(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048644
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】電力系統解析装置、電力系統解析方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158074
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀行
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AE01
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】電力系統の潮流計算において発生した不安定性の原因を解析する作業コストを削減し、コンピュータによる潮流計算の求解性を向上させる。
【解決手段】電力系統解析装置(10)は、解析対象の電力系統に関する系統データ(201)を取得するデータ取得部(1)と、取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する演算部(2)とを有し、前記系統データに含まれるPVノードの内部構成は、目標となる出力電力の値が指定される第1ノード(301)と、電圧が指定される第2ノード(302)と、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチ(303)とによって定義され、前記演算部は、前記第1ノードの無効電力の出力値および前記第2ノードの電圧指定値を前記ブランチの潮流により演算することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象の電力系統に関する系統データを取得するデータ取得部と、
取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する演算部と、を有し、
前記系統データに含まれるPVノードの内部構成は、目標となる出力電力の値が指定される第1ノードと、電圧が指定される第2ノードと、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチとによって定義され、
前記演算部は、前記第1ノードの無効電力の出力値および前記第2ノードの電圧指定値を前記ブランチの潮流により演算する
電力系統解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統解析装置において、
前記演算部は、入力された前記系統データに基づいて、前記系統データ内のPVノードの内部構成を、前記第1ノードと、前記第2ノードと、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチとによって定義する
電力系統解析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力系統解析装置において、
計算の試行回数をn、前記PVノードの電力の目標値をPn、電力の初期値をPo、n回目の試行時の代表ノード301の電圧をXva
n、n回目の試行時の背後ノード302の電圧をXvb
n、n+1回目の試行時の前記PVノードの電流の総和をIn+1、PVノードの指定電圧をVo、n回目の試行時の前記PVノードの電圧をVin、n回目の試行時のPVノードの無効電力をQn、kjを任意のパラメータ(固定値)、xを指定値としたとき、前記演算部は、下記式(1)乃至(4)に基づいて、n+1回目の試行時の前記PVノードの電圧Vbn+1を算出する
電力系統解析装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の電力系統解析装置において、
前記演算部は、潮流計算中のPQノードの負荷演算において、直前の試行によって得られたPQノードの電圧の算出値の大きさと所定の閾値との比較により演算式が切り替わる機能を有する
電力系統解析装置。
【請求項5】
逐次代入法により定常断面の電力潮流計算を行う電力系統解析装置であって、
解析対象の電力系統に関する系統データを取得するデータ取得部と、
取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する演算部と、を有し、
前記演算部は、潮流計算中のPQノードの負荷演算において、直前の試行によって得られたPQノードの電圧の算出値の大きさと所定の閾値との比較により演算式が切り替わる機能を有する
電力系統解析装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電力系統解析装置において、
前記PQノードの電力の目標値をP、試行回数がn回目の前記PQノードの電圧をVn、試行回数がn+1回目の前記PQノードの電圧Vn+1、前記PQノードの負荷特性の切替指定電圧をVbとしたとき、
前記演算部は、|Vn|>Vbの場合に下記式(5)および下記式(7)に基づいて、前記PQノードの電圧Vn+1を算出し、|Vn|≦Vbの場合に下記式(6)および下記式(7)に基づいて、前記PQノードの電圧Vn+1を算出する
電力系統解析装置。
【数5】
【数6】
【数7】
【請求項7】
請求項6に記載の電力系統解析装置において、
前記PQノードの負荷特性の切替指定電圧は、任意の値に設定可能である
電力系統解析装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の電力系統解析装置において、
前記演算部による潮流計算の収束状況に基づいて、前記系統データの潮流計算の収束を判定する収束判定部と、
前記収束判定部による判定結果に基づいて、データを生成するデータ生成部と、を更に有する
電力系統解析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力系統解析装置において、
前記収束判定部は、PVノードの電力の算出値と目標値との比較結果に基づいて、前記PVノードが定態不安定であるか否かを判定する
電力系統解析装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電力系統解析装置において、
前記収束判定部は、不安定なPVノードを検出した場合に、算出した当該PVノードの電力の最大値を定態安定限界出力値とする
電力系統解析装置。
【請求項11】
請求項8乃至10の何れか一項に記載の電力系統解析装置において、
前記収束判定部は、PQノードの負荷特性が定電力特性から定電流特性に切り替わったことを検出した場合に、当該PQノードは運用不可と判定する
電力系統解析装置。
【請求項12】
コンピュータが、解析対象の電力系統に関する系統データを取得するデータ取得ステップと、
前記コンピュータが、取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する潮流計算実行ステップと、を含み、
