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特開2023-49184金属板ラミネート用ポリエステルフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049184
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】金属板ラミネート用ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230403BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C08L67/02
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158773
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒木 悟郎
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AA46
4F071AA87
4F071AB26
4F071AE17
4F071AF15Y
4F071AF21Y
4F071AH05
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4J002CF06W
4J002CF07X
4J002GF00
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】金属缶への製罐性および保味保香性に優れ、さらには、ポリエステルフィルムの連続操業性に優れた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)と、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)とを含むポリエステルフィルムであって、ポリエステル(A)とポリエステル(B)との質量比(A/B)が80/20~40/60であり、示差走査熱量測定(DSC)におけるポリエステル(B)由来の降温結晶化温度が190℃以下である、金属板ラミネート用ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)と、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)とを含むポリエステルフィルムであって、
ポリエステル(A)とポリエステル(B)との質量比(A/B)が80/20~40/60であり、
示差走査熱量測定(DSC)におけるポリエステル(B)由来の降温結晶化温度が190℃以下である、金属板ラミネート用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
下記の物性(1)~(2):
(1)フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して45°、90°、135°の4方向における引張破断伸度が70%以上であること、
(2)フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して45°、90°、135°の4方向における引張破断強度が150MPa以上であること、
を全て満たすことを特徴とする請求項1に記載の金属板ラミネート用ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂とポリエチレンテレフタレート系樹脂を含有する金属板ラミネート用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶の内外面には腐食防止の目的で熱可塑性樹脂による金属板の被覆が提案され、熱可塑性樹脂の中でも特にポリエステルは加工性、耐熱性等に優れることから、ポリエステルをベースとした金属板ラミネート用フィルムの開発が進められている。
【0003】
フィルムを金属板に被覆する方法としては、熱可塑性樹脂フィルムを直接、または接着剤を介して熱圧着する方法が、樹脂の取扱いが容易で作業性に優れ、かつ、樹脂膜厚の均一性にも優れるために有効な手法とされている。中でも、フィルムを金属板に直接熱圧着(ラミネート)する方法が環境面やコストの点で有利であり注目されている。
【0004】
このような金属板ラミネート用ポリエステルフィルムとしては、熱ラミネート性を付与し、缶の成形性を向上させる目的で、ポリエステル以外の他の成分を混合したり、共重合する等、いくつかの方法が提案されている。例えばポリブチレンテレフタレート系樹脂90~45質量%と、ポリエチレンテレフタレート系樹脂10~55質量%とからなる二軸延伸フィルムが提案されている(特許文献1、2)。
【0005】
近年では、缶の形状も多種多様な形状となり、様々な内容物のものを充填するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3247053号公報
【特許文献2】特許3753592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のフィルムでは、このような多種多様な缶形状への製罐性や味や香りが繊細な内容物に対する保味保香性に関しては、さらなる改善の余地があった。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決し、金属缶への製罐性および保味保香性に優れ、さらには、ポリエステルフィルムの連続操業性に優れた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、結晶性が異なるポリエステル、すなわちポリブチレンテレフタレート主体のポリエステル(A)と、ポリエチレンテレフタレート主体のポリエステル(B)とを特定割合で配合し、示差走査熱量測定(DSC)におけるポリエステル(B)由来の降温結晶化温度が特定温度以下であるポリエステフィルムを用いることで、フィルムの連続操業性に優れ、金属缶への製罐性および保味保香性が良好であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)と、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)とを含むポリエステルフィルムであって、ポリエステル(A)とポリエステル(B)との質量比(A/B)が80/20~40/60であり、示差走査熱量測定(DSC)におけるポリエステル(B)由来の降温結晶化温度が190℃以下である、金属板ラミネート用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの連続操業性に優れ、ラミネート後の金属缶への加工性(製罐性)および製罐後の保味保香性に優れており、金属板ラミネート用フィルムとして好適に用いることができる。
また、ポリエステル(B)として、リサイクル原料を特定の工程で処理した、結晶化速度が比較的遅い再生ポリエステル原料を用いることで、高いリサイクル比率のフィルムを得ることができ、リサイクル原料を使用していないフィルムと同等またはそれ以上の優れた引張強度および引張伸度といった機械物性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)と、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)とを特定の質量比で含有し、DSCにおけるポリエステル(B)由来の降温結晶化温度が190℃以下である金属板ラミネート用ポリエステルフィルムである。
【0013】
