(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048822
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】メカニカルシール装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
F16J15/34 L
F16J15/34 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158354
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】秋山 浩二
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BD01
3J041DA12
3J041DA16
(57)【要約】
【課題】密封性能に優れるメカニカルシール装置を提供する。
【解決手段】回転軸6に取付けられる回転密封要素1と、ハウジング5に取付けられ、回転密封要素1と共に一次シールを構成する静止密封要素2と、ハウジング5における内周面54と静止密封要素2における外周面23との間に軸方向に圧縮されて配置される二次シール3とを備えたメカニカルシール装置Mであって、静止密封要素2における外周面23はハウジング5における内周面54に対して少なくとも一部が傾斜しており、静止密封要素2における外周面23およびハウジング5における内周面54により形成される空間7に断面楔形の二次シール3が配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取付けられる回転密封要素と、
ハウジングに取付けられ、前記回転密封要素と共に一次シールを構成する静止密封要素と、
前記ハウジングにおける内周面と前記静止密封要素における外周面との間に軸方向に圧縮されて配置される二次シールとを備えたメカニカルシール装置であって、
前記静止密封要素における外周面は前記ハウジングにおける内周面に対して少なくとも一部が傾斜しており、前記外周面および前記内周面により形成される空間に断面楔形の前記二次シールが配置されているメカニカルシール装置。
【請求項2】
前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面と前記二次シールにおける外周面は面接触しており、
前記空間を区画している前記ハウジングにおける軸方向側内側面と前記二次シールにおける軸方向側側面は面接触しており、
前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面と前記二次シールにおける内周面は面接触している請求項1に記載のメカニカルシール装置。
【請求項3】
前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面と前記二次シールにおける外周面は面接触しており、
前記空間を区画している前記静止密封要素における軸方向側外側面と前記二次シールにおける軸方向側側面は面接触しており、
前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面と前記二次シールにおける内周面は面接触している請求項1に記載のメカニカルシール装置。
【請求項4】
前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面は、前記静止密封要素の軸方向端側より軸方向中央側かつ外径側に向かって傾斜する傾斜面であり、
前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面は、前記軸方向に平行な平行面である請求項1ないし3のいずれかに記載のメカニカルシール装置。
【請求項5】
前記二次シールにおける幅広部は、前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面および前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面の一方に接触し、他方に接触していない請求項1ないし4のいずれかに記載のメカニカルシール装置。
【請求項6】
前記ハウジングにおける内周面と前記静止密封要素における外周面とは平行に延び、前記二次シールが圧入される前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面と前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面との間に連なる平行箇所を形成している請求項1ないし5のいずれかに記載のメカニカルシール装置。
【請求項7】
前記二次シールは、前記静止密封要素における軸方向両側に配置されている請求項1ないし6のいずれかに記載のメカニカルシール装置。
【請求項8】
