(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049032
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】複層塗膜の形成方法、及び、塗装物品
(51)【国際特許分類】
B05D 1/38 20060101AFI20230331BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20230331BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230331BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230331BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20230331BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230331BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
B05D1/38
C09D4/02
C09D7/61
C09D7/63
C09D133/14
B05D7/24 301T
B05D7/24 302P
C23C14/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153564
(22)【出願日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2021158158
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】入江 貴史
(72)【発明者】
【氏名】馬野 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】若林 幹和
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
4K029
【Fターム(参考)】
4D075BB85Y
4D075CA48
4D075DA07
4D075DB61
4D075DC13
4D075EA21
4D075EA41
4D075EA43
4D075EB22
4D075EB38
4D075EB52
4D075EC37
4J038CC022
4J038CG042
4J038CG141
4J038FA071
4J038GA11
4J038HA446
4J038KA03
4J038MA13
4J038MA14
4J038PA17
4J038PB07
4J038PC08
4J038PC10
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA21
4K029BA03
4K029CA01
4K029CA03
4K029CA05
4K029EA01
(57)【要約】
【課題】目止め効果に優れ、被塗物表面の凹凸を隠ぺいし得る複層塗膜の形成方法を提供する。
【解決手段】被塗物上に、光硬化性樹脂組成物からなるパテ塗料を塗装してパテ層を形成する工程(1)、
前記パテ層上にアルミニウム蒸着層を形成する工程(2)、及び、
前記アルミニウム蒸着層上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程(3)、を有する複層塗膜の形成方法であって、
前記光硬化性樹脂組成物は、4またはそれ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートである光硬化成分(A)、
重量平均分子量が3000~8000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、
重量平均分子量が10000~30000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)、及びポリイソシアネート(D)を含み、
前記光硬化成分(A)、アクリル樹脂(B-1)、アクリル樹脂(B-2)、及び粒子成分(C)の総量100質量%に対し、ポリイソシアネート(D)の配合割合が10~100質量%であることを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、光硬化性樹脂組成物からなるパテ塗料を塗装してパテ層を形成する工程(1)、
前記パテ層上にアルミニウム蒸着層を形成する工程(2)、及び、
前記アルミニウム蒸着層上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程(3)、を有する複層塗膜の形成方法であって、
前記光硬化性樹脂組成物は、4またはそれ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートである光硬化成分(A)、
重量平均分子量が3000~8000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、
重量平均分子量が10000~30000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)、及びポリイソシアネート(D)を含み、
前記光硬化成分(A)、アクリル樹脂(B-1)、アクリル樹脂(B-2)、及び粒子成分(C)の総量100質量%に対し、ポリイソシアネート(D)の配合割合が10~100質量%であることを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
アクリル樹脂(B-1)は、水酸基価が120~200mgKOH/gの範囲内である請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
アクリル樹脂(B-2)は、水酸基価が5~70mgKOH/gの範囲内である請求項1又は2に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
光硬化性樹脂組成物は、さらに、光重合開始剤(E)を含む請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1記載の複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜を有することを特徴とする塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜の形成方法、及び、塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に凹凸を有する素材に対して塗装を行う場合、凸部は、膜厚を厚くして隠蔽したり、塗装前にサンドペーパーなどで研磨して平滑にしたりし、凹部は、パテ等を用いてピンホールを埋める、パテを塗装して表面を平滑にする等の処置が行われてきた。しかしながら、このような前処置により生産性が低下するだけでなく、塗料使用量の増加による揮発性有機化合物(以下 VOC)の増加などの問題があった。また、凹部の原因が、素材に内包された空気によって発生したピンホールの場合、そのピンホールのすべてを塗装前にパテにて完全に埋めることは困難で、ピンホール内に空気が残ってしまう場合があった。ピンホール内に空気が残ったまま塗装及び焼き付けを行うと、塗装後の液状塗料が、ピンホールに吸い込まれたり、焼き付け中にピンホール内の空気が膨張して塗膜が破損したりするなどの塗装欠陥が生じてしまうという問題があった。
