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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048300
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】牽引治具
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20230331BHJP
   H02G 15/02 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
H02G1/02
H02G15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157526
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000213884
【氏名又は名称】住電機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 良彦
【テーマコード(参考)】
5G352
5G375
【Fターム(参考)】
5G352AA01
5G352AE08
5G375AA02
5G375DA11
(57)【要約】
【課題】ケーブルの端末部の構成によらず、端末部に簡単に着脱可能な牽引治具を提供する。
【解決手段】牽引装置によってケーブルを牽引する際に、前記ケーブルの端末部に取り付けられる牽引治具であって、前記端末部の外周面における周方向の一部を覆うように前記外周面に配置される第一部材と、前記第一部材が前記端末部に固定されるように前記第一部材を前記外周面に向かって締め付ける第二部材と、前記第一部材に取り付けられたひも状の第三部材とを備える、牽引治具。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引装置によってケーブルを牽引する際に、前記ケーブルの端末部に取り付けられる牽引治具であって、
前記端末部の外周面における周方向の一部を覆うように前記外周面に配置される第一部材と、
前記第一部材が前記端末部に固定されるように前記第一部材を前記外周面に向かって締め付ける第二部材と、
前記第一部材に取り付けられたひも状の第三部材とを備える、
牽引治具。
【請求項2】
前記第一部材の形状がC字形状である、請求項1に記載の牽引治具。
【請求項3】
前記第一部材は、前記第一部材の内周面に凸部と凹部の一方を備え、
前記凸部と凹部の一方は、前記外周面に形成される凸部と凹部の他方に対応する位置に配置されている、請求項1又は請求項2に記載の牽引治具。
【請求項4】
前記第二部材は、前記第一部材を外周から締め付ける締付バンドである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の牽引治具。
【請求項5】
前記牽引装置による牽引の際、前記牽引装置と前記第三部材との間に配置される第四部材を備え、
前記第四部材は板状部材を備え、
前記板状部材は、前記第三部材が挿通される挿通孔を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の牽引治具。
【請求項6】
前記第四部材は、前記牽引装置に連結されるU字金具を備え、
前記U字金具の一方の端部と他方の端部がそれぞれ、前記板状部材に固定されている、請求項5に記載の牽引治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、牽引治具に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線の分岐接続工事などにおいて、バイパスケーブルを用いた無停電工法が行われている。無停電工法では、例えば電柱Aに設けられた電気機器と、電柱Bに設けられた電気機器とをバイパスケーブルによって接続する。バイパスケーブルによって電柱Aと電柱Bとの間の送電が確保されることで、送電を止めることなく電柱Aと電柱Bとの間での工事が可能になる。電気機器としては、開閉器などが挙げられる。
【0003】