前記系統データに含まれるPVノードの内部構成は、目標となる出力電力の値が指定される第1ノードと、電圧が指定される第2ノードと、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチとによって定義され、
前記潮流計算実行ステップは、前記コンピュータが、前記第1ノードの無効電力の出力値および前記第2ノードの電圧指定値を前記ブランチの潮流により演算するステップを含む
電力系統解析方法。
【請求項13】
請求項12に記載の電力系統解析方法における各ステップを前記コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統を解析するための電力系統解析装置、電力系統解析方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統(電力システム)の運用計画を立てるためには、その電力系統の解析を行う必要がある。電力系統の解析技術の一つとして、交流潮流計算(以降、潮流計算と呼称)が知られている。
【0003】
潮流計算は、有効電力(P)と無効電力(Q)が送電系統を流れる様子(電力潮流)を模擬した数式を基に行われる。電力潮流を表す数式は非線形であるので、潮流計算では、反復法により解を求めることが一般的である。
【0004】
潮流計算では、反復法として、ニュートン・ラフソン法(Newton-Raphson Method、以下、「NR法」とも称する。)が広く用いられているが、逐次代入法を用いることも提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】関根泰次、外4名、「電力系統工学」、株式会社コロナ社、1979年3月15日 初版第1刷発行。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
逐次代入法の潮流計算を用いた定常状態解析プログラムでは、解析対象の電力系統を構成するノードの電圧や需要情報、ブランチのインピーダンスや充電容量などの情報やこれらの接続関係を示す情報、および解析に必要な各種パラメータの情報等とを含む系統データに基づいて、電力潮流を表す数式を導出し、その数式を解くことにより電力潮流を求めている。
【0007】
ここで、従来の逐次代入法の潮流計算における有効電力・電圧指定ノード(以下、「PVノード」とも称する。)の計算モデルについて説明する。
【0008】
潮流計算における計算(反復計算)の試行回数をn(nは整数)としたとき、n+1回目の試行におけるPVノードの電圧Vn+1は、以下に示す式(1)乃至(4)に基づいて算出される。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
上記式(1)乃至(4)において、Pは、目標となる電力の出力値、VtはPVノードの電圧の指定値、ziは算出対象のPVノードに接続されたブランチiのインピーダンス、Yiは対地アドミタンス、Xvrは算出対象のPVノードの電圧、Xvsiは算出対象のPVノードにブランチiを挟んで対向するノードの電圧、Pn=P+jQn(Qは無効電力の出力値)である。
【0014】
図10は、従来の逐次代入法におけるPVノードの計算モデルの概念図である。
図10に示すように、PVノードは、電圧が指定されるノードである。そのため、算出対象のPVノードの電圧Xvnが指定値Vnと等しいとして、「Xvn=Vn」という式を連立し、指定された試行回数nまで繰り返し計算を行うことにより、PVノードの電圧Vn+1が求められる。
【0015】
逐次代入法による定常状態潮流計算では、電力系統において電力が送電可能限界を超えている場合、計算過程においてPVノードの電圧アングルの数値振動(動揺)が発生し、定態不安定が発生していることを検出することができる。しかしながら、複数の発電機が存在する多機系統においては、不安定なPVノードの動揺が他のPVノードに伝搬することにより、安定しているPVノードが動揺し、定態不安定の原因となっているノードを特定することが困難となる場合があった。また、定態不安定となったPVノードの安定出力限界値を求めるためには、データ上の出力値を少しずつ変えながら動揺しない出力値を探るしか手段がなかった。
【0016】
次に、従来の逐次代入法の潮流計算における有効・無効電力指定ノード(以下、「PQノード」とも称する。)の計算モデルについて説明する。
【0017】
PQノードの電流In+1は、当該PQノードの負荷の電力をPoとしたとき、下記式(5)で表される。
【0018】
【0019】
ここで、PQノードは、負荷が指定されるノードであるため、PQノードに流入する電流の総和が負荷に等しいとして、下記式(6)を連立方程式に組み込んで次の試行回数nにおけるノードの電圧Xvを求める。
【0020】
【0021】
逐次代入法による潮流計算では、PQノードの負荷の電力Poが送電可能限界を超えている場合、計算過程でPQノードの電圧Xvが数値振動するため、電圧不安定を検出することが可能となる。しかしながら、特定のPQノードの電流の振動が発生した場合、周辺のノードに広く波及して周辺のノードの電流も動揺し、その動揺の大きさはノードにおける負荷の大きさにも依存するため、電流の振動状況からその振動の原因となったPQノードを特定することが困難であった。
【0022】
このように、従来の逐次代入法の潮流計算のアルゴリズムでは、電力系統において不安定な状態が発生した場合に、その原因となるノードを特定することが困難であった。
【0023】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、電力系統の潮流計算において発生した不安定性の原因を解析する作業コストを削減し、コンピュータによる潮流計算の求解性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の代表的な実施の形態に係る電力系統解析装置は、解析対象の電力系統に関する系統データを取得するデータ取得部と、取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する演算部とを有し、前記系統データに含まれるPVノードの内部構成は、目標となる出力電力の値が指定される第1ノードと、電圧が指定される第2ノードと、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチとによって定義され、前記演算部は、前記第1ノードの無効電力の出力値および前記第2ノードの電圧指定値を前記ブランチの潮流により演算することを特徴とする。
【0025】
