(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004901
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/133 20060101AFI20230110BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20230110BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20230110BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B23K9/133 502B
B23K9/12 331A
B23K9/00 501B
B23K37/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089570
(22)【出願日】2022-06-01
(62)【分割の表示】P 2021105167の分割
【原出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】三木 聡史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 憲一
(72)【発明者】
【氏名】片山 翼
(72)【発明者】
【氏名】木村 文映
(72)【発明者】
【氏名】脇田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩良
(72)【発明者】
【氏名】田中 良一
(72)【発明者】
【氏名】松本 知史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慎司
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081YB03
4E081YY02
4E081YY03
4E081YY07
(57)【要約】
【課題】複雑な構造を有さずに、溶接トーチの溶接作業における狙い位置がずれることを防ぐことができる溶接システムを提供する。
【解決手段】鋼管200に沿って配置されたガイドレール21と、鋼管200の長手方向と直交する方向に沿ってガイドレール21の上を移動しつつ、鋼管200を溶接する溶接ロボット10と、溶接ロボット10の溶接トーチ14に一端が接続され、且つ、溶接ロボット10とは異なる装置に他端が接続される溶接ケーブル14cと、溶接ケーブル14cの一端と溶接ケーブル14cの他端との間の一部分である固定部分を、溶接ロボット10の本体部11に固定する固定部材15と、鋼管200の長手方向に沿って配置され、溶接ケーブル14cの固定部分と溶接ケーブル14cの他端との間の一部分が配置されるケーブル支持部材40と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管に沿って配置されたガイドレールと、
前記鋼管の長手方向と直交する方向に沿って前記ガイドレールの上を移動しつつ、前記鋼管を溶接する溶接ロボットと、
前記溶接ロボットの溶接トーチに一端が接続され、且つ、前記溶接ロボットとは異なる装置に他端が接続される溶接ケーブルと、
前記溶接ケーブルの前記一端と前記溶接ケーブルの前記他端との間の一部分である固定部分を、前記溶接ロボットの本体部に固定し、前記固定部分の前記溶接ケーブルの長さ方向における移動を防ぐ固定部材と、
前記鋼管の長手方向に沿って配置され、前記溶接ケーブルの前記固定部分と前記溶接ケーブルの前記他端との間の一部分が配置されるケーブル支持部材と、
を備える、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項2】
前記溶接ロボットによる溶接作業は、前記鋼管を挟んで前記ケーブル支持部材の反対側から開始される、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接システム。
【請求項3】
前記ケーブル支持部材は、制御ケーブルの一部分を支持する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場において、柱となる鋼管を軸方向に接続して溶接することがある。その際、鋼管の周方向に取付けたガイドレールに沿って溶接ロボットを移動させながら溶接する構造が開示されている(例えば、特許文献1)。
また、その際、溶接ロボットの備える溶接トーチに接続された溶接ケーブルを支持アームによって支持し、前記支持アームをシリンダによって回転させ、溶接トーチに追従させる構造が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-91394号公報