前記空間および前記二次シールはそれぞれ軸方向両側で面対称形状である請求項7に記載のメカニカルシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の回転軸とハウジングとの間を軸封するメカニカルシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械において回転軸周辺の被密封流体の漏れを防止するメカニカルシール装置として、例えば、ハウジングに保持された静止密封要素と、ハウジングに挿通された回転軸に固定された回転密封要素と、を備え、一対の密封要素が相対摺動するメカニカルシール装置が知られている。
【0003】
このようなメカニカルシール装置にあっては、静止密封要素がハウジングに対して回転しないように回転規制ピンや他の規制部材を設けたものがある。回転規制ピンを設けることで静止密封要素に不均一な応力が作用し歪が生じることがある。
【0004】
例えば、特許文献1に示されるメカニカルシール装置においては、静止密封要素は静止密封環と保持環とから構成されており、保持環は静止密封環を回転規制した状態で保持している。回転密封環の摺動面と静止密封環の摺動面は一次シールを構成している。また、ハウジングと保持環との間に二次シールとしてOリングが配置されている。このOリングは、被密封流体の漏れを防止しているとともに、保持環がハウジングに対して回転することを規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-57353号公報(第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の軸封装置にあっては、Oリングが回転規制機能を兼ねることで装置全体が簡素に構成されているとともに、保持環に均一な応力が作用し歪が生じにくくなっている。Oリングはハウジングの内径側段部と保持環の外径側段部によって形成された断面矩形状の環状空間に軸方向に圧縮された状態で配置されている。Oリングはハウジングの内周面と静止密封の外周面に略線接触していることから、Oリングの有効摩擦面が狭く、回転密封環から大きなトルクを受けると静止密封環と共に保持環が回転することがあった。また、Oリングは、軸方向への圧縮時に、上下方向に変形するとともにOリング自身も変形するため、回転トルクに対する摩擦力を十分に高めることが難しく、このことからも保持環が回転することがあった。これらにより、回転密封環と静止密封環の相対回転速度が断続的になって、一次シールの密封性能が低下する恐れがあった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、密封性能に優れるメカニカルシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシール装置は、
回転軸に取付けられる回転密封要素と、
ハウジングに取付けられ、前記回転密封要素と共に一次シールを構成する静止密封要素と、
前記ハウジングにおける内周面と前記静止密封要素における外周面との間に軸方向に圧縮されて配置される二次シールとを備えたメカニカルシール装置であって、
前記静止密封要素における外周面は前記ハウジングにおける内周面に対して少なくとも一部が傾斜しており、前記外周面および前記内周面により形成される空間に断面楔形の前記二次シールが配置されている。
これによれば、断面楔形の二次シールが軸方向に圧縮されることで、二次シールにおける幅狭部が楔作用によって空間を区画している静止密封要素における外周面とハウジングにおける内周面との間に食い込み、これら外周面と内周面とに広い有効摩擦面が形成されている。この構造により、ハウジングに対して静止密封要素は高い固定力で固定される。このように、静止密封要素はハウジングに対して回転し難く、メカニカルシール装置は密封性に優れる。
【0009】
前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面と前記二次シールにおける外周面は面接触しており、
前記空間を区画している前記ハウジングにおける軸方向側内側面と前記二次シールにおける軸方向側側面は面接触しており、
前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面と前記二次シールにおける内周面は面接触していてもよい。
これによれば、二次シールが軸方向の圧縮力を受けることで、ハウジングに対して静止密封要素は高い固定力で固定される。
【0010】
前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面と前記二次シールにおける外周面は面接触しており、
前記空間を区画している前記静止密封要素における軸方向側外側面と前記二次シールにおける軸方向側側面は面接触しており、
前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面と前記二次シールにおける内周面は面接触していてもよい。
これによれば、二次シールが軸方向の圧縮力を受けることで、ハウジングに対して静止密封要素は高い固定力で固定される。
【0011】
前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面は、前記静止密封要素の軸方向端側より軸方向中央側かつ外径側に向かって傾斜する傾斜面であり、
