IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アヲハタ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004892
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】凍結モモ及び凍結モモの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/04 20060101AFI20230110BHJP
   A23B 7/08 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A23B7/04
A23B7/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083317
(22)【出願日】2022-05-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021105078
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591116036
【氏名又は名称】アヲハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】三好 徹
(72)【発明者】
【氏名】杉野 茜音
(72)【発明者】
【氏名】水野 由紀子
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169CA04
4B169HA11
4B169KB03
4B169KC39
(57)【要約】
【課題】凍結されていても、香りがより優れた凍結モモを提供することを目的とする。より好ましくは、風味がより優れた凍結モモを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る凍結モモは、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンを含み、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンを含み、
t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上である、凍結モモ。
【請求項2】
t-2-ヘキセナールの含有量が0.5ppb以上である、
請求項1に記載の凍結モモ。
【請求項3】
γ-デカラクトンの含有量が1.1×10ppb以上である、
請求項1又は2に記載の凍結モモ。
【請求項4】
みかけの初期弾性が5g/%以上、35g/%以下であり、
最大荷重が400g以上、2200g以下であり、
前記みかけの初期弾性は、測定気温-16℃~-18℃で、試料台に設置して、高さの最も高い部分に、貫入速度0.5mm/sec、貫入歪率:80%の条件でプランジャーを貫入させて、測定された歪率(%)を横軸、荷重(g)を縦軸として低歪率時(0~5%)の傾きから算出され、
前記最大荷重は、80%圧縮時にプランジャーにかかる荷重の最大値である、
請求項1又は2に記載の凍結モモ。
【請求項5】
Brix度が20度以上である、請求項1又は2に記載の凍結モモ。
【請求項6】
モモを、70℃以上、100℃以下の水で、30秒以上、600秒以下加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後のモモを、糖の溶液に浸漬する糖浸漬工程と、
前記糖浸漬工程後のモモを凍結させる凍結工程と、を含み、
前記糖浸漬工程では、前記糖の溶液は0℃以上、20℃以下であり、浸漬時間は48時間以下である、
凍結モモの製造方法。
【請求項7】
前記糖浸漬工程では、モモを、糖の溶液に、5時間以上、48時間以下浸漬する、
請求項6に記載の凍結モモの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凍結モモ及び凍結モモの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実を凍結させる方法として、果実を糖液に浮遊させた状態のまま凍結する方法(特許文献1)、常圧下、加熱することなく糖水溶液に浸漬し、これを冷凍する方法(特許文献2)、果実材料を空気乾燥させた後、糖を含む水性媒質に暴露し、続いて凍結する方法(特許文献3)、二種以上の単糖類又は単糖類とソルビトールとを含むシロップでフルーツを処理する方法(特許文献4)が報告されている。また、特許文献5には所定の破断荷重及び破断歪率を有する凍結イチゴが記載されている。
