(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048902
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】眼科装置及び視標提示装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/032 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
A61B3/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158483
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 尚樹
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA13
4C316AA15
4C316FA01
4C316FB12
4C316FC14
4C316FY01
(57)【要約】
【課題】被検眼の遠用検査と近用検査とを行う際の検査効率を、より向上させることを可能とする。
【解決手段】眼科装置100は、検査用レンズが前方に配置された被検眼Eに対して、遠用検査距離に視標を有する遠用視力表を提示する遠用視標提示機3と、近用検査距離に視標を有する近用視力表を提示する近用視標提示機4と、を備える。遠用視力表と近用視力表は、被検眼Eが検査用レンズを通して目視できる範囲内であって、検査用レンズの収差の影響を受けない提示領域に、平面視で隣接して提示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査用レンズが前方に配置された被検眼に対して、第1の検査距離に、視標を有する第1の視力表を提示する第1の視標提示部と、
前記第1の検査距離とは異なる第2の検査距離に、視標を有する第2の視力表を提示する第2の視標提示部と、を備え、
前記第1の視力表と前記第2の視力表は、前記被検眼が前記検査用レンズを通して目視できる範囲内であって、前記検査用レンズの収差の影響を受けない提示領域に、平面視で隣接して提示される
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記第1の視標提示部及び/又は前記第2の視標提示部は、複数の異なる前記第1の検査距離及び/又は前記第2の検査距離に、前記第1の視力表及び/又は前記第2の視力表を提示するように構成された
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記第1の視標提示部及び/又は前記第2の視標提示部は、前記被検眼の高さ方向の位置に応じて、前記第1の視力表及び/又は前記第2の視力表の高さ方向の提示位置を調整する高さ調整機構を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記第1の視力表及び/又は前記第2の視力表を、前記提示領域外の所定の退避位置に、退避させる退避機構を備える、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記第1の視標提示部は、前記視標が、前記第1の視力表の中心又は、中心から偏った所定の表示領域に表示されるように前記第1の視力表を提示し、
前記第2の視標提示部は、前記第1の視力表の前記視標の非表示領域に、前記視標と近接して前記第2の視力表を提示する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記第1の検査距離及び/又は前記第2の検査距離を変更する検査距離変更機構と、
前記検査距離変更機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部と、前記検査距離変更機構とは、ケーブル、無線通信、及び通信ネットワークの何れかを介して接続され、
前記制御部は、検査内容に応じて、前記第1の検査距離及び/又は前記第2の検査距離を変更するように、前記検査距離変更機構を制御する
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記第1の視標提示部及び/又は前記第2の視標提示部を制御する制御部を備え、
前記制御部と、前記第1の視標提示部及び/又は前記第2の視標提示部とは、ケーブル、無線通信、及び通信ネットワークの何れかを介して接続され、
前記制御部は、検査内容に応じて、前記被検眼に提示する前記第1の視力表の前記視標及び/又は前記第2の視力表の前記視標の表示態様を変更するように、前記第1の視標提示部及び/又は前記第2の視標提示部を制御する
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記第1の視標提示部が、所定の遠用検査距離に遠用視力表を提示する遠用視標提示部であり、
前記第2の視標提示部が、所定の近用検査距離に近用視力表を提示する近用視標提示部である
ことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記遠用視標提示部は、前記被検眼から前記遠用検査距離の位置に、前記遠用視力表を配置して前記視標の実像を提示する構成、及び前記遠用視力表の前記視標の虚像を遠用検査距離に結像する光学系を有する構成、の何れかである
ことを特徴とする請求項8に記載の眼科装置。
【請求項10】
検査用レンズが前方に配置された被検眼に対して、所定の検査距離に視力表を提示する視標提示部を備えた自覚式の眼科装置に用いられる視標提示装置であって、
前記視標提示装置は、前記眼科装置の前記視標提示部とは異なる第2の検査距離に第2の視力表を提示するとともに、
前記第2の視力表を、前記被検眼が前記検査用レンズを通して目視できる領域であって、前記検査用レンズの収差の影響を受けない提示領域に、前記視力表と平面視で隣接して提示する
ことを特徴とする視標提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置及び眼科装置に用いられる視標提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼に視標を提示し、その見え方に関する被検者からの応答に基づいて被検眼の視機能を検査する自覚検眼が知られている。この自覚検眼には、被検眼から例えば5m先等の遠用検査距離に提示された視標の見え方を検査する遠用検査と、被検眼から例えば30~40cmの近用検査距離に視標を提示して、加齢等による調整力の変化を検査する近用検査とがある。
【0003】
このような遠用検査と近用検査とを行う眼科装置の一つとして、レフラクターヘッドと、遠用検査距離に遠用の視標を提示する視標提示装置と、レフラクターヘッドに取り付けた近点棒に吊り下げられた近用の視標板とを備えた眼科装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この眼科装置では、遠用検査の際には、視標提示装置によって被検眼に視標を提示し、近用検査の際には、視標提示装置の前方であって、被検眼が遠用検査の視標を目視するときの視線上に、近点棒により視標板を吊り下げて、被検眼に視標を提示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、被検眼が遠用検査の視標を目視するときの視線上に近用検査の視標が配置されるため、遠用検査と近用検査とを交互に行うたびに、近点棒を操作して視標板を、視標提示装置の前方に配置したり、退避したりする必要があった。このため、遠用と近用の視標の交換に手間や時間がかかり、検査効率という点で改良の余地があった。
【0006】
本開示は、上記の事情に鑑みて為されたもので、被検眼の遠用検査と近用検査とを行う際の検査効率を、より向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の眼科装置は、検査用レンズが前方に配置された被検眼に対して、第1の検査距離に、視標を有する第1の視力表を提示する第1の視標提示部と、前記第1の検査距離とは異なる第2の検査距離に、視標を有する第2の視力表を提示する第2の視標提示部と、を備える。前記第1の視力表と前記第2の視力表は、前記被検眼が前記検査用レンズを通して目視できる範囲内であって、前記検査用レンズの収差の影響を受けない提示領域に、平面視で隣接して提示される。
【発明の効果】
【0008】
このように構成することで、検査用レンズを通して目視可能で収差の影響を受けない提示領域に、第1の視力表と第2の視力表を、第1の視力表を目視する際の被検眼の視線の方向と、第2の視力表を目視する際の被検眼の視線の方向とを異ならせるように配置することができる。そして、被検者は、被検眼の前方に配置された被検レンズを通して、検査距離の異なる第1の視力表と第2の視力表を目視することができ、しかも視線を移動させるだけで、第1の視力表の視標と第2の視力表の視標とを切り替えて目視することができる。よって、遠用検査と近用検査とを、視力表の交換等を行うことなく、簡易かつ迅速に実行することができる。この結果、被検眼の遠用検査と近用検査とを行う際の検査効率を、より向上させるこができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に係る眼科装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】実施例1に係る眼科装置の外観を示す側面図である。
