(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049293
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】帯鋸刃
(51)【国際特許分類】
B23D 61/12 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
B23D61/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158951
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(71)【出願人】
【識別番号】504279326
【氏名又は名称】株式会社アマダマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高先 純也
(72)【発明者】
【氏名】長野 裕二
(72)【発明者】
【氏名】辻本 晋
(57)【要約】
【課題】歯欠けが生じにくい帯鋸刃を提供する。
【解決手段】帯鋸刃(90)は、繰り返し形成された複数の歯組(90s)を備え、歯組(90s)は、第1直歯(S01),左右の一方へ振り出された第1アサリ歯組(Ts01),第2直歯(S02),及び左右の他方へ振り出された第2アサリ歯組(Ts02)をこの順で有し、第1アサリ歯組(Ts01)及び第2アサリ歯組(Ts02)は、同じ最大振り出し量(dL、dR)で振り出された少なくとも2個のアサリ歯(L01,L02)(R01,R02)を含み連続して形成されたn(2以上の整数)個のアサリ歯を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し形成された複数の歯組を備え、
前記歯組は、第1直歯,左右の一方へ振り出された第1アサリ歯組,第2直歯,及び左右の他方へ振り出された第2アサリ歯組をこの順で有し、
前記第1アサリ歯組及び前記第2アサリ歯組は、同じ最大振り出し量で振り出された少なくとも2個のアサリ歯を含み連続して形成されたn(2以上の整数)個のアサリ歯を有する帯鋸刃。
【請求項2】
前記第1アサリ歯組及び前記第2アサリ歯組それぞれが有するアサリ歯の個数は互いに等しいn個である請求項1記載の帯鋸刃。
【請求項3】
前記歯組は、前記第1直歯と前記第1アサリ歯組との間、又は前記第2直歯と前記第2アサリ歯組との間に1個又は複数個の直歯を有する請求項1又は請求項2記載の帯鋸刃。
【請求項4】
前記第1アサリ歯組及び前記第2アサリ歯組は、歯先のピッチと前記nとが、
a:1.26mm以上、1.35mm未満の場合、n=5
b:1.35mm以上、1.45mm未満の場合、n=4又は5
c:1.45mm以上、1.59mm未満の場合、n=3~5のいずれか
d:1.59mm以上、2.57mm未満の場合、n=2~5のいずれか
e:2.57mm以上、2.75mm未満の場合、n=2~4のいずれか
f:2.75mm以上、2.97mm未満の場合、n=2又は3
g:2.97mm以上、3.25mm未満の場合、n=2
のグループのいずれかである、又は、a~gのうちの複数のグループを含み
前記nは各グループの条件を満たすnである請求項1~3のいずれか1項に記載の帯鋸刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯鋸刃に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、被切断材を、直歯及びアサリ歯を有する帯鋸刃によって切断する際に、種々の性能を向上させるための歯列に関する技術が記載されている。
向上させる性能は、例えば、耐切れ曲がり性及び被切断材の形状に依存しない切断性である。
【0003】