【0003】
また、モモ果実の香りについて、非特許文献1の記載の通り報告されている。
【0004】
モモを凍結させると風味が落ちることなどから、風味については依然改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-276062号公報
【特許文献2】特開平6-245692号公報
【特許文献3】特開平3-251140号公報
【特許文献4】特開平5-219894号公報
【特許文献5】特許第6688419号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】垣内典夫、大宮あけみ、“採取熟度別モモ果実の追熟に伴う揮発性成分の変化”、園芸学会雑誌60巻1号、1991-1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の一態様は、凍結されていても、より優れた香りを有する凍結モモを提供することを目的とする。より好ましくは、香りも味もより優れる、つまり、風味がより優れた凍結モモを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)の合計に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値を特定の範囲とすることにより、モモが凍結されていた状態でも風味がより優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンを含み、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)の合計に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上である、凍結モモ、
(2)t-2-ヘキセナールの含有量が0.5ppb以上である、(1)に記載の凍結モモ、
(3)γ-デカラクトンの含有量が1.1×10ppb以上である、(1)又は(2)に記載の凍結モモ、
(4)みかけの初期弾性が5g/%以上、35g/%以下であり、最大荷重が400g以上、2200g以下であり、前記みかけの初期弾性は、測定気温-16℃~-18℃で、試料台に設置して、高さの最も高い部分に、貫入速度0.5mm/sec、貫入歪率:80%の条件でプランジャーを貫入させて、測定された歪率(%)を横軸、荷重(g)を縦軸として低歪率時(0~5%)の傾きから算出され、前記最大荷重は、80%圧縮時にプランジャーにかかる荷重の最大値である、(1)から(3)に記載の凍結モモ、
(5)Brix度が20度以上である、(1)から(4)に記載の凍結モモ、
(6)モモを、70℃以上、100℃以下の水で、30秒以上、600秒以下加熱する加熱工程と、前記加熱工程後のモモを、糖の溶液に浸漬する糖浸漬工程と、前記糖浸漬工程後のモモを凍結させる凍結工程と、を含み、前記糖浸漬工程では、前記糖の溶液は0℃以上、20℃以下であり、浸漬時間は48時間以下である、凍結モモの製造方法、
(7)前記糖浸漬工程では、モモを、糖の溶液に、5時間以上、48時間以下浸漬する、(6)に記載の凍結モモの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、凍結されていても、香りがより優れた凍結モモを提供することができる。また、態様によっては、香りも味もより優れる、つまり、風味がより優れた凍結モモを提供することができる。したがって、凍結モモの更なる需要拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の特徴>
本発明の一態様である凍結モモは、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンを含み、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)の合計に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上であることに特徴を有する。このような構成により、凍結モモの香りがより優れたものとなる。また、本発明の態様によっては、風味がより優れたものとなる。例えば、本発明の一態様に係る凍結モモにおいては、モモの香気のうちの青臭み成分によるフレッシュな香りと、モモ特有の甘い香りがバランス良く含まれている。従って、凍結されているにも関わらず、香り豊かな凍結モモを提供することができ、本発明の態様によっては風味豊かな凍結モモを提供することができる。本明細書において「風味」とは、香り及び味を意味する。
