(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048303
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】固体電解質部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20230331BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20230331BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230331BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20230331BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01B25/14
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157530
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】清水 翔
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029DJ17
5H029HJ07
5H029HJ13
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を、容易に製造する。
【解決手段】固体電解質部材の製造方法は、硫化物系の固体電解質部材の製造方法であって、固体電解質部材を構成する元素のうちの、少なくとも硫黄以外の元素を含む電解質用原料と、単体硫黄と、を出発原料とし、出発原料の集合物を準備する準備ステップと、出発原料の集合物を加熱して固体電解質部材を生成する生成ステップと、を含む。準備ステップにおいて、出発原料の集合物は、120℃に加熱した際の、集合物全体に対する単体硫黄の体積比率が、20%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系の固体電解質部材の製造方法であって、
前記固体電解質部材を構成する元素のうちの、少なくとも硫黄以外の元素を含む電解質用原料と、単体硫黄と、を出発原料とし、前記出発原料の集合物を準備する準備ステップと、
前記出発原料の集合物を加熱して前記固体電解質部材を生成する生成ステップと、
を含み、
前記準備ステップにおいて、前記出発原料の集合物は、120℃に加熱した際の、前記出発原料の集合物全体に占める前記単体硫黄の体積比率が、20%以上である、
固体電解質部材の製造方法。
【請求項2】
前記出発原料の集合物は、120℃に加熱した際の、前記出発原料の集合物全体に占める前記単体硫黄の体積比率が、40%以上である、請求項1に記載の固体電解質部材の製造方法。
【請求項3】
前記生成ステップにおいては、前記出発原料の集合物を400℃以上1000℃以下の加熱温度で加熱する、請求項1に記載の固体電解質部材の製造方法。
【請求項4】
前記準備ステップにおいては、
準備した前記出発原料の集合物をX線回折法で測定した場合に、
前記単体硫黄と前記電解質用原料とに含まれる結晶性物質に起因する回折ピークが検出できるように、前記単体硫黄と前記電解質用原料とを混合して、前記出発原料の集合物を準備する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の固体電解質部材の製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質部材として、空間群P42/nmcに属するLGPS(Li10GeP2S12)型の結晶構造を持ち、CuKα線を用いたX線回折測定で測定すると、
回折ピークとして以下の式(B1)から式(B6)のピークが検出され、
式(B7)のピークについては、ピークが検出されないか、又は、式(B6)のピークの回折強度をIAとし式(B7)のピークの回折強度をIBとした場合に、IAに対するIBのピーク強度比が50%未満となるような回折強度IBで式(B7)のピークが検出される固体電解質部材を製造する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の固体電解質部材の製造方法。
2θ=17.38°±1.0°・・・(B1)
2θ=20.18°±1.0°・・・(B2)
2θ=20.44°±1.0°・・・(B3)
2θ=23.96°±1.0°・・・(B4)
2θ=26.96°±1.0°・・・(B5)
2θ=29.58°±1.0°・・・(B6)
2θ=27.33°±1.0°・・・(B7)
【請求項6】
前記固体電解質部材として、Argyrodite型の結晶構造を有する固体電解質部材を製造する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の固体電解質部材の製造方法。
【請求項7】
前記固体電解質部材として、LiaMbScで表され、空間群Pnmaの結晶構造を持ち、CuKα線を用いたX線回折法で測定すると、回折ピークとして以下の式(C1)から式(C4)のピークが検出される固体電解質部材を製造する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の固体電解質部材の製造方法。
2θ=17.01±0.50・・・(C1)
2θ=18.50±0.50・・・(C2)
2θ=25.31±0.50・・・(C3)
2θ=26.23±0.50・・・(C4)
ただし、Mは、13族、14族及び15族の少なくとも1種の元素であり、a、b、cは、0より大きい数字である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池の電解質として、イオン伝導度が高く、電解液より安全な、硫化物系の固体電解質が注目されている。硫化物固体電解質の製造方法としては、まず原料の混合物にメカニカルミリングを行ってガラス化あるいは非晶質化させてから、その後に熱処理を行い、固相反応によって硫化物固体電解質を合成するプロセスが一般的に採用されている。特許文献1、2及び、特許文献3の実施例5-13には、原料の混合物にメカニカルミリングを行ってガラス化あるいは非晶質化させてから熱処理することで、硫化物固体電解質を製造する方法が記載されている。
また、特許文献4には、硫化物固体電解質の製造方法として、原料に対して単体硫黄または硫黄化合物を、混合物全体の中で5wt%以上となる比率で混合させ、その混合物を熱処理する製造方法が開示されている。この製造方法によると、熱処理時に硫化水素ガスを使用せずとも、硫化水素ガスを流通させた場合と同等のイオン導電率を実現できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-208919号公報
【特許文献2】特許第5527673号公報
【特許文献3】特許第5888609号公報
