(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048821
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】紙、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/04 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
D21H11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158353
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 謙史郎
(72)【発明者】
【氏名】岩田 英治
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA01
4L055AA03
4L055AC06
4L055AD07
4L055BA18
4L055BA31
4L055BB03
4L055BB11
4L055BB15
4L055BB17
4L055BB20
4L055CB11
4L055EA01
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA32
4L055EA40
4L055FA11
4L055FA22
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、クラフトパルプを原料とする高品質の紙、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は紙原料がクラフトパルプを含み、密度と裂断長、又は密度と曲げこわさが所定の関係にある、紙、クラフトパルプを紙原料として用いる、前記紙の製造方法を提供する。クラフトパルプは、容積重635kg/m3以上、かつ、繊維長1.1mm以下の木材原料をクラフトパルプ蒸解して得たものであることが好ましい。クラフトパルプ蒸解は、活性アルカリ添加率5~40%の条件で行われることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙原料がクラフトパルプを含み、
密度と裂断長が下記式1の関係にある、紙。
(式1)
B≧26.537×A-8.153
(式1中、Aは密度(g/cm3)を表し、0.3≦A≦0.7である。Bは裂断長(km)を表し、B>0である。)
【請求項2】
密度と曲げこわさが下記式2の関係にある、請求項1に記載の紙。
(式2)
C≧-387.35×A+510.75
(式2中、Aは密度(g/cm3)を表し、0.3≦A≦0.7である。Cは曲げこわさ(μN・m2/m)を表す)
【請求項3】
クラフトパルプを紙原料として用いる、請求項1又は2に記載の紙の製造方法。
【請求項4】
容積重635kg/m3以上、かつ、繊維長1.1mm以下の木材原料をクラフトパルプ蒸解し、クラフトパルプを得ること、前記クラフトパルプを含むパルプを原料として用いて紙を製造することを含む、請求項3に記載の紙の製造方法。
【請求項5】
クラフトパルプ蒸解が活性アルカリ添加率5~40%の条件で行われる、請求項3又は4に記載の紙の製造方法。
【請求項6】
クラフトパルプ蒸解後に、脱リグニン処理、漂白処理及び叩解処理から選ばれる少なくともいずれかの処理を行う、請求項4又は5に記載の紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止や持続可能な社会の構築には、温室効果ガスの排出抑制やCO2の吸収・固定の促進、さらには循環型資源であるバイオマスの利用促進が重要である。温室効果ガスの排出抑制には、非化石燃料への燃料転換や省エネルギーの推進が効果的であり、カーボンニュートラルとの考え方からバイオマス燃料は今後重要度が増すと考えられる。また、CO2の吸収・固定やバイオマス資源の増産の手法として大規模な商業植林が有効である。商業植林を実施する場合、低コスト化が必須であり、そのためには、単位面積当たりから得られるバイオマスの収量(重量)増加が課題となる。商業植林により得られた木材チップは、チップ船により輸送する。チップ船の積載容積には限りがあり、同一容積でより大量のチップが積載可能な(輸送コスト削減が可能な)高容積重チップが求められている。
【0003】
