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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048400
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】回転案内装置及び動力伝達機構
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/063 20060101AFI20230331BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230331BHJP
   F16H 53/06 20060101ALI20230331BHJP
   F16H 53/02 20060101ALI20230331BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
F16C35/063
F16C19/06
F16H53/06
F16H53/02 Z
F16H1/32 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157692
(22)【出願日】2021-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】521021306
【氏名又は名称】高橋エネルギー変換学研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100209129
【弁理士】
【氏名又は名称】山城 正機
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 良貴
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J027FA17
3J027GB03
3J027GC10
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD13
3J027GE11
3J027GE14
3J030EA01
3J030EA21
3J117AA02
3J117DA01
3J117DB02
3J117DB03
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA77
3J701FA44
3J701FA53
3J701GA11
(57)【要約】
【課題】径の小さな細溝内でも安定して動作することが可能であり、しかも低コストで製造することが可能な回転案内装置を提供する。
【解決手段】本発明の回転案内装置は、露出した外周面を有する棒状案内軸110と、棒状案内軸110の外周面の一部を覆うように案内軸固定手段121を介して固定される筒状のスリーブ120と、スリーブ120の外周に軸受固定手段122を介して固定される軸受130と、軸受130に固定されるとともに相手部材に対する固定部142を有するハウジング部材140とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
露出した外周面を有する棒状案内軸と、
前記棒状案内軸の外周面の一部を覆うように案内軸固定手段を介して固定される筒状のスリーブと、
前記スリーブの外周に軸受固定手段を介して固定される軸受と、
前記軸受に固定されるとともに相手部材に対する固定部を有するハウジング部材とを備えた回転案内装置。
【請求項2】
前記案内軸固定手段が圧入である、
請求項1に記載の回転案内装置。
【請求項3】
前記案内軸固定手段が、
前記スリーブの所定箇所において半径方向に貫通するよう穿設されたネジ穴、
及び、前記ネジ穴に羅着可能なイモネジによって構成される、
請求項1又は2に記載の回転案内装置。
【請求項4】
前記軸受固定手段が、
前記スリーブの軸方向一端部において半径方向外方に突出する突出部、
前記スリーブの軸方向他端部において外周面に刻設されたネジ山部、
及び、前記ネジ山部に羅着可能なナットによって構成される、
請求項1~3のいずれかに記載の回転案内装置。
【請求項5】
前記スリーブの軸方向一端部における内周面を切り欠いて傾斜面とした、
請求項1~4のいずれかに記載の回転案内装置。
【請求項6】
前記棒状案内軸の材料としてセラミックが用いられる、
請求項1~5のいずれかに記載の回転案内装置。
【請求項7】
回転自在に支承される入力軸に連結された入力軸部材と、
出力軸に連結されるとともに、軸方向に所定の周期で振動するよう刻設される波状溝を周方向に延在して設けた出力軸部材と、
前記入力軸部材と前記出力軸部材との間の動力を伝達するリング状部材と、を備えた動力伝達機構であって、
前記リング状部材の周面に穿設された挿通孔に請求項1~6のいずれかに記載の回転案内装置が固定され、
前記波状溝内を前記棒状案内軸が転動する、
動力伝達機構。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸心周りの回転を許容しつつ部材に固定される回転案内装置、及び、それを用いた動力伝達機構に関し、特に、径の小さな細溝内であっても案内することが可能となる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転を許容しつつ部材に固定される回転案内装置として、カムフォロアと呼ばれる装置がある。一般的なカムフォロアは特許文献1に示されるように、カムフォロア自体を相手部材に固定するためのスタッドと、スタッドの外周にスタッドに対して相対回転可能に据え付けられる軸受と、軸受に固定されるとともに回転案内面を構成する外輪部材とによって構成される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-132073号公報
【0004】
特許文献1に開示された技術によると、スタッドの外周に軸受を介して装着される外輪部材の外周面が回転案内面を構成するため、装置の小型化には限界が生じる。
【0005】