【
図3】実施例1に係る眼科装置において、レフラクターヘッドの検眼窓に配置された検査用レンズを通して被検眼に提示される遠用視力表と近用視力表とを示す図である。
【
図4】実施例2に係る眼科装置の外観を示す側面図である。
【
図5】実施例3に係る眼科装置の外観を示す側面図である。
【
図6】実施例3に係る眼科装置において、レフラクターヘッドの検眼窓に配置された検査用レンズを通して被検眼に提示される遠用視力表と近用視力表とを示す図である。
【
図7】実施例4に係る眼科装置の外観を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は側面図である。
【
図8】実施例5に係る眼科装置の外観を示す斜視図である。
【
図9】実施例6に係る眼科装置の外観を示す斜視図である。
【
図10】実施例7に係る眼科装置の外観を示す斜視図である。
【
図11】実施例8に係る眼科システムのブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の眼科装置及び眼科装置に用いられる視標提示装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1~実施例8に基づいて説明する。
【0011】
(実施例1)
以下、実施例1の眼科装置100の構成を、
図1~
図3に基づいて説明する。実施例1の眼科装置100は、被検者が左右の両眼を開放した状態で、被検眼の視機能の検査が実行可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、実施例1の眼科装置100では、片眼を遮蔽し、片眼ずつ検査等することも可能である。
【0012】
実施例1の眼科装置100は、
図1に示すように、検眼テーブル1、検眼機であるレフラクターヘッド2、第1の視標提示部である遠用視標提示機3、及び第2の視標提示部である近用視標提示機4を有する眼科装置本体6と、制御装置であるコントローラ5と、を備えている。
【0013】
なお、本明細書を通じて
図1、
図2等に記すようにX軸、Y軸及びZ軸を取り、被検者H(被検眼E)から見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(レフラクターヘッド2と遠用視標提示機3の対峙方向、奥行き方向)をZ方向とする。
【0014】
検眼テーブル1は、レフラクターヘッド2、遠用視標提示機3、近用視標提示機4、コントローラ5等の各種機器を載置する机である。また、検眼テーブル1は、検査中の姿勢を適切に保つために被検者Hが肘や腕を載置するためにも用いられる。また、検眼テーブル1は、手動又は適宜の駆動機構により上下方向(Y方向)に移動可能とすることもできる。この構成により、被検者Hの被検眼Eの床からの高さに合わせて、レフラクターヘッド2、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4の高さ調整が可能となる。
【0015】
レフラクターヘッド2は、被検眼Eに合うレンズを選択するために用いられる眼科装置である。このレフラクターヘッド2は、複数の検査用レンズ24を備え、被検眼Eの前方に検査用レンズ24を選択的に配置し、この検査用レンズ24を適宜交換しながら屈折検査、その他の検査を行うことができる。レフラクターヘッド2は、
図1に示すように、支持機構21と、一対の検眼ユニット22L、22Rと、を備えている。
【0016】
支持機構21は、支柱21aと、支持アーム21bと、支持部材21cと、を備えている。支柱21aは、検眼テーブル1の天板に、上下方向(Y方向)に延在して設けられている。支柱21aは、
図1に矢印で示すように、手動又は適宜の駆動機構により上下方向(Y方向)に伸縮自在で、かつ円周方向に回転自在となっている。支持アーム21bは、支柱21aから、斜め上方向に延在して設けられている。支持部材21cは、支持アーム21bの先端に固定されている。
【0017】
一対の検眼ユニット22L、22Rは、被検者Hの左右の被検眼Eに対応するように、左右に一対設けられた左眼用の検眼光学系と、右眼用の検眼光学系と、を各々有する機器である。一対の検眼ユニット22L、22Rは、支持部材21cに吊下げられており、公知のスライド機構によって左右方向(X方向)へスライド可能となっている。これにより、一対の検眼ユニット22L、22Rは、相対的に接近及び離反が可能である。一対の検眼ユニット22L、22Rは、支持機構21の支柱21aを円周方向へ回転させることで、被検眼Eと遠用視標提示機3との間に挿脱される。一対の検眼ユニット22L、22Rの前方及び後方には、各々検眼窓23L、23Rが設けられている。一対の検眼ユニット22L、22R内には、左右眼用の複数の検査用レンズ(矯正レンズ)24、偏光フィルタ、遮蔽板等の光学部材が、それぞれ配置されている。複数の検査用レンズ24等の光学部材は、各検眼窓23L、23Rに対向する位置に、図示しない公知の駆動機構によって選択的に配置されて検眼に用いられる。
【0018】
検査用レンズ24は、被検眼Eの視機能を矯正するために用いられるものであり、例えば、球面レンズ、円柱レンズ、プリズム等が挙げられるが、裸眼での検査も可能とすべく、矯正の機能を持たないレンズ、ガラス板、又はプラスチック板等も検査用レンズ24として選択可能となっている。以下、左右を区別しないときは、検眼ユニット22L、22R、検眼窓23L、23Rを、単に検眼ユニット22、検眼窓23ということがある。
【0019】
なお、検眼機がレフラクターヘッド2に限定されることはなく、被検眼Eの前方(被検眼Eと遠用視標提示機3及び近用視標提示機4との間)に検査用レンズ24を配置可能であれば、いずれの構成のものでもよい。また、検眼機として、トライアルフレーム2A(
図4参照)を備えていてもよい。トライアルフレーム2Aは、試験枠等とも呼ばれ、被検者Hが装着するメガネ型の器具であり、検者等が、手動でレンズ受部25に検査用レンズ24を選択的に配置することができる。実施例1の眼科装置100でトライアルフレーム2Aを使用するときには、例えば、支持アーム21bを回転させてレフラクターヘッド2を、被検眼Eの対峙位置から側方等の退避位置に退避させ、被検者Hがトライアルフレーム2Aを装着して遠用視標提示機3や近用視標提示機4に対峙することで検査を行うことができる。
【0020】
遠用視標提示機3は、被検者Hが遠方の物体を目視するときの視機能を検査(遠用検査)するために用いられる。遠用視標提示機3は、レフラクターヘッド2の検査用レンズ24を通して、遠用検査用の視標36a(以下、「遠用視標36a」という。)が1つ又は複数表示された遠用視力表36(第1の視力表、
図3参照)を被検眼Eの前方の遠用検査距離(第1の検査距離)に提示する視標提示機であり、検眼テーブル1に載置されている。遠用視標提示機3は、直方体形状の筺体31と、筺体31に内蔵された遠用視標提示光学系32と、を備えている。筺体31の前面(被検者H側)には、被検者Hが遠用視標36aを目視するための窓部31aが設けられている。
【0021】
遠用視標提示光学系32は、
図2に示すように、第1の視力表示部である第1ディスプレイ33と、レンズ34と、反射ミラー35と、を備えている。第1ディスプレイ33は、LCDや有機EL等の電子表示デバイスから構成される。第1ディスプレイ33は、コントローラ5からの指示信号に基づき、遠用視標36aが表示された遠用視力表36を、その表示面33aに表示する。遠用視標提示光学系32では、第1ディスプレイ33に表示された遠用視標36aからの光束をレンズ34によって屈折し、被検眼Eから遠用検査距離に視標像(虚像)Iを結像する。また、レンズ34を透過した光束は、反射ミラー35によって反射され、被検眼Eの前方の遠用検査距離に視標像(虚像)Iが提示される。この反射ミラー35は、その傾斜角度を変更可能とすることで、高さ調整機構としても機能する。つまり、被検眼Eの高さ方向の位置(床面からの高さ)に応じて、その傾斜角度を調節することで、身長等によって被検眼Eの高さにばらつきがあっても、被検眼Eに適切に遠用視力表36を提示することができる。
【0022】
遠用視標提示機3は、遠用検査を行わないときは、第1ディスプレイ33の表示をオフにしたり、黒画像を表示したりすることで、遠用視力表36を非表示とすることができる。これにより、例えば、近用視標提示機4により近用検査のみを連続して行う場合に、被検者Hは、近用視力表45を注視して、近用検査を集中して行うことができる。
【0023】
