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特開2023-48991カーボネート含有エポキシ樹脂、その調製方法、その調製されたエポキシ硬化物及びエポキシ硬化物の分解方法
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  • 特開-カーボネート含有エポキシ樹脂、その調製方法、その調製されたエポキシ硬化物及びエポキシ硬化物の分解方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048991
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】カーボネート含有エポキシ樹脂、その調製方法、その調製されたエポキシ硬化物及びエポキシ硬化物の分解方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/32 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
C08G59/32 ZAB
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132934
(22)【出願日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】110136094
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】522336890
【氏名又は名称】上緯創新育成股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SWANCOR INNOVATION & INCUBATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】3F.,No.11,Gongye S.6th Rd.,Nantou City,Nantou County 540028,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】林慶▲げん▼
(72)【発明者】
【氏名】葉任▲ゆ▼
(72)【発明者】
【氏名】陳怡君
(72)【発明者】
【氏名】汪孟緯
(72)【発明者】
【氏名】陳文章
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036AK19
4J036CA15
4J036CD11
4J036DB22
4J036DC10
4J036DC31
4J036FA10
4J036FB08
4J036FB11
4J036HA12
(57)【要約】
【課題】カーボネート含有エポキシ樹脂、その調製方法、その調製されたエポキシ硬化物及びエポキシ硬化物の分解方法を提供する。
【解決手段】式(I)又は式(II)に示す構造を有するカーボネート含有エポキシ樹脂を提供し、式(I)及び式(II)中の各記号は明細書において定義された通りである。これにより、カーボネート基とエポキシ基とを反応させることで、カーボネート含有エポキシ樹脂を調製し、且つ、それと硬化剤で調製されたエポキシ硬化物は良好な熱特性と機械的特性を有するとともに、分解性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)又は式(II)に示す構造を有し、
【化1】
、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、a及びbは、それぞれ独立して0~4の整数であり、e及びfは、それぞれ独立して0~5の整数であり、
Xは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、
【化2】
は水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又は炭素数6~12個のアリール基であり、
Yは炭素数1~12個のアルキル基、炭素数1~12個のアルコキシ基、イソシアヌレート、式(iii)又は式(iv)に示す構造であり、
【化3】
及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基であり、Rは、メチレン基、炭素数5~12個のアルキル基又は炭素数5~12個のシクロアルキル基であり、c及びdは、それぞれ独立して0~4の整数であり、
Zは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す前記構造であり、
nは重合度を示し、1≦n≦500であり、pは1~11の整数であり、qは0~20の整数であり、rは1~15の整数である、ことを特徴とするカーボネート含有エポキシ樹脂。
【請求項2】
式(A1)又は式(A2)に示す構造を有する芳香族カーボネート基含有構造を提供するステップと、
【化4】
式(B)に示す構造を有するエポキシ基含有構造を提供するステップと、
【化5】
前記芳香族カーボネート基含有構造と前記エポキシ基含有構造とを混合した後、触媒の作用下で、式(I)又は式(II)に示す構造を有するカーボネート含有エポキシ樹脂を得る触媒ステップと、
を含み、
【化6】
、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、a及びbは、それぞれ独立して0~4の整数であり、e及びfは、それぞれ独立して0~5の整数であり、
