IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社KRIの特許一覧

特開2023-48168アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法
<>
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図1
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図2
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図3
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図4
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図5
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図6
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図7
  • 特開-アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048168
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/00 20060101AFI20230331BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20230331BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20230331BHJP
   C08B 3/06 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C08B3/00
D21H11/20
D21H15/02
C08B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157322
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊巳
(72)【発明者】
【氏名】丸田 彩子
【テーマコード(参考)】
4C090
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA25
4C090BA26
4C090BB94
4C090CA24
4C090CA38
4C090CA39
4C090DA21
4L055AA02
4L055AA08
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF10
4L055AF46
4L055AG34
4L055AG35
4L055AG36
4L055EA32
4L055FA30
4L055GA50
(57)【要約】

【課題】 修飾反応溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊すると同時にアシル化修飾するアシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法の提供。
【解決手段】 本発明のアシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法は、下記式(1)で示される水酸化テトラアルキルアンモニウム、水、ジメチルスルホキシド及びアシル化剤を含む修飾反応溶液をセルロースに浸透させて、セルロースをアシル化修飾し解繊することを特徴とする。
OH (1)
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数が2~4のアルキル基を表す)。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される水酸化テトラアルキルアンモニウム、水、ジメチルスルホキシド及びアシル化剤を含む修飾反応溶液をセルロースに浸透させて、セルロースをアシル化修飾し解繊することを含むアシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法。
OH (1)
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数が2~4のアルキル基を表す)。
【請求項2】
下記式(1)で示される水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶液をセルロースに浸透させてセルロースを膨潤及び/又は部分解繊した後、前記溶液にアシル化剤を添加して修飾反応溶液とし、前記膨潤及び/又は部分解繊したセルロースをアシル化修飾し解繊することを含むアシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法。
OH (1)
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数が2~4のアルキル基を表す)。
【請求項3】
