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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048769
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】構造物の調査方法、及び赤外線カメラ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20230331BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20230331BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20230331BHJP
【FI】
G01N21/88 H
G01N21/17 A
G01J5/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158266
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】501497264
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川西 弘一
(72)【発明者】
【氏名】林 詳悟
【テーマコード(参考)】
2G051
2G059
2G066
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB03
2G051BA06
2G051CA04
2G051CB01
2G051CC20
2G051EB01
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059FF01
2G059HH01
2G059JJ19
2G059KK04
2G059LL04
2G059MM04
2G059MM05
2G059NN01
2G066AC09
2G066BA14
2G066BA28
2G066BC15
2G066CA01
2G066CA02
2G066CA04
(57)【要約】
【課題】周辺環境の熱反射が被写体の表面の撮影画像に映り込むことによる誤検出を抑制することができる構造物の調査方法、及び赤外線カメラを提供する。
【解決手段】構造物の調査方法は、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光子を備えた赤外線カメラを用いて構造物を撮影することで、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する画像取得工程と、前記撮影画像から前記構造物の表面の温度差を検出する検出工程と、前記構造物の表面の温度差に応じて、前記構造物の損傷状態を判定する判定工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光子を備えた赤外線カメラを用いて構造物を撮影することで、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する画像取得工程と、
前記撮影画像から前記構造物の表面の温度差を検出する検出工程と、
前記構造物の表面の温度差に応じて、前記構造物の損傷状態を判定する判定工程と、
を有する構造物の調査方法。
【請求項2】
前記偏光子は、偏光フィルタであり、
前記画像取得工程では、前記偏光フィルタを前記構造物に対して相対的に回転させることで、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する請求項1に記載の構造物の調査方法。
【請求項3】
前記偏光フィルタを前記構造物に対して相対的に回転させ、少なくとも3つ以上の異なる回転角度で前記構造物を撮影した画像情報に基づいて、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う請求項2に記載の構造物の調査方法。
【請求項4】
前記偏光子は、前記赤外線カメラの内部の赤外線検出器の表面側に異なる4方向に配置されており、
前記画像取得工程では、前記4方向に配置された前記偏光子の画像情報に基づいて、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う請求項1に記載の構造物の調査方法。
【請求項5】
前記画像処理として、前記4方向に配置された前記偏光子の輝度情報に基づいて、同一画素において輝度の値の最小値画像とする処理を行う請求項4に記載の構造物の調査方法。
【請求項6】
前記判定工程では、前記構造物の損傷状態として、前記構造物の内部の損傷の有無及び前記構造物における外装部の剥離の有無の少なくとも一方を判定する請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の構造物の調査方法。
【請求項7】
赤外線カメラ本体と、
前記赤外線カメラ本体の内部に設けられ、被写体から放射される赤外線を検出する赤外線検出器と、
前記赤外線検出器の表面側に設けられ、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光子が異なる4方向に配置された偏光子配置体と、
前記偏光子配置体における4方向の前記偏光子の画像情報に基づいて、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う画像処理部と、
を有する赤外線カメラ。
【請求項8】
前記画像処理部は、4方向の前記偏光子の輝度情報に基づいて、同一画素において輝度の値の最小値画像とする処理を行う請求項7に記載の赤外線カメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の調査方法、及び赤外線カメラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の浮き、はく離の点検、及び建築物のタイルの剥離の点検に赤外線サーモグラフィが使用される場合がある。
【0003】
しかし、赤外線サーモグラフィによるコンクリート構造物の表面の温度検知では、周辺環境の熱反射がコンクリート表面に映り込む場合がある。これにより、異常がない個所に反射した熱の温度を検出して、損傷と誤検出する可能性がある。また、損傷個所があるにもかかわらず、周辺の熱の温度の映り込みによって、正常部と異常部との温度差がかき消され、損傷個所を見逃す可能性がある。
【0004】
下記特許文献1には、2つの赤外カットフィルタと、フィルタ状の素ガラスと、レンズの光路に対して光の偏光方向を任意に変えることができる光学部材と、撮像素子と、を備えた撮像装置が開示されている。この撮像装置では、光学部材は、一方の赤外カットフィルタと撮像素子との間に位置しており、回転手段により光学部材を回転させてレンズの光路に対して光の偏光方向を任意に変えるようにしている。これにより、昼間時における強い反射光を除去して被写体認識を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-67865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、撮像装置が赤外線カメラである旨は記載されていない。また、特許文献1には、コンクリート構造物の浮き、はく離の点検、及び建築物のタイルの剥離の点検する技術については、記載されていない。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、周辺環境の熱反射が被写体の表面の撮影画像に映り込むことによる誤検出を抑制することができる構造物の調査方法、及び赤外線カメラを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1態様に記載の構造物の調査方法は、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光子を備えた赤外線カメラを用いて構造物を撮影することで、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する画像取得工程と、前記撮影画像から前記構造物の表面の温度差を検出する検出工程と、前記構造物の表面の温度差に応じて、前記構造物の損傷状態を判定する判定工程と、を有する。