バイパスケーブルの端部には、電気機器に接続するための端末部が設けられている。端末部として、ねじ付きの袋ナットによって構成される袋ナット式のコネクタ、又は特許文献1に記載されるワンタッチ式のコネクタが挙げられる。ねじ付きの袋ナットのコネクタは、電気機器のコネクタにねじ結合されることで、電気機器に接続される。一方、ワンタッチ式のコネクタは、電気機器のコネクタに差し込まれることで、電気機器のコネクタに電気的・機械的に接続される。ワンタッチ式のコネクタは、現場での接続作業を効率化できるため、近年採用例が増えている。
【0004】
バイパスケーブルを架設する場合、バイパスケーブルの一端を電気機器に固定した後、バイパスケーブルの他端を牽引装置によって牽引し、他の電気機器に接続する。牽引装置によってバイパスケーブルを牽引する場合、バイパスケーブルの端末部に牽引治具を取り付け、牽引治具を介してバイパスケーブルを牽引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-169995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現状の牽引治具は、袋ナット式のコネクタにねじ結合するプーリングアイである。このプーリングアイをコネクタにねじ結合させる作業は非常に煩雑である。また、現状のプーリングアイは、袋ナット式のコネクタには取り付けられるものの、ワンタッチ式のコネクタには取り付けられない。従って、現状の架設作業では、ワンタッチ式のコネクタにアダプタを取り付け、そのアダプタにプーリングアイが取り付けられている。この場合、アダプタを取り付ける手間、及びアダプタにプーリングアイをねじ結合させる手間がかかるため、無停電工法の作業性が芳しくない。
【0007】
本開示の目的の一つは、ケーブルの端末部の構成によらず、端末部に簡単に着脱可能な牽引治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の牽引治具は、
牽引装置によってケーブルを牽引する際に、前記ケーブルの端末部に取り付けられる牽引治具であって、
前記端末部の外周面における周方向の一部を覆うように前記外周面に配置される第一部材と、
前記第一部材が前記端末部に固定されるように前記第一部材を前記外周面に向かって締め付ける第二部材と、
前記第一部材に取り付けられたひも状の第三部材とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の牽引治具は、ケーブルの端末部の構成によらず、端末部に簡単に着脱可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1に係る牽引治具をケーブルに取り付けた状態を示す概略構成図である。
図2図2は、図1の部分拡大図である。
図3図3は、実施形態1に係る牽引治具に備わる第一部材の斜視図である。
図4図4は、第一部材の正面図である。
図5図5は、実施形態1に係る牽引治具に備わる第四部材の斜視図である。
図6図6は、図5の反対側から見た第四部材の斜視図である。
図7図7は、図5のVII-VII断面矢視図である。
図8図8は、牽引治具の外周に配置される保護カバーの概略図である。
図9図9は、変形例1-1に係る第一部材の斜視図である。
図10図10は、変形例1-2に係る第四部材の斜視図である。
図11図11は、変形例1-3に係る第四部材の斜視図である。
図12図12は、実施形態2に係る第一部材と第二部材との組物の正面図である。
図13図13は、実施形態3に係る第一部材と第二部材との組物の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
<1>実施形態に係る牽引治具は、
牽引装置によってケーブルを牽引する際に、前記ケーブルの端末部に取り付けられる牽引治具であって、
前記端末部の外周面における周方向の一部を覆うように前記外周面に配置される第一部材と、
前記第一部材が前記端末部に固定されるように前記第一部材を前記外周面に向かって締め付ける第二部材と、
前記第一部材に取り付けられたひも状の第三部材とを備える。
【0013】
