(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048577
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】装飾用組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20230331BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C09D1/00
C04B41/88 D
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157986
(22)【出願日】2021-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥浩
(72)【発明者】
【氏名】菊川 結希子
(72)【発明者】
【氏名】前野 吉秀
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038AA011
4J038HA061
4J038NA01
4J038PA19
4J038PB02
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】電子レンジによる加熱によりスパークせず、アルカリ洗浄によっても損傷しない十分な耐アルカリ性を有する銀色装飾膜を実現する装飾用組成物を提供する。
【解決手段】ここで開示される装飾用組成物は、セラミックス基材の銀色加飾に用いられ、少なくともPtを含む貴金属成分と、少なくともSiおよびBiを含むマトリクス形成成分とを含む。マトリクス形成成分は、さらに、Zr、Ti、CrおよびNiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する。貴金属成分とマトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、貴金属成分は70wt%以上90wt%以下であり、マトリクス形成成分は10wt%以上30wt%以下であり、該マトリクス形成成分中に上記元素を含む場合に、各元素はそれぞれ、Zrは2wt%以上、Tiは4wt%以上、Crは1.5wt%以上3wt%以下、Niは0.5wt%以上4wt%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、
少なくともPtを含む貴金属成分と、少なくともSiおよびBiを含むマトリクス形成成分と、を含み、
前記マトリクス形成成分は、さらに、Zr、Ti、CrおよびNiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有し、
前記貴金属成分と、前記マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、
前記貴金属成分は、70wt%以上90wt%以下であり、
前記マトリクス形成成分は、10wt%以上30wt%以下であり、
ここで、前記マトリクス形成成分中にZrを含む場合には、該Zrの含有量は2wt%以上であり、
前記マトリクス形成成分中にTiを含む場合には、該Tiの含有量は4wt%以上であり、
前記マトリクス形成成分中にCrを含む場合には、該Crの含有量は1.5wt%以上3wt%以下であり、
前記マトリクス形成成分中にNiを含む場合には、該Niの含有量は0.5wt%以上4wt%以下である、
装飾用組成物。
【請求項2】
前記重量比において、ZrおよびTiを含む場合には、該Zrと該Tiの合計の含有量は6wt%以上である、請求項1に記載の装飾用組成物。
【請求項3】
前記重量比において、Niを含む場合には、該Niの含有量は0.5wt%以上1wt%以下である、請求項1に記載の装飾用組成物。
【請求項4】
前記重量比において、前記貴金属成分は、以下の含有量で以下の貴金属元素:
Pt 70wt%以上90wt%以下;
Au 0wt%以上5wt%以下;
Rh 0wt%以上1wt%以下;
を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の装飾用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製品の装飾に用いられる装飾用組成物に関する。詳しくは銀色系色調を呈する装飾膜を形成するための装飾用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器、ガラス器、琺瑯器などのセラミックス製品の表面には、優美または豪華な印象を与えるために、金色や銀色の装飾膜が形成されることがある。かかる装飾膜は、例えば、貴金属成分とマトリクス形成成分とを含むペースト状の装飾用組成物をセラミックス製品の表面に塗布し、焼成することによって形成される。
【0003】
