(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048950
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】高容量リチウムイオン二次電池。
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230331BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230331BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20230331BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230331BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230331BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230331BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230331BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230331BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230331BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230331BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230331BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20230331BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230331BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20230331BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230331BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20230331BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20230331BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20230331BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20230331BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20230331BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0565
H01M10/058
H01M10/0568
H01M4/40
H01M4/587
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/1391
H01M4/1395
H01M4/66 A
H01M4/70 A
H01M50/417
H01M50/426
H01M50/449
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/129
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021174159
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】599019719
【氏名又は名称】有限会社ケー・イー・イー
(72)【発明者】
【氏名】栗林 功
【テーマコード(参考)】
5H011
5H017
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011AA13
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H011KK01
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5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】安全性を高めた且つ高電池容量であり、負極活物質に採用したプリドープ法で得られる珪素リチウム合金の充放電サイクルでの急激な電池容量劣化を抑制できる方法を見出して現行の塗装法を利用できる高電池容量のリチウムイオン二次電池の製造方法とそのリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【解決手段】正極集電体のアルミニウム箔からステンレススチール316箔等の正極集電体に変更する。また負極活物質の酸化珪素への金属リチウムからプリドープする際にナノレベルの繊維状炭素質とカーボンブラックとからなる導電性ネットワークを形成しておく。逆反応に消費されるリチウム源を正極の活物質を利用するのでなく金属リチウムから電気化学的に前処理として酸化珪素へドープを行う。貫通孔の細孔を有する正極集電体と負極集電体としてできるだけ膜厚の薄いものを使用する。