(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049034
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】医療用ポリスルホン
(51)【国際特許分類】
A61L 31/06 20060101AFI20230331BHJP
C08G 65/38 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
A61L31/06
C08G65/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153612
(22)【出願日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2021157807
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】長尾 千歳
(72)【発明者】
【氏名】栗本 理央
【テーマコード(参考)】
4C081
4J005
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BC02
4C081CA28
4J005AA23
4J005BB01
4J005BD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非特異吸着を抑制しつつ目的とするウィルス等の対象を選択的且つ効率的に捕捉し、湿潤条件下での寸法安定性に優れる医療用ポリスルホンを提供する。
【解決手段】例えば、下記の化学構造を有するポリスルホンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)、(2)及び(3)がそれぞれ構造式(4)で結合されている3種の繰り返し単位を有することを特徴とする医療用ポリスルホン。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
[ただし構造式(1)、(2)、(3)及び(4)中のAr
1~Ar
6はそれぞれ独立に炭素数6乃至12の芳香族炭化水素基であり、構造式(1)中のXはメチル基又はトリフルオロメチル基であり、構造式(2)と(3)中のYはそれぞれ独立に炭素数1~6の炭化水素基であり、構造式(2)中のZ1はカルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基、ヒドロキシ基及び炭素数1~6のヒドロキシアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基であり、構造式(3)中のZ2は炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、及び炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基であり、Z2で表される官能基の一部であるポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良く、{構造式(1)、(2)及び(3)の繰り返し単位の合計モル量中に占める構造式(3)の繰返し単位のモル分率 N}と(ポリエチレンオキシド成分の数平均分子量 Mn)の積が60を超え360未満である。]
【請求項2】
構造式(1)、(2)、(3)及び(4)中のAr
1~Ar
6が全て1,4-フェニレン基であり、構造式(1)のXはトリフルオロメチル基であり、構造式(2)と(3)中のYはメチル基であり、構造式(2)中のZ1は2-カルボキシエチル基であり、構造式(3)中のZ2で表される官能基の一部であるポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良いポリエチレンオキシドカルボニルエチル基であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポリスルホン。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【請求項3】
構造式(3)中のZ2における炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、又は炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基のポリエチレンオキシド成分の数平均分子量が400以上5000以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポリスルホン。
【請求項4】
構造式(3)中のZ2における炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、又は炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基のポリエチレンオキシド成分の数平均分子量が500以上2000以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポリスルホン。
【請求項5】
下記数式(5)で示される繰り返し単位の組成比Mが0.05以上0.50以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポリスルホン。
M=(M2+M3)/(M1+M2+M3) (5)
[但し数式(5)中のM1、M2、M3は、医療用ポリスルホンにおける上記構造式(1)、式(2)、式(3)それぞれの繰り返し単位のモル量である。]
【請求項6】
組成比Mが0.10以上0.40以下であることを特徴とする請求項5に記載の医療用ポリスルホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非特異吸着を抑制しつつ特定のタンパク質、ウィルス、細胞、ホルモン等の生体分子を選択的に捕捉する事が可能なポリスルホンに関する。また本発明のポリスルホンは、湿潤条件下における寸法安定性にも優れるため、呼気や血液、涙、汗、唾液等の体液を介する高精度検査デバイス等の製造に好適である。
【背景技術】
【0002】