前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面は、前記軸方向に平行な平行面であってもよい。
これによれば、二次シールは軸方向への圧縮により、楔作用によって外径側において傾斜面と平行面の間に食い込む。これにより、有効摩擦面は周長が長く、ハウジングに対して静止密封要素は高い固定力で固定される。
【0012】
前記二次シールにおける幅広部は、前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面および前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面の一方に接触し、他方に接触していなくてもよい。
これによれば、二次シールが熱膨張しても幅広部が主な膨張代となることから、静止密封要素は歪むことがない。
【0013】
前記ハウジングにおける内周面と前記静止密封要素における外周面とは平行に延び、前記二次シールが圧入される前記空間を区画している前記ハウジングにおける内周面と前記空間を区画している前記静止密封要素における外周面との間に連なる平行箇所を形成していてもよい。
これによれば、二次シールにおける幅狭部は空間を区画しているハウジングにおける内周面と空間を区画している静止密封要素における外周面との間に一層食い込みやすい。
【0014】
前記二次シールは、前記静止密封要素における軸方向両側に配置されていてもよい。
これによれば、ハウジングに対して静止密封要素は高い固定力で固定される。また、静止密封要素をハウジングに軸方向に離間して配置できる。
【0015】
前記空間および前記二次シールはそれぞれ軸方向両側で面対称形状であってもよい。
これによれば、ハウジングに対して静止密封要素は高い固定力で固定される。また、2つの二次シールは軸方向への圧縮時に面対称で変形するため、静止密封要素における両側で固定力がバランスよく与えられている。
【0016】
非取り付け状態の前記二次シールは、断面楔形、好ましくは相対的に傾斜する面がそれぞれ直線をなす断面楔形をなしていてもよい。
これによれば、二次シールの潰し代を設定しやすく、かつハウジング、静止密封要素の構造が簡単である。
【0017】
前記ハウジングにおける内周面と前記静止密封要素における外周面との空間は、断面楔形、好ましくは相対的に傾斜する面がそれぞれ直線をなす断面楔形をなしていてもよい。
これによれば、二次シールの潰し代を設定しやすく、かつハウジング、静止密封要素の構造が簡単である。
【0018】
前記二次シールは樹脂製であってもよい。
これによれば、二次シールはハウジングに対して静止密封要素を高い固定力で固定できるとともに、耐化学変化等への機能付加の選択幅が広い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る実施例1のメカニカルシール装置の断面図である。
【
図2】実施例1のメカニカルシール装置における要部の断面図である。
【
図3】二次シールの圧入について説明するための断面図である。
【
図4】本発明に係る実施例2のメカニカルシール装置における要部の断面図である。
【
図5】本発明に係る実施例3のメカニカルシール装置における要部の断面図である。
【
図6】本発明に係る実施例4のメカニカルシール装置における要部の断面図である。
【
図7】本発明に係る実施例5のメカニカルシール装置における要部の断面図である。
【
図8】本発明に係る実施例6のメカニカルシール装置における要部の断面図である。
【
図9】本発明に係る実施例7のメカニカルシール装置における要部の断面図である。
【
図10】変形例1の二次シールについて説明するための図である。
【
図11】変形例2の二次シールについて説明するための図である。
【
図12】変形例3の二次シールについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るメカニカルシール装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0021】
実施例1に係るメカニカルシール装置につき、
図1~
図3を参照して説明する。以下、
図1の正面から見て左右をメカニカルシール装置の左右として説明する。詳しくは、紙面左側をメカニカルシール装置の左側、紙面右側をメカニカルシール装置の右側として説明する。
【0022】
図1に示されるように、メカニカルシール装置Mは、回転機械におけるハウジング5と回転軸6との間に設けられて、周辺の被密封流体の漏れを防止するためのものである。
【0023】
メカニカルシール装置Mは、回転密封要素1と、静止密封要素2と、から主に構成されている。回転密封要素1は、回転軸6と共に回転可能な状態で取付けられている。静止密封要素2は、二次シール3,4を介在させた状態でハウジング5に取付けられている。これら回転密封要素1および静止密封要素2は一次シールを構成している。また、二次シール3,4は、ハウジング5における内周面と静止密封要素2における外周面との間に軸方向に圧縮されて配置されている。
【0024】