【0003】
繊維強化プラスチック素材(以下 FRP素材)は、鉄やアルミニウムなどと比較して強度、剛性、寸法安定性などの優れた特性を持ちながら軽量である。自動車車両部材においては、軽量化による燃費向上に貢献する素材として広範囲に使用が検討されている。しかしながら自動車用ランプ反射鏡やスポイラー等の一部の車両用部材にしか適用されていなかった。FRP素材は複数の材料を練り込んで成型されるため凹凸を生じやすい素材である。ここでいう凹凸とは、繊維の混合不足によって繊維が素材表面に現れてできた偏析凹凸、単体繊維の飛び出しによる凸、繊維を混合する際の混入した気泡が表面に現れて凹となったピンホールなどがある。また、完全に内包された気泡は、初期において発見することが難しく、焼き付け中に素材や塗膜を破壊するため、発生場所の予測や事前対策することが困難である。このようにFRP素材は塗装欠陥が生じやすい素材であるため生産性が悪く、高級車や競技用などの一部の部品にしか適用されてこなかった。このため、優れた特徴をもつFRP素材を採用した部材を増やすためには塗装欠陥の抑制に優れた目止め効果の高いパテ塗料の開発が求められてきた。
【0004】
特許文献1には、(a)水酸基価15~25のアクリルポリオールと水酸基価35~45のアクリルポリオールとの混合ポリオール、(b)イソシアネート基含量の異なるキシリレンジイソシアネート系ポリイソシアネートの混合物、を含有する2液ウレタン塗料を、第3級アミン蒸気を含有する雰囲気に接触させて、硬化させる塗装方法が開示されている。
しかしながら、このような塗装方法は、従来の焼き付け工程に加えて、危険な第3級アミン蒸気に接触させるための大型の設備や排水処理など、安全面、環境負荷面、コストの面で不都合があった。
【0005】
特許文献2は、(メタ)アクリロイル基を6個以上有するウレタン(メタ)アクリレートを含む光硬化成分(A)、水酸基価が10~200mgKOH/gの水酸基含有アクリル樹脂(B)及びポリイソシアネート(C)を含む光硬化性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、この光硬化性樹脂組成物は、塗装欠陥を抑制するためのパテとして検討されたものでなかった。また、水酸基含有アクリル樹脂(B)について、細かい限定がなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-71876号公報
【特許文献2】特許第6582927号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑み、目止め効果に優れる光硬化性樹脂組成物をパテ塗料として使用することで、被塗物表面の凹凸を隠ぺいし得る複層塗膜を形成する方法を提供する。さらに、良好な金属調の複層塗膜を形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被塗物上に、光硬化性樹脂組成物からなるパテ塗料を塗装してパテ層を形成する工程(1)、
前記パテ層上にアルミニウム蒸着層を形成する工程(2)、及び、
前記アルミニウム蒸着層上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程(3)、を有する複層塗膜の形成方法であって、
前記光硬化性樹脂組成物は、4またはそれ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートである光硬化成分(A)、
重量平均分子量が3000~8000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、
重量平均分子量が10000~30000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)、及びポリイソシアネート(D)を含み、
前記光硬化成分(A)、アクリル樹脂(B-1)、アクリル樹脂(B-2)、及び粒子成分(C)の総量100質量%に対し、ポリイソシアネート(D)の配合割合が10~100質量%であることを特徴とする複層塗膜の形成方法に関する。
【0009】
上記アクリル樹脂(B-1)は、水酸基価が120~200mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
上記アクリル樹脂(B-2)は、水酸基価が5~70mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
上記光硬化性樹脂組成物は、さらに、光重合開始剤(E)を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上述の複層塗膜の形成方法により得られた硬化塗膜を有する塗装物品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複層塗膜の形成方法は、特定の光硬化性樹脂組成物をパテ塗料として使用することにより、優れた目止め効果を発揮し、被塗物表面の凹凸を隠ぺいし得る複層塗膜を形成することができる。また、アルミニウム蒸着層、クリヤー塗料などの上塗り塗料との密着性にも優れるため、強度や耐久性等に優れた複層塗膜を得ることができると共に、めっき工程を有することなく、金属調の塗膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明におけるTgの測定方法において、チャートからTgを読み取る際の読み取り方法を具体的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複層塗膜の形成方法は、被塗物上に、特定の光硬化性樹脂組成物からなるパテ塗料を塗装してパテ層を形成する工程(1)、上記パテ層上にアルミニウム蒸着層を形成する工程(2)、及び、上記アルミニウム蒸着層上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程(3)、を有する複層塗膜の形成方法である。
本発明は、上記光硬化性樹脂組成物からなるパテ塗料を被塗物上に塗装することにより、被塗物表面の凹凸を隠ぺいし、塗装欠陥を抑制し、かつ、基材との充分な密着性を有する複層塗膜を形成し得ることを見出し完成したものである。また、めっき工程を有することなく、優れた金属調の塗膜を容易に形成することができるものである。
【0014】
上記光硬化性樹脂組成物について、以下に詳述する。
上記光硬化性樹脂組成物は、4またはそれ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートである光硬化成分(A)、重量平均分子量が3000~8000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、重量平均分子量が10000~30000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)、及びポリイソシアネート(D)を含む光硬化性樹脂組成物である。