上記構成の装飾膜を有するセラミックス製品の中には、電子レンジによって加熱されることや、強アルカリ性洗剤を使用した高温環境下(例えば、自動食器洗浄機)で洗浄されることが想定される製品(例えば、食器等)がある。このため、かかるセラミックス製品の装飾膜は、電子レンジが発する高周波電磁波(例えば周波数2.45GHz程度)によってスパークせず、アルカリ洗浄によっても損傷し難いことが望ましい。このような装飾膜を形成するためのペーストの一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1では、耐電子レンジが発する高周波電磁波に晒されてもスパークが発生せず、損傷せず、かつ、マットゴールド調の艶消金色を呈する金装飾部を形成することができるペースト金について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電子レンジによる加熱によりスパークせず、アルカリ洗浄(例えば、自動食器洗浄機による洗浄)によっても損傷しない性質を有した装飾膜として、銀色を呈する装飾膜の実現が望まれている。このような銀色の装飾膜により、より一層優美または豪華な印象を与え得るセラミックス製品が実現される。
【0006】
そこで、本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電子レンジによる加熱によりスパークせず、アルカリ洗浄によっても損傷しない十分な耐アルカリ性を有する銀色装飾膜を実現する装飾用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、ここで開示される装飾用組成物は、セラミックス基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、少なくともPtを含む貴金属成分と、少なくともSiおよびBiを含むマトリクス形成成分と、を含む。上記マトリクス形成成分は、さらに、Zr、Ti、CrおよびNiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する。上記貴金属成分と、上記マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、上記貴金属成分は、70wt%以上90wt%以下であり、上記マトリクス形成成分は、10wt%以上30wt%以下であり、ここで、上記マトリクス形成成分中にZrを含む場合には、該Zrの含有量は2wt%以上であり、上記マトリクス形成成分中にTiを含む場合には、該Tiの含有量は4wt%以上であり、上記マトリクス形成成分中にCrを含む場合には、該Crの含有量は1.5wt%以上3wt%以下である。
【0008】
上記構成の装飾用組成物は、少なくともPtを貴金属成分として含み、少なくともSiおよびBiをマトリクス形成成分として含むことにより、好適な絶縁性が付与されて、電子レンジによる加熱によりスパークしない装飾膜を形成できる。さらに、マトリクス形成成分として、Zr、Ti、CrおよびNiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を所定の割合で含有することにより、アルカリ洗浄によっても損傷しない十分な耐アルカリ性を有する銀色装飾膜を実現する。
【0009】
ここで開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記重量比において、ZrおよびTiを含む場合には、該Zrと該Tiの合計の含有量は6wt%以上である。かかる構成によれば、好適な耐アルカリ性を有する銀色装飾膜を形成する。
【0010】
ここで開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記重量比において、Niを含む場合には、該Niの含有量は0.5wt%以上1wt%以下である。かかる構成によれば、より発色性および光沢性に優れる銀色装飾膜を形成することができる。
【0011】
ここで開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記重量比において、上記貴金属成分は、以下の含有量で以下の貴金属元素:
Pt 70wt%以上90wt%以下;
Au 0wt%以上5wt%以下;
Rh 0wt%以上1wt%以下;
を有する。かかる構成によれば、Ptの割合が高いため、より発色性および光沢性に優れる銀色装飾膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄(例えば、加飾されるセラミックス基材の製造方法等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」との表記は、A以上B以下を意味する。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0013】
ここに開示される装飾用組成物は、セラミックス基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、貴金属成分とマトリクス形成成分とを含む。貴金属成分は少なくとも白金(Pt)を含む。また、マトリクス形成成分は、少なくともケイ素(Si)およびビスマス(Bi)を含む。さらに、マトリクス形成成分は、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む。以下、ここに開示される装飾用組成物が含み得る各種成分について具体的に説明する。
【0014】
(1)貴金属成分
貴金属成分は、装飾用組成物の焼成体(すなわち、装飾膜)の着色に寄与する成分である。上述したように、ここに開示される装飾用組成物は、貴金属成分として少なくともPtを含む。また、Pt以外にも含み得る貴金属元素としては具体的に、金(Au)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等が挙げられる。なかでも、AuおよびRhが好ましい。なお、貴金属元素は、例えば、金属レジネート(金属の有機化合物)の状態で、装飾用組成物中に含まれ得る。なお、装飾用組成物中の貴金属元素の状態は、上述の金属レジネートに限定されず、錯体や重合体であってもよいし、金属粒子であってもよい。
