
【0099】
エネルギー線硬化性粘着剤としては、例えば、下記のX型の粘着剤組成物、Y型の粘着剤組成物、XY型の粘着剤組成物等が挙げられる。
X型の粘着剤組成物:非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂I」ともいう)と、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物と、を含有するエネルギー線硬化性粘着剤組成物
Y型の粘着剤組成物:非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂の側鎖に不飽和基を導入したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂II」ともいう)を含有し、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含有しないエネルギー線硬化性粘着剤組成物
XY型の粘着剤組成物:上記エネルギー線硬化性の粘着性樹脂IIと、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物と、を含有するエネルギー線硬化性粘着剤組成物
これらの中でも、エネルギー線硬化性粘着剤は、XY型の粘着剤組成物であることが好ましい。XY型の粘着剤組成物を使用することによって、硬化前においては十分な粘着性を有する一方で、硬化後においてはワークに対する剥離力を十分に低減できる傾向にある。
【0100】
粘着剤層を形成する粘着剤は、エネルギー線を照射しても硬化しない非エネルギー線硬化性の粘着剤から形成される層であってもよい。
非エネルギー線硬化性の粘着剤としては、例えば、粘着性樹脂Iを含有する一方、粘着性樹脂II及びエネルギー線硬化性化合物を含有しないものが挙げられる。
【0101】
次に、粘着剤層を構成する各成分について、より詳細に説明する。
以下の説明において「粘着性樹脂」は、粘着性樹脂I及び粘着性樹脂IIの一方又は両方を指す用語として使用する。また、以下の説明において、単に「粘着剤組成物」と記載する場合、X型の粘着剤組成物、Y型の粘着剤組成物、XY型の粘着剤組成物及びこれらの以外の粘着剤組成物も含める概念とする。
【0102】
粘着性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系樹脂が好ましい。
【0103】
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することが好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートが有するアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
【0104】
アクリル系樹脂は、粘着剤層の粘着力をより向上させるという観点から、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することが好ましい。
アクリル系樹脂に含有されるアルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、1種単独又は2種以上であってもよい。
アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートが有するアルキル基の炭素数は、好ましくは4~12、より好ましくは4~8、さらに好ましくは4~6である。
アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチルアクリレートがより好ましい。
アクリル系樹脂が、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する場合、その含有量は、粘着剤層の粘着力をより向上させるという観点から、アクリル系樹脂中、好ましくは30~90質量%、より好ましくは40~80質量%、さらに好ましくは45~60質量%である。
【0105】
アクリル系樹脂は、粘着剤層の貯蔵弾性率G’及び粘着特性を良好にするという観点から、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位と共に、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することが好ましい。
アクリル系樹脂に含有されるアルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、1種単独又は2種以上であってもよい。
アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレートがさらに好ましい。
アクリル系樹脂が、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する場合、その含有量は、アクリル系樹脂中、好ましくは1~35質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは15~25質量%である。
【0106】
アクリル系樹脂は、さらに、官能基含有モノマーに由来する構成単位を含有することが好ましい。
アクリル系樹脂が官能基含有モノマーに由来する構成単位を含有することによって、架橋剤と反応する架橋起点としての官能基、又は不飽和基含有化合物と反応して、アクリル系樹脂の側鎖に不飽和基を導入することを可能とする官能基を導入することができる。
アクリル系樹脂に含有される官能基含有モノマーに由来する構成単位は、1種単独又は2種以上であってもよい。
【0107】
官能基含有モノマーとしては、例えば、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。これらの中でも、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーが好ましく、水酸基含有モノマーがより好ましい。