本発明におけるポリブチレンテレフタレート(PBT)を主体とするポリエステル(A)としては、PBTおよびこれに他の成分を共重合したものを挙げることができる。また、PBTは、その原料として一部又は全てがリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むポリエステル樹脂(以下、「再生ポリエステル樹脂」と称す。)を用いてもよい。この場合、本発明の効果を妨げない範囲でリサイクル原料を使用していないPBTを主体とするポリエステル樹脂(以下、「バージンポリエステル樹脂」と称す場合がある。)や、リサイクル比率を高くするために未採用ポリエステル樹脂も含まれていてもよい。
本発明において、未採用ポリエステル樹脂とは、製品化に至っていない材料のことである。例えば、フィルム製造時に発生した未延伸屑、耳部トリミング屑、スリット屑、不良品等が挙げられる。これらは、粉砕物(フレーク等)のほか、再溶融して作製されたペレット等の形態で添加することができる。
また、ポリエステル(A)の融点は200~223℃の範囲であることが好ましい。融点が200℃より低いとポリエステルとしての結晶性が低く、結果としてフィルムの耐熱性が低下する場合がある。
【0014】
ポリエステル(A)として共重合PBTを用いる場合には、共重合割合は融点が上記範囲内となるように共重合の割合や共重合する成分の構造を選択することが好ましく、全アルコール成分に対し、1,4-ブタンジオールは80モル%以上が好ましく、特に90モル%以上が好ましい。1,4-ブタンジオールが80モル%未満であると、結晶性、特に結晶化速度が低下し、レトルト処理後の耐衝撃性やバリアー特性が低下する場合がある。
【0015】
共重合成分としては、特に限定されないが、酸成分としてイソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトンや乳酸などが挙げられる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3官能化合物等を少量用いてもよい。これらの共重合成分は2種以上併用してもよい。
【0016】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート(PET)を主体とするポリエステル(B)としては、PETおよびこれに他の成分を共重合したものを挙げることができる。また、示差走査熱量測定(DSC)におけるポリエステル(B)由来の降温結晶化温度が190℃以下である必要があり、下限値が160℃以上であることが好ましく、163℃以上であることがより好ましく、165℃以上であることがさらに好ましく、その中でも170℃以上であることが最も好ましい。また、上限値は、180℃以下であることが好ましく、178℃以下であることがより好ましく、その中でも175℃以下であることが最も好ましい。降温結晶化温度を上記範囲内に制御したポリエステル(B)を含有することにより、得られた金属ラミネート用フィルムは、引張伸度および引張強度が高く、製罐性に優れ、保味保香性に優れた特性を示す。
また、ポリエステル(B)の融点は240~256℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは243~256℃、さらに好ましくは246~256℃の範囲である。融点が240℃未満であると、結晶性が低下し、レトルト処理後に白化や白斑が発生したり、レトルト処理後の耐衝撃性が低下したりする場合がある。特に、ポリエステル(B)の融点が246℃以上であると、耐熱性、レトルト処理後の耐衝撃性および長期保存後の耐衝撃性が向上する。また、缶加工時の治具との融着トラブルや、缶胴部の加工途中における破断トラブルの低減に効果がある。
【0017】
PETは、通常はエチレングリコールとテレフタル酸の重縮合物であるが、用いる原料によっては、上記2成分以外の成分が含まれる場合がある。この場合には、PET以外のポリエステル樹脂が重縮合反応により生成することもあり、このような態様も本発明に包含される。すなわち、本発明に用いるポリエステル(B)が、PET以外のポリエステル樹脂を含む場合、酸成分又はグリコール成分として以下に示すような成分が共重合されているポリエステル樹脂が含まれていてもよい。また、PET以外のポリエステル樹脂を含む場合、1種又は2種以上のポリエステル樹脂が含まれていてもよい。また、PETにおいても、その原料として一部又は全てがリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むポリエステル樹脂(以下、「再生ポリエステル樹脂」と称す。)を用いてもよい。この場合、本発明の効果を妨げない範囲でリサイクル原料を使用していないPETを主体とするポリエステル樹脂(以下、「バージンポリエステル樹脂」と称す場合がある。)や、リサイクル比率を高くするために未採用ポリエステル樹脂も含まれていてもよい。
本発明において、未採用ポリエステル樹脂とは、製品化に至っていない材料のことである。例えば、フィルム製造時に発生した未延伸屑、耳部トリミング屑、スリット屑、不良品等が挙げられる。これらは、粉砕物(フレーク等)のほか、再溶融して作製されたペレット等の形態で添加することができる。
【0018】
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸等、ダイマー酸、更には無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、ダイマー酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上であってもよい。
また、ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ブチルエチルプロパンジオール、(2-メチル1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上であっても良い。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル(A)とポリエステル(B)との質量比(A)/(B)は80/20~40/60の範囲であることが必要であり、さらに本発明の効果を十分に得るために、70/30~55/45の範囲であることが好ましい。
【0020】
ポリエステル(A)が80質量%を超えると、結晶性の高いポリエステル(A)の特性が顕著に発現して、金属板との接着性も低下し、金属缶への製罐性が低下する場合がある。ポリエステル(A)が40質量%未満の場合には、結晶化速度が低下し、レトルト処理後の物性が低下し、また金属板との接着性も低下する場合があり、保味保香性が劣る傾向にある。一方、ポリエステル(A)の含有量が70~55質量%の範囲の場合、ラミネート金属板を高速で、高次の絞りしごき加工を行う場合の成形加工追随性が良好であり、フィルムの無理な変形によるボイドの発生による白化現象や、マイクロクラックの発生が無く、かつ金属との接着性に優れ、得られる缶の耐衝撃性とレトルト処理後の物性バランスがとれる。その結果、缶の内面に使用される場合には、耐食性がよく、内容物の保護性、保味保香性、フレーバー維持性に優れたものとなる。また、缶の外面に用いられる場合には、さびの発生がないこと、印刷図柄の光沢度がよいなど、商品価値の高い製品が得られる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、未採用ポリエステル樹脂を含有することができ、その含有量は、通常75質量%以下であることが好ましく、特に65質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましく、その中でも35質量%以下であることが最も好ましい。未採用ポリエステル樹脂の含有量が75質量%を超えると、異物又は熱劣化物が増え、フィルム製膜の際に切断等のトラブルが生じる傾向にある。また、引張伸度が低下する等、フィルムの機械物性が低下する傾向にある。