【0015】
ここに開示される装飾用組成物中の貴金属成分の割合は、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、70wt%以上であることが好ましく、75wt%以上がより好ましい。これにより、装飾用組成物の焼成体における貴金属成分の割合が高くなり、かかる焼成体の発色が良好となる。また、ここに開示される装飾用組成物は、導電性の抑制や耐アルカリ性等の観点から後述するマトリクス形成成分を含むため、貴金属成分の割合は、例えば、90wt%以下であって、88wt%であってよく、85wt%以下であってよい。
次に、貴金属成分として装飾用組成物に含まれ得る貴金属元素について具体的に説明する。
【0016】
白金(Pt)は、装飾用組成物の焼成体において光沢のある銀色系色調を呈する成分である。Ptは、装飾用組成物に含まれる貴金属元素の中で主要な構成成分(即ち、Ptが装飾用組成物に含まれる貴金属成分のうち50wt%以上)である。Ptは、例えば、Ptレジネートの構成元素として装飾用組成物に含まれる。Ptレジネートは、焼成により、他の貴金属元素よりも粒子径の大きなPt粒子を形成する性質を有する。このため、Pt粒子は他の貴金属元素よりも焼結し難い性質を有している。これにより、装飾用組成物の装飾膜において、Pt粒子同士が隔離して配置され易くなるため、導電性が抑制される。この結果、ここに開示される装飾用組成物は、装飾膜中の導電性を低下させる成分(例えば、Si、Bi等のマトリクス形成成分)の含有量が低い場合であっても、電子レンジの加熱によりスパークしない装飾膜を実現することができる。
【0017】
またPtは、上述した貴金属元素の中でも、特に優れた発色を呈するため、優美又は豪華な印象を与える装飾膜を比較的容易に形成できるため好ましい。電子レンジに対応するセラミックス製品は、焼成処理後の装飾膜において貴金属領域の連続性が失われているため、装飾膜が黒ずんだ銀色になりがちである。しかしながら、貴金属成分の主要な構成成分としてPtを使用することにより、電子レンジに対応するセラミックス製品であっても、優れた発色の装飾膜を形成することができる。かかるPtによる効果をより好適に発揮させるという観点から、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Ptの割合は、50wt%以上であって、60wt%以上であってよく、70wt%以上であってよい。これにより、光沢があり、発色が良好な銀色を呈する装飾膜が実現される。一方で、Ptの割合が高すぎる場合、装飾用組成物の焼成体におけるPt粒子の数が過剰に多くなる。Pt粒子の上述したように粒子径は大きくなりがちであるため、装飾用組成物の焼成体の表面に高低差のある凸凹が生じ、光沢が損なわれ得る。そのため、上記重量比において、Ptの割合は、90wt%以下であることが適当であり、88wt%以下であってよく、85wt%以下であってよく、80wt%以下であってよい。
【0018】
金(Au)は、装飾用組成物の焼成体において銀色の色合いを調整する成分である。ここに開示される装飾用組成物は、Auを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。Auが含まれる場合には、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Auの割合は、例えば、0.1wt%以上であって、1wt%以上であってよく、例えば2wt%以上であってよい。これにより、発色が良好な銀色を呈する焼成体を実現することができる。一方で、Auの割合は、10wt%以下であって、8wt%以下であってよく、5wt%以下であってよく、4.1wt%以下であってよい。ここに開示される技術によれば、Auの割合をかかる範囲としても、発色が良好な銀色を呈する焼成体を実現することができる。また、Auは貴金属のなかでも高価であるため、Auを含まない、または、Auをかかる範囲とすることでコストを抑制することができる。
【0019】
ロジウム(Rh)は、焼成によって生じるPt粒子の粒子径の増大を抑制し、適度な粒子径を有するPt粒子の数を増加させることができる成分である。これにより、焼成体の強度が向上すると共に、焼成体の発色が良好となる。ここで開示される装飾用組成物は、Rhを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。Rhが含まれる場合には、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Rhの割合は、例えば、0.1wt%以上であって、0.5wt%以上が好まし。一方で、Rhの割合が高すぎる場合には、Pt粒子の粒子径が過剰に小さくなり得る。これにより、Pt粒子同士が焼結し易くなるため、焼成体中でPtが連続して配置され、導電性が高くなり得る。この結果、焼成体を電子レンジの加熱した際に、スパークする虞があるため好ましくない。そのため、Rhの割合は、例えば、3wt%以下であってよく、1wt%以下であるとよい。
【0020】
(2)マトリクス形成成分
