(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049050
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】新規なペプチド及び診断におけるその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20230331BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20230331BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230331BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230331BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230331BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C07K14/00
C07K7/00 ZNA
A61P35/00
A61K45/00
G01N33/569 F
G01N33/574 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022200083
(22)【出願日】2022-12-15
(62)【分割の表示】P 2019567783の分割
【原出願日】2018-02-22
(31)【優先権主張番号】1750203-0
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】320001248
【氏名又は名称】バイオトム ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ルンディン ブロル サムエル
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB352
4C084ZC412
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA17
4H045CA11
4H045DA86
4H045EA22
4H045EA28
4H045EA50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染の診断又は胃癌についてのリスクの予測において使用するための新規なペプチドを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を含み、多くとも25アミノ酸からなる、ペプチドを提供する。当該ペプチドは、CagA+ヘリコバクター・ピロリ患者由来の抗体に高い特異性及び高い感度で結合し、例えば診断用キットにおいて使用することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、多くとも25アミノ酸からなる、ペプチド。
【請求項2】
前記配列が配列番号2~7からなる群から選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
診断において使用するための、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項3に記載の診断において使用するためのペプチドであって、前記診断がヘリコバクター・ピロリ感染の診断又は胃癌のリスクの予測である、前記ペプチド。
【請求項5】
配列番号2~配列番号5からなる群から選択される、請求項3又は4に記載の診断において使用するためのペプチド。
【請求項6】
多くとも10アミノ酸を含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の診断において使用するためのペプチド。
【請求項7】
配列番号1~配列番号7から選択されるアミノ酸配列からなる、請求項3~5のいずれか一項に記載の診断において使用するためのペプチド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のペプチドを含む、キット。
【請求項9】
a)被検者由来の試料を準備する工程と、
b)前記試料を請求項1~7のいずれか一項に記載のペプチドと接触させる工程と、
c)前記試料中の抗体の前記ペプチドへの特異的結合を検出する工程と
を備える、診断方法。
【請求項10】
ヘリコバクター・ピロリ感染の検出のため、又は胃癌についてのリスクの予測のために使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドが配列番号2~配列番号5からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の診断方法を使用して、前記被検者がヘリコバクター・ピロリ感染を有しているかを判定する工程と、次いで前記感染を処置する工程とを備える、胃癌の防止方法。
【請求項13】
前記処置が、マクロライド類、β-ラクタム類、ニトロイミダゾール類、テトラサイクリン類及びフルオロキノロン類からなる群から選択される少なくとも2つの抗生物質を投与する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記処置が、前記被検者へのプロトンポンプ阻害剤の投与を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
被検者由来の試料におけるヘリコバクター・ピロリCagA結合抗体の検出方法であって、生物試料を請求項1又は2に記載のペプチドと接触させる工程と、前記試料中の抗体の前記ペプチドへの結合を検出する工程とを備える、前記方法。
【請求項16】
前記試料が血液、血清、血漿又は胃組織試料である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)(Helicobacter pylori)のCagAタンパク質由来の新規なペプチドに関する。このペプチドは、細菌性感染症の予防、診断及び処置の改善、並びに胃癌リスクの評価のために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクター・ピロリは、胃の中で通常見つかる細菌である。いくつかのヘリコバクター・ピロリ株は、病原因子をコードするCagA(細胞毒素関連抗原A)遺伝子を保有する。このCagA遺伝子は、感染部位で胃上皮細胞の中へと移行する細菌性がんタンパク質である、1140~1180個のアミノ酸のタンパク質CagAをコードする。移行後、CagAは、上皮細胞の細胞内シグナル伝達経路に影響を及ぼす。
【0003】
CagA遺伝子を保有するヘリコバクター・ピロリ細菌は、胃癌発症のリスクの上昇と関連し、抗CagA抗体の存在は、将来の胃癌リスクの上昇と関連する。CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染の早期検出は、癌生存率の上昇につながりうる。なぜなら、感染した個体における感染の根絶(すなわち除菌)は胃癌リスクを低下させるからである。それゆえ、CagA+ヘリコバクター・ピロリを保有する個体を特定する方法は、高い胃癌リスクを診断し、これにより胃癌発症の防止を支援するために使用することができる。
【0004】