Xは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、
【化7】
は水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又は炭素数6~12個のアリール基であり、
Yは炭素数1~12個のアルキル基、炭素数1~12個のアルコキシ基、イソシアヌレート、式(iii)又は式(iv)に示す構造であり、
【化8】
及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基であり、Rは、メチレン基、炭素数5~12個のアルキル基又は炭素数5~12個のシクロアルキル基であり、c及びdは、それぞれ独立して0~4の整数であり、
Zは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す前記構造であり、
nは重合度を示し、1≦n≦500であり、mは2~12の整数であり、pは1~11の整数であり、qは0~20の整数であり、rは1~15の整数である、ことを特徴とするカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法。
【請求項3】
前記触媒は、4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、ピリジン、2-メチルイミダゾール、3-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールからなる群から選ばれるものであることを特徴とする請求項2に記載のカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法。
【請求項4】
前記触媒の添加量は、前記エポキシ基含有構造の含有量の0.1重量%~5重量%であることを特徴とする請求項3に記載のカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法。
【請求項5】
前記エポキシ基含有構造のエポキシ基と前記芳香族カーボネート基含有構造のカーボネート基との当量比は、1.3~10.0であることを特徴とする請求項2に記載のカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法。
【請求項6】
請求項1に記載のカーボネート含有エポキシ樹脂を硬化反応させることで得られることを特徴とするエポキシ硬化物。
【請求項7】
前記硬化反応は、前記カーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤とを混合して加熱することで完成することを特徴とする請求項6に記載のエポキシ硬化物。
【請求項8】
前記硬化剤は、フェノール樹脂、アミン系化合物、活性エステル化合物、カルボン酸化合物、シアネート化合物、イソシアネート化合物、酸無水物化合物、ベンゾオキサジン、ポリカーボネート又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項7に記載のエポキシ硬化物。
【請求項9】
前記硬化反応の硬化温度は180℃~240℃であることを特徴とする請求項7に記載のエポキシ硬化物。
【請求項10】
請求項6に記載のエポキシ硬化物を提供するステップと、
前記エポキシ硬化物を分解するように、アミノ基含有化合物と前記エポキシ硬化物とを反応させる分解ステップと、
を含むことを特徴とするエポキシ硬化物の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、その調製方法、その調製されたエポキシ硬化物及びエポキシ硬化物の分解方法に関し、特に、カーボネート含有エポキシ樹脂、その調製方法、その調製されたエポキシ硬化物及びエポキシ硬化物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在市販されているエポキシ樹脂は、主にビスフェノールA型二官能及びノボラック型(novolac)多官能であり、合成では、フェノール基をエピクロロヒドリンと反応させてエポキシ基を形成し、多官能型はフェノール樹脂をベースとし、フェノールの調製にホルムアルデヒドを使用する必要があるため、環境保護問題を有する以外、この方法は高分子量の多官能エポキシの調製にも不利である。エポキシ樹脂が有する独特の3員環構造は、多種の開環反応を行うことができ、触媒の作用によってそれ自体が硬化することもできるが、その連鎖成長が比較的困難であるため、最終的な単独重合硬化物は性能が良くないという欠点を有し、そのため、エポキシ樹脂は、硬化後の架橋度を向上させるために、ほとんどエポキシ樹脂硬化剤と組み合わせて共重合反応を行う必要があるが、現在市販されている商品は、硬化後の硬化物が良好な物理的特性を有するが、その架橋構造の生成により製品が回収されにくく、この種の廃棄物の問題は日々昇温してしまう。
【0003】
一般的に、熱硬化性材料は、優れた熱安定性、化学的安定性及び高密度の共有結合架橋ネットワーク構造を有しており、溶解や分解回収して再利用することが容易ではないが、架橋ネットワークに不安定な結合が存在すると、硬化物が分解される可能性がある。近年、一部の研究では、エステル基(ester group)は化学的分解性を有することが指摘され、PET回収に徐々に使用されているので、エポキシ樹脂に類似な概念を導入することができれば、廃棄物の分解性を向上させ、ケミカルリサイクルの目的を達成することが期待されることができる。
【0004】