特に、1mm程度の細溝内を転動しつつ案内するような、小さな回転案内装置を製造するためには、外輪部材の外径を1mm程度に製造することが必須であり、外輪部材を転動可能に支持する軸受及びスタッドは、さらに小さな径を有することが必要となる。そのような微細な軸受を製造することは極めて難しく、製造できたとしても膨大な製造コストがかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、径の小さな細溝内でも安定して動作することが可能であり、しかも低コストで製造することが可能な回転案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、鋭意創作の結果、従来のような外輪部材を案内部材として使用するのではなく、回転可能な棒状部材を案内部材として使用することで上記課題を解決可能であることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0009】
第1の特徴に係る回転案内装置は、露出した外周面を有する棒状案内軸と、棒状案内軸の外周面の一部を覆うように案内軸固定手段を介して固定される筒状のスリーブと、スリーブの外周に軸受固定手段を介して固定される軸受と、軸受に固定されるとともに相手部材に対する固定部を有するハウジング部材とを備える。
【0010】
第1の特徴に係る発明によれば、棒状案内軸の露出した外周面が転がり案内面となるので、例えば1mm程度の極細径の溝内であっても転動することが可能な案内装置を構成することができる。棒状案内軸を転動させるにあたり、棒状案内軸を回転可能たらしめる軸受を固定する必要があるが、棒状案内軸の外周面の一部を覆うように案内軸固定手段を介して固定される筒状のスリーブを用い、かつ、スリーブの外周に軸受固定手段を介して軸受けを固定するよう構成しているため、棒状案内軸自体に加工を施すことなく、軸受を固定することができる。棒状案内軸自体に加工を施す必要がないため、棒状案内軸の外径を小さくしても強度が低下することがない。そのため、棒状案内軸の外径を極限まで小さくすることができ、装置自体の小型化・細径化が可能となる。しかも、単純な棒状の部材を用いるため、低コストで製造することが可能となる。
【0011】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、案内軸固定手段として圧入を用いる。
【0012】
第2の特徴に係る発明によると、圧入によってスリーブを棒状案内軸に固定するため、他の部品を使用することなく、しかも、棒状案内軸にネジ穴や切り欠きなどの加工を施すことなく強固にスリーブを棒状案内軸に固定することが出来る。
【0013】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、案内軸固定手段が、スリーブの所定箇所において半径方向に貫通するよう穿設されたネジ穴、及び、ネジ穴に羅着可能なイモネジによって構成される。
【0014】
第3の特徴に係る発明によると、半径方向からのイモネジによる締め付けという手段を用いることで、比較的単純な構造で棒状案内軸とスリーブとを強固に固定することができる。
【0015】
第4の特徴に係る発明は、第1ないし第3のいずれかの特徴に係る発明であって、軸受固定手段が、スリーブの軸方向一端部において半径方向外方に突出する突出部、スリーブの軸方向他端部において外周面に刻設されたネジ山部、及び、ネジ山部に羅着可能なナットによって構成される。
【0016】
第4の特徴に係る発明によると、軸受を突出部に当接させた状態でナットをネジ山部に羅着することで、突出部とナットとで軸受を挟持して固定することができる。そのため、棒状案内軸に加工を施すことなく、軸受を棒状案内軸に対して相対回転可能に配設することが出来る。
【0017】
第5の特徴に係る発明は、第1ないし第4のいずれかの特徴に係る発明であって、スリーブの軸方向一端部における内周面を切り欠いて傾斜面とした。
【0018】
第5の特徴に係る発明によると、傾斜面を設けることにより、スリーブと棒状案内軸との接触が面接触となるため、棒状案内軸への応力集中を抑制することが出来る。その結果、細径の棒状案内軸を用いたとしても破断しにくく、極細の回転案内装置を提供することが出来る。
【0019】
第6の特徴に係る発明は、第1ないし第5のいずれかの特徴に係る発明であって、棒状案内軸の材料としてセラミックが用いられる。
【0020】
第6の特徴に係る発明によると、棒状案内軸の材料としてセラミックを用いることにより、焼結金属を用いた場合よりも細径の回転案内装置を提供することができる。
【0021】
第7の特徴に係る発明は、回転自在に支承される入力軸に連結された入力軸部材と、出力軸に連結されるとともに、軸方向に所定の周期で振動するよう刻設される波状溝を周方向に延在して設けた出力軸部材と、入力軸部材と出力軸部材との間の動力を伝達するリング状部材と、を備えた動力伝達機構であって、リング状部材の周面に穿設された挿通孔に第1ないし第6のいずれかの特徴に係る回転案内装置が固定され、波状溝内を前記棒状案内軸が転動する。
【0022】
第7の特徴に係る発明によると、回転案内装置における棒状案内軸が波状溝内を転動することで動力を伝達する機構を構築することができるため、波状溝を1mm程度という極めて狭い溝幅で構成することができる。そのため、細かい振動周期を有する波状溝を刻設することができ、その結果、回転案内装置が軸方向に振動する振動数を大きく設定することができる。したがって、100:1のような大きな減速比、または1:100のような大きな増速比の動力を伝達することが可能な小型の動力伝達機構を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、径の小さな細溝内でも安定して動作することが可能であり、しかも低コストで製造することが可能な回転案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、第一実施形態に係る回転案内装置100の断面図である。