特許文献1には、容積重450kg/m3以上のユーカリ属由来の機械パルプを印刷用塗工紙の生産に用いると、原紙の嵩高構造を維持でき、低密度の印刷用塗工紙を製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような機械パルプでは、クラフトパルプよりも高品質の紙を得やすいものの、木材やチップを機械的に解繊して製造されるため、電力消費量がかさむ傾向にあり、その結果、近年、地球規模で問題視されている温室効果ガス(GHG)排出量の増加に繋がるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、クラフトパルプを原料とする高品質の紙、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の〔1〕~〔6〕を提供する。
〔1〕紙原料がクラフトパルプを含み、
密度と裂断長が下記式1の関係にある、紙。
(式1)
B≧26.537×A-8.153
(式1中、Aは密度(g/cm3)を表し、0.3≦A≦0.7である。Bは裂断長(km)を表し、B>0である。)
〔2〕密度と曲げこわさが下記式2の関係にある、〔1〕に記載の紙。
(式2)
C≧-387.35×A+510.75
(式2中、Aは密度(g/cm3)を表し、0.3≦A≦0.7である。Cは曲げこわさ(μN・m2/m)を表す)
〔3〕クラフトパルプを紙原料として用いる、〔1〕又は〔2〕に記載の紙の製造方法。
〔4〕容積重635kg/m3以上、かつ、繊維長1.1mm以下の木材原料をクラフトパルプ蒸解し、クラフトパルプを得ること、前記クラフトパルプを含むパルプを原料として用いて紙を製造することを含む、〔3〕に記載の紙の製造方法。
〔5〕クラフトパルプ蒸解が活性アルカリ添加率5~40%の条件で行われる、〔3〕又は〔4〕に記載の紙の製造方法。
〔6〕クラフトパルプ蒸解後に、脱リグニン処理、漂白処理及び叩解処理から選ばれる少なくともいずれかの処理を行う、〔4〕又は〔5〕に記載の紙の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、品質が良好であり、機械パルプと同等の紙質を示す紙、及びその製造方法が提供される。通常、機械パルプでは機械的に木材やチップを解繊するため、電力消費量が多くなる傾向にあり、近年、地球規模で問題視されている温室効果ガス(GHG)排出量の増加に繋がるおそれがある。本発明によれば、機械パルプと同等の紙質の紙を得ることができることから、メカニカルパルプの代替材料を提供でき、消費電力の削減、カーボンニュートラル並びにSDGs達成に貢献できるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例における裂断長と密度の関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例における曲げこわさと密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔1.紙の物性〕
-密度と裂断長-
紙は、密度と裂断長が式1の関係にあることが好ましい。
(式1)
B≧26.537×A-8.153
式1中、Aは密度(g/cm3)を表し、0.3≦A≦0.7であり、好ましくは0.4≦A≦0.65である。Bは裂断長(km)を表し、B>0である。裂断長は、JIS P 8113:2006に準拠して測定できる。
【0011】
-密度と曲げこわさ-
紙は、密度と曲げこわさが式2の関係にあることが好ましい。
(式2)
C≧-387.35×A+510.75
式2中、Aは密度(g/cm3)を表し、0.3≦A≦0.7である。Cは曲げこわさ(μN・m2/m)を表す。曲げこわさは、ISO2493-2:2020に準拠して測定できる。
【0012】
-密度-
密度は、紙の坪量を紙厚で割った値から算出され、通常、0.3~0.7g/cm3であり、好ましくは0.4~0.65g/cm3、より好ましくは0.45~0.6g/cm3である。
【0013】
(式1)又は(式2)を満たす紙は、良好な嵩高性及び強度、又はこわさを示すことができる。また、同一密度における嵩高性、強度、こわさが良好であるため、塗工紙等の原紙として使用した際に減斤が可能であり、コストダウン、省資源化も図ることができる。このため、紙は、印刷用紙、包装材等、各種用途において利用できる。
【0014】
〔2.紙原料〕
本発明の紙は、紙原料としてクラフトパルプを用いて得られる紙である。本明細書において、クラフトパルプは、活性アルカリを用いるクラフト蒸解法により木材原料から取り出された繊維である。