また、代表的な実施の形態に係る別の電力系統解析装置は、逐次代入法により定常断面の電力潮流計算を行う電力系統解析装置であって、解析対象の電力系統に関する系統データを取得するデータ取得部と、取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する演算部と、を有し、前記演算部は、潮流計算中のPQノードの負荷演算において、直前の試行によって得られたPQノードの電圧の算出値の大きさと所定の閾値との比較により演算式が切り替わる機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る電力系統解析装置によれば、電力系統の潮流計算において発生した不安定性の原因を解析する作業コストを削減し、コンピュータによる潮流計算の求解性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施の形態に係る電力系統解析装置の機能ブロック構成を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る電力系統解析装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る電力系統解析装置における収束判定部およびデータ生成部の機能ブロック構成を示す図である。
【
図5】
図4に示した電力系統におけるPVカーブの一例を示す図である。
【
図6】実施の形態に係る潮流計算のアルゴリズムによるPQノードの負荷特性の切り替え方法を説明するための図である。
【
図7】実施の形態に係る潮流計算におけるPVノードを表すノード・ブランチ図である。
【
図8A】安定時のPVノードの出力特性の一例を示す図である。
【
図8B】定態不安定時のPVノードの出力特性の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態に係る電力系統解析装置10によるデータ解析処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】従来の逐次代入法におけるPVノードの計算モデルの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0029】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係る電力系統解析装置(10)は、解析対象の電力系統に関する系統データ(201)を取得するデータ取得部(1)と、取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する演算部(2)とを有し、前記系統データに含まれるPVノードの内部構成は、目標となる出力電力の値が指定される第1ノード(301)と、電圧が指定される第2ノード(302)と、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチ(303)とによって定義され、前記演算部は、前記第1ノードの無効電力の出力値および前記第2ノードの電圧指定値を前記ブランチの潮流により演算することを特徴とする。
【0030】
〔2〕上記〔1〕に記載の電力系統解析装置において、前記演算部は、入力された前記系統データに基づいて、前記系統データ内のPVノードの内部構成を、前記第1ノードと、前記第2ノードと、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチとによって定義してもよい。
【0031】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の電力系統解析装置において、計算の試行回数をn、前記PVノードの電力の目標値をPn、電力の初期値をPo、n回目の試行時の代表ノード301の電圧をXvan、n回目の試行時の背後ノード302の電圧をXvbn、n+1回目の試行時の前記PVノードの電流の総和をIn+1、PVノードの指定電圧をVo、n回目の試行時の前記PVノードの電圧をVin、n回目の試行時のPVノードの無効電力をQn、kjを任意のパラメータ(固定値)、xを指定値としたとき、前記演算部は、下記式(11)乃至(14)に基づいて、n+1回目の試行時の前記PVノードの電圧Vbn+1を算出してもよい。
【0032】
〔4〕上記〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載の電力系統解析装置において、前記演算部は、潮流計算中のPQノードの負荷演算において、直前の試行によって得られたPQノードの電圧の算出値の大きさと所定の閾値との比較により演算式が切り替わる機能を有していてもよい。
【0033】
〔5〕本発明の代表的な実施の形態に係る別の電力系統解析装置は、逐次代入法により定常断面の電力潮流計算を行う電力系統解析装置であって、解析対象の電力系統に関する系統データを取得するデータ取得部と、取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する演算部と、を有し、前記演算部は、潮流計算中のPQノードの負荷演算において、直前の試行によって得られたPQノードの電圧の算出値の大きさと所定の閾値との比較により演算式が切り替わる機能を有することを特徴とする。
【0034】
〔6〕上記〔4〕または〔5〕に記載の電力系統解析装置において、前記PQノードの電力の目標値をP、試行回数がn回目の前記PQノードの電圧をVn、試行回数がn+1回目の前記PQノードの電圧Vn+1、前記PQノードの負荷特性の切替指定電圧をVbとしたとき、前記演算部は、|Vn|>Vbの場合に下記式(8)および下記式(10)に基づいて、前記PQノードの電圧Vn+1を算出し、|Vn|≦Vbの場合に下記式(9)および下記式(10)に基づいて、前記PQノードの電圧Vn+1を算出してもよい。
【0035】
〔7〕上記〔6〕に記載の電力系統解析装置において、前記PQノードの負荷特性の切替指定電圧は、任意の値に設定可能であってもよい。
【0036】
〔8〕上記〔1〕乃至〔7〕の何れかに記載の電力系統解析装置において、前記演算部による潮流計算の収束状況に基づいて、前記系統データの潮流計算の収束を判定する収束判定部(3)と、前記収束判定部による判定結果に基づいて、データを生成するデータ生成部(4)と、を更に有していてもよい。
【0037】
〔9〕上記〔8〕に記載の電力系統解析装置において、前記収束判定部は、PVノードの電力の算出値と目標値との比較結果に基づいて、前記PVノードが定態不安定であるか否かを判定してもよい。
【0038】
〔10〕上記〔9〕に記載の電力系統解析装置において、前記収束定部は、不安定なPVノードを検出した場合に、算出した当該PVノードの電力の最大値を定態安定限界出力値としてもよい。
【0039】
〔11〕上記〔8〕乃至〔10〕の何れかに記載の電力系統解析装置において、前記収束判定部は、PQノードの負荷特性が定電力特性から定電流特性に切り替わったことを検出した場合に、当該PQノードにおいて運用不可と判定してもよい。
【0040】