【0012】
<モモの品種>
本発明の一態様に係る凍結モモにおいて、凍結されているモモはいずれの種類でもよい。例えば、あかつき、浅間白桃、一宮白桃、清水白桃、黄金桃、加納岩白桃、大久保、白鳳、日川白鳳、あかつき、夕空、川中島、白根白桃、京華などが挙げられる。
【0013】
<t-2-ヘキセナール>
t-2-ヘキセナールは、モモの追熟に伴って減少する青臭みを示す香気成分である。t-2-ヘキセナールが適当な量含まれていると、青臭み成分によってフレッシュな香りが向上する。本発明の一態様に係る凍結モモにおいては、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上である。当該比が1.7×10-3以上であることによって、フレッシュな香りとモモ特有の甘い香りのバランスに優れる、香りの良好な凍結モモとなり、態様によっては風味のより良好な凍結モモとなる。一方、当該比が1.7×10-3未満であると、香りのバランスが悪いことから、香りの悪い凍結モモとなり、さらには風味の悪い凍結モモとなる。t-2-ヘキセナールは、当業者に公知の方法で測定することが可能である。例えば、GC/MS等を用いて分析することが可能である。また、後述の本発明の凍結モモの製造方法の一態様によれば、本発明の一態様に係る凍結モモを好適に製造し得る。なお、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比は、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度をそれぞれの閾値で割った値を使用して、算出できる。各香気成分の閾値は、当業者に公知の文献により得ることが可能である。例えば、t-2-ヘキセナールの閾値は17ppb、γ-デカラクトンの閾値は11ppbである。
【0014】
<t-2-ヘキセナールの好ましい含有量>
本発明の一態様に係る凍結モモでは、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が2.0×10-3以上であることがより好ましい。青臭み成分によるフレッシュな香りと、モモ特有の甘い香りとのバランスがより良好になる。また、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比は、0.5以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.06以下が特に好ましい。
【0015】
また、本発明の一態様に係る凍結モモに含まれるt-2-ヘキセナールの含有量は、フレッシュな香りをより向上させる観点から0.5ppb以上であることが好ましく、1.2ppb以上であることがより好ましく、青臭みが過度になることを抑制する観点から70ppb以下であることがより好ましい。
【0016】
<γ-デカラクトン>
γ-デカラクトンは、モモの熟度の進行に伴い急激に増大する香気成分である。γ-デカラクトンが増えると、モモ特有の甘い香りが向上する。
【0017】
本発明の一態様に係る凍結モモに含まれるγ-デカラクトンの含有量は、甘い香りをより向上させる観点から1.1×10ppb以上であることが好ましく、1.5×10ppb以上であることがより好ましく、フレッシュな香りとのバランスをより向上させる観点から7.0×10ppb以下であることがより好ましい。
【0018】
<みかけの初期弾性>
みかけの初期弾性は、微小変形領域における弾性率の値を示すパラメータであり、噛んだ瞬間の硬さを示すともいえる。みかけの初期弾性が高いほど、噛んだ瞬間の硬さが硬いことを意味する。凍結モモのみかけの初期弾性は、低歪時の荷重に対する傾きから算出できる。具体的には、測定気温-16℃~-18℃で、凍結モモを試料台に設置して、高さの最も高い部分に、貫入速度0.5mm/sec、貫入歪率:80%の条件でプランジャーを貫入させる。測定した歪率(%)を横軸、荷重(g)を縦軸として低歪率時(0~5%)の傾きを算出して、本発明におけるみかけの初期弾性とする。
【0019】
