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特開2023-49010エアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット
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  • 特開-エアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049010
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】エアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/14 20060101AFI20230331BHJP
   A61M 5/38 20060101ALI20230331BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20230331BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230331BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
A61M5/14 500
A61M5/38
A61K31/427
A61P31/10
A61P43/00 123
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147203
(22)【出願日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2021157439
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大澤 寛
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴宏
【テーマコード(参考)】
4C066
4C086
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD01
4C066FF01
4C066FF07
4C066HH07
4C066LL09
4C066MM03
4C066MM10
4C066QQ02
4C086AA01
4C086BC82
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA10
4C086NA15
4C086ZB35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ろ過機能に優れた、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットを提供する。
【解決手段】少なくとも、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを含有する輸液剤、びん針、点滴筒、クランプ、エアベント付き輸液フィルタ、及び、輸液チューブを備え、前記輸液チューブは、前記びん針、前記点滴筒、前記エアベント付き輸液フィルタ、及び、前記静脈針を連結しているチューブであり、前記エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜又はポジダイン膜である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットであって、
少なくとも、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを含有する輸液剤、びん針、点滴筒、クランプ、エアベント付き輸液フィルタ、及び、輸液チューブを備え、
前記輸液チューブは、前記びん針、前記点滴筒、及び、前記エアベント付き輸液フィルタを連結しているチューブであり、
前記エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜又はポジダイン膜である、点滴静脈投与用輸液セット。
【請求項2】
イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットに用いられるエアベント付き輸液フィルタであって、
前記輸液フィルタに備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜又はポジダイン膜である、エアベント付き輸液フィルタ。
【請求項3】
前記親水性フィルタ膜の材質がポリスルホンであり、
前記輸液剤に含まれる可能性があるイサブコナゾール又はそのプロドラッグの類縁体を低減することができる、請求項1記載の点滴静脈投与用輸液セット。
【請求項4】
イサブコナゾール又はそのプロドラッグを含有する前記輸液剤がブドウ糖注射液を含む、請求項1記載の点滴静脈投与用輸液セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット等に関する。
【背景技術】
【0002】
