(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048269
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】蒸留装置
(51)【国際特許分類】
B01D 3/14 20060101AFI20230331BHJP
B01D 3/42 20060101ALI20230331BHJP
C07B 63/00 20060101ALI20230331BHJP
C07C 15/04 20060101ALI20230331BHJP
C07C 15/06 20060101ALI20230331BHJP
C07C 7/04 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
B01D3/14 Z
B01D3/42
C07B63/00 A
C07C15/04
C07C15/06
C07C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157477
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】521362885
【氏名又は名称】コベルコ・コンプレッサ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390036663
【氏名又は名称】木村化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和人
(72)【発明者】
【氏名】池田 博史
(72)【発明者】
【氏名】竹森 勇
【テーマコード(参考)】
4D076
4H006
【Fターム(参考)】
4D076AA16
4D076AA22
4D076BB03
4D076BC23
4D076CA02
4D076CB02
4D076CB06
4D076CB07
4D076CB08
4D076CD21
4D076DA02
4D076DA21
4D076DA33
4D076EA06Y
4D076EA07Y
4D076EA12Z
4D076EA14Z
4D076HA20
4D076JA04
4H006AA04
4H006AD11
4H006BD84
(57)【要約】
【課題】圧縮機を用いて、効率よく熱エネルギーを回収、利用することが可能で、省エネルギー性に優れた蒸留装置を提供する。
【解決手段】低沸点成分と高沸点成分とを含有する原料液の蒸留を行う蒸留塔1と、蒸留塔の塔頂ベーパを作動媒体と間接的に熱交換させることにより冷却して凝縮させるとともに、作動媒体を蒸発させるように構成された凝縮器2と、凝縮器において塔頂ベーパとの熱交換により加熱され、蒸発した作動媒体を圧縮して温度レベルを上昇させる圧縮機4と、圧縮機で温度レベルを上昇させた作動媒体と、蒸留塔の塔底液とを間接的に熱交換させて、塔底液を加熱する加熱器3と、加熱器において塔底液の加熱源として使用された作動媒体を減圧状態にさらして膨張させ、作動媒体の温度を塔頂ベーパより低い温度にまで低下させる膨張機構5とを備えた構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低沸点成分と高沸点成分とを含有する原料液の蒸留を行う蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、冷媒として機能する作動媒体と間接的に熱交換させることにより冷却して凝縮させるとともに、前記作動媒体を蒸発させる凝縮器と、
前記凝縮器において前記塔頂ベーパとの熱交換により加熱され、蒸発した前記作動媒体を圧縮することにより温度レベルを上昇させる圧縮機と、
前記圧縮機により温度レベルを上昇させた前記作動媒体と、前記蒸留塔の塔底液とを間接的に熱交換させることにより、前記塔底液を加熱する加熱器と、
前記加熱器において前記塔底液の加熱源として使用された前記作動媒体を減圧状態にさらして膨張させることにより、前記作動媒体の温度を前記塔頂ベーパより低い温度にまで低下させるとともに、温度の低下した前記作動媒体を前記凝縮器に供給することができるように構成された膨張機構と
を備えていることを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記作動媒体として、不燃性で、かつ地球温暖化係数が1以下である物質を用いることを特徴とする請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項3】
前記圧縮機として、半密閉型の圧縮機を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸留装置。
【請求項4】
