(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048191
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】ステータ、およびモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20230331BHJP
H02K 3/487 20060101ALI20230331BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/487 Z
H02K15/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157357
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩永 賢勇朗
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DA17
5H604DA20
5H604DB18
5H604DB26
5H604PB02
5H604PB03
5H604QC01
5H604QC10
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB14
5H615BB16
5H615PP01
5H615PP13
5H615PP19
5H615QQ02
5H615QQ12
5H615RR02
5H615RR07
5H615SS05
5H615SS09
5H615SS42
5H615TT27
5H615TT37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生産性を向上させることができるステータを提供する。
【解決手段】ステータは、インナーロータ型のステータであって、径方向内方から径方向外方へ凹むスロットSを有する環状のステータコアと、スロット内部に配置される導線122Aを有するコイルと、導線とステータコアとの間に配置されるシート状の第1絶縁部材と、スロット内部において少なくとも一部が前記第1絶縁部材より径方向内方に配置されるシート状の第2絶縁部材126と、ステータコアと第2絶縁部材との間、および第2絶縁部材と導線との間に少なくとも含浸される含浸剤127と、を有する。第2絶縁部材は、少なくとも一部が径方向に積層された複数層を有する。複数層のうち最も径方向内方の層は、樹脂層1262である。樹脂層の少なくとも一部は、スロットを介して径方向内方へ露出している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーロータ型のステータであって、
径方向内方から径方向外方へ凹むスロットを有する環状のステータコアと、
前記スロット内部に配置される導線を有するコイルと、
前記導線と前記ステータコアとの間に配置されるシート状の第1絶縁部材と、
前記スロット内部において少なくとも一部が前記第1絶縁部材より径方向内方に配置されるシート状の第2絶縁部材と、
前記ステータコアと前記第2絶縁部材との間、および前記第2絶縁部材と前記導線との間に少なくとも含浸される含浸剤と、
を有し、
前記第2絶縁部材は、少なくとも一部が径方向に積層された複数層を有し、
前記複数層のうち最も径方向内方の層は、樹脂層であり、
前記樹脂層の少なくとも一部は、前記スロットを介して径方向内方へ露出している、ステータ。
【請求項2】
前記複数層は、アラミド層と、前記アラミド層と異なる前記樹脂層の2層である、請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記アラミド層は、Nomex(登録商標)により構成され、
前記樹脂層は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)により構成される、請求項2に記載のステータ。
【請求項4】
前記樹脂層が径方向内方を向いた状態で展開した前記第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視て、
前記樹脂層の少なくとも一部は、前記第2絶縁部材の周方向中央に配置され、
前記アラミド層は、前記周方向中央に配置される前記樹脂層の周方向両側に配置される、請求項2または請求項3に記載のステータ。
【請求項5】
前記樹脂層が径方向内方を向いた状態で展開した前記第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視て、
前記樹脂層の少なくとも一部は、前記第2絶縁部材の軸方向中央に配置され、