クラフトパルプは、容積重が635kg/m3以上、かつ、繊維長1.1mm以下の木材原料から調製されたものであることが好ましい。
【0015】
-容積重-
クラフトパルプの原料である木材の容積重は、635kg/m3以上、好ましくは650kg/m3以上である。容積重が上記の数値を満たすものは、繊維壁(膜厚)が厚く、空隙(ルーメン径)の少ない構造を持つ傾向にある。木材中の水の多くは空隙に存在するところ、空隙の少ない構造を持つことにより、水を含みにくいものとなり得る。また、容積重が上記の数値を満たすものは、満たさないものと比較して同容積で一度に運べる木質重量が大きいことから、輸送効率を高めることができる。さらに、炭酸ガス固定量がより大きい木材から生産できるので、斯かる木材チップの大量生産の結果炭酸ガス固定量を増やすことができ、地球環境変動への緩和策、温暖化の抑制策として持続可能な社会の実現に貢献できる。上限は、通常800kg/m3以下、好ましくは750kg/m3以下、より好ましくは730kg/m3以下、更に好ましくは720kg/m3以下であるが、これらは一例であり特に限定されない。
【0016】
容積重は、体積に対する重量の比率である。容積重の測定は、測定用サンプルを水が入っているメスシリンダーに投入し、その増加した目盛りを読み取り、体積の増加を確認後、チップを乾燥させ、絶乾の重量を測定し算出する方法(JAPAN TAPPI No.3:2000)で行うことができ、後段の実施例の測定方法も同様である。
【0017】
-繊維長-
クラフトパルプの繊維長は、通常1.1mm以下、好ましくは1.05mm以下、より好ましくは1mm以下である。下限は、通常、0.5mm以上、好ましくは0.55mm以上、より好ましくは0.60mm以上、更に好ましくは0.65mm以上である。これらは一例であり特に限定されない。
【0018】
繊維長は、JIS P 8226:2011「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準拠しファイバーテスター(Lorentzen&Wettre社製)を用いて長さ加重平均繊維長として測定でき、後段の実施例の測定方法も同様である。
【0019】
-樹木-
クラフトパルプの木材原料は、通常、植物に由来し、植物は、通常、木本植物である。木本植物は、通常は山林樹木であり、例えば、ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナなどの広葉樹、アカマツ、スギ、ヒノキなどの針葉樹が挙げられ、好ましくは広葉樹、より好ましくはアカシア(Acacia)属植物及びユーカリ(Eucalyptus)属植物、更に好ましくはユーカリ属植物である。ユーカリ属植物は、成長が早いため木材チップの収穫量も大きくなるため燃料用チップにも適している。また、伐採後、切り株から萌芽更新による再造林も可能なため、持続可能な植林が可能である。
【0020】
ユーカリ属植物としては、例えば、Eucalyptus pellita、Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla×Eucalyptus grandis、Eucalyptus pellita×Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla、Eucalyptus grandis、Eucalyptus maculata、Eucalyptus tereticornis、Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus rudis、Eucalyptus resinifera、Eucalyptus propinqua、Eucalyptus sideroxylon、Eucalyptus botryoides、Eucalyptus viminalis、Eucalyptus saligna、Eucalyptus ovata、Eucalyptus globulus、Eucalyptus nitens、Eucalyptus saligna、Eucalyptus cladocalyx、Eucalyptus urograndis、これらから選ばれる2以上の樹種のハイブリッドが挙げられる。これらのうち、植林地の環境に適したもの(例えば、熱帯で植林する場合には、熱帯に適応可能性のある樹種)を選ぶことができるが、E.pellita、E.brassiana、E.urophylla、E.urograndis、E.brassianaとE.pellitaのハイブリッド、E.urophyllaとE.pellitaのハイブリッド、これらから選ばれる2以上の樹種のハイブリッドが好ましく、E.brassianaとE.pellitaのハイブリッド、E.urograndisがより好ましい。容積重の高い(例えば、500kg/m3以上)個体同士を交配させ、得られたF1個体を選抜することで優れた形質を有した個体が得られると考えられる。
