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特開2023-49151抗菌性試験方法、および、抗菌性試験キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049151
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】抗菌性試験方法、および、抗菌性試験キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/18 20060101AFI20230403BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C12Q1/18
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158719
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】阿部 円佳
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 光
(72)【発明者】
【氏名】村本 伸彦
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA06
4B063QQ06
4B063QR68
4B063QS10
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】比較的高度な実験設備を用いることなく、簡便に抗菌性を試験する。
【解決手段】対象物の表面の抗菌性を評価するための試験方法は、対象物の表面に、食品由来の菌を付着させ、付着させた菌を前記対象物の表面上で保持し、保持した菌を対象物の表面から回収し、回収した菌のうちの生存している菌の量を測定することにより抗菌性を評価する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面の抗菌性を評価するための試験方法であって、
前記対象物の表面に、食品由来の菌を付着させ、
付着させた前記菌を前記対象物の表面上で保持し、
保持した前記菌を前記対象物の表面から回収し、
回収した前記菌のうちの生存している菌の量を測定することにより前記抗菌性を評価する
抗菌性試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌性試験方法であって、
前記菌は、前記食品の製造工程に含まれる発酵工程で用いる菌である
抗菌性試験方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗菌性試験方法であって、
前記菌は、好気性菌または通性嫌気性菌である
抗菌性試験方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の抗菌性試験方法であって、
前記対象物の表面への前記菌の付着は、前記菌の懸濁液の吹き付けにより行う
抗菌性試験方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の抗菌性試験方法であって、
前記対象物の表面上での前記菌の保持は、前記菌が付着された前記対象物の表面に粘着テープを貼り付けることにより行い、
前記対象物の表面からの前記菌の回収は、前記対象物の表面から前記粘着テープを剥離し、前記菌を前記粘着テープに転写させることにより行う
抗菌性試験方法。
【請求項6】
請求項5に記載の抗菌性試験方法であって、
前記対象物の表面から回収した前記菌のうちの生存している菌の量の測定は、前記粘着性テープに転写させた前記菌を固体培地上で培養して得られるコロニー数を数えることにより行う
抗菌性試験方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の抗菌性試験方法であって、
前記対象物は、光触媒を用いた抗菌処理が施されている
抗菌性試験方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項に記載の抗菌性試験方法に用いる抗菌性試験キットであって、
少なくとも、前記食品由来の菌を備える
抗菌性試験キット。
【請求項9】
請求項8に記載の抗菌性試験キットであって、さらに、
前記菌の懸濁液の吹き付けに用いる噴霧器と、
前記対象物の表面で前記菌を保持し、前記対象物表面から前記菌を回収するために用いる粘着テープと、
を備える抗菌性試験キット。
【請求項10】
請求項8または9に記載の抗菌性試験キットであって、さらに、
固体培地を含む培養プレートを備える
