(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048150
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】異なった形で切断可能なリンカーを有する標識プローブならびにDNAおよびRNA分子の解読におけるそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6813 20180101AFI20230330BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20230330BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230330BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230330BHJP
C40B 40/06 20060101ALN20230330BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/11 Z
C40B40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022152661
(22)【出願日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】21199038
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】モング サノ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ペルボス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ピナード
(72)【発明者】
【氏名】シャオ-ペイ グアン
(72)【発明者】
【氏名】サメハ ソリマン
(72)【発明者】
【氏名】エミリー ニール
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR43
4B063QR48
4B063QR55
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハイブリダイゼーション及び脱ハイブリダイゼーションラウンドの繰返しを最小限に抑えて標的DNA及びRNA分子を解読するための迅速かつハイスループットのプロセスを提供する。
【解決手段】a)特定の構造と配列を有するプローブのライブラリー、及び切断可能なリンカー群を含み、b)ハイブリダイズしていないプローブを除去すると共に、ハイブリダイズしたプローブをフルオロフォアによって第1の画像として検出し、c)ハイブリダイズしたプローブからリンカー群を順次切断・除去すると共に、残りのハイブリダイズしたプローブを第2の画像として検出し、d)第1及び第2の画像を比較して、除去されたフルオロフォアを検出する、そして、e)除去されたフルオロフォアに関連するプローブの配列情報によって標的配列の配列情報の一部を得ること、f)リンカーの全ての群が切断されるまで工程c)を繰り返すこと、によって標的配列を検出する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般式(I)
P-(CL-D)x (I)
[式中、P:少なくとも10個のヌクレオチドまたはアミノ酸を有するプローブ
CL:切断可能なリンカー
D:蛍光色素
X:1~5の整数である]
を有するプローブのライブラリーをRNA、DNAまたはタンパク質の標的配列にハイブリダイズさせること、ここで、前記ライブラリーが、ヌクレオチドまたはアミノ酸の異なる配列を有するプローブPおよび異なる手段で切断可能な異なる群の切断可能なリンカーCLを含み、
b)ハイブリダイズしていないプローブを除去するとともに、ハイブリダイズした前記プローブを第1の画像でフルオロフォアDによって検出すること、
c)前記ハイブリダイズしたプローブから化学リンカーCLの各群を異なる手段によって順次切断し、このようにして切断された前記フルオロフォアDを除去するとともに、残りの前記ハイブリダイズしたプローブを第2の画像でそれらのフルオロフォアDによって検出すること、
d)前記第1および第2の画像を比較することによって、除去された前記フルオロフォアDを検出すること、
e)前記除去されたフルオロフォアDに関連する前記プローブPの配列情報によって前記標的配列の配列情報の一部を得ること、
f)化学リンカーCLの全ての群が切断されるまで、工程c)を繰り返すこと
によってRNA、DNAまたはタンパク質の標的配列を検出するための方法。
【請求項2】
工程f)の後に前記プローブPを前記RNA、DNAまたはタンパク質の標的配列から脱ハイブリダイズすることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記RNA、DNAまたはタンパク質の標的配列の前記配列情報が得られるまで、工程a)~f)を繰り返すことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記切断可能なリンカーCLが、化学的、光化学的または酵素的な手段によって切断可能であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記切断可能なリンカーCLが、多糖、タンパク質、ペプチド、デプシペプチド、ポリエステル、核酸およびそれらの誘導体からなる群から選択される酵素的に切断可能なリンカーであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記多糖が、デキストラン、プルラン、イヌリン、アミロース、セルロース、ヘミセルロース、キシラン、グルコマンナン、ペクチン、キトサンおよびキチンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記切断可能なリンカーCLが、ジスルフィドリンカー(-SS-、(a))、オキシメチレンジスルフィド(-OCH2SSCR1R2-、(b))、オキシメチンアジド(-CR1,R2OCH(N3)R3,R4)-、(c))、アゾアレーン(-ArN=NAr-、(d))、ニトロベンジル誘導体(e)、アリル誘導体(f)、チオカルバメート(g)からなる群から選択され、ここで、R1、R2、R3、R4は、独立してH、メチル、エチル、プロピル、t-ブチル、C5~C10アルキル、アルケン、アルキン、ヒドロキシル、ハロゲン、アミン、アミド、カルボキシレート、ポリエチレングリコールであり得ることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ライブラリーが、2つの異なる光化学活性化放射線、2つの異なる酵素、2つの異なる化学物質、1つの光化学活性化放射線および1つの酵素、1つの光化学活性化放射線および1つの化学物質、1つの酵素および1つの化学物質からなる群から選択される2つの異なる手段によって切断可能である切断可能なリンカーCLの少なくとも2つの異なる群を有するプローブを含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、切断可能なリンカー(CL)を介して蛍光標識またはタグにコンジュゲートした標識DNAプローブをハイブリダイズさせることによってDNAおよびRNA分子を解読する新たな方法に関する。異なるリンカーによって標識にコンジュゲートしたDNAプローブのライブラリーは、異なる条件および予測可能な様式で選択的に切断することができる。
【0002】
標識プローブは、近代生物学および医学において多くの用途を有する。例えば、標識DNAプローブは、ハイブリダイゼーションによるDNAまたはRNAの特定の標的配列の検出に使用される。これらは、数例を挙げると、DNAマイクロアレイ技術、DNAまたはRNA分子の特定の配列のin situ検出(例えばFISH)、およびライゲーションによるDNAシークエンシングの基礎となる。同様に、標識抗体が特定の抗原標的の検出に使用される。
【0003】
従来、蛍光レポーター単位を有する標識DNAプローブは、安定したリンカーを介してプローブに付着する。かかる標識プローブを使用する場合、プローブは、より高い温度、低塩、ホルムアミドの使用、高pH等の脱ハイブリダイゼーション条件下でのみ除去することができる。複数の標的をプローブするには、この方法は、複数ラウンドのハイブリダイゼーションおよび脱ハイブリダイゼーション工程を必要とする。どちらの工程にも比較的時間がかかる。通例、各工程にはプローブの複雑さおよび長さに応じて30分~一晩の反応が必要とされる。
【0004】
さらに、これらの工程を行うために用いられる比較的厳しい条件が核酸標的、および標的DNAまたはRNA分子が固定された基質、例えば組織、表面コーティング等に損傷を与える恐れがある。したがって、行うことができるハイブリダイゼーション-脱ハイブリダイゼーション工程の反復サイクルの回数が制限される可能性がある。この場合、スループットは、使用する色素の数、ならびに用いられるハイブリダイゼーションおよび脱ハイブリダイゼーション工程のラウンド数によって異なる。どちらも制限要因となり得る。同じ問題が、抗体、細胞性炭水化物およびペプチド等の他の生体分子の検出にも依然として見られる。
【0005】
したがって、本発明の目的は、ハイブリダイゼーションおよび脱ハイブリダイゼーションラウンドの繰返しを最小限に抑えて標的DNAおよびRNA分子を解読するための迅速かつハイスループットのプロセスを提供することである。
【0006】
ハイブリダイゼーションによるRNAシークエンシング(SBS)技術における現行の技術水準は、切断不可能なリンカーを有する標識DNAプローブの使用および/または無差別に切断可能なジスルフィドリンカーの使用を伴う。したがって、現行の方法では、解読のスループットを向上させるための段階的な切断および連続的な切断工程によるパターン生成は可能ではない。これらの方法は、蛍光レポーターを標的から除去するために脱ハイブリダイゼーションまたは一段階切断のみに依存する。したがって、当然ながらスループットおよび用途が限られる。これらの方法は、脱ハイブリダイゼーション工程を用いた処理の繰返しによる組織の分解のために、in situシークエンシングおよび空間トランスクリプトミクス研究に使用される場合等に或る特定の表面化学物質またはマトリックスに適合しない可能性がある。
【0007】
例えば、国際公開第2015054050号には、プローブが切断されるが、各切断工程が同じように行われる、複数の標的をプロービングするための方法が開示されている。したがって、切断工程は、異なるプローブの区別には使用されない。
【0008】
発明の概要
標識プローブのライブラリーが、プローブと標識との間の異なる切断可能なリンカーで構成される場合、標識分子の連続的な除去を予測可能かつ制御可能な様式で達成することができることが見出された。
【0009】
したがって、本発明の目的は、
a)一般式(I)
P-(CL-D)x (I)
[式中、P:少なくとも10個のヌクレオチドまたはアミノ酸を有するプローブ
CL:切断可能なリンカー
D:蛍光色素
X:1~5の整数である]
を有するプローブのライブラリーをRNA、DNAまたはタンパク質の標的配列にハイブリダイズさせることであって、ライブラリーが、ヌクレオチドまたはアミノ酸の異なる配列を有するプローブPおよび異なる手段で切断可能な異なる群の切断可能なリンカーCLを含む、ハイブリダイズさせること、
b)ハイブリダイズしていないプローブを除去するとともに、ハイブリダイズしたプローブを第1の画像でフルオロフォアDによって検出すること、
c)ハイブリダイズしたプローブから化学リンカーCLの各群を異なる手段によって順次切断し、このようにして切断されたフルオロフォアDを除去するとともに、残りのハイブリダイズしたプローブを第2の画像でそれらのフルオロフォアDによって検出すること、
d)第1および第2の画像を比較することによって、除去されたフルオロフォアDを検出すること、