【特許文献4】特開2020-27715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1-3に開示されているように、硫化物固体電解質を製造する際には、原料の混合物にメカニカルミリングを行う方法が一般的となっている。メカニカルミリングのメリットは、原料に含まれる元素を原子レベルで混合し、原料混合物全体の化学組成を均一化できる点である。そのため、硫化物固体電解質として硫化物ガラス及びガラスセラミックスを製造する際には必須のプロセスであり、結晶性の硫化物固体電解質を製造する際にも、後の熱処理時において固体電解質の生成を容易にする。しかしメカニカルミリングは、適切に行うために大きなエネルギーと長い時間を必要とし、工業スケールへの大型化も困難であることから、硫化物固体電解質の容易な製造方法を実現できない要因となっている。
また、特許文献4では、硫化物固体電解質を製造する際に、電解質用原料に単体硫黄または硫黄化合物を添加した混合物を焼成する製造方法が開示されているが、本発明とは単体硫黄の添加比率が大きく異なる。請求項2に記載されているような、単体硫黄が原料混合物全体の5wt%という少ない添加比率では、原料混合物を単体硫黄の融点を超える温度に加熱しても、電解質用原料の大部分は融解した液体硫黄と接触できない。そのため、電解質用原料の大部分は、元素拡散が起こりやすく固体電解質の生成が容易な固液反応ではなく、固相反応を経由せざるを得ない。したがって特許文献4に関しては、硫化物固体電解質の生成プロセス、ひいては製造された固体電解質のイオン導電率についても改善の余地がある。
以上により、十分なイオン導電率を有する固体電解質を容易に製造する方法が求められている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を、容易に製造可能な、固体電解質部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る固体電解質部材の製造方法は、硫化物系の固体電解質部材の製造方法であって、前記固体電解質部材を構成する元素のうちの、少なくとも硫黄以外の元素を含む電解質用原料と、単体硫黄と、を出発原料とし、前記出発原料の集合物を準備する準備ステップと、前記出発原料の集合物を加熱して前記固体電解質部材を生成する生成ステップと、を含み、前記準備ステップにおいて、前記出発原料の集合物は、120℃に加熱した際の、前記出発原料の集合物全体に占める前記単体硫黄の体積比率が、20%以上である。
【0007】
前記出発原料の集合物は、120℃に加熱した際の、前記出発原料の集合物全体に占める前記単体硫黄の体積比率が、40%以上であることが好ましい。
【0008】
前記生成ステップにおいては、前記出発原料の集合物を400℃以上1000℃以下の加熱温度で加熱することが好ましい。
【0009】
前記準備ステップにおいては、準備した前記出発原料の集合物をX線回折法で測定した場合に、前記単体硫黄と前記電解質用原料とに含まれる結晶性物質に起因する回折ピークが検出できるように、前記単体硫黄と前記電解質用原料とを混合して、前記出発原料の集合物を準備することが好ましい。
【0010】
前記固体電解質部材として、空間群P42/nmcに属するLGPS(Li10GeP2S12)型の結晶構造を持ち、CuKα線を用いたX線回折測定で測定すると、回折ピークとして以下の式(B1)から式(B6)のピークが検出され、式(B7)のピークについては、ピークが検出されないか、又は、式(B6)のピークの回折強度をIAとし式(B7)のピークの回折強度をIBとした場合に、IAに対するIBのピーク強度比が50%未満となるような回折強度IBで式(B7)のピークが検出される固体電解質部材を製造することが好ましい。
2θ=17.38°±1.0°・・・(B1)
2θ=20.18°±1.0°・・・(B2)
2θ=20.44°±1.0°・・・(B3)
2θ=23.96°±1.0°・・・(B4)
2θ=26.96°±1.0°・・・(B5)
2θ=29.58°±1.0°・・・(B6)
2θ=27.33°±1.0°・・・(B7)
【0011】
前記固体電解質部材として、Argyrodite型の結晶構造を有する固体電解質部材を製造することが好ましい。
【0012】
前記固体電解質部材として、LiaMbScで表され、空間群Pnmaの結晶構造を持ち、CuKα線を用いたX線回折法で測定すると、回折ピークとして以下の式(C1)から式(C4)のピークが検出される固体電解質部材を製造することが好ましい。
2θ=17.01±0.50・・・(C1)
2θ=18.50±0.50・・・(C2)
2θ=25.31±0.50・・・(C3)
2θ=26.23±0.50・・・(C4)
ただし、Mは、13族、14族及び15族の少なくとも1種の元素であり、a、b、cは、0より大きい数字である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を、容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る固体電解質部材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、固体電解質部材を生成する設備の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る固体電解質部材の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態に係る固体電解質部材は、硫化物系の固体電解質である。本実施形態に係る固体電解質部材は、Li、P、及びSを含むリチウムイオン伝導体であって、例えばリチウムイオン二次電池などに用いられる。さらに言えば、本実施形態に係る固体電解質部材は、いわゆるLGPS(Li
10GeP
2S
12)型の結晶構造を有する。具体的には、本実施形態に係る固体電解質部材は、化学式がLi
aM
bP
cS
dで表されるものである。ここで、a、b、c、dは、0より大きい数字である。また、元素Mは、13族、14族及び15族の少なくとも1種の元素である。本実施形態では、元素Mは、Si、Ge、Sn及びSbの少なくとも1種であることが好ましい。本実施形態に係る固体電解質部材は、1種類の元素Mを含むが、複数種類の元素Mを含んでもよい。
このように、本実施形態に係る固体電解質部材は、リチウム、元素M、リン、及び硫黄を含んだ固体電解質であるが、それに限られず、リチウム、元素M、及びリン以外の成分を含んだ硫化物系の固体電解質であってもよい。また、固体電解質部材は、LGPS型の結晶構造を持つものに限られず、Li
aM
bP
cS
dであることにも限られない。固体電解質部材の組成の他の例については、後述する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の製造方法においては、最初に、準備ステップにおいて、固体電解質部材の出発原料Aの集合物を準備する(ステップS10)。