図2図2は、第一実施形態に係る回転案内装置100の部分拡大図である。
図3図3は、第二実施形態に係る回転案内装置200の断面図である。
図4図4は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第一実施例に係る減速機800の軸方向前側から見た分解斜視図である。
図5図5は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第一実施例に係る減速機800の断面図である。
図6図6は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第一実施例に係る減速機800における固定部材810及び軸付矩形板811の詳細を示したものであり、図6(a)は、固定部材810及び軸付矩形板811の斜視図を、図6(b)は、固定部材810、軸付矩形板811及び蓋813の分解斜視図を、図6(c)は軸付矩形板811を半径方向円筒溝814に挿入したときの上面図を示す。
図7図7は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第一実施例に係る減速機800の側面図である。
図8図8は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第二実施例に係る減速機900の軸方向前側から見た分解斜視図である。
図9図9は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第二実施例に係る減速機900の軸方向後側から見た分解斜視図である。
図10図10は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第二実施例に係る減速機900の断面図である。
図11図11は、本発明に係る回転案内装置100を用いた第二実施例に係る減速機900の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0026】
[第一実施形態に係る案内装置の構成]
図1図2を用いて、第一実施形態に係る案内装置100の全体構成を説明する。
【0027】
図1は、第一実施形態に係る案内装置100の断面図を示したものであり、図2は、第一実施形態に係る案内装置100の部分拡大図を示したものである。
【0028】
第一実施形態に係る案内装置100は、棒状案内軸110と、スリーブ120と、棒状案内軸110をスリーブ120を介して回転可能に支持する軸受130と、軸受130に固定されるハウジング部材140によって構成される。
【0029】
棒状案内軸110は、所定の外径を有する横断面円形の棒状部材であり、棒状案内軸110の中心軸が、回転の軸心Cを形成する。棒状案内軸110の外周面の一部は露出されており、露出された部位が案内面110aとして機能する。また、棒状案内軸110の外周面のうち、露出されていない部位は、後述するスリーブ120が圧入される固定面110bとなる。
【0030】
棒状案内軸110は、好ましくはセラミックによって製造される。セラミックは硬い材料であるため屈曲しにくく、焼結金属を用いた場合よりも細径の回転案内面を有する回転案内装置100を製造することが出来る。
【0031】
スリーブ120は棒状案内軸110の外周面の一部である固定面110bを覆う筒状の部材であり、案内軸固定手段121によって棒状案内軸110に固定される。スリーブ120は、後述する軸受130を棒状案内軸110に直接固定させないために配設される部材であり、棒状案内軸110とは別体にて形成される。すなわち、スリーブ120は、案内軸固定手段121によって棒状案内軸110に固定されるとともに、軸受固定手段122によって軸受130を固定する。
【0032】
スリーブ120を固定面110bに固定するための案内軸固定手段121として、第一固定手段と第二固定手段の二種類の固定手段が用いられる。
【0033】
第一固定手段としては圧入121aが用いられる。すなわち、スリーブ120の内径は棒状案内軸110の外径よりも小さく構成されており、これにより、スリーブ120は棒状案内軸110に圧入される。
【0034】
案内軸固定手段121として圧入121aを用いることによって、他の部材を用いることなく、かつ、棒状案内軸110にネジ穴や切り欠きなどを設けることなく、スリーブ120を棒状案内軸110に強固に固定することが出来る。
【0035】
第二固定手段として半径方向からのネジによる押圧が用いられる。つまり、スリーブ120には所定の箇所において、半径方向に貫通するようネジ穴121bが穿設されており、ネジ穴121bにはいわゆるイモネジ121cを半径方向外方から羅着することができる。イモネジ121cをネジ穴121bに羅着して締め付けることで、スリーブ120に圧入された棒状案内軸110をさらに半径方向から押圧して固定する。本実施形態においてネジ穴121bは、図1に示すように180度隔てた二か所に穿設されており、二つのイモネジ121cによって逆方向から挟み込むように押圧して強固に固定することができる。
【0036】
案内軸固定手段121としてネジ穴121bとイモネジ121cを用いることによって、半径方向からのイモネジによる締め付けという手段によって、比較的単純な構造で棒状案内軸とスリーブとを強固に固定することができる。
【0037】
なお、本実施形態においては、スリーブ120を固定面110bに固定するための案内軸固定手段121として二種類の固定手段を開示しているが、どちらか一方でも構わない。また、案内軸固定手段121は、上記二種類以外の手段であってもよく、例えば、接着剤やかしめを用いた結合などであっても構わない。
【0038】
スリーブ120に軸受130を固定する軸受固定手段122として、スリーブ120の軸方向一端部に設けた半径方向外方への突出部122a、スリーブ120の軸方向他端部の外周面に刻設したネジ山部122b、及び、ネジ山部122bに羅着可能なナット122cによって構成される。つまり、軸受130を突出部122aに当接させた状態で、ナット122cをネジ山部122bに羅着することで、突出部122aとナット122cとで軸受130を挟持して固定する。