水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール;等が挙げられる。
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物;2-カルボキシエチルメタクリレート;等が挙げられる。
【0108】
アクリル系樹脂が、官能基含有モノマーに由来する構成単位を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、アクリル系樹脂中、好ましくは5~45質量%、より好ましくは15~40質量%、さらに好ましくは25~35質量%である。
【0109】
アクリル系樹脂は、上記の構成単位以外にも、アクリル系モノマーと共重合可能なその他のモノマーに由来する構成単位を含有していてもよい。
アクリル系樹脂に含有されるその他のモノマーに由来する構成単位は、1種単独又は2種以上であってもよい。
その他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド等が挙げられる。
【0110】
アクリル系樹脂は、さらに、エネルギー線硬化性を付与するために、エネルギー線重合性を有する不飽和基を導入したものであってもよい。
不飽和基は、例えば、官能基含有モノマーに由来する構成単位を含有するアクリル系樹脂の官能基と、該官能基と反応性を有する反応性置換基及び不飽和基を有する化合物(以下、「不飽和基含有化合物」ともいう)の反応性置換基と、を反応させることによって導入することができる。不飽和基含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
不飽和基含有化合物が有する不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
不飽和基含有化合物が有する反応性置換基としては、例えば、イソシアネート基、グリシジル基等が挙げられる。
不飽和基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0111】
官能基含有モノマーに由来する構成単位を含有するアクリル系樹脂と、不飽和基含有化合物と、を反応させる場合、アクリル系樹脂中の官能基の総数中、不飽和基含有化合物と反応する官能基の比率は、特に限定されないが、好ましくは60~98モル%、より好ましくは70~95モル%、さらに好ましくは80~93モル%である。
不飽和基含有化合物と反応する官能基の比率が上記範囲であると、アクリル系樹脂に対して十分なエネルギー線硬化性を付与できると共に、不飽和基含有化合物と反応しなかった官能基を架橋剤と反応させてアクリル系樹脂を架橋させることができる。
【0112】
アクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは30万~150万、より好ましくは35万~100万、さらに好ましくは40万~60万である。
アクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)が上記範囲であると、粘着剤層の粘着力及び凝集力がより良好になる傾向にある。
【0113】
(エネルギー線硬化性化合物)
X型又はXY型の粘着剤組成物に含有されるエネルギー線硬化性化合物としては、分子内に不飽和基を有し、エネルギー線照射によって硬化可能なモノマー又はオリゴマーが好ましい。
エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートモノマー;ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマー;等が挙げられる。これらの中でも、比較的分子量が高く、粘着剤層の弾性率を低下させ難いという観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
【0114】
エネルギー線硬化性化合物の分子量は、特に限定されないが、好ましくは100~12,000、より好ましくは200~10,000、さらに好ましくは400~8,000、よりさらに好ましくは600~6,000である。なお、エネルギー線硬化性化合物がオリゴマーである場合、上記分子量は、質量平均分子量(Mw)を意味する。
【0115】
X型の粘着剤組成物中におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、特に限定されないが、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは40~200質量部、より好ましくは50~150質量部、さらに好ましくは60~90質量部である。
X型の粘着剤組成物中におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量が上記範囲であると、エネルギー線照射前の粘着力とエネルギー線照射後の剥離性のバランスが良好になる傾向にある。
【0116】
XY型の粘着剤組成物中におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、特に限定されないが、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~20質量部、さらに好ましくは3~15質量部である。
XY型の粘着剤組成物中におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量が上記範囲であると、エネルギー線照射前の粘着力とエネルギー線照射後の剥離性のバランスが良好になる傾向にある。なお、XY型の粘着剤組成物は、粘着性樹脂が、エネルギー線硬化性であるため、エネルギー線硬化性化合物の含有量が少なくても、エネルギー線照射後、剥離力を十分に低減できる傾向にある。
【0117】
(架橋剤)
粘着剤組成物は、さらに架橋剤を含有することが好ましい。
架橋剤は、例えば、粘着性樹脂が有する官能基含有モノマーに由来する官能基と反応することによって、粘着性樹脂同士を架橋させるものである。