〔12〕本発明の代表的な実施の形態に係る電力系統解析方法は、コンピュータが、解析対象の電力系統に関する系統データを取得するデータ取得ステップと、前記コンピュータが、取得した前記系統データの潮流計算を逐次代入法によって実行する潮流計算実行ステップと、を含み、前記系統データに含まれるPVノードの内部構成は、目標となる出力電力の値が指定される第1ノードと、電圧が指定される第2ノードと、前記第1ノードと前記第2ノードとを接続するブランチとによって定義され、前記潮流計算実行ステップは、前記コンピュータが、前記第1ノードの無効電力の出力値および前記第2ノードの電圧指定値を前記ブランチの潮流により演算するステップを含むことを特徴とする。
【0041】
〔13〕本発明の代表的な実施の形態に係るプログラムは、上記〔12〕に記載の電力系統解析方法における各ステップを前記コンピュータに実行させるためのプログラムであることを特徴とする。
【0042】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0043】
図1は、実施の形態に係る電力系統解析装置の機能ブロック構成を示す図である。
同図に示される電力系統解析装置10は、電力系統の潮流計算を行う装置である。電力系統解析装置10は、例えば、PCやサーバ等の情報処理装置(コンピュータ)であって、インストールされた電力系統解析用プログラムにしたがって潮流計算を実行する。具体的には、電力系統解析装置10は、入力された、解析対象の電力系統に関する系統データ201に基づいて、逐次代入法による潮流計算を行う。
【0044】
電力系統解析装置10は、逐次代入法により潮流計算を行う機能に加えて、入力された系統データ201の収束および不安定性の判定を行う機能を有している。
【0045】
図1に示すように、電力系統解析装置10は、系統データに基づいて潮流計算を行うとともに系統データの収束および不安定性を判定するデータ解析処理を実現するための機能ブロックとして、データ取得部1、計算実行部5、およびデータ生成部4を備えている。
【0046】
図2は、実施の形態に係る電力系統解析装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0047】
図2に示すように、電力系統解析装置10は、ハードウェア資源として、演算装置101、記憶装置102、入力装置103、I/F(Interface)装置104、出力装置105、およびバス106を備えている。
【0048】
演算装置101は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによって構成されている。記憶装置102は、演算装置101に各種のデータ処理を実行させるためのプログラム1021と、演算装置101によるデータ処理で利用されるパラメータや演算結果等のデータ1022とを記憶する記憶領域を有し、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD、およびフラッシュメモリ等から構成されている。
【0049】
ここで、プログラム1021は、本実施の形態に係る電力解析方法に係る各処理(ステップ)をコンピュータ(CPU)に実行させるためのプログラムを含み、例えば、記憶装置102に予めインストールされている。
【0050】
なお、プログラム1021は、ネットワークを介して流通可能であってもよいし、CD-ROM等のコンピュータが読み取り可能な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)に書き込まれて流通可能であってもよい。
【0051】
入力装置103は、外部から情報の入力を検出する機能部であり、例えばキーボード、マウス、ポインティングデバイス、ボタン、またはタッチパネル等から構成されている。I/F装置104は、外部との情報の送受を行う機能部であり、有線または無線によって通信を行うための通信制御回路や入出力ポート、アンテナ等から構成されている。
【0052】
出力装置105は、演算装置101によるデータ処理によって得られた情報等を出力する機能部である。出力装置105としては、例えば、SSDやHDD等の外部記憶装置や、LCD(Liquid Crystal Display)および有機EL(Electro Luminescence)等の表示装置等である。バス106は、演算装置101、記憶装置102、入力装置103、I/F装置104、および出力装置105を相互に接続し、これらの装置間でデータの授受を可能にする機能部である。
【0053】
図1に示した電力系統解析装置10の機能ブロックは、
図2に示した情報処理装置のハードウェア資源が当該情報処理装置にインストールされたソフトウエア(電力系統解析用プログラム)と協働することによって、実現される。すなわち、電力系統解析装置10は、演算装置101が記憶装置102に記憶したプログラム1021に従って演算を実行して、記憶装置102、入力装置103、I/F装置104、出力装置105、およびバス106を制御することにより、
図1に示した、データ取得部1、計算実行部5、およびデータ生成部4が実現される。
【0054】
以下、電力系統解析装置10を構成する各機能ブロックの概要について説明する。
【0055】
データ取得部1は、ユーザからの指示や各種データを入力する機能部である。
データ取得部1は、解析対象である電力系統の系統データ201を取得する。例えば、データ取得部1は、キーボード等の入力装置103を介して、ユーザからの電力系統解析処理の実行の指示が入力された場合に、取得した系統データ201に基づく電力系統解析処理の実行を各機能ブロックに対して指示する。
【0056】
ここで、系統データ201は、解析対象の電力系統内のノードおよびブランチの各種パラメータや、計算を行う上での各種パラメータ情報とを含むデータである。
【0057】
計算実行部5は、系統データ201に基づいて計算を行う機能部である。計算実行部5は、例えば、演算部2および収束判定部3を含む。
【0058】
演算部2は、系統データ201に基づいて潮流計算を実行する機能部である。例えば、演算部2は、逐次代入法によって、データ取得部1によって取得した解析対象の系統データ201の潮流計算を実行する。
【0059】
例えば、演算部2は、データ取得部1を介して潮流計算の実行を指示する指令が入力された場合に潮流計算を開始し、データ取得部1を介して潮流計算の停止(中断)を指示する指令が入力された場合に、実行中の潮流計算を停止する。
なお、演算部2による潮流計算の詳細については後述する。
【0060】
収束判定部3は、演算部2による計算結果に基づいて、系統データ201に基づく潮流計算が収束したか否かを判定する機能部である。
【0061】
図3は、実施の形態に係る電力系統解析装置10における収束判定部3およびデータ生成部4の機能ブロック構成を示す図である。
【0062】
図3に示されるように、収束判定部3は、安定性判定部31、計算経過データ生成部34、および収束有無判定部35を有する。
【0063】
