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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049330
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】防水構造およびスピニングリール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/01 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
A01K89/01 A
A01K89/01 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159003
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】落合 浩士
【テーマコード(参考)】
2B108
【Fターム(参考)】
2B108BA01
2B108BA09
2B108BE00
2B108BE04
(57)【要約】
【課題】偏心による影響を抑えるとともに、メインリップ自体に水圧が作用しにくくすることで、スピニングリールに作用する防水シールに起因するトルクの増大を抑制することができ、低トルク化を図ることができる。
【解決手段】リール本体に設けられた、スプール軸の外周に配置されるカバー部材17と、カバー部材17の前部に設けられたロータ3と、を備えたスピニングリールに設けられる防水構造であって、カバー部材17とロータ3との間を全周にわたって防水するシール部材7を有し、シール部材7には、ロータ3に対してスプール軸41の軸方向に液密に当接するメインリップ73を備え、カバー部材17にはメインリップ73が当接する接触部を外周側から全周にわたって覆う環状壁部172が設けられている防水構造を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に設けられた、スプール軸の外周に配置される筒状部材と、前記筒状部材の前部に設けられたロータと、を備えたスピニングリールに設けられる防水構造であって、
前記筒状部材と前記ロータとの間を全周にわたって防水するシール部材を有し、
前記シール部材には、前記ロータに対して前記スプール軸の軸方向に液密に当接するメインリップを備え、
前記ロータおよび前記筒状部材のうち少なくとも一方には、前記メインリップが当接する接触部を外周側から全周にわたって覆う環状壁部が設けられている防水構造。
【請求項2】
前記シール部材には、前記接触部と前記環状壁部との間に、前記ロータに対して隙間をあけた状態で前記スプール軸方向に延びる補助リップが設けられている、請求項1に記載の防水構造。
【請求項3】
前記メインリップ、前記補助リップ、および前記ロータに囲まれた領域に潤滑剤が充填されている、請求項2に記載の防水構造。
【請求項4】
前記環状壁部の表面は撥水加工されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防水構造。
【請求項5】
前記メインリップは、前記軸方向で前記ロータに向かうに従って漸次、径方向の内周側から外周側に延びる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防水構造。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の防水構造を備えたスピニングリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水構造およびスピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスピニングリールに設けられる防水構造として、リール本体に設けられたスプール軸の外周に嵌合される筒状部材と、この筒状部材の前部に設けられたロータと、を備え、筒状部材とロータとの間を全周にわたって防水するシール部材のリップシールがロータに対してスプール軸に直交する径方向に液密に当接しているものが一般的である(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5961407号公報