【特許文献2】特開2006-159230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す構造においては溶接ロボットの移動に溶接ケーブルが追従する際、溶接ケーブルが溶接ロボットに引っ張られる。このことによって、溶接ケーブルに接続された溶接トーチの先端がずれることがある。その結果、溶接トーチの狙い位置がずれる等、溶接品質が悪化するおそれがある。
また、特許文献2に示す構造は上述の課題を解決すべく、溶接ケーブルに張力を負荷することなく溶接ロボットに追従させる構造であるが、装置が大型となることから建設現場での運用が現実的でないとの課題があった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、複雑な構造を有さずに、溶接トーチの溶接作業における狙い位置がずれることを防ぐことができる溶接システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る溶接システムは、鋼管に沿って配置されたガイドレールと、前記鋼管の長手方向と直交する方向に沿って前記ガイドレールの上を移動しつつ、前記鋼管を溶接する溶接ロボットと、前記溶接ロボットの溶接トーチに一端が接続され、且つ、前記溶接ロボットとは異なる装置に他端が接続される溶接ケーブルと、前記溶接ケーブルの前記一端と前記溶接ケーブルの前記他端との間の一部分である固定部分を、前記溶接ロボットの本体部に固定する固定部材と、前記鋼管の長手方向に沿って配置され、前記溶接ケーブルの前記固定部分と前記溶接ケーブルの前記他端との間の一部分が配置されるケーブル支持部材と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、溶接ケーブルの固定部分を溶接ロボットの本体部に固定する固定部材を備える。つまり、固定部材により溶接ケーブルが溶接ロボットに固定されている。このため、溶接ロボットの移動に伴い溶接ケーブルが引っ張られたときの張力によって、溶接ケーブルにおける一端と固定部材との間の部位が相対移動することを防ぐことができる。つまり、溶接ロボットの移動によって溶接ケーブルの一端に接続された溶接トーチの位置及び向きがずれることを防ぐことができる。よって、複雑な構造を有さずに、溶接トーチの溶接作業における狙い位置がずれることを防ぐことができる。
【0008】
また、上述の溶接作業の際、溶接ケーブルの内部において溶接ワイヤが移動する。このとき、溶接ケーブルの曲率が大きいと、溶接ケーブルの内部で溶接ワイヤの反りが大きくなることがある。これにより、溶接ワイヤが溶接作業における狙い位置に届かないことがある。
これに対し、溶接システムは、溶接ケーブルの固定部分と溶接ケーブルの他端との間の部分が掛けられるケーブル支持部材を備える。これにより、溶接ロボットが移動したとき、溶接ケーブルに無理な力が負荷されることを防ぐことができる。このため、溶接ケーブルの曲率が大きくなることを防ぐことができる。よって、溶接ワイヤの反りが大きくなることで、溶接作業における狙い位置がずれることを防ぐことができる。
【0009】
また、前記ケーブル支持部材に一端が接続され、他端が前記溶接ロボットに接続される弾性部材を更に備え、前記ケーブル支持部材は、前記鋼管の前記長手方向を軸として回転可能であることを特徴としてもよい。
【0010】
この発明によれば、ケーブル支持部材に一端が接続され、他端が溶接ロボットに接続される弾性部材を更に備える。また、ケーブル支持部材は、鋼管の長手方向を軸として回転可能である。これにより、溶接ロボットがガイドレールに沿って移動したとき、弾性部材がケーブル支持部材を引っ張ることによりケーブル支持部材が回転移動する。よって、より溶接ロボットの移動に伴って溶接ケーブルに生じる張力が軽減される。つまり、より溶接トーチの溶接作業における狙い位置をずれにくくするとともに、溶接ケーブルの曲率が大きくなることを防ぎ、ワイヤの反りが大きくなることをより確実に防ぐことができる。
【0011】
また、前記溶接ロボットによる溶接作業は、前記鋼管を挟んで前記ケーブル支持部材の反対側から開始されることを特徴としてもよい。
【0012】
この発明によれば、溶接ロボットによる溶接作業は、鋼管を挟んでケーブル支持部材の反対側から開始される。ここで、ケーブル支持部材の側から溶接作業を開始すると、溶接作業に伴い溶接ロボットが鋼管の周囲を一周するために必要な溶接ケーブルの長さは、鋼管を一周する分となる。
これに対し、ケーブル支持部材の反対側から溶接作業を開始することで、鋼管を一周する際に必要とされる溶接ケーブルの長さを、鋼管におけるケーブル支持部材の側からケーブル支持部材の反対側までの長さとすることができる。