特許文献1には、例えば、歯列を切削順で直歯に続くアサリ歯を1個ずつ左右交互に配置したもの(いわゆるレーカーセットと称される)、及び、歯列を、同じ方向に異なる振り出し量で振り出した一対の歯の組を左右方向交互に振り出すように配置したもの(ここではツインセットと称する)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、帯鋸盤が小型の場合、帯鋸刃を収容した鋸刃ハウジングを一つの回動軸線まわりに回動させて被切断材を切断するようになっている。
そして、鋸刃ハウジングを所望の自重となるよう調整し、被切断材に対し帯鋸刃を上方から当て、鋸刃ハウジングの自重で被切断材を切断する。
この構造の帯鋸盤を、以下、軽負荷鋸盤と称する。
【0006】
この軽負荷鋸盤に用いられる帯鋸刃の歯先ピッチは、据え置き型の帯鋸盤に用いられる帯鋸刃の歯先ピッチと比較して、設定範囲が狭く限定されている。
例えば、一般に、据え置き型の帯鋸盤に用いられる帯鋸刃は、歯先ピッチがピッチ6(歯数/インチ:約4.2mm)~ピッチ18(歯数/インチ:約1.4mm)の広い範囲内で、等ピッチ又は異なるピッチを組み合わせた不等ピッチで設定されている。
これに対し、軽負荷鋸盤に用いられる帯鋸刃の歯先ピッチの多くは、ピッチ14(歯数/インチ:約1.8mm)及びピッチ18(歯数/インチ:約1.4mm)のいずれか一方の等ピッチ、又は両方を組み合わせた不等ピッチで設定されている。
そのため、軽負荷鋸盤に用いられる帯鋸刃の歯は、形状が比較的小さく曲げ強度も小さい。
【0007】
軽負荷鋸盤は、取扱いの容易さから、例えば、建設現場における鉄骨構造物の切断作業のように比較的小さい被切断材を切断する現場作業に好適に用いられる。従って、被切断材は、現場で用いられる種々のソリッド材,ホロー材,及び異形材が対象となる。要するに軽負荷鋸盤の帯鋸刃は、中身の詰まったソリッド状の材料、中身の詰まっていない角パイプ、C型やH型やL型などの種々の構造材が加工対象となる。
そのため、軽負荷鋸盤での切断は、切断経路の距離変動が大きく、切断部位の位置及び数は切断が進むに従って刻々と変わる場合が多く、そのため帯鋸刃には振動が生じ易く帯鋸刃に掛かる負荷変動も大きい。従って、振り出し量の大きいアサリ歯を主として各歯に加わる負荷は、極めて大きくなっている。
【0008】
このような軽負荷鋸盤での切断に、特許文献1に記載されたような、レーカーセットやツインセットの帯鋸刃を適用して、例えばC型構造材を切断すると、両側のウェブのみを切断しているときは、ウェブの板厚分だけしか歯に負荷が掛からないので、歯間ピッチが大きいと即1歯に加わる負荷が大きくなる。一方、ウェブとフランジとを一緒に切断しているときは、フランジ部分での1歯の負荷は小さいことになり、負荷変動が大きく、歯欠けの要因となる。
【0009】
このように、軽負荷鋸盤に用いられる帯鋸刃は、歯の曲げ強度が比較的小さい一方で、歯に加わる負荷が大きいため歯欠けが生じやすい課題点があり、歯欠けしにくい帯鋸刃が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は次の1)の構成を有する。
1)繰り返し形成された複数の歯組を備え、前記歯組は、第1直歯,左右の一方へ振り出された第1アサリ歯組,第2直歯,及び左右の他方へ振り出された第2アサリ歯組をこの順で有し、前記第1アサリ歯組及び前記第2アサリ歯組は、同じ最大振り出し量で振り出された少なくとも2個のアサリ歯を含み連続して形成されたn(2以上の整数)個のアサリ歯を有する帯鋸刃である。
これにより、アサリ歯組それぞれに含まれるアサリ歯に掛かる負荷が、それぞれのアサリ歯数nに基づき1/nとなって大幅に低減される。
これにより、帯鋸刃は、歯欠けが生じにくくなっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、歯欠けが生じにくい帯鋸刃が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例1の帯鋸刃90の図であり、
図1(a)は部分側面図、
図1(b)は部分下面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例2の帯鋸刃91の図であり、
図2(a)は部分側面図、