前記アラミド層は、前記軸方向中央に配置される前記樹脂層の軸方向両側に配置される、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項6】
前記樹脂層が径方向内方を向いた状態で展開した前記第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視て、
前記樹脂層の少なくとも一部は、前記第2絶縁部材の軸方向両端に配置され、
前記アラミド層は、軸方向において、前記軸方向両端に配置される前記樹脂層の間に配置される、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項7】
前記樹脂層が径方向内方を向いた状態で展開した前記第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視て、
前記樹脂層の少なくとも一部は、前記第2絶縁部材の周方向両端に配置され、
前記アラミド層は、周方向において、前記周方向両端に配置される前記樹脂層の間に配置される、請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のステータと、
前記ステータの径方向内方に配置されるロータと、
を有する、モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ、およびモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車、ハイブリッド車などに搭載されるモータには、次のようなステータが設けられることが知られている。ステータは、周方向に並べられたティースを含むステータコアを有する。隣り合うティース間にスロットが配置される。スロット内には、コイルの導線が配置されるとともに、導線とステータコアとを絶縁するための絶縁紙が配置される。また、コイルおよび絶縁紙にワニスを含浸させることで、コイルとステータコアとの間の絶縁をしつつ、コイルおよび絶縁紙をステータコアへ固定する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のステータでは、ワニスを含浸させる工程において、ワニスが絶縁紙の所望の箇所以外に付着し、付着したワニスを取り除く作業が必要であった。従って、当該作業の作業性を向上させることで、ステータの生産性を改善させる余地があった。
【0005】
本開示は、生産性を向上させることができるステータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の例示的なステータは、インナーロータ型のステータであって、径方向内方から径方向外方へ凹むスロットを有する環状のステータコアと、前記スロット内部に配置される導線を有するコイルと、前記導線と前記ステータコアとの間に配置されるシート状の第1絶縁部材と、前記スロット内部において少なくとも一部が前記第1絶縁部材より径方向内方に配置されるシート状の第2絶縁部材と、前記ステータコアと前記第2絶縁部材との間、および前記第2絶縁部材と前記導線との間に少なくとも含浸される含浸剤と、を有する。前記第2絶縁部材は、少なくとも一部が径方向に積層された複数層を有する。前記複数層のうち最も径方向内方の層は、樹脂層である。前記樹脂層の少なくとも一部は、前記スロットを介して径方向内方へ露出している。
【発明の効果】
【0007】
本開示の例示的なステータによれば、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電動駆動装置の断面図である。
【
図2】
図2は、ステータの軸方向一方側端部の斜視図である。
【
図4】
図4は、ステータにおけるスロット周辺の構成を示す一部拡大図である
【
図5】
図5は、ステータの製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、ステータの製造工程において成型されるコイルの一例である。
【
図8】
図8は、スロットを径方向内方から径方向外方へ向かって視た場合の図である。
【
図9】
図9は、展開した第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図(上段)と、第2絶縁部材のI-I断面図(下段)である。
【
図10】
図10は、第2絶縁部材の層構造の変形例を示すI-I断面図である。
【
図11】
図11は、展開した第1変形例に係る第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図(上段)と、当該第2絶縁部材のI-I断面図(下段)である。
【
図12】