回転密封要素1は、回転密封環10と、カラー11と、セットスクリュ13と、コイルスプリング15と、ドライブピン16と、Oリング17,18から主に構成されている。
【0025】
回転密封環10は、カーボン製であり、円環状に形成されている。その右端面は、摺動面10aである。
【0026】
また、回転密封環10は、左端における内周面に、内径方向に開放され、外径方向に凹設されている環状溝10bが形成されている。環状溝10b内に配置されたOリング17が環状溝10bにおける内周面およびカラー11における外周面に圧着されており、回転密封環10とカラー11との間は密封されている。
【0027】
カラー11は、円筒状に形成されている。カラー11は、セットスクリュ13により回転軸6に固定されている。
【0028】
また、カラー11には、右端における内周面に、内径方向に開放され、外径方向に凹設されている環状溝11bが形成されている。環状溝11b内に配置されたOリング18が環状溝11bにおける内周面および回転軸6における外周面に圧着されており、カラー11と回転軸6との間は密封されている。
【0029】
また、カラー11には、軸方向中央にて外径側に延出している環状凸部における右端面に、右方向に開放され、左方向に凹設されている凹部11cが等配されている。各凹部11cには、コイルスプリング15が挿入されている。コイルスプリング15は、回転密封環10を静止密封環20に向かって押圧している。
【0030】
また、カラー11には、環状凸部における側端面に、ドライブピン16が固定されている。ドライブピン16は、左方向に開放されている回転密封環10における溝10cに挿通されている。これにより、回転密封環10は、カラー11に対する相対的な回動が規制されている。回転密封環10は、回転軸6と共に回転可能となっている。
【0031】
静止密封要素2は、静止密封環20と、保持環21から構成されている。
【0032】
静止密封環20は、充填材入PTFE(Polytetrafluoroethylene)製であり、円環状に形成されている。その左端面は、摺動面20aである。
【0033】
静止密封環20における摺動面20aには、回転密封環10における摺動面10aが圧接されている。これにより、摺動面10a,20aは回転軸6の回転時に相対摺動可能となっている。
【0034】
なお、回転密封環10および静止密封環20は軟質材料と軟質材料とを組み合わせて用いられるものに限られない。また、摺動部材の材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば前述したもの以外であっても適用可能であり、例えばセラミックス、金属材料、樹脂材料、複合材料等を適用可能である。
【0035】
図2に示されるように、保持環21は、断面下向きL字状の円環状に形成されている。
【0036】
保持環21は、左端部における内径側に、内径方向かつ左方向に開放され、右方向に段状に凹む円環状の開口21aが形成されている。開口21aには、焼き嵌めにより静止密封環20が固定されている。なお、保持環21への静止密封環20の固定は焼き嵌め以外であってもよい。
【0037】
また、保持環21における外周面は、左側から順に、内径側平行面22と、傾斜面23と、外径側平行面24と、傾斜面25と、内径側平行面26から構成されている。なお、本実施例において、傾斜面23,25は空間を区画している静止密封要素における外周面である。
【0038】
内径側平行面22は、その左縁から右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。傾斜面23は、内径側平行面22における右縁から右方向かつ外径方向に向かって傾斜して直線状に延びている。外径側平行面24は、傾斜面23における右縁から右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。傾斜面25は、外径側平行面24における右縁から右方向かつ内径方向に向かって傾斜して直線状に延びている。内径側平行面26は、傾斜面25における右縁から右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。
【0039】
内径側平行面22と傾斜面23とのなす外角θ1は、傾斜面25および内径側平行面26とのなす外角θ2と略同一である。また、傾斜面23と外径側平行面24とのなす内角θ3は、外径側平行面24と傾斜面25とのなす内角θ4と略同一である。また、内径側平行面22,26は、略同一直線上に配置されている。
【0040】
また、保持環21は、内径側平行面26における右縁に略直交して内径側に延びる側端面27を有している。
【0041】
次に、二次シール3,4について説明する。組み付け前において、二次シール3,4は、非取り付け状態、すなわち弾性変形していない状態である。二次シール3は回転密封環10側に配置され、二次シール4は本体50側に配置されている。また、二次シール3,4は互いに面対称形状であるため、二次シール3を例に説明し、特に断らない限り二次シール4の説明については省略する。
【0042】