前記修飾反応溶液中の水酸化テトラアルキルアンモニウム、水、メチルスルホキシド及びアシル化剤の成分比が、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水、メチルスルホキシド及びアシル化剤の総量に対して、水酸化テトラアルキルアンモニウムが0.1~1.2wt%、水が0.1~1.8wt%、ジメチルスルホキシドが82.0~98.8wt%、アシル化剤が1.0~15.0wt%である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、セルロースの溶解並びにセルロースを解繊したセルノースナノファイバー(セルロース微細繊維)及びその製造方法に関して多数の特許出願を行っている。その中で本願に関連する代表的なものを以下に列挙する。
【0003】
セルロースを溶解して修飾セルロースとする特許文献1は、テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒によりセルロースを溶解した後、エステル化及びエーテル化反応して修飾セルロースを製造している。
【0004】
セルロースを溶解させずに、セルロースナノファイバーに解繊して、修飾セルロースナノファイバーを得る先行技術としては、特許文献2~4がある。
【0005】
特許文献2は、テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒によりセルロースを膨潤および/または部分溶解して解繊した後、化学変性して修飾セルロースナノファイバーを製造している。
【0006】
特許文献3は、ドナー数26以上の非プロトン性溶媒と、カルボン酸ビニルエステルまたはアルデヒドとを含む解繊溶液をセルロースに浸透させて修飾セルロース微細繊維を製造している。
【0007】
特許文献4は、ドナー数26以上の非プロトン性溶媒と、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤として式{X(R1)(R2)(R3)N-R4-Y(式中、Xはハロゲンイオン等、R1~R3はアルキル基、R4はアルキレン基、YはOH、SH又はNH)}の4級アンモニウム塩を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、修飾セルロース微細繊維を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5820688号公報
【特許文献2】特許第5875323号公報
【特許文献3】国際公開2017/159823号
【特許文献4】特開2021-116336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、修飾反応溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを微細化解繊すると同時にアシル化修飾することを含むアシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、セルロースを前処理することなく、水酸化テトラアルキルアンモニウム(以下「TAAH」と略記する場合がある。)、水、ジメチルスルホキシド(以下「DMSO」と略記する場合がある。)と、アシル化剤と、を含む修飾反応溶液をセルロースに浸透させて、セルロースをアシル化修飾するとともに微細化することにより、樹脂への分散性に優れたアシル化修飾セルロース微細繊維を効率的に製造する方法を見出した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
[1] 下記式(1)で示される水酸化テトラアルキルアンモニウム、水、ジメチルスルホキシド及びアシル化剤を含む修飾反応溶液をセルロースに浸透させて、セルロースをアシル化修飾し解繊することを含むアシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法。
OH (1)
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数が2~4のアルキル基を表す)。
[2] 下記式(1)で示される水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含む溶液をセルロースに浸透させてセルロースを膨潤及び/又は部分解繊した後、前記溶液にアシル化剤を添加して修飾反応溶液とし、前記膨潤及び/又は部分解繊したセルロースをアシル化修飾し解繊することを含むアシル化修飾セルロース微細繊維の製造方法。
OH (1)
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数が2~4のアルキル基を表す)。
[3] 前記修飾反応溶液中の水酸化テトラアルキルアンモニウム、水、メチルスルホキシド及びアシル化剤の成分比が、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水、メチルスルホキシド及びアシル化剤の総量に対して、水酸化テトラアルキルアンモニウムが0.1~1.2wt%、水が0.1~1.8wt%、ジメチルスルホキシドが82.0~98.8wt%、アシル化剤が1.0~15.0wt%である、前記[1]又は前記[2]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の修飾反応溶液中のTAAHと水の存在は、修飾反応溶液のセルロースフィブリル同士間への浸透効率を向上することだけでなく、水素結合の切断とアシル化修飾反応を促進することもできる。この二重効果により均一性と解繊度の高いアシル化修飾セルロース微細繊維が得られる。そのため、結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、且つ溶融混錬により樹脂へのナノ分散ができるセルロース微細繊維を効率良く生産できる。さらに、用途に応じて様々なアシル基を導入し、樹脂などの有機媒体との親和性をさらに向上できる。