抗菌性試験キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌性試験方法、および、抗菌性試験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の抗菌性材料や抗菌性物質が知られており、また、抗菌性の試験方法が提案されている。例えば、特許文献1には、病原菌等の菌を塗布した寒天培地に、評価物質を内包したウェルを有するマイクロチャンバーを載せて、寒天培地と評価物質とを接触させ、その後、寒天培地において、菌が増殖した白濁領域と菌が増殖していない透明領域とが形成される状態を観察して、評価物質の抗菌性を評価する方法が開示されている。特許文献2には、圧電繊維の抗菌性の評価方法が開示されている。引用文献3には、抗菌繊維製品の抗菌効果の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-202777号公報
【特許文献2】特開2019-215237号公報
【特許文献3】特開平7-270401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、抗菌性材料や抗菌性物質そのものの抗菌性の評価ではなく、抗菌性材料等を用いた抗菌処理が施された任意の部材や設備などの抗菌性の試験方法については、十分な検討がなされていなかった。また、例えば、JIS R 1752:2020には光触媒抗菌加工材料の抗菌性の試験方法が記載されており、JIS Z 2801:2012には抗菌加工を施した製品の表面における抗菌性の試験方法が記載されているが、これらの方法は、バイオセーフティーレベル2以上の施設を要する細菌等を用いている。そのため、このような比較的高度な実験設備を用いることなく、より簡便に抗菌性を試験する技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、対象物の表面の抗菌性を評価するための試験方法が提供される。この抗菌性試験方法は、前記対象物の表面に、食品由来の菌を付着させ、付着させた前記菌を前記対象物の表面上で保持し、保持した前記菌を前記対象物の表面から回収し、回収した前記菌のうちの生存している菌の量を測定することにより前記抗菌性を評価する。
この形態の抗菌性試験方法によれば、食品由来の菌を用いて抗菌性を試験するため、隔離や封じ込め等が要求される特別な実験設備を用いることなく、簡便に抗菌性を試験することが可能になる。そして、試験後に残存する菌がヒト等の体内に入る可能性があっても、高い安全性を確保することができる。
(2)上記形態の抗菌性試験方法において、前記菌は、前記食品の製造工程に含まれる発酵工程で用いる菌であることとしてもよい。このような構成とすれば、抗菌性試験を行った後に、対象物表面に菌が残留する場合の安全性を高めることができる。
(3)上記形態の抗菌性試験方法において、前記菌は、好気性菌または通性嫌気性菌であることとしてもよい。このような構成とすれば、菌の培養雰囲気を調節するための特別な培養装置を不要または削減することが可能になる。
(4)上記形態の抗菌性試験方法において、前記対象物の表面への前記菌の付着は、前記菌の懸濁液の吹き付けにより行うこととしてもよい。このような構成とすれば、対象物の表面に、予め定めた量の菌を比較的均等に付着させる動作を、容易に行うことが可能になる。
(5)上記形態の抗菌性試験方法において、前記対象物の表面上での前記菌の保持は、前記菌が付着された前記対象物の表面に粘着テープを貼り付けることにより行い、前記対象物の表面からの前記菌の回収は、前記対象物の表面から前記粘着テープを剥離し、前記菌を前記粘着テープに転写させることにより行うこととしてもよい。このような構成とすれば、粘着テープの貼り付けという簡便な方法により、例えば対象物表面が水平面ではない場合であっても、対象物表面で乾燥を抑えつつ菌を保持し、その後、対象物表面から菌を回収する動作を、容易に行うことができる。
(6)上記形態の抗菌性試験方法において、前記対象物の表面から回収した前記菌のうちの生存している菌の量の測定は、前記粘着性テープに転写させた前記菌を固体培地上で培養して得られるコロニー数を数えることにより行うこととしてもよい。このような構成とすれば、抗菌試験の対象物表面における抗菌性能を、コロニー数として可視化することができるため、微生物に関する専門的な知識を有さない者であっても、抗菌性能の程度を容易に認識することが可能になる。
(7)上記形態の抗菌性試験方法において、前記対象物は、光触媒を用いた抗菌処理が施されていることとしてもよい。このような構成とすれば、光触媒を用いた抗菌処理は、比較的広い範囲の菌に対して抗菌性能を示し得るため、抗菌性試験に用いる食品由来の菌を、例えば生育速度や培養の容易性の観点から、より自由に選択することが可能になる。
(8)本開示の他の一形態によれば、(1)から(7)までのいずれか一項に記載の抗菌性試験方法に用いる抗菌性試験キットが提供される。この抗菌性試験キットは、少なくとも、前記食品由来の菌を備える。
この形態の抗菌性試験キットによれば、本開示の抗菌性試験方法を、容易に実行することが可能になる。