本明細書において「マトリクス形成成分」とは、装飾用組成物の焼成体(装飾膜)において酸化物の状態で非晶質マトリクスを構築し得る金属元素と半金属元素とを包含する概念である。また、「非晶質マトリクス」とは、所定の金属元素および半金属元素の非晶質酸化物の(アモルファス構造の酸化物)が骨格となったうえで、種々の金属元素(または半金属元素)が酸化物として、または陽イオンの形態で、骨格内に存在している構造のことをいう。非晶質マトリクスを有する材料(非晶質材料)の一例として、ガラスが挙げられる。かかるマトリクス形成成分の元素の一例として、Si、Bi、Zr、Ti、Ni、Cr、Sm、Al、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Sn、Zn、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Li、Na、K、Rb、B、V、Fe、Cu、P、Sc、Pm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、In、Co等が挙げられる。なお、上述した貴金属元素の中には、焼成処理において一部が非晶質酸化物となって非晶質マトリクスの一部を構成し得る元素(Agなど)がある。しかし、本明細書では、便宜上、上記(1)貴金属元素にて挙げた元素はマトリクス形成成分とみなさないものとする。
また、貴金属元素と同様に、装飾用組成物中のマトリクス形成成分の形態は、特に限定されず、金属レジネート、錯体、重合体、微細な粒子(ガラスフリット)などの形態をとり得る。
【0021】
そして、ここに開示される装飾用組成物は、マトリクス形成成分を含む。該マトリクス形成成分は、少なくともケイ素(Si)およびビスマス(Bi)を含み、さらに、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む。ここに開示される装飾用組成物中のマトリクス形成成分の割合は、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、8wt%以上であることが好ましく、10wt%以上であることがより好ましく、15wt%以上が特により好ましい。これにより、装飾用組成物の焼成体におけるマトリクス形成成分の割合が高くなり、かかる焼成体の絶縁性と耐アルカリ性とが好適に向上する。また、ここに開示される装飾用組成物は、上述したように好適な発色の銀色装飾膜を得る観点から貴金属成分を含む必要があるため、マトリクス形成成分の割合は、例えば、30wt%以下であって、25wt%であってよく、22wt%以下であってよい。これにより、装飾用組成物を焼成した装飾膜において、絶縁性と耐アルカリ性とが高いレベルで両立され、装飾膜の破損が抑制される。さらに、装飾膜の銀色の発色も良好となる。以下、ここに開示される装飾用組成物のマトリクス形成成分について、具体的に説明する。
【0022】
上述したように、ここに開示される装飾用組成物は、マトリクス形成成分として、少なくともケイ素(Si)およびビスマス(Bi)を含む。かかるSiおよびBiは、装飾用組成物の焼成体(焼成処理後の装飾膜)において、上述した貴金属元素の間に配置されることで、導電性を抑制することができる。
ここに開示される装飾用組成物中のSiとBiの合計の含有量(割合)は、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、10wt%以上であることが好ましく、12wt%以上であってよい。これにより、装飾用組成物の焼成体における導電性を好適に低下させることができる。一方で、SiとBiの合計の含有量が高すぎる場合には、装飾用組成物の焼成体の光沢が失われ得る。このため、SiとBiの合計の含有量は、上記重量比において、例えば25wt%以下が好ましく、20wt%以下であってよく、17wt%以下であってよい。
【0023】
ケイ素(Si)は、焼成処理後に酸化ケイ素(SiO2)の状態で非晶質マトリクスの骨格を形成する成分である。また、Siは装飾膜の強度を向上させることができる。装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Siの割合は、5wt%以上であることが好ましく、6wt%以上がより好ましい。これにより、装飾用組成物の焼成体の導電性を好適に低下させることができる。また、Siの割合が高い場合、装飾用組成物の焼成体の光沢が損なわれ得る。そのため、Siの割合は、例えば、11wt%以下であってよく、10wt%以下であってもよい。
【0024】
ビスマス(Bi)は、焼成処理後に酸化ビスマス(Bi2O3)の状態で非晶質マトリクスの骨格を形成する成分である。また、Bi2O3は、非晶質マトリクス(ガラス)を軟化させる効果があるため、基材に対する接着性が向上する。かかる接着性の向上によって、アルカリ性の薬剤に暴露された際の装飾膜の剥離を抑制できる。装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Biの割合は、5wt%以上であることが好ましく、6wt%以上であってよい。かかる範囲であれば、装飾用組成物の焼成体の導電性を好適に低下させ、装飾膜とセラミックス基材との接着強度を好適に向上させることができる。また、Biの割合が高い場合、装飾用組成物の焼成体の光沢および発色が損なわれ得る。そのため、Biの割合は、例えば、10wt%以下であって、8wt%以下であってもよい。
【0025】