【0013】
さらに、本発明のアシル化修飾セルロース微細繊維の製造法は、水酸化テトラアルキルアンモニウムと水を添加することにより修飾反応時間又は解繊時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1、2,4,6、7と比較例1で得たアセチル化修飾セルロース微細繊維のIRスペクトル
図2】実施例1で得たアセチル化修飾セルロース微細繊維のSEM写真
図3】実施例2で得たアセチル化修飾セルロース微細繊維のSEM写真
図4】実施例4で得たアセチル化修飾セルロース微細繊維のSEM写真
図5】実施例5得たアセチル化修飾セルロース微細繊維のSEM写真
図6】実施例6得たアセチル化修飾セルロース微細繊維のSEM写真
図7】実施例7得たアセチル化修飾セルロース微細繊維のSEM写真
図8】比較例1で処理した木材パルプのSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセルロース微細繊維の製造方法は、セルロースを機械的破砕や乾燥等の前処理することなく、TAAH、水、DMSOと、アシル化剤と、を含む修飾反応溶液をセルロースに浸透させて、セルロースをアシル化修飾するとともにセルロースミクロフィブリルの間の水素結合を切断しミクロフィブリル同士間の相互作用を弱めることによりアシル化セルロース微細繊維を製造することを特徴とする。
【0016】
また、本発明のセルロース微細繊維の製造方法は、セルロースの解繊がある程度進んでからアシル化剤を加えてもよい。すなわち、TAAH、水及びDMSOを含む溶液(以下「解繊溶液」という。)をセルロースに浸透させてセルロースを膨潤及び/又は部分解繊した後、前記溶液にアシル化剤を添加して修飾反応溶液とし、前記膨潤及び/又は部分解繊したセルロースをアシル化修飾するとともにセルロースミクロフィブリルの間の水素結合を切断することによりアシル化セルロース微細繊維を製造することができる。
【0017】
アシル化剤を添加した修飾反応溶液のセルロースへの浸透性を低下させないため、解繊がある程度進んでから加えることが好ましい。アシル化剤を途中から加えることにより、アシル化反応に先立ってTAAH、水とDMSOを含む溶液をセルロースに充分に浸透させることができ、セルロースのミクロフィブリル同士の間を膨張させたり、ミクロフィブリルの配列を乱れさしたりすることができる。そうすることにより、後に添加するアシル化剤は容易にセルロースのフィブリルに作用し修飾反応の効率と均一性を促進できる。
【0018】
原料となるセルロースは、セルロース単独の形態であってもよく、リグニンやヘミセルロースなどの非セルロース成分を含む混合形態であってもよい。
好ましいセルロール物質としては、I結晶型セルロース構造を含むセルロース物質であり、例えば、木材由来パルプ、木材、竹、リンダーパルプ、綿、セルロースパウダーを含む物質等がある。
【0019】
前記TAAHは、セルロースの水素結合を切断し、フィブリル同士間の水素結合を切断する効果を有している。加えて、塩基性であるためセルロース水酸基のアシル化修飾反応を促進する作用もある。一方、水はDMSOにおけるTAAHの安定性及びDMSOとTAAHの溶媒和を付与する役割として働くと推測する。
【0020】
本発明に用いる水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)は、アルキル基の炭素数が2~4のものであれば何の制限もないが、好ましいTAAHは、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)と水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)である。TAAHは、水を含んだ方が安定性が高く、加えて、水は修飾反応溶液の成分であるため、TAAHは水溶液の状態で利用できる。その中でも、TEAH、TPAH、TBAHは、市販の薬品が水溶液で市販されており入手が容易である。前記水酸化テトラアルキルアンモニウムは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
一方、水酸化テトラメチルアンモニウムは塩基性を有するもののセルロースの膨張又は解繊を促進する効果が無かった。また、ブチル基より側鎖の長いテトラアルキルアンモニウムは塩基性とDMSOへの溶解性は低く、セルロースの解繊と修飾を促進する効果が低いため好ましくない。
【0022】
本発明に用いるアシル化剤としては、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸無水物及びカルボン酸などがあるが、反応効率を維持し副反応を抑えるためカルボン酸ビニルが最も好ましい。これらのアシル化剤は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(2)で表されるカルボン酸ビニルエステルを用いることができる。