目下猛威を振るっているCOVID-19ウィルスにおいても感染の検査方法としてはPCR検査やイムノアッセイの如き検査デバイスが主流である。PCR検査については精度に優れる反面、ウィルスのRNAを増殖するプロセスに時間を要し、被験者が結果を得るまでに長時間を要する(例えば、特許文献1参照。)。一方、イムノアッセイに関しては15乃至30分程度で結果が得られるものの、ターゲットとするウィルスが判明している場合にのみに使用が制限されることと、同種ウィルスにおいても変異株の一部が検出されないこと等が依然問題となっている(例えば、特許文献2参照。)。これらの検査デバイスには対象を特異的に捕捉する因子が固定されている。一例としては、ウィルスに対する抗原抗体である。これらの検査については被験者の血液、或いは尿、唾液の如き体液を接触させることによって実施されるが、その精度、或いは検出速度が十分でない最大の理由としては、抗原抗体に対し、ウィルスとは無関係のタンパク質、細胞、その他夾雑物による非特異吸着も惹起されるためであることが知られている(例えば、特許文献3参照。)。従って、より迅速簡便かつ高精度な検査方法の提供に関しては、非特異吸着を抑制しつつ、目的とする捕捉対象を選択的に捕捉する抗原抗体を具備し、更には高精度な検出感度を実現する寸法安定性に優れた基材樹脂が望まれている。
【0003】
非特異吸着を抑制するための高分子材料としてはポリ-2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(通称MPCポリマー)、或いはポリ-2-メトキシエチルアクリレートが知られており、何れも高い非特異吸着抑制能を示す(例えば、特許文献4,5参照。)。然しながらこれらの高分子材料自体には抗原抗体が結合されておらず、またそのための官能基も有さないため、選択的な検査対象の捕捉は不可能である。非特異吸着抑制能と選択的な検査対象の捕捉を両立する手段としては、基材となる高分子材料にプラズマを照射し、表面に生じたラジカルよりポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(2-ヒドロキシエチル)メタクリル酸等をグラフト重合し(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)、その末端基若しくは側鎖官能基に化学反応を用いて抗体、ペプチド、医薬等が固定化される(例えば、特許文献6、非特許文献3参照。)。それにより確かに対象とするウィルス等を選択的に捕捉することについては一定の効果が認められるものの、製造プロセスが煩雑になること、最終的に抗体、ペプチド、医薬等が検査デバイス表面に均一に配し難いこと、湿潤条件下での膨潤は免れないことが課題として残る(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照。)。さらに検査基材表面にアルブミン等の生体分子を被覆することでブロッキングする方法があるが(例えば、特許文献7参照。)、一様に抗体固定化後の被覆であるため、一部認識部位が埋没し検出感度が低下する。一方、これまでポリスルホンは再生セルロース膜と比較して血液適合性に優れる観点から、人工腎臓内部の中空糸膜として利用されてきたが(例えば、特許文献8参照。)、抗血栓性や非特異吸着抑制能は不十分であった。また非特異吸着抑制能が良好なポリスルホン材料としては、ポリアルキルエーテル単位を含む特定のポリスルホン及びポリケトンが挙げられるが基材が血液、唾液等の検体と接触することで、膨潤し寸法安定性の求められる領域に使用することは困難である。
【0004】
そこで本発明はイムノクロマト等の検査基材に被覆可能かつ加工性が良好で、目的物を選択的に捕捉する抗体等を固定化する官能基を有し、さらに検体中夾雑物吸着を抑制し得る医療用ポリスルホンを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-080806号公報
【特許文献2】特開2013-019888号公報
【特許文献3】特開2020-052017号公報
【特許文献4】特開2013-234160号公報
【特許文献5】国際公開16/039319号パンフレット
【特許文献6】特開2017-122638号公報
【特許文献7】特開2008-170417号公報
【特許文献8】特開2000-157852号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chemical Society reviews 40:2567-2592 (2011)
【非特許文献2】Biomacromolecules 1: 39-48 (2000)
【非特許文献3】Langmuir 20 : 11285-11287
【非特許文献4】Biointerphases 2:126 (2007)
【非特許文献5】Analytical Chemistry 77:1075-1080(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、非特異吸着を抑制しつつ目的とするウィルス等の対象を選択的且つ効率的に捕捉し、湿潤条件下での寸法安定性に優れる医療用ポリスルホンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は生体適合性と滅菌耐性に優れたポリスルホンの構造について鋭意検討を行ったところ、熱や電子線等による滅菌耐性を確保しつつ各種有機溶媒に対する溶解性を高めるために、非特異吸着を抑制するポリエチレンオキシド基についてはポリスルホンの側鎖に配し、更にその側鎖残基に抗体等の生理活性物質を共有結合せしめたところ、驚くべきことに、湿潤条件下での極めて優れた寸法安定性を見出し、非特異吸着を抑制しつつ、目的とするウィルス等の対象を選択的且つ効率的に捕捉し、湿潤条件下での寸法安定性に優れる医療用ポリスルホンの完成に至った。即ち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
<1>下記構造式(1)、(2)及び(3)がそれぞれ構造式(4)で結合されている3種の繰り返し単位を有することを特徴とする医療用ポリスルホン。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
[ただし構造式(1)、(2)、(3)及び(4)中のAr1~Ar6はそれぞれ独立に炭素数6乃至12の芳香族炭化水素基であり、構造式(1)中のXはメチル基又はトリフルオロメチル基であり、構造式(2)と(3)中のYはそれぞれ独立に炭素数1~6の炭化水素基であり、構造式(2)中のZ1はカルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基、ヒドロキシ基及び炭素数1~6のヒドロキシアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基であり、構造式(3)中のZ2は炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、及び炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基であり、Z2で表される官能基の一部であるポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良く、{構造式(1)、(2)及び(3)の繰り返し単位の合計モル量中に占める構造式(3)の繰返し単位のモル分率 N}と(ポリエチレンオキシド成分の数平均分子量 Mn)の積が60を超え360未満である。]