未採用ポリエステル樹脂として用いるフィルム屑又は不良品は、例えば、シリカ等の滑剤のほか、酸化防止剤等の各種添加剤の濃度が屑となる材料ごとに異なる。そのため、出発材料中の未採用ポリエステル樹脂の含有量が多くなるほど、前記添加剤濃度のバラツキが生じ、得られたフィルムの結晶性や融点等に悪影響を及ぼす場合がある。
前記理由から、ポリエステル樹脂フィルムが複数の層から構成される場合、表層の未採用ポリエステル樹脂含有量は50質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましく、35質量%以下とすることがさらに好ましい。一方、中間層においては、未採用ポリエステル樹脂の含有量が多くても濡れ張力や印刷適性といったフィルム表面の特性には影響を与えないため、リサイクル比率を高くする観点で未採用ポリエステル樹脂含有量を多くすることができる。中間層の未採用ポリエステル樹脂含有量は100質量%としてもよい。
また、出発材料に関し、本発明フィルムのリサイクル比率は高い方が好ましい。より具体的には、通常はリサイクル比率が20質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、特に40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましく、その中でも65%以上であることが最も好ましい。上限値は、例えば80質量%程度とすることができるが。これに限定されない。従って、上記のようなリサイクル比率となるように、出発材料の組成を調整することが望ましい。なお、本発明において、リサイクル比率Rとは、下記式で示される重量割合をいう。
R(質量%)=A×B+C
(但し、Aは、再生ポリエステル樹脂に占める再生ポリエステル原料の重量割合(質量%)を示す。Bは、再生ポリエステル樹脂がフィルム中に占める重量割合(質量%)を示す。Cは、未採用ポリエステル樹脂がフィルム中に占める重量割合(質量%)を示す。)
【0022】
本発明のフィルムを製造するために用いられる原料ポリエステルの極限粘度は、ポリエステル(A)では0.75~1.6dl/g、ポリエステル(B)では0.65~1.0dl/gが好ましく、溶融混合した後の極限粘度は0.75~1.2dl/gの範囲が好ましい。極限粘度が上記範囲より小さいと、缶の高次加工時に破断し、生産性が極端に悪化する。特に缶の容量が大きい場合、ラミネート金属板から缶に絞りしごき加工してゆく過程でフィルムの変形加工度が大きくなるため、それに追随できず、フィルム層にボイドが発生したりクラックが発生したりして、外部からのわずかな衝撃によってすらフィルム層の剥離やクラックの成長が助長される。また缶の内面に用いられた場合には、内容物と缶の金属とが直接接触する結果、保味保香性が低下したり、フレーバー性に問題が生じたりする。缶の外面に用いられた場合には、ボイドによりフィルムが白化した部分では、印刷外観が悪くなる。また、ボイドやクラックによって、長期保存時に缶が腐食してくる問題を生じる恐れがでる。一方、極限粘度が上記範囲を超える場合にはフィルムの生産工程において樹脂の溶融押出機にかかる負荷が大きくなり、生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、押出機中の樹脂の溶融滞留時間が長くなりすぎてポリエステル樹脂間の反応が進みすぎたりして、フィルムの特性の劣化を招き、結果的にラミネートフィルムの金属板の物性低下をもたらす。また、あまりに極限粘度の高いものは、重合時間や重合プロセスが長く、コストを押し上げる要因ともなる。
【0023】
原料のポリエステル(A)の重合方法は特に限定されず、例えば、エステル交換法、直接重合法等で重合することができる。エステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiの酸化物、酢酸塩等が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Ge酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒドやテトラヒドロフラン等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合することが好ましい。
【0024】
ポリエステル(A)の重合においては必要に応じ添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等を、熱安定剤としては、例えばリン系化合物等を、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系の化合物等を挙げることができる。また、異なるポリエステル間の反応抑制剤として、従来知られているリン系化合物を重合前、重合中、重合後に添加することが好ましい。特に、固相重合前の溶融重合終了時に添加することがさらに好ましい。
【0025】
示差走査熱量測定(DSC)における降温結晶化温度が190℃以下であるポリエステル(B)は、例えば以下の方法で得ることができるが、ポリエステル(B)の製造方法はこれに限定されるものではない。
(A)リサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程(解重合工程)、
(B)前記反応生成物を濾過し、濾液を回収する工程(濾過工程)、
(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程(重縮合工程)
により得られることを特徴とする。
【0026】
(A)解重合工程
解重合工程では、リサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る。
本発明において、リサイクルポリエステル原料とは、例えば使用済みポリエステル製品、ポリエステル製品を製造する工程で発生するポリエステル片が挙げられる。
使用済みポリエステル製品としては、例えば一度市場に出回り、使用後に回収されたポリエステル成形品(繊維、フィルムを含む。)等が挙げられる。その代表例としては、PETボトル等のような容器又は包装材料が挙げられる。
また、ポリエステル製品を製造する工程で発生するポリエステル片(以下、「未採用ポリエステル樹脂」と称す場合がある。)は、製品化に至らなかったポリエステルであり、例えば規格を外れた樹脂ペレット、成形時に不要になった材料(フィルム端部)、成形時に切断された断片、成形時、加工時等に発生した屑(ポリエステル屑)、銘柄変更時に発生する移行品の裁断物、試作品・不良品の裁断物等が挙げられる。
リサイクルポリエステル原料の形態としては、限定的ではなく、前記使用済みポリエステル製品又は前記未採用ポリエステル樹脂の当初の形態のままでも良いし、さらに裁断、粉砕等の加工を施して得られる裁断片、粉砕物(粉末)等の形態のほか、これらを成形してなる成形体(ペレット等)等の固体の形態が挙げられる。より具体的には、a)ポリエステル屑の溶融物を冷却した後に切断して得られるペレット、b)PETボトルのようなポリエステル成形品を細かく裁断した裁断片等が例示される。その他にも、上記のような裁断片、粉砕物(粉末)等を溶媒に分散又は溶解させて得られる液体(分散液又は溶液)の形態であっても良い。これらの原料を用いて本発明フィルムを製造する際には、必要に応じてこれらをその融点以上の温度で溶融させて融液として缶内へ投入することもできる。
解重合工程では、リサイクルポリエステル原料を解重合反応に供するが、これにより、その原料を構成しているオリゴマー等を得ることができる。