R1-COO-C(R2)=C(R3)(R4) (2)
(式中、R1は炭素数1~16のアルキル基、アルキレン基シクロアルキル基及びアリール基のいずれかを表わし、R2,R3,R4は水素または炭素数1~16のアルキル基、アルキレン基シクロアルキル基及びアリール基のいずれかを表わす。)
【0024】
さらに、前記カルボン酸ビニルエステルが、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、酢酸イソプロペニルの群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
これらのカルボン酸ビニルは、単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。これらのカルボン酸ビニルのうち、解繊性と反応性の点から、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルと酪酸ビニル等の炭素数2~7(特に2~5)の低級脂肪族カルボン酸ビニルが好ましく、C1-4アルキルカルボン酸ビニルが特に好ましい。炭素数が大きすぎると、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性が低下するおそれがあるため、低級脂肪族カルボン酸ビニルと併用することが好ましい。
【0026】
本発明の修飾反応溶液は、TAAH、水、DMSOとアシル化剤から構成され、その構成比は、TAAHが0.1~1.2wt%、水が0.1~1.8wt%、DMSOが82~98.8wt%、アシル化剤が1~15wt%の濃度範囲内になるように調整される。より好ましくは、TAAHが0.15~1.0wt%、水が0.15~1.6wt%、DMSOが85.4~97.7wt%、アシル化剤が2~12wt%の濃度範囲内になるように調整される。さらに好ましくは、TAAHが0.2~0.9wt%、水が0.2~1.5wt%、DMSOが85.4~97.7wt%、アシル化剤が3~10wt%の濃度範囲内になるように調整される。
【0027】
TAAHの濃度が0.1wt%より低くなると解繊と修飾に与える作用は少ないため好ましくない。一方、1.2wt%より高くなるとセルロースは溶解しI型結晶構造を失う恐れがあるため好ましくない。
【0028】
水の濃度は0.1wt%より低くなるとセルロースの解繊度が低下したり、TAAHが不安定で分解したりする恐れがあるため好ましくない。一方、1.8wt%より高くなるとセルロースの解繊度だけでなく、修飾率も低下するため好ましくない。
【0029】
アシル化剤は1wt%より低くなるとセルロースの解繊度合と修飾率(疎水性効果)が低下する恐れがあるため好ましくない。一方、15wt%を超えると修飾反応液のセルロースへの浸透性が悪くなるため解繊度合が低下する恐れがあるため好ましくない。
【0030】
本発明の修飾反応溶液は、TAAH、水、アシル化剤及びDMSO以外に、解繊性、修飾反応性に影響を与えない程度であれば、他の有機溶媒を含むこともできる。例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリトン、ピリジンが他の有機溶媒として挙げられる。
【0031】
修飾反応溶液に添加するセルロースの量は、修飾反応溶液中のアシル化剤の濃度が前記濃度範囲であれば、セルロースに対してアシル化剤が過剰であっても問題はないが、アシル化剤の使用効率が低いため、修飾反応溶液中のアシル化剤1部に対してセルロースが1/5~3部が好ましく、より好ましくは1/3~1部、最も好ましくは、1/2~1部である。
【0032】
セルロースと修飾反応溶液との重量割合は、修飾反応溶液中のアシル化剤濃度とアシル化剤とセルロースの比率を考慮すると、通常、前者/後者=0.5/99.5~25/75程度の範囲から選択でき、例えば1/99~20/80、好ましくは1.5/98.5~15/85、さらに好ましくは2/98~12/88程度である。セルロースの割合が少なすぎると、セルロース微細繊維の生産効率が低くなり、多すぎると、修飾反応溶液のセルロース繊維間、ラメラ間およびミクロフィブリル間への浸透が不十分なため解繊度合いが低下する恐れがある。また、セルロースの割合が多いと分散液の粘度が高くなるため反応の均一性が低下する。いずれにしても生産性と品質が低下するおそれがある。さらに、セルロースの割合が多すぎると得られた微細繊維のサイズと修飾率の均一性が低下するおそれがある。
【0033】
本発明の解繊溶液又は修飾反応溶液の調製方法は、特に制限しない。例えば、通常市販から購入したTAAH水溶液を所望のTAAH/水の重量比まで調製した後、解繊溶液であればDMSOを、修飾反応溶液であればDMSOとアシル化剤を加えて攪拌することで解繊溶液又は修飾反応溶液が得られる。市販TAAH水溶液がTAAHの濃度が、水の濃度を最適範囲にしたときに所望濃度より低い場合、使用する前に蒸留し所望水分率まで濃縮してから使用することが好ましい。また、所望濃度より高い場合、水を加え希釈してから使用する。混ぜる時の温度に特に制限しないが、10~70℃が好ましい。
【0034】