【0021】
木材の由来植物は、通常はクローン苗及び実生苗から育成した植林木である。樹齢は特に限定されず、木材が得られる樹齢であればよく(通常は2年以上)、好ましくは5年以上である。上限は品質面からは特に限定されないが、経済的な観点からは短いほうがよい。ユーカリ属植物の場合、植林地域にもよるが、通常は15年以下であり、好ましくは10年以下である。
【0022】
クラフトパルプの木材原料は、単一の植物に由来する木材でもよいし、樹種、樹齢の異なる植物に由来する2以上の木材の組み合わせでもよい。木材原料からのクラフトパルプの製造方法は、特に限定されないが、後述の方法によることが好ましい。
【0023】
-クラフトパルプ以外のパルプ-
紙原料は、クラフトパルプ以外のパルプを含んでもよい。例えば、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の蒸解を行う、クラフト法以外の化学的方法により得られるパルプ(ケミカルパルプ)、リファイナー、グラインダー等の機器を用いる機械的方法により得られるパルプ(メカニカルパルプ)、薬品による前処理の後機械力によってパルプ化する方法(セミケミカルパルプ)が挙げられる。紙原料に占めるクラフトパルプの割合は90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、98重量%以上がさらに好ましく、99重量%以上(実質的にクラフトパルプ以外の原料を含まないこと)がさらにより好ましく、100重量%(クラフトパルプのみからなること)がとりわけ好ましい。
【0024】
〔3.紙の製造方法〕
紙は、クラフトパルプを紙原料として用いて製造できる。
-クラフトパルプの製造方法-
クラフトパルプは、容積重635kg/m3以上、かつ、繊維長1.1mm以下の木材原料から製造されたクラフトパルプが好ましい。容積重、繊維長については、上述のとおりである。
【0025】
-木材原料-
木材原料は、上述の植物(例えば、ユーカリ属植物)から常法に従って調製すればよく、例えば、木材チップが挙げられる。木材チップの製造方法としては、例えば、植物を伐採後、木材部分(幹及び枝)から樹皮を取り除き、切削又は破砕する方法が挙げられる。木材チップのサイズは、その用途に応じて定めればよく特に限定されない。
【0026】
-クラフトパルプ蒸解-
木材原料は、クラフトパルプ蒸解に供されることにより、クラフトパルプを得ることができる。クラフトパルプ蒸解は、クラフト法によって行えばよい。クラフトパルプ蒸解は、MCC、EMCC、ITC、Lo-solidなどの修正クラフト法の蒸解であってもよい。また、クラフトパルプ蒸解の蒸解型式としては、例えば、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型が挙げられ、これらのいずれでもよい。
【0027】
(活性アルカリ添加率)
クラフトパルプ蒸解において、活性アルカリ添加率は、5%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。これにより、リグニン、ヘミセルロースを十分に除去できる。上限は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。これにより、品質及び/又は収率の低下を抑制し、効率的にクラフトパルプ蒸解を進めることができる。したがって、5~40%が好ましく、より好ましくは8~30%、更に好ましくは10~20%である。本明細書において活性アルカリ添加率とは、対絶乾木材チップ重量当たりのNa2Oの添加率であり、NaOHとNa2Sの合計の添加率をNa2Oの添加率とした換算値である。すなわち、NaOHの添加量に0.775を、Na2Sの添加量に0.795をそれぞれ乗じることでNa2Oの添加率に換算できる。
【0028】
(硫化度)
硫化度は20%以上が好ましい。これにより、脱リグニン性及び/又はパルプ粘度の低下や、粕率の増加を抑制できる。上限は、通常35%以下である。
【0029】
(温度条件)