図12は、展開した第2変形例に係る第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【
図13】
図13は、展開した第3変形例に係る第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【
図14】
図14は、展開した第4変形例に係る第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【
図15】
図15は、展開した第5変形例に係る第2絶縁部材を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して例示的な実施形態を説明する。
【0010】
なお、本明細書では、電動駆動装置700において、モータ100の中心軸CAと平行な方向を「軸方向」と呼ぶ。軸方向のうち、後述する第2シャフト110bから第1シャフト110aへの向きを「軸方向一方」と呼び、第1シャフト110aから第2シャフト110bへの向きを「軸方向他方」と呼ぶ。
【0011】
また、中心軸CAに直交する方向を「径方向」と呼び、中心軸CAを中心とする回転方向を「周方向」と呼ぶ。径方向のうち、中心軸CAへと近づく向きを「径方向内方」と呼び、中心軸CAから離れる向きを「径方向外方」と呼ぶ。
【0012】
また、本明細書において、「環状」は、中心軸CAを中心とする周方向の全周に渡って切れ目が無く連続的に一繋がりとなる形状のほか、中心軸CAを中心とする全周の一部に切れ目を有する形状を含む。
【0013】
<1.電動駆動装置の構成>
実施形態に係る電動駆動装置700は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)などのモータ100を駆動源とする車両に搭載され、該車両の車輪を回転駆動する駆動源として使用される。
図1は、実施形態に係る電動駆動装置700の断面図である。なお、
図1は、モータ100の中心軸CAを含む平面で電動駆動装置700を切断した場合の断面構造を示している。
【0014】
図1に示すように、電動駆動装置700は、モータ100と、減速装置200と、差動装置(図示省略)と、ハウジング400と、を備える。ハウジング400は、モータ100を収容するモータハウジング401と、減速装置200を収容する減速ハウジング402と、差動装置を収容する差動ハウジング(図示省略)と、を有する。モータ100は、三相交流で駆動する。減速装置200は、モータ100に接続され、モータ100から伝達されるトルクを所定の減速比で増大させて差動装置に伝達する。差動装置は、減速装置200を介してモータ100に接続され、減速装置200から伝達されたトルクを車輪に伝達する。
【0015】
<2.モータの構成>
モータ100は、
図1に示すように、ロータ11と、ステータ12と、を備える。
【0016】
ロータ11は、ステータ12よりも径方向内方に設けられ、中心軸CAを中心として周方向に回転可能である。すなわち、モータ100は、インナーロータ型のモータであって、ステータ12と、ステータ12の径方向内方に配置されるロータ11と、を有する。ステータ12は、インナーロータ型のステータである。ロータ11は、シャフト110と、ロータコア111と、マグネット112と、を有する。
【0017】
シャフト110は、ロータ11の回転軸である。シャフト110は、ベアリング(符号省略)を介してモータハウジング401により回転可能に支持される。シャフト110は、第1シャフト110aと、第2シャフト110bと、第1ギア部110cと、を有する。第1シャフト110aおよび第2シャフト110bは、軸方向に延びる中空の筒状である。第1シャフト110aの軸方向他方側端部には、第2シャフト110bの軸方向一方側端部が接続される。第1ギア部110cは、減速装置200の第2ギア部210と噛み合う歯車であり、モータ100の駆動力を減速装置200に伝達する。第1ギア部110cは、第2シャフト110b径方向外側面に設けられる。第2シャフト110bは、モータハウジング401から軸方向他方に突出する。そのため、第2シャフト110bの軸方向他方側の部分と第1ギア部110cとは、減速ハウジング402内に収容される。
【0018】
ロータコア111は、中心軸CAを中心とする環状の磁性体であり、本実施形態では板状の電磁鋼板が複数積層された積層体である。ロータコア111は、第1シャフト110aの径方向外側面に固定される。ロータコア111は、該ロータコア111を軸方向に貫通する複数の貫通孔1111を有する。各々の貫通孔1111は、周方向に間隔を有して配列される。
【0019】