安定性判定部31は、電力系統の電圧不安定性および定態安定性を判定する不安定性判定処理を実行する機能部である。安定性判定部31は、例えば、送電限界を超過しているPQノードの有無を判定する処理(以下、「送電限界超過判定処理」とも称する。)を行う送電限界超過判定部32と、定態安定度不安定なPVノードの有無を判定する処理(以下、「安定限界超過判定処理」とも称する。)を行う安定限界超過判定部33とを含む。
【0064】
計算経過データ生成部34は、演算部2による潮流計算の計算状況を示す計算経過データ204を出力する。例えば、計算経過データ生成部34は、演算部2による潮流計算の実行中に、その潮流計算の進行状況や収束判定部3による判定結果等を示す情報を計算経過データ204として出力する。計算経過データ204に含まれる情報は、例えば、電力系統解析装置10の出力装置105としての表示装置(例えば液晶ディスプレイ等)に表示されて、ユーザに提示される。
【0065】
データ生成部4は、各種データを生成して出力する機能部である。
図3に示すように、データ生成部4は、不安定検出結果データ生成部42および計算結果データ生成部43とを有する。
【0066】
不安定検出結果データ生成部42は、系統データ201に基づく潮流計算が収束不可能と判定された場合に、系統データ201が不安定要素を含むことを示す不安定検出結果データ202を出力する。
【0067】
計算結果データ生成部43は、演算部2による潮流計算の計算結果(例えば、各ノード電圧と各ブランチ潮流)を示す計算結果データ203を出力する。計算結果データ203に含まれる情報は、例えば、計算経過データ204と同様に、電力系統解析装置10の出力装置105としての表示装置に表示されて、ユーザに提示される。
【0068】
次に、各機能ブロックによる具体的な処理内容について説明する。
(1)演算部2
演算部2は、系統データ201に基づいて潮流計算を実行する。演算部2は、潮流計算を実行する前に、系統データ201の整合性を判定する処理(以下、「整合性判定処理」とも称する。)を行ってもよい。
【0069】
ここで、整合性判定処理とは、系統データ201に含まれる重複するノードおよびブランチの有無、未接続の機器の有無、および異電圧に接続されているブランチの有無(例えば、66kVの送電線ブランチであるにも関わらず、275kVの母線に接続されている場合)等、潮流計算を実行する上で不整合を引き起こす系統データ201の文法的な誤りの有無を判定し、必要に応じて、重複しているノード、ブランチおよびパラメータの削除や、系統データに合わせて制御系データの有効/無効の切り替え等の編集を行う処理である。
【0070】
演算部2は、整合性判定処理が行われた系統データ201を用いて、潮流計算を実行する。具体的には、演算部2は、以下に示す計算方法によって、潮流計算を実行する。
【0071】
【0072】
上記式(8)は、演算部2による潮流計算のアルゴリズムの基本式であって、電力潮流を電流に換算している。式(7)において、Ipは指定の有効電力Pを電流値に換算したものであり、Iqは指定の無効電力を電流値に換算したものである。式(7)は、一次式であるため直接解法で解を求めることができる。
【0073】
電力潮流を電流に換算する場合、換算時の電圧と解となる電圧の差により誤差を生じるため、演算部2は、式(7)を解いて得られた解から換算しなおして、指定の電力値まで再計算を繰り返す。
【0074】
ここで、本アルゴリズムにおけるPQノードおよびPVノードの計算モデルについて説明する。先ず、PQノードについて説明する。
【0075】
本アルゴリズムにおいて、PQノードの計算モデルは以下のように表される。
すなわち、PQノードの負荷特性は、PQノードの電圧に応じて、定電力負荷特性と定電流負荷特性との間で切り替わる。
具体的には、PQノードの電力の目標値P(=P+jQ)
に対して、潮流計算の試行回数をn(nは1以上の整数)とし、PQノードの負荷特性の切替指定電圧をVbとしたとき、n回目の試行時の電圧(電圧ベクトル)Vn
とn回目の試行時の電流(換算電流ベクトル)Inとの関係は、|Vn|>Vbの場合に下記式(8)で表され、|Vn|≦Vbの場合に下記式(9)で表される。
【0076】
【0077】
【0078】
上記式(8)は、PQノードの負荷特性を定電力特性とみなしたときの電圧Vnと電流Inとの関係を表している。上記式(9)は、PQノードの負荷特性を定電流特性とみなしたときの電圧Vnと電流Inとの関係を表している。
【0079】
【0080】
上記式(10)は、n回目の試行時の電流(換算電流ベクトル)Inから(n+1)回目の試行時の電圧(電圧ベクトル)Vn+1を算出するための式である。
【0081】
演算部2は、逐次代入法の潮流計算において、上記式(8)乃至(10)を用いる。すなわち、演算部2は、直前の試行(n回目)によって得られたPQノードの電圧Vnの算出値が所定の閾値としての切替指定電圧Vbより大きいとき(|Vn|>Vb)、当該PQノードの負荷特性を定電力特性とみなして、上記式(8)および式(10)を用いて当該PQノードの電圧Vn+1を算出し、直前の試行によって得られた当該PQノードの電圧Vnの算出値が切替指定電圧Vbより小さいとき(|Vn|≦Vb)、当該PQノードの負荷特性を定電流特性とみなして、上記式(9)および式(10)を用いて当該PQノードの電圧Vn+1を算出する。
【0082】
ここで、PQノードの負荷特性の切替指定電圧Vbは、任意の値に設定可能であり、ユーザーが運用可能な下限とする電圧を指定する。例えば、ユーザが電力系統解析装置10の入力装置103を操作して切替指定電圧Vbの値を入力した場合、データ取得部1が入力された値を取得し、演算部2がデータ取得部1によって取得した値を切替指定電圧Vbとして設定し、潮流計算を行う。
【0083】
このように、PQノードの負荷特性を電圧に応じて切り替えることにより、送電限界需要を超えている場合であっても、仮の解を得て、潮流計算を収束させることが可能となる。以下、この点について更に詳細に説明する。
【0084】
潮流計算において、PQノードの送電限界は、電圧安定性に起因する。
図4は、電力系統の等価回路の一例を示す図である。
図5は、
図4に示した電力系統におけるPVカーブの一例を示す図である。
【0085】
図4において、Vsは送電電圧、Vrはノード電圧(受電点)、Rは負荷の抵抗、Zは、受電点(ノード電圧)Vrから系統側をみたテブナン等価インピーダンスである。
【0086】
図4に示した電力系統の等価回路において、抵抗Rの負荷のノード電圧Vrと受電電力Pとの関係は、
図5に示されるPVカーブ600として描くことができる。
【0087】
図5において、PVカーブ600上のノード電圧(受電点)Vrから系統側をみたテブナン等価インピーダンスZと負荷インピーダンスRの間には以下に示す関係がある。