しかしながら、CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染についての既存の血清学的方法は臨床的に有用ではない。これは主に、それらの方法が十分に特異的ではないことによる。高レベルの偽陽性試料が存在する。これは、ヘリコバクター・ピロリに感染していない個体においてさえ、又はCagAを欠くヘリコバクター・ピロリ株に感染した個体においてさえCagAへの広範な抗体反応性があることを示す。このように、臨床的に有用な診断検査のためには特異性及び感度は十分ではない(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yamaokaら、J Clin Microbiol 1998:36:3433
【非特許文献2】Yamaokaら、Gastroenterology 1999:117:745
【非特許文献3】Figueiredoら、J Clin Microbiol 2001:39:1339
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえ、診断特性が改善されたCagA+ヘリコバクター・ピロリについての診断検査、例えば特異性及び感度が改善された診断検査に対するニーズがある。
【0007】
さらには、異なるヘリコバクター・ピロリ分離株の間でDNA配列において大きい変異性がある。あるCagA変異体は、胃癌リスクにより強く関連する。それゆえ、CagA株の種類を特定できることも有用であろう。
【0008】
抗体、特にCagAタンパク質に結合する抗体に特異的に結合するCagAペプチドに対するニーズもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書において、胃癌発症の高いリスクにある個体の特定を含むヘリコバクター・ピロリ関連疾患に関する診断的応用に有用であるCagA由来のペプチドについての情報が提供される。ヘリコバクター・ピロリに感染した個体は、CagAを含むヘリコバクター・ピロリタンパク質に対する抗体を産生することになる。このように、CagA特異的抗体の存在はヘリコバクター・ピロリ感染を示す。
【0010】
感染した個体に存在するすべてのCagAペプチドから、本発明者らは、1)どのサブセットが免疫原性であり抗体応答を惹起するするのかを明らかにした(表1を参照。表1では、タンパク質の長さの34%が免疫原性である)。多くのペプチドは感染していない患者由来の血清とも反応することが明らかになった(
図1の白棒)。免疫原性ペプチドのサブセットのうちで、本発明者らは、2)診断能力を有するペプチドのより小さいサブセットを特定し、最後に、診断用ペプチドのこのサブセットにおいて、本発明者らは、3)最高の診断能力を有するペプチドに共通する非常に重要なアミノ酸配列(1又は複数)を特定した。換言すれば、この診断能力は、感染した個体におけるペプチドの存在/不存在によって生じるだけでなく、重要なことに、感染していない個体には存在しない抗体応答を一貫して惹起する免疫原性ペプチドの小さいサブセットのみによっても生じる。
【0011】
高精度血清学を利用することにより、タンパク質レベルではなくペプチドレベルでの解明によって、本発明者らは、CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染を欠く個体における交差反応性抗体応答に起因して偽陽性を引き起こすペプチドを排除する一方で、CagA+ヘリコバクター・ピロリを保有する個体においてのみ強い抗体応答を示すペプチドを特定した。それゆえ、本発明者らが特定した診断用ペプチドは、ROC AUC値によって判断されるとおり、高い感度及び高い特異性の両方を有し、このため診断的応用のために有用であろう。
【0012】
本発明の第1の態様では、配列番号1~配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか又はこれらのアミノ酸配列からなるペプチドが提供される。好ましくは、上記ペプチドは、多くとも25アミノ酸、より好ましくは15アミノ酸、さらに好ましくは多くとも10アミノ酸からなる。好ましい実施形態では、当該ペプチドは、配列番号2~7からなる群から選択される配列、さらに好ましくは配列番号2~5からなる群から選択される配列を含むか、又はこれらの配列からなる。
【0013】
これらの新規なペプチドは、それらが、診断、より具体的にはCagA陽性ヘリコバクター・ピロリの診断のために使用できるという優位点を有する。従って、これらのペプチドを使用する診断は、より少ない偽陽性という結果を生じる。
【0014】
特定された最小結合領域は、CagA特異的抗体を検出するためにも有用である。最小結合領域は短いので、バックグラウンド結合は低いであろう。さらには、当該ペプチドは短く、それゆえ低費用で製造することができる。
【0015】
本発明の第2の態様では、診断において使用するための本発明の第1の態様に係るペプチドが提供される。好ましい実施形態では、この診断は、ヘリコバクター・ピロリ感染、より具体的にはCagA陽性ヘリコバクター・ピロリの診断であるか、又は胃癌のリスクの予測のためのものである。
【0016】
本発明の第3の態様では、本発明の第1の態様に係るペプチド又は本発明の第2の態様に係るペプチドの混合物を含むキットが提供される。当該キットは、好ましくは、診断、より具体的にはCagA陽性ヘリコバクター・ピロリの診断のためのキット、又は胃癌のリスクの予測のためのキットである。
【0017】
本発明の第4の態様では、a)被検者由来の試料を単離又は準備する工程と、b)上記試料を本明細書に記載されるペプチド又は本明細書に記載されるペプチドの混合物と接触させる工程と、c)上記試料中の抗体の上記ペプチドへの特異的結合を検出する工程とを備える診断方法が提供される。当該方法は、好ましい実施形態では、ヘリコバクター・ピロリ感染の検出又は胃癌についてのリスクの予測のために使用される。
【0018】
本発明の第5の態様では、1)本明細書に記載される診断を実施する工程と、2)被検者における上記ヘリコバクター・ピロリCagA+感染を処置する工程とを備える、被検者における胃癌の予防方法が提供される。当該方法は、本明細書に記載される診断方法を使用して、被検者がヘリコバクター・ピロリ感染を有していることを判定する工程と、次いで上記感染を処置する工程とを備えてもよい。上記処置は、マクロライド類、β-ラクタム類、ニトロイミダゾール類、テトラサイクリン類及びフルオロキノロン類からなる群から選択される種類の抗生物質を投与する工程を伴ってもよい。上記処置は、上記種類から2つの抗生物質を投与する工程であって、上記2つの抗生物質が異なる種類に由来する工程を伴ってもよい。上記処置は、プロトンポンプ阻害剤を、好ましくは抗生物質と組み合わせて上記被検者に投与する工程をも伴ってもよい。
【0019】
本発明の第6の態様では、被検者由来の試料におけるヘリコバクター・ピロリCagA結合抗体の検出方法であって、生物試料を本発明の第1の態様に係るペプチドと接触させる工程と、上記試料中の抗体の上記ペプチドへの結合を検出する工程とを備える、前記方法が提供される。この試料は、血液、血清、血漿試料又は組織試料、例えば胃組織試料であってもよい。
【0020】