架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、これらのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤;エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤;ヘキサ〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕トリフォスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤;アルミニウムキレート等のキレート系架橋剤;等が挙げられる。これらの中でも、凝集力を高めて粘着力をより向上させるという観点及び入手容易性の観点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0119】
粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、架橋反応を適度に進行させるという観点から、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~7質量部、さらに好ましくは0.05~4質量部である。
【0120】
(光重合開始剤)
粘着剤がエネルギー線硬化性粘着剤である場合、粘着剤組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。エネルギー線硬化性粘着剤が光重合開始剤を含有することによって、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線でも、エネルギー線硬化性粘着剤の硬化反応が十分に進行する傾向にある。
光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0121】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物、さらには、アミン、キノン等の光増感剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロロアンスラキノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
【0122】
エネルギー線硬化性粘着剤が光重合開始剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、エネルギー線硬化反応を均質且つ十分に進行させるという観点から、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~7質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部である。
【0123】
(その他の添加剤)
粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。
粘着剤組成物中のその他の添加剤の含有量は、特に限定されないが、各々について、粘着剤組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは0~6質量%、より好ましくは0.01~5質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%である。
なお、本実施形態において、粘着剤組成物の有効成分とは、粘着剤組成物中に含有される成分から、粘着剤層を形成する過程で除去される有機溶媒等の成分を除いた成分を意味する。
【0124】
(有機溶媒)
粘着剤組成物は、基材、剥離シート等への塗布性をより向上させるという観点から、有機溶媒で希釈して、溶液の形態としてもよい。
有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機溶媒は、粘着性樹脂の合成時に使用された有機溶媒をそのまま用いてもよいし、合成時に使用された有機溶媒以外の1種以上の有機溶媒を加えてもよい。
【0125】
粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率G’は、特に限定されないが、好ましくは0.05~0.5MPa、より好ましくは0.1~0.4MPa、さらに好ましくは0.12~0.3MPaである。
粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率G’が上記範囲であると、ワークの表面に凹凸がある場合でも、凹凸形状への追従性に優れる粘着剤層が得られ、加工時にワークの表面をより良好に保護できる傾向にある。
なお、粘着剤層の貯蔵弾性率G’は、粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成される場合には、エネルギー線照射による硬化前の貯蔵弾性率G’を意味する。
粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率G’は、厚さ3mmの粘着剤層を直径8mmの円形に切り出したものを試験片として、粘弾性測定装置を用いたねじりせん断法により、周波数1Hz、測定温度23℃の条件にて測定することができる。
【0126】
粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~80μm、さらに好ましくは15~60μmである。
粘着剤層の厚さが上記下限値以上であると、優れた粘着性が得られ、加工時にワークの表面をより良好に保護できる傾向にある。また、粘着剤層の厚さが上記上限値以下であると、粘着シートの切断時におけるテープ屑の発生が抑制され、ワークの破損をより良好に防止できる傾向にある。
【0127】
<基材>