遠用検査距離は、例えば、被検眼Eから1m~6mの範囲の何れかの距離とすることができるが、この範囲に限定されず、6m以上の距離とすることもできる。実施例1の遠用視標提示機3は、被検眼Eから5mの遠用検査距離に、視標像(虚像)Iを提示する。なお、遠用検査距離が5mに限定されず、異なる距離であってもよく、例えば、1m~6mの範囲で設定することが好適であるが、上限が6mに限定されず、7m、8mであってもよいし、より長い距離であってもよい。また、検査距離変更機構として拡大レンズ、その他の光学部材を遠用視標提示光学系32に配置し、視標像(虚像)Iを提示する遠用検査距離を、検査目的や検査内容に応じて1m~6m(又は6mよりも長い距離でもよい。)の間で変更可能とすることもできる。本明細書では、1m以上の検査距離を遠用検査距離とし、1m未満を近用検査距離としているが、1m~2mの検査距離、さらには1m~3mを、近用検査距離に含めてもよい。すなわち、遠用視標提示機3により遠用視力表36を提示する遠用検査距離を1m~6m等の範囲で設定可能とし、近用視標提示機4により近用視力表45を提示する近用検査距離を10cm~2m又は10cm~3mの範囲で設定可能とすることができる。このような範囲で遠用検査距離と近用検査距離とを自在に設定できることで、様々な検査距離での検査が可能となる。複数の焦点を有する各種レンズ、特に、眼内レンズ(IOL:intraocular lens)等では、遠方、近方、その中間など、3重焦点以上の製品があるため、様々な検査距離で検査できることは、矯正のための適切な検査や処方をする上で、極めて有益である。
【0024】
近用視標提示機4は、被検者Hが近くの物体を目視するときの視機能を検査(近用検査)するために用いられる。近用視標提示機4は、レフラクターヘッド2の検査用レンズ24を通して、近用検査用の視標45a(以下「近用視標45a」という。)が1つ又は複数配置された近用視力表45(第2の視力表、
図3参照)を被検眼Eの前方の近用視検査距離に提示する第2の視標提示機である。近用視標提示機4は、実施例1では検眼テーブル1に設置されている。
【0025】
実施例1の近用視標提示機4は、
図1及び
図2に示すように、基板41と、支持部42と、第2ディスプレイ43と、回転機構44と、を備えている。
【0026】
基板41は、検眼テーブル1上であって、遠用視標提示機3の前方(被検者H側)に、固定されている。支持部42は、下端が基板41に固定された棒部材であり、上端に、回転軸等からなる回転機構44を介して、第2ディスプレイ43が回転可能に連結されている。
【0027】
第2ディスプレイ43は、LCDや有機EL等の電子表示デバイスから構成される。第2ディスプレイ43は、コントローラ5(制御部53)からの指示信号に基づき、近用視標45aが表示された近用視力表45を、その表示面43aに表示する。
【0028】
第2ディスプレイ43は、
図2に仮想線で示すように、回転機構44により回転して傾斜角度を任意に変更することができる。このため、回転機構44は、高さ調整機構として機能し、検者等が第2ディスプレイ43の傾斜角度を変更することで、被検眼Eの床面からの高さに応じた適切な位置に、近用視力表45を提示することができる。
【0029】
実施例1では、回転機構44を回転軸等によって構成することで、検者等が手動で第2ディスプレイ43を回転する構成としているが、この構成に限定されない。例えば、回転機構44が電動モータ等の適宜の駆動機構を備え、コントローラ5によってこの駆動機構を制御することで、第2ディスプレイ43を自動で回転させる構成とすることもできる。
【0030】
また、第2ディスプレイ43を回転させて、表示面43aが上面又は後方(遠用視標提示機3の方向)に向くように配置することで、第2ディスプレイ43に表示された近用視力表45を、検査用レンズ24を通して目視できない位置に退避することができる。即ち、回転機構44は近用視力表45の退避機構として機能する。この退避により、遠用視標提示機3により遠用検査のみを行う場合等に、被検眼Eの水晶体の調節刺激を、より抑制することができ、遠用検査をより精度よく行うことができる。
【0031】
なお、近用視力表45の退避は、第2ディスプレイ43の回転に限定されず、例えば、第2ディスプレイ43の表示をオフ(消灯)にしたり、黒画像を表示したりすることでも行うことができる。
【0032】
近用検査距離は、例えば、被検眼Eから10cm~40cmの何れかの距離とすることができるが、この範囲に限定されず、1mとすることも、2mとすることも、更には3mとすることもできる。即ち、近用視標提示機4による近用検査距離を、10cm~3mの間で設定又は変更可能とすることができる。実施例1の近用視標提示機4では、第2ディスプレイ43は、近用検査距離が30cmとなる位置に設置されている。
【0033】
なお、実施例1では、基板41を検眼テーブル1に固定しているため、第2ディスプレイ43の奥行方向(Z方向)の位置が固定され、結果的に近用検査距離が30cmに固定されている。しかし、この構成に限定されず、基板41を検眼テーブル1に固定することなく、単に検眼テーブル1に載置する構成とすれば、近用視標提示機4を、奥行方向(Z方向)の任意の位置に移動することができ、近用検査距離を、所望の距離に変更することができる。この結果、被検者Hは、近用検査を所望の近用検査距離で、又は複数の異なる近用検査距離で行うことが可能となる。
【0034】
遠用視標36a及び近用視標45aは、特に限定されず、被検眼Eの視機能の検査に用いるものであればよい。具体的には、遠用視標36a及び近用視標45aは、例えば、ランドルト環、スネレン視標、Eチャート等であってもよいし、ひらがな、カタカナ等の文字、英語その他各国の文字、数字、記号、動物や指等の絵等を用いた視標であってもよいし、十字視標等の両眼視機能検査用の特定の図形や風景画や風景写真等であってもよいし、新聞や雑誌の記事、小説等であってもよく、様々な視標を用いることができる。また、遠用視標36a及び近用視標45aが静止画であってもよいし動画であってもよい。実施例1では、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4が、視標表示部として各々LCD等からなる第1ディスプレイ33及び第2ディスプレイ43を備えているため、所望の形状、形態、大きさ、数、色、コントラスト等の表示態様からなる遠用視標36a及び近用視標45aを表示することができ、多様な自覚検査が可能となる。
【0035】
ところで、従来技術では、近用検査を行う際には、被検眼が遠用視標を目視するときの視線上に近点棒等で近用視力表を配置している。このため、被検者Hは、近用視標を目視しているときは、遠用視標を目視することができず、遠用視標を目視するためには、近用視標を退避させた上で、遠用視力表を提示する必要がある。よって、遠用検査と近用検査を交互に行うときには、その都度、遠用視力表と近用視力表とを交換して被検眼Eに提示する必要があり、検査効率に影響していた。
【0036】
これに対して、実施例1の眼科装置100では、
図3に示すように、遠用視力表36(第1の視力表)と、近用視力表45(第2の視力表)とを、被検眼Eが検査用レンズ24を通して目視できる範囲内(検査用レンズ24の視野内)であって、検査用レンズ24の収差の影響を受けない領域(以下、「提示領域7」という。)に平面視で隣接して提示している。「平面視で隣接して提示する」とは、遠用視標36aの表示領域と近用視標45aの表示領域とが、互いに重ならならず、これらを目視する際の視線の方向が異なる位置に、遠用視力表36と近用視力表45とを平面視で近接して提示することをいう。さらに言い換えれば、被検者Hが検査用レンズ24を通して視標を視認したときに、被検眼Eに対して遠方に配置された遠用視力表36の遠用視標36aと近方に配置された近用視力表45の近用視標45aとが、被検者Hから見て上下方向(又は左右方向や斜め方向でもよい)において並んで見えるように、遠用視力表36と近用視力表45とのX方向及びY方向の位置決めをして、これらを提示することをいう。なお、
図3は、遠用視力表36と近用視力表45の位置関係を説明するべく、双方を鮮明に図示、つまり双方に被検眼Eのピントが合っているように図示しているが、実際は、被検眼Eの固視対象となる、遠用視力表36と近用視力表45の何れか一方に被検眼Eのピントが合うものである。
【0037】
実施例1では、検査用レンズ24は、奥行き方向(Z方向)の前後に配置した検眼窓23(23L、23R)の間に配置される。このため、検眼窓23は、検査用レンズ24の視野絞りとしても機能するため、実施例1における、「被検眼Eが検査用レンズ24を通して目視できる範囲内」は、後方の検眼窓23の内側の領域となる(
図3参照)。
【0038】
このように、提示領域7に遠用視力表36及び近用視力表45を隣接して提示することで、遠用視力表36を目視する際の視線の方向と、近用視力表45を目視する際の視線の方向とを異ならせることができる。また、被検者Hは、検査用レンズ24を通して、遠用視力表36と近用視力表45とを目視することができる。このとき、レフラクターヘッド2の向きや遠用視力表36及び近用視力表45の提示位置を変更しなくても、被検者Hは視線を移動するだけで、検査用レンズ24を通して目視する対象を、遠用視力表36から近用視力表45に、又は近用視力表45から遠用視力表36に自在に切り替えることができる。これにより、被検者Hは、遠用検査と近用検査とを続けて、又は何度も交互に行うことができる。また、遠用検査及び近用検査の一方から他方に変更する度に、遠用視力表36と近用視力表45を交換して提示する手間を省くことができる。この結果、眼科装置100での検査効率を著しく向上させることができる。