出発原料Aは、固体電解質部材を構成する元素を含んだ各原料であり、ここでの出発原料Aの集合物とは、各原料(各出発原料A)の化学的な変化を伴わずに、各原料の粉末を混合(撹拌)したものを指す。ここでは、各原料が均一に分散するように混合されることが好ましい。つまり、出発原料Aは、1種類の原料を指し、出発原料Aの集合物とは、出発原料Aのそれぞれを混合した集合体を指す。また、出発原料Aの集合物は、固体電解質部材を生成する工程の途中に生成される中間生成物ではなく、固体電解質部材を生成する工程を開始する前の状態の原料の集合体を指す。さらに言えば、ここでの出発原料Aの集合物とは、後述の炉10内に収納する前の状態の原料の集合体を指す。
本製造方法では、電解質用原料と単体硫黄とを、出発原料Aを構成する原料とする。
【0018】
(電解質用原料)
電解質用原料とは、固体電解質部材を構成する元素のうちの、少なくとも硫黄以外の元素を含んだ材料である。すなわち、電解質用原料は、硫黄を含まない非硫化物(不可避的不純物として硫黄が含まれるものを含む)であってもよいし、硫黄を含む硫化物であってもよいが、単体硫黄ではない。より詳しくは、電解質用原料は、固体電解質部材を構成する硫黄以外の元素の単体と、固体電解質部材を構成する硫黄以外の元素同士の化合物と、固体電解質部材を構成する硫黄以外の元素の硫化物との、少なくとも1つであることが好ましい。本実施形態では、固体電解質部材は、不可避的不純物を除き、固体電解質部材を構成する元素以外の元素を含まないことが好ましい。
【0019】
電解質用原料の配合量は、製造する固体電解質部材の組成と、製造する固体電解質部材の質量とから、算出できる。すなわち、電解質用原料は、製造される固体電解質部材が、望んだ組成(ここではLiaMbPcSd)となり、かつ望んだ質量となるような質量比で秤量されて、配合される。
【0020】
本実施形態では固体電解質部材がLiaMbPcSdであるため、電解質用原料は、単体リチウムと、元素Mの単体と、リンの単体と、リチウム、元素M及びリンのうちの少なくとも2つからなる化合物と、リチウム、元素M及びリンのうちの少なくとも1つの元素の硫化物との、少なくとも1つであることが好ましい。なお、元素Mが複数種類ある場合には、それぞれの元素Mの単体を準備してもよいし、元素M同士の化合物若しくは元素M同士の固溶体(Si-Ge固溶体、Si-Sn固溶体、Ge-Sn固溶体など)を準備してもよいし、元素M同士の固溶体の硫化物(すなわちSiGeS4、SiSnS4、GeSnS4などの複硫化物)を準備してもよい。リチウム、元素M及びリンのうちの少なくとも2つからなる化合物としては、リチウムと元素Mとの化合物(例えばLi22Si5、Li17Ge4、Li17Sn4など)、リチウムとリンの化合物(例えばLi3P)、元素Mとリンの化合物(例えばSiP、GeP、Sn3P4など)、及び、リチウムと元素Mとリンの化合物(例えばLi5SiP3、Li5GeP3、Li5SnP3など)、が挙げられる。
【0021】
さらに言えば、本実施形態では、電解質用原料は、リチウムを含むLi原料と、元素Mを含むM原料と、リンを含むP原料とを含んでいるといえる。
【0022】
(Li原料)
Li原料は、非硫化物である場合には、単体リチウム、リチウムと元素Mの化合物、リチウムとリンの化合物、及び、リチウムと元素Mとリンの化合物の、少なくとも1つとなる。Li原料は、硫化物である場合には、リチウムと硫黄の化合物(硫化リチウム)、リチウムと元素Mと硫黄の化合物(例えばLi4SiS4、Li4GeS4、Li4SnS4など)、リチウムとリンと硫黄の化合物(例えばLi3PS4)、及び、リチウムと元素Mとリンと硫黄の化合物の、少なくとも1つとなる。なお、Li原料が、リチウムと他の元素との化合物である場合、Li原料は、他の元素の原料を兼ねることになり、例えばLi原料がリチウムとリンの化合物である場合、リチウムとリンの化合物が、Li原料であってP原料であるということができる。
【0023】
(M原料)
M原料は、非硫化物である場合には、元素Mの単体、リチウムと元素Mとの化合物、元素Mとリンの化合物、及び、リチウムと元素Mとリンの化合物の、少なくとも1つとなる。M原料は、硫化物である場合には、元素Mと硫黄の化合物(例えばSiS、SiS2、GeS、GeS2、SnS、SnS2など。また、元素Mが複数種類ある場合にはSiGeS4、SiSnS4、GeSnS4などの複硫化物)、リチウムと元素Mと硫黄の化合物(例えばLi4SiS4、Li4GeS4、Li4SnS4など)、元素Mとリンと硫黄の化合物、及び、リチウムと元素Mとリンと硫黄の化合物の、少なくとも1つとなる。
【0024】
(P原料)
P原料は、非硫化物である場合には、リンの単体、リチウムとリンの化合物、元素Mとリンの化合物、及び、リチウムと元素Mとリンの化合物の、少なくとも1つとなる。P原料は、硫化物である場合には、リンと硫黄の化合物(硫化リン)、リチウムとリンと硫黄の化合物(例えばLi3PS4)、元素Mとリンと硫黄の化合物、及び、リチウムと元素Mとリンと硫黄の化合物の、少なくとも1つとなる。
【0025】
なお、本製造方法においては、化学組成が異なる複数種類の電解質用原料を準備してもよいし、1種類の電解質用原料を準備してもよい。また、電解質用材料は、粒子状(粉体状)であることが好ましい。
【0026】
(単体硫黄)
単体硫黄は、不可避的不純物を除き硫黄以外の元素が含まれない硫黄を指す。本実施形態の他の記載においても、特に断りがない限り、各原料には、不可避的不純物が含まれていてよい。また、添加する単体硫黄は、α硫黄(斜方硫黄)、β硫黄(単斜硫黄)、γ硫黄(単斜硫黄)、その他の硫黄同素体のいずれであってもよい。
【0027】
準備ステップにおいては、出発原料Aとして添加する単体硫黄の量を、固体電解質部材(本実施形態ではLiaMbPcSd)を生成するために必要十分な単体硫黄の量よりも、すなわち化学量論比の単体硫黄の量よりも、多くする。具体的には、出発原料Aの集合物を120℃に加熱した際の、出発原料Aの集合物に占める単体硫黄の体積比率を、添加体積比率とする。すなわち、添加体積比率とは、単体硫黄が融解する120℃の環境下での、出発原料Aの集合物全体の体積に対する、120℃の環境下での、出発原料Aの集合物に含まれる単体硫黄全体の体積の比率を指す。この場合、本製造方法においては、添加体積比率が20%以上となるように、電解質用原料に単体硫黄を添加して集合物を準備する。また、本製造方法においては、添加体積比率を40%以上とすることが好ましく、添加体積比率を55%以上とすることがより好ましい。添加体積比率をこの範囲とすることで、融解した液体硫黄が、固体粉末状の電解質用原料全体にくまなく染み渡り、十分に接触することができる。これにより、電解質用原料の元素拡散と化学反応が固液反応によって促進され、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を容易に製造できる。さらにいえば、LGPS型結晶構造の固体電解質部材を製造する際に、添加体積比率を上記の範囲とすることで、固体電解質部材の生成や結晶成長を促すとともに、硫黄欠損や副生成物(異相あるいは不純物相)の生成を抑制して、固体電解質部材のイオン導電率の低下を適切に抑制できる。
【0028】