クラフト蒸解における温度調整は、例えば、最高温度が好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下となるように行う。これにより、セルロース重合度(粘度)の低下を抑制できる。最低温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上である。これにより、脱リグニンを十分に行うことができる。また、保持時間(蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間)は、60分以上が好ましく、120分以上がより好ましい。これにより、パルプ化を十分に進行させることができる。上限は、600分以下が好ましく、360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0030】
(Hファクター)
クラフト蒸解におけるHファクター(Hf)は、300~2000が好ましく、350~1500がより好ましく、400~1000がさらに好ましい。本明細書においてHfは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。
Hf=∫exp(43.20-16113/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
Hfは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安として用いることができ、クラフト蒸解の条件(例えば、処理温度及び処理時間)は、Hfを指標として設定できる。
【0031】
-脱リグニン処理-
クラフトパルプ蒸解後のパルプは、脱リグニン処理がされることが好ましい。脱リグニン処理は、常法により行えばよいが、酸素脱リグニン処理によることが好ましい。酸素脱リグニン処理の一例を示すと、以下のとおりである。蒸解処理後のクラフトパルプにアルカリ剤(例えば、NaOH)を添加してアルカリ性とした後、必要に応じて薬品を添加し、酸素圧下で酸化処理を行う。系内のパルプ濃度は、8~15質量%(中濃度法)、20~35質量%(高濃度法)のいずれでもよい。酸素圧(開始圧力)は、例えば3~9Bar、好ましくは4~7Barである。アルカリ剤の添加量(対絶乾パルプ重量)は、例えば0.5~5%、好ましくは1~3%である。温度は、例えば80~120℃、好ましくは85~105℃である。酸素添加量(対絶乾パルプ重量)は、例えば0.5~5%、好ましくは1~3%である。反応時間は、例えば30~180分、好ましくは60~90分である。
【0032】
-漂白処理-
漂白処理としては、例えば、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)、及びこれらの2以上の処理の組み合わせを施す方法が挙げられる。2以上の処理の組み合わせ(シーケンス)としては、例えば、D-E/P-D、C/D-E-H-D、Z-E-D-PZ/D-Ep-D、Z/D-Ep-D-P、D-Ep-D、D-Ep-D-P、D-Ep-P-D、Z-Eop-D-D、Z/D-Eop-D、Z/D-Eop-D-E-D(シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する)、その他一般的に使用される方法が挙げられ、D-E/P-Dが好ましい。各処理の際の温度は、例えば40~90℃、好ましくは50~80℃である。各処理の際の反応時間は、例えば30~180分、好ましくは50~90分である。漂白処理後のパルプの白色度(ISO 2470-1:2016)は、80%以上が好ましい。
【0033】
-叩解処理-
叩解処理は、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置で行うことが好ましい。前記装置としては例えば、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものが挙げられる。
【0034】
-抄紙処理-
上述の紙は、上述のクラフトパルプを抄紙して製造できる。