図2(b)は部分下面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例3の帯鋸刃92の図であり、
図3(a)は部分側面図、
図3(b)は部分下面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例4の帯鋸刃93の図であり、
図4(a)は部分側面図、
図4(b)は部分下面図である。
【
図5】
図5は、同種アサリ歯間範囲ARを示す図であり、
図5(a)~
図5(d)はそれぞれ帯鋸刃90~93の歯列を示す模式図である。
【
図6】
図6は、ピッチPMと実施例1~4との適用関係を示した図である。
【
図7】
図7は、帯鋸刃91の変形例である帯鋸刃91Aの図であり、
図7(a)は部分側面図、
図7(b)は部分下面図である。
【
図8】
図8は、帯鋸刃93の変形例である帯鋸刃93Aの図であり、
図8(a)は部分側面図、
図8(b)は部分下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施例1)
図1は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例1の帯鋸刃90の図であり、
図1(a)は部分側面図、
図1(b)は部分下面図である。
帯鋸刃90は、帯状の端部同士が接合されて無端のループ状とされた胴部90aを有する。胴部90aの一方(下方)の縁部には、歯部90bが形成されている。
【0014】
歯部90bには、歯先間のピッチP01~P06をピッチパターンP0として形成された複数の歯の組である歯組90sが、連続して繰り返し形成されている。
歯組90sに含まれる歯は6つであり、帯鋸刃90の走行方向先頭側から見て順に、直歯S01,左アサリ歯L01,左アサリ歯L02,直歯S02,右アサリ歯R01,右アサリ歯R02とされている。歯組90sに含まれる歯の歯先は、上下方向においてすべて同じ高さ位置にある。
左アサリ歯L01及び左アサリ歯L02は、歯部90bの歯を胴部90aに近い位置で胴部90aに対し左方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。左アサリ歯L01及び左アサリ歯L02の振り出し量は、振り出し量dLで等しい。
右アサリ歯R01及び右アサリ歯R02は、歯部90bの歯を胴部90aに近い位置で胴部90aに対し右方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。右アサリ歯R01及び右アサリ歯R02の振り出し量は、振り出し量dRで等しい。
振り出し量dLと振り出し量dRとは等しい。
【0015】
帯鋸刃90の歯部90bは、繰り返し形成された歯組90sそれぞれについて、同じ方向に同じ量だけ振り出した2個のアサリ歯からなる2つのアサリ歯組Ts01,Ts02が1個の直歯S02を間に挟んで左右交互に振り出すように配置されている構成を有する。アサリ歯組Ts01は、左アサリ歯L01,L02を有し、アサリ歯組Ts02は、右アサリ歯R01,R02を有する。なお、直歯S01及び直歯S02は、後述する歯先間ピッチと連続するアサリ歯の数との関係を崩さない範囲であれば、それぞれ複数の直歯を含む直歯組に置き替えることは可能である。
【0016】
(実施例2)
図2は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例2の帯鋸刃91の図であり、
図2(a)は部分側面図、
図2(b)は部分下面図である。
帯鋸刃91は、帯状の端部同士が接合されて無端のループ状とされた胴部91aを有する。胴部91aの一方の縁部には、歯部91bが形成されている。
【0017】
歯部91bには、歯先間のピッチP11~P18をピッチパターンP1として形成された複数の歯の組である歯組91sが、連続して繰り返し形成されている。
歯組91sに含まれる歯は8個であり、帯鋸刃91の走行方向先頭側から見て順に、直歯S11,左アサリ歯L11,左アサリ歯L12,左アサリ歯L13,直歯S12,右アサリ歯R11,右アサリ歯R12,右アサリ歯R13とされている。歯組91sに含まれる歯の歯先は、上下方向においてすべて同じ高さ位置にある。