本発明の第7の態様では、少なくとも2つの本発明の第1の態様に係るペプチドの混合物が提供される。このような混合物は、それがヘリコバクター・ピロリの2以上の異なるCagA陽性株を効率的に検出するために使用することができるという優位点を有する。この混合物は、本明細書に記載されるペプチドと同様に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ペプチドマイクロアレイ解析を用いたCagAの18種の異なるリニアB細胞エピトープの特定。各ペプチド(n=1172ペプチド)についてのアレイスコアが、CagA配列における開始位置(x軸)にある縦棒として示されている。黒棒はヘリコバクター・ピロリに感染した個体由来の血清の結果であり、白棒はヘリコバクター・ピロリに感染していない個体由来の血清の結果である。重要なことであるが、多くのペプチドが感染していない個体由来の血清にも反応性を示した(白棒)。
【
図2a】18種の特定されたCagAエピトープから試験されたすべてのペプチド(n=1144ペプチド)のROC AUCレベル。中央値、四分位範囲及び外れ値を含む箱ひげ図として示された結果。有用でない診断のAUC(AUC=0.5)は水平方向の点線として示されている。
【
図2b】18種の特定されたCagAエピトープから試験されたすべてのペプチド(n=1144ペプチド)のROC AUCレベル。それぞれの個々のペプチドについての結果が、エピトープによってグループ分けされて、示されている。有用でない診断のAUC(AUC=0.5)は水平方向の点線として示されている。
【
図3】非常に重要な配列モチーフを含有するすべてのペプチドについてのROC AUCスコア。データは、中央値、四分位範囲及び外れ値として示されている。ただ1つのペプチドが試験された場合は、中央値(水平方向の線)だけが示されている。配列モチーフの表示は表4の配列の名称と同一である。BT_300:IINQKVTDKVDNLNQ(配列番号13)(15アミノ酸のうち少なくとも12が同一、n=298ペプチド);BT_301:EPIYA(配列番号8)(n=270);BT_302:EPIYAK(配列番号9)(n=16);BT_303:EPIYAQ(配列番号10)(n=21);BT_304:EPIYT(配列番号11)(n=21);BT_305:EPIYAT(配列番号12)(n=196);BT_306:FXLKRHX(配列番号1)(n=246);BT_307:FXLKKHX(配列番号2)(n=34);BT_308:FXLKQHX(配列番号3)(n=1);BT_309:YXLKRHX(配列番号4)(n=3);BT_310:IXLKRHX(配列番号5)(n=1);BT_311:FXLRRYX(配列番号6)(n=1);BT_312:FXLRRSX(配列番号7)(n=7)。AUC=0.5は水平方向の点線として示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中で、所々で配列の区間に言及される。これは、その区間の中のすべての配列に言及しており、従って、例えば「配列番号2~配列番号5」は、配列番号2、3、4及び5を指す。配列は、アミノ酸残基についての標準的な一文字表記を使用して書かれている。それらのアミノ酸残基は、好ましくはペプチド結合で連結されている。
【0023】
本明細書中のいくつかのペプチドは、配列変異性を有していてもよい。このように、ある配列が、配列中のいずれのアミノ酸であってもよい位置を特定してもよい。これはX、又は配列表ではXaaを用いて示されてもよい。X又はXaaは、シトルリン等の翻訳後修飾から生じるアミノ酸を含めていずれのアミノ酸、好ましくはいずれのL-アミノ酸で置き換えられてもよい。このアミノ酸は、天然に存在するアミノ酸である必要はない。好ましくは、このアミノ酸はかさ高い側鎖を有しない。なぜなら、かさ高い側鎖は抗体が結合するのを妨げる可能性があるからである。このアミノ酸の好適な分子量は85D~300D、より好ましくは89D~220Dであってもよい。
【0024】
一般に、当該ペプチドは、配列番号1~配列番号330からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでもよいし、又はこれらのアミノ酸配列からなってもよい。当該ペプチドは、配列番号32~配列番号330の配列の一部、例えば配列番号32~配列番号330の残基の12、より好ましくは13、さらに好ましくは14、最も好ましくは15すべてを含んでもよい。当該ペプチドが配列番号32~配列番号330のアミノ酸の12、13又は14を含むか又はそれらのアミノ酸からなる場合、他のアミノ酸位置はX及びXaaについて上述したいずれのアミノ酸で置き換えられてもよく、他方で残りのアミノ酸は配列番号32~330のとおりの位置を有する。ある実施形態では、このアミノ酸は保存的に置き換えられてもよく、この場合、例えば疎水性アミノ酸が異なる疎水性アミノ酸で置き換えられ、又は極性アミノ酸が異なる極性アミノ酸で置き換えられる。
【0025】
いくつかの実施形態では、配列番号32~配列番号330(表2及び表3)のアミノ酸配列を含むか又はそれらのアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい場合がある。1つの実施形態では、配列番号14~配列番号31のうちの1つを含むか又はそれらの配列からなるペプチドが使用される。1つの実施形態では、配列番号32~配列番号207のうちの1つを含むか又はそれらの配列からなるペプチドが使用される(表2)。1つの実施形態では、配列番号208~配列番号330のうちの1つを含むか又はそれらの配列からなるペプチドが使用される(表3)。
【0026】
好ましい実施形態では、配列番号1~配列番号13のうちの1つ、例えば配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13(表4)を含むか又はそれらの配列からなるペプチドが使用される。これらの配列は、ある抗体の最小結合領域を含む。好ましい実施形態では、このペプチドは、配列番号1~配列番号12から選択されるアミノ酸配列を含むか又はそれらの配列からなる。
【0027】
さらに好ましい実施形態では、当該ペプチドは、配列番号1~配列番号7から選択される配列を含むか又はそれらの配列からなる。これらのペプチドは診断精度がより高いという優位点を有する。なぜならそれらは、CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染を保有する個体のうちの高い割合(百分率)で強い抗体応答を惹起するからである。これらのペプチド(配列番号1~配列番号7)は、すべて同じエピトープ(エピトープ12及び14)に関連し、世界のすべてのCagA+ヘリコバクター・ピロリ分離株の約95%がこれらの配列変異体のうちの少なくとも1つを保有する。さらには、当該ペプチドは、下記の共通の構造的特徴を有する。
●それらはすべて7つのアミノ酸残基を有する。
●それらはすべて1番目の位置に疎水性残基(F、Y又はI)を有する。
●それらはすべて2番目の位置にxを有する。
●それらはすべて3番目の位置にLを有する。
●それらはすべて4番目の位置にK又はR(正電荷を帯びる側鎖)を有する。
●それらはすべて7番目の位置にxを有する。
【0028】
配列番号1~配列番号7を含む有用なペプチドの例としては、配列番号129~配列番号170、配列番号186~配列番号187及び配列番号266~配列番号279の配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