【0009】
上記構造物の調査方法において、前記偏光子は、偏光フィルタであり、前記画像取得工程では、前記偏光フィルタを前記構造物に対して相対的に回転させることで、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得してもよい。
【0010】
上記構造物の調査方法において、前記偏光フィルタを前記構造物に対して相対的に回転させ、少なくとも3つ以上の異なる回転角度で前記構造物を撮影した画像情報に基づいて、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行ってもよい。
【0011】
上記構造物の調査方法において、前記偏光子は、前記赤外線カメラの内部の赤外線検出器の表面側に異なる4方向に配置されており、前記画像取得工程では、前記4方向に配置された前記偏光子の画像情報に基づいて、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行ってもよい。
【0012】
上記構造物の調査方法において、前記画像処理として、前記4方向に配置された前記偏光子の輝度情報に基づいて、同一画素において輝度の値の最小値画像とする処理であってもよい。
【0013】
上記構造物の調査方法において、前記判定工程では、前記構造物の損傷状態として、前記構造物の内部の損傷の有無及び前記構造物における外装部の剥離の有無の少なくとも一方を判定してもよい。
【0014】
第2態様に記載の赤外線カメラは、赤外線カメラ本体と、前記赤外線カメラ本体の内部に設けられ、被写体から放射される赤外線を検出する赤外線検出器と、前記赤外線検出器の表面側に設けられ、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光子が異なる4方向に配置された偏光子配置体と、前記偏光子配置体における4方向の前記偏光子の画像情報に基づいて、前記反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う画像処理部と、を有する。
【0015】
上記赤外線カメラにおいて、前記画像処理部は、4方向の前記偏光子の輝度情報に基づいて、同一画素において輝度の値の最小値画像とする処理を行ってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示の技術によれば、周辺環境の熱反射が被写体の表面の撮影画像に映り込むことによる誤検出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例を示す構成図である。
図2】赤外線カメラの電気系の要部構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態の構造物の調査方法に適用されるユーザー端末の電気系の構成を示すブロック図である。
図4】赤外線カメラに用いられる偏光フィルタの効果を説明する説明図である。
図5】赤外線カメラに用いられる偏光フィルタを示す概略構成図である。
図6】(A)は、偏光フィルタの回転角度が0°の状態を示す図であり、(B)は、偏光フィルタの回転角度が45°の状態を示す図であり、(C)は、偏光フィルタの回転角度が90°の状態を示す図であり、(D)は、偏光フィルタの回転角度が135°の状態を示す図である。
図7】熱源の反射角度を45°に配置した赤外線カメラによるコンクリート試験体の第1撮影例を示す構成図である。
図8】偏光フィルタの回転角度に対応する第1撮影例の画像を示す図であって、(A)は、偏光フィルタの回転角度が0°のときの画像、(B)は、偏光フィルタの回転角度が45°のときの画像、(C)は、偏光フィルタの回転角度が90°のときの画像、(D)は、偏光フィルタの回転角度が135°のときの画像を示す図である。
図9】(A)は、第1撮影例の補正処理画像を示す図であり、(B)は、第1撮影例の熱源がない場合の参考画像を示す図であり、(C)は、第1撮影例の直線偏光度を示す図であり、(D)は、第1撮影例の偏光角度を示す図であり、(E)は、第1撮影例の正弦波の振幅を示す図である。
図10】熱源の反射角度を45°に配置した赤外線カメラによるコンクリート試験体の第2撮影例を示す構成図である。
図11】偏光フィルタの回転角度に対応する第2撮影例の画像を示す図であって、(A)は、偏光フィルタの回転角度が0°のときの画像、(B)は、偏光フィルタの回転角度が45°のときの画像、(C)は、偏光フィルタの回転角度が90°のときの画像、(D)は、偏光フィルタの回転角度が135°のときの画像を示す図である。
図12】(A)は、第2撮影例の補正処理画像を示す図であり、(B)は、第2撮影例の熱源がない場合の参考画像を示す図であり、(C)は、第2撮影例の直線偏光度を示す図であり、(D)は、第2撮影例の偏光角度を示す図であり、(E)は、第2撮影例の正弦波の振幅を示す図である。
図13】偏光フィルタの回転角度と推定熱反射温度との関係を示すグラフである。
図14】偏光フィルタの回転角度が90°のときの反射角度と推定熱反射温度との関係を示すグラフである。
図15】ユーザー端末が担当する構造物の調査処理の流れを示すフローチャートである。
図16】第2実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例を示す構成図である。
図17】第3実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例を示す構成図である。
図18】第3実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一部を拡大した状態で示す構成図である。
図19】第3実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラに用いられる偏光子配置体及び赤外線検出器を示す構成図である。
図20】赤外線カメラが担当する構造物の調査処理の流れを示すフローチャートである。
図21】第4実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例を示す構成図である。
図22】第5実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例を示す構成図である。
図23】(A)は、第5実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラを用いて構造物を撮影する位置関係を示す図であり、(B)は、構造物の撮影箇所を示す図である。
図24】(A)~(C)は、赤外線カメラの偏光フィルタを回転させて一定間隔で構造物を撮影した撮影画像を示す図であり、(D)は、反射した赤外線光が除去された撮影画像を示す図である。