第一部材は、ケーブルの端末部の外周面を全周にわたって覆う構成ではないため、端末部の外周面の構成によらず、端末部の外周面に配置し易い。この第一部材を第二部材によって外周面に締め付けることで、第一部材がケーブルの端末部をしっかりと把持する。上記牽引治具では、ひも状の第三部材が牽引装置に引っ張られることで、第一部材に把持されたケーブルが牽引される。
【0014】
<2>実施形態に係る牽引治具の一例では、
前記第一部材の形状がC字形状である。
【0015】
C字形状の第一部材は、ケーブルの端末部に取り付け易い。例えば、C字形状の開口部を端末部の外周面に押し付けることで、開口部が開くように第一部材が変形する。その結果、端末部の径方向の外方側から第一部材をはめ込むことができる。もちろん、第一部材を拡径し、端末部の軸方向側から端末部に第一部材をはめ込むこともできる。
【0016】
<3>実施形態に係る牽引治具の一例では、
前記第一部材は、前記第一部材の内周面に凸部と凹部の一方を備え、
前記凸部と凹部の一方は、前記外周面に形成される凸部と凹部の他方に対応する位置に配置されている。
【0017】
上記構成によれば、牽引装置による牽引時に、牽引治具の第一部材が端末部から外れ難い。なぜなら、第一部材の凸部と凹部の一方が端末部の外周面の凸部と凹部の他方にはまり込み、第一部材の軸方向への移動が規制されるからである。
【0018】
<4>実施形態に係る牽引治具の一例では、
前記第二部材は、前記第一部材を外周から締め付ける締付バンドである。
【0019】
第一部材の外周から第一部材を締め付ける締付バンドによれば、ケーブルの端末部の外周に第一部材を簡単に固定することができる。
【0020】
<5>実施形態に係る牽引治具の一例では、
前記牽引装置による牽引の際、前記牽引装置と前記第三部材との間に配置される第四部材を備え、
前記第四部材は板状部材を備え、
前記板状部材は、前記第三部材が挿通される挿通孔を有する。
【0021】
上記構成では、牽引装置による牽引の際、ひも状の第三部材が第四部材を介して牽引される。牽引装置による牽引力がひも状の第三部材に直接作用することがないため、第三部材に過度の負荷がかかることが抑制される。また、第四部材に備わる板状部材の挿通孔に第三部材が挿通されることで、牽引時に挿通孔の内周面に第三部材が面接触し、第三部材に作用する応力が分散される。その結果、第三部材が切れるなどの不具合が生じ難い。
【0022】
<6>上記<5>に係る牽引治具の一例では、
前記第四部材は、前記牽引装置に連結されるU字金具を備え、
前記U字金具の一方の端部と他方の端部がそれぞれ、前記板状部材に固定されている。
【0023】
上記構成によれば、牽引装置による牽引の際、牽引装置の牽引力をU字金具に負担させることができる。そのため、牽引時に板状部材が破損し難い。また、U金具を介して板状部材を牽引することで、板状部材が板状部材の厚さ方向にまっすぐに牽引される。そのため、ひも状の第三部材がよれるなどして第三部材に過度の負荷がかかることが抑制される。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施の形態を詳細に説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。本発明は、実施形態の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0025】
<実施形態1>
実施形態1では、架空送電線の無停電工法に用いられる牽引治具を説明する。牽引治具は、牽引装置によってケーブルを牽引する際、ケーブルに取り付けられる治具である。牽引治具は、牽引装置によるケーブルの牽引を容易にすると共に、ケーブルの破損を抑制する。
【0026】
図1に示されるように、本例の牽引治具αを介して牽引されるケーブルβはバイパスケーブルである。ケーブルβは、バイパスケーブルに限定されるわけではない。例えば、ケーブルβは、管路内に敷設される電力ケーブルなどでも良いし、電力ケーブル以外のケーブルであっても良い。
【0027】
≪ケーブル≫