e)除去されたフルオロフォアDに関連するプローブPの配列情報によって標的配列の配列情報の一部を得ること、
f)化学リンカーCLの全ての群が切断されるまで、工程c)を繰り返すこと
によってRNA、DNAまたはタンパク質の標的配列を検出するための方法である。
【0010】
本発明の方法の重要な特徴は、化学的、光化学的、電気化学的および/または酵素的な手段によって異なる条件で迅速な切断を可能にする切断可能なリンカー(CL)のセットまたは群を介してレポーター分子またはタグが付着している標識プローブのライブラリーの使用である。切断化学がDNAプローブの脱ハイブリダイズよりもはるかに速いため、この方法は、本質的により迅速なRNAまたはDNA標的の解読方法である。
【0011】
標識の連続的な除去により、個々の切断工程の前後の蛍光シグネチャーを比較することで標的配列を解明することができる。この方法の主な利点は、ハイブリダイゼーションの各ラウンドでより多くのDNAおよびRNA標的を解読する能力である。また、ハイブリダイゼーションの反復サイクルと連続的な切断工程との組合せ、および新たなプローブのセットを用いた再ハイブリダイゼーションによって、多数の標的遺伝子を解読することができる。
【0012】
この新たなクラスのDNAプローブは、異なった形で切断可能なリンカー(differentially cleavable linker)-DNAプローブ:DCL-DNAプローブと称される。本発明の方法では、DCL-DNAプローブのライブラリーを標的への配列特異的結合のためにハイブリダイズさせる。最初の蛍光画像化後に、サンプルを異なる切断試薬で順に処理する。切断処理の各ラウンド後に更なる蛍光画像を撮影する。或る特定の蛍光シグナルが消滅する切断工程の前後の蛍光シグナルの変化から標的配列を解読する。従来の方法では、検出することができる標的の数は、蛍光色素の数によって決まる。本発明の方法では、異なる切断可能なリンカーへのカップリングおよび切断試薬に対するそれらの応答差により、個々の色素の各々から複数の標的を検出することができる。この新たな方法を用いた場合、従来のハイブリダイゼーション方法と比較して極めて多くの標的を限られた色素数で検出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】異なって切断可能なリンカーを介して3つの異なる色素(青色、黄色および赤色)のみで標識したDNAバーコードを用いた単一事象のハイブリダイゼーションによって9つのRNA標的をどのように検出することができるかを概略的に示す図である。従来技術の方法では、3つの色素によって3つの標的しか区別することができない。この新たな方法では、RNA
1、RNA
2およびRNA
3は同じ青色チャネルで蛍光を発するが、切断試薬に対する応答によって互いに区別される。RNA
2およびRNA
3の蛍光は、それぞれ切断試薬1および2で処理した場合に消滅する。一方、RNA
1は、切断不可能なリンカー(NC)によって色素にカップリングしているため影響を受けなかった。同様に、他のRNA標的(RNA
4~9)を黄色および赤色のチャネルで検出することができる。
【
図2a】DCL-DNAプローブの一般構造を示す図である。CL=切断可能なリンカー、EnCL=酵素的に切断可能なリンカー。D/T=蛍光色素または分子タグ。
【
図2b】幾つかの切断可能な官能基、例えばジスルフィド(-S-S-)、オキシメチレンジスルフィド(-OCH
2-SS-)、アジドメチン(azidomethine)(-OCH-N
3-)、アゾアレーン(-ArN=NAr-)、ジアール(-CH(OH)-CH(OH)-)、光切断可能なニトロベンジルおよび酵素的に切断可能なリンカーを示す図である。
【
図2c】切断可能なリンカーを有するDCL-DNAプローブの幾つかの代表的な構造を示す図である。異なる切断可能なリンカーを介して単一の蛍光色素によって複数のDNAプローブをどのように標識することができるかも示す。
【
図3】
図3(A)は、様々な切断可能なリンカーを組み合わせ、1つ以上の標識によって標識することで作製することができる、異なった形で切断可能な連結した標識DNAプローブのライブラリーセット(DCL-DNAプローブセット)の概略図であり、
図3(B)は、幾つかの代表的な概略構造を示す図である。
【
図4】3つの蛍光色素のみを用いたDCL-DNAプローブでの一段階ハイブリダイゼーションによって24個の標的をどのように検出することができるかを示す図である。従来の方法では、3つの色素で標識されたDNAプローブによって、3個の標的しかプローブすることができず、24個の標的をプローブすることはできない。
【
図5】標的の更なる配列を解読するDNAプローブハイブリダイゼーション方法後に使用され得る2つの可逆的ヌクレオチドターミネーターの部分構造を示す図である。ハイブリダイゼーションと合成によるシークエンシング(SBS)化学との組合せにより、標的配列検出のスループットを劇的に向上させることができる。この図では、CLは切断可能なリンカーを表し、3’-OHキャッピング基は-CH
2SSMeおよび-CH
2N
3である。
【
図6】4つの蛍光色素で標識されたDNAプローブを用いた4色の様式で単一事象のハイブリダイゼーションによって3つのDNAまたはRNA標的をどのように解読することができるかを示す図である。標的-1は、結合した全てのプローブが切断不可能なリンカー(NC)で連結したDNAプローブであるため、3つの異なる切断条件で蛍光シグナルを保持する。標的-2および標的-3は、切断工程時に3つの色素を順次失うが(3つのプローブがCL連結し、1つがNC連結した標識DNAプローブである)、切断試薬での処理後に異なるパターンとなる。この色パターンから3つ全ての標的を特定することができる。この図ではB=青色色素、G=緑色色素、Y=黄色色素、R=赤色色素である。
【