【0039】
また、遠用視力表36及び近用視力表45は、検査用レンズ24のレンズ中心を通る主光軸Sに、より近い位置に隣接して提示することで、これらを、検査用レンズ24の収差の影響をより少ない位置に配置して、視認性を向上させることができる。そして、被検者Hは、視線を僅かに移動するだけで、遠用視力表36及び近用視力表45を迅速に切替えて目視することができ、より効率的かつ、より適切な検査が可能となる。
【0040】
また、遠用視力表36及び近用視力表45の隣接方向(並び方向)は、特に限定されず、平面視で上下方向、左右方向、斜め方向の何れでもよい。この中でも、遠用視力表36を上に、近用視力表45を下に配置することが最も好ましい。なぜなら、2焦点レンズや累進レンズ等を用いた、遠近両用メガネ、コンタクトレンズ、眼内レンズ(IOL)等では、遠方を見る場合は、被検者Hはレンズ中心を通る主光軸Sに沿った方向、すなわち、真直ぐな方向に視線を向け、近方を見る場合は、視線を下方に向けるためである。遠用視力表36及び近用視力表45を上下に配置とすることで、遠近両用メガネ等の、実際の使用に即した検査が可能となるとともに、被検眼Eの眼特性の検査及び矯正を、より精度よく、より適切に行うことが可能となる。
【0041】
また、一方の被検眼Eの矯正レンズを遠用レンズとし、他方の被検眼Eの矯正レンズを近用レンズとする、いわゆるモノビジョンのメガネ、コンタクトレンズ、眼内レンズ等の処方等には、遠用視力表36と近用視力表45とを上下のみならず、左右に並べて配置して検査することも有効である。
【0042】
コントローラ5は、検者等の操作者が眼科装置100を操作するために用いられる。コントローラ5は、検者による操作を受け付け、この操作に応じた指示信号を、レフラクターヘッド2、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4へ出力する。
【0043】
コントローラ5と、眼科装置本体6のレフラクターヘッド2、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4とは、近距離無線通信によって通信可能に接続されている。このため、検者は、コントローラ5を携帯して、何れの位置からでも、容易に眼科装置本体6の各部の操作が可能となる。よって、例えば、被検者Hの後方から、検者自身も視標を目視しつつコントローラ5を操作したり、被検者Hの前方から、被検者Hが視標を注視しているか、被検眼Eの視線を確認しつつコントローラ5を操作したりすることができる。
【0044】
近距離無線通信の規格の一例として、例えばBluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)等が挙げられる。このような近距離無線通信は、通信速度が速く、各種信号の送受信のタイムラグの発生を抑制することができる。また、コントローラ5と、眼科装置本体6の各部が、ケーブルによって有線で接続されていてもよく、この場合も、速い通信速度で、タイムラグの発生を抑制しつつ、各種信号を送受信することができる。
【0045】
コントローラ5は、
図1に示すように、検者からの操作指示の入力を受け付ける入力部51と、検眼パラメータ、検査情報又は検査結果等を表示する表示部52と、眼科装置100全体の動作を制御する制御部53と、から主に構成される。なお、コントローラ5による眼科装置本体6の操作を、離れた場所や遠隔操作で行う場合は検者と被検者Hとの意思疎通を明瞭かつ円滑に行うため、コントローラ5及び眼科装置本体6側に、マイクやスピーカ等を設けてもよい。
【0046】
入力部51は、例えば、キーボードやマウス等を備えている。また、表示部52は、LCDや有機EL等の電子表示デバイス(ディスプレイ)により構成することができる。表示部52がタッチパネル式であれば、表示部52の表示面52aが入力部51としても機能する。入力部51は、遠用視標提示機3の第1ディスプレイ33及び近用視標提示機4の第2ディスプレイ43に表示する各種視標の選択指示、レフラクターヘッド2におけるプリズム度数、球面度数等の検眼パラメータを設定するための指示、被検眼Eを左眼若しくは右眼又は両眼に設定するための指示等を受け付ける。
【0047】
制御部53は、マイクロプロセッサと、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等の記憶部と、等を有して構成される。制御部53は、記憶部に記憶されたコンピュータプログラムを、例えばRAM上に展開して実行することにより、眼科装置100の動作を統括的に制御する。また、記憶部には、コンピュータプログラムの他、検眼のための各種検査用パラメータ、検査結果などが記憶される。
【0048】
制御部53は、メニュー画面や検査結果画面等を表示部52に表示する。また。制御部53は、入力部51で入力を受け付けた操作指示に応じて、検査用パラメータや検査情報を表示部52に表示させる。また、制御部53は、操作指示に応じて、駆動機構を駆動して、検眼窓23L、23Rに配置される屈折レンズの度数やプリズムの度数を変更する。
【0049】
また、制御部53は、入力部51で受け付けた提示対象視標の選択指示によって選択された遠用視力表36を、第1ディスプレイ33の表示面33aに表示させるための指示信号を、遠用視標提示機3に送信する。また、制御部53は、入力部51で受け付けた提示対象視標の選択指示によって選択された近用視力表45を、第1ディスプレイ33の表示面33aに表示させるための指示信号を、近用視標提示機4に送信する。また、制御部53は、第1ディスプレイ33と第2ディスプレイ43のオン、オフ(点灯、消灯)を制御する。すなわち、制御部53は、使用目的に応じて、第1ディスプレイ33に表示する遠用視力表36の遠用視標36a及び第2ディスプレイ43に表示する近用視力表45の近用視標45aの表示態様(視標の形状、形態、大きさ、数、色、コントラスト等)を変更するように遠用視標提示機3及び近用視標提示機4を制御する。
【0050】
コントローラ5は、入力部51、表示部52、制御部53を備えた検眼専用のコントローラであってもよいし、モニタを備えたノート型パーソナルコンピュータであってもよい。または、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯情報端末(情報処理装置)をコントローラ5とすることもできる。
【0051】
以下、実施例1の眼科装置100を用いて、被検眼Eの遠用検査及び近用検査を実行するときの動作の一例を、
図2を参照しながら説明する。以下では、(1)遠用視力表36と近用視力表45とを同時に提示領域7に提示して、遠用検査と近用検査を続けて実行する場合の検査工程と、(2)遠用視力表36のみを提示して遠用検査を実行し、次に近用視力表45のみを提示して近用検査を実行し、その後、遠用視力表36と近用視力表45とを同時に提示領域7に提示して、遠用検査と近用検査を交互に実行するときの検査工程を説明する。以下では、検者が検眼テーブル1に向かって着席したり、被検者Hの背後や横に立ったりして、検者が被検者Hの近傍で、被検者Hに付き添って検査を行う手順を説明する。しかし、検者の居る場所が、被検者Hの近傍に限定されない。例えば、同じ部屋であっても適宜の距離を介した位置やパーティションで隔てられた位置等、被検者Hと、いわゆるソーシャルディスタンスを設けた位置で、検者がコントローラ5を操作して、以下で説明するすべての工程又は一部の工程を行ってもよい。また、近距離無線やケーブル接続等を利用して、異なる部屋で検者がコントローラ5を操作してすべての工程又は一部の工程を行ってもよいし、後述の実施例8のように、通信ネットワークNを介して、遠隔地で検者がコントローラ5を操作してすべての工程又は一部の工程を行ってもよい。実施例2~実施例7でも同様である。
【0052】
(1)の検査工程について
眼科装置100を用いて、被検眼Eの眼特性の検査を行うに際して、検者は、まず支柱21aを回転して、被検眼Eと遠用視標提示機3との間に一対の検眼ユニット22L、22Rを配置する。被検者Hは、一対の検眼ユニット22L、22Rに対峙する。この対峙は、被検者Hが立った状態で行ってもよいし、椅子等に座った状態で行ってもよい。また、被検者Hは、一対の検眼ユニット22L、22Rの間に設けた図示しない額当部に額を当て、検眼テーブル1の上に肘や腕を載置することで、検眼の姿勢を安定させる。
【0053】
また、検者は近用視標提示機4の第2ディスプレイ43を回転させて、被検眼Eの高さに応じた傾斜角度に配置する。
【0054】
そして、検者は、コントローラ5の入力部51を操作して、遠用検査のための提示対象視標と、近用検査のための提示対象視標とを選択することで、選択指示を入力する。この選択指示の入力を受けて、コントローラ5の制御部53は、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4に指示信号を送信する。
【0055】
この指示信号の入力を受けて、遠用視標提示機3は、選択された提示対象視標に対応する遠用視力表36を第1ディスプレイ33の表示面33aに表示し、近用視標提示機4は、選択された提示対象視標に対応する近用視力表45を第2ディスプレイ43の表示面43aに表示する。
【0056】