上述したとおり、ここに開示される装飾用組成物に含まれるマトリクス形成成分は、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む。これらの元素は、装飾膜において、耐化学性(特には耐アルカリ性)を向上させることができる。ここに開示される技術を限定する意図はないが、かかる効果が得られる理由は、以下のように推察される。上記元素(Zr、Ti、Cr、およびNi)は、酸化物(例えば、ZrO2等)の状態で非晶質マトリクス中に存在する。そして、これら元素の酸化物は、網目構造を修飾するイオンとして非晶質マトリクスの骨格(例えばケイ酸ガラス)と複合化し得る。該元素の酸化物は、単独材料として耐化学性(特には耐アルカリ性)が高いため、アルカリ成分の侵入を抑制し、装飾膜(焼成物)の剥離を好適に抑制する。また、アルカリ性薬剤の暴露によって該元素以外のマトリクス形成成分が溶出した後にも、かかる元素の成分は残留して被膜を形成し、焼成後の装飾膜の耐化学性を向上し得る。これら元素は1種類を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
本発明者らが行った実験によれば、実用上十分な耐アルカリ性を確保するためには、上述した元素のそれぞれの含有量について至適な量があることが確認されている。
ジルコニウム(Zr)は、装飾用組成物の焼成体において耐アルカリ性を向上させる成分である。装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Zrを含む場合にその含有量は、2wt%以上であることが好ましく、2.4wt%以上であることがより好ましい。これにより、耐アルカリ性が十分に確保された焼成体が実現される。一方で、上述した他の成分とのバランスの観点からZrの含有量は、6wt%以下であることが好ましく、5.3wt%以下であることがより好ましい。
【0027】
チタン(Ti)は、装飾用組成物の焼成体において耐アルカリ性および発色性を向上させる成分である。装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Tiを含む場合にその含有量は、3wt%以上であることが好ましく、4wt%以上であることがより好ましい。これにより、耐アルカリ性が十分に確保され、かつ、発色も良好な焼成体が実現される。一方で、他の成分とのバランスの観点からTiの含有量は、10wt%以下であることが好ましく、9wt%以下であることがより好ましい。
また、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、ZrおよびTiを含む場合にそれらの合計の含有量は、6wt%以上であることが好ましく、6.2wt%以上であることがより好ましい。一方で、他の成分とのバランスの観点からZrおよびTiの合計の含有量は、10wt%以下であることが好ましく、9wt%以下であることがより好ましい。
【0028】
クロム(Cr)は、装飾用組成物の焼成体において耐アルカリ性を向上させ、良好な発色性を確保する成分である。装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Crを含む場合にその含有量は、1wt%以上3.5wt%以下であることが好ましく、1.5wt%以上3wt%以下であることがより好ましい。かかる範囲内の割合でCrを添加することにより、耐アルカリ性が十分に確保され、かつ、発色も良好な装飾膜を得ることができる。
【0029】
ニッケル(Ni)は、装飾用組成物の焼成体において耐アルカリ性を向上させる成分である。装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、Niを含む場合にその含有量は、0.5wt%以上4wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上3.2wt%以下であることがより好ましい。これにより、耐アルカリ性が十分に確保された焼成体が実現される。また、Niの含有量が多すぎる場合には、装飾用組成物の焼成体の発色および光沢が失われ得る。かかる観点からは、Niの含有量は、0.5wt%以上1wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上0.8wt%以下がより好ましい。
【0030】
ここに開示される装飾用組成物は、ここに開示される技術の効果を損なわない範囲において、上述した元素以外の金属元素もしくは半金属元素をマトリクス形成成分として含有し得る。かかる他の元素としては、Al、Sn、Zn、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Li、Na、K、Rb、B、V、Fe、Cu、Pなどが挙げられる。他の元素は、装飾用組成物に含まれていなくてもよい。他の元素が装飾用組成物に含まれる場合には、装飾用組成物に含まれる貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、0.1wt%以上3wt%以下であってよく、0.1wt%以上2.5wt%以下であってよい。
【0031】
(3)他の成分
以上、ここに開示される装飾用組成物の貴金属成分とマトリクス形成成分について説明した。なお、ここに開示される装飾用組成物は、上述した成分の他に、セラミックス製品の表面への定着性や装飾膜の成形性等を考慮して種々の成分を添加されていると好ましい。以下、ここに開示される装飾用組成物に含まれ得る他の成分について説明する。ただし、以下で説明する他の成分は、ここに開示される技術の効果を著しく妨げない限りにおいて、装飾用組成物に使用され得る従来公知の成分を特に制限することなく使用することができる。すなわち、ここに開示される装飾用組成物は、その用途に応じて、上述した必須成分以外の成分を適宜変更することができる。