患者に穿刺する静脈針等をロックコネクターに接続し、一方、びん針を輸液剤へ穿刺することによって輸液ルートを確保し、輸注することができる輸液セットが公表されている(非特許文献7)。
【0003】
輸液フィルターは、輸液をろ過する親水性膜と輸液中に混入した空気のみを除去する疎水性膜からなることが報告されている(非特許文献10)。輸液フィルターの主な使用目的は、輸液に混入する微生物除去、微粒子除去、空気除去であることが報告されている(非特許文献10)。
【0004】
実際の臨床現場で使用されている輸液フィルターとして、ポジダインナイロン66を材質とする親水性膜を有する輸液フィルターセットが公表されている(非特許文献8,11)。
【0005】
海外において、新規アゾールであるイサブコナゾールが侵襲性アスペルギルス症(IA)をはじめとする深在性真菌症に対して有効であることが報告されており(非特許文献2)、イサブコナゾニウム硫酸塩を含有する製剤が真菌症治療剤として海外で臨床応用されている(非特許文献3~5)。
【0006】
イサブコナゾニウム硫酸塩を含有する製剤として、静脈投与用である、イサブコナゾニウム硫酸塩をイサブコナゾール換算で200mg含有する凍結乾燥製剤が知られている(非特許文献4)。
【0007】
しかし、イサブコナゾニウム硫酸塩をイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用製剤輸液に用いられるエアベント付き輸液フィルターセットであって、輸液フィルター内に備わる親水性フィルタ膜の材質がポリスルホン又はポジダインであるエアベント付き輸液フィルターセットは知られておらず、その特性も不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3787307号公報
【特許文献2】再公表公報WO2014/157137
【特許文献3】特許第5856718号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2014)協和企画
【非特許文献2】Med.Mycol.J.(2016)、Vol.57J、J77-J88
【非特許文献3】CRESEMBA(登録商標)(isavuconazonium sulfate)186mg capsules PATIENT EDUCATION(2020)
【非特許文献4】CRESEMBA(登録商標)添付文書改訂版(2019)
【非特許文献5】PRODUCT MONOGRAPH INCLUDING PATIENT MEDICATION INFORMATION PrCRESEMBATM, AVIR Pharma Inc.(2018)
【非特許文献6】千葉県船橋市立医療センター 医療安全対策 文書No.462
【非特許文献7】テルフュージョン輸液セット 添付文書 2019年10月改訂(第6版)製造販売業者 テルモ株式会社
【非特許文献8】輸液フィルターセット 添付文書 2016年7月改訂(第4版(新記載要領に基づく改訂))製造販売業者 株式会社 ジェイ・エム・エス
【非特許文献9】JMS輸液セット 添付文書 2017年4月改訂(第5版(新記載要領に基づく改訂))製造販売業者 株式会社 ジェイ・エム・エス
【非特許文献10】静脈経腸栄養 Vol.24,No.6 2009 pp.5~8
【非特許文献11】「輸液フィルターセット」(JR-PF05,JR-PF06)製造販売元 ジェイ・エム・エス
【非特許文献12】静脈経腸栄養 Vol.29,No.2 2014 pp.39~45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットに用いられる、ろ過機能に優れたエアベント付き輸液フィルタ等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットであって、少なくとも、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを含有する輸液剤、びん針、点滴筒、クランプ、エアベント付き輸液フィルタ、及び、輸液チューブを備え、前記輸液チューブは、前記びん針、前記点滴筒、及び、前記エアベント付き輸液フィルタを連結しているチューブであり、前記エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜の材質はポリスルホン又はポジダインである、点滴静脈投与用輸液セットである。
【0012】
本発明の別の態様は、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットに用いられるエアベント付き輸液フィルタであって、輸液フィルタに備わる親水性フィルタ膜の材質はポリスルホン又はポジダインである、エアベント付き輸液フィルタである。
【0013】
また、本発明のさらに別の態様は、前記輸液セットを用いることを特徴とするイサブコナゾール又はそのプロドラッグの患者への点滴静脈投与方法、前記輸液セットからなる真菌症治療用製剤、前記輸液セットが備える輸液剤に含まれる又はその可能性がある微粒子及び/又はイサブコナゾール又はそのプロドラッグの類縁体を前記輸液セットが備える前記エアベント付き輸液フィルタによりろ過する方法である。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の発明等に関する。