前記圧縮機に供給され、圧縮される前の前記作動媒体の温度が30℃以上、前記圧縮機で圧縮された後の前記作動媒体の温度が200℃以下となるように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項5】
前記作動媒体として、30℃以上、200℃以下の温度範囲内において、大気圧以上の蒸気圧を有する物質を用いることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項6】
前記凝縮器と、前記圧縮機と、前記加熱器と、前記膨張機構とにより構成される熱回収機構のCOPが5以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置に関し、詳しくは、圧縮機を用いて省エネルギー化を図るようにした蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留装置における省エネルギー化の必要性は近年、益々増大しており、種々の提案が行われている。
【0003】
そのような省エネルギー化技術の1つとして、蒸留装置にヒートポンプを組み込んで、熱効率を向上させるようにした蒸留装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この蒸留装置の場合、蒸留塔の塔頂ベーパを冷却するための凝縮器(コンデンサ)において用いられ、蒸留塔の塔頂ベーパとの熱交換により温度が上昇した冷却水が有する熱をヒートポンプによって回収するとともに、回収した熱エネルギーにより、当該ヒートポンプにおいて温度レベルを上昇させた水(高温水)を、加熱器(リボイラ)に供給し、加熱源として使用するように構成されている。
【0005】
すなわち、特許文献1の蒸留装置においては、凝縮器(コンデンサ)において、蒸留塔の塔頂ベーパを冷却するために用いられ、昇温した水(冷却水)からヒートポンプで回収した熱エネルギーにより、蒸留塔の塔底液を加熱するための加熱源となるべき水を加熱して、高温水として加熱器(リボイラ)に供給するようにしている。
【0006】
そして、この蒸留装置によれば、蒸留塔の塔頂部から留出した塔頂ベーパの有する熱エネルギーが、ヒートポンプによって回収され、加熱器(リボイラ)において有効に用いられることで、加熱器(リボイラ)において塔底液を加熱するのに必要な熱エネルギーを削減することが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のように、蒸留装置においてヒートポンプを利用する方法は、蒸留装置の省エネルギー化を図るうえで、極めて有効な方法であると考えられる。
【0009】
しかしながら、特許文献1の蒸留装置の場合、ヒートポンプを用いて凝縮器(コンデンサ)の冷却水から熱エネルギーを回収する一方、蒸留塔の塔底液を加熱するための加熱源となるべき水を加熱して、高温水として加熱器(リボイラ)に供給するようにしている。
【0010】
すなわち、コンデンサの冷却水から熱エネルギーを回収し、リボイラに供給される高温水を得るためにヒートポンプが用いられており、回収されるべき熱エネルギーを有する「コンデンサの冷却水」と、回収された熱エネルギーにより温度レベルが上げられた「リボイラに供給される高温水」の間に、ヒートポンプの低温側の作動媒体と、高温側の作動媒体が介在することになり、熱回収のための構成が複雑になって、稼働条件次第では、熱回収効率の低下や、設備の高コスト化を招く場合がある。
【0011】
また、特許文献1の蒸留装置のように、ヒートポンプに供給される凝縮器(コンデンサ)の冷却水と、ヒートポンプで温度レベルを上昇させて加熱器(リボイラ)に供給される高温水との温度差が大きくなると、ヒートポンプにおいて用いられている圧縮機の負荷(圧縮度)が大きくなり、消費電力量が増大して、COP(成績係数)が小さくなるという問題点がある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、圧縮機を用いて、効率よく熱エネルギーを回収、利用することが可能で、省エネルギー性に優れた蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の蒸留装置は、
低沸点成分と高沸点成分とを含有する原料液の蒸留を行う蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、冷媒として機能する作動媒体と間接的に熱交換させることにより冷却して凝縮させるとともに、前記作動媒体を蒸発させる凝縮器と、
前記凝縮器において前記塔頂ベーパとの熱交換により加熱され、蒸発した前記作動媒体を圧縮することにより温度レベルを上昇させる圧縮機と、