【0015】
<2>構造式(1)、(2)、(3)及び(4)中のAr1~Ar6が全て1,4-フェニレン基であり、構造式(1)のXはトリフルオロメチル基であり、構造式(2)と(3)中のYはメチル基であり、構造式(2)中のZ1は2-カルボキシエチル基であり、構造式(3)中のZ2で表される官能基の一部であるポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良いポリエチレンオキシドカルボニルエチル基であることを特徴とする<1>に記載の医療用ポリスルホン。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
<3>構造式(3)中のZ2における炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、又は炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基のポリエチレンオキシド成分の数平均分子量が400以上5000以下であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の医療用ポリスルホン。
<4>構造式(3)中のZ2における炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、又は炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基のポリエチレンオキシド成分の数平均分子量が500以上2000以下であることを特徴とする<1>~<3>の何れか1項に記載の医療用ポリスルホン。
<5>下記数式(5)で示される繰り返し単位の組成比Mが0.05以上0.50以下であることを特徴とする<1>~<4>の何れか1項に記載の医療用ポリスルホン。
M=(M2+M3)/(M1+M2+M3) (5)
[但し数式(5)中のM1、M2、M3は、医療用ポリスルホンにおける上記構造式(1)、式(2)、式(3)それぞれの繰り返し単位のモル量である。]
<6>組成比Mが0.10以上0.40以下であることを特徴とする<5>に記載の医療用ポリスルホン。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、タンパク質や細胞等の夾雑物の吸着を阻害し、目的とするウィルス等の検査対象のみを効率的に捕捉する事が可能な医療用ポリスルホンの製造が可能である。
それによって、従来製品にて充足されない検査速度、及び検査感度の双方に優れた検査デバイスの提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に記載する。
【0023】
本発明の医療用ポリスルホンは、非特異吸着を抑制する性能に優れ、特定のウィルスや細胞等を選択的に捕捉し、体内、或いは体液接触等、湿潤環境下においても溶出や膨潤等を惹起しない寸法安定性を有する。即ち、ウィルス検査デバイス等においては検出感度の低下、或いは検出時間の長期化といった不具合を惹起するタンパク質吸着や血小板粘着を抑制し、抗原抗体反応などにより捕捉対象とするウィルスや細胞等を選択的に捕捉することができる。また、湿潤環境下での溶出や膨潤等の寸法変化は、ウィルス検査デバイスの検出感度低下、或いは検出時間遅延を惹起するが、本発明の医療用ポリスルホンは湿潤環境下での寸法安定性にも優れ、かかる課題をも同時に解決することができる。
【0024】
<ポリスルホンの繰返し単位における各官能基>
上記のような性質を発揮するための分子構造は、下記構造式(1)に示される官能基を有する疎水性の芳香族ジオール、構造式(2)及び構造式(3)に示される官能基を有する芳香族ジオール及び構造式(4)に示されるビスアリール芳香族スルホンが重縮合されて得られる、ポリスルホンを主たる骨格としたものである。ポリスルホンは高強度、高耐熱性、高滅菌耐性に加え、生体に対して不活性であり、人工腎臓等の医療機器への使用実績もある。
【0025】
以下詳細に説明する本発明の医療用ポリスルホンは、下記構造式(1)、(2)及び(3)がそれぞれ構造式(4)で結合されている3種の繰り返し単位を有することを特徴とする医療用ポリスルホンである。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
[ただし構造式(1)、(2)、(3)及び(4)中のAr1~Ar6はそれぞれ独立に炭素数6乃至12の芳香族炭化水素基であり、構造式(1)中のXはメチル基又はトリフルオロメチル基であり、構造式(2)と(3)中のYはそれぞれ独立に炭素数1~6の炭化水素基であり、構造式(2)中のZ1はカルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基、ヒドロキシ基及び炭素数1~6のヒドロキシアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基であり、構造式(3)中のZ2は炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、及び炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基であり、Z2で表される官能基の一部であるポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良く、{構造式(1)、(2)及び(3)の繰り返し単位の合計モル量中に占める構造式(3)の繰返し単位のモル分率 N}と(ポリエチレンオキシド成分の数平均分子量 Mn)の積が60を超え360未満である。]
【0031】