牽引治具αの説明に先立ち、本例のケーブルβを簡単に説明する。本例のケーブルβは、ケーブル本体8と、ケーブル本体8の端部に設けられる端末部9とを備える。ケーブル本体8は、導体と、導体の外周に配置される絶縁層と、絶縁層の外周に配置される遮蔽層と、遮蔽層の外周に配置されるシースとを備える。絶縁層は、図示しない内部半導電層及び外部半導電層の少なくとも一方を備えてもよい。図1にはケーブル本体8の最外周に配置されるシース80のみが図示されている。本例の端末部9はワンタッチ式のオスコネクタである。ワンタッチ式のオスコネクタは、開閉器などの電力機器のメスコネクタに差し込まれることで、メスコネクタに電気的・機械的に接続される。本例とは異なり、ケーブルβの端末部9がメスコネクタ、電極機器のコネクタがオスコネクタでも良い。
【0028】
端末部9の内部の構成は、特許文献1に記載の構成とほぼ同じである。端末部9は、筒状のスリーブ9Sを備える。本例のスリーブ9Sは円筒状である。スリーブ9Sは多角筒状であっても良い。
【0029】
スリーブ9Sの内部には、図示しないオス端子が配置されている。オス端子は、ケーブル本体8の導体に接続されている。その他、スリーブ9Sの内部には、ストレスコーンを構成する絶縁筒などが配置されている。
【0030】
端末部9の外周面、すなわちスリーブ9Sの外周面90には、図2に示されるように凹部91が形成されている。凹部91には、端末部9を電気機器のメスコネクタに接続したときに、メスコネクタの内部に配置される係合部がはまり込む。その結果、端末部9がメスコネクタから外れ難くなる。端末部9を外す場合、メスコネクタに設けられるスイッチなどを操作することで、メスコネクタの係合部が凹部から外れる。その結果、メスコネクタから端末部9を外すことができる。
【0031】
凹部91の数は特に限定されない。凹部91の形状も特に限定されない。本例の凹部91は、スリーブ9Sの周方向に延びる周回溝である。本例の凹部91は、端末部9の外周面90の全周にわたって形成されている。凹部91の延伸方向に直交する凹部91の内周面形状は半円弧状である。
【0032】
≪牽引治具≫
牽引治具αは、端末部9に取り付けられ、端末部9を把持する。牽引治具αは、カナビラ7を介して図示しない牽引装置の牽引フックに接続される。牽引装置の牽引フックが引かれると、牽引治具αを介して端末部9が引っ張られ、ケーブルβが牽引される。本例の牽引治具αは、第一部材1と第二部材2と第三部材3と第四部材4とを備える。第四部材4は必須ではない。以下、牽引治具αの各構成を詳細に説明する。
【0033】
[第一部材]
第一部材1は、牽引装置による牽引時に端末部9の外周面90に配置される部材である。第一部材1は、後述する第二部材2によって外周面90に向かって締め付けられ、外周面90に固定される。その結果、第一部材1は、端末部9を外周側から把持する。
【0034】
本例の第一部材1は、図3,4に示されるように、軸方向から見た形状が概略C字形状である。軸方向とは、第一部材1の外周面又は内周面19を周方向に延長した円筒面の軸に沿った方向のことである。言い換えると、第一部材1は、周面の一部が軸方向に切りかかれたスリット10を備える概略円筒状の部材である。そのため、第一部材1は、端末部9の外周面90に配置されたときに、外周面90の一部を覆う。第一部材1の内周面19を構成する円弧の直径は、端末部9の外周面90の直径と同じか、若干大きい。図3,4では、スリット10の指示線は、スリット10を形作るC字形状の端部を示している。
【0035】
第一部材1は金属によって構成されていても良いし、樹脂によって構成されていても良い。樹脂製の第一部材1は弾性変形能に優れる。従って、樹脂製の第一部材1は、端末部9の径方向の外周側から端末部9にはめ込むことができる。また、樹脂製の第一部材1は、金属製の第一部材1に比べて軽量であり、しかも端末部9の外周面90を損傷させ難い。
【0036】
図4に示されるように、軸方向から見た第一部材1の実体部分の形成角度θ1は180°超300°以下であることが好ましい。すなわち、軸方向から見た第一部材1のスリット10の形成角度θ2は60°以上180°未満であることが好ましい。形成角度θ1が上記範囲であれば、第一部材1が端末部9の外周面90をしっかりと把持することができる。また、形成角度θ2が上記範囲であって、かつ第一部材1が樹脂製であれば、第一部材1を端末部9の径方向の外周側から端末部9にはめ込み易い。形成角度θ1は、200°以上であることが好ましく、240°以上であることがより好ましい。本例の第一部材1の形成角度θ1は270°である。