さらに好ましい実施形態では、当該ペプチドは、配列番号1、2、3、4及び5から選択される配列、又はさらに好ましくは配列番号2、3、4、5、6及び7からなる群から選択される1以上の配列、又はさらに好ましくは配列番号2、3、4及び5からなる群から選択される1以上の配列を含むか又はそれらの配列からなる。これらの配列を含む有用なペプチドの例は、表2~6及び表7~10に記載されている。
【0030】
1つの実施形態では、当該ペプチドは、配列番号13の配列、若しくは当該配列から選択される12アミノ酸残基の配列であって他の3つのアミノ酸残基は上記のとおりのいずれのアミノ酸であってもよい前記配列を含むか又はそれらの配列からなる。配列番号13由来の少なくとも12アミノ酸を含む有用なアミノ酸配列としては、配列番号52~配列番号67及び配列番号235~配列番号256等の配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
1つの実施形態では、当該ペプチドは、配列番号153の配列、又は当該配列から選択される12アミノ酸、13アミノ酸若しくは14アミノ酸の配列であって他のアミノ酸残基は上記のとおりのいずれのアミノ酸であってもよい前記配列を含むか又はそれらの配列からなる。
【0032】
当該ペプチドは、好ましくは25アミノ酸以下、例えば20アミノ酸又は15アミノ酸の長さを有する。より短いペプチドが望ましい場合もある。なぜならより短いペプチドは、(抗体による)非特異的な結合がより少ないという結果をもたらし、それゆえより少ないバックグラウンドをもたらすからである。しかしながら、エピトープを露出させて立体障害なしに抗体結合を可能にするため、又はペプチドフォールディングを可能にするために、より長いペプチドが、ある場合には望ましいこともある。従って、より好ましくは、当該ペプチドは、14アミノ酸残基、より好ましくは13アミノ酸残基、さらにより好ましくは12、11、10、9、8、7、6又は5アミノ酸残基(6は配列番号8、11、9、10及び12にのみ当てはまり、5は配列番号8及び11にのみ当てはまる)である。
【0033】
好ましくは、当該ペプチドは、抗体、好ましくはヘリコバクター・ピロリCagAタンパク質にも結合する抗体に対して(免疫学的な意味で)特異的にかつ高い親和性で結合する。ペプチドが、代替の細胞又は物質に対してよりもより高頻度で、より迅速に、より長い継続期間及び/又はより大きい親和性で特定の細胞又は物質と反応又は会合する場合、抗体-ペプチド相互作用は、免疫学的な意味で「特異的結合」又は「選択的結合」を呈すると言われる。抗体が他の物質に結合するよりもより大きい親和性、結合活性で、より容易に及び/又はより長い継続期間、その抗体がペプチドに結合するとき、その抗体は「特異的に結合する」又は「選択的に結合する」。結合は、任意の好適な方法を用いて判定することができる。結合は、当該技術分野で公知の方法、例えばELISA、表面プラスモン共鳴、ウエスタンブロット又は本明細書に記載される他の方法(以下を参照)によって判定することができる。このような方法は、当該ペプチドの好適な長さ又はアミノ酸配列を決定するために使用することができる。
【0034】
好ましくは、当該ペプチドの使用は、高い診断特異性及び高い診断感度の両方をもたらす。いずれの診断検査においても、これらの2つの特性は、どのレベルが陽性試験についてのカットオフ値として使用されるかに依存する。設定されたカットオフ値によらずに診断精度を評価するために、受信者動作特性曲線(ROC曲線)を使用することができる。ROC曲線では、カットオフ値が0から無限大まで変化するにつれて、真陽性率(感度)が偽陽性率(1-特異度)に対してプロットされる。次いで、ROC曲線下面積(ROC AUC)を使用して全体的な診断精度が推定される。好ましくは、当該ペプチドの使用は、少なくとも0.55のROC AUC、例えば少なくとも0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99のROC AUC又は1.00のROC AUCを有する。好ましくは、当該ペプチドの使用は、少なくとも0.85のROC AUC、最も好ましくは1のROC AUCを有する。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「ペプチド」は、ペプチド模倣化合物を含めてペプチド、タンパク質、タンパク質の断片等を意味するために使用される。用語「ペプチド模倣」は、構造上基礎とするペプチドの活性を有するペプチド様分子を意味し、この活性はCagAタンパク質に結合する抗体に対する特異的でかつ高い親和性の結合である。このようなペプチド模倣物としては、化学的に修飾されたペプチド、天然に存在しないアミノ酸を含有するペプチド様分子が挙げられる(例えば、Goodman及びRo、Peptidomimetics for Drug Design、「Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery」、第1巻(M.E.Wolff編;John Wiley & Sons 1995)、803-861ページを参照)。様々なペプチド模倣物は、例えば、束縛型(constrained)アミノ酸を含有するペプチド様分子を含めて当該技術分野で公知である。ある実施形態では、環状ペプチドが使用されてもよい。
【0036】
当該ペプチドは単離されたペプチドであってもよく、この単離されたペプチドは、例えば緩衝液中にあるもの、再構成を待つ乾燥形態にあるもの、キットの一部としてなど天然に存在する形態以外の形態にあるペプチドを意味する。
【0037】
いくつかの実施形態では、当該ペプチドは実質的に精製されており、これは、天然では会合している他のタンパク質、脂質、炭水化物、核酸及び他の生物由来物質を実質的に含まないペプチドを意味する。例えば、実質的に純粋なペプチドは、乾燥重量の少なくとも約60%、好ましくは乾燥重量の少なくとも約70%、80%、90%、95%又は99%であってもよい。
【0038】
本発明のペプチドは、塩の形態であってもよい。当該ペプチドと塩を形成することができる好適な酸及び塩基は、当業者にとって周知であり、無機及び有機の酸及び塩基が挙げられる。
【0039】
当該ペプチドは、溶液において、例えば水溶液において提供されてもよい。そのような溶液は、好適な緩衝液、塩、プロテアーゼ阻害剤、又は当該技術分野で公知の他の好適な成分を含んでもよい。
【0040】
当該ペプチドは、当該技術分野で公知の1以上の付加的部分と会合(例えば直接又は間接に共役、融合又は連結)していてもよい。限定を意図しないそのような部分の例としては、ビオチン、ポリヒスチジンタグ、GST、FLAGタグ等のペプチド若しくは非ペプチド分子、又はリンカー若しくはスペーサが挙げられる。この会合は、共有結合であってもよく非共有結合であってもよい。この会合は、例えば、末端のシステイン残基又は化学的反応性を有する連結剤、ビオチン-アビジン系又はポリヒスチジンタグを介してであってもよい。例えば、当該ペプチドは、単一のビオチン接合リジン残基へペプチド結合によって連結されていてもよい。このビオチン接合リジン残基では、ペプチド例H-XXXXXXXXXXXXXXX(K(ビオチン))-NH2(式中、Xは当該ペプチドのアミノ酸を示す)のように、リジンがその側鎖上のε-アミノ基を介してビオチン化されている。
【0041】