図7】標識DCL-DNAプローブおよび切断不可能な標識DNAプローブとタグとの組合せを単一事象のハイブリダイゼーションによる複数の標的の解読にどのように用いることができるかを示す図である。標的-1では、切断工程時に1つを除く全ての蛍光色素が除去され、そのプロービングは、他の蛍光シグネチャーの再出現を引き起こさない。一方、標的-2および標的-3の蛍光色素は、切断試薬での処理後に除去されるが(全てのプローブがDCL-DNAプローブである)、タグのプロービング後に蛍光シグネチャーが異なる様式で再出現する。標的-2は緑色および赤色で再出現し、標的-3は黄色および赤色で再出現する。様々な組合せ、ならびに切断可能な、切断不可能なおよびタグで標識したDNAプローブを用いることで多数の標的遺伝子を解読することができた。この図ではB=青色色素、G=緑色色素、Y=黄色色素、R=赤色色素である。
【
図8】ホスフィンおよびチオールベースの切断試薬(例えばDMPS)によって効果的に切断することができるオキシメチレンジスルフィド(-OCH
2SS-)リンカーを有するDCL-DNAプローブの合成のための化学反応工程を示す図である。
【
図9】切断可能なアジドメチン(-OCH-N
3-)リンカーを有するDCL-DNAプローブの合成のための化学反応工程を示す図である。
【
図10】本発明の方法に適したプローブを示す図である。
【
図11】本発明の一般的なワークフローを示す図である。
【0014】
詳細な説明
seq-FISH、MERSISH法等のDNAおよびRNA標的を解読する従来技術の方法では、蛍光標識DNAバーコードを用いることで最大FN個の標的をシークエンシングすることができ、ここでF=フルオロフォアの数、N=ハイブリダイゼーション工程の回数である。4つのフルオロフォアおよび5ラウンドのハイブリダイゼーションでは、45=1024個の標的しか検出することができない。
【0015】
一方、本発明の方法では、同じ数の蛍光色素と4つの順次切断可能なリンカー(CL)を有するDCL-DNAプローブのライブラリーとを用いて、潜在的に(F×CL)N=(4×4)5=1048576個の標的を検出することができ、ここでF=フルオロフォアの数、N=ハイブリダイゼーション工程の回数、CL=異なって切断可能なリンカーの数である。
【0016】
それだけでなく、DCL-DNAプローブは、同じまたは異なる条件下で除去することができる単一または複数の蛍光レポーターを担持することができる。さらに、DCL-DNAプローブは、二次相互作用によってプローブすることができるタグ付きDNAプローブ、例えばビオチン、ハプテンまたは抗原標識等と組み合わせて使用してもよい。この組合せの数を考えると、検出可能な標的の数が劇的に増加し得る。さらに、任意に脱ハイブリダイゼーション工程を必要とするまたは必要としない、このハイブリダイゼーション方法は、解読プロセスを加速することができた。
【0017】
さらに、ハイブリダイゼーションおよび連続的な切断を含む本発明の方法におけるラウンドにより、検出および再ハイブリダイゼーション工程は複数のプローブをカバーし、この方法の解読力を指数関数的に増大させる。この方法は、他の従来の方法とは異なり、極めて多くのDNAおよびRNA標的をシークエンシングすることができる。
【0018】
具体例は、RNA転写産物のシークエンシングのための蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)方法および空間トランスクリプトミクス研究への使用であるが、これに限定されない。また、同じ切断可能なリンカーをマルチオミクス用途のためにタンパク質、抗体、抗原、炭水化物等の他の生体分子の検出に使用することができる。
【0019】
本発明は、最小限のハイブリダイゼーション工程を用いて核酸配列を検出する、より迅速な方法を提供する。サンプルをハイブリダイゼーション後、また各切断反応後に順に画像化して標的の差分パターンを生成し、これを核酸標的の解読に使用することができる。一般的なスキームを
図1に示す。ここで、複数のRNA標的を同じ色のプローブとハイブリダイズさせるが(3つの青色:RNA
1~3、3つの赤色:RNA
4~6、3つの黄色:RNA
7~9)、異なる切断可能なリンカーを用いる。RNA
1、RNA
2およびRNA
3は、同じ青色色素を有するが、異なる切断試薬に対して異なって応答する。RNA
1は同じ状態を保つが、RNA
2およびRNA
3は、切断処理の異なる段階で消滅する。他のRNA標的についても同様である。切断試薬に対する応答により、同じ色素を有するにもかかわらず、これらのRNA標的を読み取ることができる。異なって切断可能なリンカーがなければ、3つの色素について9つの標的ではなく、3つのRNA標的しか解読することができない。
【0020】
現行の技術水準では、4色の標識DNAプローブを使用する場合、単一事象のハイブリダイゼーションでは、複数の色素の組合せを使用しても16の解読可能性しか得ることができない:4色全てで1コード、3色で4コード、2色で6、1色で4、最後に無色で1。
【0021】
一方、4色および4つの異なって切断可能なリンカー、本DCL-DNAプローブシステムを用いると、可能な全てのプローブを組み合わせた単一事象のハイブリダイゼーションと、その後の4回の選択的切断工程および分子プロービングとにより、解読能が16(上記)から500を超える可能性にまで上昇し得る。
【0022】
図2に、異なった形で切断可能なリンカーを有する標識DNAプローブ(DCL-DNAプローブ)の概略図を示す。また、切断可能なリンカーの幾つかの代表的な構造(
図2b)、および多様なリンカーのセットを用いて単一の蛍光色素から標識DNAプローブのセットを作製するために切断可能なリンカーを使用することができる方法(
図2c)を示す。
【0023】
図3に、限定されるものではないが、切断可能(CL)、切断不可能(NC)、分子タグ(T)、およびDNA骨格上の複数のレポーターによる標識化の様々な組合せを用いてDCL-DNAプローブの大規模なライブラリーセットを構築することができる方法の一例を示す。
【0024】