【0039】
なお、軸受固定手段122は、上記以外の手段であってもよく、例えば、接着剤や止め輪(Eリング又はCリングなど)・かしめを用いた結合などであっても構わない。
【0040】
このように、スリーブ120が案内軸固定手段121及び軸受固定手段122を備えることで、棒状案内軸110自体に軸受を固定するための加工を施す必要が無いため、周面に孔などのない単なる細い棒状の部材で棒状案内軸110を構成することが出来る。つまり、棒状案内軸110の強度を下げることなく、かつ、棒状案内軸110の加工費用をかけることなく、1mm程度の細い棒状案内軸110を軸心周りに回転可能に支持することができる。
【0041】
また、図2の部分拡大図に示すように、スリーブ120の内周面の軸方向一端部には、切り欠きが設けられ傾斜面123が形成されている。傾斜面123を設けることにより、スリーブ120と棒状案内軸110との接触が面接触となるため、棒状案内軸110への応力集中を抑制することが出来る。その結果、細径の棒状案内軸を用いたとしても破断しにくく、極細の回転案内装置を提供することが出来る。
【0042】
軸受130は棒状案内軸110をハウジング部材140に対して軸心周りに相対回転可能に支持するものであって、内輪131、外輪132、転動体133、保持器134によって構成される。上述したように、軸受130はスリーブ120の軸受固定手段122によってスリーブ120に固定されるが、その際、内輪131が軸受固定手段122の突出部122aとナット122cに挟持されることで固定される。軸受の種類としては転がり軸受やアンギュラ玉軸受などが用いられるが、それに限ったものではない。なお、本実施形態においては、軸受130は軸方向に二つ並べて配設されている。
【0043】
ハウジング部材140は案内装置100を相手部材に固定するための筒状の部材である。ハウジング部材140には、ハウジング部材140の軸方向端部において軸方向における案内装置100全体の位置決めをするため半径方向外方に突出するフランジ部141、相手部材に固定するための固定部142、及び、軸受130の外輪132が当接するよう内周面から内方に突出するリング状の凸部143が設けられている。
【0044】
本実施形態においては、固定部142として、ハウジング部材140を構成する筒状の部材の外周面にネジ山が刻設されているが、半径方向に締め付けることが可能なイモネジなどを用いてもよいし、別の手段を用いてもよい。
【0045】
また、ハウジング部材140の内周面から内方に突出するリング状の凸部143に軸受130の外輪132が当接することで、軸受130とハウジング部材140とを結合することが可能となる。つまり、凸部143に外輪132を当接させた状態で上述したナット122cをネジ山部122bに羅着して締め付けることで、軸受130の内輪131をスリーブ120の突出部122aに当接させて固定すると同時に、外輪132を凸部143に当接させてハウジング部材140に固定することができる。
【0046】
スペーサ150は、軸方向に二つ並べて配設した軸受130の間に介装する筒状の部材である。スペーサ150の内径はスリーブ120の外径と略一致しており、スペーサ150は二つの軸受130の間においてスリーブ120の外周に装配設される。スペーサ150の周面には二か所の半径方向の貫通穴151が穿設されており、案内軸固定手段121を構成するイモネジ121cが貫通可能である。そして、二つの貫通穴151は、スペーサ150を二つの軸受130間に配設したときにスリーブ120のネジ穴121bと軸方向位置及び周方向位置が一致する位置に穿設されている。このように、二つのイモネジ121cは、スペーサ150の貫通穴151を貫通した状態で、スリーブ120のネジ穴121bに羅着することができる。
【0047】
[第二実施形態に係る案内装置の構成]
図3を用いて、第二実施形態に係る案内装置200の全体構成を説明する。第一実施形態に係る案内装置100と同様の点については説明を省略し、異なる部分について重点的に説明する。
【0048】
図3は、第二実施形態に係る案内装置200の断面図を示したものである。
【0049】
第二実施形態に係る案内装置200が第一実施形態に係る案内装置100と異なる点は、スリーブ220における案内軸固定手段221の第二固定手段であるネジ穴221bとイモネジ221cを、スリーブ220後端のネジ山部222bを貫通させて形成している点にある。
【0050】
イモネジ221cを羅着するネジ穴221bをネジ山部222bに設けることにより、スペーサ250にネジ穴を設ける必要がなくなるためスペーサ250の軸方向長さを短くすることが出来る。その結果、ハウジング部材240の軸方向長さ、ひいては固定部242の軸方向長さも短くすることができ、長さの短いスペースにも固定することが可能となる。
【0051】
他の点においては、第一実施形態と同様である。
【0052】
[本発明に係る回転案内装置を用いた第一実施例に係る減速機の構成]
次に、図4図7を用いて、本発明に係る回転案内装置を用いた動力伝達機構を構成する第一実施例に係る減速機800について説明する。動力伝達機構としては、回転する入力のトルクを高めたうえで低速化する減速機として利用する場合と、入力のトルクを低下させたうえで高速化する増速機として利用する場合が想定されるが、本実施例においては減速機として機能することを前提として説明する。
【0053】
なお、以下の実施例において、軸方向前側とは、入出力軸の法線方向から見たときに、紙面向かって左側を指し、軸方向後側とは、同方向から見たときに、紙面向かって右側を指すものとする。
【0054】