また、準備ステップにおいては、添加体積比率を80%以下とすることが好ましく、添加体積比率を70%以下とすることがより好ましく、添加体積比率を60%以下とすることがさらに好ましい。添加体積比率をこの範囲とすることで、ガス化した硫黄による装置配管などの閉塞リスクが抑制されて、固体電解質部材を適切に製造できる。
【0029】
なお、添加体積比率は、出発原料Aとして配合された電解質用原料の質量及び密度と、出発原料Aとして添加された単体硫黄の質量及び密度とから、算出できる。すなわち、配合する電解質用原料の質量と密度とから、単体硫黄が融解する120℃における電解質用原料の体積を算出し、添加する単体硫黄の質量と密度とから、120℃における単体硫黄の体積を算出し、算出した単体硫黄の体積を、電解質用原料の体積と単体硫黄の体積の和で除して百分率で表した値を添加体積比率とする。また、言い換えれば、単体硫黄の添加量は、次のように算出できる。まずは、製造したい固体電解質部材の質量から、電解質用原料の必要な質量を算出し、電解質用原料の必要な質量と、電解質用原料の密度とから、120℃における電解質用原料の体積を算出する。そして、120℃における電解質用原料の体積と、目標とする添加体積比率とから、120℃における単体硫黄の必要な体積を算出する。そして、120℃における単体硫黄の必要な体積と、単体硫黄の密度とから、単体硫黄の添加量(添加する単体硫黄の質量)を、算出する。
【0030】
(混合方法)
次に、各原料の混合方法について説明する。準備ステップにおいては、電解質用原料を上述の質量比となるように秤量し、単体硫黄を上述の添加体積比率となるように秤量する。そして、それらの電解質用原料及び単体硫黄を出発原料Aとして、出発原料Aの各原料を混合して出発原料Aの集合物とする。混合に用いる装置や道具への制限は特になく、一般的なミキサー、ブレンダー、ボールミル、ビーズミル、乳鉢などで混合すれば良い。
本実施形態においては、電解質用原料と単体硫黄とを、露点温度と酸素濃度が低いアルゴン雰囲気のグローブボックス内で秤量して混合するが、それに限られず、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気中で混合してもよい。また、本実施形態においては、混合した電解質用原料と単体硫黄は粒子状(粉体状)のまま熱処理するが、ペレット状、あるいはペレット以外の形状に成型しても良い。
【0031】
準備ステップにおいては、出発原料Aとして秤量した各原料(電解質用原料と単体硫黄)を混合して、出発原料Aの集合物とする。各原料を混合する際は、メカニカルミリングを行って原料全体を非晶質化あるいはガラス化させ、原料全体の化学組成を原子レベルで均一化しても良い。メカニカルミリングを行った場合に、出発原料Aの集合物のX線回折パターンを測定すると、出発原料Aを構成する電解質用原料と単体硫黄とに含まれない結晶性物質に起因する回折ピークが検出されることがある。
しかし本製造方法では、固液反応が電解質用原料の元素拡散と化学反応を促進できるため、必ずしもメカニカルミリングを行わなくても、十分なイオン導電率を有する固体電解質を製造できる。したがって、大きなエネルギーと長時間を要するメカニカルミリングを行わずに、各原料が機械的、化学的変化を伴わずに均一に分散する程度の混合に留める方が、経済合理的には好ましい。この場合に出発原料Aの集合物のX線回折パターンを測定すると、出発原料Aを構成する電解質用原料と単体硫黄とに含まれる結晶性物質に起因する回折ピークが検出され、かつ、それ以外の結晶に起因する回折ピークが検出されないため、このようなX線回折パターンが、出発原料Aの集合物のX線回折の測定結果として好ましいといえる。
【0032】
準備ステップでは、各原料の混合条件を、例えば、混合時間を10分間以下とし、せん断方向に印加される単位面積当たりの荷重の上限を0.1N/mm2以下とすると、混合工程におけるエネルギー消費を抑制でき、経済合理的に好ましい。この場合に、例えば、電解質用原料としてLi2S、金属Ge(単体Ge)、単体Pを使用した場合には、電解質用原料と単体硫黄の混合物である、出発原料Aの集合物を、CuKα線を用いたX線回折法で測定すると、回折ピークとして少なくとも以下の式(A1)から式(A6)のピークが検出される。なお、ここでの回折ピークとは、強度が閾値以上のピークを指し、ここでの閾値は、例えば測定結果の最大ピーク強度を100とした場合の相対強度5である。
【0033】
2θ=23.06±0.50・・・(A1)
2θ=27.00±0.50・・・(A2)
2θ=27.28±0.50・・・(A3)
2θ=27.71±0.50・・・(A4)
2θ=44.81±0.50・・・(A5)
2θ=45.31±0.50・・・(A6)
【0034】
図1に示すように、準備ステップで出発原料Aの集合物を準備したら、出発原料Aの集合物を加熱して、固体電解質部材を生成する、生成ステップを実行する(ステップS12)。すなわち、生成ステップの前においては、出発原料Aに含まれている電解質用原料及び単体硫黄同士は、化学反応によって互いに結合していないが、生成ステップにおいて、化学反応によって結合し、化学式がLi
aM
bP
cS
dで表される固体電解質部材が生成される。単体硫黄は電解質用原料よりも融点が低いため、生成ステップにおいて単体硫黄の融点以上に加熱された段階で、単体硫黄が融解し、融解した液体硫黄と、固体である電解質用原料とが共存した状態となる。ここで、単体硫黄は、混合物全体に占める添加体積比率が20%以上となるような配合比で添加されているため、固体である電解質用原料と接触できる液体硫黄の量が多くなる。したがって、液体硫黄が、固体粉末である電解質用原料全体にくまなく染み渡り(言い換えれば、固体である電解質用原料全体を液体硫黄に浸し)、電解質用原料の全てが液体硫黄と接触できるため、固液反応により電解質用原料の元素拡散や化学反応が促進されて、固体電解質部材を適切に生成できる。
また、本製造方法では化学量論比を超えた過剰の単体硫黄を添加するが、固体電解質の生成後に余剰となった分の単体硫黄は、硫黄の沸点に近い温度(例えば400℃以上)に加熱された段階で蒸発し、固体電解質から系外へと自動的に除去される。そのため、単体硫黄が残留して固体電解質のイオン伝導を阻害する恐れもなく、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を容易に製造できる。
【0035】
(生成ステップにおける加熱条件)
具体的には、生成ステップにおいては、出発原料Aの集合物を温度T1まで加熱して、温度T1で所定の保持時間保持することで、固体電解質部材を生成する。
温度T1は、400℃以上1000℃以下であることが好ましく、450℃以上650℃以下であることがより好ましく、500℃以上600℃以下であることが更に好ましい。温度T1をこの数値範囲とすることで、出発原料Aの集合物と、生成した固体電解質部材に以下のような適切な熱履歴を与えることができる。出発原料Aの集合物は、温度T1に達する前に、単体硫黄の融点以上かつ沸点以下(例えば120℃以上400℃以下)の熱履歴を与えられるため、高温の液体硫黄と電解質用原料の接触が誘起され、固体電解質部材の生成が促進される。加えて、生成した固体電解質部材は、単体硫黄の沸点に近い温度(少なくとも400℃以上)の熱履歴を与えられるため、余剰分の単体硫黄が蒸発によって固体電解質から除去される。以上により、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を容易に生成できる。
