IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 月島機械株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図1
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図2
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図3
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図4
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図5
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図6
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図7
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図8
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図9
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図10
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図11
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図12
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図13
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図14
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図15
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図16
  • 特開-晶析方法および晶析装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048262
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】晶析方法および晶析装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 9/02 20060101AFI20230331BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20230331BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20230331BHJP
【FI】
B01D9/02 602E
B01D9/02 603G
B01D9/02 608A
B01D9/02 609A
B01D9/02 625C
B01D9/02 625Z
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157460
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】銅谷 陽
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050CA09
(57)【要約】
【課題】反応晶析中に濃縮操作を実施しても、粒度分布の範囲を抑えること、および装置の安定運転が可能な晶析方法および晶析装置を提供する。
【解決手段】主反応部11と濃縮反応槽13との間で循環経路12を形成し、反応晶析を行う晶析方法であって、循環経路12が、主反応部11から濃縮反応槽13への流入経路12aと、濃縮反応槽13から主反応部11への流出経路12bとを有し、濃縮反応槽13の下部には、流入経路12aおよび流出経路12bが接続されて撹拌ゾーン14が形成され、濃縮反応槽13の上部には、上澄み液が生成する清澄ゾーン18が形成され、撹拌ゾーン14と清澄ゾーン18との間には、粒子が沈降する濃縮ゾーン17が形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主反応部と濃縮反応槽との間で循環経路を形成し、反応晶析を行う晶析方法であって、
前記循環経路が、前記主反応部から前記濃縮反応槽への流入経路と、前記濃縮反応槽から前記主反応部への流出経路とを有し、
前記濃縮反応槽の下部には、前記流入経路および前記流出経路が接続されて撹拌ゾーンが形成され、前記濃縮反応槽の上部には、上澄み液が生成する清澄ゾーンが形成され、前記撹拌ゾーンと前記清澄ゾーンとの間には、粒子が沈降する濃縮ゾーンが形成されることを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
前記濃縮反応槽の直径Dに対する、前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLの比L/Dが、2~20の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
反応晶析を行う間、前記濃縮反応槽内の液面レベルを徐々に上昇させ、前記濃縮ゾーンおよび前記清澄ゾーンが反応晶析の工程途中から形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の晶析方法。
【請求項4】
反応晶析の開始時における前記濃縮反応槽内の容量Vsに対する、反応晶析の開始後に増加した前記濃縮反応槽内の容量Vtの比Vt/Vsが、1より大きいことを特徴とする請求項3に記載の晶析方法。
【請求項5】
前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLに対する、前記濃縮反応槽の下端から前記流入経路までの高さHの比H/Lが、百分率として20%未満であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の晶析方法。
【請求項6】
主反応部と濃縮反応槽との間で循環経路を形成し、反応晶析を行う晶析装置であって、
前記循環経路が、前記主反応部から前記濃縮反応槽への流入経路と、前記濃縮反応槽から前記主反応部への流出経路とを有し、
前記濃縮反応槽の下部には、前記流入経路および前記流出経路が接続されて撹拌ゾーンが形成され、前記濃縮反応槽の上部には、上澄み液が生成する清澄ゾーンが形成され、前記撹拌ゾーンと前記清澄ゾーンとの間には、粒子が沈降する濃縮ゾーンが形成されることを特徴とする晶析装置。
