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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048312
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20230331BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230331BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20230331BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/14
B29C70/10
B29C70/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157549
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390014029
【氏名又は名称】株式会社八木熊
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(74)【代理人】
【識別番号】100224742
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
(72)【発明者】
【氏名】八木 康博
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬洋
(72)【発明者】
【氏名】中野 結
(72)【発明者】
【氏名】畠山 広大
(72)【発明者】
【氏名】牧野 晴司
【テーマコード(参考)】
4F205
4F206
【Fターム(参考)】
4F205AA29
4F205AC03
4F205AD08
4F205AD16
4F205AD20
4F205AG03
4F205AG06
4F205AR15
4F205HA12
4F205HA14
4F205HA27
4F205HA34
4F205HA35
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB12
4F205HC06
4F205HF05
4F206AA28
4F206AA29
4F206AA32
4F206AA34
4F206AB11
4F206AC03
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD16
4F206AD19
4F206AD20
4F206AG03
4F206JA07
4F206JB13
4F206JB22
4F206JF05
4F206JF06
4F206JL02
4F206JN25
(57)【要約】
【課題】形状変化が大きな形状を有する立体的な成形体であっても、強化繊維を基材の表面に積層一体化して機械的性質と軽量化を両立した繊維強化樹脂成形体を提供すること、及び当該繊維強化樹脂成形体を安定して効率よく製造する製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂23が強化繊維22に含浸されてなるチョップドプリプレグシート材2と熱可塑性樹脂からなる基材1とが積層一体に成形された立体的な繊維強化樹脂成形体100において、前記基材1の熱可塑性樹脂が溶融固化することで前記チョップドプリプレグシート材2と積層一体に成形された構成とした。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂が強化繊維に含浸されてなる繊維強化樹脂シートと熱可塑性樹脂からなる基材とが積層一体に成形された立体的な繊維強化樹脂成形体において、
前記基材の熱可塑性樹脂が溶融固化することで前記繊維強化樹脂シートと積層一体に成形されていることを特徴とする、繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂シートは前記強化繊維と前記マトリックス樹脂とが未含浸部分を含んで構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂シートの表面の少なくとも一方には熱可塑性樹脂からなる樹脂層が積層されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】
前記繊維強化樹脂シートは強化繊維が単一の方向に引き揃えられたUDシート材または前記UDシート材が短冊状に切断されたチョップドプリプレグを強化繊維の方向が擬似等方性を有するように複数積層してなるチョップドプリプレグシート材であることを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂シートは熱可塑性樹脂フィルムと薄層開繊された強化繊維とからなるチョップドプリプレグシート材であり、
前記チョップドプリプレグシート材における強化繊維の体積含有率Vfは20%以上80%以下であり、
前記チョップドプリプレグシート材の厚さは40um以上3000um以下であることを特徴とする、請求項4に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の立体的な繊維強化樹脂成形体の製造方法において、
前記強化繊維と前記マトリックス樹脂とで構成される繊維強化樹脂シートを予め平面的に張った状態で金型を閉め、