【特許文献2】特許第6261971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のような径方向にリップシールを延ばした構成では、取り付けた部材間の偏心によって防水性が低下することを防ぐため、リップの弾性変形量(緊迫力)を大きくして接触対象物に接触させている。そのため、摩擦トルクが増大し、回転効率が低下するという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、偏心による影響を抑えるとともに、メインリップ自体に水圧が作用しにくくすることで、スピニングリールに作用する防水シールに起因するトルクの増大を抑制することができ、低トルク化を図ることができる防水構造およびスピニングリールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る防水構造は、リール本体に設けられた、スプール軸の外周に配置される筒状部材と、前記筒状部材の前部に設けられたロータと、を備えたスピニングリールに設けられる防水構造であって、前記筒状部材と前記ロータとの間を全周にわたって防水するシール部材を有し、前記シール部材には、前記ロータに対して前記スプール軸の軸方向に液密に当接するメインリップを備え、前記ロータおよび前記筒状部材のうち少なくとも一方には、前記メインリップが当接する接触部を外周側から全周にわたって覆う環状壁部が設けられていることを特徴としている。
【0007】
発明に係る防水構造によれば、シール部材のメインリップとロータとを軸方向に液密に当接させるとともに、その接触部の外周側に設けられる環状壁部がラビリンスを形成することにより、メインリップに水圧が作用しにくくなり、リップの弾性変形量を大きくする必要がなくなる。これによりスピニングリールに作用する防水シールに起因するトルクの増大を抑制することができ、低トルク化を図ることができる。
【0008】
また、本発明では、シール部材のメインリップが径方向に接触する従来の場合のように、リール組立時においてシール部材の芯出しに精度が要求されるうえ所定の位置からずれた際に防水性が低下するといった不具合を防止でき、組立性を向上させることができる。
【0009】
(2)前記シール部材には、前記接触部と前記環状壁部との間に、前記ロータに対して隙間をあけた状態で前記スプール軸方向に延びる補助リップが設けられていることが好ましい。
【0010】
この場合には、メインリップと環状壁部との間に補助リップを設けることで、さらにメインリップに対して水圧が作用しにくくなり、防水性能を向上させることができる。
【0011】
(3)前記メインリップ、前記補助リップ、および前記ロータに囲まれた領域に潤滑剤が充填されていることを特徴としてもよい。
【0012】
この場合には、前記領域に潤滑剤が充填されているので、回転効率を高めることができ、さらに低トルク化を図ることができ、防水性能を向上させることができる。
【0013】
(4)前記環状壁部の表面は撥水加工されていることを特徴としてもよい。
【0014】
この場合には、環状壁部の撥水効果により内周側への水の浸入を抑制することができ、さらにメインリップに対して水圧がかかり難くすることができる。
【0015】
(5)前記メインリップは、前記軸方向で前記ロータに向かうに従って漸次、径方向の内周側から外周側に延びることを特徴としてもよい。
【0016】
この場合には、メインリップの先端、すなわちロータに接触する位置が基端部よりも外周側に向けて配置されているので、メインリップの耐水圧性を高めることができる。
【0017】
(6)本発明に係るスピニングリールは、(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の防水構造を備えたことを特徴としている。
【0018】
本発明では、上述した防水構造の効果を有するスピニングリールを提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る防水構造およびスピニングリールによれば、偏心による影響を抑えるとともに、メインリップ自体に水圧が作用しにくくすることで、スピニングリールに作用する防水シールに起因するトルクの増大を抑制することができ、低トルク化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態によるスピニングリールの全体構成を示す斜視図である。
図2図1に示すスピニングリールを左側から見た断面図である。
図3図2に示すリール内部の構成の要部を示した断面図である。
図4】防水構造の要部を示した部分斜視図である。
図5図3に示す防水構造の要部を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る防水構造およびスピニングリールの実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において、各構成部材を視認可能な大きさとするために必要に応じて各構成部材の縮尺を適宜変更している場合がある。
【0022】