解重合反応に際しては、リサイクルポリエステル原料単独で解重合反応に供することもできるが、本発明ではエチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することが望ましい。リサイクルポリエステル原料を利用した従来法においては、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行っているのに対し、本発明においてはエチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合反応を行い、好ましくはエチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール及びリサイクルポリエステル原料の全ての成分における「全グリコール成分/全酸成分」のモル比が特定の範囲内になるようにリサイクルポリエステル原料を投入し、解重合反応を行うことが望ましい。このようにすることにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われるため、後述の濾過工程において、これらの異物を効果的に取り除くことができる。そして、後述の重縮合工程において、ジエチレングリコールの含有量及びカルボキシル末端基濃度が特定範囲のものであり、かつ、異物の混入量が比較的少ない再生ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
なお、本発明の製造方法においては、上記の解重合反応により、リサイクルポリエステル原料をモノマーにまで分解されずに、繰り返し単位が5~20程度のオリゴマーまで分解されることが望ましい。このように制御することにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われる結果、より多くの異物を取り除くことが可能となる。
【0027】
エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの使用量は、限定的ではないが、上記の観点から特にエチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール及びリサイクルポリエステル原料の全ての成分における「全グリコール成分/全酸成分」のモル比が1.08~1.35となるように設定することが好ましい。
エチレンテレフタレートオリゴマーの使用量は、上記モル比に設定できる限りは特に限定されないが、後記の重縮合工程で得られるポリエステル樹脂(以下「再生ポリエステル樹脂」ともいう。)100質量%中0.20~0.80質量%程度とすることが好ましく、特に0.30~0.70質量%とすることがより好ましい。エチレンテレフタレートオリゴマーの量が上記より少ない場合、リサイクルポリエステル原料を投入した際に、リサイクルポリエステル原料どうしがブロッキングを起こしやすくなり、攪拌機に過大な負荷がかかるおそれがある。一方、エチレンテレフタレートオリゴマーの量が上記範囲より多い場合は解重合反応に特に問題は起きないが、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂のリサイクル比率が低くなることがある。
エチレングリコールの添加量は、上記モル比に設定できる限りは特に限定されないが、解重合反応を十分に進行させるという見地より、エチレンテレフタレートオリゴマーを100質量部に対して5~15質量部とすることが好ましく、その中でも5~10質量部とすることがより好ましい。エチレングリコールの添加量が多くなると再生ポリエステル樹脂中のカルボキシル末端基濃度が低くなり、少なくなるとカルボキシル末端基濃度が高くなり、いずれも本願の範囲を逸脱する場合がある。また、15質量部を超えると、反応器内でエチレンテレフタレートオリゴマーが固化しやすくなり、以後の反応が継続できなくなる場合がある。
【0028】
エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールは、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって製造することもできる。特に、エチレンテレフタレートオリゴマーとしては、例えばエチレングリコールとテレフタル酸とのエステル化反応物を好適に用いることができる。また、エチレンテレフタレートオリゴマーの数平均重合度は、限定的ではないが、例えば2~20程度とすることができる。
【0029】
解重合工程でエチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールを用いる場合、その混合方法(添加順序)は限定的ではないが、特にエチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとを含む混合物にリサイクルポリエステル原料を添加する方法が好ましい。これにより解重合反応の進行のムラを少なくすることができる。
また、エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの混合に際しては、例えばエチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールを添加することが好ましい。また、添加する際は、オリゴマーの固化を防ぐ目的で、攪拌機を回しながら内容物の温度を均一にし、添加することが好ましい。
リサイクルポリエステル原料を上記混合物に投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。これによって、酸素の混入を妨げ、色調の悪化をより確実に防ぐことができる。
【0030】
リサイクルポリエステル原料は、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35であることが好ましく、特に1.10~1.33であることがより好ましく、その中でも1.12~1.30であることが最も好ましい。全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外である場合、得られる再生ポリエステル樹脂は、本発明で規定するカルボキシル末端基濃度及びジエチレングリコールの含有量の少なくとも一方を満足しないものとなり、また平均昇圧速度も高くなる場合がある。すなわち、解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外である場合、各種の無機物及び非ポリエステル樹脂由来の異物が効率的に析出されないため、濾過工程でこれらの異物を効果的に濾過することができず、重縮合工程後に異物が析出しやすくなる結果、平均昇圧速度が高い再生ポリエステル樹脂となる。
【0031】
解重合工程において、解重合時の反応温度(特に反応器の内温)は限定的ではないが、特に245~280℃の範囲に設定して行うことが好ましく、その中でも255~275℃の範囲に設定して行うことがより好ましい。解重合時の反応温度が245℃未満になる場合には、反応物が固化し、操業性が悪化するとともに、再生ポリエステル樹脂が得られたとしても、ジエチレングリコールの含有量又はカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる傾向となる。前記反応温度が280℃を超える場合は、得られる再生ポリエステル樹脂のジエチレングリコールの含有量又はカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎるおそれがある。
また、解重合反応の時間(リサイクルポリエステル原料の投入終了後からの反応時間)は、特に限定されないが、通常は4時間以内とすることが好ましい。特に、ジエチレングリコールの副生量を抑えること、ポリエステルの色調悪化を抑えること等の観点から2時間以内とすることがより好ましい。前記反応時間の下限値は、限定的ではなく、例えば1時間程度とすることもできる。