【0015】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、FRP等の表面凹凸が多い樹脂基材上に直接塗布して使用することが特に好ましく、ピンホールをパテ埋めした基材やサンディングして凸部を研磨した基材上に使用してもよい。
【0016】
上記光硬化性樹脂組成物は高分子量である水酸基含有アクリル樹脂(B-2)と粒子成分(C)とを含有するものであるため、塗装後、液状塗料の流動性が制御され、基材上の偏析凹やピンホールへ流入して発生する凹欠陥の発生を減らすことができる。また、高分子量である水酸基含有アクリル樹脂(B-2)は、水酸基価を低く設計することで、ポリイソシアネート(D)との熱硬化による収縮などの影響を小さくすることで寸法安定性を向上させて基材や上塗り塗料との密着性を向上させることもできる。
【0017】
さらに、上記光硬化性樹脂組成物は光硬化成分(A)と低分子量である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)を含有するものであるため、UV硬化より表面の架橋密度が高い塗膜が形成され、熱硬化により塗膜内部の架橋密度が高い塗膜を形成することができるため、上塗り塗料を塗装した後の工程でピンホール内などの空気が膨張して塗膜を破損するなどの塗装欠陥を減らすことができる。
また、上記光硬化性樹脂組成物は光硬化成分(A)と低分子量である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)を含有するものであるため、凸部を隠蔽するなどで、塗装膜厚が厚くなり、UV光が十分に内部まで届かない場合であっても、UV硬化による表面の架橋密度と熱硬化による内部の架橋密度が保たれるため、様々な膜厚で、内部から空気が膨張して塗膜を破損するなどの塗装欠陥を減らすことができる。このようなUV硬化と熱硬化を併用する硬化手法は、FRP基材だけでなく3次元形状物のような全面を均一な塗膜に塗装できない部材などで有効である。
【0018】
上記光硬化性樹脂組成物は、高分子量である水酸基含有アクリル樹脂(B-2)と粒子成分(C)を含有することにより塗装直後の粘性が制御され、凹に吸い込まれない平滑性の高い塗膜が得られる。加えてポリイソシアネート(D)との熱反応にて、基材や上塗り塗料と密着性のよい塗膜が得られる。また、光硬化成分(A)の光反応と低分子量である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)とポリイソシアネート(D)の熱硬化により、様々な膜厚においても架橋密度が高い塗膜が得られ、凸部を隠蔽し、凹凸内に残った空気の膨張を抑えて上塗り塗料を塗装した総合塗膜の平滑状態を維持できるものである。したがって、本発明の光硬化性樹脂組成物は、凹凸を有する被塗物に好適に使用され、特にパテとして優れた性能を有するものである。さらに、上記光硬化性樹脂組成物は、上塗り塗料の塗装欠陥の抑制や塗装外観を向上することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
光硬化成分(A)
上記光硬化性樹脂組成物は、光硬化成分(A)として4またはそれ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートを含む。
上記4またはそれ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能(メタ)アクリレートは、活性エネルギー線を照射することにより、良好な重合活性を有する。上記光硬化性樹脂組成物に、4またはそれ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能(メタ)アクリレートが含まれることによって、表面に高い架橋密度を有する塗膜を得ることができる利点がある。
【0020】
上記多官能(メタ)アクリレートは、多価アルコールと(メタ)アクリレートとを脱アルコール化反応することによって、調製することができる。多官能(メタ)アクリレートの具体例として、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレート;
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能(メタ)アクリレート;
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能(メタ)アクリレート;
トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどの7官能以上の(メタ)アクリレート;
などが挙げられる。
【0021】
本発明において使用する上記多官能(メタ)アクリレートは、分子量を特に限定するものではないが、分子量3000以下であることが好ましい。すなわち、重合体に該当するものではなく、比較的低分子量の化合物であることが好ましい。このような分子量は、多官能(メタ)アクリレートの化学構造式から算出された値である。
これらの多官能(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
また、上記光硬化性樹脂組成物は、その他の光硬化性化合物を併用したものであってもよい。
【0022】
上記光硬化性樹脂組成物中に含まれる光硬化成分(A)の配合割合は、光硬化成分(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)及び粒子成分(C)の総量100質量%に対し、6質量%以上、54質量%以下であることが好ましく、20質量%以上、40質量%以下であることがより好ましい。
上記光硬化成分(A)の配合割合が6質量%以上であることによって、得られる塗膜の表面の架橋密度を向上させることができる。また、54質量%以下であることによって、過度の硬化収縮を減らすことで基材と上塗り塗料の密着性を良好に保つことができる利点がある。
【0023】
水酸基含有アクリル樹脂(B-1)
水酸基含有アクリル樹脂(B-1)は、重量平均分子量が3000~8000の範囲内である低分子量の水酸基含有アクリル樹脂である。
本発明においては、低分子量である水酸基含有アクリル樹脂(B-1)と、後述する高分子量の水酸基含有アクリル樹脂(B-2)とを併用することが重要な要件である。
すなわち、これら2種の水酸基含有アクリル樹脂を併用することで、良好な目止め効果と、パテ塗膜として充分な塗膜強度とを付与することができるものである。
【0024】
上記重量平均分子量が3000~8000の範囲内であると、その上に塗装を行い加熱硬化する際に、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)の架橋が進み、架橋密度が高い硬化塗膜を形成することができる。上記重量平均分子量は、4000以上であることが好ましく、6000以上であることがより好ましい。
【0025】
本明細書における重量平均分子量は、東ソー株式会社製 HLC-8200を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定した値である。測定条件は以下の通りである。
カラム TSgelS uper Multipore HZ-M 3本
展開溶媒 テトラヒドロフラン
カラム注入口オーブン 40℃
流量 0.35ml
検出器 RI
標準ポリスチレン 東ソー株式会社製PSオリゴマーキット
【0026】