以上により、
図3に示すように、被検眼Eが検査用レンズ24を通して目視できる領域であって、検査用レンズ24の収差の影響を受けない提示領域7の、検査用レンズ24の主光軸Sの近傍に、上下に近接して遠用視力表36と近用視力表45とが提示される。
【0057】
したがって、被検者Hは、検眼窓23及び検査用レンズ24を通して被検眼Eに提示された視標のうち、遠用視力表36を目視することで、遠用検査を行うことができる。また、検者は、被検者Hの見え方等に応じてコントローラ5を操作し、複数の検査用レンズ24を適宜選択して検眼窓23に配置することで、被検眼Eに適した矯正が行われるまで、遠用検査を続行することができる。
【0058】
遠用検査が終了したら、被検者Hは、視線を下に向けることで、近用視力表45を目視して近用検査を行うことができる。よって、遠用視力表36を近用視力表45に交換する等の手間を省くことができる。この場合も、検者は、被検者Hの見え方等に応じてコントローラ5を操作し、複数の検査用レンズ24を適宜選択して検眼窓23に配置することで、被検眼Eに適した矯正が行われるまで、被検眼Eの近用検査を続行することができる。
【0059】
(2)の検査工程について
まず、検者は支柱21aを回転して、被検眼Eと遠用視標提示機3との間に一対の検眼ユニット22L、22Rを配置する。被検者Hは、一対の検眼ユニット22L、22Rに対峙する。
【0060】
次に、遠用検査を実行すべく、検者は、コントローラ5の入力部51を操作して、遠用検査のための提示対象視標を選択し、選択指示を入力する。この選択指示の入力を受けて、コントローラ5の制御部53は、遠用視標提示機3に支持信号を送信する。この指示信号の入力を受けて、遠用視標提示機3は、選択された提示対象視標に対応する遠用視力表36を第1ディスプレイ33の表示面33aに表示する。
【0061】
このとき、近用視標提示機4の第2ディスプレイ43をオフにしたり、黒画像を表示させたり、第2ディスプレイ43の回転により表示面43aを被検眼Eの視界の外へ退避させたりして、近用視力表45を非表示にすることが好ましい。これにより、遠用検査時の水晶体の調節刺激をより抑制できる。
【0062】
以上により、被検者Hは、遠用視標提示光学系32によって被検眼Eに提示されたの遠用視力表36を、検眼窓23及び検査用レンズ24を通して目視することで、自覚の遠用検査を行うことができる。さらに、検者は、被検者Hの見え方等に応じてコントローラ5を操作し、複数の検査用レンズ24を適宜選択して検眼窓23に配置することで、被検眼Eの遠用検査を繰り返すことができる。この結果、遠方の物体を目視する際の被検眼Eの調節状態や斜位等の矯正を行って、遠用の矯正データを取得することができる。
【0063】
次に、近用検査を実行すべく、検者は近用視標提示機4の第2ディスプレイ43を回転させて、被検眼Eの高さに応じた傾斜角度に配置する。次に、検者は、コントローラ5を操作して、近用検査のための提示対象視標を選択し、選択指示を入力する。この選択指示の入力を受けて、コントローラ5の制御部53は、近用視標提示機4に指示信号を送信する。この指示信号の入力を受けて、近用視標提示機4は、選択された提示対象視標に対応する近用視力表45を第2ディスプレイ43の表示面43aに表示する。
【0064】
このとき、遠用視標提示機3の第1ディスプレイ33をオフにしたり、黒画像を表示したりすることで、遠用視力表36を非表示(被検眼Eの視界の外へ退避させる)ことが好ましい。これにより、被検者Hは、近用視力表45のみを注視して、近用検査を集中して行うことができる。
【0065】
そして、被検者Hは、第2ディスプレイ43によって被検眼Eに提示された近用視力表45を、検眼窓23を介して目視することで、自覚の近用検査を行うことができる。さらに、検者は、被検者Hの見え方等に応じてコントローラ5を操作し、複数の検査用レンズ24を適宜選択して検眼窓23に配置することで、被検眼Eの近用検査を繰り返すことができる。この結果、近方の物体を目視する際の被検眼Eの調節状態や斜位等の矯正を行って、近用の矯正データを取得することができる。
【0066】
次に、遠用視力表36及び近用視力表45を、検査用レンズ24の提示領域7に隣接して提示して、遠用検査と近用検査とを交互に連続して行う場合の工程について説明する。この工程は、例えば、メガネ、コンタクトレンズ、眼内レンズの処方を行うときに、先の遠用検査と近用検査で取得した処方データが適切であるか最終的な確認や微調整の際に好適に行える。さらには、この工程は、仕上がったメガネやコンタクトレンズを装着した被検眼E、眼内レンズを挿入した被検眼E等の見え方の確認の際等に好適に行える。
【0067】
まず、検者は、遠用検査と近用検査で取得した処方データに基づいて、コントローラ5を操作して、レフラクターヘッド2の検眼窓23に、検査用レンズ24を配置する。若しくは、検査目的等に応じて、レフラクターヘッド2に代えて、検査用レンズ24を取り付けたトライアルフレーム2Aを被検者Hが装着して検査してもよいし、仕上がったメガネやコンタクトレンズを被検者Hが装着して検査してもよい。
【0068】
次に、検者は、コントローラ5を操作して、遠用検査のための提示対象視標と、近用検査のための提示対象視標を選択することで、選択指示を入力する。この選択指示の入力を受けて、コントローラ5の制御部53は、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4に、各々指示信号を送信する。この指示信号の入力を受けて、遠用視標提示機3は、選択された提示対象視標に対応する遠用視力表36を第1ディスプレイ33の表示面33aに表示し、近用視標提示機4は、選択された提示対象視標に対応する近用視力表45を第2ディスプレイ43の表示面43aに表示する。
【0069】
以上により、
図3に示すように、被検眼Eが検査用レンズ24を通して目視できる領域であって、検査用レンズ24の収差の影響を受けない提示領域7の、検査用レンズ24の主光軸Sの近傍に、上下に近接して遠用視力表36と近用視力表45とが同時に提示される。
【0070】
被検者Hは、検査用レンズ24を通して視線を僅かに上下に移動させることで、遠用視力表36と近用視力表45とを、迅速かつ容易に切り替えて目視することができる。このため、遠用視力表36と近用視力表45とを切り替えて被検眼Eに提示する手間を省き、遠用検査と近用検査とを連続して、何度も繰り返し行うことができる。これにより、眼科装置100での被検眼Eの視機能の検査を、より効率的に行うことができる。
【0071】
なお、遠用視力表36と近用視力表45とを、近接して配置した状態で、遠用検査を行っている間は、水晶体の調節刺激を抑制すべく、第2ディスプレイ43の表示をオフ(又は黒画像表示)にして近用視標45aを非表示としてもよい。また、被検者Hが視線を下に向けて近用検査を行うときに、近用視力表45を注視させるべく、第1ディスプレイ33の表示をオフ(又は黒画像表示)にして遠用視標36aを非表示としてもよい。
【0072】
その後、再度視線を変更しながら遠用検査と近用検査を行うときに、検査に応じて第1ディスプレイ33及び第2ディスプレイ43をオン又はオフしてもよい。このような使用においても、従来のように遠用視力表と近用視力表を交換する必要がなく、第1ディスプレイ33及び第2ディスプレイ43をオン又はオフするだけで、簡単かつ迅速に遠用視力表36と近用視力表45とを切り替えて被検眼Eに提示することができ、遠用検査及び近用検査を、効率的に行うことができる。
【0073】
(実施例2)
以下、実施例2に係る眼科装置100Aの構成を、
図4に基づいて説明する。実施例2の眼科装置100Aは、レフラクターヘッド2に代えて、トライアルフレーム2Aを使用し、近用視標提示機4に代えて、近用視標提示機4Aを備えていること以外は、実施例1の眼科装置100と同一の基本構成を備えている。このため、実施例1と同一の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略し、以下では、実施例1と異なる構成について主に説明する。以降で説明する実施例2~実施例8も同様である。
【0074】
図4に示すように、実施例2に係る眼科装置100Aは、検眼テーブル1、第1の視標提示部である遠用視標提示機3、及び第2の視標提示部である近用視標提示機4Aを有する眼科装置本体6Aと、制御部であるコントローラ5(
図4では図示せず、
図1等参照)と、を備えている。このような眼科装置100Aでは、被検眼Eを視機能を矯正するための検眼機として、公知のトライアルフレーム2Aを用いることができる。トライアルフレーム2Aは、レンズ受部25と、テンプル26等を備えたメガネ型の器具であり、検者等が、手動でレンズ受部25に検査用レンズ24を選択的に配置することができる。もちろん、眼科装置100Aがレフラクターヘッド2を備え、レフラクターヘッド2を用いて検査を行うものでもよい。
【0075】
また、検眼テーブル1、遠用視標提示機3は、実施例1のこれらと同様のものを用いることができる。一方、実施例2の近用視標提示機4Aは、基板41Aと、移動機構461と、第2ディスプレイ43と、を備えている。
【0076】