【0015】
[1]イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットであって、少なくとも、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを含有する輸液剤、びん針、点滴筒、クランプ、エアベント付き輸液フィルタ、及び、輸液チューブを備え、前記輸液チューブは、前記びん針、前記点滴筒、及び、前記エアベント付き輸液フィルタを連結しているチューブであり、前記エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜又はポジダイン膜である、点滴静脈投与用輸液セット。
【0016】
[2]イサブコナゾール又はそのプロドラッグを有効成分として1回投与量あたりイサブコナゾール換算で200mg含有する点滴静脈投与用輸液セットに用いられるエアベント付き輸液フィルタであって、前記輸液フィルタに備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜又はポジダイン膜である、エアベント付き輸液フィルタ。
【0017】
[3]前記親水性フィルタ膜の材質がポリスルホンであり、前記輸液剤に含まれる可能性があるイサブコナゾール又はそのプロドラッグの類縁体を低減することができる、前記[1]記載の点滴静脈投与用輸液セット。
【0018】
[4]イサブコナゾール又はそのプロドラッグを含有する前記輸液剤がブドウ糖注射液を含む、前記[1]記載の点滴静脈投与用輸液セット。
【0019】
[5]前記[1]、[3]、又は[4]のいずれか記載の点滴静脈投与用輸液セットを用いることを特徴とする、イサブコナゾール又はそのプロドラッグの患者への点滴静脈投与方法。
【0020】
[6]前記[1]、[3]、又は[4]のいずれか記載の点滴静脈投与用輸液セットからなる真菌症治療用製剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ろ過機能に優れたエアベント付き輸液フィルタ及び同フィルタを備えた点滴静脈投与用輸液セット等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の輸液剤を備える前段階における、本発明の点滴静脈投与用輸液セットの一部の例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0024】
1.有効成分
本発明において、イサブコナゾールとは、下記式(I)で示される化合物を意味する。
【0025】
【化1】
【0026】
イサブコナゾールは、Isavuconazoleやアイサブコナゾールと称されることもある。イサブコナゾールのCAS番号は241479-67-4である。米国において、イサブコナゾールのプロドラッグであるイサブコナゾニウム硫酸塩を含有する製剤が臨床応用されている(非特許文献3~5)。イサブコナゾニウム硫酸塩は、下記式(II)で示される化合物である。イサブコナゾニウム硫酸塩は、生体内で加水分解され、イサブコナゾールとなり得る。イサブコナゾニウム硫酸塩のCAS番号は946075-13-4である。
【0027】
【化2】
【0028】
イサブコナゾール又はそのプロドラッグは自体公知の方法で製造又は調製できる(特許文献1、非特許文献3~5等)。イサブコナゾールのプロドラッグとして、イサブコナゾニウム硫酸塩を好ましく挙げることができる。
【0029】
2.エアベント付き輸液フィルタ
ここで、輸液フィルタとは、輸液に混入した異物(ガラス片、ゴム片、繊維片)などの微粒子や輸液に混入した微生物(細菌、真菌(カビ)等)を除去又は低減することを主な目的とする濾過器を意味する。
【0030】
輸液フィルタは、少なくとも、ハウジング、液流入口、液流出口、親水性フィルタ膜を備える。エアベント付きとは、輸液に混入したエア(気体成分)を排出又は低減する部品であって、一般的には、疎水性フィルタ膜とエアを排出するためのハウジング上の空隙から構成される。疎水性フィルタ膜と接触したエアは同空隙を通って外部へ排出され得る。
【0031】
本発明において、輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜又はポジダイン膜である点に1つの特徴がある。
【0032】
ポジダインフィルタ膜は、ナイロン6,6を電荷的に修飾したフィルタ膜であって、一般的に溶液中において正に荷電したゼータ電位を示す。ポジダインはポール社の登録商標である。
【0033】
ポリスルホン膜に用いられるポリスルホン素材はスルホニル基を含む繰返し構造をもった合成高分子化合物であって疎水性素材である。ポリスルホン素材の親水性を高める目的で親水化剤(例:ポリビニルピロリドン)によって処理されることで親水性のポリスルホン膜を製造し得る。
【0034】