この電気化学的前処理と以降の充放電サイクルで、特に寸法変化を抑止するためにレトルトパック型電池形状にしておき、厚み方向に圧下する目的で治具等の機械的処理も施す。黒鉛単独使用の電池容量より高電池出力を発現し、300サイクルまで電池容量を高く保持をできるようにするため、複合的に他の電池構成材料を変更し、総合的に操作因子を変更・組合わせることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法とその超高電池容量のリチウムイオン二次電池とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極は、酸化珪素(SiOy、1≦y≦2)と金属リチウムとを接触させるプリドープ法で得られた珪素リチウム合金のLixSi(3.5≦x≦4.25)と黒鉛ナノチユーブあるいは単層グラフェンとカーボンブラックと副生した珪酸リチウム(Li4SiO4)とからなり、正極は、リチウム遷移金属酸化物であり、セパレータと電解液あるいはリチウムイオン電導性の有機固体電解質を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
正極集電体に5μm以下3μmまでの厚さと幅150mm以上であり、貫通孔の細孔を有する空隙率1-20%のステンレススチール316L箔あるいは鉄系NSSCFW2箔と負極集電体に13-5μmの厚さと空孔率1-15%を有する銅箔となることを特徴とする請求項1のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
負極の負極活物質を酸化珪素(SiOy、1≦y≦2)と黒鉛ナノチユーブあるいは単層グラフェンとカーボンブラックとの混合物にバインダーのフルオロエチレン・ビニルアルキルエーテル交互共重合体のラテックスまたは当該共重合体のフレークを非水有機溶媒に溶解し、その溶液を加えてスラリ-状の塗工液にして微細貫通孔を有する13-5μmの厚さの銅箔に塗布乾燥した負極前駆体シートを作る。当該シートにリチウム金属箔を貼り付けて、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極とポリ4メチル-1-ペンテンを30質量%から60質量%を含有する2-10μmの厚さの耐熱性ポリオレフィン微多孔膜とを不活性ガス雰囲気下で得た巻回物をレトルトパック袋に挿入し、非水有機溶媒単独あるいは希薄電解液によるリチウム金属の酸化珪素粒子へのプリドープを前処理として行った後に1M-2.0M濃度の電解液で充放電することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項4】
負極に負極活物質の珪素リチウム合金のLixSi(3.5≦x≦4.25)と珪酸リチウム(Li4SiO4)と黒鉛ナノチユーブあるいは単層グラフェンとカーボンブラックとからなる混合物にバインダーとしてフルオロエチレン・ビニルアルキルエーテル交互共重合体の非水有機溶媒に溶解した溶液を加えて微細貫通孔を有する13-5μmの厚さの銅箔に塗布乾燥して用い、正極にリチウム遷移金属複合酸化物とバインダーとしてフルオロエチレン・ビニルアルキルエーテル交互共重合体のラテックスまたは非水有機溶媒に溶解した溶液を加えて微細貫通孔を有する正極集電体に5μm以下3μmまでの厚さと幅150mm以上を有するステンレススチール316L箔あるいは鉄系NSSCFW2箔に塗布乾燥し、セパレータにポリ4メチル-1-ペンテンを30重量質量から60質量%を含有する2-7μm厚さの耐熱性ポリオレフィン微多孔膜に電解液を加えて充放電するリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
有機電解液をゲル化できるゲル化剤あるいはゲル化剤とゲル化促進剤の混合物を加えて有機固体電解質にする。負極には、負極活物質の珪素リチウム合金のLixSi(3.5≦x≦4.25)と珪酸リチウム(LiSiO4)と黒鉛ナノチユーブあるいは単層グラフェンとカーボンブラックとからなる混合物とバインダーとしてフルオロエチレン・ビニルアルキルエーテル交互共重合体を微細貫通孔を有する13-5μmの厚さの銅箔に塗布乾燥して用い、正極には、リチウム遷移金属複合酸化物とフルオロエチレン・ビニルアルキルエーテル交互共重合体のバインダを5μm以下3μmの厚さと150mm幅以上の微細貫通孔を有するステンレススチール316L箔あるいは鉄系NSSCFW2箔の正極集電体に塗布乾燥して用い、セパレータにはポリ4メチル-1-ペンテンを30重量質量から60質量%を含有する2-7μmの厚さの耐熱性ポリオレフィン微多孔膜の積層体にかかる電解液を有機固体電解質電池にするか液漏れをしないゼリー状の電池に変化させて充放電することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項6】
セパレータにポリ4メチル-1-ペンテンを30重量質量から60質量%を含有する2-7μmの厚みの耐熱性ポリオレフィン微多孔膜にフルオロエチレン・ビニルアルキルエーテル交互共重合体単独あるいはヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとのブロック共重合体との混合物を塗布乾燥して用いる請求項3-5のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