また、温度T1での保持時間は、30分以上72時間以下であることが好ましく、1時間以上24時間以下であることがより好ましく、1時間以上12時間以下であることが更に好ましい。保持時間をこの数値範囲とすることで、各原料を適切に反応させるとともに、温度T1が硫黄の沸点である444.6℃より低い場合においても、固体電解質部材の化学量論比を超える余剰分の単体硫黄を、緩やかに蒸発させて取り除くことができ、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を適切に生成できる。
また、温度T1への昇温速度は、0.5℃/分以上20℃/分以下であることが好ましく、3℃/分以上15℃以下であることがより好ましく、5℃/分以上10℃以下であることが更に好ましい。昇温速度がこの範囲となることで、単体硫黄の急激な蒸発を防ぎつつ、電解質用原料を速やかに温度T1まで昇温することができるため、温度T1において、高温の液体硫黄が固体である電解質用原料に接触する時間が十分に確保される。これにより、固体電解質の生成反応を促進させることができ、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を容易に製造できる。
【0036】
図2は、固体電解質部材を生成する設備の模式図である。
図2に示すように、炉10は、出発原料Aを加熱して固体電解質部材を生成するための炉である。炉10の炉材への制限は特にないが、経済合理的には、単体硫黄の蒸気に触れても腐食しない材料(例えばセラミックスや、表面に溶融アルミニウムめっき処理を施した金属など)を炉材に用いることが好ましい。炉10は、加熱部12が設けられている。加熱部12は、炉10内を加熱する熱源である。なお、
図2の構造は一例であり、固体電解質部材を生成する設備は、
図2の構造に限られず、マッフル炉やレトルト炉だけでなく管状炉でも良い。あるいは熱源が炉材に覆われていない電気炉でも良いし、出発原料Aの集合物を焼成容器に入れずに直接ロータリーキルンに投入して固体電解質部材を生成しても良い。
【0037】
生成ステップにおいては、所定のガス雰囲気中で、炉10内に出発原料Aを焼成容器に入れて収納し、所定のガスを供給しながら加熱部12で加熱して温度T1に到達させ、温度T1のまま所定の保持時間、保持する。出発原料Aの集合物を入れる容器の材質への制限は特にないが、経済合理的には、容器の表面が、単体硫黄の蒸気や、融解した液体硫黄と触れても腐食しない材料(例えばアルミナ、ジルコニア、カーボン、シリコンカーバイドなどのセラミックス製の焼成容器(例えば匣鉢、るつぼなど)を用いることが好ましい。また、出発原料Aの集合物を入れる容器には、蓋付きおよび蓋無しの容器のどちらを用いても良いが、単体硫黄の蒸発を緩やかに抑えることができる蓋付きの容器が好ましい。加えて、固体電解質の生成後に余剰となった分の単体硫黄を蒸発させて系外へ除去するために、蓋が密閉されておらず容器内のガスを外に逃がすことが出来る容器が好ましい。なお、炉10内に供給されるガスは、アルゴンなどの不活性ガス(希ガス)であってもよいし、硫化水素であってもよい。例えば100mL/minでアルゴンをフローしながら加熱してもよい。
出発原料A中の単体硫黄は、温度T1に到達するまでに融解し、融解した液体硫黄と他の原料との固液反応により、固体電解質部材が生成される。
【0038】
このように、本製造方法では、出発原料Aの集合物を炉10内に収納したら、出発原料Aを炉10内から取り出すことなく、固体電解質部材を生成させる。言い換えれば、本製造方法では、出発原料Aから生成されたLi、元素M、及びPの硫化物(中間生成物)を炉10から外部に取り出さずに、炉10内に保持したまま固体電解質部材を生成する。すなわち、出発原料Aから生成されたLi、元素M、及びPの硫化物(中間生成物)は、所定のガス雰囲気中の炉10内で保持されたまま、大気に晒されずに反応して固体電解質部材となる。
【0039】
なお、本実施形態では、生成ステップにおいて、温度T1での一段階の加熱しか行わなかったが、複数段階での加熱を行ってもよい。この場合例えば、温度T1で加熱する前に、温度T2で所定時間加熱して、単体硫黄を融解させるための工程を実行してもよい。温度T2で加熱する工程を設けることで、融解した液体硫黄が電解質用原料全体にくまなく染み渡った状態で温度T1での焼成を行うことが可能となり、固体電解質部材を適切に生成できる。ここでの温度T2は、単体硫黄の融点より高く、温度T1より低い温度であり、例えば120℃以上400℃以下である。
【0040】
また、以上のような方法で製造された固体電解質部材は、空間群P42/nmcに属する結晶構造を持ち、CuKα線を用いたX線回折法で測定した場合に、以下の式(B1)から式(B6)の回折ピークが検出されることが好ましい。また、本実施形態に係る固体電解質部材は、CuKα線を用いたX線回折法で測定した場合、回折ピークとして式(B7)のピークが検出されないか、検出されたとしても、式(B6)のピークの回折強度をIAとし式(B7)のピークの回折強度をIBとした場合に、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)が50%未満であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。すなわち、本実施形態に係る固体電解質部材は、いわゆるLGPS型の結晶構造を有する、LiaMbPcSd(より好ましくはLi10.35Ge1.35P1.65S12)であることが好ましい。なお、回折強度とは、X線回折法で測定された波形のピーク高さを指す。
【0041】
2θ=17.38°±1.0°・・・(B1)
2θ=20.18°±1.0°・・・(B2)
2θ=20.44°±1.0°・・・(B3)
2θ=23.96°±1.0°・・・(B4)
2θ=26.96°±1.0°・・・(B5)
2θ=29.58°±1.0°・・・(B6)
2θ=27.33°±1.0°・・・(B7)
【0042】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る固体電解質部材の製造方法は、硫化物系の固体電解質部材の製造方法であって、準備ステップと生成ステップとを含む。準備ステップにおいては、固体電解質部材を構成する元素のうちの、少なくとも硫黄以外の元素を含む電解質用原料と、単体硫黄とを出発原料Aとし、出発原料Aの集合物を準備する。生成ステップにおいては、出発原料Aの集合物を加熱して固体電解質部材を生成する。また、準備ステップにおいて、出発原料Aの集合物は、出発原料Aの集合物全体に占める単体硫黄の体積比率(添加体積比率)が、単体硫黄が融解する120℃の環境下において、20%以上である。