図4は、本発明に係る回転案内装置を用いた第一実施例に係る減速機800の軸方向前側から見た分解斜視図を示したものであり、図5は本発明に係る回転案内装置を用いた減速機800の断面図を示したものであり、図7は本発明に係る回転案内装置を用いた減速機800の側面図を示したものであり、図6は減速機800における固定部材810及び軸付矩形板811の詳細を示したものであり、図6(a)は、固定部材810及び軸付矩形板811の斜視図を、図6(b)は、固定部材810、軸付矩形板811及び蓋813の分解斜視図を、図6(c)は軸付矩形板811を半径方向円筒溝814に挿入したときの上面図を示す。なお、図4においては、入力軸部材は図示を省略している。
【0055】
図4及び図5に示すように、本発明に係る回転案内装置を用いた減速機800は、固定部材810と、図示しないモータの出力軸に連結されモータの回転動力を入力する入力軸部材820と、固定部材810に対して入力軸部材820を回転可能に支持する入力軸受830と、入力軸周りの首振り運動である歳差運動を行う歳差部材840と、入力軸部材820と歳差部材840との相対回転を可能にする傾斜軸受850と、入力軸部材820からの動力を所定の減速比に減速して出力として取り出す出力軸部材860と、出力軸部材860を固定部材810に対して回転可能に支持する出力軸受870と、歳差部材840と出力軸部材860との間で動力の変換を行う駆動部材880によって構成される。駆動部材880が、本発明に係る回転案内装置に相当するものである。
【0056】
<固定部材>
固定部材810は各部材の回転駆動を支える不動の部材であり、図示しないケーシングなどに固定される。本実施例に係る固定部材810は、軸方向に対して前後二つの前固定部材810aと後固定部材810bとに分割され、前部材と後部材の間の空間に後述する歳差部材840が配設される。
【0057】
前後それぞれの固定部材810は内側に孔が形成された略リング状の部材であり、略リング状に形成された前後それぞれの前固定部材810a及び後固定部材810bの半径方向外側端部には、前固定部材810a及び後固定部材810bに対して回動可能に支承され、後述する歳差部材840の矩形溝部841内を摺動可能な複数の軸付矩形板811が備えられる。また、後固定部材810bにおいて軸付矩形板811が形成される部位の内方には、前固定部材810aと後固定部材810bを接続するために軸方向に延出する棒状の連結部812が周方向に複数配設される。
【0058】
図6及び図7に示すように、それぞれの軸付矩形板811は、固定部材810の外周面において入力軸と歳差部材840の中心との交点P1に向けて穿設された半径方向円筒溝814に回動可能に挿入される軸部811aと、軸部811aから入力軸の軸方向に突出するように形成された矩形部811bとからなる。さらに、固定部材810に穿設された半径方向円筒溝814の上部を塞ぐ蓋813を設ける。
【0059】
つまり、軸付矩形板811の軸部811aを半径方向円筒溝814に挿入した状態で半径方向円筒溝814の上部から蓋813を被せることで、軸付矩形板811は半径方向円筒溝814から脱落することなく、半径方向円筒溝814内を微小角度範囲で回転することができる。
【0060】
<入力軸部材>
入力軸部材820は固定部材810の孔の内側に配置され、固定部材810に対して軸心を中心に回転可能に支持される略円筒形状の部材であり、前後両端側の外周部には前固定部材810aと後固定部材810bに対する回転を可能にする入力軸受830が設置されている。
【0061】
また、入力軸部材820において二つの入力軸受830が設置される位置の間の箇所に、軸心に対して所定の角度傾斜した円筒形状を呈する傾斜筒部821が形成されている。傾斜筒部821自体は円筒形状を呈しているが、軸心に対して所定の角度傾斜するよう形成されており、傾斜筒部821に、傾斜軸受850が配設される。
【0062】
<入力軸受>
入力軸受830は、入力軸部材820の軸方向前後端部側において、固定部材810と入力軸部材820との間に配置された二つのリング状の転がり軸受であり、内輪が入力軸部材820に、外輪が固定部材810に固定される。また、入力軸受830は、入力軸の法面に対して傾斜して配設される傾斜軸受850とは異なり、その転動体が入力軸の軸心に対して鉛直に配設されるよう、つまり入力軸部材820が入力軸の軸心周りに対称に回転することができるように配設される。
【0063】
入力軸受830は、固定部材810と入力軸部材820との間に与圧が印可されて配設される。入力軸受830に与圧が印可されることで、入力軸部材820は固定部材810に対して傾斜することなく、入力軸の軸心に回転軸を一致させた状態で回転可能に支持される。このようにすることで、後述する歳差部材840が首振り運動を行った際にも入力軸部材820が軸心に対して傾斜することがなく、歳差部材840の中心を保持することができるため、歳差部材840の歳差運動のみを確実に取り出すことができる。
【0064】
<歳差部材>
歳差部材840は、図4に示されるように、内側に孔が形成された略リング状の部材であり、傾斜軸受850を介して入力軸部材820に対し相対回転可能に支持される。歳差部材840は本発明におけるリング状部材として機能し、後述のように入力軸部材820と出力軸部材860との間の動力を伝達するものである。
【0065】
リング状に形成された歳差部材840の前面及び後面における半径方向外側端部には、所定の深さを有する矩形溝部841が形成される。なお、矩形溝部841の数と、固定部材810に配設される軸付矩形板811の数は、同数となるよう構成される。
【0066】
また、矩形溝部841が形成される部位同士の間には、固定部材810の棒状の連結部812が貫通するための軸方向の貫通孔842が穿設されている。貫通孔842は周方向に複数穿設される。
【0067】
それぞれの貫通孔842には固定部材810の連結部812が貫通し、それにより、歳差部材840は二つのリング状の固定部材810a、810bの間に挟まれるように配設される。このとき、歳差部材840の歳差運動を妨げないよう、貫通孔842の径は連結部812よりも大きく設定される。
【0068】
略リング状の歳差部材840の周面には半径方向の挿通孔843が適宜の数(本実施例においては8つ)周方向に等しい間隔をあけて穿設されている。挿通孔843にはネジ山が形成されており、それぞれの挿通孔843には後述する駆動部材880がネジ止めによって固定される。