図1及び図2に示すように本実施形態のスピニングリール1は、リール本体10と、リール本体10に回転自在に支持されたハンドル2と、ロータ3と、スプール4と、を備えている。
【0023】
ロータ3は、リール本体10の前部に回転自在に支持されている。スプール4は、釣り糸を外周面に巻き取るものであり、ロータ3の前部において前後移動自在に配置されている。なお、図1では、ハンドル2は、使用時の状態でリール本体10の左側に装着されている。ハンドル2はリール本体10の左右いずれにも装着可能である。
【0024】
ハンドル2は、ハンドル把手21と、先端にハンドル把手21が回転自在に装着されたハンドルアーム22と、を有している。ハンドルアーム22の基端部には、ハンドルアーム22と交差する方向に延びて形成され、後述するハンドル軸23に回転不能に装着されている。
【0025】
リール本体10は、内部に空間を有するリールボディ11と、リールボディ11の空間を塞ぐためにリールボディ11に着脱自在に装着される蓋部材12と、を有している。
【0026】
リールボディ11は、例えばアルミニウム合金製であり、上部に前後に延びるT字形の竿取付脚110が一体形成されている。図2に示すように、リールボディ11の空間内には、ロータ3をハンドル2の回転に連動して回転させるロータ駆動機構5と、スプール4を前後に移動させて釣り糸を均一に巻き取るためのオシレーティング機構6と、が設けられている。
【0027】
リールボディ11及び蓋部材12の前端には、円形のフランジ部13が形成されている。蓋部材12は、例えばアルミニウム合金製の部材であり、複数の箇所でリールボディ11に対してビス止めされている。
フランジ部13の前面には、フランジ部13の外周部が前方に向けて突出する円筒部14が設けられている。
【0028】
リールボディ11には、後述するスプール4のスプール軸41が貫通し、かつスプール軸41の後端部を回転可能に支持する第1軸受15Aを前方から収納している。また、リールボディ11及び蓋部材12には、ハンドル軸23が挿通可能な図示しない円形の貫通孔がそれぞれ形成されている。リールボディ11及び蓋部材12の内側面の貫通孔の周囲には、ハンドル軸23を回転自在に支持する転がり軸受24が収納されている。
【0029】
図1及び図2に示すように、ロータ3は、ロータ本体31と、ロータ本体31の先端に糸開放姿勢と糸巻き取り姿勢とに揺動自在に装着されたベールアーム32と、ベールアーム32を糸開放姿勢から糸巻き取り姿勢に戻すためにロータ本体31に装着されたベール反転機構33と、を有している。
【0030】
図2に示すように、ロータ本体31は、リールボディ11にスプール軸41回りに回転自在に装着された筒状部310を有している。図1に示すように、ベールアーム32は、筒状部310の側方に互いに対向して設けられている。筒状部310及びベールアーム32は、例えばアルミニウム合金製であり、一体成形されている。互いに対向するベールアーム32の先端部同士の間には、釣り糸をスプール4に案内し、線材を略U字状に湾曲させた形状のベール34が固定されている。
【0031】
図3に示すように、筒状部310の前部には、前壁313が形成されている。前壁313の中央部には、貫通孔311aが形成されており、この貫通孔311aをピニオンギア16の前部16a及びスプール軸41が貫通している。前壁313の前部には、ロータ3の固定用のロータ固定カバー35が配置されている。
【0032】
ロータ3の筒状部310の内部には、ロータ3の逆転を禁止、解除するための逆転防止機構50が配置されている。
逆転防止機構50は、リールボディ11の円筒部14の内周部に装着されるローラ型のワンウェイクラッチであるローラクラッチ51と、リールボディ11の下部に配置されローラクラッチ51を作用状態と非作用状態とに切り換えるストッパつまみ(図示省略)と、を有している。ローラクラッチ51は、外輪が円筒部14の前面側に装着され、内輪がピニオンギア16の外周部に装着されている。ここでは、ストッパつまみを左右に揺動操作することにより、ローラクラッチ51の作動状態と非作動状態とを切り換える。
【0033】
図1に示すように、スプール4は、ロータ3の対向するベールアーム32同士の間に配置されており、スプール軸41の先端にドラグ機構60(図2参照)を介して装着されている。スプール4は、外周に釣り糸が巻かれる糸巻胴部42と、糸巻胴部42の後部に一体で形成されたスカート部43と、糸巻胴部42の前端に一体で形成されたフランジ部44と、を有している。
【0034】
図2に示すように、ロータ駆動機構5は、ハンドル2が回転不能に装着されたハンドル軸23と、ハンドル軸23ともに回転するドライブギア18と、このドライブギア18に噛み合うピニオンギア16と、を有している。
【0035】