【0032】
反応装置は、特に限定されず、公知又は市販の装置も使用することができる。特に、反応器においても、その容量、攪拌翼形状等は一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、エチレングリコールを系外に溜出させない蒸留塔を有する反応器であることが好ましい。
【0033】
(B)濾過工程
濾過工程では、前記反応生成物を濾過し、濾液を回収する。前記の解重合工程で得られる反応生成物は、主としてリサイクルポリエステル原料の解重合体(特に再生されたオリゴマー)を含む液状体である。濾過工程では、その反応生成物(液状体)をフィルターに通過させて異物を濾過するとともに、濾液を回収する。
【0034】
前記の解重合工程では、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われるため、フィルター(好ましくは濾過粒度10~25μmのフィルター)を通過させることにより、析出した異物を濾過し、異物の混入量の少ない解重合体を得ることができる。濾過粒度が25μmより大きいフィルターを使用すると、ポリマー中の異物を十分に除去できず、得られる再生ポリエステル樹脂中の異物が多くなる。このため、このような樹脂を用いて延伸フィルムを製膜すると、Tダイ表面(リップ面)の汚染が生じ、延伸時にフィルムが破断する場合がある。一方、濾過粒度が10μmよりも小さいフィルターを使用すると、異物による目詰まりが生じやすく、フィルターライフが短くなることにより、コスト的に不利となるほか、操業性も低下するおそれがある。
【0035】
濾過工程で使用できるフィルターとしては、一般的なもので特に問題ないが、特に金属製フィルターが好ましい。材質としては、例えばステンレス鋼等が挙げられる。フィルター形式も、特に限定されず、例えばスクリーンチェンジャー式フィルター、リーフディスクフィルター、キャンドル型焼結フィルター等が挙げられる。これらは、公知又は市販のものを使用することができる。
【0036】
(C)重縮合工程
重縮合工程では、重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂(再生ポリエステル樹脂)を得る。
重合触媒としては、限定的ではないが、例えばゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物等の少なくとも1種を用いることができる。その中でも、特にゲルマニウム化合物及びアンチモン化合物の少なくとも1種を使用する。得られる再生ポリエステル樹脂の透明性を重視する場合においては、ゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。上記の各化合物としては、ゲルマニウム、アンチモン、チタン、コバルト等の酸化物、無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、硫化物等が例示される。
重合触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば生成するポリエステル樹脂の酸成分1モルに対して5×10-5モル/unit以上とすることが好ましく、その中でも6×10-5モル/unit以上とすることがより好ましい。上記使用量の上限は、例えば1×10-3モル/unit程度とすることができるが、これに限定されない。
なお、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒も、重縮合反応時に触媒として作用する場合もあるため、重縮合工程で重合触媒を添加する際には、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒の種類及びその含有量を考慮することが好ましい。
【0037】
重縮合反応時には、必要に応じて、上記の重合触媒と併せて、例えばa)溶融粘度を調整することができる脂肪酸エステル、b)ヒンダードフェノール系抗酸化剤、c)樹脂の熱分解を抑制することができるリン化合物等を必要に応じて添加することもできる。
【0038】
脂肪酸エステルとしては、例えば蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等が挙げられる。これらの中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0039】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0040】
リン化合物としては、例えば亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0041】
重縮合反応においては、温度260℃以上及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が260℃未満であったり、あるいは重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣り、再生ポリエステル樹脂中のカルボキシル末端基濃度が低すぎるものとなる。
重縮合反応温度は、特に270℃以上とすることが好ましい。一方、重縮合反応温度が高過ぎると、熱分解によりポリマーが着色し、色調が悪化すること、同じく熱分解により再生ポリエステル樹脂中のカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎるため、本発明においては、重縮合反応温度の上限は285℃以下とすることが好ましい。
圧力は、特に0.8hPa以下とすることが好ましい。下限値は、例えば0.1hPa程度とすることができるが、これに限定されない。
【0042】
このようにして、重縮合反応を実施することによって再生ポリエステル樹脂を得ることができる。得られる再生ポリエステル樹脂の構成又は特性は、特に限定されないが、以下のように設定されていることが好ましい。
【0043】
本発明において、再生ポリエステル樹脂は、その種類は限定されないが、特にポリエチレンテレフタレート(PET)を主体とするものであることが好ましい。再生ポリエステル樹脂中におけるPETの含有量は70質量%以上であることが好ましく、特に80質量%以上であることがより好ましく、その中でも90~100質量%であることが最も好ましい。
本発明において、再生ポリエステル樹脂は、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量は0.5~4モル%程度であることが好ましく、特に1~3.5モル%であることがより好ましく、その中でも1.2~3モル%であることが最も好ましい。特に、本発明の製造方法により得られる再生ポリエステル樹脂においては、エチレングリコールを原料の一つとして用いると、その際の副生成物としてジエチレングリコールが生じ得る。本発明における再生ポリエステル樹脂は、その副生するジエチレングリコールの量が少ないものであり、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下とすることにより、より熱安定性に優れた性能を得ることができる。このため、未延伸シートないしは延伸フィルムを製膜する際に、Tダイの表面(リップ面)汚染を抑制でき、高い生産性を得ることが可能となる。
【0044】