【0018】
左アサリ歯L11~左アサリ歯L13は、歯部91bの歯を胴部91aに近い位置で胴部91aに対し左方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。左アサリ歯L11~左アサリ歯L13の振り出し量は、振り出し量dLで等しい。
右アサリ歯R11~右アサリ歯R13は、歯部91bの歯を胴部91aに近い位置で胴部91aに対し右方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。右アサリ歯R11~右アサリ歯R13の振り出し量は、振り出し量dRで等しい。
振り出し量dLと振り出し量dRとは等しい。
【0019】
帯鋸刃91の歯部91bは、繰り返し形成された歯組91sが、同じ方向に同じ量だけ振り出した3個のアサリ歯からなる2つのアサリ歯組Ts11,Ts12が1個の直歯S12を間に挟んで左右交互に振り出すように配置されている構成を有する。アサリ歯組Ts11は、左アサリ歯L11~L13を有し、アサリ歯組Ts12は、右アサリ歯R11~R13を有する。なお、直歯S11及び直歯S12は、後述する歯先間ピッチと連続するアサリ歯の数との関係を崩さない範囲であれば、それぞれ複数の直歯を含む直歯組に置き替えることは可能である。
【0020】
(実施例3)
図3は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例3の帯鋸刃92の図であり、
図3(a)は部分側面図、
図3(b)は部分下面図である。
帯鋸刃92は、帯状の端部同士が接合されて無端のループ状とされた胴部92aを有する。胴部92aの一方の縁部には、歯部92bが形成されている。
【0021】
歯部92bには、歯先間のピッチP21~P29,P210をピッチパターンP2として形成された複数の歯の組である歯組92sが、連続して繰り返し形成されている。
歯組92sに含まれる歯は10個であり、帯鋸刃92の走行方向先頭側から見て順に、直歯S21,左アサリ歯L21,左アサリ歯L22,左アサリ歯L23,左アサリ歯L24,直歯S22,右アサリ歯R21,右アサリ歯R22,右アサリ歯R23,右アサリ歯R24とされている。歯組92sに含まれる歯の歯先は、上下方向においてすべて同じ高さ位置にある。
【0022】
左アサリ歯L21~左アサリ歯L24は、歯部92bの歯を胴部92aに近い位置で胴部92aに対し左方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。左アサリ歯L21~左アサリ歯L24の振り出し量は、振り出し量dLで等しい。
右アサリ歯R21~右アサリ歯R24は、歯部92bの歯を胴部92aに近い位置で胴部92aに対し右方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。右アサリ歯R21~右アサリ歯R24の振り出し量は、振り出し量dRで等しい。振り出し量dLと振り出し量dRとは等しい。
【0023】
帯鋸刃92の歯部92bは、繰り返し形成された歯組92sが、同じ方向に同じ量だけ振り出した4個のアサリ歯からなる2つのアサリ歯組Ts21,Ts22が1個の直歯S22を間に挟んで左右交互に振り出すように配置されている構成を有する。アサリ歯組Ts21は、左アサリ歯L21~L24を有し、アサリ歯組Ts22は、右アサリ歯R21~R24を有する。なお、直歯S21及び直歯S22は、後述する歯先間ピッチと連続するアサリ歯の数との関係を崩さない範囲であれば、それぞれ複数の直歯を含む直歯組に置き替えることは可能である。
【0024】
(実施例4)
図4は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例4の帯鋸刃93の図であり、
図4(a)は部分側面図、
図4(b)は部分下面図である。