【請求項7】
前記濃縮反応槽の直径Dに対する、前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLの比L/Dが、2~20の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の晶析装置。
【請求項8】
前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLに対する、前記濃縮反応槽の下端から前記流入経路までの高さHの比H/Lが、百分率として20%未満であることを特徴とする請求項6または7に記載の晶析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、晶析方法および晶析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルからサブミクロンサイズの一次粒子を凝集成長することで得られるミクロンサイズの球状粒子体を利用する事象は多く、電池材料・触媒・医薬原料・化粧品材料等の機能性材料や素材への充填フィラーにおいて散見される。特に充填性、充填密度を問う場合、生産される粒子の球状化、粒度分布形状が問われる。充填密度を高めるために大小粒径の最適な組み合わせの検討、ブロードな粒度分布を求める事象も多い。一方、粒子機能を均一化させるため粒径を揃えたものを求める事象も多く、素材の中に粒子を均一に分布させるために粒度分布の狭い材料を求める事象も多い。今後の技術として期待される全固体電池における正極材料もその一つとなる。粒径の揃った粒子を得るために、生産物を分級工程で分離する方法、大小粒径を分離しながら晶析をする方法、予めシード粒子(種結晶)を添加する方法等、様々な手法が考案されているが、晶析操作において溶液中の粒子数あるいは懸濁密度を高める操作により粒子径を制御する手法も考案されている。また、原料濃度を予め高める手法もあるが、副産物の生成量も増えることから原料濃度を高める操作では限界が生じる。
【0003】
特許文献1では、生産物の生産性を向上させるため排出された粒子を濃縮し晶析槽内へ戻すことによりスラリー濃度を高め、且つ粒径分布を一定に保つ方法を行っている。しかし、濃縮操作によって滞留時間が長くなり、粒子の肥大化による粒度分布の変化の課題が示されている。そのため、特許文献1に記載の発明では、反応溶液を連続的にオーバーフローさせる基準条件において設定される原料液の供給速度およびスラリー濃度と、反応容器から抜き出された反応溶液を濃縮した後、反応容器に戻す操作によりスラリーを濃縮する実施条件において設定される原料液の供給速度およびスラリー濃度が、一定の範囲内の関係を満たすように操作することが記載されている。しかし、スラリーの濃縮を行う実施条件において、スラリーを濃縮しない基準条件との関係で原料液の供給速度およびスラリー濃度を設定する必要があり、運転の管理が煩雑化する。また、スラリーの濃縮が進む過程で、原料液の供給速度を変更する必要があり、操作の管理を複雑にする。
【0004】
特許文献2には、反応器に濃縮器を連結し、反応器で生成した反応スラリーを反応器と濃縮器との間で循環させる際、反応器の撹拌状態を変化させない程度に循環流量を設定することが記載されている。しかし、濃縮を行う操作において、スラリーの循環流量を抑制することは、十分な濃縮時間を得ることができず結果的に到達濃度を高めることが難しくなる。濃縮操作においてろ布、膜等の分離媒体、沈降面積など濃縮面積が固定された状況においては到達可能な濃縮濃度に影響を与える。また、濃縮を行う操作において、スラリーの循環流量を抑制することは、濃縮面積が固定された状況においては難しい。対象とする物質によっては循環流量を高めに操作する必要も生じ、撹拌状態に影響を与えることを回避することが難しくなる。
【0005】
特許文献3には、濃縮操作により新たな結晶として晶析されることを抑制しながら、既に晶析した結晶を種結晶として結晶成長させることができ、原料化合物の供給および循環を継続することにより種結晶を所望の粒径まで結晶成長させることができることが提案されている。さらに、濃縮操作において分離膜を用いた操作を行う際、目詰まり等の不具合があると、連続運転が困難となるため、濃縮操作の前段に分級工程を持たせ、膜の目詰まり原因となる大径粒子を予め除去することで濃縮操作を安定化させるシステムが提案されている。しかし、実際には数ミクロンオーダーの分級操作は難しく、結果的に対象としている粒子径は10ミクロン以上の生産物となる。また分級操作自体の安定化が難しく運転管理が複雑なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6493082号公報
【特許文献2】特許第5206948号公報
【特許文献3】特開2020-99841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、反応晶析中に濃縮操作を実施しても、粒度分布の範囲を抑えること、および装置の安定運転が可能な晶析方法および晶析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、以下の態様を提案している。
【0009】
本発明の第1の態様は、主反応部と濃縮反応槽との間で循環経路を形成し、反応晶析を行う晶析方法であって、前記循環経路が、前記主反応部から前記濃縮反応槽への流入経路と、前記濃縮反応槽から前記主反応部への流出経路とを有し、前記濃縮反応槽の下部には、前記流入経路および前記流出経路が接続されて撹拌ゾーンが形成され、前記濃縮反応槽の上部には、上澄み液が生成する清澄ゾーンが形成され、前記撹拌ゾーンと前記清澄ゾーンとの間には、粒子が沈降する濃縮ゾーンが形成されることを特徴とする晶析方法である。
【0010】
第1の態様によれば、主反応部の内部状態は、主に主反応部と濃縮反応槽との間の循環経路の流量で決定される。さらに、濃縮反応槽は、撹拌ゾーンより上部に濃縮ゾーンおよび清澄ゾーンを有する。このため、濃縮操作が反応に影響しにくく、生産物となる粒子への影響も低減することができる。このため、濃縮操作の調整等が容易になる。さらに、濃縮することにより濃縮反応槽内の粒子濃度が高まることで、生産物スラリーの貯留量を低減可能となり、且つ後段に行われるろ過・乾燥などの固液分離操作の負荷を低減することが可能となる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記濃縮反応槽の直径Dに対する、前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLの比L/Dが、2~20の範囲内であることを特徴とする。
【0012】