しかしながら、エステル基の調製は、主に、カルボン酸系化合物とフェノール系又はアルコール系化合物との反応により生成されるため、調製過程において多官能のアルコール基又はフェノール基を残してエポキシ化を行うことが困難であり、このため、誘導エポキシ樹脂の調製プロセスに制限があり、これまでまだ関連製品がない。
【0005】
これを鑑みて、如何にカーボネート基含有エポキシ樹脂を合成し、且つその調製された硬化物が化学的分解性を有するかは、関連業者の努力の目標となっている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一つの目的は、ポリカーボネート又はカーボネート化合物とエポキシ官能基の分子とを触媒作用下で反応させ、構造中にカーボネート基が含まれる二官能又は多官能エポキシ樹脂を得、このエポキシ樹脂をそのまま用いてもよいし、その後の反応に用いてもよいカーボネート含有エポキシ樹脂及びその調製方法を提供することにある。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、カーボネート含有エポキシ樹脂を硬化反応させてエポキシ硬化物を調製し、且つこのエポキシ硬化物を分解することで、製品を回収して再利用し、環境への負担を軽減することができるエポキシ硬化物及びエポキシ硬化物の分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、式(I)又は式(II)に示す構造を有し、
【化1】
、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、a及びbは、それぞれ独立して0~4の整数であり、e及びfは、それぞれ独立して0~5の整数であり、Xは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、
【化2】
は水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又は炭素数6~12個のアリール基であり、Yは炭素数1~12個のアルキル基、炭素数1~12個のアルコキシ基、イソシアヌレート、式(iii)又は式(iv)に示す構造であり、
【化3】
及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基であり、Rは、メチレン基、炭素数5~12個のアルキル基又は炭素数5~12個のシクロアルキル基であり、c及びdは、それぞれ独立して0~4の整数であり、Zは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、nは重合度を示し、1≦n≦500であり、pは1~11の整数であり、qは0~20の整数であり、rは1~15の整数であるカーボネート含有エポキシ樹脂を提供する。
【0009】
本発明の別の実施形態は、式(A1)又は式(A2)に示す構造を有する芳香族カーボネート基含有構造を提供するステップと、式(B)に示す構造を有するエポキシ基含有構造を提供するステップと、芳香族カーボネート基含有構造とエポキシ基含有構造とを混合した後、触媒作用下で、式(I)又は式(II)に示す構造を有するカーボネート含有エポキシ樹脂を得る触媒ステップと、を含むカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法を提供する。
【化4】

【化5】

【化6】
、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、a及びbは、それぞれ独立して0~4の整数であり、e及びfは、それぞれ独立して0~5の整数であり、Xは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、
【化7】
は水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又は炭素数6~12個のアリール基であり、Yは炭素数1~12個のアルキル基、炭素数1~12個のアルコキシ基、イソシアヌレート、式(iii)又は式(iv)に示す構造であり、
【化8】
及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基であり、Rは、メチレン基、炭素数5~12個のアルキル基又は炭素数5~12個のシクロアルキル基であり、c及びdは、それぞれ独立して0~4の整数であり、Zは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、nは重合度を示し、1≦n≦500であり、mは2~12の整数であり、pは1~11の整数であり、qは0~20の整数であり、rは1~15の整数である。
【0010】
前段落に記載のカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法によれば、触媒は、4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、ピリジン、2-メチルイミダゾール、3-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールからなる群から選ばれるものであってもよい。
【0011】
前段落に記載のカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法によれば、触媒の添加量は、エポキシ基含有構造の含有量の0.1重量%~5重量%であってもよい。
【0012】