【0037】
図3に示されるように、第一部材1の軸方向における一方の端部には第一フランジ11が設けられている。第一フランジ11は、第一部材1の径方向に突出する。第一フランジ11は二つの係止部11A,11Bを備える。係止部11A,11Bは、第一フランジ11のその他の部分よりも第一部材1の径方向に突出している。係止部11Aと係止部11Bは、第一部材1の中心軸を挟んで対称となる位置に設けられている。係止部11Aには第一部材1の軸方向に貫通する貫通孔11Ahが設けられている。係止部11Bには第一部材1の軸方向に貫通する貫通孔11Bhが設けられている。貫通孔11Ah及び貫通孔11Bhは共に、第一部材1の周方向に沿って延びる円弧状の長孔である。長孔の長軸の長さは、後述する第三部材3の幅よりも若干長い。
【0038】
第一部材1の軸方向における第一フランジ11と反対側の端部には、第二フランジ12が設けられている。第二フランジ12は、第一フランジ11とほぼ同じ構成を有する。すなわち、第二フランジ12は、貫通孔12Ahを有する係止部12Aと、貫通孔12Bh(図2参照)を有する係止部12Bとを備える。貫通孔12Ahは、図4に示されるように、第一部材1を軸方向から見たときに貫通孔11Ahに一致する形状を備える。貫通孔12Bhは、第一部材1を軸方向から見たときに貫通孔11Bhに一致する形状を備える。
【0039】
第一フランジ11と第二フランジ12の相違点は、図2に示されるように、第一部材1の軸方向に沿った係止部12Aの長さと係止部12Bの長さとがそれぞれ、係止部11Aの長さと係止部11Bの長さよりも長いことである。係止部12A,12Bが長くなっているのは、第三部材3を牽引したときの張力が主に係止部12A,12Bに作用するからである。
【0040】
第一フランジ11と第二フランジ12とで挟まれる第一部材1の中間部13には、後述する第二部材2が配置される。中間部13に配置された第二部材2は第一部材1の軸方向に動き難い。なぜなら、中間部13の外周面よりも径方向に張り出す第一フランジ11と第二フランジ12とが、第二部材2の動きを規制するからである。
【0041】
第一部材1の内周面19は、後述する第二部材2によって第一部材1が締め付けられたときに、端末部9の外周面90に密着する。この内周面19には、図3,4に示されるように、凸部15が設けられている。本例の凸部15は、第一部材1の周方向に延びる突条である。この凸部15は、図2に示されるように、第一部材1が端末部9に取り付けられたとき、端末部9の凹部91にはまり込む。凸部15の外周面の形状は、凹部91の内周面の形状に一致している。従って、第二部材2によって締め付けられた第一部材1は軸方向に動き難く、端末部9から外れ難い。端末部9の外周面90に凸部が設けられている場合、第一部材1の内周面19には凹部を設ければよい。
【0042】
[第二部材]
第二部材2は、第一部材1を外周面90に向かって締め付け、外周面90に第一部材1を固定させるための部材である。第二部材2は、第一部材1を外周面90に向かって締め付けることができる構成であれば特に限定されない。本例の第二部材2は締付バンドである。本例の締付バンドは、バンド部20と、バンド部20の一方の端部に設けられるバックル部とを備える。バンド部20は、例えば天然繊維、合成繊維、又は金属繊維を織ったり編成したりすることによって得られたベルト状の部材である。バックル部は、バンド部20の他方の端部側を固定する機能を有する。バックル部は公知の構成であるためバックル部の図示は省略する。締付バンドは、ねじの回転によって締付力を調整できるステンレスバンド、又は樹脂性のインシュロック(登録商標)などでも良い。
【0043】
本例の第二部材2は、第一部材1とは独立した部材である。本例とは異なり、第二部材2は、第一部材1に一体に取り付けられていても良い。本例とは異なる構成の具体例は後述する実施形態2及び実施形態3において説明する。
【0044】
本例の第二部材2は、第一部材1の中間部13に巻き付けられている。その際、第二部材2の詳しい配置については、第三部材3の説明の際に説明する。
【0045】
[第三部材]