帯鋸刃93は、帯状の端部同士が接合されて無端のループ状とされた胴部93aを有する。胴部93aの一方の縁部には、歯部93bが形成されている。
【0025】
歯部93bには、歯先間のピッチP31~P39,P310~P312をピッチパターンP3として形成された複数の歯の組である歯組93sが、連続して繰り返し形成されている。
歯組93sに含まれる歯は12個であり、帯鋸刃93の走行方向先頭側から見て順に、直歯S31,左アサリ歯L31,左アサリ歯L32,左アサリ歯L33,左アサリ歯L34,左アサリ歯L35,直歯S32,右アサリ歯R31,右アサリ歯R32,右アサリ歯R33,右アサリ歯R34,右アサリ歯R35とされている。歯組93sに含まれる歯の歯先は、上下方向においてすべて同じ高さ位置にある。
【0026】
左アサリ歯L31~左アサリ歯L35は、歯部93bの歯を胴部93aに近い位置で胴部93aに対し左方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。左アサリ歯L31~左アサリ歯L35の振り出し量は、振り出し量dLで等しい。
右アサリ歯R31~右アサリ歯R35は、歯部93bの歯を胴部93aに近い位置で胴部93aに対し右方に折り曲げて振り出したアサリ歯である。右アサリ歯R31~右アサリ歯R35の振り出し量は、振り出し量dRで等しい。振り出し量dLと振り出し量dRとは等しい。
【0027】
帯鋸刃93の歯部93bは、繰り返し形成された歯組93sが、同じ方向に同じ量だけ振り出した5個のアサリ歯からなる2つのアサリ歯組Ts31,Ts32が1個の直歯S32を間に挟んで左右交互に振り出すように配置されている構成を有する。アサリ歯組Ts31は、左アサリ歯L31~L35を有し、アサリ歯組Ts32は、右アサリ歯R31~R35を有する。なお、直歯S31及び直歯S32は、後述する歯先間ピッチと連続するアサリ歯の数との関係を崩さない範囲であれば、それぞれ複数の直歯を含む直歯組に置き替えることは可能である。
【0028】
実施例1~実施例4の帯鋸刃90~93は、切削走行中に、それぞれ左方に振り出した連続するアサリ歯組Ts01~Ts31が切断経路の左側面及び底面を切削する前に、直歯S01~S31が先行して切削する。また、それぞれ右方に振り出した連続するアサリ歯組Ts02~Ts32が切断経路の右側面及び底面を切削する前に、直歯S02~S32が先行して切削する。
【0029】
帯鋸刃90~93は、この直歯S01~S31,S02~S32の存在により、アサリ歯組Ts01~Ts31及びアサリ歯組Ts02~Ts32に加わる切削負荷が低減する。そのため、アサリ歯組Ts01~Ts31及びアサリ歯組Ts02~Ts32に含まれる各アサリ歯にチッピングなどの不具合が生じにくくなっている。
【0030】
また、帯鋸刃90~93は、左右に振り出した連続するアサリ歯組Ts01~31と連続するアサリ歯組Ts02~32との間に直歯S02~S32が配置されていることにより、切削の直進性が向上している。なお、直歯S01から直歯S32は、後述する歯先間ピッチと連続するアサリ歯の数との関係を崩さない範囲であれば、それぞれ複数の直歯を含む直歯組に置き替えることは可能である。
【0031】
実施例1~実施例4の帯鋸刃90~93において、アサリ歯組Ts01~Ts31,アサリ歯組Ts02~Ts32それぞれに含まれる連続するアサリ歯の数をアサリ歯数n(nは2以上の整数)とする。
すなわち、実施例1の帯鋸刃90はn=2、実施例2の帯鋸刃91はn=3、実施例3の帯鋸刃92はn=4、実施例4の帯鋸刃93はn=5である。
【0032】
実施例1~実施例4の帯鋸刃90~93は、アサリ歯組Ts01~Ts31及びアサリ歯組Ts02~Ts32それぞれにおいて、含まれるアサリ歯の振り出し量dL,dRがすべて同じとなっている。
すなわち、アサリ歯組Ts01~Ts31,Ts02~Ts32については、それぞれの振り出し量dL,dRが、含まれるアサリ歯のすべてで同じで連続していることから、それぞれ切削する被切削部材の左側面,右側面から受ける反力がアサリ歯それぞれにおいて1/nに分割される。
【0033】