基板41Aは、検眼テーブル1上であって、遠用視標提示機3の前方(被検者H側)に、固定又は載置されている。また、基板41は、Z軸を回転軸として、左右方向に回転可能に検眼テーブル1に設けられる。検者等は、基板41Aに設けられたレバー462を保持して基板41Aを回転させることで、近用視標提示機4Aを、遠用視標提示機3の前方(窓部31aの下方)に配置したり、近用視力表45が検査用レンズ24を通して目視できない側方に退避したりすることができる。よって、基板41A及びレバー462は、近用視力表45の退避機構としても機能する。
【0077】
この基板41A上に、移動機構461が設けられている。この移動機構461は、第2ディスプレイ43を上下方向(Y方向)及び奥行方向(Z方向)に移動させる機能を有する。移動機構461は、基板41Aから上方に向けて、被検眼Eを回転中心とする円弧状に延びるレール461aと、このレール461aに沿って上下方向(Y方向)に移動自在にレール461aに取り付けられたスライダ461bと、このスライダ461bに一端が固定され、奥行き方向に伸縮するエキスパンダ461cと、このエキスパンダ461cの他端に固定されたトレイ461dと、を有する。トレイ461dに、第2ディスプレイ43が載置される。
【0078】
この実施例2の第2ディスプレイ43は、LCD等の電子表示デバイスを用いているが、これに限定されず、予め検査用のアプリケーションをインストールした、LCD等を有するスマートフォン、携帯電話、タブレット端末等の携帯情報端末を用いることもできる。また、第2の視標表示部が、電子表示デバイスや携帯情報端末に限定されず、視標が印刷等された、紙、金属、プラスチック板等からなる視力表を用いることもできる。
【0079】
レール461a、スライダ461b、及びエキスパンダ461cは、1つのみ設けることで、近用視標提示機4Aを、より簡素かつ廉価に得られる。また、これらを複数ずつ設け、複数のエキスパンダ461cの先端にトレイ461dを連結した構成とすれば、移動機構461により第2ディスプレイ43を、より安定して移動可能となるとともに、移動機構461の耐久性が向上する。
【0080】
実施例2の眼科装置100Aでは、移動機構461のスライダ461bをレール461aに沿って上下に移動させることで、第2ディスプレイ43を上下に移動させることができる。よって、
図4に実線で示すように、第2ディスプレイ43を上方に移動させて、近用視標45aを、被検眼Eが検査用レンズ24を通して目視できる領域(検査用レンズ24の視野内)であって、検査用レンズ24の収差の影響を受けない提示領域7に、遠用視力表36と平面視で隣接して配置することができる。これにより、被検者Hは視線を移動するだけで、検査用レンズ24を通して目視する対象を、遠用視標36aと近用視標45aとの間で自在に切り替えることができる。なお、トライアルフレーム2Aに装着される検査用レンズ24は、レフラクターヘッド2の場合に比べて収差が少ない。このため、トライアルフレーム2Aを用いた場合は、検査用レンズ24の収差の影響を受けない提示領域7がより広がることから、近用視標45aを、例えば比較的下方に配置して、被検者Hが視線を大きく移動させた場合でも、収差の影響を受けずに近用視標45aを視認することができる。すなわち、提示領域7内において遠用視標36aに対して近用視標45aの近接距離をできるだけ短くして、目線の移動量を最小限とした検査もできるし、遠用視標36aと近用視標45aとの近接距離をより長くして、目線の移動量を大きくした検査もできるし、目線の移動量を段階的に変更した検査もできる。また、
図4に仮想線で示すように、第2ディスプレイ43を下方の退避位置に移動させて、近用視標45aを提示領域7の外に退避させることができる。
【0081】
または、第2ディスプレイ43をトレイ461dから取り出すことで、近用視標45aを提示領域7の外に退避させることもできる。さらには、前述したように、レバー462を保持して基板41を回転させて近用視標提示機4を側方に移動させることで近用視標45aを提示領域7の外に退避させることもできる。つまり、移動機構461は、近用視力表45の退避機構としても機能する。
【0082】
また、エキスパンダ461cに対して、第2ディスプレイ43をX軸周りに回転させて傾斜角度を変化させることで、被検眼Eの高さに応じて、近用視力表45を配置することができる。また、エキスパンダ461cを伸ばしたり、縮めたりすることで、被検眼Eから第2ディスプレイ43までの近用検査距離(第2の検査距離)を、任意の範囲(例えば、30cm~50cmの範囲)で変化させることができる。これにより、被検者Hは、様々な近用検査距離での見え方の検査(近用検査)が可能となる。つまり、移動機構461は、近用検査距離を変更する検査距離変更機構としても機能する。
【0083】
(実施例3)
以下、実施例3に係る眼科装置100Bの構成を、
図5、
図6に基づいて説明する。実施例3の眼科装置100Bは、近用視標提示機4に代えて、
図5に示す近用視標提示機4Bを備えていること以外は、実施例1の眼科装置100と同一の基本構成を備え、検眼テーブル1、レフラクターヘッド2、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4Bを有する眼科装置本体6Bと、制御部であるコントローラ5と、を備えている。
【0084】
図5に示すように、実施例3の近用視標提示機4Bは、フレキシブルアーム463と、第2ディスプレイ43と、を備えている。フレキシブルアーム463は、近用視力表45の移動機構、退避機構、検査距離変更機構として機能する。
【0085】
フレキシブルアーム463は、可撓性を有する部材からなり、一端が検眼テーブル1に固定又は、着脱自在に取り付けられている。フレキシブルアーム463の他端に、LCD等からなる第2ディスプレイ43が連結されている。よって、実施例3では、フレキシブルアーム463を3次元的に変形させることで、第2ディスプレイ43を、遠用視標提示機3の前方であって窓部31aの上下、左右、斜めの何れ位置にでも配置することができるとともに、近用視力表45を、被検眼Eが目視できない遠用視標提示機3の側方や背面に退避させることができる。
【0086】
第2ディスプレイ43は、USBコード43cによりコントローラ5と各信号の送受信が可能に接続され、電源コード43dから電力が供給される。第2ディスプレイ43は、コントローラ5からの指示信号に基づいて、複数の視標45aを有する近用視力表45を表示面43aに表示する。
【0087】
また、実施例3では、遠用視標提示機3は、被検眼Eに提示する遠用視力表36の遠用視標36aを、
図5、
図6に示すように、主光軸Sの近傍に1つのみ表示して、提示領域7における遠用視標36aの表示領域を少なくしている。これにより、近用視力表45の近用視標45aを、遠用視標36aに、より近接して、しかも、主光軸Sに近い領域に提示することができる。この結果、検査用レンズ24の収差による影響を、より抑制することができ、被検者Hは、遠用視標36a及び近用視標45aを適切に目視することができ、遠用検査及び近用検査を、より精度よく、かつ、より効率的に行うことができる。
【0088】
また、
図6に示す例では、遠用視標36aを1つのみ表示しているので、提示領域7の下方のみならず、上方、左側、右側、斜め方向にも遠用視標36aの非表示領域が設けられる。このため、近用視力表45(第2ディスプレイ43)を、遠用視力表36の上方、左側、右側、斜め方向に近接して配置することもできる。フレキシブルアーム463を用いることで、第2ディスプレイ43を、窓部31aに提示される遠用視力表36に隣接する、何れの位置にでも自在かつ簡易に配置することができる。
【0089】
なお、遠用視標36aの表示領域を少なくすることができれば、遠用視力表36の遠用視標36aは1つのみに限定されず、左右方向に複数の遠用視標36aを1列に並べて表示してもよいし、提示領域7の上方(又は左方、右方、下方、斜め方向でもよい。)の偏った位置に複数の遠用視標36aを配置してもよい。この場合も、フレキシブルアーム463により、遠用視標36aの非表示領域に、遠用視標36aと近接して近用視力表45(第2ディスプレイ43)を配置することができる。
【0090】
(実施例4)
以下、実施例4に係る眼科装置100Cの構成を、
図7に基づいて説明する。実施例4の眼科装置100Cは、近用視標提示機4に代えて、
図7に示す近用視標提示機4Cを備えていること以外は、実施例1の眼科装置100と同一の基本構成を備え、検眼テーブル1、レフラクターヘッド2、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4Cを有する眼科装置本体6Cと、制御部であるコントローラ5と、を備えている。
【0091】
図7に示すように、実施例4の近用視標提示機4Cは、第1支持アーム466、第2支持アーム467及び回転部468を有する吊下げ部465と、第2の視標表示部である近用視標表示板43Cと、を備えている。
【0092】