【0043】
通常、固体電解質部材を製造する際には、十分なイオン導電率を得るために、原料同士をメカニカルミリングで混合する。これによって含有元素を原子レベルで混合し、原料混合物全体の化学組成を均一化することで、後の熱処理時における固体電解質の生成反応を容易にする。しかし、メカニカルミリングを適切に行うには、大きなエネルギーや時間を必要とし、工業スケールへの大型化も困難である。それに対し、本実施形態に係る製造方法では、120℃における添加体積比率が20%以上となるように、単体硫黄を添加する。このように、化学量論比を超える過剰な単体硫黄を添加し、単体硫黄の体積比率を高めることで、融解した液体硫黄が固体である電解質用原料全体にくまなく染み渡り、電解質用原料の全てを液体硫黄と接触させることが可能となる。これにより、電解質用原料の元素拡散と化学反応が固液反応によって促進されることで、固体電解質部材の生成や結晶成長を促すとともに、硫化物固体電解質合成時に生じる硫黄欠損や副生成物(異相あるいは不純物相)が低減され、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材の製造が可能となる。固体である電解質用原料どうしの固相反応や、硫化水素ガスと電解質用原料の気固反応に比べて反応性が高い固液反応を利用するため、硫黄との反応性が高くない原料(例えば、単体Si、単体Geなど)を用いる際には、本製造方法は特に有効である。また、メカニカルミリングも不要となるため、大量生産に適したプロセスによって、十分なイオン導電率を有する固体電解質部材を容易に製造することが可能となる。
【0044】
また、出発原料Aの集合物は、単体硫黄の添加体積比率が40%以上であることが好ましい。添加体積比率をこの範囲とすることで、融解した液体硫黄と、固体である電解質用原料の固液反応をさらに促進して、十分なイオン導電率の固体電解質部材を容易に製造することが可能となる。
【0045】
また、生成ステップにおいては、出発原料Aを400℃以上1000℃以下の加熱温度で加熱することが好ましい。この温度範囲で出発原料Aを加熱することで、固体電解質部材を適切に製造することができる。
【0046】
また、準備ステップにおいては、準備した出発原料Aの集合物をX線回折法で測定した場合に、出発原料Aを構成する電解質用原料と単体硫黄とに含まれる結晶性物質に起因する回折ピークが検出できるように、電解質用原料と単体硫黄とを混合して、出発原料Aの集合物を準備することが好ましい。本製造方法によると、固液反応で固体電解質部材を製造するため、原料中に結晶性物質が残る程度の混合でも適切に固体電解質部材を製造できる。そのため、本製造方法によると、混合工程を簡略化して、短時間で多くの固体電解質部材を製造することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態では、LGPS型の結晶構造を有する固体電解質部材を製造することが好ましい。高いイオン伝導性を有するLGPS型であることで、リチウムイオン二次電池などに好適に用いることができる。また、LGPS型の固体電解質部材を製造する際に、添加体積比率を上記の範囲とすることで、固体電解質部材の生成や結晶成長を促すとともに、硫黄欠損や副生成物(異相あるいは不純物相)の生成を抑制して、固体電解質部材のイオン導電率の低下を抑制できる。
【0048】
(他の例)
以上の説明では、化学式がLiaMbPcSdで表される固体電解質部材を製造するものであったが、製造する固体電解質部材の組成はそれに限られない。以下、固体電解質部材の他の実施形態を説明する。
【0049】
(第2実施形態)
第2実施形態で説明するように、固体電解質部材は、化学式がLiaMbPcSdHaeで表されるものであってもよい。ここで、a、b、c、d、eは、0より大きい数字である。また、元素Haは、ハロゲン元素であり、より好ましくは、F、Cl、Br、及びIの少なくとも1種の元素である。
【0050】
第2実施形態の固体電解質部材は、CuKα線を用いたX線回折法で測定した場合、以下の式(B6)の位置にピークが検出されることが好ましい。
【0051】
2θ=29.58°±1.0°・・・(B6)
【0052】
また、第2実施形態の固体電解質部材は、CuKα線を用いたX線回折法で測定した場合に、以下の式(B7)の位置にピークが検出されてもよいし、されなくてもよい。すなわち、第2実施形態では、式(B7)の位置にピークが検出される固体電解質部材を製造してもよいし、式(B7)の位置にピークが検出されない固体電解質部材を製造してもよい。
【0053】
2θ=27.33°±1.0°・・・(B7)
【0054】
ここで、第2実施形態の固体電解質部材の、CuKα線を用いたX線回折測定における式(B6)の位置のピークの回折強度をIAとし、CuKα線を用いたX線回折測定における式(B7)の位置の回折強度をIBとした際に、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)が、50%未満であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0055】
(第3実施形態)
第3実施形態で説明するように、固体電解質部材は、化学式がLiaMbPcXdSeHafで表されるものである。ここで、a、b、c、d、e、fは、0より大きい数字である。
元素Haは、ハロゲン元素であり、より好ましくは、F、Cl、Br、及びIの少なくとも1種の元素である。
元素Xは、S以外の16族の元素であり、より好ましくは、O、Se、Teの少なくとも1種の元素である。
【0056】
第3実施形態の固体電解質部材は、第2実施形態の固体電解質部材と同様に、式(B6)の位置にピークが検出されることが好ましい。また、第3実施形態で製造される固体電解質部材は、第2実施形態の固体電解質部材と同様に、式(B7)の位置にピークが検出されてもよいし、されなくてもよい。第3実施形態の固体電解質部材は、第2実施形態の固体電解質部材と同様に、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)が、50%未満であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0057】
なお、第3実施形態においては、本実施形態の固体電解質部材に対して、元素Haと元素Xが導入されたものであったが、元素Haが導入されずに元素Xが導入されるものであってもよい。すなわち、固体電解質部材は、LiaMbPcXdSeで表されるものであってもよい。この場合、a、b、c、d、eは、0より大きい数字である。
【0058】
(第4実施形態)
第4実施形態の固体電解質部材は、Argyrodite型の結晶構造を有する。第4実施形態の固体電解質部材は、化学式がLiaPbScHadで表されるものである。ここで、a、b、c、dは、0より大きい数字である。なお、Argyrodite型結晶構造とは、例えば、化学式Ag8GeS6で表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。