マグネット112は、複数のマグネット片(図示省略)を有する。各々のマグネット片は、径方向と直交する方向に広がる平板状であり、ロータコア111の各々の貫通孔1111内に保持される。言い換えると、各々のマグネット片は、周方向に間隔を有して並べられる。
【0020】
ステータ12は、ロータ11を駆動して回転させる。ステータ12は、中心軸CAを中心とする環状である。
図2は、ステータ12の軸方向一方側端部の斜視図である。
【0021】
ステータ12は、ステータコア121と、コイル122と、相間紙123と、結束部材124と、第1絶縁部材125(後述の
図4で図示)と、第2絶縁部材126(後述の
図4で図示)と、を有する。
【0022】
図3は、ステータコア121の斜視図である。ステータコア121は、中心軸CAを中心とする環状の磁性体であり、本実施形態では板状の電磁鋼板が複数積層された積層体である。ステータコア121は、
図3に示すように、環状のコアバック1211と、複数のティース1212と、複数のスロットSと、を有する。
【0023】
複数のティース1212は、コアバック1211の径方向内端部から径方向内方に延び、周方向に並ぶ。周方向に隣り合うティース間には、スロットSが設けられる。複数のスロットSは、環状のステータコア121の径方向内端部に設けられ、周方向に並ぶ。スロットSは、ステータコア121の径方向内端面から径方向外方へ凹んで軸方向に延びる空間である。スロットSは、径方向内方へ向かって開口している。すなわち、ステータ12は、径方向内方から径方向外方へ凹むスロットSを有する環状のステータコア121を有する。
【0024】
図4は、ステータ12におけるスロットS周辺の構成を示す一部拡大図である。
図4は、ステータコア121の軸方向一方側端部における構成を概略的に示している。
【0025】
スロットSの内部には、コイル122の導線122Aが配置される。すなわち、ステータ12は、スロットS内部に配置される導線122Aを有するコイル122を有する。スロットSの内部には、絶縁材により形成される第1絶縁部材125が配置される。第1絶縁部材125は、スロット紙とも呼ばれる軸方向に延びるシート状の部材であり、径方向外方へ凸となるように折り曲げてスロットS内部に収容される。第1絶縁部材125の軸方向両端部は、ステータコア121から外部へ軸方向に突出する。第1絶縁部材125は、導線122Aを径方向外方および周方向両側から囲み、導線122Aとステータコア121との間の絶縁を行う。すなわち、ステータ12は、導線122Aとステータコア121との間に配置されるシート状の第1絶縁部材125を有する。
【0026】
スロットSの内部には、ウェッジ紙とも呼ばれる第2絶縁部材126が配置される。第2絶縁部材126は、軸方向に延びるシート状の部材であり、径方向内方へ凸となるように折り曲げてスロットS内部に収容される。第2絶縁部材126の軸方向両端部は、ステータコア121から外部へ軸方向に突出する。第2絶縁部材126における径方向外方に凸の頂部から第2絶縁部材126に沿って離れた両端部は、第1絶縁部材125の一部と重なる。第2絶縁部材126における上記両端部以外の部分は、第1絶縁部材125より径方向内方に配置される。第2絶縁部材126は、導線122Aを径方向内方および周方向両側から囲み、導線122Aとステータコア121との間の絶縁を行う。すなわち、ステータ12は、スロットS内部において少なくとも一部が第1絶縁部材125より径方向内方に配置されるシート状の第2絶縁部材126を有する。なお、第2絶縁部材126については、後により詳細に述べる。
【0027】
各々のコイル122は、異なるスロットS間を跨いで設けられる。本実施形態では、複数のコイル122は、分布巻き方式で単層重ね巻きされる。より具体的には、各々のコイル122は、U相コイル、V相コイル、W相コイルのいずれかである。各相のコイルは、本実施形態ではY結線される。同相のコイルは、図示しない渡り線またはブスバーを介して電気的に接続される。同相のコイル122は、分布巻き方式により、他の2相のコイル122が収容される複数のスロットSを跨いで離間したスロットSに収容される。また、単層重ね巻きにより、各スロットSには、同相のコイル122が収容される。言い換えると、同じスロットSに異相のコイル122は収容されない。
【0028】
また、コイル122の導線122Aには、本実施形態では断面形状が円形の丸線を用いている。但し、この例示に限定されず、断面形状が円形以外の形状を有する導線が使用されてもよい。例えば、導線の断面形状は、矩形、六角形などの多角形状であってもよい。
【0029】