基材となる熱可塑性樹脂を前記金型内に射出するとともに前記繊維強化樹脂シートを賦形させて前記基材と積層一体に成形することを特徴とする、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5の何れか1項に記載の立体的な繊維強化樹脂成形体の製造方法において、
前記強化繊維と前記マトリックス樹脂とで構成される繊維強化樹脂シートを予め立体的に成形してインサート部材とし、
射出成形用の金型に前記インサート部材を挿入し、
基材となる熱可塑性樹脂の射出によって前記繊維強化樹脂シートと前記基材とを積層一体に成形することを特徴とする、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の射出成形で製造される背の高いリブや深い窪み等の形状変化が大きな形状を有する成形体において、強化繊維と基材とを積層一体化して強度と軽量化を両立した繊維強化樹脂成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂の射出成形技術は複雑な形状の成形体であっても一定の品質の成形体を短時間で製造できることから量産性が高く、広く普及した製造技術となっている。また、熱可塑性樹脂の開発が進んだことで、軽量である樹脂の特性を活かしつつ金属に匹敵する強度を備えた樹脂が増えている。
しかし、それら特殊なエンジニアリングプラスチックは高価であることから一般に普及しているとまではいえず、主に射出成形に用いられる樹脂は一般的なエンジニアリングプラスチックに留まっているのが現状である。
【0003】
そこで、一般的な樹脂であっても機械的な強度、特に引張り強さを向上させることを目的として、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維をフィラーとして樹脂に混合して射出成形する技術が普及している。このようにして成形される繊維強化樹脂は基材となる樹脂がもつ軽量であるという特性を活かすとともに混合した短繊維の強化繊維がもつ高い引張り強さによって成形体全体の強度を向上させることができる。
【0004】
ところが、熱可塑性樹脂に混合する強化繊維は、金型内への樹脂の流動性の確保や成形不良を回避するために繊維長をごく短いものとしなければならない。このように短繊維が混合した樹脂ではいくつかの課題がある。たとえば、繊維同士が不連続な部分では機械的な強度が低下することとなる。また、金型内には樹脂が一定の経路で流動することによって流れ方向に沿って強化繊維が配向する。この場合、強化繊維の向く方向とそれに直交する方向とでは機械的強度が異なるうえ、成形体全体に均等に強化繊維を分布させることはそもそも困難である。そのため、短繊維をフィラーとして混合した繊維強化樹脂の機械的強度は異方性をもつことになる。
【0005】
この点、従来においては、長繊維の強化繊維を上下左右に配置した繊維強化シートを熱可塑性樹脂からなる基材に貼り付けて成形体の強化を図る技術が開発されている。貼り付け対象となる成形体は平面的なものの他、立体的な成形体も採用できる。特に、複雑な形状であっても容易に成形できる技術として、射出成形時に繊維強化シートと基材となる熱可塑性樹脂とを一体に成形する技術が開示されている。
【0006】
例えば特許文献1には、構造物のフレーム基材となる棒状のプラスチック製フレームの外周面に強化繊維シートからなるFRP補強層を長さ方向にわたって形成することを特徴とするプラスチック製フレームの技術が開示されている。
【0007】
特許文献1の技術を概説すると、当該プラスチック製フレームはPEやPP等の熱可塑性樹脂からなる樹脂層と強化繊維シートに樹脂を含侵させたFRP補強層とから構成している。全体の形状は断面V型の棒状形態であり、外周面に頂部を屈曲点とする屈曲面を形成している。
強化繊維シートは例えば炭素繊維を平織りしたものや、強化繊維が一方向に並んだUDシートを異なる方向に複数枚重ねて一体化した積層シートを用いる。この強化繊維シートを樹脂層の材料と同一の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として含侵させてFRP補強層としている。
前記FRP補強層はプラスチック製フレームの外周面全体に形成された屈曲面に対して長手方向にわたって形成する。
【0008】
このような構成により、機械的強度を損なわずに基材の軽量化を図ることが可能となるとされている。
また、強化繊維シートを金型内に挿入した後、金型内に熱可塑性樹脂を注入するだけで基材の成形を行うことができるため、切削加工等の複雑な製造工程も不要で、しかも、基材が小型で複雑な形状であっても成形を容易に行えるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-45865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の技術に用いられる強化繊維シートは長繊維の強化繊維を平織りしたものや、UDシートを互い違いに積層したものである。繊維方向を直交するように構成した強化繊維シートは、直交する方向に対する曲げ剛性が高くなる。そのため、射出成形において熱可塑性樹脂を高温高速(あるいは高圧)で射出したとしても、成形の形状に深い窪みや高いリブのような形状変化の大きい形状に対しては強化繊維の剛性により金型形状に追従しにくくなる。