ピニオンギア16は、ステンレス合金製の筒状形状であって、ピニオンギア16の前部16aはロータ3の中心部を貫通し、ナット部材19によりロータ3と固定されている。ピニオンギア16は、後部16bと中間部16cとが、それぞれ転がり軸受からなる第1軸受15A及び第2軸受15Bを介してリール本体10に回転自在に支持されている。
【0036】
ピニオンギア16は、釣竿の軸方向に沿う軸回りに回転自在にリール本体10に装着されており、ピニオンギア16の前部16aはロータ3の中心部(貫通孔311a)を貫通し、ナット部材19によりロータ3に固定されている。ピニオンギア16は、内周部にスプール軸41が隙間をあけて貫通する筒状部16Aと、筒状部16Aの後部外周に設けられドライブギア18に噛み合う歯部16Bと、を有している。ピニオンギア16の筒状部16Aの前部16a外周は、ロータ3に対して回転不能に装着されている。
【0037】
ピニオンギア16の筒状部16Aは、ステンレス合金製の筒状の部材であり、後部16bと中間部16cとが、それぞれ第1軸受15A及び第2軸受15Bを介してリール本体10に回転自在に支持されている。筒状部16Aの内部には、スプール軸41が貫通している。筒状部16Aとスプール軸41との間には、隙間が形成されている。
【0038】
歯部16Bは、筒状部16Aの後部16bと中間部16cとの間の外周にはす歯状に形成されており、ドライブギア18に噛み合っている。歯部16Bは、後述するオシレーティング機構6の中間ギアにも噛み合っている。
【0039】
ピニオンギア16の前部16aの外周面には、雄ねじ部が形成され、この雄ねじ部にナット部材19が螺合する。ナット部材19は、リテーナ19Aにより回り止めされている。リテーナ19Aは、ロータ3の前壁313に前方から装着される複数のねじ部材19Bにより固定されている(図3参照)。
【0040】
スプール軸41は、ステンレス合金製の軸部材であり、前端部にはドラグ機構60を介してスプール4が連結され、後端部には後述するオシレーティング機構6のスライダ61が固定されている。スプール軸41は、ピニオンギア16の内周部を貫通しており、筒状部16Aの前部16aより前方のスプール軸41の外周が第3軸受15Cによって回転自在に支持されている。第3軸受15Cは、スプール軸41の外周に装着された転がり軸受である。
【0041】
オシレーティング機構6は、スプール4の中心部にドラグ機構60を介して連結されたスプール軸41を前後方向に移動させてスプール4を同方向に移動させるための機構である。オシレーティング機構6は、トラバースカム式のものであり、ピニオンギア16の歯部16Bに噛み合う中間ギア62と、リールボディ11にスプール軸41と平行な軸回りに回転自在に装着された螺軸66と、螺軸63の回転により前後移動するスライダ61と、を有している。スライダ61にスプール軸41の後端部が回転不能かつ軸方向に移動不能に取り付けられている。
【0042】
ローラクラッチ51の前面には、円盤状の取付板53がスプール軸41と同軸に設けられている。取付板53の前面53aには、ローラクラッチ51を防水するためのシール部材7が装着されている。すなわち、シール部材7は、ピニオンギア16とロータ3との間を全周にわたって防水する。
【0043】
リールボディ11の円筒部14の前端部14aには、ローラクラッチ51の前側を覆うための有底筒状のカバー部材17(筒状部材)が合成樹脂製のOリングからなる第1止水リング173を介して装着されている。
図4に示すように、カバー部材17の底壁171の中央には、スプール軸41及びピニオンギア16が挿通される貫通穴17aが形成されている。図5に示すように、カバー部材17の底壁171の後面171bと、取付板53の前面53aとでシール部材7のシール基端部72を挟持することによって、シール部材7が固定されている。
【0044】
カバー部材17は、底壁171の前面171aから前方に突出する円筒状の環状壁部172を有している。環状壁部172は、ロータ3における筒状部310の前壁313の後面313bに環状に凹んで形成された凹溝314に進入した状態で配置され、ラビリンス構造を形成している。すなわち、凹溝314と環状壁部172とでラビリンス構造をなしているので、環状壁部172より径方向内側の内部に浸水しにくい構造になっている。
なお、環状壁部172の表面は撥水加工されていてもよい。環状壁部172が撥水されることにより、ラビリンス構造としてより効果的である。
【0045】