吊下げ部465は、近用視標表示板43Cを遠用視標提示機3の前方に吊り下げて提示する機能と、近用視標表示板43Cの退避機構としての機能とを有し、さらに近用視標表示板43Cの近用検査距離を変更する検査距離変更機構としての機能を有する。第1支持アーム466は、遠用視標提示機3の方向(Z方向)に延在し、一端が回転部468によりレフラクターヘッド2の支持機構21の支持部材21cに連結されており、回転部468により、X軸軸周りに回転可能となっている。この第1支持アーム466は、径の異なる2以上のパイプが入れ子状に組み合わされた入れ子構造であり、レフラクターヘッド2に対して伸縮自在となっており、検査距離変更機構として機能する。第1支持アーム466の他端に、第2支持アーム467の一端が固定されている。この第2支持アーム467は、遠用視標提示機3の窓部31aを回避するように、窓部31aの外周に沿って延在する平面視コ字型のパイプ等からなる。この第2支持アーム467の他端に、近用視標表示板43Cが取り付けられている。なお、第2支持アーム467が、コ字型のパイプ等に限定されず、例えば、コ字型や四角形に針金を折り曲げて形成した部材等であってもよく、より目立たず、視界等を妨げにくいものとすることができる。
【0093】
近用視標表示板43Cは、近用視標45a(近用視力表45)が描かれた紙、樹脂、金属、木材等からなるプレートにより形成されている。また、検査目的に応じて、様々な近用視標45aが表示された近用視標表示板43Cを、第2支持アーム467に適宜付け替えることができる。また、近用視標表示板43Cが、このようなプレートに限定されず、LCD等の電子表示デバイス、携帯情報端末等であってもよい。
【0094】
実施例4では、
図7(a)、
図7(b)に示すように、吊下げ部465によって、近用視標表示板43Cを、レフラクターヘッド2と遠用視標提示機3との間であって、窓部31aの下方に配置することで、レフラクターヘッド2に近用視標表示板43Cに吊り下げる。これにより、遠用視力表36と、近用視標45aとを、提示領域7に近接して配置することができ、遠用検査と近用検査とを続けて行うことができる。また、第1支持アーム466を伸縮することで、所望の近用検査距離での近用検査、又は複数の近用検査距離での近用検査を行うことができる。
【0095】
また、近用視力表45を使用しない場合は、回転部468を介して、第1支持アーム466を手前方向(被検者Hの方向)に回転させ、
図7(b)に仮想線で示すように、近用視標提示機4Cを、レフラクターヘッド2の上方に配置し、近用視力表45を提示領域7の外に退避させることができる。この結果、被検者Hは、遠用視標提示機3による遠用検査を適切に行うことができる。また、第1支持アーム466を縮めることで、近用視標提示機4Cをコンパクトに収容したり、遠用視標提示機3との間の空間が狭い場合でも、支障なく遠用視標提示機3の前方に移動させたりすることができる。また、第1支持アーム466の複数のパイプを分離可能とし、支持部材21cに連結された一方のパイプ以外のパイプを、第2支持アーム467及び近用視標表示板43Cごと取り外して退避しておき、近用検査時に、外したパイプを一方のパイプに取り付けて、近用視標提示機4Cを遠用視標提示機3の前方に配置してもよい。
【0096】
(実施例5)
以下、実施例5に係る眼科装置100Dの構成を、
図8に基づいて説明する。実施例5の眼科装置100Dは、近用視標提示機4に代えて、
図8に示す近用視標提示機4Dを備えていること以外は、実施例1の眼科装置100と同一の基本構成を備え、検眼テーブル1、レフラクターヘッド2、遠用視標提示機3及び近用視標提示機4Dを有する眼科装置本体6Dと、制御部であるコントローラ5と、を備えている。
【0097】
図8に示すように、実施例4の近用視標提示機4Dは、多関節を有するロボットアーム469と、第2の視標表示部である第2ディスプレイ(例えば、タブレット端末としているが、これに限定されない。)43Dと、を備えている。ロボットアーム469は、コントローラ5と近距離無線等で各信号を送受信可能に接続されている。検者は、コントローラ5を操作することで、ロボットアーム469の動作を遠隔で制御することができる。
【0098】
ロボットアーム469は、遠用視標提示機3の筺体31に取り付けられているが、これに限定されない。ロボットアーム469は、検眼テーブル1等、眼科装置本体6Dの何れの箇所に取り付けられてもよいし、眼科装置本体6D以外の箇所、例えば、床面、天井、壁面等に取り付けられてもよい。
【0099】
ロボットアーム469は、エンドエフェクタ469aによって第2ディスプレイ43Dを把持している。また、近用視標表示部として実施例4の近用視標表示板43Cと同様のものを用いることもできる。また、検査目的に応じて、近用視標表示板43Cを適宜付け替えることができる。ロボットアーム469は、第2ディスプレイ43Dを提示するだけでなく、近用視力表45の退避機構、近用検査距離の検査距離変更機構等としても機能する。
【0100】
実施例5では、
図8に仮想線で示すように、ロボットアーム469は、第2ディスプレイ43Dを、レフラクターヘッド2と遠用視標提示機3との間の、窓部31aの下方、側方等、何れの位置にも配置することができる。また、ロボットアーム469は、第2ディスプレイ43Dを提示する近用検査距離も、任意に変更することができる。これにより、遠用視力表36と、近用視標45aとを、提示領域7に近接して、所望の近用検査距離に配置することができ、遠用検査と近用検査とを続けて行うことができるとともに、多様な検査が可能となる。
【0101】
また、近用視力表45を使用しない場合は、ロボットアーム469によって、近用視標提示機4Cを、例えば
図8に実線で示すように、レフラクターヘッド2の上方に配置する。これにより、近用視力表45を、提示領域7の外に退避させることができる。この結果、被検者Hは、遠用視標提示機3による遠用検査のみを適切に行うことができる。
【0102】
(実施例6)
以下、実施例6に係る眼科装置100Eの構成を、
図9に基づいて説明する。実施例1~実施例5では、遠用検査距離に視標像(虚像)Iを結像する遠用視標提示機3を備えているが、実施例6の眼科装置100Eは、遠用検査距離に遠用視力表36を配置し、被検眼Eに対して遠用視標36aの実像を提示する遠用視標提示機3Eを備えている。
【0103】
実施例6の眼科装置100Eは、遠用視標提示機3E及び近用視標提示機4Eを有する眼科装置本体6Eと、コントローラ5とを備える。さらに、
図9には図示を省略しているが、眼科装置本体6Eは、レフラクターヘッド2及び/又はトライアルフレーム2Aを備えている。また、眼科装置100Eは、コントローラ5やトライアルフレーム2A用の検査用レンズセット等を載置する検眼テーブル1を備えていてもよい。
【0104】
実施例6の遠用視標提示機3Eは、遠用視標36aの視標表示部としてLCD等からなる大型の第1ディスプレイ33Eを備えている。この第1ディスプレイ33Eは、建物の壁面Wに取り付けられているが、ラック等に取り付けてもよい。また、第1ディスプレイ33Eは、コントローラ5と近距離無線等で各信号を送受信可能に接続されており、コントローラ5の制御の下、表示面33aに遠用視標36a(遠用視力表36)を表示する。
【0105】
また、実施例6の近用視標提示機4Eは、建物の床面Fに載置される基板41と、基板41から上方(Y方向)に延在する支持部42と、支持部42の先端に取り付けられた近用視標表示部としての第2ディスプレイ43と、を備えている。
【0106】
実施例6では、近用視標提示機4Eを、被検者Hと遠用視標提示機3Eとの間であって近用検査距離に、第1ディスプレイ33Eに表示される遠用視力表36の遠用視標36aと重ならないように配置する。これにより、レフラクターヘッド2やトライアルフレーム2Aの検査用レンズ24を通して、被検眼Eが目視できる範囲内であって、検査用レンズ24の収差の影響を受けない提示領域7に、遠用視力表36と近用視力表45とを近接して提示することができる。これにより、被検者Hは、遠用検査と近用検査とを続けて行うことができる。
【0107】
また、近用視力表45を使用しない場合は、近用視標提示機4Eを、遠用視標提示機3Eから離れた位置に退避させることで、被検者Hは、遠用視標提示機3Eによる遠用検査を適切に行うことができる。また、支持部42を伸縮可能に構成して、高さ調整機構として機能させ、支持部42の伸縮によって第2ディスプレイ43を退避位置と視認可能な位置に移動させてもよい。
【0108】
また、実施例6及び後述の実施例7においても、第1ディスプレイ33E又は第2ディスプレイ43に代えて、遠用視標36a又は近用視標45aが描かれた紙、樹脂、金属、木材等からなるプレート、その他の公知のものを遠用視標表示部又は近用視標表示部とすることができる。
【0109】
(実施例7)
以下、実施例7に係る眼科装置100Fの構成を、
図10に基づいて説明する。実施例7も、実施例6と同様に、被検眼Eに対して遠用視標36aの実像を提示する遠用視標提示機3Eを備えるが、近用視標提示機4Fが実施例6と異なる。すなわち、実施例7に係る眼科装置100Fは、遠用視標提示機3E及び近用視標提示機4Fを有する眼科装置本体6Fと、コントローラ5とを備える。
【0110】
近用視標提示機4Fは、検査距離の変更及び高さ調整を行う調整機構47と、近用視標表示部としての第2ディスプレイ43と、を備える。調整機構47は、