前記圧縮機により温度レベルを上昇させた前記作動媒体と、前記蒸留塔の塔底液とを間接的に熱交換させることにより、前記塔底液を加熱する加熱器と、
前記加熱器において前記塔底液の加熱源として使用された前記作動媒体を減圧状態にさらして膨張させることにより、前記作動媒体の温度を前記塔頂ベーパより低い温度にまで低下させるとともに、温度の低下した前記作動媒体を前記凝縮器に供給することができるように構成された膨張機構と
を備えていることを特徴としている。
【0014】
本発明の蒸留装置においては、前記作動媒体として、不燃性で、かつ地球温暖化係数が1以下である物質を用いることが好ましい。
【0015】
また、前記圧縮機として、半密閉型の圧縮機を用いることが好ましい。
【0016】
また、前記圧縮機に供給され、圧縮される前の前記作動媒体の温度が30℃以上、前記圧縮機で圧縮された後の前記作動媒体の温度が200℃以下となるように構成されていることが好ましい。
【0017】
さらに、前記作動媒体として、30℃以上、200℃以下の温度範囲内において、大気圧(大気圧=1atm=0.101325MPa)以上の蒸気圧を有する物質を用いることが好ましい。
【0018】
また、本発明の蒸留装置においては、前記凝縮器と、前記圧縮機と、前記加熱器と、前記膨張機構とにより構成される熱回収機構のCOPが5以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の蒸留装置は、上述のような構成を備えており、
(a)凝縮器(コンデンサ)において、塔頂ベーパを、冷媒として機能する作動媒体と間接的に熱交換させることにより冷却して凝縮させるとともに、作動媒体を蒸発させ、
(b)蒸発した作動媒体の蒸気を、圧縮機において圧縮して温度レベルを上昇させ、
(c)温度レベルを上昇させた作動媒体と蒸留塔の塔底液とを、加熱器(リボイラ)において間接的に熱交換させることにより塔底液を加熱し、
(d)加熱器において塔底液の加熱源として使用された作動媒体を、膨張機構において、減圧状態にさらして膨張させることにより、作動媒体の温度を塔頂ベーパより低い温度にまで低下させるとともに、温度の低下した作動媒体を凝縮器に供給するようにしているので、ヒートポンプを用いることなく、熱エネルギーを効率よく回収して、省エネルギー効率の高い蒸留装置を実現することができる。
【0020】
すなわち、本発明によれば、前述の特許文献1に記載されているような熱回収のための構成(すなわち、ヒートポンプを利用して、凝縮器で用いられて温度の上昇した冷却水からの熱回収と、加熱器に高温水(加熱媒体)として供給される水の昇温とを行うようにした構成)を必要とせず、凝縮器で作動媒体と塔頂ベーパとを熱交換させることにより発生させた作動媒体の蒸気を圧縮機により直接に圧縮し、温度レベルを上げて加熱器の加熱源として供給するようにしているため、簡潔な装置構成により、熱の損失を抑制することが可能で、高い省エネルギー効果を得ることが可能な蒸留装置を提供することができる。
【0021】
また、本発明の蒸留装置において、作動媒体として、不燃性で、かつ地球温暖化係数が1以下である物質を用いるようにした場合、圧縮機から作動媒体が漏洩した場合にも、火災や環境破壊を引き起こすおそれがなく、安全性の高い蒸留装置を実現することができる。
なお、地球温暖化係数とは、二酸化炭素を基準にして、対象となる物質がどれだけ地球を温暖化する能力があるかを表した数値であり、例えば、国立研究開発法人である産業技術総合研究所などが発表している測定値である。
【0022】
また、前記圧縮機として、半密閉型の圧縮機を用いるようにした場合、外部への熱の放出が低減されるため、COP(成績係数)を向上させることが可能になる。
【0023】
なお、圧縮機の形式が開放型である場合は、モータから外部への放熱量が多くなるために、COP(成績係数)の低下を招きやすくなる。
【0024】
また、圧縮機に供給され、圧縮される前の作動媒体の温度が30℃以上、圧縮機で圧縮された後の作動媒体の温度が200℃以下となるように構成することにより、種々の低沸点成分と、高沸点成分とを含む原料液を蒸留して、低沸点成分と、高沸点成分とを分離する場合に、広く対応することが可能な蒸留装置を提供することができる。
【0025】
また、前記作動媒体として、30℃以上、200℃以下の温度範囲内において、大気圧以上の蒸気圧を有する物質を選択して用いることにより、圧縮機の1次側(入口側)と2次側(出口側)の圧力が、上述の30℃以上、200℃以下の温度範囲内において、常に正圧(大気圧以上の圧力)となるような装置構成とすることが可能になる。
【0026】
その結果、作動媒体が流れる流路および機器内が正圧となり、非凝縮性ガスが混入することによる圧縮機の圧縮性能の低下を防止することが可能になる。