基材としては、例えば、各種の樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン;ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、エチレン-ノルボルネン共重合体、ノルボルネン樹脂等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等のポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル;ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、アクリル系重合体;等が挙げられる。
基材は、これらの樹脂から選択される1種又は2種以上の樹脂からなる樹脂フィルムの単層フィルムであってもよく、これらの樹脂フィルムを2種以上積層した積層フィルムであってもよい。また、上記樹脂の架橋フィルム、アイオノマーフィルム等の変性フィルムであってもよい。
これらの樹脂フィルムの中でも、基材は、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選択される1種以上が好ましく、ポリエステルフィルムがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがさらに好ましい。
【0128】
基材のヤング率は、特に限定されないが、好ましくは1,000MPa以上、より好ましくは1,800~30,000MPa、さらに好ましくは2,500~6,000MPaである。
基材のヤング率が上記下限値以上であると、ワーク加工時における振動抑制効果がより向上する傾向にある。また、基材のヤング率が上記上限値以下であると、ワークに貼付する際の作業性、及びワークから剥離する際の作業性が良好になる傾向にある。
なお、基材のヤング率は、JIS K 7127:1999に準拠して、試験速度200mm/分の条件にて測定することができる。
【0129】
基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10~200μm、より好ましくは25~100μm、さらに好ましくは30~70μmである。
基材の厚さが上記下限値以上であると、粘着シートの支持体として機能するための十分な強度が得られる傾向にある。また、基材の厚さが上記上限値以下であると、適度な可撓性が得られ、取り扱い性が向上する傾向にある。
なお、「基材の厚さ」とは、基材全体の厚さを意味し、基材が複数層からなる基材である場合は、基材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0130】
基材は、本発明の効果を損なわない範囲において、可塑剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、フィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、触媒等を含有していてもよい。
基材は、透明なものであっても、不透明なものであってもよく、所望により着色又は蒸着されていてもよい。
基材は、他の層との接着性を向上させるという観点から、少なくとも一方の面に対して、コロナ処理等の表面処理を施したものであってもよく、接着性向上を目的とするコート層を設けたものであってもよい。
【0131】
<剥離シート>
本実施形態の粘着シートは、粘着剤層の表面及び表面コート層の表面の少なくとも一方に剥離シートが貼付されていてもよい。剥離シートは、使用前の粘着シートの表面に剥離可能に貼付されることで該表面を保護し、粘着シートを使用する際には剥離されて取り除かれる。
剥離シートは、片面剥離処理された剥離シートであってもよく、両面剥離処理された剥離シートであってもよい。
剥離シートとしては、剥離シート用基材に剥離剤を塗布した剥離シートが好ましく挙げられる。
剥離シート用基材としては、樹脂フィルムが好ましく、該樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステルフィルム;ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルム;等が挙げられる。
剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー;長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
剥離シートの厚さは、特に限定されないが、好ましくは5~200μm、より好ましくは10~100μm、さらに好ましくは20~50μmである。
【0132】
本実施形態の粘着シートの総厚は、特に限定されないが、好ましくは30~300μm、より好ましくは40~220μm、さらに好ましくは45~160μmである。
粘着シートの総厚が上記下限値以上であると、粘着剤層の粘着性能、緩衝層の衝撃吸収性能等が適切に維持され、半導体加工用粘着シートとしての機能を十分に発揮できる傾向にある。また、粘着シートの総厚が上記上限値以下であると、ワークを粘着シートから剥離する際の剥離力を小さくできる傾向にある。
なお、本実施形態において、「粘着シートの総厚」とは、粘着シートの表面コート層の表面から粘着剤層の表面までの厚さを意味し、剥離シートが設けられる場合、剥離シートの厚さは総厚に含まれない。
【0133】
<粘着シートの製造方法>
本実施形態の粘着シートの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
本実施形態の粘着シートは、例えば、基材の一方の面側に粘着剤層を形成する工程(以下、「粘着剤層形成工程」ともいう)、基材の他方の面側に緩衝層を形成する工程(以下、「緩衝層形成工程」ともいう)、緩衝層の基材と反対の面側に表面コート層を形成する工程(以下、「表面コート層形成工程」ともいう)を有する方法によって製造することができる。なお、これらの工程の順番は特に限定されず、同時に実施することができる場合は、同時に実施してもよい。
【0134】
粘着剤層、緩衝層又は表面コート層を形成する方法としては、例えば、所定の位置に、粘着剤組成物、緩衝層形成用組成物又は表面コート層用塗布液を、公知の方法によって塗布した後、必要に応じて、エネルギー線照射、加熱乾燥等を行う方法が挙げられる。