図4に、僅か4つの色素を用いて単一のハイブリダイゼーション事象により20個を超える標的をどのように読み取ることができるかを示す。従来技術の方法では、単一色素で標識されたプローブを用いて4つの色素から4つの標的しか検出することができない。一方、異なって切断可能なリンカーを用いることで、各色素によって複数の標的を検出することができる。この図では、標的5~8は、同じ青色色素標識によって標識されるが、異なる切断試薬に対する異なる応答によって区別される(この場合、色素は異なる切断条件で消滅する)。したがって、本発明は、各蛍光色素を複数の識別可能な色素に増やすのを助ける。例えば、7つの異なって切断可能なリンカーを使用することで、単一の青色色素を用いて7つの異なる標的を区別することができる。
【0025】
本発明による方法では、工程f)の後にプローブPをRNA、DNAまたはタンパク質の標的配列から任意に脱ハイブリダイズする。
【0026】
さらに、RNA、DNAまたはタンパク質の標的配列の配列情報が得られるまで工程a)~f)を繰り返すことができる。RNA、DNAまたはタンパク質の標的配列の配列情報の取得は、完全な(全部、100%の)配列情報だけでなく、部分的な情報を含む。プローブの選択、すなわちプローブのヌクレオチドまたはタンパク質の選択によって情報量、ひいては方法の速度を制御することができる。情報の取得は、10~100%の範囲であり得るが、(90~100%のように)概ね完全な配列分析が好ましい。
【0027】
切断可能なリンカーを用いる本発明のハイブリダイゼーションベースの方法は、合成によるシークエンシング化学(SBS化学)とさらに組み合わせることができる。SBS化学は、DCL-DNAプローブで読み取り、蛍光色素を切断した後に開始することができる。この場合、DNAプローブを標的から除去する必要なしにシークエンシングプライマーとして使用することができる。SBS化学は、切断可能なリンカーを介して蛍光色素標識を有する可逆終端(reversibly terminating)ヌクレオチドの使用に依存する。DCL-DNAプローブと組み合わせて使用することができる2つの代表的な可逆終端ヌクレオチドを
図5に示す。ここで、CLは蛍光色素を核酸塩基に連結する化学的に切断可能なリンカーを表し、3’-OH上のキャッピング基は、好ましくは-CH
2SSMeまたは-CH
2N
3である。切断可能なリンカーは、DCLリンカーと同じであっても、または異なっていてもよい。
【0028】
DCL-DNAプローブは、切断不可能なレポーター基を有し、分子タグが付着したDNAプローブとともに使用することもできる。タグは、二次相互作用による標的のプロービングを可能にする。この状況では、切断不可能な標識DNAプローブは、特定の標的配列を読み取るためだけでなく、内部対照としても使用することができる。タグは例えばビオチン、ジギトゲニン、抗原、ハプテン等であり得る。
【0029】
DNAプローブは、同じ切断可能なリンカーまたは異なる切断可能なリンカーを有する単一または複数の蛍光色素を含み得る。蛍光色素およびタグの組合せを含んでいてもよい。タグは、標識ストレプトアビジンとの相互作用によって検出されるDNA-ビオチンプローブ等のように二次相互作用によってプローブすることができる。
【0030】
「異なって切断可能なリンカー」、「異なる群のリンカー」、「多様なリンカー」という用語は、交換可能であり、制御可能かつ予測可能な様式で順に標識を除去することを可能にする異なる条件下で切断可能なリンカーのセットを指す。
【0031】
「異なる手段で切断可能である切断可能なリンカーCL」という用語は、第1の方法で切断可能であるが、第2の方法では切断可能でない切断可能なリンカーCLを指す。切断のための異なる手段または方法により、標的を染色する異なる群のプローブの画像を順次撮影することが可能となる。
【0032】
本発明の方法では、切断可能なリンカーCLを切断する化学的、光化学的または酵素的な手段を用いることができる。例えば、ライブラリーは、2つの異なる光化学活性化放射線、2つの異なる酵素、2つの異なる化学物質、1つの光化学活性化放射線および1つの酵素、1つの光化学活性化放射線および1つの化学物質、1つの酵素および1つの化学物質からなる群から選択される2つの異なる手段によって切断可能である切断可能なリンカーCLの少なくとも2つの異なる群を有するプローブを含む。
【0033】
当然ながら、切断可能なリンカーCLは、本発明の要旨を逸脱することなく、3つ、4つまたは5つの異なる手段で切断可能であってもよい。例えば、2つの異なる酵素および2つの異なる化学物質、または4つの異なる化学物質を利用して4つの異なる脱染色画像を得ることが可能である。
【0034】
切断可能なリンカーCLは、例えば以下の式a)~g)に示すように、ジスルフィドリンカー(-SS-、(a))、オキシメチレンジスルフィド(-OCH2SSCR1R2-、(b))、オキシメチンアジド(-CR1,R2OCH(N3)R3,R4)-、(c))、アゾアレーン(-ArN=NAr-、(d))、ニトロベンジル誘導体(e)、アリル誘導体(f)、チオカルバメート(g)からなる群から選択することができ、ここでR1、R2、R3、R4は独立してH、メチル、エチル、プロピル、t-ブチル、C5~C10アルキル、アルケン、アルキン、ヒドロキシル、ハロゲン、アミン、アミド、カルボキシレート、ポリエチレングリコールであり得る。
【0035】
【0036】
切断反応/化学は、切断可能なリンカー(CL)によって決まり、必要に応じて以下から選ぶことができる。
【0037】
ジスルフィドリンカーは、他のリンカーを無傷に保ったままチオールまたはホスフィンで処理することによって選択的に切断することができる。
【0038】
オキシメチンアジド(-OCH(N3)-)は、アゾアレーン、光切断可能なまたは他の酵素的に切断可能なリンカーの存在下で、ホスフィン(例えばTCEP)で処理した場合に選択的に切断することができる。
【0039】
代替的には、TCEPを用いてジスルフィドおよびオキシメチンアジドリンカーの両方を切断することができる。さらに、アゾアレーンリンカーは、水溶液バッファー中の極めて穏やかな試薬である亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2SO4)で選択的に切断することができる。