本発明の一態様における凍結モモは、みかけの初期弾性の範囲が5g/%以上であることが好ましく、10g/%以上であることがより好ましく、15g/%以上であることが特に好ましい。また、みかけの初期弾性の範囲が35g/%以下であることが好ましく、30g/%以下であることがより好ましい。みかけの初期弾性が当該範囲であることによって、凍結されているにもかかわらず、柔らかく、且つ、歯が入り易い食感の凍結モモを提供することができる。また、前述の通り本発明の凍結モモは風味に優れているため、本発明の一態様に係る凍結モモは、軽い食感で口の中に香りの良い香気成分が広がり易く、態様によっては、良い風味が広がり易い。
【0020】
<最大荷重>
最大荷重は、喫食工程全体を通して感じる対象物の硬さを示すパラメータであり、噛み終わりの最大の硬さを示すともいえる。最大荷重が高いほど、噛み終わりの硬さが硬いことを意味する。凍結モモの最大荷重は、80%圧縮時にプランジャーにかかる荷重の最大値から算出できる。具体的には、測定気温-16℃~-18℃で、凍結モモを試料台に設置して、高さの最も高い部分に、貫入速度0.5mm/sec、貫入歪率:80%の条件でプランジャーを貫入させる。プランジャーにかかる荷重の最大値を算出して、本発明における最大荷重とする。
【0021】
本発明の一態様における凍結モモは、最大荷重の範囲が400g以上であることが好ましく、700g以上であることがより好ましい。また、最大荷重の範囲が2200g以下であることが好ましく、1500g以下であることがより好ましい。最大荷重が当該範囲であることによって、凍結されているにもかかわらず、食感がより優れた凍結モモを提供することができる。また、前述の通り本発明の凍結モモは風味に優れているため、本発明の一態様に係る凍結モモは、軽い食感で口の中に香りの良い香気成分が広がり易く、態様によっては、良い風味の良い香気成分が広がり易い。また、最大荷重の範囲が700g以上、1500g以下である凍結モモは、凍結果実として好適な噛み応え、及び、食感を有している。
【0022】
<糖度>
本発明の一態様に係る凍結モモは、Brix度が20度以上であることが好ましい。また、Brix度が30度以下であることが好ましい。Brix度が当該範囲であることによって、味がより優れたものとなるため、風味がより優れた凍結モモとなる。Brix度は糖度を表し、甘味の指標として用いられる。本発明の一態様に係る凍結モモのBrix度は、当業者に公知の手法を用いて測定することができ、例えば、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0023】
<添加物>
本発明の一態様に係る凍結モモには、添加物が添加されていてもよい。添加物としては、例えば、着色料、香料、甘味料、酸味料、洋酒、果汁、酢、乳酸Ca、酵素等が挙げられる。また、本発明の一態様に係る凍結モモは極めて風味がよいので、前記添加物の添加をせずとも、風味の優れた凍結モモを提供することができる。
【0024】
<凍結モモの製造方法>
本発明の一態様である凍結モモの製造方法はモモを、70℃以上、100℃以下の水で、30秒以上、600秒以下加熱する加熱工程と、前記加熱工程後のモモを、糖の溶液に浸漬する糖浸漬工程と、前記糖浸漬工程後のモモを凍結させる凍結工程と、を含む。なお、以下の説明は、本発明の一態様に係る凍結モモの説明に準じ、同じ説明は繰り返さない。
【0025】
<モモ>
本発明の一態様における凍結モモの製造方法では、使用するモモの形態は特に限定されない。例えば、生のモモ、凍結されたモモ等が挙げられる。生のモモとは、収穫後、加熱、又は乾燥をしていないモモを意味する。原料のモモは、追熟してもよく、前処理を行ってもよい。前処理としては、例えば、洗浄、半割、除核、剥皮、カット等が挙げられる。また原料の品種や熟度により、半割した果実の上部から3~5%熱アルカリのシャワーをかけて剥皮してもよい。その後、水洗、酸処理による中和を行った後、ブランチングを行い冷却してもよい。凍結を行う場合、生のモモの前処理後に行うことが好ましく、凍結する方法として、Individual Quick Frozen(IQF凍結)が好ましい。IQF凍結を行う場合、好ましいモモの中心温度は-18℃以下である。
【0026】
<加熱工程>
本発明の一態様における凍結モモの製造方法では、モモを、70℃以上、100℃以下の水で、30秒以上、600秒以下加熱する加熱工程を含む。加熱温度は、好ましくは80℃以上である。また、加熱温度は、好ましくは100℃以下である。加熱時間は、好ましくは30秒以上である。また、加熱時間は、好ましくは600秒以下である。加熱工程によって、香りが優れた凍結モモを得ることができる。加熱工程は、モモを所与の条件で加熱すればよく、例えば、モモをボイル処理する、及び、スチーム処理する等の方法によって加熱してもよい。また、加熱工程はブランチングであってもよい。ブランチングを行う場合、原料のモモはブランチング後、水中に入れて冷却する際に剥皮してもよい。ブランチングの条件は、酵素が失活するように適宜設定すればよい。当該条件としては、例えば、80℃以上、100℃以下、1分以上、10分以下の条件が挙げられる。