【0011】
一般的に成形性を向上させる場合には、射出成形時における樹脂温度をさらに高くしたり射出速度を上げたりして成形条件を厳しくする。その結果、強化繊維は変形しやすくなる。しかし、変形が急激な角部等では皺が寄ったり冷却後に強化繊維が剥離したりする等の成形不良の原因となる。
【0012】
そのため、形状変化の大きな形状を有する成形体において、強化繊維樹脂シートを基材の表面全体に成形不良を生じることなく貼り付けた状態の成形体を得ることはこれまで困難であり、製造できたとしても歩留まりが悪く採算性に問題があった。
【0013】
本発明は、上記のような問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、形状変化が大きな形状を有する立体的な成形体であっても、強化繊維を基材の表面に積層一体化して機械的性質と軽量化を両立した繊維強化樹脂成形体を提供すること、及び当該繊維強化樹脂成形体を安定して効率よく製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を以下に説明する。
本発明の繊維強化樹脂成形体(以下、単に「成形体」という)は、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂が強化繊維に含浸されてなる繊維強化樹脂シートと、熱可塑性樹脂からなる基材とが積層一体に成形された立体的な成形体である。
【0015】
ここで、熱可塑性樹脂におけるマトリックス樹脂と基材における熱可塑性樹脂には種々の熱可塑性樹脂を用いることができる他、相互に同種の樹脂を用いることも、相互に異なる種類の樹脂を用いることも可能である。また、ここにいう強化繊維には機械的な強度を強化するものに限られず、成形体として何等かの物理的な特性を付与し得る性質の繊維であればこれに含まれる。さらに、ここにいう「立体的である」とは、平板状のものではなく、成形体全体として一部でも立体的な形状を有していれば足りる。
また、強化繊維に対するマトリックス樹脂の含侵は、強化繊維にマトリックス樹脂が完全に含侵した完全含侵のほか、後述する未含浸部分を含むものも含まれる。
【0016】
そして、このような繊維強化樹脂シートは前記基材の熱可塑性樹脂が溶融固化することで前記繊維強化樹脂シートと積層一体に成形されるように構成する。
ここで、繊維強化樹脂シートと基材とは射出成形によって積層一体化される。一体化においては、基材の熱可塑性樹脂が溶融する際に繊維強化樹脂シートのマトリックス樹脂をともに溶融して固化することで一体となる場合に限られず、繊維強化樹脂シートと基材との間に別の接着剤層や樹脂シート材が設けられ、それらが基材の熱可塑性樹脂とともに溶融して固化するような場合も含まれる。
【0017】
上述の課題を解決するために本発明が採用した手段のうち、基本的な構成によるものについては上記のとおりであるが、本発明においては、下記の手段を用いることも可能である。
【0018】
前記繊維強化樹脂シートは、前記強化繊維と前記マトリックス樹脂とが未含浸部分を含んで構成することもできる。
未含侵部分とは、繊維強化樹脂シートそれ自体における熱可塑性樹脂の強化繊維に対する含侵の程度において、強化繊維に熱可塑性樹脂が浸透していない集束した部分が一部存在する状態をいう。また、強化繊維の間に浸透していない樹脂部分が一部存在している状態も含まれる。
【0019】
前記強化繊維と前記マトリックス樹脂とが完全に混合した含浸状態であると、繊維強化樹脂シートとしての剛性が高くなる。また、含浸状態では強化繊維と強化繊維との間に熱可塑性樹脂が入り込むため強化繊維間の樹脂が占める部分が少なくなる。
それに対して、繊維強化樹脂シートに未含侵部分が存在するように構成することで、熱可塑性樹脂が浸透していない集束した部分では、強化繊維が樹脂で一体化していないため繊維強化樹脂シートが容易に変形して金型形状へより追従しやすくなる。また、強化繊維の存在しない熱可塑性樹脂のみの部分が存在することで、繊維強化樹脂シートは柔軟性を備えるとともに、樹脂が占める部分が多くなることにより繊維方向に容易に裂けることのない強度を備えることができる。
【0020】
また、前記繊維強化樹脂シートの表面の少なくとも一方には熱可塑性樹脂からなる樹脂層が積層されている構成とすることもできる。
樹脂層は、繊維強化樹脂シートのマトリックス樹脂または基材の熱可塑性樹脂のいずれかと同じ樹脂であるものに限られず、いずれとも異なる樹脂である場合も含む。
また、樹脂層は繊維強化樹脂シートの片面にのみ積層されている場合のほか、両面に積層されている場合も含む。
【0021】
繊維強化樹脂シートの表面に他の樹脂層を積層することにより、繊維強化樹脂シートの表面に十分な樹脂層が形成されるため、成形体の表面から強化繊維が毛羽立って露出することを防止することができる。また、基材との接合面に積層した場合には、射出成形において基材との溶融が十分に行われ層間の強度が向上する。
【0022】
また、前記繊維強化樹脂シートは強化繊維が単一の方向に引き揃えられたUDシート材を採用することができる。あるいは、前記UDシート材が短冊状に切断されたチョップドプリプレグを強化繊維の方向が擬似等方性を有するように複数積層してなるチョップドプリプレグシート材とすることも可能である。
ここで、擬似等方性とは、それ自体では単一方向に配向する強化繊維を平面方向においてあらゆる方向に配向させることで、物性における方向性をもたないようにした性質をいう。