なお、本発明において「アクリル樹脂」とは、アクリル酸およびそのエステル、メタクリル酸およびそのエステルのうちの少なくとも一つのモノマーを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマーを指す。
【0027】
本発明に係る水酸基含有アクリル樹脂(B-1)を構成でき、上記条件を満たす好適なモノマー組成物としては、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するアクリル酸ヒドロキシエステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するメタクリル酸ヒドロキシエステル;のうちの少なくとも1つを含み、さらに、必要に応じて、アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボロニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸エステル;スチレン等の芳香環を有するエチレン性不飽和モノマー;等のうちの少なくとも1つを含む組成物が挙げられる。モノマー組成物の組成は水酸基含有アクリル樹脂(B-1)に求められる各種物性に応じて適宜調節すればよい。
【0028】
モノマー組成物は、例えば酢酸ブチル等の溶剤を用いて重合できる。また、溶剤の種類、重合時のモノマー組成物の濃度、或いは重合開始剤の種類、量、重合温度、重合時間等の重合条件は、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)に求められる各種物性に応じて適宜調節できる。したがって、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)の製造方法は特に限定されるものではなく、市販の水酸基含有アクリル樹脂(B-1)を用いてもよい。
【0029】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)は、水酸基価(OHV)が120~200mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。水酸基価がこのような範囲内とすることにより、塗膜に良好な架橋密度を付与できる点で好ましい。上記水酸基価の下限は、150mgKOH/gであることが更に好ましい。上記水酸基価の上限は、170mgKOH/gであることが更に好ましい。
なお、水酸基価は、JIS K 0070に記載されている水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求めることができる。
【0030】
水酸基含有アクリル樹脂(B-1)の配合割合は、光硬化成分(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)及び光重合開始剤(E)の総量100質量%に対し、4質量%以上、36質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、30質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)のガラス転移温度は、-15℃以上45℃以下であることが好ましく、0℃以上30℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度がこのような範囲内であることにより、塗膜は、高い架橋密度と弾性を有することができる。本明細書におけるガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC5200(セイコー電子製))にて以下の工程により測定した値を用いた。具体的には、昇温速度10℃/minにて20℃から150℃に昇温する工程(工程1)、降温速度10℃/minにて150℃から-50℃に降温する工程(工程2)、昇温速度10℃/minにて-50℃から150℃に昇温する工程(工程3)において、工程3の昇温時のチャートから得られる値をガラス転移温度とした。即ち、
図1で示されるチャートの矢印で示される温度をTg(ガラス転移温度)とした。
【0032】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)は、カルボキシル基を有するものであっても、有さなないものであってもよい。
カルボキシル基を有する場合には、上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)の固形分酸価(AV)は、0.5mgKOH/g以上15mgKOH/g以下であることが好ましく、2mgKOH/g以上10mgKOH/g以下であることがより好ましい。上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)の酸価がこのような範囲内にあることにより、基材および上塗り塗料との密着性を向上することができる。
【0033】
水酸基含有アクリル樹脂(B-2)
水酸基含有アクリル樹脂(B-2)は、重量平均分子量が10000~30000の範囲内である高分子量の水酸基含有アクリル樹脂である。
上記重量平均分子量が10000~30000の範囲内であると、本発明の光硬化性樹脂組成物の粘性を制御することができるため、良好な目止め効果を付与することができる。
上記重量平均分子量は、13000以上であることが好ましく、また、23000以下であることが好ましい。
【0034】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-2)を構成でき、上記条件を満たす好適なモノマー組成物としては特に限定されず、上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)で述べたものを用いることができる。
【0035】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-2)は、水酸基価(OHV)が5~70mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。水酸基価がこのような範囲内であることにより、熱硬化中の硬化収縮を低減し、寸法安定性の良く、密着性にすぐれた塗膜を得ることができる。上記水酸基価は、20~55mgKOH/gであることがより好ましい。
【0036】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-2)のガラス転移温度は、40℃以上100℃以下であることが好ましく、50℃以上80℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度がこのような範囲内であることにより、塗膜は、特に基材との優れた密着性を有することができる。
【0037】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-2)は、カルボキシル基を有するものであっても、有さなないものであってもよい。
カルボキシル基を有する場合には、上記水酸基含有アクリル樹脂(B-2)の固形分酸価(AV)は、0.5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることが好ましく、2mgKOH/g以上10mgKOH/g以下であることがより好ましい。上記水酸基含有アクリル樹脂(B-2)の酸価がこのような範囲内にあることにより、塗膜は、特に基材との優れた密着性を得ることができる。