図2に示されるように、第三部材3は、第一部材1に取り付けられたひも状の部材である。本例の第三部材3は、第一バンド31と第二バンド32と第三バンド33とが連結されることで構成された手綱状の部材である。本例とは異なり、第三部材3は、手綱状の一つのバンドによって構成されていても良い。
【0046】
第一バンド31は、第一部材1の貫通孔11Ahと貫通孔12Ahを通って、折り返されている。第一バンド31の折り返し端は、第一バンド31の中間部に接合されている。つまり、第一バンド31の一端側には環状部31Cが形成されている。この環状部31Cが、第一部材1の係止部11A,11Bに係止されている。
【0047】
第二バンド32は、第一バンド31と同じ構成を備えている。すなわち、第二バンド32は、第一部材1の貫通孔11Bhと貫通孔12Bhを通って折り返された環状部32Cを備える。環状部32Cが、第一部材1の係止部12A,12Bに係止されている。
【0048】
第三バンド33は、係合機構35を介して第一バンド31と第二バンド32とに連結されている。係合機構35を備えることで、例えば第一部材1が損傷したり、後述する第四部材4が損傷したときに、損傷した部材のみを交換することができる。係合機構35は、着脱自在の構成であれば特に限定されない。係合機構35としては、例えばシートベルトの係合機構のようなタングとバックルとの組み合わせなどが挙げられる。
【0049】
第二部材2は、第一バンド31の環状部31C及び第二バンド32の環状部32Cに挿通された状態で、第一部材1の中間部13に配置される。このような配置であれば、ケーブルβの牽引時に仮に係止部12A又は係止部12Bが破損した場合であっても、ひも状の第三部材3が第一部材1から外れ難い。例えば、係止部12Aが破損し、第一バンド31が係止部12Aから外れた場合、環状部31Cが第二部材2に引っ掛かる。環状部31Cが第二部材2に一旦、引っかかることで、環状部31Cが係止部11Aに衝撃的に引っかかることが抑制される。その結果、係止部11Aの破損が回避され、係止部11Aの破損に伴う第一バンド31の脱落も回避される。
【0050】
[第四部材]
第四部材4は、板状部材4PとU字金具4Uとを備える。第四部材4は、牽引装置の牽引フックが第三部材3に直接接触することを抑制し、第三部材3に対する負荷を低減する部材である。第四部材4は主に図5から図7を参照して説明する。図5では、U字金具4Uは二点鎖線で示されている。図6では、U字金具4Uの図示は省略されている。
【0051】
板状部材4Pは、第三バンド33(図7)が挿通される挿通孔43を備える。挿通孔43は、板状部材4Pの一面から張り出す張出部40に設けられている。張出部40は、平角筒の一つの側面が板状部材4Pに一体化したような形状を備える。挿通孔43の軸方向から見た挿通孔43の形状は長孔形状である。
【0052】
板状部材4Pは金属によって構成されていても良いし、樹脂によって構成されていても良い。本例の板状部材4Pは樹脂製である。板状部材4Pは、図6に示されるように、板状部材4Pを補強する環状リブ44と格子状リブ45とを備える。環状リブ44は、板状部材4Pの外周縁部に沿って設けられる。格子状リブ45は、環状リブ44の内周面をつなぐように設けられている。環状リブ44と格子状リブ45を備える板状部材4Pは、樹脂製であっても機械的強度に優れる。
【0053】
図5に示されるU字金具4Uは、板状部材4Pの六角穴にはめ込まれたナット46(図6)を介して、板状部材4Pに固定されている。本例の第四部材4は、例えば以下のようにして作製される。U字金具4Uの一方の端部と他方の端部とをそれぞれ、板状部材4Pに貫通させる。U字金具4Uの各端部には雄ネジが設けられている。U字金具4Uの各端部にナット46を取り付ける。U字金具4Uの屈曲部側にU字金具4Uを引っ張ると共に、ナット46を板状部材4Pの六角穴にはめ込む。その結果、U字金具4Uが板状部材4Pに一体化された第四部材4が得られる。
【0054】
≪実施形態の牽引治具の効果≫
本例の牽引治具αに備わる第一部材1は、軸方向から見てC字形状となっている。このような第一部材1のスリット10を端末部9の外周面90に押し付けることで、スリット10が開くように第一部材1が変形する。その結果、端末部9の径方向の外方側から第一部材1をはめ込むことができる。つまり、第一部材1を簡単に端末部9に取り付けることができる。第一部材1を端末部9に配置した後、第二部材2によって第一部材1を外周面90に向かって締め付けることで、第一部材1がしっかりと端末部9に固定される。このように、本例の牽引治具αは、端末部9に容易に取り付けることができる。