金属箔と最外装をナイロンあるいはポリエステルと最内装をポリプロピレンからなる総厚さ20-30μmのラミネート製のレトルトパック袋を用いて初回の充電放電後に、減圧にして発生ガスと用いた非水系有機溶媒あるいは希釈された電解液を吸引除去し、1M-2Mのリチウム錯塩の電解液を注入し封口する。電池の全体を機械的方法で圧下し、厚み変化をほぼなくしながら充放電することを特徴とする請求項1-6のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項8】
電気自動車の電源として使用することを特徴とする請求項1~7に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。
具体的には、リチウムイオン二次電池の安全性を高めた高容量のリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、近年、例えばノートブックパソコン、携帯電話、一体型カムコーダー等の携帯用電子機器の主電源として広範に普及している。EVシフトに向かって電池安全性が高く高容量の(電気自動車(EV)走行距離の伸びる)の大型リチウムイオン二次電池が市場で求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池容量を高めるのに負極活物質にシリコン金属ナノ粒子、一酸化珪素が提案されている。リチウムイオン二次電池として工業化するには、例えば、リチウム金属と酸化珪素(一酸化珪素、二酸化珪素)との電解液との接触による珪素-リチウム合金の負極活物質化は、ある程度に容量向上することが知られているが、リチウム金属の表面に電子電導性を阻害するパシベーション膜が生成してしまい、安定した製法になっていない。電池容量の発現に工業的に難が見られ、問題解決にはなっていないのが現状である。う。いまた正極集電体にアルミニウム箔が使用されてきたが、誤用で400℃に温度が上昇すると爆発的燃焼が起こる。電解液に対する電気化学的に安定なモリブデン2-3%含有するステンレススチール316L、あるいは鉄系NSSCFW2にすることにより電池の安全性を高めれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-52014号公報
【特許文献2】特開2012-209195号公報
特許文献1には、初回のクーロン効率が低く、不可逆的容量の大きい酸化珪素粉末にリチウムイオンをドープし、あらかじめ珪酸リチウム生成させる酸化珪素の製造方法を提案している。
特許文献2には、酸化珪素のプリドープ法が提案されている。炭酸リチウムにより被覆されたリチウム金属微粒子と酸化リチウムとの混合物に超音波振動を加えることにより、酸化珪素と前記の金属リチウムとを電気的に接触させる方法である。
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Procedia CIRP 93(2020)156-161
【非特許文献2】株式会社 大阪チタニウムテクノロジーズ 講演 木崎 信吾、2018年2月2日
【非特許文献3】産業技術総合研究所 新技術説明会資料2019年7月2日
【非特許文献4】Appl.Sci.2018,8,1245
非特許文献1には、負極のリチウム金属箔による金属珪素へのプリドープ法について解説されている。
非特許文献2には、カーボン被覆のアモルファス一酸化珪素の微粒子が、負極活物質として紹介されているが、充放電サイクルにおいて容量保持率を良好にできない原因としてリチウム吸蔵に伴う体積変化(膨張)に対処できていないことを指摘している。
非特許文献3には、一酸化珪素膜を集電体箔に蒸着させて一酸化珪素自体は、高容量を保持する負極活物質であることを示している。
非特許文献4には、酸化珪素(SiO
2)のリチウム珪素合金/酸化リチウムの研究結果が報告されている。1300mAh/gの活物質容量を50サイクルを超えて得られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池の高容量化に正極集電体、負極集電体、セパレータの膜厚を極力薄くしながら安全性を保持し、負極の高容量化に、従来の塗工法で製作できる負極として活物質に一酸化珪素と黒鉛との混合物を選定し、充放電サイクル時の急激な電池容量劣化を解消し、良好な容量保持ができる大型リチウムイオン二次電池とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、現行リチウムイオン二次電池の正極集電体を400℃付近で正極活物質のリチウム遷移金属酸化物から酸素を奪い、高温を発するアルミニウム箔を使用せずに4.4V付近まで電気化学的に安定なステンレス316箔あるいは鉄系の金属箔を見出したので使用する。また負極を一酸化珪素とし、充放電サイクル中に著しく塗工膜の膨張・収縮を繰り返すのに対処してカーボンネットワークを形成できるようにまた電子伝導性の悪い一酸化珪素に対してナノレベルの繊維状の導電助剤グラフェン類、例えばVGCF-H問えばとカーボンブラック例えばアセチレンブラックを多量に添加する。水溶性で乾燥後イソシアネート架橋もできるバインダーポリマーにフッ化エチレン-ビニルアルキルエーテルの交互共重合体を使用する。ポリマー鎖のエーテル基にリチウムイオンを配位している導電性のネットワーク中に一酸化珪素粒子を存在させる。あるいは、酸化珪素をプリドープ法で珪素リチウム合金にして非水系有機溶媒にフッ化エチレン-ビニルアルキルエーテルの交互共重合体のフレークを溶解し、バインダーとする。不可逆反応で消費されるリチウム源を現行リチウムイオン二次電池のような正極活物質中のリチウムを利用するのでなく薄いリチウム金属箔を負極表面に不活性ガス下で貼り合わせておいて電池構成物とし、ステンレススチ-ル箔からなるラミネートレトルトパックに挿入して、リチウムの酸化珪素へのプリドープのための前処理Iを行う。