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特開2023-49000オーステナイト系ステンレス鋼材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049000
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230331BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230331BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20230331BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D6/00 102A
C21D8/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142674
(22)【出願日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021157573
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 茂太
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直純
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA25
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA02
4K032CB01
4K032CB02
4K032CF03
4K032CG01
4K032CG02
4K032CH04
(57)【要約】
【課題】非磁性の特性を維持しながら、マルテンサイト系ステンレス鋼並みの硬度を有し、かつ高強度を保持するオーステナイト系ステンレス鋼材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.18~0.33%、Si:0.30%以下、Mn:1.8~4.0%、(P:0.030%以下)S:0.30%以下、Cr:21.0~25.0%、Ni:7.0~11.0%、Cu:1.0%以下、Nb:0.20%以下、B:0.005%以下、N:0.20~0.35%であり、残余Feおよび不可避不純物からなり、硬さがロックウェルCスケールで50HRCを超えるオーステナイト系ステンレス鋼材とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.18~0.33%、Si:0.30%以下、Mn:1.8~4.0%、P:0.030%以下、S:0.30%以下、Cr:21.0~25.0%、Ni:7.0~11.0%、Cu:1.0%以下、Nb:0.20%以下、B:0.005%以下、N:0.20~0.35%であり、残余Feおよび不可避不純物からなり、硬さがロックウェルCスケールで50HRCを超えることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項2】
前記C量および前記N量の総和が、重量%で0.38%以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項3】
比透磁率が1.010以下であることを特徴とする請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法であって、前記オーステナイト系ステンレス鋼材の母材を1150~1200℃の温度範囲で溶体化処理を行うことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記オーステナイト系ステンレス鋼材の母材を、さらに冷間加工した後に450~550℃の温度範囲で時効処理を行うことを特徴とする請求項4に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス製の鋼材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SUS304の鋼種に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は、SUS440CやSUS420J2などの鋼種に代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼に比べて耐食性に優れており、また非磁性の特性を生かした用途にも展開されている。
【0003】
しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイト系ステンレス鋼よりも硬度が低いので、その用途は限定的であった。また、マルテンサイト系ステンレス鋼は磁性を有するので、非磁性を要求される電磁部品等の用途には適用されていなかった。
【0004】
そこで、特許文献1ないし3においてオーステナイト系ステンレス鋼に対して所定の加工を行うことで、非磁性の特性を有しながら、マルテンサイト系ステンレス鋼と同等の硬度を有する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-69950号公報
【特許文献2】特公平6-53892号公報
【特許文献3】特許第2618151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらのオーステナイト系ステンレス鋼は硬度を上げるために行う冷間加工によって、一部の組織がマルテンサイト変態を起こす結果、本来の非磁性が失われて、磁性を有するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明において非磁性の特性を維持しながら、高硬度かつ引張強度が高いオーステナイト系ステンレス鋼材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するために、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材は、重量%で、C:0.18~0.33%、Si:0.30%以下、Mn:1.8~4.0%、P:0.030%以下、S:0.30%以下、Cr:21.0~25.0%、Ni:7.0~11.0%、Cu:1.0%以下、Nb:0.20%以下、B:0.005%以下、N:0.20~0.35%であり、残余Feおよび不可避不純物から構成する。