図25】(A)は、比較例の赤外線カメラを用いて構造物を撮影する位置関係を示す構成図であり、(B)は、構造物の昼間の撮影画像を示す図であり、(C)は、構造物の夜間の撮影画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。各図面において、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1図15にしたがって、第1実施形態の構造物の調査方法について説明する。図1には、第1実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例が示されている。
【0020】
(赤外線カメラの全体構成)
図1に示されるように、赤外線カメラ10は、筐体を構成する赤外線カメラ本体12と、赤外線カメラ本体12の一端側に設けられた入射口14と、を備えている。赤外線カメラ10は、赤外線カメラ本体12の内部における入射口14側に設けられたレンズ群16と、赤外線カメラ本体12の内部におけるレンズ群16の奥側に配置された赤外線検出部18と、を備えている。レンズ群16は、複数のレンズにより構成されている。さらに、赤外線カメラ10は、レンズ群16の内部に配置された偏光フィルタ20と、偏光フィルタ20を回転させる回転操作部22と、を備えている。レンズ群16は、レンズの一例であり、赤外線検出部18は、赤外線検出器の一例である。
【0021】
また、赤外線カメラ10は、レンズ群16と赤外線検出部18との間に絞り(図示省略)、絞り部材24、シャッタ(図示省略)などを備えている。
【0022】
赤外線カメラ10は、被写体の一例としての構造物から放射される赤外線波長域のエネルギーを撮影する。本実施形態の構造物の調査方法では、赤外線カメラ10で撮影された撮影画像の赤外線波長域のエネルギーの強度から、構造物の表面温度を検出する。赤外線とは、光の一種であり、人間が見ることができる可視光(例えば、波長360~830nm)よりも長い波長域に区分される。赤外線カメラ10が検出する波長域は、例えば、短波長で3~5μm、長波長で8~14μmである。
【0023】
構造物から放射される赤外線は、赤外線カメラ10におけるレンズ群16、偏光フィルタ20、及び絞り部材24などを通って赤外線検出部18に結像される。すなわち、赤外線検出部18は、偏光フィルタ20を透過した赤外線を検出する。赤外線検出部18は、一例として、受光素子により構成されている。
【0024】
偏光フィルタ20は、偏光子の一例であり、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する機能を有する。偏光フィルタ20は、例えば、円形状又は矩形状の板状部材であり、赤外線カメラ本体12の内部に設けられた枠体(図示省略)に回転可能に支持されている。偏光フィルタ20は、赤外線カメラ本体12の周方向に沿って回転可能とされている。偏光フィルタ20の具体的な構成については、後に説明する。
【0025】
回転操作部22は、偏光フィルタ20を赤外線カメラ本体12の周方向に沿って回転させる機能を有する。一例として、回転操作部22は、円形部材の外周部にギアを有しており、このギアが偏光フィルタ20の外周部に設けられたギアを噛み合わされている。これにより、ユーザーが手動により回転操作部22を回転させると、偏光フィルタ20が周方向に沿って回転する構成とされている。
【0026】
(赤外線カメラの電気系の要部構成)
図2は、赤外線カメラ10のハードウェア構成の概略を示すブロック図である。図2に示されるように、赤外線カメラ10は、赤外線検出部18を備えた撮像部30、画像処理部31、制御部32、撮像操作部33、撮像駆動部34、回転操作部22、表示部35、記録部36、通信部37の各構成を有する。
【0027】
赤外線カメラ10では、赤外線検出部18で検出された撮影画像のデータは、画像処理部31に入力される。画像処理部31では、図示しないストレージに記憶された画像処理プログラムを読み出し、画像処理が実行される。
【0028】
図示を省略するが、制御部32は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えている。制御部32は、赤外線カメラ10の各部を制御する。
【0029】
撮像操作部33は、絞り部材24、シャッタ(図示省略)などの撮像のための操作部を含む。撮像操作部33で操作された操作信号は、制御部32に入力される。制御部32は、撮像操作部33による操作信号に応じて、撮像駆動部34を制御する。これにより、赤外線カメラ10の撮像動作が行われる。
【0030】
回転操作部22は、上記ように偏光フィルタ20を回転させる。回転操作部22により、偏光フィルタ20を回転させる回転情報は、制御部32に入力される。回転情報は、例えば、偏光フィルタ20の回転角度などを含む。
【0031】
表示部35は、制御部32から画像信号が入力されることで、撮像部30で撮影する画像、画像処理部31で画像処理が施された撮影画像などを表示する。記録部36は、制御部32から画像信号が入力されることで、画像処理部31で画像処理が施された撮影画像などを記録する。
【0032】
通信部37は、ユーザー端末50(図3参照)などの他の機器と通信するためのインタフェースである。一例として、赤外線カメラ10で撮影された撮影画像のデータは、通信部37を介してユーザー端末50に送信される。
【0033】
(ユーザー端末の電気系の構成)
図3は、ユーザー端末50の電気系の構成を示すブロック図である。
【0034】
図3に示されるように、ユーザー端末50は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)51、ROM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53、ストレージ54、入力部55、表示部56及び通信部57の各構成を有する。各構成は、バス59を介して相互に通信可能に接続されている。
【0035】
CPU51は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU51は、ROM52又はストレージ54からプログラムを読み出し、RAM53を作業領域としてプログラムを実行する。CPU51は、ROM52又はストレージ54に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM52又はストレージ54には、構造物を調査するための調査プログラムが格納されている。
【0036】
ROM52は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM53は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ54は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0037】
入力部55は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0038】
表示部56は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部56には、例えば、赤外線カメラ10から受信された撮影画像や、撮影された構造物の温度などが表示される。また、例えば、表示部56には、本実施形態の構造物の調査方法により構造物の損傷状態が判定された結果が表示される。
【0039】
通信部57は、赤外線カメラ10などの他の機器と通信するためのインタフェースである。通信部57として、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。本実施形態では、赤外線カメラ10から撮影画像のデータが通信部57を介してユーザー端末50に受信される。なお、無線通信に代えて、有線のケーブルを用いて赤外線カメラ10から撮影画像のデータがユーザー端末50に入力される構成でもよい。
【0040】