第2の態様によれば、濃縮反応槽の形状が適度なアスペクト比(縦横比)を有するため、撹拌ゾーンと濃縮ゾーンおよび清澄ゾーンとの相互の影響を適正化しやすくなる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、反応晶析を行う間、前記濃縮反応槽内の液面レベルを徐々に上昇させ、前記濃縮ゾーンおよび前記清澄ゾーンが反応晶析の工程途中から形成されることを特徴とする。
【0014】
第3の態様によれば、主反応部から供給される反応液に含まれる粒子は、主として撹拌ゾーンに滞留させることができる。濃縮反応槽に反応液が蓄積するにつれて、反応液を濃縮しながら、上澄み液を清澄ゾーンに到達させることができる。粒子の沈降および上澄み液の上昇によって反応液を効率的に濃縮分離することができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、反応晶析の開始時における前記濃縮反応槽内の容量Vsに対する、反応晶析の開始後に増加した前記濃縮反応槽内の容量Vtの比Vt/Vsが、1より大きいことを特徴とする。
【0016】
第4の態様によれば、反応晶析の操作中に増加した容量Vtに応じて、上澄み液が濃縮ゾーンおよび清澄ゾーンに上昇し、撹拌ゾーンに滞留する粒子を濃縮することができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれか1の態様において、前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLに対する、前記濃縮反応槽の下端から前記流入経路までの高さHの比H/Lが、百分率として20%未満であることを特徴とする。
【0018】
第5の態様によれば、濃縮反応槽の高さに対して、撹拌ゾーンの範囲が比較的低くなるため、撹拌ゾーンに滞留する粒子の濃縮を一層効果的に行うことができる。
【0019】
本発明の第6の態様は、主反応部と濃縮反応槽との間で循環経路を形成し、反応晶析を行う晶析装置であって、前記循環経路が、前記主反応部から前記濃縮反応槽への流入経路と、前記濃縮反応槽から前記主反応部への流出経路とを有し、前記濃縮反応槽の下部には、前記流入経路および前記流出経路が接続されて撹拌ゾーンが形成され、前記濃縮反応槽の上部には、上澄み液が生成する清澄ゾーンが形成され、前記撹拌ゾーンと前記清澄ゾーンとの間には、粒子が沈降する濃縮ゾーンが形成されることを特徴とする晶析装置である。
【0020】
第6の態様によれば、主反応部の内部状態は、主に主反応部と濃縮反応槽との間の循環経路の流量で決定される。さらに、濃縮反応槽は、撹拌ゾーンより上部に濃縮ゾーンおよび清澄ゾーンを有する。このため、濃縮操作が反応に影響しにくく、生産物となる粒子への影響も低減することができる。このため、濃縮操作の調整等が容易になる。
【0021】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記濃縮反応槽の直径Dに対する、前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLの比L/Dが、2~20の範囲内であることを特徴とする。
【0022】
第7の態様によれば、濃縮反応槽の形状が適度なアスペクト比(縦横比)を有するため、撹拌ゾーンと濃縮ゾーンおよび清澄ゾーンとの相互の影響を適正化しやすくなる。
【0023】
本発明の第8の態様は、第6または第7の態様において、前記濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さLに対する、前記濃縮反応槽の下端から前記流入経路までの高さHの比H/Lが、百分率として20%未満であることを特徴とする。
【0024】
第8の態様によれば、濃縮反応槽の高さに対して、撹拌ゾーンの範囲が比較的低くなるため、撹拌ゾーンに滞留する粒子の濃縮を一層効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、反応晶析中に濃縮操作を実施しても、粒度分布の範囲を抑えること、および装置の安定運転が可能な晶析方法および晶析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態の晶析装置の一例を示す概略図である。
図2】濃縮反応槽の動作を説明する概略図である。
図3】濃縮操作部を設けた晶析装置の一例を示す概略図である。
図4】比較例1の晶析装置を示す概略図である。
図5】実施例1におけるSS濃度の推移を示すグラフである。
図6】実施例1の生産物の粒度分布を示すグラフである。
図7】実施例1の上澄み液の粒度分布を示すグラフである。
図8】生産物のSS濃度の推移を示すグラフである。
図9】生産物のD50の推移を示すグラフである。
図10】生産物の(D90-D10)/D50値の推移を示すグラフである。
図11】上澄み液のSS濃度の推移を示すグラフである。
図12】上澄み液の(D90-D10)/D50値の推移を示すグラフである。
図13】比較例1の生産物のSEMデータを示す図面代用写真である。
図14】実施例2の生産物のSEMデータを示す図面代用写真である。
図15】実施例2の上澄み液中の粒子群のSEMデータを示す図面代用写真である。
図16】参考例1の晶析装置を示す概略図である。
図17】参考例2の晶析装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、好適な実施形態に基づいて、図面を参照して本発明を説明する。図1に示すように、実施形態の晶析装置10は、主反応部11と濃縮反応槽13との間で循環経路12を形成し、反応晶析を行う。
【0028】
主反応部11における反応処理は、例えば、主反応部11内に1種以上の原料液10a,10bを供給して行われる。主反応部11において、循環経路12を循環する反応液11aに原料液10a,10bが接触して、反応処理が行われてもよい。原料液10a,10bは、反応場に追加される物質を含有する液である。原料液10a,10bは溶液でもよく、分散液でもよい。反応場に追加される物質の一部が、1種以上の原料液10cまたは原料以外の物質10d,10eとして、濃縮反応槽13に供給されてもよい。原料液10a,10bの一部が濃縮反応槽13に供給されてもよい。
【0029】
反応開始時から晶析装置10内に使用されるスタート母液は、原料液10a,10bを含まない溶液であってもよい。スタート母液が、原料液10cの成分を含んでもよい。スタート母液として反応液11aを用いてもよい。反応晶析が進行すると、反応液11aは、浮遊物質を含んでスラリー状となる。図示しないが、原料液10a,10b,10cと併せて、ガスを主反応部11または濃縮反応槽13に供給してもよい。ガスは、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスでもよく、反応処理において化学反応を行う空気、酸素、オゾン、アンモニア、塩素、水素などの反応性ガスでもよい。