二次シール3は、PTFE製であり、断面楔形、概略で言うならば断面略三角形状、より詳しくは断面略直角台形の右先端が切断された形状である断面楔形の円環状に形成されている。なお、組み付け時、組み付け後の二次シール3の形状等については後述する。
【0043】
図3(a)に示されるように、二次シール3は、左側における外径縁から反時計回り順に、長寸側端面30と、内周面を構成する平行面31および傾斜面32と、短寸側端面33と、外周面34を有している。なお、本実施例において、長寸側端面30は二次シールにおける軸方向側側面であり、傾斜面32は二次シールにおける内周面であり、外周面34は二次シールにおける外周面である。
【0044】
長寸側端面30は、その外径縁から内径方向に向かって直線状に延びている。平行面31は、長寸側端面30における内径縁から略直交して右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。傾斜面32は、平行面31における右縁から右方向かつ外径方向に向かって傾斜して直線状に延びている。短寸側端面33は、傾斜面32における右縁から外径方向に向かって直線状に延びている。外周面34は、短寸側端面33における外径縁から略直交して左方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。また、長寸側端面30は、短寸側端面33よりも径方向寸法が長寸となっている。
【0045】
平行面31と傾斜面32とのなす内角θ5は、保持環21における内径側平行面22と傾斜面23とのなす外角θ1(
図2参照)と略同一である。
【0046】
また、二次シール3における傾斜面32と外周面34の間の部分は、径方向幅が狭い幅狭部3Aであり、平行面31と外周面34の間の部分は、径方向幅が広く、後述する角8に食い込む傾斜面32と外周面34の間の部分に対向している長寸側端面30を含んでいる幅広部3Bである。
【0047】
なお、本明細書における幅狭部とは、断面楔形の二次シールにおいて、後述する角8に食い込む端部を含む部分のことであり、幅広部とは、角8に食い込む端部に対向する端面を含む部分のことである。また、本明細書における楔形とは、本実施例およびそれ以外の他の全ての実施例で例示されるように少なくとも一部が徐々に狭くなっている箇所を有していればよい。
【0048】
次に、ハウジング5について
図2を参照して説明する。ハウジング5は、本体50にカバー体51が図示しないボルトによって連結されることで構成されている。
【0049】
本体50は、円筒状に形成されている。また、本体50における左端には、左方向に突出している環状の環状リブ50aが形成されている。環状リブ50aは、側端面50bと、内周面50cと、外周面50dと、を有している。なお、本実施例において、側端面50bは空間を区画しているハウジングにおける軸方向側内側面である。
【0050】
側端面50bは、その外径縁から内径方向に向かって直線状に延びている。内周面50cは、側端面50bにおける内径縁に略直交して右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。外周面50dは、側端面50bにおける外径縁に略直交して右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。
【0051】
環状リブ50aの内径D1は、保持環21における内径側平行面22,26の外径D2よりもわずかに大径となっている(D1>D2)。また、環状リブ50aの外径D3は、保持環21における外径側平行面24の外径D4と略同径となっている(D3≒D4)。なお、
図2では、図示の都合上、各内径・外径を半径で示している。
【0052】
また、本体50は、内径側側端面50eと、外径側側端面50fを有している。内径側側端面50eは、環状リブ50aにおける内周面50cに略直交して内径方向に延びている。外径側側端面50fは、環状リブ50aにおける外周面50dに略直交して外径方向に延びている。また、外径側側端面50fは、内径側側端面50eよりも左側に配置されている。
【0053】
カバー体51は、円筒状に形成されている。カバー体51における内周面は、左側から順に、内径側平行面52と、直交面53と、外径側平行面54から構成されている。なお、本実施例において、直交面53は空間を区画しているハウジングにおける軸方向側内側面であり、外径側平行面54は空間を区画しているハウジングにおける内周面である。
【0054】
内径側平行面52は、その左縁から右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。直交面53は、内径側平行面52における右縁から略直交して外径方向に向かって直線状に延びている。外径側平行面54は、直交面53における外径縁から略直交して右方向に向かって軸心に沿って直線状に延びている。これら直交面53および外径側平行面54が直角に交わることで角55は形成されている。
【0055】
内径側平行面52の内径D5は、本体50における環状リブ50aの内径D1と略同径かつ保持環21における内径側平行面22,26の外径D2よりもわずかに大径となっている(D5≒D1>D2)。外径側平行面54の内径D6は、本体50における環状リブ50aの外径D3、および保持環21における外径側平行面24の外径D4よりもごくわずかに大径となっている(D6>D3≒D4)。