シール部材7は、例えば、ニトリルゴム等の弾性を有する合成樹脂製のリップ部材である。シール部材7は、図4及び図5に示すように、シール本体部71と、シール本体部71の外周側に配置されカバー部材17の底壁171と取付板53の前面53aとの間に挟持されるシール基端部72と、シール本体部71から前方に延びるメインリップ73と、メインリップ73の外周側に配置されてシール本体部71から前方に延びる補助リップ74と、を備えている。シール本体部71、シール基端部72、メインリップ73、及び補助リップ74は、一体成形されている。
【0046】
図5に示すように、シール本体部71は、カバー部材17の貫通穴17aの内側に配置されている。すなわち、シール本体部71は、貫通穴17aとロータ3の前壁313の内周端から後方に延びる内周壁315の外周面315aとの間に介在している。シール本体部71は、ローラクラッチ51の前側全体を覆っている。
【0047】
メインリップ73は、リップ先端73aが軸方向でロータ3の前壁313を向くように設けられ、前壁313の後面313bに接触している。メインリップ73は、軸方向でロータ3の前壁313に向かうに従って漸次、径方向の内周側から外周側に延びている。メインリップ73は、ロータ3の前壁313に対してスプール軸41の軸方向に液密に当接する。
なお、図5では、メインリップ73のリップ先端73aが前壁313に重なった状態で示しているが、リップ先端73aが前壁313の後面313bに対して屈折した状態で液密に接触している。
【0048】
前壁313におけるメインリップ73のリップ先端73aが当接する接触部は、カバー部材17の環状壁部172によって外周側から全周にわたって覆われている。
【0049】
補助リップ74は、メインリップ73に対して外周側に間隔をあけて配置されている。補助リップ74は、リップ先端74aが軸方向でロータ3の前壁313の後面313bを向くように設けられ、前壁313の後面313bから後方に凸となる凸状部313cに接触、あるいは近接している(図5では近接している)。すなわち、補助リップ74のリップ先端74aは、凸状部313cとの間に例えば略0.5mmの隙間S1が形成されている。補助リップ74のリップ先端74aは、メインリップ73のリップ先端73aよりも後方に位置している。
【0050】
シール部材7のメインリップ73と補助リップ74、およびロータ3の前壁313に囲まれた領域には、グリス8(潤滑剤)が保持されるグリス保持部75が設けられている。
【0051】
グリス保持部75には、補助リップ74のリップ先端74aと前壁313の凸状部313cとの間の隙間S1からグリス8が充填されている。グリス8は、グリス保持部75全体にわたって充填されており、その一部は、補助リップ74と環状壁部172との間の領域76に充填されていてもよい。なお、潤滑剤であるグリス8の種類等は、適宜選択可能である。
【0052】
次に、このように構成される防水構造およびスピニングリール1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0053】
本実施形態では、図3及び図5に示すように、ローラクラッチ51が収納される筒状のカバー部材17の前部にシール部材7を備えた防水構造が設けられているので、ローラクラッチ51内部が浸水することを防止できる。すなわち、本実施形態では、シール部材7のメインリップ73とロータ3とを軸方向に液密に当接させるとともに、その接触部の外周側に設けられるカバー部材17の環状壁部172がラビリンスを形成することにより、メインリップ73に水圧が作用しにくくなる。つまり、メインリップ73とロータ3とを軸方向に当接させることで、双方との間に偏心が生じても接触圧が大きく変化しないため、リップの弾性変形量を大きくする必要がなくなる。
これによりスピニングリール1に作用するトルクの増大を抑制することができ、低トルク化を図ることができる。
【0054】
また、本実施形態では、シール部材7のメインリップ73が径方向に接触する従来の場合のように、リール組立時においてシール部材7の芯出しに精度が要求されるうえ所定の位置からずれた際に防水性が低下するといった不具合を防止でき、組立性を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、シール部材7には、ロータ3の前壁313とシール部材7との接触部と環状壁部172との間に、前壁313に対して隙間をあけた状態でスプール軸41の軸方向に延びる補助リップ74を設けることにより、さらにメインリップ73に対して水圧が作用しにくくなり、防水性能を向上させることができる。
【0056】
さらに、本実施形態による防水構造では、シール部材7にメインリップ73、補助リップ74が設けられ、さらにロータ3に囲まれた領域にグリス8が充填されているため、回転効率を高めることができ、さらに低トルク化を図ることができ、防水性能を向上させることができる。
【0057】