【0040】
切断試薬は、チオール(例えばジチオスレイトール-DTT、ジメルカプトプロパンスルホネート-DMPS等)、ホスフィン(例えばTCEP、THPP等)、穏やかな還元剤(例えばNa2S2O4)、特定の波長の光、電位、酵素(例えばペプチダーゼ、デキストラナーゼ、エステラーゼ、ホスファターゼ、プロテイナーゼ等)であり得る。
【0041】
酵素的に切断可能なリンカーは、ペプチダーゼのような特定の酵素によって切断または消化することができる任意の分子であり得る。例えば、多糖、タンパク質、ペプチド、デプシペプチド、ポリエステル、核酸およびそれらの誘導体が酵素的に分解可能なリンカーとして好適である。好適な多糖は、例えばデキストラン、プルラン、イヌリン、アミロース、セルロース、ヘミセルロース、例えばキシランもしくはグルコマンナン、ペクチン、キトサンまたはキチンである。これらを誘導体化して、リンカーの共有または非共有結合の官能基を得ることができる。酵素的に分解可能なリンカーとして使用されるタンパク質、ペプチドおよびデプシペプチドは、アミノ酸の側鎖官能基を介して官能基化することができる。酵素的に分解可能なリンカーとして使用されるポリエステル、ポリアクリルアミドおよびポリエステルアミドは、側鎖官能基をもたらすコモノマーを用いて合成するか、またはその後に官能基化することができる。分岐ポリエステルの場合、官能基化はカルボキシル、アミンまたはヒドロキシル末端基を介したものであり得る。ポリマー鎖の重合後の官能基化は、例えば不飽和結合への付加、すなわちチオレン反応によるものであっても、またはアジドアルキンもしくはテトラジンアルキンクリック反応によって、またはラジカル反応による官能基の導入によって行ってもよい。
【0042】
酵素的に分解可能なリンカーは、適切な酵素の添加によって分解される。切断試薬としての酵素の選択は、酵素的に分解可能なリンカーの化学的性質によって決定され、1つの酵素であっても、または異なる酵素の混合物であってもよい。かかる酵素はヒドロラーゼ、リアーゼ、レダクターゼ、エステラーゼ、ペプチダーゼ等であり得る。好ましい酵素は、グリコシダーゼ、デキストラナーゼ、プルラナーゼ、アミラーゼ、イヌリナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キトサナーゼ、キチナーゼ、プロテイナーゼ、エステラーゼ、グリコシダーゼ、ピロホスファターゼ、リパーゼ、ホスファターゼおよびヌクレアーゼからなる群から選択することができる。
【0043】
本発明の方法は、2つ以上のプローブが特定の標的に結合するマルチプローブハイブリダイゼーション法とともに用いることができる。
図6に、4つの蛍光色素で標識されたDNAプローブを用いた4色の様式で、単一事象のハイブリダイゼーションおよび連続的な切断および画像化工程によって3つのDNA標的をどのように解読することができるかを示す。特定の遺伝子の呼び出しは、切断試薬に対する蛍光応答から、また最初の画像と切断試薬への曝露による後続の工程の蛍光の画像とを比較することによって得られる。標的-1は、全てが切断不可能なリンカー(NC)に連結したDNAプローブであるため、3つの異なる切断条件で蛍光シグナルを保持する。標的-2および標的-3は、切断反応時に3つの色素を順次失うが、異なるパターンである。
【0044】
本発明の別の態様では、DNAプローブは、2つ以上の蛍光色素もしくはタグ、またはそれらの組合せを含み得る(
図7)。この構成は、対象の色素を選択的に切断し、その後の工程でタグとの二次相互作用によって標的をプローブすることを可能にする。かかる組合せの使用を
図7に示す。
図7には、DCLと切断不可能な(NC)タグに連結した標識DNAプローブとを含む混合物でプローブすることによって3つの異なる標的をどのように区別することができるかを示す。3つの標的は、切断およびタグの分子プロービングに異なって応答する。標的-1は、切断試薬処理の際に1つを除く全ての蛍光シグナルを失い、分子プロービングに応答しない。一方、標的2および標的3は、全ての蛍光シグネチャーを失い、その後の付着したタグのプロービングに異なって応答した。様々な組合せと、切断可能な、切断不可能なおよびタグで標識したDNAプローブとを用いることで、多数の標的遺伝子を解読することができた。
【0045】
本発明の別の態様では、蛍光色素を除去した後、プローブDNAの遊離3’-OHを、標識された可逆終端ヌクレオチドを用いた合成化学によって単一塩基伸長および付加的なシークエンシングの実行に用いることができる。可逆的ターミネーターヌクレオチドは、単一塩基伸長によって相補鎖合成を停止するが、3’-OHキャッピング基を除去した後にさらに伸長させることができる。可逆終端ヌクレオチドは、
図5に示す一般構造を有するメチルメチレンジスルフィド(-CH
2SSMe)またはアジドメチル(-CH
2N
3)で3’-OHキャッピングすることができる。これらのヌクレオチドは、DNAプローブ設計と同様にDCLリンカーを含んでいてもよい。これらは独立して、またはDCL-プローブと組み合わせて使用することができる。
【0046】
本発明の別の態様では、ハイブリダイゼーションは、それぞれ特定の標的を有する異なるプローブの使用を含み、多色蛍光測定を伴う。各ハイブリダイゼーション事象に切断および画像工程の2回以上のサイクルを含んでいても、また各サイクル間に任意の脱ハイブリダイゼーション工程を有するハイブリダイゼーション-画像化-切断-画像化および再ハイブリダイゼーションサイクルの1回以上の工程を含んでいてもよい。二次相互作用によるプロービングの1回以上の工程を含んでいてもよく、ビオチン-ストレプトアビジン、DIG-抗DIG相互作用およびその後の画像化が2つの具体例であるが、これらに限定されない。
【0047】
プローブ、標識およびタグ
