(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048637
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】無人飛行体用機能拡張装置、及び観測方法
(51)【国際特許分類】
B64D 47/00 20060101AFI20230331BHJP
B64C 25/54 20060101ALI20230331BHJP
B64C 37/00 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
B64D47/00
B64C25/54
B64C37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158062
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 高文
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 毅
(72)【発明者】
【氏名】西 広人
(57)【要約】
【課題】浮体を有する無人飛行体に設置して水上における移動を安定させるとともに、この無人飛行体に水上及び空中をシームレスに移動させ、周囲の対象物を観測させる。
【解決手段】固定部11は、機能拡張装置1を無人飛行体2に固定する。観測部13は、周囲の対象物を観測する。移動部14は、機能拡張装置1が設置された状態の無人飛行体2が水上に浮いているとき、少なくとも一部が水没して無人飛行体2を水上に沿って移動させる。受電部12は、電磁誘導によって無人飛行体2から受電する。通信部15は、無人飛行体2を制御するプロセッサと無線通信する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体を有する無人飛行体に設置する機能拡張装置であって、
自装置を前記無人飛行体に固定する固定部と、
前記無人飛行体から受電する受電部と、
周囲の対象物を観測する観測部と、
前記無人飛行体が水上に浮いているとき、少なくとも一部が水没して該無人飛行体を水上に沿って移動させる移動部と、
を有する無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項2】
前記固定部が前記無人飛行体に接する複数の点の幾何中心を挟んで、前記観測部と、前記移動部とが互いに反対側となる位置にそれぞれ設けられている
請求項1に記載の無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項3】
前記無人飛行体に固定したときに、自装置の重心が該無人飛行体の重心を通る鉛直線上にある
請求項1又は2に記載の無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項4】
さらに、前記無人飛行体を制御するプロセッサと無線通信する通信部を有し、
前記観測部、及び前記移動部の少なくとも一方は、前記通信部を介して前記プロセッサにより制御される
請求項1から3のいずれか1項に記載の無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項5】
前記観測部は、前記対象物に音波又は電磁波である波を照射して該対象物における該波の反射を用いて自装置から該対象物までの距離又は該対象物の状態を観測する
請求項1から4のいずれか1項に記載の無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項6】
前記観測部は、観測された前記対象物を示すデータを生成する
請求項1から5のいずれか1項に記載の無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項7】
前記移動部は、前記無人飛行体を水上で移動させるスラスターと、該無人飛行体の移動する方向を変更するフィンを有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項8】
前記スラスターは、スクリュープロペラである
請求項7に記載の無人飛行体用機能拡張装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の無人飛行体用機能拡張装置を装備した無人飛行体を用いて、水上にある対象物を該対象物の上方、側方、下方から連続して観測する、
観測方法。
【請求項10】
前記無人飛行体に衛星測位システムの受信機を装備させ、該無人飛行体を用いて前記対象物の下方を観測する際、該受信機及び前記無人飛行体用機能拡張装置の観測部の少なくともいずれか一方を用いて該無人飛行体に自身の位置を確認させながら水上を移動させる、