元素Haは、ハロゲン元素であり、より好ましくは、F、Cl、Br、及びIの少なくとも1種の元素である。
【0059】
(第5実施形態)
第5実施形態の固体電解質部材は、Argyrodite型の結晶構造を有する。第5実施形態の固体電解質部材は、化学式がLiaPbXcSdHaeで表されるものである。ここで、a、b、c、d、eは、0より大きい数字である。
元素Haは、ハロゲン元素であり、より好ましくは、F、Cl、Br、及びIの少なくとも1種の元素である。
元素Xは、S以外の16族の元素であり、より好ましくは、O、Se、Teの少なくとも1種の元素である。
【0060】
(第6実施形態)
第6実施形態の固体電解質部材は、化学式がLiaMbScで表されるものであり、a、b、cは、0より大きい数字である。ここで元素Mは、13族、14族及び15族の少なくとも1種の元素であることが好ましく、Si、Ge、As、Sn及びSbの少なくとも1種であることがより好ましい。また、元素Mの一部をPやWで置換しても良い。第6実施形態の固体電解質部材は、CuKα線を用いたX線回折法で測定した場合、以下の式(C1)から式(C4)の位置にピークが検出されることが好ましい。
【0061】
2θ=17.01±0.50・・・(C1)
2θ=18.50±0.50・・・(C2)
2θ=25.31±0.50・・・(C3)
2θ=26.23±0.50・・・(C4)
【0062】
第6実施形態においては、本実施形態の固体電解質部材に対して、Pを除いたものであったが、それに対して元素Xが導入されるものであってもよい。すなわち、固体電解質部材は、LiaMbXcSdで表されるものであってもよい。この場合、a、b、c、dは、0より大きい数字であり、元素Xは、S以外の16族の元素であり、より好ましくは、O、Se、Teの少なくとも1種の元素である。
【実施例0063】
以下、実施例と比較例を示しながら、本発明について詳しく説明する。実施例、比較例ともに、各例において出発原料Aの種類を変えて固体電解質部材を合成した。合成した固体電解質部材はアルゴン雰囲気のグローブボックス内で取り出し、メノウ乳鉢で粉砕した後に、CuKα線を用いたX線回折測定(XRD測定)によって結晶構造を確認した。その後、固体電解質部材の性能としてイオン導電率を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0064】
<XRD測定>
XRD測定は、Bruker社製のXRD装置「D8 ADVANCE」を用いて、10°≦2θ≦55°の範囲で、ステップ幅0.01°、積算時間1.2秒/ステップの条件でθ-2θ測定を行った。測定試料はアルゴン雰囲気のグローブボックス内で準備し、メノウ乳鉢で粉砕した固体電解質部材を、密閉可能な測定セルに封入して、大気に暴露しない状態を保ちながら粉末X線回折測定を行った。
【0065】
<実施例1>
実施例1では、Li原料として硫化リチウム(Li2S)を用い、M原料として硫化ゲルマニウム(GeS2)を用い、P原料として五硫化二リン(P2S5)を用いた。アルゴン雰囲気で露点が-70℃以下、酸素濃度が10ppm以下のグローブボックス内で、電解質用原料である硫化リチウムと、硫化ゲルマニウムと、五硫化二リンとを、所望の組成となるように秤量し、単体硫黄を、120℃における添加体積比率が20%となるように秤量し、各電解質用原料と単体硫黄を色が均一となる程度にメノウ乳鉢で5分混合して、出発原料の集合物を生成した。ここでは、硫化リチウムを3.93g、硫化ゲルマニウムを3.05g、五硫化二リンを3.03g、単体硫黄を2.18g混合した。そして、出発原料の集合物を炉内に設置し、アルゴン雰囲気で炉内を5℃/minで550℃まで加熱し、550℃で6時間保持した。その後、2℃/minで室温まで冷却して、固体電解質部材を得た。実施例1の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定において式(B1)から式(B6)の回折ピークを示したため、LGPS型の結晶構造であることが確認され、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)は0.50%であった。
【0066】
<実施例2>
実施例2においては、単体硫黄の添加体積比率を30%に変更し、出発原料として単体硫黄を3.74g混合したこと以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。実施例2の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定において式(B1)から式(B6)の回折ピークを示したため、LGPS型の結晶構造であることが確認され、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)は0.41%であった。
【0067】
<比較例1~3>
比較例1においては、単体硫黄の添加体積比率を0%に変更、つまり、単体硫黄を添加しなかったこと以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。比較例2、3においては、単体硫黄の添加体積比率をそれぞれ6%、10%とした点以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。比較例1~3の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定において式(B1)から式(B6)の回折ピークを示したため、すべてLGPS型の結晶構造であることが確認され、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)はそれぞれ、比較例1では4.7%、比較例2では1.9%、比較例3では1.1%であった。
【0068】
<実施例3~5>
実施例3、4、5においては、電解質用原料の種類と配合量を表1に示すように変更し、単体硫黄の添加体積比率をそれぞれ20%、40%、55%とした点以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。実施例3~5の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定において式(B1)から式(B6)の回折ピークを示したため、すべてLGPS型の結晶構造を有することが確認され、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)はそれぞれ、実施例3では39%、実施例4では0.37%、実施例5では0.11%であった。
【0069】
<比較例4>
比較例4においては、単体硫黄の添加体積比率を10%とした点以外は、すべて実施例3と同様にして、固体電解質部材を得た。比較例4の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定において式(B1)から式(B6)の回折ピークを示したため、LGPS型の結晶構造を有することが確認され、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)は150%であった。