【0030】
特に図示しないが、晶析装置10は、原料液10a,10b,10cを調製するための設備を備えてもよい。このような設備としては、例えば、原料物質を水等の溶媒に溶解して原料液10a,10b,10cを製造する容器、原料液10a,10b,10cを貯留する容器、原料液10a,10b,10cを供給する経路およびポンプ等が挙げられる。
【0031】
原料液10a,10b,10cが混合して得られる反応液11aは、循環ポンプ15の動力により循環経路12を介して主反応部11と濃縮反応槽13との間で循環する。循環経路12は、主反応部11から濃縮反応槽13への流入経路12aと、濃縮反応槽13から主反応部11への流出経路12bとを有する。
【0032】
主反応部11は、原料液10a,10bの接触、または原料液10a,10bと反応液11aとの接触により、反応場を提供する。均一な反応を促進するため、主反応部11には、特に図示しないが、旋回流、撹拌流等の流れを形成する装置または構造を設けてもよい。粒子成長を制御するために循環流、回転エネルギー等によりせん断力を得ることができる。図示の主反応部11は、横向きであるが、竪向きとしてもよい。
【0033】
特に図示しないが、2以上の主反応部11が直列または並列に配置されてもよい。主反応部11を直列に配置する場合、反応液11aが濃縮反応槽13から循環経路12に送出されて、再び濃縮反応槽13に返送される過程で、反応液11aが2以上の主反応部11を順次通過する。主反応部11を並列に配置する場合、反応液11aが濃縮反応槽13から循環経路12に送出されて、再び濃縮反応槽13に返送される過程で、流入経路12aおよび流出経路12bが2以上に分岐し、それぞれの分岐した経路において反応液11aが主反応部11を通過する。
【0034】
濃縮反応槽13は、反応液11aの滞留時間を確保することにより、反応液11aの安定化、粒子の成長、沈降濃縮等が図られる。例えば濃縮反応槽13の容量が、主反応部11および循環経路12の内部容積よりも大きいことにより、反応液11aが濃縮反応槽13内に滞留する時間を長くすることができる。
【0035】
濃縮反応槽13は、円筒状、角筒状等の筒状に形成されている。濃縮反応槽13の下部には、循環経路12の流入経路12aおよび流出経路12bが接続されて撹拌ゾーン14が形成される。撹拌ゾーン14は、流入経路12aから流出経路12bに向かう反応液11aの流れによって、反応液11aの撹拌を促進してもよい。流入経路12aを複数に分岐させて反応液11aを濃縮反応槽13に流入させてもよい。濃縮反応槽13のサイズ等に応じて流出口を複数箇所に設置し、流出経路12bに合流させてもよい。
【0036】
主反応部11から濃縮反応槽13に流入する反応液11aの流入エネルギーによる濃縮反応槽13内の乱れを抑制するため、主反応部11の流出口、流入経路12aの内部、濃縮反応槽13の流入口等に、流れを調整する構造を設けることが好ましい。例えばディフューザーを設置して液流を弱めてもよく、主反応部11からの流出方向または濃縮反応槽13への流入方向を調整可能な構造としてもよい。
【0037】
特に図示しないが、濃縮反応槽13の内部に反応液11aを撹拌する撹拌装置、反応液11aの流れを制御する構造物等を配置してもよい。これにより、反応液11aの混合または反応液11aと原料液10cとの混合を促進することができる。例えば濃縮反応槽13の下部から上方に回転軸を設置し、回転軸に撹拌翼等(図示せず)を配置してもよい。
【0038】
濃縮反応槽13に対して流入経路12aおよび流出経路12bが接続される位置、方向等を調整することにより、撹拌装置を設けなくても、粒子の堆積を抑制することが可能である。
【0039】
濃縮反応槽13に対する流出経路12bの接続位置は、濃縮反応槽13の下端であることが好ましい。粒子の送出を促進することができる。濃縮反応槽13の下端部は、漏斗状となっていることが好ましい。濃縮反応槽13の出口における流速は、例えば、0.3~10m/sの範囲内であってもよい。
【0040】
濃縮反応槽13は、オーバーフローを排出するオーバーフロー排出路16を有する。オーバーフロー排出路16が濃縮反応槽13に対して常時開放されていてもよい。オーバーフロー排出路16が、サンプリング等の必要なとき以外は、閉鎖されていてもよい。濃縮反応槽13の周方向に複数の集水桝を設置してもよい。周方向の全周をリング状に開口して、濃縮反応槽13とオーバーフロー排出路16とを連絡させてもよい。オーバーフロー排出路16を濃縮反応槽13の上端に配置することも可能である。
【0041】
濃縮反応槽13の上部には、上澄み液が生成する清澄ゾーン18が形成される。撹拌ゾーン14と清澄ゾーン18との間には、粒子が沈降する濃縮ゾーン17が形成される。図2に示すように、オーバーフロー排出路16の設置される位置に応じてオーバーフローレベルLtが設定されていてもよい。濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18の断面形状は、上下に同一形状で連続した筒状であってもよい。濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18における濃縮反応槽13の内面は、テーパを有してもよく、平坦でもよく、凹凸等が形成されてもよい。
【0042】
沈降性能を向上するため、例えば、濃縮ゾーン17または清澄ゾーン18に傾斜管、傾斜板等の沈降装置を設けてもよい。スラリーがガスを含む場合、気泡の成長により粒子が上昇するおそれがある。気泡の成長を抑制するため、沈降装置の設置場所を濃縮ゾーン17の上部または清澄ゾーン18側とし、濃縮ゾーン17の下部には沈降装置を設けない構造にしてもよい。所定のゾーンに超音波を照射して、気泡が発生する位置を制御してもよい。
【0043】
実施形態の晶析装置10では、濃縮反応槽13の内部が撹拌ゾーン14、濃縮ゾーン17、清澄ゾーン18と上下方向で複数のゾーンに区分される。主反応部11と濃縮反応槽13との間で循環する反応液11aは、主に撹拌ゾーン14に分布する。主反応部11の内部状態は、主に主反応部11と濃縮反応槽13との間の循環経路12の流量で決定される。
【0044】
濃縮反応槽13は、撹拌ゾーン14より上部に濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18を有するため、濃縮操作が反応に影響しにくく、生産物となる粒子への影響も低減することができる。これにより、濃縮操作の調整が容易になる。さらに、濃縮することにより濃縮反応槽13内の粒子濃度が高まることで、生産物スラリーの貯留量を低減可能となり、且つ後段に行われるろ過・乾燥などの固液分離操作の負荷を低減することが可能となる。