ポジダインフィルタ膜やポリスルホン膜の孔径は特に限定されないが、0.2~1.2μmであることが好ましい。真菌やグラム陰性菌による汚染の危険性を実質的に完全に除去する目的においては、孔径は0.2μmであることが望ましい。なお、ここで、孔径の大きさは物理的に計測される数値ではなく、その指標菌を除去できるか否かで判断され得る数値として理解される。例えば、0.2μmのフィルタ膜とは、指標菌であるBrevundimonas diminutaを除去できることを評価することによって決められる。このような評価は当業者であれば容易に実施可能である。
【0035】
その他、ポジダインフィルタ膜やポリスルホン膜は、できるだけ均一の孔径を有することや一体化して膜の離脱が乏しい性質を有することが望ましい。
【0036】
3.輸液剤、びん針、点滴筒、クランプ、輸液チューブ
ここで、輸液剤とは、輸注される輸液を収容する容器に充填される輸液であり、特に限定されないが、プラスチック製ボトルやプラスチック製バックなどに充填される輸液であることができる。
【0037】
ここで、びん針とは、輸液チューブに輸液を通す目的に使用され得る輸液剤と輸液チューブの結合部品であり、一般的には、針状の形状を有し、輸液剤の所定位置(ゴム栓等)に針通されることで輸液チューブに輸液を通し得る。びん針は導入針と呼ばれることもある。びん針の種類は、特に限定されず、横穴針、ツボミ針、シボリ針などであってよく、金属針だけでなく、プラスチック針であってもよい。コアリングの観点において、びん針はプラスチック針であることが好ましい。
【0038】
ここで、点滴筒(ドリップチャンバーとも呼ばれることもある)とは、輸液ラインにおける液ためと理解され得る。点滴筒の主な役割は、輸液が流れていることを確認し易くする、点滴速度を推し量る、エア抜きをするなどである。
【0039】
ここで、クランプとは、一般的に、輸液ラインの途中におかれ、液量を調節するなどの目的で使用される部品である。クランプはクレンメと称されることもある。クランプの種類は特に限定されず、ローラークランプ、Vクランプ、ねじクランプなどであってもよい。
【0040】
ここで、輸液チューブとは、輸液の導管であって、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)などの素材でできた柔らかい透明様のチューブを意味する。輸液チューブの種類は特に限定されないが、輸液チューブに使用される塩化ビニル(PVC)はやや硬化性を有するため、可塑剤を用いて硬化性を緩和させたものであることが望ましい。
【0041】
3.本発明の輸液剤の調製・入手
本発明の点滴静脈投与用輸液セットに含まれる有効成分の1回投与当たりの用量が、イサブコナゾール換算量で200mgである点に1つの特徴を有する。有効成分としてイサブコナゾニウム硫酸塩を用いる場合、イサブコナゾール換算で200mgは、イサブコナゾニウム硫酸塩の372.6mgに相当する。単にイサブコナゾニウム硫酸塩の372mgに相当すると記載することもある。例えば、本発明の点滴静脈投与用輸液セットが備える輸液剤に含まれるイサブコナゾール又はそのプロドラッグの含有量がイサブコナゾール換算量で200mgであり得る。例えば、イサブコナゾニウム硫酸塩がイサブコナゾール換算で200mg(イサブコナゾニウム硫酸塩として372.6mg)含有される輸液剤や同輸液剤を備える点滴静脈投与用輸液セットが例示される。
【0042】
本発明の輸液剤にイサブコナゾール又はそのプロドラッグを1回投与当たりの用量として200mgせしめる場合、例えば、予めイサブコナゾール又はそのプロドラッグを1回投与当たりの用量として200mg含有せしめた凍結乾燥製剤を調製しておき、本発明の点滴静脈投与用輸液セットの使用時、同凍結乾燥製剤を生理食塩水や注射用水などで用時溶解させ、その再溶解液を市販の輸液剤などに含ませることもできる。より具体的には、例えば、海外で臨床応用されているイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤(CRESEMBA(登録商標);非特許文献6)を注射用水などで用時溶解させ、その再溶解液を市販の輸液剤などに含ませることもできる。
【0043】
このような市販の輸液剤として、「日本薬局方 生理食塩液(テルモ株式会社)」(非特許文献13、Terumo TP―A03NS)又は「日本薬局方 ブドウ糖注射液(5w/v%)(テルモ株式会社)」(非特許文献14、Terumo TP―A03G05V)を好ましく挙げることができる。
【0044】
イサブコナゾール又はそのプロドラッグを1回投与当たりの用量として200mg含有する製剤(例:凍結乾燥製剤、プレフィルドシリンジ溶液剤)を調製する際、適宜、賦形剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、溶解性増強剤、抗酸化剤、緩衝剤、保存剤、凍結防止剤などを添加することで調製することができる。例えば、イサブコナゾニウム硫酸塩(372.6mg)、マンニトールなどの糖アルコール(10~200mg)、及びpH調節剤(硫酸など)を含む溶液を調製し、同溶液をバイアルに充填し、慣用の方法により凍結乾燥することなどにより、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを1回投与当たりの用量として200mg含有する凍結乾燥製剤を製造することができる。