【0023】
成形体の形状が主に一方向の立体形状であった場合には、その方向にのみ繊維強化樹脂シートが変形しやすければ足りる。そのため、UDシート材を繊維強化樹脂シートとする場合には変形方向に繊維が並列するように配置することで、射出された樹脂からの力がわずかであっても容易に変形して金型形状に追従させることができる。
【0024】
一方、擬似等方性のチョップドプリプレグシート材とする場合には、短冊状のチョップドプリプレグの強化繊維があらゆる方向に配向して積層されるため、成形体として方向による強度のムラがなくなる。すなわち、あらゆる方向の曲げや捩じり、引っ張り等の力に対して均等な強度を発揮する。
また、チョップドプリプレグが短冊状に切断されて擬似等方性となるように積層されていることにより、樹脂に混合するフィラーよりも長繊維なので強度に優れるうえ、短冊状に切断されて強化繊維が不連続な部分では繊維強化樹脂シートとして容易に変形する。そのため、十分な強度を確保しながらも金型形状に追従しやすく、複雑な形状の成形体であっても表面全体に繊維強化樹脂シートを均等に配置した状態とすることができる。
【0025】
ここで、繊維強化樹脂シートとして熱可塑性樹脂フィルムと薄層開繊された強化繊維とからなるチョップドプリプレグシート材を用いた場合には、強化繊維の体積含有率Vfを20%以上80%以下とし、チョップドプリプレグシート材の厚さを40um以上3000um以下とすることも可能である。
【0026】
前述のとおり、繊維強化樹脂シートは未含侵部分を含んで構成されているため繊維方向に容易に裂けることのない強度を備えている。そこで、一般的な開繊手段では強化繊維の束が多数積層されて厚くなってしまうところ、薄層となるように開繊された強化繊維をチョップドプリプレグシート材の厚さが40um以上3000um以下となるとともに擬似等方性を有するように積層する。このとき、強化繊維の体積含有率Vfが20%以上80%以下となるようにする。これにより、十分な強度を有するともに、ごく薄いチョップドプリプレグシート材とすることができる。その結果、射出成形における樹脂の射出によってさらに容易に金型形状に追従することができるようになる。
【0027】
以上のような成形体は、前述のとおり射出成形によって製造することができるが、その具体的な手段としては、以下の手段を採用することもできる。
その手段のひとつとして、まず、前記強化繊維と前記マトリックス樹脂とが未含浸部分を含んで構成される繊維強化樹脂シートを予め平面的に張った状態で金型を閉め、次いで、基材となる熱可塑性樹脂を前記金型内に射出するとともに前記繊維強化樹脂シートを賦形させて前記基材と積層一体に成形する手段を採用することができる。
【0028】
繊維強化樹脂シートを予め平面的に張った状態で金型によって挟み込み、射出時の熱で軟化させるとともに樹脂の力で変形して成形するため、射出成形用の金型のみ作製すればよく、設備費を削減するとともに製造工程を簡略化することができる。ここで、前述のとおり、柔軟な未含浸部分を含む繊維強化樹脂シートを用いる場合には、成形前には平面状である繊維強化樹脂シートを熱可塑性術の射出時の熱と射出速度や圧力による力とで金型形状に追従させて容易に賦形させることができる。なお、繊維強化樹脂シートを予め平面的に張る場合においては、繊維強化樹脂シートをクランプして金型を閉めるようにしてもよい。
【0029】
また、成形体の他の製造方法としては、まず、前記強化繊維と前記マトリックス樹脂とからなる繊維強化樹脂シートを予め立体的に成形してインサート部材とし、次いで、射出成形用の金型に前記インサート部材を挿入し、その後、基材となる熱可塑性樹脂の射出によって前記繊維強化樹脂シートと前記基材とを積層一体に成形する手段を採用することができる。
【0030】
繊維強化樹脂シートを予め立体的に成形しておくことにより、射出成形後の形状の再現性の精度をより向上させることができる。なお、繊維強化樹脂シートに対して行う立体化においては、その全体を最終品である成形体と同じ形状となるように成形する場合に限られず、形状変化の大きな一部の形状のみを成形する場合や中途形状まで予備的に成形しておく場合も含まれる。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる繊維強化樹脂シートを基材とともに立体的に積層一体としたことで、強化繊維のもつ機械的性質と熱可塑性樹脂のもつ軽量であるという特徴とを兼ね備えた成形体とすることができる。
ここで、繊維強化樹脂シートは基材との積層一体化において溶融して固化するため、柔軟に変形することができ、立体的な成形体とすることができる。
これらにより、形状変化が大きな形状を有する立体的な成形体であっても、強化繊維を基材の表面に積層一体化して機械的性質と軽量化を両立した繊維強化樹脂成形体とすることができるという効果がある。
特に、繊維強化樹脂シートを強化繊維とマトリックス樹脂とが未含浸部分を含んで構成した場合には、より柔軟に変形して立体的な成形体とすることができる。
【0032】
上記に加え、当該成形体の製造においては、繊維強化樹脂シートを予め平面的に張った状態で金型を閉め、熱可塑性樹脂の射出によって基材と積層一体に成形するようにしたことで、繊維強化樹脂シートを成形の度に送り出して連続して成形することができる。
一方、繊維強化樹脂シートを予め立体的に成形したインサート部材を金型内に挿入し、熱可塑性樹脂の射出によって基材と積層一体に成形するようにしたことで、形状の再現性の高い成形体とすることができる。