【0045】
撹拌ゾーン14と清澄ゾーン18との間には、スラリーの分散媒のみを清澄ゾーン18に分離するための隔壁、隔膜等を設けていないため、撹拌ゾーン14から粒子の一部が濃縮ゾーン17に上昇し得る。しかし、濃縮ゾーン17では粒子が沈降するように、流れが抑制されているため、粒子が清澄ゾーン18まで上昇する量を抑制することができる。膜分離を用いる濃縮操作に比べて、膜のファウリング等による運転の安定性低下、運転コストの上昇を回避することができる。
【0046】
濃縮反応槽13の直径Dに対する、濃縮反応槽13の下端からオーバーフローレベルLtまでの高さLの比L/Dが、1~20の範囲内であることが好ましく、2~20の範囲内であることがより好ましく、2~10の範囲内であることがさらに好ましく、3~8の範囲内であることがさらに好ましい。濃縮反応槽13の形状が適度なアスペクト比(縦横比)を有することで、撹拌ゾーン14と濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18との相互の影響を適正化しやすくなる。
【0047】
濃縮反応槽13が円筒状でない場合は、等価直径を直径Dとしてもよい。等価直径は、断面積をA、断面の周長をBとするとき、4A/Bで求められる。円形の等価直径は直径に等しく、正方形の等価直径は一辺の長さに等しい。濃縮反応槽13の水平面内における断面形状は、特に限定されないが、多角形の場合は角に丸みを設けてもよい。撹拌ゾーン14、濃縮ゾーン17、清澄ゾーン18の各ゾーンで断面形状が同一または相似形であってもよく、異なるゾーンで断面形状を異ならせることも可能である。
【0048】
反応晶析を開始する際には、開始時の液面レベルLsが、オーバーフローレベルLtより低い位置に設定されていてもよい。主反応部11から反応液11aが供給されると、濃縮反応槽13内の液面レベルが徐々に上昇する。これにより、濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18が反応晶析の工程途中から形成される。開始時の液面レベルLsとオーバーフローレベルLtとの高低差は、特に限定されないが、例えば1m~10m程度であり、7m未満が好ましい。
【0049】
主反応部11から供給される反応液11aに含まれる粒子は、主として撹拌ゾーン14に滞留させることができる。反応液11aの供給が蓄積するにつれて、反応液11aを濃縮しながら、上澄み液を粒子から分離して清澄ゾーン18に到達させることができる。粒子の沈降および上澄み液の上昇によって反応液11aを効率的に濃縮分離することができる。
【0050】
液面レベルがオーバーフローレベルLtに達するまでの上昇速度は、一定であってもよく、若干の変動があってもよい。急激な液面レベルの上昇がない場合、液面レベルが上昇する間も粒子が沈降する時間を確保することができ、粒子の上昇を抑制することができる。液面レベルの上昇速度は、粒子の沈降速度に比べて、過度に大きくないことが好ましい。粒子径が小さいほど沈降速度は遅くなることから、所望の粒子径に対して、大きい粒子が沈降し、微小な粒子が上昇するように、反応液11aの流入量を設定してもよい。
【0051】
開始時の液面レベルLsは、濃縮反応槽13に流入経路12aが接続される位置より高い位置にあってもよい。濃縮反応槽13のサイズにも依存するが、例えば流入経路12aから1m未満、より好ましくは0.5m未満の高さに開始時の液面レベルLsを設定してもよい。
【0052】
濃縮反応槽13の下端からオーバーフローレベルLtまでの高さLに対する、濃縮反応槽13の下端から流入経路12aまでの高さHの比H/Lは、百分率として、50%未満が好ましく、30%未満がより好ましく、20%未満がさらに好ましい。濃縮反応槽13の高さに対して、撹拌ゾーン14の範囲を比較的狭くすることにより、撹拌ゾーン14に滞留する粒子の濃縮を一層効果的に行うことができる。
【0053】
開始時における濃縮反応槽13内の容量Vsに対して、開始後に増加した濃縮反応槽13内の容量Vtの比Vt/Vsは、0.5より大きいことが好ましく、0.8より大きいことがより好ましく、1より大きいことがさらに好ましい。開始時の容量Vsとは、濃縮反応槽13の下端から開始時の液面レベルLsまでに含まれる容量である。開始後に増加した容量Vtとは、開始時の液面レベルLsからオーバーフローレベルLtまでに含まれる容量である。増加した容量Vtに応じて、上澄み液が濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18に上昇し、撹拌ゾーン14に滞留する粒子を濃縮することができる。
【0054】
流入経路12aから濃縮反応槽13に流入する反応液11aの勢いによる粒子の上昇を抑制する等の目的で、濃縮反応槽13の内部にコーン、バッフル等の障害物19を設置してもよい。撹拌ゾーン14と濃縮ゾーン17との境界部に障害物19を設置することが好ましい。障害物19の位置は、開始時の液面レベルLsまたは流入経路12aの接続位置より上方であることが好ましい。開始時の液面レベルLsまたは流入経路12aの接続位置より下方に障害物19を設置してもよい。流入時の流速が例えば1m/s未満の場合には、障害物19を不要とすることもできる。
【0055】
開始時の容量Vsと開始後に増加した容量Vtとを合計した濃縮反応槽13全体の容量Vは、原料供給量に応じて、適宜の範囲内に設定することが好ましい。晶析装置10全体で外部から供給される1時間当たりの原料供給量をqとするとき、V/qが1~24時間の範囲内であることが好ましく、1~5時間の範囲内であることがより好ましい。
【0056】
オーバーフロー排出路16から排出された上澄み液は、濃縮して回収してもよい。例えば、図3に示すように、上澄み液26を濃縮する濃縮操作部20を設置することができる。濃縮操作部20は、オーバーフロー排出路16に接続された濃縮槽24を有する。
【0057】
濃縮槽24に貯留された上澄み液26の一部は、第2循環ポンプ23の動力により第2循環経路22を介して濃縮槽24と固液分離装置21との間で循環する。第2循環経路22は、濃縮槽24から固液分離装置21への送出経路22aと、固液分離装置21から濃縮槽24への返送経路22bを有する。
【0058】
固液分離装置21における固液分離の手法は特に限定されず、濾布等の濾材、固液分離膜、遠心分離、沈降分離、液体サイクロン等が挙げられる。上澄み液26の粘度、上澄み液26に含まれる浮遊物質の濃度や粒子径等に応じて、適宜の固液分離装置21を選択することが好ましい。粒度分布は、例えば、レーザ光回折散乱法等により測定することができる。