抄紙は、例えば、クラフトパルプからシートを形成する処理によればよい。シートの形成は、例えば、日本工業規格(JIS)P 8122「パルプ-試験用手すき紙の調製方法」(1989年版)に従えばよく、例えば、パルプを抄紙機でシート状に成形する方法が挙げられる。パルプをシート状に成形する際に、製紙用途で一般に用いられる添加剤をパルプに添加してもよい。該添加剤としては、例えば、紙力増強剤、嵩高剤、顔料、歩留り向上剤、ろ水性向上剤、内添サイズ剤(ロジン系サイズ剤、硫酸バンド等)、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤が挙げられる。該添加剤の使用量は特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲であればよい。
【0035】
シートの形成の際には、クラフトパルプ以外の紙原料を用いてもよく、例えば、レーヨン繊維、フィルム等の他の材料が挙げられる。紙原料は、上記ユーカリ属植物より得られるパルプとともに他の材料が予めシート、フィルム、ロール等の形状に成形されたものであってもよい。紙原料は、他の植物を原料とするパルプを含んでいてもよいが、含まないことが好ましい。
【0036】
抄紙機としては、例えば長網式抄紙機、丸網式抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの中から選ばれる2以上の抄造機における抄紙方式を組合せた公知の抄造機が挙げられる。抄造機におけるプレス線圧、後段でカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性及び得られる可塑化セルロースの性能に支障を来さない範囲内で設定すればよい。
【0037】
〔4.紙の用途〕
本発明の紙は、(式1)又は(式2)を満たすことにより、嵩が出やすいため、嵩高剤の添加量が少量でも嵩高性を示すことができる。また、同一密度で強度が出やすいため、紙力増強剤の添加量が少量でも強度の高い紙を得ることができる。
【0038】
本発明の紙の用途としては、例えば、印刷用紙、新聞紙、インクジェット用紙、PPC用紙、フォーム用紙、クラフト紙、上質紙、コート紙、微塗工紙、包装紙、薄葉紙、色上質紙、キャストコート紙、ノンカーボン紙、ラベル用紙、感熱紙、各種ファンシーペーパー、水溶紙、剥離紙、工程紙、壁紙用原紙、難燃紙(不燃紙)、積層板原紙、プリンテッドエレクトロニクス用紙、バッテリー用セパレータ、クッション紙、トレーシングペーパー、含浸紙、ODP用紙、建材用紙、化粧材用紙、封筒用紙、テープ用紙、熱交換用紙、化繊紙、減菌紙、耐水紙、耐油紙、耐熱紙、光触媒紙、化粧紙(脂取り紙など)、各種衛生紙(トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ワイパー、おむつ、生理用品等)、たばこ用紙、板紙(ライナー、中芯原紙、白板紙など)、紙皿原紙、カップ原紙、ベーキング用紙、研磨紙、合成紙などが挙げられる。このうち、印刷用紙、インクジェット用紙、PPC用紙、フォーム用紙、クラフト紙、上質紙、コート紙、微塗工紙、包装紙が、同一密度における強度とこわさが良好であるため好ましい。
【実施例0039】
実施例1~3及び比較例1~9
熱帯・亜熱帯地域に適応可能な樹種、ハイブリット種を含むユーカリ属植物約20万個体の苗(実生苗)を作成し、ブラジルの植林地において植栽試験を実施した。実生苗(植え付け時の苗の樹齢:挿し付け後100日目)は播種後約100日間、散水設備のある温室で発根処理を行い(約3週間、高湿度(約100%)、遮光)、順化室(遮光度、湿度を徐々に低下)、野外圃場を経て、雨季(12月末~6月)に植林地に植栽した(植栽密度:1666本/ha)。約4年間保育させた後、材積、樹形にて選抜し約200個体に絞り込みを行った。その後、選抜した個体を伐倒し、萌芽枝からさし木によるクローン苗の増殖を行った。そのクローン苗を砂耕栽培棚に移植し、母樹として枝を伸長させ、その枝を挿し木することでクローン苗の増殖を行った。その後、クローン苗を用いて、2回目の植栽試験を実施した(1系統30本)。4年間保育後、クローンとしての材積、樹形、均一性を確認し、40クローンに絞り込みを行った。その後、砂耕栽培棚の母樹を用いて、大規模な挿し木増殖を行い、3回目の大規模な植栽試験をクローン苗で行った(1系統500本)。4年間保育した後、大面積でのクローンとしての材積、樹形、均一性、病害適性を評価し、10クローンに絞り込みを行った。その後、TAPPI JAPANに準拠したパルプ化適性試験を行い数クローン選抜した。本工程を5年間繰り返し、延べ100万個体から選抜を実施し、クローンA~C(実施例1~3)を選抜した。
【0040】
クローンAとBは、E.pellita×E.brassiana、クローンCはE.brassiana×E.pellitaであった。
【0041】
〔木材チップの調製、物性試験〕