これらにより、繊維強化樹脂成形体を安定して効率よく製造することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の繊維強化樹脂成形体を表す斜視図及び部分断面図である。
図2】本発明のチョップドプリプレグシート材を表す平面図及び積層状態を表す説明図である。
図3】本発明のチョップドプリプレグを表す平面図及び積層状態を表す説明図である。
図4】本発明の成形体の製造装置を表す説明図である。
図5】本発明の成形体の製造方法を表す説明図である。
図6】本発明の変形例1の繊維強化樹脂成形体を表す斜視図である。
図7】本発明の変形例1のUDシート材を表す平面図及び積層状態を表す説明図である。
図8】本発明の変形例1の製造方法を表す説明図である。
図9】本発明の変形例2のチョップドプリプレグを表す平面図及び積層状態を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を実施するための形態について、図1から図5に基づいて以下に説明する。
なお、各図面における積層状態は説明のために模式的に表したものである。
【0035】
本発明の繊維強化樹脂成形体100(以下、同様に「成形体」という)は設備や部品を内包するカバー体であり、図1に示すような所定の肉厚を有する立体的な形状を呈している。特に、成形体100は薄肉でありながらも深い窪みや小さな角丸部分等の形状変化の大きな形状を備えている。
成形体100はポリアミドからなる基材1の表面全体に繊維強化樹脂シートであるチョップドプリプレグシート材2(以下、単に「チョップシート材」という)が積層一体化されている。
【0036】
成形体100に用いられているチョップシート材2は、図2に示すように、短冊状に切断された複数のチョップドプリプレグ21・21…(以下、単に「チョップ材」という)が均一な厚みとなるように複数積層されて構成されている。このとき、チョップ材21の繊維方向が二次元方向にランダムとなるように配向することで、擬似等方性を有する。
【0037】
チョップシート材2の厚みとしては、40um以上3000um以下となるようにチョップ材21・21…を積層し、ローラで加熱及び加圧してチョップシート材2とする。この範囲の厚みとすることで、成形時に柔軟に変形可能になるとともに成形体100として十分な強度を確保することができる。
【0038】
また、チョップシート材2における強化繊維22の体積含有率Vfは20%以上80%以下となるように調整されている。体積含有率Vfの下限は好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上である。一方、体積含有率Vfの上限は好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下である。
体積含有率Vfが20%を下回ると強化繊維22による強度の向上があまり期待できず、80%を超えるとマトリックス樹脂23の割合が相対的に減少し柔軟性が低下する。
【0039】
前記チョップ材21は炭素繊維からなる強化繊維22に基材1と同様のポリアミド樹脂からなるマトリックス樹脂23を含侵させた繊維強化樹脂のシート材を図3に示すような短冊状に切断して得ることができる。
【0040】
なお、図3の形態では、基材1にはポリアミドを用いているが、基材1に用いる樹脂は他の熱可塑性樹脂であってもよく、例えば、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ABS、AES、ASA、ポリ塩化ビニル、ポリビニルホルマール樹脂、ブロックポリマー等が挙げられる。また、充填、補強材として、補強材や繊維入り樹脂を使用する事ができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0041】
また、強化繊維22としては、炭素繊維の他、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、バサルト繊維等の各種の無機繊維または有機繊維を用いることができる。
【0042】
チョップ材21の製造方法は、まず薄層開繊した強化繊維22の束と束との間にマトリックス樹脂23となるポリアミド製の熱可塑性樹脂フィルムを配置した状態で加熱してローラで挟み込む。
薄層開繊の方法としては、その一例として、図示しない特殊な開繊装置を用いて開繊させることができる。この開繊装置では、搬送される繊維束中に流体を通過させることで繊維を撓ませながら幅方向に移動させて開繊する。また、開繊の際には、搬送される繊維束に対して接触部材を接触させる工程を有する。接触の際、搬送方向と傾斜する方向に回動させて繊維束の一部を押し込んで緊張状態とした後、緊張状態の繊維束から接触部材を離間させて繊維束を一時的に弛緩状態とする。
弛緩状態にあるときに繊維束中に流体を通過させるようにすることで、薄層となるように開繊させることが可能となる。また、緊張と弛緩の発生においては、搬送方向と傾斜する方向に接触部材を回動させることで、繊維束に与えるダメージを小さくすることができる。
【0043】