電解質を含まない非水系有機溶媒か、リチウム金属箔表面へパシベーション膜が生成しても一部にしか被覆していない範囲の希薄電解液を注入し、電子の移動によるリチウム金属から一酸化珪素へのリチウムイオンの移動をさせる。リチウム金属が消失し、ほぼ0.10V-0.05Vの収束負極電位に近づいた時点で、非水溶媒を除去できる範囲で吸引し除去し、1.5M-2.5Mの高濃度電解液を注入し、電解液濃度0.8Mから2.0Mも範囲で第1回目の充電を前処理IIとして行う。2.75Vまでの放電を行い、第2回目の放電を前処理IIIとして行う。発生ガスを吸引除去した後封口する。5μm-3μm厚さ、幅150mm以上の薄膜のステンレススチ-ル316L箔あるいは鉄系の4.4Vまで電解液に対する耐食性のある正極集電体と箔と負極集電体には銅箔を使用し、いずれの集電体箔には、充放電サイクル寿命に好ましい貫通孔の細孔をパンチング等で開けておき、重量も低減しておく。この電気化学的前処理と以降の充放電サイクルで収縮・膨張を抑止するためにレトルトパック型電池形状にして、厚み方向の寸法変化を極力小さくする目的で固定治具を用意し、機械的な圧下処理も加える。(モジュールにする際にこの治具を外す。)負極集電体の銅箔と正極活物質以外は、新規な物質を提案して、1987年以来、構築されたリチウムイオン二次電池の設備を活用しながら複合的に電池構成部品と操作に変更を組み合わせたリチウムイオン二次電池とその製造方法を見出して本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池及び製造方法により、電池内容積あたり電池容量が2倍以上、大型電池に出来るように電池構成要素の薄膜化と同時に広幅化を工業的生産規模で可能にすることにより巻回・積層法で電池容量を7倍まで高めて、電池容量を高く保持できるようになる。電気動車(EV)の電源に用いると走行距離を大幅に伸ばすことができる。従来の正極集電体のアルミニウム箔を4.4V付近まで電解液との耐蝕性が十分あるモリブデン含有するステンレススチール316L箔、あるいは鉄系のNSSCFW2箔に正極集電体に置換し、電池安全性を高めることができる。一方、負極活物質に一酸化珪素と繊維状の黒鉛類と多量の導電助剤を使用すると共に、リチウム金属箔を負極活物質に貼り付けて電池不可逆的容量分を充放電中、不活性な珪酸リチウムにする。正極の活物質を電池容量に有効に利用できる。電池重量、容積の負担とならないように正極活物質のリチウム源を使用しない超高電池容量の工業的製造を可能にする。またレトルトパック型電池外装にして、両極の集電体に細孔の貫通孔を施しておき、電極内のリチウムイオン移動を均一にすることにより充放電サイクル寿命を延す。電池の厚み方向の寸法変化を充放電中に機械的圧下操作を加えて制御しておくことにより電池容量劣化を抑制する。電池容量の保持率を高く保つことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明リチウムイオン二次電池及びその製造方法について詳細に説明する。はじめに使用する主要物質について述べる。
【0010】
[1]酸化珪素
ナノレベルの二酸化珪素、珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合物を真空凝集装置で一酸化珪素を析出して製造される。粉砕機により所望の粒子径にしたものを使用する。ナノレベルの珪素粒子の表面が二酸化珪素で被覆されているアモルファス粒子が好ましい。粒子径は、二次凝集粒子として1μmから10μmの範囲にあれば特に限定されない。好ましくは、導電性助剤との良好な分散をするうえで0.1μm~2μmの微細アモルファス粒子を使用する。熱処理あるいはカーボンの表面被覆を施しておく。
【0011】
[2]正極用集電体
誤用により万一400℃にまで電池温度が上昇した場合、正極活物質のリチウム遷移金属酸化物の酸素を奪って急激な発熱(挙動は爆発的燃焼)をもたらすアルミニウム箔は、使用はしない。かかる爆発的燃焼の心配のない薄い金属箔に4.4V付近まで電解液との電気化学的腐食がほとんどないモリブデン含有のステンレススチール316、316L箔を集電体材料として使用する。あるいは鉄系のNSSCFW2箔を用いる。例えばステンレススチール316L箔の3μm-10μmの厚さと150mm幅以上の箔に更に0.1mmから0.5mmの細孔をパンチング方法か剣山による突き刺し孔か電蝕か酸による溶解・細孔生成により得られた箔に貫通孔を有しており空隙率1%以上から20%とする。15μmアルミニウム箔と同じ質量かそれ以下である5μm以下の厚さが好ましい。13-20段の多段圧延ロールで作られた150mm幅から600m幅の3-5μm厚みの広幅箔を所望の幅に裁断して使用する。また110mm幅の5μm厚みのステンレススチール316L箔を2から4枚レーザー接合し、所望の幅に裁断して使用する。巻回法で大容量電池を製造する上で200mm幅から370mm幅の長さ12m以上の長尺のロール巻回物が好ましい。
【0012】
[3]負極用集電体
20~4μm厚さの銅箔、好ましくは13~5μmに貫通細孔を有するのが好ましい。空隙率1-20%の範囲にある。空隙率1%未満であると充放電サイクルでの電池容量保持の著しい改良が困難となる。20%を超えると箔の電池組み立て操作に必要な剛直さを失い、作業スピードがさがり、好ましくない。あるいは、5μm膜厚のステンレススチール箔、例えばステンレススチール304あるいは316Lに貫通細孔を有する薄膜を使用してもよい。
【0013】
[4]バインダー(結着剤)