ユーザー端末50では、赤外線カメラ10により撮影された撮影画像に基づき、構造物の損傷状態の調査が実施される。
【0041】
(比較例の赤外線カメラの課題)
ここで、赤外線カメラ10に用いられる偏光フィルタ20の機能について説明する前に、比較例の赤外線カメラ200の課題について説明する。
【0042】
図25(A)は、比較例の赤外線カメラ200を用いて構造物300を撮影する位置関係を示す構成図である。比較例の赤外線カメラ200には、本実施形態の赤外線カメラ10のような偏光フィルタ20は、設けられていない。比較例の赤外線カメラ200では、構造物300から放射される赤外線がそのまま赤外線カメラ200の赤外線検出部で検出される。
【0043】
図25(A)に示されるように、構造物300は、橋梁302から張り出した張出部302Aを備えている。昼間の太陽光で照らされた状態では、橋梁302の下側の道路310の舗装が太陽光で暖まり、道路310の舗装から発生した赤外線が撮影対象の橋梁302の張出部302Aに反射する。比較例の赤外線カメラ200で橋梁302の張出部302Aを撮影すると、図25(B)に示されるように、昼間の撮影では、道路310の舗装から発生した赤外線が橋梁302の張出部302Aに反射し、構造物300本来の温度よりも張出部302Aの領域A1が高温で検出されている。
【0044】
図25(C)に示されるように、比較例の赤外線カメラ200で同一の箇所を撮影した夜間の撮影では、道路310の舗装の温度が低下して反射がなくなったため、構造物300本来の温度で張出部302Aの領域A2が検出されている。
【0045】
このように、構造物300の赤外線による調査で発生する反射(以下、「熱反射」という場合がある)の影響は、昼間の調査が顕著であり、昼間の構造物300の赤外線による調査の妨げになっている。
【0046】
また、夜間の撮影では、夜空の温度は、構造物300の上壁部の温度よりもはるかに低温であるため、天空温度の熱反射の影響を受けることで、構造物300の上壁部はコンクリート表面の放射率のばらつきにより局所的に低温に検出される可能性がある。
【0047】
(赤外線カメラの偏光フィルタの機能)
次に、本実施形態の赤外線カメラ10に用いられる偏光フィルタ20の機能について説明する。
【0048】
図4は、偏光フィルタ20の機能を説明する模式的な説明図である。通常、自然光は正弦波(サイン波)であらゆる方向に振動しているが、図4に示されるように、平滑な鏡面320に光が反射したときに、振動方向が1方向に揃う偏光が発生する。すなわち、鏡面320に反射した反射光W2は、偏光度が高い(直線偏光)。この1方向に振動する反射光W2のみを偏光フィルタ20で除去すると、鏡面320の反射を取り除くことができる。なお、図4中の光W1は、反射以外の光(透過光)である。
【0049】
構造物300(図25(A)参照)のコンクリート面は、平滑ではないため、可視光波長域では散乱が発生し、偏光は発生しにくい。しかし、波長が長いほど散乱しにくい光の性質から、赤外線波長域では、構造物300のコンクリート面でも、反射が起こっている場合がある。
【0050】
図5は、偏光フィルタ20を示す模式的な構成図である。図5に示されるように、偏光フィルタ20は、所定の方向に沿って配置された細かな縦筋状のワイヤグリット20Aを備えている。複数のワイヤグリット20Aは、ほぼ平行に配置されている。偏光フィルタ20は、ワイヤグリット20Aの方向(縦筋の方向)に平行に振動する赤外線W3を反射する(すなわち、S波は反射する)。また、偏光フィルタ20は、ワイヤグリット20Aの方向(縦筋の方向)と直交する方向に振動する赤外線W4は透過する(すなわち、P波は透過する)。偏光フィルタ20は、一例として、3~5μmの波長域での赤外線の透過率は、84.83~90.43%であり、消光比(最大透過率/最小透過率)は、298.70~706.48である。なお、図4及び図5では、矩形状の偏光フィルタ20が図示されているが、本実施形態では、赤外線カメラ10の内部に配置するため、円形状の偏光フィルタ20を用いている。
【0051】
図6には、赤外線カメラ10(図1参照)の内部に配置された偏光フィルタ20を回転させた状態が示されている。図6(A)は、偏光フィルタ20の回転角度が0°の状態であり、この偏光フィルタ20の位置が基準位置となる。偏光フィルタ20のワイヤグリット20Aの方向に沿った矢印B方向は、偏光フィルタ20で反射する光の反射振動方向である。図6(B)は、基準位置に対する偏光フィルタ20の回転角度が45°の状態である。図6(C)は、基準位置に対する偏光フィルタ20の回転角度が90°の状態である。図6(D)は、基準位置に対する偏光フィルタ20の回転角度が135°の状態である。
【0052】
本実施形態の構造物の調査方法では、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光フィルタ20を備えた赤外線カメラ10を用いて構造物を撮影することで、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する(画像取得工程)。より具体的には、赤外線カメラ10の回転操作部22を操作して、偏光フィルタ20を構造物に対して相対的に回転させることで、直線偏光となる反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する。
【0053】
(赤外線カメラ10による撮影画像の検証)
次に、赤外線カメラ10による撮影画像の検証結果について説明する。この実験では、熱源340(図7参照)の反射角度を、15~65°まで10°刻みで変化させ、構造物を赤外線カメラ10により撮影し、撮影画像を検証する。
【0054】
図7は、熱源340の反射角度を45°に設定し、構造物の一例としてのコンクリート試験体330の中央部に正反射した熱反射が移り込むように配置した第1撮影例である。熱源340として、ハロゲンランプが使用されている。一例として、赤外線カメラ10は、撮影距離が8mに設定されており、焦点距離50mmのレンズを用いている。図7に示す撮影例では、赤外線はコンクリート試験体330の反射面に平行に偏光するので、反射した赤外線光は、画像の上下方向に振動すると考えられる。
【0055】
図9(B)には、第1撮影例において、熱源340が無い場合の赤外線カメラ10の参考画像(教師画像)が示されている。図9(B)に示されるように、コンクリート試験体330の表面に温度差がほとんど発生していない状態で撮影を行う。
【0056】
図8(A)~(D)には、第1撮影例において、偏光フィルタ20の回転角度を0°、45°、90°、135°に変えたときの赤外線カメラ10の画像が示されている。図8(A)に示されるように、偏光フィルタ20の回転角度が0°のときは、ワイヤグリット20Aの方向が反射光の振動方向と直交するため、コンクリート試験体330の反射面の温度差が大きい。図8(C)に示されるように、偏光フィルタ20の回転角度が90°のときに、コンクリート試験体330の反射面の温度差が最も少なくなり、反射した赤外線光が除去されている。
【0057】
図9(A)には、第1撮影例において、赤外線カメラ10で補正された補正処理画像が示されている。図9(A)に示されるように、赤外線カメラ10の画像処理部31では、偏光フィルタ20の回転角度が90°のときの画像に補正する画像処理が行われる。図9(C)は、直線偏光度(DoLP)を示す図であり、図9(D)は、偏光角度(AoP)を示す図であり、図9(E)は、正弦波の振幅aを示す図である。図9の内容については、後に説明する。
【0058】
図10は、熱源340の反射角度を65°に設定し、コンクリート試験体330の中央部に正反射した熱反射が移り込むように配置した第2撮影例である。