【0059】
固液分離操作により、濾液、膜濾過液等の分離液31が上澄み液26から分離される。分離液31は、浮遊物質を含まない液であってもよく、浮遊物質が上澄み液26より低濃度の液であってもよい。
【0060】
特に、固液分離装置21が固液分離膜を有すると、スラリー状の上澄み液26に含まれる浮遊物質が微小であっても固液分離が容易である。さらに、固液分離膜の使用により、分離液31中に含まれる浮遊物質の量を低減することができる。これにより、浮遊物質の濃縮および回収をより効率化して、より安定した固液分離が可能になる。
【0061】
固液分離膜の形状は、特に限定されず、糸状の中空糸膜、平面状の平膜、チューブ状の管状膜等が挙げられる。中空糸膜は、多数の中空糸をシート等の形態で束ねて使用してもよい。固液分離膜の分離方式としては、逆浸透(RO)、限外濾過(UF)、精密濾過(MF)等が挙げられる。固液分離装置21内の固液分離膜は、固定された状態でもよく、回転等の運動が可能な状態でもよい。また、固定膜に対し回転翼を有し、膜表面の固形物層を流動させる機能を有していてもよい。
【0062】
固液分離膜が中空糸膜からなる場合は、面積の大きな固液分離膜をコンパクトに収容することが可能であり、設置面積を低減することが容易であるため、好ましい。また、上澄み液26に含まれる浮遊物質の濃度が低い場合、例えば、0.1~50重量%程度の濃度であるときには、固液分離膜、特に、中空糸膜を有する固液分離膜を用いることが好ましい。
【0063】
固液分離装置21から分離された分離液31は、分離液容器32に貯留することができる。固液分離装置21と分離液容器32との間は、分離液経路33により接続されている。分離液経路33は、バルブ34により開閉が可能である。分離液容器32において不要となった分離液31は、分離液排出路35から排出することが可能である。
【0064】
固液分離装置21の内部に浮遊物質の付着量が増加すると、固液分離の性能が低下する場合がある。特に、固液分離装置21が濾材、固液分離膜等を有する場合、濾材、固液分離膜等に浮遊物質が付着する場合がある。固液分離の性能を維持または回復するため、固液分離装置21を洗浄することが好ましい。
【0065】
固液分離装置21の洗浄操作が、逆洗操作であってもよい。逆洗操作では、固液分離操作とは逆方向に液体が供給される。濾材、固液分離膜等に対し、出口側の面から液体を供給して逆洗操作を行うことが好ましい。洗浄操作において、入口側の面に液体を供給する場合も、濾材等に付着した浮遊物質を分離して流動性のあるスラリー状に戻すことで、濾材等の洗浄操作が可能である。
【0066】
洗浄操作に用いる洗浄用の液体は、浮遊物質が上澄み液26より低濃度の液であればよく、浮遊物質を含まない液であってもよい。洗浄用の液体として、分離液31を用いることも可能である。この場合、分離液31が上澄み液26に混入しても、操作への影響を抑制することができる。分離液容器32中の分離液31は、返送ポンプ36の動力により、分離液返送路37を経由して固液分離装置21に供給することができる。分離液31を用いた洗浄操作中は、分離液経路33のバルブ34が閉鎖される。
【0067】
分離液容器32中に分離液31を貯留する間、分離液31中の浮遊物質を沈降させてもよい。浮遊物質の濃度が低下した液を分離液排出路35から排出し、沈降により浮遊物質の濃度が上昇した液を洗浄用に用いてもよい。これとは逆に、沈降により浮遊物質の濃度が上昇した液を分離液排出路35から排出し、浮遊物質の濃度が低下した液を洗浄用に用いてもよい。
【0068】
固液分離装置21の洗浄操作は、分離液31が減少したり、固液分離装置21における入口側と出口側との差圧が増加したりしたときに、適宜実施することが好ましい。これにより、固液分離装置21の機能を回復し、効果的に濃縮操作を継続することができる。連続的に実施される濃縮操作に対して、洗浄操作が一時的に実施されることにより、洗浄操作によるスラリー濃度の変動を抑制することができる。
【0069】
上澄み液26から分離液31を除去すると、濃縮スラリー25を得ることができる。特に図示しないが、濃縮操作部20で濃縮された濃縮スラリー25を晶析装置10に供給してもよい。例えば、濃縮スラリー25の一部を、濃縮反応槽13の下部または流出経路12bに返送する経路27を設置してもよい。
【0070】
例えば、図3に二点鎖線で付加したように、濃縮スラリー25を返送する経路27を設置した場合、バッチ連続法として、粒子廃液を排出せずに、長時間の連続運転操作が可能になる。濃縮スラリー25を返送する経路27を省略した場合は、粒子成長が十分に進行しない間に濃縮操作部20で濃縮されたスラリーは、廃液となる。濃縮スラリー25を返送する経路27を設置すると、オーバーフロー排出路16から排出される低濃度の浮遊物質(SS)を濃縮操作部20で濃縮した後に、粒子を成長させることができ、高濃度スラリーとして回収も可能になる。これにより、後段の固液分離装置21におけるろ過装置の負荷を低減し、より清澄な分離液31の回収が可能になる。
【0071】
固液分離装置21に用いられる膜濃縮装置としては、回転平膜、固定平膜に対して翼回転する装置、中空糸膜等が挙げられる。膜以外にも、ろ布を用いた濃縮、遠心分離、沈降分離、ベルトプレス、フィルタープレス等の脱水機を用いて、直接SSを回収することも可能である。
【0072】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
反応晶析により生産される粒子は特に限定されず、無機物質でも、有機物質でもよい。例えば、リチウムイオン電池用正極活物質のほか各種の用途の生産に適用することができる。スラリーの分散媒は水でもよく、有機溶媒でもよい。
【実施例0073】
次に、本発明の効果を明らかにするため、実施例および比較例を示す。なお、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
概略として図1に示す構成の晶析装置10を作製した。装置容量は開始時4L、オーバーフロー排出時15Lとなる。開始時の装置容量にて滞留時間60minとなるように、全ての原料を合計した供給量は67mL/minとなるように調整した。原料液は以下のとおりである。
【0075】
メタル供給源としてはニッケル硫酸塩、コバルト硫酸塩、マンガン硫酸塩を用い、それぞれの濃度が1.5mol/Lとなるようにイオン交換液(純水)を用いて調整した。装置に供給されるメタルのモル比は、生産物に要求されるモル比に応じて、原料の供給量を配分した。メタル供給源に対して、濃度20wt%の苛性ソーダ、濃度10wt%程度のアンモニア源を供給することで所定のpH、温度となるように操作した。操作pHは11.0、操作温度は50℃に設定した。
【0076】