【0055】
本例の牽引治具αに把持される端末部9は、袋ナット式のコネクタでも良い。C字形状の第一部材1は、袋ナット式のコネクタであっても袋ナット式のコネクタの外周からはめ込むことができる。その場合、第一部材1の凸部15は、袋ナットのねじ溝の形状に沿った形状であることが好ましい。凸部15がねじ溝にはまり込んで、コネクタから第一部材1が外れ難い。
【0056】
第一部材1を端末部9から取り外す場合、まず第二部材2による締め付けを解除する。次いで、スリット10を挟む第一部材1の周方向の縁部をスリット10と反対側に押す。その結果、スリット10が開いて、第一部材1が端末部9から外れる。このように、本例の牽引治具αは、端末部9から容易に取り外すことができる。
【0057】
牽引治具αを介してケーブルβを牽引する場合、ひも状の第三部材3を牽引する。本例では、第三部材3を牽引装置によって直接牽引するのではなく、第四部材4を介して第三部材3を牽引している。従って、第三部材3に過度の負荷がかかることが抑制される。また、第四部材4に備わる板状部材4Pの挿通孔43に第三部材3が挿通されることで、牽引時に挿通孔43の内周面に第三部材3が面接触し、第三部材3に作用する応力が分散される。その結果、第三部材3が切れるなどの不具合が生じ難い。
【0058】
≪その他の構成≫
図1に示されるケーブルβの牽引時、端末部9の開口部は防水キャップ6によって封止されていても良い。防水キャップ6はカメラのレンズカバーのような短尺の有底筒状部材である。防水キャップ6は例えばゴム製である。防水キャップ6はひもなどによって牽引治具αにつながっていても良い。
【0059】
ケーブルβの牽引時、図1の横長の二点鎖線で囲まれる領域、すなわち牽引治具αの先端から端末部9の途中までは、保護カバー5によって覆われていても良い。図8は保護カバー5の一例である。保護カバー5は、シート部50と、シート部50から延びるタブ部51とを備える。タブ部51には面ファスナー設けられている。シート部50には、タブ部51の面ファスナーに対応する面ファスナー部52が設けられている。保護カバー5は、防水性の繊維によって構成されていることが好ましい。保護カバー5は、ひもなどによって牽引治具αにつながっていても良い。
【0060】
<変形例1-1>
変形例1-1では、係止部の構成が実施形態1と異なる第一部材1の一例を図9に基いて説明する。
【0061】
本例の第一部材1は二つの係止部17,18を備える。係止部17は、実施形態1の図3の係止部11Aと係止部12Aとが第一部材1の軸方向につながったような形状を備える。すなわち、係止部17は、第一部材1の軸方向の一端から他端にかけて設けられている。係止部17には、第一部材1の軸方向に貫通する貫通孔17hが設けられている。
【0062】
係止部18は、実施形態1の図3の係止部11Bと係止部12Bとが第一部材1の軸方向につながったような形状を備える。すなわち、係止部18は、第一部材1の軸方向の一端から他端にかけて設けられている。係止部18には、第一部材1の軸方向に貫通する貫通孔18hが設けられている。係止部18は、第一部材1の中心軸を挟んで係止部17と対称な位置に設けられている。
【0063】
本例の構成によれば、第一部材1の軸方向における係止部17,18の長さが長いため、係止部17,18の強度が実施形態1の構成よりも高い。従って、牽引治具αが牽引されても、係止部17,18が損傷し難い。
【0064】
<変形例1-2>
変形例1-2では、挿通孔の構成が実施形態1と異なる第四部材4の一例を図10に基いて説明する。
【0065】
本例の第四部材4に備わる板状部材4Pは、二つの挿通孔431,432を備える。挿通孔431と挿通孔432はそれぞれ、板状部材4Pの厚さ方向に張り出す張出部41と張出部42に設けられている。張出部41は、板状部材4Pにおける環状リブ44と反対側の面に設けられている。張出部42は、板状部材4Pの中心を挟んで張出部41と対称な位置に設けられている。挿通孔431を軸方向から見たとき、挿通孔431と挿通孔432とは重複している。