このため、溶接作業に要する溶接ケーブルの長さを必要最小限とすることができる。更に、溶接ケーブル自体の重さを必要最小限とすることができることから、溶接ケーブルが自重によって変形し、内部を移動する溶接ワイヤが変形するといったことを防ぐことができる。また、溶接ケーブルが大きく弛むことを防ぐことで、溶接ケーブルが絡まったり、周囲の機材や作業者等に干渉及び接触したりすることを防ぐことができる。
【0013】
また、前記鋼管又は前記ガイドレールに固定される延伸部材であって、前記鋼管の温度を計測するための延伸部材である温度計測用延伸部材と、前記温度計測用延伸部材に接続される温度計測ケーブルと、を更に備え、前記温度計測ケーブルは、前記ガイドレール及び前記ケーブル支持部材の上端に沿って取付けられることを特徴としてもよい。
【0014】
この発明によれば、温度計測用延伸部材と温度計測ケーブルを更に備え、温度計測ケーブルはガイドレール及び溶接ケーブル支持部材の上端に沿って取付けられる。これにより、溶接ロボットの移動範囲と溶接用ケーブル及び温度計測ケーブルとが干渉することを防ぐことができる。このため、温度計測ケーブルが溶接用ケーブルを引っ張ることで溶接トーチの狙い位置がずれたり、溶接ケーブルの曲率が大きくなることによってワイヤが反ったりすることを防ぐことができる。
【0015】
また、本発明に係るケーブル取付け方法は、鋼管に沿って配置されたガイドレールと、前記ガイドレールの上を移動しつつ前記鋼管を溶接する溶接ロボットと、前記溶接ロボットに接続される溶接ケーブルと、前記溶接ケーブルの一部が配置されるケーブル支持部材と、を備える溶接システムのケーブル取付け方法であって、前記溶接システムは、前記鋼管又は前記ガイドレールに固定される延伸部材であって、前記鋼管の温度を計測するための延伸部材である温度計測用延伸部材と、前記温度計測用延伸部材に接続される温度計測ケーブルと、を更に備え、前記溶接システムにおける溶接ケーブル及び温度計測ケーブルの取付け方法は、前記溶接システムが備えるケーブルの1つについて、前記溶接ケーブル又は前記温度計測ケーブルのいずれであるのかを判別する判別工程と、前記判別工程で前記溶接ケーブルであると判別された前記ケーブルは、前記ケーブル支持部材に配置し、前記判別工程で前記温度計測ケーブルであると判別された前記ケーブルは、前記ガイドレール及び前記ケーブル支持部材の上端に沿って配置する取付け工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、溶接システムが備えるケーブルを判別する判別工程と、判別したケーブルを配置する取付け工程と、を備える。取付け工程では、溶接ケーブルはケーブル支持部材に配置し、温度計測ケーブルはガイドレール及びケーブル支持部材の上端に沿って配置する。このように、溶接ケーブルと温度計測ケーブルとを判別して配置場所を分けることで、溶接作業において溶接ケーブルと温度計測ケーブルとが干渉して絡むことを防ぐことができる。よって、より安全に作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、複雑な構造を有さずに、溶接トーチの溶接作業における狙い位置がずれることを防ぐことができる溶接システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る溶接システムにおいて、溶接ロボットが鋼管に配置されたケーブル支持部材のある側に位置する状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す溶接システムにおいて、溶接ロボットがケーブル支持部材の反対側に位置する状態を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示す状態の溶接システムの全体図である。
【
図4】
図2に示す状態の溶接システムの全体図である。
【
図5】本発明の溶接システムにおける溶接ロボットの拡大図である。
【
図6】本発明に係る溶接システムにおいて、鋼管に配置されたケーブル支持部材の回転可能域を示す図である。
【
図7】本発明に係る溶接システムにおける、ケーブル指示部材の鋼管への取付け方法の第1例を示す図である。
【
図8】本発明に係る溶接システムにおける、ケーブル指示部材の鋼管への取付け方法の第2例を示す図である。
【
図9】本発明に係る溶接システムに温度計測用延伸部材及び温度計測ケーブルを設けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る溶接システム100を説明する。