前段落に記載のカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法によれば、エポキシ基含有構造のエポキシ基と芳香族カーボネート基含有構造のカーボネート基との当量比は、1.3~10.0であってもよい。
【0013】
本発明の更なる実施態様は、前記カーボネート含有エポキシ樹脂を硬化反応させることで得られるエポキシ硬化物を提供する。
【0014】
前段落に記載のエポキシ硬化物によれば、硬化反応は、カーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤とを混合して加熱することで完成する。
【0015】
前段落に記載のエポキシ硬化物によれば、硬化剤は、フェノール樹脂、アミン系化合物、活性エステル化合物、カルボン酸化合物、シアネート化合物、イソシアネート化合物、酸無水物化合物、ベンゾオキサジン、ポリカーボネート又はそれらの混合物であってもよい。
【0016】
前段落に記載のエポキシ硬化物によれば、硬化反応の硬化温度は180℃~240℃であってもよい。
【0017】
本発明の更に別の実施形態は、前記エポキシ硬化物を提供するステップと、エポキシ硬化物を分解するように、アミノ基含有化合物とエポキシ硬化物とを反応させる分解ステップと、を含むことを特徴とするエポキシ硬化物の分解方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
これにより、本発明のカーボネート含有エポキシ樹脂は、カーボネート基含有構造とエポキシ基含有構造とを混合し、触媒の作用によって得られるものであり、且つ硬化剤を添加することにより、優れた性質を有するエポキシ硬化物を形成し、分解してそれを回収して再利用することができ、環境上の利点と一致している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の上記及び他の目的、特徴、利点及び実施例をより明確に理解するために、添付図面の説明は以下の通りである。
図1】本発明の一実施形態によるカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法を示すステップフローチャートである。
図2】本発明の別の実施形態によるエポキシ硬化物の調製方法を示すステップフローチャートである。
図3】本発明の更なる実施形態によるエポキシ硬化物の分解方法を示すステップフローチャートである。
図4】実施例1によるH-NMRスペクトルを示す図である。
図5】実施例2~実施例4によるH-NMRスペクトルを示す図である。
図6】実施例19によるH-NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施形態についてより詳細に説明する。しかし、この実施形態は、様々な発明概念の応用であり得、様々な異なる特定の範囲内に具体的に実行することができる。特定の実施形態は、単に、説明のみを目的とし、開示された範囲に限定されることを意図するものではない。
【0021】
本発明においては、化合物の構造を骨格式(skeleton formula)で表すことがあり、このような表現方法は、炭素原子、水素原子及び炭素水素結合を省略することができる。もし、構造式に明確に描かれた官能基があれば、描かれたものを基準とする。
【0022】
本発明において、「カーボネート含有エポキシ樹脂は、式(I)に示す構造を有する」は、簡潔さや流暢さのために、式(I)に示すカーボネート含有エポキシ樹脂又はカーボネート含有エポキシ樹脂(I)として表現する場合があり、他の化合物又は基の表現方式はこれによって類推する。
【0023】
<カーボネート含有エポキシ樹脂>
【0024】
本発明は、式(I)又は式(II)に示す構造を有し、
【化9】
、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、a及びbは、それぞれ独立して0~4の整数であり、e及びfは、それぞれ独立して0~5の整数であり、Xは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(sulfonyl)、スルフィニル基(thionyl)、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基(fluorene)、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、
【化10】
は水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又は炭素数6~12個のアリール基であり、Yは炭素数1~12個のアルキル基、炭素数1~12個のアルコキシ基、イソシアヌレート(isocyanurate)、式(iii)又は式(iv)に示す構造であり、
【化11】
及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、炭素数6~12個の芳香族基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、アリル基、炭素数1~6個のアルコキシ基であり、Rは、メチレン基、炭素数5~12個のアルキル基又は炭素数5~12個のシクロアルキル基であり、c及びdは、それぞれ独立して0~4の整数であり、Zは単結合、炭素数1~12個のアルキル基、炭素数3~12個のシクロアルキル基、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、スルフィニル基、アシル基、炭素数6~12個のアリール基、フルオレニル基、式(i)又は式(ii)に示す構造であり、nは重合度を示し、1≦n≦500であり、pは1~11の整数であり、qは0~20の整数であり、rは1~15の整数であるカーボネート含有エポキシ樹脂を提供する。