さらにまた、本実施形態では、環状壁部172の表面を撥水加工とすることにより、環状壁部172の撥水効果により内周側への水の浸入を抑制することができ、さらにメインリップ73に対して水圧がかかり難くすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、メインリップ73が軸方向でロータ3の前壁313に向かうに従って漸次、径方向の内周側から外周側に延びていて、メインリップ73のリップ先端73a、すなわちロータ3に接触する位置が基端部よりも外周側に向けて配置されているので、メインリップ73の耐水圧性を高めることができる。
【0059】
本実施形態では、防水構造ではリップシール部のシールが最もトルクの向上に影響することから、その部分の低トルク化を実現することができる。
【0060】
上述のように構成された本実施形態による防水構造およびスピニングリール1では、偏心による影響を抑えるとともに、メインリップ73自体に水圧が作用しにくくすることで、スピニングリール1に作用する防水シールに起因するトルクの増大を抑制することができ、低トルク化を図ることができる。
【0061】
以上、本発明による防水構造およびスピニングリールの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0062】
例えば、本実施形態では、シール部材7の構成として、メインリップ73と環状壁部172との間に補助リップ74が設けられているが、この補助リップ74を省略することも可能である。
【0063】
また、環状壁部が設けられる筒状部材として、本実施形態では、カバー部材17を対象としているが、カバー部材17であることに限定されることはない。例えば、カバー部材17が省略されたような構成である場合であって、リールボディ11の前方に突出する円筒部14が筒状部材であってもよく、この円筒部14に環状壁部が設けられる構成のものを適用することも可能である。要は、ローラクラッチ51等のロータ駆動機構5を収容する筒状部材の内部をロータ3との間で水の浸入を防止できる防水構造であればよいのである。
【0064】
また、本実施形態では、メインリップ73、補助リップ74、およびロータ3に囲まれた領域(グリス保持部75)にグリス8(潤滑剤)が充填されているが、この潤滑剤を省略することも可能である。さらに、潤滑剤の充填領域についても、上述したようなグリス保持部75の領域であることに制限されることはなく、例えば補助リップ74と環状壁部172との間の領域まで潤滑剤を充填することも可能である。
【0065】
さらに、本実施形態では、環状壁部172が筒状部材であるカバー部材17に設けられた構成としているが、環状壁部が設けられる部位が筒状部材であることに制限されることはなく、ロータ3に一部に環状壁部が設けられていてもよい。すなわち、ロータ3に設けられる環状壁部としては、例えばロータ3の前壁313から軸方向で後方に向けて突出し、かつメインリップ73が当接する接触部を外周側から全周にわたって覆うように設けられる。
【0066】
また、本実施形態では、環状壁部172がロータ3における筒状部310の前壁313の後面313bに環状に凹んで形成された凹溝314に進入した状態で配置され、ラビリンス構造を形成しているが、このような前壁313に凹溝314を設ける構成に限定されることはなく、凹溝314を形成しない構成であってもよい。
【0067】
さらにまた、本実施形態では、環状壁部172の表面を撥水加工しているが、これに限定されることはない。
【0068】
また、メインリップ73の形状として、本実施形態では、軸方向でロータ3の前壁313に向かうに従って漸次、径方向の内周側から外周側に延びる形状としているが、このように傾斜する形状であることに制限されることはない。
【0069】
また、本実施形態では、メインリップ73を当接させる接触部としてロータ本体31(前壁313)を対象としているが、ロータ本体31に限定されることはなく、ロータ3と一体回転する別部材に対してメインリップ73を接当させてもよい。
【0070】
その他、リールボディ11、ハンドル2、ロータ3、スプール4の形状や大きさ等の構成については、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 スピニングリール
2 ハンドル
3 ロータ
4 スプール
5 ロータ駆動機構
7 シール部材
8 グリス(潤滑剤)
10 リール本体
11 リールボディ
16 ピニオンギア
17 カバー部材(筒状部材)
31 ロータ本体
41 スプール軸
53 取付板
71 シール本体部
72 シール基端部
73 メインリップ
74 補助リップ
75 グリス保持部
313 前壁
314 凹溝
172 環状壁部
図1
図2
図3
図4
図5