本発明の医療用ポリスルホンにおいてAr1~Ar6はそれぞれ独立に炭素数6乃至12の芳香族炭化水素基を表す。炭素数6乃至21の芳香族炭化水素基としてはフェニル基、ナフチレン基が挙げることができ、詳細には1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、1,6-ナフチレン基、1,7-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、又は2,7-ナフチレン基である。これらの中でも1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、又は2,6-ナフチレン基が好ましく、1,4-フェニレン基がより好ましい。これらの官能基を選択することで本発明の医療用ポリスルホンは、必要な耐熱性、機械的強度を達成することができる。これらの芳香族炭化水素基Ar1~Ar4の一方はエーテル結合を介して、構造式(4)中のAr5~Ar6の芳香族炭化水素基と、芳香族炭化水素基Ar5~Ar6の一方はエーテル結合を介して構造式(1)~(3)中の芳香族炭化水素基Ar1~Ar4と結合している。構造式(1)中のXに疎水性官能基であるメチル基又はトリフルオロメチル基を表し、これらの構造式においてこのような種類の官能基を配置することで本発明のポリスルホンの主たる力学物性と耐水性を発現している。中でも構造式(1)中のXはトリフルオロメチル基であることが好ましい。構造式(1)のAr1とAr2が1,4-フェニレン基であり、Xがトリフルオロメチル基である場合がより好ましい。
【0032】
構造式(2)及び(3)中のYは炭素数1~6の炭化水素基を示し、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基が例示することができる。好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。また、構造式(2)中のZ1はカルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基、ヒドロキシ基及び炭素数1~6のヒドロキシアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基である。炭素数1~6のアルキル基の部分の基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基を例示することができる。これらの中でメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基,n-ブチル基を好ましく選択することができる。カルボキシル基、ヒドロキシ基の上記の炭素数1~6のアルキル基に対する置換場所であるが、α位、β位、γ位など特段の制限はないが、好ましくはω位にカルボキシル基、ヒドロキシ基を有するアルキル基である場合である。
【0033】
また、構造式(3)の中のZ2は、炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、及び炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基であり、各ポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良い。構造式(3)中のZ2におけるポリエチレンオキシド成分に接続した炭素数1~6のアルキル基については、上記の構造式(2)中のZ1の炭素数1~6のアルキル基と同様な官能基を選択することが好ましい。また、各ポリエチレンオキシド成分の末端に配置された炭素数1~3のアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、n-プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。ハロゲン基としてはフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を挙げることができる。
【0034】
構造式(1)~(3)中の各種の官能基の組合せの中で、より好ましいのは構造式(1)、(2)、(3)及び(4)中のAr1~Ar6が全て1,4-フェニレン基であり、構造式(1)のXはトリフルオロメチル基であり、構造式(2)と(3)中のYはメチル基であり、構造式(2)中のZ1は2-カルボキシエチル基であり、構造式(3)中のZ2で表される官能基の一部であるポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良いポリエチレンオキシドカルボニルエチル基である場合である。
【0035】
更にこれらのZ1とZ2の官能基の中の組み合わせとしては、Z1がカルボキシル基、又は炭素数1~6のカルボキシアルキル基の場合には、Z2は炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基又はポリエチレンオキシドアミドアルキル基であることが好ましい。更にこれらのZ1とZ2の組み合わせで最も好ましいのは、Z1がカルボキシル基、又は炭素数1~6のカルボキシアルキル基であり、Z2は炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基での組み合わせである。これらの事項を統合的に踏まえると、最も好ましいのは、Z1が2-カルボキシエチル基、Z2が2-ポリエチレンオキシドカルボニルエチル基の場合である。
【0036】
本発明のポリスルホンにおいては、上記の構造式(1)、(2)及び(3)がそれぞれ構造式(4)で結合されている3種の繰り返し単位を有する。言い換えると、構造式(1)の両隣には構造式(4)が配置され、同様に構造式(2)、構造式(3)の両隣には構造式(4)が配置されている化学構造を有する。すなわち、以下に本発明のポリスルホンのより好ましい態様の繰返し単位を詳細に示すが、高分子の構成単位を繰返し単位として表すとすると、構造式(1)と構造式(4)、構造式(2)と構造式(4)、及び構造式(3)と構造式(4)の3種の繰返し単位の共重合ポリスルホンであると表現することもできる。
【0037】
本発明のポリスルホンとして、代表的な2種の例について以下に繰返し単位の化学構造式を示す。
1)Ar1~A6がすべて1,4-フェニレン基であり、Xがトリフルオロメチル基であり、Yがメチル基であり、Z1が2-カルボキシエチル基、Z2が2-ポリエチレンオキシドカルボニルエチル基の場合
【0038】
【0039】
2)Ar1~A6がすべて1,4-フェニレン基であり、Xがトリフルオロメチル基であり、Yがメチル基であり、Z1が2-カルボキシエチル基、Z2が2-ポリエチレンオキシドアミドエチル基の場合
【0040】
【0041】
[上記高分子の化学構造式において、l、m、qは後述するモル分率Nとポリエチレンオキシド成分の数平均分子量Mnの積が60を超え360未満を示す任意の数である。]
【0042】
<組成比Mと、ポリエチレンオキシド成分のモル分率Nと数平均分子量>