請求項9に記載の観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人飛行体用機能拡張装置、及び観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
桟橋等の港湾構造物の点検は、従来、専門知識を有する技術者が小型船舶等に乗船してその港湾構造物の周辺水域まで移動し、その船上からその港湾構造物を実際に目視することによって行われている。
【0003】
しかし、技術者を乗船させる有人船舶は、斜杭や前垂れ部分等のように狭隘な箇所や、上部工下面と海面との距離が狭い箇所等に、接近したり、入り込んだりすることが構造的に困難である。また、潮の関係で有人船舶自体が入り込む余地がない場合もある。
【0004】
また、有人船舶は、たとえ小型ボートであっても、場所によっては海面に荷降ろすためにクレーンを準備する必要がある。そして、クレーンを利用するためには、その設置のためのエリアを確保しなければならない。
【0005】
さらに、有人船舶に乗船した技術者は、港湾構造物等を水面から観察することが可能であっても、水面から見て死角になる港湾構造物の上部を観察することができない。そのため、港湾構造物の上部は、有人船舶による点検とは別に点検をしなければならない。
【0006】
そこで、いわゆるドローン、UAV(unmanned aerial vehicle)等と呼ばれる小型の無人飛行体を、これら港湾構造物の点検に用いることが検討されている。
【0007】
特許文献1は、空中ルートの飛行及び水上ルートの航行が可能な移動体を用いて、水域及びその周辺の陸地についての探査測量を行う技術を開示している。
【0008】
特許文献2は、ドローンの重心と整合されこの重心より高い位置にある点にて、ドローンの進行の主方向に対して横向きに、ドローン本体に取外し可能に固定されたシャフトと、このシャフトの端部に、ドローン本体に対して対称に、互いに独立して回転自在に取り付けられた2つのリング要素と、を含むアクセサリを開示している。
【0009】
特許文献3は、飛行体と、この飛行体に取り付けられ、所定の画角内に存在する対象を観測する観測部と、を備えた観測装置を開示している。また、この文献には、降着装置が、水上を想定したフロートであってもよいことが記載されている。
【0010】
特許文献4は、無人機が水面に降着する場合、装着部材がアームに対してほぼ90度転動し、回転翼アセンブリの一部又は全部が水中に没し、駆動部材がプロペラの転動を駆動して、水面を航行して進行するための動力をこの無人機に提供することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2021-020672号公報
【特許文献2】特開2016-120907号公報
【特許文献3】特開2016-088121号公報
【特許文献4】特開2018-024431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
桟橋等の港湾構造物のうち、上部工の下方は、上部工に覆われていて航法衛星の電波が遮られるため全地球航法衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite System)を用いた位置測定が困難なエリアを有することがある。
【0013】
また、桟橋等の港湾構造物は、下部工の杭等によって複雑な風を発生させることがあり、桟橋下部及び下部周辺の空中を飛行する無人飛行体を操作することが難しい場合がある。さらに、この無人飛行体が水陸両用の無人飛行艇であっても、このような複雑な風の中では水上移動に特化した専用のスラスターが無い限り、安定した移動が困難な場合がある。
【0014】
本願の発明の目的の一つは、浮体を有する無人飛行体に設置することにより、この無人飛行体の水上における移動を安定させるとともに、この無人飛行体に水上及び空中をシームレスに移動させ、対象物を観測させる無人飛行体用機能拡張装置を提供することである。また本願の発明の目的の一つは、上述した無人飛行体用機能拡張装置を用いて、浮体を有する無人飛行体に、水上にある対象物を上方、側方、下方から連続して観測させる観測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に係る無人飛行体用機能拡張装置は、浮体を有する無人飛行体に設置する機能拡張装置であって、自装置を前記無人飛行体に固定する固定部と、前記無人飛行体から受電する受電部と、周囲の対象物を観測する観測部と、前記無人飛行体が水上に浮いているとき、少なくとも一部が水没して該無人飛行体を水上に沿って移動させる移動部と、を有する無人飛行体用機能拡張装置である。
【0016】