プローブは、通常の天然または非天然のDNAまたはRNAおよびそれらの修飾類似体であってもよく、すなわち天然または非天然のヌクレオチドからなる。プローブはタンパク質であってもよく、すなわち天然または非天然のアミノ酸からなる。DNAプローブは、より良好な二重鎖安定性をもたらすロック核酸であり得る。これらは3’もしくは5’末端に修飾を有していても、またはアミノ修飾を有するdUTPのように主骨格上の塩基のいずれかに修飾があってもよい。標識は蛍光分子(ローダミン色素(R6G、ROX)、シアニン色素(Cy3、Cy5)、Alexa色素、ATTO色素等)であっても、またはエネルギー移動色素もしくはクエンチャーであってもよい。分子タグはビオチン、ハプテン、抗原、DIG、フルオレセイン、ニトロフェニル等、または二次相互作用(例えば蛍光標識を伴うビオチン-STV、抗体-抗原、DIG-抗DIG相互作用)によって特定される任意の修飾であり得る。DCLリンカーは、プロービングタンパク質上にあってもよい。
【0048】
標的配列および方法
標的配列はDNAであっても、またはmRNAを含むRNAであってもよい。これを蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)または連続FISH(seqFISH)法に用いることができる。解読は、ビーズ上のクローン増幅されたDNAクローン、表面結合したローリングサイクル増幅(RCA)産物もしくは組織、または単一分子、または空間分解された単一細胞に対するものであり得る。これらをin situまたはex situシークエンシングに用いることができる。解読方法は、解読能を高めるために複数ラウンドのハイブリダイゼーション工程を含んでいてもよい。解読方法は、標識DNAプローブの混合物を用いたハイブリダイゼーションに続く画像化、連続的な切断工程および画像化、ならびに二次相互作用による分子タグのプロービングを含み得る。標的はタンパク質、ペプチド、炭水化物、抗体および他の生体分子とすることができる。
【0049】
蛍光色素
好適な蛍光色素は蛍光技術、例えばフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法の技術分野で知られているものである。例えば、蛍光色素は、フルオレセインのようなキサンテン色素、またはローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素、カスケード色素、高分子色素、ピロメテン色素、アクリジン色素、オキサジアゾール色素、カルボピロニン色素、ベンゾピリリウム色素、フルオレン色素、またはRu、Eu、Pt錯体等の有機金属錯体である。単一分子実体の他、有機小分子色素のクラスター、蛍光オリゴマーまたは蛍光ポリマー、例えばポリフルオレンも蛍光部分として使用することができる。さらに、蛍光色素は、フィコビリタンパク質等のタンパク質ベースのもの、量子ドット等のナノ粒子、アップコンバージョンナノ粒子、金ナノ粒子、染料ポリマーナノ粒子であってもよい。
【0050】
実施例
mRNAシークエンシングへのDCL-DNAプローブの使用について概念実証を確立するために、複数のプローブのセットを合成した。一方はチオールで切断可能なオキシメチレンジスルフィドリンカーであり、他方はホスフィンで切断可能なアジドメチルリンカーである。それらの合成は多段階の反応および精製を要する。切断可能なリンカーを初めに作製し、次いでアミノ修飾DNAプローブとコンジュゲートする。最終工程では、切断可能なリンカーのアミノ末端を用いてリンカーを蛍光色素によって標識した。
【0051】
切断可能なオキシメチレンジスルフィドリンカーを有するDCL-DNAプローブ(5)の合成
合成工程を
図8に示す。ヌクレオチド類似体(Mong Marmaらの米国特許第10,301,346号明細書、2016年)およびジスルフィドリンカーを有するヌクレオチド類似体を合成する方法(Mong Marmaらの米国特許第10,336,785号明細書、2016年)の米国特許に記載されているように活性化リンカー2を得た。合成は以下の工程を含む(
図8):
(a)リンカーの導入およびFmoc基の脱保護:
アミノ修飾DNAバーコード(BC-NH
2、1)(約700nmol、供給元IDT DNA)を1.4mLのDI水に溶解し、50mLファルコンチューブに移した。これに0.3mLの0.5M Na
2HPO
4を添加し、塩基濃度を約0.1mMとした。別の2.0mL遠心分離管で約6mgの活性化リンカー(NHS-ARA-Fmocリンカー、化合物2)を0.5mLのDMFに溶解した。次いで、これをBC-NH
2溶液に添加し、室温で45分間撹拌した。再び同量を0.5mLのDMFで添加し、さらに45分間撹拌した。
【0052】
次いで、これを2.0mLのDI水の添加によってクエンチした。混合物を続いて0.3mLのピペリジンで20分間処理した。生成物を即座にprep-HPLC(X-bridge、19×250mmカラム、方法:0~3分は100%のA、続いて40分にわたって40%のB、その後50分まで均一勾配)によって精製した。標的生成物は通常、約43分で溶出した。標的画分を凍結乾燥し、固体生成物を1.0mLのDI水に懸濁し、濃度を260nmでUVによって決定して、160nmolの化合物4(1.0mL×0.160mM)を得た。
【0053】
(b)蛍光色素による標識化:
先の工程から得られたBC-ARA-NH2(化合物4)をNa2HPO4塩で処理し(更なる希釈を回避するために塩を直接溶解した)、0.1mMの最終濃度とした。次いで、これを200uLのDI水(AF532-NHS等の低極性色素については+100uLのDMF)中の約10当量のNHS色素で処理した。混合物を30分間撹拌した後、即座にprep-HPLC(X-bridge、19×250mmカラム、方法:0~3分は100%のA、続いて40分にわたって40%のB、その後50分まで均一勾配)によって精製した。標的生成物5は約40分で溶出した。次いで、標的画分を凍結乾燥し、最終生成物を1.0mLのRNAフリー水に溶解し、UVスペクトル(色素の特性に基づく)によって濃度を決定した。次いで、生成物の濃度を調整し、0.1mMのストック溶液を調製した。