【0027】
<糖浸漬工程>
糖浸漬工程は、モモを、糖の溶液に浸漬する工程である。糖浸漬工程において、糖の溶液は0℃以上、20℃以下であり、浸漬時間は48時間以下である。この糖浸漬工程によって、本発明の一態様に係る凍結モモを好適に製造できる。よって、本発明の一態様に係る凍結モモの製造方法によれば、風味が優れた凍結モモを得ることができる。糖浸漬工程の具体的な方法としては、例えば、糖液の入った容器にモモを入れてもよい。モモが浮くのであれば落し蓋をしてもよい。また、容器内で撹拌してもよい。糖浸漬工程の条件を調整することで、上述した香気成分、みかけの初期弾性、最大荷重、及び糖度を調整可能である。
【0028】
<糖の溶液>
糖浸漬工程のために用いる糖は、所望の凍結モモの味等に応じて適宜選択すればよく、例えば、果糖(フルクトース)、スクロース、グルコース、コーンシロップ糖が挙げられる。糖の溶液の糖濃度は適宜設定すればよい。例えば、糖濃度は30質量%以上であることが好ましく、また、60質量%以下であることが好ましい。
【0029】
<浸漬温度>
糖浸漬工程における浸漬温度は、0℃以上、20℃以下である。0℃以上であることにより、糖が良好にモモに浸漬して、より風味の優れた凍結モモを得ることができる。0℃未満であると、糖の浸漬の速度が遅い。20℃以下であることにより、風味の劣化を抑制し、より風味に優れた凍結モモを得ることができる。また、20℃以下であることにより、果肉の硬さを維持できるので噛み応えの良好な良い食感の凍結モモを得ることができる。浸漬温度が20℃を超すと、モモの風味が劣化したり、柔らくなりすぎることによって食感が悪くなったりする。
【0030】
<浸漬時間>
糖浸漬工程における浸漬時間は、48時間以下である。この浸漬時間であることにより、より良好にモモ内に糖を浸漬することができる。また、上記の浸漬温度にてこのような時間浸漬させることにより、モモの香気成分のバランスが良くなり、香りがより優れた凍結モモが得られる。また、味も良好であるため、風味がより優れた凍結モモが得られる。また、浸漬時間が48時間を超すと糖の溶液がモモに入りすぎて風味が悪く、また、モモの果汁分が抜けて風味が悪くなり、食感が悪くなる。なお、糖浸漬工程における、浸漬時間の下限は特に限定されず、糖の溶液に浸漬しさえすればよい。つまり、0秒より長ければよい。
【0031】
糖浸漬工程における、好ましい浸漬時間は5時間以上であり、より好ましい浸漬時間は9時間以上であり、特に好ましい浸漬時間は12時間以上である。また、好ましい浸漬時間は36時間以下であり、より好ましい浸漬時間は30時間以下である。この範囲であることにより、風味及び食感がより優れる凍結モモとなる。また、浸漬時間が5時間以上であることにより、香りが優れ、かつ、味にも優れた、つまり、風味が優れた凍結モモを得ることができる。また、浸漬時間が5時間以上であれば、食感が優れた凍結モモ、つまり、凍結されているにもかかわらず、柔らかく、且つ、歯が入り易い食感の凍結モモを製造できる。
【0032】
<凍結工程>
凍結工程は、モモを凍結させる工程である。糖浸漬工程後のモモを凍結させる方法としては、IQF凍結がより好ましい。モモの風味、硬さ等の品質がより高い凍結モモを得ることができる。凍結温度は、氷結晶を小さくすることで好ましい食感を得られるようにする観点から、-18℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-25℃以下がさらに好ましい。
【0033】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例0034】
[実施例1]
モモの原料として、白鳳(品種名)を用いた。生のモモを追熟させて、洗浄し、半割した後に除核した。85℃の水で5分煮熟した後に、剥皮を行った。次に、モモを冷却した後に、トリミングして、カットした。
【0035】
(糖浸漬工程)
モモを糖の溶液(果糖45質量%、水54.7質量%、クエン酸0.3質量%)に、浸漬温度10℃以下で24時間浸漬した。モモ120gに対して糖の溶液を80g用いた。
【0036】
(凍結工程)
糖浸漬後のモモを-30℃以上-20℃以下でIQF凍結させることにより、本発明の一態様に係る凍結モモを作製した。