【0025】
これにより、本発明のカーボネート含有エポキシ樹脂は、カーボネート構造を有するため、そのまま用いてもよいし、その後の反応に用いてもよく、且つカーボネート構造を導入することによりその分解性を向上させ、ケミカルリサイクルの目的を達成する。
【0026】
<カーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法>
【0027】
本発明の一実施形態によるカーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法100を示すステップフローチャートである図1を参照する。図1において、カーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法100は、ステップ110、ステップ120及びステップ130を含む。
【0028】
ステップ110は、式(A1)又は式(A2)に示す構造を有する芳香族カーボネート基含有構造を提供するステップである。
【化12】

、R、R、R、X、a、b、e、f及びnの定義については前文を参照し、ここで繰り返して説明しない。詳細には、芳香族カーボネート基含有構造は、カーボネート化合物、新規のカーボネートプラスチック又はポリカーボネート回収材であってもよいが、これらに限定されず、廃ポリカーボネートリサイクル材は、廃光ディスクから回収することができるため、環境への負担を軽減することができる。
【0029】
ステップ120は、式(B)に示す構造を有するエポキシ基含有構造を提供するステップであり、
【化13】
Yの定義については前文を参照し、ここで繰り返して説明しないが、mは2~12の整数である。
【0030】
ステップ130は、芳香族カーボネート基含有構造とエポキシ基含有構造とを混合した後、触媒の作用下で、式(I)又は式(II)に示す構造を有するカーボネート含有エポキシ樹脂を得る触媒ステップであり、
【化14】
、R、R、R、X、Y、a、b、e、f、p及びnの定義については前文を参照し、ここで繰り返して説明しない。また、前記エポキシ基含有構造のエポキシ基と芳香族カーボネート基含有構造のカーボネート基との当量比が、1.3~10.0であってもよく、好ましくは2.0~10.0であってもよい。
【0031】
具体的には、芳香族カーボネート基含有構造が式(A1)に示す構造である場合、その合成されたカーボネート含有エポキシ樹脂は、式(I)に示す構造であり、化学反応式は下記の表1に示される。
【表1】
【0032】
また、芳香族カーボネート基含有構造が式(A2)に示す構造である場合、その合成されたカーボネート含有エポキシ樹脂は、式(II)に示す構造であり、化学反応式は下記の表2に示される。
【表2】
【0033】
前記触媒が、非共有電子対を含んてもよく、4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine、DMAP)、イミダゾール(Imidazole)、ピリジン(Pyridine)、2-メチルイミダゾール(2-Methylimidazole)、3-メチルイミダゾール(3-Methylimidazole)、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2-Ethyl-4-methylimidazole)からなる群から選ばれる。これにより、触媒の非共有電子対は、エポキシ基含有構造中のエポキシ基と作用して、後続の硬化反応を発生させることに寄与することができる。具体的には、前記触媒の添加量が、エポキシ基含有構造の含有量の0.1重量%~5重量%であってもよい。
【0034】
詳細には、本発明のカーボネート含有エポキシ樹脂は、芳香族カーボネート基含有構造中のカーボネート基を利用してエポキシ基含有構造中のエポキシ基と反応するものであり、上記の概念を証明するために、本発明は、まず、合成例1によってモード反応(model reaction)を行い、ジフェニルカーボネート(diphenyl carbonate)とビスフェノールA型エポキシ樹脂(Diglycidyl ether of Bisphenol A、DGEBA)を触媒のピリジン(pyridine)下で反応させる。具体的には、ジフェニルカーボネート(107.1g/eq)1.00g(9.3ミリモル)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(188g/eq)3.51g(18.6ミリモル)を100mLの三口フラスコに取り、100℃に昇温して溶解を確認した後、触媒のピリジン0.0175gを加えて8時間反応させた。