すなわち、|Z|=|R|となるとき、PQノードの受電電力Pが最大(P=Pmax)となる。受電電力Pが最大となるときの電圧Vr_pよりもノード電圧Vrが高くなる側(高め解側)では、ノード電圧Vrが下がると受電電流が増加し、受電電力Pも増加する。このとき、受電電力Pをインピーダンス換算したときの換算値Rは、ノード電圧(受電点)Vrからみたテブナン等価インピーダンスZよりも大きい。
【0088】
一方、受電電力Pが最大となるときの電圧Vr_pよりもノード電圧Vrが低くなる側(低め解側)では、ノード電圧Vrが下がると受電電流が増加するが、受電電力は減少する。このとき、受電電力Pをインピーダンス換算したときの換算値Rは、ノード電圧(受電点)Vrからみたテブナン等価インピーダンスZよりも小さい。
【0089】
従来の逐次代入法の潮流計算のアルゴリズムでは、|Z|<|R|(高め解側)の場合、Vrは解を持ち、RnはRに収束するが、|Z|>|R|(低め解側)の場合、試行を繰り返すごとにVrおよびRnは発散する。
【0090】
これに対し、本実施の形態に係る逐次代入法の潮流計算のアルゴリズムでは、上述したように、PQノードの電圧が切替指定電圧Vbより低くなった場合に、当該PQノードの負荷特性を定電力特性から定電流特性に切り替えるので、低め解側であっても仮の解を得て、PVカーブの低め側において収束させることが可能となる。
【0091】
図6は、実施の形態に係る潮流計算のアルゴリズムによるPQノードの負荷特性の切り替え方法を説明するための図である。
【0092】
図6に示すように、切替指定電圧VbをPVカーブ600のノーズ電圧より少し上の電圧(例えば、運用下限電圧等)に設定しておく。切替指定電圧Vbより大きい運転点が存在する場合には、当該PQノードの負荷が定電力特性となって電力の指定値で収束する(
図6の参照符号601)。一方、切替指定電圧Vbより大きい運転点が存在しない場合であっても、当該PQノードの負荷が定電流特性となることにより、送電限界需要を超えていてもPVカーブの低め側において収束できる(
図6の参照符号602)。
【0093】
なお、当該PQノードの負荷が定電流特性である場合であっても、電力の指定値が大きすぎる場合には、解が得られず、試行を繰り返すごとにVrおよびRnが発散することになる(
図6の参照符号603)。
【0094】
このように、本実施の形態に係る逐次代入法の潮流計算のアルゴリズムによれば、送電限界超過が発生する場合であっても、潮流計算を収束させることが可能となる。潮流計算が収束すれば計算結果を得ることができる。切替指定電圧Vbを運用下限電圧に指定すれば、得られた計算結果から負荷特性が切り替わったPQノードを識別すれば、それが運用下限電圧を下回っており運用不可なPQノードであることが判別できる。運用下限電圧をPVカーブのノーズ電圧より高く設定すれば、送電限界超過なPQノードは運用不可PQノードに含まれる。
【0095】
次に、本アルゴリズムにおけるPVノードついて説明する。
本アルゴリズムにおいて、PVノードの計算モデルは以下のように表される。
【0096】
図7は、実施の形態に係る潮流計算におけるPVノードを表すノード・ブランチ図である。
【0097】
本実施の形態に係る潮流計算では、PVノードを1ノードのモデルではなく、2ノード・1ブランチのモデルで表す。具体的には、
図7に示すように、PVノードは、目標となる出力電力の値が指定される第1ノードとしての代表ノード301と、電圧が指定される第2ノードとしての背後ノード302と、代表ノード301と背後ノード302とを接続するブランチ303とによって定義される。
【0098】
演算部2は、入力された系統データ201に基づいて、系統データ201内のPVノードの内部構成を、代表ノード301と、背後ノード302と、前記代表ノード301と背後ノード302とを接続するブランチ303とによって定義する。
【0099】
演算部2は、代表ノード301の無効電力の出力値および背後ノード302の電圧指定値をブランチ303の潮流により演算する。具体的には、演算部2は、代表ノード301の電流総和に基づいて代表ノードの電圧Vanを算出するとともに、背後ノード302に指定された電圧に基づいて、背後ノード302の電圧Vbnを算出する。
【0100】
具体的には、計算の試行回数をn、PVノードの電力の目標値をPn、電力の初期値をPo、n回目の試行時の代表ノード301の電圧をXvan、n回目の試行時の背後ノード302の電圧をXvbn、n+1回目の試行時のPVノードの電流の総和をIn+1、PVノードの指定電圧をVo、n回目の試行時のPVノードの電圧をVin、n回目の試行時のPVノードの無効電力をQn、kjを任意のパラメータ(固定値)、xを指定値としたとき、演算部2は、下記式(11)乃至(14)に基づいて、n+1回目の試行時のPVノードの電圧Vbn+1を算出する。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
これらの式の特徴は、PVノードにおける無効電力Qの計算式と電圧Vn(Vbn)の計算式を別けた点である。無効電力Qは式(11)の第2項に相当し、電圧Vnを求める計算式は式(14)Vbn+1の式に相当する。
【0106】
なお、計算条件として、PVノードの指定値Xは、ユーザによって任意に設定可能である。指定値Xは、系統データ201に含まれていてもよいし、
図1におけるデータ取得部1にパラメータとして値を設定しておいてもよい。
【0107】
従来のPVノードの計算モデルでは、電圧Xvs,Xvrの値から算出される無効電力Qの値がゼロに近づいた条件下において、電圧Vnがほとんど変化しなくなり、収束が困難となる場合があった。これに対し、本PVノードの計算モデルでは、式(14)から理解されるように、式(14)には無効電力Qが含まれていないため、無効電力Qがゼロに近づいた条件下においても、電圧Vbnの変化量が得られ、電圧Xvbnが回転し易くなる。
【0108】
上述したように、PVノードを2ノード・1ブランチのモデルとして定義するための処理は演算部2によって自動的に行われるので、系統データ201中のPVノードを2ノード・1ブランチのモデルとして予め定義しておく必要はない。
【0109】
図8Aおよび
図8Bは、PVノードの出力特性の一例を示す図である。
図8Aおよび
図8Bにおいて、横軸は電圧アングルを示し、縦軸はPVノードの電力の出力を示している。
図8Aには、安定時におけるPVノードの電圧アングルに対する出力特性が示され、
図8Bには、定態不安定時におけるPVノードの電圧アングルに対する出力特性が示されている。
【0110】
図8Aに示すように、安定時には、PVノードの出力値(代表ノードと系統を接続するブランチ潮流の合計)が出力目標値に収束する。一方、
図8Bに示すように、定態不安定時には、無効電力Qの値が0に近づいた条件下においても、PVノードの出力値が出力目標値に到達せず、電圧アングルに応じて変動する。
【0111】