薄層開繊について詳述すると、厚さ方向に並ぶ強化繊維22の数が平均10本以下と少なくなる。例えば、炭素繊維束12Kを幅20mmに開繊した場合は幅方向に約2,000~2,500本程度並び、厚さ方向には約4~6本程度、幅40mmに開繊した場合は幅方向に約5,000~5,500本程度並び、厚さ方向には約2~3本程度並んでいると考えられる。さらに、炭素繊維束50Kを幅42mmに開繊した場合は、厚さ方向に約8~10本程度並んでいると考えられる。
【0044】
マトリックス樹脂23となる熱可塑性樹脂フィルムの厚さの下限は特に限定されないが、好ましくは5um以上にすることによって、フィルム成形時においてフィルムの形態を良好に維持し易い。また、熱可塑性樹脂フィルムの厚さの上限は、好ましくは50um以下、より好ましくは45um以下、さらに好ましくは40um以下、よりさらに好ましくは30um以下である。
熱可塑性樹脂フィルムの厚さを50um以下とすることによって、当該熱可塑性樹脂フィルムに開繊した複数の強化繊維22が積層したチョップ材21もより薄く構成することができる。
【0045】
ここで、チョップ材21となるシート材の製造においては、強化繊維22の一部にマトリックス樹脂23が含侵していない未含侵部分24・24’が形成されるようにする。図3の例では、未含侵部分24は強化繊維22が存在せずマトリックス樹脂23のみの部分が厚みのほぼ中央の領域に存在する。また、他の未含侵部分24’としてマトリックス樹脂23が存在せず強化繊維22のみが存在する部分が表裏面の領域に存在する。なお、未含浸部分24と他の未含浸部分24’との間は、マトリックス樹脂23が強化繊維22に含侵した状態となっている。
【0046】
未含侵部分24・24’を設けることで、強化繊維22の存在しないマトリックス樹脂23のみの部分の存在によってチョップシート材2は柔軟性を備えるとともに繊維方向に容易に裂けることのない強度を備えることができる。また、チョップ材21を強化繊維22とマトリックス樹脂23とが完全に混合した含浸状態における厚さよりも厚く、かつ、その2倍以下の厚さとすることで、ランダムに積層させたチョップシート材2の厚さをごく薄くできるうえ、薄くしてもチョップ材21が裂けてしまう等の不具合が生じにくい。
【0047】
このような未含浸部分を有するチョップ材21の製造においては、切断前のシート材を、薄層開繊した強化繊維22とマトリックス樹脂23となる熱可塑性樹脂フィルムを配置した状態で加熱してローラで挟み込んで製造する。
まず、薄層開繊した強化繊維22の両側端部を熱可塑性樹脂フィルムの両側端部の外側にそれぞれ配置して重ね合わせる。熱可塑性樹脂フィルムの両側端部の外側に強化繊維22の両側端部を配置することで、搬送用ベルトへの樹脂の付着を防止することができ、搬送用ベルトに強化繊維22が巻き付くトラブルが回避され、安定した含浸状態でシート材を連続して得ることができるようになる。
そして、この状態で複数の加熱ロールと複数の冷却ロールとに張力を付与された状態で通過させる。このとき、シート材には未含浸部分を有するとともに、その厚さが20um以上70um以下の厚さとなるように温度や圧力を調整する。
【0048】
シート材の厚さの下限は、好ましくは25um以上、より好ましくは30um以上、さらに好ましくは35um以上、よりさらに好ましくは40um以上である。また、シート材の厚さの上限は、好ましくは65um以下、より好ましくは60um以下、さらに好ましくは55um以下である。具体的には、チョップ材21となるシート材の厚さを上記範囲内でなるべく薄くすることによって、ポリアミド樹脂と強化繊維22とが大部分において融着した上で積層されるため、強化繊維22が有する強度を十分に発揮できるようになる。また、応力がかかった際に、チョップ材21からなるチョップシート材2の層間剥離が発生し難く、疲労特性にも優れる。さらに、チョップ材21を用いる際の成形加工性がより優れる。
【0049】
このように製造されたシート材を、所定の寸法の短冊状に切断してチョップ材21を得る。チョップ材21の寸法は、それを用いて製造されるチョップシート材2及び繊維強化樹脂成形体100の賦形性等を考慮して、適宜適切な寸法に定めることができる。具体的には、好ましくは、短辺の長さが2mm以上50mm以下で、かつ長辺の長さが2mm以上80mm以下の矩形状に形成する。短辺の長さの下限は、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、よりさらに好ましくは4.5mm以上である。また、短辺の長さの上限は、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下、よりさらに好ましくは20mm以下、15mm以下もしくは10mm以下である。一方、長辺の長さの下限は、好ましくは2mm以上、より好ましくは4mm以上、さらに好ましくは6mm以上、よりさらに好ましくは8mm以上もしくは10mm以上である。また、長辺の長さの上限は、好ましくは80mm以下、より好ましくは70mm以下、さらに好ましくは60mm以下、よりさらに好ましくは50mm以下もしくは45mm以下である。
【0050】
チョップ材21の短辺及び長辺の長さを小さくすることによって、それを用いて製造されるチョップシート材2及び繊維強化樹脂成形体100におけるチョップ材21の密度をより高密度にすることができる。そのため、チョップシート材2及び繊維強化樹脂成形体100の強度をより効果的に高めることができる。一方、大きな寸法のチョップシート材2及び繊維強化樹脂成形体100を製造する場合には、チョップ材21の強度を極端に損なわない程度に短辺及び長辺の長さを大きくすることによって、チョップシート材2及び繊維強化樹脂成形体100を短時間で効率的に製造することができる。