【0045】
本発明の輸液剤には、塩化ナトリウム、ブドウ糖を適宜に含有せしめることができる。本発明の輸液剤の浸透圧は、特に限定されないが、血液や生理食塩液を基準としてその浸透圧に対する比率(浸透圧比)が、1~3程度であることが好ましい。本発明の輸液剤のpHも特に限定されないが、血管や血球への刺激等を考慮し、概ね、6~8程度であることが望ましい。
【0046】
4.本発明のエアベント付き輸液フィルタの製造・入手
本発明のエアベント付き輸液フィルタは、自体公知の方法により容易に製造又は入手され得る(特許文献3、非特許文献7~11)。親水性フィルタ膜がポジダイン膜である、親水性フィルタ膜を備えるエアベント付き輸液フィルタとして、株式会社ジェイ・エム・エス社が製造販売する製品「JMS 輸液セット(JMS JR-PF06)」(非特許文献8)に備わる「輸液フィルタ(ELD)」を好ましく挙げることができる。親水性フィルタ膜がポリスルホン膜である、親水性フィルタ膜を備えるエアベント付き輸液フィルタとして、テルモ株式会社が製造販売する製品「テルフュージョン輸液セット」(非特許文献7、「TI-J352P」)に備わる「エアーベント付きフィルター」を好ましく挙げることができる。
【0047】
5.本発明の点滴静脈投与用輸液セットの製造・入手・使用等
本発明の点滴静脈投与用輸液セットは自体公知の方法により容易に製造又は入手され得る(特許文献3、非特許文献7~11)。本発明の点滴静脈投与用輸液セットは、少なくとも、イサブコナゾール又はそのプロドラッグを含有する輸液剤、びん針、点滴筒、クランプ、エアベント付き輸液フィルタ、及び、輸液チューブを備えるが、前述の通り、輸液剤や輸液フィルタは当業者であれば容易に製造又は入手され得、その他の部品については、少なくとも、びん針、点滴筒、クランプ、輸液チューブを備える市販の輸液セットを購入して利用され得る。
【0048】
このような市販の輸液セットとして、テルモ株式会社が製造販売する製品「テルフュージョン輸液セット」(非特許文献7、「TI-J352P」)や株式会社ジェイ・エム・エス社が製造販売する製品「JMS輸液セット」(非特許文献9、「JMS JY-PB343L」)を挙げることができる。「JMS輸液セット」(非特許文献9、「JMS JY-PB343L」)を利用する際、輸液フィルタを本発明の輸液フィルタと置換して使用することが必要であり、交換フィルターの例として、「JMS 輸液セット(非特許文献8、「JMS JR-PF06」)」に備わる「輸液フィルタ(ELD)」を好ましく例示することができる。
【0049】
前述の通りに、本発明の輸液剤を入手又は製造し、さらに、「テルフュージョン輸液セット」に備わるびん針を同輸液剤に穿刺することによって、本発明の点滴静脈投与用輸液セットの実施品を製造することができる。
【0050】
前述の通りに、本発明の輸液剤を入手又は製造し、さらに「JMS輸液セット」に備わるびん針を同輸液剤に穿刺することによって、本発明の点滴静脈投与用輸液セットの実施品を製造することができる。
【0051】
本発明の点滴静脈投与用輸液セットの好ましい実施品として、1)又は2)を本発明の輸液剤に穿刺して連結させて得られる輸液セットを挙げることができる。
1)「テルフュージョン輸液セット」(非特許文献7、「TI-J352P」)
2)「JMS輸液セット(非特許文献9、「JMS JY-PB343L」)
(ただし、輸液セットに備わる輸液フィルタは、「JMS 輸液セット(非特許文献8、「JMS JR-PF06」)」等と置換される)
【0052】
後述の静脈針を入手又は製造し、適宜に本発明の点滴静脈投与用輸液セットに備わるびん針と逆の端に備わる連結コネクタに対して静脈針をはめ込むことで、本発明の点滴静脈投与用輸液セットを用いたプライミングや点滴静注を実施することができる。点滴静注のための輸液供給には大きく2種類存在し、一方は重力(自然落下)による輸液供給であり、他方は輸液ポンプ又は装置を用いた輸液供給である。当業者は輸液供給方式を容易に選択し得る。
【0053】
静脈針とは、腕などの静脈に挿入する針であり、特に限定されないが、輸液針、翼状針、末梢静脈留置針であることができる。一般的には、静脈針として、数時間程度の点滴静注であれば輸液針や翼状針を用い、それ以上の期間にわたる場合には末梢静脈留置針を用いることが好ましい。末梢静脈留置針は、腕などの静脈に挿入するプラスチック製のカテーテルであり、一般的には、患者に末梢静脈留置針を穿刺した後に、末梢静脈留置針に内包される金属針を抜き、カテーテルを留置させる。
【0054】
6.本発明の点滴静脈投与用輸液セットの性能評価
前述の通り、輸液フィルタとは、輸液に混入した異物などの輸液に含まれる微粒子、又は、輸液に混入した微生物を除去又は低減することを主な目的とする濾過器を意味する。これら輸液フィルタの性能評価は、当業者であれば、容易に実施可能である。
【0055】
1)本発明の輸液剤の分析結果と2)本発明の点滴静脈投与用輸液セットを介してろ過処理された本発明の輸液剤の分析結果を対比させることによって、本発明の点滴静脈投与用輸液セットを評価することができる。