(9)上記形態の抗菌性試験キットにおいて、さらに、前記菌の懸濁液の吹き付けに用いる噴霧器と、前記対象物の表面で前記菌を保持し、前記対象物表面から前記菌を回収するために用いる粘着テープと、を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、対象物の表面に、予め定めた量の菌を比較的均等に付着させる動作と、対象物表面で乾燥を抑えつつ菌を保持し、その後、対象物表面から菌を回収する動作とを、容易に行うことができる。
(10)上記形態の抗菌性試験キットにおいて、さらに、固体培地を含む培養プレートを備えることとしてもよい。このような構成とすれば、微生物の取り扱い等に係る特段の実験スキルを有しない試験者であっても、抗菌性試験を行うことが容易になる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、抗菌性試験に用いる食品由来の菌の選択方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】抗菌性試験方法を表すフローチャート。
図2】抗菌性試験方法の主要な工程における具体的な態様の例を示す説明図。
図3】生育速度や培養の容易性を比較した4種の菌を示す説明図。
図4】4種の乳酸菌を培養した結果を示す説明図。
図5】4種の乳酸菌を培養した結果を示す説明図。
図6】大腸菌を用いて抗菌処理に対する感受性を調べた結果を示す説明図。
図7】乳酸菌を用いて抗菌処理に対する感受性を調べた結果を示す説明図。
図8】車両を対象物として抗菌試験を行う様子を示す説明図。
図9】抗菌性試験の結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.抗菌性試験方法:
図1は、本開示の一実施形態としての抗菌性試験方法を表すフローチャートである。図2は、抗菌性試験方法の主要な工程における具体的な態様の例を模式的に示す説明図である。図1および図2に示す抗菌性試験方法は、抗菌処理(抗菌加工)が施された部材や設備などの物品の表面における抗菌性を評価するために行われる。
【0008】
抗菌性試験の際には、試験者は、まず、食品由来の菌を用意する(工程T100)。本実施形態の抗菌性試験では、抗菌処理を施した対象物の表面における抗菌性能を、食品由来の菌を用いて評価している。食品由来の菌とは、食品に含まれる菌であって、食品の製造工程において食品中で増殖する菌を指しており、人体に取り込まれても、健康上の悪影響を及ぼすおそれがほとんど無いと考えられる菌を指す。そのため、食品由来の菌は、例えば、野菜の表面に単に存在する菌や、食品由来の病原菌は含まない。また、特に、古くから発酵工程で用いられてきた菌や、発酵食品に含まれる菌を指す。このような食品由来の菌は、通常は、バイオセーフティーレベル1以下の設備での取り扱いが可能である。
【0009】
ここで、食品由来の菌とは、バクテリアの他、真菌類であってもよい。具体的には、例えば、乳酸菌、納豆菌、酢酸菌、酵母菌(発芽酵母、分裂酵母)、麹菌、糸状菌を挙げることができる。このような食品由来の菌は、菌を生存させ、あるいは増殖させる際に、培養雰囲気を調節するための特別な培養装置を不要にする観点から、好気性菌または通性嫌気性菌であることが望ましい。また、上記した食品由来の菌は、常温(例えば、20℃~30℃)で培養可能であることが望ましく、固体培地を用いて常温で培養することにより、視認可能なコロニーを形成可能であることが望ましい。具体的には、例えば、後述するように固体培地を含む培養プレートを備えた抗菌性試験キットを用いて抗菌性試験を行う場合に、菌液を上記固体培地に播種して常温に放置したときに、1個の菌から、48時間以内に、好ましくは24時間以内に、視認可能な(例えば直径1mm以上の)コロニーを形成可能であることが望ましい。これにより、抗菌性試験の後述する工程T140において、特別な培養装置を用いることなく常温で菌を培養して、環境中の微生物によるコンタミネーションを抑えつつ、生存している食品由来の菌の量を測定することが可能になる。また、上記した食品由来の菌は、生育速度が、より速いことが望ましい。これにより、後述する工程T140における生存している菌の量の測定の際に、菌の培養時間を短縮することが可能になる。
【0010】
食品由来の菌は、例えば、食品の製造工程に含まれる発酵工程で用いる菌とすることができる。ただし、製造工程中の発酵工程以外の工程で用いられて食品中で増殖する菌(例えば、チーズの製造工程中の、乳酸菌を用いた乳酸発酵の工程の後に行う熟成工程において、チーズの外側に付着させる糸状菌等)であってもよい。
【0011】
対象物の汚染原因となる主要な菌(以下では、汚染原因菌とも呼ぶ)が予想される場合には、予め、予備試験を行って、抗菌性試験に用いる食品由来の菌を決定してもよい。すなわち、上記した複数の食品由来の菌と、汚染原因菌と、のそれぞれに対する、対象物の表面に施された抗菌処理の効果を予め調べておき、効果が現れる態様が汚染原因菌に近い菌を、抗菌性試験に用いる食品由来の菌として決定してもよい。