そのため、連続するアサリ歯組Ts01~Ts31,Ts02~Ts32それぞれに含まれるアサリ歯に掛かる負荷が、それぞれのアサリ歯数nに基づき1/nとなって大幅に低減される。
これにより、帯鋸刃90~93は、歯欠けが生じにくくなっている。
【0034】
次に、軽負荷鋸盤に用いられる帯鋸刃における、歯先間のピッチとアサリ歯数nとの関係について、
図5及び
図6を参照して詳述する。以下の説明において、ピッチは、mmを単位とするピッチPMと、インチあたりの歯数(歯数/インチ)を示すピッチPNとで区別する。
図5は、同種アサリ歯間範囲ARを示す図であり、
図5(a)~
図5(d)はそれぞれ帯鋸刃90~93の歯列を示す模式図である。
図6は、ピッチPMと実施例1~4との適用関係を示した図である。
【0035】
まず、軽負荷鋸盤には、前提として次の(1)、(2)の条件が適用される。
(1)帯鋸刃の走行速度Vr(mm/min)は100×103mm/minである。
(2)ピッチPNが10の帯鋸刃の降下速度Vd10は、120mm/minで一定である。
また、軽負荷鋸盤では、経験上、次の(3)の関係が認められている。
(3)切削の最大負荷が掛かる歯において良好な切削が可能な切込み量Cの、下限の下限切込み量Cmin(mm)は0.006mmであり、上限の上限切込み量Cmax(mm)は0.025mmである。
【0036】
この前提条件及び関係の下で、軽負荷鋸盤における切断加工において、帯鋸刃の最大負荷が掛かる歯の1歯あたりの切込み量C(mm)は、次の(式1)で示される。
C=Vd/(Vr/最大負荷ピッチ)・・・(式1)
【0037】
最大負荷ピッチは、ピッチPM×倍数である。倍数は、帯鋸刃90~93において隣接する歯組の、一方向に振り出したアサリ歯組の最後尾の歯を含み、隣接する歯組の同方向に振り出したアサリ歯組の手前までの歯数nsである。
具体的には、歯数nsは、
図5に示される同種アサリ歯間範囲ARにある歯数である。
図5は、同種アサリ歯間範囲ARを示す図であり、
図5(a)~
図5(d)はそれぞれ帯鋸刃90~93の歯列パターンを示す模式図である。
図5(a)~
図5(d)に示されるように、同種アサリ歯間範囲ARに含まれる歯数nsは、帯鋸刃90~93それぞれで5~8である。
【0038】
Vd(mm/min)は、Vd10×(ピッチ減少率ΔPN)であり、
ピッチ減少率ΔPNは、ピッチPM/2.54で示される。
【0039】
従って、(式1)は、
C=Vd10×PM/〔2.54×Vr/(PM×ns)〕
となり、整理して
C=Vd10×PM2×ns/(2.54×Vr)・・・(式2)
となる。
(式2)をPMで整理し、Vd10=120mm/min、Vr=100×103mm/minを代入すると、
PM=〔2.54×C×100×103/(120×ns)〕1/2 ・・・(式3)を得る。
【0040】
(式3)に対し、nsとして帯鋸刃90~93それぞれにおいて5~8を代入し、切込み量Cとして下限切込み量Cminの0.006mmと上限切込み量Cmaxの0.025mmとを代入する。すると、帯鋸刃90~93それぞれにおいて好適なピッチPMの下限ピッチPM1と上限ピッチPM2が算出され、それぞれピッチPMの好適なピッチ範囲PMg1~PMg4が得られる(
図6参照)。
【0041】
算出結果は次の通りである。
帯鋸刃90・・・PM1=1.59mm、PM2=3.25mm
帯鋸刃91・・・PM1=1.45mm、PM2=2.97mm
帯鋸刃92・・・PM1=1.35mm、PM2=2.75mm
帯鋸刃93・・・PM1=1.26mm、PM2=2.57mm
【0042】
図6は、実施例1~4の帯鋸刃90~93とピッチPMと適用関係を示した図である。
例えば、
図6において、帯鋸刃91の好適なピッチ範囲は、下限ピッチPM1の1.45mmから上限ピッチPM2の2.97mmまでのピッチ範囲PMg2である。
【0043】
ピッチ範囲PMg1~PMg4の重複パターンから、ピッチPMは、範囲T1~範囲T7の7つの範囲に区分される。
範囲T1は、ピッチPMが1.26以上1.35mm未満であって、帯鋸刃93のみに好適に対応する。