該ペプチドを付着させ又は連結すること、精製を改善すること、宿主細胞における当該ペプチドの発現を増強すること、検出を支援すること、当該ペプチドを安定化することなどのために会合部分が使用されてもよい。基材、例えば固相に付着した短鎖ペプチドの場合、抗体が結合できるように抗体への当該ペプチドの曝露を確実にするために、リンカー又はスペーサを使用することが望ましい場合がある。
【0042】
当該ペプチドは、ペプチドを固定する基材と会合されていてもよい。この基材は、例えば、固体又は半固体の担体、固相、支持体又は表面であってもよい。当該ペプチドは固体支持体上に固定されてもよい。例としては、ビーズ又はプレート内のウェル、例えば96ウェルプレート等のマイクロタイタープレートが挙げられ、ラボオンチップ(lab-on-a-chip)の診断デバイス又は類似デバイスの表面も挙げられる。この会合は、共有結合的であってもよいし非共有結合的であってもよく、共有結合的結合又は非共有結合的結合を可能にするペプチドと会合した部分、例えば担体、固相、支持体又は表面に付着した成分に対して高い親和性を有する部分によって促されうる。例えば、ビオチン-アビジン系を使用することができる。
【0043】
当該ペプチドは、被検者由来の試料におけるヘリコバクター・ピロリCagA特異的抗体を検出するために使用することができ、この方法は、生物試料を本明細書に記載されるペプチドと接触させる工程と、この試料中の抗体の当該ペプチドへの結合を検出する工程とを備える。当該ペプチドは、本明細書に記載されるとおり、ペプチドを固定する基材に会合されていてもよく、例えば固体支持体に付着されていてもよい。当該方法は、本明細書に記載されるとおり、結合、洗浄、及び抗体の検出を可能にするためのインキュベーションを含んでもよい。抗体の結合の検出方法は後述されるが、例えばELISAが挙げられる。
【0044】
当該ペプチドは、診断、特にヘリコバクター・ピロリの感染又は胃癌の診断のために使用することができる。CagAヘリコバクター・ピロリ感染は胃癌についてのリスクの上昇と相関するということが知られている。従って、当該ペプチドは、被検者が胃癌を発症するリスクを評価するために使用することができる。胃癌発症のリスクとしては、胃癌を有しない段階から何らかのステージの胃癌を有する段階への進行のリスク、良性の病状から悪性の状態への進行のリスク又は悪性がより低い状態から悪性がより高い状態への進行のリスクが挙げられ得る。このように、上記リスクとしては、胃癌を有するか又は将来胃癌を発症するというリスクが挙げられ得る。好ましい実施形態では、当該ペプチドは、被検者が将来胃癌を発症するリスクを評価するために使用される。当該ペプチドは、ヘリコバクター・ピロリ感染と関連する他の疾患、例えば消化性潰瘍疾患、消化不良及び免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)の診断のためにも使用することができる。
【0045】
診断はいずれの好適な方法を用いて実施してもよい。好ましい方法では、被検者由来の試料中の抗体がペプチドに結合するようにされ、結合が検出される。被検者は、ヒト又は動物、好ましくはヒトであってよい。当該ペプチドへの被検者由来の抗体のインビトロ結合は、その被検者の免疫系がその特定のペプチドに対して抗体を生成したこと、従ってそのペプチド、ひいてはそのCagAヘリコバクター・ピロリがその被検者の中に存在するということを示す。
【0046】
当該方法は、(1)被検者から、抗体を含有している可能性がある体液若しくは組織の試料を単離するか又はそのような試料をインビトロで準備する工程と、(2)(上記抗体へのペプチドの特異的結合のために)特異的ペプチド抗体複合体の形成に有効な条件下で、その試料をペプチドと接触させる工程、例えば、上記試料及びペプチドを反応させるか又はインキュベーションする工程と、(3)抗体-ペプチドの反応の存在について上記接触させた(反応させた)試料をアッセイする工程(例えば、抗体-ペプチド複合体の量を決定する工程)とを備えてもよい。当該方法には、当該技術分野で公知のとおり、1以上の洗浄工程が含まれてもよい。工程2及び工程3は、インビトロで、つまり、試料が被検者から単離されたあとのその試料を使用して、被検者から以前に単離された試料の中で実施されることが好ましい。
【0047】
上記試料は、いずれかの好適な試料、例えば血液、血清、血漿、唾液、粘膜の分泌物、腹水若しくは類似の体液、又は組織の試料であってもよい。
【0048】
当該ペプチドに対する抗体応答は、様々な免疫学的/血清学的な方法によって検出することができる。当該ペプチドを用いて上記抗体の存在を検出する好適なフォーマットとしては、ペプチドマイクロアレイ、ELISA、クロマトグラフィ、ウエスタンブロット、ラボオンチップフォーマット、マイクロビーズに基づくシングルプレックスイムノアッセイ又はマルチプレックスイムノアッセイなどが挙げられる。
【0049】
これらの方法は、固定相(ELISAプレートのウェル又はマイクロビーズの表面等)に結合されたペプチドを立証する工程、液相にある分析するべき試料を加える工程、抗体を結合させる工程、次いで未結合の抗体を洗い流す工程を伴うことが多い。
【0050】
抗体結合は、特定種のヒト抗体、例えばIgG、IgA、IgG1、IgG2又はIgG3、IgG4に結合する標識された二次抗体を使用することによりインビトロで検出することができる。ELISAでは、二次抗体は、酵素、例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)又はアルカリホスファターゼ(AP)を用いて標識される。この二次抗体は、好適には、ヒト以外の別の種由来、例えばウサギ由来又はヤギ由来である。
【0051】
あるいは、蛍光標識又は放射活性標識を使用することができる。
【0052】
ELISAにおいて当該ペプチドを使用するためのプロトコルは、どの二次抗体を使用するか、その希釈、緩衝液、ブロッキング溶液、洗浄液などに関して、当業者によって容易に最適化されうる。プレートを使用するELISAプロトコルの一例の概略は、以下のとおりであってもよい。ポリスチレンマイクロタイタープレートが、交差力価測定によって決定される最適濃度の、PBSに室温で一晩溶解させた注目する当該ペプチドでコーティングされる。PBSで2回洗浄した後、ウェルが37℃で30分間、0.1%(重アミノ酸長積)ウシ血清アルブミン-PBSでブロックされる。その後のインキュベーションが室温で行われ、インキュベーションとインキュベーションとの間にプレートが0.05% Tweenを含有するPBS(PBS-Tween)で3回洗浄される。血清又は他の体液の試料が、例えば1/10の開始希釈で二重又は三重に添加され、例えば3倍希釈系列で希釈される。以前に試験され、当該ペプチドに対する抗体を有することがわかっている対照試料が、陽性対照として使用される。既知濃度の抗体を有する試料が、標準曲線を作成するために使用されてもよい。PBS-Tweenだけが添加されているウェルが、バックグラウンド値の決定のための陰性対照として使用される。室温で90分間のインキュベーション後、HRP標識化ウサギ抗ヒトIgA抗体又はHRP標識化ウサギ抗ヒトIgG抗体が添加され、60分間インキュベーションされる。その後、プレートは、0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝液中のH2O2及びオルト-フェニレンジアミン二塩酸塩、pH4.5の添加後、分光光度計の中で20分間読み取られる。各試料の終点力価は、450nmで例えばバックグラウンドより0.4高い吸光度を与える内挿希釈率の逆数として決定される。あるいは、最終読取り値として、上記吸光度の値を使用することができる。当業者は、このELISAプロトコルが一例にすぎないこと、及びこのプロトコルの多くの異なる変型及び変更が可能であることを認識した。