【0069】
そして、図5に示すように、歳差部材840の内周面には傾斜軸受850の外輪52が固定されており、これにより、歳差部材840は傾斜軸受850を介して入力軸部材820に対し相対回転可能となるとともに、入力軸周りの首振り運動である歳差運動が可能となる。
【0070】
<傾斜軸受>
本発明における傾斜保持手段として機能する傾斜軸受850は、図5に示すように、軸受内輪851と軸受外輪852と複数の第一転動体853と図示しない保持器を備えるリング状の転がり軸受によって構成される。軸受内輪851は傾斜筒部821に固定され、軸受外輪852は歳差部材840の内周面に固定される。傾斜軸受850は、軸心に対して所定の角度傾斜した傾斜筒部821に設置されるため、複数の第一転動体853が入力軸に鉛直な平面に対して所定の傾斜角をもって傾斜するよう、配設されている。つまり、傾斜軸受850は入力軸の軸方向に対して所定の傾斜角で傾斜して配設される。ただし、傾斜軸受850は入力軸の軸方向に対して傾斜して配設されるものの、その中心P1が入力軸上に位置するよう配設される。
【0071】
言い換えると、傾斜軸受850が備える複数の第一転動体853は、入力軸の周面にそれぞれ位相をずらして配設されており、このような構造から、第一転動体853は入力軸部材820の回転に伴って入力軸周りに回転しつつ、軸方向に往復運動する。
【0072】
このとき、本実施例においては、リング状の転がり軸受である傾斜軸受850が入力軸部材820の傾斜筒部821に配設されているため、傾斜軸受850の軸受外輪852は、入力軸部材820の一回転あたり、軸方向に一振動数分の往復運動をするようになっている。すなわち、入力軸部材820が軸心周りに1/2振動数すなわち180°回転すると、軸受外輪852は軸方向に最大量変位し、入力軸部材820がさらに回転を進め360°回転すると、軸受外輪852は軸方向において元の位置に戻る。また、本実施例において、軸受外輪852は、入力軸部材820が一回転するごとに軸方向に第一振動数S11だけ振動し、この第一振動数S11は1である。
【0073】
<出力軸部材>
出力軸部材860は、入力軸部材820からの動力を所定の減速比に減速して出力として取り出すものであり、図示しない出力軸に連結され入力及び出力軸の軸心方向に延出する略円筒形状の部材によって形成されている。出力軸部材860の前後両端側の内周面に出力軸受870の外輪が固定されるとともに、内周面に第一振動数S11より大きい第二振動数S12を有し後述する駆動部材880が係合する波状溝WG1が形成される。
【0074】
波状溝WG1は図4に示すように、周方向に延在し、かつ、出力軸部材860の一回転あたり第二振動数S12分だけ軸方向に振動するように刻設された、周期的な形状を有する波状の溝であり、波状溝WG1に各駆動部材880の端部が挿入される。
【0075】
これら、各駆動部材880が軸方向に振動する振動数を表す第二振動数S12は第一振動数S11よりも振動数が大きく形成されるものであり、入力軸部材820がS12回転した際に出力軸部材860がS11回転することを意味する。そのため、この場合の減速比はS12/S11として定義される。第二振動数S12は第一振動数S11に4の倍数を乗算して1を加えた数にすることが好ましい。
【0076】
また、波状溝WG1の振幅、つまり軸方向の最大変位は、後述する駆動部材880の軸方向の振れ幅の最大値と略一致するように形成される。
【0077】
<出力軸受>
出力軸受870は、略リング状に形成された固定部材810の前後部材の外周面に配設される二つの転がり軸受であり、外輪と内輪と転動体と図示しない保持器を有する。出力軸受870の内輪が固定部材810の外周面に固定され、外輪が筒状の出力軸部材860の内周面に固定される。
【0078】
<駆動部材>
駆動部材880は、前述した歳差部材840の周方向に沿って穿設された挿通孔843に固定される部材であり、図1~3に示すような本発明における回転案内装置100、200によって構成される。
【0079】
図1及び図3に示すように、回転案内装置100、200を構成するハウジング部材140、240には、相手部材に対して回転案内装置100、200を固定する固定部142、242が形成されている。そして、本実施例においては、挿通孔843の内周面に雌ネジが、固定部142、242として雄ネジが形成されており、挿通孔843の内周面に形成された雌ネジに固定部142、242をねじ込むことにより、回転案内装置100、200を歳差部材840に固定することができる。
【0080】
このようにして、回転案内装置100、200の棒状案内軸110、210が挿通孔843に対して回転可能に支持される。
【0081】
図4図7に戻ると、駆動部材880を構成するピンの端部である棒状案内軸は挿通孔843から突出しており、出力軸部材860の内周面に形成された波状溝WG1に挿入され、歳差部材840の歳差運動に伴い波状溝WG1内を転動する。
【0082】
なお、本実施例においては、駆動部材880は周方向に8つ配設されており、すべての駆動部材880が入出力軸方向に対して略同一の平面上に配置され、すべての駆動部材880の端部である棒状案内軸が波状溝WG1に挿入される。また、駆動部材880における波状溝WG1内に挿入される部位の径は、バックラッシュ低減の観点から、波状溝WG1の溝幅と略同一に形成される。
【0083】
後述するように、歳差部材840は自転運動を伴わない首振り運動すなわち歳差運動を行うものであるから、それぞれの駆動部材880は所定の振れ幅での軸方向の振動を行う。駆動部材880の軸方向の振れ幅は傾斜軸受850の傾斜角度と入力軸の軸心からの距離に依存するが、駆動部材880の軸方向の振れ幅の最大値と波状溝WG1の振幅が略一致するよう設定される。
【0084】
〔減速機800による駆動メカニズム〕
次に、図4図7を用いて、第一実施例に係る減速機800による駆動メカニズムについて説明する。
【0085】