【0051】
以上のようなチョップシート材2と基材1とを積層一体化した成形体100は、図4に示すような製造装置4を用いて製造することができる。
図4は、いわゆるインモールド成形をするために射出成形機3にフィーダー4を取り付けたものを模式的に表した図である。
【0052】
射出成形機3には固定側金型31・31’と可動側金型32が取り付けられており、ホッパー33に投入した基材1となるポリアミド樹脂のペレットを加熱溶融した状態でスクリュー34によってノズル35から金型内に射出する。射出した樹脂は固定側金型31・31’と可動側金型32とを閉じることで形成される空間内に留まり、冷却して金型から取り出すことで金型形状に応じた成形体を得ることができる。なお、固定側金型31・31’は成形後のランナーを金型から外すために2つのプレートによって構成されている。
【0053】
ここで、射出前の状態において、固定側金型31・31’と可動側金型32との間にはチョップシート材2が平面的に張られた状態で配置される。チョップシート材2は上下のロールに巻回された状態からフィーダー4によって順次送り出すことができるように構成されている。
なお、チョップシート材2は片面に連続する剥離シート材41が設けられた状態でフィーダー4に取り付けられるようにする。
【0054】
成形体100の製造方法を図5に基づいて説明すると、まず、図5(a)に示すように、固定側金型31・31’と可動側金型32とを開いた状態において、固定側金型31・31’と可動側金型32との間に剥離シート材41が設けられたチョップシート材2を平面的に張られた状態で配置する。
【0055】
次に、可動側金型32を移動してチョップシート材2を固定側金型31・31’で挟むように金型を閉める。このとき、可動側金型32に設けられた吸気口36・36…から図示しないバキュームポンプによって金型内部の空気を吸引する。これにより、図5(b)に示すように、チョップシート材2は可動側金型32に張り付くように変形する。
【0056】
そして、チョップシート材2を吸引している状態で基材1となるポリアミド樹脂を射出する。この時のポリアミド樹脂は高温かつ高速で射出されるため、チョップシート材2を構成しているマトリックス樹脂23は軟化しながら可動側金型32に押し付けられるような力を受ける。これにより、図5(c)に示すように、チョップシート材2は可動側金型32の形状に追従して変形するとともに、マトリックス樹脂23と基材1となるポリアミド樹脂とが溶融一体化する。
【0057】
この状態でP/V切り替えを行い、保圧をかけるとともに所定時間冷却した後、図5(d)に示すように、可動側金型32と固定側金型31・31’とを開いて成形体100を金型から取り出す。以上の方法で成形体100を製造することができる。
【0058】
このようにインモールド成形を採用することによって、チョップシート材2をフィーダー4によって成形の度に送り出して連続して成形することができる。ここで、チョップシート材2は強化繊維22とマトリックス樹脂23とが混合していない未含浸部分24を含んで構成するとともにごく薄く積層したことで、そのチョップシート材2と基材1との積層一体化においてチョップシート材2が柔軟に変形して立体的な成形体とすることができる。そのため、背の高いリブや深い窪み等の形状変化が大きな形状においてもチョップシート材2が形状の全体に行きわたるうえ、歩留まりもよく、効率よく成形体100を製造することができる。
【0059】
『変形例1』
次に、本発明の変形例の成形体101について、図6から図8に基づいて説明する。なお、以降の説明においては同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0060】
本変形例では、図6に示すように、基材1を断面V型の棒状の形態に成形した構造体におけるフレームであり、長手方向の両端面を除く外周面に繊維方向を単一の方向にひき揃えた繊維強化樹脂シート材であるUDシート材5が用いられている。
【0061】
本変形例のUDシート材5は、強化繊維51として炭素繊維を用いており、図7に示すように、単一の方向にひき揃うように開繊した強化繊維51の表裏面にポリアミド樹脂からなるマトリックス樹脂52を配置した状態で加熱してローラで挟み込む。このとき、厚さ方向における強化繊維51の平均繊維本数は2本から10本の範囲となるように設定する。
本変形例においても、UDシート材5における強化繊維22の体積含有率Vfは20%以上80%以下となるように調整されている。また、UDシート材5の厚みは20um以上70um以下とする。この範囲の厚みとすることで、成形時に柔軟に変形可能になるとともに成形体101として十分な強度を確保することができる。
【0062】
ここで、強化繊維51の一部にマトリックス樹脂52が含侵していない未含侵部分53が形成されるようにする。本変形例では、マトリックス樹脂52が存在せず強化繊維52のみが存在する部分が厚みの中間の領域に存在する。
【0063】
また、UDシート材5の一方の面には、マトリックス樹脂52と同様のポリアミド樹脂からなる樹脂層である付加樹脂シート材6を積層している。この付加樹脂シート材6は強化繊維51にマトリックス樹脂52を含侵させる際に同時に積層させることができる。