【0037】
[実施例2]
糖浸漬工程において、糖の溶液への浸漬時間を48時間とした以外は実施例1と同様に凍結モモを作製した。
【0038】
[実施例3]
モモを一旦IQF凍結したこと以外は実施例1と同様に凍結モモを作製した。
【0039】
[実施例4、5]
モモを白鳳の代わりに大久保(品種名)とした以外は、実施例1と同様に凍結モモを作製した。個体差等を確認するために同じ条件で2例行なった。
【0040】
[実施例6、7]
モモを一旦IQF凍結して、その後解凍したものを用いたこと以外は実施例4と同様に凍結モモを作製した。個体差等を確認するために同じ条件で2例行なった。
【0041】
[実施例8]
糖浸漬工程において、糖の溶液への浸漬時間を12時間とした以外は実施例8、9と同様に凍結モモを作製した。
【0042】
[実施例9~20]
モモの原料として大久保(実施例9~18、20)、川中島白桃(品種名、実施例19)それぞれを用い、表2に記載の時間、モモを糖の溶液へ浸漬したこと以外は、実施例1と同様に凍結モモを作製した。なお、実施例9は、糖の溶液がモモを覆うように、モモを糖の溶液へ5分間浸漬した。
【0043】
[比較例1]
市販のシロップ漬けの缶詰モモ(品種:大久保)(A社製品)をIQF凍結し、そのまま評価に供した。
【0044】
[比較例2]
シロップ漬けのモモを使用した市販の凍結モモをそのまま評価に供した。モモの品種は不明である。
【0045】
[比較例3]
糖浸漬工程と同時に加熱殺菌加工を行う以外は、実施例4と同様に凍結モモを作製した。糖浸漬を、モモ及び糖の溶液をパウチに入れて行ない、モモ及び糖の溶液がパウチに格納されたままの状態で加熱殺菌工程を行なった。
【0046】
[比較例4、5]
モモとして、中国産のモモ(品種:京華)(比較例4)、ギリシャ産のモモ(品種:不明)(比較例5)をそれぞれ用い、糖浸漬工程を経ずに、ブランチング工程の後に凍結工程を行い、凍結モモを作製した。
【0047】
[比較例6]
比較例1と同じ市販の缶詰モモ(品種:大久保)そのままのものを用いて、みかけの初期弾性及び最大荷重を測定した。
【0048】
[比較例7~10]
表2に記載の時間、モモを糖の溶液へ浸漬したこと以外は、実施例6と同様に凍結モモを作製した。
【0049】
<香気成分の測定>
ホモジナイズしたサンプル2gを容量20mLのバイアル瓶に入れ、超純水4gを添加しよく攪拌したものを分析試料とした。香気成分は固相マイクロ抽出法(SPME)により回収し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(島津製作所社製、GCMS QP2020NX)に供した。分析条件を以下に示す。
【0050】
定量には、標準物質としてt-2-ヘキセナール(trans-2-hexenal:東京化成工業社製)、γ-デカラクトン(gamma-decalactone:東京化成工業社製)を、アセトン(acetone:富士フィルム和光純薬社製)に溶解したものを段階的に超純水で希釈し標準溶液として用いた。各標準溶液6gを20mLのバイアルに入れたものを分析試料とした。香気成分は固相マイクロ抽出法(SPME)により回収し、ガスクロマトグラフ質量分析装置に供した。各香気成分のターゲットイオンのピーク面積値から検量線を作成し、サンプル中の香気成分の定量に用いた。
(固相マイクロ抽出(SPME)条件)
SPME Arrowファイバー:PDMS/DVB(Restek社製)
(外径1.1mm、膜厚100μm、長さ20mm)
予備加熱:50℃、5min
攪拌速度:250rpm
揮発性成分抽出:50℃、30min
脱着時間:2min
(GC条件)
カラム:DB-Waxキャピラリーカラム(J&W社)、60m×0.25mm id×0.25μm膜厚
カラム温度:初温40℃で10min保持、3.0℃/minで220℃まで昇温し15min保持、
10.0℃/minで245℃まで昇温し、20min保持
気化室温度:230℃
注入モード:スプリットレス(2min)
キャリアガス:He
カラム入り口圧力:185.0KPa
線速度:34.2cm/s
パージ流量:3mL/min
(MS条件)
イオン源温度:200℃
インターフェース温度:230℃
イオン化:EI
スキャンMS:m/z29-350
以上の測定結果を表1に示す。
【0051】
<香り、味、食感の官能評価>
各実施例及び比較例について、訓練されたパネルが下記の評価基準に基づいて香り、味、及び、食感の評価を行なった。結果を表1及び表2に示す。評価が3点以上であれば、好ましい結果といえる。