【0038】
水酸基含有アクリル樹脂(B-2)の配合割合は、光硬化成分(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)及び光重合開始剤(E)の総量100質量%に対し、4質量%以上、36質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、30質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)及び(B-2)のSP値としては特に限定されないが、差が1未満であることが好ましい。SP値の差が1未満であると、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)及び(B-2)の相溶性が高いため、均一性の高い塗膜が形成でき、これによって、優れた物性を有する塗膜が形成できる点で好ましい。上記SP値の差は、0.5未満であることがより好ましい。
なお、本明細書においてSP値とは、濁度法によるSP値を意味する。上記SP値とは、solubility parameterの略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0040】
上記のように、本発明の光硬化性樹脂組成物は、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)のうちの一方又は両方がカルボキシル基を有さないものであってもよい。
【0041】
粒子成分(C)
上記光硬化性樹脂組成物は、更に、粒子成分(C)を含有する。上記粒子成分(C)を含有することにより、塗料の粘性を制御し、凹凸を隠ぺいするのに充分な厚みを確保して皮膜を形成することができる。また、被塗物表面の凹やピンホールに塗装直後で液状の塗料組成物が入り込みにくくなり、良好な目止め効果を得ることができる。
【0042】
上記粒子成分(C)としては、通常樹脂組成物に配合されるものであれば特に限定されないが、平均粒子径が20μm以下であることが好ましい。平均粒子径が20μm以下であると、より良好な目止め効果が期待できる。上記平均粒子径は、10μm以下であることがより好ましい。上記平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定したD50を表す。
【0043】
上記粒子成分(C)は、無機物質粒子であっても、有機高分子粒子であってもよい。上記無機物質粒子としては、天然または合成雲母、硫酸バリウム、アルミ粉、アルミフレーク、酸化鉄、カオリン・クレー、タルク、シリカ微粉末及び酸化チタンなどが挙げられる。シリカ微粉末としては湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。
【0044】
上記有機高分子粒子としては、ポリテトラフルオロエチレンをはじめとするフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、セルロース、ウレタン、ナイロン、ポリエステル、フェノール樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂及びその変性樹脂等が挙げられる。
【0045】
粒子成分(C)としては、なかでも、タルク、シリカ、カオリン・クレー中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記粒子成分(C)の配合割合は、光硬化成分(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)及び光重合開始剤(E)の総量100質量%に対し、6質量%以上、54質量%以下であることが好ましく、25質量%以上、45質量%以下であることがより好ましい。配合割合が6質量%未満であると塗液の流動性が高くなりピンホールに流入して塗膜表面の平滑性が損なわれる場合がある。一方、54質量%を超える量を配合すると、流動性が低くなり塗膜表面の平滑性が損なわれ、上塗り塗料の色相や平滑性が低下する場合がある。
【0047】
ポリイソシアネート(D)
上記光硬化性樹脂組成物は、さらに、ポリイソシアネート(D)を含むものである。
上記ポリイソシアネート(D)を配合することで、上に形成した塗膜を熱硬化する際に、上記水酸基含有アクリル樹脂(B-1)及び(B-2)と架橋構造を形成し、塗膜強度を高め、さらに塗装欠陥を抑制することができる。
また、上に形成した塗膜層との密着性を高め、複層塗膜としての強度を高めることもできる。
【0048】
上記ポリイソシアネート(D)の配合割合は、光硬化成分(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)及び粒子成分(C)の総量100質量%に対し、10~100質量%である。配合割合が10質量%未満であると塗膜の架橋密度が低くなり、ピンホールに内包された空気の膨張に塗膜が追随できず上塗り塗料の外観が不良になるおそれがある。一方、100質量%を超える量を配合すると、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)及び粒子成分(C)の総量が低くなることで、塗液の流動性が高くなり、ピンホールに流入して塗膜表面の平滑性が損なわれる場合がある。
【0049】
上記ポリイソシアネート(D)としては、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート等の芳香族のもの;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族のもの;イソホロンジイソシアネート等の脂環族のもの;その単量体及びそのビュレットタイプ、ヌレートタイプ、アダクトタイプ等の多量体等を挙げることができる。
【0050】
上記ポリイソシアネート(D)の市販品としては、デュラネート24A-90PX(NCO:23.6%、商品名、旭化成社製)、スミジュールN-3200-90M(商品名、住友バイエルウレタン社製)、タケネートD165N-90X(商品名、三井化学社製)、スミジュールN-3300、スミジュールN-3500(いずれも商品名、住友バイエルウレタン社製)、デュラネートTHA-100(商品名、旭化成社製)等を挙げることができる。また、必要に応じてこれらをブロックしたブロックイソシアネートを使用することもできる。
【0051】
光重合開始剤(E)
上記光硬化性樹脂組成物は、さらに、光重合開始剤(E)を含有することが好ましい。上記光重合開始剤(E)を含有することで、UV―LEDランプ等の小型で汎用性の高い光源を用いて好適に光照射を行うことができる。