図1に示す溶接システム100は、溶接システム100は、溶接ロボット10と、移動部20と、建方治具30と、ケーブル支持部材40と、弾性部材50と、を備える。
溶接システム100は、例えば、建設現場において柱として用いられる鋼管200の軸方向の端部同士を溶接する際に用いられる。すなわち、
図1に示すように、鋼管200の軸方向の端部同士が接した部位に位置する開先210(後述する)に溶接ロボット10の溶接トーチ14(後述)の先端を当て、鋼管200の周りに沿って移動することで鋼管200を溶接する。
【0020】
溶接ロボット10は、鋼管200の溶接作業を行う際に、鋼管200の軸方向と直交する方向に沿ってガイドレール21の上を移動しつつ、鋼管200を溶接する。溶接ロボット10は、本体部11と、制御部12と、制御ケーブル12cと、ロボット制御盤12sと、スライド部13と、溶接トーチ14と、アーム部14aと、溶接ケーブル14cと、ワイヤ送給機14sと、固定部材15と、を備える。
【0021】
本体部11は、溶接ロボット10の基台となる部位である。本体部11には不図示のサーボモータが内蔵されている。これにより、ガイドレール21(後述する)を溶接ロボット10が移動する。
制御部12は、ロボット制御盤12s(後述する)の指令に従い、溶接ロボット10の動作を制御する部位である。制御部12には不図示の制御装置が内蔵されている。制御部12には制御ケーブル12cが接続されている。
なお、本体部11及び制御部12を合わせて溶接ロボット本体部と称することもある。 制御ケーブル12cは、制御部12と、ロボット制御盤12sとを接続する。制御ケーブル12cには、公知のケーブルが好適に用いられる。
【0022】
ロボット制御盤12sは、溶接ロボット10の動作を制御する。ロボット制御盤12sは、特に、本体部11におけるサーボモータの回転や、溶接トーチ14への電流負荷の指示等を担う。ロボット制御盤12sは、制御ケーブル12cを介して制御部12に接続されている。
【0023】
スライド部13は、溶接ロボット10における、ガイドレール21に取付けられる部位である。溶接ロボット10は、スライド部13がガイドレール21の上を摺動することで、鋼管200の周方向に移動する。
【0024】
溶接トーチ14は、鋼管200同士を溶接する部位である。溶接トーチ14による溶接は、アーク溶接が好適に用いられる。溶接トーチ14の先端部から鋼管200の開先210へ向けて放電することで、鋼管200同士を溶接する。ここで、開先210とは、鋼管200の端部同士の間にある空間である。
図3及び
図4に示すように、開先210は、一方の鋼管200の端部を傾斜状に削ることで形成される。
溶接ロボット10を設置する際は、溶接トーチ14の先端を溶接される鋼管200の開先210に合わせるようにして設置する。
【0025】
アーム部14aは、本体部11と溶接トーチ14との間に設けられ、溶接トーチ14を支持している。アーム部14aは、溶接トーチ14を把持するのみであってもよいし、例えば、溶接トーチ14の向き及び角度を変更できる機構を有していてもよい。より詳細には、アーム部14aは、駆動源を備え、制御部12からの制御信号に従ってこれら向き及び角度を変更できる機構を有していても良い。
【0026】
溶接ケーブル14cは、溶接ロボット10の溶接トーチ14に一端が接続され、且つ、溶接ロボット10とは異なる装置(例えば、後述するワイヤ送給機14s)に他端が接続される。溶接ケーブル14cは、溶接トーチ14に電圧を付加するための電線と、溶接用のガス及び溶接ワイヤを溶接部に供給する供給線と、を備える。
図3及び
図4に示すように、溶接ケーブル14cの一方の端は溶接トーチ14に接続されている。また、他方の端はワイヤ送給機14sに接続されている。
【0027】
ワイヤ送給機14sは、溶接トーチ14に、アーク溶接に必要な部材及び電圧を供給する。ワイヤ送給機14sは、アーク溶接に用いる電圧を付加する溶接電源と、溶接トーチ14にガスを供給するガスボンベと、溶接トーチ14に溶接ワイヤを供給するワイヤ送給装置と、を備える。ガスボンベは、例えば、ワイヤ供給装置に接続されている。これにより、ガス及び溶接ワイヤは、ともに供給線を介して溶接トーチ14に供給される。
溶接ケーブル14cの他方の端において、供給線はワイヤ送給機14sのワイヤ供給装置に、電線は溶接電源に接続されている。なお、本実施形態において、ワイヤ送給機14sは、公知のものが好適に用いられる。
【0028】
固定部材15は、溶接ケーブル14cの一端と溶接ケーブル14cの他端との間の一部分を、溶接ロボット10の本体部11に固定する。以下において、当該部位を固定部分と呼称することがある。