(香りの評価基準)
4:もも特有の甘い香りとフレッシュな香りがバランスよく感じられる。
3:もも特有の甘い香りとフレッシュな香りが感じられる。
2:もも特有の甘い香りが感じられるが、フレッシュな香りが感じられない。
1:もも特有の甘い香り、フレッシュな香りともほとんど感じられない。
(味の評価基準)
4:甘みをしっかり感じられる。
3:甘みを適度に感じられる。
2:甘みをあまり感じられない。
1:甘みをほとんど感じられない。
(食感の評価基準)
4:冷凍でも簡単に噛むことができる。
3:冷凍でも噛むことができる。
2:冷凍では噛みづらい。
1:冷凍では噛むことが困難である。
【0052】
<みかけの初期弾性の測定>
テクスチャーアナライザー TA.XT Plus(Stable Micro Systems社製)を用いて測定した。また、くさび型プランジャー(型番:A/WEG)を使用した。また、測定速度:0.5mm/sec、圧縮歪率:80%の条件で測定した。また、気温-16℃~-18℃の環境下で測定を行った。凍結モモを、平らな面を下にして試料台に設置して、高さの最も高い部分にプランジャーが貫入するように測定した。測定した歪率(%)を横軸、荷重(g)を縦軸として低歪率時(0~5%)の傾きを算出し、みかけの初期弾性とした。
【0053】
<最大荷重>
テクスチャーアナライザー TA.XT Plus(Stable Micro Systems社製)を用いて測定した。また、くさび型プランジャー(型番:A/WEG)を使用した。また、測定速度:0.5mm/sec、圧縮歪率:80%の条件で測定した。また、気温-16℃~-18℃の環境下で測定を行った。凍結モモを、平らな面を下にして試料台に設置して、高さの最も高い部分にプランジャーが貫入するように測定した。プランジャーにかかる荷重の最大値を算出し、最大荷重とした。
【0054】
<Brix度>
糖度計(ATAGO社製、品番:N-1E)を用いて、糖度(Brix度)を測定した。
【0055】
以上の測定結果を表1及び表2に示す。また、食感を官能評価したところ、実施例1~8、及び14~20は凍結されているにも関わらず、柔らかく、かつ、歯が入りやすかった。また、実施例の中でも、実施例1~8、14~19(最大荷重の範囲が700g以上、1500g以下)の凍結モモは、凍結果実としてさらに好適な、噛み応え及び食感を有していた。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
実施例1~20により、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンを含み、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上である、凍結モモは、凍結しているにもかかわらず、香りに優れていることが示された。また、モモを、70℃以上、100℃以下の水で、30秒以上、600秒以下加熱する加熱工程と、前記加熱工程後のモモを、糖の溶液に浸漬する糖浸漬工程と、前記糖浸漬工程後のモモを凍結させる凍結工程とを含み、前記糖浸漬工程では、前記糖の溶液は0℃以上、20℃以下であり、浸漬時間は48時間以下である、凍結モモの製造方法によって、香りに優れた凍結モモが得られ、また、浸漬時間が5時間以上とすることによって、より風味に優れた凍結モモが得られることが示された。また、食感が優れていることが分かった。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンを含み、
t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上、2.8×10 -2 以下であり、
前記t-2-ヘキセナールの含有量が0.62ppb以上、2.6ppb以下であり、
前記γ-デカラクトンの含有量が52ppb以上、2.7×10 ppb以下である、凍結モモ。
【請求項2】
前記γ-デカラクトンの含有量が1.1×10ppb以上、2.7×10 ppb以下である、
請求項1に記載の凍結モモ。
【請求項3】
みかけの初期弾性が5g/%以上、35g/%以下であり、
最大荷重が400g以上、2200g以下であり、
前記みかけの初期弾性は、測定気温-16℃~-18℃で、試料台に設置して、高さの最も高い部分に、貫入速度0.5mm/sec、貫入歪率:80%の条件でプランジャーを貫入させて、測定された歪率(%)を横軸、荷重(g)を縦軸として低歪率時(0~5%)の傾きから算出され、
前記最大荷重は、80%圧縮時にプランジャーにかかる荷重の最大値である、