原料液の混合により得られる反応液(スラリー)は、11L/minで循環させ、主反応部11および濃縮反応槽13で反応液11aを原料液10a,10b,10cと混合し、反応させた上、システム内を循環させた。この循環流により濃縮反応槽13の撹拌ゾーン14が攪拌される。ここでは、メタル供給源とアルカリとから二価の金属水酸化物を生成させるため、窒素ガスを濃縮反応槽13の下部を通じて主反応部11に5mL/min未満で供給している。
【0077】
濃縮反応槽13は、漏斗状の下部を除き、直径D=200mmの円筒形で、下部からの高さL=1000mmにオーバーフロー排出路16を設けている。操作開始から経過時間係数として3θが経過した時点でオーバーフローに達した。それ以降は、経過時間係数として11θ(660min)が経過するまで操作を継続し、原料供給量と同量の67mL/minの上澄み液が排出された。経過時間係数は、実際の経過時間を滞留時間で除算して得られる数値である。
【0078】
運転中、濃縮反応槽13の下部からの排出は、サンプリング時のみ少量の100mL程度を60minごとに実施した。濃縮反応槽13の下部から生産物のスラリーを採取した。オーバーフロー排出路16から上澄み液のスラリーを採取した。スラリーの分析結果については後述する。
【0079】
(実施例2)
図3に示すように、晶析装置10に濃縮操作部20を付設し、窒素ガスの供給量を10mL/minとする以外は、実施例1と同様に操作した。経過時間係数として28θ(1680min)が経過するまで操作を継続した。実施例1と同様に、サンプリング時のみ濃縮反応槽13の下部から生産物のスラリーを採取した。3θ経過後にオーバーフローで排出された上澄み液のスラリーは、濃縮操作部20の膜濃縮ユニットを介して全量回収された。スラリーの分析結果については後述する。
【0080】
(実施例3)
実施例2で用いた装置の寸法等を若干変更した。具体的には、装置容量が開始時1L、オーバーフロー排出時6.2Lとなり、開始時の装置容量にて滞留時間40minとなるように、全ての原料を合計した供給量は25mL/minとなるように調整した。濃縮反応槽13は、漏斗状の下部を除き、直径D=80mmの円筒形で、下部からの高さL=1000mmにオーバーフロー排出路16を設けている。それ以外は、実施例2と同様に操作を実施した。
【0081】
実施例3では、経過時間係数として20θ(1200min)が経過するまで操作を継続した。実施例1と同様に、サンプリング時のみ濃縮反応槽13の下部から生産物のスラリーを採取した。3θ経過後にオーバーフローで排出された上澄み液のスラリーは、濃縮操作部20の膜濃縮ユニットを介して全量回収された。スラリーの分析結果については後述する。
【0082】
(比較例1)
概略として図4に示す構成の晶析装置100を作製した。主反応部11から流入経路12aを通じて反応液11aが滞留槽40に供給され、循環ポンプ15を用いて流出経路12bから主反応部11に返送される。
【0083】
装置容量1L、滞留時間40minとなるように、全ての原料を合計した供給量は25mL/minとなるように調整した。原料液10a,10b,10c等は、実施例1と同じものを使用し、操作pHおよび操作温度も実施例1と同じに設定した。滞留槽40の中心軸に沿って、原料液10c等の供給経路41を設置した。
【0084】
原料液の混合により得られる反応液11aのスラリーは、8L/minで循環させ、主反応部11および滞留槽40で反応液11aを原料液10a,10b,10cと混合し、反応させた上、システム内を循環させた。この循環流により滞留槽40の内部が攪拌される。ここでは、メタル供給源とアルカリとから二価の金属水酸化物を生成させるため、窒素ガスを滞留槽40の下部に20mL/minで供給している。
【0085】
滞留槽40の外周部に設けたオーバーフロー排出路16から、原料供給量と同量の25mL/minのスラリーが排出された。オーバーフローとして排出されたスラリーをサンプリングに用いた。スラリーの分析結果については後述する。
【0086】
(スラリーの分析結果)
実施例1~3および比較例1の装置を用いて得られたスラリーを分析した結果について説明する。図5は、実施例1で採取されたスラリーのSS濃度の推移を示すグラフである。濃縮反応槽13の下部から採取された生産物のSS濃度を「実施例1」、オーバーフローとして採取された上澄み液のSS濃度を「実施例1(OF)」としている。粒度分布は、レーザ光回折散乱法により測定した。
【0087】
実施例1で、11θ経過時に得られた生産物の粒度分布を図6に示す。この粒度分布から、メディアン径4.213μm、平均径4.109μm、モード径4.562μm、標準偏差0.124μm、10%径2.913μm、20%径3.345μm、30%径3.622μm、40%径3.922μm、50%径4.213μm、60%径4.501μm、70%径4.089μm、80%径5.138μm、90%径5.843μmであることが分かる。
【0088】
実施例1で、11θ経過時に得られた上澄み液の粒度分布を図7に示す。この粒度分布から、10%径2.628μm、20%径3.307μm、30%径3.355μm、40%径3.618μm、50%径3.901μm、60%径4.210μm、70%径4.546μm、80%径4.909μm、90%径5.530μmであることが分かる。
【0089】
図8図9および図10に、実施例1~3および比較例1で得られた生産物におけるSS濃度、D50値(メディアン径)および粒度分布評価指標(D90-D10)/D50値の推移を示す。実施例1~3の生産物は、濃縮反応槽13の下部から採取されたスラリーである。これらの生産物では、時間経過と共にSS濃度が上昇しつつ、粒子径も成長している。さらに(D90-D10)/D50値が1未満と小さく、より均等に粒子が成長していることが分かる。
【0090】
比較例1では、オーバーフローとして排出されたスラリーを生産物とした。経過時間係数が5以降では、SS濃度および粒子径が略一定に推移し、それ以上の濃縮および粒子成長が見られなかった。また、(D90-D10)/D50値が1.2程度と大きく、ブロードな粒度分布を示す。
【0091】
図11および図12に、実施例1~3でオーバーフローとして採取された上澄み液のSS濃度、および粒度分布評価指標(D90-D10)/D50値の推移を示す。上述したように、経過時間係数が3以降で上澄み液のサンプリングを開始している。上澄み液の結果はそれぞれ「実施例1(OF)」、「実施例2(OF)」、「実施例3(OF)」と表示して、生産物と区別している。図11に示す上澄み液のSS濃度は、図8に示す生産物のSS濃度に比べて低いものの、図12に示す上澄み液の(D90-D10)/D50値は、それぞれ図10に示す生産物の(D90-D10)/D50値と略同一であることが分かる。