(1)チップの調製
クローンA~Cの木材部分から樹皮を取り除き、切削して木材チップを得た。木材チップはジャイロシフターで篩分けし、25.4mmΦpass~9.5mmΦonのフラクションを蒸解試験に用いた。
クローンA~Cから得られるチップの容積重は、655kg/m3、640kg/m3、660kg/m3であった。また、繊維長は、0.88mm、0.85mm、0.90mm、樹齢は6.5年生、6.0年生、6.8年生であった。
【0042】
(2)蒸解試験(KP蒸解)
2.5L回転型オートクレーブ(マルチダイジェスター)にてKP蒸解し、各材より未晒しパルプを得た。蒸解条件は表1に記載のとおりとした。
【0043】
【0044】
得られたクローンの容積重を測定したところ、クローンAは655kg/cm3、クローンBは640kg/cm3、クローンCは660kg/cm3であった。繊維長を測定したところ、クローンAは0.88mm、クローンBは0.85mm、クローンCは0.90mmであった。なお、繊維長はJIS P 8226:2011「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準拠してファイバーテスター(Lorentzen&Wettre社製)を用いて長さ加重平均繊維長として測定した。また、容積重は、J TAPPI NO.3:2000「木材チップ-容積重試験方法」に準拠して測定した。
【0045】
(3)酸素脱リグニン
(2)により得られた未晒しパルプを酸脱装置(CRS:Multipurpose Reactor、CRS Reactor Engineering AB社製)にて酸素脱リグニンを行った。酸素脱リグニンの条件は、表2に記載のとおりとした。
【0046】
【0047】
[表2の注釈]
酸素添加量、NaOH添加量は、絶乾パルプの重量に対する割合(%)である。
【0048】
(4)漂白試験(塩素漂白)
(3)により得られたパルプについて、D0-E/P-D1のフローにて、手もみ漂白を行った。漂白の条件は、表3に記載のとおりとした。最終目標白色度(ISO 2470-1:2016)は86%とした。
【0049】
【0050】
(5)叩解作業
(4)により得られたパルプについて、PFIミルを用いて叩解した。叩解強度はミル回転数にて管理した。
【0051】
(6)手抄き紙の作製
(5)により得られた叩解後のパルプより、JIS P 8222「パルプ-試験用手すき紙の調製方法-標準手すき機による方法」に準拠して手すき紙作製を行った。目標坪量60g/m2とした。
【0052】
(7)紙質試験
(6)により得られた手すき紙について、裂断長(密度0.6g/cm
3)をJIS P 8113:2006に準拠して測定した。また、曲げこわさ(0.6g/cm
3)をISO2493-2:2020に準拠して測定した。
また、比較例1~3は、植物種と樹齢がE.urophylla(樹齢:6.5年)、E.globulus(樹齢:10年)、E.urograndis(樹齢:7年)の木材から、(1)~(6)により得られた手すき紙の裂断長と曲げこわさを、実施例と同様に測定した。比較例1~3の各木材パルプの容積重、繊維長は、以下のとおりであった:比較例1の容積重:530kg/m
3、繊維長:0.86mm;比較例2の容積重:516kg/m
3、繊維長:0.83mm;比較例3の容積重:550kg/m
3、繊維長:0.80mm。比較例4~9は、H.Nankoほか「THE WORLD OF MARKET PULP」(2010)TAPPI Pressに記載の以下の木材パルプから得られる紙の裂断長の測定値を転載した:E.grandis hybridの木材パルプ(繊維長:0.76mm:比較例4);E.grandis and E.globulus hybridの木材パルプ(繊維長:0.72mm:比較例5);E.globulus(繊維長:0.75mm:比較例6);E.Caldumalesisの木材パルプ(繊維長:0.65mm:比較例7)(表4、
図1、
図2)。
【0053】
【0054】
実施例で得られる紙は、密度が0.5及び0.6g/cm
3のいずれの場合でも、裂断長が式1を満たしていた。また、曲げこわさも式2を満たしていた。一方、比較例の紙は、密度が0.5及び0.6g/cm
3のいずれの場合にも裂断長が式1を満たさず、曲げこわさも式2を満たしていなかった(表4、
図1、
図2)。
【0055】
以上の結果は、本発明において、クラフトパルプから、嵩高性と高強度を併せ持つ紙が得られることを示している。