上記光重合開始剤(E)は、紫外線、可視光線、近赤外線等の光線照射の光エネルギーで励起されることでラジカルを発生し、ラジカル重合を開始するものであればよく、開裂型光開始剤及び水素引抜型開始剤のいずれも使用することができ、光硬化成分(A)のアクリレート化合物のアクリロイル基の重合を開始させる化合物である。例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-[4-{4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)ベンジル}フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)、フェニルグリオキシリック酸メチル、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド系化合物、ベンゾフェノン、4-メチル-ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、ケトクマリン、2-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾイル蟻酸メチル、ビス(2-フェニル-2-オキソ酢酸)オキシビスエチレン、4-(1,3-アクリロイル-1,4,7,10,13-ペンタオキソトリデシル)ベンゾフェノン、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、3-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノンやその誘導体などが使用できる。
これら以外にも公知の開始剤系として、カチオン染料-ボレ-トアニオン化合物などのイオン染料-対イオン化合物の系(例えば、特開平1-60606号、特開平2-11607号公報)、金属アレ-ン化合物と有機色素の系(例えば、特開平4-363308号、特開平5-17525号公報)などが挙げられる。またシアニン系色素、フタロシアニン系色素、ピリリウム系色素、チオピリリウム系色素、アズレニウム系色素、スクアリリウム系色素、Ni、Cr等の金属錯塩系色素、ナフトキノン系・アントラキノン系色素、インドフェノ-ル系色素、インドアニリン系色素、トリフェニルメタン系色素、トリアリルメタン系色素、アミニウム系・ジインモニウム系色素、ニトロソ化合物等のカチオン色素類の錯体が使用できる。具体的には特開昭62-143044号、特開平2-11607号、特開平3-111402号、特開平5-194619号、特開平4-77503号公報等に開示されている近赤外光吸収性陽イオン染料-ボレ-ト陰イオン錯体、特開平2-189548号に開示されているシアニン系色素とハロゲン化メチル基を有するトリアジン化合物あるいはシアニン系化合物と金属アレ-ン化合物や、特開平5-17525号に開示されている金属アレ-ン化合物とスクアリリウム色素、特開平2-4804号公報等に開示されているカチオン色素とホウ酸塩などが挙げられる。
【0052】
上記光重合開始剤(E)を含有することにより、UV照射時の光源の選択の幅が広がるため好ましい。
上記光重合開始剤(E)の配合割合は、光硬化成分(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B-1)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)、粒子成分(C)及び光重合開始剤(E)の総量100質量%に対し、0.01質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。この範囲で使用することにより良好に硬化塗膜を作成することができる。
【0053】
上記光硬化性樹脂組成物は、塗料において使用される通常の添加剤を更に含有するものであってもよい。上記通常の添加剤としては、着色顔料、耐湿顔料、その他の樹脂、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン、表面調整剤等、公知の添加剤等を挙げることができる。
【0054】
上記光硬化性樹脂組成物は、高い目止め効果を発揮するよう粘性を調整したものであることが好ましく、塗装する塗料のチクソ値は、3以上、9以下であることが好ましい。塗料のチクソ値が3未満であると、塗料の流動性が高くピンホールに流入して塗膜表面の平滑性が損なわれる場合がある。塗料のチクソ値が9を超えると、塗料の流動性が低く、塗装後の塗料表面が平滑化しないため、上塗り塗料の平滑性、色相や外観が損なわれる。本明細書におけるチクソ値は、東洋精機株式会社製 TVB-22L BL型粘度計を用いて測定した値である。
測定方法とチクソ値の算出方法は、塗料を液温20℃に調整し、BL型粘度計に測定ローターを取り付け、ローター回転数 60回転/分、6回転/分の粘度を測定する。チクソ性の算出方法は、下記式で求める。
チクソ値 = (60回転/分の粘度値) / (6回転/分の粘度値)
【0055】
上記パテ塗料の塗装方法としては特に限定されず、例えば、FRP成形品を水系洗浄剤で洗浄した後、上記光硬化性樹脂組成物を成形品の表面に塗装し、その後紫外線照射してパテ層を形成することができる。また、塗装後、塗料に残存している溶剤を除去するために、UV照射前に風乾もしくは工程短縮のため脱溶剤工程を入れてもよい。
【0056】
上記塗付は特に限定されず、例えば、エアースプレー塗装、静電塗装、浸漬塗装等の公知の方法によって行うことができる。
上記塗付においては、乾燥膜厚が10~70μmとなるように行い、上記紫外線照射の前に常温~100℃で、5~25分、好ましくは5~20分の条件で、風乾もしくはプレヒートして溶剤を蒸発させることが好ましい。上記プレヒートの温度が100℃を超えると性能に影響はないが、経済上不利である。
上記紫外線照射は、上記プレヒートの後、500~5000mJ/cm2程度の条件で行うことが好ましい。上記紫外線照射によってパテ層を硬化させることができる。上記紫外線照射にあたっては、通常当該分野で用いられている高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、UV-LEDランプ、電子線等の活性エネルギー線を用いることができる。
【0057】
本発明の複層塗膜の形成方法は、さらに、アルミニウム蒸着層及びクリヤー塗料を含む上塗り塗料を塗装する工程を含むものである。具体的には、上記パテ層上にアルミニウム蒸着層を形成する工程(2)、及び、上記アルミニウム蒸着層上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程(3)を有するものである。
上記工程(2)は、紫外線照射して硬化させたパテ層上に、アルミニウム蒸着層を形成する工程であることが好ましい。
【0058】
また、上記アルミニウム蒸着層の形成の前に、必要に応じて第二の光硬化性樹脂組成物の塗装を施してもよい。パテ層上にさらにパテ層を塗装して形成した後、アルミニウム蒸着層を形成することが好ましい。パテ層二回塗ることで被塗物の凹凸の影響を受けずに、良好な鏡面仕上げとすることができ、好適である。
プライマー塗料としては特に限定されず、公知のプラスチック用プライマーを使用すればよい。
【0059】
本発明の複層塗膜の形成方法は、金属からなるものであるかのような、優れた金属調の外観を得るために、アルミニウム蒸着層を形成するものである。このような金属調意匠層を形成することで、めっき処理を施すことなく、良好な金属外観が得られる。また、上記パテ層とアルミニウム蒸着層との付着性が良好であり、被塗物に対するより優れた目止め効果が得られる。
【0060】
上記アルミニウム蒸着層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法により形成すればよい。
【0061】