【0012】
工程T100で用意される食品由来の菌は、後述するように、抗菌性試験キットの態様で提供されることが好ましく、これにより、微生物の取り扱い等に係る特段の実験スキルを有しない試験者であっても、抗菌性試験を簡便に行うことが可能になる。
【0013】
工程T100の後、試験者は、抗菌性試験の対象物の表面に、工程T100で用意した菌を付着させる(工程T110)。抗菌性試験の対象物は、抗菌処理が施された部材や設備などの物品であればよく、例えば、車両の窓や車体のように屋外で使用される物品とすることができる。あるいは、病院、老人施設、商業施設、厨房などの作業台や壁面等の屋内の物品であってもよい。
【0014】
対象物の表面に、食品由来の菌を付着させる動作は、菌の懸濁液(以下では、菌液とも呼ぶ)を用いればよく、例えば、噴霧器を用いて菌の懸濁液を対象物の表面に吹き付けることにより行うことができる。対象物20に対して、噴霧器30を用いて菌の懸濁液32を吹き付ける様子を、図2の(A)に示す。吹きつけは、例えば吹き付け回数を設定することにより、対象物の表面に、予め定めた量の菌を比較的均等に付着させる動作を容易に行うことが可能になるため、望ましい。あるいは、工程T110では、菌の懸濁液を対象物の表面に塗布してもよい。
【0015】
工程T110の後、試験者は、対象物表面に付着させた菌を対象物表面で保持する(工程T120)。工程T120では、菌の乾燥を抑えつつ、予め定めた時間、対象物表面で菌を保持することができればよい。具体的には、例えば、対象物の表面上に、菌を付着させた領域を覆う保持部材を貼り付けることにより行うことができる。保持部材は、例えば、粘着テープとすることができる。粘着テープ34を用いて対象物20の表面で菌を保持する様子を、図2の(B)に示す。菌を保持する保持部材として、粘着テープに代えて、粘着性を有しない樹脂フィルムやガラス板を用いることとしてもよい。ただし、粘着テープを用いる場合には、対象物の表面が水平ではない場合や、対象物の表面にある程度の凹凸が存在する場合であっても、支障なく対象物表面で菌を保持することができるため望ましい。
【0016】
工程T120において対象物の表面で菌を保持すると、対象物の表面が抗菌性を有する場合には、抗菌性の程度に応じた量あるいは割合の菌が死滅する。対象物の表面が、抗菌性物質として、例えば光触媒を備える場合には、粘着テープ等の保持部材は、透明または半透明であることが望ましい。このようにすれば、対象物が透明または半透明ではなく、抗菌処理を施した対象物の表面に対して対象物を透過した光が届かない場合であっても、保持部材を介して、対象物の表面に光を到達させることができ、抗菌作用を有する光触媒に抗菌性能を発揮させることができる。なお、ここで保持部材が透明または半透明であるとは、可視光を含む広い波長に対して透光性を有している必要はなく、光触媒の作用に寄与する波長の少なくとも一部の波長に対して透光性を有していればよい。粘着テープとしては、一般的に広く流通する粘着テープである、いわゆる養生テープを用いることが可能であり、このように入手容易な粘着テープを用いることで、抗菌性試験の利便性を高めることができる。
【0017】
工程T120の後、試験者は、対象物表面で保持した菌を回収する(工程T130)。菌の回収は、例えば菌の保持に粘着テープ等の保持部材を用いた場合には、保持部材を対象物表面から剥離して、保持部材に菌を転写させることにより行うことができる。
【0018】
工程T130の後、試験者は、対象物の表面から回収した菌のうちの生存している菌の量を測定して、抗菌性を評価する(工程T140)。生存している菌の量の測定は、例えば、粘着性テープ等の保持部材に転写させた菌を固体培地上に塗布して培養し、得られるコロニー数を数えることにより行うことができる。粘着テープ34に転写させた菌を、培養プレート40が備える固体培地42上に塗布する様子を図2の(C)に示し、この培養プレート40を培養してコロニー44が形成された様子を図2の(D)に示す。保持部材に転写した菌を固体培地に塗布する動作は、例えば、保持部材における菌の転写面を固体培地上に接触させる(スタンプする)ことにより行うことができる。このとき、保持部材の面積を固体培地の表面の面積よりも小さく設定して、菌を転写した保持部材の転写面全体を固体培地に接触させることで、菌の転写量、および、培養に供する菌量(生存している菌と死滅した菌の合計量)を一定に近づけることができる。保持部材上の菌を固体培地表面に塗布する際には、さらにコンラージ棒等を用いて菌液を塗り広げて、固体培地表面における菌液の塗布量を均一化してもよい。
【0019】