【0032】
まず、上述した通り、ここに開示される装飾用組成物は、貴金属成分とマトリクス形成成分のそれぞれを金属レジネートの状態で含有してもよい。この場合、装飾用組成物は、当該金属レジネートを形成するための有機化合物を含有する。有機化合物は、金属レジネートの生成に用いられ得る従来公知の樹脂材料を特に制限することなく使用することができる。かかる樹脂材料としては、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、アビエチン酸、ナフテン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸、ネオデカン酸等の高炭素数(例えば炭素数8以上)のカルボン酸;スルホン酸;ロジン等に含まれる樹脂酸;テレピン油、ラベンダー油等の精油成分を含む樹脂硫化バルサム、アルキルメルカプチド(アルキルチオラート)、アリールメルカプチド(アリールチオラート)、メルカプトカルボン酸エステル、アルコキシド等が挙げられる。
【0033】
また、貴金属成分とマトリクス形成成分のそれぞれを金属レジネートの状態で含有する装飾用組成物では、該金属レジネートを分散または溶解する有機溶媒が用いられていることが好ましい。かかる有機溶媒としては、従来からレジネートペーストに使用されているものや、水金液に使用されているものを特に制限なく使用することができる。例えば、1,4-ジオキサン、1,8-シネオール、2-ピロリドン、2-フェニルエタノール、N-メチル-2-ピロリドン、p-トルアルデヒド、安息香酸ベンジル、安息香酸ブチル、オイゲノール、カプロラクトン、ゲラニオール、サリチル酸メチル、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、シクロペンチルメチルエーテル、シトロネラール、ジ(2-クロロエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジヒドロカルボン、ジブロモメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ピロリドン、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プレゴン、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、テレピン油、ラベンダー油等が挙げられる。なお、これらの有機溶剤は、1種または2種以上を用いてもよい。なお、金属レジネートは、例えば、レジネートペーストとして市販されているため、かかるレジネートペーストをそのまま使用してもよい。
【0034】
装飾用組成物に含まれ得る溶媒の重量比は、装飾用組成物の塗布方法によって好適な範囲が異なるため特に限定されず、適宜調整すればよい。例えば、装飾用組成物全体を100wt%としたとき、溶媒の割合は、概ね10wt%~50wt%程度とすればよい。一例として、インクジェットで塗布する場合には、例えば、10wt%~50wt%とするのが好ましい。また、他の例として、刷毛塗りの場合には、例えば、10wt%~30wt%とするのが好ましい。
【0035】
装飾用組成物の粘度は、装飾用組成物の塗布方法によって適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。装飾用組成物の粘度は、例えば10mPa・s~500mPa・s程度とすればよい。なお、装飾用組成物の粘度は溶媒の量や樹脂バルサムの添加等により適宜調整することができる。
【0036】
なお、ここで開示される装飾用組成物は、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、適宜他の成分を付加的に含んでいてもよい。付加的な成分としては、例えば、有機バインダ、保護材、界面活性剤、分散剤、増粘剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤などが例示される。
【0037】
ここに開示される装飾用組成物は、例えば、少なくとも貴金属成分とマトリクス形成成分のそれぞれを含むように、所望の金属元素を含む材料を所定の割合になるように混合することで製造することができる。なお、上述した通り、ここに開示される装飾用組成物に含まれる貴金属成分とマトリクス形成成分の形態は、金属レジネートに限定されず、錯体、重合体、微細粒子であってもよい。なお、貴金属成分とマトリクス形成成分が金属レジネート以外の形態をとる場合には、上述した溶媒や付加的成分についても、該貴金属成分とマトリクス形成成分の形態に応じて適宜変更することが好ましい。例えば、微細粒子のような溶媒に溶解しない形態で、貴金属成分とマトリクス形成成分を含有させる場合には、当該微細粒子を適切に分散させることができる溶媒を選択するとともに、付加的成分として分散剤等を添加することが好ましい。
【0038】