【0054】
切断可能なオキシメチンアジドリンカーを有するDCL-DNAプローブ(11)の合成:切断可能なオキシアジドメチンリンカーを有するDCL-DNAプローブの合成は、
図9に示すように市販の化合物6から開始する。以下の工程が含まれる:
(a)Fmoc保護リンカーの合成(7)
(a)リンカーの活性化(9)
(b)アミノ修飾DNAプローブへのカップリング(10)
(c)蛍光色素へのカップリング(11)
【0055】
Fmoc保護リンカーの合成プロセス(7)およびDNAプローブへのカップリングのためのリンカーの活性化(9)を以下に説明する。リンカーとDNAプローブとのカップリング反応(10)および標識プローブを作製するための最終的な標識化反応(11)は、上記のオキシメチレンジスルフィドと同様に行った。
【0056】
無水DMF(12mL)中のFmoc-NHS(760mg、2.3mmol、1.2当量)および化合物6(734mg、1.9mmol、1当量)の溶液にDIPEA(0.66mL、3.8mmol、2当量)を添加した。得られた反応混合物を室温で2時間撹拌した。次いで、これをEtOAc(20mL)で希釈し、1M HCl(20mL)でクエンチした。水層を分離し、EtOAC(3×20mL)で抽出した。合わせた有機層を水(5×20mL)およびブライン(飽和、20mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(ISCO Silica 24g Gold;勾配:MeOH/DCM(0~30%)、35mL/分)によって精製して、所望の生成物7を白色の固体として得た(488mg、44%)。次に、無水DMF(8.3mL)中の化合物7(488mg、0.83mmol、1当量)の溶液にDIPEA(0.22mL、1.3mmol、1.5当量)およびDSC(318mg、1.25mmol、1.5当量)を添加した。得られた反応混合物を室温で2時間撹拌した。次いで、これを減圧下で濃縮し、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ISCO Silica 24g Gold;勾配:EtOAc/ヘキサン(30~100%)、35mL/分)によって精製して、所望の生成物8をシロップとして得た(408mg、72%)。
【0057】
染色実験
4つの転写産物を標的とするプローブを6つの独自のハイブリダイゼーションドメインで設計した。プローブのうち2つが、Alexa Fluor 647にコンジュゲートしたアジドリンカー(-OCHN
3-)を有するオリゴヌクレオチドまたはAlexa Fluor 532にコンジュゲートしたジスルフィドリンカー(-OCH
2-SS-)を有するオリゴヌクレオチドとハイブリダイズする配列を含んでいた(
図1A)。対照とするために、プローブのうち2つは、2つのオリゴヌクレオチドとハイブリダイズする2つの異なる結合領域を含むものであった(
図1A)。一方のプローブは、Alexa Fluor 647を含むジスルフィドリンカーを有するオリゴヌクレオチドおよび切断不可能なAlex Fluor 532を含むオリゴヌクレオチドとハイブリダイズする配列を含んでいた。他方のプローブは、Alexa Fluor 532を含むアジドリンカーを有するオリゴヌクレオチドおよび切断不可能なAlex Fluor 647を含むオリゴヌクレオチドの両方とハイブリダイズする配列を含んでいた。ハイブリダイゼーションドメインにわたって2つの独立したフルオロフォアを有することで、この技術を複数の蛍光波長で評価することができた。
【0058】
使用したプローブは、
図10による構造を有していた。
【0059】
次いで、プローブをFFPEマウス脳切片上でハイブリダイズさせ、続いてローリングサークル増幅を行ってロロニー、すなわちDNAナノボールを生成し、シグナルをin situで検出するための増幅を行った(
図11)。6つ全ての相補的プローブ、すなわち読み出しプローブを、ロロニーを生成した後に同時にハイブリダイズさせた。
【0060】
次に、一連の連続的な化学的切断工程を行った。最初の切断工程では、ジスルフィドリンカーを含むオリゴヌクレオチドを選択的に切断するナトリウム2,3-ジメルカプトプロパンスルホネート一水和物(DMPS)を利用した。
図12に、アジドリンカーを介してオリゴヌクレオチドに付着したフルオロフォアを選択的に除去するためにDMPSを用いる2回の連続切断ラウンドの1回目を示す。どの点がラウンド間で除去されたシグナルを有するかを決定するのに十分なコントラストをもたらすために、全ての画像を擬似着色する(pseudocolored)。Alexa Fluor 532波長では、DMPSによって切断された点は、マージ画像において黄色に見える(黄色の矢印)。Alexa Fluor 647波長では、DMPSによって切断された点は、マージ画像において紫色に見える。DMPS切断によって影響を受けなかった対象は、両方の波長でマージ画像において白色に見える。
【0061】
これに続いて、アジドリンカーを含むオリゴヌクレオチドを切断するためにトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)を用いた第2の切断を行った。
図13に、ジスルフィドリンカーを介してオリゴヌクレオチドに付着したフルオロフォアを選択的に除去するためにTCEPを用いる2回の連続切断ラウンドの2回目を示す。どの点がラウンド間で除去されたシグナルを有するかを決定するのに十分なコントラストをもたらすために、全ての画像を擬似着色する。Alexa Fluor 532波長では、TCEPによって切断された点は、マージ画像において紫色に見える(黄色の矢印)。Alexa Fluor 647波長では、TCEPによって切断された点は、マージ画像において青色に見える。TCEP切断後には、切断不可能なオリゴヌクレオチドのみが検出可能なままであり、両方の波長でマージ画像において白色に見える。
【0062】
両方の切断ラウンドの後、切断不可能な点のみが残った。
【外国語明細書】