【0092】
図13図14および図15に、比較例1の生産物、実施例2の生産物および実施例2の上澄み液中の粒子のSEMデータを示す。比較例1の生産物は、比較的粒子径がばらついていることが分かる。実施例2では、生産物でも上澄み液でも、粒子径が比較的揃っていることが分かる。
【0093】
実施例2~3において、オーバーフローで排出されたスラリーを膜濃縮ユニットにて全量回収して得られた粒度分布評価指標(D90-D10)/D50値およびD50値(メディアン径)は、次のとおりであった。
【0094】
実施例2: (D90-D10)/D50=0.64、D50=4.7μm
実施例3: (D90-D10)/D50=0.94、D50=4.1μm
【0095】
また、生産物の固形分全量に対してオーバーフローにて回収されたSS回収率は、次のとおりであった。
【0096】
実施例2: SS回収率 21%
実施例3: SS回収率 1.8%
【0097】
沈降濃縮操作における分離機能が高いほど、濃縮反応槽の下部から回収される粒子が増加し、オーバーフローから回収される粒子は減少する。分離機能が高いほど、粒子径も小さくなる方向となる。分離機能が比較的低い場合は、オーバーフローに含まれる粒子量が増えるため、粒子分布が晶析装置を循環するスラリー中の粒子群に近い粒子が、オーバーフローから膜濃縮ユニットにて回収された。分離機能を高くするか低くするか等の生産管理は、運転操作、目的物の用途等に応じて、適宜決定することができる。
【0098】
実施例1~3の分析結果によれば、濃縮反応槽の上部と下部で粒子群の濃度が変わるものの、粒子群を構成する粒度分布そのものは変わらないことが認められた。沈降濃縮して得られた生産物の粒子群と上澄み液に含まれる粒子群が同様な粒度分布を持つ事由は明らかではないが、粒子が静電凝集した粒子群を形成していること、もしくは液中のガス浮上や熱対流に伴い、下部の粒子群が上部側に移動して均一化する等の事由が考えられる。
【0099】
実施例1~3以外の条件で実験を繰り返したところ、粒度分布がよりブロードな場合にも同様な現象が当てはまり、下部(高濃度)の粒度分布と、上部(低濃度)の粒度分布は同一のものが得られている。
【0100】
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営するJ-STAGEを通じて入手可能な下記の参考文献1には、液面からの深さで見掛けの粒径分布はほとんど変化しないこと、固体濃度が増加すると粒子群の干渉により沈降が遅くなり、分布の広がりが狭くなることが示唆されている。
【0101】
参考文献1:関口逸馬ら、「干渉沈降領域における懸濁粒子の沈降挙動(第1報)」、日本鉱業会誌、第91巻、第1053号、1975年、pp.721-726.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigentosozai1953/91/1053/91_1053_721/_article/-char/ja
【0102】
沈降濃縮槽は、粒子の沈降速度と上澄み液の上昇速度、ガスによる上昇流などを加味して設計することができる。上澄み液の上昇速度は、原料供給量に対する面積により設定可能である。静置スラリー粒子の沈降速度v(m/s)、原料流入量q(ml/min)、面積A、ガス流の上昇に伴う余裕値をα(1より大きい定数)とすれば、A>α・q/vとして必要な面積Aを求めることができる。粒子の分離の観点からは面積Aを十分大きくとることが好ましいが、設備設置上の制約も考慮して面積Aを含む沈降濃縮槽の平面サイズが決定される。沈降濃縮槽の高さも、建屋高さの制約が考慮される。粒子分離に必要な十分な面積が確保できなくても粒子群の濃縮は可能である。この場合は、後段に膜分離操作等の粒子回収操作を付加することで、沈降濃縮効果を得ながら、SS回収率を向上することができる。
【0103】
(参考例1)
図16に示すように、原料液10a,10b,10cを滞留槽40の上部から供給し、得られた反応液11aを滞留槽40の下部から循環ポンプ15の動力により送出経路42aを介して沈降分離排出機構43に送出することも考えられる。沈降分離排出機構43の下部44では、沈降分離により固形分濃度が例えば8wt%まで上昇した濃縮スラリーを排出経路45から排出することができる。沈降分離排出機構43の上部46では、固形分濃度が例えば2wt%程度のスラリーを、返送経路42bを介して滞留槽40に返送することができる。
【0104】
(参考例2)
晶析装置10の主反応部11および循環経路12を省略することも考えられる。例えば、図17に示すように、原料液10a,10b,10cを濃縮反応槽13の上部から供給してもよい。濃縮反応槽13の下部に、撹拌装置51を設置することで、撹拌ゾーン14を形成することができる。撹拌装置51は、下部に軸受けを有する方式に限らず、上部から懸垂させる方式でもよい。
【0105】
図1に示す晶析装置10と同様に、図17に示す晶析装置50は、オーバーフローを排出するオーバーフロー排出路16を有する。これにより、濃縮反応槽13の上部には、上澄み液が生成する清澄ゾーン18が形成される。撹拌ゾーン14と清澄ゾーン18との間には、粒子が沈降する濃縮ゾーン17が形成される。濃縮反応槽13の内部が撹拌ゾーン14、濃縮ゾーン17、清澄ゾーン18と上下に区分される。反応は撹拌ゾーン14のみで行われる。
【0106】
濃縮反応槽13の下部には、排出ポンプ53の動力を用いてスラリーを取り出す排出経路52が接続されている。濃縮反応槽13の下端部は、漏斗状となっていてもよい。濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18の断面形状は、上下に同一形状で連続した筒状であってもよい。濃縮ゾーン17および清澄ゾーン18における濃縮反応槽13の内面は、テーパを有してもよく、平坦でもよく、凹凸等が形成されてもよい。沈降性能を向上するため、例えば、濃縮ゾーン17または清澄ゾーン18に傾斜管、傾斜板等の沈降装置を設けてもよい。
【符号の説明】
【0107】
H 濃縮反応槽の下端から前記流入経路までの高さ
L 濃縮反応槽の下端からオーバーフローレベルまでの高さ
Ls 開始時の液面レベル
Lt オーバーフローレベル
Vs 反応晶析の開始時における濃縮反応槽内の容量
Vt 反応晶析の開始後に増加した濃縮反応槽内の容量
10 晶析装置
11 主反応部
11a 反応液
12 循環経路
12a 流入経路
12b 流出経路
13 濃縮反応槽
14 撹拌ゾーン
15 循環ポンプ
16 オーバーフロー排出路
17 濃縮ゾーン
18 清澄ゾーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17