ここに開示される装飾用組成物は、被装飾物としてのセラミックス基材の表面に装飾(加飾)を施すために用いることができる。装飾の作業は、装飾用組成物をセラミックス基材の表面に塗布(付与)した後、所定の温度で画付焼成することにより行い得る。好適な一例としては、釉薬を施した後の基材に対して装飾を施す「上絵付け」にここで開示される装飾用組成物が用いられる。上絵付けでは、釉薬の表面に装飾用組成物を塗布した後、700℃~1000℃程度の中温で画付焼成を行うとよい。また、ここに開示される装飾用組成物は、素焼きした生地(セラミックス基材)に対して装飾を施す「下絵付け」にも用いられ得る。下絵付けでは、装飾用組成物を生地に塗布した後、例えば、1200℃~1400℃程度の高温で画付焼成を行うとよい。なお、装飾用組成物の塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、スクリーン印刷、インクジェット印刷等挙げられる。
【0039】
以上のようにして、電子レンジによる加熱によりスパークせず、アルカリ洗浄によっても損傷しない十分な耐アルカリ性を有する銀色装飾膜を実現する装飾用組成物を得ることができる。また、これらの装飾用組成物を塗布して焼成することにより、光沢があり、発色が良好な銀色装飾部を備えるセラミックス製品を得ることができる。なお、ここでいう「セラミックス製品」には、陶器、磁器、土器、石器、ガラスなどが包含される。具体的な製品としては、例えば、食器、装飾器、各種タイル、衛生陶器、瓦、れんが、土管、陶管などが挙げられる。特に、ここに開示される技術によれば、銀色装飾部を備えた電子レンジ対応および食洗器対応食器が好適に実現される。
【0040】
以下、ここで開示される技術に関する試験例を説明するが、ここに開示される技術をかかる試験例に限定することを意図したものではない。
【0041】
1.耐電子レンジ性および耐アルカリ性の試験
本試験では、組成が異なる23種類の装飾用組成物(例1~例23)を調整し、耐電子レンジ性および耐アルカリ性を評価した。表1に示す組成となるように、貴金属成分およびマトリクス形成成分を混合した。なお、表1中の各数値は、装飾用組成物に含まれる貴金属成分とマトリクス形成成分との合計重量を100wt%としたときの重量割合(wt%)である。
【0042】
<装飾用組成物の調製>
各装飾用組成物の調整は具体的には、以下のように行った。まず、軟膏壺に各種原料を調合した。次いで、株式会社シンキー製の撹拌機(製品名:自転公転あわとり練太郎)を用いて、回転数1800rpmで2分間の混合を行った。このようにして、例1~23の装飾用組成物を調製した。以下、ここで用いた貴金属成分およびマトリクス形成成分の原料を示す。
Au:Auレジネート(金樹脂硫化バルサム)
Pt:Ptレジネート(白金樹脂硫化バルサム)
Rh:Rhレジネート(ロジウム樹脂硫化バルサム)
Bi:Biレジネート(ビスマス樹脂酸塩)
Si:Siレジネート(シリコン樹脂酸塩)
Zr:Zrレジネート(ジルコニウム樹脂酸塩)
Ti:Tiレジネート(チタン樹脂酸塩)
Cr:Crレジネート(クロム樹脂酸塩)
Ni:Niレジネート(ニッケル樹脂酸塩)
Al:Alレジネート(アルミニウム樹脂酸塩)
【0043】
【0044】
<装飾用組成物の付与および焼成>
釉薬が表面に施された白磁平板(縦:15mm、横:15mm)を準備し、上記調製した装飾用組成物(例1~例23のいずれか)を白磁平板の片側の表面全体に付与(塗布)した。かかる装飾用組成物の付与には、ミカサ株式会社製のスピンコーター:Opticoat MS-A-150を使用し、スピン条件を5000rpm、10秒間に設定した。装飾用組成物が付与された白磁平板を60℃のホットプレートで1時間乾燥させたのち、800℃で10分間焼成した。これにより、表面に銀色装飾膜が形成された白磁平板(例1~例23)を得た。
【0045】
<スパーク試験>
上記得られた白磁平板(例1~23)を電子レンジ(出力:1000W、電磁波:2.45GHz)で60秒間加熱した。これにより、耐電子レンジ性を評価した。スパークが発生しなかったものを「〇」、スパークが発生したものを「×」として、結果を表2に示す。
【0046】
<耐アルカリ性試験>
本試験では、100℃まで加熱して沸騰させた0.5wt%のNa2CO3水溶液(3L)に各例の試験片を30分間浸漬した。そして、浸漬後の試験片を水洗いし、ジルコンペーパーで10往復擦り付ける擦過試験を実施し、装飾膜に損傷が生じているか否かを観察した。これにより、耐アルカリ性を評価した。30%以上の装飾膜が残存したものを「○」、30%未満のものを「×」として、結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
表1および表2に示すように、Zrを2wt%以上含有する例4~例6、Tiを4wt%以上含有する例10および例11、Crを1.5wt%~3wt%含有する例13および例14、Niを0.5wt%~4wt%含有する例17~例20の装飾用組成物は、スパーク試験および耐アルカリ性試験の評価が良好(○)であった。また、ZrとTiの合計の含有量が6wt%以上である例22と、Zrを2wt%以上含有し、さらにその他元素としてAlを0.1wt%以上含有する例23についても、スパーク試験および耐アルカリ性試験の評価が良好であった。
すなわち、貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、貴金属成分が70wt%以上90wt%以下であり、マトリクス形成成分が10wt%以上30wt%以下であり、該マトリクス形成成分中に、Zrを含む場合に該Zrの含有量は2wt%以上であり、Tiを含む場合に該Tiの含有量は4wt%以上であり、Crを含む場合に該Crの含有量は1.5wt%以上3wt%以下であり、Niを含む場合に該Niの含有量は0.5wt%以上4wt%以下である装飾用組成物は、電子レンジによる加熱によりスパークせず、アルカリ洗浄によっても損傷しない十分な耐アルカリ性を有することがわかる。