本発明の請求項2に係る無人飛行体用機能拡張装置は、請求項1に記載の態様において、前記固定部が前記無人飛行体に接する複数の点の幾何中心を挟んで、前記観測部と、前記移動部とが互いに反対側となる位置にそれぞれ設けられている無人飛行体用機能拡張装置である。
【0017】
本発明の請求項3に係る無人飛行体用機能拡張装置は、請求項1又は2に記載の態様において、前記無人飛行体に固定したときに、自装置の重心が該無人飛行体の重心を通る鉛直線上にある無人飛行体用機能拡張装置である。
【0018】
本発明の請求項4に係る無人飛行体用機能拡張装置は、請求項1から3のいずれか1項に記載の態様において、さらに、前記無人飛行体を制御するプロセッサと無線通信する通信部を有し、前記観測部、及び前記移動部の少なくとも一方は、前記通信部を介して前記プロセッサにより制御される無人飛行体用機能拡張装置である。
【0019】
本発明の請求項5に係る無人飛行体用機能拡張装置は、請求項1から4のいずれか1項に記載の態様において、前記観測部は、前記対象物に音波又は電磁波である波を照射して該対象物における該波の反射を用いて自装置から該対象物までの距離又は該対象物の状態を観測する無人飛行体用機能拡張装置である。
【0020】
本発明の請求項6に係る無人飛行体用機能拡張装置は、請求項1から5のいずれか1項に記載の態様において、前記観測部は、観測された前記対象物を示すデータを生成する無人飛行体用機能拡張装置である。
【0021】
本発明の請求項7に係る無人飛行体用機能拡張装置は、請求項1から6のいずれか1項に記載の態様において、前記移動部は、前記無人飛行体を水上で移動させるスラスターと、該無人飛行体の移動する方向を変更するフィンを有する、無人飛行体用機能拡張装置である。
【0022】
本発明の請求項8に係る無人飛行体用機能拡張装置は、請求項7に記載の態様において、前記スラスターは、スクリュープロペラである無人飛行体用機能拡張装置である。
【0023】
本発明の請求項9に係る観測方法は、請求項1から8のいずれか1項に記載の無人飛行体用機能拡張装置を装備した無人飛行体を用いて、水上にある対象物を該対象物の上方、側方、下方から連続して観測する、観測方法である。
【0024】
本発明の請求項10に係る観測方法は、請求項9に記載の態様において、前記無人飛行体に衛星測位システムの受信機を装備させ、該無人飛行体を用いて前記対象物の下方を観測する際、該受信機及び前記無人飛行体用機能拡張装置の観測部の少なくともいずれか一方を用いて該無人飛行体に自身の位置を確認させながら水上を移動させる、観測方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、浮体を有する無人飛行体に設置することにより、この無人飛行体の水上における移動を安定させるとともに、この無人飛行体に水上及び空中をシームレスに移動させ、周囲の対象物を観測させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】観測システム9の全体構成の例を示す概略図。
【
図2】機能拡張装置1、及び無人飛行体2の各構成の例を示す分解図。
【
図4】固定部11、観測部13、及び移動部14の配置の例を示す図。
【
図5】機能拡張装置1及び無人飛行体2の各重心の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<観測システムの全体構成>
以下、図において、各構成が配置される空間をxyz右手系座標空間として表す。また、図に示す座標記号のうち、円の中に点を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表す。空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を-x方向という。y、z成分についても、上記の定義に沿ってy軸方向、+y方向、-y方向、z軸方向、+z方向、-z方向を定義する。
【0028】
なお、図において-z方向は、重力の方向、つまり下方であり、+z方向は上方である。
【0029】
図1は、観測システム9の全体構成の例を示す概略図である。観測システム9は、機能拡張装置1、及び無人飛行体2を有する。
【0030】
図1に示す通り機能拡張装置1は、観測部13、及び移動部14(後述する)を有し、無人飛行体2に固定される。この機能拡張装置1は、無人飛行体2に設置されることで、この無人飛行体2の水上における安定した移動を実現するとともに、水上及び空中における周囲の対象物のシームレスな観測を可能にする。なお、本明細書中に記載する無人飛行体は、浮体を有する無人飛行体を意味する。
【0031】
図2は、機能拡張装置1、及び無人飛行体2の各構成の例を示す分解図である。機能拡張装置1は、
図2に示す通り、無人飛行体2の上から、この無人飛行体2に載せられ、この無人飛行体2の中央の上面にある凸部を囲むように固定される。