【0027】
なお、例えば、圧縮機の1次側(入口側)が100℃未満(常圧下における水の沸点未満)で、2次側(出口側)が100℃を超える温度(常圧下における水の沸点を超える温度)となるような場合において、作動媒体として水を使用すると、圧縮機の1次側(入口側)は負圧、2次側(出口側)は正圧となるため、負圧となる箇所からの非凝縮性ガスの混入により圧縮機の圧縮性能が低下することとなり、ひいては、作動媒体の温度が制限されるという問題が生じるが、上述のように作動媒体として、30℃以上、200℃以下の温度範囲内において、大気圧以上の蒸気圧を有する物質を選択して用いることにより、このような問題が生じることを回避することができる。
【0028】
また、本発明の蒸留装置において、上述の凝縮器と、圧縮機と、加熱器と、膨張機構とにより構成される熱回収機構のCOPが5以上となるように、原料液組成や、蒸留塔の塔底液組成、塔頂ベーパ組成、各部の温度条件などの稼働条件を調整することにより、有意性のある省エネルギー効果を奏する蒸留装置をより確実に提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる蒸留装置の構成を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0031】
本実施形態にかかる蒸留装置100は、低沸点成分と高沸点成分の異なる2成分を含む原料液の蒸留を行う蒸留塔1と、蒸留塔1の塔頂部から低沸点成分を主成分とする塔頂ベーパを冷却して、低沸点成分を主成分とする凝縮液を留出液として回収する凝縮器(コンデンサ)2と、蒸留塔1の塔底部から高沸点成分を主成分とする塔底液の一部を加熱して蒸発させ、蒸留塔1の塔底部に供給するように構成された加熱器(リボイラ)3とを備えている。
【0032】
凝縮器(コンデンサ)2は、蒸留塔1の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、冷媒として機能する作動媒体と間接的に熱交換させることにより冷却して凝縮させるとともに、作動媒体を蒸発させるように構成されている。なお、凝縮器(コンデンサ)2においては、作動媒体が蒸発する際の蒸発潜熱により、塔頂ベーパが効率よく冷却される。
【0033】
また、蒸留装置100は、凝縮器(コンデンサ)2において用いられ、塔頂ベーパとの熱交換により加熱され、蒸発した作動媒体を圧縮して温度レベルを上昇させるための圧縮機4を備えている。
【0034】
そして、圧縮機4に送られ、圧縮されることによって蒸留塔1の塔底液より高い温度にまで温度レベルが上昇した作動媒体は、加熱器(リボイラ)3に送られて、高沸点成分を主成分とする蒸留塔の塔底液を加熱するための熱源として用いられる。
【0035】
さらに、加熱器(リボイラ)3において塔底液の加熱源として使用された作動媒体を減圧状態にさらして膨張させる膨張機構5を備えている。
【0036】
この膨張機構5は、加熱器(リボイラ)3において使用された作動媒体の温度を、蒸留塔1の塔頂ベーパより低い温度にまで低下させることで、作動媒体を凝縮器(コンデンサ)2の冷却源として使用することを可能にする機能を果たすように構成されている。
【0037】
なお、加熱器(リボイラ)3において塔底液の加熱源として使用された作動媒体は、通常、液相と気相の混相状態であり、膨張機構5で減圧状態にさらされると液相の作動媒体の一部は蒸発し、その際の蒸発潜熱により、作動媒体の温度が低下する。
【0038】
上述のようにして、膨張機構5で、蒸留塔1の塔頂ベーパより低い温度にまで温度を低下させた、液相と気相の混相状態にある作動媒体は、冷却源として、凝縮器(コンデンサ)2に供給される。
【0039】
本実施形態にかかる蒸留装置100においては、上述の凝縮器(コンデンサ)2と、圧縮機4と、加熱器(リボイラ)3と、膨張機構5とが、本発明における熱回収機構を構成している。
【0040】
本実施形態では、作動媒体として、ハイドロクロロフルオロオレフィン系の物質(冷媒)であるR1224yd(Z)(AGC製 AMOLEA1224yd)を使用している。
【0041】
この作動媒体R1224yd(Z)は、大気圧における沸点が15℃であるため、30℃以上、200℃以下の温度範囲内において、大気圧以上の蒸気圧を有する物質である。
【0042】
また、作動媒体R1224yd(Z)は、上述のように、不燃性であり、かつ地球温暖化係数が1以下である物質である。
【0043】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100は、蒸留塔1の塔底液を搬送するための塔底液ポンプ8を備えている。