各々のコイル122は、コイルエンド1221を有する。コイルエンド1221は、コイル122のスロットSから外部に突出する部分であり、ステータコア121の軸方向一方側端部よりも軸方向一方側とステータコア121の軸方向他方側端部よりも軸方向他方側とに設けられる。
【0030】
相間紙123は、異なるコイル122間を電気的に絶縁するために設けられ、例えば板状の薄い樹脂製の板の両面に不織紙が貼り付けられた構造である。
【0031】
結束部材124は、絶縁性を有する紐状であり、コイルエンド1221の導線を結束する。
【0032】
<3.ステータの製造方法>
次に、ステータ12の製造方法について説明する。
図5は、ステータ12の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0033】
まず、長手方向を有する治具に導線を巻きつけることによりコイル形状にして、コイル122を成型する(S1)。本実施形態では、スロットSの総数の半数のコイル122が成型される。コイル122は、例えば
図6に示すように、長手方向の両端部分のコイルエンド1221と、長手方向に延びる一対の直線部1222と、を有する形状に成型される。なお、一対の直線部1222は、第1直線部1222aと、第2直線部1222bと、を有する。この際、
図6に示すように、各々のコイル122の延伸方向dLと垂直なコイル形状は、本実施形態では長手方向を有する六角形状に成型される。但し、コイル形状は、この例示に限定されず、例えば長手方向を有する楕円形状であってもよい。
【0034】
次に、ステータコア121に第1絶縁部材125を取り付ける(S2)。この際、スロットSに第1絶縁部材125が挿入される。ここで、
図4に、第1絶縁部材125をスロットSに挿入した状態を示す。
図4に示すように、第1絶縁部材125は、軸方向に延び、スロットSの内壁に沿って折り曲がって径方向内方に向かって開口した形状を有する。また、第1絶縁部材125は、スロットSより軸方向一方側および軸方向他方側に突出する。
【0035】
次に、同相のコイル122を2つずつステータコア121に順番に取り付ける(S3)。まず、2つの同相のコイル122の各々の直線部1222が、該直線部1222を収容するスロットSよりも径方向内方側において、該スロットSと同じ周方向位置にそれぞれ配置される。この際、各々の直線部1222は、対応するスロットSに収容されるように並べられる。そして、各々の直線部1222を径方向外方に押して対応するスロットSに挿入する。これにより、コイル122は、異なるスロットS間を跨いで設けられる。
【0036】
全てのコイル122をステータコア121に取り付けた後、各々のスロットSに第2絶縁部材(ウェッジ紙)126を挿入する(S4)。
図4に示すように、第2絶縁部材126は、軸方向に延び、スロットSの内壁に沿って折り曲がって径方向外方に向かって開口した形状を有する。また、第2絶縁部材126は、スロットSより軸方向一方側および軸方向他方側に突出する。
【0037】
次に、周方向に隣り合う異相のコイル122のコイルエンド1221間に相間紙123を挟む(S5)。
【0038】
次に、異なるコイルエンド1221間に相間紙123が設けられた該コイルエンド1221を軸方向に押圧する(S6)。つまり、ステータ12の軸方向一方側のコイルエンド1221は、一方の相間紙123とともに軸方向他方に押圧されて、軸方向高さが低くなるように成型される。また、ステータ12の軸方向他方側のコイルエンド1221は、他方の相間紙123とともに軸方向一方に押圧されて、軸方向高さが低くなるように成型される。
【0039】
次に、コイルエンド1221の導線がばらけないようにするため、押圧されたコイルエンド1221を相間紙123とともに結束部材124で結束する(S7)。
【0040】
次に、軸方向一方側および軸方向他方側のコイルエンド1221に対して治具を用いて含浸剤が注入される(S8)。含浸剤としては、例えばワニスが用いられる。ワニスとしては、例えばWP-2820(GN)(昭和電工マテリアルズ株式会社(旧日立化成株式会社)製)を用いることができる。また、含浸剤の注入は、ステータコア121を中心軸CA周りに回転させながら行われる。注入された含浸剤は、毛細管現象によって、ステータコア121の軸方向中央まで含浸する。含浸剤は、含浸後に硬化する。
【0041】
<4.絶縁部材>
次に、第2絶縁部材(ウェッジ紙)126の構成について詳述する。なお、以下の図面において、径方向内方をR1、径方向外方をR2として示し、軸方向一方側をZ1、軸方向他方側をZ2として示し、周方向をθとして示す。
【0042】
図7は、軸方向途中位置において軸方向に垂直な平面で切断した場合のステータ12の一部断面図である。なお、