【0053】
あるいは、1つの実施形態では、B細胞が被検者から単離され、この細胞が当該ペプチドに結合する抗体を産生できるか否かが分析される。これは、ELISPOT法、ALS(リンパ球分泌物中の抗体)、又は類似の方法を使用することにより行うことができる。
【0054】
診断は、配列番号32~330、配列番号1~7、特に配列番号2~5を含むか又はそれらの配列からなるペプチドから選択されるペプチドに特異的な抗体を使用して、患者由来の組織試料におけるCagAタンパク質の存在を検出することによっても実施することができる。この試料は、好ましくは胃組織の試料である。所望の結合特異性をもつ抗体は、当業者によって生成することができる。この抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいしモノクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体が好ましい。この抗体は、例えばウエスタンブロット、ELISA、免疫組織染色など、タンパク質を検出するためのいずれの有用なフォーマットにおいても使用することができる。この抗体は、本明細書中の診断方法のために使用することができる。
【0055】
上記方法は、2つの可能性のある結果であるヘリコバクター・ピロリ感染が存在する、又はヘリコバクター・ピロリ感染は存在しないを生じることができるようなものであってもよい。ヘリコバクター・ピロリ感染は、例えば、上記アッセイにおけるシグナルカットオフ値に基づいて判定することができる。中間の結果である、さらなる検討又は再試料採取若しくは試料の再分析を必要とする不確かな結末もあってよい。
【0056】
CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染が存在するということが確立されると、例えばその被検者が胃癌を発症するリスクを低下させるために、このヘリコバクター・ピロリ感染を処置することが有用である場合がある。処置は、当該技術分野で公知の方法によって、例えば抗生物質の使用によって行うことができる。様々な理由から、その理由のいくつかは、抗生物質耐性に関する問題とともに胃での活性な抗生物質のアベイラビリティが低いことであるが、ヘリコバクター・ピロリ感染について多くの異なる抗生物質処置レジメンが存在し、これらの有効性は、一般に世界の地域ごとに異なる。一般に、処置レジメンは、次クエン酸ビスマスカリウムの添加を伴う又は伴わない、マクロライド類、β-ラクタム類、ニトロイミダゾール類、テトラサイクリン類及びフルオロキノロン類の群から選択される少なくとも2つの異なる抗生物質を含み、1つの抗生物質が好ましくは各群から選択される。1以上の抗生物質が、プロトンポンプ阻害剤と組み合わせて投与されてもよい。1つの処置としては、7~14日間のプロトンポンプ阻害剤オメプラゾール、並びに抗生物質アモキシシリン及びクラリスロマイシンの投与が挙げられる。
【0057】
従って、1)被検者に対して本明細書に記載される診断を実施する工程と、2)上記被検者におけるヘリコバクター・ピロリ感染を処置する工程とを備える胃癌の防止方法も提供される。好ましくは、処置は、上記被検者がヘリコバクター・ピロリ感染を有しないように行われる。
【0058】
CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染が存在すると確立されると、さらなる検討を行って早期の段階又は進行した段階の胃癌の存在を評価することも有用である可能性がある。これは、すべての患者に関係する可能性があるが、他の理由から高い胃癌のリスクを有するとわかっているか又は有することが疑われる被検者、例えば高胃癌リスクの国々出身の患者、喫煙者である被検者、及び/又は近親者が胃癌と診断されたことがあるとわかっている被検者には特別に関係する。このような検討は、胃内視鏡検査によって行うことができ、この胃内視鏡検査で、胃癌が存在するか否かを評価するために胃壁が視診される。胃腫瘍が観察されると、その腫瘍は、早期であれば内視鏡的切除術によって、又は進行期であれば外科手術によって、処置されてもよい。
【0059】
あるいは、当該方法は、日常的な胃内視鏡検査による検討に対するフォローアップとして使用することができる。内視鏡検査及び/又はその後の病理組織試験で、例えばOLGAスコアの上昇によって胃に前癌状態が存在すると発見されると、当該方法は、さらなる患者の取り扱いを通知するために使用することができる。これは、フォローアップの胃内視鏡検査のための適切な時間間隔についての推奨の形態であってもよい。例えば、CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染が存在すると確立された場合には、CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染が存在しない場合よりも短い時間間隔でフォローアップの胃内視鏡検査を実施することが有益である可能性がある。
【0060】
当該ペプチドは、当該技術分野で公知の方法によって合成することができる。当該ペプチドは、有機合成、例えば固相合成によって純粋にかつ大量に得ることができる。ペプチド合成のための方法は、例えばペプチド合成機を使用することなど、当該技術分野で周知である。当然、当該ペプチドは、ペプチド合成会社に発注してもよい。
【0061】
当該ペプチドは、動物起源、植物起源、細菌起源又はウイルス起源のものであってもよい。その場合、当該ペプチドは、当該技術分野で公知のとおり、その生物から精製されてもよい。当該ペプチドは、組み換え技術を使用して、例えば真核細胞、細菌細胞、又はウイルス発現系を使用して産生されてもよい。詳細については、Current Protocols in Molecular Biology、(Ausubelら編)、John Wiley & Sons、NY(最新版)が参照される。
【0062】
ヘリコバクター・ピロリはCagA配列においていくつかの遺伝的多様性を呈し、数種の株を特定するペプチド又は一群のペプチドを使用することが望ましい場合がある。配列番号1~配列番号7は、そのような一群のペプチドを代表する。なぜなら、世界中のすべてのCagA+ヘリコバクター・ピロリ分離株の95%は、これらの配列変異体のうちの少なくとも1つを保有するからである。従って、本明細書中の2以上のペプチド(配列番号1~330)の混合物(「カクテル」)を提供することが有用である場合がある。1つの実施形態では、このような混合物は、配列番号1~配列番号13を含むか又はそれらの配列からなるペプチドから選択される少なくとも2種の、好ましくは3種の、より好ましくは4種の、より好ましくは5種の、より好ましくは6種の、より好ましくは7種のペプチドを含む。1つの実施形態では、これらの配列は、配列番号1~配列番号7から選択される。好ましい混合物としては、配列番号1、2、3、4、5、6及び7、配列番号1、2、3、4及び5、配列番号2、3、4、5、6及び7、並びに配列番号2、3、4及び5が挙げられる。配列番号1~配列番号5は、いわゆるCagA ABC型、ABCC型及びABCCC型に存在し、他方、配列番号6及び配列番号7は、ABD型にしか存在しない。このように、1つの実施形態では、1つの配列は配列番号1~5から選択され、1つの配列は配列番号6及び7のうちの1つから選択される。配列番号6及び7のペプチドは、アジアにおけるヘリコバクター・ピロリ株の診断にとって特に有用である可能性がある。