固定部材15によって固定部分を把持することで、例えば、溶接ロボット10がガイドレール21を移動することに伴って溶接ケーブル14cにおける固定部分よりも他端側が引っ張られても、溶接ケーブル14cの一端から固定部分との間における溶接ケーブル14cは、本体部11に対して相対移動しなくなる。
このように、固定部材15は、溶接ケーブル14cの一端に接続された溶接トーチ14が、溶接ケーブル14cに引っ張られて位置がずれるといったことを防ぐ役割を有する。 なお、
図5に示すように、固定部材15による溶接ケーブル14cの固定は、公知のクランプによる固定が好適に用いられる。これにより、溶接ケーブル14cの着脱及び固定部分の位置調整を容易とする。
【0029】
移動部20は、溶接ロボット10が移動する部位である。本実施形態において、移動部20は、鋼管200の周囲に備えられる。移動部20は、ガイドレール21と、取付部22と、を備える。
ガイドレール21は、溶接ロボット10のスライド部13と接触する部位である。溶接ロボット10のスライド部13がガイドレール21の上を摺動することで、溶接ロボット10はガイドレール21の上を移動する。ガイドレール21は鋼管200の周方向に沿って配置される。つまり、本実施形態において、ガイドレール21は、鋼管200の周方向に環状に設けられている。また、ガイドレール21は、取付部22によって鋼管200に取付けられる。
【0030】
取付部22は、ガイドレール21を鋼管200に固定する部位である。ガイドレール21と取付部22とは、例えば、溶接されていてもよいし、一体に成形されていてもよい。取付部22と鋼管200との固定には、例えば、ボルト固定が好適に用いられる。
建方治具30は、溶接前の鋼管200の端部同士を位置合わせした状態で仮保持する部材である。つまり、建方治具30は、鋼管200の溶接が完了した後は取り外される。建方治具30と鋼管200との固定には、例えば、ボルト締結が好適に用いられる。
【0031】
ケーブル支持部材40は、鋼管200の長手方向に沿って配置される。ケーブル支持部材40は、溶接ケーブル14cの固定部分と溶接ケーブル14cの他端との間の一部分及び制御ケーブル12cの一部分を支持する。ケーブル支持部材40は、ケーブルハンガー41と、ケーブルフックFと、を備える。
【0032】
ケーブルハンガー41は、例えば、断面L字状の部材を三角形状に組み合わせることにより形成される。ケーブルハンガー41を配置する際は、
図1に示すように、前記三角形状の一辺が鋼管200の外表面に近接する一方接触せず、且つ鋼管200の軸方向と平行になるように配置される。このとき、例えば、鋼管200が四角柱状である場合は、
図1に示すように、ケーブルハンガー41を鋼管200の前記四角柱状における一辺の中央に設けることが好ましい。このように配置されることで、ケーブルハンガー41における前記一辺は、回転軸42と平行に接続される。つまり、前記一辺は、ケーブルハンガー41の回転中心となる(後述する)。
【0033】
ケーブルハンガー41には、溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cが下記のように配置される。すなわち、前記三角形状における前記一辺に対向する頂点、つまり、
図1に示すように鋼管200から離れて位置する頂点に設けられたケーブルフックFに掛けられるように配置される。これにより、溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cが作業現場における床上ではなく、少なくとも鋼管200の溶接部である開先210よりも上方に配置される。よって、作業現場において作業員が溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cにつまずいたり、他の設備等に干渉したりすることを防ぐ。
【0034】
図7に示すように、回転軸42は、軸状(棒状)の部材である。回転軸42は、鋼管200の長手方向と平行に延びる。回転軸42は、ケーブルハンガー41を回転可能に支持する。回転軸42によって支持されたケーブルハンガー41は、そのケーブルハンガー41の前記一辺が、回転軸42と平行に配置される。ケーブルハンガー41は、前記一辺を回転中心として回転可能である。
回転軸42は、外筒42oと、中心軸42cと、を備えている。
図7に示すように、外筒42oは、鋼管200に固定されている。中心軸42cは、外筒42oの内部に対して周方向に摺動可能に挿入されている。中心軸42cの上端は、ケーブルハンガー41の前記一辺の下端に接続される。
【0035】