図7では、便宜上、スロットS内部に配置される導線122Aの一部および第1絶縁部材125は図示を省略している。
【0043】
図7に示すように、第2絶縁部材126は、アラミド層1261と樹脂層1262を積層した2層構造としている。このような第2絶縁部材126をアラミド層1261側を径方向外方としてスロットSの内壁に沿って折り曲げてスロットS内部に配置している。すなわち、第2絶縁部材126は、少なくとも一部が径方向に積層された複数層1261,1262を有し、上記複数層のうち最も径方向内方の層は、樹脂層1262である。
【0044】
アラミド層1261は、抄紙機等を使用した工程で製造される。アラミド層1261および樹脂層1262には表面処理は行われず、表面処理を行わない状態で樹脂層1262は、アラミド層1261よりも含浸剤が付着し難い表面粗さを有する。なお、アラミド層1261および樹脂層1262の材質の具体例については後述する。
【0045】
なお、
図7に示すように、先述した含浸剤の塗布工程によって、ティース1212と第2絶縁部材126との間、および第2絶縁部材126と導線122Aとの間に含浸剤127が含浸されている。すなわち、ステータ12は、ステータコア121と第2絶縁部材126との間、および第2絶縁部材126と導線122Aとの間に少なくとも含浸される含浸剤127を有する。
【0046】
図8は、スロットSを径方向内方から径方向外方へ向かって視た場合の図である。
図7および
図8に示すように、樹脂層1262の一部1262Pは、スロットSに含まれる径方向内端部SAを介して径方向内方へ露出している。すなわち、樹脂層1262の少なくとも一部は、スロットSを介して径方向内方へ露出している。
【0047】
従って、含浸剤が付着し難い表面粗さの樹脂層1262が第2絶縁部材126における最も径方向内方の層に設けられ、当該樹脂層1262の少なくとも一部は、スロットSを介して径方向内方へ露出する。これにより、第2絶縁部材126の取り付け工程後の含浸剤の塗布工程において、樹脂層1262における露出した箇所(1262P)への含浸剤の付着が抑制される。含浸剤のロータ11との接触等を考慮して、樹脂層1262における露出した箇所に付着した含浸剤を取り除く工程が実施されるが、上記のように含浸剤の付着が抑制されること、および樹脂層1262における含浸剤が付着し難い表面粗さにより、含浸剤を取り除く作業が行いやすくなる。従って、ステータ12の生産性を向上させることが可能となる。これにより、ステータ12を有するモータ100の生産性を向上させることができる。
【0048】
なお、仮に樹脂層1262を径方向外方、アラミド層1261を径方向内方として第2絶縁部材126をスロットS内部に配置した場合は、アラミド層1261の一部がスロットSから径方向内方へ露出し、含浸剤はアラミド層1261に付着しやすいため、露出箇所に含浸剤が付着しやすくなる。従って、上記露出箇所への含浸剤の付着量が多くなること、および上記露出箇所が含浸剤が付着しやすい表面粗さを有することにより、含浸剤を取り除く作業が行いづらくなる。従って、ステータ12の生産性が低下する虞がある。また、樹脂層1262が径方向外方に配置されることで、含浸剤の付着が所望される第2絶縁部材126と導線122Aとの間に含浸剤が含浸しにくくなる。
【0049】
図9は、樹脂層1262が径方向内方を向いた状態で展開した第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図(上段)と、第2絶縁部材126のI-I断面図(下段)である。
【0050】
図9に示すI-I断面図は、第2絶縁部材126の2層構造の具体例を示す。
図9に示す2層構造では、樹脂層1262は、樹脂層1262Aと、樹脂層1262Bと、を有する。樹脂層1262Aと樹脂層1262Bは、接着剤による接着層1263によって接合される。アラミド層1261と樹脂層1262Aは、接着層1264により接合される。樹脂層1262Aと樹脂層1262Bは、同じ材質により形成され、アラミド層1261とは異なる樹脂により形成される。本明細書では、樹脂層1262A,1262Bのように同一の材質により形成された複数の層が接着層により接合されている場合、上記複数層は1層であるとみなす。これにより、
図9に示す第2絶縁部材126は、アラミド層1261と樹脂層1262による2層構造である。
【0051】
すなわち、先述したように、第2絶縁部材126は、少なくとも一部が径方向に積層された複数層1261,1262を有する(
図7)。そして、当該複数層は、アラミド層1261と、アラミド層1261と異なる樹脂層1262の2層である。これにより、第2絶縁部材126の強度確保と薄型化の両立が可能となる。
【0052】