本発明の修飾反応溶液にてセルロースを修飾する方法は、特に制限しない。例えば、既定量の本発明の修飾反応溶液にセルロースを加え、一定な温度と時間で攪拌することでアシル化修飾したセルロース微細繊維の分散液が得られる。攪拌は、通常用いられる機械式撹拌機で攪拌すればよいが、ホモジナイザー等であってもよい。ビーカースケールならマグネティックスターラーの攪拌で十分である。反応温度は、20~80℃であればよく、室温で温度調整せずに攪拌させればよい。20℃より低くなると修飾反応速度が低いため好ましくない。80℃より高くなるとセルロースやTAAHが分解したりする恐れがあるため好ましくない。最も好ましくは20~70℃である。
【0035】
本発明での修飾反応時間は、前記修飾反応溶液に含まれるTAAHとアシル化剤の種類と濃度及び反応温度によって適宜に調整すればよい。例えば0.2~24時間、好ましくは0.5~12時間、さらに好ましくは1~8時間程度である。酢酸ビニルなどの低級カルボン酸ビニルを用いる場合、数時間(例えば0.5~5時間)程度の時間であってもよく、好ましくは1~4時間程度である。さらに、前述のように、処理温度(反応温度)を高めたり、攪拌速度を増加したりすることで反応時間を短くしてもよい。この時、カルボン酸ビニルなどの低沸点成分のアシル化剤を含む場合は蒸発を避けるため密閉系統、加圧系統又は還流系統内で行うのが好ましい。反応時間が短すぎると、修飾反応溶液がミクロフィブリル間まで浸透するのが不十分のため、反応が不十分となり、解繊度合いも低下するおそれがある。一方、反応時間が長すぎたり、温度が高すぎたりすることによる過修飾が生じ、セルロース微細繊維の結晶化度と収率が低下するおそれがある。
【0036】
アシル化剤を途中から加える場合、第1段階の解繊溶液によりセルロースを膨潤及び/又は部分解繊するのに用いる装置は特に制限しないが、後のアシル化修飾反応/解繊と同じ攪拌装置を備えた装置を使用すればよい。第1段階の膨潤及び/又は部分解繊の時間は、TAAH、水とDMSOの配合比と攪拌機のせん断力により適宜に調整すればよい。例えば、効率の観点から好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下、最も好ましくは3時間以下である。
そして、アシル化剤を加えてから前記膨潤及び/又は部分解繊したセルロースをアシル化修飾し解繊するのにさらに0.5~5時間以上反応させることが好ましい。
【0037】
修飾反応/解繊溶液からアシル化修飾セルロース微細繊維を回収する方法として、修飾反応/解繊溶液を回収しそのまま再利用するか否かにより2つ方法が挙げられるが、特に制限しない。
【0038】
例えば、修飾反応/解繊溶液を回収しそのまま再利用する場合、反応終了後、遠心分離法、圧搾法、濾過法、沈殿法等の固液分離方法を用いて固形分のアシル化修飾微細繊維と修飾反応/解繊溶液をそれぞれ回収する。回収した修飾反応/解繊溶液を組成調整(例えば、消耗されたアシル化剤を追加する)した後次のアシル化修飾微細繊維の合成に使用できる。
固形分のアシル化修飾微細繊維は、洗浄することで残留した修飾/解繊溶媒を除く。洗浄操作を複数回(例えば、2~5回程度)で行うことによりアシル化修飾セルロース微細繊維が得られる。洗浄溶媒は特に制限しないが、修飾微細繊維以外の成分を解ける有機溶媒であればよい。例えば、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、トルエン類などが挙げられる。アセチル基等親水性の高いアシル基で修飾する場合は水やアルコールが特に好ましい。一方、ラウリル基等疎水性の高いアシル基で修飾する場合は、アシル化剤を効率的に除くため、水やアルコールで洗浄した後、アセトン、エステル又はトルエン等極性が低い溶媒で洗浄することが好ましい。
【0039】
一方、修飾反応/解繊溶液を再利用しない場合、反応終了後、水又はメタノールなどでアシル化剤を失活させてから前記に記述した固液分離により修飾セルロース微細繊維を回収し、前記と同じ洗浄方法と洗浄溶媒により洗浄する。
【0040】
得られたセルロース微細繊維の形状はFE-SEMを用いて観察することができる。通常、本発明のアシル化修飾セルロース微細繊維の繊維径は数10~数100nm、長さは数μm~数十μmであるが、場合によっては、ミクロンオーダーの微細繊維が含まれることがある。サブミクロンオーダーやミクロンオーダーの微細繊維に含まれるミクロフィブリルは緩く乱れた状態となっているため、せん断力を加えることで数10nm以下にナノ化することができる。せん断力を加える装置は特に制限しないが、例えば二軸混錬機、ホモジナイザー、マスコロイダーとペイントシェーカーなどが挙げられる。
【0041】
本発明のアシル化修飾セルロース微細繊維の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数)は、用途に応じて反応条件で制御することができる。平均置換度は0.1以下になると解繊度合と得られた微細繊維の疎水性が低いため好ましくない。1.5を超えるとセルロースのI型結晶構造を失う恐れがあるため好ましくない。より好ましくは0.2~1.4である。最も好ましくは0.4~1.3である。なお、平均置換度(DS:degree of substitution)は、セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数であり、Biomacromolecules 2007,8,1973-1978やWO2012/124652A1又はWO2014/142166A1などを参照できる。
【0042】