このとき、抗菌性試験に用いた食品由来の菌が、常温で培養可能な菌であれば、固体培地上に塗布した菌の培養は、培養プレートを室温に放置することにより行えばよく、抗菌性試験の利便性を向上させることができる。室温よりも高い温度での培養が望ましい場合には、より高い温度環境下で培養すればよい。培養後に観察されるコロニー数が少ないほど、抗菌性試の対象物表面との接触によって多くの菌が死滅したことになり、抗菌性能が高いと評価することができる。
【0020】
上記した抗菌性試験に対する対照実験は、例えば、抗菌処理を施していないコントロール用対象物を用意して行えばよい。すなわち、このコントロール用対象物を用いて、対象物に対する抗菌性試験と並行して同様の試験を行って結果を比較すればよい。あるいは、工程T120で用いる粘着テープ等の保持部材に、工程T110で対象物に付着させた菌と同等の量の菌を付着させて、その後、工程T140と同様にして、保持部材上の菌のうちの生存している菌の量を測定して、結果を比較してもよい。
【0021】
なお、工程T140における菌の培養は、対象物表面から回収した菌を固体培地を用いて培養する以外の方法を採用してもよい。例えば、対象物表面から回収した菌を、液体培地を用いて、予め定めた温度条件下にて、予め定めた時間において培養し、液体培地の濁度の変化等により、抗菌性能を評価してもよい。あるいは、対象物表面から回収した菌を、例えば保持部材ごと封止袋内に封入し、菌の培養以降の工程を実行する専用施設に送って菌量の測定を行うこととしてもよい。
【0022】
B.抗菌性試験キット:
既述した抗菌性試験を行うために供される抗菌性試験キットについて説明する。抗菌試験キットは、例えば、以下の構成要素を備えることとすればよい。
(a)食品由来の菌
(b)菌を懸濁あるいは希釈するための液
(c)噴霧器
(d)保持部材
(e)固体培地を含む培養プレート
【0023】
(a)食品由来の菌:
「(a)食品由来の菌」(以下、単に「菌」とも呼ぶ)は、凍結乾燥した状態で常温にて提供されることとしてもよい。これにより、上記菌、あるいは、この菌を含む抗菌試験キットを流通・保存するための、特別な温度管理装置を不要とすることができる。また、上記菌は、菌に応じて選択される液中に懸濁された懸濁液の状態で、冷蔵で提供されることとしてもよい。これにより、既述した工程T110で菌の懸濁液を用意する動作が容易になる。あるいは、上記菌は、グリセロールを含む液中で、-20℃程度の低温状態で提供されることとしてもよい。これにより、上記菌を、より長く安定して保存することが可能になり、抗菌試験キットの使用期限を長期化することが可能になる。
【0024】
(b)菌を懸濁あるいは希釈するための液:
「(b)菌を懸濁あるいは希釈するための液」(以下、懸濁・希釈用液とも呼ぶ)は、工程T110で対象物に菌を付着させる際に用いる菌の懸濁液を調製するために用いる液であり、菌の種類や菌の保存状態に応じて、適宜その組成を設定すればよい。例えば、上記菌が凍結乾燥した菌である場合には、抗菌性試験キットは、懸濁・希釈用液として生理食塩水を備えることとすればよい。そして、抗菌性試験を行う際には、対象物表面に付着させるための菌の懸濁液は、生理食塩水を用いた復水により調製すればよい。上記菌が、対象物表面に菌を付着させるためにそのまま用いることができる懸濁液として提供される場合には、抗菌性試験キットは、懸濁・希釈用液を備えないこととしてもよい。なお、懸濁・希釈用液は、抗菌性試験キットに含めることなく、試験者が調製することとしてもよいが、抗菌性試験キットに含めることにより、微生物の取り扱い等に係る特段の実験スキルを有しない試験者であっても、抗菌性試験を行うことが容易になる。
【0025】
(c)噴霧器:
「(c)噴霧器」は、例えば、小型のアトマイザーとすることができる。噴霧器として、抗菌性試験キットの使用回数と同じ数の滅菌した噴霧器をキットに添付するならば、試験者が噴霧器の消毒等を行う必要がないため望ましい。そして、抗菌性試験キットが備える各々の噴霧器は、予め、1回分の上記菌を内部に備えることとしてもよい。例えば、各々の噴霧器が1回分の上記菌を内部に備えており、懸濁・希釈用液も1回分ごとに個包装となっているならば、1回分の懸濁・希釈用液を噴霧器に注入することにより、分注や移し替えの動作を行うことなく、工程T110で用いる菌の懸濁液を容易に調製することができる。ただし、工程T110で用いる噴霧器としては任意のものを使用可能であり、また、工程T110において噴霧以外の方法により、対象物表面への菌の付着を行ってもよいため、抗菌性試験キットにおいて噴霧器は必須ではない。
【0026】
(d)保持部材:
「(d)保持部材」は、既述したように、例えば粘着テープとすることができ、一般的な、いわゆる養生テープとすることができる。
【0027】
(e)固体培地を含む培養プレート:
「(e)固体培地を含む培養プレート」は、食品由来の菌を培養するために望ましい組成を有する寒天培地を注入して固めた培養プレートとすることができる。図2では、培養プレート40を上面視円形として記載しているが、異なる形状としてもよい。例えば、培養プレートの上面視形状は、工程T120で用いる保持部材の形状と同様の形状であって、保持部材よりも一回り大きい形状としてもよい。固体培地を含む培養プレートは、抗菌性試験キットに含めることなく、試験者が調製することとしてもよいが、抗菌性試験キットに含めることにより、微生物の取り扱い等に係る特段の実験スキルを有しない試験者であっても、抗菌性試験を行うことが容易になる。
【0028】
抗菌性試験キットは、さらに、工程T140で固体培地上で菌液を塗り広げるためのコンラージ棒を備えることとしてもよい。抗菌性試験を行うたびにコンラージ棒を再使用する場合には、抗菌性試験キットは、さらに、洗浄したコンラージ棒の表面の雑菌を除去するための殺菌用アルコール綿等を備えることとしてもよい。
【0029】
以上のように構成された本実施形態の抗菌性試験方法および抗菌性試験キットによれば、食品由来の菌を用いて抗菌性を試験するため、隔離や封じ込め等が要求される特別な実験設備を用いることなく、例えば屋外のような、抗菌処理が施された対象物が配置され、使用される場所において、簡便に抗菌性を試験することが可能になる。例えば、JIS R 1752:2020やJIS Z 2801:2012で規定される従来知られる抗菌性試験方法は、大腸菌や、バイオセーフティーレベル2以上の施設を要する黄色ブドウ球菌など、体内に入ることが望ましくない微生物を用いて、制限された実験室レベルの環境下において行われていた。これに対し、本実施形態の抗菌性試験方法は、食品由来の菌を用いることにより、試験の対象物(抗菌処理した車など)の実際の使用環境下(例えば屋外)において、安全に抗菌性試験を行うことが可能になる。そして、対象物への菌の付着を伴う試験後に、菌が残存する対象物表面に触れる等により、菌がヒト等の体内に入る可能性があっても、高い安全性を確保することができる。さらに、工程T140において固体培地への菌液の播種を伴う評価を行う場合には、対象物の抗菌性能を、コロニー数として可視化することができ、微生物に関する専門的な知識を有さない者であっても、抗菌性能の程度を容易に認識することが可能になる。
【0030】
本実施形態による抗菌性試験の結果は、少なくとも、試験に用いた食品由来の菌と近縁の汚染原因菌については、同様の結果が得られると考えられる。例えば、食品由来の菌としてグラム陰性菌を用いた場合には、抗菌処理が施された対象物は、グラム陰性菌である汚染原因菌に対しても同様の抗菌性能を示すと考えられ、食品由来の菌としてグラム陽性菌を用いた場合には、抗菌処理が施された対象物は、グラム陽性菌である汚染原因菌に対しても同様の抗菌性能を示すと考えられる。既述したように、対象物の汚染原因となる主要な汚染原因菌が予想される場合には、予め予備試験を行って、上記汚染原因菌と同等の試験結果が得られる食品由来の菌を特定して用いることも好ましい。特に、特定の菌に対して高い効果を示すようになる抗菌処理を施した対象物について抗菌性試験を行う場合には、上記抗菌処理に対する感受性が高い食品由来の菌を用いて、抗菌性試験を行うことが望ましい。
【0031】
抗菌処理の中でも、光触媒を用いた抗菌処理は、その作用機序において、ヒドロキシルラジカル等の活性酸素による細胞の損傷等が含まれており、広い範囲の菌に対して抗菌性能を示し得ることが知られている。このように、共通する作用機序により、広い範囲の菌に対して抗菌性能を示すことが知られる抗菌処理が施された対象物の抗菌性を試験する際には、試験に用いる食品由来の菌の選択の自由度が高まるため望ましい。すなわち、試験に用いる食品由来の菌と汚染原因菌との性質がある程度異なっていても、食品由来の菌を用いた試験結果と同様の抗菌性能が、汚染原因菌に対しても期待できるため、食品由来の菌を、より自由に選択することが可能になる。例えば、常温で培養が可能であることや、培養時の生育速度が速いという観点に基づいて、より自由に、試験に用いる食品由来の菌を選択することができる。
【0032】
上記のように、常温で培養が可能な菌を用いることで、菌の培養温度を管理するための特別な培養装置や実験設備を不要または削減することが可能になる。また、食品由来の菌を含む抗菌性試験キットを用いることにより、微生物の取り扱い等に係る特段の実験スキルを有しない試験者であっても、容易に抗菌性試験を行うことが可能になる。
【0033】
なお、本実施形態の抗菌性試験方法においては、例えば、対象物に対する菌液の噴霧量、対象物表面において菌液が噴霧された面積、保持部材を培地に接触させる動作、等の要因により、工程T140の培養に供される菌量がある程度変動する可能性がある。しかしながら、抗菌性を有することの判断基準を、例えば、工程T140で測定されるコロニー数が対照区のコロニー数の10分の1以下であるか否か、のように適宜設定することにより、上記した要因の影響を抑えて、安定した判定結果を得ることが可能になる。
【0034】