【0056】
これにより、本体50にカバー体51が連結されている状態において、内径側平行面52は、本体50における内周面50cと略同一直線状に配置される。また、同状態において、直交面53は、本体50における側端面50bと対向配置される。
【0057】
また、カバー体51は、外径側平行面54における右縁に略直交して外径方向に延びる側端面51aを有している。
【0058】
次に、ハウジング5に静止密封要素2を組付ける手順について説明する。
【0059】
最初に、二次シール3,4を静止密封環20が圧入固定されている保持環21に装着する。非取り付け状態における二次シール3,4の外径D7(
図2参照)は、カバー体51における外径側平行面54の内径D6ばかりでなく、内径D6よりごくわずかに小径である保持環21における外径側平行面24の外径D4よりもわずかに短くなっている(D6>D4>D7)。
【0060】
次いで、保持環21を、カバー体51の内径側に右側から二次シール3がカバー体51における直交面53に当接する位置まで挿入する。このとき、保持環21における外径側平行面24はカバー体51における外径側平行面54によって案内される。
【0061】
なお、二次シール3、保持環21、二次シール4の順にカバー体51に挿入する組み立て順であってもよい。
【0062】
その後、カバー体51に挿通された図示しないボルトを、本体50における図示しない雌ネジ孔に螺合させることに応じて、カバー体51は
図3(a)に示される位置から本体50に向かって移動する。
【0063】
その際、本体50における環状リブ50aは、カバー体51の内径側に挿入される。このとき、環状リブ50aにおける外周面50dはカバー体51における外径側平行面54によって案内される。
【0064】
その後、カバー体51における側端面51aが本体50における外径側側端面50fに当接することで、本体50に対するカバー体51の位置決めがなされて、カバー体51は本体50に連結される。
【0065】
また、カバー体51が本体50に連結されることに伴って膨出した二次シール3,4によって、
図3(b)に示されるように、ハウジング5と静止密封要素2との間は密封される。以降、この二次シール3,4の弾性変形について詳しく説明する。
【0066】
図3(a)に示されるように、本体50とカバー体51との連結において、二次シール3が非取り付け状態では、二次シール3における長寸側端面30は、カバー体51における直交面53に面当接している。また、二次シール3における傾斜面32は、保持環21における傾斜面23に面当接している。また、二次シール3における外周面34は、カバー体51における外径側平行面54からわずかに離間して略平行に対向配置されている。
【0067】
図3(a)の状態からカバー体51が本体50に向かって移動されると、二次シール3は、その長寸側端面30がカバー体51における直交面53によって右方に押し込まれる。
【0068】
ここで、
図3(a)に示されるように、保持環21における傾斜面23は、カバー体51における外径側平行面54に対して傾斜しており、傾斜面23は、軸方向左縁より軸方向右側に向かうほどに外径側平行面54に近づくように配置されている。
【0069】
これにより、カバー体51と保持環21との間には、断面楔形、詳しくは断面直角台形の環状の圧縮前空間70が形成される。保持環21における内径側平行面22,傾斜面23、カバー体51における外径側平行面54、およびカバー体51における直交面53によって、圧縮前空間70は画成されている。
【0070】
また、保持環21における外径側平行面24は、外径側平行面54に略平行に配置されている。外径側平行面24および外径側平行面54は本明細書における平行箇所9を形成している。外径側平行面24および外径側平行面54が軸心に沿って形成されているため、平行箇所9は軸心に対して略平行である。
【0071】
また、平行箇所9において、外径側平行面24は、外径側平行面54に面当接しているため、互いの離間距離はほぼゼロである。また、傾斜面23が外径側平行面24に連続しており、平行箇所9に連なっている圧縮前空間70における右端は、傾斜面23と外径側平行面54とが成す鋭角状の角8となっている。
【0072】
二次シール3における幅狭部3Aおよび圧縮前空間70はそれぞれ楔形であることから、二次シール3は角8に食い込みやすい。二次シール3における短寸側端面33は、弾性変形されながら保持環21とカバー体51との角8に圧入される(
図3(b)参照)。また、本実施例では、幅狭部3Aにおける傾斜面32と外周面34とのなす内角と、圧縮前空間70を区画する傾斜面23と外径側平行面54とのなす内角は略同じである。
【0073】
また、二次シール3は、保持環21における傾斜面23と、カバー体51における直交面53とに挟圧されて、軸方向に圧縮されるとともに径方向へ膨出する。これにより、二次シール3における傾斜面32が保持環21における傾斜面23に圧着される力と、二次シール3における外周面34がカバー体51における外径側平行面54に圧着される力、二次シール3における長寸側端面30がカバー体51における直交面53に圧着される力は増加する。