したがって、PVノードの出力値をトレースして、PVノードの出力の最大値を出力目標値と比較することにより、定態不安定であるか否かを判定することが可能となる。すなわち、変動するPVノードの出力の最大値が出力目標値を下回っていれば定態不安定と判定することが可能であり、このときPVノードが電圧や出力の制限範囲を超えていなければ出力最大値が送電可能限界値と推定することができる。
【0112】
(2)収束判定部3
収束判定部3は、演算部2による計算結果に基づいて、系統データ201に基づく潮流計算が収束したか否かを判定する。具体的には、上述したように、収束判定部3は、(i)送電限界超過判定処理と、(ii)安定限界超過判定処理とを行う。以下、(i),(ii)の夫々の処理について詳細に説明する。
【0113】
(i)送電限界超過判定処理
収束判定部3の送電限界超過判定部32は、演算部2による潮流計算において、系統データ201に含まれるノードのうちノード電圧の計算値が所定の範囲を逸脱したPQノードが存在する場合(例えば、ノード電圧の大きさの振動幅が所定の閾値を継続して超えたPQノードが存在する場合)に、送電限界の超過が発生したと判定する。
【0114】
上述したように、本実施の形態に係る潮流計算のアルゴリズムでは、PQノードの電圧が切替指定電圧Vbより低くなった場合に、当該PQノードの負荷特性を定電力特性から定電流特性に切り替えるので、送電限界超過が発生する場合であっても、PVカーブの低め側において収束解を得ることが可能となる。
【0115】
したがって、PQノードが負荷特性が切り替わって収束してしまうと計算過程の数値振動が発生しないため送電限界超過判定では検出されない。負荷特性が切り替わって収束した場合は、負荷特性が切り替わったPQノードの明示と共に計算結果データ(203)として出力される。すなわち、収束判定部3は、PQノードの負荷特性が定電力特性から定電流特性に切り替わったことを検出した場合に、当該PQノードは運用不可と判定するとともに、負荷特性が切り替わったPQノードを示す情報と計算結果とを含む計算結果データ203を出力する。
【0116】
図6の参照符号603に示したように、電力の指定値が大きすぎてVrおよびRnが発散して収束しない場合にも同様に、送電限界超過判定部32は、送電限界の超過が発生したと判定する。
【0117】
なお、負荷特性が切り替わったPQノードが電圧不安定か否かを確実に検出する方法は以下である。例えば、第1条件として負荷特性が切り替わらない状態で計算結果が収束しないこと(数値振動が継続すること)、および第2条件としてPQノードの負荷特性の切替指定電圧Vbをノーズ電圧付近に指定して計算し、負荷特性が切り替わって収束するノードがあることの両方を満たすとき、負荷特性が切り替わって収束したPQノードが電圧不安定であると判断することが可能である。
【0118】
(ii)安定限界超過判定処理
安定限界超過判定部33は、演算部2による潮流計算において、系統データ201に含まれるノードのうち電力の出力が出力目標値に到達しないPVノードが存在する場合に、安定限界の超過(定態不安定)が発生すると判定する。
【0119】
上述したように、本実施の形態に係る潮流計算のアルゴリズムでは、PVノードを2ノード・1ブランチのモデルで表しているので、無効電力Qの値が0に近づいた条件下においても、不安定時のPVノード出力(代表ノードと系統を接続するブランチ潮流の合計)が変動するため、PVノード出力は、電圧アングルの変化とともに変動する。
【0120】
したがって、収束判定部3の安定限界超過判定部33は、PVノードの電力の算出値と目標値との比較結果に基づいて、当該PVノードが定態不安定であるか否かを判定する。すなわち、安定限界超過判定部33は、
図8Bに示したように、変動するPVノードの出力の最大値が出力目標値を下回っている場合に、当該PVノードが定態不安定であると判定する。また、安定限界超過判定部33は、不安定なPVノードを検出した場合に、算出した当該PVノードの電力の最大値を送電可能限界値とする。
【0121】
データ生成部4の不安定検出結果データ生成部42は、安定限界超過判定部33によって定態不安定のPVノードが検出された場合に、そのPVノードの情報と、当該PVノードの送電可能限界値(出力の最大値)の情報とを含むデータを生成し、不安定検出結果データ202として出力する。
【0122】
具体的に、送電限界超過判定部32によって送電限界の超過の発生が検出された場合、または安定限界超過判定部33によって安定限界の超過の発生が検出された場合には、データ生成部4の不安定検出結果データ生成部42が、上述したように不安定検出結果データ202を生成して出力する。
【0123】
一方、収束有無判定部35は、送電限界超過判定部32によって送電限界の超過の発生が検出されず、且つ安定限界超過判定部33によって安定限界の超過の発生が検出されない場合には、演算部2による潮流計算において、系統データ201に含まれるノードの電圧のn回目の試行時の計算値Vnと、当該ノードの電圧の(n+1)回目の試行時の計算値Vn+1との差と所定の閾値Vthとを比較する。収束有無判定部35は、上記差が所定の閾値より低くなった場合に、系統データ201に基づく潮流計算が収束したと判定する。
【0124】
例えば、収束有無判定部35は、演算部2による潮流計算の計算結果が下記式(15)を満足した場合に、系統データ201に基づく潮流計算が収束したと判定する。すなわち、系統データ201に基づく潮流計算において、系統データ201における全てのノードの最大の差(Vin-Vin+1)が閾値Vthより小さくなった場合に、当該系統データ201に基づく潮流計算が収束したと判定する。
【0125】
【0126】
次に、電力系統解析装置10によるデータ解析処理の概略的な流れについて説明する。
【0127】
図9は、実施の形態に係る電力系統解析装置10によるデータ解析処理の流れを示すフローチャートである。
【0128】
先ず、電力系統解析装置10において、データ取得部1が、解析対象の系統データ201を取得する(ステップS1)。
【0129】
次に、演算部2が、ステップS1で取得した系統データ201の潮流計算を開始する。具体的には、先ず、演算部2が、入力された解析対象の系統データ201に基づいて、各ノードの電圧変数XVn(nは整数)の初期値Xv0を設定する(ステップS2)。次に、演算部2が、上述したPVノードおよびPQノードの計算モデルを用いて、ステップS2で設定した初期値Xv0からPQノードの電流(電流総和)I1を算出するとともにPVノードの電圧V1を算出する(ステップS3)。次に、演算部2が、下記式(1)に基づいて電圧変数Xv1を算出する(ステップS4)。
【0130】
【0131】
次に、演算部2が、ステップS4で算出した電圧変数Xv1に基づいて、PQノードの電流I2を算出するとともに、PVノードの電圧V2を算出し(ステップS3)、上記式(1)に基づいてXv2を算出する(ステップS4)。
【0132】