本実施形態の抗菌性試験方法は、既述したように、試験の対象物の実際の使用環境下において、安全に、特別な実験施設を要することなく行うことができる。そのため、例えば、対象物に抗菌処理を施した業者が抗菌処理の効果を顧客に示すために、あるいは、抗菌処理を施した施設の運営業者が、抗菌処理の効果や効果の低下の程度を自ら確認するために、本実施形態の抗菌性試験方法を利用することができる。
【0035】
なお、菌の存在を、屋外などでも安全に検出可能な方法として、例えば、ATP(アデノシン三リン酸)量を測定する方法(例えば、キッコーマンバイオケミファ株式会社製のルミテスターSmartおよびルシパックA3Surfaceを用いる方法など)も知られている。しかしながらこの方法は、生存している菌そのものを検出するのではなく、ATP等の量を検出するため、検出結果は、抗菌処理の影響で損傷され死滅した菌の量の影響を受けて、精度が不十分になる可能性がある。これに対し、本実施形態の抗菌性試験方法は、生存している菌のみを検出することができるため、抗菌性能を、より精度良く判定することが可能になる。
【実施例0036】
<食品由来の菌の比較>
図3は、生育速度や培養の容易性の比較に用いた食品由来の菌を示す説明図である。以下では、一例として、図3に示す4種の菌を比較した結果について説明する。図3では、使用した菌のそれぞれについて、生物資源バンクであるNBRC(NITE Biological Resource Center)の菌株の番号と、学名と、原産国と、培養温度と、当該微生物を取り扱うための実験室の格付けであるBSLレベルと、菌の分離源と、微生物種と、を示している。図3に示すように、これら4種の菌はいずれも、日本原産の、食品由来の乳酸菌であり、バイオセーフティーレベル1の施設での取り扱いが可能であり、培養温度は30℃となっている。
【0037】
図4および図5は、図3に示す4種の菌を培養した結果を示す説明図である。図4は、上記した4種の乳酸菌について、液体のMRS(de Man-Rogosa-Sharpe)培地(Difco)を用いて、30℃にて2日間、好気条件下にて静置培養した結果を示す。図5は、これら4種の乳酸菌について、MRS寒天培地を用いて30℃にて1日間、好気条件下での培養または嫌気条件下での培養を行った結果を示す。嫌気条件下での培養は、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学株式会社製)を入れた密閉角形ジャー内に培養プレートを配置することにより行った。
【0038】
図4および図5に示すように、図3に示す4種の菌の中では、サンプル番号S2の菌は、嫌気条件下だけでなく好気条件下であっても生育速度が最も速かった。図4では、サンプル番号S2の菌量が最も多い様子を、白抜き矢印で示している。このように、嫌気条件にするための特別な操作を要することなく常温で良好に生育可能であるため、サンプル番号S2の菌は、上記4種の菌の中で最も培養が容易で、短期間の培養により評価結果を得ることができる菌であることが確認された。
【0039】
<食品由来の菌と汚染原因菌とを用いた抗菌処理に対する感受性の比較>
以下では、汚染原因菌と、食品由来の菌と、を用いて、対象物に施された抗菌処理に対する感受性を調べた結果について説明する。ここでは、汚染原因菌として大腸菌を用い、食品由来の菌として、図3のサンプル番号S2の乳酸菌を用いた結果を示す。
【0040】
(抗菌処理)
ここでは、抗菌処理として、可視光応答型光触媒(Cu/N-TiO)、すなわち、銅担持窒素ドープ酸化チタンであるV-CAT(登録商標)を用いた抗菌処理を採用した。そして、抗菌処理が施された対象物としては、上記の可視光応答型光触媒を塗布した24ウェルプレートを用いた。具体的には、24ウェルプレートをバインダー液で処理した後、可視光応答型光触媒であるV-CATを用いて上記プレートをコーティングして、抗菌試験の対象物とした。このように抗菌処理が施されたプレートの各ウェルに菌液を添加することにより、菌を含む飛沫が対象物に付着した状態を模擬した。なお、対象物の作製時には、対照区として、バインダー液を用いた処理のみを行い、可視光応答型光触媒を用いた抗菌処理は行っていない(未処理)プレートも作製した。
【0041】
(汚染原因菌として大腸菌を用いた場合)
図6は、汚染原因菌としての大腸菌を用いて、上記の抗菌処理に対する大腸菌の感受性を調べた結果を示す説明図である。ここでは、上記の抗菌処理が施された24ウェルプレートの各々のウェルに、大腸菌液200μL(菌数は、約5×10個)を添加し,約1000lxsの蛍光灯を照射した。このとき、照射時間(反応時間)は、0分、1分、3分、5分、10分、60分、180分のように変更させた。各ウェルから菌液を回収後、リン酸生理食塩水(34g/LのKHPO溶液 (pH7.2) を0.85%のNaCl溶液で800倍に希釈)で希釈し、Luria-Bertani(LB)agarプレートに100μLずつ播種した。その際、反応時間ごとに3ウェルの反応を行ったとともに、1ウェルごとに2枚のプレートに播種した。菌液を播種したプレートを37℃で一晩培養後、プレート1枚あたりに出現したコロニー数を計測し、反応時間ごとに、下記の式(1)に基づき大腸菌の生存率を算出した。