【0059】
図12(B)には、第2撮影例において、熱源340が無い場合の赤外線カメラ10の参考画像(教師画像)が示されている。図12(B)に示されるように、コンクリート試験体330の表面に温度差がほとんど発生していない状態で撮影を行う。
【0060】
図11(A)~(D)には、第2撮影例において、偏光フィルタ20の回転角度を0°、45°、90°、135°に変えたときの赤外線カメラ10の画像が示されている。図11(C)に示されるように、偏光フィルタ20の回転角度が90°のときに、コンクリート試験体330の反射面の温度差が最も少なくなり、反射した赤外線光が除去されている。
【0061】
図12(A)には、第2撮影例において、赤外線カメラ10で補正された補正処理画像が示されている。図12(A)に示されるように、赤外線カメラ10の画像処理部31では、偏光フィルタ20の回転角度が90°のときの画像に補正する画像処理が行われる。図12(C)は、直線偏光度(DoLP)の画像を示す図であり、図12(D)は、偏光角度(AoP)を示す図であり、図12(E)は、正弦波の振幅aを示す図である。
【0062】
直線偏光度(DoLP)を見ると、反射角度が大きくなると、反射成分(直線偏光)が大きくなっている(図9(C)及び図12(C)等参照)。偏光角度(AoP)を見ると、反射角度が小さいと、偏光角度がそろっていないが、反射角度が大きくなると、偏光角度がそろう範囲が大きくなっている(図9(D)及び図12(D)等参照)。正弦波の振幅aは、偏光によって除去できる偏光(反射)の大きさを示している。すなわち、振幅の大きさは、偏光で除去できる反射強度(ここでは反射温度)を示している。反射角度が小さいと、反射温度自体も小さいが、除去できる温度も小さく、反射角度が大きくなると、除去できる反射温度が大きくなる(図9(E)及び図12(E)を参照)。
【0063】
図13は、偏光フィルタ20の回転角度と推定熱反射温度との関係を示すグラフである。この実験では、熱反射を分かりやすくするため、コンクリート試験体330の中心に2.5℃の熱反射が発生するように熱源340を配置している。本出願人の知見によれば、橋梁のコンクリート面に発生する熱反射の温度は、0.2℃程度であることから、熱源340が反射した熱画像から、熱源340が無いコンクリート試験体330を差し引いて求めた熱反射に補正(熱反射×(0.2℃/2.5℃)を行い、橋梁に発生する熱反射の温度を推定する。この推定した温度を推定熱反射温度とする。
【0064】
図13に示されるように、反射角度(反射角)が小さい場合(回転角15°の場合)は、偏光フィルタ20の回転角度を変えても、推定熱反射温度の変化は少ないが、推定熱反射温度は全体的に低く、0.1℃以下となっている。反射角度が大きくなると、偏光フィルタ20の回転角度が0°の熱反射が大きくなるが、偏光フィルタ20の回転角度が90°になると、偏光フィルタ20によって熱反射を除去できる。
【0065】
図14は、偏光フィルタ20の回転角度が90°のときの反射角度と推定熱反射温度との関係を示すグラフである。一般的な鏡面反射の場合、偏光度が最大となる反射角(すなわち、ブリュースター角)は、60°前後とされ、このとき反射残光も最も小さくなる。図14に示されるように、推定熱反射温度も反射角度(反射角)が大きくなるほど低下し、反射角度が65°で最低となり、同様の傾向を示している。これらの実験の結果、反射角度(反射角)が小さい場合は、熱反射自体が小さく、反射角度が大きい場合は、偏光フィルタ20により熱反射を除去できることが分かる。
【0066】
本実施形態の赤外線カメラ10では、回転操作部22により偏光フィルタ20を回転させることで、構造物の表面の熱反射(すなわち、反射した赤外線光)を除去する。一例として、偏光フィルタ20の複数の回転角度(例えば、0°、45°、90°、135°)に回転させたときの画像をそれぞれ比較し、構造物の所定の部位の輝度情報に応じて、反射した赤外線光が除去された画像を取得する。例えば、偏光フィルタ20の複数の回転角度に回転させたときの画像をそれぞれ比較し、構造物の所定の部位の輝度の値が低い画像を選択するようにしてもよい。また、これに代えて、画像処理部31は、偏光フィルタ20の複数の回転角度の画像をそれぞれ比較し、構造物の所定の部位の輝度の値が最も低い画像を補正処理画像とする処理を行ってもよい(図9(A)及び図12(A)をご参照)。これにより、赤外線カメラ10では、直線偏光となる反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得することができる。
【0067】
(構造物の調査方法の処理の流れ)
図15は、ユーザー端末50が担当する構造物の調査処理の流れを示すフローチャートである。CPU51がROM52又はストレージ54から調査処理プログラムを読み出して、RAM53に展開して実行することにより、調査処理が行なわれる。
【0068】
図15に示されるように、CPU51は、反射した赤外線光が除去された構造物の撮影画像を取得する(ステップS101)。例えば、赤外線カメラ10では、回転操作部22により偏光フィルタ20を回転させることで、反射した赤外線光が除去された画像が撮影される。ユーザー端末50では、CPU51は、反射した赤外線光が除去された撮影画像を赤外線カメラ10から通信部57を介して取得する。図示を省略するが、例えば、CPU51は、表示部56に撮影画像を表示するようにしてもよい。
【0069】
CPU11は、撮影画像から構造物の表面の温度差を検出する(ステップS102)。例えば、構造物の外装部などの表面が同一の部材で構成されている部分において、その部分の温度差を検出する。
【0070】
CPU11は、検出された温度差が閾値以上か否かを判断する(ステップS103)。構造物では、例えば、構造物の内部の損傷又は外装部の剥離等が生じると、損傷又は剥離した部分の空気層は熱伝導率が悪く、周辺よりも温度が高くなるため、温度差により損傷又は剥離等を検出できる。閾値は、構造物の表面の構成部材に応じて設定されている。
【0071】
温度差が閾値以上である場合(ステップS103:YES)、CPU11は、構造物の表面の損傷が有る(損傷有り)と判定する(ステップS104)。これにより、検出された温度差に応じて、構造物の損傷状態が判定される。構造物の損傷状態として、例えば、構造物の内部の損傷の有無、又は構造物における外装部の剥離の有無が判定される。図示を省略するが、例えば、CPU51は、表示部56に判定結果を表示するようにしてもよい。
【0072】
温度差が閾値より小さい場合(ステップS103:NO)、CPU11は、構造物の表面の損傷が無い(損傷無し)と判定する(ステップS105)。図示を省略するが、例えば、CPU51は、表示部56に判定結果を表示するようにしてもよい。これにより、調査処理プログラムに基づく処理を終了する。
【0073】
(本実施形態の作用及び効果のまとめ)
本実施形態の構造物の調査方法では、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光フィルタ20を備えた赤外線カメラ10を用いて構造物を撮影することで、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する(画像取得工程)。偏光フィルタ20により、直線偏光となる反射した赤外線光を除去することで、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が構造物の表面の撮影画像に映り込むことが抑制される。さらに、構造物の調査方法では、撮影画像から構造物の表面の温度差を検出し(検出工程)、構造物の表面の温度差に応じて、構造物の損傷状態を判定する(判定工程)。