このように、付加樹脂シート材6を設けることで、成形体101となったときに、強化繊維51が表面から毛羽立って露出することを防止することができる。
なお、樹脂層は本変形例のようにシート材を積層して構成するほか、樹脂材をコーティングすることにより構成することもできる。
【0064】
以上のようなUDシート材5と基材1とを積層一体化した成形体101は、図8に示す方法で製造することができる。まず、図8(a)に示すように、プレス加工機7によって付加樹脂シート材6を備えるUDシート材5を予め立体形状に加工する。プレス加工機7は上側金型71と下側金型72とでUDシート材5を加熱しながらプレスし、インサート部材8を得る。このとき、不要な部分が自動的にトリミングされるように構成するのが好ましいが、別の抜型を用いてプレス加工でトリミングしてもよい。
【0065】
次に、図8(b)に示すように、射出成形機3に取り付けた金型の固定側金型31にインサート部材8を挿入して固定する。この状態で図8(c)に示すように固定側金型31と可動側金型32とを閉じ、形成された空間内に基材1となるポリプロピレン樹脂を射出する。
【0066】
インサート部材8はすでに立体的に成形されているため、インサート部材8は、射出されたポリプロピレンにより固定側金型31に押し付けられるような力を受ける。これにより、図8(c)に示すように、マトリックス樹脂52と基材1となるポリプロピレンとが溶融一体化する。
【0067】
この状態でP/V切り替えを行い、保圧をかけるとともに所定時間冷却した後、図8(d)に示すように、可動側金型32と固定側金型31とを開いて成形体101を金型から取り出す。以上の方法で成形体101を製造することができる。
【0068】
このようにフィルムインサート成形を採用することによって、形状の再現性の高い成形体101とすることができ、UDシート材5の立体化における成形不良を低減することもできる。ここで、UDシート材5は強化繊維51とマトリックス樹脂52とが混合していない未含浸部分53を含んで構成するとともにごく薄く積層したことで、UDシート材5のプレス加工においてUDシート材5が柔軟に変形して立体的な成形体とすることができる。そのため、背の高いリブや深い窪み等の形状変化が大きな形状においてもUDシート材5が正確な形状で成形され、射出成形後の形状精度が向上する。なお、インサート部材8は稼働側金型32に挿入するようにしてもよい。
【0069】
『変形例2』
次に、本発明の別の変形例について、図9に基づいて説明する。本変形例は図1に示すチョップシート材2を用いた成形体100において図2のチョップ材21とは表裏面の構成が異なる例である。
【0070】
本変形例のチョップシート材2は、図9に示すように、短冊状に切断された複数のチョップ材21・21…が二次元方向にランダムに均一な厚みとなるように積層されて構成されている。このチョップ材21は、図2の形態同様に、強化繊維22の一部にマトリックス樹脂23が含侵していない未含侵部分24・24’が形成されている。
【0071】
ここで、前述の図2の形態では、製造方法として、まず種々の方法で所定の幅に開繊した強化繊維22の束と束との間にマトリックス樹脂23となるフィルム材を配置した状態で加熱してローラで挟み込むとしていた。ローラで挟み込んでシート状に成形されるものの、チョップシート材2には所定の厚さとなる程度の圧力が加えられるのみである。そのため、繊維体積含有率Vfが高い場合には、その表面に強化繊維22の一部が毛羽立つように露出する場合がある。
【0072】
それに対して変形例では、ローラによって所定の厚さに成形されたチョップシート材2に対してさらに加熱した平板状の金型やローラで圧力を加えながらプレス加工することで、表裏面に樹脂層である加熱圧縮面25・25が形成されている。
【0073】
このように付加的に加熱圧縮加工を施すことで、強化繊維22が平坦に押し付けられるとともに軟化したマトリックス樹脂23が強化繊維22の表面を覆うことになる。これにより、チョップシート材2の表裏面は平滑な面となり、強化繊維22が露出することがない。そのため、強化繊維22の剥離を防止することができる他、意匠面としても美麗な外観となる。
【0074】
本発明は以上の実施形態に限られず、例えば未含侵部分においては、粉体状又は短繊維状のマトリックス樹脂を強化材料の間に分散させた後加熱及び加圧してマトリックス樹脂を溶融させることで、集束した強化繊維の内部にマトリックス樹脂が離散的に存在している状態であってもよい。
【0075】
また、強化繊維樹脂シートはUDシート材やチョップシート材の他、強化繊維を平織りしたシート材やUDシート材を直交方向に積層一体化したシート材であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
100,101 繊維強化樹脂成形体
1 基材
2 チョップドプリプレグシート材
21 チョップドプリプレグ
22 強化繊維
23 マトリックス樹脂
24 未含侵部分
25 加熱圧縮面
3 射出成形機
31 固定側金型
32 可動側金型
33 ホッパー
34 スクリュー
35 ノズル
36 吸気口
4 フィーダー
41 剥離シート材
5 UDシート材
51 強化繊維
52 マトリックス樹脂
53 未含侵部分
6 付加樹脂シート材
7 プレス加工機
71 上側金型
72 下側金型
8 インサート部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9