本発明において、非特異吸着抑制能、抗体等の生理活性物質の固定化の実現、及び湿潤環境下における寸法安定性の充足のためには構造式(1)~(3)の繰返し単位のモル量の和に対する構造式(2)と構造式(3)のモル量の和の比率を表す組成比M、及び構造式(2)と構造式(3)の繰返し単位のモル量の和に対する構造式(3)のモル量の和の比率を表すモル分率Nの適正範囲が非常に重要である。組成比M、モル分率Nについては以下の数式(5)、(6)で表すことができる。下記数式で示される組成比Mについては好ましくは0.05以上0.50であり、より好ましくは0.10以上0.40以下であり、更に好ましくは0.15以上0.30以下である。Mが0.05未満の場合、医療用ポリスルホンは非特異吸着抑制能、生理活性物質の固定部位を有効量有さず、またMが0.50を超える場合、非特異吸着抑制能、及び生理活性物質の固定部位については充足されるが、湿潤環境下で溶出、又は膨潤を惹起し、いずれも本発明の目的を達成することは不可能である。
【0043】
M=(M2+M3)/(M1+M2+M3) (5)
N=M3/(M2+M3) (6)
[但し数式(5)及び数式(6)中のM1、M2、M3は、医療用ポリスルホンにおける上記構造式(1)、式(2)、式(3)それぞれの繰り返し単位のモル量である。]
【0044】
構造式(3)中のZ2で表される官能基の一部であるポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良い炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基、及びポリエチレンオキシドアミドアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基を構成しているポリエチレンオキシド成分の数平均分子量については400以上5000以下が好ましく、より好ましくは500以上2000以下であり、更に好ましくは800以上2000以下である。数平均分子量が400未満である場合、非特異吸着抑制能が実質的に発現せず、数平均分子量が5000を超える場合は医療用ポリスルホンの湿潤環境下での寸法安定性の悪化につながり、何れも本発明の目的を達成することは出来ない。また、構造式(2)中のZ1と構造式(3)中のZ2で表される総モル数に占めるポリエチレンオキシド成分の末端がヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良いポリエチレンオキシドカルボニル基中のポリエチレンオキシド成分、又はポリエチレンオキシドアミド基のポリエチレンオキシド成分のモル数の比率を表すモル分率Nは、好ましくは0.05以上0.95以下であり、より好ましくは0.1以上0.8以下であり、更により好ましくは0.2以上0.70以下である。モル分率Nが0.05未満である場合、医療用ポリスルホンの非特異吸着抑制能が発揮されず、0.95を超える場合はウィルス等の選択的且つ効率的な捕捉能が低下してしまう。
【0045】
本発明においては、モル分率Nとポリエチレンオキシド成分の数平均分子量Mnの積は60を超え360未満であることが必要である。好ましくは65以上350以下であり、より好ましくは70以上300以下であり、更により好ましくは75以上250以下である。であることにより、この数値が60以下であると医療用ポリスルホンの非特異吸着抑制能が発揮されず、360以上である場合はウィルス等の選択的且つ効率的な捕捉能が低下してしまう。
【0046】
<製造方法>
かかる本発明の医療用ポリスルホンの製造方法については各種挙げることができるが、代表的な製造方法としては以下の方法を挙げることができる。基本的なポリスルホンの主鎖の製造方法については、従来知られている手法で製造することが可能である。すなわちジヒドロキシ化合物又はビスヒドロキシアリール化合物と、ビス(ハロゲノアリール)スルホン化合物と、双方の化合物が可溶な溶媒中、塩基化合物の存在下に重縮合反応を行った後、得られたポリスルホンを貧溶媒中に投入して好ましくは酸存在下の水、低級アルコールなどのポリスルホンに対する再沈殿操作を行う等の手法により得ることができる。塩基化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物等の無機化合物、トリアルキルアミン、ピリジン若しくはその誘導体、トリエチレンジアミン若しくはその誘導体又はジメチルイミダゾリジノン若しくはその誘導体等の有機アミン化合物を挙げることができる。
【0047】
本発明のポリスルホンの化学構造の特徴の1つであるZ1とZ2の官能基の組み合わせをポリスルホンに導入する方法としては、概ね以下の2種類の製造方法を挙げることができる。
【0048】
第一の製造方法は、予めジヒドロキシ化合物又はビスヒドロキシアリール化合物(以下「ビスヒドロキシアリール化合物」と称することがある。)として、以下の方法を挙げることができる。Z2の官能基を有する化合物(構造式(3)に対応するビスヒドロキシアリール化合物)を用いずに、構造式(1)に対応するビスヒドロキシアリール化合物と、すべてがZ1が表す官能基の群、即ちカルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基、ヒドロキシ基及び炭素数1~6のヒドロキシアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物(構造式(2)に対応するビスヒドロキシアリール化合物)を選択する。次に、その2種のビスヒドロキシアリール化合物と、そのモル量に対応する適切なモル量のビス(ハロゲノアリール)スルホン化合物(構造式(4)に対応する)と縮合反応を行い、ポリスルホンを製造する。その得られたポリスルホンに対して、高分子反応にてこれらZ1の一定量(割合)を、ポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良いポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール)と縮合反応させる方法である。ポリエチレンオキシド成分の末端の一部又は全部が置換される例としてはポリエチレンオキシドの末端ヒドロキシ基がメトキシ基、エトキシ基、アセチル基、フェノキシ基にて封止されているものである。
【0049】
第二の製造方法として、以下の方法を挙げることができる。構造式(1)に対応するビスヒドロキシアリール化合物と、構造式(2)中のZ1がカルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基、ヒドロキシ基及び炭素数1~6のヒドロキシアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基を有する構造式(2)に対応するビスヒドロキシアリール化合物と、構造式(3)中のZ2がポリエチレンオキシド成分の末端はヒドロキシ基、ハロゲン基、又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていても良い炭素数1~6のポリエチレンオキシドカルボニルアルキル基及び炭素数1~6のポリエチレンオキシドアミドアルキル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の基を有する構造式(3)に対応するビスヒドロキシアリール化合物を選択する。この時、構造式(2)に対応するビスヒドロキシアリール化合物と構造式(3)に対応するビスヒドロキシアリール化合物は、要望する組成比M、モル分率Nの条件を満たすようにすることが好ましい。これら3種類のビスヒドロキシアリール化合物と、これらのビスヒドロキシアリール化合物のモル量の合計に対応する適切なモル量の構造式(4)に示される芳香族スルホンと共に第一の製造方法と同様に、重縮合する方法についても例示することが出来る。