演算部2による潮流計算の実行中に、収束判定部3は、演算部2による潮流計算(ステップS3,S4)の計算値に基づいて、解析対象の電力系統の安定性について判定を行う(ステップS5)。具体的には、送電限界超過判定部32が、上述した手法により送電限界超過判定処理を実行するとともに、安定限界超過判定部33が、上述した手法により安定限界超過判定処理を実行し、潮流計算において、ステップS1で取得した系統データ201に含まれる何れかのノードが不安定になる状態が検出されたか否かを判定する。また、収束判定部3は、負荷特性が定電力特性から定電流特性に切り替わったPQノードの有無を判定する。
【0133】
ステップS5において、何れかのノードが不安定になる状態が検出された場合(ステップS5:YES)、収束判定部3が、計算経過を示すデータを出力する(ステップS6)。具体的には、計算経過データ生成部34が、潮流計算の進行状況を示す情報、および不安定状態が検出されたことを示す情報を含む計算経過データ204として出力し、それらの情報を電力系統解析装置10の出力装置としての表示装置に表示する。
【0134】
例えば、安定限界超過判定部33が、系統データ201に含まれるノードのうち電力の出力値が出力目標値に満たないPVノードを検出した場合、安定限界の超過によって潮流計算が収束しないと判定するとともに、計算経過データ生成部34が、当該PVノードを示す情報と、当該PVノードの電力出力の最大値を定態安定限界出力値とした情報とを含む計算経過データ204を出力する。
【0135】
次に、収束判定部3が、潮流計算において指定された回数の試行が実行されたか否かを判定する(ステップS7)。ステップS7において、潮流計算において指定された回数の試行が実行されていない場合(ステップS7:NO)、潮流計算が継続される。一方、ステップS7において、ステップS7による潮流計算において指定された回数の試行が実行された場合(ステップS7:NO)、収束有無判定部35が、系統データ201に基づく潮流計算が収束しない(収束不可能)と判定し、データ生成部4が、不安定検出結果データ202を生成して出力し、データ解析処理が終了する。
【0136】
ステップS5において、送電限界超過判定部32および安定限界超過判定部33によって潮流計算が不安定となる状態が検出されなかった場合(ステップS5:NO)、収束判定部3が、ステップS3,S4で実行した系統データ201の潮流計算が収束したか否かを判定する(ステップS8)。具体的には、収束有無判定部35が、系統データ201に含まれるノードの電圧のn回目の試行時の計算値Vnと、当該ノードの電圧の(n+1)回目の試行時の計算値Vn+1との差が所定の閾値Vthより小さいか否かを判定する。すなわち、収束有無判定部35が、上述した式(15)の条件を満たすか否かを判定する。
【0137】
ステップS8において、収束有無判定部35が上記式(14)の条件を満たさないと判定した場合(ステップS8:NO)、ステップS3に戻り、演算部2が潮流計算の試行を繰り返し実行する。
【0138】
一方、ステップS8において、上記式(15)の条件を満たす場合(ステップS8:YES)、収束有無判定部35が、ステップS3,4で実行した系統データ201の潮流計算が収束したと判定し、演算部2が潮流計算を停止し、データ解析処理が終了する。
【0139】
なお、収束判定部3によって、負荷特性が定電力特性から定電流特性に切り替わったPQノードが検出された場合には、当該PQノードを示す情報と計算結果とを含む計算結果データ203が出力される。
【0140】
以上、本実施の形態に係る電力系統解析装置10は、逐次代入法の潮流計算において、解析対象の系統データ201に含まれるPVノードの内部構成を、目標となる出力電力の値が指定される代表ノード(第1ノード)と、電圧が指定される背後ノード(第2ノード)と、代表ノードと背後ノードとを接続するブランチとによって定義し(
図6参照)、代表ノードの無効電力出力並びに背後ノードの電圧指定値を前記ブランチ潮流により補正演算する。
【0141】
これによれば、上述したように、無効電力Qの値が0に近づいた条件下においても、不安定時のPVノード出力(代表ノードと系統を接続するブランチ潮流の合計)が変動するため、PVノード出力は、電圧アングルの変化とともに変動する。これにより、PVノードの出力値をトレースして最大値を出力目標値と比較することにより、定態不安定であるか否かを判定できる。すなわち、変動するPVノードの出力の最大値が送電可能限界値と推定することができ、その最大値が出力目標値を下回っていれば定態不安定と判定することが可能となる。
【0142】
また、本実施の形態に係る電力系統解析装置10は、逐次代入法の潮流計算において、直前の試行によって得られたPQノードの電圧の算出値が切替指定電圧Vb(所定の閾値電圧)より大きいとき、当該PQノードの負荷特性を定電力特性として当該PQノードの電圧を算出し、直前の試行によって得られた当該PQノードの電圧の算出値が切替指定電圧Vbより小さいとき、当該PQノードの負荷特性を定電流特性として当該PQノードの電圧を算出する。
【0143】
これによれば、上述したように、PQノードの電圧が切替指定電圧Vbより大きい運転点が存在しない場合であっても、当該PQノードの負荷特性を定電流特性に切り替えることによって、送電限界需要を超えていてもPVカーブの低め側において仮初の解を得て、潮流計算を収束させることが可能となる。潮流計算が収束すれば、その結果を確認できる。負荷特性が切り替わったPQノードが存在すれば、そのPQノードは運用不可と判断できる。
【0144】
このように、本実施の形態に係る電力系統解析装置によれば、電力系統の潮流計算において発生した不安定性の原因を解析する作業コストを削減し、コンピュータによる潮流計算の求解性を向上させることが可能となる。
【0145】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることはいうまでもない。
【0146】
例えば、上記実施の形態では、電力系統解析装置10が、PCやサーバ等のコンピュータによって実現される場合を例示したが、これに限られない。例えば、クライアントサーバシステムのように、複数台のコンピュータによって実現されていてもよい。
【0147】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは一例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0148】
1…データ取得部、2…演算部、3…収束判定部、4…データ生成部、5…計算実行部、10…電力系統解析装置、201…系統データ、31…安定性判定部、32…送電限界超過判定部、33…安定限界超過判定部、34…計算経過データ生成部、35…収束有無判定部、42…不安定検出結果データ生成部、43…計算結果データ生成部、101…演算装置、102…記憶装置、103…入力装置、104…I/F装置、105…出力装置、106…バス、201…系統データ、202…不安定検出結果データ、203…計算結果データ、204…計算経過データ。