【0056】
評価項目として、肉眼観察、微粒子除去又は低減、イサブコナゾール又はそのプロドラッグの類縁体除去又は低減を好ましく挙げることができる。肉眼観察項目として、澄明性と着色性を例示することができる。微粒子除去又は低減の評価項目として、粒径10μm以上の微粒子除去率、粒径25μm以上の微粒子除去率を挙げることができる。イサブコナゾール又はそのプロドラッグの類縁体等の除去又は低減の項目として、イサブコナゾールを挙げることができる。これら評価は自体公知の方法によって当業者であれば容易に実施可能である。
【0057】
評価の際、本発明のイサブコナゾール又はそのプロドラッグ含有の凍結乾燥製剤(例:CRESEMBA(登録商標);非特許文献6)を生理食塩水や注射用水などで用時溶解させ、その再溶解液を市販の輸液剤に混合して本発明の輸液剤を製造するにあたって、市販の輸液剤は生理食塩液又はブドウ糖注射液とすることが好ましい。
【0058】
7.投与法、治療薬、点滴静注法
本発明の実施態様として、本発明の点滴静脈投与用輸液セットを用いることを特徴とする、イサブコナゾール又はそのプロドラッグの患者への点滴静脈投与方法を挙げることができる。投与経路、投与部位、投与頻度などは、医療従事者であれば適宜に設定できる。1回当たりの投与量はイサブコナゾール換算で200mg(イサブコナゾニウム硫酸塩を使用する際、イサブコナゾニウム硫酸塩372.6mgに相当する)である。
【0059】
本発明の実施態様として、本発明の点滴静脈投与用輸液セットからなる真菌症治療用製剤を挙げることができる。真菌症として、侵襲性アスペルギルス症(IA)をはじめとする深在性真菌症を好ましく例示できる。
【0060】
本発明の実施態様として、本発明の点滴静脈投与用輸液セットを用いることを特徴とする真菌症治療方法を挙げることができる。投与経路、投与部位、投与頻度などは、医療従事者であれば適宜に設定できる。1回当たりの投与量はイサブコナゾール換算で200mgである。
【実施例0061】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0062】
[実施例1]点滴静脈投与用輸液セットの製造
(1)本発明の輸液剤の製造
4種類の輸液剤を製造した。
【0063】
(A)生理食塩液にイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤再溶解液を添加してなる本発明の輸液剤を穿刺により連結させた、エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜であるエアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット(以降、生理食塩液―ポリスルホンタイプ輸液セットと称することもある)
【0064】
(B)生理食塩液にイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤再溶解液を添加してなる本発明の輸液剤を穿刺により連結させた、エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポジダイン膜であるエアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット(以降、生理食塩液―ポジダインタイプ輸液セットと称することもある)
【0065】
(C)ブドウ糖注射液にイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤再溶解液を添加してなる本発明の輸液剤を穿刺により連結させた、エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜であるエアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット(以降ブドウ糖注射液―ポリスルホンタイプ輸液セットと称することもある)
【0066】
(D)ブドウ糖注射液にイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤再溶解液を添加してなる本発明の輸液剤を穿刺により連結させた、エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポジダイン膜であるエアベント付き輸液フィルタを備える点滴静脈投与用輸液セット(以降、ブドウ糖注射液―ポジダインタイプ輸液セットと称することもある)
【0067】
生理食塩液として、「日本薬局方 生理食塩液(テルモ株式会社)」(非特許文献13、Terumo TP―A03NS)を用いた。生理食塩液の容量は250mLであり、その食塩濃度は0.9%であった。生理食塩液は静脈内注射又は点滴静注用であった。
【0068】
ブドウ糖注射液として、「日本薬局方 ブドウ糖注射液(5w/v%)(テルモ株式会社)」(非特許文献14、Terumo TP―A03G05V)を用いた。ブドウ糖注射液の容量は250mLであり、ブドウ糖濃度は5%であった。ブドウ糖注射液は静脈内注射又は点滴静注用であった。