【0063】
別の実施形態では、当該ペプチドは、配列番号8~配列番号13のペプチドから選択される。
【0064】
1つより多いヘリコバクター・ピロリ株を検出するための別の有用なやり方は、配列番号8、9、10及び12に存在するモチーフEPIYAを含有するペプチドを使用することである。
【0065】
1以上のペプチドが1つのキットに含まれてもよい。このキットは、本明細書に記載される診断のために使用されてもよい。キットは、1以上のペプチド又はこれらの混合物、結合緩衝液、及び二次抗体等の検出剤を含んでもよい。当該キットは、本発明のペプチド(1又は複数種)が予め吸着されているELISAプレート等のマイクロタイタープレート等の固体支持体等の当該ペプチドを固定する基材、種々の希釈剤及び緩衝液、特異的に結合された抗原又は二次抗体等の抗体の検出のための標識化接合体又は他の薬剤、並びに酵素基質、補因子及び色素原等の他の信号発生試薬を含んでもよい。キットの他の好適な構成要素は、当業者が容易に決定することができる。
【実施例0066】
実施例1
関連するCagAペプチドを、ペプチドアレイ実験を使用して3工程の手順を使用して特定した。これらのペプチドの抗体結合の痕跡を、そのアレイを、消化不良患者のコホート由来の、ヘリコバクター・ピロリに感染した個体由来及びヘリコバクター・ピロリに感染していない個体由来のプールされた血清試料又は個々の血清試料とともにインキュベーションすることにより分析した。このヘリコバクター・ピロリに感染した個体は、既知のCagA状態(cagA遺伝子の存在/不存在)で感染症を有していた。
【0067】
血清試料は、以前に記載されているとおり(Thorellら、BMC Evol Biol 2016:16:53)、消化不良に起因して内視鏡検査を受けたニカラグアのマナグアの個体から得た。これらの患者の各々は、既知のヘリコバクター・ピロリ感染状態を有しており、当該患者らのヘリコバクター・ピロリ分離株のゲノム配列は、利用可能であった。
【0068】
ヘリコバクター・ピロリの公開されたゲノム配列はNCBIから得た。ヘリコバクター・ピロリについての利用可能な全ゲノム(n=49)は、2013年8月にGenBankからダウンロードした。実験株B8、Rif1、Rif2、UM298及びUM299を除外し、残りの44の完全株を比較ゲノム解析のために使用した。2013年11月1日現在でGenBankで利用可能な全ゲノム配列解析された分離株をダウンロードし、動物中で継代した株又は実験的に誘導した株についてを除き、オープンリーディングフレーム情報を含有するすべての分離株を使用した。受入番号SRP045449でSequence Read Archiveデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sra)からの、以前に公開されたニカラグア人のゲノム配列も使用した。
【0069】
これらの公に利用可能なゲノム配列に加えて、オーストラリアで単離されたヘリコバクター・ピロリ株の配列を、Barry J Marshall教授(University of Western Australia、西オーストラリア州、オーストラリア)から得た。
【0070】
上記利用可能なゲノム内の推定されるCagAタンパク質配列を特定するために、blastpを使用する類似性検索を、株26695(NC_000915.1)由来のCagA配列を使用して実施した。本発明者らのゲノム配列のコレクションでは、245の株/分離株がcagA遺伝子を含有していることが見出され、これらの分離株のすべての推定されるCagAタンパク質配列を、この後の分析のために使用した。
【0071】
実施例2
CagAペプチドに対する抗体応答を、ペプチドアレイ分析を使用してアッセイした。レーザー印刷合成技術を使用して中密度アレイを印刷した。これらのチップに対し、約8,600の異なる15アミノ酸(15アミノ酸長)ヘリコバクター・ピロリペプチドを各チップ上にスポットした。その後、このチップを、患者血清の1/1000倍希釈物、又は10種の異なる血清試料のプールの1/1000倍希釈物とともにインキュベーションし、次いで洗浄し、その後、蛍光色素と接合したウサギ抗ヒトIgG抗体によるインキュベーションを行った。最後に、蛍光イメージスキャンニング及びデジタル画像解析を実施して、チップ上のペプチドの各々に対する抗体結合を検出した。チップ印刷及び抗体分析を、PEPperPRINT社(ハイデルベルク、ドイツ)によって実施した。
【0072】
実施例3
オンチップフォトリソグラフィー合成を使用して高密度アレイを作成した。これらの実験では、約200,000種の異なる15アミノ酸長ヘリコバクター・ピロリペプチドを各チップ上にスポットした。その後、このチップを、患者血清の1/1000倍希釈物、又は10種の異なる血清試料のプールの1/1000倍希釈物とともにインキュベーションし、次いで洗浄し、その後、蛍光色素と接合したウサギ抗ヒトIgG抗体又はウサギ抗ヒトIgA抗体によるインキュベーションを行った。最後に、蛍光イメージスキャンニング及びデジタル画像解析を実施して、チップ上のペプチドの各々に対する抗体結合を検出した。チップ印刷及び抗体分析を、Schafer-n社(コペンハーゲン、デンマーク)によって実施した。
【0073】
実施例4:CagAのB細胞エピトープの特定
重複する15アミノ酸長ペプチド及び血清試料のプールに対する血清抗体結合を評価することによりCagA配列全体をスクリーニングした。配列の重複が10アミノ酸である、CagA配列全体を網羅するペプチド(n=234ペプチド)でスポットした実施例2の中密度アレイを使用した。フォローアップ実験では、CagA配列全体を網羅する15アミノ酸長ペプチドを用いた実施例3の高密度アレイを使用したが、この際、配列の重複は14アミノ酸であった(n=1172ペプチド)。両方の場合、CagAペプチド配列の供給源としてヘリコバクター・ピロリ株26695を使用した。各ペプチドへの抗体結合をアレイ上で個々に評価し、1つが10人のヘリコバクター・ピロリに感染した(Hp+)個体に由来するプールされた血清からなり、他方が10人の感染していない(Hp-)個体に由来する血清からなる2つの血清プールを使用した。
【0074】
Hp+血清プールの抗体結合をHp-プールの結合と比較した。直線状B細胞エピトープを、Hp-群においてよりもHp+群において抗体結合が少なくとも2倍高い少なくとも4つのアミノ酸の区間として定義した。このようにして、ヘリコバクター・ピロリCagAが18種の異なる直線状B細胞エピトープを含有し、それらの平均長さが22アミノ酸であることが判明した(表1及び
図1)。これらのエピトープは、すべてCagA+ヘリコバクター・ピロリ感染の診断のために有用である。
【0075】
【表1】
1 開始位置及び終端位置は、株26695のCagAにおけるアミノ酸位置を指す。
【0076】
実施例5:高い診断能力を有する15アミノ酸長CagAペプチドの特定