【0032】
<機能拡張装置の構成>
図2に示す機能拡張装置1は、固定部11、受電部12、観測部13、移動部14、及び通信部15を有する。
【0033】
図3は、機能拡張装置1を上から見た平面図である。固定部11は、機能拡張装置1を無人飛行体2に固定する。
図3に示す固定部11は、上述した凸部を囲む多角形の開口部が設けられた板状の部材である。この固定部11は、開口部の周りにビス止め用の複数の穴Pfを有する。
図3に示す例で、穴Pfは4つである。この固定部11は、これらの穴Pfがビス止めされることによって、機能拡張装置1(自装置)を無人飛行体2に固定する。
【0034】
なお、これら4つの穴Pfは、固定部が無人飛行体に接する複数の点の例である。そして、
図3に示す幾何中心Pcは、4つの穴Pfの座標の算術平均を示す中心点である。つまり、この幾何中心Pcは、固定部が無人飛行体に接する複数の点の幾何中心の例である。
【0035】
観測部13は、周囲の対象物を観測する。
図2に示す観測部13は、例えばLiDAR(light detection and ranging)であり、照射した電磁波の反射を検知して、その電磁波の伝播に要した時間から対象物を観測する。この観測部13は、機能拡張装置1から対象物までの距離と、この対象物の表面の形状、反射波の波長、反射波の反射率等と、を観測する。この表面の形状等から、対象物の状態が観測される。
【0036】
なお、観測部13は電磁波の他に音波を利用して対象物を観測してもよい。つまり、この観測部13は、対象物に音波又は電磁波である波を照射してその対象物における波の反射を用いて自装置からその対象物までの距離又はその対象物の状態を観測する観測部の例である。
【0037】
また、観測部13は、上述した距離、表面の形状、反射波の波長、反射波の反射率等に基づいて、観測された対象物を示すデータを生成してもよい。つまり、この観測部13は、観測された対象物を示すデータを生成する観測部の例である。
【0038】
なお、対象物を示すデータは、無人飛行体2のプロセッサ等、他の構成により生成されてもよい。この場合、観測部13は、観測した結果を示すデータのみを生成すればよい。
【0039】
移動部14は、機能拡張装置1が設置された状態の無人飛行体2が水上に浮いているとき、少なくとも一部が水没して無人飛行体2を水上に沿って移動させる。
【0040】
図4は、固定部11、観測部13、及び移動部14の配置の例を示す図である。
図4に示す観測部13と、移動部14とは、固定部11が無人飛行体2に接する4つの穴Pfの幾何中心Pcを挟んで互いに反対側となる位置に設けられている。つまり、この機能拡張装置1は、固定部が無人飛行体に接する複数の点の幾何中心を挟んで、観測部と、移動部とが互いに反対側となる位置にそれぞれ設けられている無人飛行体用機能拡張装置の例である。
【0041】
図5は、機能拡張装置1及び無人飛行体2の各重心の関係を示す図である。無人飛行体2の上部に機能拡張装置1が設置された観測システム9において、機能拡張装置1の重心P1は、
図5に示す通り、無人飛行体2の重心P2を通る鉛直線Lvの上に存在する。
【0042】
つまり、
図5に示すこの機能拡張装置1は、無人飛行体に固定したときに、自装置の重心がその無人飛行体の重心を通る鉛直線上にある無人飛行体用機能拡張装置の例である。
【0043】
この構成により、機能拡張装置1を設置しても、観測システム9の重心をxy平面に投影した点は、無人飛行体2の重心P2をxy平面に投影した点と一致する。そのため、機能拡張装置1を設置したとしても、無人飛行体2の前後左右のバランスに変化が生じにくい。
【0044】
図5に示す通り、機能拡張装置1を設置した無人飛行体2は、水上に浮き、水面WLよりも下に移動部14の一部が水没する。
【0045】
図6は、移動部14の構成の例を示す図である。
図6に示す移動部14は、フレーム140、支軸141、フィン142、及びスクリュープロペラ143を有する。
【0046】
フレーム140は、移動部14の+y方向側に設けられた部材であり、支軸141を支持する枠を構成する。
【0047】
支軸141は、z軸方向に伸びる棒状の部材であり、その上端と下端とがフレーム140に取り付けられ、+y方向に伸びるフィン142を揺動可能に支持する。
【0048】
フィン142は、支軸141によりz軸に平行な軸を中心に揺動する板状の部材であり、揺動の角度により、スクリュープロペラ143によって+y方向、又は-y方向に流される水の方向を変化させる。これにより、フィン142は、機能拡張装置1を設置した無人飛行体2の水上における移動方向に、+x方向、又は-x方向の成分を加えるため、水上に浮かんで進むときの観測システム9を右折又は左折させることができる。フィン142の揺動の角度は、例えば、通信部15を介して無人飛行体2のプロセッサにより制御される。