アラミド層1261は、Nomex(登録商標)により構成され、樹脂層1262は、PPS(ポリフェニレンサルファロイド)により構成されることが望ましい。アラミド層1261には、耐熱性および強度に優れたNomexを採用するとともに、樹脂層1262には、含浸剤が付着し難いPPSを採用することで、第2絶縁部材126の耐久性と含浸剤付着抑制を両立することが可能となる。
【0053】
上記PPSとしては、例えばTorelina(登録商標)を採用することができる。なお、樹脂層1262は、PPSに限らず、PEI(ポリエーテルイミド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などにより構成してもよい。
【0054】
なお、製造上、1つの樹脂層の厚み形成の制限が少ない場合は、
図10のI-I断面図に示すように、所望の厚みの樹脂層1262を1つの樹脂層により構成してもよい。
【0055】
また、第2絶縁部材126は、3層以上の層構造としてもよい。また、第2絶縁部材126における複数層の層間は、接着剤などを用いずに直接的に接合されてもよい。第2絶縁部材126を複数層による層構造とすることにより、第2絶縁部材126の表面に傷が付いた場合でも亀裂の進展を抑制することができる。また、複数層の層間を接合する接着層により、耐オイル性を向上させることができる。
【0056】
<5.第1変形例>
次に、第2絶縁部材126の第1変形例について説明する。
図11は、樹脂層1262が径方向内方を向いた状態で展開した第1変形例に係る第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図(上段)と、第2絶縁部材126のI-I断面図(下段)である。
【0057】
図11に示す第2絶縁部材126の展開状態において、樹脂層1262および接着層1263,1264からなる部分がアラミド層1261の周方向中央から径方向内方へ突出する。樹脂層1262および接着層1263,1264からなる部分は、アラミド層1261の軸方向全体にわたって設けられる。なお、上記部分は、アラミド層1261の軸方向一部にわたって設けられてもよい。
【0058】
すなわち、
図11に示す展開状態の第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視て、樹脂層1262の少なくとも一部は、第2絶縁部材126の周方向中央に配置され、アラミド層1261は、周方向中央に配置される樹脂層1262の周方向両側に配置される。
【0059】
第2絶縁部材126がスロットSを介して径方向内方へ露出する箇所は、含浸剤の付着が望ましくない箇所である。そこで、周方向において含浸剤が付着し難い樹脂層1262を周方向中央に限定し、樹脂層1262の周方向両側には樹脂層を設けずに含浸剤が付着しやすいアラミド層1261を設けている。これにより、含浸剤の含浸率を向上させることが可能となる。
【0060】
<6.第2変形例>
次に、第2絶縁部材126の第2変形例について説明する。
図12は、樹脂層1262が径方向内方を向いた状態で展開した第2変形例に係る第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【0061】
図12に示す第2絶縁部材126の展開状態において、樹脂層1262および接着層1263,1264からなる部分がアラミド層1261の軸方向中央から径方向内方へ突出する。樹脂層1262および接着層1263,1264からなる部分は、アラミド層1261の周方向全体にわたって設けられる。なお、上記部分は、アラミド層1261の周方向一部にわたって設けられてもよい。
【0062】
すなわち、
図12に示す展開状態の第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視て、樹脂層1262の少なくとも一部は、第2絶縁部材126の軸方向中央に配置され、アラミド層1261は、軸方向中央に配置される樹脂層1262の軸方向両側に配置される。
【0063】
含浸剤は、ステータ12の軸方向両側から治具によって注入され、毛細管現象によってステータ12の軸方向中央まで含浸する。第2絶縁部材126の軸方向中央に配置される樹脂層1262とステータコア121との間の間隙は、上記樹脂層1262の軸方向両側に配置されるアラミド層1261とステータコア121との間の間隙よりも狭いため、含浸剤は毛細管現象により軸方向中央に浸透しやすくなる。従って、含浸率もしくは含浸速度を向上させることが可能となる。
【0064】
<7.第3変形例>
次に、第2絶縁部材126の第3変形例について説明する。