再生ポリエステル樹脂は、カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であることが好ましく、特に30当量/t以下であることがより好ましく、25当量/t以下であることがさらに好ましく、その中でも20当量/t以下であることが最も好ましい。カルボキシル末端基濃度を40当量/t以下とすることにより、耐熱性に優れた性能を有しており、各種の成形方法により耐熱性に優れた成形品を得ることが可能となる。なお、カルボキシル末端基濃度の下限値は、フィルム製膜時の引張伸度等の機械強度向上の観点から10当量/t以上であることが好ましい。
【0045】
再生ポリエステル樹脂は、次の方法により測定される平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり、特に0.5MPa/h以下であることが好ましく、その中でも0.4MPa/h以下であることが好ましい。本発明における平均昇圧速度は、各種無機物に由来する異物、非ポリエステル樹脂に由来する異物等の混入量の多さの指標となるものであり、平均昇圧速度が小さいほど異物の混入量が少ないことを示すものである。平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることにより、例えば延伸倍率が10倍以上の高倍率の延伸フィルムを製造することも可能となる。なお、平均昇圧速度の下限値は、例えば0.01MPa/h程度とすることができるが、これに限定されない。
上記の平均昇圧速度の測定方法は、エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端に前記フィルターをセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
という方法によるものである。
前記の測定で用いるエクストルーダー、フィルター等は、本発明の規定を満たす限りは、公知又は市販のものを適宜使用することもできる。
【0046】
本発明のフィルムは、フィルム製造時や製罐時の工程通過性をよくするため、シリカ、アルミナ、カオリン等の無機滑剤を少量添加して製膜し、フィルム表面にスリップ性を付与することが望ましい。さらに、フィルム外観や印刷性を向上させるため、たとえば、フィルムにシリコーン化合物等を含有させることもできる。フィルムへの無機滑剤の添加量は0.001~0.5質量%、好ましくは0.05~0.3質量%である。また、滑剤の機能と併用して、隠蔽性の目的から二酸化チタンを20質量%程度まで添加することも出来る。
【0047】
本発明のフィルムは、鋼板、アルミ等の金属板に熱ラミネートされるが、ラミネートする金属板は、クロム酸処理、リン酸処理、電解クロム酸処理、クロメート処理等の化成処理や、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミ、砲金、真鍮、その他の各種メッキ処理などを施した金属板を用いることができる。
【0048】
本発明のフィルムには、金属板との熱圧着性及びその後の密着性を更に向上させる目的で、共押出法やラミネート加工、あるいはコーティング加工により接着層を設けることができる。接着層は乾燥膜厚で1μm以下が好ましい。接着層は、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂やこれらの各種変性樹脂からなる熱硬化性樹脂層であることが好ましい。また、金属板と熱圧着するフィルムの反対側には、金属缶体の外観や印刷性を向上させたり、フィルムの耐熱性や耐レトルト性等を向上させるために1種もしくは2種以上の樹脂層を設けることができる。これらの層は、共押出法やラミネートあるいはコーティング加工により設けることができる。
【0049】
以下、本発明のフィルムの製造方法について説明する。
【0050】
(シート成形工程)
本発明のポリエステルフィルムの製造方法におけるシート成形工程では、ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)をポリエステル(A)とポリエステル(B)との質量比(A/B)が80/20~40/60の比率にブレンドした溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを得る。
【0051】
溶融混練物の調製自体は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、加熱装置を備えた押出機にポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)を含む原料を投入し、所定温度に加熱することによって溶融させた後、その溶融混練物をTダイにより押し出し、室温以下に温度調節したキャスティングドラム等により冷却固化させることによってシート状の成形体である未延伸シートを得ることができる。
【0052】
この場合の未延伸シートの平均厚みは特に限定されないが、一般的には50~1000μm程度とし、特に100~800μmとすることが好ましい。このような範囲内に設定することによって、より効率的に延伸工程を実施することができる。
【0053】
(延伸工程)
得られた未延伸シートは、延伸工程の前に予熱することが好ましい。延伸は、一軸延伸または二軸延伸のいずれでもよいが、フィルムの流れ方向(MD)および巾方向(TD)の引張破断伸度向上の観点から、二軸延伸であることが好ましい。二軸延伸法としては、同時二軸延伸法または逐次二軸延伸法のいずれも採用することができる。
【0054】
同時二軸延伸法としては、例えばテンターを用いて、未延伸シートの両端を把持し、シートのMDに延伸すると同時にTDにも延伸するテンター式同時二軸延伸法が挙げられる。テンター式同時二軸延伸法は、チューブラー式同時二軸延伸法に比べて、厚み制御に優れたフィルムを得ることが可能となるため好ましい。
テンター式同時二軸延伸は、パンタグラフ方式テンター、スクリュー方式テンター、リニアモーター方式テンターなどを用いて行うことができる。リニアモーター方式テンターは、他方式テンターに比べて、得られるフィルムの物性の調整が容易であるため好ましい。
【0055】
また、逐次二軸延伸は、例えばMD、TDの少なくとも一方向を、テンターにより延伸することが好ましい。これにより、より均一なフィルム厚みを得ることが可能となる。テンターを用いる逐次二軸延伸は、(1)回転速度が異なる複数のロールに未延伸シートを通過させることによりMDに延伸した後、延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法、(2)未延伸シートをテンターによりMDに延伸した後、延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法等がある。得られるフィルムの物性、生産性、設備面等の点で前記(1)の方法が好ましい。
【0056】
さらに、MD延伸工程においては2個以上のロール周速差を用いて行われることが一般的であるが、2段以上の多段延伸法を用いることもできる。1段でMD延伸を行う場合も、多段延伸を行う場合も、ポリエステルのTg以上の温度で延伸を開始し、MD延伸の合計倍率は2.5~3.8倍であることが好ましく、2.8~3.5倍であることがより好ましい。
【0057】
MD延伸工程におけるフィルムの加熱方法としては加熱ロールにフィルムを通過させる方法やMD延伸を行うロール間にて赤外線にて加熱する等の公知の縦延伸方法を単独もしくは組み合わせて用いることが可能である。
【0058】
MD延伸フィルムは続いて連続的に、横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、横延伸はポリエステルのTg~Tgより40℃高い温度で開始し、最高温度はポリエステルの融点(Tm)より(100~40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸の倍率は最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、2.7倍以上、さらには3.0倍以上、特に3.6倍以上であることが好ましい。熱固定処理後、フィルムの熱収縮特性等を調整するため、フィルムの幅を連続的に縮める熱弛緩処理を行う。熱弛緩処理は横延伸倍率の1~10%とすることが好ましい。その後フィルムのTg以下に冷却して二軸延伸フィルムを得る。