つまり、ケーブルフックFに配置された溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cは、回転軸42によるケーブルハンガー41の可動域を移動可能である。これにより、ガイドレール21に沿って溶接ロボット10が移動したとき、溶接ロボット10に接続された溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cが引っ張られることによってケーブルハンガー41が移動する。
このような動きにより、回転軸42は、ケーブルハンガー41に配置された溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cを溶接ロボット10に対して追従可能とする。
【0036】
回転軸42は、鋼管200及び鋼管200に配置されたガイドレール21に沿って、以下のように固定される。すなわち、例えば、まず、
図7に示すように、ガイドレール21と鋼管200との間に配置された固定台座42bに、外筒42oの下端が配置される。次に、外筒42oの上端の両側面が、鋼管200に磁着されたマグネット42mによって保持される。このように固定された外筒42oに、ケーブルハンガー41が接続された中心軸42cを挿入することで、回転軸42とする。なお、
図8に示すように、上述の構成に加えて、結束ワイヤ42wによって外筒42oの固定を補強してもよい。
【0037】
上述の固定台座42bは、例えば、ブロック状の部材がガイドレール21の環状の内周面又は鋼管200の外周面に固定されることで配置される。前記固定は、例えば、ボルト固定であってもよいし、マグネット42mによって磁着されていてもよい。また、マグネット42m及び結束ワイヤ42wは、公知品が好適に用いられる。
【0038】
弾性部材50は、ケーブル支持部材40に一端が接続され、他端が溶接ロボット10に接続される。具体的には、弾性部材50の一端はケーブル支持部材40におけるケーブルハンガー41の、鋼管200に接した一辺に対向する頂点と、溶接ロボット10の本体部11又は制御部12とを接続する。また、弾性部材50の長さは、溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cにおける、ケーブルハンガー41に配置された部位から溶接ロボット10まで(溶接ケーブル14cについては、特に溶接ロボット10の固定部材15まで)の長さよりも短いことが好ましい。これにより、溶接ロボット10がガイドレール21に沿って移動したとき、弾性部材50がケーブルハンガー41を引っ張ることでケーブルハンガー41が移動する。つまり、溶接ロボット10に接続された溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cに張力が生じることを防ぐ役割を有する。
なお、弾性部材50は、金属製のスプリングであってもよいし、ゴムバンドであってもよい。
【0039】
また、
図9に示すように、溶接システム100において、溶接作業開始前における開先210の付近の鋼管200の外表面温度を測定するための温度計測用延伸部材60及び温度計測ケーブル60cを備えていてもよい。
温度計測用延伸部材60は、鋼管200又はガイドレール21に固定される延伸部材であって、鋼管200の温度を計測するために用いられる。また、温度計測ケーブル60cは、温度計測用延伸部材60に接続される。また、温度計測ケーブル60cの開先210に近い側の端部には、温度センサ60sが配置され、温度計測用延伸部材60の一方の端部によって鋼管200に接触されていることが好ましい。
【0040】
本実施形態において、温度計測用延伸部材60は弾性体であることが好ましい。これにより、温度計測用延伸部材60は、温度センサ60sが鋼管200に接触するよう、鋼管200の表面と垂直な方向に温度センサ60sを付勢する。すなわち、温度センサ60sは、温度計測用延伸部材60の有する弾性によって鋼管200に押し付けられる。このように、温度計測用延伸部材60は、安定して温度センサ60sを鋼管200に接触させることで、温度センサ60sによる温度測定の精度を確保する役割を有する。
【0041】
上述の構成を備える温度計測用延伸部材60及び温度計測ケーブル60cは、ガイドレール21及びケーブル支持部材40の上端に沿って取付けられることが好ましい。また、
図9に示すように、温度計測用延伸部材60及び温度計測ケーブル60cは、溶接ロボット10の移動範囲に干渉しないように、ガイドレール21と鋼管200との間に配置されることが好ましい。
【0042】
本実施形態において、温度計測用延伸部材60の他方の端部、すなわち、上述の一方の端部の反対側の端部は、ガイドレール21に取付けられることが好ましい。ここで、