フルオロアルキルエチレンとフルオロビニルエーテルの交互共重合体ラテックスをイソシアネート基により乾燥時に架橋することにより電極活物質粒子と金属集電体との密着力、結着力を発現するバインダー(結着剤)とことを見出したので本発明に使用する。正極活物質粒子と金属集電体との結着に6質量%以下好ましくは4~2.5質量%である。また負極活物質と金属集電体との結着に6質量%以下、好ましくは5~3質量%で使用する。例えばAGC社製ルミフロンラテックスの1液型FE4300、2液型4400が使用できる。ラテックスであり、有機溶剤を使用しないので水系塗工液として環境にやさしい特徴を有している。ポリマーのエーテル結合部分に電解液の解離したリチウムカチオンが局在化して高いリチウムイオン電導性が期待されることとラテックスから電極塗工することにより水が乾燥・除去された空隙が電解液の含浸・保液を容易にする。正極、負極に共通して使用できるバインダーであり乾燥するとイソシアネート基により架橋するために3次元で空隙とナノレベルの導電性の黒鉛繊維の網目構造(ネットワーク構造)を固定して充放電を繰り返している間の膨張・収縮による正極と負極の塗布膜の寸法変化に対応して電子電導性ネットワークとしての電導回路の断絶を極力なくすること、電池容量の充放電サイクル中に起こる突然の低下はなくすることも期待して使用する。乾燥時に架橋するポリマーラテックスとして使用できる。例えば、フルオロアルキルポリマーに2から4官能基のアクリル基を有するアクリレート、2から4官能基のメタル基を有するアクリレート、ポリフッ化ビニリデンポリマーラテックス、ポリイソシアネート基で編成したラテックス類、4フッ化エチレンラテックス、エチレン・4フッ化エチレン(ETFE)コポリマーラテックス、エチレン・クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)コポリマーラテックス、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン(FEP)コポリマーラテックス、ペルフルオロアルコキシフッ素ポリマーラテックス等にイソシアネート基で変性編成したラテックスである。カルボキシ変性SBRラテックスとCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩)、カルボキシ変性ポリブタジエンラテックスとCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の水溶性バインダー併用系も使用しても構わない。有機溶剤に溶解して溶液に出来るフルオロアルキルエチレンとフルオロビニルエーテルの交互共重合体のルミフロンLF200F、LF916Fのフレークも使用できる。ポリイミドになる前駆体を含有するNMP等の非水系有機溶剤溶液も使用できる。
【0014】
[5]負極活物質
本発明では、一酸化珪素単品を使用する場合の蒸着(スパッタリング)装置をリチウムイオン二次電池負極の製造に新規な設備投資をすることなく、適度に高い電池容量を発現する負極活物質として一酸化珪素を既設の塗布・乾燥設備を用いて従来の塗工法で負極を製造できるようにする。充放電サイクル寿命(電池容量の保持率)を改善することができるように負極活物質と電子電導性を高く保持するための多量の導電助剤とを混合して塗工膜にする。少ないバインダー量で集電体箔と結着でき、塗布膜の密度を高めることのできるフルオロエチレン・ビニルアルキルエーテルとの交互共重合体をバインダーとすることも重要である。ナノレベルの繊維径のカーボン、例えば、昭和電工社製のCVD法で作られた多層グラフェン構造のナノチューブ、VGCF-Hとカーボンブラック、例えばアセチレンブラックを多量に添加して電子電導性を高く確保するのに有用である。
【0015】
[6]正極活物質
本発明には、コバルト酸リチウム、マンガン、ニッケル、コバルトの3元系のリチウム遷移金属酸化物等が使用される。リン酸第一鉄等のオリビン型も使用できるが、高電池容量にするには、コバルト酸リチウムはじめ遷移金属リチウム酸化物を使用することが好ましい。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる材料であれば特に限定されないが、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiCoO2、LiNiMgMO2、LiNiCoAlMgMO2Li(MnM)2O4、Li2(NiMnCo)O3等のリチウム金属酸化物、又はLiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3Fe2(PO4)3、及びLi3V2(PO4)3等のリン酸金属リチウムがある。正極活物質の形態は、好ましくは粉体である。正極活物質の平均粒径としては、例えば1μm~20μm、好ましくは1μm~10μm、より好ましくは1μm~6μmの範囲である。
【0016】
[7]電解液
本発明には、リチウムイオン二次電池に使用されている電解液を使用することができる。電池容量保持率の観点から2.0M~0.8MのLIBF4、好ましくは1.5M~1.0MのLiBF4とγ―ブチロラクトン(BL)を非水有機溶媒中50容積%とポリエチレンカーボーネート(EC)を10容積%以上含有する組成が好ましい(例えば富山薬品工業社製)あるいは、1.5M~0MのLiPF6、好ましくは1.5M~1.0MのLiPF6と非水有機溶媒中10容積%~20容積%のエチレンカーボネート(PC)と10容積%~20容積%のプロピレンエチレンカーボネート(PC)とメチルエチルカーボネート(MEC)またはエチルメチルカーボネート(EMC)80~20容積%を含有する組成が好ましい(例えば富山薬品工業社製)。有機固体電解質化できるイオン液体とゲル化を促進できるポリマーを電解液成分のγ―ブチロラクトン(BL)あるいはプロピレンカーボネート(PC)の溶液にして当該電解液に添加しておくか、追加添加する。電気自動車のEV電池振動テストあるいは液漏れ対策となり好ましい。また無機固体電解質電池のような集電体あるいは活物質粒子との接触不良は、液体の電解液を充満しておいた後に固化するのでかかる懸念はない。