【0059】
延伸工程後に熱処理を行うことで、フィルムの寸法安定性を付与するため好ましい。熱処理方法としては、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等の公知の方法を用いることができる。このうち、均一に精度良く加熱できることから熱風を吹き付ける方法が最適である。
【0060】
延伸工程で与えられる変形と熱により、延伸フィルムの結晶化が進行するが、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル(B)は、降温結晶化温度が特定の温度以下である結晶化特性のポリエステル樹脂であるため、フィルムの表面結晶化度を適切にコントロールすることが容易になり機械特性に優れ、特に表面の結晶化の状態に影響される製罐性に優れた延伸フィルムを得ることができる。
【0061】
本発明のフィルムは、金属缶への製罐性向上の観点で、フィルム面における任意の方向と、その方向に対して時計回りに45度、90度および135度の3方向との4方向における引張破断伸度および引張破断強度が大きい方が好ましい。引張破断伸度は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、引張破断強度は、150MPa以上であることが好ましく、160MPa以上であることがより好ましく、180MPaであることがさらに好ましい。
【0062】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、金属板に直接または接着剤を介して積層することができる。フィルムと金属板をラミネートする方法としては、金属板を予め160~250℃まで予熱しておき、これとフィルムとを、金属板より30℃、更には50℃以上低く温度制御されたロールによって圧接して熱圧着させた後、室温まで冷却することにより連続的に製造される。金属板の加熱方法としては、ヒーターロール伝熱方式、誘導加熱方式、抵抗加熱方式、熱風伝達方式等があげられ、特に、設備費及び設備の簡素化を考慮した場合、ヒーターロール伝熱方式が好ましい。また、ラミネート後の冷却方法については、水等の冷媒中に浸漬する方法や冷却ロールと接触させる方法を用いることができる。
【0063】
以上のようにして得られた金属板は、そのまま加工処理を施してもよいが、ポリエステルの融点より10~30℃高い温度で熱処理後急冷して、本ポリエステルフィルムをアモルファスの状態にすることにより、さらに高い加工性を付与することができる。本発明のフィルムは、アモルファス状態にせずとも良好な製罐性を得ることができる。
【0064】
本発明の金属容器は、上記フィルムを用いたラミネート金属板が成形されてなるものである。金属容器としては、飲食料を充填して使用に供することができ得る形態にまで加工処理が施された金属容器及びその一部分、例えば巻き締め加工が可能な形状に成形された缶蓋も含まれる。特に、厳しいネックイン加工が施される3ピース缶(3P缶)の缶胴部材や、絞りしごき加工によって製造される2ピース缶(2P缶)の缶胴部材として用いる場合に、本発明のフィルムの優れた加工性が発揮される。本発明の金属容器は、その優れた耐レトルト性、フレーバー性、耐食性から、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶、特に腐食性の高い酸性飲料(果汁飲料)や乳性飲料といった各種加工食品等の内容物を充填する場合に適している。
【実施例0065】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。実施例及び比較例におけるフィルムの原料、および、特性値の測定法は、次の通りである。
【0066】
ポリエステル(A)
<ポリエステルA-1:バージンポリエステル樹脂>
固相重合を施したPBT、極限粘度1.08dl/g、Tm223℃、Ti触媒40ppm含有。
<ポリエステルA-2:バージンポリエステル樹脂>
固相重合を施していないセバシン酸(SEA)5mol%共重合PBT、IV値0.92dl/g、Tm217℃、Ti触媒40ppm含有。
【0067】
ポリエステル(B)
<ポリエステルB-1:再生ポリエステル樹脂>
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃及び圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー45.0質量部をエステル化反応器に仕込み、続いてエステル化反応器の撹拌機を回した状態でエチレングリコールを7.0質量部投入した。エステル化反応器(以後「ES缶」と表記する。)の内温降下が止まったところより、55.0質量部のリサイクルポリエステル原料(ポリエステル樹脂を製造する工程で発生するポリエステル屑のペレット状のもの)をロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。このとき、全グリコール成分/全酸成分のモル比(以下「G/A」と表記する。)は1.16であった。その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。
次に、得られた解重合体を、ES缶と重縮合反応器との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットして重縮合反応器(以後PC缶と表記)へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.20質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa及び温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、ポリエステルB-1(極限粘度:0.65、カルボキシル末端基濃度27当量/t、降温結晶化温度170℃)を得た。
<ポリエステルB-2:バージンポリエステル樹脂>
再生ポリエステル樹脂を含まない樹脂として、固相重合を施したPET、極限粘度0.64dl/g、融点255℃、Sb触媒100ppm 含有。降温結晶化温度181℃を用いた。
<ポリエステルB-3:未採用ポリエステル原料>
ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム製造時に発生したフィルム屑を粉砕後、250~290℃で再溶融し、ペレット化した。その後、乾燥し、ポリエステル樹脂フィルムに用いる未採用ポリエステル樹脂(降温結晶化温度181℃)とした。
【0068】
各実施例及び比較例で得られたフィルム等について下記の物性を評価した。その結果を表1に示す。なお、各測定に際しては、温度23℃及び湿度50%RHの環境下に2時間以上放置した試料を使用し、温度、湿度条件の記載のないものについては、温度23℃及び湿度50%RHの環境下で測定した。
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定する。
(2)カルボキシル末端基濃度
ポリエステルフィルム0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
(3)ポリエステル(B)の降温結晶化温度(再結晶化温度)