【0074】
図3(b)に示されるように、ハウジング5への静止密封要素2の組付けが完了した状態において、カバー体51における直交面53は、保持環21における内径側平行面22と同傾斜面23とが成す角における頂点21bと径方向に重なった位置となる。これにより、カバー体51と保持環21との間には、断面楔形、詳しくは断面直角三角形の環状の圧縮後空間7が形成される。圧縮後空間7は、傾斜面23、外径側平行面54、およびカバー体51における直交面53によって画成されている。なお、圧縮後空間7は本発明における空間である。
【0075】
また、圧縮後空間7内には二次シール3全体が圧入されている。そのため、二次シール3は、弾性変形し、断面楔形、詳しくは直角三角形の内径端が一部切り欠かれた断面形状となっている。このように、二次シール3は組み付け前後において断面楔形であるがその形状は弾性変形によって僅かに変化している。
【0076】
詳しくは、カバー体51における直交面53および二次シール3における長寸側端面30は面当接している。また、カバー体51における外径側平行面54および二次シール3における外周面34は面当接している。さらに、保持環21における傾斜面23および二次シール3における傾斜面32は面当接している。これにより、二次シール3が軸方向の圧縮力を受けることで、ハウジング5に対して静止密封要素2は高い固定力で固定される。
【0077】
なお、二次シール3における長寸側端面30,外周面34との間の角がカバー体51における角55に隙間なく圧入されており、二次シール3における短寸側端面33が角8に隙間なく圧入されているが、これらの間には隙間があってもよい。
【0078】
また、ハウジング5への静止密封要素2の組付けが完了した状態において、二次シール3における幅狭部3aは非取り付け状態における幅狭部3A(
図3(a)参照)よりも角8に食い込んでいる。そのため、幅狭部3aは、カバー体51における外径側平行面54および保持環21における傾斜面23に対して径方向に圧接している領域が増加している。
【0079】
言い換えると、二次シール3は、その幅狭部3a、特に先端側の領域においてハウジング5と保持環21と強い圧力で押圧され回転に対する摩擦抵抗が強くなっている。このように、二次シール3がハウジング5と保持環21に所定以上の強い摩擦抵抗で接する有効摩擦面が広い範囲で形成されている。
【0080】
なお、鋭角状、すなわち断面楔形の角8が形成されていることにより、楔効果による有効摩擦面を広く確保することや、二次シール3,4の食い込みやすさを考慮すると、ハウジングの内周面が軸心に対して平行な外径側平行面54である場合において、内角θ3,θ4は、110度以上170度以下の範囲で形成されていることが好ましい。
【0081】
また、
図2を参照して、二次シール4の圧入については二次シール3の圧入のメカニズムと左右対称であるので詳細な説明を省略する。例えば本体50の環状リブ50aにおける側端面50bはカバー体51における直交面53と同様に機能する。また、保持環21における内径側平行面26は同内径側平行面22と同様に機能する。また、保持環21における傾斜面25は同傾斜面23と同様に機能する。そのため、二次シール4を圧入する相対的な方向が二次シール3とは反対方向である以外は、二次シール4は、二次シール3と同様に圧入される。
【0082】
以上説明したように、ハウジング5への静止密封要素2の組付けが完了した状態では、上述したように広い有効摩擦面が形成される構造により、ハウジング5に対して静止密封要素2は高い固定力で固定されている。このように、静止密封要素2はハウジング5に対して回転しにくく、メカニカルシール装置Mは密封性に優れる。
【0083】
また、保持環21における傾斜面23と、カバー体51における外径側平行面54は、楔形に角8を区画している。そのため、二次シール3は、軸方向への圧縮により、楔作用によって保持環21における傾斜面23とカバー体51における外径側平行面54の間に食い込む。これにより、有効摩擦面は周長が長く、ハウジング5に対して静止密封要素2は高い固定力で固定される。
【0084】
また、
図3(b)に示されるように、二次シール3が軸方向に圧縮された状態において、二次シール3における幅広部3bよりも、保持環21における傾斜面23側には断面三角形の空間としての隙間S1が形成されている。言い換えれば、二次シール3における幅広部3bは、保持環21における傾斜面23と非接触状態にある。そのため、二次シール3が熱膨張しても、幅広部3bが主な膨張代となることから、静止密封要素2は歪むことがない。なお、
図3(b)に示される圧縮前には、
図3(a)に示されるように、隙間S1よりも大きな断面台形の隙間が形成されている。
【0085】
さらに、カバー体51における内径側平行面52と、保持環21における内径側平行面22とは、寸法差分離間している。これにより、熱膨張した二次シール3をより確実に逃がすことができるため、静止密封要素2は歪むことがない。
【0086】