【0050】
上記の2種類の製造方法のいずれの場合においても、高分子反応に使用しなかった構造式(2)中のZ1の残基、すなわちカルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基の何れかを構造式(3)中のZ2に置換したモノマー部位を活用し、最終的には任意に抗体、ペプチド、医薬等の生理活性物質を結合させることができる。その具体的方法については特に制限はないが、カルボキシル基、炭素数1~6のカルボキシアルキル基の場合、これらをN-ヒドロキシコハク酸エステルに誘導した後に、抗体、ペプチド、医薬等のアミノ残基と縮合させる方法が例示出来る。ヒドロキシ基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基の場合については抗体、ペプチド、医薬等のカルボキシル残基をN-ヒドロキシコハク酸エステルに誘導した後に縮合する方法が例示出来る。N-ヒドロキシコハク酸エステルに変わる活性エステル誘導体として、カルボジイミド化合物、1,1-カルボニルジイミダゾール等を使用する事も好ましい形態である。
【0051】
<用途・使用例>
本発明の医療用ポリスルホンの使用例としては特に限定はないが、以下に示す5つの方法の態様を例示することができる。
1)ウィルス認識表面に、該ポリスルホンの被膜を形成し、その上に抗体を配する方法、2)抗原抗体反応場の電極表面に該ポリスルホン被膜を形成し、その上に抗体を配する方法
3)該ポリスルホンを溶融状態にてマイクロ流路に成型し、その上に抗体を配する方法、4)該ポリスルホンを中空糸の形状に加工した後、その上に抗体を配する方法
5)該ポリスルホンを溶融状態にてナノ構造の凹凸を含むフィルムに成型し、その上に抗体を配する方法
【実施例0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳しく説明するが、これらの実施例にて何ら限定されるものではない。また例中の「部」は特に断りのない限り「重量部」を表す。
【0053】
[測定参考例]
(A)NMRスペクトル
医療用ポリスルホンのポリマーのモル分率N,組成比Mはジメチルスルホキシド重溶媒1mlに20mg溶解せしめてNMR(日本電子株式会社 核磁気共鳴装置 600MHz)にて測定した。
【0054】
(B)数平均分子量測定
ポリエチレンオキシド成分の数平均分子量Mn、ポリスルホン全体の数平均分子量MntはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)(アジレントテクノロジーズ,1260インフィニティー)測定(展開溶媒クロロホルム、ポリスチレン換算)によって求めた。
【0055】
(C)医療用ポリスルホン共重合体の非特異吸着抑制能の評価(細胞接着量評価)
(C-1)評価用サンプルの作製
下記実験例で得た医療用ポリスルホン共重合体をクロロホルムにそれぞれ溶解させ、濃度3.0重量%溶液を調製した。この溶液300μLを親水処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(4cm×4cm)にスピンコートにより被覆し試験片を作成した。但し、評価用サンプル作製操作において、比較例1~3の共重合体サンプルは、クロロホルムに対する溶解度が小さかったので、比較例1~2のサンプルはクロロホルムの代わりにアセトンを用いて、比較例3のサンプルはクロロホルムの代わりにエタノールを用いて評価用サンプルを作製した。
【0056】
(C-2)細胞接着量の評価
上記(C-1)で作製したサンプルをヒト子宮頸がん由来HeLa細胞溶液に接触したときに、上記共重合体に吸着する細胞量を分光的に定量した。評価に際しては各フィルムにHeLa細胞を播種・静置培養した後、24時間後に洗浄した。さらにアラマーブルーを添加し、5時間後(合計29時間後)に蛍光定量した。試験群は実施例1つにつき2群である。定量に関しては、24穴プレート(コーニングコースター3526)に生細胞数をふったものを播種、培養し590nmの吸光度で検量線を作成した。本検量線より、試験培養液中の生細胞数を定量した。
【0057】
(C-3)顕微鏡観察による細胞接着量の評価
ヒト子宮がんHeLa細胞を用い、共重合体表面への細胞の接着状態を顕微鏡により観察した。上記、共重合体が被覆されたサンプルは、培養シャーレ(24穴)中、HeLa細胞(7.5×10(4))と37℃、24時間接触させた。表1に細胞接着量及び、顕微鏡観察結果を示した。
【0058】
吸着した細胞の定量評価はアラマーブルー法により行い、蛍光プレートリーダー(モレキュラー,スペクトラマックス パラダイム/ソフトマックスプロ6.2.2)により強度を読み込んだ。細胞接着の様子は顕微鏡(島津理化AE2000-1080M)を使用して観察した。
【0059】
顕微鏡観察にて細胞が底面に接着できず凝集塊を形成している場合、非特異吸着抑制能を〇、細胞が底面に接着し、広がる又は増殖している場合を×と評価して、表1に表した。
【0060】
(D)医療用ポリスルホンの寸法安定性評価
(D-1)評価用試験片の作製
下記実験例で得た医療用ポリスルホン共重合体をクロロホルムにそれぞれ溶解させて、濃度2.0重量%溶液を調製した。この溶液40μLを水晶振動子(ガラス板(5.2cm×5.2cm)にセロハンテープで固定したもの)にスピンコートにより被覆した。その後、スピンコートにより被覆した水晶振動子をガラス板から剥がし、一晩放置することで溶媒を揮発させ、該共重合体を水晶振動子に被覆したサンプルを作製した。但し、評価用サンプル作製操作において、比較例3の共重合体サンプルは、クロロホルムに対する溶解度が小さかったのでエタノールを用いて評価用サンプルを作製した。
【0061】
(D-2)吸湿量による寸法安定性の評価
上記(D-1)で作製したサンプルを水晶振動子マイクロバランスのフローセルに装着し、0.1ml/minで37℃のリン酸緩衝溶液を送液した。共振周波数の経時変化を観察し、送液1時間後の変異幅より吸湿量を計算した。