【0049】
スクリュープロペラ143は、y軸に平行な軸を中心に回転するプロペラであって、複数の羽根を回転させて周囲の水を+y方向、又は-y方向に移動させる。これにより、スクリュープロペラ143は、機能拡張装置1、及び機能拡張装置1が設置された無人飛行体2に、-y方向、又は+y方向の推進力を与える。
【0050】
つまり、このスクリュープロペラ143は、無人飛行体を水上で移動させるスラスターの例である。
【0051】
そして、この移動部14は、無人飛行体を水上で移動させるスラスターと、無人飛行体の移動する方向を変更するフィンを有する移動部の例である。
【0052】
受電部12は、電磁誘導によって無人飛行体2から受電する。受電部12によって得られた電力は、機能拡張装置1の各部に供給される。なお、受電部12は無人飛行体2の電源と、防水仕様の有線で接続して給電されるようにしてもよい。
【0053】
通信部15は、近距離無線通信(Near Field Communication、NFC)の規格、例えばISO/IEC18092(NFCIP-1)、ISO/IEC14443、ISO/IEC15693、又はIEEE802.15に準拠した方式で無線通信を行う通信回路である。
【0054】
この通信部15は、無人飛行体2を制御するプロセッサと無線通信する。これにより、上述した観測部13、及び移動部14の少なくとも一方は、この通信部15を介して無人飛行体2を制御するプロセッサにより制御される。
【0055】
また、機能拡張装置1は近距離無線通信に代えて無人飛行体2と有線で接続して通信を行うようにしてもよい。
【0056】
<無人飛行体の構成>
図2に示す無人飛行体2は、制御部21、給電部22、モータ23、ブレード24、通信部25、アーム26、浮体27、及び受信機28を有する。
【0057】
図2に示す無人飛行体2は、上述した凸部の内側に制御部21、給電部22、通信部25、及び受信機28を収容する。
【0058】
また、
図2に示す無人飛行体2は、モータ23、ブレード24、アーム26、及び浮体27をそれぞれ4つずつ有する。
【0059】
制御部21は、プロセッサ、及びメモリを有する。制御部21のプロセッサは、メモリに記憶されているコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)を実行することにより無人飛行体2の各部を制御する。
【0060】
制御部21のプロセッサは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)であってもよいし、FPGAを含んでもよい。また、このプロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、他のプログラマブル論理デバイスを有し、これらによって制御を行ってもよい。また、このプロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の、汎用的なプロセッサであってもよい。
【0061】
制御部21のメモリは、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等であってもよい。このメモリは、上述したプログラムのほか、プロセッサに読み込まれるオペレーティングシステムやデータ等を記憶する。
【0062】
給電部22は、例えばリチウムポリマーバッテリ等の電源、及びこの電源に接続された電磁誘導結合回路を有する。給電部22は、電源からの電力を電磁誘導結合回路によって外部装置へ無線給電する機能を有する。
【0063】
図2に示す給電部22は、機能拡張装置1が固定部11によって無人飛行体2に固定されると、受電部12との距離が決められた範囲内になり、受電部12と電磁結合する。これにより、この給電部22は、受電部12に電力を供給する。なお、給電部22は、受電部12との電磁結合が不安定であれば、有線により電力を供給してもよい。
【0064】
通信部25は、上述したNFCの規格に準拠した方式で無線通信を行う通信回路である。この通信部25は、制御部21のプロセッサと通信部15との無線通信を仲介する機能を有する。
【0065】
図2に示す通信部25は、機能拡張装置1が固定部11によって無人飛行体2に固定されると、通信部15との距離が決められた範囲内になり、通信部15と無線により接続する。通信部25と通信部15との間に無線通信が確立することにより、機能拡張装置1は制御部21のプロセッサに制御される。なお、機能拡張装置1は、通信部15を介した通信状況が不安定であれば、無人飛行体2の通信部25と有線接続して通信するようにしてもよい。また、通信部15は、無線、及び有線の両方の通信方法を併用してもよい。
【0066】