【0135】
粘着剤組成物、緩衝層形成用組成物又は表面コート層用塗布液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0136】
粘着剤層形成工程は、例えば、剥離シート上に形成した粘着剤層を基材の表面に貼り合わせる方法であってもよく、基材の表面に、粘着剤組成物を直接塗布することによって粘着剤層を形成する方法であってもよい。
緩衝層形成工程において、緩衝層形成用組成物は、剥離シート上に塗布してもよく、基材の表面に直接塗布してもよい。緩衝層形成用組成物を剥離シート上に塗布する場合、剥離シート上の緩衝層形成用組成物から形成される層(以下、「緩衝層形成用組成物層」ともいう)は、その後、基材の表面に貼付される。剥離シート上の緩衝層形成用組成物層は、緩衝層そのものであってもよいし、緩衝層形成用組成物が硬化性を有するものである場合、硬化性を有する緩衝層形成用組成物の未硬化物又は半硬化物であってもよい。基材上に緩衝層形成用組成物の未硬化物又は半硬化物を形成した場合、その後、緩衝層形成用組成物を完全硬化させる処理を施す。
表面コート層形成工程において、表面コート層用塗布液は、剥離シート上に塗布してもよく、緩衝層の表面に直接塗布してもよい。表面コート層用塗布液を剥離シート上に塗布する場合、剥離シート上の表面コート層形成用組成物から形成される層(以下、「表面コート層形成用組成物層」ともいう)は、その後、緩衝層の表面に貼付される。剥離シート上の表面コート層形成用組成物層は、表面コート層そのものであってもよいし、表面コート層形成用組成物が硬化性を有するものである場合、硬化性を有する表面コート層形成用組成物の未硬化物又は半硬化物であってもよい。緩衝層上に表面コート層形成用組成物の未硬化物又は半硬化物を形成した場合、その後、表面コート層形成用組成物を完全硬化させる処理を施す。
また、緩衝層形成工程及び表面コート層形成工程は、剥離シート上に表面コート層及び緩衝層をこの順で設けた後、緩衝層を基材の表面に貼り合わせる方法であってもよい。
【0137】
緩衝層形成用組成物がエネルギー線重合性化合物を含有する場合、緩衝層形成工程は、緩衝層形成用組成物に対して、エネルギー線を照射する工程を含むことが好ましい。
緩衝層形成用組成物がエネルギー線重合性化合物を含有する場合、エネルギー線照射による硬化処理は、一回で行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。
エネルギー線照射による硬化処理を一回で行う場合、基材上に緩衝層形成用組成物の塗布膜を形成した後、エネルギー線照射によって緩衝層形成用組成物を完全に硬化させてもよく、剥離シート上で緩衝層形成用組成物を完全に硬化させてから、これを基材に貼り合わせてもよい。
表面コート層形成用組成物がエネルギー線重合性化合物を含有する場合、表面コート層形成工程は、表面コート層形成用組成物に対して、エネルギー線を照射する工程を含むことが好ましい。表面コート層形成用組成物に対して、エネルギー線を照射する時期は特に限定されず、表面コート層形成用組成物を緩衝層又は緩衝層形成用組成物層に積層する前又は積層した後のいずれであってもよい。
緩衝層形成用組成物の硬化処理を複数回に分けて行う場合、剥離シート上に緩衝層形成用組成物の塗布膜を形成した後、剥離シート上では緩衝層形成用組成物を完全には硬化させずに、半硬化の状態まで硬化させてから剥離シート上に設けた表面コート層形成用組成物層に貼り合わせ、その後、再度エネルギー線を照射することによって緩衝層形成用組成物を完全に硬化させてもよい。表面コート層形成用組成物がエネルギー線重合性化合物を含有する場合は、緩衝層形成用組成物を完全に硬化させるためのエネルギー線照射によって、表面コート層形成用組成物を同時に硬化させてもよい。
なお、緩衝層形成用組成物及び表面コート層形成用組成物の硬化処理で照射するエネルギー線としては、紫外線が好ましい。
緩衝層形成用組成物及び表面コート層形成用組成物に対してエネルギー線を照射して硬化させる際、緩衝層形成用組成物及び表面コート層形成用組成物は外部に暴露された状態であってもよいが、両面が剥離シート、基材等の部材によって覆われ、外部に暴露されていない状態でエネルギー線を照射することが好ましい。
【0138】
<粘着シートの用途>
本実施形態の粘着シートを貼付した状態で行われるワークの加工としては、例えば、半導体装置の一方の面に粘着シートを貼付した状態で他方の面を研削するバックグラインド加工、半導体装置の一方の面に粘着シートを貼付した状態で半導体装置を個片化するダイシング加工、半導体装置の搬送、半導体チップのピックアップ等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態の粘着シートはバックグラインド加工に好適であり、半導体ウエハの回路形成面に本実施形態の粘着シートを貼付した状態で半導体ウエハの裏面を研削するバックグラインド加工により好適である。特に、本実施形態の粘着シートは、半導体ウエハを薄型化する際におけるクラックの発生を抑制する効果を有するため、先ダイシング法、ステルス先ダイシング法等のプロセスに好適である。
【0139】
[半導体装置の製造方法]
本実施形態の半導体装置の製造方法は、
本実施形態の半導体加工用粘着シートを、前記粘着剤層を貼付面として半導体ウエハの表面に貼付する工程と、
前記半導体ウエハに貼付された前記半導体加工用粘着シートの前記表面コート層側を支持装置によって固定した状態で、前記半導体ウエハの裏面を研削する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法である。
【0140】
また、本実施形態の半導体装置の製造方法は、
半導体ウエハの表面に溝を形成する工程a、又は半導体ウエハの表面若しくは裏面から前記半導体ウエハの内部に改質領域を形成する工程bである、分割予定ライン形成工程と、
前記工程aの後、又は前記工程bの前若しくは後に、本実施形態の半導体加工用粘着シートを、前記粘着剤層を貼付面として、前記半導体ウエハの表面に貼付する、シート貼付工程と、