本発明により作製するセルロース微細繊維は有機溶媒に容易に分散できる。セルロース微細繊維は分散可能の有機溶媒は、アシル基の種類に依存する。例えば、炭素数2~3の脂肪族アシル基で修飾したセルロース微細繊維はアルコール類、アミド類とテトラヒドロフランなどの極性有機溶媒に分散可能である。一方、炭素数4以上の脂肪族アシル基又は芳香族アシル基により修飾したセルロース微細繊維は、極性溶媒から疎水性溶媒まで分散可能である。例えば、ブチリル基、ラウリル基、ベンゾイル基で修飾したセルロース微細繊維は、トルエンやジクロロメタンにも分散可能である。
【実施例0043】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロース微細繊維の特性は以下のようにして測定した。
【0044】
(用いた原料、試薬)
セルロースパルプ:NBKPパルプ(キャンフォー)とコットンリンターパルプを用いた。何れも丸紅株式会社から入手した。セルロースパルプをサンプル瓶に入れるサイズまで千切ったパルプ。
40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液:東京化成工業株式会社製。
35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液:東京化成工業株式会社製。
40%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液:東京化成工業株式会社製。
カルボン酸ビニル、DMSO、他の原料:ナカライテスク(株)製の試薬。
【0045】
(アシル化修飾セルロース微細繊維のIRスペクトル)
セルロース微細繊維のIRスペクトルはフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で測定した。なお、測定は、NICOLET社製「NICOLET MAGNA-IR760 Spectrometer」を用い、反射モードで分析した。アシル化修飾は周波数1730cm-1の吸収バンドにより確認した。
【0046】
(アシル化修飾セルロース微細繊維の平均置換度の評価)
規定量のアシル化修飾セルロース微細繊維をNaOH/EtOH/HOの混合液に分散させ、室温で4時間撹拌することによりエステル結合が加水分解し、アシル基がCNFの水酸基から外れ、アシル化CNFが無修飾CNFに変換される。一方、外れたアシル基は水酸化ナトリウムと結合してカルボン酸ナトリウムに変換し、そのモル数は下に示す滴定法により定量できる。
加水分解後、反応溶液(溶媒、カルボン酸ナトリウムと水酸化ナトリウム)と残渣(無修飾CNF)をろ過により分離した。残渣を乾燥し、天秤で秤量した。溶液を塩酸水溶液で滴定することにより水酸化ナトリウムの残留量を定量した。
加水分解溶液に加えた水酸化ナトリウムの当量数をA、加水分解後回収、乾燥後CNFの重さをW、滴定に消耗された塩酸の当量数をBとして、下式によりアシル基のモル数(C)とアシル基の平均置換度DSを算出した。
セルロース(無水グルカン)のモル数(M)=W/162
アシル基のモル数C=A-B
平均置換度DS=C/M
【0047】
(SEM観察)
セルロース微細繊維の形状はFE-SEM(日本電子(株)製「JSM-6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。
【0048】
(アシル化修飾セルロース微細繊維の有機溶媒分散性の評価)
アシル化修飾セルロース微細繊維の有機溶媒への分散性は、アシル化修飾率と解繊度合を反映するパラメターである。本発明は以下の方法により評価する。
洗浄したアシル化修飾セルロース微細繊維(乾燥重量0.05g)と分散用溶媒10gをそれぞれ20mlのサンプル瓶に入れ、スターラーでよく撹拌した後、室温で6時間静置した後観察し、沈殿しない場合は分散良好と判断した。一方、沈殿し場合は分散不可と評価した。
【0049】
(アシル化修飾セルロース微細繊維の結晶化度の評価)
アシル化修飾セルロース微細繊維の分散液を乾燥し、粉末X線結晶回折(XRD)を用いて結晶化度を測定した。なお、X線回折装置(UltimaIV、株式会社リガク製)を使用して分析した。測定条件を次に示した。
・X線:Cu/40kV/40mA
・スキャンスピード:10°/分
・走査範囲:2θ=5~70°
また、下記式によって、結晶化度を算出した(Textile Res.J.29:786-794,1959参照)。
結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100
I200:2θ=22.6°の回折強度
IAM:アモルファス部の回折強度であり2θ=18.5°の回折強度
【0050】
〔実施例1〕
40%の水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液0.1g、ジメチルスルホキシド5gを10mlのサンプル瓶に入れ、23℃磁性スターラーで混合液が均一に混ざるまで攪拌した。次に、コトンリンターパルプ0.23gを加え1時間攪拌した後、酢酸ビニル0.25gを入れて1時間攪拌することでアセチル化修飾した。次に、蒸留水で洗浄することにより修飾反応溶液(TPAH、酢酸ビニルとDMSO)と副生物(アセトアルデヒド)を除いた。得られたセルロース微細繊維について、修飾有無をFT-IR分析で確認した結果、IRスペクトル(図1)は周波数1730cm-1付近に強い吸収バンドが検出された。また、平均置換度と結晶化度を評価した結果、それぞれは1.3と68%であった(表1)。SEMで形状を観察した結果を図2に示した。殆どのセルロース微細繊維の繊維径は数10~数100nm、長さは数μm~数十μmに分布している。アセチル化微細繊維をエタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン等の溶媒に分散し、得られた分散液は室温で静置しても沈降による層分離が見られなかった。