請求項1又は2に記載の凍結モモ。
【請求項4】
Brix度が20度以上である、請求項1又は2に記載の凍結モモ。
【請求項5】
モモを、70℃以上、100℃以下の水で、30秒以上、600秒以下加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後のモモを、糖の溶液に浸漬する糖浸漬工程と、
前記糖浸漬工程後のモモを凍結させる凍結工程と、を含み、
前記糖浸漬工程では、前記糖の溶液は0℃以上、20℃以下であり、浸漬時間は30時間以下である、
凍結モモの製造方法。
【請求項6】
前記糖浸漬工程では、モモを、糖の溶液に、5時間以上、30時間以下浸漬する、
請求項に記載の凍結モモの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
参考例1
糖浸漬工程において、糖の溶液への浸漬時間を48時間とした以外は実施例1と同様に凍結モモを作製した。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
[実施例8]
糖浸漬工程において、糖の溶液への浸漬時間を12時間とした以外は実施例と同様に凍結モモを作製した。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
[実施例9~19、参考例2
モモの原料として大久保(実施例9~18、参考例2)、川中島白桃(品種名、実施例19)それぞれを用い、表2に記載の時間、モモを糖の溶液へ浸漬したこと以外は、実施例1と同様に凍結モモを作製した。なお、実施例9は、糖の溶液がモモを覆うように、モモを糖の溶液へ5分間浸漬した。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
<香り、味、食感の官能評価>
各実施例比較例、及び参考例について、訓練されたパネルが下記の評価基準に基づいて香り、味、及び、食感の評価を行なった。結果を表1及び表2に示す。評価が3点以上であれば、好ましい結果といえる。
(香りの評価基準)
4:もも特有の甘い香りとフレッシュな香りがバランスよく感じられる。
3:もも特有の甘い香りとフレッシュな香りが感じられる。
2:もも特有の甘い香りが感じられるが、フレッシュな香りが感じられない。
1:もも特有の甘い香り、フレッシュな香りともほとんど感じられない。
(味の評価基準)
4:甘みをしっかり感じられる。
3:甘みを適度に感じられる。
2:甘みをあまり感じられない。
1:甘みをほとんど感じられない。
(食感の評価基準)
4:冷凍でも簡単に噛むことができる。
3:冷凍でも噛むことができる。
2:冷凍では噛みづらい。
1:冷凍では噛むことが困難である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
以上の測定結果を表1及び表2に示す。また、食感を官能評価したところ、実施例1、3~8、14~19、及び参考例1~2は凍結されているにも関わらず、柔らかく、かつ、歯が入りやすかった。また、実施例及び参考例の中でも、実施例1、3~8、14~19、及び参考例1(最大荷重の範囲が700g以上、1500g以下)の凍結モモは、凍結果実としてさらに好適な、噛み応え及び食感を有していた。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
【表1】
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
【表2】
実施例1、319、及び参考例1~2により、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンを含み、t-2-ヘキセナール及びγ-デカラクトンの濃度/閾値(odor units)に対するt-2-ヘキセナールの濃度/閾値の比が1.7×10-3以上である、凍結モモは、凍結しているにもかかわらず、香りに優れていることが示された。また、モモを、70℃以上、100℃以下の水で、30秒以上、600秒以下加熱する加熱工程と、前記加熱工程後のモモを、糖の溶液に浸漬する糖浸漬工程と、前記糖浸漬工程後のモモを凍結させる凍結工程とを含み、前記糖浸漬工程では、前記糖の溶液は0℃以上、20℃以下であり、浸漬時間は48時間以下である、凍結モモの製造方法によって、香りに優れた凍結モモが得られ、また、浸漬時間が5時間以上とすることによって、より風味に優れた凍結モモが得られることが示された。また、食感が優れていることが分かった。