前記半導体ウエハに貼付された半導体加工用粘着シートの前記表面コート層側を支持装置によって固定した状態で、前記半導体ウエハの裏面を研削して、前記溝又は改質領域を起点として複数の半導体チップに個片化する、研削及び個片化工程と、
を含む、半導体装置の製造方法であることが好ましい。
さらに、本実施形態の半導体装置の製造方法は、研削及び個片化工程の後に、複数の半導体チップから、本実施形態の半導体加工用粘着シートを剥離する、剥離工程を含んでいてもよい。
なお、上記工程aを有する半導体装置の製造方法は、先ダイシング法に相当するプロセスであり、上記工程bを有する半導体装置の製造方法は、ステルス先ダイシング法に相当するプロセスである。
【0141】
本実施形態の製造方法で用いる半導体ウエハとしては、例えば、シリコンウエハ、ガリウム砒素ウエハ、窒化ガリウムウエハ、シリコンカーバイドウエハ、ガラスウエハ、サファイアウエハ等が挙げられる。これらの中でも、シリコンウエハが好ましい。
半導体ウエハの表面には、通常、配線、キャパシタ、ダイオード、トランジスタ等の回路が形成されている。これらの回路は、例えば、エッチング法、リフトオフ法等の従来公知の方法によって形成することができる。
半導体ウエハの研削前の厚さは、特に限定されないが、通常は500~1,000μmである。
以下、本実施形態の半導体装置の製造方法の各工程を詳細に説明する。
【0142】
<分割予定ライン形成工程>
分割予定ライン形成工程は、半導体ウエハの表面に溝を形成する工程a、又は半導体ウエハの表面若しくは裏面から前記半導体ウエハの内部に改質領域を形成する工程bである。
【0143】
工程aは半導体ウエハの表面に溝を形成する工程であり、粘着シートを半導体ウエハの表面に貼付する前に行われる。
工程aで半導体ウエハの表面に形成する溝は、半導体ウエハの厚さよりも深さが浅い溝である。工程aの後に半導体ウエハは工程aで形成した溝に至るまで裏面研削され、複数の半導体チップに分割される。そのため、工程aにおいて溝は、半導体ウエハが分割されて半導体チップに個片化される際の分割ラインに沿って形成される。
溝の形成は、従来公知のウエハダイシング装置等を用いたダイシングによって行うことが可能である。
【0144】
工程bは、半導体ウエハの表面若しくは裏面から前記半導体ウエハの内部に改質領域を形成する工程であり、粘着シートを半導体ウエハの表面に貼付する前に行ってもよく、後に行ってもよい。
工程bにおいて改質領域は、半導体ウエハの内部に焦点を合わせたレーザーの照射によって半導体ウエハの内部に形成される。該改質領域は、半導体ウエハにおいて、脆質化された部分であり、裏面研削によって半導体ウエハが薄くなったり、研削による力が加わったりすることによって破壊されて、半導体ウエハが半導体チップに個片化される起点になる領域である。そのため、改質領域は、半導体ウエハが分割されて半導体チップに個片化される際の分割ラインに沿って形成される。
レーザーの照射は、半導体ウエハの表面側から行ってもよく、裏面側から行ってもよい。工程bを、シート貼付工程後に行う場合、粘着シートを介して半導体ウエハにレーザーを照射してもよい。
【0145】
<シート貼付工程>
シート貼付工程は、工程aの後、又は工程bの前若しくは後に、粘着シートを、粘着剤層を貼付面として、半導体ウエハの表面に貼付する工程である。
粘着シートを貼付する方法は特に限定されず、例えば、ラミネーター等を使用する、従来公知の方法を適用することができる。
【0146】
<研削及び個片化工程>
研削及び個片化工程は、半導体ウエハに貼付された粘着シートの表面コート層側を支持装置によって固定した状態で、半導体ウエハの裏面を研削して、上記溝又は改質領域を起点として複数の半導体チップに個片化する工程である。
粘着シートが貼付され、かつ溝又は改質領域を形成された半導体ウエハは、粘着シートの表面コート層側を支持装置によって固定される。支持装置としては、特に限定されないが、チャックテーブル等の固定対象物を吸引して保持する装置が好ましい。
【0147】
次いで、固定された半導体ウエハの裏面を研削して、半導体ウエハを複数の半導体チップに個片化する。
裏面研削は、工程aによって半導体ウエハに溝が形成されている場合には、少なくとも研削面が溝の底部に至る位置まで半導体ウエハを研削する。この裏面研削によって、溝は、ウエハを貫通する切り込みとなり、半導体ウエハは切り込みによって分割されて、個々の半導体チップに個片化される。
一方、工程bによって半導体ウエハに改質領域が形成されている場合には、研削面は改質領域に至ってもよいが、厳密に改質領域まで至らなくてもよい。すなわち、改質領域を起点として半導体ウエハが破壊されて半導体チップに個片化されるように、改質領域に近接する位置まで研削すればよい。例えば、半導体ウエハを個片化させることなく改質領域に近接する位置まで研削した後、半導体ウエハにピップアップテープを貼付して、該ピップアップテープを延伸することによって半導体チップに個片化させてもよい。
【0148】
個片化された半導体チップの形状は、方形であってもよく、矩形等の細長形状であってもよい。
個片化された半導体チップの厚さは、特に限定されないが、好ましくは5~100μm、より好ましくは7~70μm、さらに好ましくは10~45μmである。
個片化された半導体チップのチップサイズは、特に限定されないが、好ましくは50mm未満、より好ましくは30mm未満、さらに好ましくは10mm未満である。
【0149】
<剥離工程>
剥離工程は、研削及び個片化工程の後に、複数の半導体チップから、粘着シートを剥離する工程である。
粘着シートの粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成される場合には、エネルギー線を照射することによって粘着剤を硬化させて、粘着剤層の剥離力を小さくしてから、粘着シートを剥離する。
なお、粘着シートを剥離する際には、ピックアップテープを使用してもよい。ピックアップテープは、例えば、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層を備える粘着シートによって構成されるものである。