【0051】
〔実施例2〕
40%TPAH水溶液と酢酸ビニルの添加量をそれぞれ0.06gと0.15gにした以外は実施例1と同様に実施と評価した。結果を図1(IRスペクトル)、図3(SEM写真)と表1(平均置換度と結晶化度)にそれぞれ示した。TPAH水溶液と酢酸ビニルの添加量を減らすことで修飾率は低下したが、解繊度合は殆ど変わらなかった。SEMで形状を観察した結果、殆どのセルロース微細繊維の繊維径は数10~数100nm、長さは数μm~数十μmに分布している。アセチル化微細繊維をエタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン等の溶媒に分散し、得られた分散液は室温で静置しても沈降による層分離が見られなかった。
【0052】
〔実施例3〕
反応温度を55℃にした以外は実施例2と同様にして実施し評価した。結果を図4と表1に示した。結晶化度は実施例2とほぼ同等であったが、平均置換度は実施例2を上回った。SEMで形状を観察した結果、一部の粗大繊維が観察されたが、殆どのセルロース微細繊維の繊維径は数10~数100nm、長さは数μm~数十μmに分布している。アセチル化微細繊維をエタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン等の溶媒に分散し、得られた分散液は室温で静置しても沈降による層分離が見られなかった。
【0053】
〔実施例4〕
40%TPAH水溶液に代えて40%のTBAH水溶液を用いた以外は実施例2と同様に実施と評価した。結果を図1(IRスペクトル)、図4(SEM写真)と表1(平均置換度と結晶化度)にそれぞれ示した。SEMで形状を観察した結果、一部の粗大繊維が観察されたが、殆どのセルロース微細繊維の繊維径は数10~数100nm、長さは数μm~数十μmに分布している。アセチル化微細繊維をエタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン等の溶媒に分散し、得られた分散液は室温で静置しても沈降による層分離が見られなかった。TBAHはTPAHとほぼ同等な解繊促進効果を有することが分かった。
【0054】
〔実施例5〕
40%TPAH水溶液に代えて40%のTEAH水溶液を用いた以外は実施例2と同様に実施と評価した。結果を図5(SEM写真)と表1(平均置換度と結晶化度)にそれぞれ示した。結晶化度は実施例2とほぼ同等であった。平均置換度は実施例2より高かったが、粗大繊維の含有量が増えた。TPAHと比べ解繊の促進作用がやや低下したが、有機溶媒への分散性は殆ど変わらなかった。
【0055】
〔実施例6〕
コトンリンターパルプに代えてキャンフォーパルプを用いた以外は実施例2と同様に実施と評価した。結果を図1(IRスペクトル)、図6(SEM写真)と表1(平均置換度と結晶化度)にそれぞれ示した。評価結果から、セルロースの原料を変えても同等な修飾と解繊度合が得られることが判明した。
【0056】
〔実施例7〕
予備膨潤/解繊せず、最初から酢酸ビニルを添加し2時間攪拌した以外実施例1と同様にアセチル化修飾セルロース微細繊維を調製し評価した。得られたセルロース微細繊維の平均置換度は1.31、結晶化度は65%(表1)であった。IRスペクトルを図1,SEM写真を図7に示した。SEM観察の結果から、粗大繊維は実施例1より多かったが、微細繊維のほうは実施例とほぼ同等な形状とサイズを持つことが判明した。
【0057】
〔比較例1〕
水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液を添加しない以外は実施例6と同様にしてセルロースのアシル化修飾反応を行った。実施例1と同様に洗浄し固形分を回収した。回収した固形分のSEM写真を図8に示す。原料のパルプ繊維とほぼ同様な粗大繊維が観察された。FT-IR分析の結果(図1)により修飾は殆どなかった。
【0058】
〔比較例2〕
40%の水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液の添加量を0.18gに変更した以外は実施例1と同様にしてセルロースのアシル化修飾反応を行った。実施例1と同様に洗浄し固形分を回収した。回収したアセチル化セルロース微細繊維の平均置換度は1.13であり、結晶化度は45%まで低下した。この結果から、一部のセルロースは完全溶解し酢酸セルロースに変換されたと考える。
【0059】
実施例1~7及び比較例1、2の修飾反応溶液の組成と反応条件及び得られたセルロース微細繊維の平均置換度、結晶化度をまとめて表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の修飾セルロース微細繊維は、各種複合材料、コーティング剤に利用でき、シートやフィルムに成形して利用することもできる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8