【0070】
<実施例6>
実施例6においては、電解質用原料の種類と配合量を表1に示すように変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。実施例6の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定において式(B1)から式(B6)の回折ピークを示したため、LGPS型の結晶構造であることが確認され、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)は0.45%であった。
【0071】
<比較例5>
比較例5においては、単体硫黄の添加体積比率を10%とした点以外は、すべて実施例6と同様にして、固体電解質部材を得た。比較例5の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定において式(B1)から式(B6)の回折ピークを示したため、LGPS型の結晶構造であることが確認され、IB/IA(IAに対するIBのピーク強度比)は1.6%であった。
【0072】
<実施例7>
実施例7においては、電解質用原料の種類と配合量を表1に示すように変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。実施例7の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定によって、Argyrodite型の結晶構造を有することが確認された。
【0073】
<比較例6、7>
比較例6、7においては、単体硫黄の添加体積比率をそれぞれ6%、10%とした点以外は、すべて実施例7と同様にして、固体電解質部材を得た。比較例6、7の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定によって、Argyrodite型の結晶構造を有することが確認された。
【0074】
<実施例8、9>
実施例8、9においては、電解質用原料の種類と配合量を表1に示すように変更し、単体硫黄の添加体積比率をそれぞれ20%、40%とした点以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。実施例8、9の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定によって、Argyrodite型の結晶構造を有することが確認された。
【0075】
<比較例8>
比較例8においては、単体硫黄の添加体積比率を10%とした点以外は、すべて実施例8と同様にして、固体電解質部材を得た。比較例8の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定によって、Argyrodite型の結晶構造を有することが確認された。
【0076】
<実施例10>
実施例10においては、電解質用原料の種類と配合量を表1に示すように変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして、固体電解質部材を得た。実施例10の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定によって、式(C1)から式(C4)の位置に回折ピークが検出される結晶構造を有することが確認された。
【0077】
<比較例9>
比較例9においては、単体硫黄の添加体積比率を10%とした点以外は、すべて実施例10と同様にして、固体電解質部材を得た。比較例9の固体電解質部材は、CuKα線を用いたXRD測定によって、式(C1)から式(C4)の位置に回折ピークが検出される結晶構造を有することが確認された。
【0078】
<イオン導電率測定>
以上のようにして得られた固体電解質部材のそれぞれを、アルゴン雰囲気中のグローブボックス内で取り出した後、メノウ乳鉢で粉砕し、0.3gを秤量して、ステンレス製のイオン導電率測定セル(内径17mmの円筒型)に充填した。その後、Biologic社製の測定装置「ポテンショ/ガルバノスタットSP-300」を用いて、測定温度25℃、測定周波数1Hz~1MHz、測定セルへの印加圧力360MPaの条件の下で、交流インピーダンス法により、イオン導電率(mS/cm)を測定した。それらの測定結果を、表1に示す。
【0079】
【0080】
表1において、実施例1~2に対して比較例1~3、実施例3~5に対して比較例4、実施例6に対して比較例5、実施例7に対して比較例6~7、実施例8~9に対して比較例8、実施例10に対して比較例9のように、それぞれ同じ種類の固体電解質材料同士でイオン導電率を比較すると、全ての場合において、実施例のイオン導電率が比較例のイオン導電率を上回っている。さらに、多くの場合において、実施例のイオン導電率は比較例のイオン導電率の2倍以上の値を示しており、例外である実施例1と比較例3(実施例1のイオン導電率は比較例3のイオン導電率の約1.98倍)、および実施例7と比較例7(実施例7のイオン導電率は比較例7のイオン導電率の約1.88倍)についても、実施例と比較例のイオン導電率の差は大きい。これにより、実施例1~10のように体積比率で20%以上の単体硫黄を過剰に加えるという本製造方法が、例えば比較例1~9のように単体硫黄の体積比率が20%より低い製造方法と比べて、硫化物系固体電解質のイオン導電率の向上に有効であることが示された。特に、実施例1~2、4~7、9のイオン導電率は8mS/cm以上となり、十分なイオン導電率を有する固体電解質を製造できることが明らかになった。
また、実施例3に対して実施例4及び5、あるいは実施例8に対して実施例9を比較すると、体積比率で40%以上の単体硫黄を添加することで、体積比率20%の単体硫黄添加時と比べて、硫化物系固体電解質のイオン導電率をより向上できていることが分かる。
以上の通り、実施例1~10で例示したように、体積比率で20%以上の単体硫黄を過剰に加えることで、メカニカルミリングが不要となり、十分なイオン導電率を有する固体電解質を容易に製造することが可能となる。本製造方法においては、化学量論比を超えた過剰の単体硫黄を添加するが、固体電解質の生成後に余剰となった分の単体硫黄は、硫黄の沸点に近い温度(例えば400℃以上)に加熱された段階で蒸発し、固体電解質から系外へと自動的に除去される。そのため、添加された単体硫黄は熱処理後には残留せず、固体電解質のイオン伝導を阻害する恐れもない。このような、単体硫黄の添加という簡便でシンプルな手法によってイオン導電率が2倍程度に向上し、8mS/cm以上という十分なイオン導電率の固体電解質が容易に得られるため、本製造方法は、メカニカルミリングを用いる既存の製造方法と比較して、製造上の利点が大きい。
【0081】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。