ピックアップテープを使用する場合、まず、個片化された半導体ウエハの裏面側に、ピックアップテープを貼付し、ピックアップが可能なように位置及び方向合わせを行う。この際、半導体ウエハの外周側に配置したリングフレームもピックアープテープに貼り合わせて、ピックアップテープの外周縁部をリングフレームに固定することが好ましい。次いで、ピックアップテープ上に固定された複数の半導体チップから粘着シートを剥離する。
その後、ピックアップテープ上にある複数の半導体チップをピックアップしてから、基板等の上に固定化して、半導体装置を製造してもよい。
【実施例0150】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。各種物性の測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0151】
[質量平均分子量(Mw)]
質量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製、製品名「HLC-8220」)を用いて下記の条件で測定し、標準ポリスチレン換算にて求めた。
(測定条件)
・カラム:「TSK guard column HXL-H」「TSK gel GMHXL(×2)」「TSK gel G2000HXL」(いずれも東ソー株式会社製)
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
【0152】
[粘着シート等の厚さ測定]
定圧厚さ測定器(株式会社テクロック製、商品名「PG-02」)により粘着シートの総厚、各層の厚さ、これらから作製される試験片の厚さを測定した。この際、任意の10点を測定し、平均値を算出した。
なお、粘着シートの総厚は、剥離シート付き粘着シートの厚さを測定し、その厚さから剥離シートの厚さを減じた値である。
また、緩衝層の厚さは、緩衝層付き基材の厚さから、基材の厚さを減じた値である。
また、表面コート層の厚さは、剥離シート付き表面コート層の厚さから、剥離シートの厚さを減じた値である。
また、粘着剤層の厚さは、粘着シートの総厚から表面コート層、緩衝層及び基材の厚さを減じた値である。
【0153】
[静摩擦係数の測定]
粘着シートが有する表面コート層の静摩擦係数は、JIS K 7125:1999に準拠して、下記の手順で測定した。
実施例及び比較例で製造した粘着シートを63mm×63mmに切り出し、表面コート層側の剥離シートを剥離したものを滑り片とした。該滑り片と同一形状の面を有する重り(質量1,000g)を、当該面を貼付面として滑り片の粘着剤層に貼付してから、滑り片の表面コート層が接触面になるようにSUS304#600鋼板上に載置した。次いで、重りを、速度100mm/minで水平方向に引っ張り、引張における最大荷重から静摩擦係数を算出した。なお、試験は、23℃、湿度50%RHの環境下で実施した。
【0154】
[表面コート層の水接触角の測定]
表面コート層の水接触角は、JIS R 3257:1999に準拠して測定した。具体的には、実施例及び比較例で製造した粘着シートの表面コート層側の剥離シートを剥離し、露出した表面コート層の露出面に精製水を滴下した際の静的接触角を、全自動式接触角測定計(協和界面科学社製、製品名「DM-701」)を用いて以下の条件にて測定した。
・測定温度:23℃
・精製水の液滴量:2μl
・測定時間:滴下1秒後
・画像解析法:θ/2法
【0155】
[表面コート層の研削屑付着量の評価]
実施例及び比較例で製造した粘着シートを5cm角に切り出し、表面コート層側の剥離シートを剥離して表面コート層を露出させた試験片を準備した。該試験片の4角のうち任意の1角を固定して吊り下げ、シリコンウエハの研削屑を2質量%含む研削水に1分間浸漬した。研削水から試験片を取り出し、吊り下げたまま23℃で24時間静置して乾燥させた後、試験片の表面コート層を目視観察して、以下の基準にて研削屑付着量を評価した。なお、以下の評価基準において、「研削屑付着部」とは、表面コート層上に付着した研削水の液滴が乾燥してなる島状の研削屑付着箇所を意味する。
A:表面コート層上に研削屑付着部が1箇所ある、又は、研削屑付着部と識別できる程度に研削屑が付着していない。
B:表面コート層上に研削屑付着部が2箇所以上ある。
【0156】
[搬送性の評価]
実施例及び比較例で製造した粘着シートを、粘着剤層を貼付面として、シリコンミラーウエハ(直径12インチ、厚さ50μm、ドライポリッシュ仕上げ)に貼付して、粘着シート付きシリコンミラーウエハ(以下、「粘着シート付きウエハ」ともいう)を作製した。
該粘着シート付きウエハの表面コート層から剥離シートを剥離したものを、表面コート層が接触面になるように加熱テーブル上に載置して、80℃で3分間加熱した。その後、吸引機構による吸着面を備える搬送アームの吸着面を、上記粘着シート付きウエハのシリコンミラーウエハ側の表面に載置し、吸着面に粘着シート付きウエハを吸引吸着させた状態で、粘着シート付きウエハを上記加熱テーブルから持ち上げ可能か否かを試験し、以下の基準にて搬送性を評価した。
A:搬送アームによって粘着シート付きウエハを加熱テーブルから持ち上げることができた。
B:粘着シート付きウエハが加熱テーブルに密着し、搬送アームによって粘着シート付きウエハを加熱テーブルから持ち上げることができなかった。
【0157】
[緩衝層に用いるウレタンアクリレート系オリゴマーの調製]
製造例1
ポリエステルジオールと、イソホロンジイソシアネートを反応させて得られた末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて、質量平均分子量(Mw)5,000の2官能のウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0158】
[粘着剤層に用いるエネルギー線硬化性のアクリル系樹脂の調製]
製造例2