図9に示すように、温度計測用延伸部材60の他方の端は、コの字状に折り曲げられている。また、温度計測用延伸部材60は、ガイドレール21に対して下記のように取り付けられる。すなわち、コの字状の開口部によって、ガイドレール21の固定金具を挟むように固定される。具体的には、温度計測用延伸部材60のコの字状における、前記コの字状を展開したときのより他方の端の側になる部位を固定金具の有する穴に挿入し、より一方の端側の部位を固定金具の外側に位置するように設けられる。これにより、温度計測用延伸部材60が、温度計測用延伸部材60の有する弾性力によって、温度計測用延伸部材60のコの字状がガイドレール21の固定金具を挟むようにして固定されることが好ましい。
【0043】
本実施形態に係る溶接システム100を用いた鋼管200の溶接工程は、以下のように行われる。すなわち、溶接トーチ14の先端を開先210に配置した状態で、鋼管200の周りに環状に設けられたガイドレール21に沿って溶接ロボット10が移動しながら溶接を行う。ここで、溶接トーチ14の先端が開先210に沿って移動するとき、建方治具30のある部位においては溶接トーチ14を開先210に配置した状態のまま移動することができない。この場合は、アーム部14aによって溶接トーチ14を建方治具30から避けるように移動する。開先210における建方治具30がまたがる部位については、溶接トーチ14の先端をアーム部14aによって、建方治具30を避けるように斜めの方向から解析に配置する。このようにすることで、開先210の溶接部に途切れを生じさせることなく溶接する。
【0044】
なお、上述の溶接ロボット10による溶接作業は、鋼管200を挟んでケーブル支持部材40の反対側から、すなわち
図2及び
図4に示す状態から開始されることが好ましい。ここで、ケーブル支持部材40の側から、すなわち
図1及び
図3に示す状態から溶接作業を開始すると、溶接作業に伴い溶接ロボット10が鋼管200の周囲を一周するために必要な溶接ケーブル14cの長さは、鋼管200を一周する分となる。
これに対し、ケーブル支持部材40の反対側から溶接作業を開始することで、鋼管200を一周する際に必要とされる溶接ケーブル14cの長さを、鋼管200におけるケーブル支持部材40の側からケーブル支持部材40の反対側までの長さとすることが好ましい。
【0045】
次に、本実施形態に係る溶接システム100のケーブル取付け方法について説明する。なお、以下において、溶接ケーブル14c、温度計測ケーブル60c及び制御ケーブル12cをまとめて、ケーブルと呼称することがある。
【0046】
(判別工程)
上述の溶接システム100が備えるケーブルの1つについて、溶接ケーブル14c又は温度計測ケーブル60cあるいは制御ケーブル12cのいずれであるのかを判別する工程である。上述の判別は、作業員による目視により行ってもよい。又は、外観による判別が難しい場合はケーブルの外表面にバーコード等を付与し、前記バーコード等を読み取ることによって行ってもよい。
【0047】
(取付け工程)
この工程において、判別工程で溶接ケーブル14c又は制御ケーブル12cであると判別されたケーブルを、ケーブル支持部材40のケーブルハンガー41に配置する。また、判別工程で温度計測ケーブル60cであると判別されたケーブルを、ガイドレール21及びケーブル支持部材40の、特にケーブルハンガー41の上端に沿って配置する。
【0048】
ここで、上述のように温度計測ケーブル60c及び温度計測用延伸部材60は鋼管200とガイドレール21との間に設けられ、溶接ロボット10の移動に伴って移動することはない。つまり、上述の溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cのように溶接ロボット10に追従する必要がない。このため、溶接ケーブル14cと区別して温度計測ケーブル60cを配置することで、より溶接作業において溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cと温度計測ケーブル60cとが干渉して絡むことを防ぎ、安全な作業を担保する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る溶接システム100によれば、溶接ケーブル14cの固定部分を溶接ロボット10の本体部11に固定する固定部材15を備える。つまり、固定部材15により溶接ケーブル14cが溶接ロボット10に固定されている。このため、溶接ロボット10の移動に伴い溶接ケーブル14cが引っ張られたときの張力によって、溶接ケーブル14cにおける一端と固定部材15との間の部位が相対移動することを防ぐことができる。つまり、溶接ロボット10の移動によって溶接ケーブル14cの一端に接続された溶接トーチ14の位置及び向きがずれることを防ぐことができる。よって、複雑な構造を有さずに、溶接トーチ14の溶接作業における狙い位置がずれることを防ぐことができる。