図示しないモータの回転に伴い入力軸部材820に入力軸周りの回転力が加わると、入力軸部材820と固定部材810との間に入力軸受830が介在しているため、入力軸部材820は入力軸周りに回転を開始する。入力軸部材820の入力軸周りの回転駆動に伴い、入力軸部材820に固定されているリング状の転がり軸受である傾斜軸受850も回転駆動される。その際、傾斜軸受850は入力軸に対して所定の傾斜角をもって傾斜している傾斜筒部821に固定されているため、傾斜軸受850が備える軸受内輪851は単に入力軸周りに回転するだけでなく、軸方向に振動する動きを伴う。
【0086】
言い換えると、傾斜軸受850は入力軸に対して所定の傾斜角をもって傾斜している傾斜筒部821に固定されているため、入力軸部材820が一回転する間に、傾斜軸受850は軸方向に一周期分振動する。そのため、入力軸部材820が軸心周りに1/2周期すなわち180°回転した段階で、傾斜筒部821に固定される軸受内輪851は周方向に180°回転しつつ軸方向に最大量変位し、入力軸部材820がさらに回転を進め360°回転すると、軸受内輪851は周方向においても軸方向においても元の位置に戻る。
【0087】
この時、傾斜軸受850における軸受外輪852の動きに着目すると、軸受外輪852は略リング状に形成された歳差部材840の内周面に固定されており、歳差部材840と同じ動きをする。歳差部材840は傾斜軸受850の動きに伴って軸方向に変位しながら回転しようとするが、歳差部材840と固定部材810とが近接した部位において、矩形溝部841に軸付矩形板811の矩形部811bが順次挿入されるため、軸付矩形板811の矩形部811bは矩形溝部841内を摺動することはできるものの、入出力軸周りに回転することが阻止され、傾斜軸受850の中心と入力軸の軸心との交点P1を中心とした歳差運動のみが取り出される。つまり、軸付矩形板811と矩形溝部841が回転抑止手段として機能することで、歳差部材840が歳差運動を行う際にも歳差部材840が軸心周りに回転することなく、歳差運動のみが取り出される。
【0088】
このようにして、軸付矩形板811と矩形溝部841によって回転抑止手段を構成することにより、歳差部材840の入出力軸周りの回転を抑制することができ、入出力軸周りの首振り運動つまり歳差運動のみを取り出すことができる。
【0089】
また、入力軸受830が、固定部材810と入力軸部材820との間に与圧が印可されて配設されているため、入力軸部材820は固定部材810に対して傾斜することなく、入力軸の軸心に回転軸を一致させた状態で回転可能に支持される。つまり、与圧が印可された状態で配設された入力軸受830が中心位置保持手段として機能することで、歳差部材840が歳差運動を行う際にも入力軸部材20が軸心に対して傾斜することがなく、歳差部材840の中心を保持することができるため、歳差部材840の歳差運動のみを確実に取り出すことができる。
【0090】
このようにして、歳差部材840は入力軸周りの自転は行わず、傾斜軸受850の中心と入力軸の軸心との交点P1を中心として、円周周りに順次軸方向に変位する首振り運動すなわち歳差運動を行うことになる。
【0091】
そして、歳差部材840における複数の挿通孔843それぞれに駆動部材880が挿入されているため、駆動部材880も円周周りに順次軸方向に変位する運動を行う。つまり、それぞれの駆動部材880は異なる位相で軸方向に振動する。
【0092】
このとき、駆動部材880の端部である棒状案内軸は出力軸部材860の内周面に設けられた波状溝WG1に挿入されており、駆動部材880の軸方向への変位に伴い、出力軸部材860が周方向に回転する。つまり、駆動部材880の軸方向への変位が波状溝WG1によって円周方向への変位に変換されるが、波状溝WG1の振幅は、駆動部材880の軸方向の振れ幅の最大値と略一致するように形成されているから、駆動部材880の変位がちょうど最大値となった点において波状溝WG1の波の頂点に達する。そして、駆動部材880の変位が最大値に達したのち逆方向に変位し始めると、波状溝WG1は駆動部材880からの押圧を受け、順方向に回転する。このようにして、入力軸の動力が、リング状部材である歳差部材840と回転案内装置100、200によって構成される駆動部材880によって、出力軸に伝達される。
【0093】
なお、詳細な説明は省略するが、本実施例においては、出力軸からの動力を、回転案内装置100、200によって構成される駆動部材880とリング状部材である歳差部材840を介して入力軸に伝達することが可能である。この場合、出力軸部材860から動力が入力され、入力軸部材820から出力されることとなり、本実施例の動力伝達機構は増速機として機能する。
【0094】
そして、本実施例の動力伝達機構においては、本発明の回転案内装置100、200における棒状案内軸110、210が波状溝WG1内を転動することで動力を伝達する機構を構築することができるため、波状溝WG1を1mm程度という極めて狭い溝幅で構成することができる。そのため、細かい振動周期を有する波状溝WG1を刻設することができ、その結果、駆動部材880である回転案内装置100、200が軸方向に振動する振動数を表す第二振動数S12を大きく設定することができる。したがって、100:1のような大きな減速比、または1:100のような大きな増速比の動力を伝達することが可能な小型の動力伝達機構を提供することができる。
【0095】
[本発明に係る回転案内装置を用いた第二実施例に係る減速機の構成]
次に、図8図11を用いて、本発明に係る回転案内装置を用いた動力伝達機構を構成する第二実施例に係る減速機900について説明する。第一実施例に係る減速機構800と同様の点については説明を省略し、異なる部分について重点的に説明する。
【0096】
図8は、本発明に係る回転案内装置を用いた第二実施例に係る減速機900を軸方向前側から見た分解斜視図を示したものであり、図9は第二実施例に係る減速機900を軸方向後側から見た分解斜視図を示したものであり、図10は本発明に係る回転案内装置を用いた減速機900の断面図を示したものであり、図11は本発明に係る回転案内装置を用いた減速機900の側面図を示したものである。