【0049】
2.発色性の試験
本試験では、上記調製した装飾用組成物(例1~例23)を焼成して得られる銀色装飾膜について、さらに発色性および光沢性を評価した。
【0050】
<発色評価>
分光測色計を用いて、白磁平板が備える装飾膜のSCIモードにおけるL*値および8°グロス値を測定した。分光測色計として、コニカミノルタセンシング株式会社製の分光測色計:CM―700dを用いた。発色評価の基準として、L*値が60以上かつ8°グロス値が600以上であるときを「○」、L*値が60未満および/または8°グロス値が600未満であるときを「×」として示す。結果を表3に示す。
【0051】
【0052】
表3に示すように、例12、例19~例21は、L*値が60未満および/または8°グロス値が600未満であり、発色性および光沢性が不十分な銀色装飾膜となった。一方で、例12、例19~例21以外の装飾用組成物を焼成した装飾膜は、8°グロス値が600以上であって、L*値が60以上であり、発色が良好な光沢のある銀色を呈した。したがって、Niを含む場合に、発色性の観点からは、貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、0.5wt%以上1wt%以下であることがより好ましいことがわかる。
【0053】
以上の結果より、貴金属成分と、マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、貴金属元素が70wt%以上90wt%以下であり、マトリクス形成成分が10wt%以上30wt%以下であり、該マトリクス形成成分中に、Zr、Ti、CrおよびNiを所定の割合で含むことにより、耐電子レンジ性、耐アルカリ性に優れるだけでなく、光沢があり発色が良好な銀色装飾膜が実現されることがわかる。
【0054】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、
少なくともPtを含む貴金属成分と、少なくともSi、Bi、およびZrを含むマトリクス形成成分と、を含み、
前記貴金属成分と、前記マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、
前記貴金属成分は、70wt%以上90wt%以下であり、
前記マトリクス形成成分は、10wt%以上30wt%以下であり、
ここで、前記重量比におけるPtの含有量は70wt%以上であり、Zrの含有量は2wt%以上6wt%以下である、
装飾用組成物。
【請求項2】
前記マトリクス形成成分としてさらにTiを含み、かつ、前記重量比におけるZrとTiとの合計の含有量は6wt%以上10wt%以下である、請求項1に記載の装飾用組成物。
【請求項3】
セラミックス基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、
少なくともPtを含む貴金属成分と、少なくともSi、Bi、およびTiを含むマトリクス形成成分と、を含み、
前記貴金属成分と、前記マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、
前記貴金属成分は、70wt%以上90wt%以下であり、
前記マトリクス形成成分は、10wt%以上30wt%以下であり、
ここで、前記重量比におけるPtの含有量は70wt%以上であり、Tiの含有量は4wt%以上10wt%以下である、
装飾用組成物。
【請求項4】
セラミックス基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、
少なくともPtを含む貴金属成分と、少なくともSi、Bi、およびCrを含むマトリクス形成成分と、を含み、
前記貴金属成分と、前記マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、
前記貴金属成分は、70wt%以上90wt%以下であり、
前記マトリクス形成成分は、10wt%以上30wt%以下であり、
ここで、前記重量比におけるPtの含有量は70wt%以上であり、Crの含有量は1.5wt%以上3wt%以下である、
装飾用組成物。
【請求項5】
セラミックス基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、
少なくともPtを含む貴金属成分と、少なくともSi、Bi、およびNiを含むマトリクス形成成分と、を含み、
前記貴金属成分と、前記マトリクス形成成分との合計を100wt%とする重量比において、
前記貴金属成分は、70wt%以上90wt%以下であり、
前記マトリクス形成成分は、10wt%以上30wt%以下であり、
ここで、前記重量比におけるPtの含有量は70wt%以上であり、Niの含有量は0.5wt%以上4wt%以下である、
装飾用組成物。
【請求項6】
前記重量比において、Niの含有量は0.5wt%以上1wt%以下である、請求項5に記載の装飾用組成物。
【請求項7】
前記重量比において、Ptの含有量は70wt%以上90wt%以下であり、Auの含有量は0wt%以上5wt%以下であり、Rhの含有量は0wt%以上1wt%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の装飾用組成物。