図10に示すように、壁面Wに、Z方向に延在して設けられた溝部47aと、この溝部47a内に、Z方向に移動自在に挿入された移動体47bと、この移動体47bの先端に設けられて第2ディスプレイ43を移動体47bに対してY方向に移動させる高さ調整機構47cと、を備える。この高さ調整機構47cに、第2ディスプレイ43が取り付けられている。
【0111】
移動体47bは、制御部53の制御の下、図示しない駆動機構によって、又は手動で、溝部47a内をZ方向に移動する。このことにより、第2ディスプレイ43がZ方向に移動し、第2ディスプレイ43で近用視力表45を提示する近用検査距離を任意に設定したり、変更したりすることができ、多様な近用検査が可能となる。
【0112】
高さ調整機構47cは、図示しない直動機構や回転機構等を備え、第2ディスプレイ43の高さ方向の位置や傾斜角度を変更する。このことにより、被検眼Eの高さに応じて、第2ディスプレイ43の高さと傾斜角度を調整することができ、被検眼Eに適切に近用視力表45を提示することができる。
【0113】
以上説明したように、実施例1~実施例7によれば、検査用レンズ24が前方に配置された被検眼Eに対して、第1の検査距離(遠用検査距離)に第1の視力表(遠用視力表36)を提示する第1の視標提示部(遠用視標提示機3)と、第1の距離(遠用検査距離)とは異なる第2の検査距離(近用検査距離)に第2の視力表(近用視力表)を提示する第2の視標提示部(近用視標提示機4)と、を備える。第1の視力表(遠用視力表36)の視標36aと第2の視力表(近用視力表45)の視標45aとは、被検眼Eが検査用レンズ24を通して目視できる範囲内であって、検査用レンズ24の収差の影響を受けない領域(提示領域7)に隣接して提示される。
【0114】
このような構成により、検査用レンズ24を通して目視可能で収差の影響を受けない提示領域7に、第1の視力表(遠用視力表36)と第2の視力表(近用視力表45)とを、これらを目視する視線の方向を異ならせる位置に配置することができる。これにより、被検者Hは、視線を僅かに移動させるだけで、検査用レンズ24を通して第1の視力表(遠用視力表36)と第2の視力表(近用視力表45)とを迅速かつ簡易に切り替えて目視することができ、第1の検査距離(遠用検査距離)での検査(遠用検査)と、第2の検査距離(近用検査距離)での検査(近用検査)を続けて、又は交互に繰り返し行うことができる。この結果、被検眼Eの遠用検査と近用検査とを交互に行う際の検査効率を、より向上させることができる眼科装置100~100Fを提供することができる。
【0115】
なお、実施例1~実施例7の近用視標提示機4~4Fを、単独で製品化し、これらを備えていない既存の自覚式の眼科装置(遠用視標提示装置を有する眼科装置)に、後付けで追加することも可能である。また、製造時や販売時に、近用視標提示機4~4Fの何れかを選択して追加可能とし、選択された近用視標提示機4~4Fを備える眼科装置を製造又は販売することもできる。
【0116】
そして、これらの近用視標提示機4~4Fにより、既存の眼科装置が有する視標提示部とは異なる近用検査距離に近用視力表45を提示するとともに、この近用視力表45を、被検眼Eが検査用レンズ24を通して目視できる領域であって、検査用レンズ24の収差の影響を受けない提示領域7に、既存の視力表(例えば、遠用視力表)と隣接して提示するように構成する。これにより、所定の検査距離での検査と、この検査距離とは異なる第2の検査距離での検査(例えば、遠用検査と近用検査)とを続けて行う際の検査効率を、より向上させることが可能な近用視標提示機4~4E(視標提示装置)、及び、これを備えた眼科装置を提供することができる。
【0117】
また、上記各実施例の眼科装置100~100Fを用いて、特殊コンタクトレンズによるオルソケラトロジーの治療後の被検眼、レーザー治療後の被検眼、遠近両用眼内レンズ(マルチフォーカルIOL)、乱視矯正機能付き眼内レンズ(プレミアムIOL)、有水晶体眼内レンズ(フェイキックIOL)等を装着した被検眼Eの遠用検査と近用検査にも好適に用いることができる。この場合、各種治療後の被検眼Eの水晶体、コンタクトレンズ、眼内レンズが、検査用レンズとして機能する。
【0118】
また、上記実施例1~実施例5の眼科装置100~100Dでは、遠用視標提示部として遠用検査距離に視標の虚像Iを提示する遠用視標提示機3を備え、実施例6、実施例7の眼科装置100E、100Fでは、遠用視標提示部として遠用検査距離に視標の実像を提示する遠用視標提示機3Eを備えているが、これに限定されない。実施例1~実施例5の眼科装置100~100Dが、遠用視標提示機3Eを備え、実施例6、実施例7の眼科装置100E、100Fが遠用視標提示機3を備えてもよい。また、遠用視標提示部が、これらに限定されず、遠用視標36aが描かれた紙、紙、樹脂、金属、木材等からなる遠用視標提示部としてもよい。
【0119】
(実施例8)
以下、実施例8に係る眼科装置を備える眼科システム200について、
図11を参照しながら説明する。実施例8の眼科システム200は、実施例1~実施例7に示す眼科装置100~100Fから選択された1種又は複数種の、1つ又は複数の眼科装置100~100Fと、これらの動作を統括的に制御するコントローラ5Aと、管理サーバ8と、を備える。
【0120】
なお、コントローラ5Aですべての眼科装置100~100Fを一括して制御することから、これらの眼科装置100~100Fが、個々にコントローラ5を有していなくてもよい。しかし、眼科装置100~100Fが、個々にコントローラ5を有していてもよく、近場の検者がコントローラ5を操作して各眼科装置100~100Fを制御することや、遠隔地の検者がコントローラ5Aを操作して各眼科装置100~100Fを制御することができるようにしてもよい。
【0121】
眼科装置100~100Fの眼科装置本体6~6F(又は、個々にコントローラ5を有する場合は各コントローラ5)と、コントローラ5Aと、管理サーバ8とは、インターネット等の通信ネットワークNを介して通信可能に接続されている。なお、管理サーバ8が必ずしも備えられている必要はなく、眼科装置100~100Fとコントローラ5Aとが、直接に通信可能に接続されていてもよい。
【0122】
眼科装置100~100Fは、眼科医院、眼鏡店等に設置される。コントローラ5Aは、より高度な知識や技量を有する専門医の居る病院、眼科装置メーカ、眼鏡店の本部等の遠隔地(または、眼科医院や眼科店等の別室でもよい)に設置され、専門医や、メーカの社員や、熟練の検者等が操作する。管理サーバ8は、自社サーバ、クラウドサーバ等からなり、コントローラ5Aからの操作入力を受けて、各眼科装置100~100Eの動作を制御したり、測定結果等を管理したりする。
【0123】
このような構成の眼科システム200では、遠隔地に居る検者が、コントローラ5Aを操作して、第1ディスプレイ33、33Eに遠用視力表36を表示させ、第2ディスプレイ43に近用視力表45を表示させる。また、コントローラ5Aを操作して、遠用検査距離や近用検査距離を変更することができる。
【0124】
そして、先の実施例1で説明したように、提示領域7に、遠用視力表36と近用視力表45とを近接して提示することで、検者とは離れた場所に居る被検者Hが、被検眼Eの遠用検査と近用検査とを続けて、又は交互に連続して行うことができる。また、検者が第1ディスプレイ33、33E及び第2ディスプレイ43をオン又はオフすることで、被検眼Eに遠用視力表36又は近用視力表45のみを提示したり、遠用視力表36及び近用視力表45を近接して提示したりすることで、目的に応じた様々な指標の提示状態で検査を行うことができる。
【0125】
このように、実施例8では、検者が眼科装置100等から離れた場所において、コントローラ5Aによって制御できるので、熟練した検者による検査や無人での検査が可能となる。さらには、検者と被検者Hとの接触を回避して、感染対策等を図ることもできる。
【0126】
以上、本開示の眼科装置100及び近用視標提示機4(視標提示装置)を実施例に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【符号の説明】
【0127】
3、3E :遠用視標提示機(第1の視標提示部、遠用視標提示部)
4、4A、4B、4C、4D、4E、4F :近用視標提示機(第2の視標提示部、近用視標提示部、視標提示装置)
5、5A :コントローラ(制御部)
7 :提示領域
24 :検査用レンズ
33、33E:第1ディスプレイ(第1の視標提示部、遠用視標提示部)
36 :遠用視力表(第1の視力表)
36a :視標
43 :第2ディスプレイ(第2の視標提示部、近用視標提示部)
43C :近用視標表示板(第2の視標提示部)
43D :第2ディスプレイ(第2の視標提示部、近用視標提示部)
45 :近用視力表(第2の視力表)
45a :視標
47 :調整機構(検査距離変更機構、高さ調整機構)
47c :高さ調整機構
53 :制御部
100、100A、100B、100C、100D、100E、100F :眼科装置
461 :移動機構(検査距離変更機構、退避機構)
463 :フレキシブルアーム(検査距離変更機構、退避機構)
465 :吊下げ部(検査距離変更機構、退避機構)
469 :ロボットアーム(検査距離変更機構、退避機構)
E :被検眼
N :通信ネットワーク