【0009】
また、硬さはロックウェルCスケールで50HRCを超えるものとする。特に、含有するC量およびN量の総和を重量%で0.38%以上以上の範囲に限定できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材は、含有する炭素量と窒素量の適正化を図ることで、非磁性の特性を維持しながら、マルテンサイト系ステンレス鋼並みの硬度を有し、かつ高強度を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材の一実施形態について説明する。まず、オーステナイト系ステンレス鋼に含有される主要な元素(C,Mn,Cr,N)に関する含有量について説明する。
【0012】
まず、C(炭素)は0.18~0.33重量%とすると同時にN(窒素)は0.20~0.35重量%とする。C(炭素)は、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材の硬さを上げる元素であるが、過剰に含有させると加工性が悪化するので、0.18~0.33重量%とする。また、Nはオーステナイト組織を安定化させ、硬さもあげる元素であるが、過剰に含有させると加工性が悪化するので、0.20~0.35重量%とする。
【0013】
Mn(マンガン)は1.8~4.0重量%とし、Cr(クロム)は21.0~25.0重量%とする。マンガンおよびクロムは共にオーステナイト組織安定化元素であると共に、組織中への窒素の溶解度を大きくする働きがある。
【0014】
次に、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法について説明する。本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼材の母材を溶解、鍛造、圧延などの各製作工程を経て製作される。鍛造工程や圧延工程などの熱間加工中に表れる(もしくは鋳塊由来の)不都合な組織や析出物を一度基地組織中に溶かし込むために、鍛造工程後または圧延工程後に本母材の溶体化処理を1150~1200℃の温度範囲で行う。
【0015】
また、溶体化処理後に本母材の硬さを高めるために、オーステナイト系ステンレス鋼材の母材を伸線加工や引抜加工などの冷間加工を行い、その後に450~550℃の温度範囲で時効処理を行う。その結果、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材の硬さを50HRC超とすることができる。なお、本願において「オーステナイト系ステンレス鋼材の母材」とは、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼材が製作されるまでの溶解、鍛造、圧延など各製作工程における名称とする。
【実施例0016】
(実施例1)
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼(発明材)および市販されている2種類のオーステナイト系ステンレス鋼(比較材1、2)を使用して、各オーステナイト系ステンレス鋼が有する比透磁率を測定した。本実施例で使用したオーステナイト系ステンレス鋼の比透磁率は、測定対象となる各オーステナイト系ステンレス鋼に対して印加磁界強度100(A/m)、200(A/m)、5000(A/m)およびと15000(A/m)の4水準にした状態で専用の測定装置により、印加磁界強度ごとに検出された比透磁率を読み取った。本実施例で使用した発明材および比較材1,2の化学成分を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
その結果、本発明材の比透磁率(平均値)は1.003であった。これに対して、比較材1の比透磁率(平均値)は1.003、比較材2の比透磁率(平均値)は、1.004であった。以上の試験結果より、発明材の比透磁率は市販の比較材1および2と同等以上であることが分かった。
【0019】
(実施例2)
次に、実施例1で使用した発明材および市販されている2種類のマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C:比較材3)とオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304:比較材4)を使用して、これらのステンレス鋼の耐食性評価を行った。
【0020】
本試験に使用した試験片は、発明材および比較材3,4を直径8mm、高さ10mmの円柱形の試料として、これらの試料の表面を800番のペーパーにて研削したものを用いた。研削後に発明材および比較材3,4の各試料に対して、直径8mmのD/4(中心から2mm外側:Dは直径を表す)の位置にて試験力20kgfでビッカース硬さを測定した。
【0021】
また、本試験の腐食条件は、10%硫酸水溶液(液温:25℃)に2時間浸漬した場合(腐食条件1)と、47%水酸化ナトリウム水溶液(液温:90℃)に120時間浸漬した場合(腐食条件2)の計2条件として、各条件の所定時間経過後に試料を取り出して、試験前後の重量を計測することで、試料の重量差から腐食速度(単位:g/m/h)を算出して評価した。耐食性試験の結果である発明材および比較材3,4の硬さ(単位:HV)および腐食速度を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
本試験の結果より、発明材の腐食速度は腐食条件1では3.3(g/m/h)、腐食条件2では0.41(g/m/h)であった。これに対して、比較材3の腐食速度は腐食条件1では98.5(g/m/h)、腐食条件2では7.77(g/m/h)であった。比較材4の腐食速度は腐食条件1では3.6(g/m/h)、腐食条件2では0.25(g/m/h)であった。すなわち、発明材はマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C)と同等の硬さを有しながら、市販のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)と同等の耐食性を有することがわかった。