【0097】
第二実施例に係る減速機構900が第一実施例に係る減速機構800と異なる点は、歳差部材940の回転を抑止する回転抑止手段として、歯車911と歯車部941を用いる点にある。
【0098】
図8図10に示すように、第二実施例においては、略リング状に形成された前後それぞれの前固定部材910a及び後固定部材910bの半径方向外側端部には、後述する歳差部材940の歯車部941と係合する歯車911が、前後それぞれの固定部材910において向き合うように形成されている。また、後固定部材910bにおいて歯車911が形成される部位の内方には、前固定部材910aと後固定部材910bを接続するために軸方向に延出する棒状の連結部912が周方向に複数配設される。
【0099】
また、歳差部材940の前面及び後面における半径方向外側端部には、前固定部材910aと後固定部材910bの半径方向外側端部に形成された歯車911と対向するように歯車部941が形成されている。図11に示すように、歯車部941は全ての歯車が常に固定部材910の歯車911と係合するものではなく、歳差運動に伴い歳差部材940が入出力軸に対して傾斜した際に、近接した部位の歯車のみが係合し、離間した部位の歯車は係合しない。なお、歳差部材940に形成される歯車部941の歯数と、固定部材910に形成される歯車911の歯数は、同数となるよう構成される。
【0100】
他の点においては、第一実施例に係る減速機800と同様である。
【0101】
このようにして、第二実施例に係る減速機900においては、歯車911と歯車部941によって回転抑止手段を構成することにより、歳差部材940の入出力軸周りの回転を抑制することができ、入出力軸周りの首振り運動つまり歳差運動のみを取り出すことができる。
【0102】
つまり、傾斜軸受950における外輪952の動きに着目すると、外輪952は略リング状に形成された歳差部材940の内周面に固定されており、歳差部材940と同じ動きをする。歳差部材940は傾斜軸受950の動きに伴って軸方向に変位しながら回転しようとするが、半径方向外側に歯車部941を備えており、前固定部材910aと後固定部材910bに近接した部位の歯車部941が前固定部材910aと後固定部材910bの歯車911と噛み合うことにより、回転することはできず、傾斜軸受950の中心と入力軸の軸心との交点P2を中心とした歳差運動のみが取り出される。つまり、歯車部941と歯車911が回転抑止手段として機能することで、歳差部材940が歳差運動を行う際にも歳差部材940が軸心周りに回転することなく、歳差運動のみを確実に取り出すことができる。
【0103】
なお、第二実施例においては、図10に示すように、各軸受が転動体の保持器を有している。例えば入力軸受930は、入力軸受内輪931、入力軸受外輪932、入力軸受転動体933及び保持器934によって構成される。このように保持器を有する点は、他の軸受においても同様である。
【0104】
また、上記二つの実施例においては、入力軸部材820、920が半径方向内側に、出力軸部材860、960が半径方向外側に配設されたものが開示されているが、これに限ったものではなく、入力軸部材820、920を半径方向外側に配設し、出力軸部材860、960を半径方向内側に配設したものであっても構わない。その場合、出力軸部材860、960の外周面に波状溝WG1、WG2が形成され、出力軸部材860、960を覆うように歳差部材840、940が配設され、歳差部材840、940から半径方向内側に向けて駆動部材880、980が配設される。このような場合であっても、小型かつ大減速比または大増速比の動力伝達機構を提供することができる。
【0105】
以上、まとめると、本発明の効果は以下の通りとなる。
【0106】
本発明は、露出した外周面を有する棒状案内軸と、棒状案内軸の外周面の一部に圧入される筒状のスリーブと、スリーブの外周に固定される軸受と、軸受に固定されるとともに相手部材に対する固定部を有するハウジング部材とを備える回転案内装置である。
【0107】
棒状案内軸の露出した外周面が転がり案内面となるので、例えば1mm程度の極細径の溝内であっても転動することが可能な案内装置を構成することができる。棒状案内軸を転動させるにあたり、棒状案内軸を回転可能たらしめる軸受を固定する必要があるが、棒状案内軸に圧入した筒状のスリーブを用い、スリーブに軸受を固定させることで、棒状案内軸自体に加工を施すことなく、軸受を固定することができる。棒状案内軸自体に加工を施す必要がないため、棒状案内軸の外径を小さくしても強度が低下することがない。そのため、棒状案内軸の外径を極限まで小さくすることができ、装置自体の小型化・細径化が可能となる。しかも、単純な棒状の部材を用いるため、低コストで製造することが可能となる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述したこれらの実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0109】
また、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0110】
この発明の回転案内装置は、回転案内面を有する案内機構全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 動力伝達機構
100 回転案内装置
110 棒状案内軸
110a 案内面
110b 固定面
120 スリーブ
121 案内軸固定手段
121a 圧入
121b ネジ穴
121c イモネジ
122 軸受固定手段
122a 突出部
122b ネジ山部
122c ナット
123 傾斜面
130 軸受
131 内輪
132 外輪
133 転動体
134 保持器
140 ハウジング部材
141 フランジ部
142 固定部
143 凸部
150 スペーサ
151 貫通穴

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11