【0017】
[8]金属リチウム箔
正極のリチウム源を使用しないで本電池の負極の不可逆的副生物のリチウム源とするために金属リチウム金属箔を使用する。負極活物質として酸化珪素にリチウムをプリドープして珪素リチウム合金のLixSi(3.5≦x≦4.25)を得る。例えば、一酸化珪素4モルのうち1モルが不可逆的副生物のLi4SiO4になり3モルが可逆的負極活物質のLi4.25Siとなる。不活性な珪酸リチウム(Li4SiO4)の検出は、酸化珪素を使用した負極活物質製造の証拠となる。ム金属の分子量を6.941g、密度を0.534g/cm3として99.99から99.0%のリチウム金属純度の箔を使用する。使用する金属リチウム箔は、市販箔の約30μmから10μmの50mm幅の巻回品をアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下でポリアセタール製ロールプレスないしポリアセタール製シートに挟んで圧縮成型機で圧下して膜厚と膜幅を調整する。所定の寸法に切断して必要重量であることも確認の上、負極乾燥塗工膜上に貼り合わせる。好ましくは、金属リチウムをガスデポジション法でポリプロピレンフィルム上に蒸着して所望の厚み(質量)と幅にしておいて乾燥負極塗工膜に転写する。
【0018】
[9]導電助剤
負極活物質に使用する一酸化珪素は、電子電導性が悪くリチウム金属とのプリドープにも十分なカーボンネットワークを形成することが望ましい。
粒子間の接触抵抗を小さくし、かつ一酸化珪素粒子の充放電時での体積膨張による電導性ネットワークの切断を極力抑えるためにする目的でナノレベルの繊維状黒鉛とカーボンブラック粒子を多量の15質量部から50質量を酸化珪素100質量部に対して添加しておく。正極活物質の電子電導性をよくするために、微粉砕黒鉛、粉砕炭素繊維、気相法で作られるVGCF、多層グラフェン構造のVGCF-H、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、ケチェンブラック、スーパーS、スーパーP、スーパーC45、スーパーC65、アセチレンブラック等を使用することができる。
好ましくは、ナノレベルの繊維状炭素質、ナノレベルの繊維状黒鉛とアセチレンブラックとの混合使用である。特に好ましいのはナノチューブであり多層グラフェン構造を有するVGCF-Hと高純度のアセチレンブラックとの混合物である。特に一酸化珪素粒子に付着し充電初期の電子電導性付与を補うとともに放電時に急激な体積膨張し、充電時の急激な収縮に対して負極塗布膜内に空隙が発生しても添加量が多ければ、電導性ネットワークの切断が起きにくいと考える。またリチウム金属による一酸化珪素へのリチウムドープには、カーボンブラック(アセチレンブラック)のトンネル効果による電子伝達を活用することが出来る。負極の寸法変化を機械的に抑制手段と合わせて負極活物質粒子間に電子電導性の高いカーボン網目構造を維持でき、集電体からの電子電導性も確保できると推定している。
【0019】
[10]セパレータ
電解液を含浸し、電子絶縁性を有しており且つリチウムイオン電導性もあることが、必須要件である。本発明の高容量化には、薄い膜が好ましい。例えば12μm厚みのセラミック塗布ポリエチレンセパレータも9μmくらいに膜厚を低減することは、商品改良技術として可能と思われる。しかしながら基材がポリエチレンセパレータであり、バインダーのポリイミドとセラミックからなる塗布膜が、ポリエチレンの耐熱性改善の目的に使用されているが、塗布した膜を薄くしようとすると耐熱性の低下を招くことになり、膜厚を下げるのも限界がある。塗膜により電解液を含浸してセパレータのインピーダンスを測定すると無塗装のセパレータより劣る。好ましくは、膜厚を薄くしても耐熱性のある基材であるポリメチルペンテン30質量%以上60質量%を含有する耐熱性ポリオレフィンセパレータを使用する。セラミックス塗布を不用として厚み12μm以下現在の製造可能下限の厚みの3μmの膜厚範囲の間で、適宜使用できる。好ましくは4-5μmの膜厚である。
本発明の高電池容量と繰り返して使用するための充放電サイクルにおいて適度に良好な容量保持率を有するリチウムイオン二次電池は、下記の工程を含む製造方法により好適に製造される。以下各工程を順次詳しく説明する。
(工程1)酸化珪素単独と導電性のカーボンネットワークを形成する電導助剤との混合物をバインダーラテックスと適当量の脱イオン水を加えて均一に攪拌・混合し、負極塗工スラリーを調整する。あるいはバインダーフレークを非水有機溶媒に溶解して一酸化珪素又はプリドープして得られた珪素-リチウム合金(LixSi(3.5≦x≦4.25)と導電性のカーボンネットワークを形成する電導助剤との混合物とをスラリーにしておく。貫通した細孔を有する銅箔上に塗布して130℃を超えない温度でバインダーラテックスを使用の場合は、大気中で残留水分を除去・乾燥する。これを所望の寸法に切り出して、乾燥アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下でロールプレスあるいはローラーを使用して所望の厚みの金属リチウム箔を貼りつけて空隙率が制御された負極塗布膜の負極を製造する工程、あるいは非水系有機溶媒を使用した上記スラリーバインダーの場合は、貫通した細孔を有する銅箔上に塗布して130℃を超えない温度で不活性ガス雰囲気下で非水系有機溶剤を除去し、ロールプレスあるいはローラーを使用して所望の厚みの金属リチウム箔を貼りつけて空隙率が制御された負極塗布膜の負極を製造する工程、あるいは非水系有機溶媒を除去したのちロールプレスあるいはローラーを使用して所望の厚みの金属リチウム箔を貼りつけて空隙率が制御された負極塗布膜の負極を製造する工程、あるいは非水系有機溶媒を除去して珪素-リチウム合金(LixSi(3.5≦x≦4.25)からなる負極とする工程。