【0069】
生理食塩液又はブドウ糖注射液に添加されたイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤再溶解液に用いられたイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤は、海外で臨床使用されている「CRESEMBA(登録商標)」(非特許文献6)であった。再溶解液は、凍結乾燥製剤「CRESEMBA(登録商標)」(非特許文献6)に注射用水5.0mLを添加し、凍結乾燥製剤容器であるバイアルを振盪させることで、調製された。
【0070】
生理食塩液又はブドウ糖注射液から5mLを取り除き、245mL容量の生理食塩液又はブドウ糖注射液とし、そこに5mLのイサブコナゾニウム硫酸塩凍結乾燥製剤再溶解液を加え、40秒の間に20回振盪させることで、2種類の本発明の輸液剤(以降、生理食塩液ベース輸液剤、ブドウ糖注射液ベース輸液剤と称することもある)を製造した。
【0071】
本発明の輸液剤を「テルフュージョン輸液セット」(非特許文献7、「TI-J352P」)に穿刺により連結させることにより、(A)生理食塩液―ポリスルホンタイプ輸液セットおよび(C)ブドウ糖注射液―ポリスルホンタイプ輸液セットを製造した。
【0072】
本発明の輸液剤を「JMS輸液セット(非特許文献9、「JMS JY-PB343L」)に穿刺により連結させることにより、(B)生理食塩液―ポジダインタイプ輸液セットおよび(D)ブドウ糖注射液―ポジダインタイプ輸液セットを製造した。ただし、輸液セットに備わる輸液フィルタは、「JMS 輸液フィルターセット(非特許文献8、「JMS JR-PF06」)」と置換された。
【0073】
[実施例2]点滴静脈投与用輸液セットの評価試験
(1)試験方法
前述のように、本発明の輸液剤(以降、ろ過前輸液剤と称することもある)の分析結果と本発明の輸液剤を本点滴静脈投与用輸液セットに通してろ過処理された本発明の輸液剤(以降、ろ過後輸液剤と称することもある)の分析結果を対比させることによって、本発明の点滴静脈投与用輸液セットを評価した。
【0074】
生理食塩液ベース輸液剤又はブドウ糖注射液ベース輸液剤を本発明の点滴静脈投与用輸液セットに通じさせてろ過処理されて得られた最初の20mLのろ過液を廃棄し、その後に続くろ過液からろ過後輸液剤サンプルを採取した。再度、ろ過前輸液剤を40秒間にわたり20回振盪させ、そのろ過前輸液剤からろ過前輸液剤サンプルを採取した。
【0075】
主要な試験評価項目として、肉眼観察、微粒子除去率、イサブコナゾール又はそのプロドラッグの類縁体除去率とした。肉眼観察は、澄明性、着色性、視認微粒子の3項目とした。微粒子除去率は、粒径10μm以上の微粒子除去率(%)、粒径25μm以上の微粒子除去率(%)の2項目とした。イサブコナゾール又はそのプロドラッグの類縁体除去率として、イサブコナゾール除去率(%)とした。類縁体除去評価は3回繰り返しその加算平均を採用する評価とした(n=3)。
【0076】
(2)試験結果
生理食塩液―ポリスルホンタイプ輸液セットの評価結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
生理食塩液―ポリスルホンタイプ輸液セットは、微粒子のみならず意外にもイサブコナゾールを顕著に低減させ得る輸液セットであることが分かった。
【0079】
生理食塩液―ポジダインタイプ輸液セットの評価結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
生理食塩液―ポジダインタイプ輸液セットは、顕著に粒径10μm以上の微粒子を低減し得ることが分かった。
【0082】
ブドウ糖注射液―ポリスルホンタイプ輸液セットの評価結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
ブドウ糖注射液―ポリスルホンタイプ輸液セットは、微粒子のみならず意外にも類縁体イサブコナゾールを顕著に低減させる輸液セットであることが分かった。生理食塩液―ポリスルホンタイプ輸液セットも同様の優れた特性を有することから、輸液タイプに依存せず、エアベント付き輸液フィルタ内に備わる親水性フィルタ膜がポリスルホン膜であるエアベント付き輸液フィルタを備える輸液セットは顕著にイサブコナゾール低減効果を奏し得ると推察された。
【0085】
ブドウ糖注射液―ポジダインタイプ輸液セットの評価結果を表4示す。
【0086】
【表4】
【0087】
ブドウ糖注射液―ポジダインタイプ輸液セットは、顕著な粒径10μm以上の微粒子除去率を示すことが分かった。
【0088】
[比較例]
ポリエーテルスルホン膜(PES)を用いて実施例1と同様の試験を実施した結果を以下の表に示す。表中の数字はイサブコナゾール(%)である。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0089】
ろ過機能に優れたエアベント付き輸液フィルタ及び同フィルタを備えた点滴静脈投与用輸液セット等が提供される。本発明は医薬品産業において極めて有用である。
図1