【0062】
医療用ポリスルホンの寸法安定性は水晶振動子マイクロバランス(セイコー・イージーアンドジー株式会社, 水晶振動子測定システム QCM922A)を使用して吸水される水分の重量を測定することで評価した。
【0063】
プローブ水晶振動子の電極上に物質が吸着すると発振周波数が低下することを利用し、吸湿量をSauerbreyの式である下記の数式(7)に基づき計算した。
【数1】
数式(7)より計算したΔmが100ng以上の場合、寸法安定性を×、100ng未満の場合〇として評価し、表1に表した。
【0064】
[合成参考例]
[参考例1]:2-クロロエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテルの合成
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(数平均分子量1000)200部、ピリジン20部、脱水クロロホルム400部を反応容器中に仕込み、攪拌しながら内温を40℃まで上昇させ均一溶液とした。これに塩化チオニル24.0部を30分にわたって添加し、内温を60℃に上昇させた上で、3時間加熱還流した。その後更に8部の新鮮な塩化チオニルを加え、8時間加熱還流した。本溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、有機相を採取した。該有機相からクロロホルムを留去し得られた油状物は室温でただちに固化し白色粉状晶180部を得た。1H-NMRにより2-クロロエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテルの生成を確認した。
【0065】
[参考例2]:メチル-4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタナートの合成
4,4’-イソプロピリデンジフェノール50.1部、メタノール300部、希硫酸0.5部を反応容器中に仕込み、モレキュラーシーブを充填したソックスレー抽出器を付けた。窒素雰囲気下、液温を80℃にした上で5時間加熱還流させ、反応せしめた。反応後に6M水酸化ナトリウム水溶液によって中和とメタノールを留去し、得られた粘性溶液を冷水中にて再沈殿すると白色石状物質が析出した。これを粉砕機にて砕き、イオン交換水300部にて3回洗浄した後に濾過することで白色固体を回収した。24時間かけて減圧乾燥させ、最終的に理論収率98%(約52部)の乾燥粉状晶を得た。1H-NMRのチャートよりこの化合物が(メチル4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタナートであることが確認された。
【0066】
[参考例3]:2-アミノエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテルの合成
2-クロロエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテル92部、フタルイミドカリウム8部を反応容器に入れ、脱気、窒素置換した後、N,N-ジメチルホルムアミドを加えて溶解させ、攪拌しながら内温を100℃まで上昇させ均一溶液とした。3時間加熱後、沈殿物を濾別し、濾液を濃縮することで、茶褐色の固体を得た。続いて、茶褐色の固体87部、ヒドラジン1水和物13部を反応容器に入れた後、エタノールを加えて溶解させ、攪拌しながら内温を80℃まで上昇させ加熱還流した。1時間後、更に濃塩酸を添加し、再度攪拌しながら内温を80℃まで上昇させ加熱還流した。10分後、沈殿物を濾別し、濾液を濃縮することで、黄褐色の固体を得た。1H-NMRにより2-アミノエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテルの生成を確認した。
【0067】
以下の実施例、比較例における略号は以下の意味を表すこととし、略号直後のかっこ内の数字はそれぞれの官能基を有する繰返し単位各官能基を含む成分のモル量の百分率を表す。
DPA:ジフェノール酸類(Diphenolic Acid):ビスヒドロキシアリール化合物類
PFS:ポリビストリフルオロメチルスルホン(Poly-bistriFluoromethyl Sulfone)
-co-:(前後に記載される略号で表される成分の)共重合体(co-polymer)COOH:カルボン酸末端
PEO:ポリエチレンオキシド
【0068】
[実施例1]
1)DPA(20)-co-PFS(80)の合成
4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフェノール8.07部、4,4-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペンタン酸1.72部、トルエン80.0ml、ジメチルイミダゾリジノン30.0ml、炭酸カリウム8部を、窒素導入口と排出口を有した反応容器に入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し、窒素置換した後、液温を80℃まで上昇させ攪拌溶解せしめた。さらに130℃~135℃で反応系中の水分をトルエンと共沸させ、ディーン・スタークス・トラップに誘導することで4時間かけて留去させた。その後ビス(4-クロロフェニル)スルホン9.05部を入れ、190℃まで加温し、20時間加熱撹拌し、反応せしめた。
【0069】
得られた反応生成物(ポリマー)を0.1質量%の塩酸水溶液500mlで再沈殿し、水温を60℃まで上昇させた後、1時間撹拌洗浄、残存するアルカリ触媒を完全に失活させ水中に溶出した。次いでこれを更に新たなイオン交換水500mlで撹拌洗浄、脱塩酸するという操作を3回繰り返した。得られたポリマーを24時間かけて減圧乾燥させ最終的に理論収率の約15gの乾燥ポリマーを得た。最終的に得られたポリマーについて、数平均分子量を測定し、1H-NMR測定を行い組成比Mを計算した。結果を表1に示した。
【0070】
2)DPA(20)-co-PFS(80)と2-クロロエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテルの反応
DPA(20)-co-PFS(80)のポリマー3.00部、参考例1で製造した2-クロロエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテル(数平均分子量1000)0.50部、炭酸カリウム0.07部を反応容器に入れ、脱気、窒素置換した後、N,N-ジメチルホルムアミドを加えて溶解させた。液温を100℃まで上昇させ、8時間加熱攪拌して反応せしめた。反応溶液を濾過により、残存するアルカリ触媒を除去し、N,N-ジメチルホルムアミドを減圧留去し、得られた黄色粘性液体を300mlのイオン交換水にて再沈殿させた。