(工程2)リチウム遷移金属複合酸化物粒子粉末を導電助剤粉末と粉末同士で攪拌・混合した後にバインダーラテックス均一に攪拌・混合し、正極塗工液を調整する。例えば5μm厚みの貫通した細孔を有するステンレススチール316L箔上に塗布して130℃を超えない温度で残留水分を除去・乾燥する。これを所望の寸法に切り出して、ロールプレスして表面が滑らかになっている空隙率を制御した正極塗布膜の正極を製造する工程;
(工程3)工程1と工程2で得られた電極間に4-メチルペンテン-1を30質量%以上60質量%範囲の無塗装(無垢)の耐熱性ポリオレフィンセパレータを9μmから3μmの厚みから適宜選択し、当該セパレータを挟み、扁平ないし長円形の巻き芯を用いて巻回し、電池を組み立てる工程;
(工程4)工程3で得られた電池をアルミ二ウム箔あるいはステンレススチー316L箔等のの剛性のある金属箔薄膜とナイロン、ポリエステルフィルムの最外装と最内装がポリプロピレンからなる多層ラミネートのレトルトパック型の外装袋に挿入する工程。
(工程5)レトルトパックの電解液注入孔以外を熱シールして封口する工程。
(工程6)レトルトパックの電解液注入孔から非水系有機溶媒単独、希薄電解液を注入し、注入孔を仮封口しておく工程。
(工程7)工程6でリチウムの酸化珪素へのプリドープに使用した液を吸引除去し、所定の電解液を注入し、第1回目の充電(前処理充電)において0.05C~0.1Cの充電レートで正極活物質の構造崩壊をしない充電電位と負極下限電位0.05Vに配慮して決めた充電・放電電位間で前処理充放電する工程。
(工程8)工程7を終えたレトルトパックから前処理充電で発生したガスを排気した後にレトルトパック外部の4つ角を金属板で固定して厚み方向に圧下する。(寸法変化をさせない)機械的手段により圧下を施してから充放電操作を繰り返す工程。例えば、金属板の4角に蝶ねじをつけておきねじを締めて圧下する。あるいは、篏合性の高く厚み方向の変化を押さえることのできる容器に入れてモジュールにしてもよい。あるいは金属板にゲージ圧検知できるようにしておいて厚み方向の変化を圧下操作で調整・制御を機械的に行う工程。なお工程7でガス発生がほとんどみられずにレトルトパック袋に膨れが見られない場合は、直ちに電解液注入孔を完全に封口してもよい。
(工程9)充放電サイクルをCCCVモードで充電し放電するにあたり放電電圧を2.7V以下にはしない放電工程。
本発明では、通常行われる操作に対して工程1と工程7に変更するとともにバインダーラッテックスにエーテル基を有するフッ素系ポリマーを使用し、しかもイソシアネートで乾燥時に塗布物を架橋させて3次元的に固定することもできる。また当該電池の負極活物質の電位を0.047V(対Li/Li+)以下にしない等の複合的に総合的に組み合わせた工程を構成することにある。
【0020】
本発明の機械的手段とは、電池の厚み方向に圧下する手段であればよい。例えば、レトルトパック電池を金属板で固定して4角に蝶ねじをつけて締めておき厚み方向に圧下する。あるいは、篏合性の高い厚み方向に押さえつけておける容器に入れる。あるいは金属板にゲージ圧検知できるようにしておいて厚み方向の変化をプレス等の圧下操作で調整・制御を機械的に行う。前処理の充放電操作で、一酸化珪素は、充放電可能なLi4.25Si等と不可逆的に生成したLi4SiO4に変化していると推定しており、前処理第2回目の放電での電池厚みからそれ以降、充放電時の寸法変動は、小さく維持できると期待される。
【0021】
本発明でのリチウムイオン二次電池の充放電方法には、従来採用されているリチウムイオン二次電池の方法を使用して良い。特に本発明には電池構成を多層積層構造としレトルトパック型の電池として充放電するのが好ましい。正極活物質が塗布された正極と負極活物質を塗布した負極と対峙させて、その間にセパレータを挟み電解液を含浸する。正極寸法よりやや大きい負極寸法、電子絶縁性を確保するためにさらに大きい寸法のセパレータとする。正極に正確に重なるようにセパレータと負極を重ねて両最外側の正極には、セパレータを介して片面塗布の負極があるように積層しておく。本発明では、負極活物質に一酸化珪素を高電池容量にするために、前処理に充放電を少なくとも一度、好ましくは二度の充放電を実施する。工場内で操作できる工程と考える。ここでは、電池容量の基準は、第3回目の充電を初回の充電容量とし第3回目の放電容量を初回の電池容量とする。正極活物質のリチウム源を使用せずに充放電時不活性な不可逆的副生成物のLi4SiO4と珪素-リチウム合金を生成させる金属リチウム箔を貼り付けておく。パシベーション膜形成とLi4SiO4とリチウム珪素合金の形成が安定するまでの第1回目と第2回目との充放電を負極挙動安定化の前処理操作として採用する。また機械的操作を充放電時に電池の体積変化を極力強制的に抑制する工夫として施す。充放電時の電池体積変化に対処できるように機械的操作、例えばレトルトパック電池外装を金属板で挟んで蝶ネジ等で締め付ける。厚み方向の寸法変化を極力抑制することにより、金属リチウム箔は、珪素粒子へドープするとともに