上記アルミニウム蒸着層の厚みは、80~300nmであることが好ましい。80nmよりも薄いと下の層が透けて見えるために光沢が得にくく、300nmよりも厚いと色が付きやすい。
【0062】
本発明の積層塗膜の形成方法は、光硬化性樹脂組成物の塗装後に、もう一度光硬化性樹脂組成物の塗装を行ったのち、UV照射を行って表面を硬化させた後に、アルミニウム蒸着、クリヤー塗装を行ってもよい。加熱硬化は、第二の光硬化性樹脂組成物、クリヤー塗料の塗装毎に行ってもよく、生産性の面から第二の光硬化性樹脂組成物、アルミニウム蒸着、クリヤー塗料を塗装してから行ってもよい。このような方法で塗装を行うことで、光硬化性樹脂組成物の塗膜に一定の強度を付与していることから、加熱時の凹凸中に残存した気体の膨張を原因とする外観不良を大幅に低減することができる。
【0063】
上記クリヤー塗装については特に限定されず、例えば、公知のクリヤー塗料を塗布し、加熱硬化することで行うことができる。
【0064】
上記クリヤー塗料の塗布方法としては特に限定されず、たとえば、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装やベル塗装等を採用することができる。
【0065】
上記クリヤー塗料の焼き付け温度は、迅速な硬化とFRP成形品の変形防止との兼ね合いから、例えば、70~130℃とすることが好ましい。より好ましくは、80~120℃である。焼き付け時間は、通常10~60分間であり、好ましくは15~50分間、さらに好ましくは20~40分間である。焼き付け時間が10分間未満であると、塗膜の硬化が不充分であり、硬化塗膜の耐水性及び耐溶剤性などの性能が低下する。他方、焼き付け時間が60分間を超えると、硬化しすぎでリコートにおける密着性などが低下し、塗装工程の全時間が長くなり、エネルギーコストが大きくなる。なお、この焼付け時間は、基材表面が実際に目的の焼き付け温度を保持しつづけている時間を意味し、より具体的には、目的の焼き付け温度に達するまでの時間は考慮せず、目的の温度に達してから該温度を保持しつづけているときの時間を意味する。
【0066】
塗料の未硬化膜を同時に焼き付けるのに用いる加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線などの加熱源を利用した乾燥炉などが挙げられ、また、これら加熱源を2種以上併用した乾燥炉を用いると、乾燥時間が短縮されるため好ましい。
【0067】
本発明の複層塗膜の形成方法は、特に、表面に凹凸を有する素材のパテとして好適に使用することができる。
表面に凹凸を有する素材(被塗物)としては特に限定されないが、ガラス、カーボン、ケブラー、高分子ポリエチレン、ボロン、ザイロンなど繊維を複合したFRP素材等を挙げることができる。また、吸水率の高い樹脂においても、熱硬化時に水の蒸発による欠陥を防止するこができるため、ナイロン、ABS、ASA、PET、PBT-PET、PMMA、ポリカなどの素材にも適用することができる。
これらの素材はヘッドランプ、テイルランプ、サイドランプ等の自動車反射鏡、スポイラー等の車両用部材等に汎用されており、したがって、本発明の複層塗膜の形成方法は、車両の塗装方法として好適に用いることができる。
【0068】
上述のように、本発明の複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜を有する塗装物品も本発明の一つである。すなわち、本発明の塗装物品は、被塗物上に、光硬化性樹脂組成物からなるパテ層、アルミニウム蒸着層及びクリヤー塗膜、さらに必要に応じてプライマー層を有するものである。
上記塗装物品として具体的には、FRP製の自動車ボディ、自動車反射鏡、スポイラー、ドアハンドル、ミラー、フロントグリルなどの各種自動車部品などを挙げることができる。本発明により、被塗物表面の凹凸を隠ぺいし、金属調の塗膜を有する塗装物品を得ることができる。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例によって説明する。実施例中、配合割合において「%」、「部」とあるのは特に言及がない限り「質量%」、「質量部」を意味する。本発明は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0070】
製造例1 水酸基含有アクリル樹脂1-(1)の合成
加熱装置、攪拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入管、滴下装置を備えた4つ口フラスコに、酢酸ブチル100部を仕込み、攪拌および窒素を導入しながら120℃に昇温させた。次いで、滴下装置から、スチレン 10.0部、メタクリル酸2-エチルヘキシル 55.2部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート 34.8部および重合開始剤であるカヤエステル-O 10部の混合溶液を3時間かけて滴下した。次いで、120分攪拌を継続して反応を完了させ、目的とする水酸基含有アクリル樹脂1-(1)を得た(樹脂固形分 50%)。水酸基含有アクリル樹脂1-(1)の配合量および物性を表1に示す。
【0071】
製造例2~11 アクリル樹脂1-(2)~1-(11)の製造
水酸基含有アクリル樹脂1-(1)の合成で用いた設備と同様の設備を用いて、表1に記載の配合量となるように溶剤、モノマー、開始剤、重合温度に変更した以外は水酸基含有アクリル樹脂1-(1)の操作と同様の合成手順、操作を行い、表1に記載の水酸基含有アクリル樹脂1-(2)~1-(10)を得た。物性も合わせて表1に示す。
【0072】
(水酸基価(OHV))
水酸基価は、JIS K 0070に記載されている水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求めた。
【0073】
(重量平均分子量)
重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した値であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0074】
(溶解性パラメーター(SP値))
溶解性パラメーター(SP値)を本明細書記載の方法により実測した。
【0075】
(ガラス転移温度(Tg))
ガラス転移温度(Tg)を、セイコー電子工業社製DSC(Differential Scanning Calorimeter)を用いて測定した。
【0076】
【表1】
St:スチレン
EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
重合開始剤:カヤエステル-O(化薬アクゾ社製の過酸化水素系重合開始剤)
【0077】
製造例12~21 アクリル樹脂2-(1)~2-(10) の製造
水酸基含有アクリル樹脂1-(1)の合成で用いた設備と同様の設備を用いて、表2に記載の配合量となるように溶剤、モノマー、開始剤、重合温度に変更した以外は水酸基含有アクリル樹脂1-(1)の合成の操作と同様の合成手順、操作を行い、表2に記載の水酸基含有アクリル樹脂2-(1)~2-(10)を得た。物性も合わせて表2に示す。
【0078】
【0079】
光硬化成分(A)
使用した光硬化成分(A)は、以下の通りである。
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(サートマー社製:SR295)
ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(サートマー社製:SR355)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(サートマー社製:DPHA)
【0080】
粒子成分(C)
粒子成分(C)として、シリカペースト1を以下のように調製し、使用した。
(アクリル樹脂3の製造方法)
加熱装置、攪拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入管、滴下装置を備えた4つ口フラスコに、トルエン22部、メチルイソブチルケトン44部を仕込み、攪拌および窒素を導入しながら120℃に昇温させた。次いで、滴下装置から、メチルメタクリレート 7.6部、ブチルアクリレート 52.3部、ブチルメタクリレート 15.9部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート 23.2部、メタクリル酸 1.0部および重合開始剤であるカヤエステル-O 0.08部の混合溶液を3時間かけて滴下した。次いで、120分攪拌を継続して反応を完了させ、目的とするアクリル樹脂3を得た(樹脂固形分 60%)。
得られたアクリル樹脂3の分子量(MW)は49000、SPは10.6、Tgは-14であった。
【0081】
(シリカペースト1の作製方法)
ビーズミル分散機内にアクリル樹脂3を54部、トルエン10部、メチルイソブチルケトン10部、SIPERNAT 22LS(商品名、日本アエロジル社製)10部を仕込み、2mmジルコンビーズにて分散した。この分散溶液に、ディスパロン 6901-20X(商品名、楠本化成社製)1.2部、キシレン3.8部、とエタノール0.7部、メタノール0.3部の混合液を加えた。その後トルエン5部、メチルイソブチルケトン5部を加え希釈しシリカペースト1を得た。
得られたシリカペースト1は粘度60KU、粒度10μm以下であった。
【0082】
ポリイソシアネート(D)
使用したポリイソシアネート(D)は、以下の通りである。
TPA-100(イソシアヌレート型):旭化成株式会社製ヘキサメチレンイソシアヌレート
24A-100(ビュレット型):旭化成株式会社製ヘキサメチレンジイソシアネート
P301-75E(アダクト型):旭化成株式会社製ヘキサメチレンイソシアヌレート
【0083】
光重合開始剤(E)
ベンゾフェノン (商品名ベンゾフェノン:デーケーファイン社製)
フェニルグリオキシリック酸メチル (商品名Omnirad MBF:IGM RESINS社製)
【0084】
実施例1
攪拌機を備えた容器に、表3に示した各成分を入れ、攪拌しながら最終の塗料がNV=30%となる量のMEKを入れ、30分間攪拌し、光重合性樹脂組成物を得た。得られた光重合性樹脂組成物は、FRP素材上に乾燥膜厚が35μmとなるようにスプレー塗装し、熱風乾燥炉にて80℃×5分間加熱して脱溶剤を行った。次いで、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス社製、ECS-4011GX)を用いて、積算光量2000mJ/cm2の紫外線を照射し硬化塗膜を得た。ここで紫外線照射における光量は、アイグラフィックス社製アイ紫外線積算照度計 UV METER UVPF-A1(受光部 365nm)を用いて測定を行った。
【0085】
実施例2~35、比較例1~12
表3~8に記載の配合になるように変更した以外は、実施例1と同様に実施例2~35、比較例1~12の塗膜を形成し最終塗板を得た。
【0086】
積層膜の形成
上記実施例および比較例のパテ塗料を塗装し硬化させた後に、以下の方法にて積層膜を形成した。
上記実施例および比較例のパテ塗料を塗装し硬化させた後に、室温まで放置冷却した後、真空蒸着装置を用いて、6.0×10-4Pa以下、6Vの電圧条件下で、厚さ150nmのアルミニウム層を蒸着により形成した。
得られたアルミニウム蒸着層の上に、クリヤー塗料組成物(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製:R-2830)を乾燥塗膜の膜厚が25μmとなるように塗装した。塗装完了後、10分間静置した後に80℃で30分間加熱硬化を行うことで複層塗膜を有する試験片を得た。
【0087】
[目止め機能の効果(光硬化性樹脂組成物の硬化膜での評価)]
・FRP素材上の凹やピンホールへの塗料流入を抑制して隠ぺいする目止め効果
FRP素材に光硬化性樹脂組成物を塗装し、UV硬化した評価板にて、塗膜表面にFRP素材の凹やピンホールが隠ぺいされて目視にて欠陥がないときを◎、わずかに凹やピンホールが認められるときを○、凹もしくはピンホールのいずれかが隠ぺいされていないときを△、凹やピンホールの隠ぺいできていないときを×とした。
◎:FRP素材の凹やピンホールが隠ぺいされて目視にて欠陥がないとき
○:わずかに凹やピンホールが認められるとき
△:凹もしくはピンホールのいずれかが隠ぺいされていないとき
×:凹やピンホールが隠ぺいできていないとき
【0088】
[目止め機能の効果(積層膜での評価)]
・FRP素材に内包された空気膨張を抑制する目止め効果
光硬化性樹脂組成物を塗装したFRP素材に、UV硬化し、アルミニウム層を蒸着した後、クリヤー塗料を塗装し、熱硬化した評価板にて、塗膜表面に気泡が破裂して形成された欠陥がないときを◎、わずかに塗膜の膨れがあるが破裂による欠陥がないときを○、塗膜の膨れが多数あるが破裂による欠陥がないときを△、塗膜の膨れが多数あり、破裂による欠陥が多数あるときを×とした。
◎:塗膜表面に気泡が破裂して形成された欠陥がないとき
○:わずかに塗膜の膨れがあるが破裂による欠陥がないとき
△:塗膜の膨れが多数あるが破裂による欠陥がないとき
×:塗膜の膨れがあり、破裂による欠陥が多数あるとき
【0089】
[積層膜の密着性]
光硬化性樹脂組成物を塗装したFRP素材に、UV硬化し、アルミニウム層を蒸着した後、クリヤー塗料を塗装し、熱硬化した評価板にて、試験片の表面に片刃剃刀にて2mm間隔にて基盤目100個を作り、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z 1522)を十分に圧着し、90°方向に速やかに引き剥がして、塗膜の剥離状態を残存塗膜の基盤目数にて評価した。100個がそのまま残存しているときを○、60~99個残存しているときをΔ、60個を下回るときを×とした。
[塗膜の付着性]
○:100個がそのまま残存しているとき
△:60~99個残存しているとき
×:60個を下回るとき
【0090】
[耐温水試験]
上述の初期密着性評価と同様に作成した試験片を40℃の温水中に240時間浸漬し、水から引き上げ、1時間常温にて乾燥した後、初期密着性評価と同様に基材への付着性を調べた。
[耐温水試験後の付着性]
○:100個がそのまま残存しているとき
△:60~99個残存しているとき
×:60個を下回るとき
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
上述した各実施例の結果より、本発明の複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜が良好な塗膜物性を得ることができることが明らかである。