範囲T2は、ピッチPMが1.35以上1.45mm未満であって、帯鋸刃93及び帯鋸刃92が好適に対応する。
範囲T3は、ピッチPMが1.45以上1.59mm未満であって、帯鋸刃93~91が好適に対応する。
範囲T4は、ピッチPMが1.59以上2.57mm未満であって、帯鋸刃93~90が好適に対応する。
範囲T5は、ピッチPMが2.57以上2.75未満であって、帯鋸刃92~90が好適に対応する。
範囲T6は、ピッチPMが2.75以上2.97mm未満であって、帯鋸刃91及び帯鋸刃90が好適に対応する。
範囲T7は、ピッチPMが2.97以上3.25未満であって、帯鋸刃90が好適に対応する。
【0044】
すなわち、第1アサリ歯組Ts01~Ts31及び第2アサリ歯組Ts02~Ts32は、歯先のピッチとアサリ歯数nとが、
a:1.26mm以上、1.35mm未満の場合、n=5
b:1.35mm以上、1.45mm未満の場合、n=4又は5
c:1.45mm以上、1.59mm未満の場合、n=3~5のいずれか
d:1.59mm以上、2.57mm未満の場合、n=2~5のいずれか
e:2.57mm以上、2.75mm未満の場合、n=2~4のいずれか
f:2.75mm以上、2.97mm未満の場合、n=2又は3
g:2.97mm以上、3.25mm未満の場合、n=2
で示されるa~gのグループに区分される。
【0045】
この範囲T1~T7の区分により、不等ピッチの歯列を有する帯鋸刃を製作する場合に選択すべきピッチが把握される。
例えば、歯列の歯先ピッチを、8/12Pと称されるピッチPNが8と12との両方を組み合わせた不等ピッチにする場合、
図6に示されるように、ピッチPN=8は、それに対応する範囲T7で好適な、帯鋸刃90のアサリ歯が2歯連続する態様とする。また、ピッチPN=12は、それに対応する範囲T4で好適な、帯鋸刃90~93のアサリ歯が2歯~5歯いずれかの歯数で連続する態様とする。
【0046】
また、歯列の歯先ピッチを、12/16Pと称されるピッチPNが12と16との両方を組み合わせた不等ピッチにする場合、
図6に示されるように、ピッチPN=12は、それに対応する範囲T4で好適な帯鋸刃90~93のアサリ歯が2歯~5歯いずれかの歯数で連続する態様とする。また、ピッチPN=16は、それに対応する範囲T3で好適な帯鋸刃91~93のアサリ歯が3歯~5歯いずれかの歯数で連続する態様とする。
【0047】
また、歯列の歯先ピッチを、14/18Pと称されるピッチPNが14と18との両方を組み合わせた不等ピッチにする場合、
図6に示されるように、ピッチPN=14は、それに対応する範囲T4で好適な帯鋸刃90~93のアサリ歯が2歯~5歯いずれかの歯数で連続する態様とする。また、ピッチPN=18は、それに対応する範囲T2で好適な帯鋸刃92,93のアサリ歯が4歯及び5歯のうちの一方の歯数で連続する態様とする。
【0048】
このように、
図6に基づき、帯鋸刃90~93の中から、ピッチPM(PN)に対し好適な連続するアサリ歯の歯数nsを有する帯鋸刃を選択できる。これにより、被切断材の材質、形状、などの特性に適した帯鋸刃を選択でき、被切断材の材質及び切断経路の距離などによらず、歯欠けが生じにくい良好な切断を行うことができる。
【0049】
本発明の実施例は、上述した構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0050】
実施例2~4の帯鋸刃91~93において、アサリ歯の振り出し量は、同じ方向に振り出されたアサリ歯組に含まれるアサリ歯のすべてで同じ、と説明したがこれに限定されるものではない。アサリ歯組は、振り出し量が異なるアサリ歯が混在し、最大となる振り出し量で振り出されたアサリ歯が少なくともアサリ歯組の先頭と最後尾の2カ所に配置されていればよい。これについて、
図7及び
図8を参照して説明する。
【0051】
図7は、帯鋸刃91の変形例である帯鋸刃91Aの図であり、
図7(a)は部分側面図、
図7(b)は部分下面図である。