【0042】
生存率(%)=抗菌処理したプレートを用いたサンプルのコロニー数
/未処理プレートを用いたサンプルのコロニー数×100 …(1)
【0043】
図6に示すように、上記抗菌処理したコーティング表面に付着した大腸菌の生存率は、反応直後(照射開始直後)から速やかに低下し、60分後には大腸菌がほぼ全て死滅または増殖能を喪失したことが確認された。
【0044】
(食品由来の菌として乳酸菌を用いた場合)
図7は、食品由来の菌としてのサンプル番号S2の乳酸菌を用いて、上記の抗菌処理に対する乳酸菌の感受性を調べた結果を示す説明図である。ここでは、上記した汚染原因菌として大腸菌を用いた場合と同様の操作を行ったが、菌液として、大腸菌液に代えて、乳酸菌液200μL(菌数は、約5×10個)を用いた。その結果、図7に示すように、上記抗菌処理したコーティング表面に付着した乳酸菌の生存率は、反応直後(照射開始直後)から速やかに低下し、大腸菌の場合と同様に、60分後にはほぼ全て死滅または増殖能を喪失したことが確認された。
【0045】
図6および図7に示す結果より、上記可視光応答型光触媒を用いた抗菌処理に対する感受性は、乳酸菌を用いた場合においても、大腸菌と同等であると判断することができる。なお、図6図7のグラフの形状を比較すると、大腸菌と乳酸菌との間で、時系列に対する生存率の低下のパターンに若干の違いがある。しかしながら、抗菌性の試験において厳密な数値化を要求せず、コロニー数により視覚的に抗菌性能の程度を大まかに評価するという観点からは、このような違いはほとんど問題にならないと考えられる。
【0046】
このように、試験対象となる対象物に施された抗菌処理に対して、汚染原因菌と同様の感受性を示す食品由来の菌を用いて抗菌性試験を行うことで、汚染原因菌に対する抗菌性能を評価することができると考えられる。ここで、乳酸菌はグラム陰性菌であり、グラム陽性菌である大腸菌とは性質が異なるが、図6および図7に示すように、光触媒に対して同等の感受性が示された。これは、光触媒を用いた抗菌処理は、その作用機序において、ヒドロキシルラジカル等の活性酸素による細胞の損傷等が含まれており、広い範囲の菌に対して同様の抗菌性能を示し得るためであると考えられる。そのため、このような光触媒を用いた抗菌処理を施した対象物についての、食品由来の菌を用いた評価結果は、広い範囲の汚染原因菌に対する抗菌性能を反映していると考えられる。
【0047】
<評価結果>
食品由来の菌であるサンプル番号S2の乳酸菌を用いて、光触媒V-CATによる抗菌処理を行った対象物の抗菌性能を評価した結果を以下に説明する。対象物としては、屋外で使用される車両のサイドウインドウを採用した。対象物の抗菌処理は、可視光応答型光触媒(Cu/N-TiO)であるV-CATを含むフィルムを、車両のサイドウインドウに貼り付けることにより行った。工程T110の対象物への菌の付着は、上記乳酸菌の培養液 (OD=0.001(1×10cfu/mL相当))を、ミニアドマイザーで、抗菌処理したサイドウインドウ上にスプレーすることにより行った。工程T120における対象物表面での菌の保持は、サイドウインドウにおけるスプレー箇所に、上から約5×5cmの養生テープ貼り付けることにより行った。養生テープを貼り付けて、対象物表面と菌とを屋外で10分間反応させた後に、サイドウインドウ表面から養生テープを剥がすことにより菌を回収し(工程T130)、養生テープにおける菌の転写面を、乳酸菌用の固体培地(MRS培地)上に接触させた(スタンプした)。そして、固体培地から養生テープを剥がして、コンラージ棒で菌液を塗り広げて、30℃にて24時間培養した。
【0048】
図8は、車両を対象物として抗菌試験を行う様子を示す説明図である。図8では、サイドウインドウに菌を付着させた後に養生テープを貼り付けた様子を示す。なお、このとき、対照実験として、車両のウインドウの抗菌処理を行っていない箇所について、同様の条件にて抗菌性試験を行った。
【0049】
図9は、抗菌性試験の結果を示す説明図である。図9に示すように、抗菌処理を行っていない対照区では、培養プレート一面に多数のコロニーが形成された。これに対して、対象物に抗菌処理を施した場合には、コロニーはほとんど形成されなかった。このように、対象物に施した抗菌処理による抗菌性能が、視覚的に明確な態様で評価できることが確認された。
【0050】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
20…対象物
30…噴霧器
32…懸濁液
34…粘着テープ
40…培養プレート
44…コロニー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9