【0050】
また、上述の溶接作業の際、溶接ケーブル14cの内部において溶接ワイヤが移動する。このとき、溶接ケーブル14cの曲率が大きいと、溶接ケーブル14cの内部で溶接ワイヤの反りが大きくなることがある。これにより、溶接ワイヤが溶接作業における狙い位置に届かないことがある。
これに対し、溶接システム100は、溶接ケーブル14cの固定部分と溶接ケーブル14cの他端との間の部分が掛けられるケーブル支持部材40を備える。これにより、溶接ロボット10が移動したとき、溶接ケーブル14cに無理な力が負荷されることを防ぐことができる。このため、溶接ケーブル14cの曲率が大きくなることを防ぐことができる。よって、溶接ワイヤの反りが大きくなることで、溶接作業における狙い位置がずれることを防ぐことができる。
【0051】
また、ケーブル支持部材40に一端が接続され、他端が溶接ロボット10に接続される弾性部材50を更に備える。また、ケーブル支持部材40は、鋼管200の長手方向を軸として回転可能である。これにより、溶接ロボット10がガイドレール21に沿って移動したとき、弾性部材50がケーブル支持部材40を引っ張ることによりケーブル支持部材40が回転移動する。よって、より溶接ロボット10の移動に伴って溶接ケーブル14cに生じる張力が軽減される。つまり、より溶接トーチ14の溶接作業における狙い位置をずれにくくするとともに、溶接ケーブル14cの曲率が大きくなることを防ぎ、ワイヤの反りが大きくなることをより確実に防ぐことができる。
【0052】
また、溶接ロボット10による溶接作業は、鋼管200を挟んでケーブル支持部材40の反対側から開始される。ここで、ケーブル支持部材40の側から溶接作業を開始すると、溶接作業に伴い溶接ロボット10が鋼管200の周囲を一周するために必要な溶接ケーブル14cの長さは、鋼管200を一周する分となる。
これに対し、ケーブル支持部材40の反対側から溶接作業を開始することで、鋼管200を一周する際に必要とされる溶接ケーブル14cの長さを、鋼管200におけるケーブル支持部材40の側からケーブル支持部材40の反対側までの長さとすることができる。 このため、溶接作業に要する溶接ケーブル14cの長さを必要最小限とすることができる。更に、溶接ケーブル自体の重さを必要最小限とすることができることから、溶接ケーブル14cが自重によって変形し、内部を移動する溶接ワイヤが変形するといったことを防ぐことができる。また、溶接ケーブル14cが大きく弛むことを防ぐことで、溶接ケーブル14cが絡まったり、周囲の機材や作業者等に干渉及び接触したりすることを防ぐことができる。
【0053】
また、温度計測用延伸部材60と温度計測ケーブル60cを更に備え、温度計測ケーブル60cはガイドレール21及び溶接ケーブル支持部材の上端に沿って取付けられる。これにより、溶接ロボット10の移動範囲と溶接用ケーブル及び温度計測ケーブル60cとが干渉することを防ぐことができる。このため、温度計測ケーブル60cが溶接用ケーブルを引っ張ることで溶接トーチ14の狙い位置がずれたり、溶接ケーブル14cの曲率が大きくなることによってワイヤが反ったりすることを防ぐことができる。
【0054】
また、溶接システム100が備えるケーブルを判別する判別工程と、判別したケーブルを配置する取付け工程と、を備える。取付け工程では、溶接ケーブル14cはケーブル支持部材40に配置し、温度計測ケーブル60cはガイドレール21及びケーブル支持部材40の上端に沿って配置する。このように、溶接ケーブル14cと温度計測ケーブル60cとを判別して配置場所を分けることで、溶接作業において溶接ケーブル14cと温度計測ケーブル60cとが干渉して絡むことを防ぐことができる。よって、より安全に作業を行うことができる。
【0055】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、回転軸42によるケーブルハンガー41の回転はサーボモータ等によって制御されてもよい。
また、ケーブル支持部材40は、ケーブルハンガー41を可動式とすることができれば、上述の構成としなくてもよい。例えば、上述のガイドレール21に相当する構造を備える部材を鋼管200に取付け、前記部材に溶接ケーブル14c及び制御ケーブル12cの取付け点を、間隔をあけて複数設けてもよい。
【0056】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 溶接ロボット
11 本体部
14 溶接トーチ
14c 溶接ケーブル
15 固定部材
21 ガイドレール
40 ケーブル支持部材
50 弾性部材
60 温度計測用延伸部材
60c 温度計測ケーブル
100 溶接システム
200 鋼管