【0044】
そして、蒸留塔1の塔底液の一部は、塔底液ポンプ8を介して加熱器(リボイラ)3に供給され、蒸留塔1の塔底液の残部は、塔底液ポンプ8を介して予熱器6に送られ,原料液と間接的に熱交換された後、高沸点成分を主成分とする缶出液として系外に排出される。
【0045】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100は、凝縮器(コンデンサ)2において凝縮した低沸点成分を主成分とする凝縮液を搬送するための凝縮液ポンプ7を備えている。
【0046】
また、凝縮器(コンデンサ)2において凝縮した凝縮液の一部を還流液として蒸留塔1の塔頂部に戻す還流ライン11とを備えている。
【0047】
そして、凝縮器(コンデンサ)2において凝縮した凝縮液の一部が凝縮液ポンプ7、還流ライン11を経て蒸留塔1の塔頂に戻され、凝縮液の残部は低沸点成分を主成分とする留出液として回収されるように構成されている。
【0048】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100においては、蒸留塔1として、充填塔が用いられている。ただし、蒸留塔としては、例えば、棚段塔などの、公知の種々の型式のものを用いることが可能である。
【0049】
また、凝縮器(コンデンサ)2としては、多管式の間接型熱交換器が用いられており、低沸点成分を主成分とする塔頂ベーパと、塔頂ベーパより低い温度の作動媒体との間で間接的に熱交換が行われるように構成されている。ただし、凝縮器(コンデンサ)2としては、プレート式熱交換器などの他の型式の間接型熱交換器を用いることも可能である。
【0050】
また、本実施形態では、加熱器(リボイラ)3として、液膜降下式の塔状の間接型熱交換器が用いられている。ただし、加熱器(リボイラ)3としては、その他の種々の間接型熱交換器を用いることが可能である。
【0051】
また、本実施形態では、放熱を抑制して、省エネルギー効果を向上させる目的で、圧縮機4として、半密閉型の圧縮機を用いている。具体的には、半密閉型のスクリュー圧縮機を用いている。
【0052】
なお、半密閉型の圧縮機とは、圧縮機本体と圧縮機本体を駆動する駆動部とがケーシング内に密閉収容されており、前記ケーシングを構成する部材を締結部材によって締結することによりケーシングの内部を密閉状態に保持することができるが、締結部材の締結を解除することにより、ケーシングの密閉状態が解除され、ケーシング内に収容されている圧縮機本体や駆動部にアクセスすることができるように構成されている圧縮機である。
ただし、圧縮機4として、半密閉型ではないものを用いることも可能であり、また、スクリュー圧縮機以外の型式の圧縮機を用いることも可能である。
【0053】
次に、上述のように構成された蒸留装置100を用いて、
(a)作動媒体として、ハイドロクロロフルオロオレフィン系の物質(冷媒)であるR1224yd(Z)を使用し、
(b)低沸点成分であるベンゼンと、高沸点成分であるトルエンとを、
ベンゼン: 50wt%
トルエン: 50wt%
の割合で含む2成分系の原料液を蒸留して、低沸点成分であるベンゼンと、高沸点成分であるトルエンとを分離する場合を例にあげて、本実施形態にかかる蒸留装置100の特徴とするところをさらに詳細に説明する。
【0054】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100において用いられている作動媒体R1224yd(Z)は、前述したように、30℃以上、200℃未満の温度範囲内において、大気圧以上の蒸気圧を有する物質である。
【0055】
本実施形態の蒸留装置100を用いて、上述の原料液の蒸留を行う場合、原料液の一部が予熱器6において、塔底液ポンプ8を経て予熱器6に供給される缶出液と熱交換されることで予熱され,蒸留塔1に供給される。
【0056】
そして、蒸留塔1の塔頂部からベンゼンを主成分とする、温度80.2℃の塔頂ベーパが凝縮器(コンデンサ)2に送られ、凝縮器(コンデンサ)2にて、76℃の作動媒体(冷媒)、すなわち、R1224yd(Z)との間で間接的な熱交換が行われることにより、塔頂ベーパが冷却されて凝縮する。
【0057】
一方、凝縮器(コンデンサ)2において塔頂ベーパの冷却に用いられ、塔頂ベーパとの熱交換により加熱された作動媒体R1224yd(Z)は蒸発し、76℃の蒸気(作動媒体の蒸気)を発生させる。そして、発生した76℃の蒸気は圧縮機4に送られる。
【0058】
圧縮機4に送られた作動媒体R1224yd(Z)の蒸気(76℃)は、圧縮機4によって断熱圧縮され、蒸留塔1の塔底液(110.3℃)を加熱することができる温度(114℃)にまで、温度レベルが上げられる。
【0059】