Li4SiO4に変化して消失し、当該薄膜分は酸化珪素の体積膨張を吸収するのに寄与すると考える。好ましくは、前処理としての第2回目の充電を終えた時点で、仮封口していた電解液注入孔を開けてやや減圧にして電池内に発生したガスを吸引除去した後に熱シールして封口してから締め付ける。レトルトパック袋に使用するラミネート多層シートは、金属箔、例えば50μm厚さのアルミニウム箔、10μm厚さのステンレススチール316L箔とラミネート最外装にはナイロンフィルム、最内装にはポリプロピレンフィルムを含む。充電中に酸化珪素は、LixSi(0<x≦4.4)に変化するが、例えば、Li4.25Siに負極中で変化した後は、Li3.25-4.4Siのポテンシャル(V)は、0.047V対Li/Li+とのことであり、0.047Vより低い電位にしないことが好ましい。それ以下の電位にするとリチウム金属がデンドライト状に、析出しセパレータを突き破るなどの電池短絡事故を招くことになる。第1回と第2回目の充放電は、電池工場内で実施すると想定して前処理として扱う。0.2Cの電流値でCCCV(定電流-定電圧充放電)モードで例えば正極がコバルト酸リチウムを活物質とする場合は、充放電サイクルを4.15V~2.75Vないし4.15V~2.80Vの充放電電圧範囲で行う。収れん電流を0.01mAないし0.001mAとし、レスト時間(充電と放電の切り替え時に充放電回路に電流が流れない時間)を10分ないし15分間とする。充放電サイクル300回目での電池容量保持率が70%以上、80%以上であることが好ましい。
【実施例0022】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
3.4%カーボン被覆の一酸化珪素粒子(大阪チタニウムテクノロジーズ社製)328.2gと、ナノレベルの繊維状の黒鉛ナノチューブVGCF-H(昭和電工社製)32.7.1gデンカブラック400Li(デンカ社)65.4gを密閉した高速ミキサーで混合する。この混合物のバインダーにAGC社製ルミフロンFE4300を539.3g(固形分20%)に混合物を加えて脱イオン水で粘度を調節の上、6.0μmの厚さの銅箔(細孔を開けて空隙率3%にしたもの)上に塗布して乾燥し、プレスして厚さ102.4μmの前駆体両面塗布膜を得る。アルゴン雰囲気下、厚さ26.7μmの金属リチウム箔を負極前駆体膜上にロールプレスで片面づつ圧着した。正極は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)粒子粉末を226.25g、導電助剤としてデンカブラック400Li7.50g、微粉砕黒鉛(日本黒鉛社製SP270)1.25gとVGCF-H2.50gを高速ミキサーで混合する。バインダーであるルミフロンラテックスFE4300(固形分50%から20%に希釈しておく)62.50gを加えてスラリー状にする。脱イオン水を加えて所望の塗工膜になるように5.0μmの貫通細孔のあるステンレススチール316箔上に塗布膜幅355mmに塗布乾燥する。ロールプレス後の両面塗工膜厚みは、202.9μmであった。金属リチウム箔付きの負極塗布部分は、正確に位置決めをして負極塗布部分の4端面より大きいKEE社製のPMPを46.5質量%含む無塗装耐熱性ポリオレフィンセパレータの厚さ5.0μmの2枚を使用してセパレータを介して正極塗布部分と対峙させる。巻回機で作製した巻回物を厚さ10μmのステンレススチール316Lを含む総厚さ30μmのラミネートから製作されたレトルトパック袋に挿入する。注射器による注入口を残し仮封口しておく。非水系有機溶媒としてガンマーブチロラクトン(BL)を注入し、100Ωの抵抗を間に銅箔端子とステンレススチールSUS316L端子を接続し、電流が0.01mAまで低下するのを確認し、第1回目の前処理とする。別途同一電極同士の前処理実験結果でのSi元素、Li元素、C元素分析結果より、Li4.25Si:Li4SiO4とのモル比率は3:1であった。注射器で液を吸引できるだけを除き、エチルカーボネート(EC)、10質量%、プロピレンカーボネート(PC)、10質量%、メチルエチルカーボネート(MEC)、30質量%、ガンマブチロラクトン(BL)50質量%の1.5MLiBF4となるように高濃度LiBF4電解液を注入する。銅箔端子を負極にSUS316L箔端子を正極に充放電機に接続し、第2回目の前処理として第1回目と第2回目の充放電は、電池工場内で実施することを想定して0.1Cの電流値で4.15V-2.80VのCCCV(定電流-定電圧充放電)モードで収れん電流を0.01mAとする。第3回目の充電・放電を初回充放電と定義し、それ以降は、0.2Cの電流値で4.15V-2.80VのCCCVモードで収れん電流を0.01mAとし、レスト時間(充電と放電の切り替え時に充放電回路に電流が流れない時間)を10分間とする。初回充電前にレトルトパック内電解液注入口を開けてやや減圧にしてレトルトパック内から発生したガスを吸引除去し、電解液注入口を熱シールして完全封口する。また金属板にレトルトパック電池を挟み、金属板の4角に蝶ねじをつけて締める。この機械的操作の導入により充放電中に発生する負極電極内の空隙変化を抑制し、良好な電子伝導性を保持するべく固定・拘束する。本発明における電池容量の基準は、初回放電量とみなす。初回電池放電容量は、386.7Ahであった。レトルトパック外装を含むレトルトパック体積は、1.52リットル(L)であった。平均電圧3.55Vとして3.55x386.7Ah/1.52L=903Wh/L。充放電300サイクル目の電池容量保持率は、92%であった。