【0071】
更に得られた白色固体をイオン交換水300mlで洗浄して12時間かけて減圧乾燥させ約5gの医療用ポリスルホンを得た。1H-NMRにより反応率を計算し、ポリスルホン全体の数平均分子量Mnt、組成比M、モル分率Nを測定した。また非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果を表1に示した。
【0072】
[実施例2~8]
上記実施例1と同様の方法で、各原料化合物の仕込み量を変えてDPA中のCOOH,PEOとPFSの共重合率の異なる夫々共重合体を合成し、ポリスルホン全体の数平均分子量Mnt、組成比M、モル分率Nを測定した。また非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果を表1に示した。
【0073】
[実施例9]
3)DPA(35)-co-PFS(65)と2-アミノエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテルの反応
実施例1~8の方法に準じて製造したDPA(35)-co-PFS(65)のポリマー120部、N-ヒドロキシスクシンイミド28部、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド50部、4-ジメチルアミノピリジン1部を反応容器に入れ、脱気、窒素置換した後、N,N-ジメチルホルムアミドを加えて溶解させ、25℃で15時間攪拌した。溶液を全量エタノール中に滴下し、再沈殿により、固体を回収した。続いて、得られた固体72部、参考例3で製造した2-アミノエトキシポリエチレングリコールモノメチルエーテル28部を反応容器に入れ、脱気、窒素置換した後、N,N-ジメチルホルムアミドを加えて溶解させ、25℃で15時間攪拌した。溶液を全量イオン交換水中に滴下し、再沈殿により、固体を回収した。
更に得られた固体をイオン交換水で洗浄して12時間かけて減圧乾燥させ医療用ポリスルホンを得た。1H-NMRにより反応率を計算し、ポリスルホン全体の数平均分子量Mnt、組成比M、モル分率Nを測定した。また非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果を表1に示した。
【0074】
[実施例10]
上記実施例9と同様の方法で、各原料化合物の仕込み量を変えてDPA中のCOOH,PEOとPFSの共重合率の異なる夫々共重合体を合成し、ポリスルホン全体の数平均分子量Mnt、組成比M、モル分率Nを測定した。また非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果を表1に示した。
【0075】
[比較例1]
4)ポリ(アルキルアリールエーテル)スルホン共重合の製造
4,4-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフェノール10.1部、及び予めトルエンとの共沸により共存する水分を除去したα,ω-ビス(2-クロロエトキシ)ポリエチレンオキシド(#3000、数平均分子量Mn=3000)16.7部、トルエン80.0ml、ジメチルイミダゾリジノン40.0mL、炭酸カリウム4.56部を窒素導入口と排出口をもったスリ付き3口フラスコに入れ、これをディーン・スタークス・トラップに誘導し、窒素置換した後、液温を80℃まで上昇させ攪拌溶解せしめた。さらに130℃~135℃で反応系中の水分をトルエンと共沸させ、ディーン・スタークス・トラップに誘導することで4時間かけて留去させた。その後ビス(4-クロロフェニル)スルホン7.32部を入れ、190℃まで加温し、20時間加熱撹拌し、反応せしめた。
【0076】
反応後、全体をイオン交換水500mlに攪拌しながら開け洗浄後、更に新たなイオン交換水500mlで2時間攪拌するという操作を2回繰り返した。ついでポリマーを0.1wt%塩酸水溶液500mlで2時間攪拌洗浄、残存するアルカリ触媒を完全に失活させ水中に溶出した。これに更に新たなイオン交換水500mlで2時間攪拌洗浄、脱塩酸するという操作を3回繰り返した。得られたポリマーを80℃、24時間かけて減圧乾燥後クロロホルムで抽出し濾過、乾燥した。最終的に得られたポリマーについて1H-NMRにてPEO部分とPFS部分の組成比を計算し、非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、表1に示した。
【0077】
[比較例2]
上記比較例1と同様の方法で、PEOとPFSの共重合率の異なる共重合体を合成した。比較例1と同様にPEO部分とPFS部分の組成比を計算し、非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果は表1に併記した。
【0078】
[比較例3]
市販品(日油株式会社製LIPIDURE(リピジュア)(登録商標))について、上記実施例1~10、比較例1~2、4~8と同様に評価を行った。なお、本市販品はカタログ情報、日油株式会社のホームページ情報より、生体由来の官能基ホスホリルコリン基を側鎖に有するメタクリル酸エステルの共重合体であり、本発明のようなポリスルホンの構造を有さないことが示されている。非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果は表1に併記した。
【0079】
[比較例4~6]
上記実施例1~8と同様の方法で、各原料化合物の仕込み量を変えてDPA中のCOOH,PEOとPFSの共重合率の異なる共重合体を合成した。実施例1~5と同様にポリスルホン全体の数平均分子量Mnt、組成比M、モル分率Nを測定した。また非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果は表1に併記した。
【0080】
[比較例7~8]
上記実施例9~10と同様の方法で、各原料化合物の仕込み量を変えてDPA中のCOOH,PEOとPFSの共重合率の異なる共重合体を合成した。また非特異吸着抑制能と寸法安定性について評価を行い、これらの結果は表1に併記した。
【0081】
本発明が提供する医療用ポリスルホンによれば、高精度、高感度、且つ迅速簡便なウィルスの検査デバイスの製造が可能となり、高度な検査装置の無い島嶼地域や医療遠隔地においても感染症、疫病の蔓延防止に貢献することが出来る。また、抗血栓性を備えた人工血管、人工心臓弁、或いは特定の毒素を吸着するアフィニティカラムの担体、特定の細胞種のみを培養する細胞培養容器等についても本願が提供する医療用ポリスルホンによって製造することが可能である。