【0066】
本例の構成によれば、板状部材4Pにおけるひも状の第三部材3の状態を目視で確認できる。従って、経時的な第三部材3の劣化などを確認し易い。
【0067】
<変形例1-3>
変形例1-3では、実施形態1の板状部材4Pにおける挿通孔43側にも補強リブを追加した第四部材4の一例を図11に基いて説明する。
【0068】
本例の板状部材4Pは、U字金具4Uが貫通される貫通孔を取り囲むように補強リブ49が設けられている。貫通孔の周辺には、U字金具4Uが牽引されたときに応力が作用し易い。補強リブ49によって、U字金具4Uからの応力による板状部材4Pの損傷を抑制できる。
【0069】
<実施形態2>
実施形態2では、第一部材1が複数の分割片1A,1Bによって構成される例を図12に基いて説明する。
【0070】
本例の第一部材1は、分割片1Aと分割片1Bと連結バンド16とを備える。第一部材1の軸方向から見て、分割片1Aと分割片1Bは円弧形状である。本例の分割片1Aと分割片1Bとは同一形状を備える。本例とは異なり、分割片1Aと分割片1Bとは異なる形状であっても良い。また、分割片の数は3つ以上でも良い。
【0071】
連結バンド16は、例えば繊維を織ったり編成したりすることによって構成されている。繊維は金属繊維でも良いし、天然繊維でも良いし、合成繊維でも良い。繊維によって構成される連結バンド16は曲げ易い。従って、端末部9の外周面90に第一部材1を配置し易い。連結バンド16の一端と他端はそれぞれ、分割片1Aの円弧方向の端部と、分割片1Bの円弧方向の端部とに固定されている。
【0072】
本例の第一部材1は第二部材2が一体に取り付けられている。具体的には、第二部材2のバンド部20の一端が分割片1Bに固定されている。第二部材2のバックル部21のベルトが分割片1Aに固定されている。バンド部20とバックル部21とは独立している。バンド部20をバックル部21に通し、バンド部20の先端を引っ張ることで、分割片1Aと分割片1Bとを外周面90に向かって締め付けることができる。
【0073】
<実施形態3>
実施形態3では、第二部材2の構成が実施形態2と異なる例を図13に基いて説明する。
【0074】
本例の第二部材2は、レバー式の締付具、いわゆるdraw latchである。具体的には、本例の第二部材2は、レバー25と、門型フック26と、カギ型フック27とで構成されている。レバー25は第一回転軸25sを介して分割片1Bに回動自在に支持されている。門型フック26は、第二回転軸26sを介してレバー25に回動自在に支持されている。カギ型フック27は分割片1Aに不動に固定されている。この構成の場合、まず門型フック26をカギ型フック27にひっかける。次いで、レバー25を外方側に回転させる。レバー25の回転に伴い、門型フック26がレバー25の回転方向に引っ張られ、門型フック26によってカギ型フック27が引っ張られる。その結果、第一部材1が端末部9の外周面90に向かって締め付けられる。
【符号の説明】
【0075】
α 牽引治具
β ケーブル
1 第一部材
θ1,θ2 形成角度
1A,1B 分割片
10 スリット
11 第一フランジ、11A,11B 係止部、11Ah,11Bh 貫通孔
12 第二フランジ、12A,12B 係止部、12Ah,12Bh 貫通孔
13 中間部、15 凸部、16 連結バンド
17 係止部、17h 貫通孔
18 係止部、18h 貫通孔
19 内周面
2 第二部材
20 バンド部、21 バックル部
25 レバー、25s 第一回転軸
26 門型フック、26s 第二回転軸、27 カギ型フック
3 第三部材
31 第一バンド、31C 環状部
32 第二バンド、32C 環状部
33 第三バンド
35 係合機構
4 第四部材
4P 板状部材、4U U字金具
40,41,42 張出部、43,431,432 挿通孔
44 環状リブ、45 格子状リブ、46 ナット、49 補強リブ
5 保護カバー
50 シート部、51 タブ部、52 面ファスナー部
6 防水キャップ
7 カナビラ
8 ケーブル本体
80 シース
9 端末部
9S スリーブ、90 外周面、91 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13