その後、合成例1で得られた生成物に基づいてスペクトル分析を行い、水素スペクトルのデータは、H-NMR(CDCl)、δ=1.62(12H,H)、2.73(2H,H)、2.88(2H,Ha’)、3.33(2H,H)、3.92(2H,H)、4.12(2H,H)、4.16(2H,Hc’)、4.25(4H,H,Hl’)、4.35(2H,Hj’)、5.36(2H,H)、6.80(8H,H)、6.88(4H,H)、6.95(2H,H)、7.12(8H,H)、7.27(4H,H)であり、炭素スペクトルのデータは、13C-NMR(CDCl)、δ=31.0(C)、41.6(C)、44.7(C)、50.2(C)、67.0(C)、68.5(C)、68.7(C)、74.6(C)、113.9(C)、114.6(C)、121.2(C)、127.7(C)、129.5(C)、143.7(C)、154.1(C)、156.2(C)、158.1(C)であり、赤外線スペクトルのデータは、FTIR(KBr,cm-1):ν=1750(C=O stretch of carbonyl group)だり、及び高解像度質量スペクトルデータは、High resolution LC-MS(ESI-MS)m/z:[M]calcd.for C555811894.40g/mol、anal.894.4050g/molであり、ここで、理論エポキシ当量は483.11g/eqであり、実際のエポキシ当量は476g/eqである。合成例1の化学反応式は下記の表3に示される通りであり、その結果、カーボネート基はエポキシ基と反応可能であることを発見した。
【表3】
【0035】
<エポキシ硬化物>
【0036】
本発明は、前記カーボネート含有エポキシ樹脂を硬化反応させることで得られるエポキシ硬化物を更に提供し、前記硬化反応について図2を参照して以下に簡単に説明し、図2は、本発明の別の実施形態によるエポキシ硬化物の調製方法200を示すステップフローチャートである。図2において、エポキシ硬化物の調製方法200は、ステップ210及びステップ220を含む。
【0037】
ステップ210は、カーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤とを混合して硬化性組成物を得る混合ステップである。具体的には、ステップ210により、カーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤は、硬化性組成物を含有する前駆体溶液を形成することができる。なお、前駆体溶液に用いられる溶媒は、カーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤との混合を助けることに用いられるので、カーボネート含有エポキシ樹脂、硬化剤を溶解でき、且つ上記の両者と反応しないものであれば、ステップ210における溶媒として用いることができる。カーボネート含有エポキシ樹脂の細部について前文を参照し、ここで繰り返して説明しないが、本発明の硬化剤が、フェノール樹脂、アミン系化合物、活性エステル化合物(active ester)、カルボン酸化合物、シアネート化合物(cyanate ester)、イソシアネート化合物(isocyanate)、酸無水物化合物、ベンゾオキサジ(benzoxazine)、ポリカーボネート又はそれらの混合物であってもよいが、それらに限定されない。
【0038】
ステップ220は、カーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤を架橋させてエポキシ硬化物を形成する硬化ステップである。具体的には、上記硬化性組成物を粉末に直接粉砕して溶融状態に加熱することができ、又は上記前駆体溶液を加熱して、カーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤を架橋することもでき、且つ、最後の加熱の硬化温度は、80℃~240℃であってもよく、好ましくは180℃~240℃であり、加熱時間は、1時間~6時間であってもよい。より具体的には、前記加熱方式としては、多段階の加熱硬化方式を採用することができ、例えば、180℃、200℃、220℃で2時間ずつ加熱する。加熱の硬化温度と加熱時間は、使用されるカーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤の種類に応じて柔軟に調整することができ、本発明はこれに限定されない。
【0039】
<エポキシ硬化物の分解方法>
【0040】
本発明の更に別の実施形態によるエポキシ硬化物の分解方法300を示すステップフローチャートである図3を参照する。図3において、エポキシ硬化物の分解方法300は、ステップ310及びステップ320を含む。
【0041】
ステップ310は、前記エポキシ硬化物を提供するステップである。ステップ320は、エポキシ硬化物を分解するように、アミノ基含有化合物と前記エポキシ硬化物とを反応させる分解ステップである。
【0042】
以下の具体的な実施例を通して本発明を更に例示的に説明し、当業者が過度の解読を必要とせずに本発明を完全に利用し且つ実践することができることに用いられるのに役に立ち、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものと見なすべきではなく、本発明の材料及び方法をどのように実施するかを説明することに用いられる。
【0043】
<実施例/比較例>
【0044】
<カーボネート含有エポキシ樹脂の調製>
【0045】
実施例1では、ジフェニルカーボネート1.0gとビスフェノールA型エポキシ樹脂(長春人造樹脂 商品番号BE188)3.51gを、上記の両者の当量比が1:2の割合で100℃まで昇温して溶解を確認した後、ピリジン0.0175gを加えて8時間反応させ、実施例1のカーボネート含有エポキシ樹脂DPC-EPが得られ、そのエポキシ当量が476g/eq(理論値483g/eq)であった。
【0046】
実施例2では、ポリカーボネート1.50gとビスフェノールA型エポキシ樹脂(長春人造樹脂 商品番号BE188)4.44gを、上記の両者の当量比が1:2の割合で200℃の窒素雰囲気下で溶融状態にした後、100℃に下げ、ピリジン(DGEBA0.3wt%)0.0133gを加え、機械攪拌にて8時間反応させて、暗褐色の粘稠な液体が得られ、これを室温まで冷却した後、実施例2のカーボネート含有エポキシ樹脂WPC-EP2が得られ、そのエポキシ当量が485g/eq(理論値503g/eq)であった。