【0074】
このため、本実施形態の構造物の調査方法では、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が被写体の表面の撮影画像に映り込むことによる誤検出を抑制することができる。したがって、構造物の損傷状態をより正確に調査することができる。
【0075】
また、本実施形態の構造物の調査方法では、赤外線カメラ10の内部に回転可能な偏光フィルタ20が設けられており、回転操作部22により偏光フィルタ20を構造物に対して相対的に回転させることで、反射した赤外線光を除去する。このため、本実施形態の構造物の調査方法では、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が構造物の表面の撮影画像に映り込むことを抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態の構造物の調査方法では、判定工程では、構造物の損傷状態として、前記構造物の内部の損傷の有無及び前記構造物における外装部の剥離の有無の少なくとも一方が判定される。このため、本実施形態の構造物の調査方法では、検出された構造物の表面の温度差に応じて、構造物の内部の損傷の有無及び構造物における外装部の剥離の有無の少なくとも一方をより正確に判定することができる。
【0077】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態の構造物の調査方法について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0078】
図16には、第2実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例が示されている。図16に示されるように、赤外線カメラ70は、赤外線カメラ本体12の内部に配置されたレンズ群16の後端側に配置された偏光フィルタ72を備えている。偏光フィルタ72は、偏光子の一例である。偏光フィルタ72は赤外線カメラ本体12の内壁に固定されている。赤外線カメラ70は、赤外線カメラ本体12を支持する支持部74と、支持部74を回転させる回転装置76と、を備えている。
【0079】
支持部74は、赤外線カメラ本体12から延びたL字状の部材である。支持部74は、赤外線カメラ本体12の下部に接合されると共に略水平方向に延びる板状部74Aと、板状部74Aの端部から屈曲されると共に赤外線カメラ本体12のレンズ群16と反対側の端部12Aに対向するように配置された延出部74Bと、を備えている。
【0080】
回転装置76は、延出部74Bに取り付けられており、図示しない設置台に支持されている。回転装置76は、図示しないモータにより延出部74Bを備えた支持部74を回転させる。回転装置76は、赤外線カメラ70の光軸に沿った回転軸周りに回転する構成とされている。回転装置76は、延出部74Bを回転させることで、赤外線カメラ本体12の内壁に固定された偏光フィルタ72を構造物に対して相殺的に回転させる。なお、赤外線カメラ70の他の構成は、第1実施形態の赤外線カメラ10と同様である。
【0081】
本実施形態の構造物の調査方法では、第1実施形態の構造物の調査方法と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下のような作用及び効果を備えている。
【0082】
本実施形態の構造物の調査方法では、赤外線カメラ10の内部に固定された偏光フィルタ72が設けられており、回転装置76により偏光フィルタ72を構造物に対して相対的に回転させることで、反射した赤外線光を除去する。このため、本実施形態の構造物の調査方法では、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が構造物の表面の撮影画像に映り込むことによる誤検出を抑制することができる。
【0083】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態の構造物の調査方法について説明する。なお、前述した第1~第2実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0084】
図17及び図18には、第3実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例が示されている。図17に示されるように、赤外線カメラ120は、赤外線カメラ本体12の内部に配置された赤外線検出部122を備えている。赤外線検出部122は、赤外線検出器の一例である。図18に示されるように、赤外線カメラ120は、赤外線検出部122の表面側(前面側)に設けられた偏光子配置体124を備えている。また、赤外線カメラ120は、偏光子配置体124と対向する位置に、冷却遮蔽絞り部材の一例としてのコールドストップ126を備えている。コールドストップ126の前面には、カバーガラス128が設けられている。さらに、赤外線カメラ120は、赤外線検出部122で検出された画像データの画像処理を行う画像処理部130と、赤外線カメラ120の各部(画像処理部130を含む)を制御する制御部132と、を備えている。赤外線検出部122は、例えば、冷却型Insbセンサで構成されており、赤外線検出部122が検出する波長域は、3~5μmである。
【0085】
図19に示されるように、偏光子配置体124は、直線偏光となる反射した赤外線光を除去する偏光子124A、124B、124C、124Dを備えており、偏光子124A、124B、124C、124Dは、異なる4方向に配置されている。一例として、偏光子124Aは、0°の方向(基準位置)に配置されており、偏光子124Bは、基準位置に対して45°の方向に配置されており、偏光子124Cは、基準位置に対して90°の方向に配置されており、偏光子124Dは、基準位置に対して135°の方向に配置されている。偏光子124A、124B、124C、124Dは、縦2列かつ横2列で1セットとなるように並べて配置されており、この1セットの配列が上下左右に繰り返し配置されている。偏光子124A、124B、124C、124Dの1セットの配列の繰り返し配置をベイヤー配列という。
【0086】
赤外線検出部122の表面側(前面側)には、赤外線検出部122の各画素上に、異なる4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dが配置されている。図示を両着するが、偏光子配置体124の表面側(前面側)には、それぞれの偏光子124A、124B、124C、124Dごとにマイクロレンズが配置されている。
【0087】
偏光が偏光子配置体124に入ってくると、異なる4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dからは、それぞれ異なる大きさの光が透過する。
【0088】
画像処理部130では、偏光子配置体124における4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの画像情報に基づいて、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う。画像処理部130は、例えば、4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの輝度情報に基づいて、同一画素において輝度の値の最小値画像とする処理を行う。
【0089】
直線偏光の場合、サイン波に近似する。これにより、4方向の偏光情報が取得できれば、反射光の振動方向の最小となる角度と最大となる角度が4方向と一致しなくても、反射光の振動方向の最小値と最大値が推定できる。ここで、光の強度Ipolは、下記の数式1(数1を参照)で示される。