圧縮機4において温度レベルが114℃に上げられた作動媒体R1224yd(Z)の蒸気は加熱器(リボイラ)3に送られ、塔底液ポンプ8を経て加熱器(リボイラ)3に送られる蒸留塔1の塔底液(110.3℃)との間で間接的な熱交換が行われる。
【0060】
そして、加熱器(リボイラ)3で加熱された蒸留塔1の塔底液は、蒸留塔1の塔底に戻される。
【0061】
上述の運転条件では、圧縮機4の出入口での作動媒体R1224yd(Z)の蒸気の圧力は、入口側(1次側)で0.668MPaA、出口側(2次側)で1.553MPaAとなる。
【0062】
ここで、仮に、作動媒体として水を使用した場合、圧縮機4の出入口の圧力は、入口側では0.040MPaAの負圧となり、出口側では0.163MPaAの正圧となるため、負圧となる箇所からの非凝縮性ガスの混入により圧縮機4の圧縮性能が低下するおそれがある。
【0063】
したがって、上述のような運転条件の場合に、作動媒体として、R1224yd(Z)を選択して用いることにより、圧縮機4の入口および出口の作動媒体R1224yd(Z)の蒸気の圧力はいずれも正圧となるため、作動媒体が流れる流路および機器内が負圧になることがなく、非凝縮性ガスの混入を阻止して、圧縮機の圧縮性能の低下を防止することができる。
【0064】
そして、上述のように構成された本実施形態の蒸留装置100では、圧縮機4の出口側である高温側(2次側)の作動媒体の温度が114℃、圧縮機4の入口側である低温側(1次側)の温度が76℃となり、加熱器(リボイラ)3にて塔底液を加熱するためのエネルギーが340kWを必要とする条件では、圧縮機の動力は55.7kWとなり、下記の式(1)により、COP(成績係数)の値として6.1が得られる。
COP(成績係数)=340/55.7=6.1 ……(1)
【0065】
一方、特許文献1の蒸留装置のように、ヒートポンプを用いて凝縮器(コンデンサ)の冷却水から熱エネルギーを回収する一方、蒸留塔の塔底液を加熱するための加熱源となるべき水を加熱して、高温水として加熱器(リボイラ)に供給するようにした場合、COPは4.3程度となり、本発明で得られるCOP6.1より低くなる。
【0066】
このように、本実施形態にかかる蒸留装置100によれば、ヒートポンプを用いることを必要とせず、構成が簡潔で、省エネルギー効果が大きく、しかも設備コストを抑えることが可能な蒸留装置を実現することができる。
【0067】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100のおいては、ボイラで発生させた蒸気をエネルギーとして用いる「従来の蒸気式の蒸留装置」と、「本実施形態にかかる蒸留装置100」のそれぞれにおける消費エネルギーを求めた。
なお、消費エネルギーは、1次エネルギー換算で計算し評価した。
【0068】
「従来の蒸気式の蒸留装置」のエネルギー消費量
・蒸気加熱量:340kW
・1次エネルギー=1.248GJ
「本実施形態にかかる蒸留装置100」のエネルギー消費量
・圧縮機の動力:55.7kW
・1次エネルギー=0.543GJ
【0069】
以上のように、「従来の蒸気式の蒸留装置」における、1次エネルギー換算でのエネルギー消費量は1.248GJであるのに対して、「本実施形態にかかる蒸留装置100」においては、0.543GJとなる。
したがって、下記の式(2)より、1次エネルギー削減率は56.5%となる。
1次エネルギー削減率=(1.248-0.543)/1.248×100=56.5% ……(2)
【0070】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100においては、作動媒体として、不燃性で、かつ地球温暖化係数が1以下であるR1224yd(Z)を用いるようにしているので、圧縮機4から作動媒体が漏洩したような場合にも、火災や環境破壊を引き起こすおそれがなく、安全性の高い蒸留装置を実現することができる。
【0071】
なお、上記実施形態で説明した原料液の組成、塔底液、凝縮液、塔頂ベーパなどに関する温度、圧力、COPなどの条件についての記載は、あくまでも例示であって、本発明は、それらの条件が上記実施形態における条件とは異なる場合を排除するものではない。
【0072】
本発明は、さらに他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲内において、応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 蒸留塔
2 凝縮器(コンデンサ)
3 加熱器(リボイラ)
4 圧縮機
5 膨張機構
6 予熱器
7 凝縮液ポンプ
8 塔底液ポンプ
11 還流ライン
100 蒸留装置