図8は、帯鋸刃93の変形例である帯鋸刃93Aの図であり、
図8(a)は部分側面図、
図8(b)は部分下面図である。
【0052】
図7(b)に示されるように、帯鋸刃91Aは、帯鋸刃91のアサリ歯組Ts11,Ts12の替わりにアサリ歯組Ts71,Ts72を有する。
アサリ歯組Ts71は、左アサリ歯L11~L13のうちの2個の左アサリ歯の振り出し量が最大の振り出し量dLとされ、残りの1個の左アサリ歯(この例において左アサリ歯L12)の振り出し量が、振り出し量dLよりも小さい振り出し量dL2となっている。
同様に、アサリ歯Ts72は、右アサリ歯R11~R13のうちの2個の右アサリ歯の振り出し量が最大の振り出し量dRとされ、残りの1個の右アサリ歯(この例において右アサリ歯R12)の振り出し量が、振り出し量dLよりも小さい振り出し量dL2となっている。
【0053】
図8(b)に示されるように、帯鋸刃93Aは、帯鋸刃93のアサリ歯組Ts31,Ts32の替わりにアサリ歯組Ts81,Ts82を有する。
アサリ歯組Ts81は、左アサリ歯L31~L35のうちの3個の左アサリ歯の振り出し量が最大の振り出し量dLとされ、残りの2個の左アサリ歯(この例において左アサリ歯L32,L34)の振り出し量が、振り出し量dLよりも小さい振り出し量dL2となっている。
同様に、アサリ歯Ts82は、右アサリ歯R31~R35のうちの3個の右アサリ歯の振り出し量が最大の振り出し量dRとされ、残りの2個の右アサリ歯(この例において右アサリ歯R32,R34)の振り出し量が、振り出し量dLよりも小さい振り出し量dL2となっている。
【0054】
ここで、直歯S01~S31を第1直歯とし、直歯S02~S32を第2直歯とし、第1アサリ歯組をアサリ歯組Ts01~Ts31とし、第2アサリ歯組をアサリ歯組Ts02~Ts32とする。
この場合、上述のように、帯鋸刃90~93は、繰り返し形成された複数の歯組90s~93sを有し、前記歯組90s~93sは、第1直歯S01~S31,左右の一方へ振り出された第1アサリ歯組Ts01~Ts31,第2直歯S02~S32,及び左右の他方へ振り出された第2アサリ歯組Ts02~Ts32をこの順で有し、前記第1アサリ歯組Ts01~Ts31及び前記第2アサリ歯組Ts02~Ts32は、同じ最大振り出し量dL,dRで振り出された少なくとも2個のアサリ歯を含み連続して形成されたn(2以上の整数)個のアサリ歯を有する帯鋸刃である。
【0055】
帯鋸刃91A,93Aを代表例とするこの帯鋸刃は、アサリ歯組が、振り出し量が異なるアサリ歯が混在して最大となる振り出し量で振り出されたアサリ歯が少なくとも2個あれば、切削する被切削部材の左右の側面から受ける反力が、アサリ歯それぞれにおいて少なくとも1/2以下に抑制される。そのため、各アサリ歯に掛かる負荷が1/2以下に低減される。
これにより、アサリ歯組それぞれにおいて最大となる振り出し量で振り出されたアサリ歯が少なくとも2個ある帯鋸刃91A,93Aを代表例とする帯鋸刃は、歯欠けが生じにくくなっている。
【符号の説明】
【0056】
90,91,92,93,91A,93A 帯鋸刃
90a,91a,92a,93a,91Aa,93Aa 胴部
90b,91b,92b,93b,91Ab,93Ab 歯部
90s,91s,92s,93s,91As,93As 歯組
AR 同種アサリ歯間範囲
dL,dL1 左振り出し量
dR,dR1 右振り出し量
L01,L02,L11~L13,L21~L24,L31~L35 左アサリ歯
n アサリ歯数
ns 歯数
PM,PN ピッチ
PM1 下限ピッチ
PM2 上限ピッチ
PMg1~PMg4 ピッチ範囲
P0~P3 ピッチパターン
P01~P06,P11~P18,P21~P29,P210,P31~P39,P310~P312 ピッチ
R01,R02,R11~R13,R21~R24,R31~R35 右アサリ歯
S01,S02,S11,S12,S21,S22,S31,S32,S121,S122 直歯
T1~T7 範囲
Ts01,Ts02,Ts11,Ts12,Ts21,Ts22,Ts31,Ts32 アサリ歯組