【0090】
【数1】

【0091】
数式1において、Ipolは各画素から出力される信号の大きさ(光の強度)であり、θpolは偏光子配置体124上の偏光子124A、124B、124C、124Dの角度(すなわち、偏光子を透過する振動方向の角度)である。また、Imaxは振幅の最大値であり、Iminは振幅の最小値であり、φは入射光の偏光方向(すなわち、偏光の振動方向)である。
【0092】
数式1において、不明なパラメータは、Imax、Imin、及びφの3つである。このため、少なくとも3つの異なる偏光子を通った光の強度がそれぞれ分かれば、数式1を解くことができ、入射光の偏光状態(すなわち、偏光度と偏光方向)が分かる。偏光度は、数式2(数2を参照)で表される。偏光度は、光の振動方向がどのくらい偏っているかの指標である。
【0093】
【数2】

【0094】
上記の内容から、反射光の偏光状態(すなわち、偏光度ρと偏光方向φ)が分かる。このため、4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの輝度情報(すなわち、明るさの情報)に基づいて、画像処理を行うことができる。
【0095】
図20は、赤外線カメラ120が担当する構造物の調査処理の流れを示すフローチャートである。図示を省略するが、赤外線カメラ120の制御部132は、CPU、ROM、RAM及びストレージの各構成を有する。制御部132では、CPUがROM又はストレージから調査処理プログラムを読み出して、RAMに展開して実行することにより、調査処理が行なわれる。
【0096】
図20に示されるように、制御部132のCPUは、偏光子配置体124の4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの画像情報を取得する(ステップS151)。
【0097】
制御部132のCPUは、4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの画像情報に基づいて、同一組の箇所において輝度情報を比較する(ステップS152)。ここで、同一組の箇所とは、ベイヤー配列された4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dによる4つのデータ単位(画素単位の場合もある)が一組となった同一組の箇所をいう。
【0098】
制御部132のCPUは、4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの輝度情報に基づいて、同一組の箇所において輝度の値の最小値画像を選択する(ステップS153)。
【0099】
制御部132のCPUは、すべての同一組の箇所を処理したか否かを判断する(ステップS154)。
【0100】
すべての同一組の箇所を処理していない場合(ステップS154:NO)、CPUは、ステップS152の処理に戻る。
【0101】
すべての同一組の箇所を処理した場合(ステップS154:NO)、制御部132のCPUは、選択された輝度の値の最小値画像に基づいて全体画像を形成する(ステップS155)。すなわち、すべての画素において、輝度の値の最小値画像がそれぞれ選択されていることで、全体画像が形成される。
【0102】
制御部132のCPUは、形成された全体画像を撮影画像として記憶する(ステップS156)。例えば、撮影画像は、ストレージなどに記憶される。図示を省略するが、例えば、制御部132のCPUは、表示部に撮影画像を表示するようにしてもよい。これにより、調査処理プログラムに基づく処理を終了する。
【0103】
本実施形態の構造物の調査方法では、第1実施形態の構造物の調査方法と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下のような作用及び効果を備えている。
【0104】
本実施形態の構造物の調査方法では、赤外線カメラ120の内部の赤外線検出部122の表面側に偏光子124A、124B、124C、124Dが異なる4方向に配置されている。画像取得工程では、4方向に配置された偏光子124A、124B、124C、124Dの画像情報に基づいて、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う。これにより、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が構造物の表面の撮影画像に映り込むことを抑制することができる。このため、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が構造物の表面の撮影画像に映り込むことによる誤検出を抑制することができる。
【0105】
また、本実施形態の構造物の調査方法は、4方向に配置された偏光子124A、124B、124C、124Dの輝度情報に基づいて、同一画素において輝度の値の最小値画像とする画像処理を行う。これにより、反射した赤外線光が除去された撮影画像を効率よく取得することができる。
【0106】
また、赤外線カメラ120は、赤外線カメラ本体12の内部に設けられた赤外線検出部122と、赤外線検出部122の表面側に設けられた偏光子配置体124と、を備えている。偏光子配置体124は、異なる4方向に配置された偏光子124A、124B、124C、124Dを備えている。さらに、赤外線カメラ120は、4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの画像情報に基づいて、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う画像処理部130を備えている。
【0107】
赤外線カメラ120では、赤外線カメラ本体12の内部に設けられた赤外線検出部122によって、被写体(例えば、構造物)から放射される赤外線が検出される。赤外線検出部122の表面側には、偏光子124A、124B、124C、124Dが異なる4方向に配置された偏光子配置体124が設けられている。これにより、偏光子配置体124を透過した赤外線が赤外線検出部122によって検出される。さらに、画像処理部130では、偏光子配置体124における4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの画像情報に基づいて、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う。これにより、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が被写体(例えば、構造物)の表面の撮影画像に映り込むことを抑制することができる。このため、赤外線カメラ120を用いて構造物を調査する際に、周辺環境の熱反射又は天空の温度反射が構造物の表面の撮影画像に映り込むことによる誤検出を抑制することができる。
【0108】
赤外線カメラ120では、画像処理部130は、4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dの輝度情報に基づいて、同一画素において輝度の値の最小値画像とする処理を行う。このため、赤外線カメラ120では、反射した赤外線光が除去された撮影画像を効率よく取得することができる。
【0109】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態の構造物の調査方法について説明する。なお、前述した第1~第3実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0110】