n-ブチルアクリレート52質量部、メチルメタクリレート20質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート28質量部を共重合してアクリル系重合体を得た。次いで、該アクリル系重合体の全水酸基のうち90モル%の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させて、質量平均分子量(Mw)が50万であるエネルギー線硬化性のアクリル系樹脂を得た。
【0159】
[粘着シートの製造]
実施例1~10、比較例1
次に、以下に示す方法によって粘着シートを製造した。なお、以下の説明における各成分の配合量は全て有効成分の配合量を意味する。
【0160】
(1)基材の準備
基材として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ヤング率:2,500MPa)を準備した。
【0161】
(2)表面コート層形成用組成物の調製
表1に示す各成分を有効成分濃度が10質量%になるようにトルエンに溶解させたものを表面コート層形成用組成物とした。
【0162】
(3)緩衝層形成用組成物の調製
製造例1で得たウレタンアクリレート系オリゴマー40質量部、イソボルニルアクリレート40質量部、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート20質量部、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.0質量部、及びフタロシアニン系顔料0.2質量部を配合し、緩衝層形成用組成物を調製した。
【0163】
(4)粘着剤組成物の調製
製造例2で得たエネルギー線硬化性のアクリル系樹脂100質量部、エネルギー線硬化性化合物である多官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル株式会社製、商品名「シコウUT-4332」、質量平均分子量(Mw)4,700)6質量部、イソシアネート系架橋剤(東ソー株式会社製、商品名「コロネートL」)0.375質量部、及び光重合開始剤としてのビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド1質量部を配合し、有機溶媒で希釈することによって粘着剤組成物を調製した。
【0164】
(5)粘着シートの作製
先に示した基材の一方の面に、上記で得た緩衝層形成用組成物を、形成される緩衝層の厚さが13μmになるように塗布した後、照度30mW/cm、照射量60mJ/cmの条件で紫外線を照射することによって緩衝層形成用組成物を半硬化させて、基材の一方の面に、緩衝層形成用組成物を半硬化させた層を形成した。
また、剥離シート(リンテック株式会社製、商品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に、上記で得た表面コート層形成用組成物を、乾燥後の厚さが2μmとなるようにマイヤーバーで塗布した後、加熱乾燥させて、剥離シート付き表面コート層を作製した。
該剥離シート付き表面コート層の表面コート層と、上記基材の一方の面に形成された緩衝層形成用組成物を半硬化させた層とを貼り合わせた後、照度160mW/cm、照射量500mJ/cmの条件で紫外線を照射することによって、緩衝層形成用組成物及び表面コート層形成用組成物を硬化させ、基材の一方の面上に、緩衝層及び表面コート層をこの順に有する積層体を得た。
また、剥離シート(リンテック株式会社製、商品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に、上記で得た粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布した後、加熱乾燥させて、粘着剤層付き剥離シートを作製した。
該粘着剤層付き剥離シートの粘着剤層を、上記積層体が有する基材の緩衝層が設けられていない面に貼付することによって、表面コート層、緩衝層、基材及び粘着剤層を、この順で有する粘着シートを得た。
【0165】
各実施例及び比較例で得られた粘着シートを用いて行った評価結果を表1に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
・H1043:水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、スチレン含有量:67質量%、旭化成株式会社製、商品名「タフテック(登録商標)H1043」
・PMA-L:プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸変性率:1.5質量%、質量平均分子量(Mw):75,000、東洋紡株式会社製、商品名「トーヨータック(登録商標)PMA-L」
【0168】
・X-22-164B:両末端にメタクリロイルオキシ基を有するポリジメチルシロキサン化合物、質量平均分子量(Mw);5,000、信越化学工業株式会社製、商品名「X-22-164B」
・X-22-164E:両末端にメタクリロイルオキシ基を有するポリジメチルシロキサン化合物、質量平均分子量(Mw);13,000、信越化学工業株式会社製、商品名「X-22-164E」
【0169】
・エネルギー線重合性多官能化合物:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD DPHA」
・光重合開始剤:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、IGM Resins B.V.製、商品名「Omnirad1173」
【0170】
表1から、シリコーン化合物を含有する表面コート層形成用組成物から形成した表面コート層を有する実施例1~10の粘着シートは、搬送性に優れ、研削屑付着量が十分に低減されていることが分かる。一方、シリコーン化合物を含有しない表面コート層形成用組成物から形成した表面コート層を有する比較例1の粘着シートは、搬送性に劣り、実施例1~10の粘着シートよりも研削屑付着量が多かった。