日本産業規格JIS K7121に準じて、パーキンエルマー社製、示差走査熱量計(入力補償型DSC8000)を用い、実施例、比較例、参考例で得られた樹脂フィルムを10mg量り、サンプルとして測定した。測定条件は、昇温速度20℃/分にて25℃から300℃まで昇温し、300℃で10分間保持した後、降温速度40℃/分にて100℃まで冷却し、降温時に結晶化するピークトップ温度を降温結晶化温度とした。
(4)融点(Tm)
パーキンエルマー社製、示差走査熱量計(入力補償型DSC8000)を用い、実施例、比較例、参考例で得られたサンプルを測定した。測定条件は、20℃/分で昇温時の融点を測定した測定サンプルは延伸フィルムを溶融後、100℃/分以上の速度で急冷して非晶状態としたものを用いた。
(5)引張破断強度(MPa)
島津製作所製オ-トグラフを使用し、日本産業規格JIS K7127に準じて引張破断強度を測定した。実施例、比較例で得られたポリエステルフィルムの任意の点において、フィルムの流れ方向(MD)を0°方向とし、MDから時計回りに45°方向、90°方向(TD)、135°方向の4方向において、測定方向に100mm、測定方向に対して垂直方向に10mmとなるようにポリエステルフィルムを裁断し、試料(各方向において5枚ずつ)を採取した。測定長100mm、引張速度500mm/minの条件で測定を行い、次式により求めた。
引張破断強度(MPa)=破断時の引張荷重(N)/測定試料の元の平均断面積(mm2)
(6)引張破断伸度(%)
島津製作所製オ-トグラフを使用し、日本産業規格JIS K7127に準じて引張破断伸度を測定した。実施例、比較例で得られたポリエステルフィルムの任意の点において、フィルムの流れ方向(MD)を0°方向とし、MDから時計回りに45°方向、90°方向(TD)、135°方向の4方向において、測定方向に100mm、測定方向に対して垂直方向に10mmとなるようにポリエステルフィルムを裁断し、試料(各方向において5枚ずつ)を採取した。
引張破断伸度(%)=破断時の掴み具移動距離(mm)/元の掴み具間距離(100mm)×100
(7)連続生産性
ポリエステルフィルムを連続して生産した状況において、下記の基準で評価した。
◎:48時間以上連続して操業することができた。
○:24時間以上連続して操業することができたが、フィルターの昇圧、Tダイのリップ面の汚染、フィルムの破断、ロール汚染等によって、フィルムを生産できない状況に陥り、連続操業時間が48時間未満であった。
×:24時間の連続操業中に、フィルターの昇圧、Tダイのリップ面の汚染、フィルムの破断、ロール汚染等によって、フィルムを生産できない状況に陥った。
(8)製罐性
200℃に加熱した金属ロールと、シリコンゴムロールとの間に、試料フィルムと厚みが0.21mmのティンフリースチール板とを重ね合わせて供給し、速度20m/分、線圧4.9×104N/mで加熱接着し、2秒後に氷水中に浸漬し、冷却してラミネート金属板を得た。得られたラミネートアルミ板のフィルム側を缶胴外面として、丸形・楕円形・四角形の3種類の形状に200缶/分の速度で絞りしごき成形を行い、500ml相当の2ピース缶を各100缶成形した。得られた缶に、1質量%食塩水を満たし、缶体を陽極にして6Vの電圧をかけた時の電流値を測定し、ポリエステルフィルムの欠陥の程度を評価した。電流が多く流れるほど欠陥が多く、実用的には電流値が5mA以下であることが好ましく、3mA以下であればより好ましく、1mA以下であることが最も好ましい。
◎:電流値が1mA以下である
○:電流値が1mAを超え、3mA以下である
△:電流値が3mAを超え、5mA以下である
×:電流値が5mAを超える
(9)保味保香性
上記(8)製罐性評価で得られた500ml相当の2ピース缶の缶胴部を用いて、蒸留水500gを充填し、市販の202径アルミEO蓋を巻き締めてこれを密封し、125℃で30分間レトルト処理を行った。次に、室温まで十分に冷却した後に、内容物をパネラー50人に試飲してもらい、におい、味覚等がレトルト処理前の蒸留水と違いがないかを判断してもらい、その結果を次の基準に従って保味保香性の指標とした。
○:両者の違いを感知した人数が5人未満。
△:両者の違いを感知した人数が5人以上10人未満。
×:両者の違いを感知した人数が10人以上。
【0069】
実施例1
(金属板ラミネート用ポリエステルフィルム)
60質量部のポリエステルA-1と、40質量部のポリエステルB-1と、平均粒径2.5μmの凝集シリカ0.08質量部とをドライブレンドし、これをTダイを備えた押出機を用いて275℃、滞留時間10分でシート状に押出し、急冷固化して延伸後のフィルムが12μmとなるように未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートを逐次二軸延伸法にて延伸した。まず、縦延伸機にてMD延伸倍率(X)が3.45倍となるように、1.15倍の倍率で第1段目のMD延伸を行った後、連続的に3.00倍の倍率で第2段目のMD延伸を行った。なお、延伸温度は、第1段目のMD延伸、第2段目のMD延伸ともに65℃で行った。さらに引続き、MD延伸されたフィルムの端部を、テンター式横延伸機のクリップに把持し、TD延伸倍率(Y)が3.90倍となるように延伸した。
次いで、熱弛緩処理温度を160℃とし、TDの弛緩率を5.0%として、4秒間の熱弛緩処理を施した後、室温まで冷却してロール状に巻き取り、厚さ12μmの金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを得た。
【0070】
(ラミネート金属板)
200℃に加熱した金属ロールと、シリコンゴムロールとの間に、得られたポリエステルフィルムと厚みが0.21mmのアルミ板とを重ね合わせて、金属ロールにアルミ板が接し、シリコンゴムロールにポリエステルフィルムが接するように供給し、速度20m/分、線圧4.9×104N/mで加熱接着し、2秒後に氷水中に浸漬し、冷却してラミネート金属板を得た。
【0071】
(金属容器)
得られたラミネート金属板のフィルム側を缶胴内面として、底面が四角形(縦58mm、横58mm)、高さが166mm、角Rが5mmの形状の角缶に、200缶/分の速度で絞りしごき成形を行い、金属容器として、500ml相当の2ピース缶を100缶成形した。
【0072】
実施例2~12、比較例1~2
ポリエステル樹脂の種類と質量比を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。その後、ラミネート金属板および金属容器を作製し、評価を行った。
【0073】
実施例、比較例のポリエステルフィルムの組成およびポリエステルフィルムの特性、物性については表1に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1~12で得られたポリエステルフィルムは、ポリエステル(B)の降温結晶化温度が本願請求項1で規定する範囲であり、ポリエステル(A)/(B)の質量比も本願請求項1で規定する範囲内であることから、フィルムの連続操業性、金属缶への製罐性および保味保香性が良好であった。
特に、実施例1~9で得られたポリエステルフィルムは、ポリエステル(B)の降温結晶化温度が好ましい範囲であったため、フィルムの連続操業性に優れ、金属缶への製罐性および保味保香性に優れていた。
【0076】
比較例1で得られたポリエステルフィルムは、ポリエステル(A)/(B)との質量比において、ポリエステル(A)の比率が本発明で規定する範囲を超えていたため、レトルト後のフィルムの物性に劣り、金属缶の保味保香性に劣っていた。
比較例2で得られたポリエステルフィルムは、ポリエステル(A)/(B)の質量比において、ポリエステル(A)の比率が本発明で規定する範囲を満たしていなかったため、成形性が悪く、製罐性に劣っていた。また、保味保香性の点でも劣っていた。