図21には、第4実施形態の構造物の調査方法に適用される赤外線カメラの一例として、赤外線カメラ170の一部が示されている。図21に示されるように、赤外線カメラ170は、赤外線カメラ本体12の内部に配置された赤外線検出部172を備えている。赤外線カメラ170は、赤外線検出部172の表面側(前面側)に設けられた偏光子配置体124を備えている。赤外線カメラ170は、偏光子配置体124と対向する位置に絞り部材176を備えている。絞り部材176の前面には、カバーガラス178が設けられている。赤外線検出部172は、例えば、非冷却型マイクロボロメータで構成されており、赤外線検出部172が検出する波長域は、8~14μmである。赤外線カメラ170の他の構成は、第3実施形態の赤外線カメラ120と同様である。
【0111】
本実施形態の構造物の調査方法では、第3実施形態の構造物の調査方法と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0112】
本実施形態の赤外線カメラ170では、第3実施形態の赤外線カメラ120と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0113】
〔第5実施形態〕
次に、第5実施形態の構造物の調査方法について説明する。なお、前述した第1~第4実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0114】
図22に示されるように、赤外線カメラ400は、偏光フィルタ20と、偏光フィルタ20を支持した状態で回転する回転部402と、回転部402を駆動する駆動部404と、駆動部404を制御する制御部412と、を備えている。制御部412は、図示しない操作部からの信号に応じて駆動部404を駆動することで、回転部402に支持された偏光フィルタ20を回転させる。また、赤外線カメラ400は、撮像部34(図2参照)の撮像を制御する撮像制御部408と、撮影された画像データの処理を行う画像処理部410と、を備えている。
【0115】
本実施形態では、駆動部404により、偏光フィルタ20が一定速度で周方向に回転する。撮像制御部408は、一定間隔で、後述する構造物350(図23参照)を撮影する。その際、偏光フィルタ20を少なくとも3つ以上の異なる角度に回転させた状態で、構造物350を撮影することが好ましい。例えば、一定間隔として、偏光フィルタ20が30°回転する毎に、構造物350を撮影する。
【0116】
画像処理部410は、パターンマッチングで、一定間隔で撮影された複数の撮影画像を重ね合わせる。そして、画像データの同一画素で、上記のサイン波近似を利用して(数1及び数2を参照)、反射光の振動方向の最小値と最大値を算出する。これにより、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する。赤外線カメラ400のその他の構成は、第1実施形態の赤外線カメラ10と同様である。
【0117】
図23(A)は、赤外線カメラ400により構造物350を撮影する状態を示す図であり、図23(B)は、構造物350における赤外線カメラ400の撮影箇所360Aを示す図である。図23(A)に示されるように、構造物350として、橋梁352の張出部352Aを赤外線カメラ400で撮影する。昼間の太陽光で照らされた状態では、道路310の舗装から発生した矢印に示す赤外線(すなわち、舗装熱)が撮影対象の橋梁352の張出部352Aに反射する。図23(B)に示されるように、赤外線カメラ400により、構造物350における張出部352Aの撮影箇所360Aが撮影される。
【0118】
図24(A)~図24(C)は、偏光フィルタ20を基準位置から0°、30°、60°回転させた状態で、構造物350を撮影した画像である。図24(A)~図24(C)に示されるように、これらの画像には反射した赤外線光が含まれている。これらの画像情報(画像データ)から、同一画素で、上記のサイン波近似を利用して、反射光の振動方向の最小値と最大値を算出する。これにより、図24(D)に示されるように、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得することができる。
【0119】
本実施形態の構造物の調査方法では、第1実施形態の構造物の調査方法と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下のような作用及び効果を備えている。
【0120】
本実施形態の構造物の調査方法では、偏光フィルタ20を構造物350に対して相対的に回転させ、少なくとも3つ以上の異なる回転角度で構造物350を撮影する。そして、構造物350を撮影した画像情報に基づいて、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得するための画像処理を行う。本実施形態では、反射光の振動方向の最小値と最大値を算出し、反射した赤外線光が除去された撮影画像を取得する。このため、赤外線カメラ400の構造が単純であり、反射した赤外線光が除去された撮影画像を効率よく取得することができる。また、偏光フィルタ20の回転速度と撮影間隔によっては、上記のサイン波近似が不要となることも考えられる。
【0121】
〔補足説明〕
第1及び第2実施形態において、赤外線カメラ10、70の構成部品は、変更可能である。
【0122】
第3及び第4実施形態では、偏光子124A、124B、124C、124Dが異なる4方向に配置された偏光子配置体124を備えた赤外線カメラ120、170が回転しない構成とされているが、本開示の技術は、この構成に限定されるものではない。例えば、第2実施形態と同様の回転装置により、赤外線カメラ120、170を回転させる構成としてもよい。
【0123】
第3及び第4実施形態では、4方向の偏光子124A、124B、124C、124Dが設けられているが、高画素の場合は、3×3の9方向のデータを取得することが可能である。この場合、近似処理を行わなくても、反射光の振動方向の最小値と最大値を求めるだけで精度を確保でき、処理速度も速くなる。
【0124】
第1~第4実施形態では、ユーザー端末50により構造物の損傷状態を判定したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、赤外線カメラ又はユーザー端末の表示部に撮影画像を表示し、ユーザーが構造物の表面の温度差に基づいて構造物の損傷状態を判定してもよい。
【0125】
第5実施形態では、偏光フィルタ20を一定速度で回転させて一定間隔で構造物を撮影したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、第2実施形態の赤外線カメラ70を用い、赤外線カメラ70を一定速度で回転させて一定間隔で構造物を撮影し、第5実施形態と同様の画像処理を行ってもよい。
【0126】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0127】
10 赤外線カメラ
12 赤外線カメラ本体
16 レンズ群
18 赤外線検出部
20 偏光フィルタ(偏光子の一例)
22 回転操作部
50 ユーザー端末
70 赤外線カメラ
72 偏光フィルタ(偏光子の一例)
76 回転装置
120 赤外線カメラ
122 赤外線検出部(赤外線検出器の一例)
124 偏光子配置体
124A 偏光子
124B 偏光子
124C 偏光子
124D 偏光子
130 画像処理部
170 赤外線カメラ
172 赤外線検出部(赤外線検出器の一例)
350 構造物
400 赤外線カメラ
402 回転部
404 駆動部
410 画像処理部
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