図13は、樹脂層1262が径方向内方を向いた状態で展開した第3変形例に係る第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【0065】
図13に示す第2絶縁部材126の展開状態において、樹脂層1262および接着層1263,1264からなる部分がアラミド層1261の軸方向一方側端部および軸方向他方側端部のそれぞれから径方向内方へ突出する。
【0066】
すなわち、
図13に示す展開状態の第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視て、樹脂層1262の少なくとも一部は、第2絶縁部材126の軸方向両端に配置され、アラミド層1261は、軸方向において、軸方向両端に配置される樹脂層1262の間に配置される。
【0067】
含浸剤は、ステータ12の軸方向両側から注入されて軸方向中央へ浸透する。樹脂層1262が第2絶縁部材126の軸方向両端に配置されることで、軸方向両端での第2絶縁部材126とステータコア121との間の間隙を狭くし、含浸剤を軸方向両端に留めず、軸方向中央へ浸透させやすくなる。
【0068】
<8.第4変形例>
次に、第2絶縁部材126の第4変形例について説明する。
図14は、樹脂層1262が径方向内方を向いた状態で展開した第4変形例に係る第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【0069】
図14に示す第2絶縁部材126の展開状態において、樹脂層1262および接着層1263,1264からなる部分がアラミド層1261の周方向中央および軸方向中央のそれぞれから径方向内方へ突出する。これにより、
図14に示す展開状態の第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視て、軸方向に延びる樹脂層1262と周方向に延びる樹脂層1262とがアラミド層1261の中央で交差する。このような第4変形例によれば、第1変形例および第2変形例と同様な効果を享受できる。
【0070】
<9.第5変形例>
次に、第2絶縁部材126の第5変形例について説明する。
図15は、樹脂層1262が径方向内方を向いた状態で展開した第5変形例に係る第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視た場合の図である。
【0071】
図15に示す第2絶縁部材126の展開状態において、樹脂層1262および接着層1263,1264からなる部分がアラミド層1261の周方向中央、軸方向中央、軸方向両端および周方向両端のそれぞれから径方向内方へ突出する。これにより、第1変形例、第2変形例、および第3変形例と同様な効果を享受できる。
【0072】
さらに第5変形例においては、
図15に示す展開状態の第2絶縁部材126を径方向内方から径方向外方に向かって視て、樹脂層1262の少なくとも一部は、第2絶縁部材126の周方向両端に配置され、アラミド層1261は、周方向において、周方向両端に配置される樹脂層1262の間に配置される。これにより、第2絶縁部材126をステータコア121へ取り付ける際に、第2絶縁部材126の周方向端部がステータコア121へ接触しても、表面粗さがアラミド層1261よりも滑らかな樹脂層1262がステータコア121へ接触するため、第2絶縁部材126の周方向端部がステータコア121に対して滑りやすい。従って、第2絶縁部材126をスロットS内へ取り付けやすい。
【0073】
<10.その他>
以上、本開示の実施形態を説明した。なお、本開示の範囲は上述の実施形態に限定されない。本開示は、発明の主旨を逸脱しない範囲で上述の実施形態に種々の変更を加えて実施することができる。また、上述の実施形態で説明した事項は、矛盾を生じない範囲で適宜任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示は、一例として、車載用モータなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 ロータ
12 ステータ
100 モータ
110 シャフト
111 ロータコア
112 マグネット
121 ステータコア
122 コイル
122A 導線
123 相間紙
124 結束部材
125 第1絶縁部材
126 第2絶縁部材
127 含浸剤
200 減速装置
400 ハウジング
700 電動駆動装置
1211 コアバック
1212 ティース
1221 コイルエンド
1222 直線部
1261 アラミド層
1262 樹脂層
1262A,1262B 樹脂層
1263,1264 接着層
CA 中心軸
S スロット
SA 径方向内端部