また、カバー体51における内径側平行面52と、保持環21における内径側平行面22と間には隙間が形成されている。この隙間に向かって、カバー体51における直交面53と、保持環21における傾斜面23とは、窄まっているとともに、二次シール3における長寸側端面30は、カバー体51における直交面53に当接している。これらのことから、該空間に相対的な負圧が生じても、二次シール3は吸引されて該隙間に抜け出しにくくなっている。
【0087】
また、例えば
図4に示されるように、直交面28によって傾斜面23と外径側平行面24とが連続しておらず、傾斜面23が平行箇所9に連なっていない構成と比較して、平行箇所9に連なっている傾斜面23は、平行箇所9に近付くほどに外径側平行面54までの径方向寸法が狭くなっている。これにより、二次シール3における幅狭部3Aは、角8に一層食い込みやすい。
【0088】
また、カバー体51における直交面53によって押圧される二次シール3における長寸側端面30の径方向の寸法と、保持環21における傾斜面23に押圧される二次シール3における傾斜面32の径方向の寸法とは略同一である。そのため、二次シール3における幅狭部3Aは、角8に一層食い込みやすい。
【0089】
また、カバー体51における内径側平行面52と、保持環21における内径側平行面22とは、寸法差分離間している。また、本体50の環状リブ50aにおける内周面50cと、保持環21における内径側平行面26とは、寸法差分離間している。これらにより、保持環21と本体50との接触が防止されていることから、静止密封要素2は歪むことがない。
【0090】
また、保持環21の軸方向両側には二次シール3,4が配置されている。これにより、ハウジング5に対して静止密封要素2は高い固定力で固定されている。
【0091】
さらに、
図2に示されるように、保持環21における右側の側端面27と、本体50における左側の内径側側端面50eは、軸方向に離間して配置される。これにより、側端面27と内径側側端面50eの間には隙間S2が形成される。この隙間S2によって保持環21と本体50との接触は防止されている。そのため、静止密封要素2は歪むことがない。
【0092】
また、保持環21の軸方向右側には、圧縮後空間7Aが配置されている。圧縮後空間7Aは、保持環21における傾斜面25、カバー体51における外径側平行面54、および本体50における側端面50bによって形成されている。さらに、二次シール3,4も軸方向両側に配置されている。これらにより、ハウジング5に対して静止密封要素2は高い固定力で固定されている。
【0093】
また、圧縮後空間7および圧縮後空間7Aは面対称形状である。さらに、二次シール3,4も非取り付け状態において面対称形状である。これらにより、2つの二次シール3,4は、軸方向への圧縮時に面対称で変形する。そのため、静止密封要素2の両側に固定力はバランスよく与えられている。
【0094】
また、非取り付け状態における二次シール3は断面楔形である。そのため、二次シール3の潰し代を設定しやすく、かつハウジング5、静止密封要素2の構造が簡単である。
【0095】
また、傾斜面23と外径側平行面54とに区画される圧縮後空間7は断面楔形である。そのため、二次シール3の潰し代を設定しやすく、かつハウジング5、静止密封要素2の構造が簡単である。
【0096】
また、二次シール3は、PTFE製である。そのため、二次シール3は、ハウジング5に対して静止密封要素2を高い固定力で固定できるとともに、対化学変化等への機能付加の選択幅が広い。
【0097】
また、円環状である二次シール3において、内周面を構成している平行面31および傾斜面32よりも、相対的に周方向長さが長く、表面積の大きい外周面34は保持環21における傾斜面23によってカバー体51における外径側平行面54に押圧されている。
【0098】
そのため、例えば
図9に示されるように、カバー体651における傾斜面653によって二次シール3における内周面631が、保持環621における内径側平行面22に押圧されている構成と比較して、有効摩擦面は広くなっている。本実施例における静止密封要素2は、ハウジング5に対して高い固定力で固定される。
【0099】
また、二次シール3を押圧するカバー体51における直交面53は、押し込み方向に対して略直交している。そのため、直交面53は、二次シール3を軸方向に圧縮する効率がよい。
二次シール3が軸方向に圧縮されるにあたって、二次シール3における短寸側端面33は保持環121における直交面28に圧接される。これにより、その径方向寸法が小さくなるように圧縮されることが規制されるため、より狭い箇所に圧入される構成と比較して、直交面28は二次シール3の破損を防ぐことができる。
このように、本明細書における空間は、二次シールの相対的な押し込み方向に向かって先細りしている断面形状であればよく、断面形状は適宜変更されてもよい。言い換えれば、本発明における「静止密封要素における外周面およびハウジングにおける内周面により形成される空間」とは、少なくとも空間を形成する静止密封要素における外周面およびハウジングにおける内周面のうち、少なくとも一部が対向する相手面に対して相対的に傾斜していればよい。