特定したエピトープへの抗体結合について個々の血清試料をアッセイして、CagA+ヘリコバクター・ピロリを有するか又はCagA+ヘリコバクター・ピロリを欠く、ヘリコバクター・ピロリに感染した個体が、種々の上記エピトープに対する抗体と反応する頻度を評価した。上記18種のエピトープが、各々、1つより多い15アミノ酸長ペプチドにまたがっていたため、再び重複するペプチドを使用し、この際には、連続するペプチド間には10アミノ酸又は11アミノ酸の重複があった。さらには、種々のヘリコバクター・ピロリ分離株にはCagAのかなりの配列多様性があるため、各ペプチドについての配列変異体を含めた。このように、26695CagA由来の各々の重複する15アミノ酸長ペプチド配列について、このペプチドのあらゆる利用可能な配列変異体が245の世界中のCagA配列の本発明者らのデータベースで配列変異体が少なくとも2回存在すると判明した場合には、そのような配列変異体も使用した。全体で、18種の特定されたエピトープ内の1144種の異なるCagAペプチド及び配列変異体を、高密度アレイを使用してアッセイした。CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染を有するか又は有しない個体由来、及び感染していない対照由来の個々の血清試料(n=48)を用いて各ペプチドをアッセイした。
【0077】
応答する個体が高頻度にありかつ強い抗体結合を示すエピトープは、CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染の診断のために使用するのに好適であろう。CagA抗体を評価するための以前に公知の方法が伴う課題は、偽陽性の個体、すなわちヘリコバクター・ピロリに感染していないが試験で陽性と判定される個体、の数が大きいことであった。それゆえ、CagA+感染を有する個体において強い抗体応答を示すが、CagAを欠く感染を有する個体及びヘリコバクター・ピロリに感染していない個体においては最小の応答しか示さないという良好な識別能力を有するペプチドを特定した。
【0078】
ROC曲線を使用するペプチドの識別能力をアッセイし、ROC曲線の曲線下面積(AUC)(ROC AUC)を診断能力の評価として使用した。
【0079】
上記18種の特定されたCagAエピトープ由来の、配列変異体を含めた1144種の異なるペプチドのROC AUC中央値は、0.53であった(
図2A)。0.53というROC AUCはコイントスの(すなわち、診断のために有用ではない)診断精度に非常に近いため、これは、CagAタンパク質全体に対する抗体応答に頼る既存の血清学的な試験についての高い偽陽性率という課題を際立たせる。
【0080】
異なるエピトープの間でROC AUCの偏在があり、エピトープ3~4、8~14及び17~18は高診断能力を有するペプチドのほとんどを含有していた(
図2B)。
【0081】
上記1144種のペプチドのうちで、0.7よりも高いROC AUCをもつ176種のCagAペプチドを特定した(表2)。これらのペプチドの各々は、ヘリコバクター・ピロリCagA+感染の診断のために使用することができる。
【0082】
【0083】
実施例6
0.7未満のROC AUCを用いる診断であっても診断能力を有する可能性がある。これを評価するために、一貫した割合のCagA+個体が抗体応答を有するがCagA陰性株を有するか又はヘリコバクター・ピロリ感染を欠く個体は誰もそのような応答を有しないペプチドを特定した。このようにして、真陽性率が10%超であり偽陽性率が0%である0.7未満のROC AUCを示す123種のペプチドを特定した(表3)。これらのペプチドの各々も、ヘリコバクター・ピロリCagA+感染の診断のために使用することができる。
【0084】
【表7】
【表8】
【表9】
1 AUC-受信者動作特性(ROC)曲線についての曲線下面積。
2 FPR-試験したすべてのペプチド(n=1144ペプチド)の第95パーセンタイルに設定したカットオフ値に基づく偽陽性率(%)。
3 TPR-試験したすべてのペプチド(n=1144ペプチド)の第95パーセンタイルに設定したカットオフ値に基づく真陽性率(%)。
【0085】
実施例7:CagA+ヘリコバクター・ピロリ感染を診断するための非常に重要なアミノ酸配列の特定
高度に診断力があると特定したペプチド内のヘリコバクター・ピロリCagAのB細胞エピトープの詳細なマッピングを実施した。マッピングは、高密度ペプチドアレイを使用して実施した。個々の血清試料(n=48)を、選択した各ペプチドの配列変異体への抗体結合について試験した。これは、抗体結合に寄与し、それゆえ診断的応用の中に含めるべく非常に重要であろうと思われる、各ペプチド中のアミノ酸位置を目立たせるために行った。
【0086】
本発明者らは最も高い診断の潜在能力を有するペプチドを選択し、選択したペプチドの各々について、本発明者らは300種の異なる配列変異体を作成した。これは、いわゆる完全一残基置換によって行った。これは、各ペプチドの15のアミノ酸位置の各々について、本発明者らがその位置の配列だけが異なる20種の異なる配列変異体を作成したということ、つまりその位置において、上記20種の変異体が20種の異なる一般的なタンパク質アミノ酸の各1つを有するということを意味する。アミノ酸位置1つにつき20種の異なる配列変異体があり、上記ペプチドが15アミノ酸の長さであるので、全部で300種の異なる配列変異体があった。手順はこれまでに記載されている(Hansenら、PLOS One 2013:8(7):e68902)。この分析で、ペプチド内の所定の残基位置が上記抗体への上記ペプチドの結合にとって重要でないか否か、すなわち未変性の配列の中のそのアミノ酸残基を、結合に影響を及ぼすことなく自由に置換することができるか否かを判定した。
【0087】
このようにして、選択したペプチドのすべての変異体を、48の血清試料の各々によって抗体結合について試験した。本発明者らは、どのペプチド変異体がもとのペプチドよりも有意に/実質的に低いROC AUCスコアを得たかを観察し、この情報に基づいて、本発明者らはCagA+ヘリコバクター・ピロリ感染の識別能力について非常に重要である配列モチーフを特定することができた。
【0088】
上記ペプチドの非常に重要な一部分が5~6アミノ酸の間にまたがっていること、及びこれらの非常に重要な配列の位置の一部に重複性があるということが明らかになった。特定のエピトープについての非常に重要な配列を表11に示し、それらのROC AUCレベルを
図3に示す。表11のペプチドは、ヘリコバクター・ピロリ感染及び胃癌の診断及び処置に、癌の防止も含めて特に有用である。なぜなら、表11のペプチドは高度に特異的だからである。
【0089】
【表10】
1 「X」は、本明細書に記載されるとおり、いずれか1つのアミノ酸を意味する。
2 AUCは中央値として表されており、四分位範囲をかっこ内に示している(N.A=適用なし)。
3 試験した異なる15アミノ酸長ペプチド配列の数。
4 配列番号13のAUCデータは配列13の配列変異体を含む。データは、15アミノ酸のうちの少なくとも12と正確にマッチングするすべてのペプチドを含む。
前記処置が、マクロライド類、β-ラクタム類、ニトロイミダゾール類、テトラサイクリン類及びフルオロキノロン類からなる群から選択される少なくとも2つの抗生物質を投与する工程を含む、請求項9に記載の方法。