【0047】
実施例3では、ポリカーボネート1.50gとビスフェノールA型エポキシ樹脂(長春人造樹脂 商品番号BE188)6.66gを、上記の両者の当量比が1:3の割合で200℃の窒素雰囲気下で溶融状態にした後、100℃に下げ、ピリジン(DGEBA0.3wt%)0.0199gを加えた以外、実施例2と同様にして、実施例3のカーボネート含有エポキシ樹脂WPC-EP3が得られ、そのエポキシ当量が333g/eq(理論値345g/eq)であった。
【0048】
実施例4では、ポリカーボネート1.50gとビスフェノールA型エポキシ樹脂(長春人造樹脂 商品番号BE188)8.88gを、上記の両者の当量比が1:4の割合で200℃の窒素雰囲気下で溶融状態にした後、100℃に下げ、ピリジン(DGEBA0.3wt%)0.0266gを加えた以外、実施例2と同様にして、実施例4のカーボネート含有エポキシ樹脂WPC-EP4が得られ、そのエポキシ当量が285g/eq(理論値293g/eq)であった。
【0049】
実施例1~実施例4の構造を確認するように、実施例1~実施例4についてH-NMR分析を行った。実施例1によるH-NMRスペクトルを示す図4、及び実施例2~実施例4によるH-NMRスペクトルを示す図5を参照する。図4及び図5の結果から、実施例1~実施例4の生成物はいずれもカーボネート含有エポキシ樹脂であることが分かった。
【0050】
<エポキシ硬化物の調製>
【0051】
実施例1~実施例4で合成されたカーボネート含有エポキシ樹脂に対して、等当量の硬化剤を添加し、粉末に研磨してから150℃まで加熱して溶融状態にし、均一に撹拌した後、オーブンに入れて昇温して、160℃で1時間、180℃で2時間、及び200℃で2時間硬化する。あるいは、溶媒法により、実施例1~実施例4で合成されたカーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤を固形分20wt%の溶液中で全溶融まで攪拌し、型に流し込んで硬化させることで、実施例5~実施例16のエポキシ硬化物を得ることができる。
【0052】
具体的には、本発明に用いられる硬化剤は、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、フェノール樹脂(PN)、ジシアンジアミド(DICY)、ポリカーボネート(PC)、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(ODPA)及び無水フタル酸(PAH)であってもよい。実施例2を例として、異なる硬化剤を選択する場合、調製されたエポキシ硬化物は下記の表4に示される。
【表4】
【0053】
また、市販されたエポキシ樹脂BE188及びエポキシ樹脂BE501に対して、等当量の硬化剤を加えて実施例5~実施例16と同様の硬化ステップを行い、比較例1~比較例4のエポキシ硬化物を得た。
【0054】
詳細には、ジアミノジフェニルメタンである硬化剤を添加する場合を例として、等当量を添加することは、つまりエポキシの当量数が活性水素の当量数に等しいことであり、ポリカーボネートである硬化剤を添加する場合を例として、等当量を添加することは、つまりエポキシ当量がカーボネート基の当量数に等しいことである。
【0055】
実施例5~実施例16及び比較例1~比較例4に用いられるエポキシ樹脂及び硬化剤は、下記の表5に示す。
【表5】
【0056】
<熱特性評価>
【0057】
実施例5~実施例16、及び比較例1~比較例4に対して、ガラス転移温度(T)、5%熱重量損失温度(Td5%)、及びコーク残留率を含む熱特性評価を行った。評価方法は以下の通りである。
【0058】
(一)ガラス転移温度について、実施例5~実施例16及び比較例1~比較例4で調製されたエポキシ硬化物の貯蔵弾性率(Storage Modulus)及びTan delta曲線と温度との関係、並びにガラス転移温度を、動的機械分析装置(Dynamic Mechanical Analyzer、DMA)によって測定する。また、5℃/minの加熱速度で測定することを条件とする熱機械分析法(Thermo-Mechanical Analysis、TMA)によって、ガラス転移温度を測定する。
【0059】
(二)5%熱重量損失温度及びコークス残留率について、試料の5%熱重量損失温度及び800℃のコークス残留率(Char yield)を、熱重量分析法(Thermo-Gravimetric Analysis、TGA)によって測定する。熱重量分析法の条件は、窒素雰囲気下、20℃/minの加熱速度で、試料の重量変化を熱重量分析計によって測定することである。5%熱重量損失温度とは、硬化物試料の重量損失が5%に達する温度を指し、5%熱重量損失温度が高いほど、試料の熱安定性が良いことを示す。800℃のコークス残留率とは、加熱温度が800℃に達したときの試料の残留重量比率を指し、800℃の残留重量比率が高いほど、試料の熱安定性が良いことを示す。
【0060】
実施例5~実施例16、及び比較例1~比較例4のガラス転移温度、貯蔵弾性率、熱重量損失温度、及びコーク残留率の測定結果を下記の表6に示す。
【表6】
【0061】