アーム26は、無人飛行体2の中央の筐体からxy平面に沿ってz軸を中心に放射状に伸びた四本の棒状の部材である。
図2に示す隣り合う2本のアーム26が成す角度はいずれも90度である。これら4本のアーム26は、それぞれ先端にモータ23を支持している。
【0067】
モータ23は、z軸に平行な軸を中心に回転力を生じさせる電動機である。このモータ23は、ブレード24と接続されており、ブレード24を回転させる。
【0068】
ブレード24は、モータ23によって回転すると、周囲の空気を-z方向に流して無人飛行体2を上昇させる揚力を発生させる。
【0069】
浮体27は、モータ23の下(-z方向)に設けられている。この浮体27は、水に浮くように材質、及び形状が決められている。浮体27は、例えば、ポリプロピレン等の樹脂で形成されていてもよい。また、浮体27は、アルミ等の金属を加工して形成された、中空円柱状の部材であってもよい。なお、浮体27は、下端に向かって外形寸法が小さくなる先細形状を有してもよい。
【0070】
図2に示す4つの浮体27は、一部が水に没したときに無人飛行体2、及び無人飛行体2に設置された機能拡張装置1の少なくとも一部を水面WL上に浮かせるだけの浮力を生じさせればよい。
【0071】
受信機28は、例えば、全地球航法衛星システム、地域航法衛星システム等の衛星測位システムの受信機である。受信機28は、人工衛星から発射される信号を用いて自機の位置を測定する。
【0072】
<観測システムを用いた観測方法>
上述した通り、観測システム9は、機能拡張装置1を無人飛行体2に装備したものである。観測システム9は、無人飛行体2のモータ23、及びブレード24によって発生した揚力により空中を自在に飛行することができる。観測システム9は、空中を飛行して水上にある桟橋等の港湾構造物の上方等を移動し、この港湾構造物を対象物として上方や側方から、観測部13を用いて観測する。
【0073】
また、観測システム9は、機能拡張装置1の移動部14により、水面WLに浮かんでいるときにも水上で移動することができる。これにより、観測システム9は、水上を移動しながら観測部13により、対象物である港湾構造物の側方、又は下方から、この対象物を観測する。
【0074】
また、無人飛行体2は、
図5に示すように、本体下部に水中カメラCを追加して設置することもできる。この水中カメラCを用いれば、無人飛行体2は、着水時に観測部13によって対象物である港湾構造物の水上部を観察するとともに、水中カメラCによって港湾構造物の水中部の画像データを併せて取得することもできる。港湾構造物の水中部とは、例えば、水中の基礎杭等である。なお、水中カメラCは、水面下の全体を視野に収める半球型のレンズを搭載したカメラであってもよい。また、水中カメラCの視野が限定される場合、無人飛行体2は、フィン142とスクリュープロペラ143により水中カメラCのレンズの向きを港湾構造物に合わせてもよい。
【0075】
無人飛行体2を空中で移動させるブレード24と、水上で移動させる移動部14とは、別体である。無人飛行体2はブレード24だけでは空中の様に水上を移動することはできないが、観測システム9は、ブレード24を用いて空中を飛行した後、着水した後に移動部14を駆動させることで、連続して水上を移動することができる。
【0076】
つまり、この観測システム9を用いた対象物の観測方法は、無人飛行体用機能拡張装置を装備した無人飛行体を用いて、水上にある対象物をその対象物の上方、側方、下方から連続して観測する観測方法の例である。
【0077】
観測システム9は、無人飛行体2に装備した上述の受信機28を用いて、無人飛行体2に自身の位置を確認させながら水上を移動させてもよい。また、特に無人飛行体2が対象物の下方を観測する場合、無人飛行体2は、受信機28、及び無人飛行体2に設置された機能拡張装置1の観測部13の少なくともいずれか一方を用いて、自身の位置を確認してもよい。
【0078】
港湾構造物の下方に受信機28があるとき、受信機28は航法衛星からの信号を受信できないことがある。そこで、無人飛行体2の制御部21は、受信機28が受信不能になったことを検知すると、並行して稼働させている観測部13の観測データから自身の位置を確認すればよい。例えば、観測部13がLiDARである場合、無人飛行体2の制御部21は、連続的に観測した周辺の対象物までの距離、及び対象物の形状と、予め記憶している基準点の位置とを照合して、現在の自己位置を推定すればよい。
【0079】
また、無人飛行体2の制御部21は、メモリに予め記憶されたエリアマップとLiDARである観測部13が観測した周囲の形状とを比較することにより、自己位置を推定する、いわゆるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を行ってもよい。
【0080】