表6の結果から明らかなように、硬化剤としてDDMを用いた場合、その調製されたエポキシ硬化物のガラス転移温度が他の硬化剤よりも高いのは、主にDDM硬化剤の官能数が他の硬化剤よりも多く、架橋密度が増加し、その熱特性にも優れているからである。しかしながら、5%熱重量損失温度は主に架橋後の結合に関連し、硬化剤としてPNを用いる場合、エーテル基を分解するのに必要なエネルギーはエステル基とアミン基より大きいので、その調製されたエポキシ硬化物は比較的優れた5%熱重量損失温度を有する。また、硬化剤としてPNとDDMを用いる場合、その主鎖はベンゼン環構造であることが多く、エポキシ樹脂とより接近する分子を有することができるので、コークス残留率も相対的に高い。なお、本発明の実施例5~実施例16のカーボネート含有エポキシ樹脂は、硬化後に比較例1~比較例4の市販されたエポキシ樹脂硬化物と類似する熱特性を示すことができる。
【0062】
<機械的特性評価>
【0063】
実施例5~実施例16及び比較例1~比較例4について、機械的特性評価を行い、引張試験により、引張強度(tensile strength)及び破断伸び率(elongation at break)を測定し、ここで、引張試験は、室温で、長さ5センチ、幅1センチ、厚さ0.04~0.10mmのサイズを有する試験片を測定する。実施例5~実施例16、及び比較例1~比較例4の引張強度及び破断伸び率の測定結果を下記の表7に示す。
【表7】
【0064】
表7の結果から明らかなように、硬化剤としてPCを用いた場合、その主鎖が長く、かつPCのエステル基が一定の立体障害を有し、硬化物に高い分子運動を与えることができ、引張性能に比較的優れている。また、本発明の実施例5~実施例16のカーボネート含有エポキシ樹脂は、硬化後に比較例1~比較例4の市販されたエポキシ樹脂硬化物と類似する機械的特性を示すことができ、ひいては比較例1~比較例4の結果よりも一般的に優れている。
【0065】
<エポキシ硬化物の分解>
【0066】
実施例17~実施例19は、それぞれ、実施例8~実施例10のエポキシ硬化物の分解反応から得られた結果であり、比較例5~比較例8は、それぞれ、比較例1~比較例4のエポキシ硬化物の分解反応から得られた結果である。まず、実施例8~実施例10及び比較例1~比較例4のエポキシ硬化物フィルムと1-ヘキシルアミンを反応器に入れ、反応終了後、減圧濃縮機を直接使用して1-ヘキシルアミンを抽出し、分解が完了した実施例17~実施例19及び比較例5~比較例8を得た。実施例17~実施例19及び比較例5~比較例8で必要としたエポキシ硬化物の種類、反応温度、反応時間及び残留重量を、いずれも、下記の表8に示す。
【表8】
【0067】
実施例19によるH-NMRスペクトルを示す図6を参照する。詳細には、図6(a)は、実施例10が1-ヘキシルアミンとアミン分解反応した後、1-ヘキシルアミンを蒸留除去した生成物のH-NMRスペクトルであり、図6(b)は、実施例10が1-ヘキシルアミンとアミン分解反応した後、1-ヘキシルアミンを蒸留除去してメタノールを注いで析出した析出物のH-NMRスペクトルである。
【0068】
図6の結果から、1,3-ジヘキシル尿素(1,3-dihexylurea)の特徴的な信号を観察することができ、7.3ppmがurea構造のアミノ信号(NH-CO-NH)であり、メチレン信号が2.9ppm(H)及び1.2~1.4ppm(Hc-h)に位置し、メチル信号が0.8ppm(H)に位置し、且つその中からフェノキシ樹脂(phenoxy resin)の特徴的な信号も観察することができ、5.3ppmがヒドロキシ信号であり、6.8及び7.0ppmがベンゼン環信号であり、メチン及びメチレン信号がそれぞれ4.1ppm(H)及び3.9ppm(H)に位置し、メチル信号が1.5ppm(H)に位置する。図6及び表8の結果より、本発明の実施例10のエポキシ硬化物は、アミノ基含有化合物との反応後に分解性を有することを示すことができ、且つエポキシ硬化物の残留重量が0%であった。
【0069】
また、実施例8及び実施例9では、1-ヘキシルアミンの加熱反応でも部分分解性を有し、重量がそれぞれ85%及び77%残留し、比較例1~比較例4の市販されたエポキシ樹脂から調製されたエポキシ硬化物は、同じ条件で24時間まで増加しても分解が発生せず、残留重量がいずれも100%であり、本発明で合成されたカーボネート含有エポキシ樹脂は独特の分解性を有し、熱硬化型材料の回収と廃棄物の削減に大きく寄与することが証明できる。
【0070】
以上で説明したように、本発明は、簡単なワンステップ反応によってカーボネート基含有二官能又は多官能のエポキシ樹脂を得て、この調製方法は、特に、回収された廃ポリカーボネート又はカーボネート化合物を原料とすることができ、且つその原子効率が高く、ポリカーボネート廃棄物の減量に寄与する。なお、本発明のカーボネート含有エポキシ樹脂と硬化剤とを硬化反応させて、優れた性質を有するエポキシ硬化物を得ることができ、且つ化学的分解性を有し、熱硬化型プラスチック廃棄物の排出を減少し、持続可能な目標を達成する。
【0071】
本発明を実施形態で以上のように開示するが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び修正を行うことができ、従って、本発明の保護範囲は、後で添付する特許請求の範囲によって定義されたものを基準とすべきである。
【符号の説明】
【0072】
100 カーボネート含有エポキシ樹脂の調製方法
200 エポキシ硬化物の調製方法
300 エポキシ硬化物の分解方法
110、120、130、210、220、310、320 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6