つまり、この場合における観測システム9を用いた対象物の観測方法は、無人飛行体に衛星測位システムの受信機を装備させ、その無人飛行体を用いて対象物の下方を観測する際、その受信機及び無人飛行体用機能拡張装置の観測部の少なくともいずれか一方を用いてその無人飛行体に自身の位置を確認させながら水上を移動させる観測方法の例である。
【0081】
また、無人飛行体2は、港湾構造物の下方にいる際に、船上にいる操作者によって操作されるようにしてもよい。この場合、無人飛行体2は、船上にいる操作者の目視によって確認されながら操作される。なお、この場合、操作者は、目視で確認しにくい箇所に関して、観測部13のLiDARによる観測データを参照して操作することが望ましい。
【0082】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組合せてもよい。
【0083】
<1>
上述した実施形態において、観測部13と、移動部14とは、固定部11が無人飛行体2に接する4つの穴Pfの幾何中心Pcを挟んで互いに反対側となる位置に設けられていたが、これらの配置はこの限りでない。
【0084】
また、機能拡張装置1の重心P1は、無人飛行体2の重心P2を通る鉛直線Lvの上に存在していたが、この上に存在していなくてもよい。また、重心P1は、重心P2と一致していてもよい。
【0085】
なお、幾何中心Pcと重心P1との関係について限定していないが、幾何中心Pcと重心P1とは一致していてもよい。
【0086】
<2>
上述した実施形態において、通信部15、及び通信部25は、近距離無線通信の規格に準拠した方式で無線通信を行っていたが、他の方式で通信を行ってもよい。例えば、無人飛行体2は、固定部11と接続する部位に有線のインタフェースを備えてもよい。通信部15、及び通信部25は、このインタフェースを介して有線で相互に通信してもよい。
【0087】
また、通信部15、及び通信部25の少なくとも一方は、いわゆる無線LANの規格、例えばIEEE802.11に準拠した方式により、図示しない通信回線に接続された無線アクセスポイントと接続してもよい。
【0088】
また、通信部15又は通信部25が、無線LANによって無線アクセスポイントと接続する場合、無人飛行体2を制御するプロセッサは無人飛行体2に内蔵されなくてもよい。この場合、観測システム9の遠隔に配置されたプロセッサは、通信回線を介して通信部15又は通信部25と接続し、無人飛行体2、及び機能拡張装置1の少なくとも一方を制御すればよい。
【0089】
<3>
上述した実施形態において、観測部13は、対象物に音波又は電磁波である波を照射してその対象物におけるその波の反射を用いて自装置から対象物までの距離又はその対象物の状態を観測していた。しかし、観測部13は、波を照射しなくてもよい。例えば、観測部13は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサや、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等の撮像素子等を備えるデジタルスチルカメラであってもよい。なお、この場合、無人飛行体2は、港湾構造物の下方で港湾構造物を観測する際に、LiDARによる自己の位置推定が出来ないため、船上にいる操作者により自己の位置を確認された上で操作されることが望ましい。
【0090】
<4>
上述した実施形態において、無人飛行体2を水上で移動させる移動部14に設けられたスラスターはスクリュープロペラ143であったが、移動部14は、他のスラスターを有してもよい。例えば、移動部14は、スラスターとしてダクトファンやウォータージェットを有してもよい。
【0091】
上述した実施形態では、移動部14は1か所であったが、移動部14を機能拡張装置1の左右2か所一組で増設することも可能である。これによって、無人飛行体2の水上での移動がより容易となる。
【0092】
また、移動部14は、一つのフィン142を有していたが、移動部14を固定している部材の両端部のz軸方向にフィン142を追加してもよい。これによって移動する方向の調整がより容易となる。
【0093】
<5>
上述した実施形態において、無人飛行体2は、衛星測位システムの受信機28を装備していたが、これを装備しなくてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…機能拡張装置、11…固定部、12…受電部、13…観測部、14…移動部、140…フレーム、141…支軸、142…フィン、143…スクリュープロペラ、15…通信部、2…無人飛行体、21…制御部、22…給電部、23…モータ、24…ブレード、25…通信部、26…アーム、27…浮体、28…受信機、9…観測システム、Pc…幾何中心、P1…重心、P2…重心、Lv…鉛直線、WL…水面。